(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】硬化性オルガノポリシロキサン組成物、その硬化物および当該硬化物を備えたトランスデューサー等
(51)【国際特許分類】
C08L 83/07 20060101AFI20240806BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20240806BHJP
C08L 83/05 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
C08L83/07
C08K3/36
C08L83/05
(21)【出願番号】P 2020559220
(86)(22)【出願日】2019-12-03
(86)【国際出願番号】 JP2019047211
(87)【国際公開番号】W WO2020116440
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2022-11-16
(31)【優先権主張番号】P 2018229640
(32)【優先日】2018-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】719000328
【氏名又は名称】ダウ・東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】福井 弘
(72)【発明者】
【氏名】外山 香子
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-122271(JP,A)
【文献】特開2019-031600(JP,A)
【文献】特開2012-184350(JP,A)
【文献】特開2013-241522(JP,A)
【文献】特開2011-046826(JP,A)
【文献】特開2014-037507(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A1)分子鎖末端のみにアルケニル基を有し、シロキサン重合度が50~550の範囲である、直鎖状のオルガノポリシロキサン、
(A2)分子鎖末端のみにアルケニル基を有し、シロキサン重合度が600~1000の範囲である、直鎖状のオルガノポリシロキサン、
(A1)成分および(A2)成分は、その分子鎖末端に
(Alk)R
1
2
SiO
1/2
(式中、Alkは炭素原子数2以上のアルケニル基であり、R
1
は炭素-炭素二重結合を有しない一価炭化水素基、水酸基およびアルコキシ基から選ばれる基である)で表されるシロキサン単位を有し、その他のシロキサン単位が実質的にR
1
2
SiO
2/2
で表されるシロキサン単位のみからなるオルガノポリシロキサンであり、
(B)疎水化処理された補強性シリカ、
(C)分子内に少なくとも1つの分岐シロキサン単位を有し、ビニル(CH2=CH―)基の含有量が1.0~5.0質量%の範囲内にあるアルケニル基含有オルガノポリシロキサン樹脂、
(D)分子内に少なくとも3個のケイ素原子水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、および
(E)有効量のヒドロシリル化反応用触媒
を含有してなり(ただし、成分(A1)および成分(A2)以外の
オルガノポリシロキサンであって、その分子鎖末端に
(Alk)R
1
2
SiO
1/2
(式中、Alkは炭素原子数2以上のアルケニル基であり、R
1
は炭素-炭素二重結合を有しない一価炭化水素基、水酸基およびアルコキシ基から選ばれる基である)で表されるシロキサン単位を有し、その他のシロキサン単位が実質的にR
1
2
SiO
2/2
で表されるシロキサン単位のみからなるオルガノポリシロキサンを含むものを除く)、
(A2)成分に対する(A1)成分の質量比(=(A1)/(A2))が0.45~1.30の範囲であり、
(B)成分および(C)成分の和が組成物全体の10~25質量%の範囲内であり、(B)成分および(C)成分の和に対する成分(C)の質量比(=(C)/{(B)+(C)})が0~0.2の範囲(ただし、(C)/{(B)+(C)}=0を除く)であり、かつ、
組成物中のアルケニル基の合計量1モルに対して、(D)成分中のケイ素原子結合水素原子の和が1.0~2.5モルとなる量である、
硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項2】
25℃において回転粘度計を用いて剪断速度0.1(S
-1)で測定した組成物の全体粘度が10~150Pa・sの範囲であり、かつ、剪断速度10.0(S
-1)で測定した組成物の全体粘度が10~75Pa・sの範囲である、請求項1に記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項3】
上記の(B)成分が、アルケニル基を含有する有機珪素化合物を少なくとも含む疎水化処理剤により表面処理されたヒュームドシリカである、請求項1または請求項2に記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項4】
有機溶媒を実質的に含有しない、請求項1~3のいずれか1項記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項5】
トランスデューサー部材形成用である、請求項1~3のいずれか1項記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化してなる硬化物。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化してなる、厚さ1~200μmの電気活性フィルムまたは電気活性シート。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか1項記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化してなり、フィルム状もしくはシート状である、トランスデューサー用部材。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか1項記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化してなり、フィルム状もしくはシート状である、電子材料または表示装置用部材。
【請求項10】
請求項1~5のいずれか1項記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化してなり、ゲルまたはエラストマーである、トランスデューサー用部材。
【請求項11】
請求項1~5のいずれか1項記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化してなる誘電層を有するトランスデューサー。
【請求項12】
少なくとも一対の電極層間に、請求項1~5のいずれか1項記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化させて、または前記組成物の硬化反応を一部進行させてなる中間層を介装してなるトランスデューサー。
【請求項13】
中間層がゲルまたはエラストマーである、請求項11または請求項12のトランスデューサー。
【請求項14】
中間層が、請求項1~5のいずれか1項記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化させてなる硬化物を、1層または2層以上積層してなることを特徴とする、請求項11~13のいずれか1項記載のトランスデューサー。
【請求項15】
アクチュエーターである、請求項11~14のいずれか1項記載のトランスデューサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は室温において比較的低粘度であって薄膜化することが容易であり、かつ、引き裂き強度等の機械的特性に優れた硬化物を与える硬化性オルガノポリシロキサン組成物、その硬化物に関するものであり、当該硬化物が電気活性シリコーン材料として、トランスデューサーの誘電層等に好適に使用することができる。さらに、本発明は、当該硬化性オルガノポリシロキサン組成物を用いてなる電気活性ポリマー材料の製造方法、並びにその電気活性ポリマー材料を含むトランスデューサー用部材、電子材料または表示装置用部材に関し、それを用いてなるトランスデューサー、電子部品又は表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気活性シリコーン材料は、その機械特性及び/又は電気的特性、具体的には、高い比誘電率、高い絶縁破壊強度、低いヤング率を備えることで高いエネルギー密度を実現することができ、かつ、トランスデューサーの誘電層として使用した場合の機械的強度(具体的には、引っ張り強度、引き裂き強度、伸び率等)に優れるため、耐久性と実用的な変位量を実現することができ、トランスデューサー用材料として好適に使用することができる。例えば、本出願人らは、フルオロアルキル基含有オルガノポリシロキサン硬化物が高い比誘電率を有し、トランスデューサー材料として有用であることを開示している(特許文献1または特許文献2)。
【0003】
しかしながら、近年、アクチュエータをはじめとするトランスデューサー材料の分野では、電気活性シリコーン材料について、硬化前の組成物が低粘度であって、容易にフィルム状に加工可能であり、さらに高い比誘電率および機械的強度を両立した材料への要求が生じており、さらなる機械特性及び電気的特性の改善が強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際特許公開2014-105959号公報
【文献】国際特許公開2015-098072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記課題を解決すべくなされたものであり、硬化前の組成物が比較的低粘度であって、容易にフィルム状に加工可能であり、トランスデューサーの誘電層として使用した場合の機械的強度(具体的には、引っ張り強度、引き裂き強度、伸び、ヤング率等)に優れた硬化性オルガノポリシロキサン組成物を提供することを目的とする。
【0006】
同様に、本発明は、当該硬化性オルガノポリシロキサン組成物の、アクチュエータ等のトランスデューサー材料としての用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく、鋭意検討の結果、本発明者らは、分子鎖末端のみにアルケニル基を有する鎖状のオルガノポリシロキサンであって、シロキサン重合度の高いものと低いものを特定の比率で組み合わせて使用し、組成物全体におけるレジン分および疎水化処理された補強性シリカの含有量を10~20質量%の範囲内に調整し、かつ、いわゆるSiH/Vi比(モル比)が1.0~2.5の範囲であるヒドロシリリル化反応硬化性オルガノポリシロキサン組成物によって上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
