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  • 特許-リチウムイオン伝導性固体電解質 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】リチウムイオン伝導性固体電解質
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/06 20060101AFI20240806BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20240806BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20240806BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240806BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240806BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01B1/08
H01B13/00 Z
H01M10/052
H01M10/0562
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024502986
(86)(22)【出願日】2023-02-07
(86)【国際出願番号】 JP2023003939
(87)【国際公開番号】W WO2023162669
(87)【国際公開日】2023-08-31
【審査請求日】2024-05-20
(31)【優先権主張番号】P 2022028893
(32)【優先日】2022-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】炭谷 晃史
(72)【発明者】
【氏名】倉橋 駿介
(72)【発明者】
【氏名】李 建燦
(72)【発明者】
【氏名】清 良輔
【審査官】岩田 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-091079(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03863094(EP,A2)
【文献】特開2015-046218(JP,A)
【文献】特開2012-033279(JP,A)
【文献】特開2018-049701(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/06
H01B 1/08
H01B 13/00
H01M 10/052
H01M 10/0562
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式Li2-xTi1-xM1x3で表される化合物であり、
前記M1は、ニオブおよびタンタルの元素からなる群から選ばれる少なくとも一種の金属元素であり、
0.05≦x≦0.15である、
リチウムイオン伝導性固体電解質。
【請求項2】
X線回折測定において、単斜晶の結晶構造が確認される、請求項1に記載のリチウムイオン伝導性固体電解質。
【請求項3】
トータルのリチウムイオン伝導度σtotal(25℃)が1.0×10-6(S/cm)以上である請求項1または2に記載のリチウムイオン伝導性固体電解質。
【請求項4】
請求項1または2に記載のリチウムイオン伝導性固体電解質を固体電解質として含むリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
請求項3に記載のリチウムイオン伝導性固体電解質を固体電解質として含むリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン伝導性固体電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノートパソコン、タブレット端末、携帯電話、スマートフォン、および電気自動車(EV)等の電源として、高出力かつ高容量の電池の開発が求められている。その中でも有機溶媒などの液体電解質に替えて、固体電解質を用いた全固体リチウムイオン電池が、充放電効率、充電速度、安全性、および生産性に優れるとして注目されている。
