(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】荷電粒子線装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/22 20060101AFI20240807BHJP
H01J 37/20 20060101ALI20240807BHJP
【FI】
H01J37/22 502
H01J37/20 A
(21)【出願番号】P 2023542030
(86)(22)【出願日】2021-08-16
(86)【国際出願番号】 JP2021029862
(87)【国際公開番号】W WO2023021540
(87)【国際公開日】2023-02-23
【審査請求日】2024-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 浩之
(72)【発明者】
【氏名】大森 健史
(72)【発明者】
【氏名】栗原 優
(72)【発明者】
【氏名】人見 敬一郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 駿也
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 博文
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/157860(WO,A1)
【文献】特開2020-113769(JP,A)
【文献】特開2011-129458(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に荷電粒子線を照射することにより、当該試料の画像データを所定倍率で取得する撮像装置と、
前記画像データを取得する際の視野探しの演算処理を、前記画像データを用いて実行するコンピュータシステムと、
前記視野探しのための設定パラメータを入力するためのグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)が表示される表示ユニットと
を備え、
前記撮像装置は、
前記試料を少なくとも2つの駆動軸で移動させることが可能に構成され、かつ前記コンピュータシステムが求める前記試料の位置情報に対応させて撮像視野を移動させることができる試料ステージを備え、
前記コンピュータシステムは、
前記試料が前記荷電粒子線に対して傾斜した状態で撮像されたチルト画像の画像データの入力に対し、当該チルト画像上に一つまたは複数存在する特徴部の位置情報を出力する識別器を備え、
当該識別器は、
前記チルト画像の画像データを入力とし、前記特徴部の位置情報を出力とする教師データを用いてあらかじめ学習が実施されており、
前記コンピュータシステムは、前記識別器に対して入力された新規なチルト画像データに対し、前記特徴部の位置情報を出力する処理を実行する
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項2】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
前記GUIには、前記特徴部に対する最終観察位置の相対位置情報を設定するための第一の設定欄が表示され、
前記試料ステージが、当該第一の設定欄で設定された相対位置情報に従い、前記撮像装置の視野を最終観察位置に移動させるように制御されることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項3】
請求項2に記載の荷電粒子線装置において、
前記GUIには、前記試料の断面が前記荷電粒子線に対して正対位置となる前記駆動軸の状態を登録する登録ボタンが表示され、
前記試料ステージが、前記最終観察位置への視野移動後、当該登録された正対位置の状態に前記駆動軸を調整するように制御されることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項4】
請求項2に記載の荷電粒子線装置において、
前記GUIには、取得画像の最終倍率を設定するための第二の設定欄が表示され、
前記撮像装置が、当該第二の設定欄で設定された最終倍率に従い、前記最終観察位置において画像データを取得するように制御されることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項4に記載の荷電粒子線装置において、
前記撮像装置が、前記チルト画像を撮像する際の倍率から前記最終倍率まで段階的に倍率を上げて撮像を行うよう制御されることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項6】
請求項4に記載の荷電粒子線装置において、
前記コンピュータシステムは、倍率を上げて撮像された画像に対し、前記試料の断面に含まれるエッジラインの検出処理を用いた水平線の補正処理を実行することにより画像の回転ずれ量を求め、
前記撮像装置は、前記試料ステージの調整またはイメージシフトにより前記画像の回転ずれに伴う視野ずれ補正を行うことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項7】
