(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】配向繊維ウェブの製造方法、繊維ウェブ形成装置および配向繊維ウェブ製造装置
(51)【国際特許分類】
D21F 1/24 20060101AFI20240806BHJP
【FI】
D21F1/24
(21)【出願番号】P 2023523463
(86)(22)【出願日】2022-05-23
(86)【国際出願番号】 JP2022021094
(87)【国際公開番号】W WO2022250010
(87)【国際公開日】2022-12-01
【審査請求日】2023-07-12
(31)【優先権主張番号】P 2021087588
(32)【優先日】2021-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】辻川 一輝
(72)【発明者】
【氏名】松井 純
(72)【発明者】
【氏名】池田 勝司
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特許第5426399(JP,B2)
【文献】特開2015-127467(JP,A)
【文献】特開2013-096026(JP,A)
【文献】米国特許第06488810(US,B1)
【文献】特開2013-056985(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21F 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維が特定方向に配向した配向繊維ウェブの製造方法であって、
(i)抄紙網の表面である底面と、互いに平行な2つの側壁とからなり、上流端および下流端を有する脱水流路を準備すること、および、
(ii)前記抄紙網を前記上流端から前記下流端に向かう方向に走行させながら、水を分散媒とする繊維分散液を前記上流端から前記脱水流路内に導入することを含み、
前記脱水流路の前記底面は前記上流端から前記下流端に向かう方向に上り勾配を有し、
前記脱水流路の上流端における水深Dと前記脱水流路の流路幅Wの比率D/Wが2以上であり、
前記脱水流路で前記繊維分散液が前記上流端から前記下流端に向かう方向に流れながら脱水されることにより繊維ウェブが形成される、
製造方法。
【請求項2】
繊維が特定方向に配向した配向繊維ウェブの製造方法であって、
抄紙網の表面である底面と、互いに平行な2つの側壁とからなり、上流端および下流端を有する脱水流路を準備すること、
前記脱水流路内に整流板を設置すること、および
前記抄紙網を前記上流端から前記下流端に向かう方向に走行させながら、水を分散媒とする繊維分散液を前記上流端から前記脱水流路内に導入すること
を含み、
前記脱水流路の前記底面は前記上流端から前記下流端に向かう方向に上り勾配を有し、
前記脱水流路で前記繊維分散液が前記上流端から前記下流端に向かう方向に流れながら脱水されることにより繊維ウェブが形成され
、
前記整流板が水平整流板である、
製造方法。
【請求項3】
繊維が特定方向に配向した配向繊維ウェブの製造方法であって、
抄紙網の表面である底面と、互いに平行な2つの側壁とからなり、上流端および下流端を有する脱水流路を準備すること、
前記脱水流路に天井板を設置すること、および
前記抄紙網を前記上流端から前記下流端に向かう方向に走行させながら、水を分散媒とする繊維分散液を前記上流端から前記脱水流路内に導入すること
を含み、
前記脱水流路の前記底面は前記上流端から前記下流端に向かう方向に上り勾配を有し、
前記脱水流路で前記繊維分散液が前記上流端から前記下流端に向かう方向に流れながら脱水されることにより繊維ウェブが形成される、
製造方法。
【請求項4】
繊維が特定方向に配向した配向繊維ウェブの製造方法であって、
(i)抄紙網の表面である底面と、互いに平行な2つの側壁とからなり、上流端および下流端を有する脱水流路を準備すること、および、
(ii)前記抄紙網を前記上流端から前記下流端に向かう方向に走行させながら、水を分散媒とする繊維分散液を前記上流端から前記脱水流路内に導入することを含み、
前記脱水流路の前記底面は前記上流端から前記下流端に向かう方向に上り勾配を有し、
前記底面と隣接する部分において前記側壁の内面が内側に湾曲しており、
前記脱水流路で前記繊維分散液が前記上流端から前記下流端に向かう方向に流れながら脱水されることにより繊維ウェブが形成される、
製造方法。
【請求項5】
繊維が特定方向に配向した配向繊維ウェブの製造方法であって、
(i)抄紙網の表面である底面と、互いに平行な2つの側壁とからなり、上流端および下流端を有する脱水流路を準備すること、および、
(ii)前記抄紙網を前記上流端から前記下流端に向かう方向に走行させながら、水を分散媒とする繊維分散液を前記上流端から前記脱水流路内に導入することを含み、
前記脱水流路の前記底面は前記上流端から前記下流端に向かう方向に上り勾配を有し、
前記脱水流路の前記上流端に導入路が結合され、前記導入路を通して前記脱水流路に前記繊維分散液が供給され、
前記導入路内において前記繊維分散液中の繊維が流れ方向に配向し、
前記脱水流路で前記繊維分散液が前記上流端から前記下流端に向かう方向に流れながら脱水されることにより繊維ウェブが形成される、
製造方法。
【請求項6】
繊維が特定方向に配向した配向繊維ウェブの製造方法であって、
抄紙網の表面である底面と、互いに平行な2つの側壁とからなり、上流端および下流端を有する脱水流路を準備すること、
前記抄紙網を前記上流端から前記下流端に向かう方向に走行させながら、水を分散媒とする繊維分散液を前記上流端から前記脱水流路内に導入することにより繊維ウェブを形成すること、
前記繊維ウェブを乾燥させること、および、
前記乾燥の前に、前記繊維ウェブを湿った状態のまま延伸させること
を含む、
製造方法。
【請求項7】
繊維が特定方向に配向した配向繊維ウェブの製造方法であって、
抄紙網の表面である底面と、互いに平行な2つの側壁とからなり、上流端および下流端を有する脱水流路を準備すること、
前記抄紙網を前記上流端から前記下流端に向かう方向に走行させながら、水を分散媒とする繊維分散液を前記上流端から前記脱水流路内に導入することにより繊維ウェブを形成すること、
前記繊維ウェブを乾燥させること、
前記乾燥の後に前記繊維ウェブを液体で再度湿らせたうえ、湿った状態のまま延伸させること、および、
前記延伸の後に前記繊維ウェブを再度乾燥させること、
を含む製造方法。
【請求項8】
抄紙網の表面である底面と、互いに平行な2つの側壁とからなり、上流端および下流端を有する脱水流路を備え、
前記抄紙網を前記上流端から前記下流端に向かう方向に走行させつつ、水を分散媒とする繊維分散液を前記上流端から前記脱水流路内に導入し、前記脱水流路内を前記上流端から前記下流端に向かう方向に流しながら脱水させることができ、
前記脱水流路の前記底面は前記上流端から前記下流端に向かう方向に上り勾配を有しており、
前記脱水流路の上流端における水深Dと前記脱水流路の流路幅Wの比率D/Wが2以上である、
繊維ウェブ形成装置。
【請求項9】
抄紙網の表面である底面と、互いに平行な2つの側壁とからなり、上流端および下流端を有する脱水流路を備え、
更に、前記脱水流路内に設置された整流板を有し、
前記抄紙網を前記上流端から前記下流端に向かう方向に走行させつつ、水を分散媒とする繊維分散液を前記上流端から前記脱水流路内に導入し、前記脱水流路内を前記上流端から前記下流端に向かう方向に流しながら脱水させることができ、
前記脱水流路の前記底面は前記上流端から前記下流端に向かう方向に上り勾配を有して
おり、
前記整流板が水平整流板である、
繊維ウェブ形成装置。
【請求項10】
抄紙網の表面である底面と、互いに平行な2つの側壁とからなり、上流端および下流端を有する脱水流路を備え、
更に、前記脱水流路に設置された天井板を有し、
