(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】セルフクリーニング剤
(51)【国際特許分類】
B01J 35/39 20240101AFI20240806BHJP
B01J 35/61 20240101ALI20240806BHJP
B01J 23/847 20060101ALI20240806BHJP
C09D 5/16 20060101ALI20240806BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20240806BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240806BHJP
C09D 7/62 20180101ALI20240806BHJP
【FI】
B01J35/39
B01J35/61
B01J23/847 M
C09D5/16
C09D201/00
C09D7/61
C09D7/62
(21)【出願番号】P 2023108711
(22)【出願日】2023-06-30
(62)【分割の表示】P 2021567469の分割
【原出願日】2020-12-22
【審査請求日】2023-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2019231480
(32)【優先日】2019-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177426
【氏名又は名称】粟野 晴夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141601
【氏名又は名称】貴志 浩充
(72)【発明者】
【氏名】藤田 幸介
(72)【発明者】
【氏名】河中 俊介
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/094573(WO,A1)
【文献】特開2017-155368(JP,A)
【文献】特開2004-322052(JP,A)
【文献】特開2004-344863(JP,A)
【文献】特開2004-082088(JP,A)
【文献】特開2011-020033(JP,A)
【文献】特開2007-196182(JP,A)
【文献】国際公開第2008/146711(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C09D 1/00-10/00,101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光応答型光触媒を含有し、前記可視光応答型光触媒が、酸化チタン(a)に金属化合物が担持されたものであり、
前記酸化チタン(a)が、ルチル型酸化チタン(a1)を含むものであって、前記酸化チタン(a)における前記ルチル型酸化チタン(a1)の含有率が50モル%以上であり、
前記可視光応答型光触媒におけるチタン100に対するジルコニウムの含有比(Zr/Ti比)が、0.03~0.8であり、前記可視光応答型光触媒におけるチタン100に対するニオブの含有比(Nb/Ti比)が、0.05~0.8であることを特徴とするセルフクリーニング剤。
【請求項2】
前記酸化チタン(a)における前記ルチル型酸化チタン(a1)の含有率が90モル%以上である、請求項1記載のセルフクリーニング剤。
【請求項3】
前記金属化合物が、2価銅化合物である請求項1又は2記載のセルフクリーニング剤。
【請求項4】
前記酸化チタン(a)のBET比表面積が、1~200m
2/gである請求項1~3のいずれか1項に記載のセルフクリーニング剤。
【請求項5】
前記可視光応答型光触媒におけるチタン100に対するジルコニウムの含有比(Zr/Ti比)が、0.05~0.3である請求項1~4のいずれか1項に記載のセルフクリーニング剤。
【請求項6】
前記可視光応答型光触媒におけるチタン100に対するニオブの含有比(Nb/Ti比)が、0.1~0.3である請求項1~5のいずれか1項に記載のセルフクリーニング剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚れ分解機能を有するセルフクリーニング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
