(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】チューブステント
(51)【国際特許分類】
A61F 2/04 20130101AFI20240807BHJP
【FI】
A61F2/04
(21)【出願番号】P 2020093239
(22)【出願日】2020-05-28
【審査請求日】2023-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304024865
【氏名又は名称】学校法人杏林学園
(74)【代理人】
【識別番号】110003694
【氏名又は名称】弁理士法人有我国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】品川 裕希
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 真也
(72)【発明者】
【氏名】土岐 真朗
【審査官】大橋 俊之
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-522377(JP,A)
【文献】特表2018-501824(JP,A)
【文献】特開2005-312894(JP,A)
【文献】米国特許第04931037(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0123934(US,A1)
【文献】特表2018-519024(JP,A)
【文献】国際公開第2015/005036(WO,A1)
【文献】特表2010-537743(JP,A)
【文献】特開2005-230415(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2001/0021835(US,A1)
【文献】特開2002-017868(JP,A)
【文献】特開昭62-299261(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性のチューブ部材からなるチューブステントであって、
略直線形状を有する直胴部と、
前記直胴部の一端に連通された湾曲形状を有する第1湾曲部と、
前記直胴部の他端に連通された湾曲形状を有する第2湾曲部と、
により構成されており、
前記直胴部内に形成されている管腔の略中心軸が前記第1湾曲部の周壁と交差する位置に第1貫通孔が設けられており、
前記直胴部内に形成されている管腔の略中心軸が前記第2湾曲部の周壁と交差する位置に第2貫通孔が設けられて
おり、
前記第2貫通孔は、前記第2湾曲部の周壁が前記直胴部側に向かって切り込まれた切り込み孔であり、
前記切り込み孔の前記直胴部側で前記チューブ部材に繋がる基端部と、前記基端部から前記直胴部とは反対側に突出した先端部とを有するフラップが設けられていることを特徴とするチューブステント。
【請求項2】
前記第1貫通孔が、前記第1湾曲部の湾曲形状の外縁側に設けられており、
前記第2貫通孔が、前記第2湾曲部の湾曲形状の外縁側に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のチューブステント。
【請求項3】
前記第1貫通孔および前記第2貫通孔が、前記直胴部内に形成されている管腔の断面積より大きな開口面積を有することを特徴とする請求項1または2に記載のチューブステント。
【請求項4】
前記第1貫通孔が前記第1湾曲部を構成するチューブ部材の延在方向に沿って長尺であり、前記第2貫通孔が前記第2湾曲部を構成するチューブ部材の延在方向に沿って長尺であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のチューブステント。
【請求項5】
前記フラップが、前記基端部から前記先端部に向かって前記切り込み孔から離れるように突出した形状を有することを特徴とする請求項
1から4のいずれか一項に記載のチューブステント。
【請求項6】
前記第2湾曲部の湾曲形状の曲率半径が、前記第1湾曲部の湾曲形状の曲率半径より小さいことを特徴とする請求項1から
5のいずれか一項に記載のチューブステント。
【請求項7】
前記第2湾曲部の前記第2貫通孔の近傍に内視鏡マーカーが設けられていることを特徴とする請求項1から
6のいずれか一項に記載のチューブステント。
【請求項8】
胆管チューブステントまたは膵管チューブステントとして用いられることを特徴とする請求項1から
7のいずれか一項に記載のチューブステント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胆管や膵管等の開通状態を維持または閉塞を防止するために、胆管や膵管等に留置されるチューブステントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、経内視鏡的にチューブステントを留置させて体腔から液体を排出するドレナージ(ステント留置術)が一般的に行われている。ステント留置術において用いられるチューブステントとしては、例えば下記の特許文献1および特許文献2に開示されているチューブステントが知られている。
【0003】
特許文献1には、両端付近に開口が形成された可撓性チューブの側壁に、上記可撓性チューブの軸線方向に細長い複数の長孔を、上記軸線方向において重複するように周方向に位置を変えて形成したことを特徴とする内視鏡用ドレナージチューブが開示されている。この内視鏡用ドレナージチューブは、膵管からの膵液の排出および胆管からの胆汁の排出の両方を実現するものであり、胆管の奥側に配置される端部に複数の側孔が設けられることで、チューブ端部の開口部および側孔により胆管内の胆汁の流路が形成されている。
【0004】
特許文献2には、チューブの両端に端部近傍に複数の開口が並設され、経内視鏡的に体内に挿入せられて所望の位置に留置される医療用留置チューブにおいて、該チューブの両端にそれぞれ円形に設けられたカーリング部に、カーリングを形成する円の平面に対して直交する向きに1個以上の開孔を穿設したことを特徴とする医療用留置チューブが開示されている。この医療用留置チューブは、カーリングを形成する円の平面に対して直交する向きに穿設された1個以上の開孔により体内の液体の流路が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-78806号公報
【文献】実公平4-51805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されている内視鏡用ドレナージチューブでは、胆汁の流路を形成するために、胆管の奥側に配置される端部の任意の位置に複数の側孔が設けられている。しかしながら、任意の位置に配置された複数の側孔を経由する流路では、十分な流量を確保することができず、適切な開通状態を実現できない場合があった。
