(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】成膜装置およびその検査方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/54 20060101AFI20240806BHJP
G01M 3/20 20060101ALI20240806BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20240806BHJP
H01L 21/677 20060101ALI20240806BHJP
【FI】
C23C14/54 B
G01M3/20 B
H01L21/68 N
H01L21/68 A
(21)【出願番号】P 2022009248
(22)【出願日】2022-01-25
【審査請求日】2022-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】相澤 雄樹
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-304629(JP,A)
【文献】特開2021-095609(JP,A)
【文献】実開昭54-001483(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/54
G01M 3/20
H01L 21/683
H01L 21/677
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバ内に配置され、内部が大気環境に保たれた大気ボックスと、
前記大気ボックスの複数の箇所にあり前記大気ボックスの内部から外部に貫通して配置される部材のための複数の貫通孔のうちの少なくともいずれかである、前記大気ボックスの内部の大気がリークするリーク箇所の候補のうちの1箇所にヘリウムを供給する第1供給手段と、
前記複数の箇所のうちのヘリウムが供給されていない箇所に、ヘリウム
より重い気体を供給する第2供給手段と、
前記複数の貫通孔のそれぞれに少なくとも1つが配置された複数のプローブと、前記複数のプローブが収集した気体からヘリウムを検出するディテクタと、を含み、前記第1供給手段によりヘリウムが供給され
且つ前記第2供給手段により前記
ヘリウムより重い気体が供給された前記大気ボックス
の内部の大気がリークする場合に前記大気ボックスからリークしたヘリウムを検出する検出手段と、
前記検出手段の検出情報に基づいて前記第1供給手段によりヘリウムが供給され前記第2供給手段により前記
ヘリウムより重い気体が供給された前記大気ボックスから、リークしたヘリウム
を検出
することにより、ヘリウムが供給された箇所に対応する前記貫通孔でリークが発生しているかどうかを判定する判定手段と、
を備えることを特徴とする成膜装置。
【請求項2】
前記大気ボックスは、前記真空チャンバの内部に配置される機構を駆動する駆動手段を内包する
ことを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
【請求項3】
前記真空チャンバの内部に配置される機構には、基板上に薄膜を形成するための成膜源を移動させる成膜源搬送手段、前記基板を保持する基板キャリアを搬送するキャリア搬送手段、前記薄膜を形成するために前記基板と前記成膜源の間に配置されるマスクを搬送するマスク搬送手段、のうちの少なくともいずれか1つを含む
ことを特徴とする請求項2に記載の成膜装置。
【請求項4】
真空チャンバ内に配置され、内部が大気環境に保たれた大気ボックスの複数の箇所にあり前記大気ボックスの内部から外部に貫通して配置される部材のための複数の貫通孔のうちの少なくともいずれかである、前記大気ボックスの内部の大気がリークするリーク箇所の候補のうちの1箇所にヘリウムを供給する第1供給ステップと、
前記複数の箇所のうちのヘリウムが供給されていない箇所に、ヘリウム
より重い気体を供給する第2供給ステップと、
前記複数の貫通孔のそれぞれに少なくとも1つが配置された複数のプローブと、前記複数のプローブが収集した気体からヘリウムを検出するディテクタと、を含む検出手段によって、前記第1供給ステップによりヘリウムが供給され
且つ前記第2供給ステップにより前記
ヘリウムより重い気体が供給された前記大気ボックス
の内部の大気がリークする場合に前記大気ボックスからリークしたヘリウムを検出する検出ステップと、
前記検出ステップにおける検出情報に基づいて前記第1供給ステップによりヘリウムが供給され前記第2供給ステップにより前記
ヘリウムより重い気体が供給された前記大気ボックスから、リークしたヘリウム
を検出
することにより、ヘリウムが供給された箇所に対応する前記貫通孔でリークが発生しているかどうかを判定する判定ステップと、
を有することを特徴とする成膜装置の検査方法。
【請求項5】
請求項4に記載の成膜装置の検査方法により検査された成膜装置を用いて基板に成膜を行う成膜ステップを含むことを特徴とする電子デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜装置およびその検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL表示装置や液晶表示装置などのフラットパネル表示装置が用いられている。例えば有機EL表示装置は、2つの向かい合う電極の間に、発光を起こす有機物層である発光層を有する機能層が形成された、多層構成の有機EL素子を含んでいる。有機EL素子の機能層や電極層は、成膜装置のチャンバ内で、ガラスなどの基板にマスクを介して成膜材料を付着させることで形成される。この成膜時にチャンバ空間内に不純物が存在すると成膜不良が起きる可能性が高まり、パネルの不具合を起こすおそれがある。そこで成膜時には、成膜装置のチャンバ内部は真空に排気される。
【0003】
このようなチャンバの内部に、内部空間が大気環境に保たれた大気ボックスと呼ばれる構造物を配置する場合がある。大気ボックスの内部空間はチャンバの外側と連通している。大気ボックスとチャンバの外側の間には、信号線やチューブなどが配置され、情報や物質のやり取りに利用される。内部が大気環境である大気ボックスと、真空に排気される必要があるチャンバ空間とは、気密を保つように隔てられている。
【0004】
大気ボックスを利用する装置の一例として、インライン型の成膜装置がある。インライン型の成膜装置は、複数のチャンバが真空一貫に連結され、基板がチャンバ間を移動しながら成膜される装置である。インライン型の成膜装置に複数の成膜チャンバを設けることにより、基板上に順次成膜を行い、多層構造の有機EL素子を作成することが可能となる。このようなインライン型成膜装置のチャンバ内部には、基板を移動させるための搬送ローラが備えられている。そしてチャンバ内部の大気ボックスには、搬送ローラを駆動するためのモータ等の駆動機構が格納されている。駆動機構は、チャンバ外部から信号線を介して電力や制御信号を受け取り、大気ボックスに開けられた穴に挿通された軸を介して搬送ローラに動力を伝達する。
【0005】
大気ボックスとチャンバとの間の気密を保つために、軸挿通穴はシール部材やグリスによりシールされるが、経年変化などによりリークが発生して気密性が低下する場合がある。かかるリークは、成膜時のチャンバ内の真空度を低下させて成膜不良を引き起こすおそれがある。そこで、装置のメンテナンス時に、大気ボックスに設けられた穴からリークが発生していないか検出する必要がある。
【0006】
