(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】シリコンウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20240806BHJP
B24B 27/06 20060101ALI20240806BHJP
B28D 5/04 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
H01L21/304 611W
B24B27/06 D
B24B27/06 H
B24B27/06 N
B28D5/04 C
B28D5/04 D
(21)【出願番号】P 2021085156
(22)【出願日】2021-05-20
【審査請求日】2023-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】田中 佑宜
(72)【発明者】
【氏名】豊田 史朗
【審査官】湯川 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-262826(JP,A)
【文献】特開2008-140856(JP,A)
【文献】特開2008-078474(JP,A)
【文献】特開2015-156433(JP,A)
【文献】特開2018-207097(JP,A)
【文献】特開2021-034629(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 27/06
B28D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤソー又はバンドソーによりシリコンインゴットを切断して、主表面Aと主表面Bを有するシリコンウェーハを製造するシリコンウェーハの製造方法であって、
前記主表面Aを作り出す切断を行う第1の切断工程と、
前記主表面Bを作り出す切断を行う第2の切断工程と
を有し、
前記第1の切断工程における条件と前記第2の切断工程における条件を異なるものとすることにより、前記主表面Aに対するダメージと前記主表面Bに対するダメージを異ならせることを特徴とするシリコンウェーハの製造方法。
【請求項2】
前記第1の切断工程と前記第2の切断工程において、それぞれ異なる番手の砥粒を用いて切断を行うことを特徴とする請求項1に記載のシリコンウェーハの製造方法。
【請求項3】
前記第1の切断工程と前記第2の切断工程のうち、いずれか一方を固定砥粒を用いた切断を行うものとし、もう一方を遊離砥粒を用いた切断を行うものとすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシリコンウェーハの製造方法。
【請求項4】
前記ワイヤソーにより前記シリコンインゴットの切断を行い、
前記第1の切断工程と、前記第2の切断工程とを、それぞれ1回ずつ行うことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のシリコンウェーハの製造方法。
【請求項5】
前記バンドソーにより前記シリコンインゴットの切断を行い、
前記第1の切断工程と、前記第2の切断工程とを、交互に行うことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のシリコンウェーハの製造方法。
【請求項6】
前記製造するシリコンウェーハにおけるBowの絶対値を10μm以上とすることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のシリコンウェーハの製造方法。
【請求項7】
前記製造するシリコンウェーハにおける前記主表面A及び前記主表面Bのそれぞれを、光源波長を532nmとしたラマン分光法で測定したときのラマン分光スペクトルにおけるシリコンの1次ピーク位置の差が0.1cm
