(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】湿度センサ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/04 20060101AFI20240806BHJP
G01N 27/12 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
G01N27/04 B
G01N27/12 J
(21)【出願番号】P 2020207682
(22)【出願日】2020-12-15
【審査請求日】2023-12-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(さきがけ)、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【氏名又は名称】冨田 雅己
(72)【発明者】
【氏名】竹井 邦晴
(72)【発明者】
【氏名】リュー ユーヤオ
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-055847(JP,A)
【文献】特開昭57-036812(JP,A)
【文献】特開2007-248409(JP,A)
【文献】特開昭62-211551(JP,A)
【文献】特開2018-048912(JP,A)
【文献】特表2010-507073(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-27/24
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
センシング部を備え、
前記センシング部は、感湿層と、前記感湿層に電気的に接続した第1及び第2電極とを含み、
前記感湿層は、Pdが担持されたニオブ酸を含むことを特徴とする湿度センサ。
【請求項2】
前記ニオブ酸は、HNb
3O
8で表される化合物である請求項1に記載の湿度センサ。
【請求項3】
前記ニオブ酸は、Nb
5+とNb
4+とを含む請求項1又は2に記載の湿度センサ。
【請求項4】
前記Pdが担持されたニオブ酸は、0.001wt%以上3wt%以下のPdが担持されたニオブ酸である請求項1~3のいずれか1つに記載の湿度センサ。
【請求項5】
前記ニオブ酸は、剥離したナノシートを含む請求項1~4のいずれか1つに記載の湿度センサ。
【請求項6】
基材シートをさらに備え、
前記センシング部は、前記基材シート上に配置された請求項1~5のいずれか1つに記載の湿度センサ。
【請求項7】
前記基材シートは、ポリイミドフィルムであり、
第1及び第2電極は、前記ポリイミドフィルムの表面の炭化層である請求項6に記載の湿度センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
運動することにより体温が上昇すると汗腺から汗が分泌される。このため、湿度センサを用いて皮膚の湿度をモニタリングすることにより運動時の発汗などを計測することができる。また、呼気の湿度を湿度センサで検出することにより、呼吸をモニタリングすることが可能である。皮膚の湿度や呼気の湿度をモニタリングするためには、湿度センサをウェアラブルデバイスとする必要がある。
また、高分子静電容量式の湿度センサが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、高分子静電容量式の湿度センサは静電容量を測定するためノイズに弱い。このため、感湿部分と信号処理部分との配線をシールドする必要があり、湿度センサが大型化する。従って、ウェアラブルデバイスには適していない。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、小型化可能であり90%RH以上の湿度下でも安定して測定可能な湿度センサを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、センシング部を備え、前記センシング部は、感湿層と、前記感湿層に電気的に接続した第1及び第2電極とを含み、前記感湿層は、Pdが担持されたニオブ酸を含むことを特徴とする湿度センサを提供する。
