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特許7534588藻類を培養する方法及びフォトバイオリアクター
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】藻類を培養する方法及びフォトバイオリアクター
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/12 20060101AFI20240807BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
C12N1/12 A
C12M1/00 E
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2020015613
(22)【出願日】2020-01-31
(65)【公開番号】P2020137514
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2023-01-06
(31)【優先権主張番号】P 2019034308
(32)【優先日】2019-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【弁理士】
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】蓮沼 誠久
(72)【発明者】
【氏名】加藤 悠一
(72)【発明者】
【氏名】藤川 康夫
(72)【発明者】
【氏名】鶴本 智大
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-155167(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105925471(CN,A)
【文献】国際公開第2005/102031(WO,A1)
【文献】Tim de Mooij et al.,Impact of light color on photobioreactor productivity,Algal Research,ELSEVIER,2016年,Vol.15,pp.32-42
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00- 3/10
C12N 1/00-15/90
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類細胞を培養する方法であって、
光合成有効光量子束密度に対する波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度の割合が65%以上である人工光を前記藻類細胞に照射すること、
前記藻類細胞の培養物の細胞密度を測定すること、及び
前記培養物中の一重項酸素量を測定すること
を含み、
前記藻類細胞に照射される前記波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度は、前記測定した細胞密度が所定値以下にあるとき第1の光量子束密度であり、前記測定した細胞密度が前記所定値以上にあるとき前記第1の光量子束密度より大きい第2の光量子束密度であり、
前記測定した一重項酸素量が所定値以上になると、一重項酸素消去剤を前記培養物に供給する、方法。
【請求項2】
前記第1の光量子束密度が50 μmol/m2/s以上300 μmol/m2/s以下であり、前記第2の光量子束密度が300 μmol/m2/s以上900 μmol/m2/s以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類細胞を培養する方法であって、
光合成有効光量子束密度に対する波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度の割合が65%以上である人工光を前記藻類細胞に照射すること、及び、
前記藻類細胞の培養物中の一重項酸素量を測定することを含み、
測定した一重項酸素量が第1の所定値を超えたとき、前記藻類細胞に照射される前記波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度を小さくするか又は前記藻類細胞への前記人工光の照射を停止し、
測定した一重項酸素量が前記第1の所定値より小さい第2の所定値を下回ったとき又は所定期間を経過したとき、前記藻類細胞に照射される前記波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度を大きくするか又は前記藻類細胞へ前記人工光を照射する、方法。
【請求項4】
緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類細胞を培養する方法であって、
光合成有効光量子束密度に対する波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度の割合が65%以上である人工光を前記藻類細胞に照射すること、及び、
前記藻類細胞を、細胞サイズが比較的小さい藻類細胞と細胞サイズが比較的大きい藻類細胞とに分級し、前記細胞サイズが比較的小さい藻類細胞を下記工程a)に付し、前記細胞サイズが比較的大きい藻類細胞を下記工程b)に付することを含み、前記人工光の照射が
)前記波長域520 nm以上630 nm以下の光を前記細胞サイズが比較的小さい藻類細胞に第1の光量子束密度で照射する工程、
)前記波長域520 nm以上630 nm以下の光を前記細胞サイズが比較的大きい藻類細胞に第1の光量子束密度より小さい第2の光量子束密度で照射する工程を含む、方法。
【請求項5】
緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類細胞を培養する方法であって、
光合成有効光量子束密度に対する波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度の割合が65%以上である人工光を前記藻類細胞に照射すること、及び、
前記藻類細胞を、細胞サイズが比較的小さい藻類細胞と細胞サイズが比較的大きい藻類細胞とに分級することを含み、
前記細胞サイズが比較的小さい藻類細胞はa)前記人工光を照射する工程に付され、前記細胞サイズが比較的大きい藻類細胞はb)薄暗闇下又は暗闇下に置く工程に付される、方法。
【請求項6】
工程a)に付された藻類細胞を分級する、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
工程b)に付された藻類細胞を、分級することなく工程a)に付する、請求項4~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類細胞を培養する方法であって、
光合成有効光量子束密度に対する波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度の割合が65%以上である人工光を前記藻類細胞に照射すること、及び、
藻類細胞の細胞周期を同調させることを含み、前記人工光の照射が
)前記波長域520 nm以上630 nm以下の光を第1の光量子束密度で照射する工程、
)前記波長域520 nm以上630 nm以下の光を第1の光量子束密度より小さい第2の光量子束密度で照射する工程を含み、
前記同調された藻類細胞が、工程a)に第1の所定期間付され、続いて工程b)に第2の所定期間付されるか、又は工程b)に第2の所定期間付され、続いて工程a)に第1の所定期間付される、方法。
【請求項9】
緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類細胞を培養する方法であって、
光合成有効光量子束密度に対する波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度の割合が65%以上である人工光を前記藻類細胞に照射すること、及び、
藻類細胞の細胞周期を同調させることを含み、
前記同調された藻類細胞が、a)前記人工光を照射する工程に第1の所定期間付され、続いてb)薄暗闇下若しくは暗闇下に置く工程に第2の所定期間付されるか、又は工程b)に第2の所定期間付され、続いて工程a)に第1の所定期間付される、方法。
【請求項10】
前記人工光の照射前に、前記藻類細胞の細胞周期を同調させることを更に含む請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記細胞周期の同調が、前記藻類細胞を所定の明暗周期で予備培養することによるか又は細胞分裂同調剤を用いることにより行われる請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の光量子束密度が300 μmol/m2/s以上900 μmol/m2/s以下であり、前記第2の光量子束密度が50 μmol/m2/s以上300 μmol/m2/s以下である、請求項4又は8に記載の方法。
【請求項13】
前記人工光の照射が停止されている間、前記藻類細胞は薄暗闇下又は暗闇下に置かれる、請求項3~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類細胞を培養する方法であって、光合成有効光量子束密度に対する波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度の割合が65%以上である人工光を前記藻類細胞に照射すること、及び、培養物中の一重項酸素量を測定することを含み、測定した一重項酸素量が所定値以上になると、一重項酸素消去剤が前記培養物に供給されることを特徴とする方法。
【請求項15】
フォトバイオリアクター内で請求項1~14のいずれか1項に記載の方法により培養された藻類細胞を、オープンポンド方式の水槽又は池に投入して更に培養することを特徴とする藻類細胞を培養する方法。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1項に記載の方法により緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類細胞を培養することを特徴とする藻類細胞培養物を製造する方法。
【請求項17】
緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類細胞並びにその培養液を収容するためのリアクター容器と、
前記リアクター容器に対して、光合成有効光量子束密度に対する波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度の割合が65%以上である光を照射するための照明装置であって、520 nm以上630 nm以下にピーク波長を有する光を発する光源と、該光源を制御する制御部とを備える照明装置と、
前記リアクター容器内の前記藻類細胞の培養物中の一重項酸素量を測定するセンサとを備え、前記制御部が前記センサの出力に基いて、前記波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度が変更されるように前記光源を制御する、藻類細胞培養用フォトバイオリアクター。
【請求項18】
緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類細胞並びにその培養液を収容するためのリアクター容器と、
前記リアクター容器に対して、光合成有効光量子束密度に対する波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度の割合が65%以上である光を照射するための照明装置と、
前記藻類細胞をその細胞サイズに基づいて分級する分級装置と
を備え、前記分級装置は前記リアクター容器と相互に接続しており、前記分級装置により分級された比較的小さいサイズの藻類細胞が前記リアクター容器に供給される、藻類細胞培養用フォトバイオリアクター。
【請求項19】
前記照明装置(第1の照明装置)が、前記リアクター容器(第1のリアクター容器)に対して、波長域520 nm以上630 nm以下の光を第1の光量子束密度で照射する、請求項18に記載のフォトバイオリアクターであって、
前記藻類細胞及びその培養液を収容するための第2のリアクター容器と、
前記第2のリアクター容器に対して、波長域520 nm以上630 nm以下の光を前記第1の光量子束密度より小さい第2の光量子束密度で照射するための第2の照明装置と、を更に備え、前記第1のリアクター容器は前記第2のリアクター容器に前記分級装置を介して接続され、該分級装置により分級された比較的小さいサイズの藻類細胞が前記第1のリアクター容器に供給され、前記分級装置により分級された比較的大きいサイズの藻類細胞が前記第2のリアクター容器に供給される、フォトバイオリアクター。
【請求項20】
前記藻類細胞及びその培養液を収容するための第2のリアクター容器であって、該容器内部が薄暗闇又は暗闇となるように、可視光に対する透光性が低い材料で構成されているか又は囲われている第2のリアクター容器を更に備え、請求項18に記載のリアクター容器(第1のリアクター容器)は前記第2のリアクター容器に前記分級装置を介して接続され、該分級装置により分級された比較的小さい藻類細胞が前記第1のリアクター容器に供給され、前記分級装置により分級された比較的大きい藻類細胞が前記第2のリアクター容器に供給される、請求項18に記載のフォトバイオリアクター。
【請求項21】
前記第1のリアクター容器は前記第2のリアクター容器と前記分級装置を介して相互に接続されている、請求項19又は20に記載のフォトバイオリアクター。
【請求項22】
緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類細胞並びにその培養液を収容するためのリアクター容器と、
前記リアクター容器に対して、光合成有効光量子束密度に対する波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度の割合が65%以上である光を照射するための照明装置と、
前記リアクター容器内の一重項酸素量を測定するセンサと、
前記リアクター容器内に一重項酸素消去剤を供給する一重項酸素消去剤供給装置とを備え、前記一重項酸素消去剤供給装置から前記リアクター容器への一重項酸素消去剤の供給がセンサの出力に基づいて制御される、藻類細胞培養用フォトバイオリアクター。
【請求項23】
請求項1~16のいずれか1項に記載の方法に用いるための請求項17~22のいずれか1項に記載のフォトバイオリアクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、藻類を培養する方法及びその培養のためのフォトバイオリアクターに関する。
【背景技術】
【0002】
微細藻類(例えば、ヘマトコッカス、クロレラやユーグレナ)は、健康食品・サプリメントの原材料又はバイオ燃料に適したオイルを生産するため、培養が盛んに行われている。
微細藻類は、人工光源を用いた閉鎖系(例えば、閉鎖型のフォトバイオリアクター内)又は太陽光を利用した開放系(例えば、開放型のオープンポンド)で培養される。
開放系での培養は、大量生産に適するが、培養開始時に最初に投入される微細藻類の濃度が或る程度高くないと、細胞あたりに照射される光が過剰となり健康的に生育できないことがある。このため、事前に、或る程度高い濃度の微細藻類を準備する必要があり、その準備には閉鎖系での培養が利用されることが多い。
よって、閉鎖系における微細藻類の培養は効率化が求められている。
【0003】
特許文献1は、大量の藻類を培養場所に影響されずに昼夜を通して一年中工業的に効率良く低コストで培養するために、藻類中に含まれるクロロフィルaの比吸光度が60以上を示す波長の発光ダイオードによる単色光(赤色光及び青色光)を藻類培養液に照射して、藻類の増殖を促進させると共に、その増殖速度を一定に保持させることを特徴とする藻類の培養方法を記載している。同文献は、500~630 nmの単色光(緑色、黄色、橙色)を照射して、フィコシアニン(フィコビリン色素)の吸収を利用した光合成促進方法も記載している。
特許文献2は、青色LEDと赤色LEDとを備えた、クロロフィルを有する藻類の光合成を促す水中用照明装置を記載している。同文献には、緑色LEDを備えた、フィコビリンを有する藻類の光合成を促す照明装置も記載している。
