(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】回折光学素子および照明光学系
(51)【国際特許分類】
G02B 5/18 20060101AFI20240806BHJP
G01S 7/481 20060101ALI20240806BHJP
F21V 5/04 20060101ALI20240806BHJP
F21Y 115/30 20160101ALN20240806BHJP
【FI】
G02B5/18
G01S7/481 A
F21V5/04 650
F21Y115:30
(21)【出願番号】P 2020553085
(86)(22)【出願日】2019-10-07
(86)【国際出願番号】 JP2019039555
(87)【国際公開番号】W WO2020080169
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2018194341
(32)【優先日】2018-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103090
【氏名又は名称】岩壁 冬樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124501
【氏名又は名称】塩川 誠人
(72)【発明者】
【氏名】村上 亮太
(72)【発明者】
【氏名】小野 健介
(72)【発明者】
【氏名】中山 元志
【審査官】吉川 陽吾
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-133263(JP,A)
【文献】特開2003-337215(JP,A)
【文献】特開2006-227503(JP,A)
【文献】特開2001-343582(JP,A)
【文献】特開2008-089923(JP,A)
【文献】特開2011-215267(JP,A)
【文献】特開平10-135118(JP,A)
【文献】国際公開第2018/063780(WO,A1)
【文献】特開2007-286499(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/18
G01S 7/481
F21V 5/04
F21Y 115/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回折作用を利用して光を分岐させる回折部と、
前記回折部の光入射側に、入射光を平行光に変換するレンズ部とを備え、
前記レンズ部は、
基材と、前記基材の光入射側と反対側に配置される凹凸部とを含み、
前記凹凸部は、
中心部に配される、断面が曲線のレリーフ形状の凸部であるレリーフ型凸部の周期構造
であるキノフォーム、もしくは、前記レリーフ型凸部を模した、前記基材を1段目とする
3段以上
の格子
と、周辺部に配される2段の格子とを含み、
前記周辺部が、前記凹凸部のピッチが、前記2段の格子による前記入射光の波長帯での0次効率が前記レリーフ型凸部であるキノフォームまたは前記3段以上の格子による前記入射光の波長帯での0次効率より低くなる、所定のピッチ以下となる領域として定義される、
回折光学素子。
【請求項2】
前記凹凸部は、入射光を平行光に変換する回折レンズとして作用し、前記中心部に配される8段の格子と、周辺部に配される2段の格子と、前記中心部と前記周辺部の間の輪帯部に配される4段の格子とによって構成されている、
請求項
1に記載の回折光学素子。
【請求項3】
前記周辺部が、前記凹凸部のピッチが、前記2段の格子による前記入射光の波長帯での回折効率が前記レリーフ型凸部であるキノフォームまたは前記3段以上の格子による前記入射光の波長帯での回折効率より高くなる、所定のピッチ以下となる領域として定義される、
請求項
2に記載の回折光学素子。
【請求項4】
前記入射光の波長帯での前記凹凸部における回折効率が、有効領域の全てで40%以上である、
請求項
2または請求項
3に記載の回折光学素子。
【請求項5】
前記入射光の波長帯での前記凹凸部における0次効率が、有効領域の全てで40%以下である、
請求項
2から請求項
4のうちのいずれか1項に記載の回折光学素子。
【請求項6】
前記凹凸部の厚みが0.2μm以上、4μm以下である、
請求項1から請求項
5のうちのいずれか1項に記載の回折光学素子。
【請求項7】
前記凹凸部の最小ピッチが0.5μm以上、2μm以下である、
請求項1から請求項
6のうちのいずれか1項に記載の回折光学素子。
【請求項8】
発散光を出射する光源と、
前記発散光を入射して、複数の平行光の回折光に分岐して出射する請求項1から請求項
7のうちのいずれか1項に記載の回折光学素子とを備え、
前記回折光学素子によって出射された回折光により、所定の投影面上に所定の光のパターンが形成される、照明光学系。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定のパターンの光スポットを所定の投影面に照射するための回折光学素子および該回折光学素子を含む照明光学系に関する。
【背景技術】
【0002】
計測対象の被測定物に所定の光を照射し、その被測定物によって散乱された光を検出することにより、該被測定物の位置や形状等の計測を行う装置がある(例えば、特許文献1等参照)。このような計測装置において、特定の光のパターンを計測対象に照射するために、回折光学素子を使用できる。
【0003】
回折光学素子は、例えば、基板表面を凹凸加工して得られるものが知られている。このような凹凸構成の場合、凹部を充填する材料(例えば、屈折率=1の空気)と凸部材料との屈折率差を利用して所望の光路長差を与えて光を回折する。
【0004】
このような回折作用を利用して生成される光のパターンは、複数の回折光による所定の光量以上の光スポットの集まりとして定義される。光スポットの位置や光強度を制御することにより特定の光のパターンを形成でき、また、各光スポットが重なりをもつようにすれば照明光にもなる。
