(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】ペリクルフレーム、ペリクル、ペリクル付露光原版、半導体の製造方法、液晶表示板の製造方法及び露光方法
(51)【国際特許分類】
G03F 1/64 20120101AFI20240806BHJP
【FI】
G03F1/64
(21)【出願番号】P 2022521945
(86)(22)【出願日】2021-05-12
(86)【国際出願番号】 JP2021017960
(87)【国際公開番号】W WO2021230262
(87)【国際公開日】2021-11-18
【審査請求日】2022-11-17
(31)【優先権主張番号】P 2020085355
(32)【優先日】2020-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】簗瀬 優
【審査官】藤田 健
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-191902(JP,A)
【文献】特開平09-068792(JP,A)
【文献】国際公開第2018/116517(WO,A1)
【文献】特表2016-524184(JP,A)
【文献】特開2000-305254(JP,A)
【文献】特開2011-008082(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
EUV露光用のペリクルフレームであって、該ペリクルフレームには少なくとも1個の通気部が設けられ、該通気部内には、フィルターが取り付けられ、
該フィルターは、水素ラジカルで劣化する多孔質膜を樹脂
(但し、粘着剤を除く。)で被覆してなることを特徴とするペリクルフレーム。
【請求項2】
水素プラズマ環境下で使用されるペリクルフレームであって、該ペリクルフレームには少なくとも1個の通気部が設けられ、該通気部内には、フィルターが取り付けられ、
該フィルターは、水素ラジカルで劣化する多孔質膜を樹脂
(但し、粘着剤を除く。)で被覆してなることを特徴とするペリクルフレーム。
【請求項3】
上記多孔質膜が、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂及びポリオレフィン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂からなる樹脂製多孔質膜である請求項1又は2記載のペリクルフレーム。
【請求項4】
上記多孔質膜が、ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜である請求項1又は2記載のペリクルフレーム。
【請求項5】
上記多孔質膜を被覆する樹脂が、シリコーン樹脂又はエポキシ樹脂である請求項1又は2記載のペリクルフレーム。
【請求項6】
上記フィルターが、多孔質膜を支持する通気性支持層を有する請求項1又は2記載のペリクルフレーム。
【請求項7】
上記多孔質膜が、複数のノードと複数のフィブリルとを有し、隣り合うノードがフィブリルにより接続されている請求項1又は2記載のペリクルフレーム。
【請求項8】
上記通気性支持層が、織布、不織布、ネット及びメッシュからなる群より選択される少なくとも一つである請求項6記載のペリクルフレーム。
【請求項9】
ペリクルフレームの厚みは、2.5mm未満である請求項1又は2記載のペリクルフレーム。
【請求項10】
請求項1又は2記載のペリクルフレームにペリクル膜が張設されることを特徴とするペリクル。
【請求項11】
ペリクルの高さが2.5mm以下である請求項10記載のペリクル。
【請求項12】
上記ペリクル膜は、枠に支えられたペリクル膜である請求項10記載のペリクル。
【請求項13】
露光原版に請求項10記載のペリクルが装着されていることを特徴とするペリクル付露光原版。
【請求項14】
請求項13記載のペリクル付露光原版を用いてEUV露光することを特徴とする露光方法。
【請求項15】
請求項13記載のペリクル付露光原版によってEUV露光する工程を備えることを特徴とする半導体の製造方法。
【請求項16】
