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特許7533331低誘電化剤、これを含む低誘電性樹脂組成物および樹脂の低誘電化方法、並びに低誘電化剤としての使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】低誘電化剤、これを含む低誘電性樹脂組成物および樹脂の低誘電化方法、並びに低誘電化剤としての使用
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20240806BHJP
   C08G 59/02 20060101ALI20240806BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20240806BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
C09K3/00 C
C08G59/02
C08L63/00 A
C08L101/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021068111
(22)【出願日】2021-04-14
(65)【公開番号】P2022084508
(43)【公開日】2022-06-07
【審査請求日】2023-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2020196017
(32)【優先日】2020-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】入學 武
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-023061(JP,A)
【文献】特開平09-316085(JP,A)
【文献】国際公開第2021/167053(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/158851(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00-59/72
C08L 63/00-63/10
C08L 101/00-101/16
C08G 77/00-77/62
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるシロキサン化合物からなり、イオン性物質の含有量が0.001質量%未満であり、
前記イオン性物質が、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオンおよびヨウ化物イオンから選ばれる1種または2種以上である低誘電化剤。
【化1】
[式中、R1は、それぞれ独立して下記一般式(2)
【化2】
(式中、R4は、それぞれ独立して非置換の炭素数1~10の1価炭化水素基を表す。)
で示される基を表し、
2は、それぞれ独立して下記一般式(3)または(4)
【化3】
(式中、R5は、置換または非置換の直鎖状、分岐鎖状または環状の炭素数1~10のアルキレン基を表す。)
で示される基を表し、
3は、それぞれ独立して水素原子、非置換の炭素数1~3の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基もしくはアルケニル基、または下記一般式(5)
【化4】
(式中、R1、R4およびR5は、前記と同じ意味を表し、fは、0~10の整数を表す。)
で示される基を表し、
a、b、c、dおよびeは、それぞれ独立して0~1、かつ、1≦a+b+c≦3、1≦a+b+c+d+e≦5を満たす整数である。]
【請求項2】
前記O-R1が結合するケイ素原子が、前記R2が結合するケイ素原子1モルに対して、2~59モルである請求項1記載の低誘電化剤。
【請求項3】
請求項1または2記載の低誘電化剤を用いる樹脂の低誘電化方法。
【請求項4】
請求項1または2記載のシロキサン化合物の低誘電化剤としての使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低誘電化剤、これを含む低誘電性樹脂組成物および樹脂の低誘電化方法、並びに低誘電化剤としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂等の熱硬化性樹脂は、樹脂単独で、あるいは硬化剤の存在下で加熱することにより、架橋構造を形成し、三次元網目構造の不融不溶の樹脂組成物を与える。この樹脂組成物は、界面特性、機械特性、絶縁性、接着性、密着性、耐候性、耐衝撃性、耐食性、耐水性、耐熱性、耐摩耗性、耐薬品性等の特性に優れており、積層剤、接着剤、封止剤、絶縁膜、塗料、医療材料、建築材料、成形材料、車載材料、繊維材料、電子材料等の幅広い分野、用途に用いられる。
【0003】
上記熱硬化性樹脂の中でも、エポキシ変性シリコーン樹脂は、エポキシ基とシロキサン構造を有することから、これを用いた場合、樹脂組成物の界面特性、絶縁性、接着性、耐熱性等の複数の特性を向上することができる。
このようなエポキシ変性シリコーン樹脂としては、例えば、ビス[(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル]ポリジメチルシロキサン、テトラキス[(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル]テトラメチルシクロテトラシロキサン(特許文献1)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-9086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、情報通信分野では、情報量の増加による通信速度の超高速化、情報の多様化による機器の超多数同時接続、遠隔操作のための超低遅延等の要求が著しく、大量の電気信号を高速で処理する技術が必要とされている。これに対応するため、現在の周波数よりも高周波帯域を利用することにより、伝送経路における単位時間当たりの電気信号の伝送量を大容量化する技術の導入が進んでいる。
