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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】エッチング方法及びプラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20240806BHJP
【FI】
H01L21/302 105A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020138923
(22)【出願日】2020-08-19
(65)【公開番号】P2022034956
(43)【公開日】2022-03-04
【審査請求日】2023-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】後平 拓
(72)【発明者】
【氏名】中谷 理子
【審査官】小▲高▼ 孔頌
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-153941(JP,A)
【文献】国際公開第2020/090451(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0365487(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0235862(US,A1)
【文献】国際公開第2019/181606(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地膜と、前記下地膜の上の第1の膜及び第2の膜が交互に積層された積層膜と、前記積層膜の上のマスクとを有する基板に対して、プラズマによって前記マスクを通じて前記積層膜に凹部を形成するエッチング方法であって、
前記基板を準備する工程と、
基板温度を15℃以下に維持し、水素とフッ素と炭素を含有するガスのプラズマを生成する工程と、
前記プラズマ中のHラジカルと、Fラジカル又はCFラジカルとによりフッ化水素を生成する工程と、
前記フッ化水素によって、前記積層膜の前記凹部が前記下地膜に到達するまでエッチングする工程と、
を有
前記ガスに含まれる、水素とフッ素と炭素の総和に対する水素の比率は、
0.02~0.06である、
エッチング方法。
【請求項2】
前記ガスに含まれる、水素とフッ素と炭素の総和に対するフッ素の比率は、
0.63~0.65である、
請求項1に記載のエッチング方法。
【請求項3】
前記ガスは、
フロロカーボンガス(CF系)、およびハイドロフロロカーボンガス(CHF系)のうち、少なくとも一方を含み、
ハイドロフロロカーボンガス(CHF系)、ハイドロカーボンガス(CH系)、および水素含有ガスのうち、少なくとも1つを含み、
前記水素含有ガスは、水素ガス又はハロゲン化水素である、
請求項1又は請求項2に記載のエッチング方法。
【請求項4】
前記下地膜に到達するまでエッチングする工程の前に、前記積層膜の前記凹部を所定の深さまでエッチングする工程を更に有する、
請求項1~のいずれか一項に記載のエッチング方法。
【請求項5】
前記凹部の所定の深さは、アスペクト比で40以上である、
請求項1~のいずれか一項に記載のエッチング方法。
【請求項6】
前記凹部を所定の深さまでエッチングする工程における基板温度は、15℃以下であって、前記下地膜に到達するまでエッチングする工程における基板温度の条件と同じである、
請求項1~のいずれか一項に記載のエッチング方法。
【請求項7】
前記ガスは、更にフッ素を除くハロゲン含有ガスを含む、
請求項1~のいずれか一項に記載のエッチング方法。
【請求項8】
前記第1の膜は酸化シリコン膜であり、前記第2の膜は窒化シリコン膜である、
請求項1~のいずれか一項に記載のエッチング方法。
【請求項9】
前記下地膜は、ポリシリコン、アモルファスシリコン又は単結晶シリコンのいずれかである、
請求項1~のいずれか一項に記載のエッチング方法。
【請求項10】
下地膜と、前記下地膜の上の第1の膜及び第2の膜が交互に積層された積層膜と、前記積層膜の上のマスクとを有する基板に対して、プラズマによって前記マスクを通じて前記積層膜に凹部を形成するエッチングを制御する制御部を有するプラズマ処理装置であって、
前記制御部は、
前記基板を準備する工程と、
基板温度を15℃以下に維持し、水素とフッ素と炭素を含有するガスのプラズマを生成し、前記プラズマ中のHラジカルと、Fラジカル又はCFラジカルとにより生成するフッ化水素によって、前記積層膜の前記凹部が前記下地膜に到達するまでエッチングする工程と、を制御
前記ガスに含まれる、水素とフッ素と炭素の総和に対する水素の比率は、
0.02~0.06である、
プラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エッチング方法及びプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1は、-30℃以下の低温環境下において生成されたプラズマにより酸化シリコン膜及び窒化シリコン膜の積層膜をエッチングすることを提案する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-207840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、低温環境下で酸化シリコン膜及び窒化シリコン膜の積層膜の下地膜を露出させるエッチングにおいて、積層膜のエッチングレートを維持しつつ下地膜に対する選択比を確保することができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一の態様によれば、下地膜と、前記下地膜の上の第1の膜及び第2の膜が交互に積層された積層膜と、前記積層膜の上のマスクとを有する基板に対して、プラズマによって前記マスクを通じて前記積層膜に凹部を形成するエッチング方法であって、前記基板を準備する工程と、基板温度を15℃以下に維持し、水素とフッ素と炭素を含有するガスのプラズマによって、前記積層膜の前記凹部が前記下地膜に到達するまでエッチングする工程と、を有する、エッチング方法が提供される。
【発明の効果】
【0006】
一の側面によれば、低温環境下で酸化シリコン膜及び窒化シリコン膜の積層膜の下地膜を露出させるエッチングにおいて、積層膜のエッチングレートを維持しつつ下地膜に対する選択比を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】一実施形態に係るプラズマ処理装置の一例を示す断面模式図である。
図2】一実施形態に係るエッチング方法の一例を示す図である。
図3】一実施形態に係るエッチング対象の膜構造の一例を示す図である。
図4】従来のオーバーエッチングにおける基板温度と選択比の関係の一例を示す図である。
図5】一実施形態に係るエッチング方法にCHガスを用いた場合の選択比等の一例を示す図である。
図6】一実施形態に係るエッチング方法に用いるガス中のH又はFの比率とエッチングレート及び選択比の関係の一例を示す図である。
図7】低温環境下でない場合のガス中のHの比率とエッチングレートの関係を示す図である。
図8】一実施形態に係るエッチング方法に用いるガス中のHの比率とエッチングレートの関係の一例を示す図である。
図9】基板温度とC、Hの穴底到達量との関係の一例を示す図である。
図10】一実施形態に係るエッチング方法に用いるガスにSiClガスを添加したときのボトムCDの一例を示す図である。
図11】一実施形態に係るエッチング方法に用いるガスに各種ガスを添加したときのボトムCDの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本開示を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0009】
[プラズマ処理装置]
一実施形態に係るプラズマ処理装置1について、図1を用いて説明する。図1は、一実施形態に係るプラズマ処理装置1の一例を示す断面模式図である。一実施形態に係るプラズマ処理装置1は、処理容器10内に載置台11とシャワーヘッド20とを対向配置した平行平板型のプラズマ処理装置である。
【0010】
載置台11は、ウエハを一例とする基板Wを保持する機能を有するとともに下部電極として機能する。シャワーヘッド20は、ガスを処理容器10内にシャワー状に供給する機能を有するとともに上部電極として機能する。
【0011】
処理容器10は、例えば表面がアルマイト処理(陽極酸化処理)されたアルミニウムからなり、円筒形である。処理容器10は、電気的に接地されている。載置台11は、処理容器10の底部に設置され、基板Wを載置する。
【0012】
載置台11は、たとえばアルミニウム(Al)やチタン(Ti)、炭化ケイ素(SiC)等から形成されている。載置台11は、静電チャック12及び基台13を有する。静電チャック12は、基台13の上に設けられる。静電チャック12は、絶縁体12bの間にチャック電極12aを挟み込んだ構造になっている。チャック電極12aには電源14が接続されている。静電チャック12は、電源14からチャック電極12aに電圧が印加されることで発生するクーロン力によって基板Wを静電チャック12に吸着する。
【0013】
基台13は、静電チャック12を支持する。基台13の内部には、冷媒流路13aが形成されている。冷媒流路13aには、冷媒入口配管13b及び冷媒出口配管13cが連結されている。チラーユニット15からは所定温度の冷却媒体(温度制御媒体)が出力され、冷却媒体は、冷媒入口配管13b、冷媒流路13a及び冷媒出口配管13cを循環する。これにより、載置台11が冷却(温調)され、基板Wが所定温度に制御される。
【0014】
伝熱ガス供給源17は、ヘリウムガス等の伝熱ガスをガス供給ライン16に通して静電チャック12の表面と基板Wの裏面との間に供給する。これにより、静電チャック12と基板Wとの間の伝熱効率を高め、基板Wの温度制御性を高める。
【0015】
載置台11には、第1周波数の、プラズマ励起用の第1高周波電力(HFパワー)を供給する第1高周波電源30が第1整合器30aを介して電気的に接続されている。また、載置台11には、第1周波数よりも低い第2周波数の、バイアス電圧用の第2高周波電力(LFパワー)を供給する第2高周波電源31が第2整合器31aを介して電気的に接続されている。第1高周波電源30は、例えば、40MHzの第1高周波電力を載置台11に印加する。第2高周波電源31は、例えば、400kHzの第2高周波電力を載置台11に印加する。なお、第1高周波電源30は、第1高周波電力をシャワーヘッド20に印加してもよい。
【0016】
