(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】正極活物質及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20240807BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240807BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240807BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20240807BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 A
H01M4/505
H01M4/131
C01G53/00 A
(21)【出願番号】P 2021206845
(22)【出願日】2021-12-21
(62)【分割の表示】P 2020097755の分割
【原出願日】2020-06-04
【審査請求日】2023-05-09
(31)【優先権主張番号】P 2019129204
(32)【優先日】2019-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】服部 隆平
(72)【発明者】
【氏名】宮下 義智
(72)【発明者】
【氏名】横山 達也
(72)【発明者】
【氏名】西尾 千佳
(72)【発明者】
【氏名】杉本 貴志
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-049685(JP,A)
【文献】特開2011-060541(JP,A)
【文献】特開2009-076383(JP,A)
【文献】国際公開第2020/208872(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13-62
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状構造を有し、その組成におけるリチウム以外の金属の総モル数に対するニッケルのモル数の比が0.7以上1未満であるリチウム遷移金属複合酸化物を含む1次粒子が複数集合してなる2次粒子を含み、
前記1次粒子の表面の少なくとも一部には、ホウ素を含む化合物が付着し、
前記2次粒子の粒界の少なくとも一部には、ナトリウムを含む化合物が存在し、
前記ナトリウム元素の含有率が、150ppm以上1300ppm以下であり、
リチウム以外の金属の総モル数に対するホウ素元素のモル数の比率が0.1mol%以上2mol%以下である正極活物質。
【請求項2】
前記2次粒子の断面における任意の3領域についてのホウ素元素の検出量の平均値で、前記検出量の標準偏差を除した値が0.18未満である請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、コバルトを含み、リチウム以外の金属の総モル数に対するコバルトのモル数の比が0.3以下である
請求項1又は2に記載の正極活物質。
【請求項4】
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、マンガン及びアルミニウムの少なくとも一方を含み、リチウム以外の金属の総モル数に対するマンガン及びアルミニウムのモル数の比が0.3以下である
請求項1から3のいずれか1項に記載の正極活物質。
【請求項5】
前記リチウム遷移金属複合酸化物が下記式(1)で表される組成を有する
請求項1または4に記載の正極活物質。
Li
(1+p)Ni
(1-xーy-z-w)Co
xMn
yAl
zM
wO
2 (1)
(-0.05≦p≦0.2、0<x+y+z+w≦0.3、0≦x≦0.3、0≦y≦0.3、0≦z≦0.1、0≦w≦0.03、MはZr、Ti、Mg、Ta、Nb、Mo及びWからなる群から選択される少なくとも1種である)
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の正極活物質を正極に含む非水系電解質二次電池。
【請求項7】
集電体と、前記集電体上に配置される正極活物質層とを備え、前記正極活物質層は、
請求項1から5のいずれか1項に記載の正極活物質を含み、密度が2.8g/cm
3以上3.7g/cm
3以下である非水系電解質二次電池用電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、正極活物質及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池の正極活物質には、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム等のリチウム遷移金属複合酸化物が用いられている。希少資源であるコバルトに代えてニッケル比率を高めたリチウムニッケル系複合酸化物は、単位重量当たりの充放電容量が高いという利点を有する。しかしながら、リチウムニッケル系複合酸化物は合成し難く、未反応原料がアルカリ成分として残留する場合がある。アルカリ成分の残留は、電極作製時のスラリー増粘、充電時のガス発生等の原因となり得る。しかし、水洗等によりアルカリ成分を低減させると、サイクル特性が悪化する場合がある。
【0003】
上記に関連して、水洗後に硫酸塩水溶液との接触を行い、一次粒子の表面に硫酸塩を存在させて、サイクル特性の向上を図る技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、ニッケル酸リチウム系のリチウム遷移金属複合酸化物を水洗した後、ホウ素化合物と混合し、熱処理することで、サイクル特性の向上を図る技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-124086号公報
【文献】特開2015-088343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非水電解質二次電池用の正極活物質には、さらなるサイクル特性の向上が求められている。そこで本開示の一態様は、サイクル特性に優れる正極活物質及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第一態様は、層状構造を有し、その組成におけるリチウム以外の金属の総モル数に対するニッケルのモル数の比が0.7以上1未満であるリチウム遷移金属複合酸化物を含む第1粒子を、ナトリウムイオンを含む溶液と接触させ、前記リチウム遷移金属複合酸化物及びナトリウム元素を含む第2粒子を得ることと、前記第2粒子と、ホウ素化合物とを混合し、混合物を得ることと、前記混合物を100℃以上450℃以下の温度で熱処理することと、を含む、正極活物質の製造方法である。
【0007】
第二態様は、層状構造を有し、その組成におけるリチウム以外の金属の総モル数に対するニッケルのモル数の比が0.7以上1未満であるリチウム遷移金属複合酸化物を含む1次粒子が複数集合してなる2次粒子を含み、前記1次粒子の表面の少なくとも一部には、ホウ素を含む化合物が付着し、前記2次粒子の粒界の少なくとも一部には、ナトリウムを含む化合物が存在し、前記2次粒子の断面における任意の3領域についてのホウ素元素の検出量の平均値で、前記検出量の標準偏差を除した値が0.18未満である正極活物質である。
【0008】
第三態様は、前記正極活物質を正極に含む非水系電解質二次電池である。第四態様は集電体と、前記集電体上に配置される正極活物質層とを備え、前記正極活物質層は、前記正極活物質を含み、密度が2.8g/cm3以上3.7g/cm3以下である非水系電解質二次電池用電極である。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一態様によれば、サイクル特性に優れる正極活物質及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例5のリチウム遷移金属複合酸化物におけるホウ素元素分布の一例を示す図である。
【
図2】比較例5のリチウム遷移金属複合酸化物におけるホウ素元素分布の一例を示す図である。