【0005】
光スポットの位置や光強度の制御の例としては、検出感度の高い検出を行う目的で、例えば、検出面内での光量が一様になるような光のパターンの生成が挙げられる。
【0006】
光源からの距離に依存せずに回折設計ができることから、回折光学素子(Diffractive Optical Element:DOE)への入射光としては平行光が多く用いられている。一例として、特許文献2、3には、光源と回折光学素子の間に光源からの発散光を平行光に変換するコリメートレンズを設けた構成が示されている。
【0007】
また、本発明に関連する技術文献として、断面が鋸歯形状であるブレーズ化回折光学素子における一次回折効率と規格化周期(Λ/λ)の関係を記載した非特許文献1がある。ここで、Λは均一周期のブレーズ化素子における周期を表す。また、λは波長を表す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】日本国特許第5174684号公報
【文献】日本国特許第6344463号公報
【文献】米国特許出願公開第2017/0187997号明細書
【非特許文献】
【0009】
【文献】塩野照弘,「高効率回折光学素子」,応用物理学会分科会日本光学会,光学 vol.32(8)2003年,p.492-494.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
コリメートレンズを用いて単純に光源からの光を平行光にする場合、回折光学素子の厚さにコリメートレンズの厚さが加わるため、光学系全体が大型化する問題がある。
【0011】
例えば、計測装置として、スマートフォン等において顔認証やカメラ装置の焦点合わせに用いられるリモートセンシング装置、ゲーム機等と接続されてユーザの動きを捉えるために用いられるリモートセンシング装置、車両等において周辺物体を検知するために用いられるLIDAR(Light Detecting and Ranging)装置を考えた場合、意匠的な要望や、センサを設ける筐体全体の薄型化および小型化の要望から、センシングを行うための回折光学素子およびその光学系に対しても薄型化が望まれる。
【0012】
光学系の薄型化の方法として、コリメートレンズをフレネルゾーンプレートにする方法が考えられる。しかし、厚みを極力小さくしようとすると分割数が大きくなるだけでなく、特に周辺部において分割のピッチ(分割幅)が小さくなるため、フレネルレンズ作製用の型の機械加工が困難になる問題がある。また、フレネルゾーンプレートを利用して光源からの光ビームを平行光に変更する場合、レンズの分割位置で回折の影響による迷光が発生したり、出射ビーム内において同心円状の明暗縞(好ましくない光強度のコントラスト)が生じたりする等、ビーム品質が劣化する問題がある。
【0013】
そこで、屈折レンズではなく回折レンズによる発散光のコリメート化を考える。回折レンズは、屈折レンズよりも光の利用効率は劣るが、不要な0次光を低減できたり、出射ビームの光強度分布を制御できる等、レーザービームの整形性能の点で出射先の回折光学素子にとって有利であると考える。
【0014】
回折レンズを利用してビームの整形を行う場合に、光の利用効率を高める方法として、キノフォームを用いる方法が挙げられる。キノフォームは、必要な回折次数の再生像のみを再生する手法の1つであり、回折波の振幅成分(仮想物体のフーリエ変換像の振幅)を一定と仮定し、その位相分布を光学的厚さで変調し、入射光の位相に対して除数2πによる剰余でコード化したものであり、波面再生素子とも呼ばれる。一例として、仮想物体のフーリエ変換像の振幅が一定であると仮定して、入射平面波を所望の波面に変換するだけの位相変化を与えるように、キノフォーム上での最厚の部分が最薄の部分に比べて位相角にして2π[rad]だけ遅れをもたせるようなレリーフ像としてコーディングされたものが挙げられる。尚、この例では、キノフォームの光学的厚さは除数λによる剰余となる。ここで、λは再生像の波長である。
【0015】
キノフォームの特徴として、理想的に作製されたキノフォームでは入射光のほとんど全てが単一の所望の像再生に利用されるので光の利用効率が高いことが挙げられる。しかし、キノフォームの理論上の光の利用効率は高くても、設計により得られたレリーフ像を実際の素子に整形することが非常に困難であり、加工の困難性および安定性という点で課題が残る。一例として、光学レンズをキノフォーム化したキノフォームレンズは、
図12の符号95に示すような周期的な微細レリーフ構造となるが、そのような微細なレリーフ形状を、グレースケールマスクを利用した露光量の調整だけで安定して得ることは困難である。特に、ピッチが細かくなる周辺部付近は、加工面での困難性に加えて、原理的な問題があることがわかった。
【0016】
図13は、
図12に示すキノフォームレンズの曲面形状を、多段(本例では8段)の回折格子により疑似的に実現した例である。しかし、このような多段の回折格子を利用しても、周辺部付近はピッチに対する高さの比であるアスペクト比が大きくなるため、やはり加工が困難な問題が残る。
【0017】
さらに、非特許文献1によれば、ベクトル解析理論の1つであるdifferential methodモデルを用いて計算した均一周期のブレーズ化素子の一次回折効率と規格化周期Λ/λの関係において、周期が波長オーダになる場合だけでなく、Λ/λが1.5~2.5付近でも回折効率が極端に落ちる周期が存在する。設計波長によっては面内のいずれかの位置で上記規格化周期に該当する場合も考えられる。すると、回折効率の劣化や0次光抜けが生じる可能性がある。このような回折効率の劣化や0次光抜けの問題は、キノフォームの周辺部付近でも同様に発生するものと考えられる。
【0018】