-1以上となるようにすることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のシリコンウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンウェーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体ウェーハ直径の大型化が望まれており、この直径大型化に伴い、インゴットの切断にはワイヤソーが使用されている。ワイヤソー装置は、例えば、ワイヤ(高張力鋼線)を高速走行させて、ここにスラリーを掛けながら、インゴット(ワーク)を押し当てて切断し、多数のウェーハを同時に切り出す装置である(特許文献1参照)。また、インゴットからウェーハを1枚ずつ切り出す装置としては例えばバンドソーがある。
【0003】
また、シリコンウェーハをエピタキシャル成長用基板とし、該エピタキシャル成長用基板上にエピタキシャル層を成長させる場合、格子不整合のため反りが発生することがある。その対策として、エピタキシャル成長用基板の研削または研磨加工により、エピタキシャル層による反りと逆向きの反りを持ったシリコンウェーハを製造する方法等がある(特許文献2)。この場合、エピタキシャル成長後にエピタキシャルウェーハをフラットにすることができる。
【0004】
また、エピタキシャルウェーハ以外でも、SOIウェーハ等の貼り合せ基板では、熱膨張係数の差から酸化膜とシリコン側との間に応力が発生し、片側のみ酸化膜が除去されると反りが発生する問題がある。このように、エピタキシャル成長用基板やSOIウェーハ等の貼り合わせ基板用のシリコン基板として、予め反りを有するシリコンウェーハが求められていた。
【0005】
特許文献3には、ワイヤソーによるワークの切断において、切断時に供給するスラリーの温度を変えることにより、ローラーのワーク軸方位の変位を制御することで、ワーク全体に渡り同一の形状に反らせて切断する方法が記載されている。
【0006】
特許文献4には、ワイヤソーにてワークを切断する際に、波状ワイヤーを使用し、ワークのフィード速度を制御することにより、一方向に反ったワーク形状を作製する方法が記載されている。
【0007】
特許文献5には、基板に凸状のSORIを有する一方の面と、凹状のSORIを有する他方の面を有し、厚みバラツキが3μm以下である基板で、成膜や高温熱処理を行っても変形の無い又は少ない基板とその製造方法が記載されている。
【0008】
特許文献6には、片面がワイヤソーによる切断面でもう一方の面が平面研削面であり、平研面が凹状の5~15μmの反りを有する圧電性基板であって、支持基板に有機接着層にて貼り合わされた時に変形の無い平らな基板とその製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平9-262826号公報
【文献】特開2008-140856号公報
【文献】特開2008-78474号公報
【文献】特開2015-156433号公報
【文献】特開2018-207097号公報
【文献】特開2021-34629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、エピタキシャル成長の成長用基板等の用途において、反りを有するシリコンウェーハが得られるシリコンウェーハの製造方法が求められていた。
【0011】
本発明は、反りを有するシリコンウェーハが得られる、新規なシリコンウェーハの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、ワイヤソー又はバンドソーによりシリコンインゴットを切断して、主表面Aと主表面Bを有するシリコンウェーハを製造するシリコンウェーハの製造方法であって、前記主表面Aを作り出す切断を行う第1の切断工程と、前記主表面Bを作り出す切断を行う第2の切断工程とを有し、前記第1の切断工程における条件と前記第2の切断工程における条件を異なるものとすることにより、前記主表面Aに対するダメージと前記主表面Bに対するダメージを異ならせることを特徴とするシリコンウェーハの製造方法を提供する。
【0013】
このようなシリコンウェーハの製造方法により、主表面Aと主表面Bとに異なる度合いのダメージを与えることができ、その結果、シリコンウェーハに反りを与えることができる。
【0014】
このとき、前記第1の切断工程と前記第2の切断工程において、それぞれ異なる番手の砥粒を用いて切断を行うことができる。
【0015】
また、前記第1の切断工程と前記第2の切断工程のうち、いずれか一方を固定砥粒を用いた切断を行うものとし、もう一方を遊離砥粒を用いた切断を行うものとすることができる。