【0006】
一方、高周波帯域では、電気信号の強度が減衰、遅延しやすくなる伝送損失の問題がある。伝送損失は、伝送経路となる電子材料の導体部分による導体損失、樹脂部分による誘電体損失等の影響を受けるが、高周波帯域では、誘電体損失の影響が支配的になる。誘電体損失は、電気信号が樹脂部分に流れた際、熱に変化する損失のことであり、D=kf√εr・tanδの式(D:誘電体損失、k:比例定数、f:周波数、εr:比誘電率、tanδ:誘電正接)で表され、樹脂の比誘電率と誘電正接の値に比例する。
したがって、上記情報通信分野では、高周波帯域で使用される樹脂に対して、比誘電率と誘電正接を制御する技術が必要とされている。
【0007】
しかし、特許文献1記載のエポキシ変性シリコーン樹脂は、エポキシ基の高い極性により、比誘電率と誘電正接が高いため、高周波帯域での適用が難しい。
すなわち、エポキシ変性シリコーン樹脂のシロキサン構造が低分子のオリゴシロキサンの場合、これを用いた樹脂組成物は、分子中のエポキシ基の割合が多く、比誘電率と誘電正接が高いため、伝送損失が大きくなる。シロキサン構造が高分子のポリジメチルシロキサンの場合、高粘度のオイル状のため、樹脂組成物が硬化しなくなる等の問題があった。
したがって、比誘電率と誘電正接が低いエポキシ変性シリコーン樹脂、さらに、これを用いて硬化させた低誘電性樹脂組成物の開発が望まれていた。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、比誘電率と誘電正接が低いエポキシ変性シリコーン樹脂からなる低誘電化剤、これを含む低誘電性樹脂組成物および樹脂の低誘電化方法、並びに低誘電化剤としての使用を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を達成するため鋭意検討を重ねた結果、下記一般式(1)で示されるシロキサン化合物が、比誘電率と誘電正接が低いエポキシ変性シリコーン樹脂であることを見出すとともに、当該シロキサン化合物のイオン性物質の含有量が0.001質量%未満である場合、これを用いて硬化させた樹脂組成物の比誘電率と誘電正接が低下することを見出し、発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、
1. 下記一般式(1)で示されるシロキサン化合物からなり、イオン性物質の含有量が0.001質量%未満である低誘電化剤、
【化1】
[式中、R1は、それぞれ独立して下記一般式(2)
【化2】
(式中、R4は、それぞれ独立して非置換の炭素数1~10の1価炭化水素基を表す。)
で示される基を表し、
2は、それぞれ独立して下記一般式(3)または(4)
【化3】
(式中、R5は、置換または非置換の直鎖状、分岐鎖状または環状の炭素数1~10のアルキレン基を表す。)
で示される基を表し、
3は、それぞれ独立して水素原子、非置換の炭素数1~10の1価炭化水素基または下記一般式(5)
【化4】
(式中、R1、R4およびR5は、前記と同じ意味を表し、fは、0~10の整数を表す。)
で示される基を表し、
a、b、c、dおよびeは、それぞれ独立して0~1、かつ、1≦a+b+c≦10、1≦a+b+c+d+e≦10を満たす整数である。]
2. 前記イオン性物質が、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオンおよびヨウ化物イオンから選ばれる1種または2種以上である1の低誘電化剤、
3. 前記O-R1が結合するケイ素原子が、前記R2が結合するケイ素原子1モルに対して、2~59モルである1または2の低誘電化剤、
4. 1~3のいずれかの低誘電化剤と、樹脂とを含む低誘電性樹脂組成物、
5. 1~3のいずれかの低誘電化剤を用いる樹脂の低誘電化方法、
6. 1~3のいずれかのシロキサン化合物の低誘電化剤としての使用
を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の所定のシロキサン化合物からなり、イオン性物質の含有量が低い低誘電化剤は、比誘電率と誘電正接が低く、これを用いて硬化させた樹脂組成物の比誘電率と誘電正接を低下させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について具体的に説明する。
[1]低誘電化剤
本発明の低誘電化剤は、下記一般式(1)で示されるシロキサン化合物からなり、イオン性物質の含有量が0.001質量%未満のものである。
【0013】
【化5】
【0014】
一般式(1)において、R1は、それぞれ独立して下記一般式(2)で示される基を表す。
【0015】
【化6】
【0016】
一般式(2)において、R4は、それぞれ独立して炭素数1~10、好ましくは炭素数1~8、より好ましくは炭素数1~6の非置換の1価炭化水素基を表す。
上記1価炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状または環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル基等の直鎖状アルキル基;イソプロピル、sec-ブチル、tert-ブチル、sec-ペンチル、tert-ペンチル、sec-ヘキシル、tert-ヘキシル、sec-ヘプチル、tert-ヘプチル、sec-オクチル、tert-オクチル、sec-ノニル、tert-ノニル、sec-デシル、tert-デシル基等の分岐鎖状のアルキル基;シクロペンチル、シクロヘキシル基等の環状のアルキル基;ビニル、アリル、ブテニル、メタリル基等のアルケニル基;フェニル、トリル、キシリル基等のアリール基;ベンジル、フェネチル基等のアラルキル基等が挙げられる。