請求項6に記載の荷電粒子線装置において、
前記コンピュータシステムは、前記倍率の拡大前後での視野中心のずれ量を求め、
前記撮像装置は、前記試料ステージの調整またはイメージシフトにより視野ずれ補正を行うことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項8】
請求項6または7に記載の荷電粒子線装置において、
前記視野ずれ補正の補正量が適切かどうかを判定し、補正量の過不足に応じて前記試料ステージを再調整または前記イメージシフトを再実行することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項9】
請求項5に記載の荷電粒子線装置において、
前記撮像装置は、前記倍率を上げる都度、焦点調整および非点補正を実行するよう制御されることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項10】
請求項5に記載の荷電粒子線装置において、
前記コンピュータシステムは、前記倍率を上げた撮像により得られた画像データに対し、前記試料の断面に含まれるエッジラインの検出処理を実行し、
前記撮像装置は、前記エッジラインが検出された場合は、焦点調整および非点補正を実行せずに倍率を上げて、次の倍率での撮像を実行するよう制御されることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項11】
請求項4に記載の荷電粒子線装置において、
前記撮像装置は、前記荷電粒子線を少なくとも第一の走査速度および当該第一の走査速度よりも高速な第二の走査速度で走査できる走査手段を備え、
前記チルト画像を前記第二の走査速度で撮像し、
前記最終倍率での画像を前記第一の走査速度で撮像することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項12】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
前記識別器が、前記教師データに替えて、前記試料のレイアウトパターンデータから生成された疑似チルト画像を入力とし、当該疑似チルト画像上に存在する特徴部の位置情報を出力とする教師データにより学習されたことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項13】
請求項12に記載の荷電粒子線装置において、
前記疑似チルト画像は、前記レイアウトパターンデータから生成された任意の断面を含む三次元モデルに対し、当該三次元モデルに対応する箇所の実画像データから抽出される画風情報を用いた画風変換処理を実行することにより生成されたことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項14】
請求項1に記載の荷電粒子線装置において、
前記コンピュータシステムは、
前記視野探しの過程において、前記一つまたは複数の特徴部を視野に含む複数のチルト画像を前記GUIに表示する処理と、
更に、前記特徴部を強調するためのマーカを当該複数のチルト画像に重畳して表示する処理とを実行することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項15】
請求項12に記載の荷電粒子線装置において、
前記コンピュータシステムは、
撮像されたチルト画像を前記識別器に入力することにより出力される前記特徴部の位置情報と、前記レイアウトパターンデータから得られる前記特徴部の位置情報とをリンクさせることにより、前記チルト画像と前記レイアウトパターンデータとの座標アライメントを実行することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項16】
請求項15に記載の荷電粒子線装置において、
前記チルト画像は、試料断面の左端が視野に収まる位置から右端が視野に収まる位置まで前記試料ステージを移動させて得られたことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項17】
試料に荷電粒子線を照射することにより、当該試料の画像データを所定倍率で取得する撮像装置と、
前記画像データを取得する際の視野探しの演算処理を、前記画像データを用いて実行するコンピュータシステムと、
前記視野探しのための設定パラメータを入力するためのグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)が表示される表示ユニットと
を備え、
前記撮像装置は、
前記試料を少なくとも2つの駆動軸で移動させることが可能に構成され、かつ前記コンピュータシステムが求める前記試料の位置情報に対応させて撮像視野を移動できる試料ステージを備え、
前記コンピュータシステムは、
前記画像データに一つまたは複数存在する第一の特徴部の位置情報を出力する第一の識別器と、
前記画像データに一つまたは複数存在する第二の特徴部の位置情報を出力する第二の識別器と
を備え、