そこで、本発明は、薄型でかつ加工性に優れていることに加えて、光の利用効率をさらに高めたり、不要な出射光を抑えたりすることができる回折光学素子および照明光学系の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明による回折光学素子は、回折作用を利用して光を分岐させる回折部と、回折部の光入射側に、入射光を平行光に変換するレンズ部とを備え、レンズ部は、基材と、基材の光入射側と反対側に配置される凹凸部とを含み、凹凸部は、中心部に配される、断面が曲線のレリーフ形状の凸部であるレリーフ型凸部の周期構造であるキノフォーム、もしくは、レリーフ型凸部を模した、前記基材を1段目とする3段以上の格子と、周辺部に配される2段の格子とを含み、周辺部が、凹凸部のピッチが、2段の格子による入射光の波長帯での0次効率がレリーフ型凸部であるキノフォームまたは3段以上の格子による入射光の波長帯での0次効率より低くなる、所定のピッチ以下となる領域として定義される。
【0020】
また、本発明による照明光学系は、発散光を出射する光源と、発散光を入射して、複数の平行光の回折光に分岐して出射する上記の回折光学素子とを備え、回折光学素子によって出射された回折光により、所定の投影面上に所定の光のパターンが形成される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、薄型でかつ加工性に優れていることに加えて、光の利用効率をさらに高めたり、不要な出射光を抑えたりすることができる回折光学素子および照明光学系を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、第1の実施形態の回折光学素子10の例を示す断面模式図である。
【
図2】
図2は、レンズ部10Bと比較例であるレンズ部90Bのより詳細な断面模式図である。
【
図3】
図3は、レンズ部10Bの他の例を示す断面模式図である。
【
図4】
図4は、レンズ部10Bの他の例を示す断面模式図である。
【
図5】
図5は、全てキノフォームで構成された第2の凹凸部15の中心からの距離rと、凸部151のフレネルゾーン幅の関係を示すグラフである。
【
図6】
図6は、
図5に示すキノフォームレンズおよびそれと同等の3種の回折レンズ(8段、4段、2段)それぞれの0次効率を示すグラフである。
【
図7】
図7は、
図5に示すキノフォームレンズおよびそれと同等の3種の回折レンズ(8段、4段、2段)それぞれの1次回折光の回折効率を示すグラフである。
【
図8】
図8は、回折光学素子10を利用した照明光学系の構成例を示す説明図である。
【
図9】
図9は、回折光学素子10を利用した照明光学系の構成例を示す説明図である。
【
図10】
図10は、回折光学素子10の他の例を示す断面模式図である。
【
図11】
図11は、回折光学素子10の他の例を示す断面模式図である。
【
図12】
図12は、比較例であるレンズ部90Bを含む回折光学素子10の一例を示す断面模式図である。
【
図13】
図13は、比較例であるレンズ部90Bの他の例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図1は、第1の実施形態の回折光学素子10の例を示す断面模式図である。回折光学素子10は、回折部10Aと、レンズ部10Bとを備える。回折部10Aは、基材11、基材13および基材11、13の間に設けられた第1の凹凸部12を備える。レンズ部10Bは、基材14および基材13、14の間に設けられた第2の凹凸部15を備える。尚、基材11と基材13、および基材13と基材14は、接着剤16により所望の高さで貼り合わされている。
【0024】
基材11、13、14は、ガラス、樹脂等、使用波長に対して透過性のある部材であれば特に限定されない。使用波長は、回折光学素子10への入射光の波長帯である。以下、回折光学素子10に、波長700nm~2000nmの光のうちの特定の波長帯(例えば、850nm±20nm等)の光が入射する、として説明するが、使用波長はこれらに限定されない。また、特にことわりがなく説明する場合、可視域は波長400nm~780nmであり、赤外域は近赤外領域とされる波長780nm~2000nm、特に波長800nm~1000nmであり、紫外域は近紫外領域とされる波長300nm~400nm、特に波長360nm~380nmであるとする。尚、可視光は該可視域の光であり、赤外光は該赤外域の光であり、紫外光は該紫外域の光である。
【0025】
第1の凹凸部12は、入射光に対して回折作用により光を分岐させて複数の回折光を発生させる所定の凹凸パターンを有する凹凸構造である。凹凸パターンは、より具体的には、第1の凹凸部12の凸部または凹部がなす段差の平面視による2次元のパターンである。尚、「平面視」とは、回折光学素子10に入射する光の進行方向から見た平面であり、回折光学素子10の主面の法線方向から見た平面に相当する。凹凸パターンは、それによって発生する複数の回折光の各々である光スポットが、予め定めた投影面等において所定のパターンを実現できるように構成される。
【0026】
第1の凹凸部12の凹凸パターンは、例えば、当該凹凸パターンからの出射光の位相分布をフーリエ変換して得られる。尚、凹凸パターンが実現する所定のパターンは特に限定されない。
【0027】
レンズ部10Bの第2の凹凸部15は、発散光の入射光を、回折作用を利用して平行光に変換して出射する。第2の凹凸部15から出射された平行光は、回折部10Aに入射される。
【0028】
第2の凹凸部15は、コリメートレンズと同等の作用を有する回折レンズをなす凹凸部であって、より具体的には、入射光に対して上記のような発散角度を変換する回折作用を発現させる所定の凹凸パターンを有する凹凸構造を有する。凹凸パターンは、より具体的には、第2の凹凸部15の凸部または凹部がなす段差または傾斜の平面視による2次元のパターンである。第2の凹凸部15の凹凸パターンも、例えば、当該凹凸パターンからの出射光の位相分布をフーリエ変換して得られる。
【0029】
