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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】バイオプリントにより作製した筋組織
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/077 20100101AFI20240807BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240807BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20240807BHJP
   A61F 2/08 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
C12N5/077
B33Y10/00
B33Y80/00
A61F2/08
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2022510780
(86)(22)【出願日】2021-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2021014104
(87)【国際公開番号】W WO2021193980
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2020056036
(32)【優先日】2020-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「培養肉の組織構築技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(72)【発明者】
【氏名】松▲崎▼ 典弥
(72)【発明者】
【氏名】カン ドンヒ
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】Biomaterials,2011年02月13日,Vol.32,pp.3575-3583
【文献】Journal of Biomechanical Science and Engineering,2010年,Vol.5, No.3,pp.236-244
【文献】赤土和也、外,骨格筋培養のための機械刺激負荷に関する研究,生体医工学,2009年,Vol.47, No.2,pp.231-236
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N、B33Y、A61F
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)第1筋組織支持体、第2筋組織支持体および筋細胞を配置し、三次元筋組織前駆体を構成する工程であって、ゲルを含むサポーティングバス中に筋細胞を線状に複数配置し、複数の線の一末端で第1筋組織支持体に近接させ、複数の線の他末端で第2筋組織支持体に近接させて配置する、工程、および
(iii)三次元筋組織前駆体を培養して、人工三次元筋組織を得る工程
を含む、筋繊維束の構造を有する人工三次元筋組織の製造方法。
【請求項2】
複数のノズルを備えたマルチノズルディスペンサーを用いて吐出し、筋細胞を線状に複数配置する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
第1筋組織支持体が底領域であり、第2筋組織支持体が上領域であり、底領域の第1筋組織支持体と配置された筋組織とのなす角が、45度~90度である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
(i)第1筋組織支持体、第2筋組織支持体および筋細胞を配置し、三次元筋組織前駆体を構成する工程であって、ゲル中に筋細胞を線状に配置し、線の一末端で第1筋組織支持体に近接させ、線の他末端で第2筋組織支持体に近接させて配置する、工程、および
(iii)三次元筋組織前駆体を培養して、人工三次元筋組織を得る工程
を含む、筋繊維束の構造を有する人工三次元筋組織の製造方法であって、
第1筋組織支持体および/または第2筋組織支持体をゲル化させる工程をさらに含む、製造方法。
【請求項5】
ディスペンサーを用いて吐出し、筋細胞を線状に配置する、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
工程(i)の後に、第1筋組織支持体および/または第2筋組織支持体をゲル化させる、請求項4または5に記載の製造方法。
【請求項7】
チキソトロピー性を有するゲル中に筋細胞を配置する、請求項1~6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
第1筋組織支持体および/または第2筋組織支持体がコラーゲンを含む、請求項1~7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
(i)第1筋組織支持体、第2筋組織支持体および筋細胞を配置し、三次元筋組織前駆体を構成する工程であって、ゲル中に筋細胞を線状に配置し、線の一末端で第1筋組織支持体に近接させ、線の他末端で第2筋組織支持体に近接させて配置する、工程、および
(ii)ゲルを溶解または分解する工程、および
(iii)培養液中で三次元筋組織前駆体の筋細胞を培養して、人工三次元筋組織を得る工程
