(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】フィルタ回路及びプラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
H05H 1/46 20060101AFI20240806BHJP
H01L 21/3065 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
H05H1/46 M
H01L21/302 101B
(21)【出願番号】P 2021014287
(22)【出願日】2021-02-01
【審査請求日】2023-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】山岸 幸司
(72)【発明者】
【氏名】青田 雄嗣
(72)【発明者】
【氏名】永海 幸一
(72)【発明者】
【氏名】石原田 幸太
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-003179(JP,A)
【文献】国際公開第2018/173095(WO,A1)
【文献】特開2019-021803(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/302
H05H 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極と、前記電極の背面の中心部に接続される給電体と、を有し、高周波電力を印加することによってプラズマを生成するプラズマ処理装置に用いられる高周波電力のフィルタ回路であって、
前記フィルタ回路は、
前記プラズマ処理装置に設けられた
上部電極と、前記
上部電極に直流の電力又は400kHz未満の周波数の電力を供給する電源と、の間の配線に設けられ、
前記配線に直列に接続されたコイルと、
前記配線とグランドとの間に接続されたコンデンサと、を有する直列共振回路を有し、
前記コイルの中心軸と前記給電体の中心軸とが一致する、フィルタ回路。
【請求項2】
前記コイルの一端は、前記コイルよりも前記電極側の給電体又は前記電極に接続されている、
請求項1に記載のフィルタ回路。
【請求項3】
前記コイルは、前記給電体の外周に位置する、
請求項1又は2に記載のフィルタ回路。
【請求項4】
前記給電体の内部は空洞であり、前記コイルは前記空洞の内部に位置する、
請求項1又は2に記載のフィルタ回路。
【請求項5】
前記給電体を介して電極に400kHz以上の周波数の高周波電力を印加する、
請求項1~4のいずれか一項に記載のフィルタ回路。
【請求項6】
前記コイルは、前記給電体の中心軸に対して前記電極側に向かって広がるように構成される、
請求項1~5のいずれか一項に記載のフィルタ回路。
【請求項7】
前記給電体が接続される前記電極の背面の下方であって前記電極の内部に、磁場を遮蔽する遮蔽板が埋設されている、
請求項1~6のいずれか一項に記載のフィルタ回路。
【請求項8】
前記コイルは、前記給電体の中心軸に沿って可動する、
請求項1~7いずれか一項に記載のフィルタ回路。
【請求項9】
前記コイルは、上下駆動機構に接続され、前記上下駆動機構によりコイルの高さ方向に上下動可能である、
請求項1~8いずれか一項に記載のフィルタ回路。
【請求項10】
前記コイルは、伸縮調節機構に接続され、前記伸縮調節機構により伸縮可能である、
請求項1~9いずれか一項に記載のフィルタ回路。
【請求項11】
電極と、前記電極の背面の中心部に接続される給電体と、高周波電力のフィルタ回路と、を有し、高周波電力を印加することによってプラズマを生成するプラズマ処理装置であって、
前記フィルタ回路は、
前記プラズマ処理装置に設けられた
上部電極と、前記
上部電極に直流の電力又は400kHz未満の周波数の電力を供給する電源と、の間の配線に設けられ、
前記配線に直列に接続されたコイルと、
前記配線とグランドとの間に接続されたコンデンサと、を有する直列共振回路を有し、
前記コイルの中心軸と前記給電体の中心軸とが一致する、プラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フィルタ回路及びプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1は、上部電極にプラズマ生成用の高周波(RF)の電力を印加する際に、フィルタを介して直流(DC)電圧を重畳するプラズマ処理装置を提案する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電極に印加する電力の周波数が、100MHz程度又はそれ以上になると、フィルタ内のコイルから生じる磁場の影響でプラズマ密度分布に偏りが生じる場合がある。
