(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】ヘッドマウントディスプレイおよびこれに用いられる広焦点レンズの設計方法
(51)【国際特許分類】
G02B 27/02 20060101AFI20240806BHJP
G02B 25/00 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
G02B27/02 Z
G02B25/00
(21)【出願番号】P 2020502732
(86)(22)【出願日】2019-07-22
(86)【国際出願番号】 JP2019028635
(87)【国際公開番号】W WO2020079906
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2022-02-04
【審判番号】
【審判請求日】2023-05-16
(31)【優先権主張番号】P 2018194640
(32)【優先日】2018-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019001404
(32)【優先日】2019-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(73)【特許権者】
【識別番号】391007507
【氏名又は名称】伊藤光学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100163164
【氏名又は名称】安藤 敏之
(74)【代理人】
【識別番号】100198247
【氏名又は名称】並河 伊佐夫
(72)【発明者】
【氏名】高木 康博
(72)【発明者】
【氏名】宮島 泰史
【合議体】
【審判長】山村 浩
【審判官】秋田 将行
【審判官】野村 伸雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-24273(JP,A)
【文献】特開2005-227682(JP,A)
【文献】特開2018-84788(JP,A)
【文献】特開2012-78670(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/01 - 27/02
G02B 30/00 - 30/60
H04N 13/00 - 13/398
G02B 13/16
G02B 17/08
G02B 25/00
G02B 35/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左眼用及び右眼用画像を画面上に表示する表示装置と、
前記画面上の左眼用及び右眼用画像に対してそれぞれ配置される左眼用及び右眼用虚像結像光学系と、
前記左眼用及び右眼用虚像結像光学系に対してそれぞれの光軸方向に重ねてそれぞれ配置される広焦点レンズであって、光学的中心で値が負で絶対値が最小(ゼロの場合も含む)の屈折力を有し、前記光学的中心から離れるほど値が負で絶対値が大きい屈折力を有する領域を備えることで、焦点距離が負で幅を有する左眼用及び右眼用広焦点レンズと、
を備えるヘッドマウントディスプレイ。
【請求項2】
前記左眼用及び右眼用広焦点レンズは、光学的中心での屈折力の値がゼロであって、前記光学的中心を中心とした直径5mmの中心近傍領域におけ
る屈折力分布は絶対値で少なくとも0.5Dの幅を有する、請求項1に記載のヘッドマウントディスプレイ。
【請求項3】
前記左眼用及び右眼用広焦点レンズの光学的中心は、それぞれ、前記左眼用及び右眼用虚像結像光学系の光学的中心に対して左右方向に関する両レンズの中心側にシフトして配置される、請求項1に記載のヘッドマウントディスプレイ。
【請求項4】
前記左眼用及び右眼用広焦点レンズのそれぞれの光学的中心の前記左眼用及び右眼用虚像結像光学系のうちの重ねられるレンズの光軸に対するシフト量Δは、前記左眼用及び右眼用虚像結像光学系の左右方向に関する間隔P、前記左眼用及び右眼用広焦点レンズとユーザの左眼及び右眼の瞳孔との離間距離d、及び前記左眼用及び右眼用広焦点レンズと前記左眼用及び右眼用虚像結像光学系により結像される虚像との離間距離l
0、ユーザの左眼及び右眼の瞳孔とユーザの手前の作業位置との離間距離Qに対して、Δ=Pd/2Q~Pd/2(l
0+d)の範囲内である、請求項
3に記載のヘッドマウントディスプレイ。
【請求項5】
前記左眼用及び右眼用広焦点レンズをそれぞれ前記左眼用及び右眼用虚像結像光学系に対して左右方向に変位する変位機構をさらに備える、請求項
4に記載のヘッドマウントディスプレイ。
【請求項6】
前記表示装置は、前記左眼用及び右眼用画像をそれぞれ表示する左眼用及び右眼用画面を有し、
前記左眼用虚像結像光学系の前記左眼用画面に対する逆側且つユーザの左眼の前方に配置される左眼用ハーフミラーと、
前記右眼用虚像結像光学系の前記右眼用画面に対する逆側且つユーザの右眼の前方に配置される右眼用ハーフミラーと、
をさらに備える、請求項1から
5のいずれか一項に記載のヘッドマウントディスプレイ。
【請求項7】
前記左眼用及び右眼用広焦点レンズとして用いられる広焦点レンズは、レンズの光学的中心を通る前後方向の軸をz軸、レンズの後方に向かう方向をz軸の正方向としたとき、レンズの前面および後面の少なくとも一方のz座標値に、Ar
4+Br
6+Cr
8+Dr
10(但し、rはz軸からの距離、A,B,C,Dは定数)で表され、前記光学的中心からレンズ周縁部にかけての平均度数の変動を抑制する第1の非球面成分が付加されているとともに、
レンズの前面もしくは後面の何れかのz座標値に、Er
3(但し、Eは定数)で表される第2の非球面成分が付加されている、請求項1に記載のヘッドマウントディスプレイ。
【請求項8】
前記広焦点レンズを前記虚像結像光学系と一体に構成した、請求項1に記載のヘッドマウントディスプレイ。
【請求項9】
請求項
7に記載の広焦点レンズの設計方法であって、
前記光学的中心を通る前後方向の軸をz軸、レンズの後方に向かう方向をz軸の正方向としたとき、処方度数に基づいて決定されるレンズの前面および後面の少なくとも一方のz座標値に、Ar
4+Br
6+Cr
8+Dr
10(但し、rはz軸からの距離、A,B,C,Dは定数)で表され、前記光学的中心からレンズ周縁部にかけての平均度数の変動を抑制する第1の非球面成分を付加する第1の非球面成分付加工程と、
前記レンズの前面もしくは後面の何れかのz座標値に、Er
3(但し、Eは定数)で表される第2の非球面成分を付加する第2の非球面成分付加工程と、を備えている、広焦点レンズの設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッドマウントディスプレイおよびこれに用いられる広焦点レンズの設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、仮想現実(VR)技術及び拡張現実(AR)技術の研究開発が進み、医療、設計などのプロフェッショナル分野からゲーム、娯楽などの一般コンシューマ分野までの幅広い分野における利用が期待されるようになった。VR技術及びAR技術では、頭部に装着するディスプレイ装置であり、左右の眼のそれぞれに対応する視差画像をディスプレイ上に表示することでユーザに対して立体像を映し出すヘッドマウントディスプレイ(HMD)が使用される(例えば、特許文献1参照)。なお、このように左右の眼に対応する視差画像を表示する立体表示方式を二眼式立体表示と呼ぶ。HMDでは、特に画角が大きい広角な立体像を表示することにより、ユーザに高い没入感を与えることができる。
【0003】
