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  • 特許-圧電性酸化物単結晶基板の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】圧電性酸化物単結晶基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/30 20060101AFI20240806BHJP
   C30B 33/02 20060101ALI20240806BHJP
   C30B 33/00 20060101ALI20240806BHJP
   B24B 9/00 20060101ALI20240806BHJP
   B24B 37/08 20120101ALI20240806BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
C30B29/30 B
C30B33/02
C30B29/30 A
C30B33/00
B24B9/00 601G
B24B37/08
H01L21/304 601B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021053406
(22)【出願日】2021-03-26
(65)【公開番号】P2022150692
(43)【公開日】2022-10-07
【審査請求日】2023-11-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095223
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 章三
(74)【代理人】
【識別番号】100085040
【弁理士】
【氏名又は名称】小泉 雅裕
(74)【代理人】
【識別番号】100137752
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 岳行
(72)【発明者】
【氏名】山口 浩一
(72)【発明者】
【氏名】小林 琢洋
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-033214(JP,A)
【文献】特開2019-166598(JP,A)
【文献】特開2017-183503(JP,A)
【文献】特表2013-502733(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第0962282(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/30
C30B 33/02
C30B 33/00
B24B 9/00
B24B 37/08
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電性酸化物単結晶をスライスして得た単結晶ウエハの端面を面取りするベベリング工程と、上記単結晶ウエハの両面を粗研磨するラッピング工程と、当該ラッピング工程の前若しくは後に設けられる単結晶ウエハの還元工程と、上記単結晶ウエハの面取りされた端面を鏡面研磨するエッジポリッシング工程を有する圧電性酸化物単結晶基板の製造方法において、
上記ベベリング工程における砥石の切込量を30μm以下に設定すると共に、設定された切込量に到達した後、上記砥石における切込み方向の相対送りを停止し、かつ、その停止位置においてベベリング加工を継続するスパークアウト処理を行うことを特徴とする圧電性酸化物単結晶基板の製造方法。
【請求項2】
上記単結晶ウエハの還元工程が、容器内に充填されたアルミニウム粉末と酸化アルミニウム粉末との混合粉中に上記単結晶ウエハを埋め込み、上記容器を加熱炉の密閉室内に配置し、かつ、上記密閉室内を不活性ガスで満たした後、不活性ガスの密閉雰囲気下において上記圧電性酸化物単結晶のキュリー温度未満の温度で単結晶ウエハを加熱する還元処理であることを特徴とする請求項1に記載の圧電性酸化物単結晶基板の製造方法。
【請求項3】
上記混合粉中におけるアルミニウム粉末の比率が10重量%~30重量%であることを特徴とする請求項2に記載の圧電性酸化物単結晶基板の製造方法。
【請求項4】
