(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】高強度ゼオライト成形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 39/38 20060101AFI20240806BHJP
C01B 33/40 20060101ALI20240806BHJP
B01J 20/18 20060101ALI20240806BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
C01B39/38
C01B33/40
B01J20/18 C
B01J20/30
(21)【出願番号】P 2020104442
(22)【出願日】2020-06-17
【審査請求日】2023-05-15
(31)【優先権主張番号】P 2019114469
(32)【優先日】2019-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大庭 悠輝
(72)【発明者】
【氏名】徳永 敬助
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-138016(JP,A)
【文献】特開2004-123411(JP,A)
【文献】特開2001-321673(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0261122(US,A1)
【文献】特開2018-111643(JP,A)
【文献】FARFAN-TORRES, E. M. et al.,Pillared Clays : Preparation and Characterization of Zirconium Pillared Montmorillonite,Catalysis Today,1992年10月21日,Vol.15,pp.515-526
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/20 - 39/54
B01J 20/00 - 38/74
DWPI (Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライト100重量部に対して、粘土10重量部以上40重量部以下を含み、かつ、耐圧強度が20N以上であるゼオライト成形体であって、当該ゼオライトが、Si/Al
2が300以上100000以下で、25℃、相対圧0.5の条件で、水分吸着量が、10(g/100g)以下であるゼオライトを一種以上含み、当該粘土が、NH
3-TPD法による固体酸量が0.15mmol/g以下である粘土を一種以上含むことを特徴とする高強度ゼオライト成形体。
【請求項2】
ゼオライト100重量部に対して、粘土10重量部以上40重量部以下、成形助剤1重量部以上5重量部以下、水溶性ナトリウム塩0.5重量部以上5重量部以下、水60重量部以上100重量部以下を混合した後に混練して、これらを含む混練物を得て、この混練物を成形した後に乾燥し、さらに得られたゼオライト成形体を破砕した後、400℃以上700℃以下で焼成するものであり、当該ゼオライトが、Si/Al
2が300以上100000以下で、25℃、相対圧0.5の条件で、水分吸着量が、10(g/100g)以下であるゼオライトを一種以上含み、当該粘土が、NH
3-TPD法による固体酸量が0.15mmol/g以下である粘土を一種以上含むことを特徴とする請求項1に記載の高強度ゼオライト成形体の製造方法。
【請求項3】
ゼオライト100重量部に対して、さらに造孔剤20重量部以下を混合することを特徴とする請求項2に記載の高強度ゼオライト成形体の製造方法。
【請求項4】
当該ゼオライトが、ベータ型ゼオライト、Y型ゼオライト、L型ゼオライト、フェリエライト型ゼオライト、モルデナイト型ゼオライト、ZSM-5型ゼオライトの一種以上を含むことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の高強度ゼオライト成形体の製造方法。
【請求項5】