二眼式立体表示では、輻輳調節矛盾に起因する視覚疲労により長時間の利用が妨げられ、特に若年者の利用が制限されるという問題がある(例えば、特許文献2参照)。ここで、輻輳では、注視点が網膜の中心にくるように左右の眼球が回転したとき、眼球の回転角情報より三角測量の原理で奥行きを知覚する。調節では、人間の眼は注視点に対して自動的にピントを合わせるが、眼のピント合わせ情報より奥行きを知覚する。視差画像をディスプレイ上に表示すると、両眼球が回転して立体像を捉えることで輻輳により立体像の奥行きを正しく知覚する一方、両眼のピントは視差画像を表示するディスプレイに合わせられることで調節によっては立体像の奥行きを正しく知覚することができない。そのため、輻輳と調節との相互作用により、輻輳により知覚した奥行きに眼のピントを誘導する輻輳性調節が、二眼式立体表示による立体像に対しては機能できない。このように、輻輳と調節との間の矛盾により視覚疲労が生じると言われている。VR技術及びAR技術においては、虚像を数m先から無限遠までの遠方に結像し、立体像を近方の手作業空間に表示して立体像をインタラクティブに操作することがあり、輻輳と調節との間の矛盾はより深刻である。
【0004】
そこで、非特許文献1には、左右の眼のそれぞれに可変焦点距離ミラー及びディスプレイを含む虚像結像系を設け、可変焦点距離ミラーを用いてディスプレイの画像の虚像を複数の異なる奥行き位置に結像することで、立体像への眼のピント合わせを可能にするHMDが開示されている。ここで、ディスプレイとして高速表示が可能なDMD(Digital Micromirror Device)を用いて、時分割で立体像を表示する。しかし、斯かる構成のHMDでは、可変焦点距離ミラーの利用によるコストアップに加えて、高速動作するディスプレイが必要になる。さらに、高速ディスプレイに表示する奥行き方向に分割した画像を高速に生成する画像処理装置が必要になる。
【0005】
また、非特許文献2には、ディスプレイを含む虚像結像系において可変焦点距離レンズ及びモータを用いて虚像の結像関係を動的に変更するHMDであり、左右の眼の回転角を検出して輻輳により知覚する奥行きを算出し、その奥行き位置にディスプレイの画像を虚像結像するように結像系の結像関係を変更することが記載されている。しかし、斯かる構成のHMDでは、眼の回転角を検出する手段が必要になる。また、焦点距離可変レンズ及びモータを含む機械的機構の利用、それによるコストアップ及び重量増加が問題になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2015/137165号
【文献】特開平9-297282号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】X.Hu and H.Hua, "High-resolution optical see-through multi-focal-plane head-mounted display using freeform optics," Opt. Express vol. 22, p.13896-13903 (2014).
【文献】N.Padmanaban, R.Konrad, T.Stramer, E.A. Cooper, and G.Wetzstein, "Optimizing virtual reality for all users through gaze-contingent and adaptive focus displays," PNAS vol.114, p.2183-2188 (2017).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は以上のような事情を背景とし、より簡便な構成により、輻輳調節矛盾に起因する視覚疲労を被ることなく立体像を視ることが可能なヘッドマウントディスプレイおよびこれに用いられる広焦点レンズの設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様においては、左眼用及び右眼用画像を画面上に表示する表示装置と、画面上の左眼用及び右眼用画像に対してそれぞれ配置される左眼用及び右眼用虚像結像光学系と、左眼用及び右眼用虚像結像光学系に対してそれぞれの光軸方向に重ねてそれぞれ配置される、焦点距離が負で幅を有する左眼用及び右眼用広焦点レンズと、を備えるヘッドマウントディスプレイが提供される。
【0010】
なお、上記の発明の概要は、本発明の特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の実施形態に係るVR用HMDの概略構成を示した図である。
【
図2】快適に立体視することのできる輻輳と調節との関係を示した図である。
【
図3】(A)は焦点距離が負で幅を有する広焦点レンズの形状、(B)は中心からの距離に対する焦点距離(屈折力)の分布を示した図である。
【
図5A】画角の小さい立体表示装置における視線の角度と視線が通る広焦点レンズ内の位置との関係の比較例を示した図である。
【
図5B】画角の大きいHMDにおける視線の角度と視線が通る広焦点レンズ内の位置との関係を示した図である。
【
図6A】虚像結像レンズに対する広焦点レンズのシフト量の一例を示した図である。
【
図6B】虚像結像レンズに対する広焦点レンズのシフト量の別の一例を示した図である。
【
図7】第2の実施形態に係るAR用HMDの概略構成を示した図である。
【
図8】(A)は第3の実施形態に係るHMDに用いられる広焦点レンズの全体の概略図、(B)は同レンズの上半分を拡大した概略図である。
【
図9】
図8の広焦点レンズにおけるレンズ径方向に沿った平均度数の変化を模式的に示した図である。
【
図10】同実施形態に係るHMDを装着したユーザの視線と広焦点レンズとの関係を示した図である。
【
図11】
図8の広焦点レンズについての評価の結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0013】
図1に、第1の実施形態に係るVR用HMD(混乱のない限り、単にHMDと呼ぶ)1の概略構成を示す。
図1及びその他の図面において、ユーザの左眼Ea及び右眼Ebを図面上下方向に並べ、この方向を左右方向、図面左右方向を前後方向とする。なお、左眼Ea及び右眼Ebの中心を通って前後方向に延びる基準線を中心線L、左眼Ea及び右眼Ebのそれぞれから中心線Lに平行に図面左に延びる基準線を主視線La,Lbとする。また、ユーザの左眼Ea及び右眼Ebの離間距離Pとし、例えば成人の平均的な左右眼の離間距離(典型的に65mm)で与えるとする。HMD1は、フレーム2、表示装置3、左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4b、左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5b、及びアクチュエータ6a,6bを備える。
【0014】
フレーム2は、表示装置3及びその他の構成各部を保持する筐体である。フレーム2の形状は、表示装置3を内側に保持するよう前面が閉じ、表示装置3の表示面を背面側から覗くことができるよう背面が開き、表示装置3を覗く両眼の周囲を覆うよう前面の周囲を側面が囲む形状であれば任意の形状であってよい。また、フレーム2の一側面からユーザの後頭部を周って他側面に接続することで、HMD1をユーザの顔前に装着する装着バンド(不図示)を設けてもよい。なお、ユーザがHMD1を装着した状態において、左眼Ea及び右眼Ebの主視線La,Lbがそれぞれ左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bの光軸と重なる又はほぼ重なるよう、左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bがフレーム2内に保持されているものとする。
【0015】
表示装置3は、左眼用及び右眼用画像3a,3bを画面3c上に表示する装置である。表示装置3として、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどのフラットパネルディスプレイを使用することができる。表示装置3は、フレーム2の前面裏側に、画面3cを背面側に向けて保持されている。表示装置3の画面3cは、左眼Ea及び右眼Ebの主視線La,Lb上に位置して左眼用及び右眼用画像3a,3bをそれぞれ表示する2つの領域を含む。なお、単一の画面3cを有する表示装置3に代えて、左眼用及び右眼用画像3a,3bをそれぞれ表示する2つの表示装置を使用してもよい。