前記抄紙網を前記上流端から前記下流端に向かう方向に走行させつつ、水を分散媒とする繊維分散液を前記上流端から前記脱水流路内に導入し、前記脱水流路内を前記上流端から前記下流端に向かう方向に流しながら脱水させることができ、
前記脱水流路の前記底面は前記上流端から前記下流端に向かう方向に上り勾配を有している、
繊維ウェブ形成装置。
【請求項11】
抄紙網の表面である底面と、互いに平行な2つの側壁とからなり、上流端および下流端を有する脱水流路を備え、
前記抄紙網を前記上流端から前記下流端に向かう方向に走行させつつ、水を分散媒とする繊維分散液を前記上流端から前記脱水流路内に導入し、前記脱水流路内を前記上流端から前記下流端に向かう方向に流しながら脱水させることができ、
前記脱水流路の前記底面は前記上流端から前記下流端に向かう方向に上り勾配を有しており、
前記底面と隣接する部分において前記側壁の内面が内側に湾曲している、
繊維ウェブ形成装置。
【請求項12】
請求項8~11のいずれかに記載の繊維ウェブ形成装置と、前記繊維ウェブ形成装置で形成される繊維ウェブを乾燥させるための乾燥機と、を有する配向繊維ウェブ製造装置。
【請求項13】
繊維が特定方向に配向した配向繊維ウェブの製造方法であって、
湿式法で繊維ウェブを形成することと、
前記繊維ウェブを乾燥させることと、
前記乾燥の後に繊維ウェブを液体で再度湿らせたうえ、湿った状態のまま延伸させることと、
前記延伸の後に前記繊維ウェブを再度乾燥させることと
を含む製造方法。
【請求項14】
繊維が特定方向に配向した配向繊維ウェブの製造方法であって、
炭素繊維、無機繊維、金属繊維およびアラミド繊維から選ばれる1種以上の繊維を含む乾燥した繊維ウェブを液体で湿らせたうえ、湿った状態のまま延伸させることと、
前記延伸の後に前記繊維ウェブを乾燥させることと
を含む製造方法。
【請求項15】
繊維が特定方向に配向した配向繊維ウェブの製造方法であって、
湿式法で炭素繊維、無機繊維、金属繊維およびアラミド繊維から選ばれる1種以上の繊維を含む繊維ウェブを形成することと、
前記繊維ウェブを乾燥させることと、
前記乾燥の前に前記繊維ウェブを湿った状態のまま延伸させることと
を含
み、
前記配向繊維ウェブが更に熱可塑性樹脂繊維を含む、
製造方法。
【請求項16】
前記配向繊維ウェブが更に熱可塑性樹脂繊維を含む、請求項
14に記載の製造方法。
【請求項17】
請求項1~
7および
13~
16のいずれかに記載の製造方法で配向繊維ウェブを製造することと、前記配向繊維ウェブを熱硬化性樹脂組成物または熱可塑性樹脂組成物で含浸させることと、を含むプリプレグの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、配向繊維ウェブの製造方法、繊維ウェブ形成装置および配向繊維ウェブ製造装置に関する。
本願は、2021年5月25日に、日本に出願された特願2021-087588号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
配向繊維ウェブ、すなわち繊維が特定方向に配向した繊維ウェブを、湿式法(抄造法)で製造することを含む、繊維強化熱可塑性樹脂シート(熱可塑性プリプレグ)の製造方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
配向繊維ウェブを湿式法で製造する技術に関しては、改良の余地が残されている。
本発明の一態様は、湿式法を用いた配向繊維ウェブの製造効率の改善を目的としている。
本発明の他の一態様は、繊維が強く配向した配向繊維ウェブを製造するための技法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一実施形態によれば、繊維が特定方向に配向した繊維ウェブである配向繊維ウェブの製造方法であって、(i)抄紙網の表面である底面と、互いに平行な2つの側壁とからなり、上流端および下流端を有する脱水流路を準備すること、および、(ii)前記抄紙網を前記上流端から前記下流端に向かう方向に走行させながら、水を分散媒とする繊維分散液を前記上流端から前記脱水流路内に導入することを含み、前記脱水流路の前記底面は前記上流端から前記下流端に向かう方向に上り勾配を有し、前記脱水流路で前記繊維分散液が前記上流端から前記下流端に向かう方向に流れながら脱水されることにより繊維ウェブが形成される、製造方法が提供される。
【0006】
本発明の他の一実施形態によれば、抄紙網の表面である底面と、互いに平行な2つの側壁とからなり、上流端および下流端を有する脱水流路を備え、前記抄紙網を前記上流端から前記下流端に向かう方向に走行させつつ、水を分散媒とする繊維分散液を前記上流端から前記脱水流路内に導入し、前記脱水流路内を前記上流端から前記下流端に向かう方向に流しながら脱水させることができ、前記脱水流路の前記底面は前記上流端から前記下流端に向かう方向に上り勾配を有している、繊維ウェブ形成装置が提供される。
【0007】
本発明の更に他の一実施形態によれば、繊維が特定方向に配向した繊維ウェブである配向繊維ウェブの製造方法であって、湿式法で繊維ウェブを形成することと、前記繊維ウェブを乾燥させることと、前記乾燥の前に前記繊維ウェブを湿った状態のまま延伸させることとを含む製造方法が提供される。
【0008】
本発明の更に他の一実施形態によれば、繊維が特定方向に配向した繊維ウェブである配向繊維ウェブの製造方法であって、湿式法で繊維ウェブを形成することと、前記繊維ウェブを乾燥させることと、前記乾燥の後に繊維ウェブを液体で再度湿らせたうえ、湿った状態のまま延伸させることと、前記延伸の後に前記繊維ウェブを再度乾燥させることとを含む製造方法が提供される。
【0009】
本発明の更に他の一実施形態によれば、繊維が特定方向に配向した繊維ウェブである配向繊維ウェブの製造方法であって、乾燥した繊維ウェブを液体で湿らせたうえ、湿った状態のまま延伸させることと、前記延伸の後に前記繊維ウェブを乾燥させることとを含む製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
好ましい実施形態によれば、配向繊維ウェブを湿式法で製造する技術に関する改良が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、繊維ウェブ形成装置を示し、
図1(a)は上面図、
図1(b)は側面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す繊維ウェブ形成装置が備える脱水流路の、
図1(a)中のX-X線の位置における断面図である。
【
図3】
図3は、繊維ウェブ形成装置の側面図である。
【
図5】
図5は、脱水流路内に配置された垂直整流板を有する繊維ウェブ形成装置を示し、
図5(a)は上面図、
図5(b)は
図5(a)のX-X線の位置における断面図である。
【
図6】
図6は、
図5に示す繊維ウェブ形成装置の断面図である。
【
図10】
図10は、脱水流路内に配置された水平整流板を有する繊維ウェブ形成装置を示し、
図10(a)は上面図、
図10(b)は断面図である。
【
図16】
図16は、湿った繊維ウェブを延伸させるための曲げ伸ばし加工を説明する図面である。
【
図17】
図17は、X線回折測定におけるX線源、試料およびX線検出器の配置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.配向繊維ウェブの製造方法
本発明の一実施形態は配向繊維ウェブの製造方法に関する。
実施形態に係る配向繊維ウェブ製造方法は、(i)抄紙網の表面である底面と、互いに平行な2つの側壁とからなり、上流端および下流端を有する脱水流路を準備すること、および、(ii)前記抄紙網を前記上流端から前記下流端に向かう方向に走行させながら、繊維分散液を前記上流端から前記脱水流路内に導入することを含む。
この方法で使用され得る繊維ウェブ形成装置の構成例を
図1および
図2に示す。
図1(a)および
図1(b)は、それぞれ、繊維ウェブ形成装置の上面図および側面図であり、
図2は、繊維ウェブ形成装置が備える脱水流路の、
