(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】磁歪部材及び磁歪部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
H10N 35/00 20230101AFI20240806BHJP
B24B 19/02 20060101ALI20240806BHJP
B24B 27/06 20060101ALI20240806BHJP
H10N 35/80 20230101ALI20240806BHJP
H10N 35/85 20230101ALI20240806BHJP
H10N 35/01 20230101ALI20240806BHJP
【FI】
H10N35/00
B24B19/02
B24B27/06 H
H10N35/80
H10N35/85
H10N35/01
(21)【出願番号】P 2020184635
(22)【出願日】2020-11-04
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100185018
【氏名又は名称】宇佐美 亜矢
(74)【代理人】
【識別番号】100134441
【氏名又は名称】廣田 由利
(72)【発明者】
【氏名】阿部 広
(72)【発明者】
【氏名】大久保 和彦
(72)【発明者】
【氏名】泉 聖志
【審査官】柴山 将隆
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-239177(JP,A)
【文献】特開2019-137883(JP,A)
【文献】特開2000-109961(JP,A)
【文献】特開2019-157152(JP,A)
【文献】特開2000-241264(JP,A)
【文献】特開2009-184023(JP,A)
【文献】特開2008-229752(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 35/00
B24B 19/02
B24B 27/06
H10N 35/80
H10N 35/85
H10N 35/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁歪特性を有する鉄系合金
であるFe-Ga合金の結晶からなり、長手方向及び短手方向を有する板状体であり、
前記板状体の主面は、前記結晶における{100}面であり、
前記長手方向は、前記結晶における磁化容易方向である<100>方向であり、
前記板状体の表面及び裏面に、前記長手方向に延びる複数の第1の溝と、
前記板状体の表面及び裏面に、前記第1の溝より深く、前記長手方向に延びる複数の第2の溝と、を有
し、
前記第1の溝と前記第2の溝とのなす角度は、15°以内であり、
前記板状体における前記長手方向の表面粗さRaは、前記短手方向の表面粗さRaよりも小さく、前記長手方向の表面粗さRaは0.1μm以上0.4μm以下であり、前記短手方向の表面粗さRaは0.2μm以上0.8μm以下であり、
磁歪定数が200ppm以上であり、
前記長手方向に対して平行な磁場を印加し、前記長手方向の磁歪量が飽和したときの磁歪量である平行磁歪量が200ppm以上である、
磁歪部材。
【請求項2】
前記第2の溝は、前記磁歪部材の短手方向において所定の間隔で周期的に形成される、請求項1に記載の磁歪部材。
【請求項3】
前記複数の第2の溝における前記所定の間隔は、5μm以上30μm以下である、
請求項2に記載の磁歪部材。
【請求項4】
磁歪特性を有する鉄系合金
であるFe-Ga合金の結晶からなりかつ長手方向及び短手方向を有する板状体の表面及び裏面に、前記長手方向に延びる複数の第1の溝と、前記板状体の表面及び裏面に前記第1の溝より深く前記長手方向に延びる複数の第2の溝と、を形成
した磁歪部材を得ることを備
え、
前記磁歪部材の主面は、前記結晶における{100}面であり、
前記長手方向は、前記結晶における磁化容易方向である<100>方向であり、
前記第1の溝と前記第2の溝とのなす角度は、15°以内であり、
前記磁歪部材において、前記長手方向の表面粗さRaは、前記短手方向の表面粗さRaよりも小さく、前記長手方向の表面粗さRaは0.1μm以上0.4μm以下であり、前記短手方向の表面粗さRaは0.2μm以上0.8μm以下であり、
前記磁歪部材において、磁歪定数が200ppm以上であり、
前記磁歪部材において、前記長手方向に対して平行な磁場を印加し、前記長手方向の磁歪量が飽和したときの磁歪量である平行磁歪量が200ppm以上である、
磁歪部材の製造方法。
【請求項5】
前記第1の溝及び前記第2の
溝は、
マルチワイヤソーにより形成され、
前記マルチワイヤソーに用いるワイヤが前記ワイヤに砥粒を固定した固定砥粒ワイヤーである固定砥粒ワイヤ方式を用いる、請求項
4に記載の磁歪部材の製造方法。
【請求項6】
前記第1の溝及び前記第2の溝の形成は、前記ワイヤを被加工物に対し±5°の範囲内で傾けて形成することを含む、請求項
5に記載の磁歪部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁歪部材及び磁歪部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁歪材料は、機能性材料として注目されている。例えば、鉄系合金であるFe-Ga合金は、磁歪効果および逆磁歪効果を示す材料であり、100~350ppm程度の大きな磁歪を示す。そのため、近年、エネルギーハーベスト分野の振動発電用材料として注目され、ウェアラブル端末やセンサ類などへの応用が期待されている。Fe-Ga合金の単結晶の製造方法として、引き上げ法(チョクラルスキー法、以下「Cz法」と略記する)による単結晶の育成方法が知られている(例えば、特許文献1)。また、Cz法以外の製造方法として、垂直ブリッジマン法(VB法)や垂直温度勾配凝固法(VGF法)が知られている(例えば、特許文献2、特許文献3)。
【0003】
Fe-Ga合金は、結晶の<100>方位に磁化容易軸を持ち、この方位に大きな磁気歪みを現出させることができる。従来、Fe-Ga合金の磁歪部材は、Fe-Gaの多結晶から<100>方位に配向した単結晶部分を所望サイズに切断することにより製造されているが(例えば、非特許文献1)、結晶方位は磁歪特性に大きく影響するため、磁歪部材の磁歪を必要とする方向と結晶の磁気歪みが最大となる<100>方位とを一致させた単結晶が磁歪部材の材料として最適であると考えられる。
【0004】
Fe-Ga合金の単結晶は、単結晶の<100>方位に対して平行に磁場を印加したとき、正の磁歪が現出する(以下、「平行磁歪量」と称す)。一方、<100>方位に対して垂直に磁場を印加したとき、負の磁歪が現出する(以下、「垂直磁歪量」と称す)。印加する磁場の強度を徐々に強めていくと、平行磁歪量あるいは垂直磁歪量がそれぞれ飽和する。磁歪定数(3/2λ100)は、飽和した平行磁歪量と、飽和した垂直磁歪量の差で決定され、下記の式(1)によって求められる(例えば、特許文献4、非特許文献2)。
【0005】
3/2λ100=ε(//)― ε(⊥) ・・・式(1)
3/2λ100:磁歪定数
ε(//):<100>方向に対して平行に磁場をかけて飽和したときの平行磁歪量
ε(⊥) :<100>方向に対して垂直に磁場をかけて飽和したときの垂直磁歪量
【0006】
Fe-Ga合金の磁歪特性は、磁歪・逆磁歪効果および磁歪式振動発電デバイスの特性に影響を与えると考えられており、デバイス設計をする上で重要なパラメータとなる(例えば、非特許文献4)。特に、磁歪定数は、Fe-Ga合金単結晶のGa組成に依存し、Ga組成が18~19at%と27~28at%で磁歪定数が極大になることが知られており(例えば、非特許文献2)、このようなGa濃度のFe-Ga合金をデバイスに用いることが望ましいとされる。さらに近年、磁歪定数が大きいことに加えて、平行磁歪量が大きいほど出力電圧等のデバイス特性が高い傾向にあることが報告されている(例えば、非特許文献3)。
【0007】
磁歪式振動発電デバイスは、例えば、コイルに巻かれたFe-Ga磁歪部材、ヨーク、界磁用永久磁石で構成されている(例えば、特許文献5、非特許文献4)。この磁歪式振動発電デバイスでは、デバイスの可動部のヨークを振動させると、ヨークの中央に固定したFe-Ga磁歪部材が連動して振動し、逆磁歪効果によってFe-Ga磁歪部材に巻かれたコイルの磁束密度が変化し、電磁誘導起電力が発生して発電する仕組みとなる。磁歪式振動発電デバイスでは、ヨークの長手方向に力が加わって振動が起こるため、デバイスに用いるためのFe-Ga磁歪部材は、磁化容易軸である<100>を長手方向になるように加工することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2016-28831号公報
【文献】特開2016-138028号公報
【文献】特開平4-108699号公報
【文献】特表2015-517024号公報
【文献】国際公開第2011-158473号
【非特許文献】
【0009】
【文献】Etrema社,State of the Art of Galfenol Processing.