これらの中でも、R4としては、非置換の、炭素数1~6の直鎖状、分岐鎖状または環状のアルキル基;アルケニル基;アリール基;アラルキル基が好ましく、特に前駆原料の入手容易性の観点から、非置換の、炭素数1~3の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基;アルケニル基がより好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基がより一層好ましい。
【0017】
一般式(1)において、R2は、それぞれ独立して下記一般式(3)または(4)で示される基を表す。
【0018】
【化7】
【0019】
一般式(3)および一般式(4)において、R5は、炭素数1~10、好ましくは炭素数1~8、より好ましくは炭素数1~6の置換または非置換のアルキレン基を表す。
上記アルキレン基は、直鎖状、分岐鎖状または環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチレン、エチレン、トリメチレン、テトラメチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン、ヘプタメチレン、オクタメチレン基等の直鎖状アルキレン基;イソプロピレン、sec-ブチレン、tert-ブチレン、sec-ペンチレン、tert-ペンチレン、sec-ヘキシレン、tert-ヘキシレン、sec-ヘプチレン、tert-ヘプチレン、sec-オクチレン、tert-オクチレン基等の分岐鎖状アルキレン基;シクロプロピレン、シクロペンチレン、シクロヘキシレン基等の環状アルキレン基が挙げられる。
【0020】
なお、これらのアルキレン基の水素原子の一部または全部は、その他の置換基で置換されていてもよく、この置換基の具体例としては、メトキシ、エトキシ、(イソ)プロポキシ基等の炭素数1~3のアルコキシ基;フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子;フェニル基等の芳香族炭化水素基;シアノ基、アミノ基、エステル基、エーテル基、カルボニル基、アシル基、スルフィド基等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることもできる。これらの置換基の置換位置は特に限定されず、置換基数も限定されない。
また、これらのアルキレン基は、その分子鎖中に、エーテル基、エステル基、カルボニル基、スルフィド基、ジスルフィド基等の1種または2種以上が介在していてもよい。
これらの中でも、R5としては、非置換の炭素数1~8の直鎖状アルキレン基が好ましく、特に前駆原料の入手容易性の観点から、メチレン基、エチレン基等の非置換の炭素数1~4の直鎖状アルキレン基がより好ましい。
【0021】
一般式(1)において、R3は、それぞれ独立して水素原子、非置換の炭素数1~10、好ましくは炭素数1~8、より好ましくは炭素数1~6の1価炭化水素基または下記一般式(5)で示される基を表す。
【0022】
【化8】
【0023】
一般式(5)において、R1、R4およびR5は、上記で例示した置換基と同様のものが挙げられる。
また、fは、0~10の整数であるが、特に前駆原料の入手容易性の観点から、0~3の整数が好ましく、0がより好ましい。
【0024】
これらの中でも、R3としては、非置換の、炭素数1~6の直鎖状、分岐鎖状または環状のアルキル基;アルケニル基;アリール基;アラルキル基が好ましく、特に前駆原料の入手容易性の観点から、非置換の、炭素数1~3の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基;アルケニル基がより好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基がより一層好ましい。
【0025】
一般式(1)において、a、b、c、dおよびeは、それぞれ独立して0~1、かつ、1≦a+b+c≦10、1≦a+b+c+d+e≦10を満たす整数であるが、特に比誘電率と誘電正接を低下させる観点から、1≦a+b+c≦3、1≦a+b+c+d+e≦10の条件が好ましく、1≦a+b+c≦1.1、1≦a+b+c+d+e≦10の条件がより好ましい。
【0026】
一般式(1)において、R1とR2の組み合わせは、比誘電率と誘電正接を低下させる観点から、O-R1が結合するケイ素原子が、R2が結合するケイ素原子1モルに対して、2~59モルが好ましく、より好ましくは3~59モル、より一層好ましくは4~59モルの範囲である。
【0027】
本発明の低誘電化剤は、通常、対応するヒドロシロキサン化合物とアルケニル基を有するエポキシ化合物とを、白金触媒を用いてヒドロシリル化反応させて製造する。
【0028】
ヒドロシロキサン化合物は、公知の分子中に水素原子を有するシロキサン化合物から適宜選択して用いることができる。
その具体例としては、ヘキサメチルトリシロキサン、ヘプタメチルトリシロキサン、(トリメチルシロキシ)ヘキサメチルトリシロキサン、オクタメチルテトラシロキサン、ノナメチルテトラシロキサン、(トリメチルシロキシ)オクタメチルテトラシロキサン、デカメチルペンタシロキサン、ウンデカメチルペンタシロキサン、(トリメチルシロキシ)デカメチルペンタシロキサン、ドデカメチルヘキサシロキサン、トリデカメチルヘキサシロキサン、(トリメチルシロキシ)ドデカメチルヘキサシロキサン、テトラデカメチルヘプタシロキサン、ペンタデカメチルヘプタシロキサン、(トリメチルシロキシ)テトラデカメチルヘプタシロキサン、ヘキサデカメチルオクタシロキサン、ヘプタデカメチルオクタシロキサン、(トリメチルシロキシ)ヘキサデカメチルオクタシロキサン、オクタデカメチルノナシロキサン、ノナデカメチルノナシロキサン、(トリメチルシロキシ)オクタデカメチルノナシロキサン、エイコサメチルデカシロキサン、ヘンエイコサメチルデカシロキサン、(トリメチルシロキシ)エイコサメチルデカシロキサン、ドコサメチルウンデカシロキサン、トリコサメチルウンデカシロキサン、(トリメチルシロキシ)ドコサメチルウンデカシロキサン、テトラコサメチルドデカシロキサン、ペンタコサメチルドデカシロキサン、(トリメチルシロキシ)テトラコサメチルドデカシロキサン、ヘキサコサメチルトリデカシロキサン、ヘプタコサメチルトリデカシロキサン、(トリメチルシロキシ)ヘキサコサメチルトリデカシロキサン等が挙げられる。