【発明の効果】
【0006】
前記センシング部は、感湿層と、感湿層に電気的に接続した第1及び第2電極とを含む。第1及び第2電極を利用して感湿層の電気抵抗を測定することができる。
前記感湿層は、Pdが担持されたニオブ酸を含む。このため、高湿度下においても湿度に応じて感湿層の電気抵抗が安定して変化する。このことは本願発明者等が行った実験により明らかになった。また、第1及び第2電極を用いて測定した感湿層の電気抵抗値から湿度を算出することができる。このため、本発明の湿度センサを用いると高湿度下においても精度よく湿度を測定することができる。
また、感湿層の電気抵抗値から湿度を算出するため、本発明の湿度センサはノイズの影響を受けにくい。このため、湿度センサを小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の一実施形態の湿度センサの概略平面図である。
【
図2】
図1の一点鎖線A-Aにおける湿度センサの概略断面図である。
【
図3】(a)~(d)は湿度センサの製造方法の説明図である。
【
図4】相対湿度を30%→90%→30%→90%と交互に変化させたときの感湿層の電気抵抗の変化を示すグラフである。
【
図5】相対湿度を30%→90%→30%→90%と交互に変化させたときの感湿層の電気抵抗の変化を示すグラフである。
【
図6】相対湿度を30%から90%まで変化させたときの感湿層の電気抵抗の変化を示すグラフである。
【
図7】相対湿度を30%から90%まで変化させたときの感湿層の電気抵抗の変化を示すグラフである。
【
図8】作製した湿度センサによる測定結果を市販の湿度センサによる測定結果と比較するグラフである。
【
図9】無担持HNb
3O
8の分散水のpH及びPd担持HNb
3O
8の分散水のpHの測定結果を示すグラフである。
【
図10】相対湿度の変化に伴う1wt%Pd HNb
3O
8湿度センサの感湿層の電気抵抗の変化を示すグラフである。
【
図11】温度の変化に伴う感湿層の電気抵抗の変化を示すグラフである。
【
図12】1wt%Pd HNb
3O
8湿度センサを変形させたときの感湿層の電気抵抗の変化を示すグラフである。
【
図13】相対湿度の変化に伴うLIG電極の電気抵抗の変化及び銀電極の電気抵抗の変化を示すグラフである。
【
図14】(a)はマスクに取り付けた湿度センサの写真であり、(b)は感湿層の電気抵抗の変化を示すグラフであり、(c)(d)は(b)のグラフの拡大図である。
【
図15】指先を湿度センサに15回近づけたときの感湿層の電気抵抗の変化を示すグラフである。
【
図16】(a)は作製した湿度センサの写真であり、(b)は指先に取り付けた状態の湿度センサの写真である。
【
図17】1wt%Pd HNb
3O
8湿度センサを指先に取り付けた状態の成人男性がランニングしたときの感湿層の電気抵抗の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の湿度センサは、センシング部を備え、前記センシング部は、感湿層と、前記感湿層に電気的に接続した第1及び第2電極とを含み、前記感湿層は、Pdが担持されたニオブ酸を含むことを特徴とする。
【0009】
前記ニオブ酸は、HNb3O8で表される化合物であることが好ましい。
前記ニオブ酸は、Nb5+とNb4+とを含むことが好ましい。
前記Pdが担持されたニオブ酸は、0.001wt%以上3wt%以下のPdが担持されたニオブ酸であることが好ましい。
前記ニオブ酸は、剥離したナノシートを含むことが好ましい。
【0010】
前記センシング部は、基材シート上に配置されていることが好ましい。
前記基材シートは、ポリイミドフィルムであることが好ましい。このことにより、湿度センサをフレキシブルセンサとすることができ、皮膚や衣類に取り付けることが可能になる。