【0007】
また、特許文献2に開示されている医療用留置チューブでは、カーリングを形成する円の平面に対して直交する向きに1個以上の開孔が形成されている。しかしながら、この開孔は、カーリング部の強度やその湾曲形状に起因した開口面積の変化を考慮して位置決めされたものであり、十分な流量を確保することができず、適切な開通状態を実現できない場合があった。
【0008】
上記の問題に鑑みて、本発明は、簡易な構成で適切な開通状態を実現し、良好かつ確実に胆汁または膵液を十二指腸へ排出させることができるチューブステントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明に係るチューブステントは、可撓性のチューブ部材からなるチューブステントであって、略直線形状を有する直胴部と、前記直胴部の一端に連通された湾曲形状を有する第1湾曲部と、前記直胴部の他端に連通された湾曲形状を有する第2湾曲部と、により構成されており、前記直胴部内に形成されている管腔の略中心軸が前記第1湾曲部の周壁と交差する位置に第1貫通孔が設けられており、前記直胴部内に形成されている管腔の略中心軸が前記第2湾曲部の周壁と交差する位置に第2貫通孔が設けられている。
【0010】
この構成により、第1貫通孔、直胴部内の管腔、第2貫通孔を略直線上に配置することができ、略直線形状の流路を形成して第1貫通孔から第2貫通孔へのスムーズな液体の流れを実現することができる。
【0011】
さらに、本発明に係るチューブステントは、前記第1貫通孔が、前記第1湾曲部の湾曲形状の外縁側に設けられており、前記第2貫通孔が、前記第2湾曲部の湾曲形状の外縁側に設けられていてもよい。
【0012】
この構成により、第1湾曲部の周壁における直胴部の軸方向と交差する位置に第1貫通孔を設けることができ、第2湾曲部の周壁における直胴部の軸方向と交差する位置に第2貫通孔を設けることができる。
【0013】
さらに、本発明に係るチューブステントは、前記第1貫通孔および前記第2貫通孔が、前記直胴部内に形成されている管腔の断面積より大きな開口面積を有してもよい。
【0014】
この構成により、直胴部内の管腔における液体の最大流量に対して、第1貫通孔および第2貫通孔を通過する液体の最大流量を大きくし、第1貫通孔および第2貫通孔がボトルネックとならないようにすることができる。
【0015】
さらに、本発明に係るチューブステントは、前記第1貫通孔が前記第1湾曲部を構成するチューブ部材の延在方向に沿って長尺であり、前記第2貫通孔が前記第2湾曲部を構成するチューブ部材の延在方向に沿って長尺であってもよい。
【0016】
この構成により、チューブステントの強度を十分に維持したまま、所望の開口面積を有する第1貫通孔および第2貫通孔を形成することができる。また、第1湾曲部および第2湾曲部のそれぞれをチューブ部材の延在方向に沿って刃物等で切ることで第1貫通孔および第2貫通孔を形成することができ、チューブステントを容易に製造することができる。
【0017】
さらに、本発明に係るチューブステントは、前記第2湾曲部の周壁が前記直胴部側に向かって切り込まれた切り込み孔を前記第2貫通孔として使用し、前記切り込み孔の前記直胴部側で前記チューブ部材に繋がる基端部と、前記基端部から前記直胴部とは反対側に突出した先端部とを有するフラップが設けられていてもよい。
【0018】
この構成により、第2貫通孔を形成する切り込みにより、第2貫通孔近傍にフラップを形成することができるようになる。このフラップは、チューブステントの移動(マイグレーション)を規制する移動規制部材としての役割を有するとともに、第2貫通孔に異物が侵入することを防止する異物侵入防止部材としての役割を有する。
【0019】
さらに、本発明に係るチューブステントは、前記フラップが、前記基端部から前記先端部に向かって前記切り込み孔から離れるように突出した形状を有してもよい。
【0020】
この構成により、フラップが、移動規制部材として十二指腸乳頭部や胆管の内壁に干渉(当接)できるようになり、異物侵入防止部材として第2貫通孔への異物の侵入を防止できるようになる。
【0021】
さらに、本発明に係るチューブステントは、前記第2湾曲部の湾曲形状の曲率半径が、前記第1湾曲部の湾曲形状の曲率半径より小さくてもよい。
【0022】
この構成により、チューブステントが胆管内に留置された際に、第2湾曲部が十二指腸内で確実に湾曲形状となり、チューブステントの端部が十二指腸の内壁に当たらないようにすることができる。
【0023】
さらに、本発明に係るチューブステントは、前記第2湾曲部の前記第2貫通孔の近傍に内視鏡マーカーが設けられていてもよい。
【0024】
この構成により、内視鏡画像下で、チューブステントの第2湾曲部および第2貫通孔の位置を容易に確認できるようになり、胆管内にチューブステントを留置させる際の位置決めを正確かつ容易に行うことができるようになる。
【0025】
さらに、本発明に係るチューブステントは、胆管チューブステントまたは膵管チューブステントとして用いられてもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、簡易な構成で適切な開通状態を実現し、良好かつ確実に胆汁または膵液を十二指腸へ排出させることができるチューブステントを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の実施形態におけるチューブステントの一例を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示すチューブステントの長手方向断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態におけるチューブステントを胆管に留置させるためのチューブステントデリバリ装置の一例を示す平面図である。
【
図4】
図3に示すチューブステントデリバリ装置のインナーカテーテルを示す平面図である。
【
図5】
図3に示すチューブステントデリバリ装置のアウターカテーテルを示す平面図である。
【
図6】本発明の実施形態におけるチューブステントが胆管内に留置された状態を模式的に示す図である。
【
図7】本発明の実施形態におけるチューブステントが胆管内に留置された別の状態を模式的に示す図である。
【
図8】本発明に係る実施例で用いられるチューブ形状を示す図であり、(a)はチューブAの形状を示す図、(b)はチューブBの形状を示す図、(c)はチューブCの形状を示す図、(d)はチューブDの形状を示す図である。
【