特に前駆原料の入手容易性の観点から、ヘキサメチルトリシロキサン、ヘプタメチルトリシロキサン、(トリメチルシロキシ)ヘキサメチルトリシロキサンが好ましい。
【0029】
アルケニル基を有するエポキシ化合物は、公知の分子中にアルケニル基とエポキシ基を有する化合物から適宜選択して用いることができる。
その具体例としては、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、2-メチルアリルグリシジルエーテル、ブテニルグリシジルエーテル、ヘキセニルグリシジルエーテル、オクテニルグリシジルエーテル、2-エチルヘキセニルグリシジルエーテル、デセニルグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル構造を有するエポキシ化合物;1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサン、1,2-エポキシ-4-アリルシクロヘキサン、1,2-エポキシ-4-(2-メチルアリル)シクロヘキサン、1,2-エポキシ-4-ブテニルシクロヘキサン、1,2-エポキシ‐4-ヘキセニルシクロヘキサン、1,2-エポキシ-4-オクテニルシクロヘキサン、1,2-エポキシ-4-デセニルシクロヘキサン等のシクロアルケンオキサイド構造を有するエポキシ化合物等が挙げられる。
特に前駆原料の入手容易性の観点から、アリルグリシジルエーテル、オクテニルグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル構造を有するエポキシ化合物、1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサン、1,2-エポキシ-4-オクテニルシクロヘキサン等のシクロアルケンオキサイド構造を有するエポキシ化合物が好ましい。
【0030】
上記アルケニル基を有するエポキシ化合物は、通常、エピハロヒドリン化合物とアルコール化合物を反応させる方法(エピハロヒドリン法)、過酸化合物を用いてオレフィン化合物を酸化させる方法(過酸化合物酸化法)等で製造する。
【0031】
エピハロヒドリン法では、原料に有機ハロゲン化合物を用いるため、製造後のエポキシ化合物には原料に由来するイオン性物質が含まれる。一方、過酸化合物酸化法では、原料に有機ハロゲン化合物を用いないため、製造後のエポキシ化合物には実質的にイオン性物質が含まれない。
上述のとおり、本発明の低誘電化剤は、イオン性物質の含有量が0.001質量%未満であるため、アルケニル基を有するエポキシ化合物は、イオン性物質の含有量を低くする観点から、過酸化合物酸化法で製造されたものが好ましい。
なお、過酸化合物酸化法で製造したアルケニル基を有するエポキシ化合物を用いてヒドロシロキサン化合物と反応させることにより、低誘電化剤に含まれるイオン性物質の含有量を低くすることができる。
【0032】
本発明の低誘電化剤の製造方法において、ヒドロシロキサン化合物とアルケニル基を有するエポキシ化合物の配合比は特に限定されないが、反応性、生産性の点から、アルケニル基を有するエポキシ化合物1モルに対して、好ましくはヒドロシロキサン化合物1~20モル、より好ましくは1~10モル、より一層好ましくは1~5モルの範囲である。
【0033】
白金触媒は、公知の白金(Pt)および白金を中心金属とする錯体化合物から適宜選択して用いることができる。
その具体例としては、塩化白金酸、塩化白金(IV)酸の2-エチルヘキサノール溶液等の塩化白金酸のアルコール溶液;白金-1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体のトルエンまたはキシレン溶液;ジクロロビスアセトニトリル白金、ジクロロビスベンゾニトリル白金;ジクロロシクロオクタジエン白金等が挙げられる。また、白金黒等をアルミナ、シリカ、カーボン等の担体に担持させた触媒を用いることもできる。
特に反応性の高さの観点から、塩化白金(IV)酸の2-エチルヘキサノール溶液等の塩化白金酸のアルコール溶液、白金-1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体のトルエンまたはキシレン溶液が好ましい。
【0034】
白金触媒の使用量は、ヒドロシリル化反応の触媒効果が発現する量であれば特に限定されないが、反応性、生産性の観点から、アルケニル基を有するエポキシ化合物1モルに対して、白金金属として、好ましくは0.0000001~1モル、より好ましくは0.000001~0.1モル、より一層好ましくは0.00001~0.01モルの範囲である。
【0035】
上記ヒドロシリル化反応の反応温度は特に限定されないが、反応性、生産性の観点から、好ましくは50~200℃、より好ましくは50~150℃、より一層好ましくは50~100℃の範囲である。
反応時間も特に限定されないが、好ましくは1~30時間、より好ましくは1~20時間、より一層好ましくは1~10時間の範囲である。
【0036】
なお、上記ヒドロシリル化反応は、無溶媒でも進行するが、溶媒を用いることもできる。
溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、イソオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム等の塩素化炭化水素系溶媒等が挙げられ、これらの溶媒は、1種単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0037】
