(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】スクリーニング方法および毒性評価法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/02 20060101AFI20240806BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20240806BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20240806BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20240806BHJP
【FI】
C12Q1/02 ZNA
G01N33/15 Z
G01N33/50 Z
C12N15/09 Z
(21)【出願番号】P 2021512313
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2020015255
(87)【国際公開番号】W WO2020204149
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-12-16
(31)【優先権主張番号】P 2019066625
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000002934
【氏名又は名称】武田薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】武部 貴則
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 憲和
(72)【発明者】
【氏名】仁尾 泰徳
(72)【発明者】
【氏名】川上 絵理
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-503909(JP,A)
【文献】特表2011-514329(JP,A)
【文献】国際公開第2012/016162(WO,A2)
【文献】HALLAM, D. et al.,An Induced Pluripotent Stem Cell Patient Specific Model of Complement Factor H (Y402H) Polymorphism Displays Characterisic Features of Age-Related Macular Degeneration and Indicates a Benefical Role for UV Light Exposure,STEM CELLS,2017年09月15日,Vol. 35,pp. 2305-2320
【文献】Molecular Immunology,1996年,Volume 33, Number 7/8,pp. 643-648
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00- 3/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
補体と関連付けられる細胞傷害性マーカーを指標として、補体の過活性化が関与する疾患の治療薬をスクリーニングする方法であって、
(1a)幹細胞から作製した細胞に補体を添加し、補体と関連付けられる細胞傷害性マーカーを形成させる工程、および
(2a)治療薬候補物質を添加し、該細胞傷害性マーカーの量を低下させる物質を選択する工程、
を含み、
該補体と関連付けられる細胞傷害性マーカーが、膜侵襲性複合体(MAC
)であり、
該補体の過活性化が関与する疾患が、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS
)であり、
該幹細胞から作製した細胞が、
人工多能性幹細胞由来の血管内皮細
胞である、方法。
【請求項2】
工程(1a)において、さらに補体活性化因子を添加することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
補体と関連付けられる細胞傷害性マーカーを指標として、被験物質の補体の過活性化に起因する細胞傷害性を評価する方法であって、
(1b)幹細胞から作製した細胞に被験物質を添加する工程、
(2b)補体と関連付けられる細胞傷害性マーカーの生成量を測定する工程、および
(3b)該細胞傷害性マーカーの生成量から、補体の過活性化に起因する細胞傷害性を評価する工程、
を含み、
該補体と関連付けられる細胞傷害性マーカーが、膜侵襲性複合体(MAC
)であり、
該幹細胞から作製した細胞が、
人工多能性幹細胞由来の血管内皮細
胞である、方法。
【請求項4】
(i-a)幹細胞から作製した細胞、
(ii-a)補体または補体供給源、および
(iii-a)補体と関連付けられる細胞傷害性マーカーを検出する試薬、
を含む、補体の過活性化が関与する疾患の治療薬をスクリーニングするためのキットであって、
該補体と関連付けられる細胞傷害性マーカーが、膜侵襲性複合体(MAC
)であり、
該補体の過活性化が関与する疾患が、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS
)であり、
該幹細胞から作製した細胞が、
人工多能性幹細胞由来の血管内皮細
胞である、キット。
【請求項5】
(i-b)幹細胞から作製した細胞、および
(ii-b)補体と関連付けられる細胞傷害性マーカーを検出する試薬、
を含む、補体の過活性化に起因する細胞傷害性を評価するためのキットであって、
該補体と関連付けられる細胞傷害性マーカーが、膜侵襲性複合体(MAC
)であり、
該幹細胞から作製した細胞が、
人工多能性幹細胞由来の血管内皮細
胞である、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補体と関連付けられる細胞傷害性マーカーを指標として、補体の過活性化が関与する疾患の治療薬をスクリーニングする方法に関する。また、本発明は、補体と関連付けられる細胞傷害性マーカーを指標として、被験物質の補体の過活性化に起因する細胞傷害性を評価する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
補体は、自然免疫の重要なエフェクターであるだけでなく、獲得免疫応答、炎症、血液凝固や、腫瘍進行の促進にも関与している。補体の活性化による異物排除機構として、オプソニン化、アナフィラトキシン(C5a,C3a)産生、最終産物である膜侵襲複合体(membrane attack complex of complements;MAC)形成が挙げられる。補体の活性化は生態防御として機能する一方で、病的状態では生体傷害性を発揮する危険性を有している。例えば、腎臓において、腎組織に補体が沈着することで、多膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)、溶連菌感染後急性糸球体腎炎(PSAGN)、ループス腎炎が引き起こされる。また、補体の活性化により、膜侵襲性複合体(MAC)が形成され、MACの形成により、細胞膜内に構造的な孔が生じる。その結果として、浸透圧流体の移動と陽イオンの流入が生じ、細胞死が起こる。このように、補体の活性化の異常により、様々な疾患が引き起こされるため、補体の活性化を指標として、溶血作用に注目して、該補体の過活性化が関与する疾患の治療薬のスリーニングが行われてきたが、これら従来の方法では、補体の活性化により実際に起こる、血管傷害などの細胞傷害については考慮されていない。
【0003】
ところで、非特許文献1では、MACの沈着が、様々な癌組織でも生じており、正常ヒト血清(NHS)を用いて、骨肉腫細胞における補体系の代替経路を活性化し得ること、およびヒト内皮細胞の血管新生を促進する増殖因子の産生が増強されることを報告している。しかしながら、該文献では、ヒト骨肉腫上皮細胞U2-OS以外の、HUVEC(ヒト臍帯静脈内皮細胞)などでは、「通常のヒト血清」と「加熱処理により不活化したヒト血清」でMAC生成度合いに差が認められないことも報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Jeon H.et al.,Sci Rep(2018),8(1):5415
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、補体と関連付けられる細胞傷害性マーカーを指標として、補体の過活性化が関与する疾患の治療薬をスクリーニングする方法や、該スクリーニングに用いるキットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、人工多能性幹細胞から分化誘導した血管内皮細胞を、補体を含む正常ヒト血清(NHS)または補体を失活させるために加熱処理したNHSに接触させたところ、補体の活性の有無により、膜侵襲複合体(MAC)沈着量に有意な差異が生じることを見出した。この知見は、非特許文献1に開示された、ヒト臍帯静脈内皮細胞を用いた場合の結果と異なる意外なものであった。しかも、活性を有する補体を用いた場合のMACの沈着量は、補体活性化カスケードの末端の補体成分C5に対する抗体であり、非典型溶血性尿毒症症候群(aHus)の治療薬としても用いられているエクリズマブの投与により、用量依存的に減少することを見出した。これらの知見に基づき、本発明者らは、血管内皮細胞以外の複数の細胞についても、血管内皮細胞と同様に人工多能性幹細胞から分化誘導し、該細胞と補体とを用いてMACの沈着実験を行ったところ、細胞の種類に関わらず、活性を有する補体によりMACの沈着が生じること、および該MACの沈着量はエクリズマブの投与により、用量依存的に減少することを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づき研究を進めた結果、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち本発明は、上記課題解決のため、以下の[1]~[6]を提供する。
