IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友金属鉱山株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ウェハーの汚染検知方法 図1
  • 特許-ウェハーの汚染検知方法 図2
  • 特許-ウェハーの汚染検知方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】ウェハーの汚染検知方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/66 20060101AFI20240806BHJP
   G01N 31/00 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
H01L21/66 L
G01N31/00 V
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020170169
(22)【出願日】2020-10-07
(65)【公開番号】P2022061909
(43)【公開日】2022-04-19
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100192212
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 貴明
(74)【代理人】
【識別番号】100204032
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100200001
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 明彦
(72)【発明者】
【氏名】冨士田 公彦
【審査官】豊島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-151905(JP,A)
【文献】特開平05-264534(JP,A)
【文献】特開2017-130249(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N31/00-31/22
H01L21/64-21/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気環境下で、ウェハーの表面に存在する汚染物質に、呈色剤を吸着させ、前記呈色剤により、前記汚染物質を呈色させることを特徴とするウェハーの汚染検知方法。
【請求項2】
密閉容器中に、前記呈色剤、及び、前記ウェハーを配置し、密閉状態とする準備工程と、
前記密閉容器中で、前記呈色剤の蒸気を発生させ、前記蒸気を前記ウェハーの表面に接触させる前処理工程と、
前記ウェハーの表面に存在する前記汚染物質に、前記呈色剤を吸着させ、前記呈色剤により、前記汚染物質を呈色させる呈色工程と、
前記汚染物質の呈色の有無を目視で検知する検知工程と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載のウェハーの汚染検知方法。
【請求項3】
前記呈色剤が、常温で、又は、加温することにより、前記蒸気を発生させることを特徴とする請求項2に記載のウェハーの汚染検知方法。
【請求項4】
前記密閉容器が、透明であり、ガラス製であることを特徴とする請求項2又は3に記載のウェハーの汚染検知方法。
【請求項5】
前記汚染物質は、有機化合物を含み、前記有機化合物が、芳香族炭化水素類、脂肪族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、有機酸類、アルコール類、フタル酸エステル類、アジピン酸エステル類、リン酸エステル類、フェノール類、シロキサン化合物類から選択される1種以上の化合物を含むことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のウェハーの汚染検知方法。
【請求項6】
前記呈色剤が、ヨウ素を含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のウェハーの汚染検知方法。
【請求項7】
前記ウェハーが、ケイ素、炭素、アルミニウム、酸素、ガリウム、リン、ヒ素、インジウム、窒素、タンタル、ニオブ、リチウムから選択される1種以上の元素を含むことを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のウェハーの汚染検知方法。
【請求項8】
前記ウェハーが、直径50~500mm、厚さ0.1~1.0mmであることを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載のウェハーの汚染検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェハーの汚染検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体などの電子産業に関する分野では、1990年代の頃から、ウェハー(ウエハー、ウェーハ、ウエーハ、ウェハ、ウエハとも称される)の表面汚染について、研究と対策が精力的に進められてきた。その背景としては、ウェハーの高性能化が、益々加速するにつれ、ウェハーの製造環境に起因する汚染物質が、製品の歩留まり、品質・信頼性に、より大きな影響を及ぼす様になってきたことが挙げられる。これに対して、これまで最も問題視されていた、塵、埃、異物、ダストなどの空気浮遊物については,クリーンルームの技術向上により、大幅に改善されているものの、一方で、原子・分子レベルでの化学汚染、特に、有機物汚染については、逆に顕著化しており、これがデバイス特性や製造上のトラブルに、深く関与していることが、徐々に明らかとなってきた。