【0005】
本開示は、プラズマ密度分布の偏りをなくし、エッチング特性を改善することができるフィルタ回路及びプラズマ処理装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一の態様によれば、電極と、前記電極の背面の中心部に接続される給電体と、を有し、高周波電力を印加することによってプラズマを生成するプラズマ処理装置に用いられる高周波電力のフィルタ回路であって、前記フィルタ回路は、前記プラズマ処理装置に設けられた導電性部材と、前記導電性部材に直流の電力又は400kHz未満の周波数の電力を供給する電源と、の間の配線に設けられ、前記配線に直列に接続されたコイルと、前記配線とグランドとの間に接続されたコンデンサと、を有する直列共振回路を有し、前記コイルの中心軸と前記給電体の中心軸とが一致する、フィルタ回路が提供される。
【発明の効果】
【0007】
一の側面によれば、プラズマ密度分布の偏りをなくし、エッチング特性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係るプラズマ処理装置を含むプラズマ処理システムの一例を示す図。
【
図2】実施形態のフィルタ回路の構成とプラズマ密度の特異点の例を示す図。
【
図3】実施形態のコイルの配置によるエッチングレートの制御を説明するための図。
【
図4】実施形態に係るフィルタ回路の変形例1,2を示す図。
【
図6】実施形態に係るフィルタ回路の変形例4を示す図。
【
図7】実施形態に係るフィルタ回路のコイルの駆動方法1を示す図。
【
図8】実施形態に係るフィルタ回路のコイルの駆動方法2を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本開示を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0010】
以下に、プラズマ処理システムの構成例について説明する。
【0011】
[プラズマ処理システム]
プラズマ処理システムは、容量結合のプラズマ処理装置1及び制御部2を含む。容量結合のプラズマ処理装置1は、プラズマ処理チャンバ10、ガス供給部20、電源30及び排気システム40を含む。また、プラズマ処理装置1は、基板支持部11及びガス導入部を含む。ガス導入部は、少なくとも1つの処理ガスをプラズマ処理チャンバ10内に導入するように構成される。ガス導入部は、シャワーヘッド13を含む。基板支持部11は、プラズマ処理チャンバ10内に配置される。シャワーヘッド13は、基板支持部11の上方に配置される。一実施形態において、シャワーヘッド13は、プラズマ処理チャンバ10の天部(ceiling)の少なくとも一部を構成する。プラズマ処理チャンバ10は、シャワーヘッド13、プラズマ処理チャンバ10の側壁10a及び基板支持部11により規定されたプラズマ処理空間10sを有する。プラズマ処理チャンバ10は、少なくとも1つの処理ガスをプラズマ処理空間10sに供給するための少なくとも1つのガス供給口と、プラズマ処理空間からガスを排出するための少なくとも1つのガス排出口とを有する。側壁10aは接地される。シャワーヘッド13とプラズマ処理チャンバ10との間は、絶縁部材16により絶縁されている。シャワーヘッド13及び基板支持部11は、プラズマ処理チャンバ10筐体とは電気的に絶縁される。
【0012】
基板支持部11は、本体部111及びリングアセンブリ112を含む。本体部111は、基板(ウェハ)Wを支持するための中央領域(基板支持面)111aと、リングアセンブリ112を支持するための環状領域(リング支持面)111bとを有する。本体部111の環状領域111bは、平面視で本体部111の中央領域111aを囲んでいる。基板Wは、本体部111の中央領域111a上に配置され、リングアセンブリ112は、本体部111の中央領域111a上の基板Wを囲むように本体部111の環状領域111b上に配置される。一実施形態において、本体部111は、基台及び静電チャックを含む。基台は、導電性部材111eを含む。基台の導電性部材111eは下部電極として機能する。静電チャックは、基台の上に配置される。静電チャックの上面は、基板支持面111aを有する。リングアセンブリ112は、1又は複数の環状部材を含む。1又は複数の環状部材のうち少なくとも1つはエッジリングである。また、図示は省略するが、基板支持部11は、静電チャック、リングアセンブリ112及び基板のうち少なくとも1つをターゲット温度に調節するように構成される温調モジュールを含んでもよい。温調モジュールは、ヒータ、伝熱媒体、流路、又はこれらの組み合わせを含んでもよい。流路には、ブラインやガスのような伝熱流体が流れる。また、基板支持部11は、基板Wの裏面と基板支持面111aとの間に伝熱ガスを供給するように構成された伝熱ガス供給部を含んでもよい。
