(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】分光測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 25/16 20060101AFI20240807BHJP
G01N 21/3563 20140101ALI20240807BHJP
G02B 21/06 20060101ALI20240807BHJP
G02B 21/36 20060101ALI20240807BHJP
G01N 21/27 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
G01N25/16
G01N21/3563
G02B21/06
G02B21/36
G01N21/27 E
(21)【出願番号】P 2021033537
(22)【出願日】2021-03-03
【審査請求日】2023-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 正浩
(72)【発明者】
【氏名】張 開鋒
(72)【発明者】
【氏名】馬塲 修一
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 丈師
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/204140(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/078471(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/196784(WO,A1)
【文献】特開2020-041831(JP,A)
【文献】特開平06-094602(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N25/00-25/72
G01N 21/27
G01N 21/3563
G02B 21/06
G02B 21/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料が設置されるステージと、
前記試料の所定領域に照射するエネルギービームを発生するエネルギー源と、
前記試料に照射する電磁波を発生する電磁波源と、
前記所定領域の中に前記電磁波を集束させる対物レンズと、
前記試料で反射する電磁波を検出する二つの共焦点検出器と、
前記共焦点検出器の各出力に基づいて、前記所定領域に前記エネルギービームが照射されたときの前記試料の
膨張による物性値の変化を算出する算出部を備えることを特徴とする分光測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の分光測定装置であって、
前記共焦点検出器の各出力に基づいて、前記対物レンズと前記ステージとの相対距離を制御するZ方向制御部をさらに備えることを特徴とする分光測定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の分光測定装置であって、
第一の共焦点検出器は前記試料から離れる方向に焦点位置から距離Lだけ外されて配置されるピンホールを有し、第二の共焦点検出器は前記試料へ近づく方向に焦点位置から距離Lだけ外されて配置されるピンホールを有し、
前記Z方向制御部は、第一の共焦点検出器の出力がPD1、第二の共焦点検出器の出力がPD2であるとき、(PD2-PD1)/(PD2+PD1)の値に基づいて前記相対距離を制御することを特徴とする分光測定装置。
【請求項4】
請求項1に記載の分光測定装置であって、
前記所定領域の位置を制御するXY走査制御部をさらに備えることを特徴とする分光測定装置。
【請求項5】
請求項4に記載の分光測定装置であって、
前記XY走査制御部は、前記対物レンズまたは前記ステージを水平方向に移動させることによって前記所定領域の位置を制御することを特徴とする分光測定装置。
【請求項6】
請求項4に記載の分光測定装置であって、
前記XY走査制御部は、前記エネルギービームの経路上に配置され、前記エネルギービームを反射するミラーを回転させることによって前記所定領域の位置を制御することを特徴とする分光測定装置。
【請求項7】
請求項1に記載の分光測定装置であって、
前記電磁波の経路上に配置され、前記電磁波を反射するミラーを回転させることによって、前記所定領域の中で前記電磁波が照射される位置を制御するXY走査制御部をさらに備えることを特徴とする分光測定装置。
【請求項8】
請求項1に記載の分光測定装置であって、
前記エネルギービームの強度を測定するエネルギー検出器をさらに備え、
前記算出部は、前記エネルギービームの強度に基づいて、前記物性値の変化を補正することを特徴とする分光測定装置。
【請求項9】
請求項1に記載の分光測定装置であって、
前記エネルギー源は前記エネルギービームの強度を変調し、