請求項13記載のペリクル付露光原版によって、水素プラズマ環境下で露光が行われることを特徴とする露光方法。
【請求項17】
請求項13記載のペリクル付露光原版によって、水素プラズマ環境下で露光する工程を備えることを特徴とする半導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペリクルフレーム、ペリクル、ペリクル付露光原版、半導体の製造方法、液晶表示板の製造方法及び露光方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LSIのデザインルールはサブクオーターミクロンへと微細化が進んでおり、それに伴って、露光光源の短波長化が進んでいる。すなわち、露光光源は水銀ランプによるg線(436nm)、i線(365nm)から、KrFエキシマレーザー(248nm)、ArFエキシマレーザー(193nm)などに移行しており、さらには主波長13.5nmのEUV(Extreme Ultra Violet)光を使用するEUV露光が検討されている。
【0003】
LSI、超LSIなどの半導体製造又は液晶表示板の製造においては、半導体ウエハまたは液晶用原板に光を照射してパターンを作製するが、この場合に用いるリソグラフィ用フォトマスク及びレチクル(以下、総称して「露光原版」と記述する)にゴミが付着していると、このゴミが光を吸収したり、光を曲げてしまうために、転写したパターンが変形したり、エッジが粗雑なものとなるほか、下地が黒く汚れたりして、寸法、品質、外観などが損なわれるという問題があった。
【0004】
これらの作業は、通常クリーンルームで行われているが、それでも露光原版を常に清浄に保つことは難しい。そこで、露光原版表面にゴミよけとしてペリクルを貼り付けた後に露光をする方法が一般に採用されている。この場合、異物は露光原版の表面には直接付着せず、ペリクル上に付着するため、リソグラフィ時に焦点を露光原版のパターン上に合わせておけば、ペリクル上の異物は転写に無関係となる。
【0005】
このペリクルの基本的な構成は、アルミニウムやチタンなどからなるペリクルフレームの上端面に露光に使われる光に対し透過率が高いペリクル膜が張設されるとともに、下端面に気密用ガスケットが形成されているものである。気密用ガスケットは一般的に粘着剤層が用いられ、この粘着剤層の保護を目的とした保護シートが貼り付けられる。ペリクル膜は、露光に用いる光(水銀ランプによるg線(436nm)、i線(365nm)、KrFエキシマレーザー(248nm)、ArFエキシマレーザー(193nm)等)を良く透過させるニトロセルロース、酢酸セルロース、フッ素系ポリマーなどからなるが、EUV露光用では、ペリクル膜として極薄シリコン膜や炭素膜が検討されている。
【0006】
ところで、ペリクル用フィルターとしては、その異物補修能力からHEPAフィルター(High Efficiency Particulate Air Filter)やULPAフィルター(Ultra Low Penetration Air Filter)フィルターで使用されるような多孔質膜が使用されてきた。EUV用ペリクルにおいても、例えば特許文献1に記載されている通り、同様のフィルターを用いることが検討されている。
【0007】
しかしながら、EUV露光装置内には、EUV光を発生させる際に生じる飛散粒子(デブリ)と呼ばれる異物を効率よく除去するために、水素ガスで満たされている。その水素ガスがEUV光と反応し、水素ラジカルとなる。そのため、EUV用ペリクルには、従来のKrFペリクルやArFペリクルでは必要とされてこなかった、水素ラジカルに十分に耐性が求められる。
【0008】