上記ヒドロシリル化反応で得られる反応液には、反応で使用した白金触媒が含まれる。
反応液に含まれる白金触媒は、黒く変色して反応液の外観を著しく悪化させ、また、白金触媒の配位子に由来するイオン性物質が生成する等の原因になる。さらに、未反応のヒドロシロキサン化合物が残存している場合、脱水素が生じる危険性を有する。
上記理由により、ヒドロシリル化反応後、反応液に含まれる白金触媒を除去することが好ましい。
反応液に含まれる白金触媒の除去方法には特に制限はなく、蒸留、カラムクロマトグラフィー、水洗、抽出、濾過、活性炭や珪藻土等による吸着等の処理手段を採用することができる。
【0038】
本発明の低誘電化剤には、上述した原料に由来するイオン性物質が含まれる。
イオン性物質の具体例としては、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等が挙げられる。
本発明の低誘電化剤において、イオン性物質の含有量は、比誘電率と誘電正接を低下させる観点から、0.001質量%未満であるが、好ましくは0.000001質量%以上0.001質量%未満、より好ましくは0.00001質量%以上0.001質量%未満、より一層好ましくは0.0001質量%以上0.001質量%未満の範囲である。
【0039】
イオン性物質の含有量の測定方法としては、特に制限はなく、イオンクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、電位差滴定法、蛍光分光分析法等の分析手段を採用することができる。
【0040】
[2]低誘電性樹脂組成物
本発明の低誘電性樹脂組成物は、上記低誘電化剤と樹脂とを含む。
樹脂の具体例としては、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂等の熱硬化性樹脂;アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂等の熱可塑性樹脂が挙げられる。これらの中でも、低誘電化剤との反応性の観点から、熱硬化性樹脂が好ましく、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂がより好ましい。
【0041】
ウレタン樹脂の具体例としては、ジフェニルメタンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネートからなる湿気硬化型ウレタン樹脂;ポリオールと芳香族イソシアネートまたは脂肪族イソシアネートからなるポリオール硬化型ウレタン樹脂;ポリオールとブロックイソシアネートからなるブロック型ウレタン樹脂等が挙げられ、これらのウレタン樹脂は、1種単独で用いても、2種以上を混合してもよい。
これらの中でも、特に入手容易性の観点から、湿気硬化型ウレタン樹脂、ポリオール硬化型ウレタン樹脂が好ましく、湿気硬化型ウレタン樹脂がより好ましい。
【0042】
エポキシ樹脂の具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、環状脂肪族型エポキシ樹脂、長鎖脂肪族型エポキシ樹脂、複素環式型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂等が挙げられ、これらのエポキシ樹脂は、1種単独で用いても、2種以上を混合してもよい。
これらの中でも、特に入手容易性の観点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、環状脂肪族型エポキシ樹脂が好ましく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂がより好ましい。
【0043】
シリコーン樹脂の具体例としては、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルボキシ変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、メタクリル変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン、フェノール変性シリコーン等が挙げられ、これらのシリコーン樹脂は、1種単独で用いても、2種以上を混合してもよい。これらの中でも、特に入手容易性の観点から、アミノ変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、メタクリル変性シリコーンが好ましく、エポキシ変性シリコーンがより好ましい。
【0044】
フェノール樹脂の具体例としては、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、ロジン変性フェノール樹脂等が挙げられ、これらのフェノール樹脂は、1種単独で用いても、2種以上を混合してもよい。これらの中でも、特に入手容易性の観点から、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂が好ましく、レゾール型フェノール樹脂がより好ましい。
【0045】
不飽和ポリエステル樹脂の具体例としては、不飽和酸型不飽和ポリエステル樹脂、芳香族飽和酸型不飽和ポリエステル樹脂、脂肪族飽和酸型不飽和ポリエステル樹脂、これらの不飽和ポリエステル樹脂は、1種単独で用いても、2種以上を混合してもよい。
これらの中でも、特に入手容易性の観点から、不飽和酸型不飽和ポリエステル樹脂、芳香族飽和酸型不飽和ポリエステル樹脂が好ましく、不飽和酸型不飽和ポリエステル樹脂がより好ましい。
【0046】
低誘電化剤の樹脂に対する添加量は、比誘電率と誘電正接を十分に低下させる観点から、樹脂に対して、好ましくは0.1~100質量%、より好ましくは0.2~80質量%、より一層好ましくは0.5~50質量%の範囲である。