当該粘土が、ベントナイト粘土、セピオライト粘土、アタパルジャイト粘土、パリゴルスカイト粘土、合成層状ケイ酸塩(スメクタイト系粘土)の一種以上を含むことを特徴とする請求項2に記載の高強度ゼオライト成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度ゼオライト成形体及びその製造方法に関するものであり、より詳細には、低酸量粘土バインダーを使用した高強度ゼオライト成形体及びその製造方法に関する。本発明の高強度ゼオライト成形体は、例えば、吸着分離剤などの用途に有用である。
【背景技術】
【0002】
近年、浮遊粒子状物質や光化学オキシダントの原因物質の一つとされているVOCの排出規制が始まり、VOC排出の対策技術に注目が集まっている。VOC吸着剤としてはゼオライトが注目されている。熱に強い二酸化ケイ素からなる骨格であるため、高温でのVOCの吸脱着が容易かつ安全性が高く、高比表面積である。またゼオライトの細孔は均一であり、特定のVOCを吸着分離可能である。ゼオライトを吸着分離に使用する場合、粉末状では、ハンドリングが難しいため、ペレット状、ビーズ状、ハニカム状等に成形して利用される。ゼオライトを吸着分離目的に使用する場合は、カラムや流動層に充填して使用するので、十分な物理的強度を有する成形体にする必要がある。特に長期間の使用によって粉化をおこすような強度の弱い成形体は、装置の故障を招くので好ましくない。ゼオライト単体では可塑性が低く、所望の形に成形することや高強度の成形体を作製することが難しいため、バインダーを利用することが多い。バインダーとしては、粘土、シリカゾル、アルミナ等が利用される。これらバインダーは吸着分離には利用されないが、吸着分離能を下げる原因となることがある。例えば、芳香族炭化水素を吸着分離する場合、酸点を有する粘土やアルミナをバインダーとして使用すると芳香族炭化水素が反応し、所望の芳香族炭化水素を分離することができなくなる可能性がある。バインダーによる吸着分離能の低下を防ぐ方法として、成形体のバインダーレス化やバインダーのゼオライト化等の方法がとられてきた。例えば、特許文献1では、カオリン粘土バインダーとFAU型ゼオライトからなる成形体を調製した後、熱処理を施すことによりカオリン粘土バインダーをメタカオリン粘土バインダーに転換し、さらに水酸化物源を添加し、水熱処理を施すことで非ゼオライト成分をFAU型ゼオライトに転換することでバインダーレスゼオライト吸着材を得ている。
【0003】
また、特許文献2ではシリカ成形体にアルムニウム成分とアルカリ金属成分とテトラアルキルアンモニウム成分とを含む原料物質を担持した後、飽和水蒸気とゼオライト前駆体を接触させることでシリカ成分をゼオライトに転換させ、バインダーレスゼオライト成形体を得ている。
【0004】
しかしながら、これらの手法は、いずれも工程が著しく複雑であり、経済的にも不利であるという問題点がある。さらに、これらのバインダーレスゼオライト成形体は強度がバインダー含有ゼオライト成形体より低く、粉化による装置の故障を招く可能性もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2019-501766号公報
【文献】特開2006-334454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来の方法よりも簡便かつ安価な方法で作製可能な低酸量の粘土バインダーを使用した高強度ゼオライト成形体及びその製造方法を提供するものである。本発明の高強度ゼオライト成形体は、様々な吸着分離用途で使用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、上記課題を解決できることを見い出し、本発明を完成したものである。すなわち、本発明は、ゼオライト100重量部に対して、粘土10重量部以上40重量部以下を含み、かつ、耐圧強度が20N以上であるゼオライト成形体であって、当該ゼオライトが、Si/Al2が300以上100000以下で、25℃、相対圧0.5の条件で、水分吸着量が、10(g/100g)以下であるゼオライトを一種以上含み、当該粘土が、NH3-TPD法による固体酸量が0.15mmol/g以下である粘土を一種以上含む高強度ゼオライト成形体、ゼオライト100重量部に対して、粘土10重量部以上40重量部以下、成形助剤1重量部以上5重量部以下、水溶性ナトリウム塩0.5重量部以上5重量部以下、水60重量部以上100重量部以下を混合した後に混練して、これらを含む混練物を得て、この混練物を成形した後に乾燥し、さらに得られたゼオライト成形体を破砕した後、400℃以上700℃以下で焼成するものであり、当該ゼオライトが、Si/Al2が300以上100000以下で、25℃、相対圧0.5の条件で、水分吸着量が、10(g/100g)以下であるゼオライトを一種以上含み、当該粘土が、NH3-TPD法による固体酸量が0.15mmol/g以下である粘土を一種以上含む高強度ゼオライト成形体の製造方法である。