前記第一の識別器および第二の識別器は、第一の倍率で撮像された画像データを入力とし、前記第一の特徴部または前記第二の特徴部の位置情報を出力とする教師データを用いてあらかじめ学習が実施されており、
前記撮像装置は、
前記試料ステージにより移動された、前記第一の特徴部を含む視野および第二の特徴部を含む視野において、前記第一の倍率よりも大きな第二の倍率に視野を拡大する処理と、
当該第二の倍率に拡大された視野内で、前記第一の特徴部または前記第二の特徴部に前記荷電粒子線を照射して、順次元素分析を実行する処理と
を実行する
ことを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項18】
請求項17に記載の荷電粒子線装置において、
前記コンピュータシステムは、前記第一の倍率から前記第二の倍率への拡大での視野中心のずれ量を求め、
前記撮像装置は、前記試料ステージの調整またはイメージシフトにより視野ずれ補正を行うことを特徴とする荷電粒子線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体デバイスの進化に伴い、そのデバイス構造が複雑化している。先端デバイスを製造する半導体メーカーにおいては、そのようなデバイスのプロセスをいかに迅速かつ効率的に開発するかが重要な課題である。半導体プロセス開発では,シリコン(Si)ウェハ上に成膜・積層した材料を設計通りの形状に加工するための条件最適化が必須であり,そのために断面のパターン加工形状観察が必要となる。
【0003】
先端半導体デバイスの加工パターンはナノメートルレベルの微細構造であるため、断面のパターン加工形状観察には、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)や、高分解能の走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)といった荷電粒子線装置が用いられる。
【0004】
荷電粒子線装置を用いたウェハ断面の加工形状観察は、現状、人による作業に委ねられており、観察視野の探索と撮像作業に多くの手間と時間を要している。したがって、半導体プロセス開発の迅速化、高効率化に向けては、この観察作業をできるだけ自動化し、大量の観察データを高速かつ省人的に取得することができる装置が求められている。
【0005】
また、金属材料や生体試料といった半導体以外の観察対象物に対しても、マテリアルズインフォマティクス技術の進展等の理由により、大量の観察データを高速かつ省人的に取得ことができる装置の需要が増大している。
【0006】
上記の課題に対して、例えば特許文献1では、パターンマッチング技術を用い、SEM観察における観察視野の位置を自動補正する手法が開示されている。これにより、操作者が観察対象位置に視野を合わせる際の作業負担が軽減される。しかしながら、この開示においては、基板を上面方向から見た像(トップビュー)での対象パターンの検出だけしか配慮がされていない。
【0007】
荷電粒子線装置を用いた観察においては、観察位置を把握するため、試料上に存在する目印となる形状や構造をまず見付け、その目印を基準にして観察したい視野へ移動する。しかしながら、目的とする観察箇所が試料断面である場合、トップビューの画像からは最終観察箇所と目印の位置関係が把握し難い。従って特許文献1に開示の方法では、目印となるパターンを検出できない、或いは観察視野が誤った位置に設定されるといった状況が発生し得る。更に目視による視野探しは時間を要するため、大量の観察データを高速かつ省人的に取得するという要求に応えることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本開示は、荷電粒子線装置を用いた試料断面の観察において、目印パターンを自動認識する機能を備える荷電粒子線装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
荷電粒子線画像の視野探しにおいては、試料断面を荷電粒子線に正対させた観察像(正対像)よりも、試料上面と断面の両方が見えるように試料を傾けて観察する「チルト像」の方が目印を見つけやすい場合が多い。例えば被観察試料が、パターンが形成された半導体ウェハや当該半導体ウェハを割断したクーポン等である場合、試料の表面内方向をXY方向、試料厚み方向をZ方向とすると、Z方向の加工パターンスケールに比べ、XY方向のパターンスケールがはるかに大きい。よってスケールの大きな形状や構造が存在する確率が高く、低倍率画像でも視認性の高い目印を見つけやすい。従い、低倍率画像における観察箇所の視野探索において、トップビューの画像ではなくチルト像を用いれば視野の特定が従来技術と比較して容易になると考えられる。
【0011】
