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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-05
(45)【発行日】2024-08-14
(54)【発明の名称】研磨用組成物
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20240806BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20240806BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20240806BHJP
   C01B 33/14 20060101ALI20240806BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20240806BHJP
【FI】
H01L21/304 622D
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
C09G1/02
C01B33/14
B24B37/00 H
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023166812
(22)【出願日】2023-09-28
【審査請求日】2023-11-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大和 泰之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 章太
【審査官】渡井 高広
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-094060(JP,A)
【文献】特開2021-080441(JP,A)
【文献】特開2015-196704(JP,A)
【文献】特開2017-149798(JP,A)
【文献】国際公開第2019/181399(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/065723(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
C09K 3/14
C09G 1/02
C01B 33/14
B24B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロイダルシリカと、アルカリ金属塩と、水とを含有し、pHが9.0~11.5であり、
部が設けられた第1の層と、当該凹部内が埋まるように形成されている第2の層を有する研磨対象物において、前記第2の層を研磨して前記第1の層を露出する工程に用いられ、前記第1の層は、酸素-ケイ素結合を有する、または、窒素-ケイ素結合を有するものから選択され、前記第2の層は、ケイ素-ケイ素結合を有し、前記第1の層の研磨速度に対する前記第2の層の研磨速度が、20~40である、研磨用組成物。
【請求項2】
コロイダルシリカと、アルカリ金属塩と、水とを含有し、pHが9.0~11.5であり、前記コロイダルシリカの濃度が1.5質量%である場合に、波長450nmの光を透過させたときの透過率が、0.1%超1%未満であり、
(i)凹部が設けられた第1の層と、当該凹部内が埋まるように形成されている第2の層を有する研磨対象物において、前記第2の層を研磨して前記第1の層を露出する工程に用いられ、前記第1の層は、酸素-ケイ素結合を有する、または、窒素-ケイ素結合を有するものから選択され、前記第2の層は、ケイ素-ケイ素結合を有する、
および/または
(ii)前記コロイダルシリカのシラノール基数が6個/nm以上22個/nm以下である、研磨用組成物。
【請求項3】
シラノール基数が6個/nm以上22個/nm以下のコロイダルシリカと、アルカリ金属塩と、水のみから実質的に構成され、pHが9.0~11.5である、研磨用組成物。
【請求項4】
シラノール基数が6個/nm以上22個/nm以下のコロイダルシリカと、アルカリ金属塩と、防腐剤と、水のみから実質的に構成され、pHが9.0~11.5である、研磨用組成物。
【請求項5】
前記コロイダルシリカのパルスNMR比表面積が40m/g以下である、請求項1~4のいずれかに記載の研磨用組成物。
【請求項6】
前記コロイダルシリカの平均一次粒子径が、70nm超100nm未満である、請求項1~4のいずれかに記載の研磨用組成物。
【請求項7】
前記アルカリ金属塩が、アルカリ金属の水酸化物である、請求項1~4のいずれかに記載の研磨用組成物。
【請求項8】
前記アルカリ金属の水酸化物が、水酸化カリウムである、請求項に記載の研磨用組成物。
【請求項9】
HEC、PAA、POEラウリルエーテル、DBS、H、アンモニアおよびアミンの少なくともいずれかを実質的に含まない、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項10】
水溶性高分子、界面活性剤、酸化剤、および、窒素原子を有する化合物の少なくともいずれかを実質的に含まない、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
CMP分野において、凹部が設けられた二酸化ケイ素膜と、当該凹部内が埋まるように形成されているポリシリコン膜を配し、二酸化ケイ素膜をストッパー層として研磨が行われることがある。
【0003】
二酸化ケイ素膜に対してポリシリコン膜がどれだけ研磨され易いかを表す指標として、ポリシリコン膜が研磨される速度と、二酸化ケイ素膜が研磨される速度との比である選択比が用いられる。これは、ポリシリコン膜が研磨される速度を二酸化ケイ素膜のそれで除すことで求められる。二酸化ケイ素膜をストッパー層として機能させるには、選択比が大きい方がよい。
【0004】
特許文献1には、大きな選択比が得られ、かつ、表面欠陥の発生が少ない研磨用組成物を提供することを課題として、二酸化ケイ素等の研磨材および水を含んでなる研磨用組成物であって、さらに水酸化テトラメチルアンモニウム等の塩基性有機化合物を含んでよい、研磨用組成物が提供されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-321569公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは新たな研磨用組成物を開発する過程で、従来の技術では、二酸化ケイ素膜で形成された凹部内に埋まっているポリシリコンも過剰研磨される、いわゆるリセスが発生しうることを見出した。本発明者らはさらに検討を進める過程で、選択比を制御しても、砥粒が適切でなかったり、研磨用組成物のpHが適切でなかったりすると、研磨後に、ポリシリコンが残ってしまったり、リセスが発生したりすることを見出した。