第1整合器30aは、第1高周波電源30の出力(内部)インピーダンスに載置台11側の負荷インピーダンスを整合させる。第2整合器31aは、第2高周波電源31の出力(内部)インピーダンスに載置台11側の負荷インピーダンスを整合させる。
【0017】
シャワーヘッド20は、周縁部を被覆する絶縁体のシールドリング22を介して処理容器10の天井部の開口を閉塞する。シャワーヘッド20には、ガスを導入するガス導入口21が形成されている。シャワーヘッド20の内部にはガス導入口21に繋がる拡散室23が設けられている。ガス供給源25から出力されたガスは、ガス導入口21を介して拡散室23に供給され、多数のガス供給孔24から処理容器10の内部に導入される。
【0018】
処理容器10の底面には排気口18が形成されており、排気口18には排気装置19が接続されている。排気装置19は、処理容器10内を排気し、これにより、処理容器10内が所定の真空度に制御される。処理容器10の側壁には搬送口26を開閉するゲートバルブ27が設けられている。ゲートバルブ27の開閉に応じて搬送口26から処理容器10内に基板Wを搬入したり、処理容器10外へ基板Wを搬出したりする。
【0019】
プラズマ処理装置1には、装置全体の動作を制御する制御部40が設けられている。制御部40は、CPU41、ROM42及びRAM43を有する。CPU41は、ROM42及びRAM43の記憶領域に格納された各種レシピに従って基板Wのエッチング工程を実行する。レシピにはプロセス条件に対する装置の制御情報であるプロセス時間、圧力(ガスの排気)、高周波電力や電圧、各種ガス流量、基板の温度(静電チャック12の温度等)、チラーユニット15から供給される冷却媒体の温度等が記載されている。なお、これらのプログラムや処理条件を示すレシピは、ハードディスクや半導体メモリに記憶されてもよい。また、レシピは、CD-ROM、DVD等の可搬性のコンピュータにより読み取り可能な記憶媒体に収容された状態で記憶領域の所定位置にセットするようにしてもよい。
【0020】
基板処理が行われる際には、ゲートバルブ27の開閉が制御され、搬送アームに保持された基板Wが搬送口26から処理容器10内に搬入され、載置台11に載置され、静電チャック12に吸着される。
【0021】
次いで、ガスがシャワーヘッド20から処理容器10内に供給され、第1高周波電力が載置台11に印加され、プラズマが生成される。生成されたプラズマにより基板Wにエッチング処理が施される。第1高周波電力とともに第2高周波電力が載置台11に印加されてもよい。
【0022】
処理後、除電処理により基板Wの電荷が除電され、基板Wが静電チャック12から剥がされ、搬出される。
【0023】
基板温度(例えばウエハ温度)は、チラーユニット15によって所定の温度に調整された静電チャック12の温度が、静電チャック12の表面および伝熱ガスを介して基板Wに伝熱されることにより調整される。しかしながら、基板Wはプラズマ励起用の第1高周波電力によって生成されるプラズマに曝され、プラズマからの光やバイアス電圧用の第2高周波電力によって引き込まれたイオンが基板Wに照射される。このため、基板Wの温度、特に基板Wのプラズマに面した表面温度は、調整された静電チャック12の温度より高くなる。また、温度調整された対向電極や処理容器10の側壁からの輻射熱によっても、基板温度が上昇する場合があるため、エッチング処理中の実際の基板Wの温度を測定することができる。プロセス条件から静電チャック12の調整温度と実際の基板Wの表面温度の温度差が推測可能に構成されている場合、予め定められた温度範囲で基板Wの温度を調整するために静電チャック12の調整温度の設定を下げてもよい。
【0024】
[エッチング方法]
本実施形態に係るエッチング方法では、基板温度を15℃以下に維持し、エッチング対象膜をエッチングする。基板温度を15℃以下に維持し、エッチングを行うことを「低温エッチング」という。また、以下で記載する基板温度は、「基板Wの表面温度」をいう。
【0025】
本実施形態に係るエッチング方法について、図2及び図3を参照して説明する。図2は、一実施形態に係るエッチング方法の一例を示す図である。図3は、一実施形態に係るエッチング対象の膜構造の一例を示す図である。
【0026】
図2に示すように、本実施形態に係るエッチング方法は、プラズマ処理装置1が生成したプラズマによりエッチング対象膜を所定の深さまでエッチングする(ステップS1)。ステップS1のエッチングをメインエッチングともいう。次に、プラズマによりエッチング対象膜の下地膜が露出するまでエッチング対象膜をエッチングし(ステップS2)、本処理を終了する。ステップS2のエッチングをオーバーエッチングともいう。
【0027】
図3(a)は、エッチング対象の膜構造の一例を示す。図3(a)に示すように、エッチング対象膜は、酸化シリコン膜及び窒化シリコン膜が交互に積層された積層膜101である。酸化シリコン膜は第1の膜の一例であり、窒化シリコン膜は第2の膜の一例である。
【0028】
積層膜101の下には下地膜100を有し、積層膜101の上にはマスク102を有する。下地膜100は、ポリシリコンで形成されている。ただし、下地膜100は、ポリシリコンに限らず、アモルファスシリコン又は単結晶シリコンから形成されてもよい。マスク102は、有機材料であり、穴hを有する。プラズマ処理装置1に供給されたガスのプラズマによってマスク102の穴hを通じて積層膜101に凹部が形成される。積層膜101に形成された凹部は、穴状に限られず、ライン状であってもよい。