【0003】
ウェハー表面を汚染する有機物の発生源としては、主に、次の3つが挙げられる。一つ目には、クリーンルームに大量導入される外気由来の有機成分があり、外気には、工場や自動車から排出される各種の炭化水素化合物のほか、農薬・肥料散布に起因する各種有機成分などが含まれている。二つ目には、クリーンルームの構成材料である、ポリマー内装材料(床、壁、パーティション、フィルター)、塗料、接着剤、シール材などから、アウトガスとして発生する有機成分がある。また、アウトガスとしては、クリーンルーム以外でも、ウェハーキャリヤやケースは、材質がポリマーであるほか、ウェハーの製造設備の各種部品にも、多くのポリマーが用いられており,これらに起因するアウトガスも、決して軽視することは出来ない。三つ目には、ウェハーの製造工程で用いられる洗浄液など、各種薬液・薬剤由来の有機成分がある。なお、その他としては、作業者の呼気、汗、着衣なども、有機物汚染の原因の一つとなっている。
【0004】
これまで、クリーンルームの構成材料など、ポリマーからのアウトガスの評価と共に,ウェハー自体の表面汚染の評価についても、様々な方法が提案されてきた。
【0005】
例えば、特許文献1では、NHOH、及び、HをHOで希釈した液で洗浄後の所定時間に、ウェハー表面へ堆積した付着物の膜厚の増減を測定することにより、及び/又は、接触角の変化を測定することにより、ウェハー表面への付着有機化合物の評価を行う方法が開示されている。
【0006】
特許文献2では、固体被測定物の平坦表面に対し、一定の間隔で相対的に移動可能な不純物捕集具を用い、該捕集具と被測定物表面との間に分解液(HF、HCl、NHOH、HSOまたはHO)の液滴を保持した状態で、該分解液を加熱しながら該捕集具を相対移動させて、被測定物表面上の不純物を分解液で捕集し、該分解液を測定して不純物を分析する方法が開示されている。
【0007】
特許文献3では、雰囲気由来の基板表面の有機物汚染を評価するための評価装置であって、少なくとも表面が絶縁性の基板と、その基板表面上の少なくとも2点間の電気抵抗値を測定する表面抵抗率計と、前記基板を収容する隔離空間と、その隔離空間内に実質的に一定の相対湿度を有する調湿ガスを導入する調湿ガス導入手段と、その隔離空間内に評価対象となる気体を導入する評価対象気体導入手段と、前記表面抵抗率計により測定された表面抵抗率に応じて、基板表面の有機物汚染を評価する評価手段を備えたことを特徴とする、基板表面の有機物汚染の評価装置が開示されている。
【0008】
特許文献4では、希フッ酸(HF水溶液)に外周を浸漬したウェハー表面上に、希フッ酸、又は、過酸化水素水溶液を滴下し、当該滴下液が前記ウェハー表面を移動する移動領域を定量化することを特徴とする、ウェハー表面の汚染評価方法が開示されている。
【0009】
特許文献5では、被測定基板に対向して設けられた反射鏡と、前記被測定基板と前記反射鏡との間で多重反射する様に、赤外線を入射する赤外線入射手段と、前記被測定基板と前記反射鏡との間で多重反射した後に、前記被測定基板を透過する赤外線を検出する赤外線検出手段と、前記赤外線検出手段によって検出された赤外線を分析し、前記被測定基板に付着した汚染物を測定する赤外線分析手段とを有することを特徴とする、表面状態測定装置が開示されている。
【0010】
特許文献6では、HF溶液で洗浄された清浄なGaAsウェハー表面と、酸化処理したGaAsウェハー表面との分光エリプソデータを測定し、この分光エリプソデータから、各々の光学データとしての屈折率と、消光係数とを求め、この得られた光学データと、ポリエチレンの光学データとしての屈折率と、消光係数とを用い、更に、有機汚染物と、酸化膜との任意の膜厚データを用い、有機物汚染物が蓄積したGaAsウェハーの分光エリプソデータを計算で求め、それと、有機物汚染物が蓄積したGaAsウェハーの分光エリプソデータを測定し、この実測した分光エリプソデータとの差が最も小さくなる計算による分光エリプソデータを与える有機汚染物と、酸化膜との膜厚値を求める評価方法が開示されている。
【0011】
特許文献7では、評価対象半導体基板表面において、フォトルミネッセンス強度情報を取得すること、並びに、取得したフォトルミネッセンス強度情報に基づき、評価対象半導体基板表面の有機物汚染の有無、程度、及び、面内分布からなる群から選ばれる評価項目の評価を行うこと、を含む半導体基板表面の有機物汚染の評価方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開平5-275410号公報
【文献】特開平7-146220号公報
【文献】特開平8-338822号公報
【文献】特開2001-221790号公報
【文献】特開2001-311697号公報
【文献】特開2004-271203号公報
【文献】特開2016-018822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1では、洗浄後のウェハー表面に付着した有機物の膜厚を測定し、数時間保管して、再び、膜厚測定を行い、洗浄後の測定値と保管後の測定値との差を求めることにより、ウェハー表面の有機物による汚染度を評価するため、操作が煩雑であり、結果が判明するまで長時間を要するという欠点がある。特許文献2、4、6では、評価の過程において、分解液、滴下液、洗浄液として、触れると激しく人体を腐食する、危険な毒物として知られるフッ化水素酸(HF)を用いており、決してクリーンな方法とは言えず、安全性が損なわれるという欠点がある。特許文献3では、雰囲気由来の有機物による基板の表面汚染を、簡便、かつ、廉価に評価する方法を提供すると記載されているが、表面抵抗率計、隔離空間、調湿ガス導入手段、評価対象気体導入手段、評価手段などが必要であり、実際には、大掛かりな評価装置を構成しているため、イニシャル・ランニング共に、高コストであると言わざるを得ない。特許文献5では、基板の局所的な表面状態の測定を、非接触・非破壊・高感度で実現し、基板表面の有機汚染物質の分布が測定可能な方法や装置を提供すると記載されているが、反射鏡、赤外線入射手段、赤外線検出手段、赤外線分析手段などが必要であり、特許文献3と同様に、大掛かりな評価装置となっているため、高コストであるという欠点がある。特許文献7では、従来技術として、基板中の欠陥や金属汚染の分析に用いられてきた、フォトルミネッセンス法が紹介され、その延長上で検出条件などを変更し、基板表面の有機物汚染の評価に転用したものであり、かつ、特許文献3、5と同様に、高コストであるという欠点がある。