【0013】
シャワーヘッド13は、ガス供給部20からの少なくとも1つの処理ガスをプラズマ処理空間10s内に導入するように構成される。シャワーヘッド13は、少なくとも1つのガス供給口13a、少なくとも1つのガス拡散室13b及び複数のガス導入口13cを有する。ガス供給口13aに供給された処理ガスは、ガス拡散室13bを通過して複数のガス導入口13cからプラズマ処理空間10s内に導入される。また、シャワーヘッド13は、導電性部材13eを含む。シャワーヘッド13の導電性部材13eは上部電極として機能する。なお、ガス導入部は、シャワーヘッド13に加えて、側壁10aに形成された1又は複数の開口部に取り付けられる1又は複数のサイドガス注入部(SGI:Side Gas Injector)を含んでもよい。
【0014】
ガス供給部20は、少なくとも1つのガスソース21及び少なくとも1つの流量制御器22を含んでもよい。一実施形態において、ガス供給部20は、少なくとも1つの処理ガスを、それぞれに対応のガスソース21からそれぞれに対応の流量制御器22を介してシャワーヘッド13に供給するように構成される。各流量制御器22は、例えばマスフローコントローラ又は圧力制御式の流量制御器を含んでもよい。さらに、ガス供給部20は、少なくとも1つの処理ガスの流量を変調又はパルス化する1又はそれ以上の流量変調デバイスを含んでもよい。
【0015】
電源30は、少なくとも1つのインピーダンス整合回路を介してプラズマ処理チャンバ10に結合されるRF電源31を含む。RF電源31は、ソースRF信号及びバイアスRF信号のような少なくとも1つのRF信号(RF電力)を、基板支持部11の導電性部材111e及び/又はシャワーヘッド13の導電性部材13eに供給するように構成される。これにより、プラズマ処理空間10sに供給された少なくとも1つの処理ガスからプラズマが形成される。従って、RF電源31は、プラズマ処理チャンバ10において1又はそれ以上の処理ガスからプラズマを生成するように構成されるプラズマ生成部の少なくとも一部として機能し得る。また、バイアスRF信号を基板支持部11の導電性部材111eに供給することにより、基板Wにバイアス電位が発生し、形成されたプラズマ中のイオン成分を基板Wに引き込むことができる。
【0016】
一実施形態において、RF電源31は、第1のRF生成部31a及び第2のRF生成部31bを含む。第1のRF生成部31aは、少なくとも1つのインピーダンス整合回路を介して基板支持部11の導電性部材111e及び/又はシャワーヘッド13の導電性部材13eに結合され、プラズマ生成用のソースRF信号(ソースRF電力)を生成するように構成される。一実施形態において、ソースRF信号は、13MHz~150MHzの範囲内の周波数を有する。一実施形態において、第1のRF生成部31aは、異なる周波数を有する複数のソースRF信号を生成するように構成されてもよい。生成された1又は複数のソースRF信号は、基板支持部11の導電性部材111e及び/又はシャワーヘッド13の導電性部材13eに供給される。第2のRF生成部31bは、少なくとも1つのインピーダンス整合回路を介して基板支持部11の導電性部材111eに結合され、バイアスRF信号(バイアスRF電力)を生成するように構成される。一実施形態において、バイアスRF信号は、ソースRF信号よりも低い周波数を有する。一実施形態において、バイアスRF信号は、400kHz~13.56MHzの範囲内の周波数を有する。一実施形態において、第2のRF生成部31bは、異なる周波数を有する複数のバイアスRF信号を生成するように構成されてもよい。生成された1又は複数のバイアスRF信号は、基板支持部11の導電性部材111eに供給される。また、種々の実施形態において、ソースRF信号及びバイアスRF信号のうち少なくとも1つがパルス化されてもよい。
【0017】
なお、本実施形態では、ソースRF信号は、100MHzの周波数の電力を、プラズマ処理装置1内のシャワーヘッド13の導電性部材13eに印加する。また、本実施形態では、バイアスRF信号は、13MHzの周波数の電力を、プラズマ処理装置1内の基板支持部11の導電性部材111eに印加する。ただし、これに限らない。
【0018】