上記圧電性酸化物単結晶が、タンタル酸リチウム単結晶またはニオブ酸リチウム単結晶で構成されることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の圧電性酸化物単結晶基板の製造方法。
【請求項5】
上記圧電性酸化物単結晶がタンタル酸リチウム単結晶で構成され、かつ、単結晶ウエハの還元処理温度が350℃~600℃であることを特徴とする請求項2~4のいずれかに記載の圧電性酸化物単結晶基板の製造方法。
【請求項6】
上記圧電性酸化物単結晶がニオブ酸リチウム単結晶で構成され、かつ、単結晶ウエハの還元処理温度が300℃~660℃であることを特徴とする請求項2~4のいずれかに記載の圧電性酸化物単結晶基板の製造方法。
【請求項7】
上記単結晶ウエハの還元処理時間が20時間~40時間であることを特徴とする請求項2~6のいずれかに記載の圧電性酸化物単結晶基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電性酸化物単結晶をスライスして得られた単結晶ウエハを処理加工して圧電性酸化物単結晶基板を製造する方法に係り、特に、熱処理(還元処理)中における単結晶ウエハの割れが防止される圧電性酸化物単結晶基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧電性酸化物単結晶基板、例えば、タンタル酸リチウム(LiTaO3;以下、LTと略称する場合がある)単結晶基板およびニオブ酸リチウム(LiNbO3;以下、LNと略称する場合がある)単結晶基板は、主に携帯電話、スマートフォン、タブレット端末等の通信機器の送受信用デバイスに用いられる表面弾性波フィルター(以下、SAWフィルターと略称する場合がある)の基板材料として使用されている。これ等単結晶基板の材料であるLT単結晶およびLN単結晶は、融点がそれぞれ約1650℃、約1250℃、キュリー温度がそれぞれ約600℃、約1140℃の強誘電体であり、圧電性を有する。
【0003】
上記SAWフィルターは、LT単結晶から成るLT基板またはLN単結晶から成るLN基板上に、Al、Cu合金等の金属薄膜で一対の櫛形電極が形成された構造となっており、この櫛形電極がデバイスの特性を左右する重要な役割を担っている。また、上記櫛型電極は、LT基板またはLN基板上にスパッタリングにより金属薄膜を成膜した後、一対の櫛型パターンを残し、フォトリソグラフ技術により不要な部分をエッチングにより除去することで形成されている。
【0004】
以下、LT単結晶とLN単結晶の育成法、および、LT基板とLN基板の製造工程について説明する。まず、LT単結晶とLN単結晶は、産業的にはチョクラルスキー法(CZ法)等の育成法により製造され、得られたLT単結晶およびLN単結晶は無色透明若しくは透明度の高い淡黄色を呈している。
【0005】
育成後、インゴットの状態で径の不足する単結晶の端部がカットされ、LT単結晶およびLN単結晶は、歪除去のための熱処理、分極を生じさせるためのポーリング処理(分極処理)を経て、加工工程へ引き渡される。
【0006】
加工工程では、円筒研削工程で最終製品よりも僅かに太めの円柱に加工され、ワイヤソーを用いたスライス工程で円板状にスライスされて単結晶ウエハとなる。
【0007】
次いで、上記単結晶ウエハは、ベベリング工程で製品直径となるように端面が面取り加工された後、ラッピング工程、ポリッシング工程等の機械加工を経て上記LT基板およびLN基板となる。最終的に得られたLT基板およびLN基板はほぼ無色透明で、その体積抵抗率はおよそ1014~1015Ω・cm程度である。
【0008】
しかし、このような方法で得られたLT基板およびLN基板は、SAWフィルターの製造プロセスにおいて、LT単結晶およびLN単結晶の特性である焦電性のため、プロセスで受ける温度変化によって電荷が基板表面にチャージアップし、これにより生ずる放電が原因となって基板表面に形成した櫛型電極が破壊され、更には基板の割れ等を生じてSAWフィルター製造プロセスでの歩留まり低下が起きている。
【0009】
そこで、LT単結晶およびLN単結晶の焦電性による不具合を解消するため、単結晶ウエハの導電性を増大させる技術が提案され、例えば、特許文献1では、単結晶ウエハを、アルゴン、水、水素、窒素、二酸化炭素、一酸化炭素、酸素およびこれ等の組合せから選択されたガスの還元雰囲気で熱処理(還元処理)する方法が提案され、特許文献2では、単結晶ウエハを、アルミニウム粉末(Al粉)と酸化アルミニウム粉末(Al23粉)との混合粉中に埋め込んで熱処理(還元処理)する方法が提案されている。