【文献】A. E. Clark et al., Appl. Phys. 93(2003)8621.
【文献】Jung Jin Park, Suok-Min Na, Ganesh Raghunath, and Alison B. Flatau., AIP ADVANCES 6, 056221(2016).
【文献】上野敏幸, 精密工学会誌 Vol. 79, No.4, (2013) 305-308.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
磁歪式振動発電デバイス等のデバイス特性は、磁歪部材の磁歪特性によって影響を受けるため、磁歪部材は、高い磁歪特性を有し、磁歪特性のばらつきの少ないものが要求される。このような中で、Fe-Ga合金の単結晶の結晶方位が<100>であり、Ga濃度が均一であるならば、磁歪定数の均一な磁歪部材が得られると思われていた。しかし、非特許文献3に記載されるように、デバイス特性は、磁歪定数だけでなく平行磁歪量の影響があることが開示されている。本発明者の調査の結果、上記のように製造した磁歪部材は、磁歪定数が均一であっても平行磁歪量(あるいは垂直磁歪量)にばらつきがあること、また、磁歪定数自体がばらつくことが判明した。
【0011】
そこで、本発明は、磁歪定数及び平行磁歪量が高く、部材間の磁歪定数及び平行磁歪量のばらつきが少ない磁歪部材及び磁歪部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の態様によれば、磁歪特性を有する鉄系合金の結晶からなり、長手方向及び短手方向を有する板状体であり、板状体の表面及び裏面に、長手方向に延びる複数の第1の溝と、板状体の表面及び裏面に、第1の溝より深く、長手方向に延びる複数の第2の溝と、を有する、磁歪部材が提供される。
【0013】
また、第2の溝は、磁歪部材の短手方向において所定の間隔で周期的に形成される構成でもよい。また、複数の第2の溝における所定の間隔は、5μm以上30μm以下である構成でもよい。また、第1の溝と第2の溝とのなす角度は、15°以内である構成でもよい。また、第1の溝及び第2の溝を有する面は、長手方向の表面粗さRaが、短手方向の表面粗さRaよりも小さい構成でもよい。また、長手方向の表面粗さRaは、0.3μm以上1.5μm以下であり、短手方向の表面粗さRaは、0.6μm以上4.5μm以下である構成でもよい。また、磁歪定数が200ppm以上であり、長手方向に対して平行な磁場を印加し、長手方向の磁歪量が飽和したときの磁歪量である平行磁歪量が200ppm以上である構成でもよい。また、第1の溝及び第2の溝は、それぞれ、マルチワイヤソーによる切断加工により形成された構成でもよい。
【0014】
また、本発明の態様によれば、磁歪特性を有する鉄系合金の結晶からなりかつ長手方向及び短手方向を有する板状体の表面及び裏面に、長手方向に延びる複数の第1の溝と、板状体の表面及び裏面に第1の溝より深く長手方向に延びる複数の第2の溝と、を形成することを備える、磁歪部材の製造方法が提供される。
【0015】
また、磁歪部材の製造方法は、第1の溝及び第2の溝をマルチワイヤソーにより形成することを含む構成でもよい。また、マルチワイヤソーによる第1の溝及び第2の溝の形成は、マルチワイヤソーに用いるワイヤがワイヤに砥粒を固定した固定砥粒ワイヤーである固定砥粒ワイヤ方式を用いる構成でもよい。また、マルチワイヤソーによる第1の溝及び第2の溝の形成は、ワイヤを被加工物に対し±5°の範囲内で傾けて形成することを含む構成でもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の態様の磁歪部材は、磁歪定数及び平行磁歪量が高く、部材間の磁歪定数及び平行磁歪量のばらつきが少ない特性を有し、容易に製造可能である。本発明の態様の磁歪部材の製造方法は、磁歪定数及び平行磁歪量が高く、部材間の磁歪定数及び平行磁歪量のばらつきが少ない磁歪部材を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】(A)は、実施形態に係る磁歪部材の一例を示す斜視図である。(B)は、実施形態に係る磁歪部材の表面部分を一部拡大した図面代用写真の一例、及び、磁歪部材の表面部分の断面図である。
【
図3】ワイヤソー装置における揺動機構の一例を示す図である。
【
図4】実施形態に係る磁歪部材の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図5】単結晶、薄板部材、磁歪部材の第1の例を示す図である。
【
図6】単結晶、薄板部材、磁歪部材の第2の例を示す図である。
【
図7】単結晶、薄板部材、磁歪部材の第3の例を示す図である。
【
図8】実施例で用いた歪みゲージ法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して説明する。なお、各図面においては、適宜、一部又は全部が模式的に記載され、縮尺が変更されて記載される。なお、本明細書において、「A~B」とは、A以上B以下であることを意味する。
【0019】
[実施形態]
以下、本実施形態の磁歪部材及び磁歪部材の製造方法について説明する。
【0020】
まず、本実施形態の磁歪部材について説明する。
図1(A)は、実施形態に係る磁歪部材の一例を示す斜視図である。(B)は、実施形態に係る磁歪部材の表面部分を一部拡大した図面代用写真の一例、及び、磁歪部材の表面部分の断面図である。
【0021】
磁歪部材1は、
図1(A)に示すように、長手方向D1及び短手方向D2を有する板状体である。板状体は、平面視において長方形状である。板状体は、表面(おもて面)4及び裏面5を有する。表面4及び裏面5は、互いに平行であるのが好ましいが、互いに平行でなくてもよい。
【0022】
磁歪部材1は、鉄系合金の結晶からなる。鉄系合金は、磁歪特性を有するものであれば、特に限定されない。磁歪特性とは、磁場を印加したときに形状の変化が生じる特性を意味する。鉄系合金は、例えば、Fe-Ga、Fe-Ni、Fe-Al、Fe-Co、Tb-Fe、Tb-Dy-Fe、Sm-Fe、Pd-Fe等の合金である。また、上記合金において第3成分を添加した合金であってもよい。例えば、Fe-Ga合金においてBa、Cu等を添加した合金であってもよい。これらの鉄系合金の中でも、Fe-Ga合金は、他の合金と比較して磁歪特性が大きく加工も容易であるため、エネルギーハーベスト分野の振動発電用材料やウェアラブル端末やセンサ類などへ応用されている。以下の説明では、磁歪部材1の一例として、磁歪部材1がFe-Ga合金の単結晶からなる構成の例を説明する。
【0023】
Fe-Ga合金の単結晶は、体心立方格子構造を有しており、ミラー指数における方向指数のうち第1~第3の<100>軸(
図5から
図7参照)が等価であり、ミラー指数における面指数のうち第1~第3の{100}面(
図5から