【0014】
また、特許文献1~7の中には、従来技術として、X線光電子分光分析法(XPS)、赤外分光分析法(ATR)、ガスクロマトグラフ質量分析法(GC-MS)、大気圧イオン化質量分析法(APIMS)、二次イオン質量分析法(SIMS)を挙げ、これらの方法が、大型基板を直接観察することが出来ないことや、何れも実質的に破壊検査の形態を取る必要があり、ウェハー自体を再利用することが出来ないことなどを指摘する記載があった。なお、上記の分析方法以外に、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)についても、同様のことが言えるほか、何れも高額な分析装置を導入・保有しなければならず、それが出来ない場合には、分析専門機関などへの外注を行う必要があるが、高い分析料金を支払うことや、分析結果が報告されるまでに、長い日数が経過するという問題がある。
【0015】
この様に、ウェハーの製造過程において、ウェハー自体の表面汚染の評価を、安全に、迅速に、簡便に、安価に行えることの重要性は言うまでも無く、工程管理上、及び、品質管理上、極めて大きな役割を果たすが、これらの要素を全て満たす方法は、未だに開発・確立されていないのが現状である。
【0016】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、ウェハーの表面汚染の評価を、安全に、迅速に、簡便に、安価に行え、工程管理上、及び、品質管理上、極めて有効である方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、ウェハーの表面汚染の評価を、安全に、迅速に、簡便に、安価に行え、工程管理上、及び、品質管理上、極めて有効である方法を新たに開発するために、鋭意研究を積み重ねた。その結果、ウェハーの表面に存在する汚染物質に、呈色剤を吸着させ、呈色剤により汚染物質を呈色させる技術を見出した。
【0018】
即ち、発明者が完成するに至った本発明の一側面によれば、本発明の第1の態様は、排気環境下で、ウェハーの表面に存在する汚染物質に、呈色剤を吸着させ、前記呈色剤により、前記汚染物質を呈色させることを特徴とするウェハーの汚染検知方法である。

【0019】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の発明において、密閉容器中に、前記呈色剤、及び、前記ウェハーを配置し、密閉状態とする準備工程と、前記密閉容器中で、前記呈色剤の蒸気を発生させ、前記蒸気を前記ウェハーの表面に接触させる前処理工程と、前記ウェハーの表面に存在する前記汚染物質に、前記呈色剤を吸着させ、前記呈色剤により、前記汚染物質を呈色させる呈色工程と、前記汚染物質の呈色の有無を目視で検知する検知工程と、を備えることを特徴とするウェハーの汚染検知方法である。
【0020】
本発明の第3の態様は、第2の態様に記載の発明において、前記呈色剤が、常温で、又は、加温することにより、前記蒸気を発生させることを特徴とするウェハーの汚染検知方法である。
【0021】
本発明の第4の態様は、第2又は3の態様に記載の発明において、前記密閉容器が、透明であり、ガラス製であることを特徴とするウェハーの汚染検知方法である。
【0022】
本発明の第5の態様は、第1~4のいずれかの態様に記載の発明において、前記汚染物質は、有機化合物を含み、前記有機化合物が、芳香族炭化水素類、脂肪族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、有機酸類、アルコール類、フタル酸エステル類、アジピン酸エステル類、リン酸エステル類、フェノール類、シロキサン化合物類から選択される1種以上の化合物を含むことを特徴とするウェハーの汚染検知方法である。
【0023】
本発明の第6の態様は、第1~5のいずれかの態様に記載の発明において、前記呈色剤が、ヨウ素を含むことを特徴とするウェハーの汚染検知方法である。
【0024】
本発明の第7の態様は、第1~6のいずれかの態様に記載の発明において、前記ウェハーが、ケイ素、炭素、アルミニウム、酸素、ガリウム、リン、ヒ素、インジウム、窒素、タンタル、ニオブ、リチウムから選択される1種以上の元素を含むことを特徴とするウェハーの汚染検知方法である。
【0025】
本発明の第8の態様は、第1~7のいずれかの態様に記載の発明において、前記ウェハーが、直径50~500mm、厚さ0.1~1.0mmであることを特徴とするウェハーの汚染検知方法である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、ウェハーの表面汚染の評価を、安全に、迅速に、簡便に、安価に行え、工程管理上、及び、品質管理上、極めて有効である方法を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の一実施形態に係る、ウェハーの汚染検知方法について、その全体像を示す操作フロー図である。