【0010】
そして、単結晶ウエハの導電性を増大させる熱処理(還元処理)、すなわち、還元工程は、上記ベベリング工程後、若しくは、ラッピング工程後に組み込まれている。
【0011】
ベベリング工程の前に還元工程を組み込んだ場合、後述するようにスライスされた単結晶ウエハには外周端部の上下に角部が存在し、単結晶ウエハの取り扱い中に角部が欠けてしまう等の不都合があるからである。
【0012】
しかしながら、還元工程を、ベベリング工程後に組み込んだ場合でも、処理中の熱負荷に起因した単結晶ウエハの割れが確認されている。すなわち、単結晶ウエハのベベリング工程は、図4(A)~(B)に示すように外周面に環状研削溝41を有するホイール型回転砥石40を高速回転させ、かつ、単結晶ウエハ3外周面を上記環状研削溝41に接触させながら単結晶ウエハ3を低速回転させて単結晶ウエハ3端面3aと角部3bを物理研磨処理する工程で、加工面が粗いため、単結晶ウエハ3の外周端部に電子顕微鏡で確認される程度の小さな亀裂(マイクロクラック)が発生し、更に、物理研磨処理により単結晶ウエハ3表面に応力が掛かることで加工歪み層が存在している。このため、外周端部にマイクロクラックや加工歪み層が存在する単結晶ウエハを熱処理(還元処理)した場合、単結晶ウエハの外周端部を起点に単結晶ウエハが割れてしまうためと考えられる。
【0013】
ところで、特許文献3には、ベベリング工程後における単結晶ウエハ外周端部を鏡面研磨(エッジポリッシュ)し、該鏡面研磨(エッジポリッシュ)により単結晶ウエハ外周端部のマイクロクラックや加工歪み層を除去することで単結晶ウエハの割れを防止した酸化物単結晶基板の製造方法が開示されている。
【0014】
すなわち、酸化物単結晶から生成された単結晶基板(ウエハ)の外周端部を面取りするベベリング工程と、上記単結晶基板の表面と裏面を粗研磨するラッピング工程と、上記単結晶基板の外周端部を鏡面研磨するエッジポリッシング工程とを少なくとも有する酸化物単結晶基板の製造方法において、上記エッジポリッシング工程は、ラッピング工程より先に行い、上記ベベリング工程で加工された単結晶基板の外周端部を鏡面研磨した後、上記ラッピング工程を行って単結晶基板の表面と裏面を粗研磨する酸化物単結晶基板の製造方法が特許文献3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開平11-92147号公報
【文献】特許第4063191号公報
【文献】特開2020-33214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
特許文献3の方法を用いた場合、単結晶ウエハ外周端部のマイクロクラックや加工歪み層が除去されるため、特許文献1および特許文献2に係る熱処理(還元処理)中の単結晶ウエハ割れを防止することは可能となる。
【0017】
しかし、上記エッジポリッシング工程は、以下の理由から、通常、ラッピング工程により粗研磨された単結晶ウエハの一方の面を鏡面研磨するポリッシング工程の前(すなわち、基板製造工程の後半)に組み込まれている。
【0018】
すなわち、ベベリング工程後における単結晶ウエハ外周端部を鏡面研磨(エッジポリッシュ)した単結晶ウエハに対し、特許文献1および特許文献2に係る熱処理(還元処理)を行った場合、当該熱処理(還元処理)工程、および、その後の製造工程において、上記鏡面研磨(エッジポリッシュ)した単結晶ウエハ外周端部に傷等が入る可能性が高く、製造工程後半において、再度、単結晶ウエハの外周端部を鏡面研磨(エッジポリッシュ)する必要があり、その分、工程数が増えて酸化物単結晶基板の製造効率を悪化させてしまう別の問題が存在し、更に、鏡面研磨(エッジポリッシュ)を複数回繰り返した場合、上記ベベリング工程により作りこんだ単結晶ウエハ端面のラウンド形状が崩れてしまう新たな問題を引き起こしてしまうからである。
【0019】