防汚加工は、シミや汚れを付着しにくくしたり、汚れたものを洗濯、拭き取り等で除去しやすくするための加工である。前記防汚加工の手法としては、例えば、撥水撥油系と吸水吸油系とに大別され、撥水撥油系はフッ素化合物を含むものや、また汚れを分解する手法としては、光触媒酸化チタンを用いる方法が知られている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0003】
しかしながら、前記光触媒酸化チタンは、紫外光という強いエネルギー源が必要である点と、その強い酸化作用により、加工物や基材自体の劣化を招いてしまうという課題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、室内光の下で汚れ成分を分解できるセルフクリーニング剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、可視光応答型光触媒を含有することを特徴とするセルフクリーニング剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明のセルフクリーニング剤によれば、実用的な室内光の下で、汚れ成分を分解することができる。また、前記可視光応答型光触媒として、特定のものを用いることで、更に抗菌性、及び、抗ウイルス性にも優れたセルフクリーニング剤を得ることができる。また、前記可視光応答型光触媒は、特定のものを用いると、酸化チタンの濃度を高めても取扱いが良好である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のセルフクリーニング剤は、本発明の課題を解決するうえで、可視光応答型光触媒を含有することが好ましい。
【0009】
前記可視光応答型光触媒としては、例えば、酸化チタン(a)を含む組成物が挙げられ、より一層優れた抗ウイルス性が得られる点から、酸化チタン(a)に金属化合物が担持されたものが好ましく挙げられる。
【0010】
前記酸化チタン(a)としては、例えば、ルチル型酸化チタン(a1)、アナターゼ型酸化チタン、ブルッカイト型酸化チタン等を用いることができる。これらの酸化チタンは単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、優れた可視光領域での光触媒活性を有する点から、ルチル型酸化チタン(a1)を含むことが好ましい。
【0011】
前記前記ルチル型酸化チタン(a1)の含有率(ルチル化率)としては、より一層優れた明所及び暗所における抗ウイルス性、明所における有機化合物分解性、及び、可視光応答性が得られる点から、15モル%以上であることが好ましく、50モル%以上あることがより好ましく、90モル%以上が更に好ましい。
【0012】
前記酸化チタン(a)の製造方法としては、一般的に、液相法と気相法とが知られている。前記液相法とは、イルメナイト鉱などの原料鉱石を溶解した液から得られる硫酸チタニルを、加水分解又は中和して酸化チタンを得る方法である。また、気相法とは、ルチル鉱などの原料鉱石を塩素化して得られる四塩化チタンと、酸素との気相反応により酸化チタンを得る方法である。なお、両方法により製造された酸化チタンを区別する方法としては、蛍光X線分析装置などを用いてチタン(Ti)含有量と金属元素の含有量を比較分析することが挙げられる。
【0013】
前記液相法により製造された酸化チタンは、その生成物にイルメナイト鉱石に由来するジルコニウム、ニオブなどの金属元素が含まれている。前記液相法により製造された酸化チタンにおけるチタン100に対するジルコニウムの含有比(Zr/Ti比)は、0.03以上でもよく、0.04以上でもよく、0.05以上でもよく、また、0.8以下でもよく、0.5以下でもよく、0.3以下でもよい。これらの上限及び下限はいずれの組み合わせでもよい。酸化チタンにおけるチタン100に対するジルコニウムの含有比(Zr/Ti比)は、0.03~0.8でもよく、0.04~0.5でもよく、0.05~0.3でもよい。前記液相法により製造された酸化チタンにおけるチタン100に対するニオブの含有比(Nb/Ti比)は、0.05以上でもよく、0.08以上でもよく、0.1以上でもよく、また、0.8以下でもよく、0.5以下でもよく、0.3以下でもよい。これらの上限及び下限はいずれの組み合わせでもよい。酸化チタンにおけるチタン100に対するニオブの含有比(Nb/Ti比)は、0.05~0.8でもよく、0.08~0.5でもよく、0.10~0.3でもよい。上記範囲内の酸化チタンであれば、溶媒への分散性が高く酸化チタンの濃度を高めても取扱いの良好な混合液ができる。上記範囲内の酸化チタンで得られた可視光応答型光触媒は、可視光応答型光触媒におけるチタン100に対する金属元素(ジルコニウム及び/又はニオブ)の含有比が上記範囲と同じになる。