一般的に、フィルターは異物捕集のために、多孔質膜を有し、多孔質膜の間隙を気体が通過する際に、異物を多孔質膜で捕獲し、異物の無い気体のみを通過させる。その性質から、多孔質膜はペリクルで使用される部材の中でも、最も表面積が大きく、水素ラジカルを含む気体に最も晒されることが容易に想像できる。このため、多孔質膜が水素ラジカルで劣化し、間隙が大きくなると異物捕集率も低下しうる。それ故に、フィルターに使用される多孔質膜には高い水素ラジカル耐性が必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、EUV露光において水素ラジカルに十分に耐性のあるペリクルフレーム、及び該ペリクルフレームを用いたペリクル、ペリクル付露光原版、半導体の製造方法、液晶表示板の製造方法及び露光方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、EUV露光において水素ラジカルに耐性のあるペリクルフレームとして、ペリクルフレームに設けられる通気部内に、樹脂で被覆された多孔質膜を有するフィルターを設けること、好ましくは、多孔質膜を被覆する樹脂をシリコーン樹脂又はエポキシ樹脂で形成することにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0012】
従って、本発明は、下記のペリクルフレーム、ペリクル、ペリクル付露光原版、半導体の製造方法、液晶表示板の製造方法及び露光方法を提供する。
1.EUV露光用のペリクルフレームであって、該ペリクルフレームには少なくとも1個の通気部が設けられ、該通気部内には、樹脂で被覆された多孔質膜を有するフィルターが取り付けられることを特徴とするペリクルフレーム。
2.上記多孔質膜が、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂及びポリオレフィン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂からなる樹脂製多孔質膜である上記1記載のペリクルフレーム。
3.上記多孔質膜が、ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜である上記1記載のペリクルフレーム。
4.上記多孔質膜を被覆する樹脂が、シリコーン樹脂又はエポキシ樹脂である上記1又は2記載のペリクルフレーム。
5.上記フィルターが、多孔質膜を支持する通気性支持層を有する上記1又は2記載のペリクルフレーム。
6.上記多孔質膜が、複数のノードと複数のフィブリルとを有し、隣り合うノードがフィブリルにより接続されている上記1又は2記載のペリクルフレーム。
7.上記通気性支持層が、織布、不織布、ネット及びメッシュからなる群より選択される少なくとも一つである上記5記載のペリクルフレーム。
8.ペリクルフレームの厚みは、2.5mm未満である上記1又は2記載のペリクルフレーム。
9.EUV露光用のペリクルであって、上記1記載のペリクルフレームにペリクル膜が張設されることを特徴とするペリクル。
10.ペリクルの高さが2.5mm以下である上記9載のペリクル。
11.上記ペリクル膜は、枠に支えられたペリクル膜である上記9又は10記載のペリクル。
12.露光原版に上記9記載のペリクルが装着されていることを特徴とするペリクル付露光原版。
13.露光原版が、EUV用露光原版である上記12記載のペリクル付露光原版。
14.EUVリソグラフィに用いられるペリクル付露光原版である上記12記載のペリクル付露光原版。
15.上記12記載のペリクル付露光原版を用いてEUV露光することを特徴とする露光方法。
16.上記12記載のペリクル付露光原版によってEUV露光する工程を備えることを特徴とする半導体の製造方法。
17.上記12記載のペリクル付露光原版によってEUV露光する工程を備えることを特徴とする液晶表示板の製造方法。
18.水素プラズマ環境下で使用されるペリクルフレームであって、該ペリクルフレームには少なくとも1個の通気部が設けられ、該通気部内には、樹脂で被覆された多孔質膜を有するフィルターが取り付けられることを特徴とするペリクルフレーム。
19.上記多孔質膜が、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂及びポリオレフィン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂からなる樹脂製多孔質膜である上記18記載のペリクルフレーム。
20.上記多孔質膜が、ポリテトラフルオロエチレン多孔質膜である上記18記載のペリクルフレーム。
21.上記多孔質膜を被覆する樹脂が、シリコーン樹脂又はエポキシ樹脂である上記18又は19記載のペリクルフレーム。
