IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人 東京大学の特許一覧

特許7534793有機半導体デバイスのソース/ドレイン用電極、それを用いた有機半導体デバイス、及びそれらの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】有機半導体デバイスのソース/ドレイン用電極、それを用いた有機半導体デバイス、及びそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/786 20060101AFI20240807BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20240807BHJP
   H10K 10/40 20230101ALI20240807BHJP
   H10K 71/00 20230101ALI20240807BHJP
   H10K 85/00 20230101ALI20240807BHJP
   H10K 85/10 20230101ALI20240807BHJP
【FI】
H01L29/78 618B
H01L29/78 616V
H01L29/78 619A
H01L29/78 626C
H10K10/40
H10K71/00
H10K85/00
H10K85/10
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021543965
(86)(22)【出願日】2020-06-18
(86)【国際出願番号】 JP2020023900
(87)【国際公開番号】W WO2021044705
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2023-03-27
(31)【優先権主張番号】P 2019160732
(32)【優先日】2019-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100160543
【弁理士】
【氏名又は名称】河野上 正晴
(74)【代理人】
【識別番号】100170874
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 和哉
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 純一
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 峻一郎
(72)【発明者】
【氏名】牧田 龍幸
【審査官】西村 治郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第16/031762(WO,A1)
【文献】特開2014-216477(JP,A)
【文献】特開2017-157752(JP,A)
【文献】特開2003-258264(JP,A)
【文献】特開2008-047776(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0117695(US,A1)
【文献】特表2014-502047(JP,A)
【文献】国際公開第15/163207(WO,A1)
【文献】特開2007-115805(JP,A)
【文献】特開2006-073794(JP,A)
【文献】特開2018-037486(JP,A)
【文献】特開2007-115944(JP,A)
【文献】特開2016-051758(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0214053(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/78
H01L 29/786
H01L 21/336
H10K 10/40
H10K 85/10
H10K 85/00
H10K 71/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機半導体デバイスのソース/ドレイン用電極の製造方法であって、
表面粗さRqが2nm以下の基板を準備すること、
前記基板の表面に剥離層を形成すること、
前記剥離層上に、チャネル長が200μm以下である10組以上のソース/ドレイン用電極を形成すること、
前記剥離層及び前記電極の上に、保護膜を形成すること、
前記保護膜の上に、ハンドリング用膜を形成すること、
前記剥離層と前記電極及び前記保護膜との界面を剥離させて、前記電極、前記保護膜、及び前記ハンドリング用膜を含む電極フィルムを得ること、及び
前記ハンドリング用膜を除去すること、
を含
前記剥離層を形成することが、
前記基板の表面をUVオゾン処理して、前記基板の表面に水酸基を形成すること、及び
前記水酸基を形成した基板の表面にSAM処理を行うこと
を含む、
有機半導体デバイスのソース/ドレイン用電極の製造方法。
【請求項2】
有機半導体デバイスのソース/ドレイン用電極の製造方法であって、
表面粗さRqが2nm以下の基板を準備すること、
前記基板の表面に剥離層を形成すること、
前記剥離層上に、チャネル長が200μm以下である10組以上のソース/ドレイン用電極を形成すること、
前記剥離層及び前記電極の上に、保護膜を形成すること、
前記保護膜の上に、ハンドリング用膜を形成すること、
前記剥離層と前記電極及び前記保護膜との界面を剥離させて、前記電極、前記保護膜、及び前記ハンドリング用膜を含む電極フィルムを得ること、及び
前記ハンドリング用膜を除去すること、
を含み、
前記剥離層を形成することが、
前記基板の表面に撥液性高分子層を形成すること、
前記撥液性高分子層を形成した基板上にフォトマスクまたはメタルマスクを配置すること、
前記基板に対し、前記フォトマスクまたはメタルマスクを配置した側からUV照射を行い、前記照射した箇所の前記撥液性高分子層を分解し、前記撥液性高分子層を分解した箇所に水酸基を形成すること、及び
前記水酸基を形成した箇所にSAM処理を行うこと
を含み、
前記チャネル長が200μm以下である10組以上のソース/ドレイン用電極を形成することが、
前記剥離層上に、金属粒子を含む導電性インクを塗布すること、及び
前記導電性インクを塗布した前記剥離層が形成された前記基板に、前記金属粒子を触媒として無電解めっきを行い、前記チャネル長が200μm以下である10組以上のソース/ドレイン用のめっきを備えた電極を形成すること
を含む
機半導体デバイスのソース/ドレイン用電極の製造方法。
【請求項3】
有機半導体デバイスの製造方法であって、
表面粗さRqが2nm以下の基板を準備すること、
前記基板の表面に剥離層を形成すること、
前記剥離層上に、チャネル長が200μm以下である10組以上のソース/ドレイン用電極を形成すること、
前記剥離層及び前記電極の上に、保護膜を形成すること、
前記保護膜の上に、ハンドリング用膜を形成すること、
前記剥離層と前記電極及び前記保護膜との界面を剥離させて、前記電極、前記保護膜、及び前記ハンドリング用膜を含む電極フィルムを得ること、
前記電極フィルムを、有機半導体膜上に配置すること、及び
前記ハンドリング用膜を除去すること、
を含
前記剥離層を形成することが、
前記基板の表面をUVオゾン処理して、前記基板の表面に水酸基を形成すること、及び
前記水酸基を形成した基板の表面にSAM処理を行うこと
を含む、
有機半導体デバイスの製造方法。
【請求項4】
有機半導体デバイスの製造方法であって、
表面粗さRqが2nm以下の基板を準備すること、
前記基板の表面に剥離層を形成すること、
前記剥離層上に、チャネル長が200μm以下である10組以上のソース/ドレイン用電極を形成すること、
前記剥離層及び前記電極の上に、保護膜を形成すること、
前記保護膜の上に、ハンドリング用膜を形成すること、
前記剥離層と前記電極及び前記保護膜との界面を剥離させて、前記電極、前記保護膜、及び前記ハンドリング用膜を含む電極フィルムを得ること、
前記電極フィルムを、有機半導体膜上に配置すること、及び
前記ハンドリング用膜を除去すること、
を含み、
前記剥離層を形成することが、
前記基板の表面に撥液性高分子層を形成すること、
前記撥液性高分子層を形成した基板上にフォトマスクまたはメタルマスクを配置すること、
前記基板に対し、前記フォトマスクまたはメタルマスクを配置した側からUV照射を行い、前記照射した箇所の前記撥液性高分子層を分解し、前記撥液性高分子層を分解した箇所に水酸基を形成すること、及び
前記水酸基を形成した箇所にSAM処理を行うこと
を含み、
前記チャネル長が200μm以下である10組以上のソース/ドレイン用電極を形成することが、
前記剥離層上に、金属粒子を含む導電性インクを塗布すること、及び
前記導電性インクを塗布した前記剥離層が形成された前記基板に、前記金属粒子を触媒として無電解めっきを行い、前記チャネル長が200μm以下である10組以上のソース/ドレイン用のめっきを備えた電極を形成すること
を含む
機半導体デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、有機半導体デバイスのソース/ドレイン用電極、それを用いた有機半導体デバイス、及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機半導体ヘの関心が高まっている。有機半導体の特徴としては、従来のアモルファスシリコンや多結晶シリコンの無機半導体とは異なり、柔軟性に優れていることや、roll to roll プロセスで安価に大面積化が可能であること等が挙げられ、有機半導体はポストシリコン半導体として次世代型の電子デバイスへの応用が検討されている。
【0003】
有機電界効果トランジスタ(OFET)等の積層デバイスでは、有機半導体層上に真空蒸着によりAu等の電極を形成し、フォトリソグラフィによって形成した電極をパターニングすることが行われている。しかしながら、電極を蒸着する際の有機半導体層への熱的なダメージ、またはフォトリソグラフィプロセス時のレジスト、エッチング液等による有機半導体層のダメージにより、デバイス特性が劣化し得ることが知られている。
【0004】
有機半導体層にダメージを与えることなく有機半導体層上に電極を形成する手法として、タック性を有するエラストマー上に電極パターンを形成し、電極パターンを形成したエラストマーを有機半導体層上に貼り付けるという手法が知られており、基礎物性評価に用いられている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】J. A. Rogers et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99, 10252 (2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1の手法では、収縮しやすいエラストマー上に微細な電極を形成することが難しく、且つ時間経過とともに比較的短期間で有機半導体が損傷しやすく、実用的な集積回路の製造に応用することは困難であった。時間経過とともに比較的短期間で有機半導体が損傷することの原因は明確ではないが、有機半導体膜の直上に温度等によって伸縮しやすく且つ経時変化しやすいエラストマーが貼り付いていることの影響、またはエラストマーとしてポリジメチルシロキサン(PDMS)に含まれる低分子シロキサンの影響が考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)有機半導体デバイスのソース/ドレイン用電極であって、
10組以上の電極を含み、
前記各組における電極間のチャネル長が200μm以下であり、
前記各組における電極が、表面粗さRqが2nm以下の面を有する、
ソース/ドレイン用電極。
(2)前記各組における電極間のチャネル長の平行度が1度以下である、上記(1)に記載のソース/ドレイン用電極。
(3)1μm以下の厚みを有するガラス転移点が80℃以上の絶縁性ポリマーからなり、静電気力で前記各組における電極の前記面とは反対側の面に貼り付き、且つ前記各組における前記チャネルの少なくとも一部に延在する保護膜をさらに有する、上記(1)または(2)に記載のソース/ドレイン用電極。
(4)前記電極がめっきを備える、上記(1)~(3)のいずれかに記載のソース/ドレイン用電極。
(5)ゲート電極、ゲート絶縁膜、有機半導体膜、及び上記(1)~(4)のいずれかに記載のソース/ドレイン用電極を含む有機半導体デバイス。
(6)前記有機半導体膜の、前記各組における電極と接する面の表面粗さRqは2nm以下である、上記(5)に記載の有機半導体デバイス。
(7)有機半導体デバイスのソース/ドレイン用電極の製造方法であって、
表面粗さRqが2nm以下の基板を準備すること、
前記基板の表面に剥離層を形成すること、
前記剥離層上に、チャネル長が200μm以下である10組以上のソース/ドレイン用電極を形成すること、
前記剥離層及び前記電極の上に、保護膜を形成すること、
前記保護膜の上に、ハンドリング用膜を形成すること、
前記剥離層と前記電極及び前記保護膜との界面を剥離させて、前記電極、前記保護膜、及び前記ハンドリング用膜を含む電極フィルムを得ること、及び
前記ハンドリング用膜を除去すること、
を含む、有機半導体デバイスのソース/ドレイン用電極の製造方法。
(8)前記剥離層を形成することが、
前記基板の表面をUVオゾン処理して、前記基板の表面に水酸基を形成すること、及び
前記水酸基を形成した基板の表面にSAM処理を行うこと
を含む、上記(7)に記載の有機半導体デバイスのソース/ドレイン用電極の製造方法。
(9)前記剥離層を形成することが、