大気ボックスにおいてリーク発生箇所の候補となる開口(例えば軸を挿通する穴)が一つであれば、ヘリウムディテクタなどの既存の装置を用いてリークを検出できる。しかし大気ボックスに複数の開口がある場合、大気ボックスからリークが起こっていることを検出できたとしても、何れの開口でリークが起こっているかを検出することは困難である。
【0007】
特許文献1(特開2019-512158号公報)では、ヘリウムディテクタでリークを検出する際に、リーク発生箇所の候補が複数存在する場合、複数箇所のうち一箇所に選択的にヘリウムを供給している。これにより、リーク発生箇所の候補を一つずつ検査することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし特許文献1では、ある一つのリーク発生候補箇所に選択的にヘリウムを供給したとしても、時間の経過とともにヘリウムが拡散するため、他のリーク発生候補箇所からもヘリウムが漏出してしまう。その結果、リークの発生箇所が分からなくなるおそれがある。
【0010】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、成膜装置の大気ボックスからのリークを精度良く検出する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の構成を採用する。すなわち、
真空チャンバ内に配置され、内部が大気環境に保たれた大気ボックスと、
前記大気ボックスの複数の箇所にあり前記大気ボックスの内部から外部に貫通して配置される部材のための複数の貫通孔のうちの少なくともいずれかである、前記大気ボックスの内部の大気がリークするリーク箇所の候補のうちの1箇所にヘリウムを供給する第1供給手段と、
前記複数の箇所のうちのヘリウムが供給されていない箇所に、ヘリウムより重い気体を供給する第2供給手段と、
前記複数の貫通孔のそれぞれに少なくとも1つが配置された複数のプローブと、前記複数のプローブが収集した気体からヘリウムを検出するディテクタと、を含み、前記第1供給手段によりヘリウムが供給され且つ前記第2供給手段により前記ヘリウムより重い気体が供給された前記大気ボックスの内部の大気がリークする場合に前記大気ボックスからリークしたヘリウムを検出する検出手段と、 前記検出手段の検出情報に基づいて前記第1供給手段によりヘリウムが供給され前記第2供給手段により前記ヘリウムより重い気体が供給された前記大気ボックスから、リークしたヘリウムを検出することにより、ヘリウムが供給された箇所に対応する前記貫通孔でリークが発生しているかどうかを判定する判定手段と、
を備えることを特徴とする成膜装置である。
【0012】
本発明はまた、以下の構成を採用する。すなわち、
真空チャンバ内に配置され、内部が大気環境に保たれた大気ボックスの複数の箇所にあり前記大気ボックスの内部から外部に貫通して配置される部材のための複数の貫通孔のうちの少なくともいずれかである、前記大気ボックスの内部の大気がリークするリーク箇所の候補のうちの1箇所にヘリウムを供給する第1供給ステップと、
前記複数の箇所のうちのヘリウムが供給されていない箇所に、ヘリウムより重い気体を供給する第2供給ステップと、
前記複数の貫通孔のそれぞれに少なくとも1つが配置された複数のプローブと、前記複数のプローブが収集した気体からヘリウムを検出するディテクタと、を含む検出手段によって、前記第1供給ステップによりヘリウムが供給され且つ前記第2供給ステップにより前記ヘリウムより重い気体が供給された前記大気ボックスの内部の大気がリークする場合に前記大気ボックスからリークしたヘリウムを検出する検出ステップと、
前記検出ステップにおける検出情報に基づいて前記第1供給ステップによりヘリウムが供給され前記第2供給ステップにより前記ヘリウムより重い気体が供給された前記大気ボックスから、リークしたヘリウムを検出することにより、ヘリウムが供給された箇所に対応する前記貫通孔でリークが発生しているかどうかを判定する判定ステップと、
を有することを特徴とする成膜装置の検査方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、成膜装置の大気ボックスからのリークを精度良く検出する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】基板キャリアによる基板の支持について説明する図
【
図3】基板キャリアとマスクの取り付けについて説明する図
【
図4】回転台を有するチャンバの構成を示す模式的な断面図
【
図5】回転台を有するチャンバの構成を示す模式的な平面図
【
図6】回転台の回転後のチャンバの構成を示す模式的な平面図
【
図8】搬送体のチャンバ間の移動および回転を説明する図
【
図9】基板キャリアとマスクの搬出入を説明する断面図
【
図10】基板キャリアとマスクの搬出入を説明する断面図の続き
【
図11】基板キャリアとマスクの搬出入を説明する断面図の続き
【
図13】ヘリウムディテクタの配置を示す模式的な断面図
【
図14】ヘリウムディテクタによるリーク検出の手順を説明する図
【
図15】ヘリウムディテクタによるリーク検出の手順を説明する図の続き
【
図16】ヘリウムディテクタの別の配置を示す模式的な断面図
【
図17】ヘリウムディテクタによるリーク検出の手順を説明する別の図
【
図18】ヘリウムディテクタの別の配置を示す模式的な断面図
【
図19】ヘリウムディテクタによるリーク検出の手順を説明する別の図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、以下の実施形態は本発明の好ましい構成を例示的に示すものにすぎず、本発明の範囲をそれらの構成に限定されない。また、以下の説明における、装置のハードウェア構成およびソフトウェア構成、処理フロー、製造条件、寸法、材質、形状などは、特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0016】
本発明は、基板等の成膜対象物の表面に蒸着やスパッタリングにより成膜材料の薄膜を形成する成膜装置において、真空チャンバ内に配置される大気ボックスのリークを検出する際に好適である。本発明は、成膜装置、成膜装置の検査装置、または成膜装置の検査方法として捉えられる。本発明はまた、電子デバイスの製造装置やその制御方法、電子デバイスの製造方法としても捉えられる。本発明はまた、検査方法や制御方法をコンピュータに実行させるプログラムや、当該プログラムを格納した記憶媒体としても捉えられる。記憶媒体は、コンピュータにより読み取り可能な非一時的な記憶媒体であってもよい。
【0017】
本発明は、被成膜対象である基板の表面にマスクを介して所望のパターンの薄膜を形成する成膜装置に好ましく適用できる。基板の材料としては、ガラス、樹脂、金属、シリコンなど任意のものを利用できる。成膜材料としては、有機材料、無機材料(金属、金属酸化物)など任意のものを利用できる。なお、以下の説明における「基板」とは、基板材料の表面に既に1つ以上の成膜が行われたものを含む。本発明の技術は、典型的には、電子デバイスや光学部材の製造装置に適用される。特に、有機EL素子を備える有機ELディスプレイ、それを用いた有機EL表示装置などの有機電子デバイスに好適である。本発明はまた、薄膜太陽電池、有機CMOSイメージセンサにも利用できる。ただし本発明の適用対象はこれに限られず、真空チャンバに大気ボックスが設置される装置に広く利用できる。
【0018】
[装置構成]
(成膜装置)
図1は、実施例に係る、有機ELディスプレイを製造するインライン式の成膜装置500の構成を示す模式的な平面図である。有機ELディスプレイは、一般的に、回路素子を形成する回路素子形成工程と、基板上に有機発光素子を形成する有機発光素子形成工程と、形成した有機発光層上に保護層を形成する封止工程と、を経て製造される。実施例に係る成膜装置500は有機発光素子形成工程を主に行う。