【0014】
これに対し、気相法では四塩化チタンを精製するため、酸化チタン中には、これらの金属元素(ジルコニウム及び/又はニオブ)は実質的に含まれない。ここで酸化チタンが金属元素を実質的に含まないとは、酸化チタンにおける金属元素の含有比がチタン100に対して0.02未満であることを意味する。逆に酸化チタンが金属元素(ジルコニウム及び/又はニオブ)を実質的に含むとは、酸化チタンにおける金属元素の含有比がチタン100に対して0.02以上であることを意味する。金属元素(ジルコニウム及び/又はニオブ)を実質的に含む酸化チタンで得られた可視光応答型光触媒は、金属元素(ジルコニウム及び/又はニオブ)を実質的に含む。
【0015】
前記気相法により製造された酸化チタンは、均一な粒子径を生成可能な利点があるものの、2次凝集体は生成しにくいため、見かけの比表面積が高くなることにより反応工程時における混合液の粘度が高くなると考えられる。これに対し、液相法により製造された酸化チタン(a)は、焼成工程において緩やかな2次凝集体を生成することが考えられ、1次粒子に起因する比表面積(BET値)に対して、凝集力は少なく混合液の粘度を抑制することが可能である。以上の理由より、前記酸化チタン(a)としては、セルフクリーニング剤の生産性をより一層向上できる点から、液相法により製造された酸化チタンが好ましい。
【0016】
前記酸化チタン(a)のBET比表面積としては、より一層優れた抗ウイルス性、及び、可視光応答性が得られる点から、1~200m2/gの範囲が好ましく、3~100m2/gの範囲がより好ましく、4~70m2/gの範囲がより好ましく、8~50m2/gの範囲が更に好ましく、セルフクリーニング剤の生産性をより一層高めることができる点から、7.5~9.5m2/gの範囲であることが好ましい。なお、前記ルチル型酸化チタン(a1)のBET比表面積の測定方法は、後述する実施例にて記載する。
【0017】
前記酸化チタン(a)の1次粒子径としては、より一層優れた抗ウイルス性、及び、可視光応答性が得られる点から、0.01~0.5μmの範囲が好ましく、0.06~0.35μmの範囲がより好ましい。なお、前記酸化チタン(a)の1次粒子径の測定方法は、透過型電子顕微鏡(TEM)を使用して、電子顕微鏡写真から一次粒子の大きさを直接計測する方法で測定した値を示す。具体的には、個々の酸化チタンの1次粒子の短軸径と長軸径を計測し、平均をその1次粒子の粒子径とし、次に100個以上の酸化チタン粒子について、それぞれの粒子の体積(重量)を、求めた粒子径の立方体と近似して求め、体積平均粒径を平均1次粒子径とした。
【0018】
また、前記可視光応答型光触媒としては、可視光領域における光触媒活性を一層向上し、実用的な室内光の下で、汚れ成分を分解できる適度な活性を発現しやすい点から、酸化チタン(a)に金属化合物が担持されたもの(酸化チタン組成物)を用いることが好ましい。
【0019】
前記金属化合物としては、例えば、銅化合物、鉄化合物、タングステン化合物等を用いることができる。これらの中でも、より一層優れた抗菌性、及び、抗ウイルス性が得られる点から、銅化合物が好ましく、2価銅化合物がより好ましい。前記酸化チタン(a)への金属化合物の担持方法としては、公知の手法を用いることができる。
【0020】
次に、最も好ましい態様である、酸化チタン(a)に2価銅化合物を担持する方法について説明する。
【0021】
前記酸化チタン(a)に2価銅化合物を担持する方法としては、例えば、ルチル型酸化チタン(a1)を含む酸化チタン(a)、2価銅化合物原料(b)、水(c)、及び、アルカリ性物質(d)の混合工程(i)を有する方法が挙げられる。
【0022】
前記混合工程(i)における前記酸化チタン(a)の濃度としては、3~40質量%の範囲が好ましい。なお、本発明においては、液相法により製造された酸化チタン(a)を用いた場合には、酸化チタン(a)の濃度を高めても取扱いの良好な混合工程を行うことができ、具体的には、前記酸化チタン(a)の濃度が、25質量%を超えて40質量%以下の範囲でも良好に混合工程を行うことができる。
【0023】