【0047】
低誘電化剤の比誘電率は、周波数1MHzにおいて、好ましくは4.0ε以下、より好ましくは3.8ε以下、より一層好ましくは3.6ε以下であり、周波数1GHzにおいて、好ましくは4.4ε以下、より好ましくは4.2ε以下、より一層好ましくは4.0ε以下である。
【0048】
低誘電化剤の誘電正接は、周波数1MHzにおいて、好ましくは0.002tanδ以下、より好ましくは0.001tanδ以下、より一層好ましくは0.0005tanδであり、周波数1GHzにおいて、好ましくは0.2tanδ以下、より好ましくは0.1tanδ以下、より一層好ましくは0.05tanδ以下である。
【0049】
比誘電率と誘電正接の測定方法としては、特に制限はなく、同軸プローブ法、伝送ライン法、フリースペース法、空洞共振器法、平行板コンデンサ法、インダクタンス測定法等の分析手段を採用することができる。
【0050】
本発明の低誘電性樹脂組成物は、公知の硬化剤を添加することにより、樹脂組成物を硬化させることができる。
硬化剤の具体例としては、脂肪族アミン系硬化剤、芳香族アミン系硬化剤、変性アミン系硬化剤、イソシアネート系硬化剤、ブロックイソシアネート系硬化剤、イミダゾール系硬化剤、酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤、ポリアミノアミド系硬化剤、ポリメルカプタン系硬化剤、カチオン系硬化剤、アニオン系硬化剤等が挙げられ、これらの硬化剤は、1種単独で用いても、2種以上を混合してもよい。
これらの中でも、特に入手容易性の観点から、脂肪族アミン系硬化剤、芳香族アミン系硬化剤、イミダゾール系硬化剤、酸無水物系硬化剤、フェノール系硬化剤、ポリアミノアミド系硬化剤が好ましく、脂肪族アミン系硬化剤、芳香族アミン系硬化剤、イミダゾール系硬化剤、酸無水物系硬化剤がより好ましい。
【0051】
硬化剤の樹脂組成物に対する添加量は、十分な硬化の観点から、樹脂組成物のエポキシ基1モルに対して、好ましくは0.2~2モル、より好ましくは0.5~1.5モル、より一層好ましくは0.8~1.2モルの範囲である。
【0052】
さらに、本発明の低誘電性樹脂組成物は、樹脂組成物と硬化剤との硬化反応を促進するため、公知の硬化促進剤を添加してもよい。
硬化促進剤の具体例としては、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン等の有機リン化合物;エチルトリフェニルホスホニウムブロミド、テトラブチルホスホニウムO,O-ジエチルホスホロジチオエート等の第4級ホスホニウム塩;1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エンとオクチル酸との塩、オクチル酸亜鉛、テトラブチルアンモニウムブロミド等の第4級アンモニウム塩;2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール等のイミダゾール類;2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ベンジルジメチルアミン等のアミン類;溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、ボロンナイトライド、窒化アルミニウム、窒化珪素、マグネシア、マグネシウムシリケート、アルミニウム等の無機充填剤が挙げられ、これらの硬化促進剤は、1種単独で用いても、2種以上を混合してもよい。
これらの中でも、特に入手容易性の観点から、特に有機リン化合物、第4級アンモニウム塩、イミダゾール類、アミン類が好ましく、第4級アンモニウム塩、イミダゾール類、アミン類が好ましい。
【0053】
硬化促進剤の樹脂組成物に対する添加量は、十分な硬化促進の観点から、樹脂組成物中の硬化剤に対して、好ましくは0.001~1質量%、より好ましくは0.001~0.5質量%、より一層好ましくは0.001~0.1質量%の範囲である。
【0054】
本発明の低誘電性樹脂組成物を硬化させる方法は、樹脂組成物が硬化する限り特に制限はなく、低誘電化剤と樹脂の混合物を加熱して硬化する方法、低誘電化剤と樹脂の混合物に硬化剤、必要により硬化促進剤を添加して硬化する方法、硬化剤に低誘電化剤と樹脂の混合物を添加して硬化する方法等が挙げられる。
樹脂組成物の硬化物を得る方法としては、例えば、注型、注入、ポッティング、ディッピング、ドリップコーティング、トランスファー成形、圧縮成形、樹脂シート等の形態から積層板とする等が挙げられる。
【0055】
本発明の低誘電性樹脂組成物を硬化させる条件は、樹脂組成物が硬化する条件であれば特に制限されない。
硬化温度は、生産性の観点から、好ましくは20~200℃、より好ましくは50~150℃、より一層好ましくは80~120℃の範囲である。
硬化時間は、生産性の観点から、好ましくは1~10時間、より好ましくは1~5時間より一層好ましくは1~3時間の範囲であるが、上記硬化温度との関係において、適宜設定すればよい。
【0056】
本発明の低誘電化剤は、そのまま使用しても問題ないが、溶媒に希釈して用いてもよい。
溶媒の具体例としては、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、イソオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒;アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;メチルアルコール、エチルアルコール等のアルコール系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム等の塩素化炭化水素系溶媒等が挙げられ、これらの溶剤は、1種単独で用いても、2種以上を混合してもよい。