前記基板の表面に撥液性高分子層を形成すること、
前記撥液性高分子層を形成した基板上にフォトマスクまたはメタルマスクを配置すること、
前記基板に対し、前記フォトマスクまたはメタルマスクを配置した側からUV照射を行い、前記照射した箇所の前記撥液性高分子層を分解し、前記撥液性高分子層を分解した箇所に水酸基を形成すること、及び
前記水酸基を形成した箇所にSAM処理を行うこと
を含み、
前記チャネル長が200μm以下である10組以上のソース/ドレイン用電極を形成することが、
前記剥離層上に、金属粒子を含む導電性インクを塗布すること、及び
前記導電性インクを塗布した前記剥離層が形成された前記基板に、前記金属粒子を触媒として無電解めっきを行い、前記チャネル長が200μm以下である10組以上のソース/ドレイン用のめっきを備えた電極を形成すること
を含む、
上記(7)に記載の有機半導体デバイスのソース/ドレイン用電極の製造方法。
(10)有機半導体デバイスの製造方法であって、
表面粗さRqが2nm以下の基板を準備すること、
前記基板の表面に剥離層を形成すること、
前記剥離層上に、チャネル長が200μm以下である10組以上のソース/ドレイン用電極を形成すること、
前記剥離層及び前記電極の上に、保護膜を形成すること、
前記保護膜の上に、ハンドリング用膜を形成すること、
前記剥離層と前記電極及び前記保護膜との界面を剥離させて、前記電極、前記保護膜、及び前記ハンドリング用膜を含む電極フィルムを得ること、
前記電極フィルムを、有機半導体膜上に配置すること、及び
前記ハンドリング用膜を除去すること、
を含む、有機半導体デバイスの製造方法。
(11)前記剥離層を形成することが、
前記基板の表面をUVオゾン処理して、前記基板の表面に水酸基を形成すること、及び
前記水酸基を形成した基板の表面にSAM処理を行うこと
を含む、上記(10)に記載の有機半導体デバイスの製造方法。
(12)前記剥離層を形成することが、
前記基板の表面に撥液性高分子層を形成すること、
前記撥液性高分子層を形成した基板上にフォトマスクまたはメタルマスクを配置すること、
前記基板に対し、前記フォトマスクまたはメタルマスクを配置した側からUV照射を行い、前記照射した箇所の前記撥液性高分子層を分解し、前記撥液性高分子層を分解した箇所に水酸基を形成すること、及び
前記水酸基を形成した箇所にSAM処理を行うこと
を含み、
前記チャネル長が200μm以下である10組以上のソース/ドレイン用電極を形成することが、
前記剥離層上に、金属粒子を含む導電性インクを塗布すること、及び
前記導電性インクを塗布した前記剥離層が形成された前記基板に、前記金属粒子を触媒として無電解めっきを行い、前記チャネル長が200μm以下である10組以上のソース/ドレイン用のめっきを備えた電極を形成すること
を含む、
上記(10)に記載の有機半導体デバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、有機半導体が経時変化しにくく、有機半導体デバイスの実用的な集積回路の製造に適用することが可能な微細な電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本開示のソース/ドレイン用電極を表面からみた顕微鏡写真である。
図2図2は、本開示のソース/ドレイン用電極の断面模式図である。
図3図3は、保護膜を備えた本開示のソース/ドレイン用電極の断面模式図である。
図4図4は、保護膜を備えた本開示のソース/ドレイン用電極の断面模式図である。
図5図5は、ゲート電極、ゲート絶縁膜、有機半導体膜、及び本開示のソース/ドレイン用電極を含む有機半導体デバイスの断面模式図である。
図6図6は、ゲート電極、ゲート絶縁膜、有機半導体膜、及び本開示のソース/ドレイン用電極を含む有機半導体デバイスの断面模式図である。
図7図7は、剥離層を形成した基板の断面模式図である。
図8図8は、剥離層上に電極を形成した基板の断面模式図である。
図9図9は、保護膜を形成した基板、剥離層、及び電極の断面模式図である。
図10図10は、ハンドリング用膜を形成した基板、剥離層、電極、及び保護膜の断面模式図である。
図11図11は、電極とハンドリング用膜とで保護膜を挟んだ電極フィルムの断面模式図である。
図12図12は、有機半導体膜66上に配置した電極フィルムの断面模式図である。
図13図13は、Au電極と水溶性ポリマーのPVA膜とで保護膜であるPMMA膜を挟んだ電極フィルムの外観写真である。
図14図14は、図13のAu電極パターンを拡大した顕微鏡写真である。
図15図15は、得られた有機半導体デバイスの外観写真である。
図16図16は、連続エッジキャスト法で製膜したC-DNBDT-NWの単分子層膜のレーザー共焦点顕微鏡写真である。
図17図17は、図16のC-DNBDT-NWの単分子層膜を原子間力顕微鏡(AFM)で測定した結果である。
図18図18は、飽和領域におけるゲート電圧とドレイン電流との関係を表す伝達特性のグラフである。
図19図19に、線形領域におけるゲート電圧とドレイン電流との関係を表す伝達特性のグラフである。
図20図20に、ゲート電圧によるドレイン電圧とドレイン電流との関係を表す出力特性のグラフである。
図21図21に、飽和領域におけるゲート電圧とドレイン電流との関係を表す伝達特性のグラフである。
図22図22に、線形領域におけるゲート電圧とドレイン電流との関係を表す伝達特性のグラフである。
図23図23に、ゲート電圧によるドレイン電圧とドレイン電流との関係を表す出力特性のグラフである。
図24図24に、飽和領域におけるゲート電圧とドレイン電流との関係を表す伝達特性のグラフである。
図25図25に、線形領域におけるゲート電圧とドレイン電流との関係を表す伝達特性のグラフである。
図26図26に、ゲート電圧によるドレイン電圧とドレイン電流との関係を表す出力特性のグラフである。
図27図27に、飽和領域におけるゲート電圧とドレイン電流との関係を表す伝達特性のグラフである。
図28図28に、線形領域におけるゲート電圧とドレイン電流との関係を表す伝達特性のグラフである。
図29図29に、ゲート電圧によるドレイン電圧とドレイン電流との関係を表す出力特性のグラフである。
図30図30は、本開示のソース/ドレイン用電極の一例の上面写真である。
図31図31は、図30の破線で囲んだ1組のソース/ドレイン用電極の拡大写真である。
図32図32は、飽和領域におけるゲート電圧とドレイン電流との関係を表す伝達特性のグラフである。
図33図33は、線形領域におけるゲート電圧とドレイン電流との関係を表す伝達特性のグラフである。
図34図34は、ゲート電圧によるドレイン電圧とドレイン電流との関係を表す出力特性のグラフである。
図35図35は、飽和領域におけるゲート電圧とドレイン電流との関係を表す伝達特性のグラフである。
図36図36は、線形領域におけるゲート電圧とドレイン電流との関係を表す伝達特性のグラフである。
図37図37は、ゲート電圧によるドレイン電圧とドレイン電流との関係を表す出力特性のグラフである。
図38図38は、飽和領域におけるゲート電圧とドレイン電流との関係を表す伝達特性のグラフである。
図39図39は、線形領域におけるゲート電圧とドレイン電流との関係を表す伝達特性のグラフである。
図40図40は、ゲート電圧によるドレイン電圧とドレイン電流との関係を表す出力特性のグラフである。
図41図41は、電極の表面粗さRqが0.6nmのAFM測定結果の一例である。
図42図42は、ゲート電極、ゲート絶縁膜、有機半導体膜、及び本開示のソース/ドレイン用電極を含む有機半導体デバイスの断面模式図である。
図43図43は、ゲート電極、ゲート絶縁膜、有機半導体膜、及び本開示のソース/ドレイン用電極を含む有機半導体デバイスの断面模式図である。
図44図44は、V-Vthのそれぞれについてチャネル長LとRtotal・Wとの関係を表すグラフである。
図45図45は、V-VthとR・Wとの関係を表すグラフである。
図46図46は、撥液性高分子層を形成した基板の断面模式図である。
図47図47は、撥液性高分子層を形成した基板にフォトマスクまたはメタルマスクを配置した側から真空紫外光を照射する態様を表す断面模式図である。
図48図48は、撥液性高分子層を分解した箇所に水酸基を形成した基板の断面模式図である。
図49図49は、水酸基を形成した箇所に自己組織化単分子膜を形成した基板の表面の断面模式図である。
図50図50は、自己組織化単分子膜を形成した基板上に導電性インクをブレードコート法で塗布してパターニングされた電極を形成する態様を表す断面模式図である。
図51図51は、塗布法で形成したパターニングされたAg粒子で構成される塗膜の外観写真である。
図52図52は、真空紫外光を照射する前のCYTOP(登録商標)とオクタンの濡れ性を評価した写真である。
図53図53は、自己組織化単分子膜を形成した後に、CYTOP(登録商標)及びF-SAMとオクタンの濡れ性を評価した写真である。
図54図54は、パターニングされためっきを備えた電極が形成された基板の断面模式図である。
図55図55は、Auめっきを備えたソース/ドレイン用電極の外観写真である。
図56図56は、ボトムゲート/トップコンタクト構造の有機電界効果トランジスタの断面模式図である。
図57図57は、Auめっきを備えた電極、パリレン(登録商標)保護膜、及びPVAハンドリング用膜を含む電極フィルムの断面模式図である。
図58図58は、フォトンエネルギー(hν)に対してY1/2をプロットした仕事関数の測定結果である。
図59図59は、チャネル長/チャネル幅が100μm/315μmのソースドレイン電極の外観写真である。
図60図60は、飽和領域におけるゲート電圧とドレイン電流との関係を表す伝達特性のグラフである。
図61図61は、線形領域におけるゲート電圧とドレイン電流との関係を表す伝達特性のグラフである。
図62図62は、ゲート電圧によるドレイン電圧とドレイン電流との関係を表す出力特性のグラフである。
図63図63は、接触抵抗を評価した範囲を破線で示した外観写真である。
図64図64は、V-Vthのそれぞれについてチャネル長LとRtotal・Wとの関係を表すグラフである。
図65図65は、V-VthとR・Wとの関係を表すグラフである。
図66図66は、塗布法で形成したパターニングされたAg粒子で構成される塗膜の外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示は、有機半導体デバイスのソース/ドレイン用電極であって、10組以上の電極を含み、前記各組における電極間のチャネル長が200μm以下であり、前記各組における電極が、表面粗さRqが2nm以下の面を有する、電極を対象とする。
【0011】
図30に、本開示のソース/ドレイン用電極の一例であって50組の電極の上面写真を示す。図31に、図30の破線で囲んだ1組のソース/ドレイン用電極の拡大写真を示す。図1に、本開示のソース/ドレイン用電極の一例のうち3組を拡大した顕微鏡写真を示す。図2に、本開示のソース/ドレイン用電極の1組の断面模式図を示す。図2は、図1のA-Aの断面模式図である。
【0012】
図30においては、1.5cm角に50組のソース/ドレイン用電極が形成されている。各組の電極のチャネル長は200μmであり、各組における電極は、表面粗さRqが2nm以下の面を有し、各組の電極のチャネル幅は1000μmである。図41に、本開示のソース/ドレイン用電極のAFM測定結果の一例を示す。図41は、PMMA保護膜及びPVAハンドリング用膜を備えたAu電極の、表面粗さRqが0.6nmのAFM測定結果である。
【0013】
本開示のソース/ドレイン用電極は、10組以上、好ましくは50組以上、より好ましくは1000組以上、さらに好ましくは10000組以上を、さらにより好ましくは50000組以上のソース/ドレイン用電極を含む。
【0014】
図1において、上から1つ目の電極10、20は、チャネル長Lが10μm、チャネル幅Wが500μmである。上から2つ目の電極12、22は、チャネル長Lが20μm、チャネル幅Wが500μmである。上から3つ目の電極14、24は、チャネル長Lが40μm、チャネル幅Wが500μmである。
【0015】
本開示のソース/ドレイン用電極の各組における電極間のチャネル長は、200μm以下、好ましくは100μm以下、より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは1μm以下、さらにより好ましくは0.5μm以下である。本願において、チャネル長とは、電極各組(1素子)内のチャネル長である。10組以上の各電極において、チャネル長は200μm以下であれば、互いに異なってもよい。チャネル長の下限値は特に限定されないが、好ましくは、下記に説明する保護膜の厚みの下限値と同程度の0.05μm程度にしてもよい。本開示のソース/ドレイン用電極のチャネル長は小さいので、本開示のソース/ドレイン用電極を含む有機半導体デバイスは、実用的な高周波数での動作が可能である。実用的な周波数とは、好ましくは10kHz以上、より好ましくは100kHz以上、さらに好ましくは1MHz以上、さらにより好ましくは10MHz以上である。チャネル長は、電極各組(1素子)内において、チャネル幅方向に3点測定した値の平均値である。3点の測定位置は、チャネル幅を4等分して、中心点とその両側の2点の位置である。
【0016】
チャネル幅は特に限定されず、例えば100μm~10000μmであることができる。
【0017】
本開示のソース/ドレイン用電極は、表面粗さRqが2nm以下の面を有する。図2において、電極10の面101及び電極20の面201は、2nm以下の表面粗さRqを有する。電極の表面粗さRqは、好ましくは1nm以下、より好ましくは0.5nm以下である。電極の表面粗さRqの下限値は特に限定されないが、例えば0.1nmでもよい。