を含む、人工三次元筋組織の製造方法。
【請求項10】
工程(ii)が、(ii)ゲルを溶解または分解して、除去する工程である、請求項に記載の製造方法。
【請求項11】
工程(iii)の前に、追加的な培養液を添加する、請求項に記載の製造方法。
【請求項12】
(i)第1筋組織支持体、第2筋組織支持体および筋細胞を配置し、三次元筋組織前駆体を構成する工程であって、ゲル中に筋細胞を線状に配置し、線の一末端で第1筋組織支持体に近接させ、線の他末端で第2筋組織支持体に近接させて配置する、工程
(ii)ゲルを溶解または分解して、除去する工程、および
(iii)培養液中で三次元筋組織前駆体の筋細胞を培養して、人工三次元筋組織を得る工程
を、工程(i)、工程(ii)および工程(iii)の順に行う、請求項10に記載の製造方法。
【請求項13】
筋細胞の配置は、動物の筋繊維を模して行われる、請求項9~12のいずれかに記載の製造方法。
【請求項14】
工程(iii)において、培養液を交換することを含む、請求項9~12のいずれかに記載の製造方法。
【請求項15】
市販の牛肉の脂肪組織、血管組織、および筋組織の比率に基づいて、脂肪細胞および血管細胞を加えて、集合させる工程をさらに含む、請求項9~12のいずれかに記載の製造方法。
【請求項16】
食感、栄養価、味および色の少なくとも1つを調製するように、タンパク質、脂肪、炭水化物、ビタミン、ミネラル、繊維、脂肪酸、アミノ酸、風味材料および着色材料の少なくとも1つを加える工程をさらに含む、請求項9~12のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工三次元筋組織の製造方法およびそれを用いて製造された人工三次元筋組織に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、骨格筋などの人工三次元筋組織の製造方法には、多層3次元細胞培養足場システムなどの様々な方法がある(特許文献1)。そして、人工三次元筋組織は、例えば、筋肉インプラントなどの医療用として使用することが考えられている(特許文献2)。また、人工三次元筋組織は、例えば、加工肉などの食用として使用することも考えられている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-41755号公報
【文献】特開2003-508130号公報
【文献】特表2014-521336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の人工三次元筋組織の製造方法は、安定的かつ効率的に筋組織を製造することが困難である。そのため、安定的かつ効率的に筋組織を製造することが容易である人工三次元筋組織の製造方法およびそれを用いて製造された人工三次元筋組織が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、(i)第1筋組織支持体、第2筋組織支持体および筋細胞を配置し、三次元筋組織前駆体を構成する工程であって、筋細胞を線状に配置し、線の一末端で第1筋組織支持体に近接させ、線の他末端で第2筋組織支持体に近接させて配置する、工程、および(ii)三次元筋組織前駆体を培養して、人工三次元筋組織を得る工程を含む、人工三次元筋組織の製造方法を見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0006】
すなわち、本発明は以下を提供する:
[1](i)第1筋組織支持体、第2筋組織支持体および筋細胞を配置し、三次元筋組織前駆体を構成する工程であって、筋細胞を線状に配置し、線の一末端で第1筋組織支持体に近接させ、線の他末端で第2筋組織支持体に近接させて配置する、工程、および
(ii)三次元筋組織前駆体を培養して、人工三次元筋組織を得る工程を含む、人工三次元筋組織の製造方法。
[2]工程(i)が、第1筋組織支持体および第2筋組織支持体を配置し、次に筋細胞を線状に配置し、線の一末端で第1筋組織支持体に近接させ、線の他末端で第2筋組織支持体に近接させて配置し、三次元筋組織前駆体を構成する工程である、[1]に記載の人工三次元筋組織の製造方法。
[3]工程(i)が、第1筋組織支持体上に筋細胞を線状に配置し、線の一末端で第1筋組織支持体に近接させ、次に第2筋組織支持体を配置し、線の他末端で第2筋組織支持体に近接させて配置し、三次元筋組織前駆体を構成する工程である、[1]に記載の人工三次元筋組織の製造方法。
[4]チキソトロピー性を有するゲル中に筋細胞が配置される、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]筋細胞の線状の配置がディスペンサーを用いて行われる、[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]筋細胞の線状の配置が動物の筋繊維を模したものである、[5]に記載の製造方法。
[7]第1筋組織支持体および/または第2筋組織支持体がコラーゲンを含む、[1]~[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8]人工三次元筋組織の培養が、第1筋組織支持体および第2筋組織支持体間で人工三次元筋組織に伸縮張力がかかる状態で行われる、[1]~[7]のいずれかに記載の製造方法。