図7参照)が等価(すなわち、(100)、(010)および(001)は等価)であることを基本とするものである。また、Fe-Ga合金は、結晶の特定方位に大きな磁気歪みを現出させる特性を有する。この特性を磁歪式振動発電デバイスに利用する場合、デバイスにおいて磁歪部材1の磁歪を必要とする方向と、結晶の磁気歪みが最大となる方位(方向)とを一致させることが望ましい。具体的には、上述したように、単結晶における磁化容易方向である<100>方向を、磁歪部材1の長手方向D1に設定することが望ましい。単結晶における磁化容易方向である<100>方向を、磁歪部材1の長手方向D1とすることは、例えば、単結晶の結晶方位を公知の結晶方位解析により算出し、算出した単結晶の結晶方位に基づいて単結晶を切断することにより、実施することができる。
【0024】
なお、本実施形態の磁歪部材1に用いることができる結晶は、単結晶でもよいし、多結晶でもよい。<100>方向の方位集積度を高め、磁歪材料としての特性を高めるためには、多結晶よりも単結晶の使用が有利である。なお、多結晶は、単結晶より磁歪特性は落ちるものの低コストで生産が可能であるため、多結晶を用いる場合もある。
【0025】
磁歪部材1は、例えばエネルギーハーベスト分野の振動発電デバイス用の材料(部品)、ウェアラブル端末やセンサ類などの材料(部品)として使用される。例えば、上記の特許文献5に示すような磁歪式振動発電デバイスは、コイル、コイルに巻かれたFe-Ga合金の磁歪部材、ヨーク、及び、界磁用永久磁石により構成されている。この磁歪式振動発電デバイスは、デバイスの可動部であるヨークを振動させると、ヨークの中央部に固定された磁歪部材が連動して振動し、逆磁歪効果によって磁歪部材に巻かれたコイルの磁束密度が変化し、電磁誘導起電力が発生することにより発電する仕組みとなっている。このような仕組みで用いられる場合、磁歪部材1の形状は、薄板状であり、平面視において細長い長方形状に設定されることが好ましい。磁歪部材1の厚さには特に限定はない。厚さの下限は、0.3mm以上が好ましく、0.4mm以上がより好ましく、0.5mm以上がさらに好ましい。また、磁歪部材1の厚さの上限は、2mm以下が好ましく、1.8mm以下がより好ましく、1.5mm以下がさらに好ましい。磁歪部材1の厚さは、0.3mm以上2mm以下が好ましく、0.4mm以上1.8mm以下がより好ましく、0.5mm以上1.5mm以下がさらに好ましい。磁歪部材1による発電の仕組みは、上記で説明したように、磁歪部材に応力与えること(振動)で逆磁歪効果により発電する仕組みである。磁歪部材1の厚みが0.3mm未満の場合振動中に破損しやすくなる。逆に磁歪部材1の厚さが2mmを超える場合、振動による応力を大きくする必要があり効率が悪くなる。磁歪部材1の形状及び大きさは、目的とするデバイスの大きさに応じて適宜設定される。例えば、磁歪部材1の大きさは、長手方向D1の長さ(寸法)が16mm、短手方向D2の幅(寸法)が4mm、厚さが1mmである。
【0026】
なお、磁歪部材1の形状及び寸法は、それぞれ、特に限定されない。例えば、磁歪部材1は、平面視において長方形状でなくてもよい。例えば、磁歪部材1の形状は、平面視において、楕円状、トラック状、不定形でもよい。なお、磁歪部材1の形状が平面視において長方形状以外の場合において、長手方向D1は長径方向、長軸方向等であり、短手方向D2は長手方向D1に直交する方向である。
【0027】
上述したように、本発明者らは、Fe-Ga合金の単結晶からなり、主面が{100}面であり、磁化容易方向である<100>方向を磁歪部材の長手方向とした平面視の形状が長方形状である板状の磁歪部材を複数製作した。Ga濃度が均一なFe-Ga合金の単結晶から切り出して作成した複数の磁歪部材について磁歪特性を確認した結果、作成した複数の磁歪部材は、磁歪定数は高位であるが、平行磁歪量に大きなばらつきがあることが判った。また、これらの磁歪部材は、磁歪定数自体がばらつくこともあり、磁歪定数は、単結晶から磁歪部材を切り出す位置によりばらつきがあることを見出した。さらに調査した結果、磁歪定数及び平行磁歪量は、磁歪部材の研削方向に関連があることを見出した。本発明は、上記の知見を元になされたものである。
【0028】
磁歪部材は、例えば、育成された鉄系合金の結晶を一定方向に切断することにより薄板状の部材を作製し、作製した薄板状の部材を所定の大きさに切断することにより製造される。
【0029】
本実施形態の磁歪部材1は、
図1(A)及び(B)に示すように、表面4及び裏面5(「表裏面」、「表裏面4、5」と総称する場合もある)に、長手方向D1に延びる複数の第1の溝2と、板状体の表面4及び裏面5に、第1の溝2より深く、長手方向D1に延びる複数の第2の溝3を有する、ことを特徴としている。以下、詳細に説明する。(以下の説明において、第1の溝2及び第2の溝3を「溝」、「溝2、3」と総称する場合もある。)
【0030】
上述したように、Ga濃度の均一なFe-Ga単結晶から切り出した複数の磁歪部材について磁歪特性を確認した結果、磁歪定数は高位であるが、平行磁歪量にばらつきがあることが判っている。本実施形態によれば、このような平行磁歪量にばらつきがある磁歪部材においても、表面4及び裏面5に、長手方向D1に延びる複数の第1の溝2と、板状体の表面4及び裏面5に、第1の溝2より深く、長手方向D1に延びる複数の第2の溝3をを形成することにより、磁歪定数及び平行磁歪量の双方を、高位で且つ部材間のばらつきが少ないように改質(「磁歪定数及び平行磁歪量の改質」とも称す)することができ、特に平行磁歪量を改質することができる。この改質の現象は、特に複数の第1の溝2を形成したことによって結晶内に残留歪等の応力がかかり、磁気モーメントが均一に再配列して、磁歪特性が均一化したため生じると推測される。
【0031】
以下、上記磁歪定数及び平行磁歪量の改質について説明する。本実施形態では、後述する実施例に示すように、単結晶よりマルチワイヤソー装置を用いて切断した表裏面を有する磁歪部材のサンプルにおいて、磁歪部材の表裏面の両面に、長手方向D1に延びる複数の第1の溝2と、第1の溝2より深く長手方向D1に延びる複数の第2の溝3を形成するサンプル(実施例1~4)と、短手方向D2に延びる複数の第1の溝と、第1の溝より深く短手方向D2に延びる複数の第2の溝を形成したサンプル(比較例1)について、複数の溝2、3の形成による磁歪定数及び平行磁歪量の変化を調べた。その結果を表1に示す。
【0032】
磁歪部材の表裏面の両面に、長手方向D1に延びる複数の第1の溝2と、第1の溝より深く長手方向に延びる複数の第2の溝を形成するサンプルは、実施例1~4に示すように、10枚のすべてのサンプルにおいて磁歪定数、平行磁歪量ともに200ppm以上であり、高位で安定している。
【0033】
これに対し、磁歪部材の表裏面の両面に、短手方向D2に延びる複数の第1の溝と、第1の溝より深く短手方向D2に延びる複数の第2の溝を形成するサンプルは、比較例1に示すように、10枚のすべてのサンプルにおいて、磁歪定数は200ppm以上であり安定しているが、平行磁歪量は100ppm以下であり、低位で安定している。
【0034】