【0016】
主表面Aと主表面Bとにそれぞれ異なる度合いのダメージを与えるためには、これらの手法を採用することができる。
【0017】
また、本発明のシリコンウェーハの製造方法では、前記ワイヤソーにより前記シリコンインゴットの切断を行い、前記第1の切断工程と、前記第2の切断工程とを、それぞれ1回ずつ行うことができる。
【0018】
このような方法により各切断工程を行うことによって、簡便な方法で各切断工程において切断条件を変更することができる。
【0019】
また、本発明のシリコンウェーハの製造方法では、前記バンドソーにより前記シリコンインゴットの切断を行い、前記第1の切断工程と、前記第2の切断工程とを、交互に行うことができる。
【0020】
このような方法により各切断工程を行うことによって、異なる度合いのダメージが与えられた主表面Aと主表面Bを有するシリコンウェーハを、シリコンインゴットから1枚ずつ製造することができる。
【0021】
また、本発明のシリコンウェーハの製造方法では、前記製造するシリコンウェーハにおけるBowの絶対値を10μm以上とすることができる。
【0022】
本発明のシリコンウェーハの製造方法では、反りの指標パラメータであるBowの値をこのように大きな値とすることができる。
【0023】
また、本発明のシリコンウェーハの製造方法では、前記製造するシリコンウェーハにおける前記主表面A及び前記主表面Bのそれぞれを、光源波長を532nmとしたラマン分光法で測定したときのラマン分光スペクトルにおけるシリコンの1次ピーク位置の差が0.1cm-1以上となるようにすることができる。
【0024】
このように、ラマン分光法によりシリコンウェーハの各主表面を測定することにより、簡便にダメージの度合いを評価することができる。また、シリコンウェーハの各主表面において上記ピーク差を有することによって、大きな反りを発生させることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明のシリコンウェーハの製造方法により、主表面Aと主表面Bとに異なる度合いのダメージを与えることができ、その結果、シリコンウェーハに反りを与えることができる。また、本発明のシリコンウェーハの製造方法では、シリコンウェーハに大きな反りを発生させることができる。このようにして製造されたシリコンウェーハは、例えば、エピタキシャルウェーハの製造において、エピタキシャル成長により発生する反りを打ち消すように用いることにより、エピタキシャルウェーハにおける反りを低減することができる。本発明のシリコンウェーハの製造方法により製造されたシリコンウェーハは反りが例えばBowの絶対値で10μm以上と大きな値とすることができるので、ヘテロエピタキシャル成長を行うような大きな反りを伴う操作を行う場合であっても、反りを打ち消すように本発明の製造方法によって製造したシリコンウェーハを使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明のシリコンウェーハの製造方法の一例を示すフロー図である。
【
図2】本発明のシリコンウェーハの製造方法における第1の態様の一例を模式的に示す概略断面図である。
【
図3】本発明のシリコンウェーハの製造方法の別の一例を示すフロー図である。
【
図4】本発明のシリコンウェーハの製造方法における第2の態様の一例を模式的に示す概略断面図である。
【
図5】実施例及び比較例のそれぞれのシリコンウェーハにおける、両主表面間のラマン分光スペクトルのシリコンの1次ピーク位置の差とBowの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
上述のように、従来より、反りを有するシリコンウェーハが得られるシリコンウェーハの製造方法が求められていた。
【0028】
本発明者らは、シリコンインゴットをスライスしてシリコンウェーハを製造するときに、ウェーハの表裏にダメージ差が生じると、ウェーハを反らせながら切断が進行し、最終的に大きく反ったウェーハを得られることを見出した。そこで本発明としては、主表面Aと主表面Bを有するシリコンウェーハを製造する際に、一方の主表面Aを作り出す第1の切断工程と、もう一方の主表面Bを作り出す第2の切断工程においてダメージ差が生じるように切断を行うことを想到した。本発明者らは、以上のような知見を元に、本発明を完成させた。