このような全固体リチウムイオン電池の分野において、リチウムイオン伝導体材料を用いて正極材料等を改善する技術が開示されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、正極表面にリチウムイオン伝導体を含むコーティング膜を配置することにより、正極活物質と硫化物系固体電解質との界面において、Co、P、およびSなどの成分拡散を抑制し、リチウム欠乏層生成を防止することで界面抵抗を低減する、正極が開示されている。また、特許文献2には、正極活物質の表面に、LiNbO等のLiイオン伝導性が良好な第1リチウムイオン伝導体と、電気化学的安定性の高い第2リチウムイオン伝導体とを含有する反応抑制部を設けることで、正極活物質および硫化物固体電解質材料の界面抵抗が経時的に増加することを抑制できる正極活物質が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2021-150286号公報
【文献】特開2013-026003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リチウムイオンが伝導するリチウムイオン伝導性固体電解質としては、安全性の観点から硫化物系の固体電解質より酸化物系の固体電解質が好ましい。
しかし、特許文献1には、前記リチウムイオン伝導体としては、リチウムジルコニウム酸化物、リチウムチタン酸化物、リチウムニオブ酸化物等が例示されているが、LiO-ZrO以外の具体的な化合物組成は開示されていない。また、特許文献2には、第1リチウムイオン伝導体としては、LiNbO等のニオブ酸化物、LiTaO等のタンタル酸化物等のLi含有酸化物等が例示され、また、第2リチウムイオン伝導体としては、LiTi、LiTi、LiTi12等を含む、B、Si、P、Al、およびWの少なくとも一つを有するポリアニオン構造部を備えるLi含有化合物が例示されている。
しかし、これらの文献には、リチウムイオン伝導体として、酸化物系の固体電解質のイオン伝導性を向上させる記載も示唆もない。本発明は上記現状を鑑みて、イオン伝導度が高い酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質、および前記固体電解質を用いたリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下に示す構成を含む。
【0007】
[1]
組成式Li2-xTi1-xM1で表される化合物であり、
前記M1は、ニオブおよびタンタルの元素からなる群から選ばれる少なくとも一種の金属元素であり、
0.05≦x≦0.15である、
リチウムイオン伝導性固体電解質。
[2]
X線回折測定において、単斜晶の結晶構造が確認される、前記[1]に記載のリチウムイオン伝導性固体電解質。
[3]
トータルのリチウムイオン伝導度σtotal(25℃)が1.0×10-6(S/cm)以上である前記[1]または[2]に記載のリチウムイオン伝導性固体電解質。
[4]
前記[1]~[3]のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性固体電解質を固体電解質として含むリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、イオン伝導度が高い酸化物系リチウムイオン伝導性固体電解質、および前記固体電解質を用いたリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【0009】
また、該リチウムイオン伝導性固体電解質を使用することで、例えば、高出力かつ高容量のリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1および比較例1、2でそれぞれ作製したリチウムイオン伝導性固体電解質(1)~(3)のX線回折図形である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態であるリチウムイオン伝導性固体電解質(以下、本電解質ともいう)は、組成式Li2-xTi1-xM1で表される化合物であり、前記M1は、ニオブおよびタンタルの元素からなる群から選ばれる少なくとも一種の金属元素であり、0.05≦x≦0.15である。
より具体的には、本電解質は、組成式LiTiOで表されるリチウム含有チタン酸化物において、チタン元素をドープしたM1元素で一部置換したものである。ここで、M1元素が、4価のチタンイオンを5価のイオンとして置換したとき、リチウムの組成が2-xと表されているように、電荷補償の観点から化合物中にリチウム元素の存在しないリチウム空孔が結晶構造中に導入され、リチウムイオンが動きやすくなることでリチウムイオン伝導性が向上すると考えられる。