本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、製造工程数を増やすことなく熱処理(還元処理)中における単結晶ウエハの割れが防止される圧電性酸化物単結晶基板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するため、ベベリング工程における砥石の切込量を30μm以下に設定すると共に、ベベリング工程中、砥石の相対送りを停止してベベリング加工を継続するスパークアウト処理(すなわち、切込を与えずに砥石を回転させて、研削による火花や研削音が無くなるまでベベリング加工を続ける処理)の効果を試したところ、単結晶ウエハ外周端部のマイクロクラックや加工歪み層を除去できることが確認され、更に、スパークアウト処理された単結晶ウエハに対し上記熱処理(還元処理)を試したところ、熱処理(還元処理)中における単結晶ウエハの割れが防止されることを発見するに至った。本発明はこのような技術的発見により完成されたものである。
【0021】
すなわち、本発明に係る第1の発明は、
圧電性酸化物単結晶をスライスして得た単結晶ウエハの端面を面取りするベベリング工程と、上記単結晶ウエハの両面を粗研磨するラッピング工程と、当該ラッピング工程の前若しくは後に設けられる単結晶ウエハの還元工程と、上記単結晶ウエハの面取りされた端面を鏡面研磨するエッジポリッシング工程を有する圧電性酸化物単結晶基板の製造方法において、
上記ベベリング工程における砥石の切込量を30μm以下に設定すると共に、設定された切込量に到達した後、上記砥石における切込み方向の相対送りを停止し、かつ、その停止位置においてベベリング加工を継続するスパークアウト処理を行うことを特徴とし、
第2の発明は、
第1の発明に記載の圧電性酸化物単結晶基板の製造方法において、
上記単結晶ウエハの還元工程が、容器内に充填されたアルミニウム粉末と酸化アルミニウム粉末との混合粉中に上記単結晶ウエハを埋め込み、上記容器を加熱炉の密閉室内に配置し、かつ、上記密閉室内を不活性ガスで満たした後、不活性ガスの密閉雰囲気下において上記圧電性酸化物単結晶のキュリー温度未満の温度で単結晶ウエハを加熱する還元処理であることを特徴とする。
【0022】
次に、本発明に係る第3の発明は、
第2の発明に記載の圧電性酸化物単結晶基板の製造方法において、
上記混合粉中におけるアルミニウム粉末の比率が10重量%~30重量%であることを特徴とし、
第4の発明は、
第1の発明~第3の発明のいずれかに記載の圧電性酸化物単結晶基板の製造方法において、
上記圧電性酸化物単結晶が、タンタル酸リチウム単結晶またはニオブ酸リチウム単結晶で構成されることを特徴とする。
【0023】
また、本発明に係る第5の発明は、
第2の発明~第4の発明のいずれかに記載の圧電性酸化物単結晶基板の製造方法において、
上記圧電性酸化物単結晶がタンタル酸リチウム単結晶で構成され、かつ、単結晶ウエハの還元処理温度が350℃~600℃であることを特徴とし、
第6の発明は、
第2の発明~第4の発明のいずれかに記載の圧電性酸化物単結晶基板の製造方法において、
上記圧電性酸化物単結晶がニオブ酸リチウム単結晶で構成され、かつ、単結晶ウエハの還元処理温度が300℃~660℃であることを特徴とし、
第7の発明は、
第2の発明~第6の発明のいずれかに記載の圧電性酸化物単結晶基板の製造方法において、
上記単結晶ウエハの還元処理時間が20時間~40時間であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る圧電性酸化物単結晶基板の製造方法によれば、
単結晶ウエハの端面を面取りするベベリング工程において、砥石の切込量を30μm以下に設定し、かつ、設定された切込量に到達した後、上記砥石における切込み方向の相対送りを停止し、その停止位置においてベベリング加工を継続するスパークアウト処理を行うため、上記切込量に到達した時に形成されているマイクロクラックや加工歪み層を除去することが可能となる。
【0025】
そして、単結晶ウエハの両面を粗研磨するラッピング工程の前若しくは後に組み込まれる還元工程において、マイクロクラックや加工歪み層の無い単結晶ウエハが熱処理(還元処理)されるため、熱処理(還元処理)中における単結晶ウエハの割れを防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明に係る圧電性酸化物単結晶基板の製造方法を工程毎に示した工程説明図。
図2】単結晶ウエハが収容された単結晶ウエハ収容体の構成を示す説明図。