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0009】
本発明の高強度ゼオライト成形体は、ゼオライト100重量部に対して、粘土10重量部以上40重量部以下を含むものである。
【0010】
高強度ゼオライト成形体に含まれるゼオライトは、Si/Al2が300以上100000以下で、25℃、相対圧0.5の条件で、水分吸着量が、10(g/100g)以下であるゼオライトであり、これを一種以上含むものである。Si/Al2が300未満の場合は、ゼオライトと水の親和性が高く、VOC等の吸着が阻害される可能性がある。25℃、相対圧0.5の条件で、水分吸着量が、10(g/100g)を超える場合は、ゼオライトと水の親和性が高く、VOC等の吸着が阻害される可能性がある。Si/Al2は、500以上10000以下が好ましく、1000以上2000以下がさらに好ましい。25℃、相対圧0.5の条件で、水分吸着量は、5(g/100g)以下が好ましい。ゼオライトの種類としては、例えば、ベータ型ゼオライト、Y型ゼオライト、L型ゼオライト、フェリエライト型ゼオライト、モルデナイト型ゼオライト、ZSM-5型ゼオライトなどが例示されるが、ZSM-5型ゼオライトが好ましい。
【0011】
高強度ゼオライト成形体に含まれる粘土の量は、ゼオライト100重量部(無水換算)に対して10重量部以上40重量部以下である。10重量部未満の場合は耐圧強度が低くなり、40重量部より多くした場合でも、耐圧強度が向上せず、かつゼオライト成形体に含まれるゼオライト量が減少するので吸着分離能を下げる原因となる。耐圧強度がより高くなるため、12重量部以上30重量部以下が好ましく、15重量部以上25重量部以下がさらに好ましい。粘土の粒径は特に制限されないが、好ましくは平均粒径として0.5μm以上30μm以下であり、さらに好ましくは平均粒径として1μm以上25μm以下である。粘土としては、例えば、ベントナイト粘土、セピオライト粘土、アタパルジャイト粘土、パリゴルスカイト粘土、合成層状ケイ酸塩(スメクタイト系粘土)などがあげられるが、ベントナイト粘土が好ましい。
【0012】
高強度ゼオライト成形体に含まれる粘土は、NH3-TPD法による固体酸量が0.15mmol/g以下である粘土であり、これを一種以上含むものである。NH3-TPD法による固体酸量が0.15mmol/gを超えると、粘土由来の酸点で吸着質と反応する可能性がある。NH3-TPD法による固体酸量は、0.10mmol/g以下が好ましく、0.05mmol/g以下がさらに好ましい。
【0013】
本発明において、粘土のNH3-TPD法による固体酸量は、「アンモニア昇温脱離法による固体酸性質測定,触媒,vol.42,p.218(2000)」に準じたNH3-TPD法により測定される値である。すなわち、本発明における粘土のNH3-TPD法による固体酸量は、アンモニアを室温で飽和吸着させた試料から100℃以上700℃以下で脱離するアンモニア量を測定することにより得られる値である。具体的には、室温で試料にアンモニアを飽和吸着させ、100℃に加熱して測定雰囲気中に残存するアンモニアの除去を行った後、昇温速度10℃/分で700℃までの昇温過程で測定されるアンモニア量をもって固体酸量とした。アンモニア量の測定はTCD検出器を使用すればよい。より具体的には、後述する<NH3-TPD法による固体酸量の測定>による。
【0014】
本発明の高強度ゼオライト成形体は、木屋敷硬度計で測定される耐圧強度が20N以上である。耐圧強度が20N未満の場合は粉化しやすく、圧力損失や吸着効率の低下を引き起こすおそれがある。
【0015】
本発明の高強度ゼオライト成形体の製造方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう。)は、ゼオライト100重量部に対して、粘土10重量部以上40重量部以下、成形助剤1重量部以上5重量部以下、水溶性ナトリウム塩0.5重量部以上5重量部以下、水60重量部以上100重量部以下を混合した後に混練して、これらを含む混練物を得て、この混練物を成形した後に乾燥し、さらに得られたゼオライト成形体を破砕した後、400℃以上700℃以下で焼成することを特徴とするものである。