前記2価銅化合物原料(b)としては、例えば、2価銅無機化合物、2価銅有機化合物等を用いることができる。
【0024】
前記2価銅無機化合物としては、例えば、硫酸銅、硝酸銅、沃素酸銅、過塩素酸銅、シュウ酸銅、四ホウ酸銅、硫酸アンモニウム銅、アミド硫酸銅、塩化アンモニウム銅、ピロリン酸銅、炭酸銅等の2価銅の無機酸塩;塩化銅、フッ化銅、臭化銅等の2価銅のハロゲン化物;酸化銅、硫化銅、アズライト、マラカイト、アジ化銅などを用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0025】
前記2価銅有機化合物としては、例えば、蟻酸銅、酢酸銅、プロピオン酸銅、酪酸銅、吉草酸銅、カプロン酸銅、エナント酸銅、カプリル酸銅、ペラルゴン酸銅、カプリン酸銅、ミスチン酸銅、パルミチン酸銅、マルガリン酸銅、ステアリン酸銅、オレイン酸銅、乳酸銅、リンゴ酸銅、クエン酸銅、安息香酸銅、フタル酸銅、イソフタル酸銅、テレフタル酸銅、サリチル酸銅、メリト酸銅、シュウ酸銅、マロン酸銅、コハク酸銅、グルタル酸銅、アジピン酸銅、フマル酸銅、グリコール酸銅、グリセリン酸銅、グルコン酸銅、酒石酸銅、アセチルアセトン銅、エチルアセト酢酸銅、イソ吉草酸銅、β-レゾルシル酸銅、ジアセト酢酸銅、ホルミルコハク酸銅、サリチルアミン酸銅、ビス(2-エチルヘキサン酸)銅、セバシン酸銅、ナフテン酸銅、オキシン銅、アセチルアセトン銅、エチルアセト酢酸銅、トリフルオロメタンスルホン酸銅、フタロシアニン銅、銅エトキシド、銅イソプロポキシド、銅メトキシド、ジメチルジチオカルバミン酸銅等を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0026】
前記2価銅化合物原料(b)としては、前記したものの中でも、下記一般式(1)で示されるものを用いることが好ましい。
CuX2 (1)
(式(1)において、Xは、ハロゲン原子、CH3COO、NO3、又は、(SO4)1/2を示す。)
【0027】
前記式(1)におけるXとしては、ハロゲン原子であることがより好ましく、塩素原子が更に好ましい。
【0028】
前記混合工程(i)における前記2価銅化合物原料(b)の使用量としては、前記酸化チタン(a)100質量部に対して、0.01~20質量部の範囲であることが好ましく、0.1~15質量部の範囲がより好ましく、0.3~10質量部の範囲が更に好ましい。
【0029】
前記水(c)は、混合工程(i)における溶媒であり、水単独が好ましいが、必要に応じてその他の溶媒を含んでいてもよい。前記その他の溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール等のアルコール溶媒;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン溶媒;ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン等を用いることができる。これらの溶媒は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0030】
前記アルカリ性物質(d)としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルアミン、トリメチルアミン、アンモニア、塩基性界面活性剤等を用いることができ、水酸化ナトリウムを用いることが好ましい。
【0031】
前記アルカリ性物質(d)は、反応を制御しやすい点から、溶液として添加するのが好ましく、添加するアルカリ溶液の濃度としては、0.1~5mol/Lの範囲であることが好ましく、0.3~4mol/Lの範囲がより好ましく、0.5~3mol/Lの範囲が更に好ましい。
【0032】
前記混合工程(i)は、前記酸化チタン(a)、2価銅化合物原料(b)、水(c)、及び、アルカリ性物質(d)を混合すればよく、例えば、まず水(c)に酸化チタン(a)を混合するとともに必要に応じて撹拌し、次いで、2価銅化合物原料(b)を混合し、撹拌し、その後、アルカリ性物質(d)を添加して撹拌する方法が挙げられる。この混合工程(i)により、前記2価銅化合物原料(b)由来の2価銅化合物が前記酸化チタン(a)に担持することとなる。
【0033】
前記混合工程(i)における全体の撹拌時間としては、例えば、5~120分間が挙げられ、好ましくは10~60分間である。混合工程(i)時における温度としては、例えば、室温~70℃の範囲が挙げられる。