本開示の例示的な荷電粒子線装置は、チルト画像を用いた機械学習モデルまたはテンプレートマッチングにより観察位置の基準となる目印を自動認識し、それを基点として所定の観察位置へ視野を移動し、断面観察を実施する。前記機械学習モデルは、実際の観察像を基に生成されるか、もしくは、設計データなどの二次元レイアウトデータから生成された、断面を含んだ三次元モデルに基づき生成される。具体的には、本開示の例示的な荷電粒子線装置は、試料に荷電粒子線を照射することにより、当該試料の画像データを所定倍率で取得する撮像装置と、前記画像データを取得する際の視野探しの演算処理を、前記画像データを用いて実行するコンピュータシステムと、前記視野探しのための設定パラメータを入力するためのグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)が表示される表示ユニットと、を備える。前記撮像装置は、前記試料を少なくとも2つの駆動軸で移動させることが可能に構成され、かつ前記コンピュータシステムが求める前記試料の位置情報に対応させて撮像視野を移動させることができる試料ステージを備える。前記コンピュータシステムは、前記試料が前記荷電粒子線に対して傾斜した状態で撮像されたチルト画像の画像データの入力に対し、当該チルト画像上に一つまたは複数存在する特徴部の位置情報を出力する識別器を備える。当該識別器は、前記チルト画像の画像データを入力とし、前記特徴部の位置情報を出力とする教師データを用いてあらかじめ学習が実施されており、前記コンピュータシステムは、前記識別器に対して入力された新規なチルト画像データに対し、前記特徴部の位置情報を出力する処理を実行する。
【発明の効果】
【0012】
本開示の実施形態によれば、試料断面の観察時における視野探索の時間と労力を大幅に削減でき、また断面画像の自動撮像が可能な荷電粒子線装置を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1の実施の形態の荷電粒子線装置の構成図である。
【
図2A】第1の実施の形態の試料20の傾斜軸との相対位置関係を示す模式図である。
【
図2B】第1の実施の形態の試料ステージ17を示す模式図である。
【
図3】第1の実施の形態の特徴識別器45の学習の手順を示す図である。
【
図4A】第1の実施の形態の荷電粒子線装置が備える主GUIを示す模式図である。
【
図4B】特徴識別器45の構築時に使用されるGUIを示す図である。
【
図5A】第1の実施の形態の自動撮像シーケンスを示すフローチャートである。
【
図5B】
図5AのステップS502の詳細を示すフローチャートである。
【
図5C】
図5AのステップS505の詳細を示すフローチャートである。
【
図5D】
図5AのステップS508の詳細を示すフローチャートである。
【
図6A】視野探索時に使用するGUIと同時表示される主GUIとを示す図である。
【
図6B】自動撮像シーケンスの実行を指示するGUIを示す図である。
【
図7】高倍での試料断面観察結果を示す模式図である。
【
図8A】第2の実施の形態の荷電粒子線装置の試料ステージ17の動作を示す模式図である。
【
図8B】Z軸周りに90度回転した状態の
図8Aの試料ステージ17を示す模式図である。
【
図9】第3の実施の形態の自動撮像シーケンスを示すフローチャートである。
【
図10】第4の実施の形態の荷電粒子線装置の構成図である。
【
図11】第4の実施の形態の特徴識別器45の構築で使用されるGUIと、構築過程で実行される処理を示す概念図である。
【
図12】第4の実施の形態の教師データの生成過程を説明する概念図である。
【
図13】第6の実施の形態のGUI画面を示す模式図である。
【
図14A】第7の実施の形態のレイアウトデータの操作説明図である。
【
図14B】第7の実施の形態の座標マッチングで使用される実画像の取得動作を説明する概念図である。
【
図14C】第7の実施の形態の座標マッチングを示す概念図である。
【
図15】第7の実施の形態の効果を示すGUI画面の一例である。
【
図16】第7の実施の形態の座標マッチングを適用した視野探索シーケンスを示すフローチャートである。
【
図17A】第8の実施の形態の特徴識別器の構築方法を示す概念図である。
【
図17B】第8の実施の形態の視野探索結果を示す模式図である。
【
図17C】第8の実施の形態の荷電粒子線装置が備えるGUIを示す模式図である。
【
図18】第9の実施の形態の荷電粒子線装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施形態を各実施の形態により詳細に説明するが、各実施の形態の開示内容は実施例の記載のみに限定されるものではなく、各実施の形態の開示または教唆する要素技術を当業者の知見の範囲内で適宜組み合わせた構成も、本実施の形態の範疇に含まれる。
【0015】
[第1の実施の形態]
第1の実施の形態は、走査電子顕微鏡(SEM)が撮像装置である荷電粒子線装置において、観察対象の視野を自動認識する機能を実現し、それを用いて試料の自動観察方法を提案する。
【0016】
図1に、第1の実施の形態の走査電子顕微鏡の構成図を示す。第1の実施の形態の走査電子顕微鏡10は、一例として、電子銃11、集束レンズ13、偏向レンズ14、対物レンズ15、二次電子検出器16、試料ステージ17、像形成部31、制御部33、表示ユニット35、入力部36を備え、更には本実施の形態の視野探索機能に必要な演算処理を実行するコンピュータシステム32を備える。以下、各構成要素について説明する。