[1]
補体と関連付けられる細胞傷害性マーカーを指標として、補体の過活性化が関与する疾患の治療薬をスクリーニングする方法であって、
(1a)幹細胞から作製した細胞に補体を添加し、補体と関連付けられる細胞傷害性マーカーを形成させる工程、および
(2a)治療薬候補物質を添加し、該細胞傷害性マーカーの量を低下させる物質を選択する工程、
を含む、方法。
[2]
工程(1a)において、さらに補体活性化因子を添加することを含む、前記[1]記載の方法。
[3]
補体と関連付けられる細胞傷害性マーカーを指標として、被験物質の補体の過活性化に起因する細胞傷害性を評価する方法であって、
(1b)幹細胞から作製した細胞に被験物質を添加する工程、
(2b)補体と関連付けられる細胞傷害性マーカーの生成量を測定する工程、および
(3b)該細胞傷害性マーカーの生成量から、補体の過活性化に起因する細胞傷害性を評価する工程、
を含む、方法。
[4]
幹細胞から作製した細胞が、血管内皮細胞、肝類洞内皮細胞、神経細胞、オリゴデンドロサイト、肝細胞または網膜色素上皮細胞である、前記[1]または[3]に記載の方法。
[5]
(i-a)幹細胞から作製した細胞、
(ii-a)補体または補体供給源、および
(iii-a)補体と関連付けられる細胞傷害性マーカーを検出する試薬、
を含む、補体の過活性化が関与する疾患の治療薬をスクリーニングするためのキット。
[6]
(i-b)幹細胞から作製した細胞、および
(ii-b)補体と関連付けられる細胞傷害性マーカーを検出する試薬、
を含む、補体の過活性化に起因する細胞傷害性を評価するためのキット。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、補体と関連付けられる細胞傷害性マーカーを指標として、補体の過活性化が関与する疾患の治療薬をスクリーニングする方法が提供される。前記疾患の既知の治療薬により、前記細胞傷害性マーカー形成の減少が確認されたことから、該細胞傷害性マーカーを指標とすることで、実際に生体内で生じる補体による血管傷害の影響を反映した、より信頼度の高いスクリーニングが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、ヒト多能性幹細胞から作製した血管内皮細胞における、補体供給源(ヒト血清およびオルガノイドの培養上清)を含む培地中で培養後の、MACの形成を示す。図中、-は補体供給源を用いていない実験の結果を、3% serum with LPSは補体供給源として(3%ヒト血清およびオルガノイドの培養上清にLPS処置をしたもの)を用いた実験の結果を示す。Heat inactivationとは該補体供給源を55℃で30分から60分静置して非働化したものの結果を示す。MAC免疫染色結果は定量化し、同じく定量化した核染色(DAPI)で補正した結果を結果として用いた。
【
図2】
図2は、ヒト多能性幹細胞から作製した血管内皮細胞における、補体供給源(ヒト血清およびオルガノイドの培養上清)を含む培地中で培養後の、MACの形成を示す。図中、-は補体供給源を用いていない実験の結果を示し、様々な濃度のC5抗体Eculizumabを3% serum with LPS(3%ヒト血清およびオルガノイドの培養上清にLPS処置をしたもの)に添加してMACを形成させた実験の結果を示す。MAC免疫染色結果は定量化し、同じく定量化した核染色(DAPI)で補正した結果を結果として用いた。
【
図3】
図3は、ヒト多能性幹細胞から作製した各細胞(神経細胞、肝細胞および網膜色素上皮細胞)を、補体供給源(ヒト血清およびオルガノイドの培養上清)を含む培地中で培養後の、MACの形成を検出するための免疫染色図を示す。図中、-は補体供給源を用いていない実験の結果を、+NHSは補体供給源を用いた実験の結果を示す。
【
図4】
図4は、肝類洞内皮細胞傷害を引き起こすことが知られているOxaliplatinを投与により、有意に細胞数が減少し(A)、またヒト血清によるMACの形成量が増加した(B)ことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
-1.補体の過活性化が関与する疾患の治療薬をスクリーニングする方法-
本発明は、補体と関連付けられる細胞傷害性マーカー(以下では、単に「細胞傷害性マーカー」と称することがある)を指標として、補体の過活性化が関与する疾患の治療薬をスクリーニングする方法(以下「本発明のスクリーニング方法」と称する場合がある)を提供する。本発明のスクリーニング方法は、
(1a)幹細胞から作製した細胞に補体を添加し、細胞傷害性マーカーを形成させる工程、および
(2a)治療薬候補物質を添加し、該細胞傷害性マーカーの量を低下させる物質を選択する工程、
を含む。
【0011】
本明細書において、「~を含む(comprise(s)またはcomprising)」とは、その語句に続く要素の包含を示すがこれに限定されないことを意味する。したがって、その語句に続く要素の包含は示唆するが、他の任意の要素の除外は示唆しない。
【0012】
補体の過活性化が関与する疾患としては、例えば、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、アルツハイマー、多発性硬化症(MS)、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)、加齢黄斑変性(AMD)、発作性夜間血色素尿症(PNH)、腸管出血性大腸菌性溶血性尿毒症症候群(STEC-HUS)、急性体液性拒絶反応(AHR)(急性抗体関連拒絶反応(AMR))、重症筋無力症、視神経脊髄炎、膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)、デンスデポジット病(DDD)、寒冷凝集素症、劇症型抗リン脂質抗体症候群(CAPS)などが挙げられる。
【0013】
本明細書において、細胞傷害性マーカーとしては、例えば、MAC、乳酸脱水素酵素(LDH)、細胞媒介性細胞傷害(BrdU取込)、細胞内ATP、DNAフラグメント化、Caspase-3/7、8、9還元能(NADHなど)などが挙げられる。また、本明細書において、細胞傷害性マーカーが形成されるとは、補体を接触させる前の細胞、不活化した補体を接触させた細胞、あるいは補体と接触させていない細胞と比較して、細胞傷害性マーカー(例:MAC)の形成(沈着)量が増加していることを意味する。
【0014】
下述の実施例で示す通り、幹細胞から作製された複数種類の細胞では、活性を有する補体によりMACの沈着が生じること、および該MACの沈着量はエクリズマブの投与により、用量依存的に減少することが実証された。この結果は、非特許文献1に開示されたヒト臍帯静脈内皮細胞の結果と異なるものであった。このような差異が生じた理由として、非特許文献1で用いられた細胞集団が、生体から分離した細胞集団であるため、単離方法等により複数の特性を有する細胞が混在したバラツキのある細胞集団となっていることに起因する可能性がある。そのため、用いる細胞を幹細胞から作製することで、上記バラツキの問題を回避できるため、幹細胞から作製した細胞種であれば、特に限定されることなく、本発明のスクリーニング方法に適用し得る。かかる細胞種としては、例えば、神経細胞、オリゴデンドロサイト、赤血球、単核細胞(例:リンパ球(NK細胞、B細胞、T細胞、単球、樹状細胞等))、顆粒球(例:好酸球、好中球、好塩基球)、巨核球)、上皮細胞(例:網膜色素上皮細胞等)、内皮細胞(例:血管内皮細胞、肝類洞内皮細胞等)、筋肉細胞、線維芽細胞(例:皮膚細胞等)、毛細胞、肝細胞、胃粘膜細胞、腸細胞、脾細胞、膵細胞(例:膵外分泌細胞等)、脳細胞、肺細胞、腎細胞および脂肪細胞等の分化した細胞、あるいはこれらの未成熟細胞などが例示される。中でも、血管内皮細胞、神経細胞、オリゴデンドロサイト、肝細胞、網膜色素上皮細胞およびこれらの未成熟細胞が好ましい。
【0015】