本実施形態において、第1の凹凸部12および第2の凹凸部15は、所望の位相分布を発生できればよく、ガラスや樹脂等の透明な部材の表面に凹凸パターンを形成する構造のものに限らない。例えば、凹凸パターンが形成された透明な部材の上に、この部材とは屈折率の異なる部材を貼り合わせ、表面を平坦にした構造のものや、更には、透明な部材であって屈折率を変化させる構造を有するものであってもよい。つまり、ここで、凹凸パターンとは、表面形状が凹凸である構造のみを意味するものではなく、入射光に位相分布を与えることのできる構造を全て含む。
【0030】
以下、第2の凹凸部15から見て基材14に近づく方向を下方とし、基材14から離れる方向を上方とする。したがって、第2の凹凸部15の各段の上面のうち基材14と最も近い面が最下面となり、最も離れる面が最上面となる。
【0031】
また、以下では、凹凸パターン(基材14の面上に第2の凹凸部15によって形成される、断面が凹凸形状の表面)において最も低い位置にある部分(図中の第1段s1)よりも高い位置にある部分を、凸部151と呼び、凸部151に囲まれてなる凹み部分であって凸部151の最上部よりも低くなる部分を凹部152と呼ぶ。また、第2の凹凸部15のうち実際に位相差を生じさせる部分の高さ、より具体的には凹凸パターンの第1段s1の上面から凸部151の最上部までの距離を、凸部151の高さdまたは格子深さdと呼ぶ。尚、凸部151の高さdは面内で異なっていてもよい。また、第1の凹凸部12においても、回折作用を発現する凹凸パターンの凸部、凹部、段数の数え方、凸部の高さdの取扱いおよび後述する下地層について、基本的に上記と同様とする。
【0032】
図2の(a)は、レンズ部10Bのより詳細な断面模式図である。尚、
図2の(b)には、本実施形態のレンズ部10Bの比較例として、キノフォームによりコリメートレンズと等価の回折レンズを実現したレンズ部90Bの断面模式図を示している。
【0033】
図2の(b)に示すように、レンズ部90Bの凹凸部95がキノフォームによりコリメートレンズと等価の回折レンズを実現したキノフォームレンズである場合、レンズ表面は、入射光に対して垂直な面を持たない曲面形状となる。より具体的には、レンズ表面の断面は、レリーフ形状が周期的に繰り返される周期構造となる。尚、ここでの断面とは、入射光の光軸を含む平面における断面をいう。このとき、レリーフ形状のピッチp(r)は、中心部と比較して周辺部が細かくなる。これは、周辺部の方が中心部に比べて光の進行方向を大きく変更しなければならないからである。ここで、rは中心(素子における入射光の光軸3の入射位置に相当)からの距離をいう。
【0034】
既に説明したように、キノフォームは、キノフォーム上での最厚の部分が最薄の部分に比べて位相角にして2π[rad]だけ遅れをもたせるようなレリーフ像としてコーディングされる。このように、キノフォームを実現する凹凸部95の高さは、凹凸部95の部材の屈折率と付与したい位相分布とにより自動的に決定され、それに応じてピッチp(r)も決定される。
【0035】
これに対して、本実施形態の第2の凹凸部15は、キノフォームレンズのように断面がレリーフ形状の凸部であるレリーフ型凸部もしくは前記レリーフ型凸部を模した2段以上の格子の周期構造またはそれらの組み合わせにより構成されてもよい。このとき、第2の凹凸部15において、少なくとも中心から離れた周辺部分において、レリーフ型凸部の表面の曲面形状の再現性を粗くする。
【0036】
ここで、表面の曲面形状の再現性が粗いとは、表面形状の滑らかさが粗くなる、例えば、表面の曲面形状をそのまま形成するのではなく、該曲面形状を模した2段以上の格子として形成し、かつその際の段数が小さいことをいう。本実施形態において、レリーフ型凸部のピッチp(r)がそのまま第2の凹凸部15の格子ピッチとなる例を示すが、必ずしもレリーフ型凸部のピッチp(r)と第2の凹凸部15の格子ピッチとは一致していなくてもよい。
【0037】
表面の曲面形状の再現性に関して、第2の凹凸部15は、中心部に配される3段以上の格子と、周辺部に配される2段の格子とを少なくとも含んでいてもよい。
図2の(a)に示す例は、第2の凹凸部15が、中心部に配される8段の格子と、周辺部に配される2段の格子と、中心部と周辺部の間の輪帯部に配される4段の格子とによって構成される例である。尚、格子の段数は、基材14を1段目とした場合の数である。
【0038】
このとき、中心部を、例えば中心からの距離rがα未満の領域とし、周辺部を、例えば中心からの距離rがβ以上の領域(ただし、α≦β)としてもよい。尚、輪帯部は、中心からの距離rがα以上かつβ未満の領域(ただし、α<β)とされる。ここで、α、βは、単純に、中心からの距離を基準に定めることもできるが、例えば、凸部151の格子ピッチや、シミュレーションの結果得られる入射光の波長帯での回折効率や0次効率の値を基準に定めることも可能である。ここで、0次光の強さを示す0次効率は、第2の凹凸部15に入射する全光量に対する第2の凹凸部15から出射される透過0次光の光量の割合をいう。
【0039】
また、
図3は、レンズ部10Bの他の例を示す断面模式図である。第2の凹凸部15は、
図3に示すように、中心部に配されるキノフォームと、周辺部に配される2段の格子とによって構成されていてもよい。このとき、中心部を、例えば中心からの距離rがα未満の領域とし、周辺部を、例えば中心からの距離rがα以上の領域としてもよい。
【0040】
一例として、凸部151の格子ピッチが所定の値未満となる領域を周辺部としてもよい。また、例えば、8段、4段、2段の格子のそれぞれの入射光の波長帯での回折効率を比較して、格子ピッチが、4段の格子による入射光の波長帯での回折効率が8段の格子と比べて上回るピッチ以下のピッチとなる境界の中心からの距離をα、格子ピッチが、2段の格子による入射光の波長帯での回折効率が4段の格子と比べて上回るピッチ以下のピッチとなる境界の中心からの距離をβとして、中心からの距離rがα未満の領域を中心部とし、中心からの距離rがβ以上の領域を周辺部としてもよい。
【0041】