【0016】
左眼用及び右眼用虚像結像光学系(単に、虚像結像光学系とも呼ぶ)4a,4bは、表示装置3の画面3c上の左眼用及び右眼用画像3a,3bに対してそれぞれ配置され、左眼用及び右眼用画像3a,3bをそれぞれ虚像表示面Va,Vb上に虚像結像してそれらの拡大正立像を左眼Ea及び右眼Ebに映し出す光学系である。本実施形態では、左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bは、それぞれ単一の虚像結像レンズより構成されるように示しているが、複数の光学素子を組み合わせて構成してもよい。左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bは、それぞれ、左眼用及び右眼用画像3a,3bがそれぞれ表示される画面3c上の2つの領域に対して後方に配置される。
【0017】
左眼Ea及び右眼Ebによりそれぞれ左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bを介して、ただし仮想的に左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5bを介さないで、画面3c上の左眼用及び右眼用画像3a,3bを視ると、それらの虚像がそれぞれ虚像表示面Va,Vb上に映し出される。ここで、左眼用及び右眼用画像3a,3bとして視差画像を与えると、虚像表示面Va,Vbの重複領域において虚像表示面Va上の虚像を左眼Eaにより視ると同時に虚像表示面Vb上の虚像を右眼Ebにより視ることで、両眼から重複領域を臨む領域As内で虚像を立体視することができる。つまり、領域As内に立体像が映し出される。重複領域以外の虚像表示面Va,Vb上の領域では虚像を両眼視することができないため、単に、虚像表示面Va上の虚像を左眼Eaにより二次元視し、虚像表示面Vb上の虚像を右眼Ebにより二次元視することとなる。つまり、領域Amでは立体像は映し出されない。
【0018】
左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5b(単に、広焦点レンズとも呼ぶ)は、焦点距離が負で幅を有する広焦点レンズである。左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5bは、それぞれ、左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bに対してそれらの光軸方向に重ねて配置されている。それにより、左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bにより結像される左眼用及び右眼用画像3a,3bの虚像が、左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5bの焦点距離が幅をもつことから、虚像表示面Va,Vbより遠方及び/又は近傍で光軸方向に広がる幅をもつ範囲内に結像される。
【0019】
なお、本実施形態では、左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5bは、左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bの近傍に配置され、それらの間の離間距離は、左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bと虚像表示面Va,Vbの距離、又は左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bと左眼Ea及び右眼Ebの距離より十分小さいものとする。
【0020】
なお、本実施形態では、左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5bは左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bの後方に配置されることとしたが、前方に配置されてもよい。また、左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5bをそれぞれ左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bに当接して一体物として構成してもよいし、左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bが複数の光学素子から構成される場合にそれらの間に組み込んで一体系として構成してもよい。
【0021】
輻輳調節矛盾に起因する視覚疲労を被ることなく立体像を視ることができるよう、左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5bの焦点距離を定める。
【0022】
図2に、快適に立体視することのできる輻輳と調節との関係を示す。人間が快適に立体視するには輻輳と調節とが一致することが好ましいが、視覚疲労の研究より、一致しなくてもある程度の許容量があることが知られている(T. Shibata, J. Kim, D. M. Hoffman, M. S. Banks, "The zone of comfort: Predicting visual discomfort with stereo displays," J. Vision, vol. 11, no. 8, p.1-29 (2011))。輻輳と調節との不一致の許容量は、輻輳により知覚される奥行きDvに対する眼のピント位置の遠位端D
far及び近位端D
nearを用いて表すことができる。D
far,D
nearはDvを用いて、
D
far = 1.129Dv + 0.442 …(1a)
D
near = 1.035Dv - 0.626 …(1b)
と与えられる。ここで、D
far,D
near,Dvは、距離の逆数をメートルで表したディオプター(Diopter [D])を単位として与えられる。
【0023】
図2おけるD
far,D
nearの間の領域において、輻輳と調節との不一致が許容される。例えば、眼のピントが0.5D(2mに等しい)に合わせられている場合、対応する輻輳により知覚される奥行きDvの範囲(単に、輻輳の範囲と呼ぶ)は、0.051~1.1D(0.92~19m)となる。つまり、虚像表示面Va,Vbが左眼Ea及び右眼Ebから2mの距離にある場合に0.92~19mの範囲内に立体像を表示すると、輻輳調節矛盾に起因する視覚疲労を感じることなく快適に立体像を視ることができる。このように、快適に立体像を視ることのできる範囲は、虚像表示面Va,Vbより遠方に十分に広がっているのに対して、近方には十分に広がっていない。特に、VR技術及びAR技術においては、左眼Ea及び右眼Ebから数m(典型的に2m)先から無限遠の遠方に虚像を結像し、立体像をユーザの手前に広がる作業空間(典型的に左眼Ea及び右眼Ebから約60cmの領域)に表示して立体像をインタラクティブに操作することが多いことから、HMD1の立体表示においては快適に立体視できる範囲を近方に広げることが望ましい。
【0024】
快適に立体視できる範囲を虚像表示面Va,Vbより近方に広げるために、負の焦点距離を有する左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5bを用いる。ここで、左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5bの焦点距離の範囲をf
1からf
2、左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5bから虚像表示面Va,Vbまでの距離l
0とする。左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5bが虚像を表示する範囲(l
1,l
2)は、レンズの式1/l
0-1/l=1/fを用いて、
l
1=(1/l
0-1/f
1)