これらの中でも、低誘電化剤との相溶性の観点から、特に炭化水素系溶媒、ケトン系溶媒、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒が好ましく、炭化水素系溶媒、ケトン系溶媒、アルコール系溶媒がより好ましい。
【0057】
本発明の低誘電化剤を溶媒に希釈して用いる場合、シロキサン化合物の濃度は特に限定されないが、反応性、生産性の観点から、シロキサン化合物が、好ましくは0.001~50質量%、より好ましくは0.1~50質量%、より一層好ましくは0.1~10質量%の範囲となるように上記溶媒に希釈して用いるとよい。
【0058】
[3]低誘電化方法、低誘電化剤としての使用
本発明の低誘電化剤は、比誘電率と誘電正接が低いエポキシ変性シリコーン樹脂であるため、これを用いて硬化させた樹脂組成物の比誘電率と誘電正接を低下させることができる。
本発明の低誘電化剤を用いて得られる低誘電性樹脂組成物は、情報通信分野における高周波帯域で使用する電子材料として好適である。このような電子材料としては、例えば、光学薄膜、接着剤、積層板、絶縁膜、反射防止膜、封止材、プリント配線基板等が挙げられる。
【実施例
【0059】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
なお、以下の蒸留で得られた留分の純度は、以下のガスクロマトグラフィーの測定条件により測定した値であり、イオン性物質の含有量は、以下の滴定条件により行ったものであり、比誘電率と誘電正接の値は、以下の条件による誘電率測定により測定した値である。
[ガスクロマトグラフィーの測定条件]
ガスクロマトグラフ:GC-2014((株)島津製作所製)
パックドカラム:SiliconeSE-30(ジーエルサイエンス(株)製)
検出器:TCD
検出器温度:300℃
注入口温度:300℃
昇温プログラム:70℃(0分)→10℃/分→300℃(10分)
キャリアガス:ヘリウム(50ml/分)
注入量:1μl
[滴定条件]
滴定装置:自動滴定装置COM-2000(平沼産業(株)製)
滴定試薬:0.025N硝酸銀水溶液
滴定溶媒:アセトンメタノール混合溶液
方式:電位差滴定
試料量:2g
[低誘電化剤の誘電率測定条件(平行板コンデンサ法)]
LCRメータ:HP4284A(キーサイト・テクノロジー(株)製)
液体テスト・フィクスチャ:HP16452A(キーサイト・テクノロジー(株)製)
測定雰囲気:室温24℃空気中
周波数:1MHz
標準物質:空気
[低誘電化剤の誘電率測定条件(同軸プローブ法)]
インピーダンス・アナライザ:E4991B(キーサイト・テクノロジー(株)製)
誘電体プローブキット:N1501A-101(キーサイト・テクノロジー(株)製)
測定雰囲気:室温24℃空気中
周波数:1GHz
標準物質:空気、1-ブタノール
[樹脂組成物の誘電率測定条件(平行板コンデンサ法)]
LCRメータ:E4980A(キーサイト・テクノロジー(株)製)
誘電体テスト・フィクスチャ:16451B(キーサイト・テクノロジー(株)製)
測定雰囲気:室温25℃空気中
周波数:1KHz、1MHz
標準物質:空気
【0060】
[1]低誘電化剤の合成
[実施例1-1]1,1,1,3,5,5,5-ヘプタメチル-3-[2-(3,4-エポキシ)-シクロヘキシルエチル]トリシロキサンの合成
撹拌機、還流器、滴下ロートおよび温度計を備えたフラスコに、1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサン124.2g(1.000モル)、白金-1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液(白金原子として0.000010モル)を仕込み、50℃に加熱した。内温が安定した後、1,1,1,3,5,5,5-ヘプタメチルトリシロキサン222.5g(1.000モル)を10時間かけて滴下し、その温度で2時間撹拌した。
室温まで冷却後、得られた反応混合物を蒸留することで、沸点116~117℃/0.2kPaの無色透明留分338.7gを得た。得られた留分をガスクロマトグラフィーにて分析することにより、1,1,1,3,5,5,5-ヘプタメチル-3-[2-(3,4-エポキシ)-シクロヘキシルエチル]トリシロキサンの純度は99.9%(0.977モル、収率97.7%)であることが確認された。
【0061】
[実施例1-2]1,1,1,3,5,5,5-ヘプタメチル-3-(3-グリシジルオキシプロピル)トリシロキサンと1,1,1,3,5,5,5-ヘプタメチル-3-[1-メチル-2-(グリシジルオキシ)エチル]トリシロキサンの混合物の合成
撹拌機、還流器、滴下ロートおよび温度計を備えたフラスコに、アリルグリシジルエーテル114.1g(1.000モル)、白金-1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液(白金原子として0.000010モル)を仕込み、50℃に加熱した。内温が安定した後、1,1,1,3,5,5,5-ヘプタメチルトリシロキサン222.5g(1.000モル)を10時間かけて滴下し、その温度で2時間撹拌した。
室温まで冷却後、得られた反応混合物を蒸留することで、沸点105~110℃/0.4kPaの無色透明留分252.5gを得た。得られた留分をガスクロマトグラフィーにて分析することにより、1,1,1,3,5,5,5-ヘプタメチル-3-[3-(グリシジルオキシ)プロピル]トリシロキサンと1,1,1,3,5,5,5-ヘプタメチル-3-[1-メチル-2-(グリシジルオキシ)エチル]トリシロキサンの混合物としての純度は99.9%(0.750モル、収率75.0%)であることが確認された。
【0062】
[実施例1-3]1,1,1,5,5,5-ヘキサメチル-3-[2-(3,4-エポキシ)-シクロヘキシルエチル]-3-(トリメチルシロキシ)トリシロキサンの合成