図1(a)のX-X線の位置における断面図である。
【0013】
図1および
図2を参照すると、繊維ウェブ形成装置1が備える脱水流路10は、底面12と2つの側壁14とから構成され、上流端10Aと下流端10Bを有している。底面12の裏側には吸引ボックス16が配置されている。
脱水流路10の底面12は、抄紙網20の表面である。抄紙網20は無端ベルトであり、吸引ボックス16上を通過する区間において、脱水流路10の底面12を構成している。この区間における抄紙網20の走行方向のことを以下ではM方向(Machine Direction)と呼ぶ。抄紙網20の幅方向であるT方向(Transverse Direction)は水平である。
M方向は、脱水流路10の上流端10Aから下流端10Bに向かう方向である。脱水流路10の2つの側壁14はいずれも、M方向に平行である。
脱水流路10の底面12は、上流端10Aから下流端10Bに向かう方向に上り勾配を有している。
脱水流路10は、天井板を設けることにより閉水路としてもよい。その場合、天井板の下方に水面が形成されないように繊維分散液の水位が設定される。
【0014】
繊維ウェブ形成装置1は、更に、脱水流路10の上流端10Aに結合されたリザーバー30を有する。脱水流路10にリザーバー30を直接結合させることは必須ではなく、後述するように、脱水流路10とリザーバー30の結合は間接的であってもよい。
図3に示すように、リザーバー30に貯留された繊維分散液は、上流端10Aから脱水流路10に導入され、脱水流路10内を下流端10Bに向かって流れる。その間に、吸引ボックス16の働きにより脱水が行われ、抄紙網20上に繊維ウェブが形成される。
吸引ボックス16は、M方向に沿って吸引量を変えることが可能であり、例えば、下流端10B側に向かって吸引量を多くしていくことにより、脱水流路10内での繊維分散液が上流端10A側に向かって逆流するのを防ぐことができる。
【0015】
脱水流路10内を繊維分散液が渦巻くことなく流れるとき、すなわち、層流をなして流れるとき、その流速は側壁14に近づくほど下がる。従って、繊維分散液中に分散された繊維にはせん断力が作用する。このせん断力の作用で、繊維は流動方向に沿って引き伸ばされるとともに、繊維方向が流動方向と一致するように配向する。
したがって、脱水流路10内を上流端10Aから下流端10Bに向かうように繊維分散液を流したときには、M方向に繊維が配向した繊維ウェブが抄紙網20上に堆積する。
【0016】
繊維がM方向に配向した繊維ウェブを安定的に抄紙網20上に堆積させるには、脱水流路10内で繊維分散液が安定した層流を形成するようにすればよい。つまり、レイノルズ数ができるだけ小さくなるように脱水流路10を設計すればよい。
レイノルズ数を下げるひとつの手段は、脱水流路10の流路幅W、すなわち2つの側壁14間の間隔を狭くすることである。層流はレイノルズ数が2300以下のとき形成されることが知られているので、例えば繊維分散液の粘性係数が0.01Pa・s、流速が0.4m/sの場合であれば、流路幅Wを5cm以下とすることが好ましい。
脱水流路10内における繊維分散液の流速の目安として、上流端10Aにおける平均流速、すなわち、脱水流路10に導入される繊維分散液の体積流量を、上流端10Aにおける繊維分散液流の断面積で除算した値を用いてもよい。
【0017】
脱水流路10の流路幅Wを小さくしたとき、前述のメカニズムによって流動方向に引き伸ばされ、配向する繊維の割合が増加する。側壁14に近づくほど、繊維分散液の流速が側壁14までの距離に依存して大きく変化するからである。
得られる繊維ウェブの幅を広げるために脱水流路10の幅Wを広げる場合には、それに伴うレイノルズ数の増加が相殺されるように、繊維分散液の粘性係数と流速のいずれか一方または両方を変化させることが望ましい。繊維分散液の粘性係数を高くするほど、また、流速を低下させるほど、レイノルズ数は低下する。
【0018】
脱水流路10に一定の体積流量で繊維分散液を導入する場合、脱水流路10の上流端10Aにおける水深Dが大きいほど、脱水流路10内における繊維分散液の流速は低くなる。このことは、レイノルズ数の上昇を避けながら、繊維ウェブの製造効率を上げるうえで、脱水流路10の上流端Aにおける水深Dを大きくすることが有利であることを意味する。
例えば、脱水流路10の上流端10Aにおける水深Dと流路幅Wとの比率(D/W)は、2以上、3以上、5以上、10以上、15以上、20以上、30以上などであり得る。
【0019】
脱水流路10の流路長Lを大きくし過ぎることなく上流端10Aにおける十分な水深Dを確保するために、脱水流路10の底面12の勾配角θは、好ましくは5°以上、より好ましくは10°以上、更に好ましくは15°以上であり、20°以上、更には25°以上であってもよい。
勾配角θが大き過ぎるとき、脱水流路10内の繊維分散液の流れを底面12の近傍において定常的にM方向と平行、つまり、上流端10A側から下流端10Bに向かう方向に保つことが難しくなる傾向がある。従って、脱水流路10の底面12の勾配角θは、例えば45°以下であり、40°以下、更には35°以下であってもよい。
【0020】
脱水流路10内における局所的な乱流の発生は可能な限り抑制すべきである。そのための手段として、例えば、
図4に断面を示すように、底面12と隣接する部分において側壁14の内面を流路の内側に湾曲させることができる。
【0021】
脱水流路の流路幅を広げ、より幅広の繊維ウェブの形成を可能とするために、脱水流路内に整流板を設置することができる。
脱水流路内に整流板を設置した繊維ウェブ形成装置の一例を
図5および
図6に示す。
図5および
図6を参照すると、脱水流路10内に垂直整流板17が設置されている。垂直整流板17は、主面(大面積表面)が垂直であり、主面の法線がT方向と平行である。T方向は前述の通り、水平であり、かつ、M方向に垂直である。
図5および
図6では垂直整流板17の支持手段の図示を省略しているが、垂直整流板の適宜な方法で支持することができる。例えば、複数のロッドを2つの側壁14の間に架け渡し、その複数のロッドによって各垂直整流板17を支持することができる。垂直整流板17のばたつきを抑えるために、垂直整流板17同士をT方向に延びるロッドで互いに固定してもよい。
【0022】
垂直整流板17の長さは、好ましくは、脱水流路10の流路長Lと略同じである。垂直整流板17の下端と脱水流路10の底面12との間には隙間が設けられる。この隙間は、M方向に沿って一定であることが好ましい。この隙間は、底面12上に堆積させるべき繊維ウェブの厚さ以下とならない範囲内において、狭い程好ましく、20mm以下、更には10mm以下、更には5mm以下、更には3mm以下であり得る。
垂直整流板17は、樹脂、金属、合金、ガラス、セラミックスまたはこれらの組合せからなり、整流板として必要な剛性が確保できるだけの厚さを有する。脱水流路10の容量や繊維分散液の流速に応じて、垂直整流板17に要求される剛性は異なる。必要な剛性が確保される限りにおいて、垂直整流板17の板厚は小さい方が望ましい。該板厚は、好ましくは10mm以下、より好ましくは5mm以下、更に好ましくは3mm以下である。
【0023】
垂直整流板17の上端の位置は、脱水流路10を開水路とする場合には、水面と同じか水面より上であることが好ましい。言い換えれば、脱水流路10内における繊維分散液の流れは、底面12の近傍を除き、垂直整流板17によって複数に分割されることが好ましい。
一例では、
図7に示すように天井板18を配置して脱水流路10を閉水路とすることができ、その場合には、垂直整流板17の上端を天井板18と隙間なくつなげることが好ましい。脱水流路10を閉水路とするときは、天井板18の下に水面が形成されないように、繊維分散液の水位が設定される。
【0024】
