(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】イオンポンプにおけるプラズマ形成の低減
(51)【国際特許分類】
H01J 41/12 20060101AFI20240806BHJP
【FI】
H01J41/12
(21)【出願番号】P 2022514996
(86)(22)【出願日】2020-09-04
(86)【国際出願番号】 IB2020058239
(87)【国際公開番号】W WO2021044353
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2023-08-07
(32)【優先日】2019-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】517316096
【氏名又は名称】エドワーズ バキューム リミテッド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100196221
【氏名又は名称】上潟口 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】プリヴェト エヴァン
(72)【発明者】
【氏名】ティエルリー マーカス ハンス ロバート
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開平1-85577(JP,A)
【文献】特開平4-10347(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 41/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンピングの開始中にイオンポンプの陽極と陰極との間の電位差の増加及び減少を交互に複数回行い、前記イオンポンプのポンピングチャンバにおけるプラズマの形成を制限しながら前記陽極付近のイオンを前記陰極に向けて移動させるように構成される、イオンポンプコントローラであって、
前記イオンポンプコントローラは、前記陽極と前記陰極との間の前記電位差の増加及び減少を条件が満たされるまで交互に行った後に、前記陽極と前記陰極との間の前記電位差を目標電位差に達するまで増加させるように構成され、
前記条件は、前記陽極と前記陰極との間の前記電位差が閾値よりも大きいかどうかである、イオンポンプコントローラ。
【請求項2】
前記陽極と前記陰極との間の前記電位差は、前記陽極と前記陰極との間の前記電位差が連続して増加する毎に前記電位差の以前の増加よりも大きくなる、
請求項1に記載のイオンポンプコントローラ。
【請求項3】
前記イオンポンプコントローラは、前記電位差の減少と増加との間に一時停止する、
請求項1に記載のイオンポンプコントローラ。
【請求項4】
前記イオンポンプコントローラは、スイッチを閉じるように制御することによって前記電位差を増加させ、前記スイッチを開くように制御することによって前記電位差を減少させる、
請求項1に記載のイオンポンプコントローラ。
【請求項5】
イオンポンプの動作方法であって、
前記イオンポンプの陽極と陰極との間の電位差を増減させるステップと、
前記イオンポンプの状態が変化したと判定するステップと、
前記状態の前記変化に応答して、前記陽極と前記陰極との間の前記電位差を目標電位差まで増加させるステップと、
を含み、
前記電位差を増減させる前記ステップは、前記イオンポンプにおけるプラズマの形成を制限するように前記陽極と前記陰極との間に電圧パルスを付与するステップを含み、
前記イオンポンプの状態が変化したと判定するステップは、電圧パルス中の前記陽極と前記陰極との間の前記電位差が閾値電圧を上回ると判定するステップを含む、方法。
【請求項6】
各電圧パルスは、スイッチを閉じた後に前記スイッチを開くことによって形成される、
請求項5に記載の方法。
【請求項7】
各電圧パルスは、以前の全ての電圧パルスよりも大きな電位差をもたらす、
請求項6に記載の方法。
【請求項8】
各電圧パルスは、前記イオンポンプ内でプラズマが形成されるのを防ぐ、
請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記電位差を減少させた後に、
一定時間にわたって一時停止するステップと、
一時停止後、前記陽極と前記陰極との間の前記電位差を増加させた後に前記陽極と前記陰極との間の前記電位差を減少させるステップと、
をさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