【0012】
(リチウムイオン伝導性固体電解質の構成元素)
本電解質は、少なくとも、リチウム、チタン、M1および酸素を構成元素として有し、M1は、ニオブおよびタンタルの元素からなる群から選ばれる少なくとも一種の金属元素である。本電解質は、リチウムを含有する特定の酸化物からなるリチウムイオン伝導性固体電解質ともいえる。ただ、このことは、リチウムイオン伝導性固体電解質における不純物の存在を厳密に排除するものでない。原料および/または製造過程などに起因する不可避不純物、リチウムイオン伝導性を劣化させない範囲内において他の結晶系を有する不純物等がリチウムイオン伝導性固体電解質に含まれることは差し支えない。
【0013】
本発明の好ましい実施態様におけるリチウムイオン伝導性固体電解質を構成するリチウム、チタン、M1および酸素の各構成元素の原子数の比は、例えば、Mn、CoおよびNiが1:1:1の割合で含有されている標準粉末試料を用いて、オージェ電子分光法(AES:Auger Electron Spectroscopy)により絶対強度定量法を用いて測定することができる。標準粉末試料としては、例えば、LiCoO等のリチウム含有遷移金属酸化物等が挙げられる。
【0014】
(M1含有量)
本電解質の組成式は、下記式(1)で表される。
Li2-xTi1-xM1 …式(1)
上記式(1)においてxで表される、本電解質が含むM1の含有量は、0.05以上0.15以下である。この含有量の範囲は、チタンとM1の元素の合計原子数に対するM1の原子数の百分率で表すと、5%以上15%以下である。上記式(1)のxで表すとき、M1含有量の下限は、好ましくは0.06であり、より好ましくは0.07であり、特に好ましくは0.08である。上記式(1)のxで表すとき、M1含有量の上限は、好ましくは0.13であり、より好ましくは0.12であり、さらに好ましくは0.10である。M1含有量が上記の範囲にあると、リチウムイオン伝導度の向上が大きい。M1含有量は、チタンとM1との合計原子数に対するM1の原子数の百分率として、従来公知の定量分析により求めることができる。例えば、M1含有量は、試料に酸を加えて熱分解後、熱分解物を定容し、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置を用いて求めることができる。後述するリチウムイオン伝導性固体電解質の製造方法において、チタンとM1は系外に流出しないので、M1のドープ量を表す、チタンとM1との合計原子数に対するM1の原子数の百分率は、簡易的に原材料の仕込み量から算出することができる。
【0015】
(金属元素M1)
本電解質が含むM1は、ニオブおよびタンタルの元素からなる群から選ばれる少なくとも一種の金属元素である。
リチウムイオン伝導性固体電解質の構成元素の価数に着目したとき、M1は5価のイオンとしてドープされるので、チタンの価数とは1異なる。したがって、電解質全体の電荷中性のバランスをとるため、ドープされたM1原子の数xだけリチウムイオン伝導性固体電解質に含有されるリチウムイオン数が減少する。
【0016】
(結晶構造)
本電解質は、好ましくは、X線回折測定において、単斜晶の結晶構造を含むことが確認される。前記M1がドープされてチタン元素を置換し、チタン元素の位置を占め、リチウム含有チタン酸化物に固溶した状態であると、元となるLiTiOの単斜晶の結晶構造が確認される。X線回折測定において、LiTiOの単斜晶の結晶構造のみが確認されることが好ましく、イオン伝導性を有しない、もしくはイオン伝導性の低い、ドープしたM1を含むLiM1Oに同定されるような結晶構造が他に確認されることは好ましくない。
【0017】
また、本電解質において、前記M1がドープされてチタン元素を置換しているため、M1のドープ量に応じて格子定数の特にβの角度が変動するが、単斜晶の結晶構造は保たれる。しかし、ドープ量によってβの角度が変化して90°に近くなると、直方晶になるということもできる。
【0018】
(リチウムイオン伝導度)
本電解質の25℃におけるトータルのリチウムイオン伝導度σtotalは、好ましくは1.0×10-6(S/cm)以上であり、より好ましくは1.5×10-6(S/cm)以上であり、さらに好ましくは2.0×10-6(S/cm)以上である。トータルのリチウムイオン伝導度は、後述する実施例において説明する方法で測定することができる。