[9]人工三次元筋組織が医療用、薬物評価用または食用である、[1]~[8]のいずれかに記載の製造方法。
[10]第1筋組織支持体、第2筋組織支持体、および筋組織を含む人工三次元筋組織であって、筋組織が、線状であり、一末端で第1筋組織支持体に接合しており、他末端で第2筋組織支持体に接合している、人工三次元筋組織。
[11]サルコメア構造を有する、[10]に記載の人工三次元筋組織。
[12]医療用、薬物評価用または食用である、[10]または[11]に記載の人工三次元筋組織。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、人工三次元筋組織を安定的かつ効率的に製造することができる。人工三次元筋組織を高品質および/または低コストで調製することができる。本発明によれば、筋組織を生存動物から得る必要がなくなる。
【0008】
本発明により製造される人工三次元筋組織は医療用として用いることができる。例えば、筋肉インプラント、心筋シート、または臓器の一部または全部として用いることができる。本発明によれば、生存動物から入手することなく、人工三次元筋組織を医療用として使用することができる。
【0009】
本発明により製造される人工三次元筋組織は薬物(医薬)評価用として用いることができる。例えば、人工三次元筋組織と目的の薬物を接触させて、薬物の有効性や毒性などを評価することができる。
【0010】
本発明により製造される人工三次元筋組織は食用として用いることができる。例えば、ステーキ肉または加工肉として用いることができる。本発明によれば、家畜などの動物を殺すことなく、食用肉を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1(a)は、バイオプリントによる筋組織作製の模式図である。図1(b)は、プリンティング容器を示す。図1(c)は、プリンティング後の写真である。図1(d)は、製作された筋組織の1日培養後の写真(左上)、位相差顕微鏡で確認されたコラーゲン層と筋組織間の接合の写真(下)、および分化後の三次元蛍光イメージ(右上、緑:ミオシン重鎖、赤:アクチンフィラメント、青:細胞核)を示す。図1(e)は、分化2週間後の免疫染色された筋組織の蛍光イメージでみられるサルコメア構造を示す(緑:ミオシン重鎖、赤:アクチンフィラメント、青:細胞核)。
図2図2(a)は、バイオプリントによる筋組織作製のさらなる模式図である。図2(b)は、プリンティング後の写真である。
図3図3は、ゼラチンを含むサポーティングバスを用いて製造された筋組織のイメージおよび直径の測定結果を示す。
図4図4は、ジェランガムを含むサポーティングバスを用いて製造された筋組織のイメージおよび直径の測定結果を示す。
図5図5は、脂肪細胞、血管細胞、および製造された筋組織を集合させて、調製された培養肉の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、一実施形態において、(i)第1筋組織支持体、第2筋組織支持体および筋細胞を配置し、三次元筋組織前駆体を構成する工程であって、筋細胞を線状に配置し、線の一末端で第1筋組織支持体に近接させ、線の他末端で第2筋組織支持体に近接させて配置する、工程、および(ii)三次元筋組織前駆体を培養して、人工三次元筋組織を得る工程を含む、人工三次元筋組織の製造方法を提供する。
【0013】
本発明は、一実施形態において、(i)第1筋組織支持体および第2筋組織支持体を配置し、(ii)筋細胞を線状に配置し、線の一末端で第1筋組織支持体に近接させ、線の他末端で第2筋組織支持体に近接させて配置し、三次元筋組織前駆体を構成する工程、および(iii)三次元筋組織前駆体を培養して、人工三次元筋組織を得る工程を含む、人工三次元筋組織の製造方法を提供する。
【0014】
本発明は、一実施形態において、(i)第1筋組織支持体上に筋細胞を線状に配置し、線の一末端で第1筋組織支持体に近接させる工程、(ii)第2筋組織支持体を配置し、線の他末端で第2筋組織支持体に近接させて配置し、三次元筋組織前駆体を構成する工程、および(iii)三次元筋組織前駆体を培養して、人工三次元筋組織を得る工程を含む、人工三次元筋組織の製造方法を提供する。
【0015】
筋細胞はいずれの動物に由来するものであってもよい。筋細胞は、ヒト由来の筋細胞であってよく、またはヒト以外の動物由来の筋細胞であってもよい。動物は、例えば、昆虫、魚類、両生類、爬虫類、鳥類または哺乳類である。動物は、例えば、カエル、ニワトリ、ヒト、サル、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジ、イヌ、ネコ、マウスまたはウサギである。動物は食肉用であってもよく、ウシ、ブタ、ヒツジ、ニワトリなどが例示される。筋細胞は、筋肉由来の細胞であってもよく、あるいは間葉系幹細胞、胚性幹細胞または人工多能性幹細胞等の幹細胞由来の筋細胞であってもよい。筋細胞は、例えば脂肪細胞や血管内皮細胞、線維芽細胞、幹細胞、脂肪細胞、血管内皮細胞など他の種類の細胞を含んでいてもよい。筋細胞は、培養細胞であってもよい。培養細胞としては、初代培養細胞、継代培養細胞、及び細胞株細胞等が挙げられる。筋細胞は、筋芽細胞であってもよい。また、筋細胞は、筋組織または筋肉組織由来のあらゆる細胞、例えば、骨格筋、内臓筋、横紋筋、随意筋、不随意筋、平滑筋または心筋由来の細胞であってもよい。
【0016】