当該硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物は、機械特性及び電気的特性に優れた電気活性シリコーン材料として、特に、フィルム状またはシート状のトランスデューサー用部材として利用可能である。
【0009】
すなわち、本発明の第1の目的は、
[1](A1)分子鎖末端のみにアルケニル基を有し、シロキサン重合度が50~550の範囲である、直鎖状または分岐鎖状のオルガノポリシロキサン、
(A2)分子鎖末端のみにアルケニル基を有し、シロキサン重合度が600~1000の範囲である、直鎖状または分岐鎖状のオルガノポリシロキサン、
(B)疎水化処理された補強性シリカ、
(C)分子内に少なくとも1つの分岐シロキサン単位を有し、ビニル(CH2=CH―)基の含有量が1.0~5.0質量%の範囲内にあるアルケニル基含有オルガノポリシロキサン樹脂、
(D)分子内に少なくとも3個のケイ素原子水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、および
(E)有効量のヒドロシリル化反応用触媒
を含有してなり、
(A2)成分に対する(A1)成分の質量比(=(A1)/(A2))が0.45~1.30の範囲であり、
(B)成分および(C)成分の和が組成物全体の10~25質量%の範囲内であり、(B)成分および(C)成分の和に対する成分(C)の質量比(=(C)/{(B)+(C)})が0~0.2の範囲であり、かつ、
組成物中のアルケニル基の合計量1モルに対して、(B)成分中のケイ素原子結合水素原子の和が1.0~2.5モルとなる量である、
硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
により解決される。
【0010】
好適には、本発明の第1の目的は、下記の組成物により解決される。
[2]25℃において回転粘度計を用いて剪断速度0.1(S-1)で測定した組成物の全体粘度が10~150Pa・sの範囲であり、かつ、剪断速度10.0(S-1)で測定した組成物の全体粘度が10~75Pa・sの範囲である、[1]に記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
[3]上記の成分(B)が、アルケニル基を含有する有機珪素化合物を少なくとも含む疎水化処理剤により表面処理されたヒュームドシリカである、[1]または[2]に記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
[4]有機溶媒を実質的に含有しない、[1]~[3]のいずれか1項記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
[5]トランスデューサー部材形成用である、[1]~[3]のいずれか1項記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【0011】
本発明の第2の目的は、上記の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化してなる硬化物、電気活性フィルムまたは電気活性シート、トランスデューサー用部材、電子材料または表示装置用部材としての使用、およびそれを含むトランスデューサーであり、以下の発明により達成される。
[6][1]~[5]のいずれか1項記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化してなる硬化物。
[7][1]~[5]のいずれか1項記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化してなる、厚さ1~200μmの電気活性フィルムまたは電気活性シート。
[8][1]~[5]のいずれか1項記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化してなり、フィルム状もしくはシート状である、トランスデューサー用部材。
[9][1]~[5]のいずれか1項記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化してなり、フィルム状もしくはシート状である、電子材料または表示装置用部材。
[10][1]~[5]のいずれか1項記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化してなり、ゲルまたはエラストマーである、トランスデューサー用部材。
[11][1]~[5]のいずれか1項記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化してなる誘電層を有するトランスデューサー。
[12]少なくとも一対の電極層間に、[1]~[5]のいずれか1項記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化させて、または前記組成物の硬化反応を一部進行させてなる中間層を介装してなるトランスデューサー。
[13]中間層がゲルまたはエラストマーである、[11]または[12]のトランスデューサー。
[14]中間層が、[1]~[5]のいずれか1項記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化させてなる硬化物を、1層または2層以上積層してなることを特徴とする、請求項11~13のいずれか1項記載のトランスデューサー。
[15]アクチュエーターである、[11]~[14]のいずれか1項記載のトランスデューサー。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、硬化前の組成物が比較的低粘度であって、容易に薄いフィルム状に加工可能であり、かつ、トランスデューサーの誘電層として使用した場合の機械的強度(具体的には、引っ張り強度、引き裂き強度、伸び、ヤング率等)に優れた硬化性オルガノポリシロキサン組成物を提供することができる。また、当該硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、付加硬化型であり、フルオロアルキル基等の高誘電性官能基を含んでも含まなくてもよいので、処方設計の自由度が高く、価格や供給性を含めた工業上の多様な要求に対応しやすく、かつ、電気活性ポリマーとして十分な特性、硬化速度等を有するものである。さらに、本発明のオルガノポリシロキサン硬化物は、実用上十分な比誘電率を有し、さらには高い機械的強度(具体的には、引っ張り強度、引き裂き強度、伸び率等)を有するので、フィルム状もしくはシート状に成型して、誘電層として応用した場合、耐久性に加えて実用的な変位量、高い応答性を実現するため、アクチュエータ等のトランスデューサー材料としての用途に好適に用いることができる。
ず
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】誘電層を積層した場合における、本発明のアクチュエータ1の断面図である。
【
図2】誘電層及び電極層を積層した場合における、本発明のアクチュエータ2の断面図である。
【
図4】誘電層を積層した場合における、本発明の発電素子4の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のフルオロアルキル基含有硬化性オルガノポリシロキサン組成物について詳細に説明する。本発明のフルオロアルキル基含有硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、以下の(A1)、(A2)、(B)、(C)、(D)成分およびその他の任意成分を含有してなるものであり、まず、各成分について説明する。
【0015】
[(A1)成分、(A2)成分]
(A1)成分および(A2)成分は、本発明の特徴的な主剤であり、分子鎖末端のみにアルケニル基を有する鎖状のオルガノポリシロキサンであって、シロキサン重合度が比較的低いものが(A1)成分であり、シロキサン重合度が比較的高いものが(A2)成分である。これらの成分を特定の質量比の範囲で併用することで、組成物のフィルム加工性に影響する組成物の全体粘度、組成物の硬化性および硬化物の機械的特性のいずれにおいても好適な硬化性オルガノポリシロキサン組成物を提供することができる。なお、これらの成分のシロキサン重合度は、29Si NMRを用いたピーク強度の積分比により決定可能である。
【0016】
詳細には、(A1)成分および(A2)成分は、その分子鎖末端に
(Alk)R1
2SiO1/2
(式中、Alkは炭素原子数2以上のアルケニル基であり、R1は炭素-炭素二重結合を有しない一価炭化水素基、水酸基およびアルコキシ基から選ばれる基である)で表されるシロキサン単位を有し、その他のシロキサン単位が実質的にR1
2SiO2/2で表されるシロキサン単位のみからなる直鎖状または分岐鎖状のオルガノポリシロキサンである。なお、(A1)成分および(A2)成分は、分子中に2個未満のR3SiO3/2単位(3官能性シロキシ単位、Rは一価有機基)またはSiO2単位(4官能性シロキシ単位)分岐シロキサン単位を有することで直鎖シロキサン構造が分岐した分岐鎖状のオルガノポリシロキサンであってもよいが、好適には、分子鎖の両末端が(Alk)R2
2SiO1/2で表されるシロキサン単位で封鎖された、直鎖状のオルガノポリシロキサンである。
【0017】
(A1)成分および(A2)成分は、分子鎖末端に炭素原子数2以上、好適には、炭素原子数2~20のアルケニル基を有し、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基が例示される。経済性、反応性の観点から、アルケニル基は、ビニル基、アリル基、ヘキセニル基、オクテニル基が好ましく、ビニル基およびヘキセニル基がより好ましく使用される。
【0018】