【0007】
そこで本発明は、ポリシリコン等の研磨されるべき研磨対象物の残存を低減するとともに、リセスも抑制できる新規な研磨用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、コロイダルシリカと、アルカリ金属塩と、水とを含む、pHが9.0~11.5である、研磨用組成物であって、(i)凹部が設けられた第1の層と、当該凹部内が埋まるように形成されている第2の層を有する研磨対象物において、前記第2の層を研磨して前記第1の層を露出する工程に用いられ、前記第1の層は、酸素-ケイ素結合を有する、または、窒素-ケイ素結合を有するものから選択され、前記第2の層は、ケイ素-ケイ素結合を有する、および/または(ii)前記コロイダルシリカのシラノール基数が6個/nm以上22個/nm以下である、研磨用組成物である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ポリシリコン等の研磨されるべき研磨対象物の残存を低減するとともに、リセスも抑制できる新規な研磨用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、研磨前の研磨対象物の略式的な断面図である。
図2図2は、理想的に研磨された後の研磨済研磨対象物の略式的な断面図である。
図3図3は、理想的に研磨されず欠陥としてリセスが発生した研磨済研磨対象物の略式的な断面図である。
図4図4は、理想的に研磨されず欠陥として研磨されるべき研磨対象物が残存した研磨済研磨対象物の略式的な断面図である。
図5図5は、図3および図4の欠陥が同時に起こったことを示す研磨済研磨対象物の略式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本明細書において、「X~Y」は、その前後に記載される数値(XおよびY)を下限値および上限値として含む意味で使用し、「X以上Y以下」を意味する。「X~Y」が複数記載されている場合、例えば、「X1~Y1、あるいは、X2~Y2」と記載されている場合、各数値を上限とする開示、各数値を下限とする開示、および、それらの上限・下限の組み合わせは全て開示されている(つまり、補正の適法な根拠となる)。具体的には、X1以上との補正、Y2以下との補正、X1以下との補正、Y2以上との補正、X1~X2との補正、X1~Y2との補正等は全て適法とみなされなければならない。また、本開示の特徴または態様は、マーカッシュ群の観点から記載されている場合、当業者は、本開示が、それによって、マーカッシュ群の任意の個々の構成要素または構成要素の部分群の観点から記載されていることを認識するであろう。
【0012】
<研磨用組成物>
本発明の一態様は、コロイダルシリカと、アルカリ金属塩と、水とを含む、pHが9.0~11.5である、研磨用組成物であって、(i)凹部が設けられた第1の層と、当該凹部内が埋まるように形成されている第2の層を有する研磨対象物において、前記第2の層を研磨して前記第1の層を露出する工程に用いられ、前記第1の層は、酸素-ケイ素結合を有する、または、窒素-ケイ素結合を有するものから選択され、前記第2の層は、ケイ素-ケイ素結合を有する、および/または(ii)前記コロイダルシリカのシラノール基数が6個/nm以上22個/nm以下である、研磨用組成物である。かかる態様によって、ポリシリコン等の研磨されるべき研磨対象物の残存を低減するとともに、リセスも抑制できる新規な研磨用組成物を提供することができる。このような技術的効果が発現するメカニズムは、以下のように考えられる。pHがアルカリ性の領域にて、研磨用組成物中には水酸化物イオン(OH)がリッチな状態となり、ポリシリコン等のケイ素-ケイ素結合を有する研磨対象物表面はシラノール基(SiOH)に変化する。研磨時に、シラノール基(SiOH)に変化した研磨対象物と、上記の範囲のシラノール基数を持つコロイダルシリカとが水素結合により反応が促進され、パターンウェーハ上の残存を低減する。また、アルカリ金属塩を用いることで、ケイ素-ケイ素結合を有する研磨対象物に対する過剰なエッチングを抑制し、結果、リセスが抑制に効果があると推測される。ただし、かかるメカニズムは推測の域を出ず、かかるメカニズムによって本発明の技術的範囲が制限されることはない。
【0013】
本発明の一実施形態において、前記第1の層が露出後にさらに第1の層を研磨する工程を含む。かかる工程をさらに含むことによって、ポリシリコン等の研磨されるべき研磨対象物の残存を完全に除去するとの技術的効果を有する。
【0014】
[砥粒]
本発明の一態様の研磨用組成物は、砥粒としてコロイダルシリカを含む。砥粒は、研磨対象物を機械的に研磨する作用を有する。コロイダルシリカは、ゾルゲル法によって製造することができる。例えば、加水分解可能なケイ素化合物(例えば、アルコキシシランまたはその誘導体)を原料とし、加水分解・縮合反応を行うことにより得ることができる。
【0015】
本発明の一実施形態によれば、コロイダルシリカのシラノール基数が6個/nm以上22個/nm以下である。コロイダルシリカのシラノール基数が6個/nm未満であったり22個/nm超であったりすると、ポリシリコン等の研磨されるべき研磨対象物の残存が増えたり、リセスが促進されたりする虞がある。コロイダルシリカのシラノール基数を6個/nm以上22個/nm以下に制御する方法としては、例えば、コロイダルシリカを含む分散液の水熱処理がある。水熱処理の条件としては、コロイダルシリカを含む分散液を、例えば、100℃~200℃の温度で、30~60分加熱処理する。
【0016】
本発明の一実施形態によれば、コロイダルシリカのシラノール基数が、6.1個/nm以上、6.2個/nm以上、6.3個/nm以上、6.4個/nm以上、6.5個/nm以上、6.6個/nm以上、6.6個/nm超、6.7個/nm以上、6.8個/nm以上、6.9個/nm以上、7.0個/nm以上、7.1個/nm以上、7.2個/nm以上、7.3個/nm以上、7.4個/nm以上、7.5個/nm以上、7.6個/nm以上、7.7個/nm以上、7.8個/nm以上、9個/nm以上、10個/nm以上、12個/nm以上、14個/nm以上、あるいは、16個/nm以上である。
【0017】
本発明の一実施形態によれば、コロイダルシリカのシラノール基数が、21個/nm以下、20個/nm以下、19個/nm以下、18個/nm以下、17.5個/nm未満、17個/nm以下、16個/nm以下、15個/nm以下、14個/nm以下、13個/nm以下、12個/nm以下、11個/nm以下、10個/nm以下、9個/nm以下、8個/nm以下、あるいは、7個/nm以下である。シラノール基数の測定方法は、実施例に記載の方法による。
【0018】