第1及び第2電極は、前記ポリイミドフィルムの表面の炭化層であることが好ましい。このことにより、相対湿度が90%を超えても安定して湿度を測定することが可能になる。
【0011】
以下、図面を用いて本発明の一実施形態を説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。
【0012】
図1は本実施形態の湿度センサの概略平面図であり、
図2は
図1の一点鎖線A-Aにおける湿度センサの概略断面図である。
本実施形態の湿度センサ10はセンシング部1を備え、センシング部1は、感湿層2と、感湿層2に電気的に接続した第1電極3及び第2電極4とを含み、感湿層2は、Pdが担持されたニオブ酸を含むことを特徴とする。
本実施形態の湿度センサ10は基材シート5、防水通気フィルタ7又は制御部を備えてもよい。
【0013】
本実施形態の湿度センサ10は抵抗式湿度センサである。
センシング部1は、湿度を検出するための部分であり、感湿層2と、感湿層2に電気的に接続した第1電極3及び第2電極4とを含む。センシング部1は、基材シート5上に配置されてもよく、基板上に配置されてもよい。また、センシング部1は、第1電極3、感湿層2及び第2電極4がこの順で積層した積層構造を有してもよい。
【0014】
湿度センサ10は
図1に示した湿度センサ10のように1つのセンシング部1を有してもよく、複数のセンシング部1を有してもよい。湿度センサ10が複数のセンシング部1を有することにより湿度分布を計測することが可能になる。
【0015】
基材シート5は、フレキシブルシートとすることができる。このことにより、皮膚上や衣類、マスクなどに湿度センサ10を設置することができ、皮膚の湿度、呼気の湿度、発汗などを測定することができる。基材シート5は、例えばプラスチックフィルムとすることができる。基材シート5は、例えばポリイミドフィルムである。基材シート5の厚さは例えば1μm以上500μm以下とすることができる。
【0016】
第1電極3及び第2電極4は、感湿層2に電気的に接続した電極であり、感湿層2の電気抵抗を測定するための電極である。感湿層2の電気抵抗の測定方法は二端子法であってもよく、四端子法であってもよい。第1電極3及び第2電極4は、例えば、カーボン電極、グラフェン電極、銀電極、金電極、白金電極、銅電極、アルミニウム電極などである。第1電極3又は第2電極4の厚さは、例えば30nm以上300μm以下とすることができる。第1電極3と第2電極4との間の電極間距離は、例えば100nm以上5mm以下とすることができる。
【0017】
基材シート5がポリイミドフィルムである場合、第1電極3及び第2電極4は、ポリイミドフィルムの表面の炭化層(グラフェン電極)であってもよい。このことにより、多湿環境下においても感湿層2の電気抵抗を安定して測定することができる。また、湿度により第1電極3及び第2電極4の導電性が変化することを抑制することができる。炭化層は、例えば、ポリイミドフィルムにレーザー光を照射することにより形成することができる。炭化層はレーザー誘起グラフェン(LIG)層であってもよい。LIG層の形成に用いるレーザーは、例えば、CO2レーザー、ファイバーレーザー、YAGレーザー、YVO4レーザーなどである。また、レーザー出力、走査速度などを調節することにより、LIG層の厚み及びLIG層の下部に残すポリイミドフィルムの厚みを調節することができる。また、ポリイミドフィルム上に形成したLIG層を基材シート5に転写することにより第1電極3及び第2電極4を形成してもよい。
また、第1電極3及び第2電極4が金属層又はカーボン層である場合、第1電極3及び第2電極4は印刷法、蒸着法などで形成することができる。
【0018】
感湿層2は、湿度に応じて電気抵抗が変化する層であり、Pd(パラジウム)が担持されたニオブ酸を含む。感湿層2は多孔質構造を有してもよい。また、感湿層2の厚さは、例えば30nm以上100μm以下とすることができ、好ましくは1μm以上20μm以下とすることができる。また、感湿層2は、例えば塗布法、印刷法などで形成することができる。