(A1)成分および(A2)成分中のその他のケイ素原子結合官能基は、特に制限されるものではないが、上記のR1である炭素-炭素二重結合を有しない一価炭化水素基、水酸基およびアルコキシ基から選ばれる基が例示され、より詳細には、炭素数1~12のアルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数7~20のアラルキル基、水酸基、もしくは炭素数1~6のアルコキシ基が挙げられる。炭素数1~12のアルキル基としては、経済性、耐熱性を考慮するとメチル基が好ましい。炭素数6~20のアリール基としては、経済性の観点からフェニル基、メチルフェニル(トリル)基、ナフチル基が好ましい。炭素数7~20のアラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基が好ましく使用される。さらに、炭素数1~6のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基が好ましい。なお、(A)成分中のケイ素原子上の全ての置換基の一定量以上は前記のフルオロアルキル基であり、分子中に炭素数2~12のアルケニル基を2以上の有するものであるが、その他のケイ素原子結合官能基は、メチル基、フェニル基または水酸基であることが好ましく、メチル基およびフェニル基から選ばれることが特に好ましい。
【0019】
任意で、(A1)成分および(A2)成分の一部又は全部には、高誘電性官能基を含有してもよい。例えば、高誘電性官能基として、a)3,3,3-トリフルオロプロピル基等に代表されるハロゲン原子及びハロゲン原子含有基、b)シアノプロピル基等に代表される窒素原子含有基、c)カルボニル基等に代表される酸素原子含有基、d)イミダゾール基等の複素環基、e)ボレートエステル基等のホウ素含有基、f)ホスフィン基等のリン含有基、およびg)チオール基等の硫黄含有基が例示される。これらの高誘電性官能基は、ケイ素原子上の全ての置換基の5モル%以上、好適には20モル%以上、より好適には、40モル%以上であってもよい。ただし、本発明の組成物((A1)成分および(A2)成分を含む)において、3,3,3-トリフルオロプロピル基等の高誘電性官能基は任意の官能基であり、これらを欠いても十分に実用性のある電気活性フィルムまたは電気活性シート、トランスデューサー用部材等を形成可能な硬化性オルガノポリシロキサン組成物を提供することができる。
【0020】
(A1)成分のシロキサン重合度は、末端シロキサン単位を含めて、50~550の範囲であり、50~500の範囲、75~450の範囲、特に好適には、100~400の範囲である。このような(A1)成分は、比較的低粘度かつ迅速な硬化反応性を有するので、(A2)成分と併用することで、組成物の硬化性等を損なうことなく、全体粘度を低下させることができる。一方、(A1)成分のシロキサン重合度の範囲が前記下限未満では、組成物全体として硬化性および機械的強度が不十分となる場合がある。また、(A1)成分のシロキサン重合度の範囲が前記上限を超えると、(A2)成分と区別できなくなるほか、両者を併用した場合の粘度低下等の本発明の技術的効果が不十分となる場合がある。
【0021】
(A2)成分のシロキサン重合度は、末端シロキサン単位を含めて、600~1000の範囲であり、650~1000の範囲、700~1000の範囲、特に好適には、750~950の範囲である。このような(A2)成分は、他の成分と併用することで硬化物に優れた機械的特性を付与し、かつ、迅速な硬化反応性を有する。一方、(A2)成分単独では、組成物の全体粘度が高く、特に薄膜/薄いフィルム加工性が不十分となるが、(A1)成分と併用することで、組成物の硬化性等を損なうことなく、全体粘度を低下させ、フィルム加工性等を改善できる。一方、(A2)成分のシロキサン重合度の範囲が前記下限未満では、組成物全体として硬化性および機械的強度が不十分となる場合がある。また、(A2)成分のシロキサン重合度の範囲が前記上限を超えると、(A1)成分と特定の質量比で併用しても、組成物の全体粘度が高くなり、フィルム加工性等の技術的効果を達成できない場合がある。
【0022】
硬化物の機械的物性を確保し、かつ、組成物全体の粘度を低く保つため、(A2)成分に対する(A1)成分の質量比(=(A1)/(A2))は0.45~1.30の範囲であり、0.55~1.20の範囲が好ましく、0.60~1.15の範囲が特に好ましい。(A1)/(A2)の質量比が前記下限未満では、(A2)成分の比率が高く、全体粘度が高く、フィルム加工性が悪化する場合がある。一方、(A1)/(A2)の質量比が前記上限を超えると、(A2)成分の比率が低く、硬化物の機械的物性が不十分となる場合がある。
【0023】
[(B)成分]
(B)成分は、硬化物の機械的強度を改善する目的で添加される補強性シリカであり、平均一次粒子径が50nm未満であるヒュームドシリカ、湿式シリカ、粉砕シリカが例示される。好例としては、機械的強度の向上の観点から、平均一次粒子径が10nm以下であり、部分的に凝集し、その比表面積が、50m2/g以上、300m2/g以下である疎水性のヒュームドシリカが挙げられる。
【0024】
本発明の(B)成分は、疎水化処理されていることが必要であり、当該疎水化処理された補強性シリカがオルガノポリシロキサン組成物中に高充填率で分散させることができるので、組成物の粘度の増大が抑制され、フィルム成形加工性が向上する。疎水化処理されていない補強性シリカ、その他の補強性無機粒子を使用した場合、上記の各成分と併用しても十分な粘度抑制が実現できず、フィルム成形加工性が悪化する場合がある。
【0025】
(B)成分に用いる疎水化用の表面処理剤としては、有機チタン化合物、有機ケイ素化合物、有機ジルコニウム化合物、有機アルミニウム化合物及び有機リン化合物からなる群から選択される少なくとも1種の表面処理剤が挙げられる。表面処理剤は単独で又は2種以上を組み合わせてもよい。これらの表面処理剤のうち、有機ケイ素化合物、なかでも、シラザン、シラン類、シロキサン類、ポリシロキサン類が好ましく、シラザン、アルキルトリアルコシキシラン類、片末端トリアルコシキシリルポリジメチルシロキサン類が最も好ましく使用される。前記表面処理は、表面処理剤で補強性シリカを処理(又は被覆処理)することにより行うことができる。
【0026】
(B)成分において、疎水化用の表面処理剤の割合は、0.1質量%以上、10質量%以下の範囲が好ましく、0.3質量%以上、5質量%以下の範囲がより好ましい。なお、処理量については、無機粒子と表面処理剤の仕込み比であり、処理後に余剰の処理剤を除去することが好ましい。
【0027】
(B)成分の使用により、本発明にかかる組成物を硬化してなるオルガノポリシロキサン硬化物(以下、単に「硬化物」)の力学強度、絶縁破壊強度を増加させることが可能となる。これら補強性無機微粒子の配合量は、硬化性オルガノポリシロキサン組成物に対し0.1~30質量%の範囲が好ましく、0.1~10質量%の範囲がより好ましい。配合量が上記の好ましい範囲を外れると無機粒子を配合したことによる効果が得られない、もしくは硬化性オルガノポリシロキサン組成物の成形加工性が低下する場合がある。
【0028】
[(C)成分]
(C)成分は、本発明の任意の構成であり、分子内に少なくとも1つの分岐シロキサン単位を有し、ビニル(CH2=CH―)基の含有量が1.0~5.0質量%の範囲内にあるアルケニル基含有オルガノポリシロキサン樹脂であり、
平均単位式:
(RSiO3/2)o(R2SiO2/2)p(R3SiO1/2)q(SiO4/2)r(XO1/2)s
で表されるアルケニル基含有オルガノポリシロキサン樹脂が例示される。
上式中、Rは、一価有機基であり、Xは水素原子または炭素原子数1~3のアルキル基である。ただし、全てのRのうち、少なくとも、当該オルガノポリシロキサン樹脂中のビニル(CH2=CH―)基の含有量が、1.0~5.0質量%の範囲を満たす範囲においてRはアルケニル基であり、特に、RSiO1/2で表されるシロキサン単位上のRの少なくとも一部はアルケニル基であることが好ましい。
【0029】
上式中、tは5~1,000の範囲内の整数である。また、式中、(o+r)は正数であり、pは0又は正数であり、qは0又は正数であり、sは0又は正数であり、かつ、p/(o+r)は0~10の範囲内の数であり、q/(o+r)は0~5の範囲内の数であり、(o+r)/(o+p+q+r)は0.3~0.9の範囲内の数であり、s/(o+p+q+r)は0~0.4の範囲内の数である。
【0030】
(C)成分として、特に好適には、
{(Alk)R1
2SiO1/2}q1(R1
3SiO1/2)q2(SiO4/2)r
(式中、Alk、R1は前記同様の基であり、q1+q2+rは50~500の範囲の数であり、(q1+q2)/rは0.1~2.0の範囲の数であり、q2は当該オルガノポリシロキサン樹脂中のビニル(CH2=CH―)基の含有量が、1.0~5.0質量%の範囲を満たす範囲の数である)
で表されるアルケニル基含有MQオルガノポリシロキサン樹脂が例示される。
【0031】
分子鎖末端のみにアルケニル基を有する直鎖状オルガノポリシロキサンである(A1)成分および(A2)成分と、オルガノポリシロキサン樹脂であって一定量のアルケニル基を有する(C)成分を併用することで、組成物全体とし硬化反応性に優れ、かつ、機械的強度および柔軟性に優れる硬化反応物を与える組成物を提供することができる。ただし、後述する(B)成分および(C)成分の使用量の範囲内であれば、(C)成分を用いなくてもよい。
【0032】
[(B)成分および(C)成分の使用量]
本発明の組成物において、十分な機械的特性を実現する見地から、上記の(B)成分および(C)成分の和が組成物全体の10~25質量%の範囲内であり、(B)成分および(C)成分の和に対する成分(C)の質量比(=(C)/{(B)+(C)})が0~0.2の範囲であることが必要である。なお、(C)/{(B)+(C)}の値は0であってもよく、本発明の組成物は、(C)成分を含まないものであってもよい。
【0033】
上記の(B)成分および(C)成分の和は、補強性シリカとアルケニル基含有オルガノポリシロキサン樹脂の総和であり、10~25質量%の範囲であり、12.5~22.5質量%の範囲がより好ましい。これらの成分、特に(B)成分は、本発明にかかる組成物の硬化物について機械的強度を改善する成分であり、その使用量が前記下限未満では、本発明にかかる組成物の硬化物が、十分な機械的強度を実現できない場合がある。一方、使用量が前記の上限を超えると、硬化物の柔軟性が低下し、フィルム等に成型した場合に電気活性ポリマーフィルム等として利用できない場合がある。
【0034】
(B)成分および(C)成分の和に対する(C)成分の質量比は0~0.2の範囲であり、(B)成分単独または(B)成分を主とする(C)成分との混合物の使用が好ましい。なお、(C)成分を併用する場合、上記範囲内となる量で使用することで、(B)成分単独に比べて、本発明にかかる組成物の硬化物の柔軟性およびフィルム成形性等をさらに改善できる場合がある。
【0035】
[(D)成分]
(D)成分は、分子内に少なくとも3個のケイ素原子水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、(A1)、(A2)、(C)成分の架橋剤として機能する成分である。
【0036】