特許文献3は、緑藻類に人工光を照射して、前記緑藻類が緑色の遊走細胞である状態での生育を促進させる緑藻類の培養方法であって、青色照明光を連続的に照射しながら、赤色照明光を断続的に照射して、前記緑藻類の培養液が緑色ないし褐色である状態を維持したまま前記緑藻類を液体培地で生育させる緑藻類生育促進方法を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-315569
【文献】特開2011- 30463
【文献】国際公開第WO2014/119794号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これら先行技術において、効率化のために、培養容器を大きくしても、光が届く深度は変わらないため、水深が深くなるほど、培養液あたりの光量が減少し、細胞密度が低下する。一方、より多くの光エネルギーを供給するため強い光を照射すると、光酸化ストレス(活性酸素種の発生)を誘発し、微細藻類細胞の生育に悪影響を及ぼす要因となり得る。
また、いずれの先行技術文献においても、クロロフィルを有する藻類細胞の光合成を促すために用いられているのは、赤色光及び青色光であり、他の色の光がクロロフィルを有する藻類細胞の光合成に及ぼす影響についてはあまり調べられていない。
このように、微細藻類細胞の培養を効率化する技術が依然として望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、微細藻類細胞の培養に有効な波長を鋭意検討した結果、緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類の細胞の培養について、微細藻類細胞の培養に従来用いられてきた赤色光より、波長域520 nm以上630 nm以下の光がバイオマス生産に有効であることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
本発明によれば、光合成有効光量子束密度に対する波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度の割合が65%以上である人工光を、緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類の細胞に照射することを特徴とする藻類細胞を培養する方法が提供される。
本発明によれば、また、上記の培養方法により緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類の細胞を培養することを特徴とする藻類細胞の培養物を製造する方法が提供される。
【0008】
本発明によれば、更に、緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類の細胞並びにその培養液を収容するためのリアクター容器と、前記リアクター容器に対して光を照射するための照明装置であって、光合成有効光量子束密度に対する波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度の割合が65%以上である光を発する照明装置と を備えた藻類用のフォトバイオリアクターが提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類の細胞を効率的に培養することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のフォトバイオリアクターの1つの実施形態を示す模式図である。
図2】実験1で用いた白色蛍光灯の発光スペクトルを示す。
図3】クラミドモナスの吸光スペクトルを示す。
図4】実験2で用いた2つのLEDの発光スペクトルを示す。
図5】特定波長域の光で培養したクラミドモナスの細胞量(バイオマス量)の経時的変化を示す。
図6】実験3で用いたLED光のスペクトルを示す。
図7】2種類の光で培養したクラミドモナスの細胞量(バイオマス量)の経時的変化を示す。
図8】非照射、赤色LED光照射及び緑色LED光照射のクラミドモナスからのSOSG蛍光の相対強度を示す。
図9】緑色LED光及び非照射のクラミドモナスからのSOSG蛍光、DAPI蛍光及びクロロフィル蛍光の解析結果を示す。
図10】特定波長域の光で培養したクラミドモナスから得られる色素類の液体クロマトグラフィーによる分析結果を示す。
図11】実験7で用いたNa光のスペクトルを示す。
図12】A:Naランプ光(ピーク波長:589 nm)で培養したクラミドモナスの細胞量(バイオマス量)の経時的変化を示す。B:図5に示したクラミドモナスの細胞量(バイオマス量)の経時的変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本明細書に記載の発明に関して言及する「藻類」は、緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類を意味するものとする。
本明細書において、数値範囲「a~b」(a、bは具体的数値)は、両端の値「a」及び「b」を含む範囲を意味する。換言すれば、「a~b」は「a以上b以下」と同義である。
【0012】
<培養方法>
本発明は、1つの観点から、緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類の細胞を培養する方法を提供する。
本発明の藻類細胞を培養する方法(以下、「本発明の培養方法」ともいう。)は、光合成有効光量子束密度に対する波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度の割合が65%以上である人工光を、緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類細胞に照射することを特徴とする。
【0013】
本発明は、後述する実施例により示されるとおり、培養中の藻類細胞に波長域520 nm以上630 nm以下の光を照射すると、赤色光を照射する場合と比べて、その増殖速度が加速され得、より高密度にまで増殖し得るという新たな知見に基づく。よって、本発明の培養方法によれば、藻類細胞を効率的に培養することができる。本発明のこの効果は、前記特定波長域の光が赤色光に比べて培養物中のより内部にまで到達することに一部起因すると考えられた。
【0014】
本明細書において、「人工光」とは、人工光源から発出される光、及び、自然光(ほとんどの場合、太陽光)から(例えば光学フィルターにより)特定の波長域成分を抽出した光をいう。
本明細書において、人工光について、「光合成有効光量子束密度に対する波長域c以上d以下の光の光量子束密度の割合」(c及びdはそれぞれ特定波長域の下限波長及び上限波長(共に単位はnm)である)とは、次式:
[(波長域c以上d以下の光の光量子束密度)/(光合成有効光量子束密度)]×100で算出される値(%)をいう。ここで、「光合成有効光量子束密度」とは、人工光のうち光合成有効放射成分(波長域400 nm以上700 nm以下の光)の光量子束密度をいう。
本発明において、「光量子束密度」とは、照射対象の藻類細胞を含む培養液の人工光受光面における光量子束密度をいう。光量子束密度として、そのような培養液を含有するフォトバイオリアクター又は培養器の外側面上で当該照射面に対応する領域で測定した値を代用し得る。
【0015】
本発明において、そうでないと明示的に記載され、又はそうでないことが文脈上明白である場合を除き、藻類細胞に照射する人工光は、その光合成有効光量子束密度に対する波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度の割合が65%以上、より具体的には70%以上、より具体的には75%以上、より具体的には80%以上、より具体的には85%以上、より具体的には90%以上、より具体的には95%以上である光である。
幾つかの実施形態において、人工光は、その光合成有効光量子束密度に対する波長域520 nm以上600 nm以下の光の光量子束密度の割合が65%以上、より具体的には70%以上、より具体的には75%以上、より具体的には80%以上、より具体的には85%以上、より具体的には90%以上、より具体的には95%以上である光である。この実施形態によれば、エネルギー集約性が高まり、より効率的な培養を提供し得る。
【0016】
人工光は、好ましくは520 nm以上630 nm以下の波長域、より好ましくは520 nm以上600 nm以下の波長域に最大ピーク波長を有する。このような人工光の使用は、藻類細胞を赤色光より効率的に増殖させ得る波長域の光を効率的に藻類細胞に照射し得る点で好ましい。
よって、幾つかの実施形態において、人工光は、波長域520 nm以上630 nm以下の光のみ又は波長域520 nm以上600 nm以下の光のみからなる。また、幾つかの実施形態において、人工光は、ピーク波長545±25 nm(より好ましくは545±15 nm)及び半値幅0.1 nm以上50 nm以下(より好ましくは0.1 nm以上20 nm以下)の波長スペクトルを有する光からなる。
【0017】
人工光は、1つの光源から発出される光であってもよいし、2以上の光源から発出された光の合成光または混合光であってもよい。後者の場合、合成光または混合光の光合成有効光量子束密度に対する波長域520 nm以上630 nm以下(より具体的には、520 nm以上600 nm以下)の光量子束密度の割合が上記した所定の値(例えば、65%以上)であればよく、各光源からの光(合成または混合される前の各々の光)の当該割合が上記所定の値である必要はない。
人工光は、ピーク波長545±25 nm(より好ましくは545±15 nm)及び半値幅0.1 nm以上50 nm以下(より好ましくは0.1 nm以上20 nm以下)の波長スペクトルを有する光を含んでいてもよい。すなわち、人工光は、ピーク波長545±25 nm(より好ましくは545±15 nm)及び半値幅0.1 nm以上50 nm以下(より好ましくは0.1 nm以上20 nm以下)の波長スペクトルを有する光とその他の光との合成光または混合光であってもよい。
【0018】
人工光のうち波長域520 nm以上630 nm以下(より具体的には、520 nm以上600 nm以下)の光は発光ダイオード(LED)又はレーザダイオード(LD)を光源とする光を含んでいてもよく、そのような光のみからなってもよい。LED光又はLD光を用いる場合、強度が強すぎると細胞に悪影響(例えば、活性酸素種の発生による細胞損傷)を及ぼし得る赤色光及び/又は青色光の照射を抑えつつ、培養物中の内部(例えば、培養物または培養液の上方からの照射時には深部、側方からの照射時には中心部又はこれを超えた反対側)の藻類細胞にまで到達し且つクロロフィルにより吸収される(よって、光合成に利用される)光の効率的照射が可能になる。また、LED又はLDの使用は、エネルギー集約性、低発熱性、低消費電力や長寿命に起因して、エネルギー効率及び経済性の観点からも好ましい。加えて、光量子束密度の制御または管理が容易になる。
【0019】
波長域520 nm以上630 nm以下(より具体的には、520 nm以上600 nm以下)の光の光量子束密度は、藻類細胞の培養に有効である光量子束密度であれば限定されない。本明細書において、「藻類細胞の培養に有効」とは、培養中の藻類細胞の数又は密度を継続的に低下させないこと(好ましくは増加させること)をいう。波長域520 nm以上630 nm以下(より具体的には、520 nm以上600 nm以下)の光の光量子束密度は、例えば50 μmol/m2/s以上3000 μmol/m2/s以下、より具体的には50 μmol/m2/s以上2000 μmol/m2/s以下、より具体的には50 μmol/m2/s以上1000 μmol/m2/s以下であり得る。50 μmol/m2/s未満の場合又は3000 μmol/m2/sを超える場合には、藻類細胞の培養を効率的に達成できないことがある。
幾つかの実施形態において、波長域520 nm以上630 nm以下(より具体的には、520 nm以上600 nm以下)の光の光量子束密度は、100 μmol/m2/s以上1000 μmol/m2/s以下、より具体的には150 μmol/m2/s以上1000 μmol/m2/s以下、より具体的には200 μmol/m2/s以上1000 μmol/m2/s以下、より具体的には300 μmol/m2/s以上1000 μmol/m2/s以下、より具体的には300 μmol/m2/s以上900 μmol/m2/s以下である。また、幾つかの実施形態において、波長域520 nm以上630 nm以下(より具体的には、520 nm以上600 nm以下)の光の光量子束密度は、50 μmol/m2/s以上500 μmol/m2/s以下、より具体的には50 μmol/m2/s以上400 μmol/m2/s以下、より具体的には50 μmol/m2/s以上300 μmol/m2/s以下である。
【0020】
藻類細胞の培養に有効である、波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度は、藻類細胞の状態及び/又は藻類細胞培養物の状態に応じて変化し得る。
したがって、1つの観点から、本発明の培養方法は、緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類の細胞を培養する方法であって、光合成有効光量子束密度に対する波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度の割合が65%以上である人工光を前記藻類細胞に照射すること、及び、前記藻類細胞の状態及び/又は該藻類細胞の培養物の状態を測定することを含み、前記藻類細胞の状態及び/又は該藻類細胞の培養物の状態に応じて、前記藻類細胞への前記人工光の照射若しくは非照射が切り替えられるか、又は前記藻類細胞に照射される前記波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度が変更される。
この観点によれば、藻類細胞の状態及び/又は藻類細胞培養物の状態に応じて細胞成長に必要な量の光エネルギーを効率的に供給でき、及び/又は細胞成長阻害を導く過剰な光エネルギーの照射を回避できる結果、藻類細胞の効率的な培養を達成できる。
藻類細胞の状態及び/又は藻類細胞培養物の状態は、例えば、藻類細胞培養物の細胞密度、藻類細胞培養物中の一重項酸素量、藻類細胞の細胞サイズ及び藻類細胞の細胞周期から選択される少なくとも1つであり得る。本明細書において、藻類細胞の状態及び/又は藻類細胞培養物の状態に関して「測定」は、定量、半定量、検出、決定(推定も含む)を意味し得、モニタリングすることも含み得る。
【0021】
例えば、前記状態が藻類培養物の細胞密度である場合、培養液中の細胞密度が特定の密度より高い藻類細胞の培養に有効な光量子束密度は、細胞密度が該特定の密度より低い藻類細胞の培養に有効な光量子束密度より大きくなり得る。低密度の藻類細胞に対しては、比較的低い光量子束密度で波長域520 nm以上630 nm以下(より具体的には、520 nm以上600 nm以下)の光を照射することで、無駄なエネルギーを消費せず高い増殖速度を誘導することができる。一方、高密度の藻類細胞に対しては、比較的高い光量子束密度で波長域520 nm以上630 nm以下(より具体的には、520 nm以上600 nm以下)の光を照射することで、より高密度で培養することができる。
【0022】
よって、前記状態が藻類細胞培養物の細胞密度である幾つかの実施形態において、波長域520 nm以上630 nm以下(より具体的には、520 nm以上600 nm以下)の光は、培養液中の藻類細胞が所定の密度以下である場合には50 μmol/m2/s以上500 μmol/m2/s以下、より具体的には50 μmol/m2/s以上400 μmol/m2/s以下、より具体的には50 μmol/m2/s以上300 μmol/m2/s以下の光量子束密度で照射することができ、所定の密度以上である場合には300 μmol/m2/s以上3000 μmol/m2/s以下、より具体的には300 μmol/m2/s以上2000 μmol/m2/s以下、より具体的には300 μmol/m2/s以上1000 μmol/m2/s以下、より具体的には300 μmol/m2/s以上900 μmol/m2/s以下の光量子束密度で照射することができる。