図2】本発明の一実施形態に係る、ウェハーの汚染検知方法の準備工程における、密閉容器の正面断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る、ウェハーの汚染検知方法の検知工程における、密閉容器の平面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[本発明の一実施形態]
以下、本発明の一実施形態に係る、ウェハーの汚染検知方法(以下、単に「呈色法」とも称する)について、その概略から説明する。また、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を、不当に限定するものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更が可能である。なお、本実施形態で説明される構成の全てが、本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0029】
1.概略
ウェハーとは、ICチップ(半導体集積回路)の材料であり、単結晶の半導体物質からなる薄厚円盤のことを指すほか、SAW(Surface_Acoustic_Wave:弾性表面波)フィルターの材料であり、単結晶のリチウム金属酸化物からなる薄厚円盤のことを指す。
【0030】
前者は、シリコン(Si)をはじめ、シリコンカーバイド(SiC)、サファイア、リン化ガリウム(GaP)、ヒ化ガリウム(GaAs)、リン化インジウム(InP)、窒化ガリウム(GaN)などの半導体物質を単結晶化し、直径が例えば300mmの円柱状となる様に加工したインゴットを、厚さが0.75mm程度となる様に薄くスライスしたものであり、これらに表面研磨や端子形成などを施し、矩形状の小片に切断したものが、ペレット(チップ)となる。
【0031】
後者は、タンタル酸リチウム(LT:LiTaO)、ニオブ酸リチウム(LN:LiNbO)などのリチウム金属酸化物を単結晶化し、直径が例えば100mmの円柱状となる様に加工したインゴットを、厚さが0.5mm程度となる様に薄くスライスしたものであり、これらを小さく切断することで、スマートフォンのノイズカットなどに用いられるSAWフィルターとなる。
【0032】
これらのウェハーの生産(製造工程)においては、製造設備などからの汚染物質の混入リスクが、常に付きまとい、製造途中の中間品や完成品である製品に、(1)汚染物質が混入したか否か、(2)どれだけの量の汚染物質が混入したか、(3)混入した汚染物質は何か、などを、可能な限り、安全、迅速、簡便、低コストで評価することは、工程管理上、及び、品質管理上、極めて大きな役割を果たす。また、電子産業に関する分野では、化学汚染への対策が無ければ、先端デバイスの開発・製造が困難な状況となっており、特に、電子デバイスの製造に不可欠なクリーンルームにおける、ケミカルフィルターを用いた化学物質の除去のほか、クリーンルーム自体を構成する、各種部材・建材の低アウトガス化なども、空気質を清浄化するための重要な技術となっている。なお、現在では、電子産業に関する分野のほか、建築産業、自動車産業など、幅広い分野において、各種部材・建材からのアウトガス、放散ガスと呼ばれる、揮発性化学物質による汚染の度合いを評価することが、非常に重要視されている。
【0033】
本発明は、上記の背景に基づいて、なされたものである。なお、本発明の一実施形態に係る、ウェハーの汚染検知方法では、試料(以下、「サンプル」とも称する)とは、各種ウェハーを示し、その表面上に存在する汚染物質を評価する場合を一例とする。以下、本発明の一実施形態に係る、ウェハーの汚染検知方法における各工程について、具体的に説明する。
【0034】
2.各工程
図1は、本発明の一実施形態に係る、ウェハーの汚染検知方法について、その全体像を示す操作フロー図であり、操作フロー図の順序に従って説明する。図1に示すように、本発明の一実施形態に係るウェハーの汚染検知方法は、「準備工程S1」、「前処理工程S2」、「呈色工程S3」、「検知工程S4」を有する。
【0035】
(1)準備工程S1
準備工程S1は、密閉容器中に、呈色剤、及び、試料である各種ウェハーを配置し、密閉状態とする工程である。
【0036】
1)試料
試料である各種ウェハーは、主に、前述したICチップやSAWフィルターの材料として用いられる、直径50~500mm、厚さ0.1~1.0mmのサイズのものを対象としているが、特には限定されない。ウェハーとしては、例えばシリコン(Si)、シリコンカーバイド(SiC)、サファイア(Al)、リン化ガリウム(GaP)、ヒ化ガリウム(GaAs)、リン化インジウム(InP)、窒化ガリウム(GaN)、タンタル酸リチウム(LiTaO)、ニオブ酸リチウム(LiNbO)のウェハーを用いることができるが、これらのウェハーに限定されるものではない。
【0037】
2)呈色剤
呈色剤は、試料である各種ウェハーの表面に存在する汚染物質を、呈色可能なものであればよく、特には限定されない。
【0038】
ところで、デバイス不良の原因となる、分子状汚染物質は、A:酸性物質(Acid)、B:塩基性物質(Bases)、C:凝縮性有機物質(Condensables)、D:ドーパント(Dopants)の4種に大別され、以下の様な特徴を持つ。
【0039】
A:酸性物質は、塩化水素(HCl)、硝酸(HNO)、硫酸(HSO)、リン酸(HPO)、フッ化水素酸(HF)、窒素酸化物(NO)、硫黄酸化物(SO)など、主に、外気由来のものである。これらは、電子対受容体化合物で、化学反応的に腐食性を有する物質であり、製造工程においても、メタル配線腐食を引き起こす。
【0040】