【0019】
(リチウムイオン伝導性固体電解質の製造方法)
本電解質の製造方法は、上記の構成の範囲内のリチウムイオン伝導性固体電解質が得られる限り特に限定されない。固相反応、液相反応等が採用可能である。以下、固相反応による製造方法について詳細に説明する。
【0020】
固相反応による製造方法としては、少なくとも1段階の混合工程と焼成工程をそれぞれ有する製造方法が挙げられる。
【0021】
混合工程では、リチウム原子、チタン原子およびM1原子をそれぞれ含む化合物を混合する。
【0022】
リチウム原子を含有する化合物としては、特に限定はされないが、扱いやすさから無機化合物が好ましく、リチウム原子を含有する無機化合物としては、炭酸リチウム(LiCO)、酸化リチウム(LiO)などのリチウム化合物を挙げることができる。これらのリチウム化合物は1種単独でもよく、2種以上を併用してもよい。分解、反応させやすいことから炭酸リチウム(LiCO)を用いることが好ましい。
【0023】
チタン原子を含有する化合物としては、特に限定はされないが、二酸化チタン(TiO)、チタンテトラエトキシドなどのチタン化合物を挙げることができ、扱いやすさから無機化合物が好ましい。これらのチタン化合物は1種単独でもよく、2種以上を併用してもよい。コストおよび扱いやすさの点から二酸化チタン(TiO)を用いることが好ましい。
【0024】
M1原子を含有する化合物としては、特に限定はされないが、扱いやすさから無機化合物が好ましく、M1の酸化物、硝酸塩などの化合物を挙げることができる。これらの化合物は1種単独でもよく、2種以上を併用してもよい。コストの点から酸化物を用いることが好ましい。
【0025】
M1がニオブである場合には、例えば、酸化物として五酸化ニオブ(Nb)を挙げることができる。
M1がタンタルである場合には、例えば、酸化物として五酸化タンタル(Ta)、硝酸タンタル(Ta(NO)などのタンタル化合物を挙げることができる。これらのタンタル化合物は1種単独でもよく、2種以上を併用してもよい。コストの点から五酸化タンタル(Ta)を用いることが好ましい
【0026】
上述した原材料の混合は、ロール転動ミル、ボールミル、小径ボールミル(ビーズミル)、媒体撹拌ミル、気流粉砕機、乳鉢、自動混練乳鉢、解槽機またはジェットミルなどを用いて行うことができる。混合する原材料の比率は、簡便には、上述した式(1)の組成となるような化学量論比である。より具体的には、後述する焼成工程において、リチウム原子が系外へ流出しやすいので、上述したリチウム原子を含有する化合物を1~2割程度過剰に加えて調節してもよい。
混合工程は、大気雰囲気下で行ってもよい。酸素ガス含有量の調整された窒素ガスおよび/またはアルゴンガスのガス雰囲気であることがより好ましい。
【0027】
焼成工程では、混合工程で得た混合物を焼成する。焼成工程を、例えば低温焼成と高温焼成の2段階の工程とするように複数回行う場合には、焼成工程間に、一次焼成物の解砕、または小粒径化を目的として、ボールミルや乳鉢を用いた解砕工程を設けてもよい。
【0028】
焼成工程は大気雰囲気下で行ってもよい。酸素ガス含有量の調整された窒素ガスおよび/またはアルゴンガスのガス雰囲気であることがより好ましい。
焼成温度としては、800~1200℃の範囲が好ましく、850~1100℃の範囲がより好ましく、900~1000℃の範囲がさらに好ましい。800℃以上で焼成すると金属元素M1の固溶が十分に行われてイオン伝導度が向上し、1200℃以下で焼成すると、リチウム原子が系外へ流出しにくいため好ましい。焼成時間は、1~16時間が好ましく、3~12時間がより好ましい。焼成時間が前述の範囲であると、トータルのリチウムイオン伝導度が大きくなりやすく好ましい。焼成時間が前述の範囲より長いと、リチウム原子が系外へ流出しやすい。焼成時間と焼成温度は互いに連動して調整される。
【0029】
焼成工程を、例えば低温焼成と高温焼成の2段階の工程とする場合、低温焼成は、400~800℃で、2~12時間行ってもよい。
また、副生成物の残存を抑えるために、高温焼成を2回行ってもよい。2回目の焼成工程では、焼成温度としては、800~1200℃の範囲が好ましく、850~1100℃の範囲がより好ましく、900~1000℃の範囲がさらに好ましい。各焼成工程の焼成時間は1~8時間が好ましく、2~6時間がより好ましい。