【0029】
ステップS1のメインエッチングでは、図3(b)に示すように、積層膜101がエッチングされ、積層膜101に凹部が形成され、下地膜100が露出する前にエッチングを終了する。ステップS2のオーバーエッチングでは、図3(c)に示すように、積層膜101が更にエッチングされ、下地膜100が露出するまでエッチングが行われる。
【0030】
メインエッチングは、オーバーエッチングの前に、積層膜101の凹部(例えばホールh)が所定の深さになるまでエッチングする。凹部の所定の深さは、アスペクト比で40以上であってもよい。
【0031】
従来のメインエッチングの一例では、例えば基板温度を0℃以下にして積層膜101に対して低温エッチングを行う。低温エッチングでは、積層膜101のエッチングレートが高くなる。加えて、メインエッチングでは、マスク102に対する選択比も高い。
【0032】
しかし、オーバーエッチングで低温エッチングを行った場合、下地膜100に対する選択比が十分でない。低温エッチングで下地膜100が露出する手前までメインエッチングを行った後、引き続き低温エッチングでオーバーエッチングを行い、下地膜100のリセス量の時間変化を測定した。その結果、低温エッチングでは、下地膜100が露出してもエッチストップができず、下地膜100のリセス量が多くなった。
【0033】
そこで、従来のオーバーエッチングの他の例として、例えば基板温度を80℃程度に高めてからエッチングを行う。図4は、従来のオーバーエッチングにおける基板温度と選択比の関係の一例を示す図である。図4に示す実験結果を得るためのオーバーエッチングのプロセス条件を以下に示す。
<従来のオーバーエッチングのプロセス条件>
ガス種 C/C/CH/O
基板温度 160℃、130℃
【0034】
図4では、横軸にオーバーエッチングの時間を示し、縦軸に下地膜100であるポリシリコン(Si)のリセスを示す。下地膜100のリセス量は、図3(c)に示すように、オーバーエッチング時に削られた下地膜100の凹部の深さを示す。下地膜100に対する積層膜101の選択比が十分であると下地膜100のリセス量は少なく、好ましい。
【0035】
図4に示す実験結果では、基板温度を160℃に制御した場合、下地膜100のシリコンのエッチングレートは、2.7nm/minであった。一方、基板温度を130℃に制御した場合、240秒時点の下地膜100のリセスは、基板温度を160℃に制御した場合と比較して悪化し、下地膜100のシリコンのエッチングレートは、少なくとも28nm/min以上となった。つまり、基板温度を130℃に制御した場合、下地膜100に対する選択比が下がり、下地膜100のリセス量が増えた。
【0036】
オーバーエッチングにおける下地膜100に対する選択比の課題から、メインエッチングは低温エッチングを行い、マスク102に対する選択比と高いエッチングレートを確保しつつ、オーバーエッチングは基板温度をメインエッチング時の温度以上に制御してエッチングを行い、下地膜100に対する選択比を確保することが行われていた。しかし、係るエッチング方法では、メインエッチングとオーバーエッチングとで基板温度を変える必要があり、温度制御に時間がかかり、スループットが悪化するという課題がある。または、メインエッチングを行うプラズマ処理装置1とは別に、オーバーエッチングを行うために基板温度をメインエッチング時の温度以上に制御している(図示しない)プラズマ処理装置1'を用意し、メインエッチング後、基板をプラズマ処理装置1'に搬送してオーバーエッチングを行うことが可能であるが、同様にスループットが悪化するという課題がある。
【0037】
そこで、以下に説明する本実施形態に係るエッチング方法では、メインエッチングは基板温度を15℃以下に制御して低温エッチングを行い、オーバーエッチングもメインエッチングと同じ温度に基板温度を制御して低温エッチングを行う。その際、オーバーエッチングにおいても下地膜100に対する選択比を確保するようにプロセス条件を最適化し、オーバーエッチングにおいても選択比と高いエッチングレートを確保する。
【0038】
[プロセス条件]
本実施形態のオーバーエッチングのプロセス条件は以下である。
<本実施形態のオーバーエッチングのプロセス条件>
処理容器内の圧力:10mT(1.333Pa)
ガス CH/C/O
基板温度 15℃
【0039】
図5は、一実施形態に係るエッチング方法においてCHガスとCガスとの割合に対する積層膜101のエッチングレート、下地膜100のエッチングレート、選択比の一例を示す図である。図5(a)~(c)の横軸はCHガスとCガスの総和に対するCHガスの割合を示す。図5(a)の縦軸は、積層膜101のエッチングレート(E/R)を示す。図5等では積層膜101は「ON」で示される。図5(b)の縦軸は、下地膜100(Si)のエッチングレート(E/R)を示す。図5(c)の縦軸は、下地膜100に対する積層膜101の選択比(Sel.)を示す。なお、各エッチング条件による積層膜101のエッチングにおいて、マスク102に保護膜が形成するが、マスク102の穴hが閉塞しない程度に、各エッチング条件においてOガスの割合は調整される。
【0040】
図5(a)に示す積層膜101のエッチングレートは高い方が好ましい。図5(a)の実験結果では、CHガスの割合が12.5%以上であればよいことがわかった。