側壁14と垂直整流板17の間隔S11、および、垂直整流板17同士の間隔S12は、層流が形成されるようにレイノルズ数を下げる観点から、例えば繊維分散液の粘性係数が0.01Pa・s、流速が0.4m/sの場合であれば、5cm以下であることが好ましい。間隔S11と間隔S12は等しいことが好ましく、また、どの2つの隣り合う垂直整流板17の間においても間隔S12が同じであることが好ましい。
【0025】
側壁14と垂直整流板17の間の空間を繊維分散液が層流をなして流れるとき、その流速は側壁14または垂直整流板17に近づくほど下がるので、繊維分散液中に分散された繊維にはせん断力が作用する。このせん断力の作用で、繊維は流動方向に沿って引き伸ばされるとともに、繊維方向が流動方向と一致するように配向する。
垂直整流板17同士の間の空間を繊維分散液が層流をなして流れるときも同様のことがいえる。
【0026】
繊維分散液の流速は、側壁14に近づくほど側壁14までの距離に依存して大きく変化し、また、垂直整流板17に近づくほど垂直整流板17までの距離に依存して大きく変化する。従って、間隔S11および間隔S12を小さくする程、より多くの繊維が上記メカニズムによって引き伸ばされ、流動方向に配向することになる。
このことから、間隔S11および間隔S12は小さい方が有利であり、4cm以下、更には3cm以下、更には2cm以下、更には1cm以下とし得る。
【0027】
垂直整流板17には厚さがあるので、垂直整流板17の下端を基準として上流側と下流側とを比べると、上流側の方が脱水流路10の実効断面積が小さい。ここで、垂直整流板17の下端とは、脱水流路10の底面12と向かい合う末端のことをいう。
そのため、垂直整流板17の下端よりも下流側では、上流側に比べて、繊維分散液の流速が小さい。言い換えれば、垂直整流板17の下端のすぐ下流側には、繊維分散液の流速が低下する領域(以下では「流速低下領域」とも呼ぶ)が形成される。
【0028】
繊維分散液の流速が低下するとき、繊維が流動方向に配向した状態が乱される。そこで、流速低下領域における流速低下の度合を小さくするために、間隔S11および間隔S12は、それぞれ、垂直整流板17の厚さと同等以上とすることが好ましく、2倍以上とすることがより好ましく、3倍以上とすることが更に好ましい。垂直整流板17の厚さに対する間隔S11の比率や間隔S12の比率が大きい程、垂直整流板17の下端に対し上流側と下流側の、脱水流路10の実効断面積の差が小さいからである。
【0029】
好ましい例において、流速低下領域における流速の急激な低下を避けるために、
図8に示すように、垂直整流板17の下端にテーパーを付けてもよい。更に、乱流が発生し難くなるように、テーパーが付いた部分の表面を曲面としてもよい。
その他、垂直整流板17は、上流側の末端に繊維が引っ掛かり難くなるように、
図9に示すように上流側の末端の角を丸めてもよい。
【0030】
脱水流路内に整流板を設置した繊維ウェブ形成装置の他の一例を
図10および
図11に示す。
図10および
図11を参照すると、脱水流路10には天井板18と水平整流板19が設置されている。天井板18と水平整流板19は主面(大面積表面)が水平であり、主面の法線が鉛直線である。
天井板18と水平整流板19は、いずれも、T方向の端部を側壁14に固定することによって支持され得る。
天井板18を設ける場合には、閉水路が形成されるように、換言すれば天井板18の下に水面が形成されないように、繊維分散液の水位が設定される。天井板18の設置は省略することもできる。
【0031】
天井板18は、樹脂、金属、合金、ガラス、セラミックスまたはこれらの組合せからなり、水路壁として必要な剛性が確保できるだけの厚さを有する。
水平整流板19は、樹脂、金属、合金、またはこれらの組合せからなり、整流板として必要な剛性が確保できるだけの厚さを有する。脱水流路10の容量や繊維分散液の流速に応じて、天井板18と水平整流板19に要求される剛性は異なる。必要な剛性が確保される限りにおいて、水平整流板19の板厚は小さい方が望ましい。該板厚は、好ましくは10mm以下、より好ましくは5mm以下、更に好ましくは3mm以下である。天井板18の厚さは水平整流板19と同じであり得るが、限定するものではない。
【0032】
天井板18および水平整流板19の上流側の末端は、脱水流路10の上流端10Aに位置する。
天井板18の下流側の末端と脱水流路10の底面12との間、および、水平整流板19の下流側の末端と脱水流路10の底面12との間には、隙間が設けられる。この隙間は、底面12上に堆積させるべき繊維ウェブの厚さ以下とならない範囲内において、狭い程好ましく、20mm以下、更には10mm以下、更には5mm以下、更には3mm以下であり得る。要するに、脱水流路10内における繊維分散液の流れは、底面12の近傍を除き、垂直整流板17によって複数に分割されることが好ましい。
【0033】
天井板18と水平整流板19の間隔S21、および、水平整流板19同士の間隔S22は、層流が形成されるようにレイノルズ数を下げる観点から、例えば繊維分散液の粘性係数が0.01Pa・s、流速が0.4m/sの場合であれば、5cm以下であることが好ましい。間隔S21と間隔S22は等しいことが好ましく、また、どの2つの隣り合う水平整流板19の間においても間隔S22は同じであることが好ましい。
【0034】
天井板18と水平整流板19の間を繊維分散液が層流をなして流れるとき、その流速は天井板18または水平整流板19に近づくほど下がるので、繊維分散液中に分散された繊維にはせん断力が作用する。このせん断力の作用で、繊維は流動方向に沿って引き伸ばされるとともに、繊維方向が流動方向と一致するように配向する。
水平整流板19同士の間を繊維分散液が層流をなして流れるときも、同様のことがいえる。
【0035】
繊維分散液の流速は、天井板18に近づくほど天井板18までの距離に依存して大きく変化し、また、水平整流板19に近づくほど水平整流板19までの距離に依存して大きく変化する。従って、天井板18と水平整流板19の間の間隔S21および水平整流板19同士の間の間隔S22を小さくする程、より多くの繊維が上記メカニズムによって引き伸ばされ、流動方向に配向することになる。
このことから、間隔S21および間隔S22は小さい方が有利であり、4cm以下、更には3cm以下、更には2cm以下、更には1cm以下とし得る。
【0036】
脱水流路10の底面12の近傍では天井板18と水平整流板19が終端するので、脱水流路10の実効断面積が増加する。それによって形成される流速低下領域における流速低下の度合を小さくするために、間隔S21および間隔S22は、それぞれ、水平整流板19の厚さと同等以上とすることが好ましく、2倍以上とすることがより好ましく、3倍以上とすることが更に好ましい。
【0037】
水平整流板19は、
図12に示すように、上流側の末端に繊維が引っ掛かり難くするために、上流側の末端の角を丸めてもよく、また、流速低下領域における流速の急激な低下を避けるために、下流側の末端にテーパーを付けてもよい。下流側の末端については、乱流が発生し難くなるように、テーパーが付いた部分の表面を曲面としてもよい。
一例においては、前述の垂直整流板と水平整流板とを組み合わせて脱水流路10内を更に細分化し、層流の形成とそれによる繊維の配向を促進させることができる。
【0038】
繊維ウェブを形成するとき、脱水流路10の底面12を構成する抄紙網20の走行速度と、脱水流路10の上流端10Aにおける繊維分散液の平均流速との差を大きくし過ぎないことが、脱水流路10内における乱流の発生を防止するうえで有利である。
更に、抄紙網20の走行速度を繊維分散液の平均流速よりも僅かに速くすることが、抄紙網20上に形成される繊維ウェブ中の繊維をM方向に沿って配向させるうえで有利である。
そのため、抄紙網20の走行速度は、好ましくは前記平均流速の0.8~2.2倍であり、より好ましくは1.1~1.9倍、更に好ましくは1.4~1.6倍である。
【0039】
ここで、脱水流路10の上流端10Aにおける繊維分散液の平均流速とは、前述の通り、脱水流路10に導入される繊維分散液の体積流量を、上流端10Aにおける繊維分散液流の断面積で除算した値をいう。