【0030】
焼成後に得られる焼成物は、大気中に放置すると、吸湿したり二酸化炭素と反応したりして変質することがある。焼成後に得られる焼成物は、焼成後の降温において焼成物が200℃より下がったところで、除湿した不活性ガス雰囲気下に移して保管することが好ましい。
【0031】
このようにして本電解質を得ることができる。本電解質の好適な実施態様の1つとして、固体電解質として、リチウムイオン二次電池に利用することが挙げられる。
【0032】
(リチウムイオン二次電池)
本発明の一実施形態は、本電解質を固体電解質として含むリチウムイオン二次電池である。リチウムイオン二次電池の構造は、特に限定されないが、例えば、固体電解質層を備える固体電池の場合、正極集電体、正電極層、固体電解質層、負電極層および負極集電体がこの順に積層された構造を成している。
【0033】
前記正極集電体および前記負極集電体は、その材質が電気化学反応を起こさずに電子を導電するものであれば特に限定されない。例えば、銅、アルミニウム、鉄等の金属の単体もしくは合金、またはアンチモンドープ酸化スズ(ATO)、スズドープ酸化インジウム(ITO)などの導電性金属酸化物などの導電体で構成される。なお、導電体の表面に導電性接着層を設けた集電体を用いることもできる。導電性接着層は、粒状導電材や繊維状導電材などを含んで構成することができる。
【0034】
前記正電極層および前記負電極層は、公知の粉末成形法によって得ることができる。例えば、正極集電体、正電極層用の粉末、固体電解質層用の粉末、負電極層用の粉末および負極集電体をこの順に重ね合わせて、それらを同時に粉末成形することによって、正電極層、固体電解質層および負電極層のそれぞれの層形成と、正極集電体、正電極層、固体電解質層、負電極層および負極集電体のそれぞれの間の接続を同時に行うこともできる。また、各層を逐次に粉末成形することもできる。得られた粉末成形品に、必要に応じて、焼成などの熱処理を施してもよい。
【0035】
粉末成形法としては、例えば、粉末に溶剤を加えてスラリーとし、スラリーを集電体に塗布し、乾燥させ、次いで加圧することを含む方法(ドクターブレード法)、スラリーを吸液性の金型に入れ、乾燥させ、次いで加圧することを含む方法(鋳込成形法)、粉末を所定形状の金型に入れ圧縮成形することを含む方法(金型成形法)、スラリーをダイスから押し出して成形することを含む押出成形法、粉末を遠心力により圧縮して成形することを含む遠心力法、粉末をロールプレス機に供給して圧延成形することを含む圧延成形法、粉末を所定形状の可撓性バッグに入れ、それを圧力媒体に入れて等方圧を加えることを含む冷間等方圧成形法(cold isostatic pressing)、粉末を所定形状の容器に入れ真空状態にし、その容器に高温下、圧力媒体にて等方圧を加えることを含む熱間等方圧成形法(hot isostatic pressing)などを挙げることができる。
【0036】
金型成形法としては、固定下パンチと固定ダイに粉末を入れ、可動上パンチで粉末に圧を加えることを含む片押し法、固定ダイに粉末を入れ、可動下パンチと可動上パンチで粉末に圧を加えることを含む両押し法、固定下パンチと可動ダイに粉末を入れて可動上パンチで粉末に圧を加え、圧が所定値を超えた時に可動ダイを移動させて固定下パンチが相対的に可動ダイの中に入り込むようにすることを含むフローティングダイ法、固定下パンチと可動ダイに粉末を入れ、可動上パンチで粉末に圧を加えると同時に可動ダイを移動させて固定下パンチが相対的に可動ダイの中に入り込むようにすることを含むウイズドローアル法などを挙げることができる。
【0037】
前記正電極層の厚さは、好ましくは10~200μm、より好ましくは30~150μm、さらに好ましくは50~100μmである。前記固体電解質層の厚さは、好ましくは50nm~1000μm、より好ましくは100nm~100μmである。前記負電極層の厚さは、好ましくは10~200μm、より好ましくは30~150μm、さらに好ましくは50~100μmである。
【0038】
(活物質)