【0019】
成膜装置500は、基板搬入室501、キャリア搬入室502、合流室503、パス室504、反転室505、マスク組込室510、アライメント室511、バッファ室512、成膜室520、バッファ室521、回転室522、バッファ室523。回転室524、バッファ室525、成膜室526、バッファ室530、キャリア分離室531、キャリア分離室532、マスク搬出室533、マスク搬入室534、マスク受渡室535、反転室540、パス室541、基板分離室542、キャリア受渡室543、キャリア搬出室54
4、基板搬出室545、の各チャンバを備える。
【0020】
各チャンバは真空チャンバとして構成されている。また、成膜の精度を良好にするために、成膜装置の複数のチャンバは真空一貫に連結されており、基板は真空に排気されたチャンバ間を移動することが好ましい。なお、実施例における真空とは、通常の大気圧(1013hPa)より低い圧力の気体で満たされた空間の状態を意味する。
【0021】
各バッファ室512、521、523、525、530では、複数の基板キャリアCを用いて成膜を行う場合の進行調整や速度調整を行う。マスク受渡室535は、複数のマスクMを用いる場合の、マスクMを保管するストッカとしての機能や、マスクMの速度調整の機能を有していてもよい。これにより所望の成膜に応じたマスクMを選択可能になる。キャリア受渡室543は、複数の基板キャリアCを用いる場合の、基板キャリアCを保管するストッカとしての機能や、基板キャリアCの速度調整の機能を有していてもよい。上述の速度調整により、所定の間隔で基板キャリアCを搬送することができる。
【0022】
成膜装置500はまた、基板キャリアCを搬送する搬送手段を有する(後述)。基板キャリアCは、成膜装置500の有する各々の真空チャンバ内を通る所定の搬送経路に沿って搬送される。すなわち基板キャリアCは、実線の矢印で示すように、キャリア搬入室502から搬入され、合流室503で基板Sと合流する。合流室503では、基板キャリアCの基板保持面が鉛直方向上を向いた状態となっている。基板Sは、被成膜面が鉛直方向上を向いた状態で基板キャリアCに取り付けられる。
【0023】
続いて、基板Sを保持した基板キャリアCは、パス室504を通過し、反転室505で上下反転する。反転室505には、基板キャリアCの基板保持面の向きを鉛直方向において上下反転させる反転機構が設けられている。反転機構としては、基板キャリアCを把持等して姿勢(向き)を変化させる既知の機構を採用してよい。反転室505において、基板キャリアCが基板Sごと反転されて、基板Sの被成膜面が鉛直方向下を向いた状態になる。
【0024】
基板キャリアCは、マスク組込室510でマスクMと合流し、アライメント室511でマスクMとアライメントされる。アライメント室511にはアライメント装置が配置されている。アライメント装置は、基板キャリアC(およびそれが保持する基板S)と、マスクMとを位置合わせし、マスクMに基板キャリアC(基板S)を載置する。
【0025】
続いて、基板Sを保持しマスクMと位置合わせされた基板キャリアCは、バッファ室512を通過し、成膜室520(520a~520d)で基板Sへの成膜を受け、回転室522で90度回転し、バッファ室523を通過し、回転室524で90度回転し、成膜室526(526a~526d)で基板Sへの成膜を受け、バッファ室530を通過する。成膜室520、526には、鉛直方向上に向けて蒸着材料を放出する蒸発源(成膜手段)が配置されている。成膜室520、526において、被成膜面が鉛直方向下を向いた状態で基板キャリアCに保持された基板Sが、蒸発源上を通過することで、マスクMによって遮られる個所以外の被成膜面が成膜される。
【0026】
続いて、基板キャリアCは、キャリア分離室531(第1の分離室)、キャリア分離室532(第2の分離室)を搬送される間にマスクMを分離される。ここでの処理については後述する。続いて、基板Sを保持した基板キャリアCは、反転室540で上下反転し、パス室541を通過して、基板分離室542で基板Sを分離される。続いて、基板キャリアCは、キャリア搬出室544から成膜装置外に搬出されるか、キャリア受渡室543を経由して成膜に再利用される。
【0027】
基板Sは、破線の矢印で示すように、基板搬入室501から搬入され、合流室503で基板キャリアCに保持される。その後は基板キャリアCとともに移動した後、基板分離室542で基板キャリアCから分離され、基板搬出室545から成膜装置外に搬出される。
【0028】
成膜装置500はまた、マスクMを搬送する搬送手段を有する(後述)。マスクMは、点線の矢印で示すように、マスク搬入室534から搬入され、キャリア分離室532、マスク受渡室535を通過して、マスク組込室510で基板キャリアCと合流する。その後は基板キャリアCを載置しながら移動した後、キャリア分離室531で基板キャリアCから分離してマスク搬出室533から成膜装置外に搬出されるか、キャリア分離室532で基板キャリアCから分離してマスク受渡室535を経由して成膜に再利用される。
【0029】
制御部550は、成膜装置500の様々な動作を制御する。制御部550は、不図示の制御線や無線通信により、各チャンバの構成物や、搬送体(基板、基板キャリア、マスクなど)を搬送する搬送手段との間で相互に情報を送受信する。制御部550としては、プロセッサ、メモリ、通信手段などを有する情報処理装置(例えばコンピュータや処理回路)を利用できる。なお、制御部550は、複数の情報処理装置が連携して動作するものであってもよい。例えばチャンバごとに制御部を設けてもよい。
【0030】
搬送手段としての搬送ローラは、搬送経路の両脇に搬送方向に沿って複数配置されており、駆動手段としてのACサーボモータ等の駆動機構により回転することで、基板キャリアCやマスクMを搬送する。
【0031】
なお、本発明は、上記のようなデポアップの構成(成膜時に基板Sの被成膜面が鉛直方向下側を向くような構成)に限られない。デポダウンの構成(成膜時に基板Sの被成膜面が鉛直方向上方を向くような構成)や、サイドデポの構成(成膜時に基板Sが垂直に立てられる構成)でもよい。
【0032】
(基板キャリアと基板)
基板キャリアCの構成と基板Sの保持について説明する。
図2(a)は基板キャリアCの模式的平面図である。基板キャリアCは、平面視で略矩形の平板状の構造体である。ここで、成膜装置内には、キャリア搬送経路の両側に沿ってキャリア搬送ローラが複数配置されている。基板キャリアCの搬送時には、基板キャリアCの四辺のうち、搬送方向に沿った対向する二辺がキャリア搬送ローラによって支持される。キャリア搬送ローラが回転することにより、基板キャリアCが搬送方向に移動する。
【0033】
基板キャリアCは、矩形の平板状部材であるキャリア面板401と、複数のチャック部材402と、複数の支持体403を有する。基板Sは、基板キャリアCのキャリア面板401の保持面405と対向するように保持される。図中には便宜的に、基板Sが保持されたときに基板Sの外縁に対応する破線が示されている。破線の内側の領域を基板保持部、外側の領域を外周部とも呼ぶ。基板保持部と外周部は便宜的に規定されるものであり、両者の間に構造の差異がなくてもよい。キャリア面板401は、金属等で構成された板状部材であり、ある程度の剛性(少なくとも基板Sよりも高い剛性)を有している。キャリア面板401が保持面405により基板Sを保持することで、基板Sの撓みを抑制する。
【0034】