特定の実施形態において、藻類細胞が所定の密度以下にあるとき、波長域520 nm以上630 nm以下の光は、第1の光量子束密度で該藻類に照射され、藻類細胞が前記所定の密度以上にあるとき、波長域520 nm以上630 nm以下の光は第1の光量子束密度より大きい第2の光量子束密度で該藻類に照射される。第1の光量子束密度は、例えば50 μmol/m2/s以上500 μmol/m2/s以下、より具体的には50 μmol/m2/s以上400 μmol/m2/s以下、より具体的には50 μmol/m2/s以上300 μmol/m2/s以下であり得る。第2の光量子束密度は、例えば300 μmol/m2/s以上3000 μmol/m2/s以下、より具体的には300 μmol/m2/s以上2000 μmol/m2/s以下、より具体的には300 μmol/m2/s以上1000 μmol/m2/s以下、より具体的には300 μmol/m2/s以上900 μmol/m2/s以下であり得る。
【0023】
培養液中の藻類細胞の「所定の密度」は、本発明の培養方法により培養する具体的な藻類について、個別に予備培養により決定できる。所定の密度は、例えば0.5~5 g乾燥菌体重量/L培地の範囲内、より具体的には、0.5、0.8、1、1.2、1.5、1.8、2、2.2、2.5、2.8、3、3.2、3.5、3.8、4、4.2、4.5、4.8、又は5 g/Lであり得る。所定の密度はまた、例えば107~108細胞/mL培地の範囲内であり得る。培養液中の藻類細胞の細胞密度は、公知の方法のいずれかを用いて測定することができる。公知の方法としては、電気インピーダンス(コールター原理)を利用したセルカウント、画像認識を利用したセルカウント(例えば、BIO-RAD社のTC20TM全自動セルカウンター)、それらと相関を取った上で、培養液の吸光度(例えば、750 nm又は560 nm)測定、乾燥重量測定を行うことが挙げられる。
【0024】
より具体的な実施形態において、本発明の培養方法は、緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類の細胞を培養する方法であって、光合成有効光量子束密度に対する波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度の割合が65%以上である人工光を前記藻類細胞に照射すること、及び、前記藻類細胞の培養物の細胞密度を測定することを含み、前記人工光は、測定した細胞密度が所定値に達するまでの間、前記波長域520 nm以上630 nm以下の光が前記藻類細胞に第1の光量子束密度で照射されるように照射し、測定した細胞密度が所定値を超えると、前記波長域520 nm以上630 nm以下の光が前記藻類細胞に前記第1の光量子束密度より大きい第2の光量子束密度で照射されるように照射する、方法である。
【0025】
また、例えば、前記状態が藻類細胞培養物中の一重項酸素量である場合、一重項酸素量が特定の値より高い培養液中での藻類細胞の培養に有効な光量子束密度は、一重項酸素量が該特定値より低い培養液中での藻類細胞の培養に有効な光量子束密度より小さくなり得る。
藻類細胞は、特に強光下では、光合成反応(光化学系II)により、細胞損傷の原因となる一重項酸素を発生し得る。よって、一重項酸素量が特定値より比較的低い藻類細胞培養物に対しては、比較的高い光量子束密度で波長域520 nm以上630 nm以下(より具体的には、520 nm以上600 nm以下)の光を照射することで、細胞損傷を抑制しつつ高い成長速度を誘導することができる。一方、一重項酸素量が特定値より比較的高い藻類細胞培養物に対しては、比較的低い光量子束密度で波長域520 nm以上630 nm以下(より具体的には、520 nm以上600 nm以下)の光を照射するか又は人工光照射を停止する(好ましくは、当該培養物を薄暗闇又は暗闇下、より好ましくは暗闇下に置く)ことで、細胞損傷を抑制することができる。本明細書において、「薄暗闇」とは、光合成光量子束密度が対象の藻類細胞において顕著な光酸化ストレスを生じさせないレベル、より具体的には光合成光量子束密度<50 μmol/m2/s、より具体的には光合成光量子束密度≦10 μmol/m2/s)であることをいい、「暗闇」とは、光合成光量子束密度が対象の藻類細胞において光合成を生じさせないレベル、より具体的には光合成光量子束密度<1μmol/m2/s)であることをいう。
比較的低い光量子束密度での光照射の間又は人工光照射停止の間、比較的高い光量子束密度での光照射の間に発生した一重項酸素は拡散し及び/又は基底状態に戻り、且つ新たな一重項酸素の発生は低減又は防止されるため、藻類細胞中の一重項酸素量は低下し、藻類細胞の酸化的損傷のリスクが低減する。この照射パターンによれば、細胞損傷が低減する結果として培養効率(例えば、バイオマス生産性の観点から)が向上する。
【0026】
よって、前記状態が藻類細胞培養物中の一重項酸素量である幾つかの実施形態において、一重項酸素量が第1の所定値を超えたとき、前記藻類細胞に照射される前記波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度が小さくされ又は前記藻類細胞への前記人工光の照射が停止され、一重項酸素量が前記第1の所定値より小さい第2の所定値を下回ったとき又は所定期間を経過したとき、前記藻類細胞に照射される前記波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度は大きくされ又は前記藻類細胞へ前記人工光が照射される。
より具体的な実施形態において、本発明の培養方法は、緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類の細胞を培養する方法であって、
光合成有効光量子束密度に対する波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度の割合が65%以上である人工光を前記藻類細胞に照射すること、及び、前記藻類細胞培養物中の一重項酸素量を測定することを含み、前記人工光の照射は、
)前記波長域520 nm以上630 nm以下の光を前記藻類細胞に第1の光量子束密度で照射する工程、
)測定した一重項酸素量が一旦第1の所定値を超えると、前記波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度を、前記第1の光量子束密度から前記第1の光量子束密度より小さい第2の光量子束密度に変更する工程
)前記波長域520 nm以上630 nm以下の光を前記藻類細胞に前記第2の光量子束密度で照射する工程、
)測定した一重項酸素量が一旦前記第1の所定値より小さい第2の所定値を下回ると、又は工程c)が所定時間行われた後、前記波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度を、前記第2の光量子束密度から前記第1の光量子束密度に変更する工程
)前記波長域520 nm以上630 nm以下の光を前記藻類細胞に前記第1の光量子束密度で照射する工程、
を含む、方法である。
この方法は、工程e)の後に、工程b)~e)を1回以上繰り返す工程(工程f)を更に含んでいてもよい。
第1の光量子束密度は、例えば300 μmol/m2/s以上3000 μmol/m2/s以下、より具体的には300 μmol/m2/s以上2000 μmol/m2/s以下、より具体的には300 μmol/m2/s以上1000 μmol/m2/s以下、より具体的には300 μmol/m2/s以上900 μmol/m2/s以下であり得る。第2の光量子束密度は、例えば50 μmol/m2/s以上500 μmol/m2/s以下、より具体的には50 μmol/m2/s以上400 μmol/m2/s以下、より具体的には50 μmol/m2/s以上300 μmol/m2/s以下であり得る。
【0027】
別のより具体的な実施形態において、本発明の培養方法は、緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類の細胞を培養する方法であって、
光合成有効光量子束密度に対する波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度の割合が65%以上である人工光を前記藻類細胞に照射すること、及び、前記藻類細胞培養物中の一重項酸素量を測定することを含み、
前記人工光の照射は、測定した一重項酸素量が一旦前記第1の所定値を超えると停止され、
前記人工光の照射は、測定した一重項酸素量が一旦前記第1の所定値より小さい第2の所定値を下回ると又は前記人工光の照射の停止から所定時間経過後、再開される、方法である。
この実施形態において、波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度は、例えば300 μmol/m2/s以上3000 μmol/m2/s以下、より具体的には300 μmol/m2/s以上2000 μmol/m2/s以下、より具体的には300 μmol/m2/s以上1000 μmol/m2/s以下、より具体的には300 μmol/m2/s以上900 μmol/m2/s以下であり得る。
より好ましい実施形態では、人工光の照射が停止されている間、藻類細胞培養物は薄暗闇下又は暗闇下(より好ましくは暗闇下)に置かれる。
【0028】
本明細書において、培養物中の一重項酸素量に関して「所定値」は、本発明の培養方法により培養する具体的な藻類について、個別に予備培養により決定できる。例えば、所定値は、「第1の所定値」については、薄暗闇下又は暗闇下(より好ましくは、暗闇下)での培養時に生じる一重項酸素量の10~100倍の範囲内、より具体的には10、20、30、40、50、60、70、80、90又は100倍の一重項酸素量であり得、「第2の所定値」については、薄暗闇下又は暗闇下(より好ましくは、暗闇下)での培養時に生じる一重項酸素量の1~5倍の範囲内、より具体的には1、2、3、4又は5倍の一重項酸素量であり得る。培養物(又は培養液)中の一重項酸素の量は、公知の方法のいずれかを用いて測定することができる。公知の方法としては、高感度近赤外測定システム(例えば、高感度NIR量子効率測定システムQE-5000;大塚電子(株))を用いる分光測定(1270 nmのりん光)、一重項酸素検出試薬(例えば、Singlet Oxygen Sensor Green[SOSG])を用いる蛍光発光測定などが挙げられる。培養物(又は培養液)中の一重項酸素量は、人工光が最も高い光量子束密度で照射され得る(したがって、一重項酸素の発生量が最も高いと考えられる)、照射対象の藻類細胞を含む培養液の人工光受光面において測定することが好ましい。
この実施形態において、「所定期間」は、培養物中の一重項酸素量が有意に低下するに要する時間であり、本発明の培養方法により培養する具体的な藻類について、個別に予備培養により決定できる。所定期間は、例えば1分~12時間、好ましくは5分~10時間、より好ましくは10分~8時間、より好ましくは30分~6時間、より好ましくは1時間~4時間であり得る。
【0029】
藻類細胞培養物中の一重項酸素量は、該培養物に一重項酸素消去剤を供給することによっても低減させることができる。
よって、藻類細胞培養物中の一重項酸素量以外の藻類細胞及び/又はその培養物の状態(例えば、藻類細胞培養物の細胞密度)に応じて、波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度を変更する実施形態においては、藻類細胞培養物中の一重項酸素量を測定し、測定した一重項酸素量が所定値以上になると、一重項酸素消去剤を培養物に供給してもよい。一重項酸素消去剤は、特に限定されず、例としてビタミンC及びビタミンEが挙げられる。一重項酸素消去剤の供給量は、培養物中の一重項酸素量を有意に低下させる量であれば特に限定されない。
【0030】
例えば、前記状態が藻類細胞の細胞サイズである場合、細胞サイズが比較的大きい藻類細胞の培養に有効な光量子束密度は、細胞サイズが比較的小さい藻類細胞の培養に有効な光量子束密度より小さくなり得る。
下記の実施例に示すデータから理解されるように、一重項酸素の発生量が多い細胞はDNA量が多い傾向にある。そして、DNA量が多い細胞は、一般に、細胞サイズが大きい傾向にある。よって、細胞サイズが比較的小さい藻類細胞に対しては、細胞中の一重項酸素量が少ないことから、比較的高い光量子束密度で波長域520 nm以上630 nm以下(より具体的には、520 nm以上600 nm以下)の光を照射する余地があると考えられ、それによって高い成長速度を誘導することができる。一方、細胞サイズが大きい藻類細胞に対しては、細胞中の一重項酸素量が多いことから、比較的低い光量子束密度で波長域520 nm以上630 nm以下(より具体的には、520 nm以上600 nm以下)の光を照射するか又は人工光照射を停止しする(好ましくは、当該培養物を薄暗闇下又は暗闇下、より好ましくは暗闇下に置く)ことで、発生し得る一重項酸素による細胞損傷のリスクを低減することができる。この照射パターンによれば、細胞損傷が低減する結果として培養効率が向上する。
【0031】
よって、前記状態が藻類細胞の細胞サイズである幾つかの実施形態において、藻類細胞は細胞サイズに基づいて分級され、細胞サイズが比較的小さい(すなわち、所定値以下である)藻類細胞は、波長域520 nm以上630 nm以下の光を比較的高い光量子束密度で照射する工程に付され、細胞サイズが比較的大きい(すなわち、所定値以上である)藻類細胞は、波長域520 nm以上630 nm以下の光を比較的高い光量子束密度(0 μmol/m2/s[すなわち非照射]を含む)で照射する工程に付される。
藻類細胞の細胞サイズに関して「所定値」は、DNA量が多い細胞とDNA量が少ない細胞とを分別し得る値である。例えば、所定値は、薄暗闇下又は暗闇下(より好ましくは、暗闇下)での培養時の細胞体積の2倍であり得る。所定値は、本発明の培養方法により培養する具体的な藻類について、個別に予備培養により決定できる。
藻類細胞の分級は、公知の分級方法のいずれかを用いて行うことができる。公知の分級方法としては、湿式若しくは乾式の分級、篩い分け分級、マイクロ流路を利用した分級などが挙げられるが、本発明に関しては、湿式分級又は篩い分け分級が好ましい。湿式分級は例えば液体(湿式)サイクロンを用いて行うことができる。
【0032】
より具体的な実施形態において、本発明の培養方法は、緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類の細胞を培養する方法であって、
光合成有効光量子束密度に対する波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度の割合が65%以上である人工光を前記藻類細胞に照射すること、及び、前記藻類細胞を、細胞サイズが比較的小さい藻類細胞と細胞サイズが比較的大きい藻類細胞とに分級し、前記細胞サイズが比較的小さい藻類細胞を下記工程a)に付し、前記細胞サイズが比較的大きい藻類細胞を下記工程b)に付することを含み、前記人工光の照射が
)前記波長域520 nm以上630 nm以下の光を前記細胞サイズが比較的小さい藻類細胞に第1の光量子束密度で照射する工程、
)前記波長域520 nm以上630 nm以下の光を前記細胞サイズが比較的大きい藻類細胞に第1の光量子束密度より小さい第2の光量子束密度で照射する工程
を含む、方法である。
この方法は、より具体的実施形態において、工程a)又はb)を経た藻類細胞を細胞サイズに基づいて分級して、再度工程a)又はb)に付する工程を含んでいてもよく、当該工程は2回以上繰り返されてもよい。
最初の分級は、前記波長域520 nm以上630 nm以下の光が第1の光量子束密度で照射された藻類細胞について行われてもよい。
この実施形態において、第1の光量子束密度は、例えば300 μmol/m2/s以上3000 μmol/m2/s以下、より具体的には300 μmol/m2/s以上2000 μmol/m2/s以下、より具体的には300 μmol/m2/s以上1000 μmol/m2/s以下、より具体的には300 μmol/m2/s以上900 μmol/m2/s以下であり得る。第2の光量子束密度は、例えば50 μmol/m2/s以上500 μmol/m2/s以下、より具体的には50 μmol/m2/s以上400 μmol/m2/s以下、より具体的には50 μmol/m2/s以上300 μmol/m2/s以下であり得る。
工程a)は第1の所定期間行う。第1の所定期間は、特に限定されないが、例えば4~12時間であり得、より具体的には4~10時間、より具体的には4~8時間、より具体的には4~8時間、より具体的には4~6時間、より具体的には4~5時間であり得る。