負電極用の活物質としては、リチウム合金、金属酸化物、グラファイト、ハードカーボン、ソフトカーボン、ケイ素、ケイ素合金、ケイ素酸化物SiO(0<n≦2)、ケイ素/炭素複合材、多孔質炭素の細孔内にケイ素ドメインを内包する複合材、チタン酸リチウム、およびチタン酸リチウムで被覆されたグラファイトからなる群から選ばれる少なくとも一つを含有するものを挙げることができる。ケイ素/炭素複合材および多孔質炭素の細孔内にケイ素ドメインを内包する複合材は、比容量が高く、エネルギー密度および電池容量を高めることができるので好ましい。より好ましくは、多孔質炭素の細孔内にケイ素ドメインを内包する複合材であり、ケイ素のリチウム吸蔵/放出に伴う体積膨張の緩和性に優れ、複合電極材料または電極層において、マクロ導電性、ミクロ導電性およびイオン伝導性のバランスを良好に維持することができる。特に好ましくは、ケイ素ドメインが非晶質であり、ケイ素ドメインのサイズが10nm以下であり、ケイ素ドメインの近傍に多孔質炭素由来の細孔が存在する、多孔質炭素の細孔内にケイ素ドメインを内包する複合材である。
【0039】
正電極用の活物質としては、LiCo酸化物、LiNiCo酸化物、LiNiCoMn酸化物、LiNiMn酸化物、LiMn酸化物、LiMn系スピネル、LiMnNi酸化物、LiMnAl酸化物、LiMnMg酸化物、LiMnCo酸化物、LiMnFe酸化物、LiMnZn酸化物、LiCrNiMn酸化物、LiCrMn酸化物、チタン酸リチウム、リン酸金属リチウム、遷移金属酸化物、硫化チタン、グラファイト、ハードカーボン、遷移金属含有リチウム窒化物、酸化ケイ素、ケイ酸リチウム、リチウム金属、リチウム合金、Li含有固溶体、およびリチウム貯蔵性金属間化合物からなる群から選ばれる少なくとも一つを含有するものを挙げることができる。LiNiCoMn酸化物、LiNiCo酸化物またはLiCo酸化物が好ましく、LiNiCoMn酸化物がより好ましい。LiNiCoMn酸化物は固体電解質との親和性がよく、マクロ導電性、ミクロ導電性およびイオン伝導性のバランスに優れる。また、LiNiCoMn酸化物は平均電位が高く、比容量と安定性のバランスにおいてエネルギー密度や電池容量を高めることができる。また、正電極用の活物質は、本固体電解質、ニオブ酸リチウム、リン酸リチウムまたはホウ酸リチウム等で表面が被覆されていてもよい。
【0040】
本発明の一実施形態における活物質は、粒子状が好ましい。その体積基準粒度分布における50%径は0.1μm以上30μm以下が好ましく、0.3μm以上20μm以下がより好ましく、0.4μm以上10μm以下がさらに好ましく、0.5μm以上3μm以下が最も好ましい。また、短径の長さに対する長径の長さの比(長径の長さ/短径の長さ)、すなわちアスペクト比が、好ましくは3未満、より好ましくは2未満である。
【0041】
本発明の一実施形態における活物質は、二次粒子を形成していてもよい。その場合、一次粒子の数基準粒度分布における50%径は、0.1μm以上20μm以下が好ましく、0.3μm以上15μm以下がより好ましく、0.4μm以上10μm以下がさらに好ましく、0.5μm以上2μm以下が最も好ましい。圧縮成形して電極層を形成する場合においては、活物質は、一次粒子であることが好ましい。活物質が一次粒子である場合は、圧縮成形した場合でも、電子伝導パスまたは正孔伝導パスが損なわれることが起こりにくい。
【実施例
【0042】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。また、実施例および比較例における粉末X線回折測定およびイオン伝導度評価は、以下の方法および手順により行った。
【0043】
実施例1:
(1)リチウムイオン伝導性固体電解質の作製
まず、チタンとニオブの元素の合計原子数に対するニオブの原子数の百分率が8%となるよう二酸化チタン(TiO)(アナターゼ型、富士フイルム和光純薬製、純度98.5%以上)と五酸化ニオブ(Nb)(富士フイルム和光純薬製、純度99.9%)とを秤量し、チタンとニオブの元素の合計原子数に対してリチウムの原子数が1.92倍量となるよう炭酸リチウム(LiCO)(シグマアルドリッチ製、純度99.0%以上)を秤量した。
秤量した各粉末を、適量のトルエンを加えてジルコニアボールミル(ジルコニアボール:直径1mm)を用いて3時間混合した。
得られた混合物をアルミナボートに入れ、回転焼成炉(モトヤマ社製)を用いて空気雰囲気下(ガス流量100mL/分)で昇温速度10℃/分で700℃まで昇温し、700℃において5時間焼成を行った。
焼成して得られた一次焼成物に、適量のトルエンを加えてジルコニアボールミル(ジルコニアボール:直径1mm)を用いて3時間解砕した。
得られた解砕物をアルミナボートに入れ、回転焼成炉(モトヤマ社製)を用いて空気雰囲気下(ガス流量100mL/分)で昇温速度10℃/分で900℃まで昇温し、900℃において3時間焼成を行った。