撹拌機、還流器、滴下ロートおよび温度計を備えたフラスコに、1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサン124.2g(1.000モル)、白金-1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液(白金原子として0.000010モル)を仕込み、50℃に加熱した。内温が安定した後、1,1,1,5,5,5-ヘキサメチル-3-(トリメチルシロキシ)トリシロキサン296.7g(1.000モル)を10時間かけて滴下し、その温度で2時間撹拌した。
室温まで冷却後、得られた反応混合物に活性炭2.0gを添加し、その温度で2時間撹拌した。撹拌後、濾過により活性炭を除去した後、100℃/0.1kPaの条件で減圧濃縮することで、無色透明溶液391.4gを得た。得られた溶液をガスクロマトグラフィーにて分析することにより、1,1,1,5,5,5-ヘキサメチル-3-[2-(3,4-エポキシ)-シクロヘキシルエチル]-3-(トリメチルシロキシ)トリシロキサンの純度は99.9%(0.930モル、収率93.0%)であることが確認された。
【0063】
[実施例1-4]1,1,1,5,5,5-ヘキサメチル-3-(3-グリシジルオキシプロピル)-3-(トリメチルシロキシ)トリシロキサンと1,1,1,5,5,5-ヘキサメチル-3-[1-メチル-2-(グリシジルオキシ)エチル]-3-(トリメチルシロキシ)トリシロキサンの混合物の合成
撹拌機、還流器、滴下ロートおよび温度計を備えたフラスコに、アリルグリシジルエーテル114.1g(1.000モル)、白金-1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液(白金原子として0.000010モル)を仕込み、50℃に加熱した。内温が安定した後、1,1,1,5,5,5-ヘキサメチル-3-(トリメチルシロキシ)トリシロキサン296.7g(1.000モル)を10時間かけて滴下し、その温度で2時間撹拌した。
室温まで冷却後、得られた反応混合物に活性炭2.0gを添加し、その温度で2時間撹拌した。撹拌後、濾過により活性炭を除去した後、100℃/0.1kPaの条件で減圧濃縮することで、無色透明溶液299.9gを得た。得られた溶液をガスクロマトグラフィーにて分析することにより、1,1,1,5,5,5-ヘキサメチル-3-(3-グリシジルオキシプロピル)-3-(トリメチルシロキシ)トリシロキサンと1,1,1,5,5,5-ヘキサメチル-3-[1-メチル-2-(グリシジルオキシ)エチル]-3-(トリメチルシロキシ)トリシロキサンの混合物として純度は99.9%(0.730モル、収率73.0%)であることが確認された。
【0064】
[2]低誘電化剤の性能評価
実施例1-1で得られた1,1,1,3,5,5,5-ヘプタメチル-3-[2-(3,4-エポキシ)-シクロヘキシルエチル]トリシロキサンを、電位差滴定法で滴定することにより、イオン性物質の含有量は、0.00005質量%であることが確認された。
実施例1-2で得られた1,1,1,3,5,5,5-ヘプタメチル-3-(3-グリシジルオキシプロピル)トリシロキサンと1,1,1,3,5,5,5-ヘプタメチル-3-[1-メチル-2-(グリシジルオキシ)エチル]トリシロキサンの混合物を、電位差滴定法で滴定することにより、イオン性物質の含有量は、0.00008質量%であることが確認された。
実施例1-3で得られた1,1,1,5,5,5-ヘキサメチル-3-[2-(3,4-エポキシ)-シクロヘキシルエチル]-3-(トリメチルシロキシ)トリシロキサンを、電位差滴定法で滴定することにより、イオン性物質の含有量は、0.00005質量%であることが確認された。
実施例1-4で得られた1,1,1,5,5,5-ヘキサメチル-3-(3-グリシジルオキシプロピル)-3-(トリメチルシロキシ)トリシロキサンと1,1,1,5,5,5-ヘキサメチル-3-[1-メチル-2-(グリシジルオキシ)エチル]-3-(トリメチルシロキシ)トリシロキサンの混合物を、電位差滴定法で滴定することにより、イオン性物質の含有量は、0.00008質量%であることが確認された。
実施例1-1で得られたシロキサン化合物を、平行板コンデンサ法および同軸プローブ法で誘電率測定することにより、比誘電率と誘電正接を測定した。結果を表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
実施例1-1で得られたシロキサン化合物は、エポキシ基が結合するケイ素原子1モルに対し、トリアルキルシリル基が2モルであり、過剰のトリアルキルシリル基の効果により、比誘電率と誘電正接が低いエポキシ変性シリコーン樹脂であることが確認された。
【0067】
[3]樹脂組成物の調製
[実施例2-1]
ビスフェノールA型エポキシ樹脂のJER828(三菱ケミカル(株)製、エポキシ当量約190g/モル)100質量部に対し、室温下、実施例1-1で得られたシロキサン化合物を5質量部、硬化剤のトリエチレンテトラミン10質量部を添加し、100℃で2時間加熱した。室温まで冷却後、硬化した樹脂組成物を調製した。
【0068】
[実施例2-2]
シロキサン化合物を10質量部に変更した以外は、実施例2-1と同様にして硬化した樹脂組成物を調製した。
【0069】
[比較例2-1]
シロキサン化合物を用いない以外は、実施例2-1と同様にして硬化した樹脂組成物を調製した。
【0070】
[4]樹脂組成物の性能評価
上記実施例2-1~2-2および比較例2-1で調製した樹脂組成物を、平行板コンデンサ法で誘電率測定することにより、比誘電率と誘電正接を測定した。結果を表2に示す。
【0071】
【表2】
【0072】
表2に示されるように、実施例1-1で得られたシロキサン化合物を用いて硬化させた実施例2-1および2-2の樹脂組成物は、比誘電率および誘電正接のいずれもが低くなることが確認された。