さらに、実施例1において、さらに、磁歪部材1の表裏面をラッピング装置により研削加工し、その後、ポリッシュ装置により研磨加工により、表裏面を鏡面加工した。この鏡面加工により磁歪部材の表裏面の溝2、3を削除して、再度、平行磁歪量を確認した。その結果、平行磁歪量は34~290ppmとばらつきが大きくなった。特に、10枚中8枚のサンプルにおいて平行磁歪量が200ppm未満に低下し、ばらつきを大きくした。残り2枚の平行磁歪量については、研削加工の前とほぼ同一で変動はなかった。上記状況から、表面4及び裏面5に、長手方向D1に延びる複数の第1の溝2と、第1の溝2より深く、長手方向D1に延びる複数の第2の溝3を形成することで、磁歪定数及び平行磁歪量の双方を、高位で且つ部材間のばらつきが少ないように改質(「磁歪定数及び平行磁歪量の改質」とも称す)することができたと推測できる。
【0035】
なお、平行磁歪量は磁歪部材1の長手方向D1に対して平行な磁場を印加し、長手方向D1の磁歪量が飽和したときの磁歪量である。また、垂直磁歪量は磁歪部材1の短手方向D2に対して平行な磁場を印加し、短手方向D2の磁歪量が飽和したときの磁歪量である。本実施形態の磁歪部材1における磁歪定数、平行磁歪量、及び垂直磁歪量は、後に説明する実施例の記載の通りに求めた値であり、磁歪量は式(3)に従い実際の歪検出値をゲージ率で補正して求めた値であり、磁場方向が歪みゲージの長手方向に対して平行であるときの磁歪量を、平行磁歪量とし、磁場方向が歪みゲージ長手方向に対して垂直であるときの磁歪量を、垂直磁歪量とし、磁歪定数は式(1)に従い、平行磁歪量と垂直磁歪量の差で求めた値である。また、複数の溝2、3の延びる方向と長手方向D1がなす角度は、異なる複数の溝における値を平均した値である。
【0036】
次に、複数の第1の溝2、及び第1の溝2より深く長手方向D1に延びる複数の第2の溝3について説明する。複数の第1の溝2、及び第2の溝3は、磁歪部材の製造方法と関連があるため、まずは、磁歪部材の表裏面を加工するマルチワイヤソー装置に関して説明する。
【0037】
本実施形態の磁歪部材1の製造では、切断加工において、切断装置としてマルチワイヤソー装置(ワイヤソー装置)を用いる。以下、マルチワイヤソー装置について説明する。
【0038】
図2は、マルチワイヤソー装置(ワイヤソー装置)の一例を示す図である。ワイヤソー装置20は、所定の間隔に配置されるワイヤ25からなるワイヤ列26を備え、円柱状等の単結晶Cとワイヤ列26とを相対的に移動させることにより、ワイヤ列26により単結晶Cを複数の薄板部材PL(
図5から
図7参照)に研削切断する装置である。ワイヤソー装置20は、
図2に示すように、スライス台ホルダ21と、スライス台22と、複数のローラR(
図2の例では3つ、
図3の例では2つ)と、複数のローラR間に互いに所定の間隔を介して張設されたワイヤ列26と、を備える。ワイヤソー装置20は、
図2に示すように、単結晶Cを上方向又は下方向に移動させることにより、ワイヤ列26と単結晶Cとを相対方向に移動させる。ワイヤソー装置20は、ワイヤ列26と単結晶Cとを相対方向に移動させ、単結晶Cをワイヤ列26に押し付けながらワイヤ列26を一方向あるいは往復方向へ走行させることにより、単結晶Cを同時に複数の薄板部材PL(
図5から
図7参照)に切断加工する。なお、ワイヤソー装置20は、固定された単結晶Cに対してワイヤ列26を移動する構成でもよいし、ワイヤ列26が固定され単結晶Cが移動する構成でもよい。
【0039】
ワイヤソー装置20を用いた切断加工では、一定ピッチで並行する複数の極細ワイヤ列26に単結晶Cを押し当て、ワイヤ25を線方向に送りながら、単結晶Cとワイヤ25との間に砥粒を含む加工液(スラリーともいう)を供給することによって切断する遊離砥粒方式と、ダイヤモンド等砥粒を電着又は接着剤によって固定したワイヤ25を線方向に送りながら、被加工物を切断する固定砥粒方式とがある。本実施形態では、固定砥粒方式を用いる。詳細は後述する。
【0040】
また、ワイヤソー装置20で単結晶Cを切断するときにおけるワイヤ25の走行方向(走行方式)は、ワイヤ25を一方向のみに走行させて切断を行う方式(以下、「一方向切断方式」と称す。)と、ワイヤ25を往復走行させて切断を行う方式(以下、「往復切断方式」と称す。)がある。一方向切断方式では、高い線速での長時間走行が可能であるため加工能率が高い一方、単結晶径が大きい場合、1切断するために数百kmのワイヤ25が必要となり、高価となる。一般的には、往復切断方式が用いられる。往復切断方式において、ワイヤ25を往復走行させて単結晶Cを切断すると、ワイヤ25の走行方向が切り替わるたびにワイヤ25が一時停止して線速がゼロになる。このため、切断された薄板部材PLは、
図1(B)の符号「3」に示すようなソーマークによる段差(溝)が生じる。この現象は、ワイヤ25を往復走行により発生するため、ワイヤ25の走行方向に対し垂直方向に所定のピッチP1(
図1(B)参照)で段差(溝)が発生する。
【0041】
さらに、ワイヤソー装置20には、揺動機構を有してもよい。
図4は、ワイヤソー装置の揺動機構の一例を示す図である。揺動機構は、ワイヤソー装置20の複数のローラRに配置されたワイヤ列26を、
図3に示すように、水平の状態からローラR全体を傾斜させて単結晶Cを切断する機構である(以下、水平の状態からローラR全体を傾斜させることを「揺動」と略す場合もある)。ワイヤ25での単結晶Cの切断中に揺動運動を加えることで、ワイヤ25と単結晶Cとの接触面(接触部)を、揺動機構がない場合における線接触から、点接触に近くなるような状態にすることができる。このため、ワイヤ25と単結晶Cとの接触部には実質的により高い荷重を加えることができ、また、切断のために用いられる砥粒が、効率的に接触部に作用する。この揺動は、水平に対して、±15°の範囲で行われるのが好ましい。より好ましくは、±5°の範囲である。すなわち、揺動におけるワイヤ列26の傾斜の角度θ(以下「揺動の角度」、「揺動角度」と称す場合もある)は、±15°の範囲であるのが好ましい。±5°の範囲であるのがより好ましい。なお、上記揺動の角度θにおける符号(「+」、「-」)は、ワイヤ25の走行方向(ワイヤ列26)と平行な面上に対して、時計回り方向がプラス方向(+方向)とし、反時計回りの方向がマイナス方向(-方向)とする(
図3参照)。また、本明細書において、「±n°の範囲」とは、-n°~+n°の範囲であること、言い換えれば、|n|°以下(|n|は絶対値を示す)であることを意味する。揺動の角度θが上記範囲を超えると、揺動運動により切断面の表面粗さが小さくなることが知られており、磁歪定数及び平行磁歪量の改質の効果が小さくなる場合がある。このため、揺動の角度θは、水平に対し±3°の範囲であるのがより好ましい。また、上記の揺動の速度は、特に限定されないが、例えば、3°~10°/秒である。
【0042】
また、上記の揺動は、ワイヤソー装置20で単結晶Cを切断中、揺動の角度θを設定することで一定速度で揺動運動が繰り返し行われる。なお、このワイヤ揺動は、前述のワイヤ往復機構とは連動せず、個別に設定することができる。なお、本実施形態で用いることができるワイヤソー装置20は、特に限定はなく公知の装置を用いることができる。例えば、上記の揺動機構を備えるワイヤソー装置として、特開2008-229752号公報に記載されるワイヤソー装置を用いることができる。
【0043】
本実施形態の磁歪部材1の表裏面は、上記マルチワイヤソー装置20による加工の加工面であり、ワイヤ25は固定砥粒切断方式を用い、ワイヤ25の走行方式はワイヤを往復走行させて切断を行う往復切断方式で加工したものである。