【0016】
本発明の製造方法で使用される混練物に含まれるゼオライトは、Si/Al2が300以上100000以下で、25℃、相対圧0.5の条件で、水分吸着量が、10(g/100g)以下であるゼオライトであり、これを一種以上含むものである。Si/Al2が300未満の場合は、ゼオライトと水の親和性が高く、VOC等の吸着が阻害される可能性がある。25℃、相対圧0.5の条件で、水分吸着量が、10(g/100g)を超える場合は、ゼオライトと水の親和性が高く、VOC等の吸着が阻害される可能性がある。Si/Al2は、500以上10000以下が好ましく、1000以上2000以下がさらに好ましい。25℃、相対圧0.5の条件で、水分吸着量は、5(g/100g)以下が好ましい。ゼオライトの種類としては、例えば、ベータ型ゼオライト、Y型ゼオライト、L型ゼオライト、フェリエライト型ゼオライト、モルデナイト型ゼオライト、ZSM-5型ゼオライトなどが例示されるが、ZSM-5型ゼオライトが好ましい。
【0017】
本発明の製造方法で使用される混練物に含まれる粘土は、NH3-TPD法による固体酸量が0.15mmol/g以下である。NH3-TPD法による固体酸量が0.15mmol/gを超えると、粘土由来の酸点で吸着質と反応する可能性がある。NH3-TPD法による固体酸量は、0.10mmol/g以下が好ましく、0.05mmol/g以下がさらに好ましい。
【0018】
粘土としては、例えば、ベントナイト粘土、セピオライト粘土、アタパルジャイト粘土、パリゴルスカイト粘土、合成層状ケイ酸塩(スメクタイト系粘土)などが例示されるが、ベントナイト粘土が好ましい。
【0019】
粘土の量としては、ゼオライト100重量部(無水換算)に対して10重量部以上40重量部以下である。10重量部未満の場合は成形性が低下し、40重量部より多くした場合でも、成形性の向上は認められない。成形性がより向上するため、12重量部以上30重量部以下が好ましく、15重量部以上25重量部以下がさらに好ましい。粘土の粒径は特に制限されないが、好ましくは平均粒径として0.5μm以上30μm以下であり、さらに好ましくは平均粒径として1μm以上25μm以下である。
【0020】
本発明の製造方法で使用される混練物に含まれるのは成形助剤である。成形助剤としては、成形性を改善するものであり、例えば、セルロース、アルコール、リグニン、スターチ、グァーガムなどが例示される。これらのうち、取り扱いが容易であるため、セルロース、アルコールが好ましい。セルロースとしては、例えば、結晶性セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)などが例示される。アルコールとしては、例えば、ポリビニルアルコール、エチレングリコールなどが例示される。成形助剤の量としては、ゼオライト100重量部(無水換算)に対して、1重量部以上5重量部以下であり、好ましくは2重量部以上4重量部以下である。1重量部未満の場合は成形性が低下し、5重量部を超える場合は耐圧強度が低下する。
【0021】
本発明の製造方法で使用される混練物に含まれるのは水溶性ナトリウム塩である。水溶性ナトリウム塩としては、例えば、無機酸ナトリウム、有機酸ナトリウムなどが例示される。水溶性ナトリウム塩としては、無機酸ナトリウム又は有機酸ナトリウムの少なくとも一種を含むことが好ましい。理由は定かではないが、水溶性ナトリウム塩を使用することで耐圧強度は著しく高くなる。水溶性ナトリウム塩の量としては、ゼオライト100重量部(無水換算)に対して、0.5重量部以上5重量部以下である。0.5重量部未満ではその効果が十分でなく、5重量部より多くしてもその効果は変化しない。水溶性ナトリウム塩に由来するナトリウムの量を増やさないため、0.5重量部以上3重量部以下が好ましく、0.5重量部以上2重量部以下がさらに好ましい。
【0022】