【
図3】比較例6のリチウム遷移金属複合酸化物におけるホウ素元素分布の一例を示す図である。
【
図4】交流インピーダンス測定における等価回路モデルである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための、正極活物質及びその製造方法を例示するものであって、本発明は、以下に示す正極活物質及びその製造方法に限定されない。
【0012】
[正極活物質の製造方法]
正極活物質の製造方法は、層状構造を有し、その組成におけるリチウム以外の金属の総モル数に対するニッケルのモル数の比が0.7以上1未満であるリチウム遷移金属複合酸化物を含む第1粒子を、ナトリウムイオンを含む溶液と接触させ、前記リチウム遷移金属複合酸化物及びナトリウム元素を含む第2粒子を得る洗浄工程と、前記第2粒子と、ホウ素化合物とを混合し、混合物を得る混合工程と、前記混合物を100℃以上450℃以下の温度で熱処理する熱処理工程とを含む。また、必要に応じて、第1粒子を準備する準備工程等のその他の工程を含んでいてよい。
【0013】
ニッケルのモル数の比が0.7以上1未満であるリチウム遷移金属複合酸化物をナトリウムイオン含有水溶液で水洗した後、ホウ素化合物と共に熱処理して得られる正極活物質は、非水系電解質二次電池に適用されることで良好なサイクル特性を達成することができる。これは例えば、正極活物質を構成するリチウム遷移金属複合酸化物を含む2次粒子の粒界にナトリウムが存在することで、リチウム遷移金属複合酸化物粒子の粒界全体に、ホウ素が均一に分布することができるためと考えられる。
【0014】
準備工程
準備工程では、層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を含む第1粒子を準備する。第1粒子を構成するリチウム遷移金属複合酸化物は、その組成にニッケルを含み、リチウム以外の金属の総モル数に対するニッケルのモル数の比が0.7以上1未満である。第1粒子は、市販品から適宜選択して準備してもよく、以下に説明するような調製方法によって準備してもよい。
【0015】
第1粒子の調製方法は、例えば、前駆体を準備する前駆体準備工程と、前駆体とリチウム化合物とからリチウム遷移金属複合酸化物を含む第1粒子を合成する合成工程とを含んでいてよい。第1粒子は、例えば、リチウム遷移金属複合酸化物を含む複数の1次粒子からなる2次粒子として構成されていてよい。
【0016】
前駆体準備工程では、ニッケルを含む複合酸化物を含む前駆体を準備する。前駆体は、市販品から適宜選択して準備してもよく、常法により所望の構成を有するニッケル含有複合酸化物を調製して準備してもよい。ここで前駆体としては、ニッケル含有複合酸化物、ニッケル及びニッケル以外の金属(例えば、Co、Mn、Al、Ti、Nb等)を含む複合酸化物などが挙げられる。
【0017】
所望の組成を有するニッケル含有複合酸化物を得る方法としては、原料化合物(水酸化物、炭酸化合物等)を目的組成に合わせて混合し熱処理によってニッケル含有複合酸化物に分解する方法の他、原料化合物を溶解した溶液を準備し、温度調整、pH調整、錯化剤投入等で目的の組成を有する前駆沈殿物を得て、それら前駆沈殿物の熱処理によってニッケル含有複合酸化物を得る共沈法などを挙げることができる。以下、ニッケル含有複合酸化物(以下、単に複合酸化物ともいう)の製造方法の一例について説明する。
【0018】
共沈法により複合酸化物を得る方法には、所望の構成比で金属イオンを含む混合溶液のpH等を調整して種晶を得る種生成工程と、生成した種晶を成長させて所望の特性を有する複合水酸化物を得る晶析工程と、得られる複合水酸化物を熱処理して複合酸化物を得る工程とを含むことができる。このような複合酸化物を得る方法の詳細については、例えば、特開2003-292322号公報、特開2011-116580号公報(米国特許出願公開第2012/270107号明細書)等を参照することができる。
【0019】
種生成工程では、所望の構成比でニッケルイオンを含む混合溶液のpHを、例えば11から13に調整することで種晶を含む液媒体を調製する。種晶は例えば、ニッケルを所望の比率で含む水酸化物を含むことができる。混合溶液は、ニッケル塩を所望の割合で水に溶解することで調製できる。ニッケル塩としては例えば、硫酸塩、硝酸塩、塩酸塩等を挙げることができる。混合溶液は、ニッケル塩に加えて、必要に応じて他の金属塩を所望の構成比で含んでいてもよい。種生成工程における温度は例えば40℃から80℃とすることができる。種生成工程における雰囲気は、低酸化性雰囲気とすることができ、例えば酸素濃度を10体積%以下に維持してよい。
【0020】
晶析工程では、生成した種晶を成長させて所望の特性を有するニッケルを含む前駆沈殿物を得る。種晶の成長は例えば、種晶を含む液媒体に、そのpHを例えば7から12.5、好ましくは7.5から12の範囲に維持しつつ、ニッケルイオンと必要に応じて他の金属イオンとを含む混合溶液を添加することで行うことができる。混合溶液の添加時間は例えば1時間から24時間であり、好ましくは3時間から18時間である。晶析工程における温度は例えば40℃から80℃とすることができる。晶析工程における雰囲気は種生成工程と同様である。
【0021】
種生成工程及び晶析工程におけるpHの調整は、硫酸水溶液、硝酸水溶液等の酸性水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア水等のアルカリ性水溶液などを用いて行うことができる。
【0022】
晶析工程においては、前駆沈殿物の粒子径を制御することが望ましい。前駆沈殿物の粒子径の制御は、反応場の温度、pH、攪拌速度等を調整することで行うことができる。またこれらの条件は、反応場を収納する容器の形状、出発原料、出発原料の反応場への投入速度等の実際の条件に応じて適宜調整することができる。更に、前駆沈殿物の析出が開始してからの熟成時間、攪拌速度等によって、前駆沈殿物の粒子径を制御することが可能である。この際の条件も、反応容器の形状によって粒子の成長速度、形状等が異なるので実際の条件に応じて適宜調整してもよい。
【0023】
複合酸化物を得る工程では、晶析工程で得られる複合水酸化物を含む前駆沈殿物を、熱処理することにより複合酸化物を得る。熱処理は例えば500℃以下の温度で複合水酸化物を加熱して行ってもよく、好ましくは350℃以下で加熱して行うことである。また熱処理の温度は例えば100℃以上であってもよく、好ましくは200℃以上である。熱処理の時間は例えば0.5時間から48時間としてもよく、好ましくは5時間から24時間である。熱処理の雰囲気は、大気中であっても、酸素を含む雰囲気であってもよい。熱処理は、例えばボックス炉、ロータリーキルン炉、プッシャー炉、ローラーハースキルン炉等を用いて行ってもよい。
【0024】
得られる複合酸化物は、ニッケルに加えて他の金属元素を含んでいてもよい。他の金属としては、Co、Mn、Al、Ti、Nb等が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、少なくともCo、Mn及びAlからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。複合酸化物が、他の金属を含む場合、前駆沈殿物を得る混合水溶液に、所望の構成で他の金属イオンを含有させればよい。これにより、前駆沈殿物にニッケルと他の金属を含有せしめ、前駆沈殿物を熱処理することで所望の組成を有する複合酸化物を得ることができる。
【0025】
複合酸化物の平均粒径は、例えば、2μm以上30μm以下であり、好ましくは、3μm以上25μm以下である。複合酸化物の平均粒径は、体積平均粒径であり、レーザー散乱法によって得られる体積分布における小粒径側からの体積積算値が50%となる値である。
【0026】
リチウム遷移金属複合酸化物を含む第1粒子を合成する合成工程では、複合酸化物とリチウム化合物とを混合して得られるリチウムを含む混合物を、550℃以上1000℃以下の温度で熱処理して熱処理物を得る。得られる熱処理物は、層状構造を有し、ニッケルを含むリチウム遷移金属複合酸化物を含む。