図3】単結晶ウエハ収容体が多段に積み上げられた複数の集合体を、密閉室を有する加熱炉の該密閉室内に配置した状態を示す説明図。
図4図4(A)はベベリング工程中の単結晶ウエハとホイール型回転砥石を示す概略斜視図、図4(B)は上記単結晶ウエハとホイール型回転砥石の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて具体的に説明する。
【0028】
図1は、本実施形態に係る圧電性酸化物単結晶基板の製造方法を工程毎に示した工程説明図である。
【0029】
本実施形態に係る圧電性酸化物単結晶基板の製造方法は、圧電性酸化物単結晶をスライスして単結晶ウエハとするスライス工程(S1)と、単結晶ウエハの端面を面取りするベベリング工程(S2)と、単結晶ウエハの両面を粗研磨するラッピング工程(S3)と、該ラッピング工程(S3)の前若しくは後に設けられる単結晶ウエハの還元工程(S4)と、面取りされた単結晶ウエハの端面を鏡面研磨するエッジポリッシング工程(S5)、および、単結晶ウエハの表裏いずれか一方の面を鏡面研磨するポリッシング工程(S6)を有している。
【0030】
(1)酸化物単結晶
本実施形態において、酸化物単結晶は、タンタル酸リチウム(LiTaO3;LT)単結晶、ニオブ酸リチウム(LiNbO3;LN)単結晶等の圧電性酸化物単結晶である。以下、LT単結晶を例に挙げて説明する。
【0031】
LT単結晶は、上述したチョクラルスキー法(CZ法)等の単結晶育成方法により育成される。チョクラルスキー法とは、原料粉末を溶融して得られた融液に種結晶を浸けて引き上げることにより単結晶を成長させる育成方法で、例えば高周波の誘導加熱装置等を用いて行うことで、大型の単結晶を安定的に製造することができる。
【0032】
育成されたLT単結晶インゴットは、歪除去のための熱処理、単一分極化の処理(ポーリング)が施される。ポーリング処理は、育成したLT単結晶をキュリー点以上の温度、例えば600~700℃に加熱し、Z軸方向に、例えば200~500Vの電圧を印加することで、約0.5~2時間かけて単結晶を分極化させるものである。
【0033】
そして、直径の不足するLT単結晶の上下端部がカットされ、外径を整える円筒研削がLT単結晶に施される。
【0034】
(2)スライス工程(S1)
続いて、スライス工程(S1)において、LT単結晶は、所望の結晶方位に沿って、所定厚さの円盤状単結晶ウエハにスライスされる。スライス加工は、マルチワイヤソー装置等を用いてなされるが、スライスされた単結晶ウエハ3は、図4(B)に示すように外周端部の上下に角部3bがあるため、割れや欠けが生じ易い。
【0035】
(3)ベベリング工程(S2)
このため、ベベリング工程(S2)で単結晶ウエハの端面を面取り加工する。
【0036】
すなわち、図4(A)~(B)に示すように外周面に環状研削溝41を有するホイール型回転砥石40を高速回転させ、かつ、単結晶ウエハ3外周面を環状研削溝41に接触させながら単結晶ウエハ3を低速回転させて単結晶ウエハ3端面3aと角部3bを物理研磨することにより単結晶ウエハの端面を面取り加工する。
【0037】
尚、上述したようにベベリング工程の加工面は粗いため、設定された切込量に到達した時点において単結晶ウエハ3の外周端部に電子顕微鏡で確認される程度の小さな亀裂(マイクロクラック)が発生し、更に、物理研磨処理により単結晶ウエハ3表面に応力が掛かることで加工歪み層が存在している。
【0038】
そこで、本発明に係るベベリング工程においては、砥石の切込量を30μm以下に設定し、かつ、設定された切込量に到達した後、上記砥石における切込み方向の相対送りを停止し、その停止位置においてベベリング加工を継続するスパークアウト処理を行うことにより、設定された切込量に到達した時に形成されている上記マイクロクラックや加工歪み層を除去することが可能となる。
【0039】
尚、ベベリング工程で使用される上記ホイール型回転砥石40として、番手♯400~♯1000程度のダイヤモンド砥石が例示される。また、設定された砥石の切込量が30μmを超える場合、スパークアウト処理がなされても上記マイクロクラックや加工歪み層を十分に除去することが困難なため、熱処理(還元処理)中における単結晶ウエハの割れを防止できなくなる。