本発明の一実施形態によれば、コロイダルシリカのパルスNMR比表面積が40m/g以下である。本発明の一実施形態によれば、コロイダルシリカのパルスNMR比表面積が、39m/g以下、38m/g以下、37m/g以下、36m/g以下、35m/g以下、34m/g以下、33m/g以下、32m/g以下、31m/g以下、30m/g以下、29m/g以下、28m/g以下、27m/g以下、26m/g以下、25m/g以下、あるいは、24m/g以下である。本発明の一実施形態によれば、コロイダルシリカのパルスNMRが、10m/g以上、15m/g以上、あるいは、20m/g以上である。砥粒(特にコロイダルシリカ)のパルスNMR比表面積の測定方法は、実施例に記載の方法による。コロイダルシリカのパルスNMR比表面積は、固体表面に吸着した分子の量等によってプロトン共鳴の緩和速度が変化する態様を計測するため、コロイダルシリカ表面官能基のプロトン数の増減により制御することができる。
【0019】
本発明の一実施形態によれば、砥粒(特にはコロイダルシリカ)の平均一次粒子径の下限は、60nm以上、70nm以上、70nm超、71nm以上、72nm以上、73nm以上、74nm以上、75nm以上、76nm以上、77nm以上、78nm以上、79nm以上、80nm以上、81nm以上、82nm以上、83nm以上、84nm以上、85nm以上、86nm以上、87nm以上、88nm以上、89nm以上、あるいは、95nm以上である。
【0020】
本発明の一実施形態によれば、砥粒(特にはコロイダルシリカ)の平均一次粒子径の上限は、110nm以下、100nm未満、99nm以下、98nm以下、97nm以下、96nm以下、95nm以下、94nm以下、93nm以下、92nm以下、あるいは、91nm以下である。本発明の一実施形態によれば、前記コロイダルシリカの平均一次粒子径が、70nm超100nm未満である。平均一次粒子径の測定方法は、実施例に記載の方法による。
【0021】
本発明の一実施形態によれば、砥粒(特にはコロイダルシリカ)の平均二次粒子径の下限は、110nm以上、120nm以上、130nm以上、140nm以上、150nm以上、160nm以上、170nm以上、180nm以上、190nm以上、200nm以上、210nm以上、あるいは、215nm以上である。
【0022】
本発明の一実施形態によれば、砥粒(特にはコロイダルシリカ)の平均二次粒子径の上限は、350nm以下、340nm以下、330nm以下、320nm以下、310nm以下、300nm以下、290nm以下、280nm以下、270nm以下、260nm以下、250nm以下、240nm以下、230nm以下、あるいは、225nm以下である。平均二次粒子径の測定方法は、実施例に記載の方法による。
【0023】
本発明の一実施形態によれば、砥粒(特にはコロイダルシリカ)の平均会合度(平均二次粒子径/平均一次粒子径)は、1.6以上、1.7以上、1.8以上、1.9以上、2.0以上、2.1以上、2.2以上、2.3以上、あるいは、2.4以上である。
【0024】
本発明の一実施形態によれば、砥粒(特にはコロイダルシリカ)の平均会合度(平均二次粒子径/平均一次粒子径)は、4.6以下、4.4以下、4.2以下、4.0以下、3.8以下、3.6以下、3.4以下、3.2以下、3.0以下、2.9以下、2.8以下、2.7以下、2.6以下、あるいは、2.5以下である。
【0025】
本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物中における、砥粒(特にはコロイダルシリカ)の含有比率が、0.01質量%以上、0.05質量%以上、0.1質量%以上、0.5質量%以上、0.6質量%以上、0.7質量%以上、0.8質量%以上、0.9質量%以上、1.0質量%以上、1.1質量%以上、1.2質量%以上、1.3質量%以上、あるいは、1.4質量%以上である。
【0026】
本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物中における、砥粒(特にはコロイダルシリカ)の含有比率が、10質量%以下、5質量%以下、3質量%以下、あるいは、2質量%以下である。
【0027】
本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物中に含まれる砥粒のうちコロイダルシリカが90質量%以上、95質量%以上、98質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上、あるいは、99.9質量%以上である(上限は、100質量%)。
【0028】
本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物中に含まれる砥粒(特にはコロイダルシリカ)の表面は、有機酸(例えば、スルホン酸)等の処理剤を化学的に結合させるような処理が施されていない。
【0029】
[アルカリ金属塩]
本発明の一態様の研磨用組成物は、アルカリ金属塩を含む。研磨用組成物がアルカリ金属塩を含まないと、ポリシリコン等の研磨されるべき研磨対象物の残存を低減できなかったり、リセスが促進したりする虞がある。
【0030】
本発明の一実施形態によれば、アルカリ金属塩として、アルカリ金属の水酸化物およびアルカリ金属の炭酸化物の少なくとも一方を含む。本発明の一実施形態によれば、アルカリ金属塩として、アルカリ金属の水酸化物を含む。本発明の一実施形態によれば、アルカリ金属の水酸化物として水酸化カリウムを含む。アルカリ金属としては、カリウム、ナトリウム、リチウム等が挙げられるが、中でも、残存金属を減らすという観点で、カリウムが特に好ましい。
【0031】
アルカリ金属塩は、研磨用組成物のpHを調整するpH調整剤としての機能も有する。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物に含まれるpH調整剤(特にはアルカリ金属塩)の含有量は、研磨用組成物を所定のpH(特にはpHが9.0~11.5)に調整するために適切な量である。
【0032】
本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物に含まれるpH調整剤のうちアルカリ金属塩(特には水酸化カリウム)が90質量%以上、95質量%以上、98質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上、あるいは、99.9質量%以上である(上限は、100質量%)。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物に含まれるpH調整剤のうち水酸化カリウムが90質量%以上、95質量%以上、98質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上、あるいは、99.9質量%以上である(上限は、100質量%)。なお、砥粒(特にはコロイダルシリカ)や任意に含有されうる防腐剤に、研磨用組成物のpHを若干変化させる機能があったとしても、pHを変化させる能力は低いので、本発明において、それ(それら)はpH調整剤の範疇には含ませない。