人工三次元筋組織は、培養筋細胞の集合体を含み、所望により細胞外マトリックスを含む。人工三次元筋組織は、骨格筋組織様であってもよく、心臓などの臓器の筋肉組織様であってもよい。好ましくは、人工三次元筋組織は筋繊維を形成している。人工三次元筋組織は、筋繊維の最小構成単位であるサルコメア構造を有していてもよい。人工三次元筋組織は、脈管構造を有していてもよい。人工三次元筋組織は、細胞外マトリックスを介して配置された三次元構造を有していてもよい。人工三次元筋組織を、例えば、筋肉インプラント、心筋シートなどの筋肉シート、または臓器の一部または全部として使用することができる。また、例えば、人工三次元筋組織と目的の薬物を接触させて、薬物の有効性や毒性などを評価する薬物(医薬)評価用として人工三次元筋組織を使用することができる。また、人工三次元筋組織を、例えば、ステーキ肉または加工肉などの食用として使用することができる。
【0017】
人工三次元筋組織の大きさや形状は、用途、使用場所、筋細胞の種類、筋組織に必要な物性などに応じて適宜調節されうる。人工三次元筋組織が円柱状である場合、その直径は、例えば、数ミクロン、数十ミクロン、数百ミクロン、数ミリ、または数センチ、あるいはそれ以上であってもよく、その高さは、例えば、数ミクロン、数十ミクロン、数百ミクロン、数ミリ、数センチ、あるいはそれ以上であってもよい。
【0018】
筋組織前駆体は、成熟筋組織が形成される前の筋細胞の集合体である。1の具体例において、筋組織前駆体は、線状に配置された成熟前の筋細胞の両端に第1筋組織支持体および第2筋組織支持体が近接して配置された細胞集合体である。
【0019】
筋細胞は細胞外マトリックスを伴っていってもよい。細胞外マトリックスはよく知られており、天然物であっても、人工物であってもよい。細胞外マトリックスは、例えばフィブロネクチン、ゼラチン、コラーゲン、ラミニン、またはポリリジン等を含むものであってもよい。細胞外マトリックスは、一種類であってもよいし、二種類以上であってもよい。好ましくは、細胞外マトリックスは、隣接する細胞同士の細胞間接着を促進または形成するものである。細胞外マトリックスを用いることによって、本発明の人工三次元筋組織中に鞘構造を形成することができる。
【0020】
筋組織支持体は、三次元筋組織前駆体を構成するため、または人工三次元筋組織を製造するために使用される基材である。人工三次元筋組織は、三次元筋組織前駆体、第1筋組織支持体および第2筋組織支持体が一体となって製造される。例えば、人工三次元筋組織は、筋繊維を模した三次元筋組織前駆体ならびに腱を模した第1筋組織支持体および第2筋組織支持体が一体となって製造される。本発明において、筋組織支持体として、少なくとも第1筋組織支持体および第2筋組織支持体が使用されるが、さらなる支持体が使用されてもよい。
【0021】
第1筋組織支持体および第2筋組織支持体のそれぞれの材料および大きさは、三次元筋組織前駆体、第1筋組織支持体および第2筋組織支持体が一体となって製造される人工三次元筋組織の使用などを考慮して、当業者によって適宜決定することができる。
【0022】
筋組織支持体の材料は、三次元筋組織前駆体と結合しうるものであればいずれの材料であってもよく、例えばコラーゲン(例えば、I型、II型、III型、IV型、V型、及びXI型からなる群より選択される1以上)であってもよい。筋組織支持体の材料は、筋細胞の種類や量、筋組織の大きさ、形状、物性などに応じて適宜選択することができる。第1筋組織支持体および第2筋組織支持体の材料は、同じであっても、異なっていてもよい。
【0023】
筋組織支持体の大きさや形状、ならびに物性もまた、筋細胞の種類や量、筋組織の大きさ、形状または物性などに応じて適宜選択することができる。人工三次元筋組織が円板状である場合、例えば、その直径は、例えば、数ミクロン、数十ミクロン、数百ミクロン、数ミリ、または数センチ、あるいはそれ以上であってもよく、その厚さは数ミクロン、数十ミクロン、数百ミクロン、数ミリ、または数センチ、あるいはそれ以上であってもよい。第1筋組織支持体および第2筋組織支持体の大きさや形状は、同じであっても、異なっていてもよい。
【0024】
筋細胞の配置は、公知の手段、方法を用いて行うことができる。典型的には、ゲル中にて筋細胞の配置を行う。
【0025】
好ましくは、ゲルはチキソトロピー性を有するものである。チキソトロピー性を有するゲルを用いると、例えばノズルを用いて筋細胞を配置する際に、ノズルの運動およびノズルからの細胞吐出圧に応じてゲルが流動体となり、三次元筋組織前駆体の大きさや形状の自由度が高くなる。筋細胞の配置後、チキソトロピー性を有するゲルは固化し、三次元筋組織前駆体の形状保持および筋細胞の保護に有利となる。あるいは、ゲルは、例えばゲル化前の液体状態において筋細胞を配置し、その後にゲル化処理されてもよい。液体状態において筋細胞を配置する場合、ノズルの運動が容易となる。筋細胞の配置後、ゲル化処理されたゲルは、三次元筋組織前駆体の形状保持および筋細胞の保護に有利となる。
【0026】
チキソトロピー性は、物理的刺激、例えば圧力によって、ゲルがゾルに変わり、これを放置しておくと再びゲルに戻る性質(ゾル-ゲル転移)を有する流体特性を指す。すなわち、チキソトロピー性は、液体がずりを受ける間に粘度が低下する現象を有し、ずり応力-ずり速度曲線にヒステリシスが見られ、降伏値がある現象を有する。
【0027】