イオンポンプの始動中に、前記イオンポンプ内の陽極及び陰極の少なくとも一方に電力を供給することと電力を供給しないこととを自動的に交互に行い、前記イオンポンプにおけるプラズマの形成を制限するように構成されるイオンポンプコントローラであって、
前記イオンポンプコントローラは、前記イオンポンプの状態を判定し、前記判定された状態に応答して、電力を供給することと電力を供給しないこととを交互に行うことを停止し、代わりに継続的に電力を供給するように構成され、
前記イオンポンプコントローラは、電力を供給する際に前記陽極と前記陰極との間の電圧を判定することによって前記イオンポンプの前記状態を判定するように構成される、イオンポンプコントローラ。
【請求項11】
電力を供給しないことと電力を供給することとの間で2秒未満の時間にわたって一時停止するようにさらに構成される、
請求項10に記載のイオンポンプコントローラ。
【請求項12】
閉じている時に前記イオンポンプに電力を供給し、開いている時に前記イオンポンプに電力を供給しない固体スイッチを備える、
請求項10に記載のイオンポンプコントローラ。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
超高真空とは、10-7パスカル(10-9mbar、約10-9tor)未満の圧力を特徴とする真空領域(vacuum regime)のことである。いくつかの状況では、超高真空を確立するためにイオンポンプが使用される。イオンポンプでは、2つの陰極板間に円筒形の陽極管が配置され、各陽極管の開口部が陰極板の1つに対向する。陽極と陰極との間には電位が付与される。同時に、陰極板の反対側の磁石が、陽極円筒の軸に整列する磁場を発生させる。
【0002】
イオンポンプは、ペニングセル装置(Penning cell setup)に匹敵する電位と磁場との組み合わせを通じて円筒形陽極内で電子を捕獲することによって動作する。陽極の1つにガス分子が流れ込むと、捕獲された電子が分子に衝突して分子をイオン化させる。結果として生じる正電荷イオンは、陽極と陰極との間の電位によって陰極板の1つに向かって加速され、円筒形陽極内に残る剥ぎ取られた電子は、他の気体分子のさらなるイオン化に使用される。正電荷のイオンは、最終的に陰極に捕獲されることによって真空空間から除去される。通常、正電荷イオンは、陰極からの物質が正電荷イオンによってポンプの真空チャンバ内にスパッタリングされるスパッタリングイベントを通じて捕獲される。このスパッタリングされた物質はポンプ内の表面を覆い、ポンプ内を移動するさらなる粒子を捕獲するように作用する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
上記の説明は一般的背景情報を提供するものにすぎず、特許請求する対象の範囲を決定する補助として使用されるように意図したものではない。特許請求する対象は、背景技術において言及した一部又は全部の不利点を解決する実装に限定されるものではない。
【0004】
イオンポンプコントローラが、ポンピングの開始中にイオンポンプの陽極と陰極との間の電位差の増加及び減少を交互に複数回行うように構成される。
【0005】
さらなる実施形態によれば、イオンポンプの動作方法が、イオンポンプの陽極と陰極との間の電位差を増減させた後に、イオンポンプの状態が変化したと判定するステップを含む。この状態の変化に応答して、陽極と陰極との間に定常状態電圧が付与される。
【0006】
さらなる実施形態によれば、イオンポンプコントローラが、始動中にイオンポンプ内の陽極及び陰極の少なくとも一方に電力を供給することと供給しないこととを自動的に交互に行うように構成される。
【0007】
この概要は、詳細な説明においてさらに後述する概念の一部を簡略化した形で紹介するために提供するものである。この概要は、特許請求する対象の重要な又は基本的な特徴を識別するように意図したものではなく、特許請求する対象の範囲を決定する補助として使用されるように意図したものでもない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】一実施形態によるコントローラアセンブリのブロック図である。
【
図3】共通タイムラインに沿った制御信号、出力電圧及び陽極-陰極電圧のグラフである。
【