前記算出部は、前記エネルギービームの強度の変調信号を基準として、前記物性値の変化を補正することを特徴とする分光測定装置。
【請求項10】
請求項1に記載の分光測定装置であって、
吸収スペクトルを表示する表示装置をさらに備えることを特徴とする分光測定装置。
【請求項11】
請求項4に記載の分光測定装置であって、
吸光度のマップ画像を表示する表示装置をさらに備えることを特徴とする分光測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分光測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
分光測定装置は、光の波長に対する物質固有の吸収曲線、すなわち吸収スペクトルを測定することによって、物質の組成を分析したり、物質に混入する異物を同定したりする装置である。分子の振動等の分析には、可視光の10倍前後の波長である赤外線が一般的に使用されるため、使用される光の波長に比例する回折限界によって制限される空間分解能は10μmオーダに留まる。
【0003】
特許文献1には、前処理無しかつ非接触、非破壊的に試料を分析するために、赤外線レーザーで周期的に光熱加熱した試料の膨張と収縮を、可視光レーザーを用いる共焦点検出器により測定することが開示される。可視光レーザーを用いた測定では、空間分解能を1μm以下にできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1では、単一の共焦点検出器を用いているため、焦点が合った位置から試料の表面が変位したときの検出器の検出光量の変化量がわずかであり、表面の変位に対する検出感度が低い。
【0006】
そこで本発明は、赤外線等でエネルギー付与される試料の膨張等の物性値の変化に対する検出感度を向上可能な分光測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明は、試料が設置されるステージと、前記試料の所定領域に照射するエネルギービームを発生するエネルギー源と、前記試料に照射する電磁波を発生する電磁波源と、前記所定領域の中に前記電磁波を集束させる対物レンズと、前記試料で反射する電磁波を検出する二つの共焦点検出器と、前記共焦点検出器の各出力に基づいて、前記所定領域に前記エネルギービームが照射されたときの前記試料の物性値の変化を算出する算出部を備えることを特徴とする分光測定装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、赤外線等でエネルギー付与される試料の膨張等の物性値の変化に対する検出感度を向上可能な分光測定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1に係わる分光測定装置の一例の概略構成図である。
【
図2】試料に照射されるエネルギービームとプローブ光を示す図である。
【
図3A】共焦点検出器の構成について説明する図である。
【
図3B】共焦点検出器の検出光量と変位量の関係について説明する図である。
【
図4A】二つの共焦点検出器の検出光量と変位量の関係について説明する図である。
【
図4B】二つの共焦点検出器の検出光量の和と変位量の関係について説明する図である。
【
図4C】二つの共焦点検出器の検出光量の差と和の比と変位量の関係を示す図である。
【
図5A】実施例2に係わる分光測定装置のXY走査の一例について説明する図である。
【
図5B】実施例2に係わる分光測定装置のXY走査の他の例について説明する図である。
【
図6】実施例3に係わる分光測定装置の共焦点検出器の一例について説明する図である。
【
図7A】実施例4に係わる分光測定装置のエネルギービーム照射の一例について説明する図である。
【
図7B】実施例4に係わる分光測定装置のエネルギービーム照射の他の例について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の分光測定装置の実施例について説明する。
【実施例1】
【0011】
図1を用いて実施例1の分光測定装置の全体構成について説明する。
図1中の鉛直方向をZ方向、水平方向をX方向及びY方向とする。分光測定装置は、試料113が設置されるステージ機構系と、試料113にエネルギーを付与するエネルギー付与系と、試料113の物性値を測定する測定系と、各部から出力されるデータを処理するとともに各部を制御する制御系を備える。
【0012】
ステージ機構系は、試料113が設置されるとともに、X方向及びY方向に移動するXYステージ112を有する。XYステージ112がX方向及びY方向に移動することにより、試料113の表面の任意領域が分析される。
【0013】
エネルギー付与系は、エネルギー源100、ビームエキスパンダレンズ101、102、部分反射ミラー103、エネルギー検出器104、ダイクロイックミラー110、対物レンズ111を有する。なおダイクロイックミラー110と対物レンズ111は、測定系と共用される。
【0014】