図9】本発明に係る実施例の構成を示す図であり、(a)は実施例1の構成を示す図、(b)は比較例1の構成を示す図、(c)は実施例2の構成を示す図、(d)は比較例2の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態におけるチューブステントについて説明する。
【0029】
本発明に係るチューブステントは、胆管または膵管の狭窄部に留置されることで胆汁または膵液の流れを改善する用途に用いられる胆管チューブステントまたは膵管チューブステントである。以下、本明細書では、胆管内に留置して胆汁の流れを改善する胆管チューブステントに本発明を適用した場合について説明する。
【0030】
図1は、本発明の実施形態におけるチューブステントの一例を示す斜視図であり、
図2は、
図1に示すチューブステントの長手方向断面図である。
【0031】
本実施形態におけるチューブステント1は、例えばポリエチレン等の樹脂を材料とした可撓性のチューブ部材からなる。チューブステント1は、チューブ部材を所定の形状に成形および加工することによって作製されており、直胴部11を介して遠位端側湾曲部12および近位端側湾曲部13が接続された構成を有している。より詳細には、本実施形態におけるチューブステント1は、略直線形状を有する直胴部11と、直胴部11の一端に連通された湾曲形状を有する遠位端側湾曲部(第1湾曲部)12と、直胴部11の他端に連通された湾曲形状を有する近位端側湾曲部(第2湾曲部)13とを概略備えて構成されている。
【0032】
本明細書では、直胴部11の延在方向をチューブステント1の長手方向と記載することがある。また、本明細書では、チューブステント1が胆管内に留置された際に胆管の奥に配置される端部をチューブステント1の遠位端側と定義し、チューブステント1が胆管内に留置された際に十二指腸側に配置される端部をチューブステント1の近位端側と定義して説明する。
【0033】
直胴部11は、チューブステント1を構成する可撓性のチューブ部材において長手方向に延在するチューブステント1の中央部である。直胴部11は略直線形状を有している。
【0034】
略直線形状とは、外部から負荷がかからない自然状態において略直線となることを表しており、より詳細には、例えば、チューブ部材内の管腔の略中心軸(管腔断面の略中心部を通る仮想的な軸)が略直線となることを表している。なお、直胴部11は、胆管の形状に合わせた緩やかな曲線形状であってもよく、略直線形状は、このような胆管の形状に合わせた緩やかな曲線形状を含むものである。
【0035】
遠位端側湾曲部12は、チューブステント1を構成する可撓性のチューブ部材において、チューブステント1が胆管内に留置された際に胆管内に配置されるチューブステント1の端部である。遠位端側湾曲部12は湾曲形状を有しており、例えばピッグテール型またはαループ型と呼ばれる形状であってもよい。
【0036】
湾曲形状とは、外部から負荷がかからない自然状態において湾曲していることを表しており、より詳細には、例えば、チューブ部材内の管腔の略中心軸(管腔断面の略中心部を通る仮想的な軸)が曲線となることを表している。
【0037】
遠位端側湾曲部12は、略同一曲率で湾曲した形状(略真円形状)であってもよく、一部のみが湾曲した形状または部分的に異なる曲率で湾曲した形状であってもよい。また、
図1および
図2には、遠位端側湾曲部12を構成するチューブ部材が所定の平面内に含まれるように湾曲した形状である場合が図示されているが、チューブ部材が湾曲面に対して垂直方向に移動しながら湾曲した形状(螺旋状)であってもよい。
【0038】
近位端側湾曲部13は、チューブステント1を構成する可撓性のチューブ部材において、チューブステント1が胆管内に留置された際に十二指腸側に配置されるチューブステント1の端部である。近位端側湾曲部13は湾曲形状を有しており、例えばピッグテール型またはαループ型と呼ばれる形状であってもよい。
【0039】
遠位端側湾曲部12と同様に、近位端側湾曲部13は、略同一曲率で湾曲した形状(略真円形状)であってもよく、一部のみが湾曲した形状または部分的に異なる曲率で湾曲した形状であってもよい。また、
図1および
図2には、近位端側湾曲部13を構成するチューブ部材が所定の平面内に含まれるように湾曲した形状である場合が図示されているが、チューブ部材が湾曲面に対して垂直方向に移動しながら湾曲した形状(螺旋状)であってもよい。
【0040】
遠位端側湾曲部12と近位端側湾曲部13とはそれぞれ独立した湾曲形状を有していてもよい。すなわち、遠位端側湾曲部12と近位端側湾曲部13とは同一の湾曲形状を有していてもよく、あるいは、異なる湾曲形状を有していてもよい。
図1および
図2には、好適な一例として、遠位端側湾曲部12の湾曲形状の曲がり具合が近位端側湾曲部13の湾曲形状の曲がり具合に対して緩やかとなるように設定されている場合が図示されている。例えば、遠位端側湾曲部12および近位端側湾曲部13のそれぞれに沿った曲線を円で近似した場合、近位端側湾曲部13から得られる近似円の曲率に対して遠位端側湾曲部12から得られる近似円の曲率が小さくなるように設定されている。換言すると、近位端側湾曲部13から得られる近似円の曲率半径が、遠位端側湾曲部12から得られる近似円の曲率半径より小さく設定されている。すなわち、近位端側湾曲部13は遠位端側湾曲部12に対して相対的に小さく、遠位端側湾曲部12は近位端側湾曲部13よりも大巻となるように設定されている。
【0041】
近位端側湾曲部13を遠位端側湾曲部12に対して相対的に小さくすることで、チューブステント1が胆管内に留置された際に、近位端側湾曲部13は、十二指腸内で確実に湾曲形状を取ることができるようになっている。従来、チューブステント1の近位側端面が十二指腸の内壁(十二指腸乳頭部に対向する側の内壁)に突き当たって当該内壁に潰瘍や穿孔が生じてしまう事例が報告されているが、本発明に係るチューブステント1は、近位端側湾曲部13が十二指腸内で確実に湾曲形状を取ることができるようになっており、チューブステント1の近位側端面が十二指腸の内壁に突き当たらない構成となっている。
【0042】
チューブステント1は、患者の胆管に留置できる大きさを有し、患者の体格等に応じて様々な大きさのものを用意してもよい。一例として、チューブステント1を構成するチューブ部材の長手方向の寸法は30mm~300mm程度である。また、チューブ部材の両端を湾曲形状の遠位端側湾曲部12および近位端側湾曲部13にそれぞれ加工した場合のチューブステント1の長手方向の概略寸法は、15mm~200mm程度である。特に、チューブステント1を胆管に留置した際に十二指腸内に配置される近位端側湾曲部13の概略寸法は、十二指腸の内径よりも小さいことが好ましく、例えば5mm~20mm程度であることが好ましい。また、遠位端側湾曲部12の概略寸法は、例えば10mm~50mmであることが好ましい。また、チューブ部材内の管腔断面の直径(内径)は、後述のようにチューブステントデリバリ装置のインナーシースにチューブステント1が挿通可能な寸法であり、一例として、1.0mm~5.0mm程度である。