工程b)は第2の所定期間行う。第2の所定期間は、DNA量が増加した細胞が分裂に要する代表的な時間であり得、例えば4~12時間であり得、より具体的には4~10時間、より具体的には4~8時間、より具体的には4~6時間、より具体的には4~5時間であり得る。
【0033】
別のより具体的な実施形態において、本発明の培養方法は、緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類の細胞を培養する方法であって、
光合成有効光量子束密度に対する波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度の割合が65%以上である人工光を前記藻類細胞に照射すること、及び、前記藻類細胞を、細胞サイズが比較的小さい藻類細胞と細胞サイズが比較的大きい藻類細胞とに分級することを含み、
前記細胞サイズが比較的小さい藻類細胞はa)前記人工光を照射する工程に付され、前記細胞サイズが比較的大きい藻類細胞はb)薄暗闇下又は暗闇下(より好ましくは暗闇下)に置く工程に付される、方法である。
この方法は、より具体的実施形態において、人工光の照射又は薄暗闇下若しくは暗闇下への配置を経た藻類細胞を細胞サイズに基づいて分級して、再度、人工光の照射又は薄暗闇下若しくは暗闇下での配置に付する工程を含んでいてもよく、当該工程は2回以上繰り返されてもよい。
最初の分級は、人工光が照射された藻類細胞について行われてもよい。
この実施形態において、波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度は、例えば300 μmol/m2/s以上3000 μmol/m2/s以下、より具体的には300 μmol/m2/s以上2000 μmol/m2/s以下、より具体的には300 μmol/m2/s以上1000 μmol/m2/s以下、より具体的には300 μmol/m2/s以上900 μmol/m2/s以下であり得る。
人工光の照射は、上記のとおりの第1の所定期間行う。薄暗闇下又は暗闇下への配置は上記のとおりの第2の所定期間行う。
上記工程a)及び工程b)は別々のリアクター容器中で行うことができる。
【0034】
例えば、前記状態が藻類細胞の細胞周期である場合、細胞周期のS期、G2期、又はM期にある藻類細胞の培養に有効な光量子束密度は、G1期にある藻類細胞の培養に有効な光量子束密度より小さくなり得る。
下記の実施例に示すデータから理解されるように、一重項酸素の発生量が多い細胞は、細胞周期のS期、G2期、又はM期で停止すると考えられる。よって、G1期にある藻類細胞を比較的多く含む培養物(例えば50%以上、より具体的には60%以上、より具体的には70%以上、より具体的には80%以上、より具体的には90%以上の藻類細胞がG1期にある培養物)に対しては、比較的高い光量子束密度で波長域520 nm以上630 nm以下(より具体的には、520 nm以上600 nm以下)の光を照射することで、高い成長速度を誘導することができる。一方、S期、G2期、又はM期にある藻類細胞を比較的多く含む培養物(例えば50%以上、より具体的には60%以上、より具体的には70%以上、より具体的には80%以上、より具体的には90%以上の藻類細胞がS期、G2期、又はM期にある培養物)に対しては、比較的低い光量子束密度で波長域520 nm以上630 nm以下(より具体的には、520 nm以上600 nm以下)の光を照射するか又は人工光照射を停止する(好ましくは、当該培養物を薄暗闇下又は暗闇下、より好ましくは暗闇下に置く)ことで、発生し得る一重項酸素による細胞損傷のリスク又は損傷を受ける細胞の数を低減することができ、また(特に、前記培養物を薄暗闇下又は暗闇下に置く場合)、細胞中の一重項酸素量を低減させて細胞周期の進行を再開させることができる。この照射パターンによれば、細胞損傷が低減される結果として及び/又は停止した細胞周期の進行を再開させる結果として、培養効率が高められる。
【0035】
よって、前記状態が藻類細胞の細胞周期である幾つかの実施形態において、G1期にある藻類細胞は、波長域520 nm以上630 nm以下の光を比較的高い光量子束密度で照射する工程に付され、細胞サイズが比較的大きい(すなわち、所定値以上である)藻類細胞は、波長域520 nm以上630 nm以下の光を比較的低い光量子束密度(0 μmol/m2/s[すなわち非照射]を含む)で照射する工程又は薄暗闇下若しくは暗闇下に置かれる工程に付される。
藻類細胞の細胞周期の決定は、公知の方法のいずれかを用いて測定することができる。公知の方法としては、例えば、画像認識又はクロロフィル蛍光強度に基づくセルソーティング(特開2012-163538)などが挙げられる。
【0036】
前記状態が藻類細胞の細胞周期である幾つかの実施形態においては、前記人工光の照射前に、藻類細胞の細胞周期を同調させることを含んでいてもよい。
前記人工光の照射前に藻類細胞の細胞周期を同調させることにより、細胞周期をモニタリングすることなく、前記人工光の照射若しくは非照射を切り替える時期又は波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度を変更する時期を決定することができる。
【0037】
したがって、より具体的な実施形態において、本発明の培養方法は、緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類の細胞を培養する方法であって、
光合成有効光量子束密度に対する波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度の割合が65%以上である人工光を前記藻類細胞に照射すること、及び、藻類細胞の細胞周期を同調させることを含み、前記人工光の照射が
)前記波長域520 nm以上630 nm以下の光を第1の光量子束密度で照射する工程、
)前記波長域520 nm以上630 nm以下の光を第1の光量子束密度より小さい第2の光量子束密度で照射する工程
を含み、
前記同調化藻類細胞が、工程a)に第1の所定期間付され、続いて工程b)に第2の所定期間付されるか、又は工程b)に第2の所定期間付され、続いて工程a)に第1の所定期間付される、方法である。
別のより具体的な実施形態において、本発明の培養方法は、緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類の細胞を培養する方法であって、
光合成有効光量子束密度に対する波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度の割合が65%以上である人工光を前記藻類細胞に照射すること、及び、藻類細胞の細胞周期を同調させることを含み、
前記同調化藻類細胞が、a)前記人工光を照射する工程に第1の所定期間付され、続いてb)薄暗闇下若しくは暗闇下に置く工程に第2の所定期間付されるか、又は工程b)に第2の所定期間付され、続いて工程a)に第1の所定期間付される、方法である。
【0038】
工程a)は同調化藻類細胞がG1期にある(と推定される)期間に付され得、工程b)は同調化藻類細胞がS期~M期にある(と推定される)期間に付され得る。
この実施形態において、第1の光量子束密度は、例えば300 μmol/m2/s以上3000 μmol/m2/s以下、より具体的には300 μmol/m2/s以上2000 μmol/m2/s以下、より具体的には300 μmol/m2/s以上1000 μmol/m2/s以下、より具体的には300 μmol/m2/s以上900 μmol/m2/s以下であり得る。第2の光量子束密度は、例えば50 μmol/m2/s以上500 μmol/m2/s以下、より具体的には50 μmol/m2/s以上400 μmol/m2/s以下、より具体的には50 μmol/m2/s以上300 μmol/m2/s以下であり得る。
)人工光を照射する工程では、人工光は、前記波長域520 nm以上630 nm以下の光が上記のとおりの第1の光量子束密度で照射されるように照射する。
第1の所定期間は、藻類細胞がG1期にあり得る期間であり得、例えば16~20時間、より具体的には18~20時間、より具体的には19~20時間であり得る。
第2の所定期間は、藻類細胞がS期~M期にあり得る期間であり得、例えば4~8時間、より具体的には4~6時間、より具体的には4~5時間であり得る。
工程a)及びb)は1回以上繰り返されてもよく、例えば第1の所定期間/第2の所定期間の周期を16/8時間~20/4時間として繰り返すことができる。
【0039】
細胞周期の同調は、細胞周期の特定の期で細胞を停止させた後、同時に細胞周期進行を再開させることにより、又は藻類細胞を所定の明暗周期で予備培養することにより行うことができる。
細胞周期の特定の時期での停止は、細胞分裂同調剤(「細胞周期停止剤」とも呼ばれる)を用いて行うことができる。細胞分裂同調剤は、任意の細胞分裂同調剤であり得、好ましくは、細胞をS期又は(より好ましくは)M期で停止させ得る細胞分裂同調剤である。細胞分裂同調剤の例としては、コルヒチン、デメコルシン、コルセチン、コルセミド、ノコダゾール、ビンカアルカロイド(例えば、ビンブラスチン、ビンクリスチン)、リゾキシンなどを挙げることができる。
細胞周期を同調させるための予備培養は、例えば20/4時間~18/6時間の明暗周期で行うことができる。本明細書において、細胞周期を同調させるための予備培養に用いる「明暗周期」に関して、「明期」とは対象の藻類細胞が第1の光量子束密度(例えば、300 μmol/m2/s以上)での波長域520 nm以上630 nm以下(より具体的には、520 nm以上600 nm以下)の光の照射下にある期間をいい、「暗期」とは、対象の藻類細胞が薄暗闇下又は暗闇下(より好ましくは暗闇下)又は第2の光量子束密度(例えば、300 μmol/m2/s未満)での波長域520 nm以上630 nm以下(より具体的には、520 nm以上600 nm以下)の光の照射下(好ましくは薄暗闇下又は暗闇下、より好ましくは暗闇下)にある期間をいう。明暗周期は、工程a)及びb)についての第1の所定期間/第2の所定期間の周期と同じであることが好ましい。
【0040】
人工光の藻類細胞への照射時間は、藻類細胞の培養に有効である照射時間であれば限定されない。人工光の照射時間は、例えば4時間以上400時間の間、より具体的には5時間以上400時間以下の間、より具体的には6時間以上300時間以下の間、より具体的には6時間以上200時間以下の間、より具体的には6時間以上150時間以下の間、より具体的には6時間以上100時間以下の間であり得る。
人工光は、連続光として照射されてもよいし、間欠光(例えばパルス光、または24時間の内4、8、12、16、20時間連続点灯し残りの時間を消灯した明暗周期、さらには明暗周期中の点灯をパルス光とするなど)としてもよい。間欠光を用いる場合、光源及び/又は培養物の温度上昇を回避又は低減することができる。パルス光は、例えばパルス幅が100 ms以下、より具体的には50 ms以下、より具体的には20 ms以下、より具体的には10 ms以下、より具体的には5 ms以下であり得る。パルス光はまた、例えばデューティ比が50%以下、より具体的には40%以下、より具体的には30%以下、より具体的には20%以下、より具体的には10%以下、より具体的には5%以下であり得る。
【0041】
本発明の培養方法に用いる緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類の細胞は、光合成色素としてクロロフィルを有し、フィコビリンを有さない。
緑藻類は単細胞であることが好ましい。本発明の培養方法に用いることができる緑藻類としては、特に限定されず、例えば、クロレラ属(Chlorella)、パラクロレラ属、シュードクロレラ属(Pseudochlorella)、クラミドモナス属(Chlamydomonas)、ヘテロクラミドモナス属(Heterochlamydomonas)、ヘマトコッカス属(Haematococcus)、ドナリエラ属(Dunaliella)、セネデスムス属(Scenedesmus)又はデスモデスムス属(Desmodesmus)、ボトリオコッカス属(Botryococcus)、モノラフィディウム属(Monoraphidium)、クロロコックム属(Chlorococcum)、クロロモナス属(Chloromonas)、アンキストロデスムス属(Ankistrodesmus)、ボルボックス属(Volvox)などが挙げられる。
本発明の培養方法に用いることができるユーグレナ藻類としては、特に限定されず、例えば、ミドリムシ/ユーグレナ属(Euglena)、ウチワヒゲムシ/ファクス属(Phacus)、トックリヒゲムシ/トラケロモナス属(Trachelomonas)などが挙げられる。
【0042】
珪藻類は単細胞であることが好ましい。本発明の培養方法に用いることができる珪藻類としては、特に限定されず、例えば、ニッチア属(Nitzschia)、ファエオダクチラム属(Phaeodactylum)、シリンドロテカ属(Cylindrotheca)、キートセラス属(Chaetoceros)、タラシオシーラ属(Thalassiosira)、シクロテラ属(Cyclotella)、スケルトネマ属(Skeletonema)、オドンテラ属(Odontella)などが挙げられる。
ハプト藻類は単細胞であることが好ましい。本発明の培養方法に用いることができるハプト藻類としては、特に限定されず、例えば、イソクリシス属(Isochrysis)、プレウロクリシス属(Pleurochrysis)、パブロバ属(Pavlova)、エミリアニア属(Emiliania)、ファエオキスティス属(Phaeocystis)、プリムネシウム属(Prymnesium)、ゲフィロカプサ属(Gephyrocapsa)、クリソクロムリナ属(Chrysochromulina)などが挙げられる。
上記藻類は、光合成色素としてクロロフィルを有し、フィコビリンを有さないものであれば、野生型に限らず、遺伝子改変体(例えば、特定遺伝子を欠失、編集、又は導入したもの)であってもよい。
幾つかの実施形態において、藻類は緑藻又はユーグレナ藻類である。
【0043】
本発明の培養方法において、藻類細胞は液体培地中で培養される。培養は自然光下で行なってもよく、自然光から遮蔽された条件下で行なってもよい。
本発明の培養方法による培養は、開放系、例えばオープンポンド方式の水槽(レースウェイを含む)又は池で行われてもよいし、閉鎖系、例えばフォトバイオリアクター(例えば、下記で詳述する本発明のフォトバイオリアクター)内で行なわれてもよい。閉鎖系において本発明の培養方法により培養された藻類細胞は、その後、開放系(例えば、オープンポンド方式の水槽又は池)に投入され更に培養されてもよい。この場合、開放系での培養には、本発明の培養方法を用いてもよいし、用いなくてもよい。
【0044】
培養液(培地)及び培養条件は、微細藻類細胞の培養に用い得るものの中から、培養する藻類細胞に応じて適切に選択することができる。培養液は、一般に、窒素及び/又は窒素源、炭素及び/又は炭素源(例えば、炭酸塩、二酸化炭素)、微量金属(例えば、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウム、マンガン、鉄など)、及びビタミン類(例えば、チアミン、ビオチン、ビタミンB12)などを含む。培養液の具体例として、HSM培地、MBM培地、MCM培地、MDM培地、OHM培地、AF-6培地、BG-11培地、C培地、MC培地、VT培地及びこれらの改変培地などが挙げられる。培養温度は、例えば15~35℃、より具体的には20~35℃、より具体的には20~30℃であり得る。pHは、例えば4~10、より具体的には6~9であり得る。培養液には二酸化炭素(例えば1~10体積%)を通気することが好ましい。二酸化炭素はマイクロバブル化されて培地中に供給されてもよい。
【0045】
本発明の培養方法において、藻類細胞は例えば0.01~10 g/Lの細胞密度(濃度)で培養され得るが、密度が例えば0.1~10 g/L、より具体的には0.2~10 g/L、より具体的には0.5~10 g/L、より具体的には0.8~10 g/L、より具体的には1~10 g/Lであるとき、本発明の培養方法は、藻類細胞のより効率的な培養(例えば、より高い増殖速度及び/又はより高い細胞密度)を提供し得る。
本発明の培養方法は、後述する本発明のフォトバイオリアクターを用いることにより好適に実施され得る。
【0046】