【0017】
電子銃11は、所定の加速電圧によって加速された電子線12を放出する線源を備える。放出された電子線12は、集束レンズ13および対物レンズ15によって集束され、試料20上に照射される。偏向レンズ14は、磁場や電場によって電子線12を偏向し、これにより試料20の表面が電子線12で走査される。
【0018】
試料ステージ17は、撮像装置10の撮像視野を移動させるため、試料20を所定の駆動軸に沿って移動或いは所定の駆動軸周りに傾斜、回転させる機能を有し、このためのモーターやピエゾ素子等のアクチュエータを備える。
【0019】
二次電子検出器16は、シンチレータ・ライトガイド・光電子増倍管で構成されるE-T検出器や半導体検出器等であり、電子線12が照射される試料20から放出される二次電子100を検出する。二次電子検出器16から出力される検出信号は像形成部31へ送信される。なお二次電子検出器16とともに、反射電子を検出する反射電子検出器や透過電子を検出する透過電子検出器が備えられても良い。
【0020】
像形成部31は、二次電子検出器16から送信される検出信号をデジタル信号に変換するAD変換器と、当該AD変換器が出力するデジタル信号に基づいて試料20の観察像を形成する演算器等(いずれも図示せず)によって構成される。演算器としては、例えば、MPU(Micro Processing Unit)やGPU(Graphic Processing Unit)等が使用される。像形成部31によって形成された観察像は、表示ユニット35に送信されて表示されたり、演算処理部32に送信されて様々な処理が施されたりする。
【0021】
コンピュータシステム32は、外部とデータやコマンドの入出力を行うインターフェース部900、与えられた情報に対して各種の演算処理を実行するプロセッサまたはCPU(Central Processing Unit)901、メモリ902、ストレージ903を含んで構成される。
【0022】
ストレージ903は、例えばHDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等により構成され、本実施の形態の視野探索ツールを構成するソフトウェア904、教師データDB(データベース)44が格納される。本実施の形態のソフトウェア(視野探索ツール)904は、一例として、入力された画像データから視野探索のための目印パターン23の抽出を行う特徴識別器45と、検出した目印パターンの画像上の位置から、試料ステージ17の位置情報を参照して目印パターン23の位置座標を計算する画像処理部34を、機能ブロックとして含んで構成され得る。
【0023】
図1に示すメモリ902は、ソフトウェア904を構成する各機能ブロックがメモリ空間上に展開された状態を表している。ソフトウェア904の実行時には、CPU901がメモリ空間内に展開された各機能ブロックを実行する。
【0024】
特徴識別器45は、機械学習モデルが実装されたプログラムであり、教師データDB44に格納された目印パターン23の画像データを教師データとして学習が行われる。学習済みの特徴識別器45に新規な画像データを入力すると、画像データ上で学習した目印パターンの位置を抽出して、当該新規な画像データにおける目印パターンの中心座標を出力する。出力された中心座標は視野探索時のROI(Region Of Interest;関心領域)の特定の他、中心座標から計算される各種の位置情報が制御部33に送信され、試料ステージ17の駆動制御に用いられる。
【0025】
画像処理部34は、試料断面を視野に正対させた断面像において、画像処理に基づくウェハ表面のエッジライン検出や、フォーカス調整や非点収差補正等を自動実行する際の画像鮮鋭度の算出・評価などの処理を行う。
【0026】
制御部33は、各部を制御するとともに、各部で形成されるデータを処理したり送信したりする演算器であり、例えばCPUやMPU等である。入力部36は、試料20を観察するための観察条件を入力したり、観察の実行や停止などの命令を入力する装置であり、例えばキーボード、マウス、タッチパネル、液晶ディスプレイ、又はそれらの組合せにより構成され得る。表示ユニット35には、操作者の操作画面を構成するGUI(Graphical User Interface)や、撮像された画像が表示される。
【0027】
次に
図2Aを用いて、観察対象の試料20と試料ステージ17の駆動軸の相対位置関係について説明する。
図2Aは、本実施の形態の荷電粒子線装置の観察対象物の一例であるウェハ試料の斜視図である。
【0028】
図2Aにおいて、試料20はウェハを割断したクーポン試料であり、割断面21と加工パターンが形成された上面22を有する。試料20は半導体デバイスの製造工程やプロセス開発工程を経て作製されたものであり、割断面21には微細構造が形成されている。多くの場合、荷電粒子線装置の操作者が意図する撮像箇所は割断面21に存在する。
【0029】