【0019】
感湿層2に含まれるニオブ酸は、例えば、HNb3O8、HNbO3、H4Nb6O17、H4Nb2O7などである。また、感湿層2に含まれるニオブ酸は層状化合物であってもよい。また、感湿層2に含まれるニオブ酸は、層状化合物であるニオブ酸を剥離することにより形成されたニオブ酸ナノシートであってもよい。また、感湿層2に含まれるニオブ酸は、紫外線照射処理を施したものであってもよい。ニオブ酸は、H(水素)と、Nb(ニオブ)とO(酸素)からなる化合物であってもよい。
感湿層2に含まれるニオブ酸は、好ましくは、HNb3O8ナノシートである。また、感湿層2に含まれるニオブ酸は、紫外線照射処理を施したHNb3O8ナノシートであることがさらに好ましい。HNb3O8含まれるNbの原子価は、基本的には+5価であるが、紫外線照射処理を施すことにより、HNb3O8中にNb4+が生成される。従って、紫外線照射処理を施したHNb3O8ナノシートは、Nb5+とNb4+を含む。
【0020】
感湿層2に含まれるニオブ酸の表面にはPdが担持されている。例えば、光析出法、含浸水素還元法などによりPdをニオブ酸の表面に担持することができる。
感湿層2に含まれるニオブ酸は、0.001wt%以上3wt%以下のPdが担持されたニオブ酸であってもよく、0.1wt%以上3wt%以下のPdが担持されたニオブ酸であってもよく、0.5wt%以上3wt%以下のPdが担持されたニオブ酸であってもよい。
【0021】
感湿層2は、防水通気フィルタで覆われていてもよい。感湿層2を防水通気フィルタで覆うことにより、外部の水(例えば、汗、尿などの体液)が直接感湿層2に接触することを防止することができる。また、防水通気フィルタの通気孔を介して水蒸気などを感湿層2に供給することができる。
【0022】
第1電極3及び第2電極4は、配線、無線などを介して制御部と接続することができる。制御部は、例えば、コンピュータ、マイクロコントローラ、電子基板、スマートフォンなどである。また、制御部は演算部、記憶部、表示部などを含むことができる。また、制御部は、感湿層2の電気抵抗を測定するために用いる電源部を含むことができる。制御部は、例えば、感湿層2の電気抵抗値を測定し、測定された電気抵抗値から湿度を算出し、算出した湿度を記憶部に記憶してもよい。また、制御部は算出した湿度を表示部に表示させてもよい。また、制御部は測定した感湿部2の電気抵抗値などを無線送信し、湿度の算出などは無線を受信した装置(例えば、スマートフォン)で行ってもよい。
【0023】
図3(a)~(d)は、本実施形態の湿度センサ10の製造方法の説明図である。
図3(a)のような基材シート5を準備し、
図3(b)のように第1電極3及び第2電極4の櫛型電極を形成する。基材シート5がポリイミドフィルムであり、第1電極3及び第2電極4がグラフェン層である場合、ポリイミドフィルムにレーザー光を照射することにより第1電極3及び第2電極4を形成することができる。また、基材シート5がポリイミドフィルムでない場合、ポリイミドフィルムにレーザー光を照射することにより形成したグラフェン層を基材シート5に転写することにより第1電極3及び第2電極4を形成してもよい。
【0024】
次に、第1電極3及び第2電極4からなる櫛型電極上に、Pd担持ニオブ酸を含むペーストを塗布し、乾燥させることにより感湿層2を形成する。なお、感湿層2の厚さが薄いため、
図3には感湿層2を示していない。その後、
図3(c)のように、第1電極3及び第2電極4と制御部とを接続するための配線6を形成する。例えば、基材シート5上に銀配線を形成する。そして、感湿層2の上に防水通気フィルタ7を取り付ける。
このようにして、湿度センサ10を作製することができる。
【0025】
湿度センサの作製