幹細胞から、前記細胞を作製(分化誘導)する方法は、目的の細胞の種類に応じて、自体公知の方法を適宜選択することができる。例えば、血管内皮細胞を作製する方法として、例えば、Yamashita J.et al.,Nature,408(6808):92-96(2000)に記載の方法、Narazaki G.et al.,Circulation.29;118(5):498-506(2008)に記載の方法などが、神経細胞を作製する方法として、例えば、Yan Y.et al.,Stem Cells Trans Med,2:862-870(2013)に記載の方法、Kondo T.,et al.,Cell Stem Cell,12:487-496(2013)に記載の方法、WO2015/020234に記載の方法、Doi D.,et al.,Stem Cell Reports,2(3):337-50(2014)に記載の方法などが、オリゴデンドロサイトを作製する方法としては、例えば、Kawabata S.et al.,Stem Cell Reports,6(1):1-8(2016)に記載の方法などが、肝細胞を作製する方法として、例えば、Cai J.et al.,Hepatology,45:1229-1239(2007)に記載の方法、Cai J.et al.,Hepatology,45:1229-1239(2007)に記載の方法などが、網膜色素上皮細胞を作製する方法として、例えば、Yan Y.et al.,Stem Cells Trans Med,2:862-870(2013)に記載の方法、WO 2015053375に記載の方法が、造血前駆細胞を作製する方法として、例えば、WO2013/075222に記載の方法、WO2016/076415に記載の方法、Liu S.et al.,Cytotherapy,17:344-358(2015)に記載の方法などが、赤血球または赤血球前駆細胞を作製する方法として、例えば、Miharada K.et al.,Nat.Biotechnol.,24:1255-1256(2006)に記載の方法、Kurita R.,et al.,PLoS One,8:e59890(2013)に記載の方法などが、巨核球または血小板を作製する方法として、例えば、Yamamizu K.et al.,J.Cell Biol.,189:325-338(2010)に記載の方法、Laflamme M.et al.,Nat.Biotechnol.,25:1015-1024(2007)に記載の方法などが、T細胞を作製する方法として、例えば、WO2016/076415に記載の方法、WO2017/221975に記載の方法などが、骨格筋細胞を作製する方法として、例えば、WO2013/073246に記載の方法、Uchimura T.et al,.Stem Cell Research,25:98-106(2017)に記載の方法、Shoji E.et al.,Science Reports,5:12831(2015)に記載の方法などが、心筋細胞を作製する方法として、例えば、Shimoji K.,et al.,Cell Stem Cell,6:227-237(2010)に記載の方法などが挙げられる。
【0016】
具体的に説明すれば、幹細胞から血管内皮細胞を作製するため、例えば、幹細胞を血清代替物(例:B-27)、BMP4およびGSK-3阻害薬(例:CHIR99021)を含む培地で培養して中胚葉系細胞に誘導した後、該細胞をVEGFおよびFolskolinを含む培地で培養することで、血管内皮細胞を作製することができる。また、幹細胞から肝細胞を作製するために、Wntタンパク質(例:Wnt3a)およびアクチビンAを含む培地で培養して内胚葉系細胞に誘導した後、該細胞を血清代替物(B-27)およびFGF2を含む培地で培養することで、肝細胞を作製することができる。
【0017】
前記「幹細胞(stem cell)」としては、例えば、多能性幹細胞(pluripotent stem cell)が挙げられる。本明細書において、「多能性幹細胞(pluripotent stem cell)」とは、生体の種々の異なった形態や機能を持つ組織や細胞に分化でき、三胚葉(内胚葉、中胚葉、外胚葉)のどの系統の細胞にも分化し得る能力を有する幹細胞を指す。多能性幹細胞としては、特に限定されないが、例えば、人工多能性幹細胞(本明細書中、「iPS細胞」と称することもある)、胚性幹細胞(ES細胞)、核移植により得られるクローン胚由来の胚性幹細胞(nuclear transfer Embryonic stem cell:ntES細胞)、多能性生殖幹細胞、胚性生殖幹細胞(EG細胞)などが挙げられる。本明細書において、「多能性幹細胞(multipotent stem cell)」とは、複数の限定的な数の系統の細胞へと分化できる能力を有する幹細胞を指す。また、「多能性幹細胞(multipotent stem cell)」としては、例えば、歯髄幹細胞、口腔粘膜由来幹細胞、毛包幹細胞、培養線維芽細胞や骨髄幹細胞由来の体性幹細胞などが挙げられる。好ましい多能性幹細胞(pluripotent stem cell)は、ES細胞およびiPS細胞である。上記多能性幹細胞がES細胞またはヒト胚に由来する任意の細胞である場合、その細胞は胚を破壊して作製された細胞であっても、胚を破壊することなく作製された細胞であってもよいが、好ましくは、胚を破壊することなく作製された細胞である。上記幹細胞は哺乳動物(例:マウス、ラット、ハムスター、モルモット、イヌ、サル、オランウータン、チンパンジー、ヒト)由来であることが好ましく、ヒト由来であることがより好ましい。
【0018】
「人工多能性幹細胞」とは、哺乳動物体細胞または未分化幹細胞に、特定の因子(核初期化因子)を導入して再プログラミングすることにより得られる細胞を指す。現在、「人工多能性幹細胞」にはさまざまなものがあり、山中らにより、マウス線維芽細胞にOct3/4・Sox2・Klf4・c-Mycの4因子を導入することにより、樹立されたiPS細胞(Takahashi K,Yamanaka S.,Cell,(2006)126:663-676)のほか、同様の4因子をヒト線維芽細胞に導入して樹立されたヒト細胞由来のiPS細胞(Takahashi K,Yamanaka S.,et al.Cell,(2007)131:861-872.)、上記4因子導入後、Nanogの発現を指標として選別し、樹立したNanog-iPS細胞(Okita,K.,Ichisaka,T.,and Yamanaka,S.(2007).Nature 448,313-317.)、c-Mycを含まない方法で作製されたiPS細胞(Nakagawa M,Yamanaka S.,et al.Nature Biotechnology,(2008)26,101-106)、ウイルスフリー法で6因子を導入して樹立されたiPS細胞(Okita K et al.Nat.Methods 2011 May;8(5):409-12,Okita K et al.Stem Cells.31(3):458-66.)も用いることができる。また、Thomsonらにより作製されたOCT3/4・SOX2・NANOG・LIN28の4因子を導入して樹立された人工多能性幹細胞(Yu J.,Thomson JA.et al.,Science(2007)318:1917-1920.)、Daleyらにより作製された人工多能性幹細胞(Park IH,Daley GQ.et al.,Nature(2007)451:141-146)、桜田らにより作製された人工多能性幹細胞(特開2008-307007号)等も用いることができる。
このほか、公開されているすべての論文(例えば、Shi Y.,Ding S.,et al.,Cell Stem Cell,(2008)Vol3,Issue 5,568-574;、Kim JB.,Scholer HR.,et al.,Nature,(2008)454,646-650;Huangfu D.,Melton,DA.,et al.,Nature Biotechnology,(2008)26,No 7,795-797)、あるいは特許(例えば、特開2008-307007号、特開2008-283972号、US2008-2336610、US2009-047263、WO2007-069666、WO2008-118220、WO2008-124133、WO2008-151058、WO2009-006930、WO2009-006997、WO2009-007852)に記載されている当該分野で公知の人工多能性幹細胞のいずれも用いることができる。人工多能性細胞株としては、NIH、理研、京都大学等が樹立した各種iPS細胞株が利用可能である。例えば、ヒトiPS細胞株であれば、理研のHiPS-RIKEN-1A株、HiPS-RIKEN-2A株、HiPS-RIKEN-12A株、Nips-B2株、京都大学の253G1株、201B7株、409B2株、454E2株、606A1株、610B1株、648A1株等が挙げられる。
【0019】
ES細胞は、ヒトやマウスなどの哺乳動物の初期胚(例えば胚盤胞)の内部細胞塊から樹立された、多能性と自己複製による増殖能を有する幹細胞である。ES細胞は、マウスで1981年に発見され(M.J.Evans and M.H.Kaufman(1981),Nature 292:154-156)、その後、ヒト、サルなどの霊長類でもES細胞株が樹立された(J.A.Thomson et al.(1998),Science 282:1145-1147;J.A.Thomson et al.(1995),Proc.Natl.Acad.Sci.USA,92:7844-7848;J.A.Thomson et al.(1996),Biol.Reprod.,55:254-259;J.A.Thomson and V.S.Marshall(1998),Curr.Top.Dev.Biol.,38:133-165)。ES細胞は、対象動物の受精卵の胚盤胞から内部細胞塊を取出し、内部細胞塊を線維芽細胞のフィーダー上で培養することによって樹立することができる。ヒトおよびサルのES細胞の樹立と維持の方法については、例えば、USP5,843,780;Thomson JA,et al.(1995),Proc Natl.Acad.Sci.U S A.92:7844-7848;Thomson JA,et al.(1998),Science.282:1145-1147;Suemori H.et al.(2006),Biochem.Biophys.Res.Commun.,345:926-932;Ueno M.et al.(2006),Proc.Natl.Acad.Sci.USA,103:9554-9559;Suemori H.et al.(2001),Dev.Dyn.,222:273-279;Kawasaki H.et al.(2002),Proc.Natl.Acad.Sci.USA,99:1580-1585;Klimanskaya I.et al.(2006),Nature.444:481-485などに記載されている。或いは、ES細胞は、胚盤胞期以前の卵割期の胚の単一割球のみを用いて樹立することもできるし(Chung Y.et al.(2008),Cell Stem Cell 2:113-117)、発生停止した胚を用いて樹立することもできる(Zhang X.et al.(2006),Stem Cells 24:2669-2676.)。「ES細胞」としては、マウスES細胞であれば、inGenious targeting laboratory社、理研(理化学研究所)等が樹立した各種マウスES細胞株が利用可能であり、ヒトES細胞であれば、ウィスコンシン大学、NIH、理研、京都大学、国立成育医療研究センターおよびCellartis社などが樹立した各種ヒトES細胞株が利用可能である。たとえば、ヒトES細胞株としては、ESI Bio社が分譲するCHB-1~CHB-12株、RUES1株、RUES2株、HUES1~HUES28株等、WiCell Researchが分譲するH1株、H9株等、理研が分譲するKhES-1株、KhES-2株、KhES-3株、KhES-4株、KhES-5株、SSES1株、SSES2株、SSES3株等を利用することができる。