上面22には、上述の微細構造と比べてサイズの大きい形状や構造、即ち視野探索時の目印として利用できる目印パターン23が形成される。目印パターン23としては、例えばウェハ上のチップ加工領域を識別するための特徴的な形状マーカや、ラベル情報を含む加工パターンなどが利用できる。
【0030】
図2Aの右上に示されるXYZの直交軸は、試料20の電子線12に対する相対位置関係を示す座標軸であり、電子線12の進行方向がZ軸、試料ステージ17の第一傾斜軸61に平行な方向がX軸、第二傾斜軸62に平行な方向がY軸である。本実施の形態においては、試料20は長手方向がX軸と平行になるように試料ステージ17上に載置されている。
【0031】
割断面21の微細形状を観察する際には、電子線12は割断面21に対して概ね垂直方向から照射され、断面観察視野24の領域が観察される。しかし、手動で割断された割断面21は、上面22と完全には直交しない場合が多く、操作者が試料ステージ17へ試料20を設置する際にも取り付け角度が毎回同じになるとは限らない。
【0032】
そのため、割断面21を電子線12に直交させるための角度調整軸として、第一傾斜軸61、第二傾斜軸62が試料ステージ17に設けられる。第一傾斜軸61は試料20をYZ面内で回転させるための駆動軸である。割断面21の長手方向がX軸方向であるため、試料20を斜め方向から傾けて観察するいわゆるチルト像の傾斜角を調整する場合には第一傾斜軸61の回転角を調整する。同様に、第二傾斜軸62は、試料20をXZ面内で回転させるための駆動軸である。視野が割断面21に対して正対位置にある場合、第二傾斜軸62の回転角を調整することにより、視野中心を通る上下方向の軸を中心として画像を回転させることができる。
【0033】
図2Bを用いて、試料ステージ17の構成を説明する。図示したように、試料20は試料ステージ17に保持・固定される。試料ステージ17には、試料20の載置面を第一傾斜軸61または第二傾斜軸62周りに回転させる機構が備わっており、回転角度は制御部33によって制御される。なお図示は省略したが、
図2Bに示される試料ステージ17は、試料載置面をXYZ方向にそれぞれ独立に移動させるためのX駆動軸、Y駆動軸およびZ駆動軸、更に試料載置面をZ駆動軸周りに回転させる回転軸も備えており、電子線12の走査領域(即ち視野)を試料20の長手方向、短手方向および高さ方向に移動し、更に回転させることができる。X駆動軸、Y駆動軸およびZ駆動軸の移動距離も制御部33によって制御される。
【0034】
次に、
図3、
図4A、
図4Bを用いて、本実施の形態の特徴識別器45における学習の手順を説明する。
【0035】
本実施の形態の視野探索を自動実行させるためには、試料観察前に、予め目印パターン23を検出するための特徴識別器45を構築する必要がある。
図3のフローチャートは、特徴識別器45を構築する際に操作者が実施するワークフローを示している。
【0036】
初めに、試料20を
図1に示した荷電粒子線装置内の試料ステージ17に載置する(ステップS301)。次に、加速電圧や倍率等、教師データとなる画像を撮像するための光学条件を設定する(ステップS302)。その後、試料ステージ17のチルト角を設定し(ステップS303)、撮像を行う(ステップS304)。ステップS304の実行により、教師データの材料となるチルト画像の画像データが取得され、取得された画像データはストレージ903に格納される。
【0037】
図4Aは、本実施の形態の荷電粒子線装置の表示ユニット35に表示される主GUIと、主GUI上に表示されるチルト画像の一例を示す。
図4Aに示される主GUIは、一例として、主画面401、荷電粒子線装置の稼働開始・停止を指示する稼働開始・停止ボタン402、観察倍率を表示・調整する倍率調整欄403、撮像条件の設定項目を選択するための項目ボタンが表示されるセレクトパネル404、画質やステージの調整を行うオペレーションパネル405、その他の操作機能を呼び出すための「Menu」ボタン406、主画面401よりも広視野の画像を表示するサブ画面407、撮像した画像をサムネイル表示するイメージリスト領域408を含む。以上説明したGUIはあくまで一構成例であり、上記以外の項目を追加したり、他の項目に置き換えたりしたGUIが採用可能である。
【0038】
取得されたチルト画像は主画面401上に表示される。チルト画像には割断面21、上面22、及び目印パターン23が含まれる。
図3のステップS302において、操作者は目印パターン23が視野内に含まれる程度の倍率(目的パターンが複数であれば複数のパターンが含まれる程度の倍率)に荷電粒子線装置の光学条件を設定し、かつステップS303において、目印パターン23が視野内に含まれる程度の角度にチルト角を設定する。
【0039】
図3の説明に戻る。操作者はステップS305でROIを選択し、教師データ用の画像として切出す。主画面401にはチルト画像が表示されており、操作者は特徴識別器45に自動検出させたい目印パターン23を含む領域をポインタ409と選択ツール410で選択する。画像の選択や編集を行う場合、操作者は、
図4Aに示されるGUIでオペレーションパネル405中の「Edit」ボタンを押す。このボタンを押すと「Cut」や「Copy」、あるいは「Save」といった画像データの編集ツールが画面表示され、更に主画面401中にポインタ409と選択ツール410が表示される。