【0041】
図5(b)に示す下地膜100のエッチングレートは低い方が好ましい。図5(b)の実験結果では、CHガスの割合が30.0%以下であればよいことがわかった。図5(a)及び(b)の結果から、CHガスの割合が12.5~30.0%の範囲であることが好ましいことが分かった。
【0042】
図5(c)に示すように、CHガスの割合が12.5~30.0%の範囲であれば、下地膜100に対して高い選択比が得られた。以上から、CHガスの割合が12.5~30.0%の範囲であれば、オーバーエッチングにおいて高選択比を得ることができることが分かった。
【0043】
次に、一実施形態に係るエッチング方法に用いるガス中のH又はFの比率とエッチングレート及び選択比の関係について、図6を参照しながら説明する。図6は、一実施形態に係るエッチング方法に用いるガス中のH又はFの比率とエッチングレート及び選択比の関係の一例を示す図であり、図5(a)~(c)の実験結果からグラフの横軸をガス中のH又はFの比率に換算したものである。
【0044】
これにより、オーバーエッチングに使用されるガスに含まれる水素(H)とフッ素(F)と炭素(C)の総和に対する水素(H)の比率と、選択比及びエッチングレートとの関係について、図6(a)及び(b)の結果を得た。また、オーバーエッチングに使用されるガスに含まれる水素(H)とフッ素(F)と炭素(C)の総和に対するフッ素(F)の比率と、選択比及びエッチングレートとの関係について、図6(c)及び(d)の結果を得た。
【0045】
なお、水素(H)、フッ素(F)および炭素(C)のそれぞれの元素の量は、オーバーエッチングに使用されるガスの構造式から、ガスの体積流量とガスに含まれる元素の価数の積の総和で求められる。
【0046】
図6(a)及び(b)の横軸はガスに含まれるHとFとCの総和に対するHの比率を示す。図6(a)の縦軸は下地膜100(Si)に対する積層膜101(ON)の選択比を示す。図6(b)の縦軸は積層膜101(ON)及び下地膜100(Si)のそれぞれのエッチングレートを示す。
【0047】
HとFとCの総和に対するHの比率は、図6(a)に点線で示す選択比が5以上であって、かつ、図6(b)に点線で示す積層膜(ON)のエッチングレートが50nm/min以上の範囲が好ましい。また、図6(b)において下地膜100のエッチングレートは20nm/min未満であることが好ましい。図6(a)の結果から、選択比が5以上の条件を満たすのは、HとFとCの総和に対するHの比率が0~0.06(0~6%)の範囲Aであることがわかった。また、図6(b)の結果から、積層膜(ON)のエッチングレートが50nm/min以上の条件を満たし、下地膜100のエッチングレートは20nm/min未満の条件を満たすのは、HとFとCの総和に対するHの比率が0.02~0.06(2~6%)の範囲Bであることがわかった。以上から、選択比とエッチングレートの両方の条件を満たすのは、HとFとCの総和に対するHの比率が0.02~0.06(2~6%)の範囲であることが好ましい。
【0048】
図6(c)及び(d)の横軸はガスに含まれるHとFとCの総和に対するFの比率を示し、図6(c)の縦軸は下地膜100に対する積層膜101の選択比を示す。図6(d)の縦軸は積層膜101と下地膜100のエッチングレートを示す。
【0049】
HとFとCの総和に対するFの比率は、図6(c)に点線で示す選択比が5以上であって、かつ、図6(d)に点線で示す積層膜(ON)のエッチングレートが50nm/min以上の範囲が好ましい。また、図6(d)において下地膜100のエッチングレートは20nm/min未満であることが好ましい。図6(c)の結果から、選択比が5以上の条件を満たすのは、HとFとCの総和に対するFの比率が0.63~0.66(63~66%)の範囲Cであることがわかった。また、図6(d)の結果から、積層膜(ON)のエッチングレートが50nm/min以上の条件を満たし、下地膜100のエッチングレートは20nm/min未満の条件を満たすのは、HとFとCの総和に対するFの比率が0.63~0.65(63~65%)の範囲Dであることがわかった。以上から、選択比とエッチングレートの両方の条件を満たすのは、HとFとCの総和に対するFの比率が0.63~0.65(63~65%)の範囲であることが好ましい。
【0050】
以上に説明したように、HとFとCの総和に対するHの比率が0.02~0.06(2~6%)の範囲であるガスを使用すれば、良好な下地膜100との選択比及び積層膜101のエッチングレートが得られるため好ましい。また、HとFとCの総和に対するHの比率が0.02~0.06(2~6%)の範囲であるガスであれば、本実施形態に係るエッチング方法に使用するガスは、CHガス、Cガス、Oガスに限らない。
【0051】
また、HとFとCの総和に対するFの比率が0.63~0.65(63~65%)の範囲であるガスを使用すれば、良好な下地膜100との選択比及び積層膜101のエッチングレートが得られるため好ましい。また、HとFとCの総和に対するFの比率が0.63~0.65(63~65%)の範囲であるガスであれば、本実施形態に係るエッチング方法に使用するガスは、CHガス、Cガス、Oガスに限らない。
【0052】