【0029】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0030】
本発明のシリコンウェーハの製造方法では、上記のように、シリコンインゴットを切断して、主表面Aと主表面Bを有するシリコンウェーハを製造する。このシリコンウェーハの製造方法では、まず、
図1のS11に示したように、主表面Aを作り出す切断を行う第1の切断工程を行う(工程S11)。次に、
図1のS12に示したように、主表面Bを作り出す切断を行う第2の切断工程を行う(工程S12)。なお、工程S11と工程S12は、後述のように、繰り返して行うこともできる。本発明では、上記の第1の切断工程(工程S11)における条件と第2の切断工程(工程S12)における条件を異ならせる。これにより、主表面Aに対するダメージと主表面Bに対するダメージを異ならせる。
【0031】
このようにして、シリコンウェーハの2つの主表面のうち、主表面Aに対するダメージと主表面Bに対するダメージを異ならせることにより、該シリコンウェーハに反りを発生させることができる。
【0032】
主表面Aと主表面Bに与えるダメージを異ならせるように切断条件を設定すればよく、設定する切断条件の差異については様々なものを採用することができる。例えば、第1の切断工程と第2の切断工程において、それぞれ異なる番手の砥粒を用いて切断を行うことが挙げられる。また、第1の切断工程と第2の切断工程のうち、いずれか一方を固定砥粒を用いた切断を行うものとし、もう一方を遊離砥粒を用いた切断を行うものとすることもできる。また、第1の切断工程及び第2の切断工程のともに加工液は特に限定されない。固定砥粒方式であれば純水でも問題なく、また遊離砥粒方式であれば界面活性剤などの添加物が含まれていても構わない。
【0033】
以下、さらに具体的に本発明の態様について説明する。
【0034】
[第1の態様]
この態様では、ワイヤソーによりシリコンインゴットの切断を行い、第1の切断工程と、第2の切断工程とを、それぞれ1回ずつ行う。この態様について、
図1と、
図2(a)~(d)に示した概略断面図を参照して説明する。この態様では、まず、
図2(a)に示したように、切断しようとするシリコンインゴット10を準備し、ワイヤソーの切断のため、ビーム41に固定する。次に、
図1のS11、
図2(b)に示したように、シリコンインゴット10に対して第1の切断工程を行う。第1の切断工程における切断箇所21は、主表面Aを作り出す切断箇所である(後述の
図2(d)参照)。このときの切断されたシリコンインゴット(ウェーハ列)11における、ウェーハ厚さ(隣り合う切断箇所21の間隔)は、最終的に製造するウェーハ31、32(後述の
図2(d)参照)の2倍程度以上とする。
【0035】
次に、
図1のS12、
図2(c)に示したように、第1の切断工程を行って切断されたシリコンインゴット(ウェーハ列)11に対して条件を変えて第2の切断工程を行う。第2の切断工程における切断箇所22は、主表面Bを作り出す切断箇所である(後述の
図2(d)参照)。第2の切断工程は、
図2(b)のウェーハ列11を構成する各ウェーハを半分程度の厚さで2分割するように行う。
【0036】
以上のようにして第1の切断工程及び第2の切断工程の両方により切断されたシリコンインゴット(ウェーハ列)12を得る。この切断されたシリコンインゴット(ウェーハ列)12をビーム41から取り外し、主表面Aと主表面Bを有するシリコンウェーハを得ることができる。
【0037】
図2(d)には、
図2(c)中の破線部30で囲んだ部分のシリコンウェーハ31、32を示した。
図2(d)に示したように、シリコンウェーハ31及びシリコンウェーハ32は、それぞれ主表面Aと主表面Bを有している。シリコンウェーハ31及びシリコンウェーハ32のそれぞれの主表面Aは
図2(b)に示した切断箇所21により作り出されたものであり、これらの主表面Aは、
図2(c)の段階では向かい合っている。また、シリコンウェーハ31及びシリコンウェーハ32のそれぞれの主表面Bは
図2(c)に示した切断箇所22により作り出されたものである。
【0038】