酸化ニオブ(Nb2O5)と炭酸カリウム(K2CO3)とを化学量論比で混合した混合粉末を900℃で焼成することによりKNb3O8(層状化合物)を合成した。得られたKNb3O8を6mol・L-1の硝酸溶液(HNO3)に加え、6日間攪拌した。このことによりK+(カリウムイオン)とH+(水素イオン)とがイオン交換しKNb3O8はHNb3O8(層状化合物)となる。得られたHNb3O8をテトラブチルアンモニウムカチオン(TBAOH)を用いてインターカレーションを行うことによりHNb3O8の層構造を剥離させナノシート状のHNb3O8を得た。
【0026】
ナノシート状のHNb3O8を蒸留水とエタノールの混合溶液(混合比1:1)に分散させ、この分散液に30分間紫外線(波長:365nm)を照射した。このことによりHNb3O8に含まれるNb5+の一部がNb4+へと変化する。その後、この分散液に10mg・mL-1 Na2PdCl4水溶液を加え、1時間紫外線照射を行うことによりナノシート状のHNb3O8にPdが担持され、Pd担持HNb3O8ナノシートが得られた。Pdの担持量は、1wt%、2wt%又は3wt%とした。また、ナノシート状のHNb3O8にAuを担持したAu担持HNb3O8ナノシート、ナノシート状のHNb3O8にAgを担持したAg担持HNb3O8ナノシートも合成した。
【0027】
CO
2レーザーシステム(VLS2.30, UNIVERSAL Laser System)を用いて、準備したポリイミドフィルム(厚さ:50μm)にCO
2レーザーを照射し(波長:10.6μm、パワー:2W)、ポリイミドフィルムの切断及びレーザー誘起グラフェン層(LIG層)の形成を行った。LIG層は、
図1~
図3のように第1電極と第2電極とが対向する櫛型電極となるように形成した。
次に、Pd担持HNb
3O
8ナノシート水溶液(5mg・mL
-1)をLIG層の櫛型電極上に塗布し、100℃で乾燥させることにより感湿層を形成した。そして、感湿層の電気抵抗を測定できるようにLIG層の端子部分に接続する銀配線を形成した。
このようにして湿度センサを形成した。また、感湿層がAu担持HNb
3O
8ナノシート層である湿度センサ及び感湿層がAg担持HNb
3O
8ナノシート層である湿度センサも作製した。
【0028】
感湿層の電気抵抗の測定
温度及び湿度が制御可能な環境試験機(Espec, SH-222)中に、無担持HNb
3O
8湿度センサ(感湿層がHNb
3O
8ナノシート層(無担持))、1wt%Pd HNb
3O
8湿度センサ(感湿層が1wt%Pd担持HNb
3O
8ナノシート層)、2wt%Pd HNb
3O
8湿度センサ(感湿層が2wt%Pd担持HNb
3O
8ナノシート層)、3wt%Pd HNb
3O
8湿度センサ(感湿層が3wt%Pd担持HNb
3O
8ナノシート層)、1wt%Au HNb
3O
8湿度センサ(感湿層が1wt%Au担持HNb
3O
8ナノシート層)、1wt%Ag HNb
3O
8湿度センサ(感湿層が1wt%Ag担持HNb
3O
8ナノシート層)を設置し、感湿層の電気抵抗を測定した。
図4、5は、環境試験機の相対湿度を30%→90%→30%→90%と交互に繰り返し変化させたとき(温度は25℃一定)の測定結果である(サイクルテスト)。また、
図6、7は、環境試験機の相対湿度を30%から90%まで変化させたときの測定結果である。また、
図8は、感湿層の電気抵抗から相対湿度を算出し、市販の湿度センサの測定値と比較したグラフである。
図4~
図7のグラフの縦軸は、抵抗変化率ΔR/R
0×100(R
0:測定開始時(湿度約30%)における感湿層の電気抵抗値、ΔR=R-R
0、R:横軸に対応する感湿層の電気抵抗値)で示している。他のグラフでも同様である。
【0029】
無担持HNb
3O
8湿度センサの感湿層は、相対湿度が30%から90%に変化すると、
図4、
図6のグラフのように、約40%という大きな抵抗変化を示した。これは、弱酸性のHNb
3O
8ナノシートは水分子に高い親和性を有するためと考えられ、さらに、湿度が高い環境における感湿層において、物理吸着した水分子におけるプロトンホッピングが生じるためと考えられる。
しかし、無担持HNb
3O