本発明に用いるゲルは、高分子物質(例えば、タンパク質や多糖類などの天然高分子、合成高分子)を水含有媒体に分散させたものであってよい。ゲルを構成する高分子の例としては、寒天、ゼラチン、アガロース、キサンタンガム、ジェランガム、スクレロチウガム、アラビヤガム、トラガントガム、カラヤガム、セルロースガム、タマリンドガム、グアーガム、ローカストビーンガム、グルコマンナン、キトサン、カラギーナン、クインスシード、ガラクタン、マンナン、デンプン、デキストリン、カードラン、カゼイン、ペクチン、コラーゲン、フィブリン、ペプチド、マトリゲル、コンドロイチン硫酸ナトリウム等のコンドロイチン硫酸塩、ヒアルロン酸(ムコ多糖類)及びヒアルロン酸ナトリウム等のヒアルロン酸塩、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、及びアルギン酸カルシウム等のアルギン酸塩、並びにこれらの誘導体等の天然高分子;メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体及びこれらの塩;ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、アクリル酸・メタクリル酸アルキルコポリマー、等のポリ(メタ)アクリル酸類及びこれらの塩;ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートの重合体(PPEGDA、PPEGDM)、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリ(N,N-ジメチルアクリルアミド)、ポリ2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、ポリビニルピロリドン、ポリスチレンスルホン酸、ポリエチレングリコール、カルボキシビニルポリマー、アルキル変性カルボキシビニルポリマー、無水マレイン酸コポリマー、ポリアルキレンオキサイド系樹脂、ポリ(メチルビニルエーテル-alt-マレイン酸無水物)とポリエチレングリコールとの架橋体、ポリエチレングリコール架橋体、N-ビニルアセトアミド架橋体、アクリルアミド架橋体、デンプン・アクリル酸塩グラフトコポリマー架橋物等の合成高分子;シリコーン;相互侵入網目構造ハイドロゲル及びセミ相互侵入網目構造ハイドロゲル(DNハイドロゲル);これらの2種以上の混合物等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
媒体中の高分子量(濃度)を調節することにより、ゲル粘度を調節することができ、あるいはチキソトロピー性を付与することができる。高分子の種類、三次元筋組織前駆体または人工三次元筋組織のサイズ、形状または物性、ならびに使用するノズルのサイズや運動速度などに応じて、媒体中の高分子量(濃度)を調節することができる。好ましくは、三次元筋組織前駆体または人工三次元筋組織をゲル中に維持することができる粘度が得られるよう、媒体中の高分子量(濃度)を調節する。高分子の種類および量(濃度)の選択は当業者の技量の範囲内である。
【0029】
三次元バイオプリンティング法を筋細胞の配置に用いてもよい。三次元バイオプリンティング法は公知である。三次元バイオプリンティング法は、自動化または半自動化のコンピューター支援であってよく、または手動であってもよい。ノズルを有するディスペンサー、例えばマルチノズルディスペンサーを用いて一度に大量の細胞を配置してもよい。ノズル口径は、望まれる人工三次元筋組織の大きさや形状、ならびに細胞のサイズ配置に応じて適宜選択することができる。
【0030】
筋細胞の配置は、動物の筋繊維を模して行ってもよい。筋細胞は、線状に、1本または複数本以上、例えば2本以上、3本以上、4本以上、5本以上、10本以上、20本以上、30本以上、40本以上、50本以上、100本以上、500本以上、1000本以上、5000本以上または10000本以上で配置されてもよい。筋繊維束の構造が形成されるように筋細胞を配置してもよい。筋細胞が形成する線の太さ(直径)は、100μm以上、200μm以上、500μm以上、5mm以上、10mm以上または100mm以上であってよい。筋細胞が形成する線の太さ(直径)は、100mm以下、10mm以下、5mm以下、500μm以下、200μm以下または100μm以下であってもよい。筋細胞が形成する線の長さは、50mm以上、100mm以上または200mm以上であってよい。筋細胞は、直線状に配置されてもよい。筋細胞は、曲線状に配置されてもよい。筋細胞が形成する線は、一本であっても、複数本であってもよい。筋細胞が形成する線を切れにくくするために、筋細胞が形成する線は二本以上(複数本)で培養することができる。
【0031】
本明細書の用語「近接」は、筋細胞と筋組織支持体にわずかな間隙がある状態、あるいは筋細胞と筋組織支持体が接している状態をいう。わずかな間隙の大きさは、筋細胞が増殖して筋組織支持体に接することができる大きさである。わずかな隙間の大きさは、筋組織の大きさや形状、細胞の種類や培養条件によって異なるが、例えば、数ミリ、数百ミクロン、数十ミクロン、数ミクロンまたはそれ以下であってもよい。好ましくは、筋細胞と筋組織支持体が接している。
【0032】