エネルギー源100は、試料113にエネルギーを付与するエネルギービーム500、例えば赤外線ビームを発生する。エネルギービーム500はビームエキスパンダレンズ101、102によってビーム径が拡大されたのち、部分反射ミラー103へ向かう。部分反射ミラー103はエネルギービーム500の一部をエネルギー検出器104へ向けて透過し、残りを試料113へ向けて反射する。エネルギー検出器104は部分反射ミラー103を透過したエネルギービーム500の強度を測定する。部分反射ミラー103で反射したエネルギービーム500はダイクロイックミラー110を透過し、対物レンズ111によって集束されたのち試料113に照射される。エネルギービーム500が照射された試料113は、付与されたエネルギーを吸収して熱膨張を起こす。
【0015】
測定系は、光源120、コリメータレンズ121、ビームスプリッタ122、フィルタ123、集光レンズ124、ハーフミラー125、ピンホール126、128、光検出器127、129、ダイクロイックミラー110、対物レンズ111を有する。
【0016】
光源120は、試料113の物性値を測定するプローブ光501、例えば電磁波であって可視光ビームや紫外線ビームを発生する。光源120が発生するプローブ光501は、エネルギービーム500よりも短い波長を有し、より小さなスポットに集光されるビーム、例えば緑色光や青色光のビームであることが望ましい。プローブ光501はコリメータレンズ121によって略平行なビームにされたのち、ビームスプリッタ122とフィルタ123を透過し、ダイクロイックミラー110へ向かう。ダイクロイックミラー110はプローブ光501を対物レンズ111へ向けて反射する。ダイクロイックミラー110で反射したプローブ光501は対物レンズ111によって集束されたのち試料113に照射される。
【0017】
図2を用いて試料113に照射されるエネルギービーム500とプローブ光501について説明する。前述のように、エネルギービーム500とプローブ光501はともに対物レンズ111によって集束されて試料113へ照射される。プローブ光501は、エネルギービーム500よりもビーム径が小さく、エネルギービーム500が照射される領域よりも狭い領域に照射されるので、エネルギービーム500が照射される領域の物性値を高い空間分解能で測定することができる。特にプローブ光501が可視光ビームである場合、試料113の表面に集光されるプローブ光501のビーム径は0.5μm程度になる。さらに測定系に共焦点検出器が用いられることにより、測定系の空間分解能は0.3μm程度になる。なお、測定される物性値には、エネルギービーム500を吸収することによって膨張する試料113の表面の変位や曲率の変化、表面反射率の変化等が含まれる。
【0018】
図3Aと
図3Bを用いて共焦点検出器について説明する。共焦点検出器は、点光源から照射される光が試料の表面で焦点を結ぶときに、試料から反射する光が検出面で焦点を結ぶように構成される。具体的には、光源120、コリメータレンズ121、ビームスプリッタ122、対物レンズ111、試料113、集光レンズ124、ピンホール126、光検出器127が、
図3Aに例示されるように配置される。光源120の点光源が発生したプローブ光501はコリメータレンズ121によって平行ビームにされたのち、ビームスプリッタ122で反射して対物レンズ111へ入射する。対物レンズ111はプローブ光501を集束させて焦点を結ばせる。
【0019】
焦点が試料113の表面に合っている場合、反射したプローブ光501は、
図3A中の実線の光路で、対物レンズ111、ビームスプリッタ122、集光レンズ124を通過して、ピンホール126で焦点を結ぶ。その結果、試料113で反射したプローブ光501のほとんどはピンホール126を通過して、光検出器127により検出される。エネルギービーム500の照射により試料113が膨張し、
図3A中の点線で示すように表面が変位した場合、プローブ光501は点線の光路で進み、ピンホール126では焦点を結ばない。その結果、ピンホール126を通過して光検出器127に検出される光量は、実線の光路の場合よりも減少する。すなわち、光検出器127の検出光量は試料113の表面の変位量に応じて変化するので、エネルギーが付与された試料113の物性値の変化を光検出器127により測定できる。
【0020】
図3Bは、共焦点検出器の検出光量Iと試料113の変位量Zの関係を示すグラフである。
図3Bに示されるように、検出光量Iは試料113の表面が合焦位置にあるとき最大となり、合焦位置からずれるにしたがって減少する。一方、検出光量Iの変化量ΔIと変位量Zの変化量ΔZとの比ΔI/ΔZの絶対値である変位量の検出感度は、合焦位置で最小であり、合焦位置の近傍においても略ゼロと低い。そこで実施例1では、二つの共焦点検出器を用いることにより、検出感度を向上させる。
【0021】