図4】様々な実施形態による方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、一実施形態による、イオンポンプコントローラ101に取り付けられたイオンポンプ100の断面図である。イオンポンプ100は、真空排気すべきシステムに接続するための接続フランジ106に溶接されたチャンバ壁104によって定められる真空チャンバ102を含む。チャンバ壁104の外部には、2つのフェライト磁石108及び110が配置されてイオンポンプ100の両側に取り付けられる。フェライト磁石108及び110の各々の外側には磁束ガイド112が配置され、矢印130及び132で示すようにフェライト磁石108及び110の各々の外部間に磁束を導くようにイオンポンプ100の下方及び/又は側面に延びる。フェライト磁石108、110は、真空チャンバ102を通過する磁場Bを発生させる。
【0010】
真空チャンバ102内では、2つの陰極板116及び118間に円筒形陽極114のアレイが配置され、陽極円筒の開口部が陰極板に面する。
【0011】
円筒形陽極114及びチャンバ壁104は正電位に維持され、陰極板116及び118は接地電位に維持される。いくつかの実施形態によれば、陰極板116及び118と円筒形陽極114との間の電位差は3~7kVである。
【0012】
動作時には、真空排気すべきシステムのフランジにフランジ106が接続される。フランジが接続されると、真空排気すべきシステム内の粒子が真空チャンバ102内に移動し、最終的に円筒形陽極114のうちの1つの内部を移動する。磁場Bと、陽極114と陰極板116及び118との間の電位との組み合わせによって、円筒形陽極114の各々の内部で電子が捕獲される。電子は、円筒形陽極114内で捕獲されても動いており、円筒形陽極114内に粒子が入り込むと、捕獲された電子がこれらに衝突して粒子をイオン化させる。この結果、陽極114と陰極板116、118との間の電位差によって正電荷イオンが加速し、円筒形陽極114の内部から陰極板116、118の1つに向かって移動するようになる。これらのイオンは、陰極板116/118に衝突して陰極板116/118からの物質を陰極板からスパッタ除去し、これらのイオンが陰極板116/118に埋め込まれるようになる。
【0013】
イオンポンプコントローラ101は、導体216及び218を通じて陽極114及び陰極板116/118に付与される電流及び電圧を供給してモニタする。イオンポンプコントローラ101は、陽極114と陰極板116/118との間の測定電流を使用して真空チャンバ102内の圧力を計算する。いくつかの実施形態によれば、イオンポンプコントローラ101は、制御命令を受け入れて、陽極114と陰極板116/118との間の電流及び電圧と真空チャンバ102内の圧力とを含むイオンポンプ100の状態を表示するタッチ画面を含む。イオンポンプコントローラ101は、様々なコンピュータ装置と通信するためのネットワーク通信インターフェイスも含む。このようなコンピュータ装置は、ポンプ100の動作を制御するためにイオンポンプコントローラ101にコマンド信号を送信するとともに、イオンポンプコントローラ101及びイオンポンプ100の現在の状態を表す値をイオンポンプコントローラ101から受信することができる。
【0014】
先行技術のイオンポンプは、10-5mbarを上回る圧力での始動が困難である。このような圧力で高電圧が付与されると、陰極と陽極との間で電流を伝える強力なプラズマがポンプ内で発生する。これにより、陽極と陰極との間に生じ得る電位差の大きさが制限され、従って発生するスパッタリングの量も制限される。また、強力なプラズマの形成によってイオンポンプ内で熱が発生し、これによってさらに圧力が上昇する。この圧力の上昇によって、プラズマが伝えることができる電流が増加し、これによってポンプ内の陽極と陰極との間の電圧の大きさがさらに制限される。
【0015】
本明細書で説明する実施形態は、イオンポンプの始動中におけるプラズマの形成を制限することにより、ポンプに供給される電力が発熱時に浪費されるのを抑える。具体的には、これらの実施形態は、陽極と陰極との間に常に電力を付与するのではなく、陽極と陰極との間に供給電圧のパルスを付与する。各パルスは、ポンプ内でスパッタリングを誘発するのに十分である一方で、イオンポンプ内の強力なプラズマの形成を防止又は少なくとも制限する。ポンプは、陽極及び陰極にわたってパルス状の電力を付与しながら、ポンプに電力が供給されている時の陰極と陽極との間の電圧などのイオンポンプの状態をモニタする。モニタされた状態が閾値に達すると、陽極と陰極との間に継続的に電力が付与される。
【0016】