また、電源30は、プラズマ処理チャンバ10に結合されるDC電源32を含んでもよい。DC電源32は、第1のDC生成部32a及び第2のDC生成部32bを含む。一実施形態において、第1のDC生成部32aは、基板支持部11の導電性部材111eに接続され、第1のDC信号を生成するように構成される。生成された第1のバイアスDC信号は、基板支持部11の導電性部材111eに印加される。一実施形態において、第1のDC信号が、静電チャック内の電極のような他の電極に印加されてもよい。一実施形態において、第2のDC生成部32bは、シャワーヘッド13の導電性部材13eに接続され、第2のDC信号を生成するように構成される。生成された第2のDC信号は、シャワーヘッド13の導電性部材13eに印加される。種々の実施形態において、第1及び第2のDC信号のうち少なくとも1つがパルス化されてもよい。なお、第1及び第2のDC生成部32a,32bは、RF電源31に加えて設けられてもよく、第1のDC生成部32aが第2のRF生成部31bに代えて設けられてもよい。なお、シャワーヘッド13にDC成分の電圧を印可するため、第2のDC生成部32bの代わりに400kHz未満の周波数の電力を印可してもよい。
【0019】
排気システム40は、例えばプラズマ処理チャンバ10の底部に設けられたガス排出口10eに接続され得る。排気システム40は、圧力調整弁及び真空ポンプを含んでもよい。圧力調整弁によって、プラズマ処理空間10s内の圧力が調整される。真空ポンプは、ターボ分子ポンプ、ドライポンプ又はこれらの組み合わせを含んでもよい。
【0020】
導電性部材13eと、導電性部材13eに直流の電力(第2のDC信号)を供給する電源30との間の配線12には、フィルタ回路50が設けられている。また、フィルタ回路50は、シャワーヘッド13の背面の中心部に接続される給電体14に接続されている。フィルタ回路50は、後述するように、第1のRF生成部31aからのソースRF信号としての高周波をトラップするフィルタ機能を有する。
【0021】
制御部2は、本開示において述べられる種々の工程をプラズマ処理装置1に実行させるコンピュータ実行可能な命令を処理する。制御部2は、ここで述べられる種々の工程を実行するようにプラズマ処理装置1の各要素を制御するように構成され得る。一実施形態において、制御部2の一部又は全てがプラズマ処理装置1に含まれてもよい。制御部2は、例えばコンピュータ2aを含んでもよい。コンピュータ2aは、例えば、処理部(CPU:Central Processing Unit)2a1、記憶部2a2、及び通信インターフェース2a3を含んでもよい。処理部2a1は、記憶部2a2に格納されたプログラムに基づいて種々の制御動作を行うように構成され得る。記憶部2a2は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、又はこれらの組み合わせを含んでもよい。通信インターフェース2a3は、LAN(Local Area Network)等の通信回線を介してプラズマ処理装置1との間で通信してもよい。
【0022】
[フィルタ回路]
次に、
図2(a)及び(b)を参照してフィルタ回路50、150について説明する。
図2(c)はフィルタ回路150を配線12の
図2(a)の位置に設けた場合のプラズマ処理空間10sにおけるプラズマ密度の特異点の例を示す。
図2(d)はフィルタ回路50を配線12の
図2(b)の位置に設けた場合のプラズマ処理空間10sにおけるプラズマ密度の特異点の例を示す。
【0023】
図2(a)及び
図2(b)に示すように、シャワーヘッド13の背面の中心部に接続される給電体14を介して第1のRF生成部31aからシャワーヘッド13にソースRF信号としての高周波の電力が印加される。
【0024】
図2(a)に示すフィルタ回路150は、プラズマ処理装置1に設けられた導電性部材13eと、導電性部材13eに直流の電力を供給する第2のDC生成部32bと、の間の配線12に配置されている。これにより、第2のDC生成部32bからの直流の電力がフィルタ回路150を介して給電体14に供給される。
【0025】
フィルタ回路150は、配線12に直列に接続されたコイル151と、コイル151よりも第2のDC生成部32b側の配線12とグランドとの間に接続されたコンデンサ152と、を有する直列共振回路である。フィルタ回路150のこれらの構成により、第1のRF生成部31aからのソースRF信号としての高周波がトラップされる。
【0026】
同様に、
図2(b)に示すフィルタ回路50は、プラズマ処理装置1に設けられた導電性部材13eと、導電性部材13eに直流の電力を供給する第2のDC生成部32bと、の間の配線12に配置されている。これにより、第2のDC生成部32bからの直流の電力がフィルタ回路50を介して給電体14に供給される。
【0027】
フィルタ回路50は、配線12に直列に接続されたコイル51と、コイル51よりも第2のDC生成部32b側の配線12とグランドとの間に接続されたコンデンサ52と、を有する直列共振回路である。フィルタ回路50のこれらの構成により、第1のRF生成部31aからのソースRF信号としての高周波がトラップされる。フィルタ回路50は、整合器の内部に設けられてもよいし、整合器の外部に設けられてもよい。