-1 …(2a)
l
2=(1/l
0-1/f
2)
-1 …(2b)
と得られる。一例として、距離l
0=2m(0.5D)に対して焦点距離f
1=-2.0m(-0.5D)からf
2=-∞(-0D)とすることで、虚像の結像範囲がl
1=1.0m(1.0D)からl
2=l
0(0.5D)と虚像表示面Va,Vbより近方に広がり、その範囲内で眼が虚像にピント合わせすることができるようになる。なお、
図1では、左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5bから虚像表示面Va,Vbまでの距離l
0と虚像の結像範囲l
2とを区別して示すためにl
0≠l
2として図示した。
【0025】
虚像の結像範囲の近方への広がり(すなわちl
1(<l
0))に応じて、
図2に示すように、D
farとD
nearで求まる許容される輻輳の範囲が0.64~19m(0.051~1.6D)と近方に広がり、ユーザの手前に広がる作業空間で快適に立体視することが可能となる。
【0026】
以下に、焦点距離が負で幅を有する左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5bの設計の一例を示す。
【0027】
図3に、左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5bの形状(A)及び中心からの距離に対する焦点距離の分布(B)を示す。ここで、焦点距離は、その逆数である屈折力により表される。広焦点レンズは、光学的中心で値が負で絶対値が最小(本実施形態ではゼロ)の屈折力を有し、光学的中心から離れるほど値が負で絶対値がより大きい屈折力を有する。なお、レンズ領域を、眼の瞳孔の大きさに対して目的の範囲の屈折力、例えば上述の焦点距離f
1=-2.0m(-0.5D)からf
2=-∞(-0D)に対応する屈折力を生じる中心近傍の領域(I)と、目的の範囲の屈折力を生じる外側の領域(II)とに区画する。
【0028】
広焦点レンズ5a,5bとして、アキシコン(axicon) (G. Mikula, Z. Jaroszewicz, A. Kolodziejczyk, K. Petelczyc, and M. Sypek, "Images with extended focal depth by means of lenses with radial and angular modulation," Opt. Express, vol. 15, no. 15, p.9184-9193 (2007))、アキシレンズ(axilens) (J. Sochacki, A. Kolodziejczyk, Z. Jaroszewicz, and S. Bara, "Nonparaxial design of generalized axicons,"Appl. Opt., vol.31, p.5326-5330 (1992))、ライト・ソード・オプティカル・エレメント(light sword optical element) (N. Davidson, A. A. Friesem, and E. Hasman, "Holographic axilens: high resolution and long focal depth,"Opt. Lett., vol.16, p.523-525 (1991))、3次非球面レンズ(特開2016-206338号公報)などを用いることができる。また、広焦点レンズ5a,5bの素材として、可塑性樹脂(プラスチック)を使用することができる。
【0029】
左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5bの表面形状を光学的中心からの距離rの関数Z(r)を用いて表すと、屈折力(焦点距離の逆数f
-1)は、屈折率nを用いて、
【数1】
と与えられる。3次非球面レンズを用いる場合、係数Eを用いてZ(r)=Er
3と与えることで、屈折力の分布、
【数2】
が得られる。従って、例えば、屈折力f
-1が、中心(r=0)でf
2
-1=-0D、端部r
0でf
1
-1=-0.5Dが得られるように、レンズの屈折率n及び係数Eを定めることとする。
【0030】
なお、上記式(3)は次のように導出される。
図4に、広焦点レンズの表面形状を示す。レンズ表面に沿った微小長さdsに対応する距離rの微小変化drと厚み方向の微小長さdZを用いて、
【数3】
と与えられる。微小長さdsは、十分短い場合に円弧とみなすことができるため、円弧の曲率半径R及び対応する微小角度dθを用いてds=Rdθと表すことができる。ここで、曲率半径Rの球面が有する焦点距離fは、
【数4】
と与えられる。また、ds≒drが成り立ち、角度θ=dZ/drと表すことができるから、これらの関係式を式(6)に適用することにより式(3)が導出される。
【0031】
左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5bの光学的中心は、それぞれ、左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bの光学的中心(すなわち、光軸)に対して左右方向に関する両レンズの中心側、すなわち中心線L寄りにシフトして配置される。ここで、左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bの光軸に対する左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5bのそれぞれの光学的中心のシフト量Δを決定する。
【0032】
図5Aは、比較例として、立体映画、立体テレビ等、画角の小さい立体表示装置における視線の角度と視線が通る広焦点レンズ5a,5b内の位置との関係を示す。比較例に係る立体表示装置では、ユーザは、広焦点レンズ5a,5b及びフィルタFが取り付けられた立体眼鏡を装着し、これを介してディスプレイ表示面Dを眺めることで立体像を視る。なお、フィルタFは、偏光フィルタ、液晶シャッタ、色フィルタ、分光フィルタ等、左眼用及び右眼用画像を分離するための光学素子である。このとき、ディスプレイ表示面Dから出射する光が広焦点レンズ5a,5bを介して左眼Ea及び右眼Ebに入る。ここで、広焦点レンズ5a,5bからディスプレイ表示面Dまでの距離が、広焦点レンズ5a,5bから左眼Ea及び右眼Ebまでの距離より十分に大きいとみなすことができるため、ディスプレイ表示面Dの画角が小さく、ディスプレイ表示面Dの各点から出射して左眼Ea及び右眼Ebに入射する光線群は、光線群が出射するディスプレイ表示面D上の位置によらず広焦点レンズ5a,5bのほぼ同じ位置、特に光学的中心を通ることとなる。従って、広焦点レンズ5a,5bがもつ焦点距離の範囲は、両眼Ea,Ebからディスプレイ表示面Dを眺める視方向(すなわち、視線角度)に対して一定とみなすことができる。
【0033】
図5Bは、画角の大きいHMD1における視線の角度と視線が通る広焦点レンズ5a,5b内の位置との関係を示す。HMD1の場合、没入感を高めるため広い画角が好まれるため、虚像表示面Va,Vbの画角が大きくなる。また、広焦点レンズがユーザの睫毛に触れないようにする必要があり、ユーザは自己の眼鏡を装着した状態でHMD1を装着することを望むこともあるため、広焦点レンズ5a,5bを左眼Ea及び右眼Ebからいくらか離間する必要もある。以上のことから、表示装置3の画面3c(仮想的に虚像表示面Va,Vb)の各点から出射して左眼Ea及び右眼Ebに入射する光線群は、各点の位置によって広焦点レンズ5a,5bの異なる位置、特に瞳孔より大きく広がる範囲を通ることとなる。従って、広焦点レンズ5a,5bの焦点距離及びその幅は、左眼Ea及び右眼Ebから虚像表示面Va,Vbを眺める視方向(すなわち、視線角度)に対して異なり、広焦点レンズ5a,5bが虚像結像に与える効果、すなわち輻輳と調節との許容範囲の広がり方が視方向によって変化することとなる。
【0034】