8湿度センサでは、湿度サイクルを繰り返すと、感湿層の抵抗変化率が減少し抵抗変化が不安定となった。従って、無担持HNb
3O
8湿度センサは、再現性及び安定性に乏しいことがわかった。
【0030】
1wt%Pd HNb
3O
8湿度センサの感湿層は、相対湿度が30%から90%に変化すると、
図4、
図6のグラフのように、約15%の抵抗変化を示し、湿度サイクルの繰り返しでも安定性のよい抵抗変化を示した。また、相対湿度が90%付近においても感湿層は、湿度変化に対して抵抗変化を示し、湿度測定が可能であることがわかった。
1wt%Pd HNb
3O
8湿度センサの感湿層の抵抗変化から算出した湿度変化は、
図8のグラフのように、市販の湿度センサにより測定される湿度変化とほぼ同じになった。
2wt%Pd HNb
3O
8湿度センサの感湿層、3wt%Pd HNb
3O
8湿度センサの感湿層も、湿度サイクルの繰り返しにおいて安定性のよい抵抗変化を示したが、抵抗変化率は1wt%Pd HNb
3O
8湿度センサに比べ減少した。
1wt%Au HNb
3O
8湿度センサの感湿層及び1wt%Ag HNb
3O
8湿度センサの感湿層は、
図5、
図7のグラフのように、相対湿度を変化させても、安定した抵抗変化を示さなかった。
【0031】
Pd担持HNb
3O
8を感湿層として有する湿度センサが、安定した感湿特性を有する理由は明らかではないが、物理吸着した水分子におけるプロトンホッピングがPdにより調整されるためと考えられる。
図9は、無担持HNb
3O
8の分散水のpH又はPd担持HNb
3O
8の分散水のpHを測定した結果を示すグラフである。無担持HNb
3O
8分散水のpHは約3.3であった。これは、無担持HNb
3O
8ナノシートを水中に分散させると多くのプロトンが電離するためと考えられる。一方、Pd担持HNb
3O
8分散水のpHはPd担持量が増えるとpHも大きくなった。これは、Pd担持HNb
3O
8ナノシートを水中に分散させると、無担持HNb
3O
8分散水に比べ、電離するプロトンの量が減少するためと考えられる。このような電離するプロトンの量の減少が湿度センサの感湿特性の安定化に寄与していることが考えられる。
【0032】
図10は、環境試験機中に1wt%Pd HNb
3O
8湿度センサを設置し、相対湿度を30%→43.1%→30%→53.9%→30%→64.1%→30%→73.7%→30%→83.8%→30%→92.2%→30%→99.9%→30%と変化させたときの感湿層の電気抵抗の変化を示すグラフである。
図10のグラフのように、感湿層の電気抵抗は、相対湿度に応じて変化した。従って、1wt%Pd HNb
3O
8湿度センサにより相対湿度を安定して検出でき、相対湿度が90%以上であっても、感度よく湿度を測定することができることがわかった。
【0033】
図11は、環境試験機中に1wt%Pd HNb
3O
8湿度センサを設置し、温度を10℃→20℃→30℃→40℃→50℃→40℃→30℃→20℃→10℃と変化させたときの感湿層の電気抵抗の変化を示すグラフである。この測定では、湿度をブロックするフィルムを湿度センサ上に貼付することにより温度変化に伴う湿度変化を抑制している。
図11のグラフのように、感湿層の電気抵抗は、温度が変化してもほとんど変化しなかった。従って、1wt%Pd HNb
3O
8湿度センサでは、湿度測定において温度変化を無視できることがわかった。
【0034】
図12は、曲げ半径が0.8cm→1.7cm→3cm→4.3cm→7cm→フラットとなるように1wt%Pd HNb
3O
8湿度センサを変形させたときの感湿層の電気抵抗の変化を示すグラフである。
図12のグラフのように、感湿層の電気抵抗は、曲げ半径が変化してもほとんど変化しなかった。従って、1wt%Pd HNb
3O
8湿度センサでは、湿度測定において変形を無視できることがわかった。
【0035】
LIG層の電気抵抗測定