チャック部材402は、基板Sをチャックするチャック面を有する突起である。チャック面は、粘着性の部材(PSC:Physical Sticky Chucking)によって構成され、物理的な粘着力や吸着力によって基板Sを保持する。複数のチャック部材402のそれぞれが基板Sをチャックすることで、基板Sがキャリア面板401の保持面405に沿って保持される。複数のチャック部材402はそれぞれ、チャック面がキャリア面板401の保持面405から所定の距離だけ飛び出た状態に配置されている。
【0035】
チャック部材402は、マスクMの形状に応じて配置されることが好ましく、マスクMの基板Sの被成膜領域を区画するための境界部(桟の部分)に対応して配置されていることがより好ましい。これにより、チャック部材402が基板Sと接触することによる基板Sの成膜エリアの温度分布への影響を抑制できる。また、チャック部材402は、ディスプレイのアクティブエリアの外に配置されることが好ましい。これは、チャック部材402による吸着による応力が基板Sを歪ませる懸念、あるいは成膜時の温度分布に影響を及ぼす懸念があるためである。
【0036】
図2(b)は
図2(a)のA矢視断面図であり、保持面405が上方を向いた状態を示す。基板Sを保持するキャリア面板401の保持面405が下方を向くよう基板キャリアCが反転されてマスク上に載置される際に、支持体403がマスクMに対して基板キャリアCを支持する。なお、支持体403がキャリア面板401の保持面405から突出した凸部として構成されているものの、反転後には基板Sの全体がマスクMに密着するような構成でもよい。また、少なくとも支持体403の近傍においては、基板キャリアCに保持された基板Sと、マスクMとが離間するように、支持体403が基板キャリアCを支持する構成でもよい。
【0037】
なお、基板キャリアCが基板Sを保持するための機構はチャック部材に限定されず、搬送や上下反転において基板Sを安定して保持できる機構であればよい。例えば、基板キャリアCが基板Sを保持するクランプ機構を備えてもよい。また、キャリア面板401の内部、または、キャリア面板401の保持面405とは反対側の面に、電極への電圧印加により生成される静電気力によって基板Sを保持する静電チャックを配置してもよい。
【0038】
基板キャリアCは、さらに、保持した基板Sを介してマスクMを磁力によって引き付けるための磁力発生手段を有していてもよい。磁力発生手段としては、永久磁石や電磁石、永電磁石を備えた磁石プレートを使用することができる。また、基板キャリアCが静電チャックを備える場合、静電チャックが基板Sに加えてマスクMを吸着するようにしてもよい。
【0039】
(基板キャリアとマスク)
図3は、基板Sを基板キャリアCに取り付け、その基板キャリアCを反転してマスクMへ載置するまでの様子を示す模式的断面図である。
図3(a)は、合流室503等において行われる、保持面405が上方を向いた基板キャリアCにより基板Sが支持される様子を示す。基板Sがキャリア面板401の保持面405に向かって下降していき、
図3(b)に示すようにチャック部材402によって保持された状態となる。
【0040】
図3(b)から
図3(c)にかけて、反転室505等において基板キャリアCが基板Sごと上下反転される様子を示す。これにより基板キャリアCの保持面405が下方を向く姿勢となる。このとき基板Sは、チャック部材402の保持力によって保持面405に下方から張り付き、被成膜面が下方を向く状態となる。この状態の基板キャリアCがマスク組込室510に搬入され、マスクMの上方に移動する。
【0041】
その後、基板Sを保持している基板キャリアCと、マスクMとが、アライメント室511に移動する。アライメント室511に配置されたアライメント装置は、基板キャリアCとマスクMを位置合わせしたのち、基板キャリアCをマスクMに載置する。これにより
図3(d)の状態となる。なお、基板SとマスクMは密着していてもよい。また、基板SとマスクMの少なくとも一部が密着していてもよい。
【0042】
アライメント室511には、チャンバ天井から基板キャリアCを見下ろすように撮像を
行う撮影手段が配置されている。アライメント装置の制御部は、撮影手段により基板上の基板アライメントマークとマスク上のマスクアライメントマークを撮像し、基板アライメントマークとマスクアライメントマークが所定の位置関係になるように、基板キャリアCとマスクMを相対的にXY平面内で移動させる。そして、所定の位置関係になった時点で基板キャリアCとマスクMの少なくともいずれか一方をZ方向に移動させて、マスクMに基板キャリアCを載置する。そして、
図3(d)のように基板キャリアCを載せた状態のマスクMが、マスク搬送ローラによって成膜システム内を移動しながら、成膜を受ける。
【0043】
なお、成膜が完了した後に、キャリア分離室において基板キャリアCがマスクMから分離されると、再び
図3(c)のような分離状態となる。この状態で基板キャリアCの周辺部の下に基板搬送ローラを移動させることにより、基板キャリアCとマスクMを個別に搬送できるようになる。
【0044】
(大気ボックスを含むチャンバ)
図4を参照して、大気ボックスおよび回転台を含むチャンバの構成の一例を説明する。
図4は、キャリア分離室531(第1の分離室)のチャンバの内部の断面図であり、基板キャリアCを載置した状態のマスクMがチャンバ内に搬入されている状態を示す。
【0045】
チャンバ内でのマスクMは、対向する二辺をマスク搬送ローラ210により支持されている。マスク搬送ローラ210は駆動軸部211により支持されている。駆動軸部211は、大気ボックス201内部に格納されたモータ等の駆動機構と接続され、モータからの動力を伝達することによりマスク搬送ローラ210を回転させる。駆動軸部211と大気ボックス201の間には、大気ボックス内部からチャンバ内へのリークを防ぐための、気密保持用のシール部202が設けられている。シール部としてはメカニカルシール、シールリングなど任意の機構を利用してよい。
【0046】
複数の大気ボックス201が、シャフト240に支えられた回転台245の上に設置されている。回転台245およびシャフト240は、モータ等の回転機構を備える回転駆動部241に駆動されて、XY平面内で回転軸244を中心として回転する。シャフト240とチャンバ壁の間は、チャンバ内部の真空を保つように磁性流体シールなどで封止されている。回転駆動部241の回転に伴って、大気ボックスに接続されているマスク搬送ローラ210と、マスク搬送ローラ210に支持されているマスクMも、XY平面内で回転する。回転台245としては既存のターンテーブルなどを利用できる。また、チャンバ内に固定されたベース246を配置し、回転台245を安定して支持することも好ましい。また、ベース246に溝状のガイドを設けておき、回転台245の突出部と組み合わせることで、回転動作を安定させることも好ましい。
【0047】
チャンバにはさらに、キャリア支持部230、キャリア駆動軸232、キャリア搬送ローラ220、キャリア搬送ローラの駆動軸221、および、キャリア搬送ローラの駆動部222が配置されている。またチャンバの上部壁の上には、キャリアZ駆動部231が配置されている。
【0048】
キャリア支持部230は、キャリア駆動軸232を介してキャリアZ駆動部231に接続されている。キャリア支持部230aが有する突出部が紙面左側から、キャリア支持部230bが有する突出部が紙面右側から、それぞれ基板キャリアCの外周部に設けられた溝部と噛み合うことにより、基板キャリアCが支持される。キャリア支持部230が基板キャリアCを支持した後、キャリアZ駆動部231はキャリア駆動軸232をZ方向において上方に移動させる。これにより、キャリア支持部230に支持された基板キャリアCがZ方向で上に移動し、マスクMから分離する。なお、キャリア支持部230とキャリア駆動軸232は一体であってもよい。