【0040】
図4Aは一つのROIを選択した状態を示しており、ROIを示すマーカ25が主画面401に表示されている。操作者はこれらの編集ツールを用いて、チルト像の画像データから選択領域を切り出し、画像データとしてストレージに保存する(ステップS306)。保存された画像データが機械学習に用いる教師データとなる。
図4Aでは一つのROIしか選択していないが、ROIを複数選択しても構わない。なお、保存の際には画像データのみならず、例えば倍率や走査条件等の撮像時の光学条件やステージ条件(試料ステージ17の設定に関する条件)等のメタ情報もストレージ903に保存することが可能である。
【0041】
ステップS307において、操作者は、取得された教師データを特徴識別器45に入力して学習を行う。
図4Bに学習時に操作者が使用するGUI画面の構成例を示す。
図4Bに示すGUI画面は、学習の際に用いる学習画面と、視野探索時に用いる画面および高倍画像の自動キャプチャ(自動撮像)時に用いる画面とがタブで切替可能に構成されており、「train」と表示された学習タブ411を選択すると本画面が表示される。画面が表示されていない状態から
図4BのGUIを表示させる場合、
図4Aの「Menu」ボタン406を押して表示されるセレクトボタンから「Auto FOV search」を選択すると、
図4Bに示す視野探索ツール画面がポップアップ表示される。
【0042】
図4Bに示す視野検索ツール画面の上段には、ストレージ903に格納された教師データをフォルダ単位で特徴識別器45に入力するフォルダ単位一括入力モードを実行するための操作ボタン群が配置されている。一方、視野検索ツール画面の下段には教師データを個別に選択・表示して特徴識別器45に入力する個別入力モードの実行のための操作ボタン群が配置されている。視野検索ツール画面の下段は、教師データの表示画面418を含んでいる。フォルダ単位一括入力モードと個別入力モードの切り替えは、「Folder」と表示されたタブ417を選択することにより行う。
【0043】
フォルダ単位一括入力モードを実行する場合には、まず、学習データを格納しているフォルダを指定するために、入力ボタン412を押す。指定したフォルダ名はフォルダ名表示欄413に表示される。指定したフォルダ名を変更するには、クリアボタン414を押す。モデルの学習を開始するときは学習開始ボタン415を押す。学習開始ボタン504の横には、状態を示す状態表示欄416が表示される。状態表示欄416に「Done」が表示されればステップS307の学習ステップは終了する。
【0044】
個別入力モードで学習を行う場合は、操作者は入力ボタン412を押してフォルダを指定した後、「Folder」タブ417を選択して下段画面をアクティベートする。下段画面がアクティベートされると、指定フォルダに格納されている教師データ43が教師データ表示画面418にサムネイル表示される。操作者は、サムネイル画像中に表示されるチェックマーク入力欄420にチェックマークを適宜入力する。なお、クリアボタン423を押すことにより、選択結果を取り消すことができる。符号421は、チェックマーク入力後のチェックマーク入力欄である。表示されるサムネイル画像は、画面両端に表示されるスクロールボタン419を操作することにより変化させることができる。
【0045】
教師データの個別選択が終了すると、操作者は確定ボタン422を押して入力結果を確定する。確定後、学習開始ボタン424を押して学習を開始させる。学習開始ボタン424の横には、状態を示す状態表示欄セル425が表示されており、状態表示欄セル425に「Done」が表示されれば、個別入力モードでの学習ステップは終了する。
【0046】
学習がある程度終わると、学習が完了したかどうかを確認するための確認作業が実行される(ステップS308)。確認作業は、寸法が既知のパターンの画像を特徴識別器45に入力して寸法を推定させ、正答率が所定の閾値を上回ったか否かを判定することで実行することができる。正答率が閾値を下回っている場合、教師データの追加作成が必要かどうか、換言すれば未使用の教師データがストレージ903に格納されているかどうかが判断される(ステップS309)。教師データのストックがあり、かつそれが学習に適した教師データであれば、ステップS307に戻って特徴識別器45の追加学習を行う。教師データのストックが無ければ、教師データの新規作成が必要と判断し、ステップS301に戻って
図3のフローを再び実行する。正答率が閾値を上回っていれば学習は完了したものと判断し、操作者は
図3のフローを終了する。
【0047】
機械学習の方法としては、ディープニューラルネットワーク(DNN)を用いた物体検出アルゴリズムや、カスケード分類器を使用することができる。カスケード分類器を用いる際には、教師データ43には、目印パターン23を含む正画像と、目印パターン23を含まない不正画像の両方が設定され、そのような教師データにより、
図3のステップS307が実行される。
【0048】