【0027】
複合酸化物と混合するリチウム化合物としては、例えば、水酸化リチウム、炭酸リチウム、酸化リチウム等を挙げることができる。混合に用いるリチウム化合物の粒径は、体積平均粒径として例えば、0.1μm以上100μm以下であり、2μm以上20μm以下が好ましい。
【0028】
混合物における複合酸化物を構成する金属元素の総モル数に対するリチウムの総モル数の比は例えば、0.95以上1.2以下であってもよい。複合酸化物とリチウム化合物との混合は、例えば、高速せん断ミキサー等を用いて行うことができる。
【0029】
混合物は、リチウム及び複合酸化物を構成する金属元素以外の他の金属元素をさらに含んでいてもよい。他の金属元素としては、Al、Si、Zr、Ti、Mg、Ta、Nb、Mo、W等が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。例えば、混合物が他の金属元素としてW、Nb等を含む場合には出力特性が改善する。例えば、混合物がAl、Zr等を含む場合には、サイクル特性のさらなる改善に好適である。例えば、混合物がTi、Si等を含む場合には、高電圧下でのサイクル特性のさらなる改善に好適である。混合物が、他の金属元素を含む場合、他の金属元素の単体又は金属化合物を複合酸化物及びリチウム化合物と共に混合することで、混合物を得ることができる。他の金属元素を含む金属化合物としては、酸化物、水酸化物、塩化物、窒化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、蓚酸塩等を挙げることができる。
【0030】
混合物が、他の金属元素を含む場合、複合酸化物を構成する金属元素の総モル数と他の金属元素の総モル数との比は例えば、1:0.0001から1:0.1であってよく、好ましくは1:0.0005から1:0.03、又は1:0.001から1:0.01である。
【0031】
混合物の熱処理温度は、例えば550℃以上1000℃以下であるが、600℃以上950℃以下が好ましく、700℃以上950℃以下がより好ましい。混合物の熱処理は、単一の温度で行ってもよいが、高電圧時における放電容量の点から複数の温度で行うことが好ましい。複数の温度で熱処理する場合、例えば、第1温度を所定時間で保持した後、さらに昇温し、第2温度を所定時間で保持することが望ましい。第1温度は、例えば、200℃以上600℃以下、好ましくは400℃以上500℃以下であり、第2温度は、例えば、600℃以上900℃以下、好ましくは650℃以上750℃以下である。熱処理の時間は例えば、0.5時間から48時間であり、複数の温度で熱処理を行う場合は、それぞれ0.2時間から47時間とすることができる。
【0032】
熱処理の雰囲気は、大気中であっても、酸素を含む雰囲気であってもよい。熱処理は、例えばボックス炉、ロータリーキルン炉、プッシャー炉、ローラーハースキルン炉等を用いて行うことができる。
【0033】
上記で得られるリチウム遷移金属複合酸化物の組成は、リチウム以外の金属の総モル数に対するニッケルのモル数の比が0.7以上1未満であり、好ましくは0.7以上0.95以下、より好ましくは0.75以上0.95以下であり、さらに好ましくは0.8以上0.95以下である。リチウム遷移金属複合酸化物はコバルトを含んでいてもよい。リチウム遷移金属複合酸化物がコバルトを含む場合、リチウム以外の金属の総モル数に対するコバルトのモル数の比は、例えば0より大きく0.3以下であってもよく、好ましくは0.02以上0.2以下である。リチウム遷移金属複合酸化物はマンガンを含んでいてもよい。リチウム遷移金属複合酸化物がマンガンを含む場合、リチウム以外の金属の総モル数に対するマンガンのモル数の比は、例えば0より大きく0.3以下であってもよく、好ましくは0より大きく0.15以下であり、より好ましくは0.01以上0.15以下である。リチウム遷移金属複合酸化物はアルミニウムを含んでいてもよい。リチウム遷移金属複合酸化物がアルミニウムを含む場合、リチウム以外の金属の総モル数に対するアルミニウムのモル数の比は、例えば0より大きく0.1以下であってもよく、好ましくは0より大きく0.05以下であり、より好ましくは0.01以上0.04以下である。リチウム遷移金属複合酸化物がマンガン及びアルミニウムの少なくとも一方を含む場合、リチウム以外の金属の総モル数に対するマンガン及びアルミニウムの総モル数の比は、例えば0より大きく0.3以下であってもよく、好ましくは0より大きく0.25以下であり、より好ましくは0.01以上0.15以下である。
【0034】
リチウム遷移金属複合酸化物は、例えば、下記式(1)で表される組成を有していてもよい。
Li(1+p)Ni(1-x-y-z-w)CoxMnyAlzMwO2 (1)
式中、-0.05≦p≦0.2、0<x+y+z+w≦0.3、0≦x≦0.3、0≦y≦0.3、0≦z≦0.1、0≦w≦0.03を満たす。MはZr、Ti、Mg、Ta、Nb、Mo及びWからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。
【0035】
リチウム遷移金属複合酸化物を含む第1粒子の体積平均粒径は、例えば、2μm以上30μm以下であり、好ましくは3μm以上25μm以下である。
【0036】
洗浄工程
洗浄工程では、リチウム遷移金属複合酸化物を含む第1粒子を、ナトリウムイオンを含む溶液(以下、洗浄液ともいう)と接触させて、リチウム遷移金属複合酸化物及びナトリウム元素を含む第2粒子を得る。洗浄液との接触後の処理物には、必要に応じて、脱水処理、乾燥処理等を実施してもよい。洗浄工程は、例えば、第1粒子に存在する未反応原料のアルカリ成分の少なくとも一部を除去する工程である。
【0037】
ナトリウムイオンを含む溶液は、少なくともナトリウムイオンと水を含んでいればよい。ナトリウムイオンを含む溶液は、例えば、ナトリウム塩を溶媒に溶解することで調製できる。ナトリウム塩としては、硫酸ナトリウム、水酸化ナトリウム等を挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、少なくとも硫酸ナトリウムを含むことがより好ましい。溶媒は、例えば、少なくとも水を含んでいてよく、水に加えて、アルコール等の水溶性有機溶剤を必要に応じて含んでいてもよい。洗浄液におけるナトリウムイオンの含有率は、例えば、0.01モル/L以上2.0モル/L以下であり、好ましくは0.05モル/L以上2.0モル/L以下、より好ましくは0.1モル/L以上1.5モル/L以下、さらに好ましくは0.15モル/L以上1.0モル/L以下、特に好ましくは0.15モル/L以上0.6モル/L以下である。
【0038】
洗浄液は、必要に応じて、ナトリウム以外の金属イオンを含んでいてもよい。ナトリウム以外の金属イオンとしては、例えば、リチウムイオン、カリウムイオン等のアルカリ金属イオン、マグネシウムイオン等のアルカリ土類金属イオン等を挙げることができる。洗浄液がナトリウム以外の金属イオンを含む場合、その含有率は、例えば、0.1モル/L以下であり、好ましくは0.01モル/L未満である。
【0039】
第1粒子と洗浄液の接触温度は、例えば、5℃以上60℃以下であり、好ましくは10℃以上40℃以下である。また、接触時間は、例えば、1分以上2時間以下であり、好ましくは5分以上30分以下である。接触に用いる洗浄液の液量は、第1粒子の質量に対して例えば、0.25倍以上10倍以下であり、好ましくは0.5倍以上4倍以下である。
【0040】
第1粒子と洗浄液の接触は、洗浄液に第1粒子を投入してスラリーを調製して行ってよい。スラリーとして接触を行う場合、スラリーにおける第1粒子の固形分濃度は、例えば、10質量%以上80質量%以下であり、好ましくは20質量%以上60質量%以下である。また接触は、濾過器上に保持した第1粒子に洗浄液を通液して行ってもよく、第1粒子を純水などで洗浄し、脱水して得られる脱水ケーキに洗浄液を通液しておこなってもよい。第1粒子を純水などで洗浄した後、脱水して得られる脱水ケーキに洗浄液を通液する場合、使用する純水と洗浄液の合計の液量が第1粒子の質量に対して、0.25倍以上10倍以下となることが好ましく、0.5倍以上4倍以下となることがより好ましい。なお、ナトリウムイオンを含む溶液(例えば、硫酸ナトリウム溶液)は残存アルカリ(例えば、炭酸リチウム)の溶解度が純水より高く、残存アルカリを除去しやすい。そのため、リチウム遷移金属複合酸化物へのダメージ低減の観点からは、洗浄液との接触を優先させることが好ましい。また、純水による洗浄は行わないことが好ましい。