このような(D)成分として、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)メチルシラン、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)フェニルシラン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、トリメトキシシランの加水分解縮合物、(CH3)2HSiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CH3)2HSiO1/2単位とSiO4/2単位と(C6H5)SiO3/2単位とからなる共重合体、およびこれらの2種以上の混合物が例示される。
【0037】
(D)成分は、その一部又は全部には、高誘電性官能基を含有してもよい。当該高誘電性官能基の種類および含有量は、(A1)成分および(A2)成分で例示したものと同様である。また、(D)成分は、その一部が、さらに、高誘電性官能基を有してもよい、(CH3)2HSiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体である、オルガノハイドロジェンポリシロキサン樹脂であってもよい。
【0038】
[(D)成分の使用量]
本発明の組成物における(D)成分の使用量は、組成物中のアルケニル基の合計量1モルに対して、)成分中のケイ素原子結合水素原子の総和が1.0~2.5モルとなる量である。ここで、組成物中のアルケニル基は、主として(A1)成分、(A2)成分および(C)成分等に由来する。(D)成分の使用量が上記下限未満であると、本組成物の硬化が不十分となる場合がある。一方、(D)成分の使用量が上記上限を超えると、本発明の組成物を硬化させた場合に弾性ゲルまたは弾性エラストマーを得ることができない場合があり、特に、機械的強度が不十分となる場合がある。より好適な(D)成分の使用量は、組成物中のアルケニル基の合計量1モルに対して、本成分中のケイ素原子結合水素原子が0.2~2.00モル、0.2~1.80モル、0.25~1.75モル、さらに好適には、0.35~1.50モルとなる量である。
【0039】
[(E)成分]
(E)成分であるヒドロシリル化反応用触媒は、ヒドロシリル化反応を促進することができる限り特定のものに限定されない。ヒドロシリル化反応触媒として、これまでに多くの金属及び化合物が知られており、それらの中から適宜選択して本発明に用いることができる。ヒドロシリル化反応触媒の例として、具体的には、シリカ微粉末又は炭素粉末担体上に吸着させた微粒子状白金、塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、塩化白金酸のオレフィン錯体、塩化白金酸とビニルシロキサンの配位化合物、白金-アルケニルシロキサン錯体、白金-オレフィン錯体、白金-カルボニル錯体が例示され、白金黒、パラジウム、及びロジウム触媒を挙げることができる。特に、白金-アルケニルシロキサン錯体の安定性が良好であることから、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンであることが好ましい。加えて、取扱作業性および組成物のポットライフの改善の見地から、これらのヒドロシリル化反応触媒は、シリコーン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂中に分散あるいはカプセル化した触媒である、ヒドロシリル化反応触媒含有熱可塑性樹脂微粒子、特に、白金含有ヒドロシリル化反応触媒を含む熱可塑性樹脂微粒子であってもよい。なお、ヒドロシリル化反応を促進する触媒としては、鉄、ルテニウム、鉄/コバルトなどの非白金系金属触媒を用いてもよい。
【0040】
ヒドロシリル化反応用触媒の使用量は、有効量であり、本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化を促進する量であれば特に限定されない。具体的には、(A1)~(D)成分の和(全体を100質量%とする)に対して、この触媒中の金属原子が質量単位で0.01~1,000ppm、好適には(E)成分中の白金金属原子が、0.1~500ppmの範囲内となる量である。これは、(E)成分の含有量が上記範囲の下限未満であると、硬化が不十分となる場合があり、上記範囲の上限を超えると、一般的に不経済である。
【0041】
[(F)ヒドロシリル化反応抑制剤]
ヒドロシリル化反応抑制剤は、(A1)、(A2)、(C)成分および(D)成分との間で起こる架橋反応を抑制して、常温での可使時間を延長し、保存安定性を向上するために配合する任意の成分である。従って、本発明の硬化性組成物にとって、実用上、必然的に配合されることが好ましい成分である。
【0042】
ヒドロシリル化反応抑制剤として、アセチレン系化合物、エンイン化合物、有機窒素化合物、有機燐化合物、オキシム化合物が例示される。具体的には、3-メチル-1-ブチン-3-オール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、3-メチル-1-ペンチン-3-オール、1-エチニル-1-シクロヘキサノール、フェニルブチノール等のアルキンアルコール;3-メチル-3-ペンテン-1-イン、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-イン等のエンイン化合物;1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラヘキセニルシクロテトラシロキサン等のメチルアルケニルシクロシロキサン;ベンゾトリアゾールが例示される。
【0043】
ヒドロシリル化反応抑制剤の配合量は、本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物の常温での可使時間を延長し、保存安定性を向上するのに有効な量である。通常、(A1)成分および(A2)成分の和100質量%当り0.001~5質量%の範囲内であり、好ましくは0.01~2質量%の範囲内であるが、本成分の種類、白金系触媒の性能と含有量、組成物中のアルケニル基量、(B)成分中のケイ素原子結合水素原子量などに応じて適宜選定するとよい。
【0044】
[その他の充填材]
本発明にかかる組成物において、(B)成分以外の充填材は、所望により用いても、用いなくてもよい。その他の充填剤の種類は特に限定されないが、例えば、高誘電性充填剤、導電性充填剤、絶縁性充填剤および(B)成分以外の補強性充填剤が挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。なお、その他の充填剤の一部または全部は、(B)成分同様に、1種類以上の表面処理剤により表面処理されていてもよい。なお、これらの無機微粒子は、補強性充填材としての機能等、2種類以上の機能を併せ持つ場合がある。
【0045】
好ましい誘電性無機微粒子の例として、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸ジルコン酸鉛、およびチタン酸バリウムのバリウムおよびチタン部位の一部をカルシウム、ストロンチウム、イットリウム、ネオジム、サマリウム、ジスプロシウムなどのアルカリ土類金属、ジルコニウム、または希土類金属で置換した複合金属酸化物からなる群から選択される1種以上の無機微粒子が挙げられ、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウムカルシウム、及びチタン酸ストロンチウムがより好ましく、酸化チタン、チタン酸バリウムがさらに好ましい。
【0046】
特に、誘電性無機微粒子は、その少なくとも一部が、室温、1kHzにおける比誘電率が10以上の誘電性無機微粒子であることが特に好ましい。なお、当該無機微粒子の好ましい大きさ(平均一次粒子径)の上限は、20,000nm(20μm)であるが、後述するトランスデューサー用薄膜への加工性を考慮すると、10,000nm(10μm)がより好ましい。当該誘電性無機微粒子の使用により、オルガノポリシロキサン硬化物について、機械特性及び/又は電気的特性、特にその比誘電率をさらに改善できる場合がある。
【0047】
導電性無機微粒子としては、オルガノポリシロキサン硬化物に導電性を付与することができるものであれば特に制限はない。具体的には、導電性カーボンブラック、グラファイト、気相成長カーボン(VGCF)等の導電性カーボン;白金、金、銀、銅、ニッケル、錫、亜鉛、鉄、アルミニウム等の金属粉が挙げられ、更に、アンチモンがドープされた酸化錫、リンがドープされた酸化錫、酸化錫/アンチモンで表面被覆された針状酸化チタン、酸化スズ、酸化インジウム、酸化アンチモン、アンチモン酸亜鉛、カーボンやグラファイトのウィスカー表面に酸化錫等を被覆した顔料;錫ドープ酸化インジウム(ITO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、リンドープ酸化錫及び酸化ニッケルからなる群より選ばれる少なくとも1種の導電性金属酸化物を被覆した顔料;二酸化チタン粒子表面に酸化錫及びリンを含む導電性を有する顔料等が挙げられ、また、これらは、後述する各種表面処理剤で処理したものであってもよい。これらはそれぞれ単独で又は2種以上組合せて用いることができる。
【0048】
さらに、導電性無機微粒子は、ガラス繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維等の繊維、並びに、ホウ酸アルミニウムウィスカー、チタン酸カリウムウィスカー等の針状の補強材、ガラスビーズ、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、ドロマイト等の無機充填材の表面に金属等の導電性物質を被覆したものでもよい。
【0049】
本発明で使用可能な絶縁性無機微粒子としては、一般に知られる絶縁型無機材料、すなわち、体積抵抗率が1010~1018Ω・cmである無機材料の粒子であれば制限が無く、粒子状、フレーク状、ファイバー(ウィスカー含む)状のいずれの形状でも使用することができる。具体的には、セラミックの球状粒子、板状粒子、又はファイバーが挙げられ、アルミナ、酸化鉄、酸化銅、マイカやタルク等の金属シリケート、石英、非晶質シリカ、ガラス等の粒子が好ましい使用例として挙げられる。また、これらを後述する各種表面処理剤で処理したものであってもよい。これらはそれぞれ単独で又は2種以上組合せて用いることができる。絶縁性無機微粒子を組成物中に配合することにより、オルガノポリシロキサン硬化物の力学強度、絶縁破壊強度を増加させることが可能となり、比誘電率の増加も見られる場合がある。
【0050】