【0020】
nt ES細胞は、核移植技術によって作製されたクローン胚由来のES細胞であり、受精卵由来のES細胞とほぼ同じ特性を有している(Wakayama T.et al.(2001),Science,292:740-743;S.Wakayama et al.(2005),Biol.Reprod.,72:932-936;Byrne J.et al.(2007),Nature,450:497-502)。すなわち、未受精卵の核を体細胞の核と置換することによって得られたクローン胚由来の胚盤胞の内部細胞塊から樹立されたES細胞がnt ES(nuclear transfer ES)細胞である。nt ES細胞の作製のためには、核移植技術(Cibelli J.B.et al.(1998),Nature Biotechnol.,16:642-646)とES細胞作製技術(上記)との組み合わせが利用される(若山清香ら(2008),実験医学,26巻,5号(増刊),47~52頁)。核移植においては、哺乳動物の除核した未受精卵に、体細胞の核を注入し、数時間培養することで初期化することができる。
【0021】
多能性生殖幹細胞は、生殖幹細胞(GS細胞)由来の多能性幹細胞である。この細胞は、ES細胞と同様に、種々の系列の細胞に分化誘導可能であり、例えばマウス胚盤胞に移植するとキメラマウスを作出できるなどの性質をもつ(Kanatsu-Shinohara M.et al.(2003)Biol.Reprod.,69:612-616;Shinohara K.et al.(2004),Cell,119:1001-1012)。神経膠細胞系由来神経栄養因子(glial cell line-derived neurotrophic factor(GDNF))を含む培養液で自己複製可能であるし、またES細胞と同様の培養条件下で継代を繰り返すことによって、生殖幹細胞を得ることができる(竹林正則ら(2008),実験医学,26巻,5号(増刊),41~46頁,羊土社(東京、日本))。
【0022】
EG細胞は、胎生期の始原生殖細胞から樹立される、ES細胞と同様な多能性をもつ細胞である。LIF、bFGF、幹細胞因子(stem cell factor)などの物質の存在下で始原生殖細胞を培養することによって樹立し得る(Matsui Y.et al.(1992),Cell,70:841-847;J.L.Resnick et al.(1992),Nature,359:550-551)。
【0023】
-細胞傷害性マーカーを形成させる工程(工程(1a))-
上記工程(1a)で用いる補体としては、細胞傷害性マーカーを形成できる限り特に限定されないが、例えば、血清(例:ヒト血清、ウシ血清、ウマ血清、ヒツジ血清、ヤギ血清、ブタ血清、ラマ血清、イヌ血清、ニワトリ血清、ロバ血清、ネコ血清、ウサギ血清、モルモット血清、ハムスター血清、ラット血清、マウス血清等))中に含まれる補体や、肝臓や血管内皮細胞にれらの臓器オルガノイド含む)の培養上清中に含まれる補体、あるいは各補体成分(例:C1q、C1r、C1s、C2、C4、C3、C3a、C5s、C3b、C5a、C5b6789および、これらの組み合わせ等)などが挙げられる。以下では、上記血清および培養上清などの補体を含む溶液等を、「補体供給源」と称することがある。本発明者らは、複数の種類の補体供給源とを組み合わせることで、それぞれ単体を組み合わせる場合よりも細胞傷害性マーカーの形成が促進することを確認しているため、補体または補体供給源は、複数の種類のものを組み合わせる(例:血清と臓器オルガノイドの培養上清との組み合わせる)ことが好ましい。
【0024】
本工程で用いる補体または補体供給源は、自体公知のタンパク質合成方法(例:固相合成法、液相合成法等)や、生体から単離する方法により調製してもよいし、市販のものを用いてもよい。あるいは、補体をコードする遺伝子を大腸菌などの宿主細胞に導入し、タンパク質を産生させることでも、補体を得ることができる。補体をコードする遺伝子は、該遺伝子を有する細胞から抽出したゲノムDNAを用いて、あるいは抽出したmRNAからcDNAを作製して、該DNAを鋳型としてPCR法によって所望の長さの核酸を増幅するか、あるいは、市販のDNA/RNA自動合成機等を用いて化学的に合成することによっても得ることができる。このようにして得られたタンパク質は、公知の精製法、例えば、溶媒抽出、蒸留、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、再結晶、これらの組み合わせ等により精製単離することができる。
【0025】
また、本発明者らは以前、人工的に作製したオルガノイドが補体を分泌することを確認している。したがって、前記オルガノイドの培養上清も、補体供給源として用いることができる。かかるオルガノイドとしては、例えば、血管内皮細胞のみから作製された三次元構造体、血管内皮細胞および肝細胞から作製された三次元構造体(肝細胞間に血管内皮細胞からなる脈管のネットワークを有することを特徴とする)などが挙げられる。これらのオルガノイドは、一般的には、自体公知の培養法(例えば、Nature Cell Biology 18,246-254(2016))により作製される。具体的には、オルガノイドの作製方法として、例えば、Nahmias Y.et al.,Tissue Eng.,12(6),2006,pp.1627-1638に記載の方法などが挙げられる。
【0026】
前記オルガノイドの作製に用いる血管内皮細胞は、造血性血管内皮細胞(hemogenic endothelial cell;HEC)であってもよく、非造血性血管内皮細胞(non-hemogenic endothelial cell;non-HEC)であってもよい。HECは、造血幹細胞を産生することのできる(造血能を有する)血管内皮細胞であり、血球産生型血管内皮細胞とも呼ばれる。また、HECまたはnon-HECのいずれか一方のみを用いてもよいし、HECおよびnon-HECの両方を用いてもよいし、それらの前駆細胞を用いてもよいし、あるいはHEC、non-HEC、およびそれらの前駆細胞の任意の組み合わせを用いてもよい。前記血管内皮細胞の前駆細胞としては、Flk-1(CD309、KDR)陽性の血管内皮細胞の前駆細胞(例、側板中胚葉系細胞)からHEC細胞までの分化過程に存在する細胞が挙げられる(Cell Reports 2,553-567,2012参照)。
【0027】
かかるオルガノイドの作製に用いる肝細胞は、分化した肝細胞(分化肝細胞)であっても、肝細胞への分化運命が決定しているがまだ肝細胞へ分化していない細胞(未分化肝細胞)、いわゆる肝前駆細胞(例、肝臓内胚葉細胞)であってもよい。分化肝細胞または未分化肝細胞は、生体から採取された(生体内の肝臓から単離された)細胞であってもよいし、ES細胞やiPS細胞等の多能性幹細胞、肝前駆細胞、その他の肝細胞へ分化する能力を有する細胞を分化させて得られた細胞であってもよい。肝細胞に分化可能な細胞は、例えば、K.Si-Taiyeb,et al.Hepatology,51(1):297-305(2010)、T.Touboul,et al.Hepatology.51(5):1754-65.(2010)に従って作製することができる。
【0028】
また、前記オルガノイドの作製において、間葉系幹細胞を用いてもよい。かかる間葉系幹細胞は、分化した細胞(分化間葉系細胞)であっても、間葉系細胞への分化運命が決定しているがまだ間葉系細胞へ分化していない細胞(未分化間葉系細胞)、いわゆる間葉系幹細胞であってもよい。当業者間で使用されている、mesenchymal stem cells、mesenchymal progenitor cells、mesenchymal cells(R.Peters,et al.PLoS One.30;5(12):e15689.(2010))などの用語が指す対象は、本明細書における「間葉系細胞」に相当する。
【0029】
前記オルガノイドを作製するための血管内皮細胞および肝細胞の細胞数の比率は、例えば、回収する培養上清に含まれる成分が所望のものとなるようにするなどの観点から、適切な範囲で調整することができる。本発明の一実施形態において、血管内皮細胞および肝細胞の細胞数の比率(血管内皮細胞:肝細胞)は、代表的には1:0.1~5、好ましくは1:0.1~2である。間葉系幹細胞を用いる場合にも、その割合は適宜調製することができ、好ましい実施態様として、細胞数の比率(血管内皮細胞:肝細胞:幹細胞)を7:10:1で用いられる。