生産効率の観点から、抄紙網20の走行速度は好ましくは1m/min以上であり、繊維分散液が乱流とならない範囲内で、3~5m/min、5~10m/min、10~20m/min、20~40m/min、40~80m/minなどとしてもよい。
【0040】
繊維ウェブの材料に用い得る繊維の例は、炭素繊維、無機繊維、金属繊維およびアラミド繊維を含むが、これらに限定されない。
炭素繊維は、炭素繊維廃棄物または炭素繊維コンポジット廃棄物からリサイクルされたものを含んでもよい。
炭素繊維、無機繊維、金属繊維およびアラミド繊維から選ばれる繊維と、熱可塑性樹脂繊維とを併用してもよい。熱可塑性樹脂繊維の好適例はエンジニアリングプラスチックのような耐熱性熱可塑性樹脂からなる繊維であり、例えばポリカーボネート、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトンまたはポリフェニレンサルファイドからなる繊維である。
【0041】
繊維分散液は、水を分散媒に用いて繊維を分散させた分散液である。繊維分散液は、例えば、粘剤の水溶液に分散剤と繊維を加えて得られる原液を、水で希釈することにより調製することができる。ただし、繊維分散液の調製方法はこれに限定されない。
繊維分散液が含有する繊維の繊維長は、好ましくは100mm以下、より好ましくは75mm以下、更に好ましくは50mm以下である。加えて、繊維分散液が含有する繊維は、繊維長3mm以上の成分を含むことが好ましく、繊維長12mm以上の成分を含むことがより好ましく、その95wt%以上が繊維長を12~50mmの範囲内に有することが更に好ましい。
繊維長が12mm以上の短繊維は、前述の方法により配向させ易く、また、配向した状態が比較的安定である。ただし、繊維長が50mmを超える繊維の含有量が多くなると、繊維同士の絡まり合いが発生し易くなる。繊維同士の絡まり合いは繊維ウェブの外観と品質の少なくともいずれかを悪化させる。繊維同士の絡まり合いの程度によっては、繊維分散液をリザーバーに向けて送り出すポンプの詰まりが引き起こされることもある。
【0042】
粘剤には、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルアミドなどの水溶性ポリマーを成分とする一般的な抄紙用粘剤を用いることができる。
粘剤の水溶液における粘剤濃度は、調製すべき繊維分散液の粘度に応じて決定すればよく、特に限定されないが、例えば0.3wt%程度とすることができる。
本発明者が炭素繊維を用いた実験で見出したところによれば、使用する粘剤によってはスネークポンプ内で炭素繊維分散液から細かい泡が多量に発生するために消泡剤の併用が必須であったが、ポリアクリルアミドを成分とする粘剤を用いた炭素繊維分散液には消泡剤を添加する必要がなかった。
スネークポンプ内で発生する細かい泡は消え難く、炭素繊維の表面に付着してその動きを邪魔するという、好ましくない働きをする。
【0043】
分散剤は例えば界面活性剤であり、繊維の水への分散性を改善するために用いられる。
一例では、原液における繊維含有量を約0.1wt%とし、これを希釈して繊維含有量0.03wt%の繊維分散液を得ることができる。
【0044】
図1に示す繊維ウェブ形成装置1を用いた配向繊維ウェブ製造装置の一例を
図13に示す。
図13を参照すると、配向繊維ウェブ製造装置は、繊維ウェブ形成装置1と乾燥機2とを備えている。繊維ウェブ形成装置1で形成された繊維ウェブは、従来公知の手段でフェルト(図示せず)に転写された後、乾燥機2に送られて乾燥される。乾燥後の繊維ウェブは、例えば、ロール(図示せず)の上に巻き取られる。リザーバーに繊維分散液を供給するシステムの図示は省略している。
【0045】
実施形態に係る配向繊維ウェブ製造方法に用い得る配向繊維ウェブ製造装置の他の例を
図14に示す。
図14に示す配向繊維ウェブ製造装置では、繊維分散液がリザーバー30から導入路40を介して脱水流路10に供給されるように繊維ウェブ形成装置1が構成されている。この点を除いて、
図14に示す配向繊維ウェブ製造装置の基本的な構成は、
図13に示すものと同じである。
図14においても、リザーバーに繊維分散液を供給するシステムの図示は省略している。
導入路40は、脱水流路10の上流端10Aに結合される流路であり、開水路であってもよいし閉水路であってもよい。脱水流路10が閉水路であるときは、導入路40も閉水路であることが好ましいが、限定するものではない。
【0046】
脱水流路10と導入路40の境界(継目)において、脱水流路10と導入路40の水平幅および深さをそれぞれ同等とすることが、上流端10A近傍で脱水流路10内に乱流を発生し難くするうえで有利である。
具体的には、脱水流路10と導入路40の境界に隣接する部分における脱水流路10の水平幅および深さは、それぞれ、前記境界に隣接する部分における導入路40のそれの0.9~1.1倍であることが好ましく、0.9~1倍であることがより好ましく、0.95~1倍であることが更に好ましい。
【0047】
一例では、導入路40内においても繊維分散液中の繊維を流れ方向、すなわちリザーバー30から脱水流路10に向かう方向に配向させることができる。
導入路40内において繊維分散液中の繊維を流れ方向に配向させるには、導入路40の少なくとも前記脱水流路10との境界を含む部分、好ましくは導入路40の全域において、導入路40内の繊維分散液の流れを層流とする。繊維分散液が層流を形成するとき、流路壁に近づくほど流速が小さくなるので、繊維分散液に分散された繊維にせん断力が作用する。その結果、繊維が流動方向に引き伸ばされ、流動方向に配向する。
繊維分散液の流速を下げることは、レイノルズ数を小さくする方向に作用するので、層流の形成にとって有利である一方、繊維ウェブの生産性を低下させる方向にも働く。そのため、繊維分散液の流速を下げずに、層流の形成を促す工夫も求められる。
【0048】
前述の例のように、脱水流路10内に垂直整流板を設置する場合には、その垂直整流板の上流側の末端が導入路40内に位置するように、垂直整流板を導入路40内まで延長することが好ましい。
同様に、脱水流路10内に水平整流板を設置する場合には、その水平整流板の上流側の末端が導入路40内に位置するように、水平整流板を導入路40内まで延長することが好ましい。
【0049】
乱流の発生を抑えるためには、流路壁の表面が平坦な方が有利である。従って、導入路40の内面の表面粗さRzは、好ましくは5μm以下である。
導入路においても、脱水流路と同じく、底面と隣接する部分において側壁の内面を流路の内側に湾曲させることは、乱流の発生を防止するうえで有利である。
【0050】
上流側から下流側に向かって流速が減少する部分を導入路に形成しないことも、乱流の発生を防止するうえで望ましい。上流側から下流側に向かって流速が減少する部分とは、流路の断面積が増加する部分であり、具体的には、流路の幅と深さのいずれか一方または両方が増加する部分である。
反対に、上流側から下流側に向かって流速が増加する部分を導入路に設けることは、繊維分散液中の繊維の流動方向に沿った配向を促進するうえで有利である。かかる部分では繊維が流動方向に引っ張られるからである。
【0051】
好ましい一例においては、繊維ウェブ形成装置と乾燥機の間を搬送される湿った繊維ウェブを、フェルトから剥がしたうえでMD方向に延伸させてもよい。このように延伸させることで、繊維ウェブを構成する繊維をより強くMD方向に配向させることができる。
ここで繊維ウェブのMD方向とは、当該繊維ウェブが抄紙網上で形成された時点においてM方向と平行であった方向をいう。同様に、繊維ウェブが抄紙網上で形成された時点においてT方向と平行であった方向は、繊維ウェブのTD方向という。
繊維ウェブ形成装置と乾燥機の間を搬送される繊維ウェブにおいては、搬送方向がMD方向に等しい。
【0052】
湿った繊維ウェブは、乾燥後とは違って千切れにくく、長さが元の2倍以上となるまでMD方向に延伸させることが可能である。その理由は、水の作用によって、繊維間に毛細管引力が働くとともに、繊維間の摩擦が小さくなるためと推定される。