【0044】
本実施形態の磁歪部材1における第1の溝2は、ワイヤ25に固定された固定砥粒により研削された時の溝である。
図1(B)に示すように、第1の溝2は、一定方向に複数の溝が形成される必要がある。固定砥粒方式のワイヤ25を用いることで、ワイヤ25の走行方向と平行な方向の複数の溝を確実に形成することができる。この溝は、ワイヤ25に固定される砥粒により影響を受ける。ワイヤ25に固定する砥粒は、一般にダイヤモンドの砥粒が使用されるが、ダイヤモンドの砥粒には限定されない。ワイヤ25に固定する砥粒の粒径は、6~40μmを用いることが好ましい。砥粒の粒径が上記の範囲である場合、第1の溝2及び第2の溝3をより確実に形成することができる。砥粒が小さいと砥粒摩滅によりワイヤの寿命が短くなるため、費用が増加し、また、砥粒が大きくなると加工変質層が深く方向性が小さくなるため、溝の加工(溝の形成)が不十分となる。ワイヤ25の線径は特に限定はないが、一般には、0.1~0.3mmmが好ましい。
【0045】
本実施形態の磁歪部材1における第2の溝3(
図1(B)参照)は、ワイヤソー装置20のワイヤ25の走行をワイヤを往復走行させて切断を行う往復切断方式により切断した時に形成されるソーマークによるものである。前述したようにワイヤ25を往復走行させて単結晶Cを切断すると、ワイヤ25の走行方向が切り替わるたびにワイヤ25が一時停止して線速がゼロになる。そこから加工が再開されるため、往路と復路とで差が生じソーマークとなり、ソーマークが第2の溝3となる。ソーマーク(第2の溝3)は、第1の溝よりも深さが深くなる(
図1(B)参照)。
【0046】
ソーマーク(第2の溝3)は、ワイヤ25の往復回数、単結晶Cの送り速度等により、ワイヤの走行方向に対して、垂直方向に一定の間隔で形成される。例えば、ソーマークは、深さ0.5μm~3.0μmで、5μm~30μmピッチP1(
図1(B)参照)で形成される。なお、ソーマークの深さ、及び、ピッチは、単結晶Cをワイヤソー装置20で切断する際の加工条件(単結晶Cの送り速度、ワイヤを往復させる回数・速度など)により、制御することができる。
【0047】
さらに、第1の溝2の延伸方向と、第2の溝3の延伸方向は、同一方向、もしくは、第1の溝2の延伸方向と第2の溝3の延伸方向が交わる角度(「交差角度」とも呼ぶ)が±15°の範囲内で交差してもよい(交差角度は、15°以下でもよい)。前述したように、ワイヤ25は、複数のローラRに配置されており、かつ、この複数のローラRは、揺動機構により単結晶Cを基準に水平から所定の範囲の角度で傾斜して揺動し、単結晶Cを切断する。この揺動運動を用いた場合は、前述のワイヤ25の往復とは連動していないため、単結晶Cをワイヤソー装置20で切断した薄板部材PLの表裏面では、設定した揺動角度の範囲で第1の溝2の延伸方向と、第2の溝3の延伸方向が交わる角度(交差角度)が変動する。実施例2、実施例3、比較例3は、揺動運動を、揺動角度θ(
図3参照)を±3°、±10°で行った結果である。実施例2及び実施例3では、実施例1と同様に、10枚のサンプルにおいて磁歪定数、平行磁歪量ともに、200ppm以上であり、高位で安定している。これに対し、実施例4に示すように、揺動角度θ±10°では、交差角度が大きくなるため、平行磁歪量の改質効果はあるものの実施例2、3に比較し若干劣る。このように、第1の溝の延伸方向と第2の溝の延伸方向は、同一方向、もしくは、第1の溝2の延伸方向と第2の溝3の延伸方向が交わる角度(交差角度)が±15°の範囲内であれば、磁歪定数及び平行磁歪量の改質の効果が発現することがわかる。±5°の範囲内であればより確実に磁歪定数及び平行磁歪量の改質の効果が発現する。
【0048】
複数の溝2、3(溝2、3)は、長手方向D1に延びるように形成される。各溝2、3は、線状(筋状)である。溝2、3は、直線状であるのが、上記の磁歪定数及び平行磁歪量の改質の効果を効率的に発現させる観点から好ましい。なお、溝2、3は曲線状でもよい。溝2、3の長手方向D1の長さは、特に限定されない。溝2、3は、上記の磁歪定数及び平行磁歪量の改質の効果を効率的に発現させる観点から、面内全体に形成されるのが好ましい。上述のように、ワイヤソー装置20を用いて切断加工した磁歪部材1では、溝2、3は、表裏面の全体に形成される。なお、本実施形態において、磁歪部材1が、本発明の効果を損ねない範囲において上記長手方向以外に延びる溝を含んでもよく、このような磁歪部材を除外するものではないが、好ましくは上記長手方向以外に延びる溝はないのが理想的である。
【0049】
磁歪部材1の表裏面における各面において、長手方向D1の表面粗さRaは、短手方向D2の表面粗さRaよりも小さいことが好ましい。磁歪部材1の表裏面における各面において、長手方向D1の表面粗さRaは、下限が0.3μm以上であるのが好ましく、上限が1.5μm以下であるのが好ましく、0.3μm以上1.5μm以下であるのがより好ましい。また、磁歪部材1の表裏面における各面において、短手方向D2の表面粗さRaは、下限が0.6μm以上であるのが好ましく、0.7μm以上であるのがより好ましく、上限が4.5μm以下であるのが好ましく、範囲が0.6μm以上4.5μm以下であるのが好ましく、0.7μm以上4.5μm以下であるのがより好ましい。磁歪部材1の表裏面における各面において、長手方向D1又は短手方向D2の表面粗さRaが上記範囲である場合、上記の磁歪定数及び平行磁歪量の改質の効果を効率的に発現させることができる。本実施形態において、表面粗さRaは、1つの磁歪部材1における複数の異なる部分を測定した値を平均した値である。
【0050】
なお、本実施形態において、溝2、3が長手方向D1に延びるとは、溝2、3が長手方向D1と平行な方向に延びること、及び、溝2、3が長手方向D1と40°未満の角度で交差する方向に延びることを含む。溝2、3が延びる方向(延伸方向)が長手方向D1と平行な方向からずれると平行磁歪量が低くなるため(比較例1参照)、溝2、3が延びる方向は長手方向D1と平行な方向であるのが好ましい。なお、溝2は、互いに異なる方向に延びる溝を含んでもよいし、長さ又は深さが異なる形状の溝を含んでもよい。また、溝3は、互いに異なる方向に延びる溝を含んでもよいし、長さ又は深さが異なる形状の溝を含んでもよい。
【0051】
本実施形態の磁歪部材1の特性について説明する。本実施形態の磁歪部材1は、上記の構成により、磁歪定数が200ppm以上、好ましくは250ppm以上とすることができる。また、磁歪部材1は、上記の構成により、平行磁歪量が200ppm以上、好ましくは250ppm以上とすることができる。磁歪部材1の磁歪定数及び平行磁歪量を上記の範囲にする場合、磁歪部材1をFe-Ga合金の単結晶で形成するのが好ましい。
【0052】