【0030】
オルガノイドを作製する際は、血管内皮細胞用の培地と肝細胞用の培地(培養液)とを適切な割合で(例えば1:1で)混合したオルガノイド用培地が用いることが好ましい。血管内皮細胞用の培地としては、例えば、DMEM/F-12(Gibco)、Stempro-34 SFM(Gibco)、Essential 6培地(Gibco)、Essential 8培地(Gibco)、EGM(Lonza)、BulletKit(Lonza)、EGM-2(Lonza)、BulletKit(Lonza)、EGM-2 MV(Lonza)、VascuLife EnGS Comp Kit(LCT)、Human Endothelial-SFM Basal Growth Medium(Invitrogen)、ヒト微小血管内皮細胞増殖培地(TOYOBO)などが挙げられる。血管内皮細胞用の培地は、B27 Supplements(GIBCO)、BMP4(骨形成因子4)、GSKβ阻害剤(例、CHIR99021)、VEGF(血管内皮細胞成長因子)、FGF2(Fibroblast Growth Factor(bFGF(basic fibroblast growth factor)ともいう))、Folskolin、SCF(Stem Cell Factor)、TGFβ受容体阻害剤(例、SB431542)、Flt-3L(Fms-related tyrosine kinase 3 ligand)、IL-3(Interleukin 3)、IL-6(Interleukin 6)、TPO(トロンボポイエチン)、hEGF(組換えヒト上皮細胞成長因子)、ヒドロコルチゾン、アスコルビン酸、IGF1、FBS(ウシ胎児血清)、抗生物質(例えば、ゲンタマイシン、アンフォテリシンB)、ヘパリン、L-グルタミン、フェノールレッド、BBEなどから選ばれる1種以上の添加物を含んでいてもよい。これら添加物の添加量は、当業者であれば、血管内皮細胞を培養するための通常の培養条件を参考にして適宜決定することができる。
【0031】
肝細胞用の培地としては、例えば、RPMI(富士フイルム)、HCM(Lonza)などが挙げられる。肝細胞用の培地は、Wnt3a、アクチビンA、BMP4、FGF2、FBS(ウシ胎児血清)、HGF(肝細胞増殖因子)、オンコスタチンM(OSM)、デキサメタゾン(Dex)、などから選ばれる1種以上の添加物を含んでいてもよい。これら添加物の添加量は、当業者であれば、肝細胞を培養するための通常の培養条件を参考にして適宜決定することができる。あるいは、肝細胞用の培地として、アスコルビン酸、BSA-FAF、インスリン、ヒドロコルチゾンおよびGA-1000から選ばれる少なくとも1種を含む肝細胞用の培地、HCM BulletKit(Lonza)からhEGF(組換えヒト上皮細胞成長因子)を除いたもの、RPMI1640(Sigma-Aldrich)に1% B27 Supplements(GIBCO)と10ng/mL hHGF(Sigma-Aldrich)を添加した培地、GM BulletKit(Lonza)とHCM BulletKit(Lonza)よりhEGF(組換えヒト上皮細胞成長因子)を除いたものを1:1で混ぜたものに、デキサメタゾン、オンコスタチンMおよびHGFを添加した培地などを用いてもよい。
【0032】
上述した方法により作製したオルガノイドを培養している培地上清を回収することで、オルガノイドの培養上清を得ることができる。また、回収された培養上清は、必要に応じて濃縮してもよい。
【0033】
工程(1a)における、幹細胞から作製した細胞に補体を添加する方法、あるいは該細胞と補体とを接触させる方法は、特に限定されないが、例えば、該細胞を培養している培地に補体または補体供給源を添加することや、あらかじめ該補体または補体供給源を添加しておいた培地中に、該細胞を移すまたは播種することなどにより行うことができる。
【0034】
また、細胞傷害性マーカーの形成は、特に限定されないが、例えば、幹細胞から作製した細胞と補体とを含む培地中で、該細胞を培養することにより行うことができる。前記培養で一般に使用する培地としては、例えば、BME培地、BGJb培地、CMRL 1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM(IMEM)培地、Improved MDM(IMDM)培地、Medium 199培地、Eagle MEM培地、αMEM培地、DMEM培地(High glucose、Low glucose)、DMEM/F12培地、ハム培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、これらの混合培地などが挙げられる。また、上述した血管内皮細胞用の培地、肝細胞用の培地、オルガノイド用培地、あるいはこれらの混合培地を用いてもよい。
【0035】
前記培地には、上記した成分のほか、必要に応じて、アミノ酸、L-グルタミン、GlutaMAX(製品名)、非必須アミノ酸、ビタミン、抗生物質(例えば、Antibiotic-Antimycotic(本明細書中、AAと称することがある)、ペニシリン、ストレプトマイシン、またはこれらの混合物)、抗菌剤(例えば、アンホテリシンB)、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類等を添加してもよい。
【0036】
培養期間についても、細胞傷害性マーカーが形成できる限り特に限定されないが、例えば0.5時間~96時間が好ましく、4時間~48時間がより好ましい。培養温度も、特に限定されないが、好ましくは30~40℃(例:37℃)で行う。また、培養容器中の二酸化炭素濃度として、例えば5%程度が挙げられる。
【0037】
細胞傷害性マーカーの量の低下の検出または測定は、特に限定されないが、抗体(例:MACを検出できる抗MAC,C9抗体、抗ATP抗体、抗Caspase 3,7抗体、抗CD59抗体、抗LDH抗体等)を用いた免疫学的アッセイ、例えば、ELISA、免疫染色、ウエスタンブロッティング、フローサイトメトリーを利用して行うことができる。免疫染色やウエスタンブロッティング等の結果に基づき発現量を定量するために、得られた画像データから、画像処理ソフトフェア(例:ImageJ等)を用いて数値化することもできる。また、細胞傷害性マーカーがLDHのように酵素活性を有するものの場合には、その酵素活性を指標として、必要に応じてキット(例:LDH Cytotoxicity Assay Kit(フナコシ)等)などを用いて、該細胞傷害性マーカーを検出または測定することもできる。
【0038】
補体供給源として血清を用いる場合には、培地中の血清の濃度は、1%(v/v)~50%(v/v)であることが好ましく、3%(v/v)~20%(v/v)であることがより好ましい。また、補体供給源として臓器オルガノイドの培養上清を用いる場合には、培地中の培養上清の濃度は、1%(v/v)~50%(v/v)であることが好ましく、3%(v/v)~20%(v/v)であることがより好ましい。当業者であれば、用いる補体の種類、供給の形態等に合わせて、適宜濃度を決定することができる。
【0039】
また、工程(1a)において、細胞傷害性マーカーの形成を促進するため、さらに培地中に補体活性化因子を添加することで、幹細胞から作製した細胞と補体とを接触させてもよい。例えば、幹細胞から作製した細胞を培養している培地に補体活性化因子を添加することや、あらかじめ補体活性化因子を添加しておいた培地中に、該細胞を移すまたは播種することなどにより行うことができる。また、補体活性化因子の添加は、幹細胞から作製した細胞に補体または補体供給源の添加前に行ってもよく、添加後に行ってもよい。かかる補体活性化因子としては、細胞傷害性マーカーの形成を促進できる限り特に限定されないが、例えば、LPS(Lipopolysaccharide)、酵母の細胞壁の多糖質ザイモサン(zymosan)などが挙げられる。
【0040】
-該細胞傷害性マーカーの量を低下させる治療薬候補物質を選択する工程(工程(2a))-
工程(2a)で用いる治療薬候補物質としては、例えば、細胞抽出物、細胞培養上清、微生物発酵産物、海洋生物由来の抽出物、植物抽出物、精製タンパク質または粗タンパク質、ペプチド、非ペプチド化合物、合成低分子化合物、および天然化合物が例示される。
【0041】