これら絶縁性無機粒子の配合量は、その用途に応じ、硬化性オルガノポリシロキサン組成物に対し0.1~20質量%の範囲が好ましく、0.1~5質量%の範囲がより好ましい。配合量が上記の好ましい範囲を外れると、配合による効果が得られない、もしくはオルガノポリシロキサン硬化物の力学強度が低下する場合がある。
【0051】
本発明で使用可能な熱伝導性無機微粒子としては、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化ニッケル、酸化バナジウム、酸化銅、酸化鉄、酸化銀等の金属酸化物粒子、および窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン等の無機化合物粒子が挙げられ、酸化亜鉛、窒化ホウ素、炭化ケイ素、および窒化ケイ素が好ましい。これら熱伝導性無機微粒子の1種以上を組成物中に配合することにより、オルガノポリシロキサン硬化物の熱伝導率を増加させることが可能となる。
【0052】
これらの無機粒子の平均粒子径の測定は当該分野で通常の測定方法により行うことができる。例えば、平均粒子径が50nm以上、500nm程度以下である場合は、透過型電子顕微鏡(TEM)、電界放射型透過電子顕微鏡(FE-TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)、電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)等の顕微鏡観察により粒子径を測定し、平均値を求めることで平均一次粒子径の測定ができる。一方、平均粒子径が500nm程度以上である場合は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置等により平均一次粒子径の値を直接求めることができる。
【0053】
[その他の任意成分]
本発明に係る硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、さらに離型性または絶縁破壊特性の改善のための添加剤、接着性向上剤等を含有することができる。
【0054】
本発明に係る硬化性オルガノポリシロキサン組成物を薄膜状に硬化して得られるフィルム状またはシート状の硬化物は、接着剤フィルム、トランスデューサーを構成する電気活性フィルム(誘電層または電極層)に好適に利用できるものであるが、薄膜形成時に硬化層の離型性が悪いと、特に高速でオルガノポリシロキサン硬化物フィルムを製造した場合に、型離れに起因してフィルムが破損する場合がある。また、アクチュエータ、タッチパネル等に用いる誘電層としては、低圧下での感度向上のため、接着性の低減を求められる場合がある。本発明に係る硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、フィルムにダメージを与えることなくフィルムの製造速度を向上させることができ、かつ、その他の離型剤の添加により、さらに粘着性を低減できる場合がある。
【0055】
本発明に係る硬化性オルガノポリシロキサン組成物に適用可能な離型性向上添加剤(=離型剤)としては、例えば、カルボン酸系離型剤、エステル系離型剤、エーテル系離型剤、ケトン系離型剤、アルコール系離型剤等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、前記離型剤としては、ケイ素原子を含まないもの、ケイ素原子を含むもの、又は、これらの混合物を使用することができる。これらの具体例は、例えば、上記の国際特許公開WO2014/105959号公報において提案されたものと同様である。
【0056】
絶縁破壊特性向上剤は、電気絶縁性向上剤であることが好ましく、アルミニウム又はマグネシウムの水酸化物又は塩、粘土鉱物、及び、これらの混合物、具体的には、ケイ酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、焼成クレイ、モンモリロナイト、ハイドロタルサイト、タルク、及び、これらの混合物からなる群から選択することができる。また、当該絶縁性向上剤は、公知の表面処理方法で処理されていてもよい。これらの具体例は、例えば、上記の国際特許公開WO2014/105959号公報において提案されたものと同様である。
【0057】
接着性向上剤は、本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物が硬化途上で接触している基材への接着性向上のためのものである。該組成物の硬化物である誘電層を再剥離しない場合に、有効な添加剤である。接着性向上剤として、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の有機官能性アルコキシシラン化合物、そのシロキサン誘導体、特にフッ素含有有機基で置換された鎖状または三次元樹脂状のシロキサン誘導体が例示される。特に好適な接着性向上剤として、
(g1) アミノ基含有オルガノアルコキシシランとエポキシ基含有オルガノアルコキシシランとの反応混合物
(g2) 一分子中に少なくとも二つのアルコキシシリル基を有し,かつそれらのシリル基の間にケイ素-酸素結合以外の結合が含まれている有機化合物、
(g3) 一般式:
Ra
nSi(ORb)4-n
(式中、Raは一価のエポキシ基含有有機基であり、Rbは炭素原子数1~6のアルキル基または水素原子である。nは1~3の範囲の数である)
で表されるエポキシ基含有シランまたはその部分加水分解縮合物
(g4) アルコキシシラン(エポキシ基含有有機基を有するものを除く)、またはその部分加水分解縮合物
などから選ばれる1種類または2種類以上が例示される。
【0058】
その他の任意成分として、本発明の技術的効果を損なわない限り、フェノール系、キノン系、アミン系、リン系、ホスファイト系、イオウ系、チオエーテル系などの酸化防止剤;トリアゾール系、ベンゾフェノン系などの光安定剤;リン酸エステル系、ハロゲン系、リン系、アンチモン系などの難燃剤;カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤などからなる1種類以上の帯電防止剤;染料、顔料などが例示される。
【0059】
[任意の溶媒]
本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、そのまま硬化反応に供することができるが、一方、該組成物が固形状である場合や粘ちょう液状である場合には、その混和性および取り扱い性を向上させるため、必要に応じて有機溶媒を使用することもできる。特に、本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物をフィルム状に塗工する場合、全体粘度が100~10,000mPa・sとなる範囲に、溶媒を用いて粘度調整をすることが好ましく、溶媒で希釈する場合、上記の固形分の和(100質量部)に対して、0~2000質量部の範囲で用いることができる。すなわち、本発明組成物において、溶媒は、0質量部であってもよい。なお、本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、上記の(A1)成分と(A2)成分の組み合わせを選択しているために、溶媒フリーとする設計が可能であり、硬化して得られるフィルム中にフッ素系溶媒、有機溶媒等が残留せず、環境負荷の問題および電子デバイスへの溶媒の影響を解消できる利点がある。
【0060】
ここで使用する有機溶媒としては、組成物中の全構成成分または一部の構成成分を溶解させ得る化合物であれば、その種類は特に限定されず、沸点が80℃以上200℃未満のものが好ましく使用される。例えば、i-プロピルアルコール、t-ブチルアルコール、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、メシチレン、1,4-ジオキサン、ジブチルエーテル、アニソール、4-メチルアニソール、エチルベンゼン、エトキシベンゼン、エチレングリコール、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、2-メトキシエタノール(エチレングリコールモノメチルエーテル)、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、1-メトキシ-2-プロピルアセテート、1-エトキシ-2-プロピルアセテート、オクタメチルシクロテトラシロキサン、及びヘキサメチルジシロキサン等の非ハロゲン系溶媒、トリフルオロメチルベンゼン、1,2-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,4-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、トリフルオロメチルクロロベンゼン、トリフルオロメチルフルオロベンゼン、ハイドロフルオロエーテル等のハロゲン系溶媒が挙げられる。これらの有機溶媒は単独で用いてもよく、二種以上を混合して使用してもよい。硬化性組成物中のフルオロアルキル基含有量が高いほど、上記のハロゲン系溶媒の使用比率を高める必要がある。
【0061】
[組成物の全体粘度]
本組成物の25℃における粘度は、上記のフィルム加工性の見地から、本組成物を薄膜上に塗工できる程度の粘度範囲であることが好ましく、25℃において回転粘度計を用いて剪断速度0.1(S-1)で測定した組成物の全体粘度が10~150Pa・sの範囲であり、かつ、剪断速度10.0(S-1)で測定した組成物の全体粘度が10~75Pa・sの範囲であることが特に好ましい。本発明の組成物は、かかる低粘度かつ溶媒フリーの組成とすることができるので、薄膜状のフィルム、または当該フィルムである厚さ1~200μmの電気活性フィルムまたは電気活性シートの製造に極めて好適である。
【0062】
本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、上記の各成分を均一に混合することにより、調製することができる。各種攪拌機あるいは混練機を用いて、常温で混合すればよいが、混合中に硬化しない成分の組合せであれば、加熱下で混合してもよい。また、混合に当たっては、押出機又は混練機(より具体的には、2軸押出機、2軸混練機および単軸ブレード型押出機から選ばれる1種類以上の機械的手段)を用いて混練することで製造してもよく、特に、本発明においては、反応性オルガノポリシロキサン成分と充填材および表面処理剤を、フリーボリュームが5,000(L/時間)以上の二軸押出機を用いて混練することで、無機微粒子を高濃度(例えば、80質量%以上)で含有するシリコーンゴムコンパウンド(マスターバッチ)を形成させた後、他の反応性オルガノポリシロキサン成分、硬化触媒、およびその他の成分を加えて混練して硬化性オルガノポリシロキサン組成物を製造してもよい。
【0063】