B:塩基性物質は、アンモニア(NH)、有機アミン化合物など、主に、製造設備(プロセス材料)由来のものである。これらは、電子対供与体化合物であり、製造工程においても、化学増幅型リソグラフィ工程でのTトップ現象、レンズ・ミラーの曇り発生の原因となる。
【0041】
C:凝縮性有機物質は、トルエンやキシレンなどの芳香族炭化水素類、ドデカンやテトラデカンなどの脂肪族炭化水素類、フタル酸ジ-n-オクチル(DOP)やフタル酸ジ-n-ブチル(DBP)などのフタル酸エステル類、アジピン酸ジ-n-オクチル(DOA)やアジピン酸ジ-n-ブチル(DBA)などのアジピン酸エステル類、リン酸トリ-n-エチル(TEP)やリン酸トリ-n-ブチル(TBP)などのリン酸エステル類のほか、ハロゲン化炭化水素類、有機酸類、アルコール類、フェノール類、シロキサン化合物類など、主に、クリーンルームの構成材料に由来するものである。これらは、製造工程においても、製膜異常、ゲート酸化膜の耐圧劣化、レンズ・ミラー汚染などを引き起こす。
【0042】
D:ドーパントは、ホウ素化合物、リン化合物、ヒ素化合物など、主に、外気由来のものである。これらは、製造工程においても、デバイスの電気特性に悪影響を及ぼす原因となる。
【0043】
その他、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)など、主に、作業者・オペレーター由来の金属成分についても、重要な化学汚染物質として挙げられ、製造工程においても、接合リーク電流異常、界面準位増加などを引き起こす。
【0044】
特に、化学汚染の観点から扱うC:凝縮性有機物質については、種類も多く、フタル酸ジ-n-オクチル(DOP)やフタル酸ジ-n-ブチル(DBP)などのフタル酸エステル類、BHTなどのフェノール類は、ウェハー表面に高い確率で吸着する物質として、位置付けられている。中でも、フタル酸ジ-n-オクチル(DOP)は、他の低沸点分子を押し退けてまで、ウェハー表面に吸着することから、最も存在確率が高く、これを評価出来ることは必須であるべきとも言える。
【0045】
ここで、上記の汚染物質に対して、用いられる呈色剤は、汚染物質の種類によっても異なる。例えば、リン化合物の評価には、リンモリブデン酸溶液(モリブデンプルー試薬)が用いられ、これをウェハー表面に噴霧し、大気開放状態のまま、約200℃で30分程度加温することにより、リン化合物に汚染された箇所は、青色に呈色する。このほか、ニンヒドリン溶液、塩基性過マンガン酸カリウム溶液も、比較的多種の汚染物質に適用可能だが、数ある呈色剤の中でも、ヨウ素を含むものを用いることが好ましく、ヨウ素を用いることがより好ましい。
【0046】
ヨウ素は、有機化合物全般の評価が出来る優れた呈色剤で、二重結合などの不飽和結合を含む分子をはじめ、極性化合物などにも適用可能である。また、他の呈色剤には無い利点として、(1)加温及び加熱器具の必要が無く、ウェハーの表面汚染の評価を、より安全に、迅速に、簡便に、安価に行えること、(2)可逆的に呈色出来ること(呈色後、試料を大気放置してヨウ素が抜ければ、元の状態で別法による評価が可能)、(3)溶液化することなく使用出来ること、などが挙げられる。
【0047】
ヨウ素を用いての呈色には、ヨウ素を昇華させ、発生した蒸気が、有機化合物に吸着する性質、及び、有機化合物と化学反応する性質を利用する。その殆どは、化学反応ではなく、物理的な吸着(相互作用)であり、特に、不飽和結合とは、容易に相互作用が行われる。例えば、ヨウ素とベンゼン環では、ヨウ素に対して、電子が豊富なベンゼン環から電子が移り、電荷移動錯体が形成されることで呈色し、ヨウ素とカルボニル(アミドなど)でも、同様に可逆的な結合が行われる。
【0048】
また、ヨウ素は、変化に富んだ呈色を示す物質であり、固体の状態では黒紫色、気体(蒸気)の状態では赤紫色、次亜ヨウ素酸(HIO)を生じると、黄色ないし緑色を呈する。更に、ヨウ素が有機溶媒に吸着すると、例えば、ヘキサンでは紫色、ジエチルエーテルでは褐色、ベンゼンでは赤色を呈する。この様な性質を持つため、汚染物質の種類などにより、呈色が異なってくることになるが、汚染の有無を目視観察する際には、呈色の判定が可能であればよく、特に、大きな問題とはなり得ない。
【0049】
なお、ヨウ素は、他のハロゲン元素である、フッ素、塩素、臭素に比べて、最も酸化作用の弱い分子となる。従って、フッ素、塩素、臭素が持つ強力な毒性は無く、この弱い酸化作用が、消毒液やうがい薬として、人体に適度な殺菌効果をもたらしており、安全でクリーンな呈色剤でもある。
【0050】
3)密閉容器
前述の通り、評価対象となる汚染物質、及び、用いられる呈色剤によっては、大気開放状態のままでの処理が可能だが、ヨウ素を呈色剤とすることにより、最も汚染物質に対する適用範囲を広く出来るため、密閉容器を用いるのが好ましい。密閉容器は、少なくとも、呈色剤、及び、試料である各種ウェハーを配置可能であればよく、特には限定されない。また、密閉容器は、アウトガスによる汚染の懸念が少ない、ガラス製のものが好ましく、かつ、汚染の有無を容器の外からも観察出来る様に、透明であることが好ましい。
【0051】
4)呈色剤及び試料の配置
呈色剤及び試料の配置について、図を用いて説明する。図2は、本発明の一実施形態に係るウェハーの汚染検知方法の準備工程における、密閉容器の正面断面図である。
【0052】
図2に示すように、密閉容器10は、密閉容器本体1と密閉容器蓋体2で構成される。密閉容器本体1の下部には、中板3を載置するためのくびれ部分が設けられ、上部には、呈色剤及び試料(ウェハー)を出し入れする開口を形成するすり合わせ面1aが設けられている。密閉容器蓋体2には、密閉容器本体1のすり合わせ面1aと当接し、密閉容器本体1の開口部1aと同径のすり合わせ面2aが設けられている。また、中板3には通気孔4が設けられている。
【0053】