工程(2a)で用いる、治療薬候補物質はまた、(1)生物学的ライブラリー、(2)デコンヴォルーションを用いる合成ライブラリー法、(3)「1ビーズ1化合物(one-bead one-compound)」ライブラリー法、および(4)アフィニティクロマトグラフィー選別を使用する合成ライブラリー法を含む当技術分野で公知のコンビナトリアルライブラリー法における多くのアプローチのいずれかを使用して得ることができる。アフィニティクロマトグラフィー選別を使用する生物学的ライブラリー法はペプチドライブラリーに限定されるが、その他の4つのアプローチはペプチド、非ペプチドオリゴマー、または化合物の低分子化合物ライブラリーに適用できる(Lam(1997)Anticancer Drug Des.12:145-67)。分子ライブラリーの合成方法の例は、当技術分野において見出され得る(DeWitt et al.(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6909-13;Erb et al.(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:11422-6;Zuckermann et al.(1994)J.Med.Chem.37:2678-85;Cho et al.(1993)Science 261:1303-5;Carell et al.(1994)Angew.Chem.Int.Ed.Engl.33:2059;Carell et al.(1994)Angew.Chem.Int.Ed.Engl.33:2061;Gallop et al.(1994)J.Med.Chem.37:1233-51)。化合物ライブラリーは、溶液(Houghten(1992)Bio/Techniques 13:412-21を参照のこと)またはビーズ(Lam(1991)Nature 354:82-4)、チップ(Fodor(1993)Nature 364:555-6)、細菌(米国特許第5,223,409号)、胞子(米国特許第5,571,698号、同第5,403,484号、および同第5,223,409号)、プラスミド(Cull et al.(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:1865-9)若しくはファージ(Scott and Smith(1990)Science 249:386-90;Devlin(1990)Science 249:404-6;Cwirla et al.(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:6378-82;Felici(1991)J.Mol.Biol.222:301-10;米国特許出願第2002103360号)として作製され得る。
【0042】
工程(2a)における、治療候補物質を添加する方法、あるいは幹細胞から作製した細胞と治療候補物質とを接触させる方法は、特に限定されないが、例えば、工程(1a)を行った後の該細胞を含む培地に治療候補物質を添加することや、あらかじめ該治療候補物質を添加しておいた培地中に、該細胞を移すまたは播種することなどにより行うことができる。工程(2a)において、細胞傷害性マーカーの量を低下させる治療候補物質を、補体の過活性化が関与する疾患に対する治療薬として選択、または該治療薬であると判断することができる。
【0043】
あるいは、工程(1a)を行う前の培地に、あらかじめ治療候補物質を添加しておき、その培地を用いて工程(1a)を行うこともできる。この場合には、例えば、治療候補物質を添加していない対照または治療効果を有さない物質を添加した対照と比較して、細胞傷害性マーカーの形成量が低い場合に、該治療候補物質を、補体の過活性化が関与する疾患の治療薬として選択または該治療薬であると判断することができる。
【0044】
また、本発明のスクリーニング方法を行う際には、既に補体の過活性化が関与する疾患に対する治療効果を有する物質(例:エクリズマブ等)などの陽性対照、および/または偽薬等の陰性対照を用いてもよい。
【0045】
-2.補体の過活性化に起因する細胞傷害性を評価する方法-
本発明は、細胞傷害性マーカーを指標として、被験物質の補体の過活性化に起因する細胞傷害性を評価する方法(以下「本発明の評価方法」と称する場合がある)を提供する。本発明の評価方法は、
(1b)幹細胞から作製した細胞に被験物質を添加する工程、
(2b)細胞傷害性マーカーの生成量を測定する工程、および
(3b)該細胞傷害性マーカーの生成量から、補体の過活性化に起因する細胞傷害性を評価する工程、
を含む。
【0046】
下述の実施例で示す通り、肝類洞内皮細胞傷害を引き起こすことが知られているOxaliplatinをヒト肝類洞内皮細胞に投与したところ、有意に細胞数が減少し、ヒト血清によるMACの形成量が増加すること、即ち、MACの形成量により、Oxaliplatinの細胞傷害性を評価できることが示された。従って、本発明の評価方法により、被験物質が、補体の活性化に起因する細胞傷害性を有するか否かを評価・予測等することができるが、例えば、被験物質が任意の疾患の治療薬または治療薬候補物質である場合に、これらの物質が、細胞傷害性マーカーを指標として、補体の活性化を惹起するか、即ち、補体の活性化を通じた毒性(副作用)を有するか否かを評価・予測等することができる。かかる被験物質としては、例えば、細胞抽出物、細胞培養上清、微生物発酵産物、海洋生物由来の抽出物、植物抽出物、精製タンパク質または粗タンパク質、ペプチド、非ペプチド化合物、合成低分子化合物、および天然化合物が例示される。
【0047】
前記被験物質はまた、(1)生物学的ライブラリー、(2)デコンヴォルーションを用いる合成ライブラリー法、(3)「1ビーズ1化合物(one-bead one-compound)」ライブラリー法、および(4)アフィニティクロマトグラフィー選別を使用する合成ライブラリー法を含む当技術分野で公知のコンビナトリアルライブラリー法における多くのアプローチのいずれかを使用して得ることができる。アフィニティクロマトグラフィー選別を使用する生物学的ライブラリー法はペプチドライブラリーに限定されるが、その他の4つのアプローチはペプチド、非ペプチドオリゴマー、または化合物の低分子化合物ライブラリーに適用できる(Lam(1997)Anticancer Drug Des.12:145-67)。分子ライブラリーの合成方法の例は、当技術分野において見出され得る(DeWitt et al.(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6909-13;Erb et al.(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:11422-6;Zuckermann et al.(1994)J.Med.Chem.37:2678-85;Cho et al.(1993)Science 261:1303-5;Carell et al.(1994)Angew.Chem.Int.Ed.Engl.33:2059;Carell et al.(1994)Angew.Chem.Int.Ed.Engl.33:2061;Gallop et al.(1994)J.Med.Chem.37:1233-51)。化合物ライブラリーは、溶液(Houghten(1992)Bio/Techniques 13:412-21を参照のこと)またはビーズ(Lam(1991)Nature 354:82-4)、チップ(Fodor(1993)Nature 364:555-6)、細菌(米国特許第5,223,409号)、胞子(米国特許第5,571,698号、同第5,403,484号、および同第5,223,409号)、プラスミド(Cull et al.(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:1865-9)若しくはファージ(Scott and Smith(1990)Science 249:386-90;Devlin(1990)Science 249:404-6;Cwirla et al.(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:6378-82;Felici(1991)J.Mol.Biol.222:301-10;米国特許出願第2002103360号)として作製され得る。
【0048】
細胞傷害性マーカーの定義および具体例については、上記1.で記載した通りである。幹細胞から作製した細胞についても、上記1.で記載したものと同じものが例示される。
【0049】
工程(1b)における、幹細胞から作製した細胞に治療候補物質を添加する方法、あるいは該細胞と治療候補物質とを接触させる方法は、特に限定されないが、例えば、該細胞を培養している培地に治療候補物質を添加することや、あらかじめ該治療候補物質を添加しておいた培地中に、該細胞を移すまたは播種することなどにより行うことができる。
【0050】
工程(2b)における、細胞傷害性マーカーの生成量の測定は、上記1.の工程(2a)で記載した方法と同様の方法により行うことができる。
【0051】
工程(3b)において、例えば、被験物質を添加していない対照、補体の過活性化能を有さない物質を添加した対照、または被験物質を添加する前の細胞と比較して、細胞傷害性マーカーの生成量が増加した場合に、被験物質は補体の過活性化に起因する細胞傷害性を有すると評価することができ、細胞傷害性マーカーの生成量に変化が認められない場合、または生成量が減少した場合に、被験物質は補体の過活性化に起因する細胞傷害性を有さないと評価することができる。
【0052】
-3.補体の過活性化が関与する疾患の治療薬のスクリーニング用キット-
また、本発明は補体の過活性化が関与する疾患の治療薬をスクリーニングするためのキット(以下「本発明のスクリーニング用キット」と称する場合がある)を提供する。本発明のスクリーニング用キットを用いて、本発明のスクリーニング方法を行ってもよい。本発明のスクリーニング用キットには、
(i-a)幹細胞から作製した細胞、
(ii-a)補体または補体供給源、および
(iii-a)細胞傷害性マーカーを検出する試薬、
が含まれる。
【0053】
補体の過活性化が関与する疾患としては、上記1.で記載の疾患と同じものが例示される。前記(i-a)の幹細胞から作製した細胞としては、上記1.で記載したものと同じものが例示される。前記(ii-a)の補体または補体供給源としても、上記1.で記載したものと同じものが例示される。前記(iii-a)の試薬としては、例えば、細胞傷害性マーカーを認識する抗体(例:MACを検出できる抗MAC,C9抗体、抗ATP抗体、抗Caspase 3,7抗体、CD59抗体、抗LDH抗体等)など挙げられる。前記試薬が2種以上の抗体を含む場合、該試薬は、各抗体を別個の試薬中に含む試薬キットとして提供され得る。本発明の試薬に含まれる抗体は、例えば、蛍光色素、金属同位体またはビーズ(例:磁気ビーズ)に結合した形態で提供されてもよい。