【0049】
キャリア搬送ローラ220は、駆動軸221を介して駆動部222に接続されており、マスク搬送ローラ210よりもZ方向で上方に配置されている。駆動部222は、キャリア搬送ローラ220をXY平面内で(
図4ではY方向に)移動させることができる。具体的には、駆動部222aはキャリア搬送ローラ220aをY方向の正の向きに移動させ、駆動部222bはキャリア搬送ローラ220bをY方向の負の向きに移動させる。これにより、キャリア搬送ローラ220aとキャリア搬送ローラ220bが、退避位置からキャリア支持位置に移動する。退避位置とは、Y方向において、キャリア搬送ローラ220aとキャリア搬送ローラ220bの間の距離が、基板キャリアCの幅よりも広く、基板キャリアCを自由に上下移動させることが可能な位置である。またキャリア支持位置とは、Y方向において、キャリア搬送ローラ220aとキャリア搬送ローラ220bの間の距離が、基板キャリアCの幅と同じか、より広い位置であり、基板キャリアCを支持可能な位置である。
【0050】
キャリアZ駆動部231がキャリア支持部230を上下に移動させる機構や、キャリア搬送ローラの駆動部222がキャリア搬送ローラ220をローラ回転軸方向(紙面ではY方向)に移動させる機構には、任意の既存の機構を採用できる。例えば、ガイド、ボールねじおよび回転エンコーダを備える装置や、リニアモータとリニアエンコーダを備える装置を用いてもよい。
【0051】
上記の構成を持つキャリアZ駆動部231と駆動部222とが連動して動作することで、マスクMに載置されている基板キャリアCを持ち上げてキャリア搬送ローラ220に載せ替えることが可能になる。その結果、マスクMから基板キャリアCを分離して別々に搬送できるようになる。また、マスクMを回転台245ごと回転させた状態で、マスクMから分離させた基板キャリアCを搬出することにより、マスクMと基板キャリアCを別々の方向に搬出することができる。
【0052】
大気ボックス201には、チャンバ外部から、シャフト240の中空部、回転台245に設けられた開口、および中継ボックス243の内部を経由して、各種の線やケーブルが接続されている。接続されている線として例えば、チャンバ外部から電力を供給する電力線、チャンバ内外で情報を送受信する信号線、チャンバ外部から大気ボックス201に気体を送り込むチューブ等がある。そのため、大気ボックス201の内部はチャンバ外部と同じく大気環境に保たれている。
図4ではチューブ250を例示している。ケーブルは、大気ボックス201に内包された機構に接続されている。内包された機構の種類は、大気ボックス201が配置されたチャンバに応じて異なる。例えば、基板キャリアを移動させるチャンバの場合は、キャリア搬送手段(キャリア搬送ローラ)に接続された駆動手段が内包される。また、マスクを移動させるチャンバの場合は、マスク搬送手段(マスク搬送ローラ)に接続された駆動手段が内包される。また、成膜源(蒸発源)を移動させながら成膜を行う成膜室の場合は、成膜源搬送手段に接続された駆動手段が内包される。
【0053】
また、チャンバ天面に、カメラなどの撮影手段252を設けてもよい。制御部550は、撮影手段252を用いた撮像画像を解析して、搬送体の速度や位置を調整する搬送制御に利用できる。例えば制御部550は、撮影手段252が回転後の回転台245を撮像して得られた画像を解析して、回転台245が所定の位置に収まったかどうかを判定することができる。これにより、マスク搬送ローラ210の搬送方向がずれていても、正しい方向に修正することができる。
【0054】
また、チャンバ内の所望の位置(図示例では上部隔壁)に、ヘリウムディテクタのプローブ270を設置してもよい。プローブ270は、チャンバ外のヘリウムディテクタ本体に接続されており、ヘリウム検出に用いるために周囲のガスを吸引して本体に送る。
【0055】
図5および
図6は、キャリア分離室531のチャンバ内部を上から見た平面図であり、マスクMおよび基板キャリアCは搬入されていない状態を示す。図示されるように、回転台245の上には4個ずつ2列、合計8個の大気ボックス201が設けられており、それぞれの大気ボックス201はマスク搬送ローラ210を2つずつ支持している。ただし、大気ボックスの数や配置はこれに限定されない。
図5では、マスク搬送ローラ210は紙面上で左右方向に連なっている。これは、紙面上で右側のバッファ室530からマスクMの搬入を受け、紙面上で左側のキャリア分離室532(第2の分離室)にマスクMを搬出する方向である。
【0056】
図5では、マスク搬送ローラ210が連続する方向(紙面でX方向)において、マスク搬送ローラ210の延長線上に、固定搬送ローラ260および固定従動ローラ263が配置されている。固定搬送ローラ260は、固定搬送ローラの駆動軸261を介して固定搬送ローラの駆動部262からの動力を受けて、マスクMをX方向に搬送する。固定従動ローラ263は、マスクMを支持可能なローラであり、固定搬送ローラ260およびマスク搬送ローラ210がマスクMを搬送するときに従動回転する。固定搬送ローラ260および固定従動ローラ263は、チャンバ内での位置が固定されている。
【0057】
図6は、回転駆動部241が、回転台245を、回転軸244を中心としてXY平面内で90度回転させた状態を示す平面図である。
図6では、マスク搬送ローラ210は紙面上で上下方向に連なっている。これは、キャリア分離室531から、紙面上で下側のマスク搬出室533にマスクMを搬出できる方向である。
図6の状態では固定搬送ローラ260および固定従動ローラ263はマスクMの搬送に利用できないが、チャンバ内の上下方向の幅が左右方向の幅よりも狭いため、マスクMの搬送時の安定性に問題は生じない。なお、固定搬送ローラ260や固定従動ローラ263の配置場所や数は、チャンバの形状や、搬送対象物のサイズや強度に応じて、適宜定めればよい。また、必要がなければ、固定搬送ローラ260や固定従動ローラ263を設けなくてもよい。
【0058】
また、制御部550は、回転台245を一定速度で回転させてもよいが、タイミングや状態に応じて回転速度を変化させてもよい。
図7は、回転台245の回転速度を制御する方法の一例を示したグラフである。横軸は回転台245が90度回転するときの角度を示し、縦軸は回転速度の相対値を示しており、マスクを載置している状態での最も速い速度を100としている。
図7の例では、制御部550は、回転台245を、回転の開始(0度)から回転の途中のタイミングt1までは徐々に加速し、タイミングt1からタイミングt2までは一定速度で回転させ、タイミングt2から回転の終了(90度)までは減速する。このような台形型の速度プロファイルで制御を行うことにより、回転台245の動作を滑らかにしてマスクMの安定を保ちつつ、できるだけ早く回転を完了させることができる。なお、制御プロファイルは台形に限定されず、加速-定速-減速の順に制御されるものであればよい。例えば、加速開始時や定速への移行時には緩やかに速度が変化するS字制御でもよい。
【0059】
また制御部550は、回転制御において、マスクMや基板キャリアCなどの搬送体を載置しているときと、載置していないときで、回転速度を変更してもよい。
図7の例では搬送体非載置時(実線)の方が、搬送体載置時(破線)よりも、定速での速度が遅くなるように制御している。
【0060】
[実施例1]