【0018】
本開示のソース/ドレイン用電極は、有機半導体デバイスに用いる際に、表面粗さRqが2nm以下の面が有機半導体膜と接する。
【0019】
有機半導体膜の電極と接する面の表面粗さRqも小さく、好ましくは2nm以下である。互いに表面粗さが小さい有機半導体膜と電極とが接するように配置すると、有機半導体膜と電極の間の密着性を向上することができ、且つ有機半導体膜の構造を破壊しない。そのため、本開示のソース/ドレイン用電極を含む有機半導体デバイスは、良好な特性を示すことができる。有機半導体膜の表面粗さRqは、好ましくは1nm以下、より好ましくは0.5nm以下である。有機半導体膜の表面粗さRqの下限値は特に限定されないが、例えば0.1nmでもよい。電極の表面粗さRqは、電極各組(1素子)の、剥離層から剥離した後に有機半導体膜と接する面において、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて3点測定した値の二乗平均平方根粗さであり、平均線から測定曲線までの偏差の二乗を平均した値の平方根の値である。3点の測定位置は、電極の面内を通る最長の線を4等分して、中心点とその両側の2点の位置である。電極の面内を通る最長の線とは、例えば電極が円の場合は直径であり、電極が四角形の場合は対角線である。
【0020】
本開示のソース/ドレイン用電極は、各組における電極間のチャネル長の平行度が、好ましくは1度以下、より好ましくは0.5度以下、さらに好ましくは0.1度以下、さらにより好ましくは0.01度以下である。チャネル長の平行度とは、電極各組(1素子)のチャネル長を形成する対向する電極の辺がなす角度である。電極各組は、チャネル長の平行度に優れているため、本開示のソース/ドレイン用電極を含む有機半導体デバイスは、設計通りの特性を示すことができる。
【0021】
対向する電極の辺がなす角度(平行度)の測定方法は、以下のように行う:電極各組(1素子)のチャネル長及びチャネル幅の全体が含まれる範囲で、できるだけ大きな倍率でチャネル長のSEM観察を行う。SEM観察により得られたSEM画像に基づいて、電極各組(1素子)の対向する電極の辺(2辺)について、チャネル幅方向にチャネル幅を4等分して、チャネル幅の両端部を含む5点の辺の位置の測定を行い、最小二乗法により、測定した5点からの距離の二乗の和が最小になるような直線を特定する。特定した2つの直線のなす角度を測定し、平行度を算出する。
【0022】
電極の材料は、有機半導体デバイスに用いられるものであれば特に限定されないが、好ましくはAu、Ag、カーボン、導電性高分子、またはこれらの組み合わせであり、より好ましくはAuである。
【0023】
電極の厚みは、好ましくは20~200nm、より好ましくは25~100nm、さらに好ましくは30~50nmである。
【0024】
本開示のソース/ドレイン用電極は、好ましくは、1μm以下の厚みを有するガラス転移点が80℃以上の絶縁性ポリマーからなり、静電気力で電極10、20の面101、201とは反対側の面に貼り付き、且つチャネルの少なくとも一部に延在する保護膜をさらに有する。
【0025】
保護膜は、ガラス転移点が80℃以上の粘着性を有しない絶縁性ポリマーからなるので、有機半導体膜に対して長期的にダメージを与えず、有機半導体が経時変化しにくい。また、厚みを1μm以下の薄膜にすることによって、保護膜と電極との間、及び保護膜と有機半導体膜との間に静電気力による接着力を発現することができる。本願において、有機半導体の経時変化は、有機半導体を含む半導体デバイスの移動度の値を、所定の期間、好ましくは4週間以上、より好ましくは8週間以上測定することによって、評価される。
【0026】
理論に束縛されるものではないが、上述のように、ガラス転移点が低いタック性を有するエラストマーを用いると時間経過とともに比較的短期間で有機半導体膜が損傷しやすいが、1μm以下の厚みを有するガラス転移点が80℃以上の絶縁性ポリマーは、有機半導体膜と静電気力で接着するために、有機半導体膜の長期的な安定性が高く、有機半導体が経時変化しにくいと考えられる。
【0027】
図3に、保護膜30を備えた本開示のソース/ドレイン用電極10、20の断面模式図を示す。保護膜30の厚みは、好ましくは1μm以下、より好ましくは1μm未満、さらにより好ましくは0.5μm以下の厚みを有する。保護膜の厚みの下限値は、特に限定されないが、絶縁膜を安定して形成する観点から、0.05μmである。
【0028】
保護膜30のガラス転移点は、80℃以上、好ましくは90℃以上、より好ましくは100℃以上である。前記範囲のガラス転移点を有する絶縁性ポリマーは、ガラス転移点が室温より十分に高いので、有機半導体膜に接して配置されたときに有機半導体膜を劣化させにくく、有機半導体が経時変化しにくい。
【0029】
保護膜30は、静電気力で電極10、20の面101、201とは反対側の面に貼り付く。図4に示すように、保護膜30は、電極10、20の間の破線で示した領域のチャネル40の少なくとも一部に延在すればよい。好ましくは、保護膜30は、図3に示すようにチャネル40の実質的に全ての領域に延在する。
【0030】
保護膜30は、粘着力を実質的に有さず、実質的に静電気力で電極10、20に貼り付く。保護膜30は、電極形成後の電極のハンドリングを容易にし、後述するハンドリング用膜の除去時においては電極が破壊されることを防止し、本開示の電極を用いた有機半導体デバイスにおいては、有機半導体膜から電極が剥がれることを抑制することができる。
【0031】
保護膜30の材料は、好ましくは、ガラス転移点が約100℃のポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ガラス転移点が約108℃のCYTOP(登録商標)等のフッ素系ポリマー、ガラス転移点が約109℃のポリパラキシリレン(パリレン(登録商標))、またはガラス転移点が200℃以上のポリアダマンチルメタクリレート(PADMA)である。
【0032】
本開示のソース/ドレイン用電極は、好ましくはめっきを備える。ソース/ドレイン用電極がめっきを備えたものであることによって、電極の仕事関数を制御し、電極から有機半導体へのキャリア注入を向上することができる。
【0033】
めっきは、好ましくはAuめっき、Agめっき、Ptめっき、またはCuめっきであり、より好ましくはAuめっきである。ソース/ドレイン用電極が前記好ましい金属めっきを備えていることにより、有機半導体へのキャリア注入に有利な高仕事関数の電極を形成することができる。
【0034】
仕事関数は、光電子収量分光(Photoelectron Yield Spectroscopy:PYS)で、下式:
【数1】
(式中、Yは光電子収量、hはプランク定数、νは光子の振動数、Wは仕事関数である)により測定される。物質に一定以上のエネルギーを持った光を照射すると、光電効果により電子が物質から放出される。この電子が放出され始めるエネルギーが仕事関数に相当する。PYSでは照射する光のエネルギーを変えながら放出された電子を計測することによって測定が行われる。検出には、照射した光子数に対する電子の放出数の割合を表す光電子収量(Y)、照射する光のエネルギーをhν、及び測定する物質の仕事関数をWとすると、
【数2】
という関係が成立する。nは材料の種類により決定される値であり、金属の場合はn=2である。Y1/2をhνに対してプロットし、Wとみられる箇所の前後の領域でそれぞれ直線近似を行う。これにより得られた二直線の交点を求めることでWが得られる。
【0035】
図5及び図6に、ゲート電極54、ゲート絶縁膜52、有機半導体膜66、及び本開示のソース/ドレイン用電極10、20を含む有機半導体デバイス100、200の断面模式図を示す。図5は、トップゲート/トップコンタクト構造の断面模式図であり、図6は、ボトムゲート/トップコンタクト構造の断面模式図である。
【0036】
図5及び図6の有機半導体デバイス100、200においては、電極10、20が、ソース/ドレイン電極として含まれる。
【0037】
ゲート電極54は、従来用いられているゲート電極の材料で構成され得、例えばdoped-Siであることができる。doped-Siは、ゲート電極として抵抗値が十分に低く従来用いられているものであることができる。
【0038】
ゲート絶縁膜52も、従来用いられているゲート絶縁膜の材料で構成され得る。
【0039】
トップゲート/トップコンタクト構造においては、ゲート絶縁膜52は、絶縁性ポリマーからなる保護膜30と一体で構成されてもよい。
【0040】
下地層56も、従来用いられている基板、平滑化層、及び表面修飾を行った層を含む層であることができる。下地層56は、例えば、ガラス、ガラスの表面をパリレン(登録商標)、トリメトキシ(2-フェニルエチル)シラン(β-PTS)等の膜で被覆したもの、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のプラスチック基板、PET、PEN等のプラスチック基板の表面をパリレン(登録商標)等の膜で被覆したもの、それらの基板上にトランジスタ等のデバイスを作製したもの、またはそれらのデバイス上にパリレン(登録商標)、アルミナ等の層間絶縁膜を堆積させたものが挙げられる。
【0041】
保護膜30を備えた本開示のソース/ドレイン用電極を用意した場合、有機半導体デバイス100、200において、保護膜30をそのまま絶縁性薄膜として用いてもよく、あるいは、保護膜30を一旦溶解させ、保護膜30を新たに形成、またはゲート絶縁膜52と一体の保護膜30を新たに形成してもよい。
【0042】
有機半導体デバイスにおいて、好ましくは、有機半導体膜の電極と接する面の表面粗さRqは2nm以下である。互いに表面粗さが小さい有機半導体膜と電極とが接するように配置すると、有機半導体膜と電極の間の密着性を向上することができ、且つ接触抵抗を低減することができる。有機半導体膜の表面粗さRqは、有機半導体膜の表面において、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて3点測定した値の二乗平均平方根粗さであり、平均線から測定曲線までの偏差の二乗を平均した値の平方根の値である。3点の測定位置は、有機半導体膜の面内を通る最長の線を4等分して、中心点とその両側の2点の位置である。有機半導体膜の面内を通る最長の線とは、例えば有機半導体膜が円の場合は直径であり、有機半導体膜が四角形の場合は対角線である。
【0043】
本開示の有機半導体デバイスの接触抵抗R・Wは、好ましくは200Ω・cm以下、より好ましくは175Ω・cm以下、さらに好ましくは150Ω・cm以下、さらにより好ましくは125Ω・cm以下である。Rは接触抵抗、Wはチャネル幅である。
【0044】
有機半導体デバイスの接触抵抗は、Transmission Line Method (TLM)法を用いて評価される。TLM法は、下式:
【数3】
(式中、Rtotalは有機半導体デバイスの抵抗、Rは接触抵抗、Lはチャネル長、μintは接触抵抗の影響を除いた有機半導体デバイス本来の移動度、Wはチャネル幅、Cは単位面積あたりのキャパシタンス、Vはゲート電圧、Vthは閾値電圧である)に基づいて、複数のチャネル長の有機半導体デバイスについて、チャネル長Lに対して抵抗Rtotal・Wをプロットし、その回帰直線のy切片からR・Wを間接的に見積もる方法である。Rtotal・Wは、線形領域の伝達特性においてドレイン電圧Vを、ドレイン電流ID,linで除算することによって得られる。
【0045】
本開示のソース/ドレイン用電極を含む有機半導体デバイスは、有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子、有機太陽電池素子、有機光電変換素子、有機トランジスタ素子、有機電界効果トランジスタ(OFET)素子等であることができる。
【0046】
本開示はまた、有機半導体デバイスのソース/ドレイン用電極の製造方法であって、表面粗さRqが2nm以下の基板を準備すること、前記基板の表面に剥離層を形成すること、前記剥離層上に、チャネル長が200μm以下である10組以上のソース/ドレイン用電極を形成すること、前記剥離層及び前記電極の上に、保護膜を形成すること、前記保護膜の上に、ハンドリング用膜を形成すること、前記剥離層と前記電極及び前記保護膜との界面を剥離させて、前記電極、前記保護膜、及び前記ハンドリング用膜を含む電極フィルムを得ること、及び前記ハンドリング用膜を除去すること、を含む、有機半導体デバイスのソース/ドレイン用電極の製造方法を対象とする。
【0047】
本開示の方法によれば、10組以上の電極を含み、前記各組における電極間のチャネル長が200μm以下であり、前記各組における電極が、表面粗さRqが2nm以下の面を有する、有機半導体デバイスのソース/ドレイン用電極を得ることができる。
【0048】
本開示の方法においては、表面粗さRqが2nm以下の基板を準備する。基板の表面粗さRqは、好ましくは1nm以下、より好ましくは0.5nm以下である。基板の表面粗さRqの下限値は特に限定されないが、例えば0.1nmでもよい。本開示の方法によれば、基板の表面粗さRqと実質的に同じ表面粗さのソース/ドレイン用電極を得ることができる。基板の表面粗さRqは、基板の表面において、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて3点測定した値の二乗平均平方根粗さであり、平均線から測定曲線までの偏差の二乗を平均した値の平方根の値である。3点の測定位置は、基板の面内を通る最長の線を4等分して、中心点とその両側の2点の位置である。基板の面内を通る最長の線とは、例えば基板が円の場合は直径であり、基板が四角形の場合は対角線である。