図2は、一実施形態によるイオンポンプコントローラ101の回路図である。イオンポンプコントローラ101は、電源200から電力を受け取る。様々な実施形態によれば、この電力は100~240VACであるが、他の実施形態では12又は24VDCである。イオンポンプコントローラ101は、イオンポンプコントローラ101を電源200に接続する同じプラグを介して接地にも接続される。
【0017】
電源200からの電力は電圧調整ユニット202に供給され、電圧調整ユニット202は、イオンポンプコントローラ101の様々な回路に給電するように調節されたDC電圧を供給する。電圧調整ユニット202は、調節されたDC電圧出力204をスイッチ206にも供給する。スイッチ206は、スイッチコントローラ212からの制御信号210によって制御されるパワーMOSFETなどの1又は2以上の固体スイッチから成る。スイッチ206の出力205は、調節されたDC電圧出力204の電圧と接地とを制御信号210に基づいて交互に行うパルス信号である。
【0018】
パルス信号205は、電圧を高めて高電圧AC信号207を生成する昇圧器(step-up transformer)208に供給される。高電圧AC信号207は、高電圧AC信号207の大きさの倍数である無負荷電圧を有するDC電力出力209を生成する高電圧増倍器214に供給される。
【0019】
DC電力出力209は、DC電力出力209の電圧及び電流を測定する電圧及び電流計(voltage and current metering)220に接続される。
【0020】
一実施形態によれば、昇圧器208によって供給される電圧の増加が、パルス信号205のパルスの周波数及び/又はパルス幅に部分的に基づく。この結果、スイッチコントローラ212は、パルス信号205の周波数及び/又はパルス幅を修正することにより、昇圧器208によって出力される電圧を変更することができる。一実施形態によれば、スイッチコントローラ212は、マイクロプロセッサ222によって供給されるDC電力出力209の目標電圧231と、電圧及び電流計220によって供給されるDC電力出力209の測定電圧233との間の差分229に基づいて周波数及び/又はパルス幅を修正する。
図2では、この差分を別の加算器(summer)228によって生成されるように示しているが、他の実施形態では、この差分がスイッチコントローラ212内で決定される。差分229が、測定電圧233が目標電圧231よりも低いことを示す場合、スイッチコントローラ212は、DC電力出力209の電圧が上昇するように制御信号210を変更してスイッチ206の切り替えを調整する。差分229が、測定電圧233が目標電圧231よりも高いことを示す場合、スイッチコントローラ212は、DC電力出力209上の電圧が低下するように制御信号210を変更してスイッチ206の切り替えを調整する。
【0021】
さらに後述するように、ポンプ始動時などにポンプ内の圧力が何らかの閾値を上回っている場合には、DC電力出力209の電圧がパルス化される。このようなパルス化中、スイッチコントローラ212は、スイッチ206の切り替えの調整を中断し、或いはパルス化されたDC電力出力209の各サイクル中に測定された最大電圧のみに基づいて切り替えを調整する。
【0022】
電圧及び電流計220は、測定されたDC電力出力209の電流及び電圧を表すデジタル値を定期的にマイクロプロセッサ222に提供する。マイクロプロセッサ222は、この電流値を使用してポンプ室102内の圧力を計算し、電流、電圧及び圧力の値を表示するようにユーザインターフェイス224上のグラフィックを変更する。マイクロプロセッサ222は、ユーザインターフェイス224及び/又は通信ポート226を通じて、イオンポンプ100を始動及び停止する命令も受け取る。
【0023】
マイクロプロセッサ222は、DC電力出力209の測定電圧を使用して、導体216に対するDC電力出力209の接続及び切断を交互に行うパルススイッチ240を制御する。一実施形態によれば、パルススイッチ240が物理的リレーである一方で、他の実施形態では、スイッチ206が、パワーMOSFET及び高電圧絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)などの1又は2以上の固体スイッチから成る。一実施形態によれば、マイクロプロセッサ222は、DC電力出力209の電圧が閾値電圧未満に低下した時にパルススイッチ240に導体216からDC電力出力209を切断させるように制御信号241を設定する。マイクロプロセッサ222は、一定時間後にパルススイッチ240にDC電力出力209を導体216に再接続させるように制御信号241を変更する。これらの2つのステップが繰り返されることによって導体216に電圧パルスが発生し、ポンプ始動中などのポンプ室内の圧力が高い時に強力なプラズマが発生するのを防ぐのに役立つ。パルススイッチ240が閉じられた時にDC電力出力209の電圧がもはや閾値電圧未満に低下しなくなると、マイクロプロセッサ222は制御信号241を一定値に設定してパルススイッチ240を閉位置に維持する。