【0040】
(4)ラッピング工程(S3)
ラッピング工程(S3)は、ラッピング装置を用いて表面と裏面をラッピング加工して単結晶ウエハの厚さを揃える工程である。ラッピング加工により、スライス工程(S1)時に受けた単結晶ウエハ両面のダメージが取り除かれると共に、所定の平面度と平行度になるよう単結晶ウエハの厚さを所定の範囲に揃えることが可能となる。
【0041】
また、ラッピング工程においては、SiC等の砥石と、水、防錆剤、分散剤等を混濁した番手♯800~♯2000程度のスラリーが使用される。
【0042】
(5)還元工程(S4)
上記ラッピング工程(S3)の前若しくは後に組み込まれる還元工程(S4)として、例えば、特許文献2に係る熱処理(還元処理)を説明する。
【0043】
まず、図2に示すようにSUS等で構成された容器1に、アルミニウム粉末(Al粉)と酸化アルミニウム粉末(Al23粉)の混合粉2と単結晶ウエハ3を交互に積層しながら充填し、かつ、単結晶ウエハ3が混合粉2中に埋め込まれた容器1の外側をアルミニウム箔4等で覆って容器1開放部を封止し、単結晶ウエハ3が収容された単結晶ウエハ収容体10を得る。
【0044】
次いで、上記単結晶ウエハ収容体10を多段に積み上げて図3に示すような集合体20を構成すると共に、密閉室30を有する加熱炉の該密閉室30の載置部31に複数の集合体20を互いに隙間を設けて配置し、かつ、上記密閉室30内をアルゴンガスや窒素ガス等の不活性ガスで満たした後、不活性ガスの密閉雰囲気下においてLT単結晶のキュリー温度未満の温度で各単結晶ウエハ3を熱処理(還元処理)して還元工程(S4)は終了する。
【0045】
尚、図2に示す単結晶ウエハ収容体10においては、単結晶ウエハ3が混合粉2中に埋め込まれた容器1の外側をアルミニウム箔4等で覆った構造になっているが、アルミニウム箔4等で覆う構造に代えて蓋材等で容器1の開放部が封止される構造を採ってもよい。また、図3に示す集合体20においては、単結晶ウエハ収容体10が多段に積み上げられた構造になっているが、集合体20を大型容器に更に収容させた構造であってもよい。
【0046】
上記熱処理(還元処理)において、混合粉中におけるアルミニウム粉末(Al粉)の比率は、単結晶ウエハの所望とする体積抵抗率に合わせ10重量%~30重量%に設定される。また、熱処理(還元処理)温度は、単結晶ウエハがLT結晶の場合、350℃~600℃(LT結晶のキュリー温度)、単結晶ウエハがLN結晶の場合、300℃~660℃(アルミニウムの融点)で、熱処理(還元処理)時間は、20時間~40時間である。
【0047】
尚、還元工程(S4)後の単結晶ウエハは、酸素空孔が導入されたことにより光吸収を起こすようになる。そして、観測される単結晶ウエハの色調は、透過光では赤褐色系に、反射光では黒色に見えるため、上記熱処理(還元処理)は黒化処理とも呼ばれており、このような色調の変化現象を黒化と呼んでいる。
【0048】
(6)エッジポリッシング工程(S5)
次に、上記ベベリング工程(S2)で単結晶ウエハ端面を面取り加工した外周端部を鏡面加工(エッジポリッシュ)するエッジポリッシング工程(S5)を行う。
【0049】
コロイダルシリカ等の研磨剤が含まれたスラリーを用い、面取り加工された単結晶ウエハの加工部と、研磨剤との間に化学的作用を生じさせながら上記加工部を機械的に研磨するメカノケミカルポリッシュ加工により、単結晶ウエハの外周端部に残った加工痕(ベベリング残り)が除去される。
【0050】
(7)ポリッシング工程(S6)
次に、ラッピング工程(S3)で表面と裏面が粗研磨(ラッピング加工)された単結晶ウエハの表裏いずれか一方の面(使用面側を表面とすると表面側)を、片面ポリッシュ装置を用いて鏡面研磨するポリッシング工程(S6)を行い圧電性酸化物単結晶基板(LT基板)となる。
【実施例
【0051】
以下、本発明の実施例について比較例も挙げて具体的に説明するが、本発明は下記実施例によって何ら限定されるものではない。
【0052】
[LT単結晶の育成]
コングルエント組成の原料を用い、チョクラルスキー法により直径4インチであるLT単結晶の育成を行った。育成雰囲気は、酸素濃度約3%の窒素-酸素混合ガスである。得られたLT単結晶のインゴットは、透明な淡黄色であった。尚、LT単結晶の育成法については、チョクラルスキー法に代えて、例えば、引き下げ法を用いてもよい。