無機酸ナトリウムとしては水溶性のナトリウム塩であればよく、例えば、リン酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウムなどが例示される。これらのうち、取り扱いが容易のため、リン酸ナトリウムが好ましく使用できる。リン酸ナトリウムとしては、例えば、第一リン酸ナトリウム、第二リン酸ナトリウム、第三リン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラポリリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウムなどが使用できる。
【0023】
有機酸ナトリウムとしては水溶性のナトリウム塩であればよく、例えば、一般有機カルボン酸、アミノカーボネート、エーテルカルボン酸塩、ビニル型高分子ナトリウム塩などが例示される。一般有機カルボン酸としては、例えば、クエン酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、シュウ酸ナトリウム、酒石酸ナトリウムなどが使用でき、アミノカーボネートとしては、例えば、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム塩、ジエチレントリアミノ五酢酸ナトリウムなどが使用でき、エーテルカルボン酸塩としては、例えば、カルボキシメチルタルトロン酸ナトリウム、カルボキシメチルオキシコハク酸ナトリウムなどが使用でき、ビニル型高分子ナトリウム塩としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム、アクリル酸/マレイン酸共重合体のナトリウム塩などが使用できる。
【0024】
本発明の製造方法で使用される混練物に含まれる水の量としては、ゼオライト100重量部(無水換算)に対して、60重量部以上100重量部以下であり、60重量部以上90重量部以下が好ましい。60重量部未満の場合も、100重量部より多い場合も成形が困難になることがある。
【0025】
本発明の製造方法で使用される混練物には、成形体自体のアクセス性の向上のため、造孔剤が含まれていることが好ましい。造孔剤としては、マクロ細孔容積を増加するものであり、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどのような水溶性の塩を使用できる。また、結晶性セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、ポリビニルアルコールなどのような可燃性の粉末を使用できる。造孔剤は、成形した後の工程において、水洗、燃焼などにより取り除かれ、成形体のマクロ細孔容積の増加に寄与する。造孔剤の量としては、ゼオライト100重量部(無水換算)に対して、20重量部以下であり、好ましくは4重量部以上10重量部以下である。造孔剤を増加させるほど、耐圧強度は少し低下していくものの、マクロ細孔容積は増加していくため、両者のバランスが大切である。
【0026】
本発明の製造方法で使用される混練物は、ゼオライト100重量部に対して、所定の粘土10重量部以上40重量部以下、成形助剤1重量部以上5重量部以下、水溶性ナトリウム塩0.5重量部以上5重量部以下、水60重量部以上100重量部以下(又は、さらに造孔剤を20重量部以下)を混合した後に混練することで得られるものである。混合した後に混練する方法としては特に制限はなく、例えば、ロール式混練機のミックスマーラー、羽根撹拌式であるヘンシェルミキサー、バッチ式又は連続式のニーダーなどが使用できる。
【0027】
本発明の製造方法は、上記した通りにより得られた混練物を成形するものである。成形する方法としては特に制限はなく、例えば、転動造粒、撹拌造粒、押出し成形、噴霧造粒、これらの方法を2種以上組み合わせた方法等により成形することができる。成形体の形状は特に制限ないが、球状、円柱状、楕円状、俵型、三つ葉型、リング状などが好ましく、円柱状がさらに好ましい。成形体の長さは特に制限ないが、1mm以上5mm以下が好ましい。
【0028】
成形されたゼオライト成形体は乾燥される。乾燥方法は特に制限なく、例えば、箱型乾燥機、連続式乾燥機などが使用できる。乾燥温度は50℃以上200℃以下で行うことができる。乾燥雰囲気は大気圧下で空気又は窒素雰囲気で行うことができる。乾燥されたゼオライト成形体は、所望の大きさに破砕される。
【0029】