【0054】
本発明のスクリーニング用キットには、上記(i-a)~(iii-a)に加えて、治療薬のスクリーニングに用いる他の物質を含んでいてもよい。これらの他の物質は、反応に悪影響を及ぼさない限り、上記(i-a)~(iii-a)と共存状態で提供されてもよく、あるいは、別個の試薬とともに提供されてもよい。前記他の物質としては、例えば、上記1.で記載の補体活性化因子、上記1.で記載の治療薬候補物質、上記1.で記載の培地、上記1.で記載の陽性対照および/または陰性対照、反応緩衝液、competitor抗体、標識された二次抗体(例えば、一次抗体がウサギ抗体の場合、ペルオキシダーゼやアルカリホスファターゼ等で標識されたマウス抗ウサギIgGなど)、ブロッキング液、ELISA用プレートなどが挙げられる。また、本発明のスクリーニング用キットには、該キットや試薬の使用方法が記載された説明書が含まれていてもよい。
【0055】
-4.補体の過活性化に起因する細胞傷害性の評価用キット-
また、本発明は、被験物質の補体の過活性化に起因する細胞傷害性を評価するためのキット(以下「本発明の評価用キット」と称する場合がある)を提供する。本発明の評価用キットを用いて、本発明の評価方法を行ってもよい。本発明の評価用キットには、
(i-b)幹細胞から作製した細胞、および
(ii-b)補体と関連付けられる細胞傷害性マーカーを検出する試薬、
が含まれる。
【0056】
前記(i-b)の幹細胞から作製した細胞としては、上記1.で記載したものと同じものが例示される。前記(ii-b)の試薬としては、上記3.の(iii-a)で記載したものと同じものが例示される。前記試薬が2種以上の抗体を含む場合、該試薬は、各抗体を別個の試薬中に含む試薬キットとして提供され得る。本発明の試薬に含まれる抗体は、例えば、蛍光色素、金属同位体またはビーズ(例:磁気ビーズ)に結合した形態で提供されてもよい。
【0057】
本発明の評価用キットには、上記(i-b)および(ii-b)に加えて、細胞傷害性の評価に用いる他の物質を含んでいてもよい。これらの他の物質は、反応に悪影響を及ぼさない限り、上記(i-b)および(ii-b)と共存状態で提供されてもよく、あるいは、別個の試薬とともに提供されてもよい。前記他の物質としては、例えば、上記2.で記載の被験物質、上記1.で記載の培地、上記1.で記載の陽性対照および/または陰性対照、反応緩衝液、competitor抗体、標識された二次抗体(例えば、一次抗体がウサギ抗体の場合、ペルオキシダーゼやアルカリホスファターゼ等で標識されたマウス抗ウサギIgGなど)、ブロッキング液、ELISA用プレートなどが挙げられる。また、本発明の評価用キットには、該キットや試薬の使用方法や評価基準等の説明が記載された説明書が含まれていてもよい。
以下の実施例において本発明を更に具体的に説明するが、これによって本発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0058】
以下の実施例において、細胞マーカーの確認は、フローサイトメトリー、免疫染色、および/または定量的PCRにより行った。
(CD31、CD73およびCD144マーカーの確認)
CD31、CD73およびCD144マーカーの確認は、細胞を、蛍光標識済み抗CD31抗体(FITC Mouse anti-Human CD31、BD Pharmingen)、抗CD73抗体(CD73-PE,human、Miltenyi BiotecもしくはCD73-APC,human、Miltenyi Biotec)、および抗CD144抗体(PE Mouse anti-Human CD144、BD Pharmingen)と反応させた後、フローサイトメトリー(FACS Fortessa(BD))により行った。マーカー陰性サンプルとしては、未分化ヒトiPS細胞(1383D2;京都大学iPS研究所)を用いた。また、標識抗体と同じアイソタイプで目的マーカーを認識しない抗体を反応させたネガティブコントロールを作製した。
【0059】
(HNF4αマーカーの確認)
HNF4αマーカーの確認は、免疫染色と定量的PCRにより行った。
【0060】
(免疫染色法)
細胞を、PBS中4%パラホルムアルデヒド(PFA)で室温にて15分固定し、ロバおよびヤギ血清でブロッキングを行った後、抗HNF4α抗体(santa-cruz)とこの抗体に結合する蛍光標識二次抗体(Novex Donkey anti-Goat IgG(H+L)Secondary Antibody(invitrogen))を用いて免疫染色したのち、蛍光顕微鏡により確認した。
【0061】
(定量的PCR)
PureLink RNA Mini Kit(invitrogen)を用いて、細胞からRNAを抽出し、High-Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(invitrogen)を用いてcDNAを合成した。THUNDERBIRD Probe qPCR Mix(TOYOBO)およびQuantStudio 7Flex リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems)を用い、定量的PCRを実施した。用いたPCRプライマー(Fw:フォワードプライマー;Rv:リバースプライマー)およびプローブは、以下のとおり:
HNF4α
プローブ;Universal ProbeLibrary Probe 027(Roche)
AFP
プローブ;Universal ProbeLibrary Probe 061(Roche)
ALB
プローブ;Universal ProbeLibrary Probe 027(Roche)
18s rRNA(Endogenous Control)
EUK 18s rRNA(20×)(ABI)
【0062】
[実施例1]
iPS細胞由来肝オルガノイド培養上清とヒト血清を用いたiPS細胞由来ヒト血管内皮細胞における膜侵襲複合体の検出
(1-1)iPSヒト非造血性血管内皮細胞(human non-hemogenic endothelial cell)の作製
ヒトiPS細胞(1383D2;京都大学iPS研究所)をDMEM/F-12(Gibco)(10ml)に1% B-27 Supplements(GIBCO)、BMP4(25ng/ml)、CHIR99021(8μM)を添加し、5%CO2、37℃で3日間培養することで中胚葉系細胞を誘導した。さらにStempro-34 SFM(Gibco)(10ml)にVEGF(200ng/ml)、Folskolin(2μM)を添加し、5%CO2、37℃で7日間培養することで、CD31陽性、CD73陽性およびCD144陽性のヒト非造血性血管内皮細胞集団を得た。
【0063】
(1-2)ヒト肝臓内胚葉細胞(human Hepatic Endoderm;HE)の作製
ヒトiPS細胞(1383D2;京都大学iPS研究所)をRPMI(富士フィルム)(2ml)にWnt3a(50ng/mL)、アクチビンA(100ng/ml)を添加して5%CO2、37℃で5日間培養することで、内胚葉系細胞を誘導した。得られた内胚葉系細胞を、同培地に、1%B27 Supplements(GIBCO)、FGF2(10ng/ml)を添加して、5%CO2、37℃で、さらに5日間培養することで、AFP、ALBおよびHNF4αが陽性のヒト肝臓内胚葉細胞集団を得た。
【0064】
(1-3)ヒト間葉系幹細胞(human Mesenchymal Stem Cell;MC)の作製
ヒトiPS細胞(1383D2;京都大学iPS研究所)をDMEM/F-12(Gibco)(10ml)に1% B-27 Supplements(GIBCO)、BMP4(25ng/ml)、CHIR99021(8μM)を添加し、5%CO2、37℃で3日間培養することで中胚葉系細胞を誘導した。さらに、PDGFBB(10ng/ml)、アクチビンA(2ng/ml)を添加して、5%CO2、37℃で、さらに3日間培養した。その後DMEM/F-12(Gibco)(10ml)に1% B-27 Supplements(GIBCO)、FGF(10ng/ml)、BMP4(12ng/ml)を添加して、5%CO2、37℃で、さらに3日間培養することで、CD31陰性、CD73陽性のヒト間葉系幹細胞を得た。
【0065】
(1-4)オルガノイド(三次元構造体)の作製
作製したヒト肝臓内胚葉細胞(HE)とヒト非造血性血管内皮細胞(non-HEC)とヒト間葉系幹細胞(human Mesenchymal Stem Cell;MC)を10:7:1の割合の細胞数(総数18×106個)で混合し、三次元培養容器Elplasia(クラレ)上で一日間、5%CO2、37℃で共培養することで凝集体を作製した。この共培養において、培養培地は、HCM(Lonza)にFBS(5%)、HGF(10ng/ml)、OSM(20ng/ml)、Dex(100nM)を加えた肝細胞用培地(A)と、Stempro-34 SFM(Gibco)にVEGF(50ng/ml)、FGF2(10ng/ml)を加えた血管内皮細胞用培地(A)を、1:1の体積割合で混合したもの(本明細書中「オルガノイド用培地(A)」という)を用いた。その後毎日、該培地で培地交換し、14日目の培養上清を回収して補体成分として用いた。本発明者らは、補体供給源として、ヒト血清および前記培養上清のいずれを用いても、MACの形成が認められること、ならびに該補体供給源を併用することで、MACの形成効果が単独で用いた場合よりも向上することを確認している。したがって、以下の実施例では、補体供給源として、ヒト血清および前記培養上清を用いた。