【0053】
次いで、上記LT単結晶インゴットに対し、熱歪み除去のための熱処理と単一分極とするためのポーリング処理を行った後、外周研削、スライスして、直径約100mmφ、厚さ280μmの単結晶ウエハを得た。
【0054】
得られた単結晶ウエハは、無色透明で、体積抵抗率は1×1015Ω・cm、キュリー温度は603℃であった。
【0055】
[実施例1]
[ベベリング工程(S2)]
外周面に環状研削溝41(図4参照)を有するホイール型回転砥石40を高速回転させ、直径約100mmφ、厚さ280μmの単結晶ウエハ3外周面を環状研削溝41に接触させながら単結晶ウエハ3を低速回転させて単結晶ウエハ3端面を面取り加工した。
【0056】
尚、砥石40の切込量を20μmに設定し、かつ、設定された切込量に到達した後、上記砥石40における切込み方向の送りを停止し、その停止位置においてベベリング加工を継続するスパークアウト処理を行った。
【0057】
[還元工程(S4)]
次いで、内径が112mmφのSUS製円筒容器内に、10重量%のアルミニウム粉末(Al粉)と90重量%の酸化アルミニウム粉末(Al23粉)との混合粉(Al混合粉割合が10重量%)、および、面取り加工した直径100mmφ、厚さ280μmの単結晶ウエハを交互に積層しながら充填し、上記混合粉中に単結晶ウエハを3mm間隔で25枚埋め込んだ後、SUS製円筒容器の外側をアルミニウム箔で覆って図2に示した単結晶ウエハ収容体10を得、同様にして18個の単結晶ウエハ収容体10を製造した。
【0058】
次いで、密閉室を有する加熱炉の該密閉室内に、上記単結晶ウエハ収容体10を3段積み上げて構成した6個の集合体20を配置した後、当該密閉室内をアルゴンガスで満たした。
【0059】
そして、上記加熱炉により密閉室内を加熱し、還元処理温度580℃、還元処理時間40時間の条件で各単結晶ウエハ収容体10に収容された単結晶ウエハをそれぞれ熱処理(還元処理)した後、各単結晶ウエハ(LT基板)の体積抵抗率と単結晶ウエハの割れ率(%)を調べた。
【0060】
尚、体積抵抗率は、JIS K-6911に準拠した3端子法により測定し、かつ、
単結晶ウエハの割れ率(%)は、[割れた単結晶ウエハの枚数]÷[熱処理した単結晶ウエハの全枚数]から求めた。
【0061】
これらの結果を以下の表1に示す。
【0062】
[実施例2]
上記ベベリング工程(S2)は実施例1と同一条件で行い、還元工程(S4)のAl混合粉割合を15重量%に変更し、かつ、還元処理時間を30時間に変更した以外は実施例1と同一条件で各単結晶ウエハ収容体10に収容された単結晶ウエハをそれぞれ熱処理(還元処理)した後、各単結晶ウエハ(LT基板)の体積抵抗率と単結晶ウエハの割れ率(%)を調べた。
【0063】
これらの結果を以下の表1に示す。
【0064】
[実施例3]
上記ベベリング工程(S2)の砥石40の切込量を30μmに変更し、上記還元工程(S4)のAl混合粉割合を20重量%に変更すると共に、還元処理時間を20時間に変更した以外は実施例1と同一条件で各単結晶ウエハ収容体10に収容された単結晶ウエハをそれぞれ熱処理(還元処理)した後、各単結晶ウエハ(LT基板)の体積抵抗率と単結晶ウエハの割れ率(%)を調べた。
【0065】
これらの結果を以下の表1に示す。
【0066】
[実施例4]
上記ベベリング工程(S2)の砥石40の切込量を30μmに変更し、上記還元工程(S4)のAl混合粉割合を25重量%に変更すると共に、還元処理温度を550℃に変更した以外は実施例1と同一条件で各単結晶ウエハ収容体10に収容された単結晶ウエハをそれぞれ熱処理(還元処理)した後、各単結晶ウエハ(LT基板)の体積抵抗率と単結晶ウエハの割れ率(%)を調べた。
【0067】
これらの結果を以下の表1に示す。
【0068】
[実施例5]
上記ベベリング工程(S2)の砥石40の切込量を30μmに変更し、上記還元工程(S4)のAl混合粉割合を30重量%に変更し、かつ、還元処理温度を550℃に変更すると共に、還元処理時間を20時間に変更した以外は実施例1と同一条件で各単結晶ウエハ収容体10に収容された単結晶ウエハをそれぞれ熱処理(還元処理)した後、各単結晶ウエハ(LT基板)の体積抵抗率と単結晶ウエハの割れ率(%)を調べた。
【0069】
これらの結果を以下の表1に示す。