更に、HとFとCの総和に対するHの比率が0.02~0.06(2~6%)の範囲であって、かつ、HとFとCの総和に対するFの比率が0.63~0.65(63~65%)の範囲であるガスであれば、更に良好な下地膜100との選択比と積層膜101のエッチングレートが得られる。
【0053】
以上の条件を満たす、本実施形態に係るエッチング方法に使用可能なガスとしては、フロロカーボンガス(CF系)、およびハイドロフロロカーボンガス(CHF系)のうち、少なくとも一方を含み、ハイドロフロロカーボンガス(CHF系)、ハイドロカーボンガス(CH系)、および水素含有ガスのうち、少なくとも1つを含み、水素含有ガスは、水素ガス(H)もしくはハロゲン化水素であってもよい。
【0054】
ハイドロフロロカーボンガス(CHF系)の一例としては、CHガス、CHFガス、Cガス等が挙げられる。フロロカーボンガス(CF系)の一例としては、Cガス、Cガス、CFガス等が挙げられる。ハイドロカーボンガス(CH系)の一例としては、CHガス、Cガス、Cガス等が挙げられる。ハロゲン化水素の一例としては、HBr、HCl、HF、HI等が挙げられる。
【0055】
次に、本実施形態に係るオーバーエッチング工程における低温エッチングのメカニズムについて、図7を参照しながら説明する。
【0056】
図7は、高温(常温)環境下のガス中のHの比率とエッチングレートの関係を示す図である。図7のグラフの出典は、「L.M.Ephrath,J.Electrochem.Soc.126,1419(1979)」である。図7は、CFガスとHガスからなるプラズマでエッチングした場合の供給ガス中のHの比率とシリコン膜(Si)及び酸化シリコン膜(SiO)のエッチングレートを示す。
【0057】
これによれば、高温(常温)環境下では、CFガスに対するHの比率を高くしていくにつれてシリコン膜(Si)のエッチングレートは低下し、Hの比率を約40%にした時、シリコン膜(Si)のエッチングレートはほぼゼロ(0)となる。
【0058】
CFガスのプラズマにHガスを添加した場合、ガス(H+CF)から生成されたプラズマ中のHラジカルがFラジカルやCFラジカルと反応してフッ化水素(HF)が生成される。これにより、Fが消費され、シリコン膜(Si)表面にはCに対するFの比率の低い重合膜、すなわちカーボンリッチな堆積膜が形成される。この堆積膜が阻害要因となり、Si(シリコン膜)のエッチングレートが下がるものと考えられている。
【0059】
これに対して、高温(常温)環境下では、CFガスに対するHの比率を高くしても、SiO(酸化シリコン膜)のエッチングレートは若干下がる程度である。これは、酸化シリコン膜(SiO)表面に堆積した堆積膜は、酸化シリコン膜(SiO)のエッチング反応に伴って酸化シリコン膜(SiO)から酸素(O)が供給され、COガス、COガス、もしくはCOFガスとなって除去されるため、SiO(酸化シリコン膜)のエッチングレートの阻害要因にならないものと考えられる。以上から、基板温度が15℃よりも高い条件でエッチングした場合、ガス中の水素の分圧を高くすることでシリコンに対する酸化シリコン膜の選択比(SiO/Si選択比)を高くすることができる。
【0060】
しかしながら、図5(a)、図5(b)および図6(b)に示す一実施形態に係るエッチング方法における下地膜100のエッチングレートおよび酸化シリコン膜を含む積層膜101のエッチングレートの傾向と比較すると、Hを含むCHガスの割合(図5(a)、図5(b))、もしくは水素(H)の比率(図6(b))を増加した場合、下地膜100のエッチングレートおよび積層膜101のエッチングレートともに増加しているため、図7の傾向と一致しない。
【0061】
図8は、一実施形態に係るエッチング方法に用いるガス中のHの比率とポリシリコン(Poly-Si)のブランケット膜(マスクなどが無い平坦な膜)のエッチングレートの関係の一例を示す図である。図8(a)の横軸は混合ガス(H+CF)中の水素(H)の割合を示し、縦軸はポリシリコン膜(Poly-Si)のエッチングレートを示す。図8(b)の横軸は混合ガス(H+CF)中の水素(H)の割合を示し、縦軸は酸化シリコン膜(SiO)のエッチングレートを示す。四角(白)のマークは、基板温度が-60℃の低温エッチングの場合、丸(黒)のマークは、基板温度が35℃のときのエッチングの場合のエッチングレートを示す。図7と比べると、Hガスの割合が高い領域まで観察しており、また、高温(常温)環境下と低温環境下の2つの領域で観察している。
【0062】
図8(a)の実験結果において、混合ガス中のHの比率が30%以下の領域では、ポリシリコン膜(Poly-Si)のエッチングレートは図7と同様な傾向を示しているが、混合ガス中のHの比率が40%以上の領域では、反対にポリシリコン膜(Poly-Si)のエッチングレートは上昇している。これは、混合ガス中のCFガスの比率が低下し、炭素(C)そのものの供給が減り、ポリシリコン膜(Poly-Si)表面の堆積膜が薄くなったためと推測される。また、CFガスはF元素の含有率が高いガスであるため、CFガスの比率が下がり炭素(C)の供給が少なくなったとしても、ポリシリコン膜(Poly-Si)のエッチャントであるF元素が多く存在するため、ポリシリコン膜(Poly-Si)のエッチングが促進されたものと推測される。
【0063】