そのため、左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bの光軸と左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5bのそれぞれの光学的中心5a0,5b0(すなわち、光軸)を一致させると、立体視領域Asに対して、左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5bの外側の領域(II)が対応することになり、輻輳と調節の許容範囲を有効に広げることができない。そこで、快適に立体視できる範囲を立体視領域Asにおいて広げるために、左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5bの中心近傍の領域(I)を領域Asに臨むよう中心線L側にシフトする。なお、領域Amでは、左眼Ea及び右眼Ebの一方のみにより2次元表示の虚像を視るから、輻輳調節矛盾は生じない。
【0035】
そこで、一例として、左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bの光軸に対する左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5bのそれぞれの光学的中心5a
0,5b
0(すなわち、光軸)のシフト量Δは、左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bの左右方向に関する間隔P、左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5bとユーザの左眼Ea及び右眼Ebの瞳孔との離間距離d、及び左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5bと左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bにより結像される虚像(すなわち、虚像表示面Va,Vb)との離間距離l
0に対して、Δ=Pd/2(l
0+d)と決定することができる。これにより、虚像表示面Va,Vbと中心線Lとの交点の近傍で輻輳調節矛盾に起因する視覚疲労を被ることなく快適に立体視できる範囲を広げることが可能となる。また、
図6A及び
図6Bに示すように、左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5bが虚像を表示する範囲Av(すなわち、左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5bからの距離l
1~l
2の範囲)に対応して、シフト量ΔはΔ
1=Pd/2(l
1+d)~Δ
2=Pd/2(l
2+d)の範囲内と決定してもよい。それにより、虚像が表示される範囲Av内の中心線L近傍で快適に立体視できる範囲を広げることが可能となる。さらに、ユーザの左眼Ea及び右眼Ebの瞳孔とユーザの手元との離間距離Qに対して、シフト量Δは、Pd/2Qと決定してもよいし、Pd/2Q~Pd/2(l
0+d)の範囲内と決定してもよい。それにより、ユーザの手前の広い作業領域内で快適に立体視することが可能となる。
【0036】
なお、立体像が狭い範囲に表示される、あるいは観察距離が長く、その範囲に対する画角が小さい場合などには、シフト量Δはゼロであってもよい。
【0037】
アクチュエータ6a,6bは、変位機構の一例であり、左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5bをそれぞれ左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bに対して左右方向に駆動する駆動装置である。アクチュエータ6a,6bとして、例えば電動モータを使用することができる。アクチュエータ6a,6bは、それぞれフレーム2の左右の側面の内側に保持され、フレーム2の側面等に設けられた操作ボタンにより作動することで、左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5bを左右方向に駆動する。その駆動範囲は、上述の範囲のいずれかを含んでよい。それにより、輻輳調節矛盾に起因する視覚疲労を被ることなく視ることが可能な立体像の表示範囲を中心線Lに平行な方向に変位することができる。
【0038】
なお、アクチュエータ6a,6bのような動力源を有する駆動装置に代えて、ダイヤル、リング等を手動により操作することで左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5bを左右方向に変位させる器具を採用してもよい。また、左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5bを左右方向に変位させるとともに傾斜させてもよい。また、シフト量Δが範囲を有さない又は範囲が十分に狭い場合、変位機構を設けず、左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bをフレーム2内に固定してもよい。
【0039】
以上説明したように、第1の実施形態に係るHMD1によれば、左眼用及び右眼用画像3a,3bを画面3c上に表示する表示装置3、画面3c上の左眼用及び右眼用画像3a,3bに対してそれぞれ配置される左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4b、左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bに対してそれぞれの光軸方向に重ねてそれぞれ配置される、焦点距離が負で幅を有する左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5bを備える。左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bにより結像される左眼用及び右眼用画像3a,3bの虚像が、それぞれ、左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bの光軸方向に関して、左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5bによりそれぞれの焦点距離が幅をもつことに対応して近方に広がる幅をもつ範囲内に表示される、つまり虚像の表示範囲が近方に広がることで輻輳と調節との許容範囲が近方に広がり、それにより、近方の広い領域内で、左眼用及び右眼用画像3a,3bにより表示される立体像を輻輳調節矛盾に起因する視覚疲労を被ることなく視ることが可能となる。
【0040】
また、第1の実施形態に係るHMD1によれば、焦点距離が負で幅を有する左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5bを、既存のHMD内に、左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bに対してそれぞれの光軸方向に重ねてそれぞれ配置することで、虚像の表示範囲を虚像表示面Va,Vbより近方に広げ、それにより輻輳と調節との許容範囲を近方に広げることで、その近方の広い領域内で、左眼用及び右眼用画像3a,3bにより表される立体像を輻輳調節矛盾に起因する視覚疲労を被ることなく視ることが可能となる。
【0041】
図7に、第2の実施形態に係るAR用HMD(混乱のない限り、単にHMDと呼ぶ)11の概略構成を示す。HMD11は、フレーム12、左眼用及び右眼用表示装置13a,13b、左眼用及び右眼用ハーフミラー17a,17b、左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4b、左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5b、及びアクチュエータ6a,6bを備える。これらの構成各部のうち、第1の実施形態に係るHMD1の構成と共通する構成については同じ符号を用いて示すとともに、その説明を省略する。
【0042】