【0024】
図3は、共通タイムライン308に沿った3つのグラフ302、304及び306である。グラフ302は制御信号241を表しており、開状態310と閉状態312との間で遷移することが分かる。開状態310は、パルススイッチ240を開いてDC電力出力209を導体216に接続しないようにする制御信号241の値を表す。閉状態312は、パルススイッチ240を閉じてDC電力出力209を導体216に接続させる制御信号241の値を表す。グラフ304は、DC電力出力209の電圧のグラフであり、グラフ306は、陽極114と陰極板116/118との間の電位差でもある導体216の電圧のグラフである。
【0025】
図4は、一実施形態によるイオンポンプの始動方法のフロー図である。
図3の時点314などの
図4の方法よりも前にはイオンポンプに電力が付与されておらず、イオンポンプはオフであると考えられる。ポンプは、
図3の時点316及び
図4のステップ400において、ユーザインターフェイス224を通じて受け取られた入力及び/又は通信ポート226を通じて受け取られた命令に基づいて、マイクロプロセッサ222によってオンにされる。ステップ402において、DC電力出力209上に目標電圧が生成される一方で、マイクロプロセッサ222がパルススイッチ240を開くように制御信号241上で値を発行する。パルススイッチ240が開くので、DC電力出力209の電圧が上昇する一方で、導体216の電圧は接地/中立のままである。
【0026】
DC電力出力209が目標電圧に達すると、時点318、ステップ404において、マイクロプロセッサ222がパルススイッチ240を閉じる値を制御信号241上で送信する。これによってDC電力出力209が導体216に接続される結果、DC電力出力209及び導体216が電圧319に達するまでDC電力出力209の電圧が低下して導体216の電圧が上昇する。電圧319の大きさは、チャンバ102内のガスを通じて陽極114と陰極板116/118との間にどれほどの電流が流れるかによって制御される。一般に、チャンバ102内のガス圧が高いほど電流も高くなる。電流は、陰極板におけるイオンの捕獲及び/又はチャンバ102内の他の粒子を捕獲するスパッタリングをもたらす、陰極板に向かう正イオンの流れに関連する。この結果、導体216の電圧の上昇によってチャンバ102内の圧力が減少する。
【0027】
ステップ406において、マイクロプロセッサ222は、DC電力出力209の電圧319が閾値電圧321未満であることを検出し、これに応答して、ステップ408においてパルススイッチ240を開く値を制御信号241上で送信する。これによってDC電力出力209と導体216との間の接続が切断される結果、DC電力出力209の電圧が目標電圧に戻って導体316の電圧が接地/中立に戻る。
【0028】
ステップ410において、マイクロプロセッサ222は0.5秒などの時間にわたって待機し、その後にステップ404に戻って再びパルススイッチ240を閉じる。再びパルススイッチ240が閉じると、DC電力出力209が導体216に再接続される結果、DC電力出力209及び導体216が電圧323に達するまでDC電力出力209の電圧が低下して導体216の電圧が上昇する。導体216の電圧パルスによってチャンバ102内の圧力が低下し、これによって陽極114と陰極板116/118との間の電流が減少しているため、電圧323は電圧319よりも高い。
【0029】
ステップ406において、マイクロプロセッサ222は、再びDC電力出力209の電圧323が閾値電圧321未満であることを検出し、これに応答して、ステップ408においてパルススイッチ240を開く値を制御信号241上で送信する。これによってDC電力出力209と導体216との間の接続が途切れる結果、DC電力出力209の電圧が目標電圧に戻って導体216の電圧が接地/中立に戻る。ステップ410において、マイクロプロセッサ222は再び0.5秒などの時間にわたって待機し、その後にステップ404に戻って再びパルススイッチ240を閉じる。
【0030】