別の観点から、本発明は、緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類の細胞を培養する方法であって、光合成有効光量子束密度に対する波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度の割合が65%以上である人工光を前記藻類細胞に照射すること、及び、前記培養物中の一重項酸素量を測定することを含み、測定した一重項酸素量が所定値以上になると、一重項酸素消去剤が前記培養物に供給されることを特徴とする
上記のとおり、藻類細胞は、特に強光下では、光合成反応(光化学系II)により、細胞損傷の原因となる一重項酸素を発生し得る。よって、一重項酸素量が所定値以上になった藻類細胞培養物に、一重項酸素消去剤を供給することにより、培養物中の一重項酸素量を低減させて藻類細胞の損傷リスクを低下させることができる。結果として、培養効率が向上する。
人工光及び該人工光における波長域520 nm以上630 nm以下(より具体的には、520 nm以上600 nm以下)の光の光量子束密度に関しては、上記のとおりである。
培養物(又は培養液)中の一重項酸素の量は、公知の方法のいずれかを用いて測定することができる。公知の方法としては、高感度近赤外測定システム(例えば、高感度NIR量子効率測定システムQE-5000;大塚電子(株))を用いる分光測定(1270 nmのりん光)、一重項酸素検出試薬(例えば、Singlet Oxygen Sensor Green[SOSG])を用いる蛍光発光測定などが挙げられる。培養物(又は培養液)中の一重項酸素量は、人工光が最も高い光量子束密度で照射され得る(したがって、一重項酸素の発生量が最も高いと考えられる)、照射対象の藻類細胞を含む培養液の人工光受光面において測定することが好ましい。
培養物中の一重項酸素量に関して「所定値」は、上記のとおり決定され得る。
一重項酸素消去剤は、特に限定されず、例としてビタミンC及びビタミンEが挙げられる。一重項酸素消去剤の供給量は、培養物中の一重項酸素量を有意に低下させる量であれば特に限定されない。
所定の光量子束密度は、例えば300 μmol/m2/s以上3000 μmol/m2/s以下、より具体的には300 μmol/m2/s以上2000 μmol/m2/s以下、より具体的には300 μmol/m2/s以上1000 μmol/m2/s以下、より具体的には300 μmol/m2/s以上900 μmol/m2/s以下であり得る。
【0047】
<培養物の製造方法>
本発明は、別の1つの観点から、緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類の細胞培養物を製造する方法を提供する。
本発明の藻類細胞の培養物を製造する方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう。)は、上記<培養方法>において説明した本発明の培養方法のいずれかにより緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類の細胞を培養することを特徴とする。
本発明の製造方法に用いる藻類細胞は、上記<培養方法>において説明したとおりの緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類の細胞である。
本発明の製造方法によれば、藻類細胞の培養物を、(例えば、時間的及び/又は費用的観点で)効率的に、及び/又は高密度で製造することができ(すなわち、高いバイオマス生産性を達成することができ)、更には、藻類細胞に含まれる有用物質(例えば、アスタキサンチン、ルテイン、オイルなど)を安価に提供することができる。
赤色光及び/又は青色光を照射することにより藻類細胞において有用物質を効率的に生産する方法に、本発明の製造方法により製造された藻類培養物を使用すれば、生産効率が更に向上すると考えられる。例えば、グリーンステージの緑藻類細胞を本発明の培養方法により培養して得られる藻類培養物を、特許第6575987号に記載される方法に適用すれば、当該培養物において、より効率的にアスタキサンチンを製造することができると考えられる。
【0048】
<フォトバイオリアクター>
本発明は、別の1つの観点から、緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類細胞培養用フォトバイオリアクターを提供する。
本発明の藻類細胞培養用フォトバイオリアクター(本明細書において、単に「本発明のフォトバイオリアクター」ともいう)は、
緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類の細胞並びにその培養液を収容するためのリアクター容器と、
前記リアクター容器に対して光を照射するための照明装置であって、光合成有効光量子束密度に対する波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度の割合が65%以上である光を発する照明装置と、を備えることを特徴とする。
本発明のフォトバイオリアクターは、上述した本発明の培養方法の実施に好適である。
【0049】
本発明のフォトバイオリアクターを用いる培養に適した藻類細胞は、上記<培養方法>において説明したとおりの緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類の細胞である。
培養液は、上記<培養方法>において説明したとおりの培養液である。
【0050】
以下、図1を参照しながら本発明のフォトバイオリアクターを説明する。
本発明のフォトバイオリアクター(100, 200, 300, 400, 500, 600, 700, 800)は少なくとも1つのリアクター容器(110, 210, 310, 510, 511, 610, 611, 710, 711, 810)を備える。リアクター容器には、微細藻類細胞培養用フォトバイオリアクターに用い得る任意の容器を用いることができる。容器の形状は、任意の形状であり得、例えば、平板状(例えば、フラットパネル)、管状(例えば、チューブ、ホース又はパイプ)、円筒状(例えば、タンク)、ボトル状、ドーム状、直方体状などであり得る。管状容器は蛇行状に折り畳まれていてもよい。管状容器はまたプラスチックフィルム製チューブであってもよい。リアクター容器の材料は、例えば、可視光に対する透光性が高いガラス又はプラスチック(例えば、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロンなど)であり得る。容器のサイズは任意であり、所望する培養の規模に応じて適時設計し得る。
【0051】
リアクター容器は、培養前にリアクター容器内に藻類細胞及び培養液を導入し、培養後に当該容器から培養物を回収するための第1の開口部を有する。第1の開口部は、リアクター容器内に藻類細胞及び培養液を導入した後、密封され得るように構成されていてもよい。
リアクター容器は、その内部(好ましくは培養液中)に二酸化炭素を供給するための第2の開口部を有し得る。第2の開口部は、二酸化炭素供給装置(例えば、コンプレッサー又はポンプ)に接続され得るように構成されていてもよい。第1の開口部を二酸化炭素の供給に用いてもよい。
リアクター容器内には、その内部に藻類細胞及び培養液を収容したときにそれらを撹拌することができる撹拌機が備えられていてもよい。
【0052】
本発明のフォトバイオリアクターは少なくとも1つの照明装置(120, 220, 320, 420, 520, 521, 620, 720, 820)を備える。1つの照明装置が1又は2以上のリアクター容器と組み合わされてもよいし、2以上の照明装置が1又は2以上のリアクター容器と組み合わされてもよい。
照明装置は、その光合成有効光量子束密度に対する波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度の割合が65%以上、より具体的には70%以上、より具体的には75%以上、より具体的には80%以上、より具体的には85%以上、より具体的には90%以上、より具体的には95%以上である光(人工光)を発出する。本発明において、「光量子束密度」とは、照射装置からの光(人工光)が照射されるリアクター容器の内側面又は外側面(好ましくは外側面)における光量子束密度をいう。
幾つかの実施形態において、照明装置は、その光合成有効光量子束密度に対する波長域520 nm以上600 nm以下の光の光量子束密度の割合が65%以上、より具体的には70%以上、より具体的には75%以上、より具体的には80%以上、より具体的には85%以上、より具体的には90%以上、より具体的には95%以上である光を発出する。この実施形態によれば、エネルギー集約性が高まり、より効率的な培養を提供し得る。
【0053】
照明装置は、好ましくは520 nm以上630 nm以下の波長域、より好ましくは520 nm以上600 nm以下の波長域に最大ピーク波長を有する光を発出する。このような照明装置を用いる場合、藻類細胞を赤色光より効率的に増殖させ得る波長域の光を効率的にリアクター容器内に収容する藻類細胞に照射し得る点で好ましくあり得る。
よって、幾つかの実施形態において、照明装置は、波長域520 nm以上630 nm以下の光のみ又は波長域520 nm以上600 nm以下の光のみを発出する。また、幾つかの実施形態において、照明装置は、ピーク波長545±25 nm(より好ましくは545±15 nm)及び半値幅0.1 nm以上50 nm以下(より好ましくは0.1 nm以上20 nm以下)の波長スペクトルを有する光のみを発出する。
【0054】
照明装置は、唯1つの光源を備えていてもよいし、2以上の光源を備えていてもよい。
照明装置が2以上の光源を備える場合、各光源からリアクター容器に向けて照射される光(すなわち、使用時には、当該リアクター容器内に収容された藻類細胞に対して照射される光)のいずれについても、その光合成有効光量子束密度に対する波長域520 nm以上600 nm以下(より具体的には、520 nm以上600 nm以下)の光の光量子束密度の割合が上記した所定の値(例えば、65%以上)である必要はなく、各光源からリアクター容器に向けて照射される光の合成光または混合光の当該割合が上記所定の値であればよい。照明装置の光源として、例えば、発光ダイオード(LED)、レーザダイオード(LD)、ナトリウムランプ(例えば、低圧ナトリウムランプ)、キセノンランプ、蛍光灯、白熱電灯、白色灯、メタルハライドランプや高圧水銀ランプなどを用いることができる。
【0055】
照明装置は、少なくとも波長域520 nm以上630 nm以下(より具体的には、520 nm以上600 nm以下)の光を発する光源を少なくとも1つ備える。このような光源として、上記で例示した光源を用いることができる。用いようとする光源自体が発する光の光合成有効光量子束密度に対する波長域520 nm以上630 nm以下(より具体的には、520 nm以上600 nm以下)の光の光量子束密度の割合が65%を下回る場合には、波長域520 nm以上630 nm以下(より具体的には、520 nm以上600 nm以下)の光に対する透過率が該波長域外の光に対する透過率より大きいフィルターを当該光源の照射面に配置する。エネルギー効率の観点から、照明装置は、ピーク波長545±25 nm(より好ましくは545±15 nm)及び半値幅0.1 nm以上50 nm以下(より好ましくは0.1 nm以上20 nm以下)の波長スペクトルを有する光を発出する光源を備えることが好ましく、その光源がシングルピークを有するものであることがより好ましい。
【0056】
幾つかの好適な実施形態において、照明装置は、ピーク波長545±25 nm(より好ましくは545±15 nm)及び半値幅0.1 nm以上50 nm以下(より好ましくは0.1 nm以上20 nm以下)の波長スペクトルを有する光を発出する発光ダイオード(LED)又はレーザダイオード(LD)を備える。この場合、LD又はLEDはアレイ又はクラスタとして提供されてもよい。この実施形態によれば、強度が強すぎると細胞に悪影響(例えば、活性酸素種の発生による細胞損傷)を及ぼし得る赤色光及び/又は青色光の照射を抑えることが可能になる。また、使用時にリアクター容器内に収容する藻類細胞を含む培養液の(照射軸方向に関して)中央部又はこれを超えた反対側にまで到達し、且つクロロフィルにより吸収される(よって、光合成に利用される)光の効率的照射が可能になる。更に、LED又はLDの使用は、エネルギー集約性、低発熱性、低消費電力や長寿命に起因して、エネルギー効率及び経済性の観点からも好ましい。加えて、光量子束密度の制御または管理が容易になる。
【0057】
照明装置の光源は、その光が、リアクター容器内に(すなわち、使用時には、リアクター容器内に収容された藻類細胞に)照射され得るように配置される。光源は、リアクター容器外に配置されてもよいし、リアクター容器内(すなわち、使用時には培養液中)に配置されてもよく、リアクター容器内及び外に配置されてもよい。光源は、リアクター容器外に配置される場合、容器の上方(例えば、真上)、下方(例えば、真下)及び側方(例えば、真横)の少なくとも一方から光を照射できるように配置される。
光源の形態は、任意の形態であり得、リアクター容器の形状並びに/又は光源及びリアクター容器の配置態様などに応じて適切に設計することができる。光源の具体例は、ライン光源及びパネル光源であり得る。
【0058】
照明装置(220, 320)は、その光源(225, 325)を制御する制御部(227, 327)を備えていてもよい。
制御部は、照明装置の光源からの波長域520 nm以上630 nm以下(より具体的には520 nm以上600 nm以下)の光(該当する場合、合成光/混合光)の光量子束密度が所定の範囲内となるように該光源を制御してもよい。
よって、幾つかの実施形態において、照明装置は、520 nm以上630 nm以下(より具体的には520 nm以上600 nm以下)にピーク波長を有する光を発出する光源と、該光源からの波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度が所定の範囲内となるように該光源を制御する制御部と を備える。
【0059】
光源の調光を制御するための制御部は、例えば、パルス幅変調回路であり得る。
前記所定の範囲は、例えば50 μmol/m2/s以上3000 μmol/m2/s以下、具体的には50 μmol/m2/s以上2000 μmol/m2/s以下、より具体的には50 μmol/m2/s以上1000 μmol/m2/s以下である。照明装置の光源を前記範囲内において制御することにより、リアクター容器内の藻類細胞に対してその培養に有効である光量子束密度を提供することができる。50 μmol/m2/s未満の場合又は3000 μmol/m2/sを超える場合には、本発明のフォトバイオリアクターを用いた藻類細胞の培養によって、効率的な培養が達成されないことがある。
【0060】
特定の実施形態において、制御部は、制御する光源からの波長域520 nm以上630 nm以下(より具体的には、520 nm以上600 nm以下)の光の光量子束密度が、100 μmol/m2/s以上1000 μmol/m2/s以下、より具体的には150 μmol/m2/s以上1000 μmol/m2/s以下、より具体的には200 μmol/m2/s以上1000 μmol/m2/s以下、より具体的には300 μmol/m2/s以上1000 μmol/m2/s以下、より具体的には300 μmol/m2/s以上900 μmol/m2/s以下となるよう該光源を制御する。また、特定の実施形態において、制御部は、制御する光源からの波長域520 nm以上630 nm以下(より具体的には、520 nm以上600 nm以下)の光の光量子束密度が、50 μmol/m2/s以上500 μmol/m2/s以下、より具体的には50 μmol/m2/s以上400 μmol/m2/s以下、より具体的には50 μmol/m2/s以上300 μmol/m2/s以下となるように該光源を制御する。
【0061】
制御部は、代替的又は追加的に、照明装置の光源(具体的には波長域520 nm以上630 nm以下、より具体的には波長域520 nm以上600 nm以下の光を発出する光源)の照射時間が所定の範囲内となるように該光源を制御してもよい。
よって、幾つかの実施形態において、照明装置は、520 nm以上630 nm以下(より具体的には520 nm以上600 nm以下)にピーク波長を有する光を発出する光源と、該光源から波長域520 nm以上630 nm以下の光が所定時間照射されるように該光源を制御する制御部と を備える。