フレーム12は、左眼用及び右眼用表示装置13a,13b及びその他の構成各部を保持する筐体である。フレーム12は、左眼用及び右眼用表示装置13a,13bをそれぞれ左及び右側面の内側に保持し、背面側から内部を覗くことができるよう背面が開き、背面側から内部を覗いた際に前方を臨めるよう透光性の前面を有するとともに左眼用及び右眼用表示装置13a,13bの表示面を視ることができるよう左眼Ea及び右眼Ebの主視線La,Lb上にそれぞれ左眼用及び右眼用ハーフミラー17a,17bを保持する。なお、ユーザがHMD11を装着した状態において、左眼用及び右眼用ハーフミラー17a,17bを介してそれぞれ折れ曲がる左眼Ea及び右眼Ebの主視線La,Lbがそれぞれ左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bの光軸4a0,4b0と重なる又はほぼ重なるよう、左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bがフレーム12内に保持されているものとする。
【0043】
左眼用及び右眼用表示装置13a,13bは、それぞれ左眼用及び右眼用画像3a,3bをそれぞれの画面(左眼用及び右眼用画面とも呼ぶ)上に表示する装置である。表示装置13a,13bとして、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどのフラットパネルディスプレイを使用することができる。左眼用表示装置13aは、フレーム12の左側面の内側に、画面を右側に向けて保持されている。右眼用表示装置13bは、フレーム12の右側面の内側に、画面を左側に向けて保持されている。
【0044】
左眼用及び右眼用ハーフミラー17a,17bは、それぞれ、左眼用及び右眼用表示装置13a,13bの画面上に表示される左眼用及び右眼用画像3a,3bを反射するとともに前方の目標物からの光を透過することにより互いに重ねて左眼Ea及び右眼Ebに映し出すシースルー機能を実現するための光学部材である。左眼用ハーフミラー17aは、左眼用虚像結像光学系4aの左眼用画面(左眼用表示装置13a)に対する逆側且つユーザの左眼Eaの前方(すなわち、主視線La上)に配置される。右眼用ハーフミラー17bは、右眼用虚像結像光学系4bの右眼用画面(右眼用表示装置13b)に対する逆側且つユーザの右眼Ebの前方(すなわち、主視線Lb上)に配置される。
【0045】
左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bは、それぞれ、左眼用及び右眼用表示装置13a,13bの画面に向けてフレーム12内の左側及び右側に配置され、左眼用及び右眼用画像3a,3bをそれぞれ前方の虚像表示面Va,Vb上に虚像結像してそれらの拡大正立像を左眼Ea及び右眼Ebに映し出す。
【0046】
左眼Ea及び右眼Ebによりそれぞれ左眼用ハーフミラー17aと左眼用虚像結像光学系4a及び右眼用ハーフミラー17bと右眼用虚像結像光学系4bを介して、ただし仮想的に左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5bを介さないで、左眼用及び右眼用表示装置13a,13bの画面上の左眼用及び右眼用画像3a,3bを視ると、それらの虚像がそれぞれ前方の虚像表示面Va,Vb上に映し出される。ここで、左眼用及び右眼用画像3a,3bとして視差画像を与えると、虚像表示面Va,Vbの重複領域において虚像表示面Va上の虚像を左眼Eaにより視ると同時に虚像表示面Vb上の虚像を右眼Ebにより視ることで、両眼から重複領域を臨む領域As内で、その領域内に実際に存在する目標物に重ねて虚像を立体視することができる。つまり、領域As内の目標物に重ねて立体像が映し出される。
【0047】
左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5bは、焦点距離が負で幅を有する広焦点レンズであり、それぞれ、左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bに対してそれらの光軸方向に重ねて配置されている。それにより、左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bにより結像される左眼用及び右眼用画像3a,3bの虚像が、左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5bの焦点距離が幅をもつことから、虚像表示面Va,Vbより遠方及び/又は近傍で前後方向に広がる幅をもつ範囲内に表示される。
【0048】
なお、輻輳調節矛盾に起因する視覚疲労を被ることなく立体像を視ることができるよう、左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5bの焦点距離を第1の実施形態に係るHMD1と同様に定めることができる。それにより、虚像の結像範囲が虚像表示面Va,Vbより近方に広がり、輻輳と調節との不一致が許容される範囲が近方に広がり、例えばユーザの手前に広がる作業空間で快適に立体視することが可能となる。
【0049】
また、左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5bの光学的中心5a0,5b0は、それぞれ、左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bの光学的中心(すなわち、光軸4a0,4b0)に対して後方、すなわち左眼用及び右眼用ハーフミラー17a,17bを介して中心線L寄りにシフトして配置される。ここで、左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bの光軸4a0,4b0に対する左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5bのそれぞれの光学的中心5a0,5b0のシフト量Δは、第1の実施形態に係るHMD1と同様に決定することができる。それにより、快適に立体視できる範囲を立体視領域Asにおいて広げることが可能となる。
【0050】
アクチュエータ6a,6bは、変位機構の一例であり、左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5bをそれぞれ左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bに対して前後方向(すなわち、左眼用及び右眼用ハーフミラー17a,17bを介して左右方向)に駆動する駆動装置である。アクチュエータ6a,6bは、それぞれフレーム12の前面の左右に保持され、フレーム12の側面等に設けられた操作ボタンにより作動することで、左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5bを前後方向に駆動する。それにより、輻輳調節矛盾に起因する視覚疲労を被ることなく視ることが可能な立体像の表示範囲を中心線Lに平行な方向に変位することができる。
【0051】
なお、アクチュエータ6a,6bのような動力源を有する駆動装置に代えて、ダイヤル、リング等を手動により操作することで左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5bを前後方向に変位させる器具を採用してもよい。また、左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5bを前後方向に変位させるとともに傾斜させてもよい。
【0052】
なお、本実施形態に係るHMD11では、フレーム12内で、左眼用表示装置13a、左眼用虚像結像光学系4a、及び左眼用広焦点レンズ5aを主視線La上の左眼用ハーフミラー17aに対して左に配置したが、これに代えて、左眼用ハーフミラー17aの上方又は下方に配置してもよい。また、本実施形態に係るHMD11では、フレーム12内で、右眼用表示装置13b、右眼用虚像結像光学系4b、及び右眼用広焦点レンズ5bを主視線Lb上の右眼用ハーフミラー17bに対して右に配置したが、これに代えて、右眼用ハーフミラー17bの上方又は下方に配置してもよい。