本明細書の用語「線状」または「線」は、筋細胞が線状またはそれに近い状態で配置されることを意味する。線状に近い状態とは、動物における実際の筋組織を基準としてよい。あるいは、線状に近い状態とは、人工三次元筋組織の第1筋組織支持体および第2筋組織支持体と筋組織との間に伸縮張力が発生するような状態ともいえる。「線状」または「線」は、直線状または直線であってよい。「線状」または「線」は、曲線状または曲線であってもよい。
【0033】
第1筋組織支持体上に筋細胞を線状に配置する場合、第1筋組織支持体と配置された筋組織とのなす角が、例えば1度~90度、45度~90度、60度~90度、70度~90度、80~90度、85~90度、86~90度、87~90度、88~90度、89~90度、または90度(垂直)であることを意味する。第2筋組織支持体と配置された筋組織とのなす角についても上記の角度が好ましい。望まれる人工三次元筋組織の形状によっては、第1筋組織支持体および/または第2筋組織支持体と筋組織とのなす角は上記の角度に限定されない。
【0034】
筋細胞の配置の1の具体例は以下のようなものである:円柱状のゲルの一端に第1筋組織支持体を置き、他末端に第2筋組織支持体を置き、マルチノズルディスペンサーを用いて該ゲル中に筋細胞を線状に配置する。その際、筋細胞の線の一末端を第1筋組織支持体に近接させ、線の他末端を第2筋組織支持体に近接させる。筋細胞の配置のもう1つの具体例は以下のようなものである:円柱状のゲルの一端に第1筋組織支持体を置き、マルチノズルディスペンサーを用いて該ゲル中に筋細胞を線状に配置する。その際、筋細胞の線の一末端を第1筋組織支持体に近接させる。次いで、筋細胞の線の他末端に近接するように第2筋組織支持体を配置する。筋細胞の配置のさらなる具体例は以下のようなものである:マルチノズルディスペンサーを用いて円柱状のゲル中に筋細胞を線状に配置する。その際、筋細胞の線の両端がゲルの円柱の両底面に達するか、その近傍に来るようにする。次いで、第1筋組織支持体および第2筋組織支持体をゲルの円柱の両底面上に配置する。筋細胞の配置のさらなる具体例は以下のようなものである:三次元プリンターを用いてゲル中の一端に第1筋組織支持体をプリントし、他末端に第2筋組織支持体をプリントし、マルチノズルディスペンサーを用いて筋細胞を線状に配置する。その際、筋細胞の線の一末端を第1筋組織支持体に近接させ、線の他末端を第2筋組織支持体に近接させる。これら一連の工程を同じゲル中で行う。筋細胞の配置のさらなる具体例は以下のようなものである:三次元プリンターを用いてゲル中に第1筋組織支持体をプリントし、その上にマルチノズルディスペンサーを用いて筋細胞を線状に配置する。その際、筋細胞の線の一末端を第1筋組織支持体に近接させる。次いで、筋細胞の線の他末端に近接するように、三次元プリンターを用いて第2筋組織支持体をプリントする。これら一連の工程を同じゲル中で行う。筋細胞の配置のさらなる具体例は以下のようなものである:マルチノズルディスペンサーを用いてゲル中に筋細胞を線状に配置する。その際、筋細胞の線の両端がゲルの円柱の両底面に達するか、その近傍に来るようにする。次いで、三次元プリンターを用いてゲルの両底面上に第1筋組織支持体および第2筋組織支持体をプリントする。これら一連の工程を同じゲル中で行う。
【0035】
次に、構成された三次元筋組織前駆体を培養して、人工三次元筋組織を得る。筋細胞の種類、筋細胞の数、筋組織の大きさ、形状または物性(例えば弾力性、食感)などに応じて培養条件を適宜選択および変更することができる。かかる培養条件の選択および変更は、当業者の技量の範囲内である。
【0036】
三次元筋組織前駆体を液体培地中で培養してもよい。三次元筋組織前駆体が培地成分を含むゲル中で構成された場合は、三次元筋組織前駆体をゲルから取り出して、液体培地中で培養してもよい。あるいは、ゲル中で構成された三次元筋組織前駆体をゲル中で培養してもよい。ゲルは、培地成分および/または筋細胞への分化誘導促進成分を含んでいてもよい。ゲルは、物理的および/または化学的処理により溶解または分解され、除去可能となるものであってもよい。
【0037】
三次元筋組織前駆体の1の具体例において、チキソトロピー性を有するゲル中に三次元筋組織前駆体を構成し、その後、三次元筋組織前駆体をゲルから取り出して、液体培地中で培養を行う。三次元筋組織前駆体の培養の特別な具体例において、培地成分および/または筋細胞への分化誘導促進成分を含むチキソトロピー性を有するゲル中に三次元筋組織前駆体を構成し、その後、ゲルを物理的および/または化学的処理により溶解させ、溶解したゲル中で培養を行う。物理的あるいは化学的処理としては、ゲル溶解剤の添加、pH変化、温度変化、振盪などが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、ジェランガムのゲルはトリス緩衝液を添加することにより溶解させることができる。
【0038】
本発明の人工三次元筋組織の第1筋組織支持体および/または第2筋組織支持体と筋組織との間に伸縮張力が発生することが好ましい。伸縮張力は、三次元筋組織前駆体の培養工程において生じ得るが、培養工程の前および/または後において生じてもよい。伸縮張力が発生することによって、筋繊維、筋組織またはサルコメア構造の形成が容易となり、得られる筋組織は動物の筋肉により類似したものとなり得る。伸縮張力は筋細胞の作用により発生するものであってもよく、外部から与えられるものであってもよい。伸縮張力の大きさは、人工三次元筋組織の筋細胞の種類、筋細胞の数、筋組織の大きさ、形状、物性(例えば弾力性、食感)などに応じて適宜変化させることができる。