本実施例では、成膜装置500内の各チャンバにおける、基板キャリアCとマスクMの取り付け、分離、搬入および搬出のパターンについて、図面を参照しながら説明する。これにより、成膜装置500のチャンバ内におけるマスクMの回転の適用例を説明する。具
体的には、基板キャリアCとマスクMの合流が発生するマスク組込室510、基板キャリアCを載置したマスクMが旋回する回転室522と524、および、基板キャリアCがマスクMから分離され得るキャリア分離室531(第1の分離室)とキャリア分離室532(第2の分離室)における動作説明を行う。
【0061】
図8は、上記各チャンバでの搬送体(基板キャリアCとマスクM)の搬出、搬入および回転についての模式図である。表1は、
図8に示す各チャンバでの動作を説明する表である。以下の説明における「上」「下」「左」「右」はいずれも、図示例を説明するための便宜上のものであり、実際の成膜装置におけるチャンバの配置、搬送体の向き、搬送方向を限定するものではない。また、必ずしも各チャンバにおいて搬送体を回転する必要はなく、装置構成やチャンバの接続状態に応じて回転の有無を適宜決定すればよい。
【表1】
【0062】
(1)マスク組込室510
マスク組込室510には、基板キャリアCが左から、マスクMが下からそれぞれ搬入される。マスク組込室510には、キャリア分離室531と同様の回転台が設けられており、回転台がXY平面内で回転することにより、マスクMの向きも90度変化する。基板キャリアCはキャリア搬送ローラにより、マスクMはマスク搬送ローラにより、それぞれ右に搬送される。なお、実施例の構成では、アライメント室511において基板キャリアCがマスクMに載置されるが、マスク組込室510において載置を行ってもよい。
【0063】
(2)回転室522、524
回転室522には、基板キャリアCが載置されたマスクMが左から搬入される。回転室522にも回転台が設けられており、回転台の回転により、マスクMおよび基板キャリアCの向きが90度変化する。回転室524には、基板キャリアCが載置されたマスクMが上から搬入される。回転室524にも回転台が設けられており、回転台の回転により、マスクMおよび基板キャリアCの向きが90度変化する。
【0064】
(3)キャリア分離室531(第1の分離室)
キャリア分離室531には、基板キャリアCが載置されたマスクMが右から搬入される。キャリア分離室531では、基板キャリアCが、キャリアZ駆動部231の動作によってマスクから分離され、キャリア搬送ローラ220に支持される。
【0065】
(3-1)
キャリア分離室531において、マスクMは2通りの動作を行い得る。まず、マスク交換などの理由でマスクMを成膜装置500から搬出する場合は、キャリア分離室531内
の回転台245が回転し、マスクMの向きを90度変化させる。そして、
図6のようにマスク搬送ローラ210がY方向に連続した状態になったら、マスクMを下に搬出する。
【0066】
(3-2)
一方、マスクMを次回の成膜に再利用する場合は、回転台245を回転させずに、
図5のようにマスク搬送ローラ210がX方向に連続した状態で、マスクMを左に搬出する。なお、(3-1)と(3-2)どちらの場合も、基板キャリアCは基板搬送ローラによって左に搬出される。実施例の構成では、キャリア分離室531で必ず基板キャリアCを分離しているが、本発明はこれに限定されない。(3-2)のようにマスクMを再利用する場合は、マスクMに基板キャリアCを取り付けたまま左に搬出し、キャリア分離室532で分離を行うようにしてもよい。
【0067】
(4)キャリア分離室532(第2の分離室)
(4-1)
マスク交換が発生する場合は、キャリア分離室532には、マスクMが下から搬入される。ここで、キャリア分離室532にも回転台が設けられており、(4-1)の場合は、マスク搬送ローラが上下方向に連続するように制御されている。よって、搬入されたマスクMは向きを変えずにそのまま上に搬出される。
【0068】
(4-2)
一方、マスクMを再利用する場合は、キャリア分離室532には、マスクMが右から搬入される。この場合は、マスク搬送ローラが左右方向に連続するように回転台が制御される。そして、マスクMが搬入された後、回転台が90度回転する。そして、マスクMが上に搬出される。なお、(4-1)と(4-2)どちらの場合も、成膜済みの基板Sを保持している基板キャリアCは、右から搬入されて左に搬出される。したがって(4-1)の場合は、マスクMと基板キャリアCが上下に離間した状態で、それぞれマスク搬送ローラとキャリア搬送ローラに支持されながら搬送されてくる。
【0069】
各チャンバに配置される機構は、上記の表1に基づいて適宜決定される。例えばキャリア分離室531は、マスク搬送ローラと、マスクMから基板キャリアCを持ち上げるZ駆動機構と、持ち上げた基板キャリアCを支持するキャリア搬送ローラと、マスク搬送ローラの向きを変える回転機構と、を備える。一方、キャリア分離室532やマスク組込室510では、マスク搬送ローラ、キャリア搬送ローラ、および回転機構があればよい。また回転室522、524では、マスク搬送ローラと回転機構があればよい。その他、マスクMと基板キャリアCの分離や載置の有無や、搬送体の移動方向に基づいて定まる回転の必要性の有無に応じて、各チャンバの構成を決定すればよい。
【0070】
(具体例)
続いて、
図9~
図11のチャンバ断面図を参照しつつ、マスクMの回転および搬送の具体的な例を説明する。ここでは、上記(3-1)のように、キャリア分離室531においてマスク交換が発生する場合を例として説明する。各図において、説明に不要な一部の構成要素については、符号を省くか、記載自体を省略している。
【0071】
図9(a)は、キャリア分離室531に、マスクMと、マスクMに載置された基板キャリアCが搬送される様子を示す。このとき、大気ボックス201の内部に配置されたモータから、駆動軸部211を介して伝達された動力がマスク搬送ローラ210を回転させる。その結果、マスク搬送ローラ210に端部を支持されたマスクMがチャンバ内の所定の位置まで移動する。
【0072】
図9(b)は、基板キャリアCがZ方向の上向きに移動し、キャリア搬送ローラ220
により支持される様子を示す。まず、キャリア支持部230の突出部が基板キャリアCの溝部と噛み合い、基板キャリアCが支持される。そして、キャリアZ駆動部231がキャリア駆動軸232を介してキャリア支持部230を持ち上げることで、基板キャリアCがマスクMから分離して上昇する。キャリアZ駆動部231は、キャリア搬送ローラ220の設置されている高さよりも上に、基板キャリアCを持ち上げる。続いて、キャリア搬送ローラの駆動部222a、222bが、キャリア搬送ローラ220a、220bを、ローラの回転軸方向において接近させることで、キャリア搬送ローラ220a、220bが退避位置から支持位置に移動する。続いて、キャリアZ駆動部231が基板キャリアCを下降させてキャリア搬送ローラ220上に載置する。
【0073】
図10(a)は、基板キャリアCがキャリア分離室532に搬送される様子を示す。キャリア支持部230による基板支持が解除されたのち、キャリア搬送ローラの駆動部222が、駆動軸231を介してキャリア搬送ローラ220に動力を伝達する。これによりキャリア搬送ローラ220が回転して基板キャリアCが搬出される。
【0074】
図10(b)は、
図9(a)~
図10(a)とは90度異なる断面図である。回転駆動部241の駆動により、シャフト240および、マスクMを支持する回転台245が90度回転した状態が図示されている。
【0075】