【0041】
洗浄工程で得られる第2粒子は、リチウム遷移金属複合酸化物に加えて、ナトリウムを含む化合物を含んでいる。ナトリウムを含む化合物は、例えば、リチウム遷移金属複合酸化物を含む1次粒子からなる2次粒子の粒界に存在していてよい。第2粒子に含まれるナトリウムを含む化合物の含有率は、ナトリウム元素換算として例えば、100ppm以上1400ppm以下であり、好ましくは150ppm以上1300ppm以下、より好ましくは150ppm以上1200ppm以下、さらに好ましくは200ppm以上1000ppm以下、特に好ましくは300ppm以上1000ppm以下である。ナトリウムを含む化合物の含有率が前記範囲内であると、充放電時における抵抗成分が充分に低減される。なお、第2粒子におけるナトリウムを含む化合物の含有率は、例えば、洗浄液のナトリウムイオン濃度、脱水ケーキの付着水量等で調整することができる。
【0042】
洗浄工程で得られる第2粒子は、乾燥処理されてよい。乾燥処理は第2粒子に付着した水分の少なくとも一部を除去できればよく、加熱乾燥、風乾、減圧乾燥等で行うことができる。加熱乾燥する場合の乾燥温度は、第2粒子に含まれる水分が十分に除去される温度であればよい。乾燥温度は、例えば、80℃以上300℃以下であり、好ましくは100℃以上250℃以下である。乾燥温度が前記範囲内であると、付着水へのリチウムの溶出を充分に抑制できる。また、粒子表面の結晶構造の崩壊を抑制し、充放電容量が低下することを充分に抑制できる。乾燥時間は、第2粒子に含まれる水分量に応じて適宜選択すればよい。乾燥時間は、例えば、1時間以上10時間以下である。乾燥処理後の第2粒子に含まれる水分量は、例えば、0.2質量%以下であり、好ましくは0.1質量%以下である。
【0043】
洗浄工程における洗浄の程度は、第2粒子におけるリチウム含有量、残留するアルカリ成分、比表面積などで確認することができる。一般的に、第2粒子の比表面積が小さいと、粒子割れ、リチウム及び複合酸化物を構成する元素の溶出等を充分に抑制でき、サイクル特性がより向上する傾向がある。また、比表面積がある程度の大きさとすることで、残留するアルカリ成分を充分に低減できる。洗浄液としての硫酸ナトリウムなどのナトリウム塩水溶液は、純水、リチウム塩水溶液等と比べてリチウム塩の溶解度が高いため、アルカリ除去のために必要とする液量を低減することができる。結果として、第2粒子の比表面積が小さくなり、また第2粒子からの過剰なリチウムの溶出が抑制できる。
【0044】
洗浄工程で得られる第2粒子の比表面積は、例えば、0.5m2/g以上4m2/g以下であり、好ましくは1.0m2/g以上3.0m2/g以下、より好ましくは1.0m2/g以上1.6m2/g以下、さらに好ましくは1.0m2/g以上1.4m2/g以下である。比表面積はBET法により測定することができる。
【0045】
混合工程
混合工程では、第2粒子と、ホウ素化合物とを混合して混合物を得る。第2粒子とホウ素化合物との混合は、乾式で行ってよく、湿式で行ってもよい。混合は、例えば、スーパーミキサー等を用いて行うことができる。また、この混合工程では、ホウ素化合物に加えて他の金属元素の単体、合金又は金属化合物を混合してもよい。他の金属元素としては、Al、Si、Zr、Ti、Mg、Ta、Nb、Mo、W等が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0046】
ホウ素化合物としては、酸化ホウ素、ホウ素のオキソ酸及びホウ素のオキソ酸塩からなる群より選択される少なくとも1種から選択可能である。ホウ素化合物のより具体的な例としては、四ホウ酸リチウム(Li2B4O7)、五ホウ酸アンモニウム(NH4B5O8)、オルトホウ酸(H3BO3;所謂普通のホウ酸)、メタホウ酸リチウム(LiBO2)、酸化ホウ素(B2O3)等が挙げられ、これらからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、コスト面から、オルトホウ酸がより好ましい。
【0047】
ホウ素化合物は、固体状態で第2粒子と混合してよく、ホウ素化合物の溶液として第2粒子と混合してもよい。固体状態のホウ素化合物を用いる場合、ホウ素化合物の体積平均粒径は、例えば、1μm以上60μm以下であり、好ましくは10μm以上30μm以下である。
【0048】
混合物におけるホウ素化合物の含有量は、リチウム遷移金属複合酸化物のリチウム以外の金属の総モル数に対するホウ素元素のモル数の比率として、例えば、0.1mol%以上2mol%以下であり、好ましくは0.1mol%以上1.5mol%以下、より好ましくは0.1mol%以上1.2mol%以下である。
【0049】
熱処理工程
熱処理工程では、混合物を、例えば、100℃以上450℃以下の温度で熱処理して、正極活物質を得る。熱処理の温度は、200℃以上400℃以下であってよく、好ましくは220℃以上350℃以下であってよく、より好ましくは250℃以上350℃以下であってよい。熱処理温度を乾燥処理温度よりも高くすることで、充放電容量がより向上する場合がある。熱処理の雰囲気は、含酸素雰囲気であってよく、大気中であってよい。熱処理の時間は、例えば、1時間以上20時間以下であり、好ましくは5時間以上10時間以下である。なお、熱処理工程で得られる熱処理物に対しては、必要に応じて解砕処理、分級処理等を実施してよい。
【0050】
洗浄工程後の第2粒子の表面近辺には、リチウム欠損領域が形成されることがあり、リチウム欠損領域ではリチウムイオンの脱離挿入が阻害される場合がある。しかし、洗浄工程後の第2粒子に、ホウ素化合物を混合して熱処理することで、リチウム欠損が補償され、リチウムイオンの脱離挿入の阻害が抑制されて充放電特性及びサイクル特性が向上すると考えられる。
【0051】
[正極活物質]
正極活物質は、層状構造を有し、その組成におけるリチウム以外の金属の総モル数に対するニッケルのモル数の比が0.7以上1未満であるリチウム遷移金属複合酸化物を含む1次粒子が複数集合してなる2次粒子を含む。1次粒子の表面の少なくとも一部には、ホウ素を含む化合物が付着している。また2次粒子の粒界の少なくとも一部には、ナトリウムを含む化合物が存在する。そして2次粒子の断面における任意の3領域についてのホウ素元素の検出量の平均値t1で、検出量の標準偏差σ1を除した値(σ1/t1)である変動係数(CV)が0.18未満である。
【0052】
正極活物質が、リチウム遷移金属複合酸化物を含み、表面にホウ素を含む化合物が付着した1次粒子が複数集合してなる2次粒子を含んで構成されていることで、これを用いて構成される非水系電解質二次電池において充放電特性及びサイクル特性が向上する。また、2次粒子の粒界にナトリウムを含む化合物が存在することで、ホウ素を含む化合物が2次粒子全体に均一に分布され、良好な充放電特性及びサイクル特性を達成できると考えられる。正極活物質は、上述した正極活物質の製造方法で効率的に製造することができる。
【0053】
正極活物質粒子の断面におけるホウ素元素の検出量の変動係数は、好ましくは0.18未満であり、より好ましくは0.15以下であり、さらに好ましくは0.14以下であり、特に好ましくは0.13以下である。変動係数の下限は例えば0.04以上である。ホウ素元素の検出量の変動係数が所定値以下であることは、正極活物質粒子の全体にホウ素化合物が均一に分布していることを示すと考えられる。
【0054】
変動係数の算出に用いられるホウ素元素検出量の平均値は、正極活物質を構成する2次粒子の任意断面において、任意の3領域を選択し、各領域における検出量の算術平均として算出される。ホウ素元素検出量の標準偏差は、得られた平均値と各領域における検出量から算出される。正極活物質粒子の断面におけるホウ素元素検出量は、例えば二次イオン質量分析装置(SIMS)を用いて測定されてもよい。