【0033】
[pH]
本発明の一態様の研磨用組成物のpHは9.0~11.5である。研磨用組成物のpHが9.0未満であったり11.5超であると、ポリシリコン等の研磨されるべき研磨対象物の残存を低減できなかったり、リセスが促進したりする虞がある。
【0034】
本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、9.1以上、9.2以上、9.3以上、9.4以上、9.5以上、9.5超、9.6以上、9.7以上、9.8以上、9.9以上、あるいは、10.5以上である。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、11.5以下、11.4以下、11.3以下、11.2以下、11.1以下、11以下、11未満、10.9以下、10.8以下、10.7以下、10.6以下、10.5以下、10.4以下、10.3以下、10.2以下、10.1以下、あるいは、9.8以下である。
【0035】
本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物のpHは、9.1、9.2、9.3、9.4、9.6、9.7、9.8、9.9、10.1、10.2、10.3、10.4、10.5、10.6、10.7、10.8、10.9、11.1、11.2、11.3、11.4、あるいは、11.5ではない。研磨用組成物のpHの測定方法は実施例に記載の方法による。
【0036】
[研磨対象物]
本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物は、凹部が設けられた第1の層と、当該凹部内が埋まるように形成されている第2の層を有する研磨対象物において、前記第2の層を研磨して前記第1の層を露出する工程に用いられる。図1は、(研磨前の)研磨対象物の略式的な断面図である。図1の上図に示されるように、任意の膜(例えばSi基板)上に第1の層1(酸素-ケイ素結合を有する、または、窒素-ケイ素結合を有する膜)が凹部を設けるように形成されている。そして、図1の下図に示されるように、当該凹部内が埋まるように第2の層2(ケイ素-ケイ素結合を有する膜)が形成され、それによって、第1の層と第2の層とを含む研磨対象物10が形成されている。
【0037】
このような研磨対象物10に、本発明の研磨用組成物を適用すると、図2に示されるように、研磨後の研磨対象物である研磨済研磨対象物10’は、研磨されるべき研磨対象物(ケイ素-ケイ素結合を有する膜)の残存が低減され(残存がなく)、かつ、リセスも抑制された(発生していない)理想的な研磨面を有することになる。また、本発明の研磨用組成物を適用することによって、研磨後に残存しうる金属原子数も低減できる。本発明の一実施形態によれば、研磨済研磨対象物1cm当たりに残存する金属原子数(単位:×1010個/cm)は、40以下、38未満、35未満、30以下、25以下、20以下、あるいは、19未満である。本発明の一実施形態によれば、研磨済研磨対象物1cm当たりに残存する金属原子数(単位:×1010個/cm)は、例えば、0、0.01以上、0.5以上、1以上、5以上、あるいは、10以上である。第1の層と第2の層とを含む研磨対象物10を本発明の研磨用組成物以外の研磨用組成物(つまり、比較例研磨用組成物)で研磨すると、例えば、図3に示されるようにリセス2aが発生したり、あるいは、図4に示されるように研磨されるべき研磨対象物(ケイ素-ケイ素結合を有する膜)の残存2bが発生したり、あるいは、図5に示されるように、これらが同時に発生したりする。
【0038】
本発明の一実施形態において、酸素-ケイ素結合を有する研磨対象物としては、オルトケイ酸テトラエチルを前駆体として使用して生成されるTEOSタイプ酸化ケイ素(以下、単に「TEOS」とも称する)、HDP(High Density Plasma)、USG(Undoped Silicate Glass)、PSG(Phosphorus Silicate Glass)、BPSG(Boron-Phospho Silicate Glass)、あるいは、RTO(Rapid Thermal Oxidation)等が挙げられる。TEOS膜は、プラズマCVDにより形成しうる。
【0039】
本発明の一実施形態において、窒素-ケイ素結合を有する研磨対象物としては、窒化ケイ素膜、あるいは、SiCN(炭窒化ケイ素)等が挙げられる。中でも、第1の層が、オルトケイ酸テトラエチル由来の酸化ケイ素膜(TEOS膜)であることが好適である。本発明の一実施形態において、ケイ素-ケイ素結合を有する研磨対象物としては、ポリシリコン、アモルファスシリコン、単結晶シリコン、n型ドープ単結晶シリコン、p型ドープ単結晶シリコン、SiGe等のSi系合金等が挙げられる。中でも、第2の層が、ポリシリコン等の多結晶シリコンであることが好適である。
【0040】
[研磨速度]
本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物は、第2の層の研磨速度が、2000Å/min以上、2200Å/min以上、2400Å/min以上、2600Å/min以上、2800Å/min以上、あるいは、3000Å/min以上となる物性を有している。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物は、第2の層の研磨速度が、3500Å/min以下、あるいは、3200Å/minとなる物性を有している。
【0041】
本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物は、第1の層の研磨速度が、60Å/min以上、70Å/min以上、80Å/min以上、あるいは、90Å/min以上となる物性を有している。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物は、第1の層の研磨速度が、180Å/min以下、160Å/min以下、140Å/min以下、120Å/min以下、100Å/min以下、あるいは、95Å/min以下となる物性を有している。
【0042】
[選択比]
本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物は、前記第1の層の研磨速度に対する前記第2の層の研磨速度(選択比)が17~40、あるいは、20~40となる物性を有している。当該選択比が17未満や40超であると、ポリシリコン等の研磨されるべき研磨対象物の残存を低減できなかったり、リセスが促進したりする虞がある。
【0043】