【0028】
第1のRF生成部31aは、給電体14を介してシャワーヘッド13に100MHz程度又はそれ以上の周波数の電力を印加する場合がある。このように、給電体14に100MHz以上の周波数の高周波が印加される場合、
図2(a)の構成では、給電体14からフィルタ回路150までの配線12が長いために、配線12のインダクタンス(L成分)や浮遊容量(C成分)が大きくなる。この結果、インダクタンスや浮遊容量の影響を受けてプラズマ密度分布に偏りが生じるおそれがある。
【0029】
また、
図2(c)に示すように、プラズマ処理チャンバ10の天井部の中心部に配置された給電体14から径方向にずれた位置にフィルタ回路150が配置されている。このため、フィルタ回路150に含まれるコイル151の影響を受けてフィルタ回路150が配置された位置の下方にてプラズマ密度分布の特異点Cが生じ、プラズマ密度分布を均一にできない。
【0030】
これに対して、フィルタ回路50では、コイル51の中心軸は、給電体14の中心軸CLと一致する。「コイル51の中心軸は、給電体14の中心軸CLと一致する」とは、コイル51の中心軸と給電体14の中心軸CLとが完全に一致する場合だけでなく概ね一致する場合を含む。コイル51は、給電体14の外周に位置し、給電体14の外周に巻かれている。コイル51の一端は、シャワーヘッド13側にあり、コイル51よりもシャワーヘッド13側の給電体14又はシャワーヘッド13に接続され、コイル51の他端は、配線12に接続されている。また、コイル51からコンデンサ52までの距離を極力短くするようにフィルタ回路50を給電体14の近くに配置する。
【0031】
これにより、
図2(b)の構成では、給電体14からコイル51までの配線12をなくし、コンデンサ52までの配線12を
図2(a)の構成よりも短くできる。この結果、インダクタンスや浮遊容量の影響が小さくなり、プラズマ密度分布の偏りが生じ難くなる。
【0032】
また、
図2(b)の構成では、プラズマ処理チャンバ10の中央に接続された給電体14にコイル51が巻かれている。このため、
図2(d)に示すように、フィルタ回路50のコイル51が配置された位置の下方にてプラズマ密度分布の特異点Cが生じる。このため、プラズマ処理チャンバ10の中心部に特異点Cを設けることで、
図2(c)に示すような周方向のプラズマの偏りを回避し、周方向のプラズマ密度分布を均一にできる。径方向のプラズマ密度の均一性のための制御は、周方向のプラズマ密度の均一性のための制御よりも容易である。例えば以下に説明する補正方法及びその他の補正方法を使って径方向のプラズマ密度を均一にすることができる。これにより、プラズマ密度分布を制御できる。
【0033】
なお、
図2および後述する
図3、
図4において、第1のRF生成部31aは給電体14を介してシャワーヘッド13の導電性部材13eに結合された場合を示しているが、これに限定されるものではなく、第1のRF生成部31aが基板支持部11の導電性部材111eに結合されている場合も、同様な効果を示すものと考えられる。
【0034】
[コイルの配置によるエッチングレートの制御]
次に、フィルタ回路50のコイル51の配置によるエッチングレートの制御とその効果について、
図3を参照しながら説明する。
図3は、実施形態のコイル51の配置によるエッチングレートの制御を説明するための図である。
【0035】
コイル51の中心軸は、給電体14の中心軸CLと一致し、コイル51は給電体14の周囲を囲むように巻かれている。よって、第1のRF生成部31aから給電体14に例えば100MHzの周波数の高周波の電力が印加されると、コイル51に流れ込む高周波電流により電磁誘導が生じ、コイル51を貫く磁場が生成される。発生した磁場の磁力強度によりプラズマ処理空間10sに中央から外周側へ向けて磁界が広がる。このため、プラズマ処理空間10sにおける電子が磁界に沿ってサイクロトロン運動を行う。この電子のサイクロトロン運動によってプラズマ密度がプラズマ処理空間10sの外周領域でより強くなり、プラズマ処理空間10sの外周領域におけるエッチングレートを上げ、プラズマ処理空間10sの中央領域におけるエッチングレートを下げることができる。
【0036】
上部電極にプラズマ生成用の高周波の電力を印加する場合、下部電極にプラズマ生成用の高周波の電力を印加する場合よりもプラズマ処理空間10sの中央領域のエッチングレートが外周領域のエッチングレートよりも高くなり易い。特に上部電極に100MHz又はそれ以上の周波数の電力を印加する場合にプラズマ処理空間10sの中央領域にてエッチングレートが高くなる傾向が顕著になる。