【0055】
ホウ素元素が検出される領域は、例えば、正極活物質粒子の断面における表面近傍の領域(表面部)、中心部付近の領域(中心部)、及び表面部と中心部の中間の領域(中層部)から選択することができる。また、表面部、中層部及び中心部から、それぞれ複数の領域を選択して、それら複数の領域における検出量の算術平均を表面部、中層部及び中心部における検出量としてもよい。
【0056】
1次粒子を構成するリチウム遷移金属複合酸化物の組成におけるリチウム以外の金属の総モル数に対するニッケルのモル数の比は0.7以上1未満であるが、好ましくは0.7以上0.95以下であり、より好ましくは0.8以上0.95以下、さらに好ましくは0.9以上0.95以下である。ニッケルのモル数の比が大きいリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極活物質において、より良好な充放電特性及びサイクル特性が達成される。リチウム遷移金属複合酸化物の組成は、例えば、誘導結合プラズマ発光分光分析装置によって測定することができる。
【0057】
リチウム遷移金属複合酸化物は、その組成にコバルトを含んでいてよい。リチウム遷移金属複合酸化物がコバルトを含む場合、リチウム以外の金属の総モル数に対するコバルトのモル数の比は、例えば0より大きく0.3以下であり、好ましくは0.02以上0.2以下である。リチウム遷移金属複合酸化物はマンガンを含んでいてもよい。リチウム遷移金属複合酸化物がマンガンを含む場合、リチウム以外の金属の総モル数に対するマンガンのモル数の比は、例えば0より大きく0.3以下であり、好ましくは0より大きく0.15以下である。リチウム遷移金属複合酸化物はアルミニウムを含んでいてもよい。リチウム遷移金属複合酸化物がアルミニウムを含む場合、リチウム以外の金属の総モル数に対するアルミニウムのモル数の比は、例えば0より大きく0.1以下であり、好ましくは0より大きく0.05以下であり、より好ましくは0.01以上0.04以下である。
【0058】
リチウム遷移金属複合酸化物が、ニッケルと、コバルトと、マンガン及びアルミニウムの少なくとも一方とを含む場合、ニッケルと、コバルトと、マンガン及びアルミニウムとの含有比Ni/Co/(Mn+Al)は、例えば、モル基準で8/1/1、8/1/(0.5+0.5)等とすることができる。
【0059】
リチウム遷移金属複合酸化物は、例えば下記式(1)で表される組成を有していてもよい。
Li(1+p)Ni1-x-y-z-wCoxMnyAlzMwO2 (1)
式中、-0.05≦p≦0.2、0<x+y+z+w≦0.3、0≦x≦0.3、0≦y≦0.3、0≦z≦0.1、0≦w≦0.03を満たす。MはZr、Ti、Mg、Ta、Nb、Mo及びWからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0060】
式(1)において、出力特性の点から、pは好ましくは-0.02以上、又は0.02以上である。またpは好ましくは0.12以下、又は0.06以下である。xは好ましくは0<x≦0.3、より好ましくは0.02≦x≦0.2である。yは好ましくは0<y≦0.3、より好ましくは0<y≦0.15である。zは好ましくは0<z≦0.1、より好ましくは0<z≦0.05、さらに好ましくは0.01≦z≦0.04である。
【0061】
1次粒子の表面の少なくとも一部には、ホウ素を含む化合物が付着している。ホウ素を含む化合物としては、例えば、メタホウ酸リチウム(LiBO2)等を挙げることができる。またホウ素を含む化合物はリチウム遷移金属複合酸化物と複合物を形成していてもよい。正極活物質におけるホウ素を含む化合物の含有量は、リチウム遷移金属複合酸化物のリチウム以外の金属の総モル数に対するホウ素元素のモル数の比率として、例えば、0.1mol%以上2mol%以下であり、好ましくは0.1mol%以上1.5mol%以下である。正極活物質におけるホウ素の含有量は、例えば、誘導結合プラズマ発光分光分析装置によって測定することができる。
【0062】
2次粒子粒界の少なくとも一部にはナトリウムを含む化合物が存在する。ナトリウムを含む化合物としては、例えば、硫酸ナトリウム(Na2SO4)等を挙げることができる。正極活物質におけるナトリウムを含む化合物の含有量は、例えば、ナトリウム元素換算として100ppm以上1400ppm以下であり、好ましくは150ppm以上1300ppm以下、より好ましくは150ppm以上1200ppm以下、さらに好ましくは200ppm以上1000ppm以下、特に好ましくは、300ppm以上1000ppm以下である。正極活物質におけるナトリウム元素の含有量は、例えば、誘導結合プラズマ発光分光分析装置によって測定することができる。
【0063】
正極活物質の比表面積は、例えば、0.2m2/g以上3.0m2/g以下であり、好ましくは0.3m2/g以上2.0m2/g以下である。正極活物質の比表面積はBET法により測定される。
【0064】
正極活物質は、非水系電解質二次電池の正極に適用することで優れたサイクル特性を達成できる非水系電解質二次電池を構成することができる。正極活物質は、集電体上に配置される正極活物質層に含まれて正極を構成することができる。すなわち、本発明は前記正極活物質を含む非水系電解質二次電池用電極及び当該電極を備える非水系電解質二次電池を包含する。
【0065】
[非水系電解質二次電池用電極]
非水系電解質二次電池用電極は、集電体と、集電体上に配置され、上述した正極活物質又は前記製造方法で製造される正極活物質を含む正極活物質層とを備える。係る電極を備える非水系電解質二次電池は、優れたサイクル特性を達成することができる。
【0066】
正極活物質層の密度は、例えば2.6g/cm3以上3.9g/cm3以下であってもよく、好ましくは2.8g/cm3以上3.8g/cm3以下、より好ましくは3.1g/cm3以上3.7g/cm3以下、さらに好ましくは3.2g/cm3以上3.6g/cm3以下である。活物質層の密度は、活物質層の質量を活物質層の体積で除して算出される。ここで活物質層の密度は、後述する電極組成物を集電体上に付与した後、加圧することで調整することができる。
【0067】
集電体の材質としては例えば、アルミニウム、ニッケル、ステンレス等が挙げられる。正極活物質層は、上記の正極活物質、導電材、結着剤等を溶媒と共に混合して得られる電極組成物を集電体上に塗布し、乾燥処理、加圧処理等を行うことで形成することができる。導電材としては例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、アセチレンブラック等が挙げられる。結着剤としては例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアミドアクリル樹脂等が挙げられる。溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等が挙げられる。
【0068】
[非水系電解質二次電池]
非水系電解質二次電池は、上記非水系電解質二次電池用電極を備える。非水系電解質二次電池は、非水系電解質二次電池用電極に加えて、非水系二次電池用負極、非水系電解質、セパレータ等を備えて構成される。非水系電解液二次電池における、負極、非水系電解質、セパレータ等については例えば、特開2002-075367号公報、特開2011-146390号公報、特開2006-12433号公報(これらは、その開示内容全体が参照により本明細書に組み込まれる)等に記載された、非水系電解質二次電池用のためのものを適宜用いることができる。
【実施例】