【0053】
以上説明したように、第2の実施形態に係るHMD11によれば、左眼用及び右眼用画像3a,3bをそれぞれ画面上に表示する左眼用及び右眼用表示装置13a,13b、左眼用及び右眼用画像3a,3bに対してそれぞれ配置される左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4b、左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bに対してそれぞれの光軸方向に重ねてそれぞれ配置される、焦点距離が負で幅を有する左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5b、左眼用虚像結像光学系4aの左眼用画面に対する逆側且つユーザの左眼Eaの前方に配置される左眼用ハーフミラー17a、右眼用虚像結像光学系4bの右眼用画面に対する逆側且つユーザの右眼Ebの前方に配置される右眼用ハーフミラー17bを備える。左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bにより結像される左眼用及び右眼用画像3a,3bの虚像が、それぞれ、左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5bによりそれぞれの焦点距離が幅をもつことに対応して近方に広がる幅をもつ範囲内に表示される、つまり虚像の表示範囲が近方に広がることで輻輳と調節との許容範囲が近方に広がり、それにより、近方の広い領域内で、左眼用及び右眼用画像3a,3bにより表される立体像を輻輳調節矛盾に起因する視覚疲労を被ることなく視ることが可能となる。
【0054】
また、第2の実施形態に係るHMD11によれば、焦点距離が負で幅を有する左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5bを、既存のHMD内に、左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bに対してそれぞれの光軸方向に重ねてそれぞれ配置することで、虚像の表示範囲を虚像表示面Va,Vbより近方に広げ、それにより輻輳と調節との許容範囲を近方に広げることで、その近方の広い領域内で、左眼用及び右眼用画像3a,3bにより表される立体像を輻輳調節矛盾に起因する視覚疲労を被ることなく視ることが可能となる。
【0055】
なお、第1及び第2の実施形態に係るHMD1,11では、それぞれ独立に構成される左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4b及び左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5bを備えることとしたが、これに代えて、虚像結像光学系及び広焦点レンズの両機能を備えるよう設計された自由局面レンズを少なくとも1つ有する結像系を左眼用及び右眼用に備えることとしてもよい。
【0056】
なお、第2の実施形態に係るHMD11では、シースルー機能を備えるために左眼用及び右眼用ハーフミラー17a,17bを使用したが、これに代えて、装置の小型化のために平面導波路及びホログラフィック光学素子を組み合わせて使用してもよい。
【0057】
なお、第1及び第2の実施形態に係るHMD1,11において、表示装置3並びに左眼用及び右眼用表示装置13a,13bが表示する左眼用及び右眼用画像3a,3bはカラーでもモノクロでもよい。カラーの場合に、色収差を補正する光学系をさらに備えてもよい。
【0058】
次に、第3の実施形態に係るHMD21について説明する。HMD21の基本的構成は第1の実施形態に係る上記HMD1と同じであり、HMD21は左眼用及び右眼用広焦点レンズ5a,5bとして、以下に示す広焦点レンズ25を用いる点がHMD1と異なっている。広焦点レンズ25は、光学的中心における屈折力(度数)が0ディオプターで、光学的中心からレンズ周縁部に向けて平均度数がマイナス側に漸次変化するレンズとされている。焦点距離は屈折力の逆数で表されるため、広焦点レンズ25は、焦点距離が負で幅を有するものとなる。
【0059】
なお、以下の説明においては、広焦点レンズ25を用いたHMD21を装着したユーザにとっての前後、左右、上下を、それぞれ、当該レンズにおける前後、左右、上下とする。
【0060】
図8の(A)は、広焦点レンズ25の全体の概略図を示している。広焦点レンズ25は、後面52が下記式(7)で定義される凹面とされ、前面53が下記式(8)で定義される凸面とされている。なお、広焦点レンズ25の光学的中心O(後面52では基点O
1、前面53では基点O
2)を通る前後方向の軸をz軸とし、広焦点レンズ25の後方に向かう方向をz軸の正方向とする。z軸は広焦点レンズ25の光軸に一致する。
【0061】
z=r2/(R1+(R1
2-Kr2)1/2)+δ1+δ2 …(7)
z=r2/(R2+(R2
2-Kr2)1/2) …(8)
【0062】
式(7)、式(8)のrは、z軸からの距離である。すなわち、後面52では基点O1、前面53では基点O2を中心として、z軸に直交する左右方向、上下方向の軸をそれぞれx軸、y軸とする直交座標系を考えた場合、r=(x2+y2)1/2である。R1、R2は面の頂点における曲率半径、K(コーニック係数)は1、である。また、後面52を定義する式(7)において、δ1は、Ar4+Br6+Cr8+Dr10(但し、rはz軸からの距離、A,B,C,Dは定数)で表される第1の非球面成分である。またδ2は、Er3(但し、rはz軸からの距離、Eは正の定数)で表される第2の非球面成分である。したがって、本例の広焦点レンズ25は、前面53が球面、後面52が非球面となる。なお、R1、R2は、処方度数(本例は0Dである)によって決まる。
【0063】
このように本例の広焦点レンズ25は、処方度数に基づいて決定されるレンズ後面52の屈折面(本例での曲率半径R1の球面。以下、元の球面ともいい、符号Sで示す。)に、非球面成分δ1とδ2を付加したものである。
【0064】
Er
3で表される第2の非球面成分δ
2は、
図9に示すように、光学的中心からレンズ周縁に向けて、レンズの径方向に沿って平均度数αをマイナス側に略直線的に変化させる効果を有する。このため、かかる広焦点レンズ25によれば、ピント合わせできる範囲が広がり焦点距離に幅を持たせることができる。
【0065】
定数Eの値は、目的とする輻輳と調節との許容範囲を得られるように適宜設定することができる。例えば、定数Eを1.66×10-5とすれば、瞳孔径5mmとした場合に、立体視における平均度数変化が約0.5Dとなり、段落0023~0025で例示した程度に、輻輳と調節との許容範囲を広げることができる。
【0066】
なお、
図8の(b)に示すように、Δを元の球面Sを基準とする半径aでのz軸方向の高さ(すなわち、元の球面Sからの厚みの増加分)とすると、例えば定数E=7.68×10
-6の場合、aが25mmで、厚みの増加分を示すΔは120μmである。なお、E=Δ/1000/a
3が成り立つ(但し、aの単位:mm、Δの単位:μm)。
【0067】
この広焦点レンズ25では、第2の非球面成分δ2を付加する前のレンズ面内の度数分布がばらついていると、Er3で表される非球面成分δ2による輻輳と調節との許容範囲を広げる効果が、元々レンズが有していた度数分布のばらつきによって相殺され、安定的に発揮されないことが考えられる。このため広焦点レンズ25では、レンズ中央から周縁部に向けて平均度数を一旦、略一定とする目的でレンズ後面52にAr4+Br6+Cr8+Dr10(但し、rはz軸からの距離、A,B,C,Dは定数)で表される第1の非球面成分δ1を付加している。
【0068】