図1に戻り、測定系の説明を続ける。試料113に照射されたプローブ光501は、試料113の表面で反射し、元の光路でビームスプリッタ122に戻り、集光レンズ124に向かって反射する。集光レンズ124に入射したプローブ光501は集束されてハーフミラー125に進む。ハーフミラー125では、集束されたプローブ光501の略半分がピンホール126に向かって透過し、残りの略半分がピンホール128に向かって反射する。ハーフミラー125を透過したプローブ光501のうち、ピンホール126を通過したプローブ光501は光検出器127で検出される。またハーフミラー125で反射したプローブ光501のうち、ピンホール128を通過したプローブ光501は光検出器129で検出される。なお、ピンホール126とピンホール128は、集光レンズ124の焦点位置から外されて配置される。すなわち、ピンホール126は試料113から離れる方向に集光レンズ124の焦点位置から距離Lだけ外されて配置され、ピンホール128は試料113へ近づく方向に焦点位置から距離Lだけ外されて配置される。なお距離Lは焦点深度以下に設定される。
【0022】
図4Aは、ピンホール126とピンホール128が距離Lだけ外されて配置されたときの光検出器127と光検出器129の検出光量と試料113の変位量の関係を示すグラフである。光検出器127の検出光量曲線PD1と光検出器129の検出光量曲線PD2とのピークは、合焦位置から距離Lだけずれる。
【0023】
図4Bは、検出光量曲線PD1とPD2を加算したグラフある。
図4Bに例示されるグラフを用いることにより、ΔI/ΔZの絶対値となる変位量の検出感度が高い位置、例えば
図4B中に丸で示される位置で変位量を測定できる。すなわち変位量の検出感度を向上させることができる。
【0024】
【0025】
(PD2-PD1)/(PD2+PD1) … (式1)
(式1)により算出される値は、変位量Zに対して略線形に変化し、合焦位置においてゼロになる。すなわち
図4Cに例示されるグラフを用いることにより、焦点位置を調整する制御が容易になる。例えば(式1)の値がゼロになるように、試料113のZ方向の位置を制御することにより、対物レンズ111と試料113の間の距離のドリフト等による焦点位置のズレを吸収できる。また試料113の表面の凹凸に対して焦点位置を追従させながら測定することが可能である。
【0026】
なお、焦点位置の制御に用いる値は、PD2-PD1であっても良い。PD2-PD1を用いる場合、(式1)の除算がなくなり演算量を低減できるので処理時間を短縮できる。一方、(式1)を用いると、PD2+PD1で正規化されるので、試料113の表面の反射率や屈折率が一様でない場合や光源120の強度が変動する場合であっても、それらの影響を抑制できる。
【0027】
ここでビームスプリッタ122について説明を加える。ビームスプリッタ122における透過と反射が略1対1である場合、ビームスプリッタ122を2回通過するプローブ光501の光量は1/4に減少する。そこで、プローブ光501の光量の減少を抑制するために、ビームスプリッタ122として、偏光ビームスプリッタを用いても良い。
【0028】
偏光ビームスプリッタが用いられる場合、コリメータレンズ121から出射する光が紙面の上下方向に偏光しているとすると、その光の大部分はビームスプリッタ122を透過する。そしてフィルタ123として偏光方向に対して軸方向が45度回転したλ/4板が配置されると、フィルタ123を出射したプローブ光501は円偏光となる。円偏光となったプローブ光501は、試料113の表面で反射し、元の光路でフィルタ123に戻り、λ/4板であるフィルタ123を透過することで、円偏光から紙面に垂直な方向の直線偏光に変換される。さらに直線偏光に変換されたプローブ光501は、偏光ビームスプリッタの特性によって、ほぼ全てが集光レンズ124に向けて反射する。すなわちビームスプリッタ122として偏光ビームスプリッタが用いられ、フィルタ123としてλ/4板が配置されることにより、プローブ光501の光量を減少させることなく、光検出器127、129に向けて導くことができる。
【0029】
またフィルタ123として、プローブ光501の波長だけを透過する波長フィルタが付加されても良い。波長フィルタが付加されることにより、プローブ光501以外の光の検出が抑制され、検出ノイズを低減できる。
【0030】
制御系について説明する。制御系は、全体制御部301、エネルギー源制御部302、ロックイン検出部303、プローブ光量補正部304、エネルギー強度補正部305、焦点ずれ量算出部306、XY走査制御部307を有する制御装置300である。全体制御部301は、各部を制御するとともに、各部で生成されるデータを処理したり送信したりする演算器であり、例えばCPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)等である。全体制御部301以外の各部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field-Programmable Gate Array)等を用いた専用のハードウェアで構成されても良いし、演算器上で動作するソフトウェアで構成されても良い。なお、前述および後述の説明で登場する表示装置、プリンタ、又は記憶装置は、制御装置300の一部でもよく、外付けの装置であってもよい。