乾燥されたゼオライト成形体は焼成される。焼成方法は特に制限なく、例えば、箱型マッフル炉、ロータリーキルン、シャフトキルンなどの装置で行うことができる。焼成温度は繊維状粘土が焼結されて強度が発現できる温度であり、400℃以上700℃以下である。焼成温度が400℃未満であるとバインダーが焼結せず強度が低下し、700℃を超えてもその焼結度合に変化はない。焼成雰囲気は大気圧下で空気又は窒素雰囲気で行うことができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の高強度ゼオライト成形体は、バインダーの酸量が低く、有機物質との反応性が低いため、副反応を起こすことなく、特に吸着分離用途で有用に使用することができる。また、本発明の高強度ゼオライト成形体は、高強度であるため、吸着分離で使用した場合でも粉化しにくく、装置の故障等が起こりにくい。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。しかしながら、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
<NH3-TPD法による固体酸量の測定>
試料(粘土)0.1gを500℃のヘリウム流通下に静置してこれを前処理とした。1時間の前処理後の試料について、室温で、10体積%のアンモニア及び90体積%のヘリウムを含む混合ガスを流通させて、試料にアンモニアを飽和吸着させた。混合ガスを1時間流通した後、混合ガスに代え、ヘリウムガスを流通しながら試料を100℃まで昇温した。昇温後、100℃、1時間、ヘリウムガスを流通させることで雰囲気中に残存するアンモニアを除去した。残存アンモニアの除去後、流速50mL/分のヘリウム流通下、昇温速度10℃/分で700℃まで昇温し、TCD検出器を使用して、当該昇温過程で測定されたアンモニア量をもって、試料に吸着されたアンモニア量とした。試料の単位質量あたりの吸着アンモニア量を固体酸量(mmol/g)とした。
【0033】
<粘土の平均粒径の測定>
試料(粘土)0.5gを高速撹拌している50gの水に投入し、しばらく撹拌して分散させた。平均粒径の測定はマイクロトラック粒度分布測定装置(MT3000II:マイクロトラック・ベル製)で行った。ここでの平均粒径はD50径のことを示す。
【0034】
<耐圧強度の測定>
耐圧強度の測定は木屋式硬度計(KHT-20N:藤原製作所製)で行った。25個の平均値を耐圧強度とした。
【0035】
実施例1
MFI型ゼオライト粉末(HSZ(登録商標)-891HOA:東ソー製(Si/Al2:1500、水分吸着量:4(g/100g)))を100重量部(103g;水分含有量:3%)、ベントナイト型粘土(クニピアF:クニミネ工業製)を20重量部(22.2g、水分含有量:10%、NH3-TPD法による固体酸量(以下、単に「固体酸量」と記載する場合がある):0.009mmol/g、平均粒径:1.8μm)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(成形助剤、セロゲン:第一工業製薬製)を3重量部(3g)、ポリアクリル酸ナトリウム(DL-40S:日本触媒製)を1重量部(1g)測りとり、混練器(ハイビスミックス:プライミクス製)で5分間混合した。水を68重量部(68g)添加し、混練物がまとまるまで混練した。得られた混練物を直径1.5mmの円柱状に成形した。その後、100℃で12時間以上乾燥し、1~3mm程度に破砕した。その後650℃、3時間の焼成を行い、ゼオライト成形体(ゼオライト100重量部に対する粘土:20重量部、ゼオライトのSi/Al2:1500、ゼオライトの水分吸着量:4(g/100g)、粘土の固体酸量:0.009mmol/g、粘土の平均粒径:1.8μm)を得た。耐圧強度は37Nであった。
【0036】
実施例2
MFI型ゼオライト粉末(HSZ(登録商標)-891HOA:東ソー製(Si/Al2:1500、水分吸着量:4(g/100g)))を100重量部(103g、水分含有量:3%)、ベントナイト型粘土(クニボンド:クニミネ工業製)を20重量部(23.0g、水分含有量:13%、固体酸量:0.134mmol/g、平均粒径:23μm)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(成形助剤、セロゲン:第一工業製薬製)を3重量部(3g)、ポリアクリル酸ナトリウム(DL-40S:日本触媒製)を1重量部(1g)測りとり、混練器(ハイビスミックス:プライミクス製)で5分間混合した。水を70重量部(70g)添加し、混練物がまとまるまで混練した。得られた混練物を直径1.5mmの円柱状に成形した。その後、100℃で12時間以上乾燥し、1~3mm程度に破砕した。その後650℃、3時間の焼成を行い、ゼオライト成形体(ゼオライト100重量部に対する粘土:20重量部、ゼオライトのSi/Al2:1500、ゼオライトの水分吸着量:4(g/100g)、粘土の固体酸量:0.134mmol/g、粘土の平均粒径:23μm)を得た。耐圧強度は28Nであった。