【0039】
三次元筋組織前駆体の培養工程において、あるいは該培養工程の前および/または後において、筋細胞への分化誘導および/または筋組織の成熟化を行ってもよい。筋細胞への分化誘導および筋組織の成熟化の方法は公知である。例えば、培地に筋細胞への分化誘導促進成分を添加してもよい。例えば、電気刺激を用いて筋組織を成熟させてもよい。細胞培養用の培地成分および筋細胞への分化誘導成分は公知であり、適宜選択することができる。
【0040】
本発明の製造方法で得られた人工三次元筋組織を食用とすることができる。本明細書において、「食用」は、ヒトまたはヒト以外の動物が摂食するのに適していることを示す。本発明の人工三次元筋組織は、例えばステーキ肉または加工肉などの食用として使用することができる。食用として適切となるように、例えば食感、栄養価、味または色などを調整するように、人工三次元筋組織に、タンパク質、脂肪、炭水化物、ビタミン、ミネラル、繊維、脂肪酸、アミノ酸、風味材料または着色材料などを加えてもよい。食用として適切となるように、人工三次元筋組織の形、重さまたは大きさなどを適宜調整してもよい。
【0041】
本発明は、さらなる実施形態において、第1筋組織支持体、第2筋組織支持体、および筋組織を含む人工三次元筋組織であって、筋組織が、線状であり、一末端で第1筋組織支持体に接合しており、他末端で第2筋組織支持体に接合している、人工三次元筋組織を提供する。
【0042】
本発明の人工三次元筋組織はサルコメア構造を有していてもよい。本発明の人工三次元筋組織は、脈管構造を有していてもよい。本発明の人工三次元筋組織は、細胞外マトリックスを介して配置された三次元構造を有していてもよい。
【0043】
本発明の人工三次元筋組織を医療用、薬物評価用または食用としてもよい。
【0044】
特に記載がない限り、本明細書で使用される用語は、当技術分野で通常、使用される用語である。
【0045】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的かつ詳細に説明するが、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されると解すべきではない。
【実施例
【0046】
実施例1
1. コラーゲンナノ繊維溶液の調製
PBS 1x溶液に1wt% コラーゲンスポンジ(日本ハム株式会社製)を混合して、粉砕機(ビオラモ社製 VH-10 homogenizer)を利用してコラーゲンマイクロ繊維溶液を調製した。その後、4℃で冷蔵庫で数時間保管することによってコラーゲンナノ繊維(CFN)溶液を調製した。
【0047】
2. サポーティングバスの作成
10% FBSと1% antibiotics(Antibiotics/Nacalai/02892-54)を含有したDMEMに4.5wt% ゼラチンを混合し、37℃でゼラチンを溶解した。溶解後、4℃で冷蔵庫中でゲル化させた。ゼラチンゲルと同じ容量のDMEM(10% FBSと1% antibiotics)溶液を混合し、粉砕機で粉砕した。粉砕されたゼラチン分散液にゼラチン分散液と同じ容量のDMEM(10% FBSと1% antibiotics)を添加し、遠心分離(4200rpm/3分)した。上澄みを除去後、トロンビンの濃度が10U/mLとなるように、トロンビンを添加した。
【0048】
3. プリンティング容器の準備
プリンティング容器は、図1(b)で見られるようにPDMS素材であった。内部の大きさは、低面積1cm(1cm × 1cm)、高さ2cmであった。高さについて、コラーゲン層がそれぞれ0.4cmであり、サポーティングバス領域は0.8cmであった。
【0049】
4. 細胞培養
4-1. 牛由来の筋衛星細胞の増殖
牛の組織から単離した筋衛星細胞を細胞培養フラスコ(3 layer cell culture flask/Falcon/353143)で培養した。衛星細胞増殖継代方法は、一般的な付着細胞と同様のプロトコルで実施した。培養液は、High glucose DMEM(DMEM/Gibco/10569010)に20% FBS(FBS/Corning/35-010-CV)、1% antibiotics、4ng/mL bFGF、10um/mL p38阻害剤(p38 inhibitor/selleck/S1076)を添加して調製した。
【0050】
4-2. 牛由来の筋衛星細胞の分化
分化誘導は培養液を交換して実施した。従来の増殖用の培養液に2% ウマ血清と1% antibioticsを添加したDMEMと交換した。2~3日毎に培地を交換した。
【0051】
5. 細胞プリンティング
5-1. プリンティングバスの作成
実施例1.3に記載のプリンティング容器の底領域に、実施例1.1に記載の1wt% コラーゲンナノ繊維溶液を約0.4ml注ぎ、37℃で約2時間でゲル化した。ゲル化された底領域のコラーゲンゲル上に10U/mL トロンビンが混合された4.5wt% ゼラチン粒子でサポーティングバス領域を満たした。サポーティングバス領域の上領域に、さらにコラーゲンナノ繊維溶液を0.4mL注いだ。
【0052】
5-2. バイオインクの調製
筋衛星細胞を培養皿で切り離した後、5×10細胞/mlの濃度に調製した。20mg/mLのフィブリノーゲンを細胞と混合し(全体量の60%)、追加で残りの全体量の40%のMatrigelを混合して、バイオインクを調製した。混合過程は、Matrigelのゲル化を最小化するため、氷上で4℃で行った。