本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物は、当該選択比が、17以上、18以上、19以上、20以上、21以上、22以上、23以上、24以上、25以上、26以上、27以上、28以上、29以上、30以上、31以上、32以上、33以上、34以上、あるいは、35以上となる物性を有する。
【0044】
本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物は、当該選択比が、39以下、37以下、35以下、33以下、31以下、あるいは、29以下となる物性を有する。
【0045】
[透過率]
本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物に含まれる砥粒(特にはコロイダルシリカ)の濃度が1.5質量%である場合に、当該研磨用組成物に波長450nmの光を透過させたときの透過率が0.1%超1%未満である。かかる実施形態によれば、ポリシリコン等の研磨されるべき研磨対象物に対する機械的作用を向上させることにより、パターンウェーハ上の残存の低減に効果がある。透過率を上記範囲に調整する方法としては、例えばコロイダルシリカの粒子径を調節する方法、および、電気伝導度を調節する方法が挙げられる。
【0046】
本発明の一実施形態によれば、当該透過率が、0.13%以上、あるいは、0.5%以上である。本発明の一実施形態によれば、当該透過率が、0.9%以下、0.7%以下、0.5%以下、あるいは、0.3%以下である。
【0047】
ここで、研磨用組成物の砥粒濃度が1.5質量%ではない場合、砥粒濃度を1.5質量%にする調整は以下のようにして行うことができる。すなわち、研磨用組成物の砥粒濃度が1.5質量%超である場合は、砥粒濃度が1.5質量%となるように適切な量の水を添加することができる。研磨用組成物の砥粒濃度が1.5質量%未満である場合は、砥粒濃度が1.5質量%となるまで25~40℃の環境下に研磨用組成物を保管してもよいし、あるいは、限外濾過等の処理をしてもよい。
【0048】
[水]
本発明の一態様の研磨用組成物は、水性キャリアとして水を含む。本発明の一実施形態によれば、水性キャリアは、メタノール、エタノール、エチレングリコール等のアルコール類;アセトン等のケトン類;等を含むことを制限しないが、水性キャリアのうち水が90質量%以上、95質量%以上、98質量%以上、99質量%以上、99.5質量%以上、あるいは、99.9質量%以上である(上限は、100質量%)。
【0049】
[防腐剤]
本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物は、防腐剤を含む。防腐剤としては、例えば、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンや5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン等のイソチアゾリン系防腐剤、パラオキシ安息香酸メチル(パラヒドロキシ安息香酸メチル)、パラオキシ安息香酸エチル(パラヒドロキシ安息香酸エチル)等のパラオキシ安息香酸エステル類系防腐剤、およびフェノキシエタノール等が挙げられる。これら防腐剤は、1種単独でもまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物中に防腐剤が、0.001~1質量%、0.005~0.5質量%、あるいは、0.01~0.1質量%含有されうる。
【0051】
本発明の一実施形態によれば、シラノール基数が6個/nm以上22個/nm以下のコロイダルシリカと、アルカリ金属塩と、防腐剤と、水のみから実質的に構成され、pHが9.0~11.5である、研磨用組成物が提供される。
【0052】
[その他の成分]
本発明の研磨用組成物は、シンプルな構成であることが好ましく、すなわち、コロイダルシリカ、アルカリ金属塩(特には水酸化カリウム)および水ならびに任意に含有される防腐剤以外の成分をできる限り含まない方が好ましい。コロイダルシリカ、アルカリ金属塩(特には水酸化カリウム)および水ならびに任意に含有される防腐剤以外の成分を含む場合、それ(それらの合計)の比率は、研磨用組成物中で0.1質量%以下、0.01質量%以下、0.001質量%以下、あるいは、0.0001質量%未満であることが好ましい。研磨用組成物中において、コロイダルシリカ、アルカリ金属塩(特には水酸化カリウム)および水ならびに任意に含有される防腐剤以外のある1以上の成分(それが2以上である場合はその合計)の濃度が0.1質量%以下、0.01質量%以下、0.001質量%以下、あるいは、0.0001質量%未満であることを、その成分(それらの成分)を「実質的に含まない」とも称する。
【0053】
本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物は、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリオキシエチレン(POE)ラウリルエーテル、ドデシルベンゼンスルホン酸(DBS)、過酸化水素(H)、アンモニア(アンモニウムイオン)およびアミンの少なくともいずれかを実質的に含まない。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルを実質的に含まない。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物は、アルキルアリールスルホン酸を実質的に含まない。
【0054】
本発明の一実施形態によれば、水溶性高分子、界面活性剤、酸化剤、および、窒素原子を有する化合物の少なくともいずれかを実質的に含まない。
【0055】
水溶性高分子とは、該水溶性高分子が最も溶解する温度で、0.5質量%の濃度に水に溶解させた際、G2グラスフィルタ(最大細孔40~50μm)で濾過した場合に濾別される不溶物の質量が、加えた該水溶性高分子の50質量%以内であるものを指す。当該水溶性高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、プルラン、ヒドロキシエチルセルロース等のノニオン性水溶性高分子;ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース等のアニオン性水溶性高分子;およびポリアクリルアミド等のカチオン性水溶性高分子等が挙げられる。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物が、これらの少なくとも1種を実質的に含まない。
【0056】