また、例えば、8段、4段、2段の格子のそれぞれの入射光の波長帯での0次効率を比較して、格子ピッチが、4段の格子による入射光の波長帯での0次効率が8段の格子と比べて下回るピッチ以下のピッチとなる境界の中心からの距離をα、2段の格子による入射光の波長帯での0次効率が4段の格子と比べて下回るピッチ以下のピッチとなる境界の中心からの距離をβとしてもよい。また、例えば、キノフォーム、2段の格子のそれぞれの入射光の波長帯での回折効率を比較して、2段の格子による入射光の波長帯での回折効率がキノフォームと比べて上回るピッチ以下のピッチとなる境界の中心からの距離をαとしてもよい。また、例えば、キノフォーム、2段の格子のそれぞれの入射光の波長帯での0次効率を比較して、2段の格子による入射光の波長帯での0次効率がキノフォームと比べて下回るピッチ以下のピッチとなる境界の中心からの距離をαとしてもよい。
【0042】
尚、上記例は、有効領域を2種または3種の凸部の配置先となる各領域に分割する例であるが、凸部の種類は2種や3種に限定されない。例えば、各格子ピッチにおいて最も回折効率の高い凸部や最も0次効率の低い凸部やそれら2つの指標による総合評価が最も高い凸部を選別してもよい。
【0043】
また、
図4の(a)および(b)は、レンズ部10Bの他の例を示す断面模式図である。
図4の(a)および(b)に示すように、第2の凹凸部15は、位相差を生じさせない部分(
図4において基材14の表面を覆って第1段s1を構成している層)を含んでいてもよい。その場合において、当該部分を下地層153と呼ぶ場合がある。尚、第2の凹凸部15が下地層を含む場合、第2の凹凸部15の厚み、すなわち第2の凹凸部15をなす部材の下地層153を含む全厚は4μm以下が好ましく、2μm以下がさらに好ましい。また、第2の凹凸部15の厚みは、0.2μm以上が好ましい。
【0044】
また、
図5は、全てキノフォームで構成された第2の凹凸部15の中心からの距離rと、凸部151のフレネルゾーン幅(上記のピッチp(r)に相当)の関係を示すグラフである。
図5に示すrとフレネルゾーン幅との関係は、発散角が30°の波長850nmの入射光を平行光に変換する回折レンズと等価のキノフォームレンズにおける例である。
【0045】
図5に示す例では、中心から遠い程、凸部151のフレネルゾーン幅が減少しているのがわかる。尚、非球面レンズ等、球面形状によっては、必ずしも凸部151のフレネルゾーン幅が中心から遠い程小さいとは限らず、一部増加することもあり得る。
【0046】
また、
図6および
図7は、
図5に示すキノフォームレンズおよびそれと同等の回折レンズ(8段、4段、2段)それぞれの0次効率および1次回折光の回折効率を示すグラフである。ここでの0次効率および1次回折光の回折効率は、厳密結合波解析(RCWA)により計算した。
【0047】
図6によれば、キノフォームや8段の格子の場合、中心からの距離rが大きくなる程、すなわちピッチp(r)が小さくなる程、0次効率は高くなるが、4段や2段の格子の場合、中心からの距離rが一定の値以上、すなわちピッチp(r)がある一定の値以下になると、0次効率の上昇率が収まり、一定の値に収束しているのがわかる。
図6に示す場合において、例えば、4段や2段の格子の0次効率が収束する距離r≧1.2mmの領域を周辺部として2段や4段の格子を配置し、それ以外の領域を中心部として8段の格子やキノフォームを配置してもよい。
【0048】
また、
図7によれば、キノフォームや8段の格子の場合、中心付近での1次回折光の回折効率は高いが、中心からの距離rが大きくなる程、すなわちピッチp(r)が小さくなる程、1次回折光の回折効率は低くなりかつその低下率も大きく、4段の格子は中心付近での回折効率はキノフォームや8段の格子に劣るがその低下率が比較的穏やかであることがわかる。また、2段の格子は距離rによらず1次回折光の回折効率がほぼ一定であることがわかる。
図7に示す場合において、例えば、キノフォームや8段の格子の1次回折光が4段や2段の格子よりも高い距離r<0.7mmの領域を中心部としてキノフォームや8段の格子を配置し、キノフォームと8段、4段の格子の1次回折光の回折効率がほぼ同じになる0.7mm≦距離r<1.4mmの領域を輪帯部として4段の格子を配置し、2段の格子の1次回折光の回折効率が他の格子よりも高くなる距離r≧1.4mmの領域を周辺部として2段の格子を配置してもよい。
【0049】
上記の構成により、入射光の波長帯での第2の凹凸部15による0次効率を、有効領域全てにおいて35%以下とすることも可能である。また、第2の凹凸部15による回折効率を、有効領域全てにおいて30%以上とすることも可能である。尚、第2の凹凸部15は、入射光の波長帯での0次効率が、有効領域の全てにおいて、40%以下となるよう構成されるのが好ましい。尚、上記の0次効率は30%以下がより好ましく、20%以下がさらに好ましい。また、第2の凹凸部15は、入射光の波長帯での回折効率が、有効領域の全てにおいて、20%以上となるよう構成されるのが好ましい。尚、上記の回折効率は30%以上がより好ましく、40%以上がさらに好ましい。
【0050】
尚、上記の例は、距離rを基準に領域を分割したが、上記の距離rの値を、
図5に示すグラフを基にピッチp(r)に変換すれば、ピッチp(r)を基準とした領域分割とみなすことも可能である。尚、第2の凹凸部15は、最小ピッチが5μm以下や2μm以下の凹凸パターンであってもよい。そのような細かなピッチを有する場合であっても、特に周辺部の表面の曲面形状の再現性を粗くすることで、加工困難性を回避するとともに、0次効率の低減や、回折効率の向上を図ることができる。尚、第2の凹凸部15は、最小ピッチが0.5μm以上の凹凸パターンであってもよい。
【0051】
次に、
図8および
図9を参照して、本実施形態の回折光学素子10を利用した照明光学系を説明する。
図8に示す照明光学系は、光源1と、回折光学素子10とを備える。
【0052】