【0049】
上記表面粗さRqを有する基板は、好ましくは、ガラス基板またはシリコン基板であり、例えば、Corning社のEAGLE XG(登録商標)である。上記表面粗さRqを有する基板は、ガラス基板やシリコン基板等の基板を研磨することにより準備してもよい。
【0050】
本開示の方法においては、準備した基板の表面に剥離層を形成する。
【0051】
剥離層を形成する一実施形態は、好ましくは、準備した基板の表面をUVオゾン(UV/O)処理して基板の表面に水酸基を形成すること、及び前記水酸基を形成した基板の表面にSAM(Self Assembled Monolayer)処理を行うことを含む。
【0052】
UVオゾン処理を行うことにより、基板の表面の有機物を酸化して除去して、酸化膜の表面に水酸基を作ることができる。UVオゾン処理では、例えば、大気中の酸素(O)が約185nmの波長の紫外線を吸収してオゾン(O)を生成し、生成されたオゾン(O)が約254nmの波長の紫外線を吸収してOと活性酸素を発生し、活性酸素が基板の表面の有機物を酸化分解して、酸化膜の表面に水酸基を作ることができる。
【0053】
水酸基を形成した基板の表面にSAM処理を行うことにより、基板の表面に剥離層を形成することができる。図7に、UVオゾン処理及びSAM処理により剥離層62を形成した基板60の断面模式図を示す。SAM処理は、表面エネルギーを調整するために行う。
【0054】
剥離層62は、後の工程で形成する電極及び保護膜を、基板60から剥離させるための膜である。剥離層62は基板60側に残り、電極及び保護膜を剥離させる。剥離層62は、好ましくは自己組織化単分子膜である。電極と自己組織化単分子膜との間の密着力は、電極と保護膜との間の密着力よりも弱く、且つ保護膜と自己組織化単分子膜との間の密着力は、保護膜とハンドリンク膜との間の密着力よりも弱い。
【0055】
自己組織化単分子膜は、好ましくは、直鎖のアルキル基またはフルオロアルキル基を有し、末端基がアルキル基、フルオロアルキル基、フェニル基、またはフルオロフェニル基である。このような自己組織化単分子膜は、接触角が好ましくは80度以上、より好ましくは90度以上、さらに好ましくは95度以上の疎水性の膜であるので、後の工程で自己組織化単分子膜上に形成する電極及び保護膜を容易に剥離することができる。
【0056】
直鎖のアルキル基(CH)において、nは特に限定されないが、好ましくは8~18である。同様に、直鎖のフルオロアルキル基(CF)において、nは特に限定されないが、好ましくは1~10である。
【0057】
自己組織化単分子膜は、例えば、デシルトリメトキシシラン(DTS)、トリエトキシ-1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシルシラン(F-SAM)、またはトリメトキシ(2-フェニルエチル)シラン(β-PTS)である。DTSは約101度の接触角を有し、F-SAMは約110度の接触角を有し、β-PTSは約80度の接触角を有するので、後の工程で自己組織化単分子膜上に形成する電極及び保護膜を、基板からより容易に剥離しやすくなる。
【0058】
SAM処理は、気相法または液相法で行うことができる。
【0059】
気相法は、水酸基を形成した基板をSAM分子の飽和蒸気に暴露する方法である。これにより、SAM分子と水酸基とが脱水縮合して、基板の表面に自己組織化単分子膜を形成することができる。
【0060】
基板をSAM分子の飽和蒸気に暴露することは、例えば密閉容器中にSAM溶液と基板とを配置し、加熱によりSAM分子の飽和蒸気雰囲気を形成し、SAM分子の飽和蒸気雰囲気中に基板を静置することで行うことができる。静置時間は、2~5時間程度であることができる。加熱温度は、120~150℃程度であることができる。
【0061】
基板をSAM分子の飽和蒸気に暴露した後、基板を洗浄する。DTSの場合、トルエンで洗浄後、2-プロパノールで洗浄する。F-SAMの場合:2-プロパノールで洗浄する。β-PTSの場合、トルエンで洗浄後、2-プロパノールで洗浄する。
【0062】
液相法は、表面に水酸基を形成した基板を、SAM分子を溶解させた溶液中に浸漬する方法である。これによっても、基板の表面に自己組織化単分子膜を形成することができる。
【0063】
本開示の方法においては、基板上に形成した剥離層上に、電極を形成する。図8に、剥離層62上に電極10、20を形成した基板60の断面模式図を示す。
【0064】
電極の形成方法としては特に限定されないが、真空プロセスまたは溶液プロセスを用いて、電極材料の膜または電極を形成することができる。
【0065】
例えば、グラビアオフセット印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷等の印刷法を用いて、剥離層上に電極を形成することができる。あるいは、電極材料の膜を、真空蒸着、またはスピンコート、ディップコート、ロールコート、スプレーコート、フローコート、ブレードコート、プッシュコート等により剥離層上に塗工し、形成した電極材料の膜を、フォトリソグラフィを用いてパターニングして、電極を形成することができる。
【0066】
電極材料に応じて電極の形成方法を選べばよく、電極材料がAuの場合は、真空蒸着し、フォトリソグラフィによってパターニングを行って、電極を形成することが好ましい。
【0067】
電極がAgの場合は、グラビアオフセット印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷等の印刷法を用いて、剥離層上に電極を形成することが好ましい。
【0068】
電極がカーボンの場合は、スプレーコート、ブレードコート等を用いて、剥離層上に電極を形成することが好ましい。
【0069】
電極が導電性高分子の場合は、スピンコート、プッシュコート等を用いて、剥離層上に電極を形成することが好ましい。
【0070】
剥離層を形成する他の実施形態は、好ましくは、基板の表面に撥液性高分子層を形成すること、撥液性高分子層を形成した基板上にフォトマスクまたはメタルマスクを配置すること、基板に対し、フォトマスクまたはメタルマスクを配置した側からUV(紫外光)照射を行い、照射した箇所の撥液性高分子層を分解し、撥液性高分子層を分解した箇所に水酸基を形成すること、水酸基を形成した箇所にSAM処理を行うことを含む。
【0071】
撥液性高分子層を形成すること、撥液性高分子層を分解した箇所に水酸基を形成すること、及び水酸基を形成した箇所にSAM処理を行うことを含む本実施形態においては、チャネル長が200μm以下である10組以上のソース/ドレイン用電極を形成することは、剥離層上に、金属粒子を含む導電性インクを塗布すること、及び導電性インクを塗布した剥離層が形成された基板に、金属粒子を触媒として無電解めっきを行い、チャネル長が200μm以下である10組以上のソース/ドレイン用のめっきを備えた電極を形成することを含む。
【0072】
撥液性高分子層を形成すること、撥液性高分子層を分解した箇所に水酸基を形成すること、及び水酸基を形成した箇所にSAM処理を行うことを含む本実施形態では、撥液性高分子層及びSAM処理を施した箇所の導電性インクに対する濡れ性の差を利用して、電極のパターニングを行う。
【0073】
基板の表面に撥液性高分子層を形成することは、塗布法により行うことができる。塗布法としては、従来用いられている方法を用いることができ、例えば、エッジキャスト法、連続エッジキャスト法、ドロップキャスト法、スピンコーティング法、印刷法(インクジェット法やグラビア印刷法)、ディスペンサー法、及びスプレー法、ディップコート法、ダイコーター法、ロールコーター法、バーコーター法、ブレードコーティング法等を用いることができる。
【0074】
撥液性高分子層の厚みは、好ましくは1~50nm、より好ましくは2~30nm、さらに好ましくは3~20nm、さらにより好ましくは5~15nmである。撥液性高分子層が前記好ましい厚みを有することにより、形成する電極の表面粗さを小さくすることができる。
【0075】
撥液性高分子層の材料は、好ましくは、CYTOP(登録商標)、ポリトリフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)等のフッ素系高分子である。基板の表面に撥液性高分子層を形成する前に、基板の表面にUV処理を行ってもよい。
【0076】
撥液性高分子層を形成した基板上に配置するフォトマスクまたはメタルマスクは、UV光を遮断できるものであれば特に限定されず、例えばクロム製であることができる。
【0077】
撥液性高分子層を形成した基板に対し、フォトマスクまたはメタルマスクを配置した側からUV照射を行い、照射箇所の撥液性高分子層を分解し、撥液性高分子層を分解した箇所に水酸基を形成する。水酸基を形成することにより表面が親水化する。
【0078】
UV照射することにより撥液性高分子層は分解されるが、撥液性高分子層のすべてが分解されずに一部が残存してもよい。水酸基は、撥液性高分子層が分解されて露出した基板上、残存した撥液性高分子層上、または露出した基板上及び残存した撥液性高分子層上の両方に形成され得る。
【0079】
UV光は、好ましくは真空紫外光である。真空紫外光を照射することにより、撥液性高分子層をより効率的に分解して撥液性高分子層を分解した箇所に水酸基を形成することができる。真空紫外光の中心波長は約10~200nmである。
【0080】
UV照射により水酸基が生成した箇所にSAM処理を行う。SAM処理は、UV照射により水酸基を生成させた基板全体に対して行うが、UV照射箇所のみ選択的に自己組織化単分子膜を形成することができる。
【0081】
自己組織化単分子膜は、好ましくは、直鎖のアルキル基またはフルオロアルキル基を有し、末端基がアルキル基、フルオロアルキル基、フェニル基、またはフルオロフェニル基である。このような自己組織化単分子膜は、後の工程で自己組織化単分子膜上に塗布及びめっきにより形成する電極を容易に剥離することができる。
【0082】
直鎖のアルキル基(CH)において、nは特に限定されないが、好ましくは8~18である。同様に、直鎖のフルオロアルキル基(CF)において、nは特に限定されないが、好ましくは1~10である。
【0083】
自己組織化単分子膜は、例えば、デシルトリメトキシシラン(DTS)、トリエトキシ-1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシルシラン(F-SAM)、またはトリメトキシ(2-フェニルエチル)シラン(β-PTS)であり、好ましくはF-SAMである。後の工程で自己組織化単分子膜上に塗布及びめっきにより形成する電極をより容易に剥離しやすくなる。
【0084】
剥離層上に金属粒子を含有する導電性インクを塗布する。導電性インクの塗布方法は特に限定されず、例えばブレードコート法等であることができる。SAM処理を施した箇所にのみ選択的に導電性インクを塗布することができる。導電性インクの溶媒に対し、SAM処理を施した箇所は親液性であり、フォトマスクまたはメタルマスク部分(撥液性高分子層)は撥液性であるため、実質的にSAM処理を施した箇所にのみ選択的に導電性インクを塗布することができる。この方法によれば、チャネル長の下限値は、好ましくは、チャネル長の平行度を0.1度以下に高精度に形成する観点からは8μm程度であり、例えばL/S=10μm/10μmの高精細なパターニングが可能である。
【0085】
導電性インクの金属粒子は、好ましくは、Ag、Au、Pt、Cu、Pd、Niまたはそれらの組み合わせである。
【0086】
導電性インクの溶媒は、撥液性高分子層が相対的に撥液性であり、SAM処理を施した箇所が相対的に親液性となる溶媒であればよい。導電性インクの溶媒は、好ましくは、撥液性高分子層との接触角とSAM処理を施した箇所との接触角との差が好ましくは3°以降、より好ましくは5°以上となる溶媒である。導電性インクの溶媒は、さらに好ましくは、オクタン、トルエン、テトラデカン、酢酸ブチルまたはそれらの組み合わせの有機溶媒である。導電性インクの溶媒中の固形分濃度は、好ましくは0.1~30wt%である。
【0087】
塗布した導電性インクの金属粒子を触媒として無電解めっきを行い、めっきを備えた電極を形成する。ソース/ドレイン用電極がめっきを用いて形成されることによって、電極の仕事関数を制御し、電極から有機半導体へのキャリア注入を向上することができる。また、塗布した導電性インクの金属粒子を触媒として無電解めっきを行うことによって、島状の金属粒子の間にめっきが形成されて表面粗さRqが2nm以下の面を有するソース/ドレイン用電極が得られる。すなわち、撥液性高分子層を形成すること、撥液性高分子層を分解した箇所に水酸基を形成すること、及び水酸基を形成した箇所にSAM処理を行うことを含む本実施形態において、ソース/ドレイン用電極は金属粒子及びめっきを含む。めっきは、好ましくはAuめっき、Agめっき、Ptめっき、またはCuめっきであり、より好ましくはAuめっきである。ソース/ドレイン用電極がAuめっきを備えることにより、有機半導体へのキャリア注入に有利な高仕事関数の電極を形成することができる。
【0088】
無電解めっきは、従来用いられている自己触媒型還元めっきであることができる。めっき液には金属イオンや還元剤の他に、pHの変動を防ぐ緩衝材や金属イオンを安定化させる錯化剤等が含まれている。このめっき液に金属粒子を含む導電性インクを塗布した基板を浸漬させると、金属粒子を触媒とした還元反応によりめっき液中の金属イオンが析出してめっき皮膜を形成することができる。