【0043】
また、直胴部11内に形成されている管腔の略中心軸(
図2のC1)が遠位端側湾曲部12の周壁と交差する位置(
図2のP1)には、遠位端側貫通孔(第1貫通孔)21が設けられている。より具体的には、直胴部11内に形成されている管腔の略中心軸(
図2のC1)が遠位端側湾曲部12の周壁と交差する位置(
図2のP1)であって、遠位端側湾曲部12がなす湾曲形状の外縁側の位置に、遠位端側湾曲部12の管腔内部と管腔外部とを連通する開口部が遠位端側貫通孔21として設けられている。
【0044】
遠位端側湾曲部12において、直胴部11内の管腔の略中心軸と遠位端側湾曲部12の周壁とが交差する位置に遠位端側貫通孔21を設けることで、略直線形状の直胴部11内の管腔を延長した位置に遠位端側貫通孔21を配置することができる。その結果、チューブステント1が胆管内に留置された際に、胆管内から遠位端側貫通孔21を通じて流入する胆汁を直胴部11内の管腔へスムーズに流すことができるようになる。
【0045】
また、直胴部11内に形成されている管腔の略中心軸(
図2のC1)が近位端側湾曲部13の周壁と交差する位置(
図2のP2)には、近位端側貫通孔(第2貫通孔)31が設けられている。より具体的には、直胴部11内に形成されている管腔の略中心軸(
図2のC1)が近位端側湾曲部13の周壁と交差する位置(
図2のP2)であって、近位端側湾曲部13がなす湾曲形状の外縁側の位置に、近位端側湾曲部13の管腔内部と管腔外部とを連通する開口部が近位端側貫通孔31として設けられている。
【0046】
近位端側湾曲部13において、直胴部11内の管腔の略中心軸と近位端側湾曲部13の周壁とが交差する位置に近位端側貫通孔31を設けることで、略直線形状の直胴部11内の管腔を延長した位置に近位端側貫通孔31を配置することができる。その結果、チューブステント1が胆管内に留置された際に、直胴部11内の管腔を流れる胆汁を近位端側貫通孔31を通じて十二指腸内へスムーズに流出させることができるようになる。
【0047】
直胴部11は略直線形状を有しており、遠位端側貫通孔21、直胴部11内の管腔、近位端側貫通孔31を略直線上に配置することができる。その結果、遠位端側貫通孔21、直胴部11内の管腔、近位端側貫通孔31を経由する略直線形状の流路を形成することができる。これにより、チューブステント1が胆管内に留置された際に、遠位端側貫通孔21を経由した直胴部11内の管腔への胆汁の流入、直胴部11内の管腔における胆汁の流動、直胴部11内の管腔から近位端側貫通孔31を経由した十二指腸への胆汁の流出がスムーズに行われるようになる。なお、遠位端側貫通孔21から直胴部11内の管腔へ胆汁を良好かつ確実に流入させるためには、チューブステント1が胆管内に留置された際に、一例として、遠位端側貫通孔21が胆管の奥側に位置する肝門部付近に配置される。
【0048】
遠位端側貫通孔21の開口面積および近位端側貫通孔31の開口面積は、直胴部11内に形成されている管腔の断面積よりも大きく設定されることが好ましい。チューブステント1が胆管内に留置された際、胆汁は、遠位端側貫通孔21、直胴部11内の管腔、近位端側貫通孔31からなる流路を経由して十二指腸へ排出される。遠位端側貫通孔21の開口面積および近位端側貫通孔31の開口面積を、直胴部11内に形成されている管腔の断面積より大きくすることで、直胴部11内の管腔における液体の最大流量に対して、遠位端側貫通孔21および近位端側貫通孔31を通過する液体の最大流量を大きくし、遠位端側貫通孔21および近位端側貫通孔31がボトルネックとならないようにすることができる。その結果、遠位端側貫通孔21および近位端側貫通孔31における胆汁の流入および流出を停滞させることなく、胆汁の流入および流出がスムーズに行われるようになる。
【0049】
さらに、遠位端側貫通孔21および近位端側貫通孔31は、湾曲するチューブ部材の延在方向に沿って長尺であることが好ましい。チューブ部材の周方向に沿って遠位端側貫通孔21および近位端側貫通孔31の寸法を大きくした場合には、チューブ部材の強度を十分に確保することができないおそれがある。例えば、遠位端側貫通孔21および近位端側貫通孔31の周方向の寸法は、チューブ部材の外周全体の周方向の寸法の半分以下に制限される。
【0050】
これに対して、チューブ部材の延在方向に沿って遠位端側貫通孔21および近位端側貫通孔31の寸法を大きくした場合には、チューブ部材の強度を十分に確保しながら遠位端側貫通孔21の開口面積および近位端側貫通孔31の開口面積を大きくすることができる。したがって、遠位端側貫通孔21および近位端側貫通孔31は、チューブ部材の周方向の寸法よりもチューブ部材の延在方向の寸法が長尺となるような延在方向に細長い形状とすることが好ましい。
【0051】
チューブ部材の周方向の寸法よりもチューブ部材の延在方向の寸法が長尺となる遠位端側貫通孔21および近位端側貫通孔31は、例えば刃物等を用いて、内部の管腔が露出するようにチューブ部材の周壁の一部をチューブ部材の延在方向に沿って切り落とすことにより、容易に形成することができる。
【0052】
なお、遠位端側貫通孔21および近位端側貫通孔31を形成する際に、上述のようにチューブ部材の周壁の一部を切り落としてもよいが、一方、チューブ部材の周壁の一部を切り落とさずにチューブ部材に繋がったままの状態としてもよい。
【0053】
遠位端側貫通孔21は、例えば
図1および
図2に示すように、遠位端側湾曲部12を構成するチューブ部材の周壁の一部を切り落とすことによって形成されている。
【0054】
一方、近位端側貫通孔31は、例えば
図1および
図2に示すように、近位端側湾曲部13を構成するチューブ部材の周壁が直胴部11側に向かって、チューブ部材内の管腔に至るまで切り込まれて形成された切り込み孔である。ここでは、近位端側貫通孔31としての切り込み孔の形成時にチューブ部材の周壁の一部を切り落とさずに、切り込み片がチューブ部材に繋がったままの状態としている。近位端側貫通孔31の近傍において切り落とさずに残したチューブ部材の周壁の一部(切り込み片)は、例えばフラップ32として利用することができる。
【0055】
フラップ32は、近位端側貫通孔31の直胴部11側の縁部でチューブ部材に繋がる基端部32aと、直胴部11側とは反対方向に基端部32aから突出した先端部32bとを有している。