光源1は、発散光21を出射する。光源1からの発散光21は、回折光学素子10に入射して、複数の平行光の回折光(図中の回折光群22)に分岐して出射される。このとき、回折光学素子10では、まず入射した発散光21がレンズ部10Bにより平行光に変換され、その後回折部10Aにより複数の平行光の回折光に分岐される。その結果、回折光学素子10に入射した発散光21が、所定の投影面上に所定の光のパターンを形成する回折光群22となって出射される。
【0053】
次に、
図9を参照して、回折光学素子10の回折部10Aおよびレンズ部10Bが発現する回折作用について、回折光学素子10により生成される光のパターンの例示に基づき説明する。回折光学素子10は、光軸方向をZ軸として入射する所定の発散角を有する光束(発散光21)に対して、出射される回折光群22が2次元に分布するように形成される。回折光学素子10の回折部10Aは、Z軸と交点を持ちZ軸に垂直かつ互いに直交する軸をX軸及びY軸とした場合、X軸上における最小角度θx
minから最大角度θx
max及びY軸上における最小角度θy
minから最大角度θy
max(いずれも不図示)の角度範囲内に回折光群22を分布させる。
【0054】
ここでX軸は光スポットパターンの長辺に略平行でY軸は光スポットパターンの短辺に略平行となる。尚、X軸方向における最小角度θxminから最大角度θxmax、Y軸方向における最小角度θyminから最大角度θymaxにより形成される回折光群22の照射される範囲は、回折光学素子10と一緒に用いられる光検出素子における光検出範囲と略一致した範囲となる。本例では、光スポットパターンにおいて、Z軸に対しX方向の角度がθxmaxである光スポットを通るY軸に平行な直線が上記短辺となり、Z軸に対しY方向の角度がθymaxである光スポットを通るX軸と平行な直線が上記長辺となる。以下、上記短辺と上記長辺の交点とその対角にある他の交点とがなす角度をθdとし、この角度を対角方向の角度と称する。ここで、対角方向の角度θd(以下、対角の視野角θdという)は、回折光学素子10の出射角度範囲θoutとされる。ここで、出射角度範囲θoutは、入射光が基材14の法線方向から入射した時に第1の凹凸部12から出射される回折光が形成する光のパターンの広がりを示す角度範囲である。尚、回折光学素子10の出射角度範囲θoutは、上記の対角方向の視野角θdとする以外に、例えば、回折光群22に含まれる2つの光スポットがなす角度の最大値としてもよい。
【0055】
回折光学素子10は、例えば、入射光が基材14の表面の法線方向から入射したときの出射角度範囲θoutが70°以上であることが好ましい。例えば、スマートフォン等に備えられるカメラ装置には、画角(全角)が50~90°程度のものがある。また、自動運転等に用いられるLIDAR装置としては、視野角が30~70°程度のものがある。また、人間の視野角は一般に120°程度であり、VRのヘッドセット等のカメラ装置には、視野角70~140°を実現したものがある。これらの装置に適用できるように、回折光学素子10の出射角度範囲θoutは100°以上でもよく、120°以上でもよい。
【0056】
また、回折光学素子10は、発生させる光スポットの数が4以上でもよく、また9以上でもよく、100以上でもよく、10000以上でもよい。尚、光スポットの数の上限は、特に限定されないが、例えば、1000万点でもよい。
【0057】
図9において、R
ijは投影面の分割領域を示す。例えば、回折光学素子10は、投影面を複数の領域R
ijに分割した場合、各領域R
ijに照射される回折光群22による光スポット23の分布密度が全領域の平均値に対して±50%以内となるように構成されてもよい。尚、上記分布密度は、全領域の平均値に対して±25%以内でもよい。このように構成すると、投影面内で光スポット23の分布を均一にできるので、計測用途等において好適である。ここで投影面は、平面だけでなく曲面でもよい。また、平面の場合も、光学系の光軸に対して垂直な面以外に傾斜した面でもよい。
【0058】
図9に示す回折光群22に含まれる各回折光は、式(1)に示すグレーティング方程式において、Z軸方向を基準として、X方向における角度θ
xo、Y方向における角度θ
yoに回折される光となる。式(1)において、m
xはX方向の回折次数であり、m
yはY方向の回折次数であり、λは入射光束の波長であり、P
x、P
yはそれぞれ回折部10Aが有する第1の凹凸部12のX軸方向、Y軸方向におけるピッチであり、θ
xiはX方向における第1の凹凸部12への入射角度(本例では90°)、θ
yiはY方向における第1の凹凸部12への入射角度(本例では90°)である。この回折光群22をスクリーンまたは測定対象物等の投影面に照射させることにより、照射された領域に複数の光スポット23が生成される。
【0059】
sinθxo=sinθxi+mxλ/Px
sinθyo=sinθyi+myλ/Py
・・・(1)
【0060】
第1の凹凸部12がN段の階段状の疑似ブレーズ形状の場合、Δnd/λ=(N-1)/Nを満たすと第1の凹凸部12によって発生する光路長差が1波長分の波面を近似したものにでき、高い回折効率が得られ好ましい。
【0061】
また、図示省略するが、回折光学素子10を備えた上記の照明光学系は、所定の光のパターンを計測対象に照射する投影装置に用いられてもよい。また、そのような投影装置の利用例の1つに、該投影装置と、該投影装置から出射される光が測定対象物に照射されることによって発生する散乱光を検出する検出部とを備える計測装置が挙げられる。
【0062】
また、
図10は、回折光学素子10の他の例を示す断面模式図である。
図10に示すように、回折光学素子10は、基材11上に第1の凹凸部12が形成された回折部10Aと、基材14上に第2の凹凸部15が形成されたレンズ部10Bとが、基材13を介さずに基材11と基材14との貼り合わせにより一体化されていてもよい。
【0063】
また、回折光学素子10の光入射側の最表面および光出射側の最表面に、反射防止層17、18が設けられていてもよい。