【0069】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、体積平均粒径は、レーザー散乱法によって得られる体積分布における小粒径側からの体積積算値が50%となる値を用いた。具体的にはレーザー回折式粒径分布装置(MALVERN Inst. MASTERSIZER 2000)を用いて体積平均粒径を測定した。比表面積は、BET比表面積測定装置(マウンテック社製:Macsorb)を用い、窒素ガスを用いたガス吸着法(1点法)で測定した。アルカリ成分の測定は正極活物質を純水に加え、溶出したリチウムを硫酸で滴定し第二中和点まで測定した。硫酸で中和されたアルカリ成分の量を水酸化リチウム(LiOH)含有量とした。組成は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-AES;PerkinElmer社製)を用いて測定した。硫酸量は、ICP-AES(HITACHI社製)を用いて測定した。ナトリウム量(Na量)は、原子吸光分析装置(AAS;HITACHI社製)を用いて測定した。
【0070】
[実施例1]
前駆体準備工程
共沈法により、二次粒子の体積平均粒径が20μmであり、(Ni0.95Co0.05)O3で表される組成を有する複合酸化物粒子を得た。
【0071】
合成工程
得られた複合酸化物粒子と水酸化リチウムと水酸化アルミニウムとを、モル比でLi:(Ni+Co):Al=1.10:0.97:0.03となるように混合し、原料混合物を得た。得られた原料混合物を大気中で熱処理した。熱処理は第1温度450℃で3時間、第2温度680℃で4時間行った。熱処理後に分散処理してリチウム遷移金属複合酸化物の組成が、Li1.03Ni0.92Co0.05Al0.03O2である第1粒子を得た。
【0072】
洗浄工程
得られた第1粒子を、ナトリウムイオン濃度が0.469mol/Lとなるように調製した硫酸ナトリウム水溶液に加えて、固形分濃度45質量%のスラリーとした。固形分濃度は第1粒子の質量/(第1粒子の質量+洗浄液の質量)で求めた。このスラリーを30分間攪拌した後、漏斗で脱水し、ケーキとして分離した。分離したケーキを150℃で10時間乾燥して洗浄粒子として第2粒子を得た。
【0073】
混合工程
得られた第2粒子に含まれるリチウム遷移金属複合酸化物のリチウム以外の金属の総モル数に対し、ホウ素元素として1mol%となる量のオルトホウ酸を加え、混合攪拌して混合物を得た。
【0074】
熱処理工程
得られた混合物を、大気中250℃で10時間、熱処理をして目的のリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極活物質E1を得た。
【0075】
[実施例2]
洗浄工程における硫酸ナトリウム水溶液の濃度をナトリウムイオン濃度が0.156mol/Lとなるように調製したこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質E2を得た。
【0076】
[実施例3]
洗浄工程における硫酸ナトリウム水溶液を水酸化ナトリウム水溶液に変更したこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質E3を得た。
【0077】
[比較例1]
洗浄工程における硫酸ナトリウム水溶液の代わりに純水を用い、スラリーの固形分濃度を42質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質C1を得た。
【0078】
[比較例2]
洗浄工程における硫酸ナトリウム水溶液の代わりに、リチウムイオン濃度が0.469mol/Lとなるように調製した硫酸リチウム水溶液を用い、スラリーの固形分濃度を32質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質C2を得た。
【0079】
[サイクル特性評価1]
実施例1から3並びに比較例1及び2で得られた正極活物質について、サイクル特性を以下のようにして評価した。
【0080】
正極の作製
96.5質量部の正極活物質、65質量部のSUPER-C(TIMICAL社製)、2質量部のPVDF(ポリフッ化ビニリデン)を、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)に分散、溶解し、正極スラリーを調製した。得られた正極スラリーをアルミニウム箔からなる集電板に塗布、乾燥後、ロールプレス機で正極活物質層の密度が3.5g/cm3になるように圧縮成形し、サイズが15cm2となるように裁断して、正極を得た。
【0081】
非水電解液の作製
EC(エチレンカーボネイト)とDMC(ジメチルカーボネイト)とEMC(エチルメチルカーボネイト)を体積比率3:4:3で混合して混合溶媒とした。得られた混合溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)をその濃度が、1mol/Lになるように溶解させて非水電解液を得た。
【0082】
評価用電池の組み立て
上記正極の集電体に、リード電極を取り付けたのち120℃で真空乾燥を行った。正極に多孔性ポリエチレンからなるセパレータをドライボックス内で配し、袋状のラミネートパックに収納した。収納後60℃で真空乾燥して各部材に吸着した水分を除去した。真空乾燥後、アルゴンボックス内でSUS板に密着させたLi箔と上記セパレータに覆われた正極集電体を対向させ、ラミネートパック内に挿入した。ラミパック内部に先述の非水電解液を注入、封止し、評価用電池としてラミネートタイプの非水電解液二次電池を得た。
【0083】
エージング
得られた評価用電池に充電電圧4.25V(対極Li)、充電電流0.2C(1C≡1時間で放電が終了する電流)での定電圧定電流充電と、放電電圧2.75V(対極Li)、放電電流0.2Cの定電流放電とからなる充放電を一回行った。
【0084】
容量維持率の測定
エージング後、充電電圧4.25V(対極Li)、充電電流0.3Cでの定電圧定電流充電と、放電電圧2.75V(対極Li)、放電電流0.3Cでの定電流放電とを1サイクルとし、各サイクル後の放電容量を45℃定温下で測定した。nサイクル後の放電容量Ed(n)の、1サイクル後の放電容量Ed(1)に対する比(≡Ed(n)/Ed(1))を、nサイクル後の容量維持率Rs(n)とし、ここではサイクル数n=30で行った。評価結果を表1に示す。
【0085】
【0086】
表1に示すように、ナトリウム塩水溶液で洗浄し、ホウ素化合物を混合、熱処理した実施例1から3の正極活物質E1からE3を用いて構成した評価用電池はサイクル特性に優れていた。比較例1の正極活物質C1は、第2粒子の比表面積が大きかった。これは例えば、純水を用いて洗浄したためと考えられる。また、正極活物質C1を用いて構成した評価用電池は、容量維持率が低く、電池性能に劣っていた。比較例2の正極活物質C2は、第2粒子の比表面積が比較例1と比較して小さかった。これは例えば、硫酸リチウム水溶液で洗浄したためと考えられる。また、正極活物質C2を用いて構成した評価用電池は、容量維持率が低く、電池性能に劣っていた。
【0087】
[実施例4]
前駆体準備工程
共沈法により、体積平均粒径が18μmであり、(Ni0.85Co0.15)O3で表される組成を有する複合酸化物粒子を得た。
【0088】
合成工程
合成工程における混合比をLi:(Ni+Co):Al=1.10:0.96:0.04と変更し、第2温度を745℃に変更したこと以外は実施例1と同様にして、第1粒子を得た。
【0089】
洗浄工程
洗浄工程における硫酸ナトリウム水溶液をナトリムイオン濃度が0.313mol/Lとなるように調製し、固形分濃度を40質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして、第2粒子を得た。
【0090】
混合工程
混合工程におけるホウ酸添加量を第2粒子に含まれるリチウム遷移金属複合酸化物のリチウム以外の金属の総モル数に対して、ホウ素元素として0.3mol%としたこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質E4を得た。
【0091】
[比較例3]
洗浄工程における硫酸ナトリウム水溶液に代えて純水を用い、固形分濃度を45質量%としたこと以外は、実施例4と同様にして正極活物質C3を得た。
【0092】
[比較例4]
洗浄工程における硫酸ナトリウム水溶液に代えて、リチウムイオン濃度が0.313mol/Lとなるように調製した硫酸リチウム水溶液を用いたこと以外は、実施例4と同様にして正極活物質C4を得た。
【0093】