得られた二次焼成物を降温後、室温で取り出し、200Pa以下の真空に保たれたデシケーターに移し、リチウムイオン伝導性固体電解質(1)を得た。
【0044】
(2)粉末X線回折(XRD)測定
粉末X線回折測定装置パナリティカルMPD(スペクトリス株式会社製)を用いて、リチウムイオン伝導性固体電解質(1)の粉末X線回折測定を行った。X線回折測定条件としては、Cu-Kα線(出力45kV、40mA)を用いて回折角2θ=10~60°の範囲で測定を行い、リチウムイオン伝導性固体電解質(1)のX線回折(XRD)図形を得た。得られたXRD図形を図1に示す。XRD図形において、後述する比較例2の未ドープのLiTiOと同じ単斜晶の結晶構造のみが確認された。
【0045】
(3)イオン伝導度評価
(測定ペレット作製)
リチウムイオン伝導性固体電解質のイオン伝導度評価用の測定ペレットの作製は、次のように行った。得られたリチウムイオン伝導性固体電解質(1)を、上述した、一次焼成後の解砕手順で解砕して粉末とした後、錠剤成形機を用いて直径10mm、厚さ1mmの円盤状に成形し、1000℃で大気下3時間焼成した。得られた焼成物の、理論密度に対する相対密度は93%であった。得られた焼成物の両面に、スパッタ機を用いて金層を形成して、イオン伝導度評価用の測定ペレットを得た。
【0046】
(インピーダンス測定)
リチウムイオン伝導性固体電解質(1)のイオン伝導度評価を次のように行った。前述の方法で作製した測定ペレットを、測定前に2時間25℃に保持した。次いで、25℃においてインピーダンスアナライザー(ソーラトロンアナリティカル製、型番:1260A)を用いて振幅25mV、周波数1Hz~10MHzの範囲でACインピーダンス測定を行った。得られたインピーダンススペクトルを装置付属の等価回路解析ソフトウェアZViewを用いて等価回路でフィッティングして、トータルのイオン伝導度を得た。得られたイオン伝導度を併せて表1に示す。
【0047】
比較例1:
(リチウムイオン伝導性固体電解質の作製)
チタンとニオブの元素の合計原子数に対するニオブの原子数の百分率が16%となるよう二酸化チタンと五酸化ニオブとを秤量し、チタンとニオブの元素の合計原子数に対してリチウムの原子数が1.84倍量となるよう炭酸リチウムを秤量した以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン伝導性固体電解質(2)を得た。
(XRD測定、イオン伝導度評価)
XRD測定およびイオン伝導度評価は、実施例1と同様に測定および分析を行った。リチウムイオン伝導性固体電解質(2)のXRD図形を図1に併せて示す。リチウムイオン伝導性固体電解質(2)のXRD図形においては、▼(逆黒三角)で示したLiTiOに同定される単斜晶の結晶構造(ICSDリファレンスコード:15150)に由来する回折ピークに加えて、ハッチングで示す領域にニオブ酸リチウム(LiNbO)の三方晶の結晶構造(ICSDリファレンスコード:74469)に由来する回折ピークが確認された。より詳しくは、比較例1のリチウムイオン伝導性固体電解質(2)の回折図形には、33°及び54°付近にLiNbOに特有のピークが観測された一方で、実施例1のリチウムイオン伝導性固体電解質(1)の回折図形には、これらのピークは観測されなかった。よって、実施例1のリチウムイオン伝導性固体電解質(1)はLiTiOに同定される単斜晶の結晶構造のみであることが確認できる。
リチウムイオン伝導性固体電解質(2)のトータルのイオン伝導度を表1に併せて示す。
【0048】
比較例2:
(リチウムイオン伝導性固体電解質の作製)
五酸化ニオブを用いず、二酸化チタンと、二酸化チタンが含むチタンの原子数に対してリチウムの原子数が2.00倍量となるよう、炭酸リチウムとを秤量した以外は、実施例1と同様にしてリチウムイオン伝導性固体電解質(3)を得た。
(XRD測定、イオン伝導度評価)
XRD測定およびイオン伝導度評価は、実施例1と同様に測定および分析を行った。得られたXRD図形を図1に併せて示す。リチウムイオン伝導性固体電解質(3)のXRD図形においては、LiTiOに同定される単斜晶の結晶構造のみが確認された。
リチウムイオン伝導性固体電解質(3)のイオン伝導度は低すぎて測定できなかった。
【0049】
【表1】
【0050】
実施例2~3および比較例3~5:
(理論計算)