界面活性剤とは、親水基と、疎水基とを有する物質である。当該界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のアルキルエーテル型;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のアルキルフェニルエーテル型;ポリオキシエチレンラウレート等のアルキルエステル型;ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル等のアルキルアミン型;ポリオキシエチレンラウリン酸アミド等のアルキルアミド型;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテル等のポリプロピレングリコールエーテル型;オレイン酸ジエタノールアミド等のアルカノールアミド型;ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル等のアリルフェニルエーテル型等が挙げられる。その他、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、モノエタノールアミン、アルコールエトキシレート、アルキルフェノールエトキシレート、3級アセチレングリコール、アルカノールアミド等のノニオン性界面活性剤、ミリスチン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム等のカルボン酸型;オクチル硫酸ナトリウム等の硫酸エステル型;ラウリルリン酸、ラウリルリン酸ナトリウム等のリン酸エステル型;ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸型等のアニオン性界面活性剤、ラウリルアミン塩酸塩等のアミン類等のカチオン性界面活性剤、あるいはレシチン、アルキルアミンオキシド、N-アルキル-N,N-ジメチルアンモニウムベタイン等のアルキルベタインやスルホベタイン等の良性界面活性剤が挙げられる。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物が、これらの少なくとも1種を実質的に含まない。
【0057】
酸化剤は、研磨を実施するpHにおいて、基板材料(特にはポリシリコン)の酸化還元電位より高い酸化還元電位を有する物質であり得る。ここで、上記研磨を実施するpHは、通常、研磨用組成物のpHと同じである。なお、基板材料の酸化還元電位は、当該材料(特にはポリシリコン)の粉末を水に分散させてスラリーにし、そのスラリーを研磨用組成物と同じpHに調整した後、市販の酸化還元電位計を用いて当該スラリーの酸化還元電位(液温25℃における標準水素電極に対する酸化還元電位)を測定した値が採用されうる。当該酸化剤としては、例えば、過酸化水素、金属酸化物、過酸化物、硝酸塩、ヨウ素酸塩、過ヨウ素酸塩、次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩、塩素酸塩、過塩素酸塩、過硫酸塩、重クロム酸塩、過マンガン酸塩、有機酸化剤、オゾン水および銀(II)塩、鉄(III)塩等が挙げられる。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物が、これらの少なくとも1種を実質的に含まない。
【0058】
窒素原子を有する化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム等の水酸化物、または、塩化物、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の塩等が挙げられる。具体例としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等の水酸化テトラアルキルアンモニウム、炭酸テトラメチルアンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム等の水酸化テトラアルキルアンモニウム塩等の第四級アンモニウム化合物、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、N-(β-アミノエチル)エタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1-(2-アミノエチル)ピペラジン、N-メチルピペラジン、グアニジン等のアミン、あるいはアンモニアが挙げられる。本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物が、これらの少なくとも1種を実質的に含まない。
【0059】
本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物は、ラクタム環を含む高分子化合物を含まない、あるいは、含んだとしても0.0001質量%未満である。
【0060】
本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物は、コロイダルシリカ以外の砥粒を実質的に含まない。
【0061】
本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物は、表面に有機酸由来の酸性基(例えば、スルホ基、カルボキシル基、リン酸基等)を固定したシリカを実質的に含まない。
【0062】
本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物は、表面にアミノ基を固定したシリカを実質的に含まない。
【0063】
本発明の一実施形態によれば、研磨用組成物は、有機酸を実質的に含まない。
【0064】
本発明の一実施形態において、シラノール基数が6個/nm以上22個/nm以下のコロイダルシリカと、アルカリ金属塩と、水のみから実質的に構成され、pHが9.0~11.5である、研磨用組成物が提供される。コロイダルシリカ、アルカリ金属塩(特には水酸化カリウム)、水、pH、防腐剤についての説明は上記の説明が適用されうる。「実質的に構成され」るとは、研磨用組成物が、コロイダルシリカ、アルカリ金属塩(特には水酸化カリウム)および水ならびに任意に含有される防腐剤以外の成分を含む場合、それ(それらの合計)の比率が、研磨用組成物中で0.1質量%以下、0.01質量%以下、0.001質量%以下、あるいは、0.0001質量%未満であることを言う。
【0065】
本発明の一実施形態において、研磨用組成物は一液型であってもよいし、二液型をはじめとする多液型であってもよい。また、本発明の一態様の研磨用組成物は、例えば、希釈(典型的には、水により希釈)して研磨液として使用されるものであってもよく、そのまま研磨液として使用されるものであってもよい。すなわち、本発明に係る技術における研磨用組成物の概念には、研磨対象物に供給されて該研磨対象物の研磨に用いられる研磨用組成物(ワーキングスラリー)と、希釈して研磨に用いられる濃縮液(ワーキングスラリーの原液)との双方が包含される。上記濃縮液の濃縮倍率は、例えば、体積基準で2倍~100倍程度とすることができる。
【0066】
<研磨用組成物の製造方法>