【0062】
光源の照射時間を制御するための制御部は、例えば、タイマーであり得る。
前記所定時間は、例えば4時間以上400時間の間、より具体的には5時間以上400時間以下の間、より具体的には6時間以上300時間以下の間、より具体的には6時間以上200時間以下の間、より具体的には6時間以上150時間以下の間、より具体的には6時間以上100時間以下の間であり得る。
特定の具体的実施形態において、制御部は、照明装置の光源からの波長域520 nm以上630 nm以下(より具体的には、520 nm以上600 nm以下)の光の光量子束密度が上記所定範囲内となり、前記波長域の光が上記所定時間照射されるように該光源を制御する制御部である。この場合、制御部は、例えば、パルス幅変調回路及びタイマーから構成され得る。
【0063】
照明装置は、その光源からの光を、連続光として照射してもよいし、間欠光(例えばパルス光、または24時間の内4、8、12、16、20時間連続点灯し残りの時間を消灯した明暗周期、さらには明暗周期中の点灯をパルス光とするなど)としてもよい。間欠光を用いる場合、光源及び/又は培養物の温度上昇を回避又は低減することができる。
一部を間欠光とする場合、好ましくは、波長域520 nm以上630 nm以下(より具体的には、520 nm以上600 nm以下)の光を間欠光とする。
パルス光は、例えばパルス幅が100 ms以下、より具体的には50 ms以下、より具体的には20 ms以下、より具体的には10 ms以下、より具体的には5 ms以下であり得る。パルス光はまた、例えばデューティ比が50%以下、より具体的には40%以下、より具体的には30%以下、より具体的には20%以下、より具体的には10%以下、より具体的には5%以下であり得る。
【0064】
上記のとおり、藻類細胞の培養に有効である、波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度は、藻類細胞の状態及び/又は藻類細胞培養物の状態に応じて変化し得る。前記状態は、リアクター容器内の藻類細胞培養物の細胞密度(濃度)、藻類細胞培養物中の一重項酸素量、藻類細胞の細胞サイズ及び藻類細胞の細胞周期から選択される少なくとも1つである。
よって、本発明のフォトバイオリアクター(300, 400, 800)は、リアクター容器内の藻類細胞の状態及び/又は該藻類細胞の培養物の状態を測定又は検知するためのセンサ(340, 440, 840)を備え、照明装置(320, 420)の光源(325, 425)は、センサ(340, 440)の出力に基いて制御されていてもよい。
したがって、幾つかの具体的実施形態において、本発明のフォトバイオリアクター(300, 400)は、
緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類の細胞並びにその培養液を収容するためのリアクター容器(310, 410)と、
前記リアクター容器に対して、光合成有効光量子束密度に対する波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度の割合が65%以上である光を照射するための照明装置(320, 420)であって、520 nm以上630 nm以下にピーク波長を有する光を発する光源(325, 425)と、該光源を制御する制御部(327, 427)とを備える照明装置と、
前記リアクター容器内の前記藻類細胞の状態及び/又は該藻類細胞の培養物の状態を検知するセンサ(340, 440)と
を備え、前記制御部(327, 427)が前記センサ(340, 440)の出力に基いて前記光源(325, 425)を制御する。
制御部は、前記センサの出力に基いて、前記光源からの光(具体的には波長域520 nm以上630 nm以下の光、より具体的には、520 nm以上600 nm以下の光)の光量子束密度が変更されるように前記光源を制御してもよい。
センサは例えば光センサであり得る。光センサは、リアクター容器内部からの光を検出する光センサであり得る。
【0065】
光センサは、リアクター容器内の藻類細胞の状態及び/又は藻類細胞培養物の状態に関連する光の量を検知又は測定する。例えば、光センサは、リアクター容器内部からの光、例えば、該容器内(よって、該容器内の培養液の少なくとも一部)を通過してくる光(透過光)又は励起光によって該容器内(したがって、該容器内の培養液)で励起される蛍光若しくはりん光を検出する。光センサ(受光部)は、例えば、フォトダイオード、光電子増倍管、分光光度計、蛍光光度計、CCD、CMOS、フォトレジスタであり得る。
透過光、反射光若しくは散乱光、又は励起光は、その内部での藻類細胞の培養のため(すなわち、光合成のため)にリアクター容器に向けて照射される光であってもよいし、リアクター容器内の前記藻類細胞の状態及び/又は該藻類細胞の培養物の状態の測定のためだけの光であってもよい。
【0066】
例えば、照明装置の光源からの光(具体的には波長域520 nm以上630 nm以下の光、より具体的には、520 nm以上600 nm以下の光)の光量子束密度が、リアクター容器内の藻類細胞培養物の細胞密度(濃度)に応じて変更される実施形態においては、光センサ(340)は、リアクター容器内の藻類細胞培養物の吸光度(特に、750 nmの吸光度)を測定するために用いられる。
また、例えば、光量子束密度が、リアクター容器内の藻類細胞培養物中の一重項酸素量に応じて変更される実施形態においては、光センサ(440)は、リアクター容器内の培養液(受光面)からのりん光(特に、1270 nmのりん光)を測定するために用いられる。
【0067】
受光した光センサは受光強度に応じた出力を、照明装置の制御部へ伝送し、制御部は該出力に基いて光源を制御する。例えば、制御部は、光センサからの出力を、所定の閾値と比較する。制御部は、光センサからの出力が所定の閾値を超えた時又は下回った時、光量子束密度が所定の範囲内となるように光源を制御するか又は光源を消点灯する。
例えば、光量子束密度がリアクター容器内の藻類細胞培養物の細胞密度(濃度)に応じて変更される実施形態においては、所定の閾値は、例えば0.5~5 g乾燥重量/L培地、より具体的には、0.5、0.8、1、1.2、1.5、1.8、2、2.2、2.5、2.8、3、3.2、3.5、3.8、4、4.2、4.5、4.8、又は5 g/Lに相当する値であり得る。所定の閾値はまた、例えば107~108細胞/mL培地に相当する値であり得る。
【0068】
例えば、照明装置の制御部は、光センサからの出力が所定の閾値を超えた時又は下回った時(所定の密度以下である場合に対応)、光源からの光(具体的には波長域520 nm以上630 nm以下の光、より具体的には、520 nm以上600 nm以下の光)を300 μmol/m2/s以上3000 μmol/m2/s以下の第1の光量子束密度でリアクター容器に向けて照射する。第1の光量子束密度は、より具体的には300 μmol/m2/s以上2000 μmol/m2/s以下、より具体的には300 μmol/m2/s以上1000 μmol/m2/s以下、より具体的には300 μmol/m2/s以上900 μmol/m2/s以下であり得る。
一方、制御部は、光センサからの出力が所定の閾値を下回った時又は超えた時(所定の密度以上である場合に対応)、光源からの光を50 μmol/m2/s以上500 μmol/m2/s以下の第2の光量子束密度でリアクター容器に向けて照射するか又は光源を消灯する。ここで、第2の光量子束密度は第1の光量子束密度より小さい。第2の光量子束密度は、より具体的には50 μmol/m2/s以上400 μmol/m2/s以下、より具体的には50 μmol/m2/s以上300 μmol/m2/s以下であり得る。
【0069】
また、本発明のフォトバイオリアクター(500, 600, 700)は、藻類細胞を分級する装置(550, 650, 750)を備え、分級された藻類細胞に、照明装置の光源からの光(具体的には波長域520 nm以上630 nm以下の光、より具体的には、520 nm以上600 nm以下の光)が当該藻類細胞の培養に有効である光量子束密度で照射される構成とされてもよい。
したがって、幾つかの具体的実施形態において、本発明のフォトバイオリアクター(500, 600, 700)は、
緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類の細胞並びにその培養液を収容するためのリアクター容器(第1のリアクター容器)(510, 610, 710)と、
前記リアクター容器に対して、光合成有効光量子束密度に対する波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度の割合が65%以上である光を照射するための照明装置(第1の照明装置)(520, 620, 720)と、
前記藻類細胞をその細胞サイズに基づいて分級する分級装置(550, 650, 750)と
を備え、前記分級装置は前記リアクター容器と相互に接続しており、前記分級装置により分級された比較的小さいサイズの藻類細胞が前記リアクター容器(510, 610, 710)に供給される。
【0070】
(第1の)分級装置には、リアクター容器内へ初めて供給しようとする藻類細胞が供給されてもよい。
分級装置は、該装置に供給された藻類細胞を比較的大きいサイズの細胞と比較的小さいサイズの細胞とに分級する。
分級装置に関して「所定値」は、DNA量が多い細胞とDNA量が少ない細胞とを分別し得る値であってもよい。分級装置は、公知の分級装置のいずれかを用いることができる。公知の分級装置としては、湿式若しくは乾式の分級装置、篩い分け分級装置、マイクロ流路を利用した分級装置などが挙げられるが、本発明に関しては、湿式分級装置又は篩い分け分級装置が好ましい。湿式分級装置は例えば液体サイクロン分級機であり得る。
分級装置で分級された、細胞サイズが比較的小さいサイズ(すなわち、所定値以下の細胞サイズ)の藻類細胞は、第1の細胞供給路を介して、(第1の)リアクター容器に供給される。分級装置には、(第1の)リアクター容器内で培養された藻類細胞が、第1の細胞引抜路を介して、例えばポンピングシステムにより供給されてもよい。この場合、ポンピングシステムは、リアクター容器から分級装置への藻類細胞の供給が、定期的に、例えば4~6時間ごと、より具体的には4~5時間ごとに行われるように制御されていてもよい。
(第1の)照明装置は、(第1の)リアクター容器に対して、波長域520 nm以上630 nm以下の光を、例えば300 μmol/m2/s以上3000 μmol/m2/s以下、より具体的には300 μmol/m2/s以上2000 μmol/m2/s以下、より具体的には300 μmol/m2/s以上1000 μmol/m2/s以下、より具体的には300 μmol/m2/s以上900 μmol/m2/s以下であり得る(第1の)光量子束密度で照射する。
【0071】
この実施形態において、本発明のフォトバイオリアクター(500, 600, 700)は、藻類細胞及びその培養液を収容するための第2のリアクター容器(511, 611, 711)を更に備えていてもよい。第1のリアクター容器(510, 610, 710)は、第2のリアクター容器(711)に分級機(750)を介して(一方向に)接続されていてもよいし、第2のリアクター容器(511, 611)と分級機(550, 650)を介して相互に接続されていてもよい。この分級装置により分級された比較的小さいサイズの藻類細胞は第1のリアクター容器に供給され、比較的大きいサイズ(すなわち、所定値以上の細胞サイズ)の藻類細胞が第2のリアクター容器に供給される。
より具体的実施形態において、本発明のフォトバイオリアクター(500)は、第2のリアクター容器(511)に対して、波長域520 nm以上630 nm以下の光(より具体的には、520 nm以上600 nm以下の光)を照射するための第2の照明装置(521)を更に備えていてもよい。第2の照明装置は、第2のリアクター容器に対して、波長域520 nm以上630 nm以下の光を、第1の光量子束密度より小さい第2の光量子束密度で照射する。第2の光量子束密度は、例えば50 μmol/m2/s以上500 μmol/m2/s以下、より具体的には50 μmol/m2/s以上400 μmol/m2/s以下、より具体的には50 μmol/m2/s以上300 μmol/m2/s以下であり得る。
別のより具体的実施形態において、第2のリアクター容器(611, 711)は、薄暗闇下若しくは暗闇下に配置されるか又は該リアクター容器内に光合成光量子束密度が50 μmol/m2/s以上の光(より具体的には10 μmol/m2/sを超える光、より具体的には1 μmol/m2/s以上の光)が照射されないように構成されている。例えば、第2のリアクター容器(611, 711)は、該リアクター容器内部が薄暗闇下又は暗闇となるように、可視光に対する透光性が低い材料で構成されているか又は囲われていてもよい。
【0072】
第2のリアクター容器は、分級装置に細胞引抜路(第2の細胞引抜路)を通じて接続されていてもよい。分級装置により分級された比較的小さいサイズの藻類細胞が、第3の細胞供給路を介して、第1のリアクター容器に供給され、比較的大きいサイズの藻類細胞が、第4の細胞供給路を介して、例えばポンピングシステムにより、第2のリアクター容器に供給される。
或いは、第2のリアクター容器(711)は第1のリアクター容器(710)に細胞通路を通じて(分級装置を介さずに)接続されていてもよい。
【0073】
また、本発明のフォトバイオリアクター(800)は、リアクター容器内の一重項酸素量を測定するセンサ(840)とリアクター容器に一重項酸素消去剤を供給する一重項酸素消去剤供給装置(860)とを更に備え、測定されたリアクター容器内の一重項酸素量に応じて一重項酸素消去剤供給装置がリアクター容器へ一重項酸素消去剤を供給する。
したがって、幾つかの具体的実施形態において、本発明のフォトバイオリアクターは、
緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類の細胞並びにその培養液を収容するためのリアクター容器と、
前記リアクター容器に対して、光合成有効光量子束密度に対する波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度の割合が65%以上である光を照射するための照明装置と、
前記リアクター容器内の一重項酸素量を測定するセンサと、
前記リアクター容器に一重項酸素消去剤を供給する一重項酸素消去剤供給装置と
を備え、前記一重項酸素消去剤供給装置から前記リアクター容器への一重項酸素消去剤の供給がセンサの出力に基づいて制御される。
【0074】
一重項酸素量を測定するセンサは、一重項酸素量を測定し得る公知のセンサのいずれかであり得、好ましくは光センサである。光センサは上記のとおりである。センサは、照射対象の藻類細胞を含む培養液の人工光受光面からの光を受光できるように、例えばリアクター容器の人工光受光面に面して、配置されることが好ましい。
一重項酸素消去剤供給装置は、リアクター容器に一重項酸素消去剤を供給することができるように構成されていれば特に限定されないが、例えば、一重項酸素消去剤を貯蔵する一重項酸素消去剤貯蔵部と、一方端が一重項酸素消去剤貯蔵部に接続され、他方端がリアクター容器に一重項酸素消去剤を吐出する吐出口に接続される一重項酸素消去剤供給管とを含む。一重項酸素消去剤貯蔵部から吐出口への一重項酸素消去剤の供給は、例えば、ポンプなどの流体輸送手段によってもよいし、一重項酸素消去剤供給管の途中に設けられた開閉機構(例えば、バルブ又はシャッター)の開放によってもよい。ポンプの駆動のタイミング及び駆動期間や、バルブ又はシャッターの開閉のタイミング及び開放期間はセンサからの信号に基づいて制御される。
一重項酸素消去剤は、特に限定されず、例としてビタミンC及びビタミンEが挙げられる。一重項酸素消去剤の供給量は、培養物中の一重項酸素量を有意に低下させる量であれば特に限定されない。
【0075】
以下に、非限定的な具体的実施形態を記載する。
[項目1]
光合成有効光量子束密度に対する波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度の割合が65%以上である人工光を、緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類の細胞に照射することを特徴とする藻類の細胞を培養する方法。