【0037】
実施例3
MFI型ゼオライト粉末(HSZ(登録商標)-891HOA:東ソー製(Si/Al2:1500、水分吸着量:4(g/100g)))を100重量部(103g;水分含有量:3%)、ベントナイト型粘土(ネオクニボンド:クニミネ工業製)を20重量部(22.6g、水分含有量:12%、固体酸量:0.045mmol/g、平均粒径:8.8μm)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(成形助剤、セロゲン:第一工業製薬製)を3重量部(3g)、ポリアクリル酸ナトリウム(DL-40S:日本触媒製)を1重量部(1g)測りとり、混練器(ハイビスミックス:プライミクス製)で5分間混合した。水を67重量部(67g)添加し、混練物がまとまるまで混練した。得られた混練物を直径1.5mmの円柱状に成形した。その後、100℃で12時間以上乾燥し、1~3mm程度に破砕した。その後650℃、3時間の焼成を行い、ゼオライト成形体(ゼオライト100重量部に対する粘土:20重量部、ゼオライトのSi/Al2:1500、ゼオライトの水分吸着量:4(g/100g)、粘土の固体酸量:0.045mmol/g、粘土の平均粒径:8.8μm)を得た。耐圧強度は28Nであった。
【0038】
実施例4
MFI型ゼオライト粉末(HSZ(登録商標)-891HOA:東ソー製(Si/Al2:1500、水分吸着量:4(g/100g)))を100重量部(103g、水分含有量:3%)、ベントナイト型粘土(OPTIGEL-CK:BYK-Chemie GmbH製)を20重量部(24g、水分含有量:17%、固体酸量:0.01mmol/g、平均粒径:6.4μm)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(成形助剤、セロゲン:第一工業製薬製)を3重量部(3g)、ポリアクリル酸ナトリウム(DL-40S:日本触媒製)を1重量部(1g)測りとり、混練器(ハイビスミックス:プライミクス製)で5分間混合した。水を66重量部(66g)添加し、混練物がまとまるまで混練した。得られた混練物を直径1.5mmの円柱状に成形した。その後、100℃で12時間以上乾燥し、1~5mm程度に破砕した。その後650℃、3時間の焼成を行い、ゼオライト成形体(ゼオライト100重量部に対する粘土:20重量部、ゼオライトのSi/Al2:1500、ゼオライトの水分吸着量4(g/100g)、粘土の固体酸量:0.01mmol/g、粘土の平均粒径:6.4μm)を得た。耐圧強度は39Nであった。
【0039】
実施例5
MFI型ゼオライト粉末(HSZ(登録商標)-891HOA:東ソー製(Si/Al2:1500、水分吸着量:4(g/100g)))を100重量部(103g、水分含有量:3%)、ベントナイト型粘土(クニピアF:クニミネ工業製)を20重量部(22.2g、水分含有量:10%、固体酸量:0.009mmol/g、平均粒径:1.8μm)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(成形助剤、セロゲン:第一工業製薬製)を3重量部(3g)、ポリアクリル酸ナトリウム(DL-40S:日本触媒製)を1重量部(1g)、結晶性セルロース(造孔剤、セオラス(登録商標)RC-591:旭化成ケミカルズ製)を2重量部(2g)測りとり、混練器(ハイビスミックス:プライミクス製)で5分間混合した。水を74重量部(74g)添加し、混練物がまとまるまで混練した。得られた混練物を直径1.5mmの円柱状に成形した。その後、100℃で12時間以上乾燥し、1~3mm程度に破砕した。その後650℃、3時間の焼成を行い、ゼオライト成形体(ゼオライト100重量部に対する粘土:20重量部、ゼオライトのSi/Al2:1500、ゼオライトの水分吸着量:4(g/100g)、粘土の固体酸量:0.009mmol/g、粘土の平均粒径:1.8μm)を得た。耐圧強度は42Nであった。
【0040】
実施例6