【0031】
エネルギー源制御部302は、エネルギー源100が発生するエネルギービーム500の波長や強度等を制御する。波長が走査されることにより、試料113の吸収スペクトルが測定できる。また強度が変調されることにより、後述するロックイン検出部303によるロックイン検出が可能になる。
【0032】
ロックイン検出部303は、光検出器127、129の検出光量PD1、PD2を、エネルギー源制御部302から送信される変調信号と対比させながら検出することにより、いわゆるロックイン検出をする。変調信号を基準として、例えばPD2-PD1の信号をロックイン検出することにより、PD2-PD1の振幅が求められる。
【0033】
なお、変調信号を基準として、PD1とPD2のそれぞれに対してロックイン検出を行ってから、両者の差を算出しても良いし、(式1)の値に対してロックイン検出を行っても良い。
【0034】
またロックイン検出の代わりに、エネルギービーム500の変調周波数に相当する変位信号をフィルタで抽出してから振幅を測定する、いわゆるAM検波が用いられても良い。またFFT等を用いて変位信号をスペクトル解析し、変調周波数に対応するスペクトルピークの強度が測定されても良い。さらにその他の一般的な振幅検出法が用いられても良い。
【0035】
プローブ光量補正部304は、ロックイン検出部303で求められたPD2-PD1の振幅をPD2+PD1で除算する。除算によって求められた値は、試料113の表面の変位の振幅に比例するので、以降では試料変位測定値と呼ぶ。
【0036】
エネルギー強度補正部305は、プローブ光量補正部304で求められた試料変位測定値を、エネルギー検出器104で測定されたエネルギービーム500の強度で除算することにより、エネルギー吸収率に比例する値を算出する。エネルギービーム500の波長が走査されながら、エネルギー吸収率に比例する値が算出されることにより、試料113の吸収スペクトルが得られる。得られた吸収スペクトルは、表形式やグラフ形式で外部に出力されても良い。例えば、グラフ形式の吸収スペクトルが、液晶ディスプレイ等の表示装置に表示されたり、記憶装置に格納されたり、プリンタ等によって印刷されても良い。なお、焦点ずれ量算出部306は、(式1)の値に基づいて、対物レンズ111のZ方向の位置を制御する。対物レンズ111のZ方向の位置が制御されることにより、試料113の表面の凹凸に対するプローブ光501の追従が可能になる。
【0037】
XY走査制御部307は、対物レンズ111またはXYステージ112をX方向及びY方向に移動させる。対物レンズ111またはXYステージ112の移動により、試料113の任意の位置にエネルギービーム500及びプローブ光501を照射することができ、吸収スペクトルの試料113の表面における分布を測定できる。特にエネルギービーム500の波長を固定した状態で、対物レンズ111またはXYステージ112を移動させながら、二つの共焦点検出器による測定を行うことにより、当該波長に対する吸光度のマップ画像を生成できる。
【0038】
なお、焦点ずれ量算出部306とXY走査制御部307とは連携して動作することで、試料113の表面の凹凸に対するプローブ光501の焦点追従を行いつつ、レンズあるいはステージを移動することができる。その結果、常にエネルギー吸収率の検出感度の高い状態を保ちつつXY走査することが可能となる。また、生成された吸光度のマップ画像は、画像のまま又はグラフ形式で外部に出力されても良い。例えば、マップ画像が、液晶ディスプレイ等の表示装置に表示されたり、記憶装置に格納されたり、プリンタ等によって印刷されても良い。グラフ形式の表示は、例えばXY走査制御部307で1次元走査した場合は二次元グラフであり、XY走査制御部307で2次元走査した場合は三次元グラフである。
【0039】
以上説明したように実施例1では二つの共焦点検出器の各出力PD1、PD2に基づいて、赤外線等でエネルギー付与される試料113の膨張等の物性値の変化を検出するので、検出感度を向上させることできる。また各出力から(PD2-PD1)/(PD2+PD1)が算出されるので、試料113の表面の反射率や屈折率、表面の凹凸、エネルギービーム500やプローブ光501の光量変動、対物レンズ111と試料113の間の距離のドリフト等の影響を抑制できる。さらに、プローブ光501として、赤外線より短波長である可視光を用いることにより、空間分解能を向上できる。
【0040】
さらに、二つの共焦点検出器の各出力PD1、PD2を用いることで、物性値の変化の測定に加えてオートフォーカスも可能であるので、別途オートフォーカス機構を設けずにすみ、分光測定装置の省スペース化を実現できる。また二つの共焦点検出器を用いたオートフォーカスにより、凹凸の大きい試料の表面に対して焦点位置を高速に追従させられるので、測定に要する時間を短縮できる。