【0037】
そこで、実施形態に係るフィルタ回路50では、コイル51を給電体14の外周に巻回し、コイル51に流れる高周波電流に応じて発生する電磁誘導を制御し、プラズマの生成を制御する。すなわち、上記電磁誘導の作用によりプラズマ処理空間10sの外周領域におけるエッチングレートを上げ、プラズマ処理空間10sの中央領域におけるエッチングレートを下げるように制御する。これにより、給電体14に100MHz以上の周波数の電力を印加した場合においても、周方向だけでなく、径方向においてもプラズマ密度分布を均一化でき、プラズマ処理空間10sにおけるエッチングレートの均一性を制御できる。
【0038】
なお、プラズマ処理空間10sの中央領域において外周領域よりもよりプラズマ密度が高くなる場合、
図7及び
図8にて後述するコイル51を可動させる等の他の補正方法を使って径方向のプラズマ密度を均一にすることができる。このように径方向のプラズマ密度を均一にする制御は、周方向のプラズマ密度を均一にする制御よりも容易である。従って、実施形態に係るフィルタ回路50によれば、プラズマ密度分布の偏りをなくし、エッチングレート等のエッチング特性を改善することができる。また、径方向のプラズマ密度を均一にする手法としては、圧力の調整や磁石の設置などの補正方法を使ってもよく、組み合わせてもよい。また、プラズマ密度分布の偏りに合わせて、ガス導入方法として、プラズマ処理空間10sの外周領域に導入するガスの量より中央領域に導入するガスの量を増減するような調整を行うことによって、エッチングレート等を均一にしてもよい。
【0039】
[変形例]
次に、実施形態に係るフィルタ回路50の変形例について、
図4~
図6を参照しながら説明する。
図4~
図6は、実施形態に係るフィルタ回路50の変形例1~4を示す図である。
【0040】
(変形例1)
図4(a)は、実施形態に係るフィルタ回路50の変形例1を示す図である。変形例1では、フィルタ回路50のコイル51が給電体14の内部に配置されている点で、
図2(b)及び
図3の実施形態に係るコイル51が給電体14の周囲に巻かれている構成と異なる。他の構成については変形例1と実施形態とは同一である。
【0041】
具体的には、変形例1では、給電体14の内部は空洞になっている。第1のRF生成部31aから供給される高周波電流は給電体14の表層を流れ、シャワーヘッド13に供給される。このため、給電体14の内部を空洞とすることができる。変形例1では、コイル51は、給電体14の内部の空洞に位置する。ただし、これに限らず、給電体14の内部が空洞であってもコイル51を給電体14の外周に巻回してもよい。
【0042】
(変形例2)
図4(b)は、実施形態に係るフィルタ回路50の変形例2を示す図である。変形例2では、シャワーヘッド13内に遮蔽板56が埋設されている点で、
図2(b)及び
図3に示すように遮蔽板56がない実施形態の構成と異なる。他の構成については変形例2と実施形態とは同一である。
【0043】
変形例2では、給電体14が接続されるシャワーヘッド13の背面寄りのシャワーヘッド13の内部に磁場を遮蔽するための遮蔽板56が埋設されている。変形例2においてもフィルタ回路50のコイル51を給電体14の外周に巻回し、コイル51に流れる高周波電流により発生する電磁誘導によりコイル51を貫く磁場が生成される。
【0044】
発生した磁場の磁力強度によりプラズマ処理空間10sに中央から外周側へ向けて磁界が広がる。シャワーヘッド13内に電磁的な遮蔽を行う遮蔽板56を埋設することで、遮蔽板56を挟んで給電体14の反対側のシャワーヘッド13及びプラズマ処理空間10sに磁力が届かないように遮蔽できる。これにより、プラズマ処理空間10sの中央領域におけるプラズマ密度を下げ、中央から外周側へ向けてプラズマ密度が均一になるように制御できる。
【0045】
なお、遮蔽板56は、シャワーヘッド13の内部に埋め込むことが好ましい。高周波電流はシャワーヘッド13の表面を流れる。このため、シャワーヘッド13の表面に遮蔽板56を配置すると、遮蔽板56が抵抗になって高周波電流が流れ難くなり、プラズマ生成に寄与するエネルギー効率を低下させることになる。これに対して、シャワーヘッド13内に遮蔽板56を埋め込めば、遮蔽板56によってシャワーヘッド13の高周波電流の流れを阻害せずに、磁束を吸収する磁気シールド効果を得ることができる。
【0046】
遮蔽板56は、透磁率の高い材料であって、かつ発熱しないように抵抗値の低い材料が好ましい。例えば遮蔽板56は、パーマロイ、方向性ケイ素鋼、センダスト等の軟磁性金属材料、又はフェライト等の軟磁性の電子セラミック材料で形成することができる。
【0047】