【0034】
酸化チタン(a)への2価銅化合物の担持が良好である点から、前記酸化チタン(a)、2価銅化合物原料(b)、及び、水(c)を混合・撹拌し、その後アルカリ性物質(d)を混合・撹拌した後の混合物のpHとしては、好ましくは8~11の範囲であり、より好ましくは9.0~10.5の範囲である。
【0035】
前記混合工程(i)が終了した後には、混合液を固形分として分離することができる。前記分離を行う方法としては、例えば、濾過、沈降分離、遠心分離、蒸発乾燥等が挙げられるが、濾過が好ましい。分離した固形分は、その後必要に応じて、水洗、解砕、分級等を行ってもよい。
【0036】
前記固形分を得た後には、前記酸化チタン(a)上に担持された前記2価銅化合物原料(b)由来の2価銅化合物を、より強固に結合することができる点から、固形分を熱処理することが好ましい。熱処理温度としては、好ましくは150~600℃の範囲であり、より好ましくは250~450℃の範囲である。また、熱処理時間は、好ましくは1~10時間であり、より好ましくは、2~5時間である。
【0037】
以上の方法によって、酸化チタン(a)に2価銅化合物が担持した酸化チタンを含有する酸化チタン組成物が得られる。前記酸化チタン(a)に担持された2価銅化合物の担持量としては、酸化チタン(a)100質量部に対して、0.01~20質量部の範囲であることが、抗ウイルス性を含む光触媒活性の点から好ましい。前記2価銅化合物の担持量は、前記混合工程(i)における前記2価銅化合物原料(b)の使用量によって調整することができる。なお、前記2価銅化合物の担持量の測定方法は、後述する実施例にて記載する。
【0038】
次に、本発明のセルフクリーニング剤が使用される具体的な態様について説明する。
【0039】
前記態様としては、繊維等への練りこみ、スプレー剤、コーティング剤が挙げられる。
【0040】
前記繊維等への練りこみを行う方法としては、例えば、ポリエステル等の繊維と、前記セルフクリーニング剤とを、押出機等を使用して練りこみ、紡糸する方法が挙げられる。
【0041】
前記スプレー剤としては、例えば、前記セルフクリーニング剤、及び、水、アルコール等の溶剤の混合物などが挙げられる。
【0042】
前記コーティング剤としては、例えば、前記セルフクリーニング剤、水、アルコール等の溶剤、及び、バインダー樹脂の混合物などが挙げられる。前記バインダー樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等を用いることができる。これらのバインダー樹脂は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0043】
以上、本発明のセルフクリーニング剤によれば、繊維等の有機系素材、スレート板等の無機系素材の態様において、実用的な室内光の下で、汚れ成分を分解することができる。また、前記可視光応答型光触媒として、特定のものを用いることで、更に抗菌性、及び、抗ウイルス性にも優れたセルフクリーニング剤を得ることができる。
【0044】
また、本発明によるセルフクリーニング剤は、抗ウイルス性、抗菌性、人体への安全性、耐熱性、耐候性、及び、耐水性に優れるものである。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を用いて、本発明をより詳細に説明する。
【0046】
[調製例1]
(1)酸化チタン
a)結晶性ルチル型酸化チタン
b)製法:液相法(硫酸法)
c)物性値
・BET比表面積:9.0m2/g
・ルチル化率:95.4%
・1次粒子径:0.18μm
・Zr/Ti比:0.05
・Nb/Ti比:0.17
【0047】
(2)製造工程
a)混合工程(反応工程)
前記酸化チタン600質量部、塩化銅(ii)二水和物8質量部、水900質量部をステンレス容器中に混合した。次いで、混合物を撹拌機(特殊機化工業株式会社製「ロボミクス」)で撹拌し、1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を混合液のpHが10になるまで滴下した。
b)脱水工程
定性濾紙(5C)により減圧濾過をおこない、混合液から固形分を分離し、更にイオン交換水で洗浄を実施した。次いで、洗浄後の固形物を120℃で12時間乾燥し、水分を除去した。乾燥後、ミル(イワタニ産業株式会社製「ミルサー」)で粉状の酸化チタン組成物を得た。
c)熱処理工程