抵抗式湿度センサでは、感湿層に接続する第1及び第2電極が湿度に関わらず安定した導電特性を有する必要がある。そこで、LIG電極(LIG層)が形成されたポリイミドフィルム及び銀電極が形成されたポリイミドフィルムを環境試験器中に設置し、相対湿度を30%→90%→30%と変化させたときのLIG電極の電気抵抗及び銀電極の電気抵抗を測定した。測定結果を
図13に示す。LIG電極の電気抵抗は相対湿度が変化してもほとんど変化しなかった。一方、銀電極の電気抵抗は不安定な変化を示した。従って、抵抗式湿度センサの電極にLIG電極を用いることにより、湿度測定において電極の電気抵抗の変化を無視できることがわかった。
【0036】
湿度センサを用いた生体計測
1wt%Pd HNb
3O
8湿度センサをフィルタリングフェイスマスクに取り付け、呼吸に伴う湿度変化を測定し呼吸をモニタリングした。測定中においてマスクの装着・取り外しを3回行った。なお、マスクに取り付けることができる大きさの1wt%Pd HNb
3O
8湿度センサを作製し用いた。
図14(a)は、マスクに取り付けた湿度センサの写真であり、
図14(b)は感湿層の電気抵抗の変化を示すグラフであり、
図14(c)(d)は
図14(b)のグラフの拡大図である。
マスクを装着していない状態での感湿層の電気抵抗値は7MΩ~7.5MΩであり、マスクを装着した状態での感湿層の電気抵抗値は、2.6MΩ~4.8MΩとなり、呼吸に伴い上下動した。従って、1wt%Pd HNb
3O
8湿度センサを用いて呼吸をモニタリングすることができることが確認された。
【0037】
1wt%Pd HNb
3O
8湿度センサを用いて指先から蒸散する水分を測定した。
図15は、指先を湿度センサに15回近づけたときの感湿層の電気抵抗の変化を示すグラフである。最初の5回は湿度センサと指先との間隔を5mmとし、次の5回は湿度センサと指先との間隔を2.5mmとし、最後の5回は湿度センサと指先との間隔を1mmとした。
図15のように、指先を湿度センサに近づけると感湿層の電気抵抗の低下が測定された。また、間隔を小さくするほど電気抵抗は大きく低下した。従って、1wt%Pd HNb
3O
8湿度センサを用いて皮膚との距離をモニタリングすることができることが確認できた。
【0038】
次に、指先に取り付けることができる大きさの1wt%Pd HNb
3O
8湿度センサを作製した。このセンサでは、感湿層上に防水通気フィルタ(日東電工株式会社製TEMISH(登録商標))を取り付け、指先の汗が直接感湿層に接触することを防止し、湿気だけが感湿層に供給されるようにした。
図16(a)は作製した湿度センサ(防水通気フィルタ取り付け前)の写真であり、
図16(b)は指先に取り付けた状態の湿度センサの写真である。また、感湿層の電気抵抗の測定結果を無線通信を介してスマートフォンに出力できるようにした。
【0039】
この1wt%Pd HNb
3O
8湿度センサを指先に取り付けた状態の成人男性が8km/hの速度でランニングしたときの感湿層の電気抵抗を測定した。測定結果を
図17に示す。
測定では、測定開始から約2分後に1wt%Pd HNb
3O
8湿度センサと指先との間に配置していたプラスチックシートを取り外し防水通気フィルタを指先に接触させ、約4分20秒後にランニングを開始した。そして測定開始から約9分20秒後にランニングを終了し、その後休息した。なお、測定開始前に成人男性は十分な水分を摂取している。
プラスチックシートを取り外すと、感湿層の電気抵抗は約7.5MΩから約3MΩに低下した。そしてランニングを始めると、感湿層の電気抵抗は約2.5MΩに低下した。これは、運動により指先からの水分の蒸散量が増加したためと考えられる。成人男性が発汗すると、感湿層の電気抵抗は徐々に低下し、約2.1MΩとなった。これは指先からの汗の影響により感湿層の湿度が極度に高くなったためと考えられる。
従って、1wt%Pd HNb
3O
8湿度センサを用いて運動や発汗をモニタリングすることができることが確認できた。
【符号の説明】
【0040】
1:センシング部 2:感湿層 3:第1電極 4:第2電極 5:基材シート 6:配線 7:防水通気フィルタ 10:湿度センサ