以下、製造されたシリコンウェーハ31を代表して説明する。本発明のシリコンウェーハの製造方法では、シリコンウェーハ31は、それぞれ異なる度合いのダメージを与えられた主表面Aと主表面Bを有する。そのため、シリコンウェーハ31に反りを発生させることができる。主表面Aに大きいダメージを与え、主表面Bに主表面Aよりも小さいダメージを与えた場合、主表面Aの側が凸に、主表面Bの側が凹になるようにシリコンウェーハ31に反りが発生する。本発明のシリコンウェーハの製造方法によって製造されたシリコンウェーハ31では、反りを大きくすることができ、特に、反りの指標パラメータであるBowの絶対値(|Bow|)を10μm以上とすることができる。
【0039】
Bowの絶対値が10μm以上であるようなシリコンウェーハは、ヘテロエピタキシャル成長用の基板としても十分に用いることができる。ヘテロエピタキシャル成長の場合、格子不整合が大きいが、上記のようにBowの絶対値が10μm以上もあれば、ヘテロエピタキシャル成長に伴う基板の反りを打ち消すように基板を用いることができる。
【0040】
また、製造したシリコンウェーハ31の反りの指標を、ラマン分光法により簡便に評価することもできる。この測定方法では、シリコンウェーハ31における主表面A及び主表面Bのそれぞれを、光源波長を532nmとしたラマン分光法で測定する。この測定は、光源波長532nmのレーザーラマン分光顕微鏡を用いて得たスペクトルから、シリコンの1次ピーク位置(520cm-1付近)をローレンツ関数によってフィッティングすることで求めることができる。例えば、ラマン分光顕微鏡を用いて、シリコンウェーハの表面50箇所で測定し、その1次ラマンピーク位置の平均値を求める。この平均値をダメージ量の指標として用いることができる。さらに、この1次ラマンピークの位置の測定を、主表面A及び主表面Bの両面に対して行い、そのピーク位置の差(Δ(A-B)と表すことができる。)とすることができる。
【0041】
本発明では、このラマン分光スペクトルにおけるシリコンの1次ピーク位置の差が0.1cm-1以上となるようにシリコンウェーハ31を製造することができる。ラマン分光スペクトルにおけるシリコンの1次ピーク位置は、シリコンウェーハに対するダメージの度合いと相関関係があるため、シリコンウェーハ31の反りをラマン分光スペクトルにより評価することができる。例えば、シリコンウェーハ31において、上記1次ピーク位置の差が0.1cm-1以上であれば、概ね、Bowの絶対値も10μm以上とすることができる。
【0042】
シリコンウェーハの主表面A及びBを作り出す切断においてどのような切断条件にすれば、Bowの絶対値やラマン分光法による1次ピーク位置の差がどの程度になるかは、実験を行って容易に決定することができる。
【0043】
このような第1の態様を行うことができるワイヤソーは通常のワイヤソー装置を用いることができる。ただし、上記のように切断箇所21、22の位置を調整する必要がある。そのような切断箇所21、22の位置の調整は、例えば、第1の切断工程において、ワイヤが巻回されていているローラーのワイヤ溝の奇数番にワイヤを通して切断を行い、その後に第1の切断工程においてワイヤ溝の偶数番に通して切断を行うことにより行うことができる。
【0044】
また、第1の態様では、通常のワイヤソー装置を用いることができ、また、第1の切断工程及び第2の切断工程は、ともに、固定砥粒方式又は遊離砥粒方式のいずれでも問題ない。また、上記のように、第1の切断工程と第2の切断工程においては、それぞれ異なる番手の砥粒を用いて切断を行うことができる。例えば、第1の切断工程で高番手の砥粒、第2の切断工程で低番手の砥粒とすることができる。なお、砥粒の番手を変えて切断を行う場合は、固定砥粒のほうが望ましい。固定砥粒であれば、切断を経ても実効的な番手が変わる可能性がほぼ変わらない。遊離砥粒方式の場合、砥粒を含む加工液がワイヤとインゴットの摺動部に供給されるが、加工液を循環して使用することが一般的である。この場合は切断を経て砥粒が破砕し、実効的な番手が変わってしまう可能性がある。ただし、その場合でも、第1の切断工程における条件と第2の切断工程における条件を異なるものとすることにより、本発明の効果を得ることができる。
【0045】