また、本実施形態の磁歪部材1は、上記の第1の溝2及び第2の溝3を形成することにより、磁歪定数及び平行磁歪量の双方を、高位で且つ部材間のばらつきが少ないように改質(修正)されている。本実施形態の磁歪部材1における溝2、3は、磁歪定数及び平行磁歪量の双方(少なくとも平行磁歪量)を改質することが可能なものであり、溝2、3は、磁歪定数を好ましくは200ppm以上、より好ましくは250ppm以上とすることができ、平行磁歪量を好ましくは200ppm以上、より好ましくは250ppm以上とすることができる。このため、本実施形態の磁歪部材1は、1つの結晶から製造された複数の磁歪部材1の場合、複数の磁歪部材1における磁歪定数の変動係数を、好ましくは0.1以下、より好ましくは0.06以下、より好ましくは0.04以下とすることができ、また、平行磁歪量の変動係数を、好ましくは0.1以下、より好ましくは0.06以下とすることができる。なお、育成された1つの結晶とは、育成された結晶のうち、磁歪部材として用いられる有効結晶(実際に部品として使用される部分)である。例えば、BV法で育成された結晶については、固化率が10%~85%の範囲のであり、CZ法で育成された結晶であれば、直径が均一の範囲(育成肩部等を除外した部分)である。
【0053】
以上のように、本実施形態の磁歪部材1は、磁歪特性を有する鉄系合金の結晶からなり、長手方向D1及び短手方向D2を有する板状体であり、板状体の表面4及び裏面5に、長手方向D1に延びる複数の第1の溝D1と、板状体の表面4及び裏面5に、第1の溝2より深く、長手方向D1に延びる複数の第2の溝3と、を有する。なお、本実施形態の磁歪部材1において、上記以外の構成は任意の構成である。本実施形態の磁歪部材1は、磁歪定数及び平行磁歪量が高く、部材間の磁歪定数及び平行磁歪量のばらつきが少ない特性を有する。また、本実施形態の磁歪部材1は、上記の溝により、磁歪定数及び平行磁歪量の改質が行われると推定され、従来の同一の単結晶から製造された磁歪部材における磁歪定数及び平行磁歪量のばらつきが修正されるため、歩留まりが高く安定に生産することができる。本実施形態の磁歪部材1は、磁歪定数及び平行磁歪量が高いため、優れた磁歪効果および逆磁歪効果を示す部材(材料)の最終製品として好適に用いることができる。また、本実施形態の磁歪部材1は、後に示す本実施形態の磁歪部材の製造方法で説明するように、単結晶をワイヤソー装置により切断加工するのみで製造可能であるため、容易に製造することができる。
【0054】
次に、本実施形態の磁歪部材の製造方法について説明する。本実施形態の磁歪部材の製造方法は、上記した本実施形態の磁歪部材1の製造方法である。本実施形態の磁歪部材の製造方法は、磁歪特性を有する鉄系合金の結晶からなりかつ長手方向D1及び短手方向D2を有する板状体の表面4及び裏面5に、長手方向D1に延びる複数の第1の溝2と、板状体の表面4及び裏面5に第1の溝2より深く長手方向D1に延びる複数の第2の溝3と、を形成することを備える。
【0055】
なお、以下の説明では、Fe-Ga合金の単結晶インゴットから磁歪部材1を製造する方法を一例として説明するが、本実施形態の磁歪部材の製造方法は、以下の説明に限定されない。また、本明細書中の記載のうち、本実施形態の磁歪部材の製造方法に適用可能なものは、本実施形態の磁歪部材の製造方法でも適用されるとする。
【0056】
図4は、本実施形態の磁歪部材の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図5から
図7は、単結晶、薄板部材及び磁歪部材の第1から第3の例を示す図である。例えば、本実施形態の磁歪部材の製造方法は、結晶用意工程(ステップS1)、結晶切断工程(ステップS2)、及び、切断工程(ステップS3)を備える(
図4参照)。
【0057】
本実施形態の磁歪部材の製造方法では、まず、結晶用意工程(ステップS1)において、磁歪特性を有する鉄系合金の結晶を用意する。用意する結晶は、単結晶でもよいし、多結晶でもよいが、以下の説明では、結晶が単結晶である例を中心に説明する。また、用意する結晶は、育成したものでもよいし、市販品を用いてもよい。例えば、結晶用意工程では、Fe-Ga合金の単結晶を用意する。Fe-Ga合金の単結晶の育成方法は、特に限定はない。Fe-Ga合金の単結晶の育成方法は、例えば、引き上げ法や一方向凝固法等でもよい。引き上げ法ではCz法、一方向凝固法ではVB法、VGF法およびマイクロ引き下げ法等を用いることができる。
【0058】
Fe-Ga合金の単結晶は、ガリウムの含有量を18.5at%又は27.5at%にすることで磁歪定数が極大になる。このため、Fe-Gaの単結晶は、ガリウムの含有量が16.0~20.0at%または25.0~29.0at%であるのが好ましく、17.0~19at%または26.0~28.0at%になるように育成されたものがより好ましい。育成された単結晶の形状は、特に限定はなく、例えば、円柱状でもよいし、四角柱状でもよい。なお、育成した単結晶は、必要に応じて種結晶、増径部または肩部(種結晶から所定の単結晶の径まで増やす部分)等を切断装置で切断することによって、円柱状の単結晶にしてもよい。育成する単結晶の大きさは、磁歪部材が所定の方向で確保できる大きさであれば、特に限定はない。Fe-Ga単結晶を育成する場合、育成軸方向が<100>になるように種結晶の上面又は下面を{100}面に加工した種結晶を使用して育成する。育成されるFe-Ga合金単結晶は、種結晶の上面又は下面に対し垂直方向に結晶が育成され、かつ種結晶の方位が継承される。
【0059】
結晶用意工程(ステップS1)の次に、結晶切断工程(ステップS2)を実施する。結晶切断工程は、結晶Cを切断し薄板部材PLを作製する工程である。薄板部材PLは、本実施形態の磁歪部材1の材料となる部材である。結晶切断工程は、上述したように、マルチワイヤソー装置20(ワイヤソー装置)を用いることが好ましい。また、結晶切断工程により、第1の溝2及び第2の溝3となる溝を形成する。ワイヤソー装置を用いることにより、より確実に、第1の溝2及び第2の溝3(となる溝)を形成することができ、容易に磁歪部材1を製造することができる。なお、切断装置には、例えば、外周刃切断装置、ワイヤ放電加工機等あるが、このような装置の場合、上述したように複数の溝(加工痕)を一定方向に形成することは難しい。
【0060】
また、ワイヤ25は、上記したようなダイヤモンド等砥粒を電着又は接着剤によって固定したワイヤ(固定砥粒ワイヤ)を用いること(固定砥粒ワイヤ方式)が好ましい。固定砥粒ワイヤ(固定砥粒ワイヤ方式)を用いる場合、ワイヤの走行方向に沿って上記の第1の溝2及び第2の溝3を確実に形成することができる。なお、ワイヤ25を線方向に送りながら、単結晶Cとワイヤ25との間に砥粒を含む加工液(スラリーともいう)を供給することによって切断する遊離砥粒方式では、砥粒の自由度が高く一方向一定の溝を形成することができない。このため、比較例2に示すように、磁歪定数、平行磁歪量にばらつきが生じる。
【0061】
ワイヤソー装置20で単結晶Cを切断するときにおけるワイヤ25の走行方向(走行方式)は、ワイヤ25を往復走行させて切断を行う方式(往復切断方式)を用いるのが好ましい。
【0062】
なお、本実施形態で用いることができるワイヤソー装置20は、特に限定はなく公知の装置を用いることができる。例えば、上記の揺動機構を備えるワイヤソー装置として、特開2008-229752号公報に記載されるワイヤソー装置を用いることができる。なお、本実施形態では、上記揺動機構を備えないワイヤソー装置を用いてもよい。
【0063】
なお、ワイヤソー装置20で単結晶Cを切断時の単結晶の切断方向については、特に限定はない。