[項目2]
前記藻類が緑藻類又はユーグレナ藻類である項目1に記載の方法。
[項目3]
前記人工光が、その光合成有効光量子束密度に対する波長域520 nm以上570 nm以下の光の光量子束密度の割合が65%以上である光である項目1又は2に記載の方法。
[項目4]
前記割合が75%以上である項目1~3のいずれか1項に記載の方法。
[項目5]
前記割合が90%以上である項目4に記載の方法。
【0076】
[項目6]
前記人工光が520 nm以上570 nm以下に最大ピーク波長を有する項目1~5のいずれか1項に記載の方法。
[項目7]
前記波長域520 nm以上630 nm以下の光が50 μmol/m2/s以上3000 μmol/m2/s以下の光量子束密度で前記藻類細胞に照射される項目1~6のいずれか1項に記載の方法。
[項目8]
前記波長域520 nm以上630 nm以下の光が前記藻類細胞に6時間以上100時間以下の間照射される項目1~7のいずれか1項に記載の方法。
[項目9]
前記人工光がピーク波長545±25 nm及び半値幅0.1 nm以上50 nm以下の波長スペクトルを有する光を含む項目1~8のいずれか1項に記載の方法。
[項目10]
前記波長域520 nm以上630 nm以下の光が発光ダイオード又はレーザダイオードを光源とする光を含む項目1~9のいずれか1項に記載の方法。
【0077】
[項目11]
前記藻類細胞が所定の密度以下にあるとき、該藻類細胞に前記波長域520 nm以上630 nm以下の光を50 μmol/m2/s以上500 μmol/m2/s以下の第1の光量子束密度で照射し、前記藻類細胞が前記所定の密度以上にあるとき、該藻類細胞に前記波長域520 nm以上630 nm以下の光を前記第1の光量子束密度より大きい300 μmol/m2/s以上3000 μmol/m2/s以下の第2の光量子束密度で照射する項目1~10のいずれか1項に記載の方法。
[項目12]
前記藻類細胞がフォトバイオリアクター内で培養される項目1~11のいずれか1項に記載の方法。
[項目13]
項目12に記載の方法により培養された藻類細胞を、オープンポンド方式の水槽又は池に投入して更に培養することを特徴とする藻類細胞を培養する方法。
[項目14]
項目1~13のいずれか1項に記載の方法により緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類の細胞を培養することを特徴とする藻類細胞の培養物を製造する方法。
【0078】
[項目15]
緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類の細胞並びにその培養液を収容するためのリアクター容器と、
前記リアクター容器に対して光を照射するための照明装置であって、光合成有効光量子束密度に対する波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度の割合が65%以上である光を発する照明装置と、
を備えた藻類細胞培養用のフォトバイオリアクター。
[項目16]
前記照明装置が、その光合成有効光量子束密度に対する波長域520 nm以上570 nm以下の光の光量子束密度の割合が65%以上である光を発する項目15に記載のフォトバイオリアクター。
[項目17]
前記割合が75%以上である項目15又は16に記載のフォトバイオリアクター。
[項目18]
前記割合が90%以上である項目17に記載のフォトバイオリアクター。
[項目19]
前記照明装置が520 nm以上570 nm以下に最大ピーク波長を有する光を発する項目15~18のいずれか1項に記載のフォトバイオリアクター。
【0079】
[項目20]
前記照明装置が、520 nm以上570 nm以下にピーク波長を有する光を発する光源と、該光源からの波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度が50 μmol/m2/s以上3000 μmol/m2/s以下となるように該光源を制御する制御部と
を備える項目15~19のいずれか1項に記載のフォトバイオリアクター。
[項目21]
前記リアクター容器内部からの光を検出する光センサを更に備え、前記制御部が、前記センサの出力に基いて前記光源を制御する項目20に記載のフォトバイオリアクター。
[項目22]
前記制御部が、前記波長域520 nm以上630 nm以下の光が6時間以上100時間の間照射されるように前記光源を制御する項目20又は21に記載のフォトバイオリアクター。
[項目23]
前記照明装置がピーク波長545±25 nm及び半値幅0.1 nm以上50 nm以下の波長スペクトルを有する光を発する光源を備える項目15~22のいずれか1項に記載のフォトバイオリアクター。
[項目24]
前記光源が発光ダイオード又はレーザダイオードである項目23に記載のフォトバイオリアクター。
[項目25]
項目1に記載の方法に用いるための項目15~24のいずれか1項に記載のフォトバイオリアクター。
【0080】
[項目26]
緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類の細胞を培養する方法であって、光合成有効光量子束密度に対する波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度の割合が65%以上である人工光を前記藻類細胞に照射すること、及び、前記藻類細胞の状態及び/又は該藻類細胞の培養物の状態を測定することを含み、前記藻類細胞の状態及び/又は該藻類細胞の培養物の状態に応じて、前記藻類細胞への前記人工光の照射若しくは非照射が切り替えられるか、又は前記藻類細胞に照射される前記波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度が変更されることを特徴とする、項目1~14のいずれか1項に記載の方法。
[項目27]
前記状態が、前記藻類細胞培養物の細胞密度、前記藻類細胞培養物中の一重項酸素量、前記藻類細胞の細胞サイズ及び前記藻類細胞の細胞周期から選択される少なくとも1つである、項目1に記載の方法。
[項目28]
前記状態が前記培養物の細胞密度である項目26又は27に記載の方法であって、前記藻類細胞に照射される前記波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度は、細胞密度が所定値以下にあるとき第1の光量子束密度であり、細胞密度が前記所定値以上にあるとき前記第1の光量子束密度より大きい第2の光量子束密度である、方法。
[項目29]
前記培養物中の一重項酸素量を測定することを更に含み、測定した一重項酸素量が所定値以上になると、一重項酸素消去剤を前記培養物に供給する、項目28に記載の方法。
[項目30]
前記第1の光量子束密度が50 μmol/m2/s以上300 μmol/m2/s以下であり、前記第2の光量子束密度が300 μmol/m2/s以上900 μmol/m2/s以下である、項目28又は29に記載の方法。
【0081】
[項目31]
前記状態が前記培養物中の一重項酸素量である項目26又は27に記載の方法であって、
一重項酸素量が第1の所定値を超えたとき、前記藻類細胞に照射される前記波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度を小さくするか又は前記藻類細胞への前記人工光の照射を停止し、
一重項酸素量が前記第1の所定値より小さい第2の所定値を下回ったとき又は所定期間を経過したとき、前記藻類細胞に照射される前記波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度を大きくするか又は前記藻類細胞へ前記人工光を照射する、方法。
[項目32]
前記状態が前記藻類細胞の細胞サイズである項目26又は27に記載の方法であって、
前記藻類細胞を、細胞サイズが比較的小さい藻類細胞と細胞サイズが比較的大きい藻類細胞とに分級し、前記細胞サイズが比較的小さい藻類細胞を下記工程a)に付し、前記細胞サイズが比較的大きい藻類細胞を下記工程b)に付することを含み、
前記人工光の照射が
)前記波長域520 nm以上630 nm以下の光を前記細胞サイズが比較的小さい藻類細胞に第1の光量子束密度で照射する工程、
)前記波長域520 nm以上630 nm以下の光を前記細胞サイズが比較的大きい藻類細胞に第1の光量子束密度より小さい第2の光量子束密度で照射する工程
を含む、方法。
[項目33]
前記状態が前記藻類細胞の細胞サイズである項目26又は27に記載の方法であって、
前記藻類細胞を、細胞サイズが比較的小さい藻類細胞と細胞サイズが比較的大きい藻類細胞とに分級することを含み、
前記細胞サイズが比較的小さい藻類細胞はa)前記人工光を照射する工程に付され、前記細胞サイズが比較的大きい藻類細胞はb)薄暗闇下又は暗闇下に置く工程に付される、方法。
[項目34]
工程a)に付された藻類細胞を分級する、項目32又は33に記載の方法。
[項目35]
工程b)に付された藻類細胞を、分級することなく工程a)に付する、項目32~34のいずれか1項に記載の方法。
【0082】
[項目36]
前記状態が前記藻類細胞の細胞周期である項目26又は27に記載の方法であって、
藻類細胞の細胞周期を同調させることを含み、前記人工光の照射が
)前記波長域520 nm以上630 nm以下の光を第1の光量子束密度で照射する工程、
)前記波長域520 nm以上630 nm以下の光を第1の光量子束密度より小さい第2の光量子束密度で照射する工程
を含み、
前記同調化藻類細胞が、工程a)に第1の所定期間付され、続いて工程b)に第2の所定期間付されるか、又は工程b)に第2の所定期間付され、続いて工程a)に第1の所定期間付される、方法。
[項目37]
前記状態が前記藻類細胞の細胞周期である項目26又は27に記載の方法であって、
藻類細胞の細胞周期を同調させることを含み、
前記同調化藻類細胞が、a)前記人工光を照射する工程に第1の所定期間付され、続いてb)薄暗闇下若しくは暗闇下に置く工程に第2の所定期間付されるか、又は工程b)に第2の所定期間付され、続いて工程a)に第1の所定期間付される、方法。
[項目38]
前記人工光の照射前に、前記藻類細胞の細胞周期を同調させることを更に含む項目36又は37に記載の方法。
[項目39]
前記細胞周期の同調が、前記藻類細胞を所定の明暗周期で予備培養することによるか又は細胞分裂同調剤を用いることにより行われる項目38に記載の方法。
[項目40]
前記第1の光量子束密度が300 μmol/m2/s以上900 μmol/m2/s以下であり、前記第2の光量子束密度が50 μmol/m2/s以上300 μmol/m2/s以下である、項目31~39のいずれか1項に記載の方法。
【0083】
[項目41]
前記人工光の照射が停止されている間、前記藻類細胞は薄暗闇下又は暗闇下に置かれる、項目31~40のいずれか1項に記載の方法。
[項目42]
緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類の細胞を培養する方法であって、光合成有効光量子束密度に対する波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度の割合が65%以上である人工光を前記藻類細胞に照射すること、及び、前記培養物中の一重項酸素量を測定することを含み、測定した一重項酸素量が所定値以上になると、一重項酸素消去剤が前記培養物に供給されることを特徴とする方法。
[項目43]
フォトバイオリアクター内で項目26~42のいずれか1項に記載の方法により培養された藻類細胞を、オープンポンド方式の水槽又は池に投入して更に培養することを特徴とする藻類細胞を培養する方法。
[項目44]
項目26~43のいずれか1項に記載の方法により緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類の細胞を培養することを特徴とする藻類細胞培養物を製造する方法。
[項目45]
緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類の細胞並びにその培養液を収容するためのリアクター容器と、
前記リアクター容器に対して、光合成有効光量子束密度に対する波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度の割合が65%以上である光を照射するための照明装置であって、520 nm以上630 nm以下にピーク波長を有する光を発する光源と、該光源を制御する制御部とを備える照明装置と、
前記リアクター容器内の前記藻類細胞の状態及び/又は該藻類細胞の培養物の状態を測定するセンサと
を備え、前記制御部が前記センサの出力に基いて前記光源を制御する、藻類細胞培養用フォトバイオリアクター。
【0084】
[項目46]
前記制御部が、前記センサの出力に基いて、前記波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度が変更されるように前記光源を制御する、項目45に記載のフォトバイオリアクター。
[項目47]
前記センサが光センサである、項目45又は46に記載のフォトバイオリアクター。
[項目48]
前記状態が、前記藻類細胞培養物の細胞密度、前記藻類細胞培養物中の一重項酸素量、前記藻類細胞の細胞サイズ及び前記藻類細胞の細胞周期から選択される少なくとも1つである、項目45~47のいずれか1項に記載のフォトバイオリアクター。
[項目49]
緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類の細胞並びにその培養液を収容するためのリアクター容器と、
前記リアクター容器に対して、光合成有効光量子束密度に対する波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度の割合が65%以上である光を照射するための照明装置と、
前記藻類細胞をその細胞サイズに基づいて分級する分級装置と
を備え、前記分級装置は前記リアクター容器と相互に接続しており、前記分級装置により分級された比較的小さいサイズの藻類細胞が前記リアクター容器に供給される、フォトバイオリアクター。
[項目50]
前記照明装置(第1の照明装置)が、前記リアクター容器(第1のリアクター容器)に対して、波長域520 nm以上630 nm以下の光を第1の光量子束密度で照射する、項目49に記載のフォトバイオリアクターであって、
前記藻類細胞及びその培養液を収容するための第2のリアクター容器と、
前記第2のリアクター容器に対して、波長域520 nm以上630 nm以下の光を前記第1の光量子束密度より小さい第2の光量子束密度で照射するための第2の照明装置と、
を更に備え、前記第1のリアクター容器は前記第2のリアクター容器に前記分級機を介して接続され、該分級装置により分級された比較的小さいサイズの藻類細胞が前記第1のリアクター容器に供給され、前記分級装置により分級された比較的大きいサイズの藻類細胞が前記第2のリアクター容器に供給される、フォトバイオリアクター。
【0085】
[項目51]
前記藻類細胞及びその培養液を収容するための第2のリアクター容器であって、該容器内部が薄暗闇下又は暗闇となるように、可視光に対する透光性が低い材料で構成されているか又は囲われている第2のリアクター容器を更に備え、項目49に記載のリアクター容器(第1のリアクター容器)は前記第2のリアクター容器に前記分級機を介して接続され、該分級装置により分級された比較的小さい藻類細胞が前記第1のリアクター容器に供給され、前記分級装置により分級された比較的大きい藻類細胞が前記第2のリアクター容器に供給される、項目49に記載のフォトバイオリアクター。
[項目52]
前記第1のリアクター容器は前記第2のリアクター容器と前記分級機を介して相互に接続されている、項目50又は51に記載のフォトバイオリアクター。
[項目53]
緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類の細胞並びにその培養液を収容するためのリアクター容器と、
前記リアクター容器に対して、光合成有効光量子束密度に対する波長域520 nm以上630 nm以下の光の光量子束密度の割合が65%以上である光を照射するための照明装置と、
前記リアクター容器内の一重項酸素量を測定するセンサと、
前記リアクター容器内に一重項酸素消去剤を供給する一重項酸素消去剤供給装置と