【0089】
本開示の方法においては、上記プロセスで電極を形成することができるので、200μm以下のチャネル長及び2nm以下の表面粗さRqを有する10組以上の微細な電極を提供することができ、このような電極は、有機半導体デバイスの実用的な集積回路の製造に適用することが可能である。また、上記のように剥離層上に電極を形成した後、後で述べるように、電極を剥離層から剥離して、有機半導体膜上に配置することができるため、有機半導体膜はダメージが小さく経時変化しにくい。本開示の方法においてはまた、上記プロセスで電極を形成することができるので、10組以上の複数組の各組において、チャネル長の平行度が、好ましくは1度以下の電極を得ることができる。
【0090】
本開示の方法においては、剥離層及び電極の上に、保護膜を形成する。図9に、保護膜30を形成した基板60、剥離層62、及び電極10、20の断面模式図を示す。
【0091】
保護膜30は、後工程でハンドリング用膜を除去するときに、電極の剥離、損傷等を抑制することができる。保護膜はまた、本開示の方法で作製した電極を用いた有機半導体デバイスにおいて、有機半導体膜から電極が剥がれることを抑制することができる。
【0092】
保護膜は、1μm以下の厚みを有する絶縁性ポリマーからなり、静電気力で前記電極の前記面とは反対側の面に貼り付いていて、且つ前記チャネルの少なくとも一部に延在する。
【0093】
保護膜30は、有機半導体膜の特性に影響を及ぼさないポリメタクリル酸メチル(PMMA)CYTOP(登録商標)等のフッ素系ポリマー、ポリパラキシリレン(パリレン(登録商標))、またはポリアダマンチルメタクリレート(PADMA)であることができる。
【0094】
保護膜30は、好ましくはスピンコート法または化学気相蒸着法で形成する。
【0095】
電極が真空蒸着法で形成される場合、保護膜は、スピンコート法で形成されるPMMA、CYTOP(登録商標)、またはPADMAが好ましい。スピンコート法は、実用上簡便で好ましい。スピンコート法の回転数、時間等の条件は、従来行われている条件であることができ、保護膜の材料に応じて適宜設定すればよい。
【0096】
電極が塗布または塗布及びめっきによって形成される場合、保護膜は、ドライプロセスである化学気相蒸着法で製膜可能なポリパラキシリレン(パリレン(登録商標))が好ましい。パリレン(登録商標)の保護膜は、塗布法で形成される電極が溶解することをより防止することができる。化学気相蒸着法は従来の方法で行うことができ、例えば、ダイマーを170°Cに加熱して気化させ、さらに690°Cに加熱してダイマーを開裂してモノマーを生成させる。次いで、基板を設置して室温に保持したチャンバー内に生成したモノマーを流入・急冷させて、基板表面でラジカル重合によりポリマー状態にして製膜される。
【0097】
本開示の方法においては、形成した保護膜の上に、ハンドリング用膜を形成する。図10に、ハンドリング用膜64を形成した基板60、剥離層62、電極10、20、及び保護膜30の断面模式図を示す。
【0098】
ハンドリング用膜64は、図10に示すように電極10、20及び保護膜30を剥離層62から剥離するための、ハンドリング用として形成する。後工程においてハンドリング用膜64を除去せずに、電極膜、保護膜、及びハンドリング用膜を有機半導体膜上に配置する場合は、ハンドリング用膜64は、保護膜を備えた電極膜を有機半導体膜上に配置するためのハンドリング用としても機能し得る。
【0099】
ハンドリング用膜64の厚みは、電極10、20及び保護膜30をハンドリングすることができる厚みであれば限り特に限定されないが、好ましくは10μm以上である。ハンドリング用膜64の厚みの上限は特に限定されないが、厚みが大きいほどハンドリング用膜の除去に時間がかかるので、100μm以下が好ましい。
【0100】
ハンドリング用膜64は、好ましくは、保護膜30に応じた材料とする。保護膜30が非水溶性ポリマーで構成される場合、ハンドリング用膜64は水溶性ポリマー膜が好ましい。保護膜30が有機溶剤に溶解しないポリマーで構成される場合、ハンドリング用膜64は有機溶剤溶解性ポリマー膜が好ましい。ハンドリング用膜64が、前記好ましいポリマー膜であることにより、溶液プロセスで、保護膜30は溶解させずにハンドリング用膜64だけを溶解させることにより、ハンドリング用膜を容易に除去することができる。
【0101】
ハンドリング用膜64が水溶性ポリマー膜である場合、保護膜上に水溶性ポリマーの水溶液を塗布して水溶性ポリマー膜を形成する。水溶性ポリマー膜は、電極10、20及び保護膜30を剥離層62から剥離した後に、水に溶かして除去され得る。後工程においてハンドリング用膜64を除去せずに、電極膜、保護膜、及びハンドリング用膜を有機半導体膜上に配置する場合は、水溶性ポリマー膜は、電極及び保護膜を有機半導体膜上に配置した後に、水に溶かして除去され得る。
【0102】
水溶性ポリマー膜の水溶性ポリマーは、好ましくは、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリル酸、デキストラン、またはポリメタクリル酸であり、より好ましくはポリビニルアルコール(PVA)である。
【0103】
ハンドリング用膜64が有機溶剤溶解性ポリマー膜である場合、保護膜上に有機溶剤溶解性ポリマーの水溶液を塗布して有機溶剤溶解性ポリマー膜を形成する。有機溶剤溶解性ポリマー膜は、電極10、20及び保護膜30を剥離層62から剥離した後に、有機溶剤に溶かして除去され得る。後工程においてハンドリング用膜64を除去せずに、電極膜、保護膜、及びハンドリング用膜を有機半導体膜上に配置する場合は、有機溶剤溶解性ポリマー膜は、電極及び保護膜を有機半導体膜上に配置した後に、有機溶剤に溶かして除去され得る。
【0104】
有機溶剤溶解性ポリマー膜の有機溶剤溶解性ポリマーは、好ましくは、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリスチレン(PS)、ポリアクリロニトリル(PAN)、またはポリエチレン(PE)であり、より好ましくはポリメタクリル酸メチル(PMMA)である。
【0105】
保護膜上にハンドリング用膜を形成した後、剥離層と電極及び保護膜との界面を剥離させて、電極、保護膜、及びハンドリング用膜を含む電極フィルムを得る。
【0106】
ハンドリング用膜の表面にカプトンテープ等のテープを貼り付けて引っ張ることによって、図10に示すように、剥離層62と電極10、20及び保護膜30との界面を剥離させて、電極10、20、保護膜30、及びハンドリング用膜64を含む電極フィルム600が得られる。図11に、電極10、20とハンドリング用膜64とで保護膜30を挟んだ電極フィルム600の断面模式図を示す。
【0107】
図13に、Au電極と水溶性ポリマーのPVA膜とで保護膜であるPMMA膜を挟んだ電極フィルムの外観写真を示す。図14に、図13のAu電極パターンを拡大した顕微鏡写真を示す。図14の上から1つ目~3つ目の電極は、500μmのチャネル幅、並びにそれぞれ、10μm、20μm、及び40μmのチャネル長を有する。
【0108】
電極フィルム600からハンドリング用膜64を除去する。ハンドリング用膜64の除去は、ハンドリング用膜を構成する材料に応じた方法で行うことができる。
【0109】
ハンドリング用膜が水溶性ポリマーで構成される場合、電極フィルムに水を適用して、ハンドリング用膜を除去する。
【0110】
水を適用してハンドリング用膜を除去する際に、好ましくは、最初はハンドリング用膜に水を滴下し、実質的にハンドリング用膜が剥がれてきたら、電極フィルムの全体が浸水するまで水を加えて、ハンドリング用膜が溶けて電極フィルムから実質的に全て除去されるまで撹拌する。
【0111】
ハンドリング用膜を除去することによって、保護膜が配置された電極を得ることができる。保護膜が非水溶性ポリマーで構成される場合は、アセトニトリル等の有機溶剤により除去してもよい。保護膜が有機溶剤に溶解しないポリマーで構成される場合、フッ素系溶剤等の溶剤により除去してもよい。保護膜を構成するポリマーの種類に応じて溶解させる溶剤を用いればよい。
【0112】
本開示はまた、有機半導体デバイスの製造方法であって、表面粗さRqが2nm以下の基板を準備すること、前記基板の表面に剥離層を形成すること、前記剥離層上に、チャネル長が200μm以下である10組以上のソース/ドレイン用電極を形成すること、前記剥離層及び前記電極の上に、保護膜を形成すること、前記保護膜の上に、ハンドリング用膜を形成すること、前記剥離層と前記電極及び前記保護膜との界面を剥離させて、前記電極、前記保護膜、及び前記ハンドリング用膜を含む電極フィルムを得ること、前記電極フィルムを、有機半導体膜上に配置すること、及び前記ハンドリング用膜を除去すること、を含む、有機半導体デバイスの製造方法を対象とする。
【0113】
図12に示すように、上記有機半導体デバイスのソース/ドレイン用電極の製造方法において得られる電極フィルム600を有機半導体膜66上に配置する。電極フィルム600を有機半導体膜66上に配置する際、保護膜30と有機半導体膜66とが密着するように電極フィルムと有機半導体膜とを接触させる。
【0114】
図12は、有機半導体膜66上に、電極10、20、保護膜30、ハンドリング用膜64を含む電極フィルム600を配置した有機半導体デバイス200の一例の断面模式図である。電極フィルム600を有機半導体膜66上に配置した後、ハンドリング用膜64は除去される。
【0115】
有機半導体デバイス200は、ボトムゲート/トップコンタクト構造の有機電界効果トランジスタである。ゲート電極74、下地層(ゲート絶縁膜)70、72の上に有機半導体膜66が形成されている。ゲート電極74は、従来用いられている材料、例えばdoped-Si等であることができる。下地層70、72も、従来用いられている材料、例えばSiO、パリレン(登録商標)等であることができる。
【0116】
電極フィルム600を有機半導体膜66上に配置する際、有機半導体膜66の温度を50~90℃、好ましくは60~80℃に加熱することが好ましい。加熱は、ホットプレート等を用いて行えばよい。
【0117】
前記好ましい温度に有機半導体膜66を加熱することにより、保護膜30及びハンドリング用膜64が柔らかくなり、保護膜30を、電極10、20の表面形状に沿って且つ有機半導体膜66の表面に張り付くように配置しやすくなり、保護膜30と有機半導体膜66との密着性が向上する。有機半導体膜66を前記好ましい温度に加熱するとき、有機半導体膜66が配置されている基板ごと加熱することができる。
【0118】
好ましくは、室温で電極フィルム600を有機半導体膜66上に配置した後に、基板側から有機半導体膜66を加熱する。電極フィルム600を有機半導体膜66上に配置した後に加熱することにより、保護膜30を、電極10、20の表面形状に沿って有機半導体膜66の表面に張り付くように配置することをより良好に行うことができ、保護膜30と有機半導体膜66との密着性をより向上することができる。
【0119】
電極フィルムを、有機半導体膜上に配置した後、ハンドリング用膜64を除去する。ハンドリング用膜64の除去は、ハンドリング用膜を構成する材料に応じた方法で行うことができる。
【0120】
ハンドリング用膜が水溶性ポリマーで構成される場合、好ましくは、基板、有機半導体膜、及び電極フィルムを加熱したまま、有機半導体膜上に配置した電極フィルムに水を適用して、ハンドリング用膜を除去する。
【0121】
水を適用してハンドリング用膜を除去する際に、フィルムの温度は20~40℃に下げてもよい。電極フィルムへの水の適用は、好ましくは、最初はハンドリング用膜に水を滴下し、実質的にハンドリング用膜が剥がれてきたら、電極フィルムの全体が浸水するまで水を加えて、ハンドリング用膜が溶けて電極フィルムから実質的に全て除去されるまで撹拌する。
【0122】
ハンドリング用膜を除去することによって、有機半導体膜上に電極及び保護膜が配置された有機半導体デバイスを得ることができる。図15に、得られた有機半導体デバイスの外観写真を示す。図15に示す有機半導体デバイスにおいては、有機半導体膜上にAu電極とPMMAの保護膜とが形成されている。
【0123】
本開示の方法によれば、有機半導体層にダメージを与えることなく、有機電界効果トランジスタ等の有機半導体デバイスを作製することができる。
【0124】
有機半導体膜は、好ましくは有機半導体単結晶膜である。
【0125】
有機半導体単結晶膜の平均膜厚は、2~100nmであり、好ましくは4~20nmである。有機半導体単結晶膜の平均膜厚が前記範囲にあることにより、良好なデバイス特性を得ることができる。有機半導体単結晶膜の平均膜厚の測定は、触針式表面形状測定器または原子間力顕微鏡を用いて行うことができる。
【0126】
有機半導体単結晶膜は厚み方向に、好ましくは1分子層(単分子層)~50分子層、より好ましくは1分子層~10分子層、さらに好ましくは1分子層~5分子層、さらにより好ましくは1分子層~3分子層を有する。有機半導体単結晶膜は、1分子層を有することが最も好ましいが、厚み方向に2分子層以上を有してもよい。有機半導体単結晶膜の分子層数は原子間力顕微鏡で測定することができる。
【0127】
有機半導体の分子層数が少ないほど有機半導体のバルク領域の抵抗を低減でき、接触抵抗を低くすることができる。接触抵抗は電極/有機半導体界面からチャネル領域への電荷輸送における有機半導体のバルク領域の抵抗と、電極から有機半導体層への電荷注入での抵抗との2種類の抵抗の和である。キャリアが蓄積されるチャネル領域はゲート絶縁膜界面の有機半導体層の1層~数分子層に相当し、それ以外の層は電極からチャネルへのスムーズなキャリア注入を阻害するためである。