本電解質は、組成式LiTiOで表されるリチウム含有チタン酸化物において、チタン元素をドープしたM1元素で一部置換したものである。また、上述したように、M1がドープされ、チタン元素を置換してチタン元素の位置を占め、リチウム含有チタン酸化物に固溶した状態であり、元となるLiTiOの単斜晶の結晶構造が保たれる。ここで、理論計算を用いて、LiTiOにおいて、チタン位置に置換して固溶可能なM1元素の探索を行った。
【0051】
具体的には、LiTiOのスーパーセル中のTi原子をM1原子で置換した構造を用意し、第一原理計算を用いて最安定構造を求めて比較した。
第一原理計算の詳細は、以下のとおりで行った。ユニットセル16個からなるスーパーセル(Li32Ti1648)中のTi原子1個をM1原子で置換し、M1原子がNb、TaまたはVの場合は電気的中性条件を考慮してLi原子1個を取り除いた構造として、幾何対称性の異なる全ての原子配置のスーパーセルを用意した。この構造において、M1元素のドープ量は6%に相当する。第一原理計算パッケージソフトウェアVienna Ab initio Simulation Package(VASP)(HPCシステムズ株式会社取扱い)に前述したスーパーセルの原子配置を入力し、M1をNb、Ta、V、SnおよびSiに替えて、表2に記す各例の組成で構造最適化を行い、エネルギーの計算をそれぞれ行った。
【0052】
第一原理計算による構造最適化は以下の条件で行った。
・擬ポテンシャル:Projector Augmented Wave (PAW)法
・交換相関汎関数:Generalized Gradient Approximation (GGA)
・エネルギーカットオフ:520eV
・k点メッシュ:2×2×2
【0053】
Kristin Perssonら提供のMaterials Projectデータベース(webサイト「https://materialsproject.org/」、2021年8月訪問)収録のLi、Ti、M1およびOからなる元素で構成される、単体、2元系、3元系および4元系の全組成物のエネルギー値を用いて、M1元素で一部置換したLiTiOの凸包(convex hull)からの1原子当たりエネルギーの増分(meV/原子)を算出した。算出された値を表2に示す。幾何対称性の違いに関しては、計算されたエネルギーのうち最も低い値となった幾何対称性の原子配置を採用した。凸包からのエネルギーの増分が小さいほど、M1元素で一部置換したLiTiOが安定であると考えられる。
【0054】
【表2】
【0055】
表2に示す計算結果から、比較例3~5のV、SnおよびSiと比較して、実施例2および3に示すNbおよびTaをM1として用いた場合に、M1元素で6%置換したLiTiOが安定であることが確認できる。
【0056】
比較例6~7:
(リチウムイオン伝導性固体電解質の作製)
五酸化ニオブに替えて、酸化スズ(IV)(シグマアルドリッチ製、純度99.0%以上)または酸化ケイ素(シグマアルドリッチ製、純度99.0%以上)を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例6のリチウムイオン伝導性固体電解質(4)および比較例7のリチウムイオン伝導性固体電解質(5)をそれぞれ得た。
(XRD測定)
XRD測定は、実施例1と同様に測定を行った。XRD測定において、確認された結晶構造を、前述した実施例1の結果とともに表3に示す(ICSDリファレンスコード、LiSnO:21032、LiSiO:100402)。
【0057】
【表3】
【0058】
表3に示す結果から、比較例6および7のリチウムイオン伝導性固体電解質(4)および(5)では、実際に作製したリチウムイオン伝導性固体電解質においてM1原子が安定して固溶せず、LiTiO以外の結晶構造が生じていることが確認できる。この実験結果は、上述の理論計算を肯定している。
【0059】
実施例の結果より、組成式Li2-xTi1-xM1で表される化合物であり、前記M1は、ニオブおよびタンタルの元素からなる群から選ばれる少なくとも一種の金属元素であり、0.05≦x≦0.15であるリチウムイオン伝導性固体電解質は、イオン伝導度が高いことが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のリチウムイオン伝導性固体電解質は、イオン伝導度の高い酸化物系のリチウムイオン伝導性固体電解質であり、リチウムイオン二次電池の固体電解質として好適に用いることができる。
図1