準備工程S1では、まず密閉容器本体1の底部に呈色剤6を配置し、その上方に中板3を配置する。このとき、試料である各種ウェハーを配置する際の作業性などを考慮し、中板3の上に配置台5を載置してもよい。
【0054】
次に各種ウェハーである試料7を、試料7の表面が上になるよう配置台5の上に載置する。また図2に示すように、汚染物質8は試料7の表面に存在する。なお試料7を配置台5の上に載置する数は特に制限されず、密閉容器10及び試料7の大きさによって適宜設定される。
【0055】
次に、密閉容器本体1のすり合わせ面1a及び、密閉容器蓋体2のすり合わせ面2aを当接させて、密閉容器10内を密閉状態にする。
【0056】
(2)前処理工程S2
前処理工程S2は、密閉容器10中で、呈色剤6の蒸気を発生させ、その蒸気を、試料7である各種ウェハーの表面に接触させる工程である。
【0057】
前述の通り、評価対象となる汚染物質8、及び、用いられる呈色剤6によっては、呈色剤の噴霧・加温などが必要となる。ヨウ素を呈色剤とする場合、ヨウ素は、常温でも昇華性があるため、密閉容器10中に配置するだけで、その蒸気が充満(飽和)し、試料7である各種ウェハーの表面に存在する汚染物質8に、優先的に吸着して呈色する。なお本願における常温は5℃以上35℃未満を指す。また、温度は20℃以上35以下であることがより好ましい。また、ヨウ素の添加量は、用いられる密閉容器のサイズにより、その蒸気が十分に充満する様、適宜調整されるのが好ましく、特には限定されない。
【0058】
(3)呈色工程S3
呈色工程S3は、試料7である各種ウェハーの表面に存在する汚染物質8に、呈色剤6を吸着させ、呈色剤6により、汚染物質8を呈色させる工程である。
【0059】
前述の通り、評価対象となる汚染物質、及び、用いられる呈色剤によっては、呈色を促進させるための加温が必要となる。ヨウ素を呈色剤とする場合、加温せずともよいが、これによって加温を制限するものではない。呈色にかかる時間は、温度、呈色剤の添加量、汚染物質の存在量、密閉容器のサイズや形状などによっても、変わり得る。従って、汚染の有無を検知するための観察時間は、汚染が無い場合も考慮し、密閉容器10内を密閉状態としてから少なくとも1時間以上は観察を続けることが好ましい。1時間以上経過しても、呈色が確認出来ない場合は、汚染が無いものと判断出来る。
【0060】
(4)検知工程S4
検知工程S4は、汚染物質の呈色の有無を、目視で検知する工程である。
【0061】
図3に、本発明の一実施形態に係る、ウェハーの汚染検知方法の検知工程における、密閉容器の平面断面図を示す。図3に示すように、試料7の表面に存在する汚染物質8は、呈色工程S3で汚染物質8に吸着した呈色剤により呈色する。検知工程S4では、密閉容器10の上方から目視により試料7を観察し、試料7の表面における呈色の有無を確認する。呈色がある場合、試料7の表面に汚染物質8が存在し試料7に汚染があることを検知する。また、密閉容器10内を密閉状態としてから1時間以上経過しても試料7の表面に呈色が確認出来ない場合、試料7の表面に汚染物質8が存在せず試料7に汚染が無いことを検知する。
【0062】
前述の通り、評価対象となる汚染物質、及び、用いられる呈色剤によっては、大気開放状態のままでの検知が可能である。ヨウ素を呈色剤とする場合、密閉容器10の外から観察するのでもよく、蒸気の充満によって、容器外からの観察がやり難い場合には、密閉容器10の密閉容器蓋体2を外して観察するか、又は、密閉容器10から、試料7である各種ウェハーを取り出して観察してもよい。
【0063】
また、検知工程S4の後、密閉容器蓋体2を密閉容器本体1から外し、密閉状態から大気開放状態としてもよい。ヨウ素を呈色剤とする場合、汚染物質に吸着したヨウ素が蒸気として汚染物質から抜けるため、例えば、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)など、物性分析手法による汚染物質の同定を、同一試料で行うことができる。
【0064】
また、以上に述べたウェハーの汚染検知方法を、ウェハーの生産(製造工程)において行うことが好ましい。実際のウェハーの生産(製造工程)においては、不良品の発生数を極力抑えるために、汚染物質が何であるかを特定するよりも、汚染の有無を、可能な限り、素早く検査出来ることのほうが重要である。そして、本発明の一実施形態に係るウェハーの汚染検知方法は、ウェハーの表面汚染の評価を、迅速に、簡便に行うことができ、汚染の確認後、ウェハーの生産(製造工程)における改善処置を速やかに実施することができる。
【実施例
【0065】
以下、本発明の一実施形態に係る、ウェハーの汚染検知方法について、実施例などにより、詳しく説明するが、本発明は、これらの実施例などに限定されるものではない。また、これらの実施例などにおける試薬類は、全て富士フィルム和光純薬株式会社製のものを用いた。
【0066】
(参考例1)
まず、作動させたドラフトチャンバーの作業台上に、ガラスデシケーター(内径350mm特注品、アズワン株式会社製)を配置し、上蓋を取り外した後、図2に示す通り、底部に呈色剤であるヨウ素(試薬特級)を添加し、ガラスデシケーターの付属品である内板(磁製、通気孔有り)を取り付け、その上に配置台(磁製)を配置し、更に、配置台上にシリコン(Si)ウェハー(直径300mm、厚さ0.8mm)を配置し、最後に上蓋を取り付けて密閉状態とした。
【0067】
次に、室温の状態において、ガラスデシケーター中でヨウ素を気化させ、ヨウ素の蒸気(赤紫色)が充満するまで待機した。
【0068】
そして、ガラスデシケーターの外から、ウェハー表面における呈色箇所の有無を、目視で観察した。その結果、密閉状態として(検知開始)から1時間後まで観察を継続したが、呈色箇所は確認されなかった。
【0069】
(参考例2)