精密恒温器(ヤマト科学株式会社製「DH650」)を用いて酸素存在下で450℃、3時間熱処理し、2価銅化合物が担持された酸化チタンを含有する酸化チタン組成物を得た。
【0048】
(3)混合工程における混合物の酸化チタン濃度の変更
前記(2)製造工程a)混合工程(反応工程)において、酸化チタンの濃度を変更し、各配合率で撹拌可能な状態を判定した。具体的には、容器内で混合液が均一に撹拌される状態であれば「T」、混合液がゲル状となり、撹拌軸周辺のみの不十分な撹拌状態であれば「F」とした。
【0049】
[調製例2]
調製例1において、塩化銅(ii)二水和物の使用量を、8質量部から3.3質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、酸化チタン組成物を得た。また、調製例1と同様にして、酸化チタン濃度の変更試験を行った。
【0050】
[調製例3]
(1)酸化チタン
a)結晶性ルチル型酸化チタン
b)製法:液相法
c)物性値
・BET比表面積:37.2m2/g
・ルチル化率:99.6%
・1次粒子径:0.04μm
・Zr/Ti比:0.05
・Nb/Ti比:0.26
【0051】
調製例1において、酸化チタンの種類を前記酸化チタンに変更した以外は、調製例1と同様にして、酸化チタン組成物を得た。また、調製例1と同様にして、酸化チタン濃度の変更試験を行った。
【0052】
[調製例4]
(1)酸化チタン
a)結晶性ルチル型酸化チタン
b)製法:液相法
c)物性値
・BET比表面積:6m2/g
・ルチル化率:87.2%
・Zr/Ti比:0.17
・Nb/Ti比:0.20
【0053】
調製例1において、酸化チタンの種類を前記酸化チタンに変更した以外は、調製例1と同様にして、酸化チタン組成物を得た。また、調製例1と同様にして、酸化チタン濃度の変更試験を行った。
【0054】
[調製例5]
(1)酸化チタン
a)結晶性ルチル型酸化チタン
b)製法:気相法
c)物性値
・BET比表面積:13m2/g
・ルチル化率:95.6%
・1次粒子径:0.15μm
・Zr/Ti比:0.00
・Nb/Ti比:0.01
【0055】
調製例1において、酸化チタンの種類を前記酸化チタンに変更し、水の使用量を900質量部から4,000質量部に変更した以外は、調製例1と同様にして、酸化チタン組成物を得た。また、調製例1と同様にして、酸化チタン濃度の変更試験を行った。
【0056】
[調製例6]
調製例5において、塩化銅(ii)二水和物の使用量を8質量部から3.3質量部に変更した以外は、調製例5と同様にして、酸化チタン組成物を得た。また、調製例1と同様にして、酸化チタン濃度の変更試験を行った。
【0057】
[調製例7]
(1)酸化チタン
a)結晶性ルチル型酸化チタン
b)製法:気相法
c)物性値
・BET比表面積:6.8m2/g
・ルチル化率:99.6%
・1次粒子径:0.25μm
・Zr/Ti比:0.01
・Nb/Ti比:0.01
【0058】
調製例5において、酸化チタンの種類を前記酸化チタンに変更した以外は、調製例5と同様にして、酸化チタン組成物を得た。また、調製例1と同様にして、酸化チタン濃度の変更試験を行った。
【0059】
[調製例8]
(1)酸化チタン
a)結晶性ルチル型酸化チタン
b)製法:気相法
c)物性値
・BET比表面積:13.5m2/g
・ルチル化率:76.5%
・1次粒子径:0.13μm
・Zr/Ti比:0.00
・Nb/Ti比:0.01
【0060】
調製例5において、酸化チタンの種類を前記酸化チタンに変更した以外は、調製例5と同様にして、酸化チタン組成物を得た。また、調製例1と同様にして、酸化チタン濃度の変更試験を行った。
【0061】
[調製例9]
(1)酸化チタン
a)結晶性ルチル型酸化チタン
b)製法:気相法
c)物性値
・BET比表面積:20m2/g
・ルチル化率:53%
・1次粒子径:0.07μm
・Zr/Ti比:0.00
・Nb/Ti比:0.01
【0062】
調製例5において、酸化チタンの種類を前記酸化チタンに変更した以外は、調製例5と同様にして、酸化チタン組成物を得た。また、調製例1と同様にして、酸化チタン濃度の変更試験を行った。
【0063】
[酸化チタン(a)のBET比表面積の測定方法]
株式会社マウンテック製全自動BET比表面積測定装置「MacSORBHM model-1208」を使用して、比表面積測定(BET1点法)による測定を行った。
【0064】