【0053】
変形実施形態においては、一旦乾燥した後の繊維ウェブを液体で再度湿らせてからMD方向に延伸させてもよい。
液体は、繊維間に毛細管引力を発生させ、かつ、繊維間の摩擦を小さくする作用を有していれば、どんなものでもよい。液体の具体例には、水、有機溶媒、および、水と有機溶媒の混合物が含まれる。液体には溶質が溶けていてもよいし、微粒子が懸濁していてもよく、あるいは、その両方であってもよい。例えば、繊維ウェブが炭素繊維からなる場合、液体は炭素繊維用のサイジング剤を分散させた懸濁液であってもよい。
延伸後に繊維ウェブは再び乾燥される。
【0054】
実施形態に係る製造方法で製造される配向繊維ウェブの用途に特段の限定はない。
強化材用の繊維を原料に用いて製造される配向繊維ウェブを、熱硬化性樹脂組成物で含浸させることにより、熱硬化性プリプレグを得ることができる。熱硬化性プリプレグはFRP(繊維強化プラスチック)製品を製造するときに中間材料として使用される。
強化材用の繊維を原料に用いて製造される配向繊維ウェブを、熱可塑性樹脂組成物で含浸させることにより熱可塑性プリプレグを得ることができる。熱可塑性プリプレグはFRTP(繊維強化熱可塑性プラスチック)製品を製造するときに中間材料として使用される。
【0055】
一例では、強化材用の繊維とマトリクス樹脂用の熱可塑性樹脂繊維とを原料に用いて、これらの繊維が混合された配向繊維ウェブを、実施形態に係る製造方法で製造することができる。この配向繊維ウェブは、加圧下で熱可塑性樹脂繊維が融解する温度まで加熱すると、熱可塑性樹脂繊維が融解し、熱可塑性樹脂からなるマトリクスと強化材用の繊維とからなるFRTPを与える。
【0056】
2.その他の実施形態
前記1.において、繊維ウェブを構成する繊維の配向を強めるための、下記(1)および(2)の技法について記した。
(1)湿式法で形成した繊維ウェブを、乾燥させる前に、湿った状態のまま延伸させ、延伸後に乾燥させる技法。
(2)乾燥した繊維ウェブを液体で湿らせたうえ、湿った状態のまま延伸させ、延伸の後で再び乾燥させる技法。
【0057】
これら2つの技法は、前述の繊維ウェブ形成装置1を使用しないで形成した繊維ウェブに適用した場合であっても、該繊維ウェブを構成する繊維を配向させる効果、あるいは、該繊維ウェブを構成する繊維の配向を強める効果を奏し得る。
これら2つの技法を用いる場合、繊維ウェブが含有する繊維の繊維長は、好ましくは100mm以下、より好ましくは75mm以下、更に好ましくは50mm以下である。加えて、該繊維ウェブが含有する繊維は、繊維長3mm以上の成分を含むことが好ましく、繊維長12mm以上の成分を含むことがより好ましく、その95wt%以上が繊維長を12~50mmの範囲内に有することが更に好ましい。
【0058】
3.実施形態のまとめ
本発明の好ましい実施形態には以下が含まれるが、限定するものではない。
[実施形態1]繊維が特定方向に配向した繊維ウェブである配向繊維ウェブの製造方法であって、(i)抄紙網の表面である底面と、互いに平行な2つの側壁とからなり、上流端および下流端を有する脱水流路を準備すること、および、(ii)前記抄紙網を前記上流端から前記下流端に向かう方向に走行させながら、水を分散媒とする繊維分散液を前記上流端から前記脱水流路内に導入することを含み、前記脱水流路の前記底面は前記上流端から前記下流端に向かう方向に上り勾配を有し、前記脱水流路で前記繊維分散液が前記上流端から前記下流端に向かう方向に流れながら脱水されることにより繊維ウェブが形成される、製造方法。
[実施形態2]前記上り勾配が5°以上、10°以上、15°以上、20°以上、または25°以上である、実施形態1に係る製造方法。
[実施形態3]前記上り勾配が45°以下、40°以下、または35°以下である、実施形態2に係る製造方法。
[実施形態4]前記脱水流路の上流端における水深Dと前記脱水流路の流路幅Wの比率D/Wが2以上、3以上、5以上、10以上、15以上、20以上、または30以上である、実施形態1~3のいずれかに係る製造方法。
[実施形態5]前記脱水流路内に整流板を設置する、実施形態1~3のいずれかに係る製造方法。
[実施形態6]前記整流板は、上流側の末端の角が丸められている、実施形態5に係る製造方法。
[実施形態7]前記整流板が垂直整流板である、実施形態5または6に係る製造方法。
[実施形態8]前記垂直整流板の下端にテーパーが付けられている、実施形態7に係る製造方法。
[実施形態9]前記垂直整流板の下端と前記脱水流路の底面の間の隙間が20mm以下、10mm以下、5mm以下、または3mm以下である、実施形態7または8に係る製造方法。
[実施形態10]複数の前記垂直整流板を前記脱水流路内に設置するものであり、その複数の前記垂直整流板の厚さが互いに同じであり、かつ、その複数の前記垂直整流板のうち任意の隣接する2枚の間隔、および、前記側壁とそれに最も近い前記垂直整流板の間隔が、いずれも前記垂直整流板の厚さと同等以上、2倍以上、または3倍以上である、実施形態7~9のいずれかに係る製造方法。
[実施形態11]複数の前記垂直整流板を前記脱水流路内に設置するものであり、その複数の前記垂直整流板のうち任意の隣接する2枚の間隔、および、前記側壁とそれに最も近い前記垂直整流板の間隔が、いずれも、4cm以下、3cm以下、2cm以下、または1cm以下である、実施形態7~10のいずれかに係る製造方法。
[実施形態12]前記整流板が水平整流板である、実施形態5または6に係る製造方法。
[実施形態13]前記水平整流板の下流側の末端にテーパーが付けられている、実施形態12に係る製造方法。
[実施形態14]前記水平整流板の下流側の末端と前記脱水流路の底面の間の隙間が20mm以下、10mm以下、5mm以下、または3mm以下である、実施形態12または13に係る製造方法。
[実施形態15]複数の前記水平整流板を前記脱水流路内に設置するものであり、その複数の前記水平整流板の厚さが互いに同じであり、かつ、その複数の前記水平整流板のうち任意の隣接する2枚の間隔が前記水平整流板の厚さと同等以上、2倍以上、または3倍以上である、実施形態12~14のいずれかに係る製造方法。
[実施形態16]複数の前記水平整流板を前記脱水流路内に設置するものであり、その複数の前記水平整流板のうち任意の隣接する2枚の間隔が、4cm以下、3cm以下、2cm以下、または1cm以下である、実施形態12~15のいずれかに係る製造方法。
[実施形態17]前記脱水流路に天井板を設置する、実施形態1~16のいずれかに係る製造方法。
[実施形態18]前記脱水流路が閉水路となるように前記繊維分散液の水位が設定される、実施形態17に係る製造方法。
[実施形態19]前記底面と隣接する部分において前記側壁の内面が内側に湾曲している、実施形態1~18のいずれかに係る製造方法。
[実施形態20]前記脱水流路における前記抄紙網の走行速度が、前記脱水流路の上流端における前記繊維分散液の平均流速の0.8~2.2倍であり、好ましくは1.1~1.9倍であり、より好ましくは1.4~1.6倍である、実施形態1~19のいずれかに係る製造方法。
[実施形態21]前記脱水流路の前記上流端に導入路が結合され、前記導入路を通して前記脱水流路に前記繊維分散液が供給される、実施形態1~20のいずれかに係る製造方法。
[実施形態22]前記脱水流路と前記導入路との境界に隣接する部分における前記脱水流路の水平幅および深さが、それぞれ、前記境界に隣接する部分における前記導入路のそれの0.9~1.1倍、好ましくは0.9~1倍、より好ましくは0.95~1倍である、実施形態21に係る製造方法。
[実施形態23]前記導入路内において前記繊維分散液中の繊維が流れ方向に配向する、実施形態21または22に係る製造方法。
[実施形態24]前記繊維分散液が含む繊維の繊維長が100mm以下、好ましくは75mm以下、より好ましくは50mm以下である、実施形態1~23のいずれかに係る製造方法。