なお、混合ガス中のHの比率に対するポリシリコン膜(Poly-Si)のエッチングレートは、高温(常温)環境下、低温環境下ともに同様な傾向を示すが、高温(常温)環境下のポリシリコン膜(Poly-Si)のエッチングレートに比べ、低温環境下におけるポリシリコン膜(Poly-Si)のエッチングレートが速い。これは、低温によりHFの吸着係数が上昇し、ポリシリコン膜(Poly-Si)表面にHFが吸着したためと考えてられる。その上、HF自体は、ポリシリコン膜との熱エネルギーによる反応性は低いが、ポリシリコン膜にHFが付着している状態にプラズマからのイオン照射によるエネルギーが加わることによって、ポリシリコン膜とHF中のF元素と反応してポリシリコンのエッチングが促進したものと考えられる。
【0064】
また、混合ガス中のHの比率が70%以上の領域では、F元素の供給量も減少するため、ポリシリコン膜(Poly-Si)のエッチングレートが低下するものと推測される。
【0065】
図8(b)の実験結果において、高温(常温)環境下では、混合ガス中のHの比率を増加するにつれ、酸化シリコン膜(SiO)のエッチングレートが減少しているため、図7と同様な傾向を示しており、また、混合ガス中のHの比率が40%以上の領域においても、酸化シリコン膜(SiO)のエッチングレートは減少傾向を示す。これに対して、低温環境下、特に混合ガス中のHの比率が70%以下の領域では、混合ガス中のHの比率を増加するにつれ、酸化シリコン膜(SiO)のエッチングレートは上昇傾向を示しており、図7とは異なった傾向を示す。また、高温(常温)環境下の酸化シリコン膜(SiO)のエッチングレートに比べ、低温環境下における酸化シリコン膜(SiO)のエッチングレートが速い。
【0066】
低温環境下の場合、ポリシリコン膜の時と同様に、低温によりHFの吸着係数が上昇し、酸化シリコン膜表面にHFが吸着する。また、CFガスのプラズマによる酸化シリコン膜のエッチング反応過程において、SiFと水(HO)が反応生成物として発生するが、水の飽和蒸気圧は低いため、低温環境下では、酸化シリコン膜表面に水は飽和してある程度液体の状態で存在していると考えられる。そして、水とHFが反応し、フッ化水素酸が生成され、これにより、酸化シリコン膜の表面で水に溶けているフッ化水素酸によって主に化学反応によるエッチングが促進され、エッチングレートが特異的に上昇すると考えられる。
【0067】
以上より、低温環境下で且つ適切な混合ガス中のHの比率(30~50%付近)で供給することによって、酸化シリコン膜のエッチングレートを高速に維持しつつ、ポリシリコン膜)のエッチングレートが遅く、ポリシリコン膜に対する酸化シリコン膜の選択比を確保することができる。
【0068】
すなわち、被エッチング膜(この場合、酸化シリコン膜)のエッチングレートを高速に維持しつつ、シリコン膜(この場合、ポリシリコン膜)のエッチングレートが遅く、シリコン膜に対する被エッチング膜の選択比を確保するためには、低温環境下で且つ水素(H)とフッ素(F)と炭素(C)を適切なバランスで供給すること(この場合、混合ガス中のHの比率)が重要であることが分かる。
【0069】
図9は、基板温度とC(炭素)およびH(水素)の穴の底部への到達量との関係の一例を示す図である。図9において低温とは基板温度が15℃以下であることをいい、高温とは基板温度が15℃より高いことをいう。図9の横軸はアスペクト比(AR)を示し、右に行く程高くなる。図9の縦軸は、Cの穴の底部への到達量を示す。本実施形態に係るエッチング方法では、アスペクト比が40以上の穴等の凹部を低温エッチングすることを想定している。
【0070】
CHガスや混合ガス(H+CF)等のCとHとFを含むガスをエッチングに使用するとき、Hと比較してC及びCxFyは吸着係数性が高いため、Cは、穴の比較的浅い側壁に物理吸着してトラップされ、これにより、穴の底部まで到達するCが減る。その結果、穴hの底部では、穴の比較的浅い部分よりもCに対してH及びFの比率が相対的に増える。さらに、図9に示すように、低温エッチングの場合、高温エッチングの場合よりもC、Hともに穴の底部への到達量は減るが、Hに比べCの方が減少率は大きい。
【0071】
よって、低温エッチングでは、アスペクト比が40以上の穴のエッチングの場合、更に穴の底部まで到達するCに対するH及びFの比率は高くなる。つまり、アスペクト比が40以上の穴の低温エッチングでは、穴の底部におけるCに対するH及びFの比率は、低アスペクト比の穴の底部における当該比率よりも高くなると予測される。
【0072】
このことを踏まえて、図5(a)、図5(b)および図6(b)の実験結果を考察すると、図8(a)および図8(b)の実験結果において、低温環境下、かつ、混合ガス中のHの比率が30~50%の範囲に近い状態になっているものと推測される。すなわち、アスペクト比に応じて、低温環境下で且つ水素(H)とフッ素(F)と炭素(C)を適切なバランスで供給することが重要である。
【0073】
これにより、低温エッチングのメインエッチングとオーバーエッチングとにおいて、高エッチングレートを確保しつつ、オーバーエッチングにおいても選択比を確保できる。また、メインエッチングとオーバーエッチングとで基板温度の条件を同一温度にすることにより、メインエッチングとオーバーエッチングとの間に基板温度の制御時間が不要になり、スループットを向上させることができる。また、メインエッチングとオーバーエッチングを同一のプラズマ処理装置で連続的に実行することが可能となる。
【0074】
[変形例:ボトムCDの改善]