22.上記フィルターが、多孔質膜を支持する通気性支持層を有する上記18又は19記載のペリクルフレーム。
23.上記多孔質膜が、複数のノードと複数のフィブリルとを有し、隣り合うノードがフィブリルにより接続されている上記18又は19記載のペリクルフレーム。
24.上記通気性支持層が、織布、不織布、ネット及びメッシュからなる群より選択される少なくとも一つである上記22記載のペリクルフレーム。
25.ペリクルフレームの厚みは、2.5mm未満である上記18又は19記載のペリクルフレーム。
26.水素プラズマ環境下で使用されるペリクルであって、請求項18記載のペリクルフレームにペリクル膜が張設されることを特徴とするペリクル。
27.ペリクルの高さが2.5mm以下である上記26記載のペリクル。
28.上記ペリクル膜は、枠に支えられたペリクル膜である上記26又は27記載のペリクル。
29.水素プラズマ環境下で使用されるペリクル付露光原版であって、露光原版に請求項26記載のペリクルが装着されていることを特徴とするペリクル付露光原版。
30.露光原版が、EUV用露光原版である上記29記載のペリクル付露光原版。
31.EUVリソグラフィに用いられるペリクル付露光原版である上記29記載のペリクル付露光原版。
32.上記29記載のペリクル付露光原版によって、水素プラズマ環境下で露光が行われることを特徴とする露光方法。
33.上記29記載のペリクル付露光原版によって、水素プラズマ環境下で露光する工程を備えることを特徴とする半導体の製造方法。
34.上記29記載のペリクル付露光原版によって、水素プラズマ環境下で露光する工程を備えることを特徴とする液晶表示板の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、EUV露光において水素ラジカルに十分に耐性のあるペリクルフレーム及びペリクルを提供することができ、このペリクル付露光原版を用いたEUV露光方法、半導体の製造方法及び液晶表示板の製造方法に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明のペリクルフレームの一例を示す平面図である。
【
図2】上記ペリクルフレームのA-A線に沿った断面であって、通気部及びフィルター部を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明につき、更に詳しく説明する。
本発明は、ペリクル膜を設ける上端面とフォトマスクに面する下端面とを有する枠状のペリクルフレームおよびそれを使用したペリクルである。
【0016】
ペリクルフレームは枠状であれば、その形状はペリクルを装着するフォトマスクの形状に対応する。一般的には、四角形(長方形又は正方形)枠状である。ペリクルフレームの角部(エッジ部)の形状については、そのまま角ばった(尖った)形状であってもよく、或いは、R面取り又はC面取り等の面取りを施し、曲線形状等の他の形状であってもよい。
【0017】
また、ペリクルフレームには、ペリクル膜を設けるための面(ここでは上端面とする)と、フォトマスク装着時にフォトマスクに面する面(ここでは下端面とする)がある。
【0018】
通常、上端面には、接着剤等を介してペリクル膜が設けられ、下端面には、ペリクルをフォトマスクに装着するための粘着剤等が設けられるが、この限りではない。
【0019】
ペリクルフレームの材質に制限はなく、公知のものを使用することができる。EUV用のペリクルフレームでは、高温にさらされる可能性があるため、熱膨張係数の小さな材料が好ましい。例えば、Si、SiO2、SiN、石英、インバー、チタン、チタン合金等が挙げられ、なかでも加工容易性や軽量なことからチタンやチタン合金が好ましい。
【0020】
ペリクルフレームの寸法は特に限定されないが、EUV用ペリクルの高さが2.5mm以下に制限されることから、EUV用のペリクルフレームの厚みはそれよりも小さくなり2.5mm未満である。
【0021】
また、EUV用のペリクルフレームの厚みは、ペリクル膜やマスク粘着剤等の厚みを勘案すると、1.5mm以下であることが好ましい。また、上記ペリクルフレームの厚みの下限値は1.0mm以上であることが好ましい。