次に、広焦点レンズ25の設計方法について説明する。まず、処方度数に基づいて広焦点レンズ25の前面53の屈折面および後面52の屈折面を決定する。この決定方法については、周知であるため、ここでは詳述しない。次に、処方度数に基づいて決定されたレンズの後面52の屈折面(元の球面S)に非球面成分を付加する。具体的には、平均度数のばらつきを一旦抑制する第1の非球面成分δ1を付加する第1の非球面成分付加工程と、略一定の傾きで(略直線状に)平均度数を変化させる第2の非球面成分δ2を付加する第2の非球面成分付加工程と、によって後面52の屈折面に非球面成分を付加する。
【0069】
第1の非球面成分付加工程では、Ar
4+Br
6+Cr
8+Dr
10(但し、rはz軸からの距離、A,B,C,Dは定数)で表される第1の非球面成分δ
1を求めて、後面52の屈折面に付加する。第1の非球面成分δ
1が付加されたレンズでは、
図9の破線βで示すように、平均度数をレンズの径方向に沿って、略一定とすることができる。
【0070】
第1の非球面成分δ1は、下記非球面の式(9)を用いて表される後面52の屈折面形状について、光線追跡によるシミュレーションを行い、度数(詳しくはメリジオナル方向の屈折力とサジタル方向の屈折力との平均である平均度数)の変化を抑制するのに最適な非球面係数A,B,C,Dを求め、これら非球面係数の値から第1の非球面成分δ1を得ることができる。
z=r2/(R1+(R1
2-Kr2)1/2)+Ar4+Br6+Cr8+Dr10 …(9)
ここで、zは後面52におけるサグ値、rはz軸からの距離、R1は頂点曲率半径、A,B,C,Dは定数(非球面係数)である。
【0071】
次に第2の非球面成分付加工程では、Er3(但し、rはz軸からの距離、Eは定数)で表される第2の非球面成分δ2を、後面52の屈折面に付加する。この定数Eの絶対値をより大きくすれば、快適に立体視できる範囲(輻輳と調節との許容範囲)を広げることができる。しかしながら、過度に定数Eの絶対値を大きくすれば、得られる像の分解能は低下する。このため定数Eの絶対値が6.40×10-7~6.40×10-5の範囲内となるよう、定数Eを設定することが好ましい。
【0072】
このようにすることで、上記式(7)で定義された広焦点レンズ25の後面52の屈折面形状が決定される。
【0073】
[実施例]
VR用HMDへの装着を想定した広焦点レンズ(実施例1~4)を作製し、立体表示を観察した際の「見やすさ」および「目の疲れ」について評価した。
【0074】
実施例1~4の広焦点レンズに共通するデータは、以下の通りである。
屈折率 1.608、
前面ベースカーブ 4.12、
度数 0.00D、
中心厚 1.80mm
また、各レンズに付加された非球面成分の定数の値は、下記表1の通りである。
【0075】
【0076】
被験者は4名(30~55歳)で、うち2名は眼鏡装用者である。上記実施例の広焦点レンズを備えた立体眼鏡(
図5A参照)を装着した状態で、市販の立体映像コンテンツ(立体映画)を視聴した。ディスプレイ表示面と被験者の目との距離は90~120cmとした。所定時間視聴したのち、実施例の広焦点レンズにおける「見やすさ」および「目の疲れ」を、広焦点レンズを備えていない場合との対比で、悪い、やや悪い、変わらない、やや良い、良い、の5区分の何れに該当するかで評価した。
【0077】
図11,12に実施例3の広焦点レンズの評価結果を示す。
図11は、映画の視聴を開始してから30分後に得た結果(回答数4)である。
図12は、視聴を開始してから120分後に得た結果(回答数3)である。
【0078】
これら
図11,12によれば、実施例2の広焦点レンズは、「見やすさ」、「目の疲れ」のいずれの項目においても、「やや良い」という結果が半数以上であった。特に視聴時間が長くなった場合に、「やや良い」の割合が高くなった。また、他の実施例1,2,4の広焦点レンズについても、ほぼ同様の結果であった。焦点距離に幅があり虚像の表示範囲を近方側に広げる効果を有する広焦点レンズを用いたことにより、快適に立体視できる立体画像の表示範囲が近方側に拡大したことによる効果と考えられる。
【0079】
以上のように、本実施形態のHMD21は、左眼用及び右眼用虚像結像光学系4a,4bに対してそれぞれの光軸方向に重ねてそれぞれ配置された左眼用及び右眼用の広焦点レンズ5a、5bに、Ar4+Br6+Cr8+Dr10で表される第1の非球面成分とともに、Er3で表される第2の非球面成分を付加したものである。
【0080】
本実施形態のHMD21によれば、Er3で表される第2の非球面成分により広焦点レンズ5a、5bの度数が径方向に変化する。すなわち、広焦点レンズ5a、5bの焦点距離には幅があり、虚像が結像する範囲が光軸方向に広がるため、これに対応して輻輳調節矛盾に起因する視覚疲労を被ることなく、快適に立体像を視ることができる輻輳と調節との許容範囲を広げることができる。
【0081】
図10は、画角の大きいHMD21におけるユーザの視線と広焦点レンズ5a、5bとの関係を示した図である。HMD21の場合、没入感を高めるため広い画角が好まれ、虚像表示面Va,Vbの画角が大きくなる。このため、表示装置3の画面3cから出射して左眼Ea及び右眼Ebに入射する光線群は、
図10に示すように、広焦点レンズ5a,5bの中心部のほか、周縁部に近い領域を通る場合がある。ここで本実施形態では、広焦点レンズ25にEr
3で表される第2の非球面成分とともに、Ar
4+Br
6+Cr
8+Dr
10で表される第1の非球面成分を付加することで、レンズ中心からレンズ周縁部に向けての広い範囲で度数変化の傾きを略一定に維持することができるため、左眼Eaもしくは右眼Ebに入射する光線群が、広焦点レンズ5a,5bのレンズ周縁部に近い領域を通った場合でも、広焦点レンズ5a,5bが虚像結像に与える効果、すなわち輻輳と調節との許容範囲を広げる効果を確保することができる。
【0082】
<その他の変形例・適用例>
(1)上記実施形態のHMD21はVR用HMDであったが、AR用HMDに広焦点レンズ25を用いることも可能である。
【0083】
(2)上記実施形態は、広焦点レンズの後面52に第1の非球面成分δ1を付加した例であったが、第1の非球面成分δ1は広焦点レンズの前面53に付加しても良いし、前面53および後面52の両面に付加することも可能である。例えば、前面53にAr4+Br6で表される(この場合定数C、Dの値はゼロである)第1の非球面成分δ1を付加し、更に後面52にCr8+Dr10で表される(この場合定数A、Bの値はゼロである)第1の非球面成分δ1を付加することも可能である。いずれの面に付加する場合であっても、光学的中心からレンズ周縁部にかけての平均度数の変動を抑制することができればよい。
【0084】
(3)上記実施形態は、広焦点レンズの後面52に第2の非球面成分δ2を付加した例であったが、第2の非球面成分δ2は広焦点レンズの前面53に付加することも可能である。
【0085】
(4)上記実施形態は、実質的に度の入っていない広焦点レンズを例示しているが、近視、遠視、乱視の少なくとも何れかを矯正するための度数成分が更に設定された広焦点レンズを用いることも可能である。
【0086】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0087】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0088】
1,21…ヘッドマウントディスプレイ(HMD、VR用HMD)、2…フレーム、3…表示装置、3a…左眼用画像、3b…右眼用画像、3c…画面、4a…左眼用虚像結像光学系(虚像結像光学系)、4b…右眼用虚像結像光学系(虚像結像光学系)、4a0,4b0…光軸、5a…左眼用広焦点レンズ(広焦点レンズ)、5b…右眼用広焦点レンズ(広焦点レンズ)、5a0,5b0…光学的中心、6a,6b…アクチュエータ、11…ヘッドマウントディスプレイ(HMD、AR用HMD)、12…フレーム、13a…左眼用表示装置、13b…右眼用表示装置、17a…左眼用ハーフミラー、17b…右眼用ハーフミラー、25…広焦点レンズ、52…後面、53…前面、Am…領域、As…領域、Av…範囲、D…ディスプレイ表示面、Ea…左眼、Eb…右眼、L…中心線、La,Lb…主視線、Va,Vb…虚像表示面、Δ…シフト量、δ1,δ2…非球面成分