【実施例2】
【0041】
実施例1では、対物レンズ111をX方向及びY方向に移動させることでエネルギービーム500及びプローブ光501が照射される位置を走査することについて説明した。実施例2では、対物レンズ111を固定したまま、エネルギービーム500及びプローブ光501が照射される位置を走査することについて説明する。なお、実施例1と同じ構成には同じ符号を付与して説明を省略する。
【0042】
図5A及び
図5Bを用いて、実施例2の要部について説明する。実施例2の分光測定装置は、実施例1の構成にx走査ミラー115とy走査ミラー116、Zステージ114が追加される。
【0043】
x走査ミラー115とy走査ミラー116はエネルギービーム500及びプローブ光501を反射するミラーである。エネルギービーム500及びプローブ光501はx走査ミラー115の回転によってX方向に走査され、y走査ミラー116の回転によってY方向に走査される。x走査ミラー115とy走査ミラー116の回転はXY走査制御部307によって制御される。
【0044】
Zステージ114はXYステージ112の上に配置され、試料113が設置されるとともにZ方向に移動する。Zステージ114のZ方向への移動は、焦点ずれ量算出部306によって制御される。すなわち(式1)の値に基づいて、Zステージ114のZ方向の位置が制御されるので、実施例1と同様に、試料113の表面の凹凸に対するプローブ光501の追従が可能になる。
【0045】
図5Aではダイクロイックミラー110と対物レンズ111との間に、x走査ミラー115とy走査ミラー116が配置され、両ミラーの回転によってエネルギービーム500及びプローブ光501が試料113の表面で走査される。試料113の表面でエネルギービーム500及びプローブ光501が走査されることにより、実施例1と同様に、吸収スペクトルの分布を測定できる。
【0046】
図5Bではフィルタ123とダイクロイックミラー110との間に、x走査ミラー115とy走査ミラー116が配置され、両ミラーの回転によってプローブ光501のみが試料113の表面で走査される。すなわち
図5Bの構成では、x走査ミラー115とy走査ミラー116が回転してもエネルギービーム500は走査されない。なおプローブ光501は、エネルギービーム500が照射される領域の中で走査される。エネルギービーム500が照射される領域の中でプローブ光501が走査されることにより、当該領域内での吸収スペクトルの分布を測定できる。
【0047】
以上説明したように実施例2では、x走査ミラー115とy走査ミラー116の回転によって少なくともプローブ光501が試料113の表面で走査されるので、吸収スペクトルの分布を測定できる。また実施例1と同様に、二つの共焦点検出器の各出力PD1、PD2に基づいて、赤外線等でエネルギー付与される試料113の膨張等の物性値の変化を検出するので、検出感度を向上させることできる。
【0048】
なおプローブ光501及びエネルギービーム500の走査は、x走査ミラー115とy走査ミラー116の回転だけによらず、XYステージ112や対物レンズ111の水平方向への移動と組み合わせによってなされても良い。例えば、
図5Bの構成において、x走査ミラー115とy走査ミラー116の回転によって、エネルギービーム500が照射される領域に対するプローブ光501の位置合わせをしたのち、対物レンズ111等の移動により試料113の表面を走査させても良い。
【0049】
さらに、実施例1と同様に、二つの共焦点検出器の各出力PD1、PD2を用いることで、物性値の変化の測定に加えてオートフォーカスも可能であるので、別途オートフォーカス機構を設けずにすみ、分光測定装置の省スペース化を実現できる。また二つの共焦点検出器を用いたオートフォーカスにより、凹凸の大きい試料の表面に対して焦点位置を高速に追従させられるので、測定に要する時間を短縮できる。
【実施例3】
【0050】
実施例1では、二つの共焦点検出器を用いて、試料113の表面で反射するプローブ光501を検出することについて説明した。実施例3では、共焦点検出器による検出とともに、集光レンズ124で集束される前のプローブ光501を、絞りを介して検出することで試料113の表面の散乱状態を測定することについて説明する。なお、実施例1と同じ構成には同じ符号を付与して説明を省略する。
【0051】
図6を用いて、実施例3の要部について説明する。実施例3の分光測定装置は、実施例1の構成にミラー130と開口絞り131、光検出器132が追加される。ミラー130はビームスプリッタ122と集光レンズ124の間に配置され、試料113の表面で反射したプローブ光501の一部またはほぼ全部を開口絞り131に向けて反射する。すなわちミラー130が部分反射ミラーであればプローブ光501の一部が開口絞り131に向かい、ミラー130が全反射ミラーであればプローブ光501のほぼ全部が開口絞り131に向かう。光検出器132は開口絞り131を通ったプローブ光501を検出することで、試料113の表面の散乱状態を測定する。