[実施形態25]前記繊維が、繊維長3mm以上の成分を含み、好ましくは繊維長12mm以上の成分を含む、実施形態24に係る製造方法。
[実施形態26]前記繊維の95wt%以上が繊維長を12~50mmの範囲内に有する、実施形態24に係る製造方法。
[実施形態27]前記繊維が、炭素繊維、無機繊維、金属繊維およびアラミド繊維から選ばれる1種以上の繊維を含む、実施形態24~26のいずれかに係る製造方法。
[実施形態28]前記繊維が炭素繊維を含み、かつ、前記繊維分散液がポリアクリルアミドを含む、実施形態27に係る製造方法。
[実施形態29]前記繊維分散液が粘剤を含み、更に、必要に応じて界面活性剤を含む、実施形態1~27のいずれかに係る製造方法。
[実施形態30]前記繊維が更に熱可塑性樹脂繊維を含む、実施形態27または28に係る製造方法。
[実施形態31]更に、前記繊維ウェブを乾燥させることを含む、実施形態1~30のいずれかに係る製造方法。
[実施形態32]前記乾燥の前に、前記繊維ウェブを湿った状態のまま延伸させることを含む、実施形態31に係る製造方法。
[実施形態33]前記乾燥の後に前記繊維ウェブを液体で再度湿らせたうえ、湿った状態のまま延伸させることと、前記延伸の後に前記繊維ウェブを再度乾燥させることと、を含む実施形態31に係る製造方法。
[実施形態34]抄紙網の表面である底面と、互いに平行な2つの側壁とからなり、上流端および下流端を有する脱水流路を備え、前記抄紙網を前記上流端から前記下流端に向かう方向に走行させつつ、水を分散媒とする繊維分散液を前記上流端から前記脱水流路内に導入し、前記脱水流路内を前記上流端から前記下流端に向かう方向に流しながら脱水させることができ、前記脱水流路の前記底面は前記上流端から前記下流端に向かう方向に上り勾配を有している、繊維ウェブ形成装置。
[実施形態35]前記上り勾配が5°以上、10°以上、15°以上、20°以上、または25°以上である、実施形態34に係る繊維ウェブ形成装置。
[実施形態36]前記上り勾配が45°以下、40°以下、または35°以下である、実施形態35に係る繊維ウェブ形成装置。
[実施形態37]前記脱水流路の上流端における水深Dと前記脱水流路の流路幅Wの比率D/Wが2以上、3以上、5以上、10以上、15以上、20以上、または30以上である、実施形態34~36のいずれかに係る繊維ウェブ形成装置。
[実施形態38]前記脱水流路内に設置された整流板を有する、実施形態34~36のいずれかに係る繊維ウェブ形成装置。
[実施形態39]前記整流板は、上流側の末端の角が丸められている、実施形態38に係る繊維ウェブ形成装置。
[実施形態40]前記整流板が垂直整流板である、実施形態38または39に係る繊維ウェブ形成装置。
[実施形態41]前記垂直整流板の下端にテーパーが付けられている、実施形態40に係る繊維ウェブ形成装置。
[実施形態42]前記垂直整流板の下端と前記脱水流路の底面の間の隙間が20mm以下、10mm以下、5mm以下、または3mm以下である、実施形態40または41に係る繊維ウェブ形成装置。
[実施形態43]複数の前記垂直整流板を有し、その複数の前記垂直整流板の厚さが互いに同じであり、その複数の前記垂直整流板のうち任意の隣接する2枚の間隔、および、前記側壁とそれに最も近い前記垂直整流板の間隔が、いずれも前記垂直整流板の厚さと同等以上、2倍以上、または3倍以上である、実施形態40~42のいずれかに係る繊維ウェブ形成装置。
[実施形態44]複数の前記垂直整流板を有し、その複数の前記垂直整流板のうち任意の隣接する2枚の間隔、および、前記側壁とそれに最も近い前記垂直整流板の間隔が、いずれも、4cm以下、3cm以下、2cm以下、または1cm以下である、実施形態40~43のいずれかに係る繊維ウェブ形成装置。
[実施形態45]前記整流板が水平整流板である、実施形態38または39に係る繊維ウェブ形成装置。
[実施形態46]前記水平整流板の下流側の末端にテーパーが付けられている、実施形態45に係る繊維ウェブ形成装置。
[実施形態47]前記水平整流板の下流側の末端と前記脱水流路の底面の間の隙間が20mm以下、10mm以下、5mm以下、または3mm以下である、実施形態45または46に係る繊維ウェブ形成装置。
[実施形態48]複数の前記水平整流板を有し、その複数の前記水平整流板の厚さが互いに同じであり、その複数の前記水平整流板のうち任意の隣接する2枚の間隔が、前記水平整流板の厚さと同等以上、2倍以上、または3倍以上である、実施形態45~47のいずれかに係る繊維ウェブ形成装置。
[実施形態49]複数の前記水平整流板を有し、その複数の前記水平整流板のうち任意の隣接する2枚の間隔が、4cm以下、3cm以下、2cm以下、または1cm以下である、実施形態45~47のいずれかに係る繊維ウェブ形成装置。
[実施形態50]前記脱水流路に設置された天井板を有する、実施形態34~49のいずれかに係る繊維ウェブ形成装置。
[実施形態51]前記底面と隣接する部分において前記側壁の内面が内側に湾曲している、実施形態34~50のいずれかに係る繊維ウェブ形成装置。
[実施形態52]前記脱水流路の前記上流端に結合された導入路を更に有し、前記導入路を通して前記脱水流路に前記繊維分散液を供給するようにした、実施形態34~51のいずれかに係る繊維ウェブ形成装置。
[実施形態53]前記脱水流路と前記導入路との境界に隣接する部分における前記脱水流路の水平幅および深さが、それぞれ、前記境界に隣接する部分における前記導入路のそれの0.9~1.1倍、好ましくは0.9~1倍、より好ましくは0.95~1倍である、実施形態52に係る繊維ウェブ形成装置。
[実施形態54]実施形態34~53のいずれかに係る繊維ウェブ形成装置と、前記繊維ウェブ形成装置で形成される繊維ウェブを乾燥させるための乾燥機と、を有する配向繊維ウェブ製造装置。
[実施形態55]繊維が特定方向に配向した繊維ウェブである配向繊維ウェブの製造方法であって、湿式法で繊維ウェブを形成することと、前記繊維ウェブを乾燥させることと、前記乾燥の前に前記繊維ウェブを湿った状態のまま延伸させることとを含む製造方法。
[実施形態56]繊維が特定方向に配向した繊維ウェブである配向繊維ウェブの製造方法であって、湿式法で繊維ウェブを形成することと、前記繊維ウェブを乾燥させることと、前記乾燥の後に繊維ウェブを液体で再度湿らせたうえ、湿った状態のまま延伸させることと、前記延伸の後に前記繊維ウェブを再度乾燥させることとを含む製造方法。
[実施形態57]繊維が特定方向に配向した繊維ウェブである配向繊維ウェブの製造方法であって、乾燥した繊維ウェブを液体で湿らせたうえ、湿った状態のまま延伸させることと、前記延伸の後に前記繊維ウェブを乾燥させることとを含む製造方法。
[実施形態58]前記配向繊維ウェブが含む繊維の繊維長が100mm以下、好ましくは75mm以下、より好ましくは50mm以下である、実施形態55~57のいずれかに係る製造方法。
[実施形態59]前記配向繊維ウェブが含む繊維が、繊維長3mm以上の成分を含み、好ましくは繊維長12mm以上の成分を含む、実施形態58に係る製造方法。
[実施形態60]前記配向繊維ウェブが含む繊維の95wt%以上が繊維長を12~50mmの範囲内に有する、実施形態59に係る製造方法。
[実施形態61]前記配向繊維ウェブが、炭素繊維、無機繊維、金属繊維およびアラミド繊維から選ばれる1種以上の繊維を含む、実施形態55~60のいずれかに係る製造方法。
[実施形態62]前記配向繊維ウェブが更に熱可塑性樹脂繊維を含む、実施形態61に係る製造方法。
[実施形態63]実施形態1~33および55~62のいずれかに係る製造方法で配向繊維ウェブを製造することと、前記配向繊維ウェブを熱硬化性樹脂組成物または熱可塑性樹脂組成物で含浸させることと、を含むプリプレグの製造方法。
【0059】
4.実験結果
以下に、本発明者等が行った実験の結果を記す。
【0060】
4.1.実験1