なお、給電体14については、透磁率が低く、かつ抵抗値の低いアルミニウム等の材料が好ましい。これにより、コイル51にて電磁誘導により形成される磁力を給電体14側に集中させず、給電体14の外周側に広がるようにすることができる。
【0048】
(変形例3)
なお、
図5に示すように、
図2(a)の示す構成に対して、遮蔽板56を、シャワーヘッド13の内部に埋め込んでもよい。フィルタ回路150に含まれるコイル151によって発生した磁場の磁力強度によりプラズマ処理空間10sに向けて磁界が発生するが、シャワーヘッド13内に電磁的な遮蔽を行う遮蔽板56を埋設することで、遮蔽板56を挟んで給電体14の反対側のシャワーヘッド13及びプラズマ処理空間10sに磁力が届かないように遮蔽できる。これにより、フィルタ回路150が配置された位置の下方にてプラズマ密度分布の特異点Cを抑制し、プラズマ密度が均一になるように制御できる。
【0049】
(変形例4)
図6(a)は、実施形態に係るフィルタ回路50のコイル51を示す図である。これに対して、
図6(b)及び(c)は、実施形態に係るフィルタ回路50の変形例4を示す図である。変形例4では、
図6(a)に示す実施形態に係るコイル51よりも、給電体14の中心軸CLに対して下側に向かって広がるように構成される点が異なる。すなわち、変形例4では、コイル51がシャワーヘッド13に向かって広がるように構成される。他の構成については変形例4と実施形態とは同一である。
【0050】
変形例4では、
図6(b)及び(c)に示すように、給電体14に巻かれているコイル51の直径が、下部に向かうほど給電体14の中心軸CLに対して大きくなり、コイル51がラッパ型に広がる。
図6(c)は、コイル51の上部ではコイル51の直径が
図6(b)と同じ直径であるが、下部では
図6(b)よりも更にコイル51の直径が大きくなっている。
【0051】
これによれば、
図6(a)~(c)の下側のグラフに示しように、
図6(a)~(c)のいずれの形状のコイル51を給電体14に配置した場合も、給電体14の中心軸CLにて磁場Hが最も強く、外周側に向かって広がる。
図6(b)のコイル51の形状では、
図6(a)のコイル51の形状よりも、給電体14の中心軸CLにおける磁場Hの強さは弱く、外周側への磁場Hの広がりが大きい。また、
図6(c)のコイル51の形状では、
図6(b)のコイル51の形状よりも、給電体14の中心軸CLにおける磁場Hの強さは更に弱く、外周側への磁場Hの広がりが更に大きい。すなわち、コイル51の形状をシャワーヘッド13側の下部が上部よりも大きくなるようにラッパ型にすることで、プラズマ処理空間10sの中央領域の磁界を弱くできる。これにより、プラズマ処理空間10sの中央領域において局所的にエッチングレートが高くなることを緩和できる。
【0052】
[コイルの駆動方法]
以下では、コイル51を可動させることでプラズマ密度分布を制御し、プラズマ密度を均一にするためのコイル51の駆動方法について、
図7及び
図8を参照しながら説明する。
図7及び
図8に示すコイルの駆動方法は、実施形態及び各変形例に係るフィルタ回路50のコイル51のいずれも使用することができる。この場合、コイル51は、給電体14の中心軸CLに沿って可動である。
【0053】
(コイルの駆動方法1)
図7は、コイル51の駆動方法1を示す図である。駆動方法1では、コイル51は、上下駆動機構58に接続され、上下駆動機構58によりコイル51の高さ方向に上下動可能である。
【0054】
制御部2は、上下駆動機構58を使用してコイル51の位置(高さ)を制御する。例えば、
図7に示すように、制御部2は、上下駆動機構58を使用してコイル51の位置をコイル51の初期位置H0から位置H1(H1>H0)まで上昇させるように制御してもよい。これにより、コイル51下のプラズマ処理空間10sに到達する磁界を弱め、コイル51下のプラズマ処理空間10sにおける電界を弱めることができる。
【0055】
一方、制御部2は、上下駆動機構58を使用してコイル51の位置をコイル51の初期位置H0から位置H2(H2<H0)まで下降させるように制御してもよい。これにより、コイル51下のプラズマ処理空間10sに到達する磁界を強め、コイル51下のプラズマ処理空間10sにおける電界を強めることができる。これにより、コイル51下のプラズマ処理空間10sにおけるプラズマ密度分布を制御し、プラズマ処理空間10sの中央領域におけるエッチングレートの制御性を高めることができる。
【0056】
(コイルの駆動方法2)
図8は、コイル51の駆動方法2を示す図である。駆動方法2では、コイル51は、伸縮調節機構59に接続され、伸縮調節機構59により給電体14の中心軸CLに沿って伸縮可能である。
【0057】