【0022】
また、通常、ペリクルフレーム側面には、ハンドリングやペリクルをフォトマスクから剥離する際に用いられる冶具穴が設けられる。冶具穴の大きさはフレームの厚み方向の長さ(円形の場合は直径)が0.5~1.0mmである。穴の形状に制限はなく、円形や矩形であっても構わない。
【0023】
本発明では、ペリクルフレームには、ペリクル内外の圧力変化を緩和するための通気部が設けられる。通気部の形状や個数に制限はない。通気部にはペリクル内への異物侵入を防ぐために、フィルターが設けられる。フィルターの設置場所は特に制限は無く、ペリクルフレームの内側や、通気部の内部、あるいはペリクルフレームの外側にフィルターを設けることができる。
【0024】
本発明のペリクルフレームは、水素ラジカル耐性のある樹脂で被覆された多孔質膜を有するフィルターを持つことを特徴とする。多孔質膜としては、特に制限はないが、例えば、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂及びポリオレフィン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の樹脂から選ばれることが好適である。特に、KrFペリクルやArFペリクルとして使用実績のあるフッ素樹脂が好ましく、その中でも特に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)であることが好ましい。
【0025】
PTFE多孔質膜は、一般に、PTFEの凝集部分であるノード(結節)と、ノードに両末端が結合した微細な繊維状構造体である無数のフィブリルとにより構成される。隣り合うノードはフィブリルにより接続されている。PTFE多孔質膜は、隣接するフィブリル間の空間(細孔)を通気経路とする、膜厚方向の通気性を有する。PTFE多孔質膜は延伸多孔質膜とも呼ばれ、PTFEの凝集体であるPTFEシートの延伸により形成される。PTFEシートの延伸によってノード及びフィブリルが形成され、これらの構成は、例えばPTFEシートの延伸条件によって変化する。
【0026】
この多孔質膜を被覆する樹脂については、充分な水素ラジカル耐性を有することが好ましく、具体的には、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。これらの中でも水素ラジカル耐性の観点からシリコーン樹脂又はエポキシ樹脂であることが好ましく、シリコーン樹脂であることがより好ましい。多孔質膜を樹脂で被覆する方法に特に制限はないが、樹脂溶液を調整し、多孔質膜に含ませる方法が容易であり、好ましい。多孔質膜に樹脂溶液を含ませる方法に制限はなく、例えば、多孔質膜を樹脂溶液に浸す、樹脂溶液を多孔質膜にスピンコーティングする、スプレーするなどの方法が可能である。樹脂溶液を用いることで、多孔質膜の隙間に容易に溶液が広がり、多孔質膜の繊維に樹脂を被覆することができる。なお、本発明において、樹脂による多孔質膜の被覆は、多孔質膜の全表面を被覆する必要は必ずしもなく、求められる水素ラジカル耐性に応じて被覆量や被覆割合を調整することができる。これら樹脂を光や熱により架橋・硬化させることにより水素ラジカル耐性を向上させることもできる。
【0027】
本発明において、フィルターは、多孔質膜以外の他の任意の部材を備えることができる。当該部材は、例えば、通気性支持層である。この場合、フィルターは、多孔質膜と、当該多孔質膜の一方の主面に配置された通気性支持層とを備える。通気性支持層の配置により、フィルターとしての強度が向上し、また、取扱性も向上する。
【0028】
通気性支持層は、好ましくは、多孔質膜に比べて厚さ方向の通気性及び透湿性が高い層である。通気性支持層には、例えば、織布、不織布、ネット、メッシュを用いることができる。通気性支持層を構成する材料は、例えば、ポリエステル、ポリエチレン、アラミド樹脂である。通気性支持層の形状は、多孔質膜の形状と同一であってもよいし、異なっていてもよい。通気性支持層は、例えば、多孔質膜との熱溶着、接着剤による接着等の手法により配置される。通気性支持層は、多孔質膜の一方の主面に配置されていても、双方の主面に配置されていてもよい。これら通気性支持層を前述した樹脂で被覆してもよい。