[酸化チタン(a)のルチル化率の測定方法]
島津製作所株式会社製X線回折装置「XRD-6100」を使用して、ルチル型結晶に対応するピーク高さ割合を酸化チタン全体の結晶(ルチル型、ブルッカイト型、アナターゼ型)に対応するピーク高さから算出した。
【0065】
[酸化チタン(a)のZr/Ti比、Nb/Ti比の算出方法]
セイコーインスツル株式会社製蛍光X線分析装置「SEA1200VX」を使用して、バルクファンダメンタルパラメータ(バルクFP)法による金属元素組成分析を行った。酸化チタン(a)試料を測定して得られた、ジルコニウムまたはニオブの蛍光強度(cps:count per second)とチタンの蛍光強度(cps)との強度比を、それぞれZr/Ti比、またはNb/Ti比として算出した。
【0066】
[酸化チタン(a)への2価銅化合物の担持量の測定方法]
調製例1~9で得られた酸化チタン組成物を、フッ酸溶液で全溶解し、抽出液をICP発光分光分析装置により分析して、酸化チタン(a)に対する2価銅化合物の担持量(2価銅化合物の担持量(質量部)/酸化チタン(a)(質量部))を定量した。なお、前記担持量の測定まで行わなかったものは「-」とした。
【0067】
[抗ウイルス性]
JIS R 1756:2013に準拠して、抗ウイルス性試験を行った。抗ウイルス性はソーダライムガラス板上に実施例及び比較例で得られた酸化チタン組成物を1g/m2を均一に塗布し、N-113フィルターで400nm以下の波長をカットした光源を用いて、4時間照射後の試料について以下の式により求めた値、不活化度で評価した。
不活化度=log(N/N0)
N:反応後のサンプルの感染価 、N0:接種ファージの感染価。
不活化度-1が90%、不活化度-2が99%、不活化度-3 が99.9%不活化していることを示す。
なお、抗ウイルス性試験まで行わなかったものは「-」とした。
【0068】
【0069】
調製例1~4に示す通り、酸化チタンを液相法で得れば、混合工程(i)中における混合物中の酸化チタン(a)の濃度を高めても安定的に混合でき、抗ウイルス性に優れる抗ウイルス剤が効率よく生産できることが分かった。
【0070】
一方、調製例5~9はいずれも、酸化チタン(a)に代えて、気相法により製造されたルチル型酸化チタンを用いた態様であるが、混合工程(i)における酸化チタン濃度が20質量%を超えると、混合液の粘度が極めて高くなり、取扱いが困難であり、生産性に劣ることが分かった。
【0071】
特に、調製例5~9では、酸化チタンのBET比表面積の幅を振った実験を行ったものの、その値が小さい調製例7においても酸化チタン濃度が上がると混合液の粘度が極めて高くなり、生産性の改善効果は見られなかった。
【0072】
[実施例1]
調整例1で得られた酸化チタン組成物25質量部、水73.5質量部、分散剤(ビックケミー社製「DISPERBIK 190」)1.5質量部をサンドグラインダーにて分散し、水性スラリーを得た。
得られた水性スラリー35質量部、アクリル樹脂バインダー(DIC株式会社製「RYUDYE-W FIXER 254PK」)5質量部、O/W型エマルジョン(DIC株式会社製「RYUDYE-W REDUCER CONC 720ENF」5部、水45部、ミネラルスピリット50部の乳化物)60質量部を混合し、綿ブロード生地(122.5g/m2)上にオートスクリーン捺染機(辻井染機工業株式会社製)を用いて乾燥前塗布量が100g/m2となるようにプリントを実施し、熱風循環式乾燥機にて150℃で2分間乾燥させ、評価用試料を得た。
【0073】
得られた試料に、汚れ成分(A)(オイルレッド0.5質量部、エタノール49.75質量部、及び、オレイン酸49.75質量部)30μLを、マイクロピペットを用いて滴下し、500ルクスの室内に放置し、滴下後1時間後(0日後)、1日後、2日後に色彩計(コニカミノルタ株式会社製「CR-200 D65光源」)にてa*値を測定した。
【0074】
[実施例2]
実施例1において、汚れ成分(A)を、汚れ成分(B)(S&B株式会社製ラー油)に変更した以外は、実施例1と同様にして、a*値を測定した。なお、Δa*は、比較例4との差分によって求めた。
【0075】
[実施例3]
実施例1において、汚れ成分(A)を、汚れ成分(C)(エスビーカレーパウダー顆粒1質量部、及び、エタノール99質量部)に変更した以外は、実施例1と同様にして、
a*値を測定した。なお、Δa*は、比較例6との差分によって求めた。