図7に示すように、ワイヤ25の走行方向が単結晶Cの育成方向に対し垂直方向になるように配置して単結晶Cの円周側面より切断を開始する方向でもよい。また、ワイヤ25の走行方向が単結晶Cの育成方向に対し垂直方向になるように配置して単結晶の上下の面より切断を開始する方向でもよい。さらに、
図5及び
図6に示すように、ワイヤ25の走行方向が、単結晶Cの育成方向が単結晶の育成方向と平行になるように配置して切断しても良い。
図5は、単結晶Cの円周側面で第3の<100>軸側より切断を開始する図である。
図6は、単結晶Cの円周側面で第2の<100>軸側より切断を開始する図である。
【0064】
薄板部材PLの厚さは、磁歪部材1の厚みになるように設定する。例えば0.5mmから3.0mmである。ワイヤ25の径やワイヤ25間のピッチP1(ワイヤ25とワイヤ25との間隔、
図1(B)参照)等を適宜調整することで、単結晶Cを所定の厚さの薄板部材PLに切断することができる。この時、{100}面を主面として薄板部材PLを作製する。なお、ワイヤソー装置20による単結晶Cの切断加工における他の条件は、上述の通りであり、ここでは省略する。
【0065】
次に、切断工程(ステップS3)を実施する。切断工程は、結晶切断工程により複数の第1の溝2と、第1の溝より深く長手方向に延びる複数の第2の溝3を形成した薄板部材PLを切断し、本実施形態の磁歪部材1を得る工程である。
【0066】
切断工程(ステップS3)では、薄板部材PLを切断して磁歪部材1にする際に、最終的に得る磁歪部材の表面4及び裏面5に、長手方向D1に延びる複数の第1の溝2と、板状体の表面4及び裏面5に第1の溝2より深く長手方向D1に延びる複数の第2の溝3と、が形成されるように、薄板部材PLを切断する。切断工程では、薄板部材PLを所定の大きさに切断する。切断工程では、磁歪部材1が平面視において長方形状の板状体となるように、薄板部材PLを磁歪部材1として切断する。切断工程では、切断装置を用いて薄板部材PLを切断する。切断工程で使用する切断装置は、特に限定されず、例えば、外周刃切断装置、ワイヤー放電加工機、ワイヤーソー等を使用することができる。薄板部材から磁歪部材を採取する方向には、特に限定はなく、例えば、磁歪部材の大きさ等より効率的に取得できる方向に設定すればよい。
【0067】
なお、磁歪定数及び平行磁歪量の改質の効果は、磁歪部材1の表裏面に長手方向D1に延びる溝2、3を形成することで発生するが、本実施形態の製造方法では、マルチワイヤソー装置20(ワイヤソー装置)を用いることで、薄板部材PLあるいは磁歪部材1を作製後、複数の溝2、3を形成するための新たな表裏面の加工をする工程が必要ないため、効率的に磁歪部材1を作製することが可能となる。
【0068】
以上のように、本実施形態の磁歪部材の製造方法は、磁歪特性を有する鉄系合金の結晶からなりかつ長手方向及び短手方向を有する板状体の表面及び裏面に、長手方向に延びる複数の第1の溝と、板状体の表面及び裏面に第1の溝より深く長手方向に延びる複数の第2の溝と、を形成することを備える。なお、本実施形態の磁歪部材の製造方法において、上記以外の構成は任意の構成である。本実施形態の磁歪部材の製造方法は、磁歪定数及び平行磁歪量が高く、部材間の磁歪定数及び平行磁歪量のばらつきが少ない特性を有する磁歪部材を製造することができる。本実施形態の磁歪部材の製造方法は、磁歪特性を有する材料に複数の溝2、3を形成するのみでよく、上記のように加工工程が容易かつ少ないため、容易に実施することができる。本実施形態の磁歪部材1は、磁歪定数及び平行磁歪量が高いため、優れた磁歪効果および逆磁歪効果を示す部材(材料)の最終製品として好適に用いることができる。
【0069】
従来、同一の単結晶から採取した磁歪部材において、単結晶からの磁歪部材の採取位置によって、平行磁歪量のばらつきがあり、平行磁歪量が高位の磁歪部材を選定していたが、本実施形態の磁歪部材の製造方法では、上記の磁歪定数及び平行磁歪量の改質を行い、従来の同一の単結晶から製造された磁歪部材における磁歪定数及び平行磁歪量のばらつきを修正するため、磁歪定数及び平行磁歪量が高く且つ部材間の磁歪定数及び平行磁歪量のばらつきが少ない特性を有する磁歪部材を、容易な製造方法で、歩留まりが高く安定に生産することができる。
【実施例】
【0070】
以下、本発明の実施例を用いて具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない
【0071】
[実施例1]
化学量論比で鉄とガリウムの比率81:19で原料を調整し、垂直ブリッジマン(VB)法で育成した円柱状のFe-Ga合金の単結晶を用意した。単結晶の育成軸方向は<100>とした。結晶育成軸方向に垂直な単結晶の上面または下面の{100}面をX線回折により方位確認した。なお、この時、島津シーケンシャル形プラズマ発光分析装置(ICPS-8100)で結晶の上面及び下面サンプルを測定した結果、単結晶の濃度は、ガリウムの含有量が17.5~19.0at%であった。
【0072】
次のようにして、育成した単結晶から磁歪部材を製造した。固定砥粒式のマルチワイヤソー装置を用いて、単結晶を往復切断方式で切断した。
図7に示すように単結晶育成方向(結晶の<100>方位方向)に対し垂直方向をワイヤの走行方向とし、かつ、単結晶の円周側面側より切断するように単結晶を配置して切断加工することにより薄板部材を作製した。砥粒径は30~40μmとし、ワイヤ線径は180μm、新線供給量を6.8m/min、ワイヤの揺動角度(
図3参照)を0°とした。また、ワイヤの往復のサイクルは1分間に3回、ワイヤーの送り速度は1000m/分とした。単結晶をワイヤに押し付ける速度(送り速度)は、3.3mm/時とした。次に、得られた薄板部材より、薄板部材を作製した際におけるワイヤの走行方向が、磁歪部材の長手方向に揃うように外周刃切断装置により切り出した。これにより、長手方向の寸法16mm×短手の寸法4mm×厚み1mmの大きさの磁歪部材を10枚を得た。得られた磁歪部材は、
図1(A)及び(B)に示す例のような、長手方向及び短手方向を有する板状体であり、板状体の表面及び裏面に、長手方向に延びる複数の第1の溝と、板状体の表面及び裏面に、第1の溝より深く、長手方向に延びる複数の第2の溝と、を有するものであった。また、第1の溝の延伸方向と第2の溝の延伸方向が交わる角度(交差角度)は、15°以下であった。
【0073】
次に、切り出した磁歪部材について磁歪特性を測定した。磁歪特性の測定は、歪みゲージ法で実施した。
図8に示すように、製造した磁歪部材の主面である{100}面に、歪みゲージ(共和電業株式会社製)を接着剤により接着した。なお、歪みゲージの長手方向が磁歪の検出方向となるため、歪みゲージの長手方向を、磁歪部材の長手方向ならびに<100>方位と平行になるように接着した。
【0074】
磁歪測定器(共和電業株式会社製)は、ネオジム系の永久磁石、ブリッジボックス、コンパクトレコーディングシステム、ストレインユニット、ダイナミックデータ集録ソフトウェアで構成した。
【0075】
磁歪量は、実際の歪検出値をゲージ率で補正して決定した。
なお、ゲージ率は、下式の式(3)とした。
ε=2.00/Ks × εi ・・・式(3)