【0064】
これらを含む構成においても、凹凸パターンの凸部151の高さは、4μm以下が好ましく、2μm以下がさらに好ましい。
【0065】
尚、上述した説明では、回折部10Aとレンズ部10Bとが一体化された回折光学素子10を例示したが、回折部10Aとレンズ部10Bとを別の素子で構成することも可能である(
図11参照)。その場合、上記の回折部10Aとして動作し、第1の凹凸部12を少なくとも備える第1の回折光学素子10-1の光入射側に、上記のレンズ部10Bとして動作し、第2の凹凸部15を少なくとも備える第2の回折光学素子10-2が配置されればよい。
図11に示す例では、第1の回折光学素子10-1は、基材11と基材13Aとの間に第1の凹凸部12を備え、さらに第1の回折光学素子10-1の光入射側の最表面および光出射側の最表面には、反射防止層17A、18Aが設けられている。また、第2の回折光学素子10-2は、基材13Bと基材14との間に第2の凹凸部15を備え、さらに第2の回折光学素子10-2の光入射側の最表面および光出射側の最表面には、反射防止層17B、18Bが設けられている。
【0066】
反射防止層17、18、17A、17B、18A、18Bは、回折光学素子10の出射側または入射側界面において少なくとも設計波長の光の反射率を低減する反射防止機能を有するものであれば、特に限定されないが、一例として、単層構造の薄膜や、誘電多層膜等の多層膜が挙げられる。
【0067】
また、上記では、レンズ部10Bの0次光の強さ(0次効率)および1次回折光の回折効率を、厳密結合波解析(RCWA)によって算出したが、同様の方法で回折光学素子10全体における0次効率および回折効率を求めて、素子全体として評価することも可能である。素子全体の0次効率はレーザー安全の観点から0.5%以下が好ましく、0.1%以下がさらに好ましい。尚、回折光学素子10全体における0次効率は、RCWAで算出する以外にも、設計波長の所定の発散角を有するレーザー光を回折光学素子10に入射し、直進透過光の光量を測定することによっても評価できる。
【実施例】
【0068】
(例1)
本例は、
図10に示す回折光学素子10の例である。ただし、本例では、第2の凹凸部15の構成を
図4の(a)に示す構成とした。また、設計波長を850nmとした。また、第1の凹凸部12は、X方向に31点、Y方向に31点の合計961点の光スポットを発生させる2段の凹凸パターンであり、該凹凸パターンにおける格子は規則配置であって、隣り合う光スポットの分離角は全て等しいとした。また、第2の凹凸部15は、発散角が30°の入射光が平行光に変換されるように、8段と4段と2段の格子の組み合わせによって構成された凹凸パターンを有している。また、基材11、14の材料には屈折率が1.51、厚みが0.5mmのガラス基板を用い、第1の凹凸部12および第2の凹凸部15の材料には屈折率が1.45のSiO
2を用いた。表1に、本例の回折光学素子10の具体的構成を示す。
【0069】
【0070】
まず、回折部10Aを作製する。基材11とされるガラス基板の一方の表面に、SiO2およびTa2O5からなる6層の誘電体多層膜である反射防止層17を成膜する。各層の材料および厚さは表1の通りである。
【0071】
次いで、ガラス基板の反射防止層を成膜した側と反対側の面に、第1の凹凸部12の材料であるSiO2を成膜し、該SiO2膜をフォトリソグラフィおよびエッチング(反応性イオンエッチング)によって2段の凹凸構造へ加工する。当該凹凸構造において凸部の高さは944nmであり、下地層を含む第2の凹凸部15の厚みは1044nmである。
【0072】
次に、レンズ部10Bを作製する。基材14とされるガラス基板の一方の表面に、SiO2およびTa2O5からなる6層の誘電体多層膜である反射防止層18を成膜する。各層の材料および厚さは表1の通りである。
【0073】
次いで、ガラス基板の反射防止層を成膜した側と反対側の面に、第2の凹凸部15の材料であるSiO2を成膜し、該SiO2膜をフォトリソグラフィおよびエッチング(反応性イオンエッチング)によって中心部に8段の格子、輪帯部に4段の格子および周辺部に2段の格子を含む凹凸構造へ加工する。
【0074】
凹凸構造の加工工程は次の通りである。まず、成膜したSiO2膜上にフォトリソグラフィを用いて第2の凹凸部15の凹凸パターンに応じたレジストマスクを形成する。次に、反応性イオンエッチングを行い(加工量236nm)、パターンが被覆されていない非被覆部を垂直方向に236nmエッチングして凸部151の一部を形成する。エッチング加工後、残存するレジストマスクを除去する。
【0075】
上記のレジストマスク形成、エッチング加工、レジストマスク除去の工程を、加工量を変えて繰り返す(2回目の加工量472nm、3回目の加工量944nm)。これにより、第2の凹凸部15とされる階段状の凹凸構造を得る。このとき、8段の格子が形成される領域はr<0.6mmの領域(ピッチp(r)が4μm以上の範囲)であり、4段の格子が形成される領域は0.6mm≦r<1.2mmの領域(ピッチp(r)が4μm~2μmの範囲)であり、2段の格子が形成される領域はr≧1.2mmの領域(ピッチp(r)が2μm以下の領域)である。
【0076】
最後に、基材11と基材14を、第1の凹凸部12と第2の凹凸部15とが対向するように積層する。例えば、基材14の第2の凹凸部15が形成された面の枠外に、スクリーン印刷により高さ30μmのUV加工接着剤によるシールパターンを形成する。次いで、当該基材14に、第1の凹凸部12が形成された基材11を、第1の凹凸部12が内側にくるように重ね、UVを照射する。これにより、両基材を接着する。
【0077】
以上により、本例の回折光学素子10を得る。このようにして得られた回折光学素子10は、凹凸パターンの凸部151の高さが2μm以下であり、入射光の波長帯での回折効率が有効領域全てで40%以上を満たし、かつ0次効率が有効領域全てで35%以下を満たす。