【0076】
[実施例4]
実施例1において、綿ブロード生地に代えて、スレート板(ノザワ株式会社製)に変更した以外は、実施例1と同様にして、a*値を測定した。なお、Δa*は、比較例8との差分によって求めた。
【0077】
[比較例1]
実施例1で用いた綿ブロード生地に直接汚れ成分(A)を滴下した以外は、実施例1と同様にして、a*値を測定した。また、このa*値を、実施例1、比較例2、及び比較例3の色変化量(Δa*)の基準とした。
【0078】
[比較例2]
アクリル樹脂バインダー(DIC株式会社製「RYUDYE-W FIXER 254PK」)5質量部、O/W型エマルジョン(DIC株式会社製「RYUDYE-W REDUCER CONC 720ENF」5部、水45部、ミネラルスピリット50部の乳化物)95質量部を混合し、実施例1で用いた綿ブロード生地に、オートスクリーン捺染機(辻井染機工業株式会社製)を用いて乾燥前塗布量が100g/m2となるようにプリントを実施し、熱風循環式乾燥機にて150℃で2分間乾燥させ、評価用試料を得た。これに汚れ成分(A)を滴下した以外は、実施例1と同様にして、a*値を測定した。
【0079】
[比較例3]
調整例1の酸化チタン組成物に代えて、紫外光応答型光触媒(石原産業株式会社製「ST-41」)25質量部、水73.5質量部、分散剤(ビックケミー社製「DISPERBIK 190」)1.5質量部をサンドグラインダーにて分散し、水性スラリーを得た。
得られた水性スラリー35質量部、アクリル樹脂バインダー(DIC株式会社製「RYUDYE-W FIXER 254PK」)5質量部、O/W型エマルジョン(DIC株式会社製「RYUDYE-W REDUCER CONC 720ENF」5部、水45部、ミネラルスピリット50部の乳化物)60質量部を混合し、綿ブロード生地(122.5g/m2)上にオートスクリーン捺染機(辻井染機工業株式会社製)を用いて乾燥前塗布量が100g/m2となるようにプリントを実施し、熱風循環式乾燥機にて150℃で2分間乾燥させ、評価用試料を得た。これに汚れ成分(A)を滴下した以外は、実施例1と同様にして、a*値を測定した。
【0080】
[比較例4]
比較例1において、汚れ成分(A)を、汚れ成分(B)に変更した以外は、比較例1と同様にして、a*値を測定した。また、このa*値を、実施例2、及び比較例5の色変化量(Δa*)の基準とした。
【0081】
[比較例5]
比較例2において、汚れ成分(A)を、汚れ成分(B)に変更した以外は、比較例2と同様にして、a*値を測定した。
【0082】
[比較例6]
比較例1において、汚れ成分(A)を、汚れ成分(C)に変更した以外は、比較例1と同様にして、a*値を測定した。また、このa*値を、実施例3、及び比較例7の色変化量(Δa*)の基準とした。
【0083】
[比較例7]
比較例2において、汚れ成分(A)を、汚れ成分(C)に変更した以外は、比較例2と同様にして、a*値を測定した。
【0084】
[比較例8]
比較例1の綿ブロード生地に代えて、スレート板(ノザワ株式会社製)を用いた以外は、比較例1と同様にして、a*値を測定した。また、このa*値を、実施例4、及び比較例9の色変化量(Δa*)の基準とした。
【0085】
[比較例9]
比較例2において、綿ブロード生地に代えて、スレート板(ノザワ株式会社製)を用いた以外は、比較例2と同様にして、a*値を測定した。
【0086】
[汚れ分解性の評価]
汚れを滴下した評価用試料を日中11時間(照度500~550ルクス、照度計「YOKOGAWA3281A」)で日中11時間、夜間(照度10ルクス以下)13時間静置し、滴下後1時間後(0日後)、n日後に、色彩色差計(コニカミノルタ株式会社製「CR-200」を使用して、汚れ滴下部分の測色を実施した。
汚れの分解効果は、基材(綿ブロード生地、スレート板)に汚れ成分のみを滴下した比較例のa*値を基準として差分Δa*により求めた。n日後のΔa*と初期(0日後)のΔa*から色変化量を評価し、色変化量がマイナス側になればなるほど、汚れ成分である色素が分解していることを示す。
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
本発明のセルフクリーニング剤は、室内光の下で、優れた汚れ分解機能を有することが分かった。
【0092】
一方、比較例1~9はいずれも、可視光応答型光触媒を含有しない態様であるが、室内光の下での汚れ分解性に劣っていた。