マイクロプロセッサ222は、ステップ404、406、408及び410を繰り返し続け、これによって時間周期325中に制御信号241に一連のパルスが生じるとともに、DC電力出力209及び導体216に対応する一連の電圧パルスが生じるようになる。従って、マイクロプロセッサ222は、陽極114に電力を供給することと供給しないこととを交互に行うことによって、イオンポンプの始動時における陽極と陰極との間の電位差の増加及び減少を交互に行う。また、導体216における一連の電圧パルスの各連続パルスは、チャンバ102内の圧力が低下するにつれてわずかに大きな電圧を有するようになる。
【0031】
最終的には、時点321においてパルススイッチ240が閉じられても、DC電力出力209の電圧は閾値電圧321未満に低下しなくなる。この結果、マイクロプロセッサ222は、ステップ406の後に再びパルススイッチ240を開かずに、ステップ412においてパルススイッチ240を閉じたままにする。この結果、DC電力出力209及び導線216の電圧は、時点326において目標電圧に到達するまでゆっくりと上昇する。
【0032】
いくつかの実施形態では、マイクロプロセッサ222が、パルススイッチ240が閉じている時間の長さとパルススイッチ240が開いている時間の長さとが等しい状態で一定間隔でスイッチ206を開閉させる。他の実施形態では、パルススイッチ240が開いている時間が閉じている時間と異なる。さらなる実施形態では、各パルス中にパルススイッチ240が閉じている時間量が時間と共に変化する。様々な実施形態によれば、パルススイッチ240が0.005秒~2秒にわたって閉じ、0.5秒~2秒にわたって開く。
【0033】
本実施形態は、イオンポンプの始動時に電圧パルスを付与することによってイオンポンプ内のプラズマの形成を制限又は完全に防止し、これによってイオンポンプの始動時に熱に対して失われるエネルギー量を低減することができる。このことは、より効率的であるだけでなく、過度の熱によるイオンポンプの損傷を抑えるのに役立つこともできる。上記実施形態では、ポンプ始動中に電圧パルスを付与することについて説明したが、他の実施形態では、DC電力出力209の電圧が閾値電圧321未満である時には常に電圧パルスを付与することもできる。
【0034】
上記説明では、高電圧増倍器214と導体216との間にパルススイッチ240が配置されていた。別の実施形態では、昇圧器208と高電圧増倍器214との間にパルススイッチ240が配置される。パルススイッチ240を高電圧増倍器214の手前の位置に移動させると、パルススイッチ240が低電圧で動作することによってパルススイッチ240のコストが減少するようになる。しかしながら、パルススイッチ240を高電圧増倍器214の手前に配置すると、パルススイッチ240の切り替えと結果としての導体216の電圧の変化との間の遅延も増加する。他の実施形態では、パルススイッチ240がスイッチ206と昇圧器208との間に配置される。この場合も、これによってパルススイッチ240の電圧要件がさらに低下することによってパルススイッチ240のコストが減少する一方で、切り替えと導体216の電圧の変化との間の遅延がさらに増加する。
【0035】
上記説明では、陰極板116/118が接地であり、陽極114が正電圧であると説明した。他の実施形態では、各パルスで陰極板116/118に負電位が付与されている間、陽極114が接地に維持される。陰極板116/118に負電圧を付与するか、それとも陽極114に正電圧を付与するかの選択は、設計上の好みの問題である。従って、陰極板116/118又は陽極114のいずれかに電力を付与することができる。ここでは、陽極114及び陰極板116/118の極性にかかわらず、陽極114と陰極板116/118との間の電圧の大きさを陽極114と陰極板116/118との間の電位差と呼ぶ。
【0036】
上記では要素を別の実施形態として図示し又は説明したが、各実施形態の一部を上述した他の実施形態の全部又は一部と組み合わせることもできる。
【0037】
構造的特徴及び/又は方法論的行為に特有の言語で主題を説明したが、添付の特許請求の範囲に定める主題は、必ずしも上述した特定の特徴又は行為に限定されるものではないと理解されたい。むしろ、上述した特定の特徴及び行為は、請求項を実施する形態例として開示したものである。
【符号の説明】
【0038】
100 イオンポンプ
101 イオンポンプコントローラ
102 真空チャンバ
104 チャンバ壁
106 接続フランジ
108 フェライト磁石
110 フェライト磁石
112 磁束ガイド
114 円筒形陽極
116 陰極板
118 陰極板
130 矢印
132 矢印
216 導体
218 導体