【0066】
(1-5)iPS細胞由来ヒト非造血性血管内皮細胞における膜侵襲複合体の検出
iPS細胞(1383D2;京都大学iPS研究所)4000細胞を96 well plate(corning)に播種し、上記1-1の方法に従ってplate上でiPS由来のヒト非造血性血管内皮細胞を作製した。CD59抗体(1μg/ml)を含む該細胞培地を100μl/96wellの容量で添加し、37℃で1時間インキュベーションした後、該細胞培養培地に等量の同培地(6%(v/v)ヒト血清[BIOPREDIC Inc.SER018A050F018]、20%(v/v)の(1-4)で回収した培養上清、LPS(Lipopolysaccharide)2μg/mlを含む)を添加し(したがって、添加後の培地中のヒト血清濃度は3%(v/v)となり、(1-4)で回収した培養上清の濃度は10%(v/v)となる)、37℃で24時間インキュベーションした。翌日、培地を除去してPBS(-)(GIBCO)で1回洗浄後、細胞に4%パラホルムアルデヒドを50μl/96wellを添加して15分間室温で放置した。その後PBS(-)で3回洗浄し、4℃で一晩保存した。その後細胞にPROTEIN BLOCK SERUM-FREE blocking溶液[DAKO,X909]を50μl/96wellの容量で添加して60分間室温で放置してブロッキングをおこなった。その後一次抗体溶液(1/200 Anti-terminal complement complex,HCB Hycult Biotech,HM2167 with 1% blocking溶液in PBS(-))を50μl/96wellの容量で添加し、室温60分または4℃で一晩静置した。次いでPBS(-)で3回洗浄後、2次抗体溶液(1/1000,Alexa Flour 555,1/1000 DAPI-HCB Hycult Biotech,HM2167 with 1% blocking溶液in PBS(-))を50μl/96wellの容量で添加し、37℃で60分インキュベートした。その後PBS(-)で3回洗浄後、In cell analyzer 6500HS(GEヘルスケア)で定量解析を実施した。得られた数値は4’,6-diamidino-2-phenylindole(DAPI)との相対値として算出した。ネガティブコントロールとして非働化血清を用いた。結果を
図1に示す。
【0067】
[実施例2]
iPS細胞由来肝オルガノイド培養上清とヒト血清を用いたiPS細胞由来非造血生ヒト血管内皮細胞における膜侵襲複合体形成に対する、補体第五因子C5抗体 Eculizumab(AB00296,Absolute Antibody Ltd)の作用を試験した。Eculizumabを血清と同時に2.028~676nano mol/Lの濃度で添加した点以外は、上記(1-5)に記載の方法にて膜複合体の形成および検出を行った。結果を
図2に示す。
【0068】
[実施例3]
iPS細胞由来ヒト神経細胞における膜侵襲複合体の検出
(3-1)iPS細胞由来ヒト神経細胞の作製
ヒトiPS細胞(253G1;京都大学iPS研究所)をYan Y et al.,Stem Cells Trans Med,2:862-870.(2013)に従い、PSC Neural Induction Medium(Thermo Fisher Scientific)を用いて、iPS細胞由来ヒト神経幹細胞および神経細胞に分化誘導した。
【0069】
(3-2)iPS細胞由来ヒト神経細胞における膜侵襲複合体の検出
上記3-1の方法に従って96 well plate上で15日間分化誘導を行い、iPS細胞由来ヒト神経細胞を作製した。上記(1-5)の方法に従って補体活性化に伴う膜侵襲複合体の検出を実施した。結果を
図3(上図)に示す。ヒト血清を用いることで、MACの形成が認められた。
【0070】
[実施例4]
iPS細胞由来ヒト肝細胞における膜侵襲複合体の検出
(4-1)iPS細胞由来ヒト肝細胞の作製
ヒトiPS細胞(1383D2;京都大学iPS研究所)は上記1-2の方法に従い、分化誘導10日後にAFP、ALBおよびHNF4αが陽性のヒト肝臓内胚葉細胞集団を得た。さらに、HCM培地(LONZA)に5%FBS、HGF(10ng/mL)、OSM(20ng/ml)、Dex(100nM)を添加し、5%CO2、37℃で11日間培養することでiPS細胞由来ヒト肝前駆細胞を誘導した。
【0071】
(4-2)iPS細胞由来ヒト肝細胞における膜侵襲複合体の検出
上記3-1の方法に従って96well plate上で21日間分化誘導を行い、iPS細胞由来ヒト肝細胞を作製した。上記(1-5)の方法に従って補体活性化に伴う膜侵襲複合体の検出を実施した。結果を
図3(中図)に示す。ヒト血清を用いることで、MACの形成が認められた。
【0072】
[実施例5]
iPS細胞由来ヒト網膜色素上皮細胞における膜侵襲複合体の検出
(5-1)iPS細胞由来ヒト網膜色素上皮細胞の作製
ヒトiPS細胞(253G1;京都大学iPS研究所)をWO 2015053375 A1の作製方法に従い、iPS細胞由来ヒト網膜色素上皮細胞に分化誘導した。
【0073】
(5-2)iPS細胞由来ヒト網膜色素上皮細胞における膜侵襲複合体の検出
上記3-1の方法に従って96well plate上で21日間分化誘導を行い、iPS細胞由来ヒト網膜色素上皮細胞を作製した。上記(1-5)の方法に従って補体活性化に伴う膜侵襲複合体の検出を実施した。結果を
図3(下図)に示す。ヒト血清を用いることで、MACの形成が認められた。
【0074】
[実施例6]
iPS細胞由来ヒト肝類洞内皮細胞におけるオキサリプラチン投与時の膜侵襲複合体の検出
(6-1)iPS細胞由来ヒト肝類洞内皮細胞の作製
ヒトiPS細胞(625A4;京都大学iPS研究所)を、AK02N(味の素)(8ml)中、5%CO2、37℃で6~7日間培養することで、直径500-700μmのiPS細胞コロニーを形成させた。得られたコロニーを、Essential 8培地(Gibco)(8ml)にBMP4(80ng/ml)、VEGF(80ng/ml)およびCHIR99021(2μM)を添加した培地中、5%CO2、37℃で2日間培養した。次いで、Essential 6培地(Gibco)(8ml)にVEGF(80ng/ml)、FGF2(25ng/ml)、SCF(50ng/ml)およびSB431542(2μM)を添加した培地に交換し、5%CO2、37℃でさらに2日間培養することで側板中胚葉系細胞を誘導した。その後、Stempro-34 SFM(Gibco)(8ml)にVEGF(80ng/ml)、SCF(50ng/ml)、Flt-3L(50ng/ml)、IL-3(50ng/ml)、IL-6(50ng/ml)およびTPO(5ng/ml)を添加した培地に交換し、5%CO2、37℃で2日間培養した後、上記組成の培地からVEGFを除いた培地に交換して、5%CO2、37℃で1日間培養することで、CD34陽性、CD73陰性の造血性血管内皮細胞を誘導した。この造血性血管内皮細胞をTrpLE Express(Gibco)によって解離し、PBSで50倍に希釈したマトリゲル(BD Pharmingen)によって薄層コーティングした96well plateに再播種し、Stempro-34 SFM(Gibco)(150μl)にRock inhibitor(10μM)、VEGF(10ng/ml)、SCF(50ng/ml)、Flt-3L(10ng/ml)、IL-3(10ng/ml)、IL-6(10ng/ml)、TPO(10ng/ml)、IL-11(5ng/ml)、IGF-1(25ng/ml)およびEPO(2Unit/mL)を添加した培地で24時間培養後、上記組成の培地からRock inhibitorを除いた培地に交換して、5%CO2、37℃で2日間培養することで、CD34陽性、CD32陽性、Factor VIII陽性の肝類洞内皮細胞を得た。
【0075】
(6-2)iPS細胞由来ヒト肝類洞内皮細胞における膜侵襲複合体の検出
上記6-1の方法に従って96well plate上でiPS細胞由来ヒト肝類洞内皮細胞を作製した。CD59抗体(1μg/ml)を含む該細胞培地を100μl/96wellの容量で添加し、37℃で1時間インキュベーションした後、該細胞培養培地に等量の同培地(6%(v/v)ヒト血清[BIOPREDIC Inc.SER018A050F018]、20%(v/v)の(1-4)で回収した培養上清および、2mMオキサリプラチン(最終濃度20μM)もしくは同溶媒(エタノール)を含む)を添加し(したがって、添加後の培地中のヒト血清濃度は3%(v/v)となり、(1-4)で回収した培養上清の濃度は10%(v/v)となる)、37℃で24時間インキュベーションした。以降、上記(1-5)の方法に従って補体活性化に伴う膜侵襲複合体の検出を実施し、さらにDAPIを指標とした細胞数の定量を実施した。結果を
図4(上図)に示す。オキサリプラチンにより、有意な細胞数の減少が認められ(
図4A)、ヒト血清によるMACの形成量が有意に増加した(
図4B)。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、補体と関連付けられる細胞傷害性マーカーを指標とすることで、補体の活性化により生体内で生じる血管傷害を考慮した、該活性化が関与する疾患の治療薬をスクリーニングすることができるため、より信頼度の高いの高い創薬スクリーニングが可能となる。
【0077】
本出願は、日本国で出願された特願2019-066625(出願日:2019年3月29日)を基礎としており、ここで言及することにより、それらの内容は本明細書に全て包含される。
[配列表]