【0029】
また、ペリクル膜の材質に制限はないが、露光光源の波長における透過率が高く耐光性の高いものが好ましい。例えば、EUV露光に対しては極薄シリコン膜や炭素膜等が用いられる。炭素膜としては、例えば、グラフェン、ダイヤモンドライクカーボン、カーボンナノチューブ等の膜が挙げられる。なお、ペリクル膜単独での取り扱いが難しい場合には、シリコン等の枠に支えられたペリクル膜を用いることができる。その場合、枠の領域とペリクルフレームとを接着することにより、ペリクルを容易に製造することができる。
【0030】
本発明のペリクルは、上記のようなペリクルフレーム上端面に、粘着剤あるいは接着剤を介して、ペリクル膜が設けられる。粘着剤や接着剤の材料に制限はなく、公知のものを使用することができる。ペリクル膜を強く保持するために、接着力の強い粘着剤あるいは接着剤が好ましい。
【0031】
さらに、ペリクルフレームの下端面には、フォトマスクに装着するための粘着剤が形成される。一般的に、マスク粘着剤は、ペリクルフレームの全周にわたって設けられることが好ましい。
【0032】
マスク粘着剤としては、公知のものを使用することができ、アクリル系粘着剤やシリコーン系粘着剤が好適に使用できる。粘着剤は必要に応じて、任意の形状に加工されてもよい。
【0033】
マスク粘着剤の下端面には、粘着剤を保護するための離型層(セパレータ)が貼り付けられていてもよい。離型層の材質は、特に制限されないが、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリエチレン(PE)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリプロピレン(PP)等を使用することができる。また、必要に応じて、シリコーン系離型剤やフッ素系離型剤等の離型剤を離型層の表面に塗布してもよい。
【0034】
本発明のペリクルは、露光装置内で、露光原版に異物が付着することを抑制するための保護部材としてだけでなく、露光原版の保管時や、露光原版の運搬時に露光原版を保護するための保護部材としてもよい。ペリクルをフォトマスク等の露光原版に装着し、ペリクル付露光原版を製造する方法には、前述したマスク粘着剤で貼り付ける方法の他、静電吸着法、機械的に固定する方法等がある。
【0035】
本実施形態に係る半導体又は液晶表示板の製造方法は、上記のペリクル付露光原版によって基板(半導体ウエハ又は液晶用原板)を露光する工程を備える。例えば、半導体装置又は液晶表示板の製造工程の一つであるリソグラフィ工程において、集積回路等に対応したフォトレジストパターンを基板上に形成するために、ステッパーに上記のペリクル付露光原版を設置して露光する。一般に、EUV露光ではEUV光が露光原版で反射して基板へ導かれる投影光学系が使用され、これらは減圧又は真空下で行われる。これにより、仮にリソグラフィ工程において異物がペリクル上に付着したとしても、フォトレジストが塗布されたウエハ上にこれらの異物は結像しないため、異物の像による集積回路等の短絡や断線等を防ぐことができる。よって、ペリクル付露光原版の使用により、リソグラフィ工程における歩留まりを向上させることができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0037】
〔フィルターの水素ラジカル耐性評価〕
15cm角のポリテトラフルオロエチレン製の多孔質膜(PTFE製多孔質膜)及びポリプロピレン製メッシュ状支持体からなるフィルター(日東電工(株)製「TEMISH S-NTF1033-N01」)を準備した。このフィルターに以下の(1)~(6)の各樹脂の1質量%溶液を800rpm、60秒でスピンコーティングした後、12時間、室温で風乾して溶剤を揮発させた。
(1)シリコーン樹脂系粘着剤
(2)エポキシ樹脂系接着剤
(3)アクリル樹脂系粘着剤
(4)フッ素樹脂
(5)ウレタン樹脂系粘着剤
(6)未処理
【0038】
上記樹脂を被覆したフィルターに下記装置にて水素プラズマ照射を実施した。
(水素プラズマ照射条件)
装置:OXFORD INSTRUMENTS社製 FlexAL