【0056】
フラップ32の大きさは、近位端側貫通孔31を形成する際の切り込みによって離隔したチューブ部材の一部の大きさと同程度とすることができる。また、フラップ32は、近位端側貫通孔31を塞がずに近位端側貫通孔31の開口面積が十分に確保される位置に配置されることが好ましい。基端部32aから先端部32bに突出するフラップ32のチューブ部材に対する角度(
図2の角度A)は、例えば0°~90°の範囲、好ましくは10°~45°の範囲に適宜設定されることで、基端部32aから先端部32bに向かって近位端側貫通孔31から離れるように突出した形状が実現される。
【0057】
フラップ32は、チューブステント1が胆管内に留置された際に、チューブステント1の移動(マイグレーション)を規制する移動規制部材としての役割を有している。フラップ32はチューブ部材から突出するように設けられており、近位端側湾曲部13が胆管内に引き込まれるように移動した場合であっても、フラップ32が十二指腸乳頭部や胆管の内壁に干渉(当接)するようになっている。すなわち、フラップ32は、近位端側湾曲部13が胆管内に引き込まれないようにするストッパとしての機能を有する。その結果、チューブステント1の移動(マイグレーション)が規制され、チューブステント1の留置状態を安定させる。
【0058】
さらに、フラップ32は、チューブステント1が胆管内に留置された際に、近位端側貫通孔31に対して十二指腸上流側(胃側)に配置されることで、十二指腸内を上流側から下流側に移動する食物等の異物が近位端側貫通孔31内に入り込むことを防止する異物侵入防止部材としての役割を有している。
【0059】
また、チューブステント1には、内視鏡マーカー41が設けられている。内視鏡マーカー41は、特に限定されないが、例えば図示されているように、チューブ部材の外周面の一部をリング状に着色することで形成される。内視鏡マーカー41は、例えば近位端側湾曲部13の近位端側貫通孔31の近傍に設けられることが好ましい。これにより、内視鏡画像下で、チューブステント1の近位端側湾曲部13および近位端側貫通孔31の位置を容易に確認できるようになり、胆管内にチューブステント1を留置させる際の位置決めを正確かつ容易に行うことができるようになる。
【0060】
次に、
図3~
図5を参照しながら、本発明の実施形態におけるチューブステントを胆管に留置させるためのチューブステントデリバリ装置について説明する。
図3は、本発明の実施形態におけるチューブステントを胆管に留置させるためのチューブステントデリバリ装置の一例を示す平面図である。また、
図4は、
図3に示すチューブステントデリバリ装置のインナーカテーテルを示す平面図であり、
図5は、
図3に示すチューブステントデリバリ装置のアウターカテーテルを示す平面図である。
【0061】
図3に示すチューブステントデリバリ装置100は、チューブステント1を胆管に留置するために用いられる医療用処置具であり、内視鏡の処置具案内管を介して胆管内に挿入する経内視鏡方式の装置である。
【0062】
なお、上述したように、本発明に係るチューブステントは、胆管内に留置して胆汁の流れを改善する胆管チューブステントに限定されるものではなく、膵管内に留置して膵液の流れを改善する膵管チューブステントであってもよい。ここでは、一例として、胆管チューブステントを胆管に留置するためのチューブステントデリバリ装置100について説明するが、本発明に係るチューブステント1が膵管チューブステントである場合には、膵管に留置するためのチューブステントデリバリ装置が用いられる。さらに、内視鏡の処置具案内管を介して挿入する経内視鏡方式の装置ではなく、直接針を刺してアプローチする経皮方式の装置が用いられてもよい。
【0063】
図3に示すチューブステントデリバリ装置100は、不図示の内視鏡の処置具案内管内を通じて患者の体内(管腔)に挿入される細長いカテーテル部120と、カテーテル部120の近位端側に接続され、体外側から体内のカテーテル部120を操作するための操作部130と、ガイドワイヤ140と、留置対象としてのチューブステント1とを概略備えて構成されている。なお、本明細書では、チューブステントデリバリ装置100において患者の体内に挿入される先端側をチューブステントデリバリ装置100の遠位端側と定義し、オペレータが患者の体外でチューブステントデリバリ装置100を把持して操作を行う基端側をチューブステントデリバリ装置100の近位端側と定義して説明する。
【0064】
カテーテル部120は、遠位端および近位端を有するインナーシース(内管)121と、遠位端および近位端を有するアウターシース(外管)122とを備えている。また、インナーシース121およびアウターシース122の遠位端近傍には、造影マーカー(不図示)がそれぞれ取り付けられている。造影マーカーは、カテーテル部120が患者の体内に挿入された際に、X線透視によって確認することができる位置検出用標識であり、例えば金、白金、タングステン等の金属材料や、硫酸バリウムや酸化ビスマスがブレンドされたポリマー等により形成される。
【0065】
インナーシース121は可撓性を有する細長いチューブからなる。インナーシース121の内腔には、チューブステントデリバリ装置100を患者の体内に挿入するためのガイドとして用いられるガイドワイヤ140が挿通されている。ガイドワイヤ140を体内に挿入して体外と体内との経路を確保した後、ガイドワイヤ140に沿ってカテーテル部120を進行させることにより、カテーテル部120の遠位端側を体内の目的部位に挿入することができる。インナーシース121の外径は0.5mm~4.0mm程度である。
【0066】
インナーシース121の遠位端には、先端(遠位端)に行くに従って先細となるようにテーパ状に形成された先端テーパ部123が形成されている。なお、先端テーパ部123に代えて、同様のテーパ形状を有する先端チップをインナーシース121とは別体として準備し、インナーシース121の遠位端に取り付けるようにしてもよい。
【0067】
アウターシース122は可撓性を有する細長いチューブからなる。アウターシース122は、インナーシース121の外径よりも僅かに大きい内径を有しており、アウターシース122の内側にインナーシース121が相対的にスライド可能となるように挿通されている。例えば、アウターシース122の内径は0.5mm~4.5mm程度であり、アウターシース122の外径は1.0mm~5.0mm程度である。アウターシース122の近位端には、操作部130が接続されており、オペレータが操作部130のコネクタ131を操作することによって、インナーシース121は、アウターシース122に対して軸方向にスライド(相対移動)可能である。
【0068】