(ε:ゲージ率, εi:測定ひずみ値, Ks:使用ゲージのゲージ率)
【0076】
また、磁場方向が歪みゲージの長手方向に対して平行であるときの磁歪量を、平行磁歪量とした。一方で、磁場方向が歪みゲージ長手方向に対して垂直であるときの磁歪量を、垂直磁歪量とした。磁歪定数は式(1)に従い、平行磁歪量と垂直磁歪量の差で決定した。10枚測定した結果、長手方向が第1の溝及び第2の溝の延びる方向と平行になるよう加工したとき、この磁歪部材の平行磁歪量は262~314ppm(平均282ppm)であり、磁歪定数は271~295ppm(平均284ppm)となった。
【0077】
また、磁歪部材の表面を表面粗計(株式会社キーエンス製、VK-X1050)にて観察倍率20倍で、磁歪部材の長手方向と短手方向の2方向について、それぞれ5ヵ所ずつ表面粗さRaを測定し、その平均値を表面粗さRaとした。長手方向の表面粗さRaは、0.3~0.4μmであり、短手方向の表面粗さRaは、0.7~0.8μmであった。製造条件及び評価結果を表1に示す。なお、第2の溝は、17μmピッチで、深さが1.5μmで形成されていた。
【0078】
さらに、磁歪部材の表裏面を、ラッピング装置により研削加工し、その後、ポリッシュ装置により研磨加工により、表裏面を鏡面加工した。磁歪部材の表裏面の第1の溝及び第2の溝を削除して、再度、平行磁歪量確認した。その結果、平行磁歪量は34~290ppmとばらつきが大きくなった。特に、10枚中8枚のサンプルが大きく低下し、ばらつきを大きくした。残り2枚は、ほぼ同一で変動はなかった。
【0079】
[実施例2]
実施例2は、実施例1におけるワイヤの揺動角度θ(
図3参照)を±3°に変更し、それ以外は実施例1と同様に実施した例である。得られた磁歪部材の製造条件及び評価結果を表1に示す。得られた磁歪部材は、
図1(A)及び(B)に示す例のような、長手方向及び短手方向を有する板状体であり、板状体の表面及び裏面に、長手方向に延びる複数の第1の溝と、板状体の表面及び裏面に、第1の溝より深く、長手方向に延びる複数の第2の溝と、を有するものであった。また、第1の溝の延伸方向と第2の溝の延伸方向が交わる角度(交差角度)は、15°以下であった。表面粗さRaは長手方向が0.3~0.4μm、短手方向が0.6~0.7μmであり、長手方向よりも短手方向の表面粗さRaが大きかった。
【0080】
[実施例3]
実施例3は、実施例2におけるワイヤに固定した砥粒の砥粒径を6~12μmに変更し、また、ワイヤ線径を120μmに変更し、これら以外は実施例2と同様に実施した例である。得られた磁歪部材の製造条件及び評価結果を表1に示す。得られた磁歪部材は、
図1(A)及び(B)に示す例のような、長手方向及び短手方向を有する板状体であり、板状体の表面及び裏面に、長手方向に延びる複数の第1の溝と、板状体の表面及び裏面に、第1の溝より深く、長手方向に延びる複数の第2の溝と、を有するものであった。また、第1の溝の延伸方向と第2の溝の延伸方向が交わる角度(交差角度)は、15°以下であった。表面粗さRaは長手方向が0.3~0.4μm、短手方向が0.6~0.7μmであり、長手方向よりも短手方向の表面粗さが大きかった。
【0081】
[実施例4]
実施例4は、実施例3における磁歪部材の厚みを0.5mmとしワイヤの揺動角度θ(
図3参照)を±10°に変更し、それ以外は実施例3と同様に実施した例である。得られた磁歪部材の製造条件及び評価結果を表1に示す。得られた磁歪部材は、
図1(A)及び(B)に示す例のような、長手方向及び短手方向を有する板状体であり、板状体の表面及び裏面に、長手方向に延びる複数の第1の溝と、板状体の表面及び裏面に、第1の溝より深く、長手方向に延びる複数の第2の溝と、を有するものであった。また、第1の溝の延伸方向と第2の溝の延伸方向が交わる角度(交差角度)は、15°以下であった。表面粗さRaは長手方向が0.1~0.2μm、短手方向が0.2~0.3μmであり、長手方向よりも短手方向の表面粗さが大きかった。
【0082】
[比較例1]
比較例1は、実施例1において、固定砥粒式ワイヤソー装置を用いて、単結晶を薄板部材に切断後、ワイヤの走行方向が磁歪部材の「短手方向」に揃うように外周刃切断装置により切り出したものである。長手方向の寸法16mm×短手の寸法4mm×厚み1mmの大きさの磁歪部材を10枚得た。得られた磁歪部材は、板状体の表面及び裏面に、「短手方向」に延びる複数の第1の溝と、「短手方向」に延びる複数の第2の溝と、を有するものであった。得られた磁歪部材の製造条件及び評価結果を表1に示す。得られた10枚の磁歪部材を評価した結果、この磁歪部材の平行磁歪量は27~70ppm(平均40ppm)であり、磁歪定数は70~300ppm(平均284ppm)となった。また、表面粗さRaは、長手方向が0.7~0.8μm、短手方向が0.3~0.4μmであった。
【0083】
[比較例2]
比較例2は、実施例1におけるワイヤソー装置を「遊離砥粒式」ワイヤソー装置に変更して切断加工を行った例であり、これら以外は実施例1と同様に実施した例である。長手方向の寸法16mm×短手の寸法4mm×厚み1mmの大きさの磁歪部材を10枚得た。なお、ワイヤ線径、ワイヤの揺動角度θ(
図3参照)も実施例1から変更している。得られた磁歪部材の製造条件及び評価結果を表1に示す。得られた10枚の磁歪部材を評価した結果、この磁歪部材の平行磁歪量は22~270ppm(平均103ppm)であり、磁歪定数は270~318ppm(平均287ppm)となった。また、表面粗さRaは、長手方向が0.4~0.5μm、短手方向が0.4~0.5μmであった。また、得られた磁歪部材の表裏面の形状は、梨地状であった。
【0084】
【0085】
[まとめ]
実施例の結果より、上記した磁歪定数及び平行磁歪量の改質が確認される。また、実施例の結果より、本実施形態の磁歪部材1は、磁歪定数及び平行磁歪量が高く、部材間の磁歪定数及び平行磁歪量のばらつきが少ない特性を有することが確認される。また、実施例の結果より、本発明の態様の磁歪部材の製造方法は、磁歪定数及び平行磁歪量が高く、部材間の磁歪定数及び平行磁歪量のばらつきが少ない磁歪部材を容易に製造することができることが確認される。
【0086】
また、実施例1~4および比較例1~2に示すように、固定砥粒式ワイヤー切断装置を使用し、ワイヤの揺動角度θを|15|°(|n|は絶対値を示す)よりも小さくする、より好ましくはワイヤの揺動角度θを|5|°(|n|は絶対値を示す)よりも小さくすることで、本実施形態の磁歪部材をより確実に製造することができることが確認される。
【0087】
なお、本発明の技術範囲は、上述の実施形態等で説明した態様に限定されない。上述の実施形態等で説明した要件の1つ以上は、省略されることがある。また、上述の実施形態等で説明した要件は、適宜組み合わせることができる。また、法令で許容される限りにおいて、上述の実施形態等で引用した全ての文献の開示を援用して本文の記載の一部とする。
【符号の説明】
【0088】
1 :磁歪部材
2 :第1の溝
3 :第2の溝
4 :表面
5 :裏面
D1 :長手方向
D2 :短手方向
C :結晶(単結晶、多結晶)
S1 :結晶用意工程
S2 :結晶切断工程
S3 :切断工程