混合中に硬化しなければ、各成分の配合順序は特に制限されるものではない。混合後、直ちに使用しないときは、(B)成分と(C)成分が同一の容器内に存在しないように複数の容器に分けて保管しておき、使用直前に全容器内の成分を混合することが好ましい。
【0064】
本発明の、フルオロアルキル基含有硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化反応は、通常、該組成物を加熱あるいは活性エネルギー線にさらすことにより達成される。熱による硬化反応温度は、特に限定されないが、50℃以上200℃以下が好ましく、60℃以上200℃以下がより好ましく、80℃以上180℃以下がさらに好ましい。また、硬化反応にかける時間は、上記(A)、(B)、(C)成分の構造に依存するが、通常1秒以上3時間以下である。一般的には、90~180℃の範囲内で10秒~30分保持することにより硬化物を得ることができる。
【0065】
硬化反応に使用され得る活性エネルギー線としては、紫外線、電子線、及び放射線等が挙げられるが、実用性の点で紫外線が好ましい。紫外線により硬化反応を行なう場合は、使用する紫外線に対して高い活性を有するヒドロシリル化反応用触媒、例えばビス(2,4-ペンタンジオナト)白金錯体、(メチルシクロペンタジエニル)トリメチル白金錯体、を添加することが望ましい。紫外線発生源としては高圧水銀ランプ、中圧水銀ランプ、Xe-Hgランプ、及びディープUVランプ等が好適であり、その際の照射量は、100~8,000mJ/cm2が好ましい。
【0066】
本発明の硬化物は、上記の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化してなることを特徴とする。硬化物の形状は特に限定されず、例えば、シート状、フィルム状、テープ状が挙げられる。特に、上記の硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、硬化速度が大きく、フィルムなどの成形品を製造するための加工性が良好であり、所望の厚み、形状の硬化物を効率よく生産することができる。
【0067】
[部材]
上記の硬化物は、電気的特性および機械的特性に優れたゲルまたはエラストマーであり、高い比誘電率および機械的強度(具体的には、引っ張り強度、引き裂き強度、伸び率等)を有する。このため、当該オルガノポリシロキサン組成物を薄膜状に硬化して得られる電気活性シリコーンエラストマーシートまたは電気活性シリコーンゲルシートは、電子材料、表示装置用部材またはトランスデューサー用部材(センサー、スピーカー、アクチュエータ、およびジェネレーター用を含む)として使用でき、特に、トランスデューサーを構成する電気活性フィルム(誘電層または電極層)として好適に利用できる。
【0068】
[機械的強度]
本発明に係る硬化性オルガノポリシロキサン組成物を少なくとも部分的に硬化して得られる、オルガノポリシロキサン硬化物は、2.0mm厚のシート状に加熱成形した場合、JIS K 6249に基づいて測定される以下の力学物性を有するように設計可能である。
(1)ヤング率(MPa)は、室温下において、10MPa以下とすることができ、特に好適な範囲は、0.1~2.5MPaである。
(2)引き裂き強さ (N/mm) は、室温下において、1N/mm以上とすることができ、特に好適な範囲は、2N/mm以上である。
(3)引っ張り強さ (MPa) は、室温下において、1MPa以上とすることができ、特に好適な範囲は、2MPa以上である。
(4)破断伸び (%) は、200%以上とすることができ、トランスデューサーの変位量の見地から、特に好適な範囲は、200-1000%の範囲である。
【0069】
[誘電特性]
本発明に係る硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化して得られる、オルガノポリシロキサン硬化物(エラストマーまたはゲル)は、以下の誘電特性を有するように設計可能である。
(1)0.10mm厚のシート状に加熱成形した場合、その絶縁破壊強度(V/μm)を、20V/μm以上とすることができる。好適な絶縁破壊強度は、トランスデューサーの用途に応じて変わるが、特に好適な範囲は、30V/μm以上である。
(2)1mm厚のシート状に加熱成形した場合、測定温度25℃、測定周波数100KHzの条件下で測定された比誘電率を、3.0以上とすることができる。好適な比誘電率は、トランスデューサーの種類および求められる誘電層の形態に応じて適宜設定可能である。
【0070】
本発明に係る硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化または半硬化させてなるオルガノポリシロキサン硬化物は、その誘電特性及び力学物性から、特に人工筋肉、アクチュエータ、センサ、及び発電素子から選ばれるトランスデューサー用部材として好適に使用することができる。具体的には、硬化性オルガノポリシロキサン組成物をシート状またはフィルム状に成形した後、加熱または高エネルギー線の照射等により硬化させることが一般的である。硬化性オルガノポリシロキサン組成物をフィルム状に成形する方法としては、特に限定されないが、例えば、硬化性オルガノポリシロキサン組成物を従来公知の塗布方法で基材上に塗布して塗膜にする方法、所定の形状のスロットを設けた押出機を通して成形する方法等を挙げることができる。
【0071】
こうしたフィルム状の硬化性オルガノポリシロキサン組成物の厚さは、例えば、0.1μm~5,000μmの範囲内にすることができる。前記の塗布方法および揮発溶剤の有無によっては得られる硬化物の厚みが、組成物の塗布する厚さより薄くなる場合がある。
【0072】
さらに、オルガノポリシロキサン硬化物のフィルムまたはシートは実質的に平坦であることが好ましい。具体的には、このようなオルガノポリシロキサン硬化物は、フィルムの幅方向について、末端の厚みと中央の厚みの差が5.0%以内であり、フィルム中央の厚みが50~1000μmの範囲にある、オルガノポリシロキサン硬化物の高誘電性フィルムであってよい。このようなオルガノポリシロキサン硬化物のフィルムまたはシート、およびその製造技術は、本件出願人が国際特許出願(PCT/JP2017/15028)において提案したとおりであり、本発明にかかるオルガノポリシロキサン硬化物についても適用が可能である。かかる平坦なオルガノポリシロキサン硬化物のフィルムまたはシートを、後述する方法で複数積層することにより、実質的に平坦かつ任意の厚みを有するトランスデューサー用部材が設計可能である。
【0073】
なお、上述した方法によりフィルム状の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を製造した後、任意で、このフィルム状の硬化性オルガノポリシロキサン組成物に、目的とする誘電性無機微粒子の配向方向に磁場又は電場を印加させながら、あるいは一定時間磁場または電場を印加してフィラーを配向させた後、硬化性オルガノポリシロキサン組成物を加熱硬化、常温硬化または高エネルギー線照射により硬化させてもよい。各硬化又硬化の条件は、特に限定されないが、硬化性オルガノポリシロキサン組成物が、付加硬化性オルガノポリシロキサン組成物である場合、90℃~180℃の範囲内で30秒~30分保持することにより行われる。
【0074】
本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化してなる硬化層が誘電層、特に、アクチュエータ等のトランスデューサー用の誘電性フィルム部材である場合、当該硬化層は、剥離コーティング能を有する剥離層を備えたフィルム基材上に、剥離可能な状態で配置した積層体フィルムとして取り扱うことが好ましい。
【0075】
剥離層は剥離ライナー、セパレーター、離型層あるいは剥離コーティング層と呼ばれることもあり、好適には、シリコーン系剥離剤、フッ素系剥離剤、アルキド系剥離剤、またはフルオロシリコーン系剥離剤等の剥離コーティング能を有する剥離層、基材表面に物理的に微細な凹凸を形成させたり、本発明の感圧接着層と付着しにくい基材それ自体であってもよい。特に本発明にかかる積層体フィルムにおいては、剥離層として、フルオロシリコーン系剥離剤を硬化させてなる剥離層の使用が好ましい。
【0076】
トランスデューサー用部材であるオルガノポリシロキサン硬化物の厚さは、特に限定されないが、例えば1~2,000μmである。ここで、本発明に係るオルガノポリシロキサン硬化物は、1層または2層以上を積層したものであり、さらに、誘電層の両端に電極層を設け、かつ、電極層および誘電層からなるトランスデューサー自体を高積層する構造であってもよい。この場合、一層あたりのオルガノポリシロキサン硬化物の厚さは0.1μm~1,000μmであり、これを2層以上積層することによって、0.2~2,000μmの厚さとしてもよい。
【0077】
前記の積層されたオルガノポリシロキサン硬化層の形成方法は特に制限されるものではないが、(1)基材上に硬化性オルガノポリシロキサン組成物を塗布し、硬化させてオルガノポリシロキサン硬化物層を得た後、同硬化層上にさらに硬化性オルガノポリシロキサン組成物を塗布し、順次硬化と塗布を繰り返して積層する方法、(2)基材上に硬化性オルガノポリシロキサン組成物を未硬化または半硬化状態で重層的に塗布し、重層的に塗工された異なる硬化性オルガノポリシロキサン組成物全体を硬化させる方法、(3)剥離層を有する基材上に硬化性オルガノポリシロキサン組成物を塗布し、硬化させてオルガノポリシロキサン硬化物層を得た後、当該硬化層を剥離層から分離し、別途同様に準備したオルガノポリシロキサン硬化物層に物理的に積層する方法、または(4)これらの組み合わせのいずれであっても実施することができる。
【0078】
本願発明においては、例えば、硬化性オルガノポリシロキサン組成物をダイコーティングによって基板に塗布して硬化させ、前記の積層された2種類以上のシリコーンエラストマー硬化層を形成させ、さらに得られたシリコーンエラストマー硬化層を電極と接着することによって製造することができる。この場合、積層された2種類以上のシリコーンエラストマー硬化層は誘電層であり、電極は導電層であることが好ましい。
【0079】
ダイコーティングは高速塗布が可能であり、生産性の高い塗布方式である。本発明の多層構造を有するトランスデューサーは、オルガノポリシロキサン組成物を含む1つの層を単層塗布した後に、別のオルガノポリシロキサン組成物を含む層を塗布することによって製造してもよい。また、各オルガノポリシロキサン組成物を含む層を、同時に重層塗布することによって製造することもできる。
【0080】