【0052】
エネルギービーム500が照射された試料113の表面は、熱膨張により曲率が局所的に変化したり、温度変化やキャリア濃度の変化により屈折率が局所的に変化したりする。その結果、試料113の表面の散乱状態が変化して、プローブ光501の反射光の角度分布が変化する場合がある。反射光の角度分布の変化は、開口絞り131におけるプローブ光501の広がり具合を変化させ、光検出器132の検出光量を変化させる。よって開口絞り131を介してプローブ光501を光検出器132によって検出することで試料113の表面の散乱状態を測定できる。
【0053】
なお試料113の表面の変位がわずかであって検出が困難である場合は、エネルギービーム500の強度を基準信号としてロックイン検出しても良い。またミラー130が全反射ミラーである場合、プローブ光501の光路からミラー130を外したときに共焦点検出器により測定し、光路にミラー130を入れたときに散乱状態を測定するようにしても良い。
【0054】
以上説明したように実施例3では、集光レンズ124で集束される前のプローブ光501を、開口絞り131を介して検出するので、試料113の表面の散乱状態を測定できる。また共焦点検出器による測定と散乱状態の測定を組み合わせることもできる。
【実施例4】
【0055】
実施例1では、試料113にエネルギーを付与するエネルギービーム500として赤外線ビームを用いることについて説明した。実施例4では、エネルギービーム500として電子線やイオンビームのような荷電粒子線を用いることについて説明する。なお、実施例1と同じ構成には同じ符号を付与して説明を省略する。
【0056】
図7A及び
図7Bを用いて、実施例4の要部について説明する。実施例4の分光測定装置では、エネルギービーム500として荷電粒子線を用いるため、ダイクロイックミラー110と対物レンズ111をエネルギー付与系と測定系において共用することができない。そこで
図7Aでは実施例1の構成に対して、ダイクロイックミラー110が穴あきミラー110’に、対物レンズ111が中空対物レンズ111’に、それぞれ置換される。
【0057】
穴あきミラー110’は中心部に穴を有するミラーであり、中空対物レンズ111’は中心部に穴を有するレンズである。荷電粒子線であるエネルギービーム500は、穴あきミラー110’の穴と中空対物レンズ111’の穴を通過して試料113に照射される。またプローブ光501は穴あきミラー110’の穴以外の箇所で中空対物レンズ111’に向けて反射し、中空対物レンズ111’の穴以外の箇所で集束されて試料113に照射される。荷電粒子線であるエネルギービーム500とともに試料113に照射されるプローブ光501は、試料113で反射したのち、実施例1と同様に、二つの共焦点検出器によって検出される。
【0058】
図7Bでは、実施例1の構成に対して、ダイクロイックミラー110がミラー110’’に置換される。プローブ光501はミラー110’’で反射して対物レンズ111へ入射し、集束されて試料113に照射される。また荷電粒子線であるエネルギービーム500は、対物レンズ111の軸外から試料113へ照射される。
図7Bの構成においても、荷電粒子線であるエネルギービーム500とともに試料113に照射されるプローブ光501は、試料113で反射したのち、二つの共焦点検出器によって検出される。
【0059】
以上説明したように実施例4では、エネルギービーム500として荷電粒子線が用いられるので、赤外線ビームよりも狭い領域にエネルギーを付与することができ、空間分解能をさらに向上させることができる。
【0060】
以上、本発明の複数の実施例について説明した。本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形したり、各実施例を適宜組み合わせたりしても良い。さらに、上記実施例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除しても良い。
【符号の説明】
【0061】
100:エネルギー源、101、102:ビームエキスパンダレンズ、103:部分反射ミラー、104:エネルギー検出器、110:ダイクロイックミラー、110’:穴あきミラー、110’’:ミラー、111:対物レンズ、111’:中空対物レンズ、112:XYステージ、113:試料、114:Zステージ、115:x走査ミラー、116:y走査ミラー、120:光源、121:コリメータレンズ、122:ビームスプリッタ、123:フィルタ、124:集光レンズ、125:ハーフミラー、126、128:ピンホール、127、129:光検出器、130:ミラー、131:開口絞り、132:光検出器、300:制御装置、301:全体制御部、302:エネルギー源制御部、303:ロックイン検出部、304:プローブ光量補正部、305:エネルギー強度補正部、306:焦点ずれ量算出部、307:XY走査制御部、500:エネルギービーム、501:プローブ光