本発明の一実施形態において、研磨用組成物の製造方法は、コロイダルシリカと、アルカリ金属塩(特には水酸化カリウム)と、水と、任意に含有される防腐剤とを含むことによってpHを9.0~11.5にすることを有する。コロイダルシリカ、アルカリ金属塩(特には水酸化カリウム)、水、pH、防腐剤についての説明は上記の説明が適用されうる。各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10℃以上40℃以下が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も、均一混合できれば特に制限されない。
【0067】
<研磨対象物の研磨方法>
本発明の一実施形態において、研磨対象物の研磨方法は、図1に示されるように、凹部が設けられた第1の層1(酸素-ケイ素結合を有する、または、窒素-ケイ素結合を有する層)と、当該凹部内が埋まるように形成されている第2の層2(ケイ素-ケイ素結合を有する層)を有する研磨対象物10において、前記第2の層2を研磨して前記第1の層1を露出する工程を有する。本発明の一実施形態において、前記第1の層が露出後にさらに第1の層を研磨する工程を含む。かかる工程をさらに含むことによって、ポリシリコン等の研磨されるべき研磨対象物の残存を完全に除去する技術的効果を有する。
【0068】
本発明の一実施形態において、図1に示されるように、任意の膜(例えばSi基板)上に第1の層1(酸素-ケイ素結合を有する層、または、窒素-ケイ素結合を有する層)が凹部を設けるように形成されている。そして当該凹部内が埋まるように第2の層2(ケイ素-ケイ素結合を有する膜)が形成され、第2の層2は、第1の層1の凹部からはみ出るように過剰な量が積層されることで第1の層1と第2の層2とを含む研磨対象物10が形成されている。このような研磨対象物10を、本発明の研磨用組成物を供給することができる研磨装置によって研磨する。
【0069】
本発明の一実施形態において、研磨装置としては、研磨対象物を有する基板等を保持するホルダーと回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。
【0070】
本発明の一実施形態において、研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨液が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0071】
本発明の一実施形態において、研磨条件については、例えば、研磨定盤、キャリアの回転速度は、それぞれ独立して、10~500rpm以下が好ましい。研磨対象物を有する基板にかける圧力(研磨圧力)は、0.5~10psiが好ましい。研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に本発明の研磨用組成物で覆われていることが好ましい。
【0072】
図2に示されるように、本発明の研磨用組成物を適用することによって、研磨後の研磨対象物である研磨済研磨対象物10’は、研磨されるべき研磨対象物の残存が低減され(残存がなく)、リセスも抑制された(発生しない)理想的な研磨面を有することになる。
【実施例
【0073】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。また、下記において、特記しない限り、操作は室温(25℃)/相対湿度40~50%RHの条件下で行われた。
【0074】
<研磨用組成物の製造>
表1に示される組成となるように、砥粒と、アルカリ金属塩と、水とを混合することによって、研磨用組成物を調製した。例えば、実施例1の研磨用組成物は、パルスNMR比表面積が23.8m/g、シラノール基数が7.9個/nm、かつ、平均一次粒子径が90nm、平均二次粒子径が220nmであるコロイダルシリカ1.5質量%と、水酸化カリウムと、水とを含み、pHが10である組成である。
【0075】
<粒子径の算出方法>
砥粒の平均一次粒子径は、 株式会社マウンテック製の“MacsorbHM model-1210”を用いて測定されたBET法による砥粒の比表面積と、砥粒の密度とから算出した。
【0076】
砥粒の平均二次粒子径は、日機装株式会社製 動的光散乱式粒子径・粒度分布装置 UPA-UT151により測定した。
【0077】
<シラノール基数の算出方法>
砥粒の単位表面積あたりのシラノール基数(単位:個/nm)は、以下の測定方法または計算方法により、各パラメータを測定または算出した後、下記の方法により算出した。
【0078】
より具体的には、下記式中のCは、砥粒の合計質量であり、下記式中のSは、砥粒のBET比表面積である。さらに具体的には、まず、固形分として1.50gの砥粒を200mlビーカーに採取し、100mlの純水を加えてスラリーとした後、30gの塩化ナトリウムを添加して溶解する。次に、1N 塩酸を添加してスラリーのpHを3.0~3.5に調整した後、スラリーが150mlになるまで純水を加える。
【0079】
このスラリーに対して、自動滴定装置(平沼産業株式会社製、COM-1700)使用して、25℃で0.1N 水酸化ナトリウムを用いてpHが4.0になるよう調整し、さらに、pH滴定によってpHを4.0から9.0に上げるのに要した0.1N 水酸化ナトリウム溶液の容量V[L]を測定する。平均シラノール基密度(シラノール基数)は、下記式により算出できる。
【0080】
ρ=(c×V×N)/(C×S)
上記式中、
ρは、平均シラノール基密度(シラノール基数)(個/nm)を表わし;
cは、滴定に用いた水酸化ナトリウム溶液の濃度(mol/L)を表わし;
Vは、pHを4.0から9.0に上げるのに要した水酸化ナトリウム溶液の容量(L)
を表わし;
は、アボガドロ定数(個/mol)を表わし;
Cは、砥粒の合計質量(固形分)(g)を表わし;
Sは、砥粒のBET比表面積の加重平均値(nm/g)を表わす。当該BET比表面積は、株式会社マウンテック製の“MacsorbHM model-1210”を用いて測定されたBET法による砥粒の比表面積の値である。
【0081】
<パルスNMR比表面積の測定方法>
各砥粒(原料コロイダルシリカ)を20質量%濃度になるように水に分散させた分散液をサンプルとして作製した。測定装置は、パルスNMR粒子界面特性評価装置(Xigo nanotools 社製)を用いて以下の測定条件で比表面積を測定した結果を表1に示した。
測定条件
Bulk relaxation time:2409ms
Specific surface relaxivity:0.00026
Volume ratio of particle to liquid:0.1136。
【0082】
<研磨用組成物のpHの測定>
ガラス電極式水素イオン濃度指示計(株式会社堀場製作所製 型番:F-23)を使用し、標準緩衝液(フタル酸塩pH緩衝液pH:4.01(25℃)、中性リン酸塩pH緩衝液pH:6.86(25℃)、炭酸塩pH緩衝液pH:10.01(25℃))を用いて3点校正した後で、ガラス電極を研磨用組成物に入れて、2分以上経過して安定した後の値を研磨用組成物のpHとして測定した。