プラズマ源:ICP(誘導結合型プラズマ)
処理条件:圧力 80mTorr、H2流量 50sccm
パワー:200W
処理温度:100℃
処理時間:600s
【0039】
水素プラズマ照射後のフィルターを顕微鏡(ニコン社製の「ECLIPSE LV150」)で観察し、以下のように判断した。その結果を表1に示す。
(判断基準)
A:PTEF製多孔質膜が存在し、フィルター構造に変化が無いことを確認した。
B:PTFE製多孔質膜の消失を確認した。
【0040】
【0041】
表1の結果から、シリコーン樹脂又はエポキシ樹脂で被覆した多孔質膜を有するフィルターは水素プラズマ耐性が優れることが確認できた。また、上記条件では、アクリル樹脂、フッ素樹脂及びウレタン樹脂で被覆した多孔質膜を有するフィルターについては、水素プラズマにより多孔質膜が消失した。しかしながら、水素プラズマのパワーを小さくしたり、温度を低くしたり、処理時間を短くしたりすることで、未処理のフィルターと比較すると、その優位性を確認することができる。
【0042】
〔実施例1〕
チタン製のペリクルフレーム(外寸150mm×118mm×1.5mm、ペリクルフレーム幅4.0mm)を準備した。
図1、
図2に示すように、ペリクルフレーム1の外側から下端面にかけて、L字型に通気部10を設けた。なお、
図1及び
図2において、符号1aはペリクルフレームの上端面を示し、1bはペリクルフレームの下端面を示す。符号20は、後述するように、ペリクルフレームの下端面開口部に設けられるフィルターであり、特に図示してはいないが所定の樹脂により被覆されている。
【0043】
PTFE製多孔質膜及びポリプロピレン製メッシュ状支持体からなる縦10mm、横2.5mmのフィルター(日東電工(株)製の「TEMISH S-NTF1033-N01」)を準備した。続いて、シリコーン樹脂系粘着剤(信越化学工業(株)製「X-40-3264」)100質量部に硬化剤(信越化学工業(株)製「PT-56」)1質量部を加えて攪拌したものを炭化水素系溶剤(エクソンモービル社製の「アイソパーE」に溶解させ、1質量%からなる溶液を準備した。この溶液をフィルターの中心部に1ml浸み込ませた後、室温で2時間風乾して、完全に溶剤を揮発させた。ペリクルフレームの下端面開口部に上記フィルター(
図2中の符号20)を両面テープで貼り付けた。
【0044】
上記ペリクルフレームを中性洗剤と純水で洗浄し、該ペリクルフレームの上端面にはシリコーン樹脂系粘着剤(信越化学工業(株)製「X-40-3264」)100質量部に硬化剤(信越化学工業(株)製「PT-56」)1質量部を加えて攪拌したものを幅1mm、厚み0.1mmになるよう塗布した。また、ペリクルフレームの下端面にはマスク粘着剤として、アクリル樹脂系粘着剤(綜研化学(株)製「SKダイン1499M」)100質量部に硬化剤(綜研化学(株)製「L-45」)0.1質量部を加えて攪拌したものを全周に渡り、幅1mm、厚み0.1mmになるよう塗布した。
【0045】
その後、ペリクルフレームを100℃で12時間加熱して、上下端面の粘着剤を硬化させた。続いて、ペリクル膜として極薄シリコン膜を、ペリクルフレームの上端面に形成した上記粘着剤に圧着させて、ペリクルを完成させた。
【0046】
〔実施例2〕
PTFE製多孔質膜及びポリプロピレン製メッシュ状支持体からなる縦10mm、横2.5mmのフィルター(日東電工(株)製の「TEMISH S-NTF1033-N01」)を準備した。続いて、エポキシ樹脂系接着剤(三菱ケミカル社製の「1001T75」)をトルエンに溶解させ、1質量%からなる溶液を準備した。この溶液をフィルターの中心部に1ml浸み込ませた後、室温で2時間風乾して、完全に溶剤を揮発させた。ペリクルフレームの下端面開口部に上記フィルターを両面テープで貼り付けた。そのほかは、上記実施例1と同じようにペリクルを完成させた。
【0047】
上記実施例1及び実施例2により、水素ラジカルに耐性のあるフィルターを有するペリクルを提供できることが分かる。
【符号の説明】
【0048】
1 ペリクルフレーム
1a ペリクルフレームの上端面
1b ペリクルフレームの下端面
10 通気部
20 フィルター