トランスデューサー用部材であるオルガノポリシロキサン硬化物は、前記の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を基板上に塗工し、室温下、加熱下または紫外線等の高エネルギー線照射下で硬化させることにより得ることができる。また、薄膜状誘電性シリコーンエラストマーを重層する場合、硬化層上に未硬化の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を塗工して順次硬化させてもよく、未硬化の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を重層して、同時に硬化させてもよい。
【0081】
上記の薄膜状オルガノポリシロキサン硬化物は、特に、トランスデューサーの誘電層として有用であり、その両端に電極層を設けることで、トランスデューサーを形成することができる。なお、本発明に係る硬化性オルガノポリシロキサン組成物に導電性無機粒子を配合することで、電極層としての機能を付与してもよい。なお、本発明の明細書において、「電極層」は、単に「電極」ということもある。
【0082】
上記のトランスデューサー用部材の一つの形態は薄膜であり、シートまたはフィルム状である。膜厚は一般に1μm~2,000μmであり、単層、2層以上、またはさらに多くの層が積層された構造を含む。また、所望により積層された電気活性オルガノポリシロキサン硬化物層は、誘電層として用いる場合、5μm~10,000μm、または重層によりそれ以上の膜厚とすることができる。
【0083】
当該トランスデューサー用部材である薄膜状オルガノポリシロキサン硬化物層は、同一の薄膜状シリコーンエラストマーを重層してもよく、異なる2種類以上の物理特性または硬化前組成の異なる薄膜状シリコーンエラストマーを重層してもよい。また、薄膜状オルガノポリシロキサン硬化物層の機能は、誘電層であっても良く、電極層であってもよい。特に誘電層の厚さが1~1,000μmであり、かつ電極層の厚さが0.05μm~100μmであるトランスデューサー用部材が好ましく例示される。
【0084】
本発明のトランスデューサーは、本発明に係る硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化させてなる当該トランスデューサー用部材を有することを特徴とし、特に、高積層構造、すなわち2層以上の誘電層を含んだ構造を有していてもよい。更に3層以上の誘電層を含んだ構造を有してもよい。このような高積層構造を有するトランスデューサーは、複数の層を含むことによって、より大きな力を発生させることができる。また、積層することにより、単一の層と比較してより大きな変位を得ることができる。
【0085】
本発明のトランスデューサーの誘電層の両端には電極を含むことができる。電極の材質としては、金、白金、銀、パラジウム、銅、ニッケル、アルミニウム、チタン、亜鉛、ジルコニウム、鉄、コバルト、錫、鉛、インジウム、クロム、モリブデン、及びマンガン等の金属及びこれらの合金;インジウム-錫複合酸化物(ITO)、アンチモン-錫複合酸化物(ATO)、酸化ルテニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、及び酸化錫等の金属酸化物;カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノシート、炭素繊維、及びカーボンブラック等のカーボン材料;並びにポリ(エチレン-3,4-ジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリアニリン及びポリピロール等の導電性樹脂を使用することができる。導電性フィラーを樹脂中に分散した導電性樹脂及びエラストマーを使用してもよい。
【0086】
電極は上記の導電性物質のうちの1種を単独で含んでいても、2種以上を含んでいてもよい。電極が2種以上の導電性物質を含む場合には、そのうちの少なくとも1種を活物質として機能させ、残り電極の抵抗を低減させるための導電材として機能させることもできる。
【0087】
本発明のトランスデューサーの誘電層の厚みの合計は、10μm~2,000μm(2mm)の範囲とすることができるが、特に200μm以上とすることができる。特に、誘電層を形成する誘電性シリコーンエラストマー一層あたりの厚さが0.1~500μmであることが好ましく、0.1~200μmの厚さであることが特に好ましい。これらの薄いシリコーンエラストマー層を2層以上積層することにより、1層の場合に比して、絶縁破壊電圧、誘電率、および変位量等の特性を改善することができる。
【0088】
本発明においてトランスデューサーとは、ある種類のエネルギーを別のエネルギーに変換する素子、機器及び装置をいい、例えば電気エネルギーを機械エネルギーに変換する人工筋肉及びアクチュエータ、機械エネルギーを電気エネルギーに変換するセンサ及び発電素子、電気エネルギーを音響エネルギーに変換するスピーカー、マイクロフォン及びヘッドフォンが挙げられる。
【0089】
本発明のトランスデューサーは、その誘電性及び機械特性から、特に人工筋肉、アクチュエータ、センサ、及び発電素子として使用することができる。人工筋肉は、ロボット、介護機器及びリハビリ機器等への応用が期待されている。例として、アクチュエータの実施形態について以下で説明する。
【0090】
図1に、誘電層を積層した場合における、本実施形態のアクチュエータ1の断面図を示す。本実施形態では、例として誘電層は2層としている。アクチュエータ1は、誘電層10a及び10bと、電極層11a及び11bと、配線12と、電源13とを備えている。電極層11a及び11bは、それぞれ接触している誘電層の一面を覆っており、それぞれ配線12を介して電源13と接続されている。
【0091】
アクチュエータ1は、電極層11aと電極層11bとの間に電圧を印加することによって駆動させることができる。電圧を印加することにより、誘電層10a及び10bは、その誘電性により厚さが薄くなり、電極層11a及び11bの面に対して平行に伸長することとなる。すなわち、電気エネルギーを力、変動又は変位の機械エネルギーに変換することができる。
【0092】
図2に、誘電層及び電極層を積層した場合における、本実施形態のアクチュエータ2の断面図を示す。本実施形態では、例として誘電層は3層、電極層は4層としている。アクチュエータ2は、誘電層20a、20b及び20cと、電極層21a、21b、21c及び21dと、配線22と、電源23とを備えている。電極層21a、21b、21c及び21dは、それぞれ接触している誘電層の一面を覆っており、それぞれ配線22を介して電源23と接続されている。電極層は交互にそれぞれ電圧の異なる側と接続されており、電極層21a及び21cと、電極層21b及び21dとはそれぞれ異なる側と接続されている。
【0093】
アクチュエータ2は、電極層21aと電極層21bとの間、電極層21bと電極層21cとの間、及び電極層21cと電極層21dとの間に電圧を印加することによって駆動させることができる。電圧を印加することにより、誘電層20a、20b及び20cは、その誘電性により厚さが薄くなり、電極層21a、21b、21c及び21dの面に対して平行に伸長することとなる。すなわち、電気エネルギーを力、変動又は変位の機械エネルギーに変換することができる。
【0094】
本発明のトランスデューサーの一例としてのアクチュエータの実施形態は以上で述べたとおりであるが、他にも本発明のトランスデューサーに外部から圧力等の機械エネルギーを加えると、誘電層の変形に伴って電極層間の静電容量が変化するため、当該変化を読み取るセンサとして使用することもできる。このセンサの実施形態について以下で説明する。
【0095】
図3に、本実施形態のセンサ3の構成を示す。センサ3は、誘電層30を、マトリックス状に配置した上部電極層31a、31b及び31cと、下部電極層32a、32b及び32cとの間に配置した構造を有している。本実施形態では、例として縦方向及び横方向に電極層を3列のマトリックス上に配置した構成としている。各電極層は、誘電層30と接していない面を絶縁層で保護することができる。また、誘電層30は、オルガノポリシロキサンを含む同一の誘電層を2層以上含んでいる。
【0096】
センサ3の表面に外力が印加されると、印加された場所の上部電極層と下部電極層の間の誘電層30の厚みが変化し、この変化に伴って電極層間の静電容量が変化する。たとえば、この電極層間の静電容量の変化に伴う電圧変化を計測することによって、外力を検出することができる。
【0097】
なお、本実施形態のセンサ3では、誘電層を挟んで対向する電極層は三対形成されているが、電極層の数、大きさ、及び配置等は、用途に応じて適宜決定することができる。
【0098】
発電素子は、機械エネルギーを電気エネルギーに変換するトランスデューサーであり、波力、水力、及び水力等の自然エネルギーによる発電をはじめ、振動、衝撃、及び圧力変化等によって発電する装置に応用することができる。この発電素子の実施形態について以下で説明する。
【0099】
図4に、誘電層を積層した場合における、本実施形態の発電素子4の断面図を示す。本実施形態では、例として誘電層は2層としている。発電素子4は、誘電層40a及び40bと、電極層41a及び41bとを備えており、電極層41a及び41bは、それぞれ接触している誘電層の一面を覆っている。
【0100】
電極層41aと41bとは、図示しない負荷に電気的に接続されており、本発電素子4は、電極層41aと41bとの間の距離を変化させることにより静電容量を変化させて電気エネルギーを生じさせる。すなわち、誘電層40a及び40bにより形成される静電場によって電極層41aと41bが静電誘導された状態で素子形状を変化させることにより、発電する。
【0101】
本実施形態において、
図4に示す発電素子4の電極層41a及び41bの面に対して平行方向に圧縮力が印加された状態(上図)から同図に示す圧縮力が印加されない状態(下図)に変化することにより、たとえば、電極層41aと41bとの間に静電容量変化が生じ、機械エネルギーを電気エネルギーに変換することができる。また、複数の素子を基板上に配置し、それらを直列又は並列接続して発電量を向上させた発電装置を構成することもできる。
【0102】
本発明のトランスデューサーは、空気中、水中、真空中、及び有機溶媒中で動作することができる。また、使用環境に応じて、適宜封止処理を行ってもよい。封止方法は特に限定されず、例えば樹脂材料による封止等が挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物、および、それを硬化してなる硬化物は、力学特性および電気特性に優れたエラストマーまたはゲル状部材が要求される用途、例えばトランスデューサーの製造に好適に使用することができる。本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物には、未硬化の硬化性組成物だけでなく、反応性オルガノポリシロキサンが部分的に反応しているが、硬化には至っていない硬化途中の状態にあるいわゆるBステージ材料も含まれる。本発明のBステージ材料としては、ゲル又は流動性を有する状態のものが挙げられる。したがって、本発明の態様には、硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化反応が一部進んだ状態の、ゲル又は流動性を有する状態のトランスデューサー用部材も含まれる。また、このような半硬化状態のトランスデューサー用部材には、薄膜状オルガノポリシロキサン硬化物が一層または積層された構造のいずれであってもよい。