【0128】
本開示の方法においては、平坦な基板上に形成した電極を有機半導体膜上に配置するため、蒸着プロセスで加わるような熱的ダメージ、またはフォトリソグラフィプロセス時のレジスト、エッチング液等によるダメージが有機半導体膜に加わらず、有機半導体膜が、厚み方向に1分子層の有機半導体単結晶膜であっても、有機半導体膜が損傷することなく有機半導体デバイスとして良好に動作する。
【0129】
有機半導体単結晶膜の1分子層の厚みは、好ましくは2~6nm、より好ましくは2~4nmである。有機半導体単結晶膜の1分子層の厚みは単結晶X線構造解析と原子間力顕微鏡観察を組み合わせることで測定することができる。
【0130】
有機半導体単結晶膜の面積は、好ましくは2mm2以上、より好ましくは10mm2以上、さらに好ましくは100mm2以上、さらにより好ましくは1000mm2以上、さらにより好ましくは10000mm2以上である。有機半導体単結晶膜の面積の上限は、特に限定されず、製造設備の大きさによって制限され、例えば10m2としてもよい。従来、気相成長法を用いる場合は最大でも1mm2程度の面積を有する有機半導体単結晶膜しか得られなかったのに対して、本開示の有機半導体デバイスにおける上記のように大きな面積を有することができる。
【0131】
有機半導体単結晶膜は、シングルドメインまたはマルチドメインからなり、好ましくはシングルドメインからなる。有機半導体単結晶膜のドメインは、単結晶X線回折で測定することができる。有機半導体単結晶膜は、好ましくは0.005mm以上、より好ましくは0.5mm以上、さらに好ましくは2.0mm以上の連続面積のシングルドメインを有する。
【0132】
有機半導体単結晶膜は、好ましくは0.5cm2/V・s以上、より好ましくは3.0cm2/V・s以上、さらに好ましくは5.0cm2/V・s以上、さらにより好ましくは7.5cm2/V・s以上、さらにより好ましくは10cm2/V・s以上の移動度を示す。有機半導体単結晶膜の移動度は、有機電界効果トランジスタの測定結果から算出することができる。
【0133】
有機半導体膜を構成する有機半導体の種類については特に制限は無いが、例えば、4環以上の多環芳香族化合物や、1つまたは複数の不飽和の五員複素環式化合物と複数のベンゼン環とによる4環以上の多環化合物を用いることができる。
【0134】
また、有機半導体膜を構成する有機半導体は、自己凝縮機能の高い材料であることが好ましく、例えば、高移動度を示す次式(1)のp型有機半導体Cn-DNBDT-NW等が挙げられる。
【0135】
【化1】
式(1)において、nは1~14であることができる。自己凝縮機能とは、分子が溶媒から析出する際に、自発的に凝集して、結晶化しやすい傾向を意味する。
【0136】
有機半導体膜を構成する有機半導体の他の例を、次式(2)~次式(6)に示す。
【0137】
【化2】
【0138】
式(2)で示されるポリチオフェン半導体において、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数が4~10のアルキル基である。アルキル基はヘテロ原子(典型的には酸素原子及び硫黄原子から選択される。)を含んでもよい。また、R1及びR2は一緒になって環を形成することもできる。自己凝集能の理由により、好ましくは、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数が5~8のアルキル基である。より好ましくはR1及びR2はそれぞれ独立に水素原子又はヘキシル基である。
【0139】
nは5~100の整数を表す。nはポリチオフェン半導体中のチオフェンモノマー単位の平均数、すなわちポリチオフェン鎖の長さを示す。単結晶膜を形成する観点からは、nは50以下であることが好ましい。
【0140】
【化3】
【0141】
式(3)中、R3、R4、R5及びR6はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数が1~14のアルキル基である。アルキル基はヘテロ原子(典型的には酸素原子及び硫黄原子から選択される。)を含んでもよく、アルキル基中の水素原子はハロゲン原子等の置換基で置換されていてもよい。自己凝集能の理由により、R4=R5であることが好ましく、R3=R6であることが好ましい。溶解性の観点から、好ましくは、R4及びR5が水素原子であり、R3及びR6がそれぞれ独立に炭素数が1~14のアルキル基であるか、又は、R3及びR6が水素原子であり、R4及びR5がそれぞれ独立に炭素数が1~14のアルキル基である。より好ましくは、R3及びR6が水素原子であり、R4及びR5がそれぞれ独立に炭素数が1~14のアルキル基である。自己凝集能の理由により、アルキル基の好ましい炭素数は4~12であり、より好ましくは6~10である。
【0142】
【化4】
【0143】
式(4)中、R7、R8、R9及びR10はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数が1~14のアルキル基である。アルキル基はヘテロ原子(典型的には酸素原子及び硫黄原子から選択される。)を含んでもよく、アルキル基中の水素原子はハロゲン原子等の置換基で置換されていてもよい。自己凝集能の理由により、R7=R9であることが好ましく、R8=R10であることが好ましい。溶解性の観点から、好ましくは、R7及びR9が水素原子であり、R8及びR10がそれぞれ独立に炭素数が1~14のアルキル基であるか、又は、R8及びR10が水素原子であり、R7及びR9がそれぞれ独立に炭素数が1~14のアルキル基である。より好ましくは、R8及びR10が水素原子であり、R7及びR9がそれぞれ独立に炭素数が1~14のアルキル基である。自己凝集能の理由により、アルキル基の好ましい炭素数は6~13であり、より好ましくは8~10である。
【0144】
【化5】
【0145】
式(5)中、R11、R12、R13及びR14はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数が1~14のアルキル基である。アルキル基はヘテロ原子(典型的には酸素原子及び硫黄原子から選択される。)を含んでもよく、アルキル基中の水素原子はハロゲン原子等の置換基で置換されていてもよい。自己凝集能の理由により、R11=R13であることが好ましく、R12=R14であることが好ましい。溶解性の観点から、好ましくは、R11及びR13が水素原子であり、R12及びR14がそれぞれ独立に炭素数が1~14のアルキル基であるか、又は、R12及びR14が水素原子であり、R11及びR13がそれぞれ独立に炭素数が1~14のアルキル基である。より好ましくは、R12及びR14が水素原子であり、R11及びR13がそれぞれ独立に炭素数が1~14のアルキル基である。自己凝集能の理由により、アルキル基の好ましい炭素数は5~12であり、より好ましくは8~10である。
【0146】
【化6】
【0147】
式(6)中、R15、R16、R17及びR18はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数が1~14のアルキル基である。アルキル基はヘテロ原子(典型的には酸素原子及び硫黄原子から選択される。)を含んでもよく、アルキル基中の水素原子はハロゲン原子等の置換基で置換されていてもよい。自己凝集能の理由により、R15=R17であることが好ましく、R16=R18であることが好ましい。溶解性の観点から、好ましくは、R16及びR18が水素原子であり、R15及びR17がそれぞれ独立に炭素数が1~14のアルキル基であるか、又は、R15及びR17が水素原子であり、R16及びR18がそれぞれ独立に炭素数が1~14のアルキル基である。より好ましくは、R16及びR18が水素原子であり、R15及びR17がそれぞれ独立に炭素数が1~14のアルキル基である。自己凝集能の理由により、アルキル基の好ましい炭素数は5~12であり、より好ましくは8~10である。
【0148】
有機半導体膜を構成する有機半導体のさらに他の例を、次式(7)~次式(15)に示す。式(7)~式(15)中、Rは、直鎖アルキル、分岐アルキル、フッ素化直鎖・分岐アルキル、トリイソプロピルシリルエチニル、フェニルなどを用いることができる。
【0149】
【化7】
【0150】
【化8】
【0151】
【化9】
【0152】
【化10】
【0153】
【化11】
【0154】
【化12】
【0155】
【化13】
【0156】
【化14】
【0157】
【化15】
【0158】
有機半導体膜は、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察することにより、単結晶であるかどうかを確認することができる。
【0159】
有機半導体単結晶膜は、塗布法を用いて形成することができる。塗布法としては、従来用いられている方法を用いることができ、例えば、エッジキャスト法、連続エッジキャスト法、ドロップキャスト法、スピンコーティング法、印刷法(インクジェット法やグラビア印刷法)、ディスペンサー法、スプレー法、ディップコート法、ダイコーター法、ロールコーター法、バーコーター法、ブレードコーティング法等を用いることができる。この中でも、連続エッジキャスト法は、膜厚を非常に薄く制御した厚みの有機半導体単結晶膜を得ることができ、1分子層~3分子層程度に制御することが容易であるため、好ましい。
【0160】
好ましくは、電極と有機半導体膜との間に、キャリア注入促進膜を配置する。キャリア注入促進膜を電極と有機半導体膜との間に配置することで、有機半導体膜へのキャリアの注入を促進することができる。
【0161】
キャリア注入促進膜は、電極と有機半導体膜との間に、島状に配置され得る。
【0162】
キャリア注入促進膜の厚みは、好ましくは1~4nm、より好ましくは2~3nmである。
【0163】
剥離層上にキャリア注入促進層を形成し、キャリア注入促進層の上に電極材料を真空蒸着し、フォトリソグラフィによってパターニングを行う。次いで保護膜を形成したものを剥離し、有機半導体膜にキャリア注入促進層が接するように、キャリア注入促進層、電極、及び保護膜を配置することができる。剥離層上にキャリア注入促進層を形成した後、真空蒸着法に代えて、キャリア注入促進層の上に導電性インクを塗布し、次いで無電解メッキを施して電極を形成してもよい。
【0164】
キャリア注入促進層は、好ましくは2,3,5,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(F-TCNQ)である。
【0165】
キャリア注入促進層は、剥離層上に、真空蒸着により形成することができる。
【0166】
電極の表面を、ペンタフルオロベンゼンチオール(PFBT)あるいは4-メチルベンゼンチオール(MBT)等の自己組織化単分子層で修飾してもよい。これにより、電極の仕事関数を制御し、電極から有機半導体へのキャリア注入を向上することができる。
【0167】
電極にPFBTまたはMBTを形成する場合は、PFBTまたはMBTを溶解させたエタノール中に、剥離した電極フィルムを浸漬する。これにより、電極表面にPFBTまたはMBTを形成することができる。
【実施例
【0168】
(実施例1)
基板として、イーグルガラス(Corning社のEAGLE XG(登録商標))を用意し、UVオゾン(UV/O)処理を行い、ガラス表面に水酸基を形成した。UVオゾン処理は、酸素雰囲気下で、Filgen株式会社製UVランプUV253H(波長184.9nm及び253.7nm)を用いて15分間、UV照射することにより行った。
【0169】
水酸基を形成したガラス基板にSAM処理を行い、ガラス基板の表面に、剥離層として、デシルトリメトキシシラン(DTS)の自己組織化単分子膜を形成した。SAM処理は、密閉容器中にDTS溶液と水酸基を形成したガラス基板とを配置し、120℃に加熱してDTS分子の飽和蒸気雰囲気を形成し、DTS分子の飽和蒸気雰囲気中に水酸基を形成したガラス基板を3時間静置し、次いで、トルエンで洗浄後、2-プロパノールで洗浄することにより行った。
【0170】
DTSの自己組織化単分子膜を形成したガラス基板上に、Auを真空蒸着及びフォトリソグラフィによりパターニングして、厚みが40nmでチャネル長/チャネル幅=100μm/500μm、80μm/500μm、60μm/500μm、40μm/500μm、20μm/500μm、及び10μm/500μmのAu電極をそれぞれ16組ずつ計96組形成した。
【0171】
Au電極を形成したガラス基板上に、酢酸ブチル中に3質量%のポリメタクリル酸メチル(PMMA)を溶解した溶液をスピンコートした。スピンコートでは、1秒間で500rpmまで回転数を上げ、500rpmで5秒保持し、2000rpmで40秒間保持した。回転を止めて、80℃で30分間乾燥を行い、溶媒を除去して、厚みが75nmのPMMAの保護膜を形成した。
【0172】
PMMAの保護膜上に、5質量%のポリビニルアルコール(PVA)水溶液を塗布して、50℃で2時間乾燥して、厚みが10μmのPVAのハンドリング用膜を形成した。
【0173】
ハンドリング用膜にカプトンテープを貼り付け、カプトンテープを引っ張ることによって、Au電極、PMMA保護膜、及びPVAハンドリング用膜を含む電極フィルムを剥離した。図13に、Au電極とPVAハンドリング用膜とでPMMA保護膜を挟んだ電極フィルムの外観写真を示す。図14に、図13のAu電極パターンを拡大した顕微鏡写真を示す。図14の上から1つ目~3つ目の電極は、500μmのチャネル幅、並びにそれぞれ、10μm、20μm、及び40μmのチャネル長を有する。
【0174】