インナーシース121、アウターシース122の材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリアミド、ポリエーテルポリアミド、ポリエステルポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリテトラフルオロエチレンやテトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体等のフッ素系樹脂等の各種樹脂材料や、ポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系等の各種熱可塑性エラストマーを使用することができる。これらのうち2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0069】
操作部130は、コネクタ131およびコネクタ132を備えている。
図4に示すように、コネクタ131はインナーシース121の近位端に接続固定されている。
図5に示すように、コネクタ132はアウターシース122の近位端に接続固定されている。コネクタ131は軸方向に貫通する貫通孔を有し、この貫通孔はインナーシース121の内腔に連通されている。コネクタ132は軸方向に貫通する貫通孔を有し、この貫通孔はアウターシース122の内腔に連通されている。コネクタ131の遠位端部とコネクタ132の近位端部は、ルアーロック方式等により互いに結合または結合解除できるようになっている。
【0070】
ガイドワイヤ140は、インナーシース121の全長にわたって、その内腔に挿通されている。ガイドワイヤ140の遠位端はインナーシース121の先端テーパ部123から突出できるようになっており、ガイドワイヤ140の近位端はコネクタ131の貫通孔を介して外側に露出できるようになっている。
【0071】
チューブステントデリバリ装置100を患者の体内に挿入する際、
図3に示すように、チューブステント1は、チューブステントデリバリ装置100の遠位端側に取り付けられる。具体的には、インナーシース121の遠位端側の部分がチューブステント1の内側に挿通されて、チューブステント1の近位端側の端面が、インナーシース121が挿通されたアウターシース122の遠位端側の端面に当接される。これにより、チューブステント1は、その内側にインナーシース121が挿通された状態で、アウターシース122に対して直列して配置される。
【0072】
なお、上述したように、チューブステント1の遠位端側湾曲部12および近位端側湾曲部13は湾曲形状を有しているが、チューブステントデリバリ装置100の遠位端側にチューブステント1が取り付けられた際には、遠位端側湾曲部12および近位端側湾曲部13は、インナーシース121の形状に合わせて略直線形状に弾性変形した状態となる。
【0073】
チューブステント1を胆管に留置する際には、まず、内視鏡の処置具案内管を通じて胆管内にガイドワイヤ140を挿通させる。次に、コネクタ131とコネクタ132とを互いに結合し、チューブステント1がインナーシース121の遠位端側に取り付けられた状態で、ガイドワイヤ140に沿ってカテーテル部120を進行させる。
【0074】
X線透視によりインナーシース121およびアウターシース122の位置を確認しながらチューブステント1を胆管内の適切な位置まで挿入する。その後、コネクタ131とコネクタ132との結合を解除して、アウターシース122の位置はそのままの状態でインナーシース121およびガイドワイヤ140を近位端側にスライドさせて引き抜き、次いでアウターシース122を引き抜くことにより、例えば、
図6または
図7に模式的に示すように、チューブステント1を胆管内に留置することができる。
【0075】
図6は、本発明の実施形態におけるチューブステントが胆管内に留置された状態を模式的に示す図である。
図6は体内の断面を模式的に示す図であり、
図6には、十二指腸61、十二指腸乳頭部62、総胆管63、胆のう管64、狭窄部65、膵管66、総肝管67、肝門部68、右肝内胆管69、左肝内胆管70が図示されている。胆のう管64は不図示の胆のうにつながっており、膵管66は不図示の膵臓につながっている。
【0076】
例えば腫瘍性病変等による狭窄部65が総胆管63に生じた場合には、狭窄部65が総胆管63を閉塞して胆汁の流れを阻害することがある。チューブステント1は、総胆管63の狭窄部65に留置されて胆汁の流れを改善する医療器具であり、一例として、
図6に示すように留置される。
【0077】
図6に示すチューブステント1では、直胴部11が総胆管63内に生じた狭窄部65付近に配置されている。これにより、狭窄部65によって閉塞していた総胆管63において、直胴部11内の管腔により胆汁の流路が確保される。
【0078】
図6に示すチューブステント1では、湾曲形状を有する遠位端側湾曲部12が、肝門部68付近に配置されている。より詳細には、肝門部68付近に、直胴部11内の管腔の断面積より大きい開口面積を有する遠位端側貫通孔21が配置されている。これにより、肝門部68付近に配置された遠位端側貫通孔21から直胴部11内の管腔へ、胆汁を良好かつ確実に流入させることができる。
【0079】
また、遠位端側湾曲部12が湾曲形状を有し、自然状態へ戻ろうとする弾性力により遠位端側湾曲部12の一部が総胆管63の内壁に押し付けられるように広がって配置されている。これにより、遠位端側湾曲部12が総胆管63の内壁に干渉(当接)してチューブステント1の移動(マイグレーション)が規制され、チューブステント1の留置状態を安定させることができるようになる。
【0080】
図6に示すチューブステント1では、湾曲形状を有する近位端側湾曲部13が十二指腸61内に配置されている。また、近位端側湾曲部13には、直胴部11内に形成されている管腔の断面積より大きい開口面積を有する近位端側貫通孔31が配置されている。これにより、直胴部11内の管腔を流れる胆汁を近位端側貫通孔31から十二指腸61へ良好かつ確実に流出させることができる。
【0081】
また、近位端側湾曲部13は、遠位端側湾曲部12に比べて小さな湾曲形状となるよう設定されており、十二指腸61内で確実に湾曲形状を取ることができるようになっている。この湾曲形状により、近位端側湾曲部13を構成するチューブ部材の近位側端面が十二指腸61の内壁に突き当たらないようにして、当該内壁に潰瘍や穿孔が生じてしまうことを防止できるようになる。また、この湾曲形状により、近位端側湾曲部13は総胆管63内へ引き込まれにくくなり、その結果、チューブステント1の移動(マイグレーション)が規制され、チューブステント1の留置状態を安定させることができるようになる。
【0082】