MFI型ゼオライト粉末(HSZ(登録商標)-891HOA:東ソー製(Si/Al2:1500、水分吸着量:4(g/100g)))を100重量部(103g、水分含有量:3%)、ベントナイト型粘土(クニピアF:クニミネ工業製)を20重量部(22.2g、水分含有量:10%、固体酸量:0.009mmol/g、平均粒径:1.8μm)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(成形助剤、セロゲン:第一工業製薬製)を3重量部(3g)、ポリアクリル酸ナトリウム(DL-40S:日本触媒製)を1重量部(1g)、結晶性セルロース(造孔剤、セオラス(登録商標)RC-591:旭化成ケミカルズ製)を4重量部(4g)測りとり、混練器(ハイビスミックス:プライミクス製)で5分間混合した。水を74重量部(74g)添加し、混練物がまとまるまで混練した。得られた混練物を直径1.5mmの円柱状に成形した。その後、100℃で12時間以上乾燥し、1~3mm程度に破砕した。その後650℃、3時間の焼成を行い、ゼオライト成形体(ゼオライト100重量部に対する粘土:20重量部、ゼオライトのSi/Al2:1500、ゼオライトの水分吸着量:4(g/100g)、粘土の固体酸量:0.009mmol/g、粘土の平均粒径:1.8μm)を得た。耐圧強度は38Nであった。
【0041】
実施例7
MFI型ゼオライト粉末(HSZ(登録商標)-891HOA:東ソー製(Si/Al2:1500、水分吸着量:4(g/100g)))を100重量部(103g;水分含有量3%)、ベントナイト型粘土(クニピアF:クニミネ工業製)を20重量部(22.2g、水分含有量:10%、固体酸量:0.009mmol/g、平均粒径:1.8μm)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(成形助剤、セロゲン:第一工業製薬製)を3重量部(3g)、ポリアクリル酸ナトリウム(DL-40S:日本触媒製)を1重量部(1g)、結晶性セルロース(造孔剤、セオラス(登録商標)RC-591:旭化成ケミカルズ製)を8重量部(8g)測りとり、混練器(ハイビスミックス:プライミクス製)で5分間混合した。水を82重量部(82g)添加し、混練物がまとまるまで混練した。得られた混練物を直径1.5mmの円柱状に成形した。その後、100℃で12時間以上乾燥し、1~3mm程度に破砕した。その後650℃、3時間の焼成を行い、ゼオライト成形体(ゼオライト100重量部に対する粘土:20重量部、ゼオライトのSi/Al2:1500、ゼオライトの水分吸着量4(g/100g)、粘土の固体酸量:0.009mmol/g、粘土の平均粒径:1.8μm)を得た。耐圧強度は33Nであった。
【0042】
比較例1
MFI型ゼオライト粉末(HSZ(登録商標)-891HOA:東ソー製(Si/Al2:1500、水分吸着量:4(g/100g)))を100重量部(103g;水分含有量3%)、アタパルジャイト型粘土(ミニゲルMB:アクティブミネラルズ製)を20重量部(25.5g、水分含有量:22%、固体酸量:0.197mmol/g、平均粒径:11.6μm)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(成形助剤、セロゲン:第一工業製薬製)を3重量部(3g)、ポリアクリル酸ナトリウム(DL-40S:日本触媒製)を1重量部(1g)測りとり、混練器(ハイビスミックス:プライミクス製)で5分間混合した。水を94重量部(94g)添加し、混練物がまとまるまで混練した。得られた混練物を直径1.5mmの円柱状に成形した。その後、100℃で12時間以上乾燥し、1~3mm程度に破砕した。その後650℃、3時間の焼成を行い、ゼオライト成形体(ゼオライト100重量部に対する粘土:20重量部、ゼオライトのSi/Al2:1500、ゼオライトの水分吸着量4(g/100g)、粘土の固体酸量:0.197mmol/g、粘土の平均粒径:11.6μm)を得た。耐圧強度は15Nであった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の高強度ゼオライト成形体は、バインダーの酸量が低く、有機物質との反応性が低いため、副反応を起こすことなく、吸着分離用途で有用に使用することができ、さらに、高強度であるため、吸着分離で使用した場合でも粉化しにくく、装置の故障等が起こりにくい。