Au電極、PMMA保護膜、及びPVAハンドリング用膜を含む電極フィルムを、おもりを用いてAu電極が固定されるようにガラス板上に配置した。次いで、PVAハンドリング用膜に水を滴下し、実質的にハンドリング用膜が剥がれてきた後に、30℃に降温して、電極フィルムの全体が浸水するまで水を加えて、PVAが完全に溶けるまで3時間水中で撹拌してハンドリング用膜を除去し、図4に示すようなPMMA保護膜を有するAu電極を作製した。
【0175】
次いで、PMMA保護膜を有するAu電極を、30℃のアセトニトリルに30分浸漬して、PMMA保護膜を除去し、図2に示すようなAu電極を作製した。
【0176】
得られたAu電極64組の各組における電極のチャネル長/チャネル幅は、それぞれ100μm/500μm、80μm/500μm、60μm/500μm、40μm/500μm、20μm/500μm、及び10μm/500μmであり、電極の表面粗さRqは0.6nmであった。電極各組(1素子)におけるチャネル長の平行度は0.1度以下であった。
【0177】
(実施例2)
厚みが40nmでチャネル長/チャネル幅=200μm/1000μmのAu電極を50組形成したこと以外は、実施例1と同様に、Au電極を作製した。図30に、1.5cm角に形成した50組の厚みが40nmでチャネル長/チャネル幅=200μm/1000μmのAu電極の上面写真を示す。図31に、図30の破線で囲んだ1組のソース/ドレイン用電極の拡大写真を示す。
【0178】
得られたAu電極50組の各組における電極のチャネル長/チャネル幅は200μm/1000μmであり、電極の表面粗さRqは0.6nmであった。電極各組(1素子)におけるチャネル長の平行度は0.1度以下であった。
【0179】
(実施例3)
実施例1と同じ方法で、Au電極、PMMA保護膜、及びPVAハンドリング用膜を含む電極フィルムを得た。
【0180】
有機半導体として、高移動度を示す下記式(16):
【化16】
のp型有機半導体C9-DNBDT-NWの粉末を用意した。溶剤として3-クロロチオフェンを用い、溶剤中に有機半導体粉末を溶解させ、有機半導体溶液を調製した。
【0181】
厚みが500μmのゲート電極であるdoped-Si、厚みが100nmのSiO、及び厚みが70nmのパリレン(diX-SR(登録商標))が積層された基板を用意した。
【0182】
80℃に加熱した基板上に、調製した有機半導体溶液を連続エッジキャスト法で塗布し、単分子層の有機半導体単結晶膜を製膜した。有機半導体膜の表面粗さRqは0.2nmであった。
【0183】
ホットプレート上に、得られたdoped-Si、SiO、パリレン(diX-SR(登録商標))、及び有機半導体膜の積層体を配置し、80℃に加熱しながら、図12に模式的に示すように、電極が有機半導体膜に接するように、電極フィルムを有機半導体膜上に配置した。
【0184】
80℃に加熱したままPVAのハンドリング用膜に水を滴下し、実質的にハンドリング用膜が剥がれてきた後に、30℃に降温して、電極フィルムの全体が浸水するまで水を加えて、PVAが完全に溶けるまで3時間水中で撹拌してハンドリング用膜を除去し、図42に模式的に示すようなボトムゲート/トップコンタクト構造の有機電界効果トランジスタを作製した。
【0185】
チャネル長/チャネル幅が異なる作製したトランジスタのうち、チャネル長/チャネル幅が100μm/500μmのトランジスタについて、図18に、飽和領域におけるゲート電圧とドレイン電流との関係を表す伝達特性のグラフ、図19に、線形領域におけるゲート電圧とドレイン電流との関係を表す伝達特性のグラフ、図20に、ゲート電圧によるドレイン電圧とドレイン電流との関係を表す出力特性のグラフを示す。飽和領域における移動度は10cm2/V・s、線形領域における移動度は10cm2/V・sを示し、非常に大きな移動度を示した。移動度の計算において、SiOとパリレン(登録商標)とを積層した絶縁膜のキャパシタンスは理論値を用いた。
【0186】
(実施例4)
実施例3で作製したチャネル長/チャネル幅が10μm/500μmのトランジスタについて、図21に、飽和領域におけるゲート電圧とドレイン電流との関係を表す伝達特性のグラフ、図22に、線形領域におけるゲート電圧とドレイン電流との関係を表す伝達特性のグラフ、図23に、ゲート電圧によるドレイン電圧とドレイン電流との関係を表す出力特性のグラフを示す。飽和領域における移動度は3.6cm2/V・s、線形領域における移動度は7.2cm2/V・sを示し、チャネル長が10μmの短チャネルデバイスでも良好な移動度が得られた。
【0187】
(実施例5)
剥離層を、トリエトキシ-1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシルシラン(F-SAM)に変更したこと以外は、実施例3と同様に、有機半導体デバイスを作製した。
【0188】
作製したチャネル長/チャネル幅が100μm/500μmのトランジスタの移動度を測定したところ、実施例3と同様の移動度を示した。
【0189】
(実施例6)
実施例2と同様の電極パターンでチャネル長/チャネル幅=200μm/1000μmのAu電極を形成したこと以外は、実施例1と同じ方法で、Au電極、PMMA保護膜、及びPVAハンドリング用膜を含む電極フィルムを得た。さらに、剥離層をF-SAMに変更し、積層体のうちパリレン(diX-SR(登録商標))をトリメトキシ(2-フェニルエチル)シラン(β-PTS)に変更して、doped-Si、SiO、β-PTS、及び有機半導体膜の積層体を得たこと以外は、実施例3と同様に、有機半導体デバイスを作製した。
【0190】
図16に、作製した有機半導体デバイスの上面から観察した有機半導体(C-DNBDT-NW)膜のレーザー共焦点顕微鏡写真を示す。破線で囲んだ全面(面積:450mm2)で単分子層の単結晶性ドメイン薄膜が得られた。
【0191】
図17に、図16のC-DNBDT-NWの単分子層膜を原子間力顕微鏡(AFM)で測定した結果を示す。C-DNBDT-NWの1分子層に相当する4nmの厚みが得られていた。
【0192】
作製したチャネル長/チャネル幅が200μm/1000μmのトランジスタについて、図24に、飽和領域におけるゲート電圧とドレイン電流との関係を表す伝達特性のグラフ、図25に、線形領域におけるゲート電圧とドレイン電流との関係を表す伝達特性のグラフ、図26に、ゲート電圧によるドレイン電圧とドレイン電流との関係を表す出力特性のグラフを示す。飽和領域における移動度は15.3cm2/V・s、線形領域における移動度は11.6cm2/V・sを示し、有機半導体膜が単分子層の単結晶でも、非常に大きな移動度のトランジスタを作製することができた。
【0193】
(実施例7)
剥離層上に、真空蒸着により、2,3,5,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(F-TCNQ)のキャリア注入促進層を形成し、キャリア注入促進層の上にAu電極を実施例3と同様に形成したこと以外は、実施例3と同様に有機半導体デバイスを作製した。
【0194】
作製したチャネル長/チャネル幅が10μm/500μmのトランジスタについて、図27に、飽和領域におけるゲート電圧とドレイン電流との関係を表す伝達特性のグラフ、図28に、線形領域におけるゲート電圧とドレイン電流との関係を表す伝達特性のグラフ、図29に、ゲート電圧によるドレイン電圧とドレイン電流との関係を表す出力特性のグラフを示す。飽和領域における移動度は2cm2/V・s、線形領域における移動度は5.4cm2/V・sを示し、良好な移動度が得られた。
【0195】
(実施例8)
剥離層を、トリエトキシ-1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシルシラン(F-SAM)に変更し、保護膜を、ガラス転移点が108℃の、CYTOP(登録商標)の末端基がCFのCTX-809SP2に変更し、積層体のうちパリレン(diX-SR(登録商標))をβ-PTSに変更して、doped-Si、SiO、β-PTS、及び有機半導体膜の積層体を得たこと以外は、実施例3と同様に、有機半導体デバイスを作製した。
【0196】
CYTOP(登録商標)のCTX-809SP2保護膜は、次の方法で形成した。CTX-809SP2:CT-Solv.180(希釈用溶媒)=2:3(質量比)で準備した溶液を、Au電極を形成したガラス基板上に実施例1と同じ条件でスピンコートした。回転を止めて、50℃で1分間、次いで80℃で40分間乾燥を行って溶媒を除去し、厚みが300nmの809SP2保護膜を形成した。PVAを塗布可能にするため、エキシマ光によるCTX-809SP2の表面改質を行い、実施例1と同じ方法でPVAハンドリング用膜を形成した。
【0197】
作製したチャネル長/チャネル幅が100μm/500μmのトランジスタについて、図32に、飽和領域におけるゲート電圧とドレイン電流との関係を表す伝達特性のグラフ、図33に、線形領域におけるゲート電圧とドレイン電流との関係を表す伝達特性のグラフ、図34に、ゲート電圧によるドレイン電圧とドレイン電流との関係を表す出力特性のグラフを示す。飽和領域における移動度は12cm2/V・s、線形領域における移動度は13cm2/V・sを示し、良好な移動度が得られた。
【0198】
(実施例9)
チャネル長/チャネル幅が100μm/500μm、80μm/500μm、60μm/500μm、40μm/500μm、20μm/500μm、10μm/500μm、及び200μm/500μmのAu電極をそれぞれ16組ずつ計112組形成し、保護膜を、ガラス転移点が108℃の、CYTOP(登録商標)の末端基が-CONH-Si(OR)nのCTL-809Mに変更したこと以外は、実施例8と同様に、有機半導体デバイスを作製した。
【0199】
CTL-809M保護膜は、次の方法で形成した。CTL-809M:CT-Solv.180(希釈用溶媒)=2:3(質量比)で準備した溶液を、Au電極を形成したガラス基板上に実施例1と同じ条件でスピンコートした。回転を止めて、50℃で40分間乾燥を行って溶媒を除去し、厚みが300nmのCTL-809M保護膜を形成した。PVAを塗布可能にするため、エキシマ光によるCTL-809M保護膜の表面改質を行い、実施例1と同じ方法でPVAハンドリング用膜を形成した。
【0200】
作製したチャネル長/チャネル幅が200μm/500μmのトランジスタについて、図35に、飽和領域におけるゲート電圧とドレイン電流との関係を表す伝達特性のグラフ、図36に、線形領域におけるゲート電圧とドレイン電流との関係を表す伝達特性のグラフ、図37に、ゲート電圧によるドレイン電圧とドレイン電流との関係を表す出力特性のグラフを示す。飽和領域における移動度は15cm2/V・s、線形領域における移動度は11cm2/V・sを示し、良好な移動度が得られた。
【0201】
(実施例10)
保護膜を、ガラス転移点が200℃以上のポリアダマンチルメタクリレート(PADMA)に変更したこと以外は、実施例3と同様に、有機半導体デバイスを作製した。
【0202】
PADMAの保護膜は、次の方法で形成した。シクロヘキサン中に2質量%のPADMAを溶解させた溶液を、Au電極を形成したガラス基板上に実施例1と同じ条件でスピンコートした。回転を止めて、50℃で30秒間乾燥、次いで80℃で15分間の乾燥を行って溶媒を除去し、厚みが200nmのPADMA保護膜を形成した。
【0203】
作製したチャネル長/チャネル幅が80μm/500μmのトランジスタについて、図38に、飽和領域におけるゲート電圧とドレイン電流との関係を表す伝達特性のグラフ、図39に、線形領域におけるゲート電圧とドレイン電流との関係を表す伝達特性のグラフ、図40に、ゲート電圧によるドレイン電圧とドレイン電流との関係を表す出力特性のグラフを示す。飽和領域における移動度は4.7cm2/V・s、線形領域における移動度は7.0cm2/V・sを示し、良好な移動度が得られた。
【0204】
(実施例11)
実施例1と同様にチャネル長/チャネル幅が、100μm/500μm、80μm/500μm、60μm/500μm、40μm/500μm、20μm/500μm、及び10μm/500μmのAu電極をそれぞれ8組ずつ計48組形成したこと以外は、実施例6と同様に、図43に模式的に示す断面構造を有する有機半導体デバイスを作製した。
【0205】
作製した有機半導体デバイスについて、Transmission Line Method(TLM)法を用いて接触抵抗を評価した。図44に、V-Vthのそれぞれについてチャネル長LとRtotal・Wとの関係を表すグラフ、及び図45にV-VthとR・Wとの関係を表すグラフを示す。図45から、R・Wが175Ω・cm以下という低接触抵抗が得られていることを確認できた。
【0206】
(実施例12)
基板として、イーグルガラス(Corning社のEAGLE XG(登録商標))基板を用意し、図46に模式的に示すように、基板60の表面に撥液性高分子層80として厚みが10nmで末端基が-CONH-Si(OR)nのCTL-809MのCYTOP(登録商標)を形成した。
【0207】
CTL-809M撥液性高分子層は、次の方法で形成した。CTL-809M:CT-Solv.180(希釈用溶媒)=1:30(質量比)で準備した溶液を、ガラス基板上にスピンコートした。スピンコートでは、1秒間で500rpmまで回転数を上げ、500rpmで10秒保持し、1000rpmで40秒間保持した。回転を止めて、50℃で1分間、次いで80℃で15分間、さらに130℃で40分間乾燥を行って溶媒を除去し、厚みが10nmの809M撥液性高分子層を形成した。
【0208】