また、上述したように、本発明に係るチューブステント1は、遠位端側貫通孔21、直胴部11内の管腔、近位端側貫通孔31が略直線上に配置されており、遠位端側貫通孔21、直胴部11内の管腔、近位端側貫通孔31を経由する略直線形状の流路が形成されている。さらに、
図6に示すチューブステント1では、肝門部68付近に遠位端側貫通孔21が配置されている。これにより、肝門部68付近に配置された遠位端側貫通孔21を経由した直胴部11内の管腔への胆汁の流入、直胴部11内の管腔における胆汁の流動、直胴部11内の管腔から近位端側貫通孔31を経由した十二指腸61への胆汁の流出がスムーズに行われるようになる。
【0083】
また、
図6に示すチューブステント1では、近位端側貫通孔31の近傍に形成されているフラップ32が、十二指腸61内に配置されている。フラップ32は、近位端側湾曲部13が総胆管63内に引き込まれるように移動した場合であっても、十二指腸乳頭部62や総胆管63の内壁に干渉(当接)して、近位端側湾曲部13が総胆管63内に引き込まれないようにするストッパとしての役割を果たし、その結果、チューブステント1の移動(マイグレーション)が規制され、チューブステント1の留置状態を安定させることができるようになる。
【0084】
さらに、
図6に示すように、チューブステント1を胆管内に留置する際に、フラップ32が近位端側貫通孔31に対して十二指腸上流側(胃側)に配置されることが好ましい。上述したように、フラップ32は異物侵入防止部材としての役割を有しており、近位端側貫通孔31に対して十二指腸上流側(胃側)に配置されることで、十二指腸61内を上流側から下流側に移動する食物等の異物が近位端側貫通孔31内に入り込むことを防止できるようになる。
【0085】
また、
図7は、本発明の実施形態におけるチューブステントが胆管内に留置された別の状態を模式的に示す図である。
図7は体内の断面を模式的に示す図であり、
図6と同様に
図7においても、十二指腸61、十二指腸乳頭部62、総胆管63、胆のう管64、狭窄部65、膵管66、総肝管67、肝門部68、右肝内胆管69、左肝内胆管70が図示されている。
【0086】
チューブステントデリバリ装置100を用いて患者の体内にチューブステント1を留置する際、必ずしも
図6に示すように遠位端側湾曲部12が湾曲形状とならず、
図7に示すように肝門部68より遠位側(例えば、左肝内胆管70内)に延びるように配置される場合がある。このような配置であっても、肝門部68付近に遠位端側貫通孔21が配置され、肝門部68付近に配置された遠位端側貫通孔21を経由した直胴部11内の管腔への胆汁の流入、直胴部11内の管腔における胆汁の流動、直胴部11内の管腔から近位端側貫通孔31を経由した十二指腸61への胆汁の流出がスムーズに行われるようになる。
【0087】
次に、作用について説明する。
【0088】
本実施形態におけるチューブステント1は、可撓性のチューブ部材からなり、略直線形状を有する直胴部11と、直胴部11の一端に連通された湾曲形状を有する遠位端側湾曲部12と、直胴部11の他端に連通された湾曲形状を有する近位端側湾曲部13とにより構成されている。直胴部11内に形成されている管腔の略中心軸が遠位端側湾曲部12の周壁と交差する位置には遠位端側貫通孔21が設けられており、直胴部11内に形成されている管腔の略中心軸が近位端側湾曲部13の周壁と交差する位置には近位端側貫通孔31が設けられている。
【0089】
この構成により、遠位端側貫通孔21、直胴部11内の管腔、近位端側貫通孔31を略直線上に配置することができ、略直線形状の流路を形成して、遠位端側貫通孔21への胆汁の流入および近位端側貫通孔31からの胆汁の流出を良好かつ確実に行えるようになっている。特に、遠位端側貫通孔21、直胴部11内の管腔、近位端側貫通孔31が略直線形状となるように配置されていない従来のチューブステント(例えば、特許文献1および特許文献2を参照)に比べて格別良好な胆汁の流れを実現することができる。
【0090】
なお、本実施形態におけるチューブステント1では、本実施形態におけるチューブステント1は可撓性のチューブ部材からなり、そのチューブ部材の両端面(遠位側端面および近位側端面)が開口している。しかしながら、本発明者は、鋭意検討を行った結果、チューブステント1が胆管内に留置された場合には、遠位端側貫通孔21、直胴部11内の管腔、近位端側貫通孔31が胆汁の主要な流路となるため、胆汁がチューブ部材の両端面の開口部を流れることはほとんどなく、チューブ部材の両端面は流路としてほとんど機能していないことを確認した。このことから、チューブステント1を構成するチューブ部材の両端面は開口していてもよく、あるいは閉塞されていてもよい。
【0091】
また、本実施形態におけるチューブステント1では、遠位端側貫通孔21が遠位端側湾曲部12の湾曲形状の外縁側に設けられており、近位端側貫通孔31が近位端側湾曲部13の湾曲形状の外縁側に設けられている。
【0092】
この構成により、遠位端側湾曲部12の周壁における直胴部11の軸方向と交差する位置に遠位端側貫通孔21を設けることができ、近位端側湾曲部13の周壁における直胴部11の軸方向と交差する位置に近位端側貫通孔31を設けることができる。
【0093】
また、本実施形態におけるチューブステント1では、遠位端側貫通孔21および近位端側貫通孔31が、直胴部11内の管腔の断面積より大きな開口面積を有するように形成されている。
【0094】
この構成により、直胴部11内の管腔における液体の最大流量に対して、遠位端側貫通孔21および近位端側貫通孔31を通過する液体の最大流量を大きくし、遠位端側貫通孔21および近位端側貫通孔31がボトルネックとならないようにすることができる。
【0095】
また、本実施形態におけるチューブステント1では、遠位端側貫通孔21が、遠位端側湾曲部12を構成するチューブ部材の延在方向に沿って長尺であり、近位端側貫通孔31が近位端側湾曲部13を構成するチューブ部材の延在方向に沿って長尺である。
【0096】
この構成により、チューブステント1の強度を十分に維持したまま、所望の開口面積を有する遠位端側貫通孔21および近位端側貫通孔31を形成することができる。また、遠位端側湾曲部12および近位端側湾曲部13のそれぞれをチューブ部材の延在方向に沿って刃物等で切ることで遠位端側貫通孔21および近位端側貫通孔31を形成することができ、チューブステント1を容易に製造することができる。
【0097】
また、本実施形態におけるチューブステント1では、近位端側湾曲部13の周壁が直胴部11側に向かって切り込まれた切り込み孔を近位端側貫通孔31として使用し、切り込み孔の直胴部11側でチューブ部材に繋がる基端部32aと、基端部32aから直胴部11とは反対側に突出した先端部32bとを有するフラップ32が設けられている。