実施例4並びに比較例3及び4で得られた正極活物質についてサイクル特性評価1と同様にして評価した。評価結果を表2に示す。
【0094】
【0095】
表2に示すように、比較例3及び4の正極活物質C3及びC4で構成した評価用電池は、ナトリウム塩水溶液で洗浄した実施例4の正極活物質E4で構成した評価用電池と比較して、容量維持率が低く、電池性能に劣っていた。
【0096】
[実施例5]
前駆体準備工程
共沈法により、体積平均粒径が22μmであり、(Ni0.88Co0.09Mn0.03)O3で表される組成を有する複合酸化物粒子を得た。
【0097】
合成工程
合成工程における混合比をLi:(Ni+Co+Mn):Al=1.12:0.98:0.02と変更し、第2温度を730℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして第1粒子を得た。
【0098】
洗浄工程
実施例1と同様に、ナトリウムイオン濃度が0.469mol/Lとなるように調製した硫酸ナトリウム水溶液を用いて第1粒子を洗浄して第2粒子を得た。
【0099】
混合工程
混合工程におけるホウ酸添加量を第2粒子に含まれるリチウム遷移金属複合酸化物のリチウム以外の金属の総モル数に対して、ホウ素元素として0.5mol%としたこと、及び酸化タングステンを第2粒子に含まれるリチウム遷移金属複合酸化物のリチウム以外の金属の総モル数に対して、0.3mol%となるように添加したこと以外は、実施例1と同様にして混合物を得た。
【0100】
熱処理工程
実施例1と同様にして混合物を熱処理して、正極活物質E5を得た。
【0101】
[比較例5]
洗浄工程における硫酸ナトリウム水溶液に代えて純水を用い、スラリーの固形分濃度を37質量%としたこと以外は、実施例5と同様にして正極活物質C5を得た。
【0102】
[比較例6]
洗浄工程における硫酸ナトリウム水溶液に代えて、リチウムイオン濃度が0.469mol/Lとなるように調製した硫酸リチウム水溶液を用い、スラリーの固形分濃度を28質量%としたこと以外は、実施例5と同様にして正極活物質C6を得た。
【0103】
[サイクル特性評価2]
実施例5並びに比較例5及び6で得られた正極活物質についてサイクル特性を以下のようにして評価した。
【0104】
正極活物質の調製
体積平均粒径が4.5μmであり、Li1.03Ni0.835Co0.14Al0.025O2で表される組成を有し、硫酸ナトリウム水溶液を用いた洗浄工程を経て得られたリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極活物質Aを準備した。実施例5及び比較例5から6で得られた正極活物質E5、C5及びC6と、正極活物質Aとを重量比7:3となるようにそれぞれ混合して、評価用の混合正極活物質を調製した。
【0105】
正極の作製
92質量部の上記で得られた混合正極活物質、3質量部のアセチレンブラック、及び5質量部のPVDF(ポリフッ化ビニリデン)を、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)に分散、溶解し、正極スラリーを調製した。得られた正極スラリーをアルミニウム箔からなる集電板に塗布、乾燥後、ロールプレス機で正極活物質層の密度が3.3g/cm3になるように圧縮成形し、サイズが15cm2となるように裁断して、正極を得た。
【0106】
負極の作製
97.5質量部の人造黒鉛、1.5質量部のCMC(カルボキシメチルセルロース)、及び1.0質量部のSBR(スチレンブタジエンゴム)を、水に分散させて負極スラリーを調製した。得られた負極スラリーを銅箔に塗布、乾燥し、さらに圧縮成型して負極を得た。
【0107】
非水電解液の作製
EC(エチレンカーボネイト)とEMC(エチルメチルカーボネイト)を体積比率3:7で混合して、混合溶媒とした。得られた混合溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)をその濃度が、1mol/Lになるように溶解させて、非水電解液を得た。
【0108】
評価用電池の組み立て
評価用電池の組み立てはサイクル特性評価1と同様に実施した。具体的には、上記正極と負極の集電体に、それぞれリード電極を取り付けたのち、120℃で真空乾燥を行った。次いで、正極と負極の間に上記セパレータを配し、袋状のラミネートパックにそれらを収納した。収納後60℃で真空乾燥し、各部材に吸着した水分を除去した。真空乾燥後、ラミネートパック内に非水電解液を注入、封止し、評価用電池としてのラミネートタイプの非水電解液二次電池を得た。
【0109】
エージング
得られた評価用電池に充電電圧4.2V(対極C)、充電電流0.1Cでの定電圧定電流充電と、放電電圧2.75V(対極C)、放電電流0.2Cの定電流放電からなる充放電を一回行った。その後、充電電流を0.2Cに変更し充放電を二回行い、正極及び負極に非水電解液をなじませた。
【0110】
放電容量維持率測定は、充電電圧4.2V(対極C)、放電電圧2.75V(対極C)、サイクル数をn=100と変更した以外は、サイクル特性1と同様に測定した。評価結果を表3に示す。
【0111】
【0112】
[ホウ素元素分布の評価]
実施例5並びに比較例5及び6で得られた正極活物質について、粒子内部におけるホウ素元素分布を評価した。具体的には、上記と同様にして正極を作製し、得られた正極についてイオンミリング装置IM400PLUS(HITACHI社製)を用いて真空条件下で加工して正極活物質粒子の断面サンプルを得た。加工にはArビームを使用し、加工時間は1時間で行った。得られた断面サンプルにおける正極活物質粒子の断面における各元素の検出量を、2重収束セクター磁場型質量分析装置(NanoSIMS 50L;カメカ社製)を用いて測定した。一次イオン種はCs
+、一次加速電圧を8kVとし、試料台に-8kV印加し、サンプルにCs
+を照射することで、二次イオンであるBO
2-(質量数42.97)のシグナルを測定した。測定されたシグナルの強度に基づいて断面画像を作成した。実施例5で得られた正極活物質粒子におけるBO
2-の分布を示す画像の一例を
図1に、比較例5で得られた正極活物質粒子におけるBO
2-の分布を示す画像の一例を
図2に、比較例6で得られた正極活物質粒子におけるBO
2-の分布を示す画像の一例を
図3にそれぞれ示す。
【0113】
画像解析ソフトウェア(OpenMIMS ImageJ Plugin)を用いて、得られた画像データから、粒子表面部近傍の領域(表面部)、粒子中層部の領域(中層部)、および粒子中心部付近の領域(中心部)においてBO2-の検出量を解析により算出した。解析は各実施例、比較例ごとで3個の正極活物質粒子について、表面部、中層部及び中心部からそれぞれ2領域を選択して行った。各領域は粒子断面を横断する直線上から、粒子の中心に対してそれぞれが略対称となるように選択され、各領域の面積は約1.5×10-11m2であった。なお中心部の2領域については連続する1領域として選択した。表面部及び中層部におけるBO2-の検出量は、それぞれの2領域についての算術平均として算出した。得られた検出量から、正極活物質の粒子内部の表面部、中層部及び中心部の3領域におけるBO2-の検出量の算術平均値t1、標準偏差σ1、および変動係数(CV;σ1/t1)を算出した。この際、標準偏差σ1はEXCELのSTDEV.P関数を使用して算出した。この変動係数CVについて、実施例比較例それぞれ3粒子の算術平均の結果を表4に示し、この結果をホウ素元素の分布とみなして評価を行った。
【0114】
【0115】
表3及び表4に示すように、比較例5と比較例6で得られた正極活物質は、ナトリウム塩水溶液で洗浄した実施例5と比較して容量維持率が低く、電池性能に劣っていた。また、実施例5と比較して、ホウ素を含む化合物が粒子内部まで均質に分布していなかった。これは例えば、正極活物質粒子の粒界にナトリウムが存在しないためと考えられる。
【0116】
[実施例6]
前駆体準備工程
共沈法により、体積平均粒径が4μmであり、(Ni0.885Co0.115)O3で表される複合酸化物粒子を得た。
【0117】
合成工程