図47に模式的に示すように、撥液性高分子層80を形成したガラス基板上にクロム製のフォトマスク82を配置し、フォトマスク82を配置した側から真空紫外光(VUV)84を照射した。図48に模式的に示すように、照射した箇所の撥液性高分子層80を分解し、撥液性高分子層を分解した箇所に水酸基を形成した。真空紫外光の照射は、Nフロー雰囲気下で、SUS1001(ウシオ電気株式会社製)を用いて0.04mm/秒の速度でエキシマランプ(波長172nm)を移動させながら行った。
【0209】
図49に模式的に示すように、水酸基を形成したガラス基板60の表面に、気相法を用いてSAM処理を行い、トリエトキシ-1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシルシラン(F-SAM)のフッ素系自己組織化単分子膜86を形成した。フッ素系自己組織化単分子膜の形成は、密閉容器中にF-SAM溶液と水酸基を形成したガラス基板とを配置し、120℃に加熱してF-SAM分子の飽和蒸気雰囲気を形成し、F-SAM分子の飽和蒸気雰囲気中に水酸基を形成したガラス基板を3時間静置し、次いで、2-プロパノールで洗浄することにより行った。
【0210】
次いで、固形分濃度が30wt%のAgインク(株式会社アルバック社製、L-Ag1T)を、オクタンで固形分濃度を50倍に希釈してAg粒子を含むAgインクを準備した。
【0211】
ここで、Agインクの溶媒であるオクタンとCYTOP(登録商標)及びF-SAMとの接触角の評価結果を示す。図52に、真空紫外光を照射する前のCYTOP(登録商標)に対するオクタンの接触角を評価した写真を示す。図53に、真空紫外光照射及びSAM処理を施した後のCYTOP(登録商標)、及び真空紫外光照射及びSAM処理により形成したF-SAMに対するオクタンの接触角を評価した写真を示す。接触角の測定は、5mm角のガラス基板上に形成したCYTOP(登録商標)(真空紫外光照射前)、CYTOP(登録商標)(真空紫外光照射及びSAM処理後)、及び真空紫外光照射及びSAM処理を施して形成したF-SAMについて行った。
【0212】
真空紫外光照射前及びSAM処理後のいずれにおいても、CYTOP(登録商標)はオクタンの接触角が31°であり、F-SAMはオクタンの接触角が21°であった。このように、SAM処理の前後において、CYTOP(登録商標)上にはF-SAMは形成されておらず、真空紫外光を照射した箇所に対して選択的にF-SAMが形成されていることが分かる。また、CYTOP(登録商標)はオクタンに対して相対的に撥液性であり、F-SAMはオクタンに対して相対的に親液性であることも確認された。
【0213】
上記のように接触角を確認したオクタンを主溶媒とするAgインクを、図50に模式的に示すように、F-SAMの自己組織化単分子膜86を形成したガラス基板60上に、ブレードコート法で塗布して、チャネル長に相当する直線間の距離が10μm及び20μmになるようにAg粒子88で構成される塗膜を形成した。撥液性であるCYTOP(登録商標)上には塗膜は形成されず、親液性であるF-SAM上にのみ選択的に塗膜が形成された。図51に、得られたパターニングされたAg粒子で構成される塗膜の外観写真を示す。Ag粒子を含むAgインクは、固形分濃度が30wt%のAgインク(株式会社アルバック社製、L-Ag1T)を、オクタンで固形分濃度を50倍に希釈したものを用いた。
【0214】
(実施例13)
チャネル長/チャネル幅が100μm/1000μmとなるようにAg粒子で構成される塗膜を形成したこと以外は、実施例12と同じ方法で、Ag粒子で構成される塗膜を形成した。図54に模式的に示すように、Ag粒子88で構成される塗膜を形成したガラス基板60に、Ag粒子88を触媒として無電解めっきを行い、パターニングされたAuめっき89を備えたソース/ドレイン用電極を形成した。
【0215】
無電解めっきのめっき液として、プレシャスファブACG3000(日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース株式会社)を用いた。めっき液のpHを7.5に調製し液温を65°Cに保持しめっき液を撹拌しながら、導電性インクを塗布したガラス基板を150秒間めっき液に浸漬させた。次いで、ホットプレートを用いて150°Cで10分間加熱し、室温冷却後に再び150秒間浸漬させてAuを成長させた。
【0216】
図55に、得られたAuめっきを備えたソース/ドレイン用電極の外観写真を示す。Auめっきを備えた2組の電極は、チャネル長/チャネル幅=100μm/1000μmを有し、表面粗さRqは0.5nmであった。表面粗さRqの測定は、下記に記載するように、保護膜及びハンドリング用膜を形成し、ハンドリング用膜にカプトンテープを貼り付けてカプトンテープを引っ張ることによって剥離した後の、自己組織化単分子膜に接していた電極面の表面粗さである。
【0217】
(実施例14)
実施例13で作製したAuめっきを備えた電極を形成したガラス基板上に、化学気相蒸着法で、厚みが1μmのパリレン(diX-SR(登録商標))の保護膜を形成した。
【0218】
パリレン(登録商標)の保護膜上に、5質量%のポリビニルアルコール(PVA)水溶液を塗布して、50℃で2時間乾燥して、厚みが10μmのPVAのハンドリング用膜を形成した。
【0219】
ハンドリング用膜にカプトンテープを貼り付け、カプトンテープを引っ張ることによって、Auめっきを備えた電極、パリレン(登録商標)保護膜、及びPVAハンドリング用膜を含む電極フィルムを剥離した。
【0220】
実施例6と同様に、doped-Si、SiO、β-PTS、及び有機半導体膜の積層体を用意し、Auめっきを備えた電極が有機半導体膜に接するように電極フィルムを有機半導体膜上に配置した。
【0221】
80℃に加熱したままPVAのハンドリング用膜に水を滴下し、実質的にハンドリング用膜が剥がれてきた後に、30℃に降温して、電極フィルムの全体が浸水するまで水を加えて、PVAが完全に溶けるまで3時間水中で撹拌してハンドリング用膜を除去し、図56に模式的に示すようなボトムゲート/トップコンタクト構造の有機電界効果トランジスタを作製した。
【0222】
(実施例15)
実施例14と同じ方法で、Auめっきを備えた電極、パリレン(登録商標)保護膜、及びPVAハンドリング用膜を含む電極フィルムを得た。
【0223】
図57に模式的に示すAuめっきを備えた電極、パリレン(登録商標)保護膜、及びPVAハンドリング用膜を含む電極フィルムの電極の一方について、光電子収量分光(Photoelectron Yield Spectroscopy:PYS)で仕事関数を測定した。仕事関数の測定は、PYS-202(住友重機械工業株式会社)用いて、下式:
【数4】
(式中、Yは光電子収量、hはプランク定数、νは光子の振動数、Wは仕事関数である)により行った。
【0224】
図58に、フォトンエネルギー(hν)に対してY1/2をプロットした仕事関数の測定結果を示す。図58に示す二直線の交点から得られる電極のWは5.2eVであった。金のWは5.2eVであり、銀のWは4.3eVであり、C-DNBDT-NWのHOMO準位は5.24eVである。したがって、得られた電極は、無電解めっきにより堆積させた金が仕事関数において支配的であり、有機半導体膜へのキャリア注入に有利な高仕事関数が得られたことが分かる。
【0225】
(実施例16)
チャネル長/チャネル幅が、40μm/315μm、60μm/315μm、80μm/315μm、100μm/315μm、120μm/315μm、140μm/315μm、160μm/315μm、及び180μm/315μmの、Auめっきを備えた電極をそれぞれ4組ずつ計32組形成したこと以外は、実施例12と同じ方法で、Auめっきを備えた電極、パリレン(登録商標)保護膜、及びPVAハンドリング用膜を含む電極フィルムを得た。
【0226】
実施例6と同様に、doped-Si、SiO、β-PTS、及び有機半導体膜の積層体を用意し、Auめっきを備えた電極が有機半導体膜に接するように電極フィルムを有機半導体膜上に配置した。
【0227】
80℃に加熱したままPVAのハンドリング用膜に水を滴下し、実質的にハンドリング用膜が剥がれてきた後に、30℃に降温して、電極フィルムの全体が浸水するまで水を加えて、PVAが完全に溶けるまで3時間水中で撹拌してハンドリング用膜を除去し、図56に模式的に示すようなボトムゲート/トップコンタクト構造の有機電界効果トランジスタを作製した。
【0228】
チャネル長/チャネル幅が異なる作製したトランジスタのうち、図59に示すチャネル長/チャネル幅が100μm/315μmのソースドレイン電極を有するトランジスタについて、図60に、飽和領域におけるゲート電圧とドレイン電流との関係を表す伝達特性のグラフ、図61に、線形領域におけるゲート電圧とドレイン電流との関係を表す伝達特性のグラフ、図62に、ゲート電圧によるドレイン電圧とドレイン電流との関係を表す出力特性のグラフを示す。飽和領域における移動度は12.7cm2/V・s、線形領域における移動度は11.8cm2/V・sを示し、非常に大きな移動度を示した。移動度の計算において、SiOとβ-PTSとを積層した絶縁膜のキャパシタンスは理論値を用いた。
【0229】
(実施例17)
実施例16で作製したチャネル長/チャネル幅が、40μm/315μm、60μm/315μm、80μm/315μm、100μm/315μm、120μm/315μm、140μm/315μm、160μm/315μm、及び180μm/315μmの、Auめっきを備えた電極を有する図56に模式的に示すようなボトムゲート/トップコンタクト構造の有機電界効果トランジスタについて、接触抵抗を評価した。図63に、接触抵抗を評価した範囲を破線で示す。
【0230】
接触抵抗は、Transmission Line Method (TLM)法を用いて評価した。図64に、V-Vthのそれぞれについてチャネル長LとRtotal・Wとの関係を表すグラフ、図65にV-VthとR・Wとの関係を表すグラフを示す。R・Wが120Ω・cmという低接触抵抗を確認できた。
【0231】
(実施例18)
10cm角の範囲内に複数の組み合わせのチャネル長/チャネル幅のAg粒子で構成される塗膜を形成したこと以外は、実施例12と同様に、F-SAMの自己組織化単分子膜を形成したガラス基板上に、Ag粒子を含むAgインクをブレードコート法で塗布して、パターニングされたAg粒子で構成される塗膜を形成した。図66に、10cm角の範囲内に形成したパターニングされたAg粒子で構成される塗膜の外観写真を示す。図66に記載のAg粒子で構成される塗膜のチャネル長/チャネル幅は、100μm/800μmを784組、10μm/200μm、20μm/200μm、40μm/200μm、60μm/200μm、80μm/200μm、100μm/200μm、120μm/200μm、140μm/200μm、160μm/200μm、180μm/200μm、及び200μm/200μmをそれぞれ170組ずつ1870組、10μm/300μm、20μm/300μm、40μm/300μm、60μm/300μm、80μm/300μm、100μm/300μm、120μm/300μm、140μm/300μm、160μm/300μm、180μm/300μm、及び200μm/300μmをそれぞれ34組ずつ374組、並びに100μm/6000μm、170μm/6000μm、及び200μm/6000μmをそれぞれ2組ずつ6組含んでいた。
【0232】
電極各組(1素子)に相当するめっき前のAg粒子で構成される塗膜のチャネル長の平行度は0.1度以下であった。
【0233】
(比較例1)
エラストマーとして、厚みが10μmでタック性を有しガラス転移点が-123℃のポリジメチルシロキサン(PDMS)膜を用意し、PDMS膜上に、Au電極及びF-TCNQのキャリア注入促進層をメタルマスク越しで蒸着して、厚みが40nmでチャネル長/チャネル幅=400μm/200μmのAu電極を1組形成した。
【0234】
実施例6と同様に、doped-Si、SiO、β-PTS、及び有機半導体膜の積層体を用意し、Au電極が有機半導体膜に接するように、Au電極、F-TCNQのキャリア注入促進層、及びPDMSを有機半導体膜上に配置して、有機半導体デバイスを作製した。
【0235】
実施例6及び比較例1で作製した有機半導体デバイスの、線形領域における移動度の経時変化を表1に示す。実施例6で作製した有機半導体デバイスのトランジスタは、4週間経過後及び8週間経過後でも移動度は実質的に変化しなかった。
【0236】
【表1】
【符号の説明】
【0237】
100 有機半導体デバイス
200 有機半導体デバイス
600 電極フィルム
10 電極
101 電極10の面
12 図1の2つ目の電極
14 図1の3つ目の電極
20 電極
201 電極20の面
22 図1の2つ目の電極
24 図1の3つ目の電極
30 保護膜
40 チャネル
52 ゲート絶縁膜
52-1 ゲート絶縁膜
52-2 ゲート絶縁膜
54 ゲート電極
56 下地層
60 基板
62 剥離層
64 ハンドリング用膜
66 有機半導体膜
70 下地層
72 下地層
74 ゲート電極
80 撥液性高分子層
82 フォトマスクまたはメタルマスク
84 紫外光
86 自己組織化単分子膜
87 導電性インク
88 金属粒子
89 めっき
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38
図39
図40
図41
図42
図43
図44
図45
図46
図47
図48
図49
図50
図51
図52
図53
図54
図55
図56
図57
図58
図59
図60
図61
図62
図63
図64
図65
図66