【0098】
この構成により、近位端側貫通孔31を形成する切り込みにより、近位端側貫通孔31近傍にフラップ32を形成することができるようになる。このフラップ32は、チューブステント1の移動(マイグレーション)を規制する移動規制部材としての役割を有するとともに、近位端側貫通孔31に異物が侵入することを防止する異物侵入防止部材としての役割を有する。
【0099】
また、本実施形態におけるチューブステント1では、フラップ32が、基端部32aから先端部32bに向かって近位端側貫通孔31から離れるように突出した形状を有している。
【0100】
この構成により、フラップ32が、移動規制部材として十二指腸乳頭部や胆管の内壁に干渉(当接)できるようになり、異物侵入防止部材として近位端側貫通孔31への異物の侵入を防止できるようになる。
【0101】
また、本実施形態におけるチューブステント1では、近位端側湾曲部13の湾曲形状の曲率半径が、遠位端側湾曲部12の湾曲形状の曲率半径より小さく設定されている。
【0102】
この構成により、チューブステント1が胆管内に留置された際に、近位端側湾曲部13は十二指腸内で確実に湾曲形状となり、チューブステント1の近位側端面が十二指腸の内壁に突き当たらないようにすることができる。
【0103】
また、本実施形態におけるチューブステント1では、近位端側湾曲部13の近位端側貫通孔31の近傍に内視鏡マーカー41が設けられていてもよい。
【0104】
この構成により、内視鏡画像下で、チューブステント1の第2湾曲部および第2貫通孔の位置を容易に確認できるようになり、チューブステント1の近位端側湾曲部13および近位端側貫通孔31の位置を容易に確認できるようになり、胆管内にチューブステント1を留置させる際の位置決めを正確かつ容易に行うことができるようになる。
【0105】
以上説明したように、本発明に係るチューブステントは、簡易な構成で適切な開通状態を実現し、良好かつ確実に胆汁または膵液を十二指腸へ排出させることができるという作用効果を奏し、胆管または膵管の狭窄部に留置されることで胆汁または膵液の流れを改善する用途に用いられる胆管チューブステントまたは膵管チューブステントとして有用である。
【実施例】
【0106】
以下、実施例および比較例に基づき、本発明について更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0107】
(構成)
ビーカーの底面を開口して弁を取り付けた。弁の上部および下部には、加工成形したチューブを取り付けられるようにし、弁の開閉によって上部および下部の連通状態を制御できるようにした。
【0108】
また、弁に取り付けるチューブとして、太さ7.5Fr(2.5mm)、長さ10cmのポリアミド系エラストマー(商品名:ぺバックス)からなるチューブを複数用意し、以下の形状に加工成形してチューブA~Dを作製した。
・チューブA(
図8(a)参照):ストレート形状のチューブ
・チューブB(
図8(b)参照):ピッグテール形状に成形して、ピッグテールの湾曲面に対して直交する向きに複数の小孔を形成したチューブ
・チューブC(
図8(c)参照):ピッグテール形状に成形して、直胴部の軸線方向の位置に大きな貫通孔を形成したチューブ
・チューブD(
図8(d)参照):ピッグテール形状に成形して、直胴部の軸線方向の位置に切り込みを入れて大きな貫通孔を形成し、さらに切り込み片を切り落とさずに残してフラップとしたチューブ
なお、チューブCは、上述の実施形態における遠位端側湾曲部12に対応した構成を有しており、チューブDは、上述の実施形態における近位端側湾曲部13に対応した構成を有している。
【0109】
(実施例1)
胆汁と同等の粘性を有する模擬胆汁として、胆汁酸5%、オレイン酸5%、エコーガム/ケトロール0.5%を混合した水溶液を得て、約40℃となるよう加熱した。弁の上部にチューブA、弁の下部にチューブDを取り付けたビーカー内に、弁を閉めた状態で模擬胆汁を所定量入れた(
図9(a)参照)。その後、弁を60秒開いた状態で弁の下部に取り付けたチューブから自然滴下する模擬胆汁を集めてその重さ(0.1g単位)を計測した。この計測結果を表1に示す。
【0110】
(実施例2)
弁の上部に取り付けるチューブをチューブCに変更し、弁の下部に取り付けるチューブをチューブAに変更した構成(
図9(c)参照)とする以外は実施例1と同様に行い、弁の下部に取り付けたチューブから自然滴下する模擬胆汁を集めてその重さ(0.1g単位)を計測した。この計測結果を表1に示す。
【0111】
(比較例1)
弁の下部に取り付けるチューブをチューブBに変更した構成(
図9(b)参照)とする以外は実施例1と同様に行い、弁の下部に取り付けたチューブから自然滴下する模擬胆汁を集めてその重さ(0.1g単位)を計測した。この計測結果を表1に示す。
【0112】
(比較例2)
弁の上部に取り付けるチューブをチューブBに変更した構成(
図9(d)参照)とする以外は実施例2と同様に行い、弁の下部に取り付けたチューブから自然滴下する模擬胆汁を集めてその重さ(0.1g単位)を計測した。この計測結果を表1に示す。
【0113】
【0114】
表1から、弁の上部にチューブCを取り付けた構成は、弁の上部にチューブBを取り付けた構成と比べて、格段に大きな流量が得られることがわかる(実施例2と比較例2との比較)。チューブCは、上述の実施形態における遠位端側湾曲部12に対応した構成であり、同様のピッグテール形状であっても、開口する孔の位置をコントロールすることで格段に優れた開通状態が実現される。
【0115】
また、表1から、弁の下部にチューブDを取り付けた構成は、弁の下部にチューブBを取り付けた構成と比べて、格段に大きな流量が得られることがわかる(実施例1と比較例1との比較)。チューブDは、上述の実施形態における近位端側湾曲部13に対応した構成であり、同様のピッグテール形状であっても、開口する孔の位置をコントロールすることで格段に優れた開通状態が実現される。
【符号の説明】
【0116】
1 チューブステント
11 直胴部
12 遠位端側湾曲部
13 近位端側湾曲部
21 遠位端側貫通孔
31 近位端側貫通孔
32 フラップ
32a 基端部
32b 先端部
41 内視鏡マーカー
61 十二指腸
62 十二指腸乳頭部
63 総胆管
64 胆のう管
65 狭窄部
66 膵管
67 総肝管
68 肝門部
69 右肝内胆管
70 左肝内胆管
100 チューブステントデリバリ装置
120 カテーテル部
121 インナーシース
122 アウターシース
123 先端テーパ部
130 操作部
131、132 コネクタ
140 ガイドワイヤ