以上に説明したエッチング方法では、アスペクト比が40以上に高くなると、積層膜101に形成される凹部の先端形状が細くなり、凹部の底部のCD(以下、ボトムCD(Btm CD)という。)が狭まる。これに対して、本実施形態に係るエッチング方法の変形例では、ボトムCDを広げ、凹部の形状を垂直にするために、CHガス、Cガス、OガスにSiClガスを添加した。
【0075】
図10は、一実施形態に係るエッチング方法においてCHガス、Cガス、OガスにSiClガスを添加したときのボトムCDの一例を示す図である。変形例に係るオーバーエッチングにおけるガス以外のプロセス条件は上記の<本実施形態のオーバーエッチングのプロセス条件>に示した通りである。図10に示す実験の結果では、白丸のマークで示すSiClガスを添加した場合、黒(四角)のマークで示すSiClガスを添加しない場合と比較して、ボトムCDを25%以上広げることができ、凹部の先端形状が矩形になった。なお、SiClガスを添加した場合、CHガスとCガスの総和に対してSiClガスを13%添加している。
【0076】
図11は、一実施形態に係るエッチング方法においてCHガス、Cガス、OガスにSiClガス又はその他のガスを添加したときのボトムCDの一例を示す図である。変形例に係るオーバーエッチングにおけるガス以外のプロセス条件は上記の<本実施形態のオーバーエッチングのプロセス条件>に示した通りである。図11に示す実験の結果では、CHガス、Cガス、OガスにSiClガス、Clガス又はHBrガスを添加しなかった場合、凹部の最も膨らんだ部分のCDを示すBow CDが90、Btm CDが39、その差分が51であった。
【0077】
これに対して、CHガス、Cガス、OガスにSiClガスを添加した場合、Bow CDが91、Btm CDが51、その差分が40となった。また、Clガスを添加した場合、Bow CDが90、Btm CDが52、その差分が38となった。また、HBrガスを添加した場合、Bow CDが92、Btm CDが53、その差分が39となった。SiClガス、Clガス又はHBrガスのいずれを添加した場合にも、添加しなかった場合と比較してBow CDとBtm CDとの差分が小さくなり、Btm CDが改善され、凹部の先端形状が矩形になった。
【0078】
なお、CHガス、Cガス、OガスにSiClガス、Clガス又はHBrガスを添加しなかった場合、添加ガスにSiClガスを用いる場合、および、添加ガスにClガスを用いる場合、CHガスとCガスの総和に対するCHガスの割合は12.5%である。また、添加ガスにSiClガスを用いる場合、および、添加ガスにClガスを用いる場合、CHガスとCガスの総和に対してSiClガスまたはClガスを13%添加している。
【0079】
また、添加するガスにHBrガスを用いる場合、CHガスとCガスの総和に対するCHガスの割合は0%であり、CHガスとCガスの総和に対するHBrガスガスの割合は14.3である。添加するガスにHBrを用いる場合、水素が含有されているため、オーバーエッチングにCHガスを含まなくても、積層膜101のエッチングが可能になる。
【0080】
以上から、エッチング方法に使用するガスは、CHガス、Cガス、Oガスに更にSiClガス、Clガス、HBrガス等のフッ素を除くハロゲン含有ガスを含むことが好ましいことがわかった。これにより、Bow CDを広げずに、Btm CDを広げることができ、凹部の先端形状を矩形にできる。
【0081】
なお、フッ素を除くハロゲン含有ガスは、SiClガス、Clガス、HBrガス以外にHClガス、HIガス、Brガス、CFBrガスなどが考えられる。
【0082】
以上に説明したように、本実施形態のエッチング方法及びプラズマ処理装置によれば、低温環境下で酸化シリコン膜及び窒化シリコン膜の積層膜の下地膜を露出させるオーバーエッチングにおいて、エッチングレートを維持しつつ選択比を確保することができる。
【0083】
今回開示された実施形態に係るエッチング方法及びプラズマ処理装置は、すべての点において例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。実施形態は、添付の請求の範囲及びその主旨を逸脱することなく、様々な形態で変形及び改良が可能である。上記複数の実施形態に記載された事項は、矛盾しない範囲で他の構成も取り得ることができ、また、矛盾しない範囲で組み合わせることができる。
【0084】
本開示のプラズマ処理装置は、Atomic Layer Deposition(ALD)装置、Capacitively Coupled Plasma(CCP)、Inductively Coupled Plasma(ICP)、Radial Line Slot Antenna(RLSA)、Electron Cyclotron Resonance Plasma(ECR)、Helicon Wave Plasma(HWP)のいずれのタイプの装置でも適用可能である。
【符号の説明】
【0085】
1 プラズマ処理装置
11 載置台
20 シャワーヘッド
12 静電チャック
13 基台
14 電源
15 チラーユニット
19 排気装置
25 ガス供給源
30 第1高周波電源
31 第2高周波電源
40 制御部
100 下地膜
101 積層膜
102 マスク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11