合成工程における混合比をLi:(Ni+Co):Al=1.10:0.97:0.03と変更し、第2温度を690℃に変更したこと以外は実施例1と同様に実施して第1粒子を得た。
【0118】
洗浄工程
洗浄工程における硫酸ナトリウム水溶液をナトリムイオン濃度が0.156mol/Lとなるように調製したこと以外は実施例1と同様に実施して第2粒子を得た。
【0119】
混合工程
混合工程におけるホウ酸添加量を第2粒子に含まれるリチウム遷移金属複合酸化物のリチウム以外の金属の総モル数に対して、ホウ素元素として0.1mol%としたこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質E6を得た。
【0120】
[比較例7]
洗浄工程における硫酸ナトリウム水溶液に代えて、リチウムイオン濃度が0.156mol/Lとなるように調製した硫酸リチウム水溶液を用い、スラリーの固形分濃度を30質量%としたこと以外は、実施例6と同様にして正極活物質C7を得た。
【0121】
実施例6及び比較例7で得られた正極活物質についてサイクル特性を以下のようにして評価した。
【0122】
体積平均粒径が22μmであり、Li1.03Ni0.86Co0.09Mn0.03Al0.02O2で示される組成を有し、硫酸ナトリウム水溶液を用いた洗浄工程を経て得られたリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極活物質Bを準備した。実施例6及び比較例7で得られた正極活物質E6及びC7のそれぞれを、上記正極活物質Bと重量比3:7となるように混合して、評価用の混合正極活物質を得たこと以外は、サイクル特性評価2と同様にして評価した。評価結果を表5に示す。
【0123】
【0124】
表5に示すように、比較例7で得られた正極活物質は、実施例6と比較して容量維持率が低く、電池性能に劣っていた。
【0125】
[抵抗増加率評価]
実施例5並びに比較例5及び6と同様の製造方法で得られた正極活物質を含む正極について、抵抗増加率を以下のようにして評価した。
【0126】
[実施例7]
正極活物質の調製
実施例5と同様の製造方法で評価用の正極活物質を調製した。
【0127】
正極の作製
92質量部の上記で得られた正極活物質、3質量部のアセチレンブラック、及び5質量部のPVDF(ポリフッ化ビニリデン)を、NMP(N-メチル-2-ピロリドン)に分散、溶解し、正極スラリーを調製した。得られた正極スラリーをアルミニウム箔からなる集電板に塗布し、乾燥後、ロールプレス機で正極活物質層の密度が2.8g/cm3になるように圧縮成形し、サイズが15cm2となるように裁断して、実施例7の正極を得た。なお、正極活物質層の密度は、正極活物質層の厚みをマイクロメーターで測定して算出される正極活物質層の体積で、正極活物質層の質量を除して算出した。
【0128】
評価用電池の組み立て
上記で得られた正極を用いたこと以外は、サイクル特性評価2と同様の方法で評価用電池を得た。
【0129】
[実施例8]
正極活物質層の密度が3.3g/cm3になるように圧縮成形したこと以外は実施例7と同様にして、実施例8の正極を得た。次いでこれを用いたこと以外は実施例7と同様にして評価用電池を得た。
【0130】
[実施例9]
正極活物質層の密度が3.5g/cm3になるように圧縮成形したこと以外は実施例7と同様にして、実施例9の正極を得た。次いでこれを用いたこと以外は実施例7と同様にして評価用電池を得た。
【0131】
[実施例10]
正極活物質層の密度が3.7g/cm3になるように圧縮成形したこと以外は実施例7と同様にして、実施例10の正極を得た。次いでこれを用いたこと以外は実施例7と同様にして評価用電池を得た。
【0132】
[比較例8]
正極活物質として、比較例5の製造方法で得られた正極活物質を用いたこと以外は、実施例7と同様にして正極を得た。次いでこれを用いたこと以外は実施例7と同様にして評価用電池を得た。
【0133】
[比較例9]
正極活物質層の密度が3.3g/cm3になるように圧縮成形したこと以外は比較例8と同様にして、比較例9の正極を得た。次いでこれを用いたこと以外は実施例7と同様にして評価用電池を得た。
【0134】
[比較例10]
正極活物質層の密度が3.5g/cm3になるように圧縮成形したこと以外は比較例8と同様にして、比較例10の正極を得た。次いでこれを用いたこと以外は実施例7と同様にして評価用電池を得た。
【0135】
[比較例11]
正極活物質層の密度が3.7g/cm3になるように圧縮成形したこと以外は比較例8と同様にして、比較例11の正極を得た。次いでこれを用いたこと以外は実施例7と同様にして評価用電池を得た。
【0136】
[比較例12]
正極活物質として、比較例6の製造方法で得られた正極活物質を用いたこと以外は、実施例7と同様にして正極を得た。次いでこれを用いたこと以外は実施例7と同様にして評価用電池を得た。
【0137】
[比較例13]
正極活物質層の密度が3.3g/cm3になるように圧縮成形したこと以外は比較例12と同様にして、比較例13の正極を得た。次いでこれを用いたこと以外は実施例7と同様にして評価用電池を得た。
【0138】
[比較例14]
正極活物質層の密度が3.5g/cm3になるように圧縮成形したこと以外は比較例12と同様にして、比較例14の正極を得た。次いでこれを用いたこと以外は実施例7と同様にして評価用電池を得た。
【0139】
[比較例15]
正極活物質層の密度が3.7g/cm3になるように圧縮成形したこと以外は比較例12と同様にして、比較例15の正極を得た。次いでこれを用いたこと以外は実施例7と同様にして評価用電池を得た。
【0140】
エージング
得られた評価用電池に充電電圧4.2V(対極C)、充電電流0.1Cでの定電圧定電流充電と、放電電圧2.75V(対極C)、放電電流0.2Cの定電流放電からなる充放電を1回行った。その後、充電電流を0.2Cに変更して充放電を2回行い、正極及び負極に非水電解液をなじませた。
【0141】
交流インピーダンスの測定
エージング後、充電電圧4.2V、充電電流0.2Cでの定電圧定電流充電で、充電率(SOC)100%まで充電した。インピーダンス測定装置(1470Eおよび1455A、いずれもSOLARTRON社製)を用いて、交流インピーダンス法で1MHzから0.1Hzの範囲で抵抗測定を行い、ナイキストプロットを得た。上記の抵抗測定の後、放電電圧2.75V、放電電流0.2Cで定電流放電した。次いで、評価用電池を、45℃定温下で、充電電圧4.2V、充電電流1Cでの定電圧定電流充電と、放電電圧2.75V、放電電流1Cでの定電流放電を1サイクルとし、200サイクルの充放電を行った。200サイクルの充放電後、充電電圧4.2V、充電電流0.2Cでの定電圧定電流充電でSOC100%まで充電し、上記インピーダンス測定装置を用いて同様に抵抗測定を行い、ナイキストプロットを得た。
【0142】
抵抗増加率の算出
得られたナイキストプロットに基づき、
図4の等価回路モデルを組み、フィッティング計算を行った。測定により得られたインピーダンスの円弧成分の頂点周波数の高いほうを負極由来の抵抗とし、頂点周波数の低いほうを正極由来の抵抗Rとした。サイクル前の正極由来の抵抗値をR(p)、サイクル後の正極由来の抵抗値をR(a)として、R(a)/R(p)×100(%)を抵抗増加率として算出した。次いで、実施例7に対する比較例8のように、同じ極板密度で作製され、純水で洗浄された比較例における抵抗増加率で、洗浄液で洗浄された実施例又は比較例で算出された抵抗増加率を除算して相対抵抗増加率を算出した。硫酸ナトリウム水溶液で洗浄した実施例7から10、硫酸リチウム水溶液で洗浄した比較例12から15に関する評価結果を表6に示す。
【0143】
【0144】
表6に示すように、どの極板密度においても、ナトリウムイオンを含む水溶液を用いた洗浄工程を経て得られた正極活物質を含む実施例の正極における相対抵抗増加率は低く、サイクル後の出力に関する劣化が抑制されていた。この結果から容量維持率だけでなく、抵抗においても、ナトリウムイオンを含む水溶液を用いた洗浄工程を経て得られる正極活物質を含む非水系電解質二次電池の特性が向上することが確認された。