図11は、マスクMを下方に搬出する様子を示す。マスク搬送ローラ210が大気ボックス内部の駆動手段により駆動されるとともに、固定搬送ローラ260が駆動部262により駆動されることで、マスク搬送ローラ210、固定従動ローラ263および固定搬送ローラ260に支持されているマスクMが移動して搬出される。
【0076】
以上のように、実施例の構成によれば、チャンバ内に回転可能な機構を設けることで、マスクなどの搬送体の搬送方向を変化させることが可能になる。その結果、例えば実施例においてキャリア分離室531からのマスクの搬出先を左と下に分岐させたように、搬送体の経路を柔軟に設定できるようになる。
【0077】
[実施例2]
本実施例では、チャンバ内に配置された大気ボックスからのリークを精度良く検出する方法について説明する。
【0078】
図12(a)は、大気ボックス201の垂直方向における断面図である。大気ボックス201の隔壁には、マスク搬送ローラ210に対応する数(本実施例では2つ)の挿通穴275が設けられている。挿通穴275には駆動軸部211が配置されており、駆動軸部211と挿通穴275の隙間はシール部202により封止されている。大気ボックス201の内部には、チャンバ外部から、挿通穴275ごとに、チューブ250が導入されている。挿通穴275は、大気ボックス201の内部から外部に貫通して配置される部材(ここでは駆動軸部)のための貫通孔であり、本実施例でのリーク箇所の候補に当たる。ただしリーク箇所の候補はこれに限定されない。
【0079】
図12(b)は、大気ボックス201の平面断面図である。駆動軸部は、大気ボックス内部においては駆動手段280に接続され、大気ボックス外部においてはマスク搬送ローラ210に接続されている。本実施例の駆動手段280は、不図示の電力線および信号線を介してチャンバ外部と接続されたモータである。
【0080】
(実施例2-1)
図13は、実施例2-1にかかるキャリア分離室531のチャンバ構成を示す模式的な断面図である。便宜上、8つある大気ボックス201のうちの1つに注目し、拡大して示
している。チャンバには、2つの挿通穴275a、275bが設けられている。大気ボックスからチャンバ内部へのリーク箇所の候補は、これらの挿通穴275a、275bである。
【0081】
大気ボックス201には、チャンバ外部に設置されたヘリウムディテクタ301の本体から、チューブ250a、250bが導入されている。チューブ250aは挿通穴275aの付近まで導入されており、ヘリウムディテクタ301からヘリウム(He)を送り出すことが可能である。ヘリウムディテクタ301をチューブ250aに接続する際は、チューブ250aの末端にバルブを取り付けて、ヘリウムディテクタ301のヘリウムボンベに接続する。
【0082】
またチューブ250bは挿通穴275bの付近まで導入されており、ヘリウムディテクタ301からヘリウム以外の気体を送り出すことが可能である。ヘリウム以外の気体とは、ヘリウムより重い気体であればよく、例えば大気、窒素、二酸化炭素、酸素などを利用できる。大気を用いる場合、チューブ250bの末端にバルブを取り付けて、大気送出用のポンプなどと接続する。ただし、本実施例の250bのチューブから送出される気体には、ヘリウムよりも軽い気体(例えば水素)は含まれない。
【0083】
なお、本実施例では検出対象箇所にヘリウムを送出する構成としたが、検出対象である挿通穴275aに対応するチューブ250aに送出する気体よりも、他の挿通穴275bに対応するチューブ250bに送出する気体の方が重ければよい。なお、チューブ250a、250bは、大気ボックス201に固定されていてもよいし、リークテストのときに設置するようにしてもよい。チューブ250aは、大気ボックス201の複数の箇所にあるリーク箇所の候補(挿通穴)のうちの1箇所にヘリウムを供給する第1供給手段として機能する。また、チューブ250bは、リーク箇所の候補のうちヘリウムが供給されていない箇所にヘリウムとは異なるガスを供給する、第2供給手段として機能する。
【0084】
本実施例のヘリウムディテクタ301としては、例えば、キャリア分離室531を真空チャンバとする、ベルジャー法によるリークテストを行う既存の装置を利用できる。プローブ270は、付近の気体を収集し、管を介してヘリウムディテクタ301の本体に送り出す、検出手段である。プローブ270に吸い込み機能を持たせることも好ましい。ヘリウムディテクタ301の本体は、プローブが収集した気体を分析し、気体中のヘリウムを検出、測定することにより、チャンバ内部に配置された、内部にヘリウムが充填されたワーク(ここでは大気ボックス)からの漏れの有無を検査する。ヘリウムの検出判定は、例えばヘリウムディテクタ301の検出情報に基づいて制御部550が行ってもよい。その場合は制御部550が判定手段として機能する。また、ヘリウムディテクタ301自体が判定手段としてヘリウムの検出判定を行ってもよい。
【0085】
図14は、実施例の構成で大気ボックスの挿通穴のシール不備によるリークを検出するための手順を説明する図である。この手順の目的は、挿通穴275aからのリークを検出することである。リーク検出シーケンスが開始されて各チューブから気体が送り出されると、大気ボックス201の内部では、チューブ250aの末端からヘリウムが、チューブ250bの末端から大気が充満する。ヘリウムは大気よりも軽いため、大気ボックス内で早く拡散する(符号311)。しかし、挿通穴275bの付近では、ヘリウムより重い大気が既に存在している(符号312)。すなわち、挿通穴275bの付近ではヘリウムが大気によりブロックされるため、挿通穴275bの付近ではヘリウムが漏れ出さない。
【0086】
図15は、挿通穴275aと275bの両方からリークが発生している場合のチャンバ内の様子を示す。挿通穴275aからはヘリウムがリークしているが(符号315)、挿通穴275からは、大気はリークするものの、ヘリウムのリークは発生しない(符号31
6)。したがって、ヘリウムディテクタ301がヘリウムを検出した場合、挿通穴275aでリークが発生していることが分かる。
【0087】
続いて、チューブ250aから大気が、チューブ250bからヘリウムが送出されるようにボンベの付け替えを行ったのち、同様の検査をすることで、挿通穴275bからの漏れの有無も検出できる。
【0088】
(実施例2-2)
図16は、ヘリウムディテクタ301が加圧積分法によりリーク検出を行う構成を示すブロック図である。
図13と同じ部分については説明を省略する。大気ボックス201は、気密な被覆部320により全体が覆われている。プローブ270は、被覆部320の内部に配置されている。
【0089】
図17は、挿通穴275a、275bの両方でリークが発生した状態を示している。挿通穴275bの周囲は大気によりブロックされるため、ヘリウムのリークが検出された場合は挿通穴275aがリーク箇所であることが分かる。続いて、チューブ250a、250bから大気ボックス内に導入する気体を交換してから同様の検査を行うことで、他方の挿通穴275bのリーク検査を実施できる。
【0090】
(実施例2-3)
図18は、ヘリウムディテクタ301がスニッファー法によりリーク検出を行う構成を示すブロック図である。
図13と同じ部分については説明を省略する。大気ボックス201のリーク箇所の候補の付近それぞれには、吸い込みプローブ279(279a、279b)が配置されている。ヘリウムディテクタ301の本体は、各吸い込みプローブの収集した気体を分析してヘリウムの有無を検出する。
【0091】
図19は、挿通穴275a、275bの両方でリークが発生した状態を示している。挿通穴275bの付近はヘリウムよりも重い大気によりブロックされているため、ヘリウムは挿通穴275aのみから検出される。よって、大気ボックスに複数あるリーク箇所の候補から1箇所ずつを選んで詳細にリークの有無を検知できるので、リーク検出の精度が向上する。