を備え、前記一重項酸素消去剤供給装置から前記リアクター容器への一重項酸素消去剤の供給がセンサの出力に基づいて制御される、フォトバイオリアクター。
[項目54]
項目1に記載の方法に用いるための項目45~53のいずれか1項に記載のフォトバイオリアクター。
【実施例
【0086】
実験1:クラミドモナスの吸光スペクトルの測定
方法:
クラミドモナス(Chlamydomonas reinhardtii CC-125株)を、下記条件でボトル型フォトバイオリアクターを用いて3日間予備培養を行った。
予備培養条件
光: 白色蛍光灯(光量子束密度:200 μmol/m2/s)
培地: 窒素源量を5倍に改変(NH4Clを2.5 g/Lまで添加)したHSM培地 500 mL
CO2濃度: 培地に2% CO2(v/v)を0.1 mL/mL培地/minで供給
温度: 30℃
撹拌: 500 rpm
【0087】
予備培養後、波長750 nmの光学密度(OD750) = 0.4 (乾燥重量換算で0.15 g/Lに相当)となるように希釈した後、本培養を行った。
本培養は、下記条件で2日間行った。
本培養条件(開始時OD750= 0.4)
光: 白色蛍光灯(光量子束密度:200 μmol/m2/s)
培地: 窒素源量を5倍に改変(NH4Clを2.5 g/Lまで添加)したHSM培地 500 mL
CO2濃度: 培地に2% CO2(v/v)を0.1 mL/mL培地/minで供給
温度: 30℃
撹拌: 500 rpm
【0088】
予備培養及び本培養に用いた白色蛍光灯(型番:FL20SSEX-N/18-X(NECライティング(株)製))の発光スペクトルを図2に示す。
2日間の本培養後、培養液100 μLを96ウェルマイクロプレートに入れ、吸光マイクロプレートリーダーにて吸収スペクトルを測定した。
【0089】
結果:
得られたクラミドモナスの吸光スペクトルを図3に示す。
クラミドモナスは、クロロフィルとカロテノイド由来の強い吸収が見られる一方、520~630 nm付近の(緑色光を含む)波長域の光の吸収が少ないことが確認できた。
【0090】
実験2:緑藻類細胞の培養に対する緑色光及び赤色光の効果
方法:
クラミドモナス(Chlamydomonas reinhardtii CC-125株)を、実験1と同様の予備培養(3日間)を行った。
本培養は、下記のLED光を用いた以外は実験1と同じ培養条件で5~12日間行った(開始時OD750= 0.4)。
LED光1 ピーク波長:530 nm;光量子束密度:100、200又は600 μmol/m2/s
LED光2 ピーク波長:660 nm;光量子束密度:100、200又は600 μmol/m2/s
LED光1の光源として、型式:NCSG119B-V1のLED(日亜化学工業)を用い、LED光2の光源として、市販品(型番:LXM3-PD01(Lumileds製))を用いた。
用いた2つのLEDの発光スペクトルを図4に示す。
【0091】
本培養開始後、24時間毎に培養容器から培養液を約10 mL分取し、分取した培養液から遠心分離(5,000×g, 1 min)によりクラミドモナス細胞を回収した。回収したクラミドモナス細胞を蒸留水で1回洗浄後に凍結乾燥させ、その乾燥重量を測定し、バイオマス量(g/L)を算出した。
【0092】
結果:
特定波長域(中心波長:530 nm及び660 nm)の光(LED光)で培養したクラミドモナス培養液中のバイオマス量の経時的変化を図5に示す。
中心波長660 nmの光による培養では、光量子束密度の増加はバイオマス量の増加速度にほとんど影響しなかった。また、バイオマス量は1.0 g/Lに達した後はそれ以上に増加することはなかった。
中心波長530 nmの光による培養では、光量子束密度を増加させるとバイオマス量の増加速度が速くなり、光量子束密度600 μmol/m2/sでは2日間の培養でバイオマス量は1.2 g/Lとなった。また、バイオマス量はいずれの光量子束密度でも1.0 g/Lを超えて増加し、100 μmol/m2/sの光量子束密度では最大1.4 g/Lまで達した。
【0093】
上記結果より、波長域520 nm以上630 nm以下(より具体的には、520 nm以上600 nm以下)の光を照射して緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類の細胞を培養すると、バイオマス量の増加速度が速くなり、及び/又は、最大バイオマス量が増加することが理解できる。すなわち、光合成色素としてクロロフィルを有し、フィコビリンを有さない藻類細胞は、波長域520 nm以上630 nm以下(より具体的には、520 nm以上600 nm以下)の光の照射により効率的に培養できることが判明した。
【0094】
波長域520~630 nmの光は、前記藻類細胞による吸収が少ない(図2)ため、該藻類細胞が増殖して培養液中の細胞密度が高くなっても透過性が低下し難く、よって培養液中のより深くまで到達することができる。したがって、この波長域の光が前記藻類細胞において光合成に利用されることにより、前記藻類細胞は、赤色光照射による培養時に比べて、より高密度にまで増殖し得ると考えられる。
また、赤色光は高い光量子束密度で細胞内に活性酸素種を発生させ、当該細胞を傷害することが知られているが、波長域520~630 nmの光は高い光量子束密度でも活性酸素種の発生量が少なく、よって細胞を傷害し難く、その増殖を阻害し難い(換言すれば、光量子束密度の増加により細胞増殖を促進し易い)と考えられる。
【0095】
実験3:緑藻類細胞の培養に対する緑色光プラス白色光の効果
方法:
クラミドモナス(Chlamydomonas reinhardtii CC-125株)を、実験1と同様の予備培養(3日間)を行った。
本培養は、下記のLED光を用いた以外は実験1と同じ培養条件で6日間行った(開始時OD750 = 0.4)。
LED光3 白色LED (光量子束密度:200 μmol/m2/s)
LED光4 白色LED (光量子束密度:150 μmol/m2/s)+ピーク波長530 nmのLED光 (光量子束密度:50 μmol/m2/s)(同時照射)
白色LEDとして、型式:NF2W757G-F1のLED(日亜化学工業)を用い、ピーク波長530 nmのLED光の光源として、型式:NCSG119B-V1のLED(日亜化学工業)を用いた。
用いた2つのLED光のスペクトルを図6に示す。
【0096】
本培養開始後、24時間毎に培養容器から培養液を約10 mL分取し、分取した培養液から遠心分離(5,000×g, 1 min)によりクラミドモナス細胞を回収した。回収したクラミドモナス細胞を蒸留水で1回洗浄後に凍結乾燥させ、その乾燥重量を測定し、バイオマス量(g/L)を算出した。
【0097】
結果:
上記2種類の光で培養したクラミドモナスの細胞量(バイオマス量)の経時的変化を図7示す。
白色光にピーク波長530 nmの光を加えることで、培養初期のバイオマス量の増加速度が速くなることが確認できた。このことから、緑藻類、ユーグレナ藻類、珪藻類及びハプト藻類から選択される藻類の細胞に照射する光における波長域520 nm以上630 nm以下(より具体的には、520 nm以上600 nm以下)の光の割合が増加すると増殖速度が速くなると理解できる。
【0098】
実験4:緑藻類細胞における赤色光及び緑色光による一重項酸素の発生
方法:
クラミドモナス(Chlamydomonas reinhardtii CC-125株)を、HSM培地の使用量を450 mLとした以外は実験1と同じ予備培養及び本培養条件で合計5日間培養した。
本培養後、OD750 = 1.0となるように培養液を調製し、暗所で1時間静置した。Singlet Oxygen Sensor Green(SOSG;Singlet Oxygen Sensor Green - Special Packaging, InvitrogenTM)を終濃度50 μMとなるように添加後、12ウェルプレートにおいて下記の培養条件で12時間、更に培養した。
培養条件
光: 緑色LED光(ピーク波長:530 nm;光量子束密度:600 μmol/m2/s)
赤色LED光(ピーク波長:660 nm;光量子束密度:600 μmol/m2/s)
(それぞれの光源として用いたLEDは実験2で用いたものと同一である)
照射なし
培地: 窒素源量を5倍に改変(NH4Clを2.5 g/Lまで添加)したHSM培地 1 mL
CO2: 供給なし
温度: 30℃
撹拌: 100 rpm
更なる培養の後、Cell Sorter SH800(SONY)でSOSG蛍光(励起波長:488 nm;測定波長:525/50 nm)を解析した。
【0099】
結果:
光照射なしの藻類細胞からのSOSG蛍光強度を1として、赤色LED光を照射した藻類細胞及び緑色LED光を照射した藻類細胞からのSOSG蛍光の相対強度を図8に示す。
SOSG相対蛍光強度は、赤色LED光を照射した藻類細胞では40.1であり、緑色LED光を照射した藻類細胞では12.4であった。
上記の結果より、藻類細胞において、緑色光照射による一重項酸素の発生量は赤色光照射による発生量より少ないことが示唆される。また、赤色光でも緑色光でも照射エネルギーが高すぎると、一重項酸素の発生量が増し藻類細胞の生育速度(したがって、バイオマス量の増加速度)に悪影響を及ぼすと考えられた。このことから、一重項酸素量と光照射を同時に管理することにより藻類細胞の培養を効率化できると考えられる。
【0100】
実験5:一重項酸素発生量と細胞周期の相関関係
方法:
クラミドモナス(Chlamydomonas reinhardtii CC-125株)を、更なる培養において赤色LED光を用いなかったこと以外は実験4と同様に培養した。
更なる培養の後、4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)にてDNAを蛍光染色した。Cell Sorter SH800(SONY)でSOSG蛍光(励起波長:488 nm;測定波長:525/50 nm)、DAPI蛍光(励起波長:405 nm、測定波長:450/50 nm)、クロロフィル蛍光(励起波長:488 nm、測定波長:720/60 nm)を解析した。
【0101】
結果:
結果を図9に示す。
SOSG蛍光が強い(すなわち、一重項酸素の発生量が多い)細胞は、DAPI蛍光が強く(すなわち、DNA量が多く)、クロロフィル蛍光も弱い(すなわち、クロロフィル量も少ない)傾向が見られた。
12時間の緑色LED光照射(光量子束密度:600 μmol/m2/s)により、SOSG蛍光が強い細胞(すなわち、一重項酸素の発生量が多い細胞)の比率が高くなり、DAPI蛍光が強い細胞(すなわち、DNA量が多い細胞)の比率も高くなった。
本発明が理論により拘束されることは意図していないが、上記の結果より、一重項酸素量が増加したことにより、藻類細胞が酸化的損傷を受け、その結果、細胞周期がDNA量の多い時期(S期、G2期、及び/又はM期)で停止し、(同時に又はその後)クロロフィルが減少すると考えられた。よって、細胞周期の期に基づいて光の照射量を制御することにより藻類細胞の培養を効率化できると考えられる。
【0102】
実験6:赤色LED光と緑色LED光で培養したクラミドモナスが有する色素類の解析
方法:
クラミドモナス(Chlamydomonas reinhardtii CC-125株)を、HSM培地の使用量を450 mLとし、LED光の光量子束密度を600 μmol/m2/sのみとし、本培養の培養期間を2日間とした以外は実験2と同じ培養条件で培養した。
予備培養終了後及び本培養1日目の培養物から、遠心分離(5,000×g,1 min)によりクラミドモナス細胞を回収した。回収した細胞を蒸留水で1回洗浄後、凍結乾燥させた。
凍結乾燥後の乾燥藻体約5 mgを破砕専用マイクロチューブに入れ、ガラスビーズ300 μL分とアセトン:メタノール=1:1混合液500 μLを添加後、マルチビーズショッカーを用いて次の条件で細胞を破砕した:4℃, 60 sec ON (2,700 rpm)+60 sec OFF (0 rpm)での30回処理。
次いで、遠心分離(10,000×g,5 min,4℃)後、上清を回収した。
【0103】
得られた上清150 μLを遠心エバポレーターで乾固し、50 μLのクロロホルムに再溶解後、425 μLのクロロホルム:アセトニトリル=2:8混合液及び25 μLの20 μMトランス-β-アポ-8'-カロテナール(内部標準)を添加した。得られた溶液の色素類を下記条件によりUPLC(ACQUITY UPLC システム:Waters)で分析した。
UPLC/PDA分析条件
移動相: 溶離液A:MeOH:H2O = 1:1 (v/v)
溶離液B:AcCN
グラジエント: 時間(分) 0 9
溶離液A(%) 50 0
溶離液B(%) 50 100
カラム: BEH shield RP18 (1.7 μm,2.1 mm × 100 mm)
流速: 0.6 mL/min
注入量 5 μL
カラム温度 30℃
検出器 フォトダイオードアレイ(PDA;Waters):445 nm
【0104】
結果:
得られた液体クロマトグラフを図10に示す。
緑色光照射下で培養した藻類細胞では、天然型クロロフィルが減少する一方、変性クロロフィルが確認された。
天然型クロロフィルが減少した藻類細胞は、赤色~青色の領域の光透過性が向上する結果、培養効率(特に、人工光照射下での培養効率)が向上すると考えられる。
【0105】
実験7:Naランプを用いた藻類細胞培養
方法:
クラミドモナス(Chlamydomonas reinhardtii CC-125株)を、HSM培地の使用量を450 mLとし、照射光としてNaランプ光(ピーク波長:589 nm;光量子束密度:600 μmol/m2/s)を用い、本培養の培養期間を4日間とした以外は実験2と同じ培養条件で培養した。
Naランプ光の光源として、低圧ナトリウムランプ(NX35;パナソニック)を用いた。用いたランプの発光スペクトルを図11に示す。
本培養の期間中毎日、培養容器から培養物を約8 ml回収し、回収した培養物を遠心分離(5,000×g,1 min)によりクラミドモナス細胞を回収した。回収した細胞を蒸留水で1回洗浄後、凍結乾燥させ、乾燥重量を測定してバイオマス量を算出した。
【0106】
結果:
Naランプ光(ピーク波長:589 nm;光量子束密度:600 μmol/m2/s)の照射下に4日間培養したクラミドモナス培養物中のバイオマス量の経時的変化を図12Aに示す。図12Bでは、Naランプ光での結果をLED光(ピーク波長:530 nm)での結果(実験2)と併せて示す。
Naランプ光照射下での2日間の培養でバイオマス量は1.0 g/Lを超えた。
Naランプ光照射下で培養した緑藻培養物中のバイオマス量の経時的変化は、緑色LED光照射下で培養した場合と同様であった。
このことから、光源のタイプによらず、波長域520 nm以上630 nm以下の光の照射が、藻類細胞の効率的培養に有効であることが理解できる。
【0107】
上記の実施形態および実施例は、本発明の理解を容易にするために例示として記載されたものであって、本発明は本明細書または添付図面に記載された具体的な構成及び配置のみに限定されるものではないことに留意すべきである。本明細書に記載した具体的構成、手段、方法及び装置は、本発明の精神および範囲を逸脱することなく、当該分野において公知の他の多くのものと置換可能であることを、当業者は理解し、容易に認識する。また、1つの実施形態に関して記載された本発明の態様を、そのように具体的に記載されていなくとも、異なる実施形態に組み込んでもよいことに留意すべきである。すなわち、全ての実施形態及び/又は任意の実施形態の全ての特徴を、如何なる様式及び/又は組合せでも組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0108】
100, 200, 300, 400, 500, 600, 700, 800 本発明のバイオリアクター
110, 210, 310, 410, 510, 511, 610, 611, 710, 711, 810 リアクター容器
120, 220, 320, 420, 520, 521, 520, 620, 720, 820 照明装置
225, 325, 425 光源
227, 327, 427 制御部
340, 440, 840 センサ
550, 650, 750 分級機
860 一重項消去剤供給機
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12