制御部2は、伸縮調節機構59を使用してコイル51の長さを制御する。例えば、コイル51は基底位置に固定されてもよい。
図8に示すように、制御部2は、伸縮調節機構59を使用してコイル51の長さを初期長さT0よりも伸ばした長さT1(T1>T0)に制御してもよい。このように、コイル51の長さをコイル51の初期長さT0から伸縮させるように制御することにより、コイル51下のプラズマ処理空間10sにおける磁界の強さを変えることができる。これにより、コイル51下のプラズマ処理空間10sにおける電界の分布を変え、プラズマ密度を制御し、プラズマ処理空間10sの中央領域におけるエッチングレートの制御性を高めることができる。
【0058】
ただし、コイル51を伸縮させることによって、フィルタ回路50のインダクタンスが変わる。よって、コイル51を伸縮させる場合、インダクタンスの変化に応じて、フィルタ回路50のコンデンサ52を操作し、コンダクタンスを変化させることでフィルタ回路50としての機能を維持できる。
【0059】
図3では、コイル51を給電体14の周囲に巻回し、コイル51に流れる高周波電流により発生する電磁誘導によりプラズマの生成を制御し、プラズマ処理空間10sの中央領域と外周領域におけるプラズマ密度分布を制御できるメカニズムについて説明した。これに対して、コイル51の駆動方法1,2によれば、コイル51を可動することで、更にプラズマ密度分布を制御することができる。なお、上下駆動機構58及び伸縮調節機構59を組み合わせてコイル51を駆動してもよい。
【0060】
以上に説明したように、実施形態及び各変形例のフィルタ回路50及びフィルタ回路50を有するプラズマ処理装置1によれば、プラズマ密度分布の偏りをなくし、エッチング特性を改善することができる。
【0061】
以上の説明では、実施形態及び各変形例に係るフィルタ回路50を構成するコイル51を給電体14に巻きつけ、当該フィルタ回路50を構成するコンデンサ52を第2のDC生成部32bと給電体14とを接続する配線12に設けた。しかしながら、フィルタ回路50のコイル51及びコンデンサ52の設置はこれに限らない。
【0062】
フィルタ回路50のコイル51は、基板支持部11の導電性部材111eの背面の給電体に巻かれる構成としてもよい。具体的には、基板支持部11の導電性部材111eの背面の中心部に接続した給電体にフィルタ回路50のコイル51を巻きつけ、第1のRF生成部31aから基板支持部11にソースRF信号としての高周波の電力を印加してもよい。この場合、導電性部材111eの背面の中心部に接続した給電体と第1のDC生成部32aとを接続する配線とグランドとの間にフィルタ回路50のコンデンサ52を接続し、直列共振回路を形成してもよい。あるいは、導電性部材111eの背面の中心部に接続した給電体と第2のRF生成部31bとを接続する配線とグランドとの間にフィルタ回路50のコンデンサ52を接続し、直列共振回路を形成してもよい。第2のRF生成部31bからは、400kHz未満の周波数の電力を供給する。
【0063】
今回開示された実施形態に係るフィルタ回路及びプラズマ処理装置は、すべての点において例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。実施形態は、添付の請求の範囲及びその主旨を逸脱することなく、様々な形態で変形及び改良が可能である。上記複数の実施形態に記載された事項は、矛盾しない範囲で他の構成も取り得ることができ、また、矛盾しない範囲で組み合わせることができる。
【0064】
本開示のプラズマ処理装置は、Atomic Layer Deposition(ALD)装置、Capacitively Coupled Plasma(CCP)、Inductively Coupled Plasma(ICP)、Radial Line Slot Antenna(RLSA)、Electron Cyclotron Resonance Plasma(ECR)、Helicon Wave Plasma(HWP)のいずれのタイプの装置でも適用可能である。
【0065】
また、プラズマ処理装置は、基板に所定のプラズマ処理を施す装置であれば、エッチング装置に限らず、成膜装置、アッシング装置等の装置に適用できる。
【符号の説明】
【0066】
1 プラズマ処理装置
2 制御部
10 プラズマ処理チャンバ
11 基板支持部
13 シャワーヘッド
13d 電極部
13e、111e 導電性部材
14 給電体
21 ガスソース
20 ガス供給部
30 電源
31 RF電源
31a 第1のRF生成部
31b 第2のRF生成部
32a 第1のDC生成部
32b 第2のDC生成部
50 フィルタ回路
51 コイル
52 コンデンサ
56 遮蔽板
111 本体部
112 リングアセンブリ