【0092】
続いて、チューブ250a、250bから大気ボックス内に導入する気体を交換してから同様の検査を行うことで、他方の挿通穴275bのリーク検査を実施できる。なお、図示例では各リーク箇所候補に1つの吸い込みプローブ279を配置している。ただし本実施例の構成であれば、吸い込みプローブ279を、検出対象となる挿通穴(ここでは挿通穴279a)のみに配置してもよい。
【0093】
実施例2-1~2-3の構成において、大気ボックスに設けられたリーク候補箇所の数は、2個に限定されない。また、リーク候補箇所を有する大気ボックスを、同時に複数個、検査してもよい。例えば、各々2つの挿通穴を有する大気ボックスを、2個同時に検査してもよい。その場合、4箇所の挿通穴それぞれの付近に1本ずつ、合計4本のチューブを導入しておき、いずれか1箇所のチューブにはヘリウムを選択的に送出し、他の箇所のチューブには大気を送出する。なお、本発明で用いるヘリウムディテクタは、大気ボックスのそれぞれの開口にヘリウムおよび他の気体を供給して、大気ボックスからリークしたヘリウムを検出する能力があればよく、上記の例には限定されない。
【0094】
実施例に示した構成によれば、ある一つのリーク発生候補箇所に選択的にヘリウムを供給し、他のリーク発生候補箇所にはヘリウムよりも重い気体を供給することができる。その結果、実際にリークが起こっている箇所に供給されたヘリウムが時間の経過とともに拡
散したとしても、他のリーク発生候補箇所では大気等によりブロックされるので、リークの発生した箇所を特定することができる。したがって、成膜装置の大気ボックスからのリークを精度良く検出できる。
【0095】
<電子デバイスの製造方法>
次に、本実施例に係る成膜装置を用いた電子デバイスの製造方法の一例を説明する。以下、電子デバイスの例として有機EL表示装置の構成を示し、有機EL表示装置の製造方法を例示する。
【0096】
まず、製造する有機EL表示装置について説明する。
図20(a)は有機EL表示装置700の全体図、
図20(b)は1画素の断面構造を表している。
【0097】
図20(a)に示すように、有機EL表示装置700の表示領域701には、発光素子を複数備える画素702がマトリクス状に複数配置されている。詳細は後で説明するが、発光素子のそれぞれは、一対の電極に挟まれた有機層を備えた構造を有している。なお、ここでいう画素とは、表示領域701において所望の色の表示を可能とする最小単位を指している。本実施例に係る有機EL表示装置の場合、互いに異なる発光を示す第1発光素子702R、第2発光素子702G、第3発光素子702Bの組み合わせにより画素702が構成されている。画素702は、赤色発光素子と緑色発光素子と青色発光素子の組み合わせで構成されることが多いが、黄色発光素子とシアン発光素子と白色発光素子の組み合わせでもよく、少なくとも1色以上であれば特に制限されるものではない。
【0098】
図20(b)は、
図20(a)のB-B線における部分断面模式図である。画素702は、複数の発光素子からなり、各発光素子は、基板703上に、第1電極(陽極)704と、正孔輸送層705と、発光層706R、706G、706Bのいずれかと、電子輸送層707と、第2電極(陰極)708と、を有している。これらのうち、正孔輸送層705、発光層706R、706G、706B、電子輸送層707が有機層に当たる。また、本実施例では、発光層706Rは赤色を発する有機EL層、発光層706Gは緑色を発する有機EL層、発光層706Bは青色を発する有機EL層である。発光層706R、706G、706Bは、それぞれ赤色、緑色、青色を発する発光素子(有機EL素子と記述する場合もある)に対応するパターンに形成されている。
【0099】
また、第1電極704は、発光素子毎に分離して形成されている。正孔輸送層705と電子輸送層707と第2電極708は、複数の発光素子702R、702G、702Bで共通に形成されていてもよいし、発光素子毎に形成されていてもよい。なお、第1電極704と第2電極708とが異物によってショートするのを防ぐために、第1電極704間に絶縁層709が設けられている。さらに、有機EL層は水分や酸素によって劣化するため、水分や酸素から有機EL素子を保護するための保護層710が設けられている。
【0100】
図20(b)では正孔輸送層705や電子輸送層707は一つの層で示されているが、有機EL表示素子の構造によっては、正孔ブロック層や電子ブロック層を備える複数の層で形成されてもよい。また、第1電極704と正孔輸送層705との間には第1電極704から正孔輸送層705への正孔の注入が円滑に行われるようにすることのできるエネルギーバンド構造を有する正孔注入層を形成することもできる。同様に、第2電極708と電子輸送層707の間にも電子注入層が形成することもできる。
【0101】
次に、有機EL表示装置の製造方法の例について具体的に説明する。
【0102】
まず、有機EL表示装置を駆動するための回路(不図示)及び第1電極704が形成された基板(マザーガラス)703を準備する。
【0103】
第1電極704が形成された基板703の上にアクリル樹脂をスピンコートで形成し、アクリル樹脂をリソグラフィ法により、第1電極704が形成された部分に開口が形成されるようにパターニングし絶縁層709を形成する。この開口部が、発光素子が実際に発光する発光領域に相当する。
【0104】
絶縁層709がパターニングされた基板703を粘着部材が配置された基板キャリアに載置する。粘着部材によって、基板703は保持される。第1の有機材料成膜装置に搬入し、反転後、正孔輸送層705を、表示領域の第1電極704の上に共通する層として成膜する。正孔輸送層705は真空蒸着により成膜される。実際には正孔輸送層705は表示領域701よりも大きなサイズに形成されるため、高精細なマスクは不要である。
【0105】
次に、正孔輸送層705までが形成された基板703を第2の有機材料成膜装置に搬入する。基板とマスクとのアライメントを行い、基板をマスクの上に載置し、基板703の赤色を発する素子を配置する部分に、赤色を発する発光層706Rを成膜する。
【0106】
発光層706Rの成膜と同様に、第3の有機材料成膜装置により緑色を発する発光層706Gを成膜し、さらに第4の有機材料成膜装置により青色を発する発光層706Bを成膜する。発光層706R、706G、706Bの成膜が完了した後、第5の成膜装置により表示領域701の全体に電子輸送層707を成膜する。電子輸送層707は、3色の発光層706R、706G、706Bに共通の層として形成される。
【0107】
電子輸送層707まで形成された基板を金属性蒸着材料成膜装置で移動させて第2電極708を成膜する。
【0108】
その後プラズマCVD装置に移動して保護層710を成膜して、基板703への成膜工程を完了する。反転後、粘着部材を基板703から剥離することで、基板キャリアから基板703を分離する。その後、裁断を経て有機EL表示装置700が完成する。
【0109】
絶縁層709がパターニングされた基板703を成膜装置に搬入してから保護層710の成膜が完了するまでは、水分や酸素を含む雰囲気にさらしてしまうと、有機EL材料からなる発光層が水分や酸素によって劣化してしまうおそれがある。従って、本実施例において、成膜装置間の基板の搬入搬出は、真空雰囲気又は不活性ガス雰囲気の下で行われる。
【符号の説明】
【0110】
201:大気ボックス、250:チューブ、275:挿通穴、500:成膜装置、531:キャリア分離室、550:制御部