【0078】
(例2)
本例は、
図10に示す回折光学素子10の例である。ただし、本例では、第2の凹凸部15の構成を
図4の(b)に示す構成とした。尚、第2の凹凸部15の構成が異なる点以外は例1の構成と同様である。表2に、本例の回折光学素子10の具体的構成を示す。
【0079】
【0080】
本例でもまず、回折部10Aを作製する。尚、回折部10Aは例1と同様のため、説明を省略する。
【0081】
次に、レンズ部10Bを作製する。基材14とされるガラス基板の一方の表面に、例1と同様の反射防止層18を成膜する。各層の材料および厚さは表2の通りである。
【0082】
次いで、ガラス基板の反射防止層を成膜した側と反対側の面に、第2の凹凸部15の材料であるSiO2を成膜し、該SiO2膜をフォトリソグラフィおよびエッチング(反応性イオンエッチング)によって中心部にキノフォームおよび周辺部に2段の格子を含む凹凸構造へ加工する。
【0083】
凹凸構造の加工工程は次の通りである。まず、成膜したSiO2膜上のキノフォームが形成される中心部に相当する領域にフォトリソグラフィを用いて第2の凹凸部15のキノフォームの凹凸パターンに応じたグレースケールのレジストマスクを形成する。次に、形成したレジストマスクに反応性イオンエッチングを行い(最大加工量1889nm)、パターンが被覆されていない非被覆部を垂直方向に最大1889nmエッチングして凸部151の一部を形成する。エッチング加工後、残存するレジストマスクを除去する。
【0084】
その後、SiO2膜上の2段の格子が形成される周辺部に相当する領域にフォトリソグラフィを用いて第2の凹凸部15の2段の格子の凹凸パターンに応じたレジストマスクを形成する。次に、形成したレジストマスクに反応性イオンエッチングを行い(加工量944nm)、パターンが被覆されていない非被覆部を垂直方向に944nmエッチングして凸部151の一部を形成する。エッチング加工後、残存するレジストマスクを除去する。これにより、第2の凹凸部15とされる階段状の凹凸構造を得る。このとき、キノフォームが形成される領域はr<1.2mmの領域(ピッチp(r)が2μm以上の範囲)であり、2段の格子が形成される領域はr≧1.2mmの領域(ピッチp(r)が2μm以下の領域)である。
【0085】
最後に、基材11と基材14を、第1の凹凸部12と第2の凹凸部15とが対向するように積層する。積層方法は例1と同様である。以上により、本例の回折光学素子10を得る。
【0086】
このようにして得られた回折光学素子10は、凹凸パターンの凸部151の高さが2μm以下であり、入射光の波長帯での回折効率が有効領域全てで40%以上を満たし、かつ0次効率が有効領域全てで40%以下を満たす。
【0087】
(比較例1)
本例は、比較例であって、
図10に示す回折光学素子10において、第2の凹凸部15に代えて、
図12に示すような全てキノフォームで構成される凹凸部95を備える構成とした。尚、第2の凹凸部15の構成が異なる点以外は例1および例2の構成と同様である。表3に、本例の回折光学素子10の具体的構成を示す。
【0088】
【0089】
本例でもまず、回折部10Aを作製する。尚、回折部10Aは例1と同様のため、説明を省略する。
【0090】
次に、レンズ部90Bを作製する。基材14とされるガラス基板の一方の表面に、例1と同様の反射防止層18を成膜する。各層の材料および厚さは表3の通りである。
【0091】
次いで、ガラス基板の反射防止層を成膜した側と反対側の面に、凹凸部95の材料であるSiO2を成膜し、該SiO2膜をフォトリソグラフィおよびエッチング(反応性イオンエッチング)によって全てキノフォームからなる凹凸構造へ加工する。
【0092】
凹凸構造の加工工程は次の通りである。まず、成膜したSiO2膜上にフォトリソグラフィを用いて凹凸部95のキノフォームの凹凸パターンに応じたグレースケールのレジストマスクを形成する。次に、形成したレジストマスクに反応性イオンエッチングを行い(最大加工量1889nm)、パターンが被覆されていない非被覆部を垂直方向に最大1889nmエッチングして凹凸部95の凸部を形成する。エッチング加工後、残存するレジストマスクを除去する。これにより、凹凸部95とされる全てキノフォームからなる凹凸構造を得る。
【0093】
最後に、基材11と基材14を、第1の凹凸部12と凹凸部95とが対向するように積層する。積層方法は例1と同様である。以上により、本例の回折光学素子10を得る。
【0094】
このようにして得られた回折光学素子10は、凹凸パターンの凸部151の高さが2μm以下であるが、回折効率が周辺部(特に、r≧1.2mmの領域)で40%未満となり、かつ0次効率が周辺部(特に、r≧1.2mmの領域)で40%を超える。
【0095】
尚、上記において膜厚は段差計やSEM(Scanning Electron Microscope)による断面観察によって測定される。また、回折効率および0次効率はRCWAを用いて計算した。
【0096】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは、当業者にとって明らかである。
本出願は、2018年10月15日出願の日本特許出願2018-194341に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明は、所定の投影範囲に所定の光のパターンを出射したい用途や、全面照射したい用途に好適に適用可能である。特に、光の利用効率を落とさずに所定の光のパターンを照射する用途や、0次光を低減させつつ所定の光のパターンを照射する用途に好適に適用可能である。
【符号の説明】
【0098】
10 回折光学素子
10A 回折部
11、13、13A、13B 基材
12 第1の凹凸部
10B レンズ部
14 基材
15 第2の凹凸部
151 凸部
152 凹部
153 下地層
17、18、17A、17B、18A、18B 反射防止層
21 発散光
22 回折光群
23 光スポット