【0070】
[比較例1]
上記還元工程(S4)は実施例1と同一条件で行い、上記ベベリング工程(S2)の砥石40の切込量を40μmに変更した以外は実施例1と同一条件で各単結晶ウエハ収容体10に収容された単結晶ウエハをそれぞれ熱処理(還元処理)した後、各単結晶ウエハ(LT基板)の体積抵抗率と単結晶ウエハの割れ率(%)を調べた。
【0071】
これらの結果を以下の表1に示す。
【0072】
[比較例2]
上記ベベリング工程(S2)の砥石40の切込量を40μmに変更し、上記還元工程(S4)のAl混合粉割合を15重量%に変更すると共に、還元処理時間を30時間に変更した以外は実施例1と同一条件で各単結晶ウエハ収容体10に収容された単結晶ウエハをそれぞれ熱処理(還元処理)した後、各単結晶ウエハ(LT基板)の体積抵抗率と単結晶ウエハの割れ率(%)を調べた。
【0073】
これらの結果を以下の表1に示す。
【0074】
[比較例3]
上記ベベリング工程(S2)の砥石40の切込量を30μmに変更し、かつ、スパークアウト処理を行わない点と、上記還元工程(S4)のAl混合粉割合を20重量%に変更し、かつ、還元処理時間を20時間に変更した以外は実施例1と同一条件で各単結晶ウエハ収容体10に収容された単結晶ウエハをそれぞれ熱処理(還元処理)した後、各単結晶ウエハ(LT基板)の体積抵抗率と単結晶ウエハの割れ率(%)を調べた。
【0075】
これらの結果を以下の表1に示す。
【0076】
[比較例4]
上記ベベリング工程(S2)の砥石40の切込量を30μmに変更し、かつ、スパークアウト処理を行わない点と、上記還元工程(S4)のAl混合粉割合を25重量%に変更し、かつ、還元処理温度を550℃に変更した以外は実施例1と同一条件で各単結晶ウエハ収容体10に収容された単結晶ウエハをそれぞれ熱処理(還元処理)した後、各単結晶ウエハ(LT基板)の体積抵抗率と単結晶ウエハの割れ率(%)を調べた。
【0077】
これらの結果を以下の表1に示す。
【0078】
[比較例5]
上記ベベリング工程(S2)の砥石40の切込量を30μmに変更し、かつ、スパークアウト処理を行わない点と、上記還元工程(S4)のAl混合粉割合を30重量%に変更し、かつ、還元処理温度を550℃に変更すると共に、還元処理時間を20時間に変更した以外は実施例1と同一条件で各単結晶ウエハ収容体10に収容された単結晶ウエハをそれぞれ熱処理(還元処理)した後、各単結晶ウエハ(LT基板)の体積抵抗率と単結晶ウエハの割れ率(%)を調べた。
【0079】
これらの結果を以下の表1に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
[結 果]
(1)ベベリング工程における砥石の切込量を30μm以下に設定し、かつ、設定切込量に到達した後にスパークアウト処理(すなわち、切込を与えずに砥石を回転させて、研削による火花や研削音が無くなるまでベベリング加工を続ける処理)を行った実施例1~5においては、熱処理(還元処理)後における単結晶ウエハの割れ率(%)を1%未満に抑制していることが確認される。
【0082】
(2)他方、ベベリング工程における砥石の切込量が30μmを超える比較例1~2においては、設定切込量(40μm)に到達した後、上記スパークアウト処理がなされた場合でも単結晶ウエハの上記割れ率(%)が高い(3%)ことが確認される。
【0083】
(3)また、ベベリング工程における砥石の切込量を30μm以下に設定しても、設定切込量に到達した後、上記スパークアウト処理がなされない比較例3~5においては、単結晶ウエハの上記割れ率(%)が高い(2%)ことが確認される。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明によれば、熱処理(還元処理)中における単結晶ウエハの割れが抑制されて圧電性酸化物単結晶基板を効率よく製造できるため、表面弾性波素子(SAWフィルター)用の基板材料に用いられる産業上の利用可能性を有している。
【符号の説明】
【0085】
1 容器
2 混合粉
3 単結晶ウエハ
3a 端面
3b 角部
4 アルミニウム箔
10 単結晶ウエハ収容体
20 単結晶ウエハ収容体が多段に積み上げられた集合体
30 密閉室
31 載置部
40 ホイール型回転砥石
41 環状研削溝
図1
図2
図3
図4