【0053】
5-3. プリンティング
実施例5.1に記載のようにサポーティングバス材料とコラーゲン層が形成されたプリンティング容器を、4℃に保たれたプリンティング装置(武蔵エンジニアリング株式会社製、NANO MASTER)の基板の上に置き、底領域のコラーゲン層が液状になるように約10分間放置した。調製されたバイオインクをシリンジに挿入し、プリンティング装置に装着した。ノズルは16G(内径1.19mm、外径1.65mm)を使用して、プリンティング容器の高さ方向1.5cmに1mm/sの移動速度で細胞をプリントした。
【0054】
5-4. 後作業
細胞プリンティング完了後、上領域のコラーゲン層からノズルが過ぎ去った領域に追加的なコラーゲン溶液を注いだ後、30分間常温で維持した。その後、床領域のコラーゲン層にも追加的なコラーゲン溶液を注いだ後、30分間常温で維持した。その後、2時間37℃インキュベーターに保管してコラーゲンをゲル化した。この間に、サポーティングバスは液状化された。コラーゲンのゲル化完了後、PDMSで行われたプリンティング容器に追加的な培養液(High glucose DMEM、20% FBS、1% antibiotics、4ng/mL bFGF)を添加して培養した。
【0055】
6. プリンティング後の筋組織の確認
6-1. 分化誘導
筋線維への分化を誘導するため、既存の培養液(High glucose DMEM、20% FBS、1% antibiotics、4ng/ml bFGF)を分化誘導用の培養液(High glucose DMEM、2% horse serum、1% antibiotics)と交換した。
【0056】
6-2. 免疫染色と蛍光画像撮影
培養された筋組織を4% パラホルムアルデヒドに常温で20分間固定した後、PBS 1xで洗浄した。その後、0.2wt% Triton X-100で15分間処理後、PBS 1xで洗浄した。1wt% BSAに常温で30分間処理後、1wt% BSAに1ug/mlで調製されたMF20(Myosin 4 Monoclonal Antibody)で常温で2時間、一次染色を実施した。PBS 1xで洗浄後、Fluorescence conjugated phalloidinと一次染色に対応される二次抗体を1% BSAに混合して常温で1時間処理した。PBS 1xで洗浄後、DAPI(4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール二塩酸塩)で核染色後、共焦点レーザー顕微鏡を利用して三次元蛍光撮影を行った。撮影された蛍光イメージは、図1(d)と(e)で確認することができる。
【0057】
6-3. 筋繊維の直径の測定
培養された筋組織の直径の測定結果も得た(図3)。
【0058】
実施例2
1. コラーゲンナノ繊維溶液の調製
PBS 1x溶液に1wt% コラーゲンスポンジ(日本ハム株式会社製)を混合して、解繊機(ホモジナイザー)を利用してコラーゲンマイクロ繊維を調製した。その後、4℃で冷蔵庫で数時間保管することによってコラーゲンナノ繊維(CNF)溶液を調製した。
【0059】
2. サポーティングバスの作成
10mL PBSにジェランガム0.1gを100℃で溶解させた後、4℃で冷蔵庫中でインキュベートすることによってゲル化させた。ゲル化されたジェランガムを粉砕機を利用して粒子状にした。4200rpmで3分間遠心分離後、上澄みを除去した。粒子状のジェランガムゲルに、トロンビンの濃度が10U/mLとなるように、トロンビンを添加した。
【0060】
3. バイオインクの調製
DMEM 1mLに20mgのフィブリノーゲンを37℃で溶解させて20mg/mL フィブリノーゲン溶液を調製した。細胞プリンティング時に、細胞及び細胞外基質素材を添加した。
【0061】
4. プリンティング
実施例2.1に記載のコラーゲンナノ繊維溶液と実施例2.3に記載のバイオインクをそれぞれシリンジに挿入した。最初にコラーゲンナノ繊維が挿入されたシリンジをプリント装置にロードして3mL vialに500uLを吐出した。37℃で2時間ゲル化させた。ゲル化後、コラーゲンゲル上に実施例2.2に記載の調製したサポーティングバスを2.5mL添加した。シリンジをバイオプリント用のシリンジに交換した後、以下の条件でプリンティングした、ノズル:19G(内径0.68mm、外径1.00mm)、移動速度1mm/s。プリンティング後、37℃で15分間フィブリノーゲンのゲル化を加速した。結果を図2(b)に示した。
【0062】
5. 筋繊維の直径の測定
培養された筋組織の直径の測定結果も得た(図4)。
【0063】
実施例3
1. 培養肉の調製
市販の牛肉の脂肪組織、血管組織、および筋組織の比率に基づいて、脂肪細胞、血管細胞、および実施例1で得られた筋組織を集合させた。集合させた培養肉は図5に示される。血管細胞および筋組織は、カルミン色素(赤色)で染色されており、脂肪細胞は、染色されていない。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、再生医療、創傷治癒、運動機能の回復、維持、向上などのための治療材料の分野、医薬品の分野、筋肉に関する研究分野、ならびに食品および飼料の分野などにおいて有用である。
図1
図2
図3
図4
図5