【0083】
<研磨用組成物の透過率の測定>
紫外可視分光光度計 (UV-2450 株式会社島津製作所製)を用いて研磨用組成物に波長450nmの光を照射することによって研磨用組成物の透過率を測定した。その結果を表1に示した。
【0084】
<研磨速度の測定>
研磨用組成物を使用して、研磨対象物の表面を下記の研磨条件で研磨した。なお、研磨対象物として、表面に厚さ5000Åのポリシリコン(Poly-Si)膜を形成したシリコンウェーハ(300mm、ブランケットウェーハ)および表面に厚さ10000ÅのP-TEOS膜(プラズマCVDにより膜形成したTEOS膜(二酸化ケイ素膜))を形成したシリコンウェーハ(300mm、ブランケットウェーハ)をそれぞれ使用した。
【0085】
(研磨条件)
研磨装置:株式会社荏原製作所製300mm用CMP片面研磨装置 FREX300E
パッド:ニッタハース株式会社製 硬質ポリウレタンパッド IC1010
研磨圧力:2.2psi(1psi=6894.76Pa、以下同様)
研磨定盤回転数:70rpm
キャリア回転数:70rpm
研磨用組成物の供給:掛け流し
研磨用組成物供給量:200ml/分
研磨時間:60秒間。
【0086】
研磨速度は、厚みを光学式膜厚測定器(ASET-f5x:ケーエルエー・テンコール社製)で求め、(研磨前の厚み)-(研磨後の厚み)を研磨時間で除することにより測定した。また、P-TEOS膜の研磨速度(Å/min)に対するポリシリコン膜の研磨速度(Å/min)の比を選択比として算出した。その結果を表1に示した。
【0087】
<ポリシリコンのリセス評価>
研磨用組成物を用いて下記[条件1]によりポリシリコン膜付きパターンウェーハの研磨を施した。当該パターンウェーハは、図1の如く、Si基板上にP-TEOS膜(1000Å)を積層し、深さ1000Åのトレンチを掘ることで凹部を作製後、ポリシリコン膜(2000Å)で当該凹部を埋めるように積層したものである。
【0088】
上記ポリシリコン膜付きパターンウェーハの研磨は、エンドポイントシグナルが検出された後、エンドポイントシグナルが検出されるまでの研磨時間の40%の時間に相当する時間だけさらに継続の後に終了させた。このようにして、第1の層(P-TEOS膜)が露出後にさらに第1の層(P-TEOS膜)を研磨する工程を実現した。
【0089】
パターンウェーハ表面の1μm幅の孤立配線部において、原子間力顕微鏡(商品名WA-1300、日立建機ファインテック株式会社製)を用いてリセス量を測定した。こうして得られたリセス量を下記の判断基準に従って評価した。
【0090】
[条件1]
研磨装置:株式会社荏原製作所製300mm用CMP片面研磨装置 FREX300E
パッド:ニッタハース株式会社製 硬質ポリウレタンパッド IC1010
研磨圧力:2.2psi(1psi=6894.76Pa、以下同様)
研磨定盤回転数:70rpm
キャリア回転数:70rpm
研磨用組成物の供給:掛け流し
研磨用組成物供給量:200ml/分。
【0091】
[リセス量]
リセスは、下記の4段階判定基準により判定した。△×は、実用上許容できないものである。その結果を表1に示した。
【0092】
◎:15nm未満
○:15nm以上30nm未満
△:30nm以上50nm未満
×:50nm以上。
【0093】
<ポリシリコンの残存(研磨残り)>
研磨後のP-TEOS膜の上に残存しているポリシリコンの膜厚を光学式膜厚測定器(ASET-f5x:ケーエルエー・テンコール社製)を用いて測定した。このときの膜厚を研磨残りとし、下記の4段階判定基準により判定した。△×は、実用上許容できないものである。その結果を表1に示した。
【0094】
◎:5Å未満
○:5Å以上10Å未満
△:10Å以上20Å未満
×:20Å以上。
【0095】
[金属不純物測定]
研磨後のP-TEOS膜付きシリコンウェーハについて、洗浄部にてPVAブラシを用いて脱イオン水(DIW)を掛けながら、60秒間洗浄した。その後、30秒間スピンドライヤにて乾燥させた。洗浄後のウェハ表面のNa、K、およびLiの濃度を、テクノス(株)製の全反射蛍光X線装置(装置名;TREX-610T)を用いて測定した。その結果を表1に示した。
【0096】
【表1】
【0097】
<考察>
実施例の研磨用組成物は、研磨されるべきポリシリコンの残存を低減するとともに、リセスも抑制できている。これに対し、比較例の研磨用組成物は、図3図5に示す如く、研磨されるべきポリシリコンの残存が発生したり、リセスが促進されたりしていた。
【0098】
実施例1の研磨用組成物は、全ての実施例の中で最も良い結果を有していた。
【0099】
実施例2、5の研磨用組成物で研磨をすると、若干、ポリシリコンの残存膜が厚かった、または、若干リセスが生じた。これらの結果から、砥粒(コロイダルシリカ)のシラノール基数は6.6個/nm超17.5個/nm未満が好適であることが分かる。また、砥粒(コロイダルシリカ)の平均一次粒子径は70nm超100nm未満が好適であることが分かる。
【0100】
実施例3の研磨用組成物で研磨をすると、金属不純物としてナトリウムの残存が若干多かった。実施例4の研磨用組成物で研磨をすると、選択比が少し小さく、また若干、リセスも発生した。実施例8の研磨用組成物で研磨をすると、金属不純物としてリチウムの残存が若干多かった。これらの結果から、アルカリ金属塩としては水酸化カリウムが好適であることが示唆される。
【0101】
実施例6の研磨用組成物で研磨をすると、若干、ポリシリコンの残存膜が厚く、また若干、リセスが発生していた。実施例7の研磨用組成物で研磨をすると、若干、リセスが発生した。これらの結果から、研磨用組成物のpHは、9.5超11未満が好適であることが示唆される。
【符号の説明】
【0102】
1 第1の層、
2 第2の層、
2a リセス、
2b 研磨されるべき第2の層の残存
10 研磨対象物、
10’ 研磨済研磨対象物。
【要約】      (修正有)
【課題】ポリシリコン等の研磨されるべき研磨対象物の残存を低減するとともに、リセスも抑制できる新規な研磨用組成物を提供する。
【解決手段】コロイダルシリカと、アルカリ金属塩と、水とを含み、pHが9.0~11.5である研磨用組成物は、凹部が設けられた第1の層1と、当該凹部内が埋まるように形成されている第2の層2を有する研磨対象物10において、第2の層2を研磨して第1の層1を露出する工程に用いられる。第1の層1は、酸素-ケイ素結合を有するか又は窒素-ケイ素結合を有するものから選択され、第2の層は、ケイ素-ケイ素結合を有する、および/または前記コロイダルシリカのシラノール基数が6個/nm以上22個/nm以下である。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5