【0104】
特に、上記の硬化物は、電気的特性および機械的特性に優れたゲルまたはエラストマーであり、高い比誘電率および機械的強度(具体的には、引っ張り強度、引き裂き強度、伸び率等)を有する。このため、当該オルガノポリシロキサン組成物を薄膜状に硬化して得られる電気活性シリコーンエラストマーシートまたは電気活性シリコーンゲルシートは、トランスデューサーを構成する電気活性フィルム(誘電層または電極層)に好適に利用できる。例えば、本出願人らが前記の特許文献1または特許文献2で提案したトランスデューサー材料として有用であるほか、シリコーン以外の誘電性エラストマーを用いるトランスデューサー装置についても、特に制限なく適用が可能であり、誘電性エラストマー層の一部又は全部を上記の硬化物に置き換えて設計が可能である。このようなトランスデューサー(アクチュエータ含む)の構造は多数提案されており、例えば、国際公開特許公報として、WO2011/118315号;日本国公開特許公報として、特表2008-533973号、特表2001-524278号、特開2008-187079号、特開2008-277729号、特開2009-59856号、特開2009-219302号、特開2012-65427号、特開2016-226258号、特開2017-064836号などが挙げられる。なお、上記の硬化物による誘電性エラストマー層の一部又は全部の置換に伴う、構造設計乃至設計変更を行うことは、当業者の通常の創作により対応可能であり、本発明はそのような創作を強く示唆するものである。
【0105】
同様に、上記の硬化物は、いわゆる「高分子アクチュエータ」あるいは「ポリマーアクチュエータ」として知られるアクチュエータ素子構造における電解質層または誘電層を代替して利用することもできる。具体的には、電解質層(ポリマーにイオン液体が含まれた電解質層含む)と、前記電解質層に形成された電極層とを有し、前記電解質層に印加される電圧に応じて変形する高分子アクチュエータにおいて、電解質層の一部又は全部を代替して利用することが可能である。なお、このような高分子アクチュエータの構造は多数提案されており、国際公開特許公報として、WO10/100907号、WO10/110417号、WO11/114965号、WO10/029992号、WO13/118628号、WO14/104331号;日本国公開特許公報として、特開2004-282992号、特開2008-251697号、特開2010-003553号、特開2012-055153号、特開2013-255397号、特開2013-106491号、特開2013-251942号、特開2015-126597号、特開2015-186301号、特開2016-189651号などが挙げられる。なお、本発明にかかるオルガノポリシロキサン硬化物は、電解質と異なり、エラストマー乃至ゲル状で所望の形状に設計可能であり、特に積層乃至高い変位量が求められる構造設計に有用である。従って、既存の高分子アクチュエータにおいて、上記の機械特性および誘電特性を反映した構造設計乃至設計変更を行うことは、当業者の通常の創作により対応可能であり、本発明はそのような創作を強く示唆するものである。
【0106】
本発明のフルオロアルキル基含有硬化性オルガノポリシロキサン組成物、それを硬化してなる硬化物は、その他の用途としては、上記に開示した他に何ら制約はなく、本発明のフルオロアルキル基含有硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化してなる硬化物を備えてなる誘電層フィルムはテレビ受像機、コンピューター用モニター、携帯情報端末用モニター、監視用モニター、ビデオカメラ、デジタルカメラ、携帯電話、携帯情報端末、自動車などの計器盤用ディスプレイ、種々の設備・装置・機器の計器盤用ディスプレイ、自動券売機、現金自動預け払い機、など、文字や記号、画像を表示するための種々のフラットパネルディスプレイ(FPD)に使用することができる。装置としては、CRTディスプレイ、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、無機ELディスプレイ、LEDディスプレイ、表面電解ディスプレイ(SED)、電界放出型ディスプレイ(FED)などの表示装置や、これらを利用したタッチパネルに応用が可能である。本発明のフィルムは、これらの、ディスプレイ表面の傷つき防止、汚れ防止、指紋付着防止、帯電防止、反射防止、のぞき見防止などの目的で使用してもよい。
【実施例】
【0107】
以下、本発明に関して実施例を挙げて説明するが、本発明は、これらによって限定されるものではない。以下に示す実施例では下記の化合物を用いた。
【0108】
・成分(a1-1):両末端ビニルジメチルシロキシ基封鎖、ジメチルシロキサンポリマー(ビニル基含有量:0.22質量%、シロキサン重合度:335)
・成分(a1-2):両末端ビニルジメチルシロキシ基封鎖、ジメチルシロキサンポリマー(ビニル基含有量:0.14質量%、シロキサン重合度:538)
・成分(a2):両末端ビニルジメチルシロキシ基封鎖、ジメチルシロキサンポリマー(ビニル基含有量:0.09質量%、シロキサン重合度:835)
・成分(b1):ヘキサメチルジシラザン、ジビニルテトラメチルジシラザンおよび両末端ヒドロキシジメチルシロキシ基封鎖、ジメチルシロキシユニットとビニルメチルシロキシユニットを有するシロキサンポリマー(ビニル基重量%が約11)で処理したヒュームドシリカ(処理前の製品名:CAB-O-SIL(R)MS75D)
・成分(b2):ヘキサメチルジシラザンで処理したヒュームドシリカ(処理前の製品名:CAB-O-SIL(R)MS75D)
・成分(c):トリメチルシロキシ単位(M)およびビニルジメチルシロキシ単位(ViM)と4官能シロキシ単位(Q、SiO4/2)単位から構成されるビニル基含有MQレジン(ビニル基含有量:1.60質量%)
・成分(d):両末端トリメチルシロキシ基封鎖、ジメチルシロキシ-メチルヒドロシロキシ-シロキサンコポリマー(ケイ素結合水含有量:0.70質量%)。
・成分(e):白金-1,3-ジビニル1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体の両末端ビニルジメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサンポリマー溶液(白金濃度で約0.6重量%)
<ヒドロシリル化反応抑制剤>
・成分(f):1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニル-シクロテトラシロキサン
【0109】
[実施例1~9、比較例1~5]
表1(実施例)および表2(比較例)に、各実験例の組成を示した。各成分に対応する数値は質量%であり、その総和は100質量%である。また、以下の実施例では組成物中のビニル基1モル当たり、架橋剤である成分(d)のケイ素原子結合水素原子(Si-H)が1.3~2.0モルとなる範囲の量で用いた。さらに、表1および表2に以下の方法で測定した硬化前または硬化後の物性を示した。
【0110】
[組成物の硬化前の粘度]
各組成物の硬化前粘度は、粘弾性測定装置(アントンパール社製、型番MCR102)を使用して測定した。直径20mm、2°のコーン-プレートを用い、シェアレートを変えて測定を行った。25℃、剪断速度0.1(S-1)および10.0(S-1)で測定した組成物の全体粘度を各々記録した。
【0111】
[硬化物の物性測定]
各組成物を150℃で15分間プレスキュアし、更に150℃で60分~120分間オーブン中ポストキュアを施し、硬化物を得た。JIS-K6249に基づき、得られた硬化物の引裂強さを測定し、また引張強さおよび破断伸びを測定し、ヤング率(モジュラス)を求めた。なお、機械的強度の測定のため、シートの厚さは2mmとした。また、厚さ6mmシートのデュロメータA硬度を測定した。
【0112】
また、上記条件にて厚さ約0.1mmのシートを作製し、電気絶縁油破壊電圧試験装置 総研電気株式会社製PORTATEST 100A-2で絶縁破壊強さを測定した。各硬化物シートについて、計10箇所測定しその中間値を表に示した。同様に、厚さ1mmのシートを作製し、LCRメーター ウェインカー社製6530P/D2で温度25℃、周波数20Hz~1MHzの範囲で比誘電率を測定した。実施例および比較例3-5における硬化物シートの100KHzでの比誘電率の値は3であった。
【0113】
[比較例1-5]
前記(B1)以外の成分を用い、表2に示す組成で実施例と同様に硬化性オルガノポリシロキサン組成物を作製し、上述した各種測定を行なった。
【0114】
【0115】
【表2】
*比較例1、2については組成物が高粘度であり、フィルム加工性がよくないため、硬度以外の特性を測定しなかった。
【0116】
[総括]
上記のとおり、実施例1~9において、組成物の硬化前粘度が低く、フィルム加工性に優れ、かつ、その硬化物は引裂強度、引張強度、伸縮性等の機械的特性に著しく優れるものであるから、アクチュエーターをはじめとする各種トランスデューサー用途に好適であることを確認した。一方、比較例1,2のように、(A1)/(A2)成分を所定の比率で使用しないと、組成物の硬化前粘度が高く、実用性が低くなる。また。その他の公知の組成ないし本発明の要件を満たさない組成においては、引裂強度を含む硬化物の物性におとり、アクチュエーターをはじめとする各種トランスデューサー用途における電気活性フィルムまたは電気活性シートとして十分に利用できないものであった。
【0117】
このような本発明実施例に係る有硬化性オルガノポリシロキサン組成物を用いて得られた硬化物は、高い電気的特性に加え、所望により多様な硬度/ヤング率の硬化物を設計可能であり、かつ、幅広く利用することができる。
【符号の説明】
【0118】
1、2 アクチュエーター
10a、10b、20a、20b、20c 誘電層
11a、11b、21a、21b、21c、21d 電極層(導電層)
12、22 配線
13、23 電源
3 センサ
30 誘電層
31a、31b、31c 上部電極層
32a、32b、32c 下部電極層
4 発電素子
40a、40b 誘電層
41a、41b 電極層