また、第1の態様では、第1の切断工程と第2の切断工程のうち、いずれか一方を固定砥粒を用いた切断を行うものとし、もう一方を遊離砥粒を用いた切断を行うものとすることにより、主表面Aに対するダメージと主表面Bに対するダメージを異ならせることもできる。この場合、固定砥粒を用いた切断と、遊離砥粒を用いた切断とは、異なる番手の砥粒であってもよく、同一の番手の砥粒であってもよい。
【0046】
[第2の態様]
この態様では、バンドソーによりシリコンインゴットの切断を行い、第1の切断工程と、前記第2の切断工程とを、交互に行う。この態様について、
図3と、
図4(a)~(f)に示した概略断面図を参照して説明する。この態様では、まず、
図4(a)に示したように、切断しようとするシリコンインゴット50を準備し、バンドソーの切断のため、固定部材81に固定する。次に、
図3のS21、
図4(b)に示したように、シリコンインゴット50に対して第1の切断工程を行う(工程S21)。第1の切断工程における切断箇所61は、主表面Aを作り出す切断箇所である。なお、この
図4(b)の第1の切断工程の段階で、一部が切断されたシリコンインゴット51とともに、シリコンウェーハ71が作製されるが、これは主表面Aと主表面Bを有するシリコンウェーハではない(
図4(g)も参照)。
【0047】
次に、
図3のS22、
図4(c)に示したように、第1の切断工程を行って一部が切断されたシリコンインゴット51に対して第2の切断工程を行う(工程S22)。第2の切断工程における切断箇所62は、主表面Bを作り出す切断箇所である。このようにして、第1の切断工程の切断位置61及び第2の切断工程の切断箇所62により、シリコンウェーハ72が製造される。シリコンウェーハ72は、
図4(c)、(g)に示したように、主表面Aと主表面Bを有している。また、
図4(c)に示したように、一部が切断されたシリコンインゴット52が残る。
【0048】
次に、
図3のS23、
図4(d)に示したように、一部が切断されたシリコンインゴット52に対して、再度、第1の切断工程を行う(工程S23)。これにより、第2の切断工程における切断箇所62と第1の切断工程における切断箇所63に挟まれたシリコンウェーハ73が製造される。このシリコンウェーハ73も、上記シリコンウェーハ72と同様に、主表面Aと主表面Bを有している(
図4(d)、(g)参照)。また、
図4(d)に示したように、一部が切断されたシリコンインゴット53が残る。
【0049】
次に、
図3のS24、
図4(e)に示したように、一部が切断されたシリコンインゴット53に対して、再度、第2の切断工程を行う(工程S24)。これにより、第1の切断工程における切断箇所63と第2の切断工程における切断箇所64に挟まれたシリコンウェーハ74が製造される。このシリコンウェーハ74も、上記シリコンウェーハ72、73と同様に、主表面Aと主表面Bを有している(
図4(e)、(g)参照)。また、
図4(e)に示したように、一部が切断されたシリコンインゴット54が残る。
【0050】
次に、
図3のS25、
図4(f)に示したように、一部が切断されたシリコンインゴット54に対して、再度、第1の切断工程を行う(工程S25)。これにより、第2の切断工程における切断箇所64と第1の切断工程における切断箇所65に挟まれたシリコンウェーハ75が製造される。このシリコンウェーハ75も、上記シリコンウェーハ72、73、74と同様に、主表面Aと主表面Bを有している(
図4(f)、(g)参照)。また、
図4(f)に示したように、一部が切断されたシリコンインゴット55が残る。
【0051】
以下、同様の繰り返しにより、主表面Aと主表面Bを有するシリコンウェーハを製造することができる。
【0052】
バンドソーは、通常、固定砥粒であるので、第1の切断工程と第2の切断工程では、砥粒の番手を異ならせることができる。
【0053】
[その他の態様]
本発明のシリコンウェーハの製造方法では、第1の切断工程における条件と第2の切断工程における条件を異なるものとすることによって、主表面Aに対するダメージと主表面Bに対するダメージを異ならせればよく、上記の第1の態様及び第2の態様以外の態様でもよい。例えば、第1の切断工程をワイヤーソーを用いて行い、第2の切断工程をバンドソーを用いて行うこともできる。この場合、ワイヤーソーを用いた切断は遊離砥粒で行い、バンドソーを用いた切断は固定砥粒で行うようなことも可能である。