配置台上にシリコンカーバイド(SiC)ウェハー(直径150mm、厚さ0.8mm)を配置した以外は、参考例1と同様の操作を行った。その結果、呈色箇所は確認されなかった。
【0070】
(参考例3)
配置台上にサファイアウェハー(直径150mm、厚さ0.8mm)を配置した以外は、参考例1と同様の操作を行った。その結果、呈色箇所は確認されなかった。
【0071】
(参考例4)
配置台上にリン化ガリウム(GaP)ウェハー(直径150mm、厚さ0.8mm)を配置した以外は、参考例1と同様の操作を行った。その結果、呈色箇所は確認されなかった。
【0072】
(参考例5)
配置台上にヒ化ガリウム(GaAs)ウェハー(直径150mm、厚さ0.8mm)を配置した以外は、参考例1と同様の操作を行った。その結果、呈色箇所は確認されなかった。
【0073】
(参考例6)
配置台上にリン化インジウム(InP)ウェハー(直径150mm、厚さ0.8mm)を配置した以外は、参考例1と同様の操作を行った。その結果、呈色箇所は確認されなかった。
【0074】
(参考例7)
配置台上に窒化ガリウム(GaN)ウェハー(直径150mm、厚さ0.8mm)を配置した以外は、参考例1と同様の操作を行った。その結果、呈色箇所は確認されなかった。
【0075】
(参考例8)
配置台上にタンタル酸リチウム(LT:LiTaO)ウェハー(直径150mm、厚さ0.5mm)を配置した以外は、参考例1と同様の操作を行った。その結果、呈色箇所は確認されなかった。
【0076】
(参考例9)
配置台上にニオブ酸リチウム(LN:LiNbO)ウェハー(直径150mm、厚さ0.5mm)を配置した以外は、参考例1と同様の操作を行った。その結果、呈色箇所は確認されなかった。
【0077】
(実施例1)
参考例1で用いたシリコンウェハーの表面に、有機物による汚染を想定し、フタル酸ジ-n-オクチル(DOP)(試薬特級)を添加(薄く塗布)した後、配置台上に配置した以外は、参考例1と同様の操作を行った。その結果、フタル酸ジ-n-オクチルを塗布した箇所が、呈色していることを確認した。
【0078】
(実施例2)
参考例2で用いたシリコンカーバイドウェハーの表面に、フタル酸ジ-n-オクチル(DOP)(試薬特級)を薄く塗布した後、配置台上に配置した以外は、参考例1と同様の操作を行った。その結果、フタル酸ジ-n-オクチルを塗布した箇所が、呈色していることを確認した。
【0079】
(実施例3)
参考例3で用いたサファイアウェハーの表面に、フタル酸ジ-n-オクチル(DOP)(試薬特級)を薄く塗布した後、配置台上に配置した以外は、参考例1と同様の操作を行った。その結果、フタル酸ジ-n-オクチルを塗布した箇所が、呈色していることを確認した。
【0080】
(実施例4)
参考例4で用いたリン化ガリウムウェハーの表面に、フタル酸ジ-n-オクチル(DOP)(試薬特級)を薄く塗布した後、配置台上に配置した以外は、参考例1と同様の操作を行った。その結果、フタル酸ジ-n-オクチルを塗布した箇所が、呈色していることを確認した。
【0081】
(実施例5)
参考例5で用いたヒ化ガリウムウェハーの表面に、フタル酸ジ-n-オクチル(DOP)(試薬特級)を薄く塗布した後、配置台上に配置した以外は、参考例1と同様の操作を行った。その結果、フタル酸ジ-n-オクチルを塗布した箇所が、呈色していることを確認した。
【0082】
(実施例6)
参考例6で用いたリン化インジウムウェハーの表面に、フタル酸ジ-n-オクチル(DOP)(試薬特級)を薄く塗布した後、配置台上に配置した以外は、参考例1と同様の操作を行った。その結果、フタル酸ジ-n-オクチルを塗布した箇所が、呈色していることを確認した。
【0083】
(実施例7)
参考例7で用いた窒化ガリウムウェハーの表面に、フタル酸ジ-n-オクチル(DOP)(試薬特級)を薄く塗布した後、配置台上に配置した以外は、参考例1と同様の操作を行った。その結果、フタル酸ジ-n-オクチルを塗布した箇所が、呈色していることを確認した。
【0084】
(実施例8)
参考例8で用いたタンタル酸リチウムウェハーの表面に、フタル酸ジ-n-オクチル(DOP)(試薬特級)を薄く塗布した後、配置台上に配置した以外は、参考例1と同様の操作を行った。その結果、フタル酸ジ-n-オクチルを塗布した箇所が、呈色していることを確認した。
【0085】
(実施例9)
参考例9で用いたニオブ酸リチウムウェハーの表面に、フタル酸ジ-n-オクチル(DOP)(試薬特級)を薄く塗布した後、配置台上に配置した以外は、参考例1と同様の操作を行った。その結果、フタル酸ジ-n-オクチルを塗布した箇所が、呈色していることを確認した。
【0086】
(比較例1)
実施例1で用いたシリコンウェハー(フタル酸ジ-n-オクチルを塗布済み)について、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)による評価を、外部分析機関Aに依頼した。外部分析機関Aが保有している、飛行時間型二次イオン質量分析装置(TOF-SIMS装置)である、TOFSIMS5((独)IONTOF社製)により、評価が行われた結果、ウェハー表面から、フタル酸ジ-n-オクチルが検出された。また、外部分析機関Aより、評価結果が報告されるまでに、約2週間を要した。
【0087】
(比較例2)
実施例2で用いたシリコンカーバイドウェハー(フタル酸ジ-n-オクチルを塗布済み)を、評価用サンプルとした以外は、比較例1と同様の操作を行った。その結果、ウェハー表面から、フタル酸ジ-n-オクチルが検出された。また、外部分析機関Aより、評価結果が報告されるまでに、約2週間を要した。
【0088】
(比較例3)
実施例3で用いたサファイアウェハー(フタル酸ジ-n-オクチルを塗布済み)を、評価用サンプルとした以外は、比較例1と同様の操作を行った。その結果、ウェハー表面から、フタル酸ジ-n-オクチルが検出された。また、外部分析機関Aより、評価結果が報告されるまでに、約2週間を要した。