長さ25mmにカットしたフィラメント数15000の炭素繊維束(三菱ケミカル社製TR50S15L)からなる繊維マットを、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂およびスチレンを含む熱硬化性樹脂組成物で含浸させてなるシートモールディングコンパウンド(SMC)を準備した。このSMCを、電気炉を用いて、最初は酸素を含まない雰囲気下、次いで酸素を含む雰囲気下で加熱し、樹脂成分を分解除去することによって、綿状の再生炭素繊維を得た。
【0061】
分散剤と粘剤をそれぞれ水1Lに対して9gおよび3gの割合で含有する水溶液に、該水溶液1012gに対して9gの割合で再生炭素繊維を投入し、超音波照射しながら撹拌した。このようにして得た原液に水を加えて3倍に希釈することにより、繊維分散液を調製した。
分散剤には明成化学社製メイカサーフBP-25(エチレンオキサイド系化合物とポリオキシアルキレンモノフェニルエーテルの水溶液)を使用した。粘剤には三菱ケミカル社製アクリプライマーGA1055L(アクリルアミド・アクリル酸共重合物のナトリウム塩)を使用した。
B型回転粘度計(ブルックフィールド製LVDV-1 Pri)を用いて、回転速度:100rpm、スピンドル:S61という条件で繊維分散液の粘性係数を測定したところ、0.02Pa・sであった。
【0062】
図15に示す繊維ウェブ形成装置を用い、リザーバーに上方から前記繊維分散液を9.3L/minで供給しながら、3m/minで走行する抄紙網の上に幅2cmの炭素繊維ウェブを連続的に堆積させた。繊維ウェブ形成装置において、脱水流路の流路幅は2cm、脱水流路の底面の上り勾配角は20°であった。繊維分散液を上記流量で供給したときの、脱水流路の上流端における繊維分散液の水深は250mmであった。従って、該上流端における繊維分散液の平均流速は、計算すると1.9m/minであった。
自然乾燥させた後で測定した炭素繊維ウェブの幅(TD方向の寸法)は2cm、目付は33g/m
2であった。直径5mmのフラット測定子を取り付けたダイヤルゲージ(ミツトヨ製ABSデジマチックインジケータID-CX)を用いて荷重500g/cm
2で測定した厚さは0.19mmであり、この厚さと上記目付から嵩密度を計算すると0.17g/cm
3であった。
【0063】
4.2.実験2
実験1で作製した炭素繊維ウェブから切り出した、長さ12cm、幅2cmの炭素繊維ウェブ細長片に、当該細長片と同重量の水を浸み込ませた後、該細長片を長さ方向(MD方向)に延伸させた。
図16に示すように、まず幅方向(TD方向)の一方側を伸ばしながら他方側に折り曲げ、次いで、該他方側を伸ばしながら真直ぐに戻すと、炭素繊維ウェブ細長片は千切れずに延伸した。延伸した部分はくびれて幅が狭くなった。
【0064】
長さ方向の両端付近を除く全ての部分で幅が約5mmとなるように、上記の曲げ伸ばしを複数箇所で行ったところ、炭素繊維ウェブ細長片の長さは元の約2倍となった。
自然乾燥させた後、炭素繊維ウェブ細長片の延伸した部分における目付と厚さを、実験1と同様の方法で測定したところ、目付が58g/m2、厚さが0.13mmであり、これらの値から嵩密度を計算すると0.43g/cm3であった。
【0065】
4.3.実験3
炭素繊維ウェブ細長片に浸み込ませる水の量を変化させたこと以外は実験2と同様にして、該細長片の延伸を試みたところ、次のような結果であった。
水の量を細長片の重量の4倍まで増加させても、実験2と同程度の容易さで延伸させることができた。
水の量が細長片の重量の8倍のときは、かなり柔らかくなり、曲げ伸ばしを丁寧に行わないと千切れる場合があったが、延伸させることは可能であった。
炭素繊維ウェブ細長片の上に、その重量の10倍の水を滴下したときは、その全量が浸み込まずに、むしろ、細長片が水に浸かったような状態となった。この状態で曲げ伸ばしをすると細長片が千切れてしまい、延伸は不可能であった。
【0066】
水の量が細長片の重量の半分のときは、あまり柔らかくならず、曲げ伸ばしを丁寧に行わないと千切れる場合があったが、延伸させることは可能であった。
水を全く浸み込ませないときは、曲げ伸ばしをすると細長片が千切れてしまい、延伸が不可能であった。
これらの結果は、水の作用によって炭素繊維間に毛細管引力が働くことと、水が繊維間の摩擦を小さくする潤滑剤として働くことを示している。炭素繊維ウェブ細長片に浸み込ませる水の量が多過ぎるときは、炭素繊維間に毛細管引力が働かなくなったために、曲げ伸ばしをしたときに、くびれずに千切れたと考えられる。
【0067】
4.4.実験4
実験1で作製した炭素繊維ウェブ(試料1)、実験2でMD方向に約2倍に延伸した延伸炭素繊維ウェブ(試料2)、および、フィラメント数15000のバージン炭素繊維束(三菱ケミカル社製TR50S15L;試料3)の、それぞれにおける炭素繊維の配向度をX線回折測定により評価した。
X線回折測定では、
図17に示すように試料の一方面側にX線源、他方面側にX線検出器を配置し、試料を自身の厚さ方向に平行な回転軸を中心に回転させながら、試料が回転軸と交わる部位にX線を照射して、下記の測定条件にてグラファイト002回折線の強度を測定した。
【0068】
(測定条件)
装置:EMPYREAN(Malvern Panalytical社製)
X線源:CuKα
X線出力:40mA、45kV
フォーカス:ポイントフォーカス
スリット:上流 縦2.0mm、横2.0mm
下流 縦2.0mm、横2.0mm
オートサンプラー使用
start angle 0°
end angle 359.6°
step size 0.4°
time per step 1秒
2θ=25.4°
【0069】
X線回折測定の結果に基づいて、下記式(1)および(2)から各試料の配向度faを算出した(Hermansの手法)。下記式(1)において、I(φ)は試料の回転角度がφのときのグラファイト002回折線の強度である。
【0070】
【0071】
配向度faの算出にあたり、試料1と試料2についてはX線源、試料の回転軸およびX線検出器を含む平面が試料のMD方向に垂直なときのφを0°とし、試料3については同じ平面が試料の繊維方向に垂直なときのφを0°とした。配向度faが取り得る値は-1から1の範囲内であり、φが0°のとき上記平面に直交する方向に繊維配向が偏っていると1に近づき、φが0°のとき上記平面に平行な方向に繊維配向が偏っていると-1に近づく。繊維配向のランダム性が高くなるにつれて配向度faは0に近づく。
結果を下記表1にまとめて示す。
【0072】
【0073】
試料3において、炭素繊維が試料の繊維方向と平行に配向していることは既知である。試料1および試料2における炭素繊維の配向度faが試料3と同じく正であったことから、試料1および試料2において炭素繊維がMD方向に配向していることが確認された。
【0074】
試料3においては、炭素繊維が完全に一方向に配向しているといってもよい。それにも拘わらず試料3の配向度faが1ではなく0.56となった理由は、よく知られているように、炭素繊維中におけるグラファイトの配向が完全ではないことによる。試料1および試料2における配向度faを評価するにあたっては、このことを考慮する必要がある。
試料3における配向度0.56を100%としたとき、試料1における配向度0.19は34%、試料2における配向度4.6は82%であり、どちらも十分に高いことが分かる。
【0075】
以上、本発明を具体的な実施形態に即して説明したが、各実施形態は例として提示されたものであり、本発明の範囲を限定するものではない。本明細書に記載された各実施形態は、発明の効果が奏される範囲内で、様々に変形することができ、かつ、実施可能な範囲内で、他の実施形態により説明された特徴と組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0076】
1 繊維ウェブ形成装置
2 乾燥機
10 脱水流路
10A 上流端
10B 下流端
12 底面
14 側壁
16 吸引ボックス
17 垂直整流板
18 天井板
19 水平整流板
20 抄紙網
30 リザーバー
40 導入路