【実施例】
【0054】
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて本発明についてより具体的に説明するが、これは本発明を限定するものではない。
【0055】
[実施例1~4の共通条件]
図1、
図2(a)~(d)に示した第1の態様のように、ワイヤソーを用いてシリコンインゴットの切断を行い、シリコンウェーハを製造した。
【0056】
まず、ワイヤソーにより切断するワークとして、直径約300mmの円柱状のシリコン単結晶インゴット10を準備した。このシリコン単結晶インゴット10をビーム41に固定した(
図2(a)参照)。ワイヤソーとしては、線径120μmのものを用いた。
【0057】
次に、
図1のS11、
図2(b)に示したように、線径120μmのワイヤソーを用いて、シリコンインゴット10を切断した(工程S11、第1の切断工程)。次に、
図1のS12、
図2(c)に示したように、線径120μmのワイヤソーを用いて、切断されたシリコンインゴット(ウェーハ列)11をさらに切断した(工程S12、第2の切断工程)。なお、切断時の送り速度は0.25mm/min、張力は25Nとした。ワイヤの走行速度に関しては、遊離砥粒の場合は800m/min、固定砥粒の場合は1200m/minとした。
【0058】
このようにして、主表面Aと主表面Bを有するシリコンウェーハを製造し、各実施例ごとにサンプルを5枚取り出した。
【0059】
各実施例の切断条件は以下の通りである。
(実施例1)
第1の切断工程は番手#1000の固定砥粒ワイヤを用いて、第2の切断工程は番手#1200の固定砥粒ワイヤを用いた。
(実施例2)
第1の切断工程は番手#1000の固定砥粒ワイヤを用いて、第2の切断工程は番手#1500の固定砥粒ワイヤを用いた。
(実施例3)
第1の切断工程は番手#1000の固定砥粒ワイヤを用いて、第2の切断工程は番手#2000の固定砥粒ワイヤを用いた。
(実施例4)
第1の切断工程は番手#2000の遊離砥粒ワイヤを用いて、第2の切断工程は番手#2000の固定砥粒ワイヤを用いた。
【0060】
[比較例1]
基本的には実施例1~4と同様に行ったが、第1の切断工程、第2の切断工程ともに、番手#1000のダイヤモンド砥粒の固定砥粒で同じ条件で切断を行った。切断位置は実施例1~4と同様とした。
【0061】
[測定結果]
(Bowの絶対値)
実施例、比較例でそれぞれ切断して製造した5枚のシリコンウェーハを静電容量式の変位計であるコベルコ科研製SWB-330で測定し、得られた直径プロファイルから、Bowを求めた。そして、Bowの絶対値の5枚の平均値を算出した。
【0062】
(ラマン分光法による測定)
・実施例、比較例でそれぞれ切断して製造した5枚のシリコンウェーハについて、ナノフォトン社のラマン分光顕微鏡にて面内3点を測定し、3点×5枚=15点のピーク位置の平均値を算出した。
【0063】
各実施例及び比較例の切断条件及び測定結果を、表1及び
図5に示した。
【0064】
【0065】
[測定結果]
実施例1~4では、ピーク差を0.07cm-1以上とすることができ、また、Bowの絶対値を6μm以上とすることができた。これにより、製造したシリコンウェーハに反りを与えることができた。
【0066】
また、
図5からわかるように、上記の実施例及び比較例において、主表面Aと主表面Bのラマンピーク位置の差が0.1cm
-1を超えた場合において|Bow|が10μmを超える反りを生成することができた。
【0067】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0068】
10…シリコンインゴット、
11、12…切断されたシリコンインゴット(ウェーハ列)、
21…第1の切断工程における切断箇所、
22…第2の切断工程における切断箇所、
30…破線部、
31、32…シリコンウェーハ、
41…ビーム、
A…主表面A、 B…主表面B、
50…シリコンインゴット、
51、52、53、54、55…一部が切断されたシリコンインゴット、
61、63、65…第1の切断工程における切断箇所、
62、64…第2の切断工程における切断箇所、
71、72、73、74、75…シリコンウェーハ、
81…固定部材。