【0089】
(比較例4)
実施例4で用いたリン化ガリウムウェハー(フタル酸ジ-n-オクチルを塗布済み)を、評価用サンプルとした以外は、比較例1と同様の操作を行った。その結果、ウェハー表面から、フタル酸ジ-n-オクチルが検出された。また、外部分析機関Aより、評価結果が報告されるまでに、約2週間を要した。
【0090】
(比較例5)
実施例5で用いたヒ化ガリウムウェハー(フタル酸ジ-n-オクチルを塗布済み)を、評価用サンプルとした以外は、比較例1と同様の操作を行った。その結果、ウェハー表面から、フタル酸ジ-n-オクチルが検出された。また、外部分析機関Aより、評価結果が報告されるまでに、約2週間を要した。
【0091】
(比較例6)
実施例6で用いたリン化インジウムウェハー(フタル酸ジ-n-オクチルを塗布済み)を、評価用サンプルとした以外は、比較例1と同様の操作を行った。その結果、ウェハー表面から、フタル酸ジ-n-オクチルが検出された。また、外部分析機関Aより、評価結果が報告されるまでに、約2週間を要した。
【0092】
(比較例7)
実施例7で用いた窒化ガリウムウェハー(フタル酸ジ-n-オクチルを塗布済み)を、評価用サンプルとした以外は、比較例1と同様の操作を行った。その結果、ウェハー表面から、フタル酸ジ-n-オクチルが検出された。また、外部分析機関Aより、評価結果が報告されるまでに、約2週間を要した。
【0093】
(比較例8)
実施例8で用いたタンタル酸リチウムウェハー(フタル酸ジ-n-オクチルを塗布済み)を、評価用サンプルとした以外は、比較例1と同様の操作を行った。その結果、ウェハー表面から、フタル酸ジ-n-オクチルが検出された。また、外部分析機関Aより、評価結果が報告されるまでに、約2週間を要した。
【0094】
(比較例9)
実施例9で用いたニオブ酸リチウムウェハー(フタル酸ジ-n-オクチルを塗布済み)を、評価用サンプルとした以外は、比較例1と同様の操作を行った。その結果、ウェハー表面から、フタル酸ジ-n-オクチルが検出された。また、外部分析機関Aより、評価結果が報告されるまでに、約2週間を要した。
【0095】
参考例1乃至9、実施例1乃至9、比較例1乃至9におけるウェハーの種類、直径、厚さを表1に示す。また、上記参考例、実施例、比較例における、フタル酸ジ-n-オクチル塗布の有無、フタル酸ジ-n-オクチル検出の可否を示す。
【0096】
表1の「DOP添加」は、ウェハーの表面への、フタル酸ジ-n-オクチル(DOP)添加(薄く塗布)の有無を示す。また、表1の「呈色」は、目視観察による、ウェハー表面の呈色箇所の有無を示し、「〇」は呈色していることを確認したことを示し、「×」は呈色箇所が確認されなかったことを示し、「-」は目視観察を行わなかったことを示す。また表1の「TOF-SIMS」はTOF-SIMSによる評価結果を示し、「〇」はウェハー表面から、フタル酸ジ-n-オクチルが検出されたことを示し、「-」はTOF-SIMSによる評価を行わなかったことを示す。
【0097】
【表1】
【0098】
表1に示すように、本発明である、ウェハーの汚染検知方法(呈色法)では、フタル酸ジ-n-オクチルを添加した各実施例において、有機物による汚染を示す呈色が確認された。また、フタル酸ジ-n-オクチルを添加していない各参考例の結果とも併せて、検知開始から1時間程度で、汚染の有無を確認することが出来た。
【0099】
これに対して、外部分析機関Aに評価を依頼した各比較例では、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)による評価の利点として、汚染物質がフタル酸ジ-n-オクチルであることまで特定されたものの、評価結果が報告されるのに、約2週間を要したほか、約12万円/1サンプルという、高い分析料金を支払わなければならなかった。
【0100】
実際のウェハーの生産(製造工程)においては、汚染物質が何であるかを特定するよりも、汚染の有無を、可能な限り、素早く検査出来ることのほうが重要であるのは、言うまでもない。本発明である、ウェハーの汚染検知方法は、少なくとも、密閉容器と呈色剤さえあれば評価が可能という、シンプルさに加え、操作自体も、密閉容器に呈色剤を添加し、ウェハーを配置して、呈色の有無を目視観察するだけであり、更には、安全性や、イニシャル・ランニングのコストパフォーマンスの面でも、従来技術をはるかに凌駕している。例えるならば、工場排水に含まれる規制物質などを検査対象としたパックテスト(登録商標)(株式会社共立理化研究所製)や、有害ガス・悪臭ガスなどのガス成分を検査対象としたガス検知管(株式会社ガステック製)の様な、安全性、迅速性、簡便性、コスト面に優れた検査キットに、匹敵する技術であると言える。
【0101】
即ち、本発明によれば、ウェハーの表面汚染の評価を、安全に、迅速に、簡便に、安価に行え、工程管理上、及び、品質管理上、極めて有効である方法を提供することができ、上記の評価結果が、その裏付けとするのに十分なものであることは、明らかである。
【0102】
また、本発明の技術範囲は、上記の一実施形態などで説明した態様に、制限されるものではない。上記の一実施形態などで説明した要件の1つ以上は、省略されることが有り得る。なお、上記の一実施形態などで説明した要件は、適宜組み合わせることが出来る。更に、法令で許容される限り、本明細書で引用した全ての文献の内容を援用し、本文の記載の一部とするものである。
【符号の説明】
【0103】
1 密閉容器本体、2 密閉容器蓋体、3 中板、4 通気孔、5 配置台、6 呈色剤、7 試料、8 汚染物質、10 密閉容器、S1 準備工程、S2 前処理工程、S3 呈色工程、S4 検知工程
図1
図2
図3