次に、学習完了後の視野探索シーケンスについて、
図5A~
図7を用いて説明する。
図5Aは、視野探索のシーケンス全体を示すフローチャートである。初めに、新規な観察試料20を試料ステージ17に載置し(ステップS501)、次に、視野探索時の条件設定を行う(ステップS502)。
【0049】
ステップS502の視野探索時の条件設定ステップは、
図5Bに示すように、視野探索時の光学条件設定ステップ(ステップS502-1)、視野探索時のステージ条件設定ステップ(ステップS502-2)を含んで構成される。このステップでは、
図6Aに示すGUI600とGUI400を用いて操作を行うが、詳細は後述する。
【0050】
視野探索の条件設定が終わると、視野探索のテストラン(ステップS503)を実行する。テストランは、予め設定した倍率で試料20のチルト画像を取得し、特徴識別器45からの目印パターンの中心座標の出力を確認するステップである。試料断面のチルト画像は、目的とする撮像箇所の数や設定倍率により、1枚の画像に収まる場合もあれば複数枚の画像を撮像しなければならない場合もある。複数枚の画像を撮像する場合、コンピュータシステム32が自動で試料ステージ17をx軸方向に一定距離移動させた後、画像を取得し、さらに一定距離試料ステージ17を移動させた後、画像の取得を繰り返す。このように取得した複数のチルト画像に対して、特徴識別器45を動作させ、目印パターン23を検出する。検出結果は、ROIを示すマーカと取得画像の重畳表示の形で主GUI400に表示される。操作者は得られた出力結果から、画像内に含まれる目印パターンのROIを正しく抽出できたかどうかを確認する。
【0051】
テストランの結果、不具合が発生した場合には、ステップS504-2で作動不良の解消処理を行う。起こり得る不具合としては、例えば、特徴識別器45を動作させても視野内の目印パターン23が見つからずに目印パターン23の中心座標を出力することができない場合や、目印パターン23以外の領域を目印パターン23と誤認識して、誤った中心座標を出力する場合などがある。光学系の異常等、撮像装置や装置全体関わる不具合が発生した場合にはテストランの実行処理が一時中断される。
【0052】
不具合が発生せずテストランが上手く行った場合には、画像オートキャプチャ、即ち高倍画像での画像取得条件の設定が行われる(ステップS505)。なお、テストランのステップS503および作動不良の確認ステップS504は省略することも可能であり、視野探索時の条件設定(ステップS502)後、画像オートキャプチャの条件設定ステップ(ステップS505)に進み、いきなり本番を始めてもよい。
【0053】
ステップS505は、
図5Cに示すように、高倍撮像時の光学条件設定ステップ(ステップS505-1)、正対条件のステージ条件設定ステップ(ステップS505-2)および最終観察位置の設定ステップ(ステップS505-3)を含んで構成される。
【0054】
ここで、
図5Bおよび
図5Cのフローチャート実行時に使用されるGUIについて説明する。
図6Aは、視野探索の条件設定時(ステップS502)に操作者が使用するGUI600と主画面である主GUI400の一例を示している。
【0055】
主GUI400は、
図4Aで説明したGUIと同じものである。前述の通り、操作者が「Menu」ボタン406を押して表示されるセレクトボタンから視野探索ボタンを選択すると、
図6A上段に示す画面がポップアップ表示される。もし
図6A上段に示すGUIが表示されない場合は、視野探索タブ601から「FOV search」と表示されたタブを選択すれば、画面が
図6A上段に示すGUIに切り替わる。
【0056】
図6Aに示すGUI600は、視野探索時と高倍画像の自動撮像時の撮像条件の両者を設定することができ、「FOV search」欄602または「High magnification capture」欄603いずれかのラジオボタンを押すことにより双方の設定画面を切り替えることが可能である。ラジオボタン下部には撮像条件の各種の設定項目の設定パネルが表示され、例えば
図6Aの場合、ステージ状態設定パネル604、倍率設定パネル605、ROIサイズ設定パネル606および最終観察位置設定パネル607等が表示されている。説明のため、
図6Aには「FOV search」と「High magnification capture」双方の画面に表示される設定パネルの構成例を示しているが、実際には各画面には必要な設定パネルのみしか表示されない。
【0057】
ステージ状態設定パネル604は、試料ステージ17のXYZの各座標情報、第一チルト角(
図2Bの第一傾斜軸61周りの回転角)、および第二チルト角(
図2Bの第二傾斜軸62周りの回転角)をコンピュータシステム32に登録するための設定欄である。主GUI400の主画面401に試料断面のチルト画像が表示されているが、ステージ状態設定パネル604のX座標情報、Y座標情報、Z座標情報、第一チルト角(
図2Bの第一傾斜軸61)および第二チルト角(
図2Bの第二傾斜軸62)の各表示欄には、主画面401に表示された画像の状態のステージ情報が表示される。この状態で、登録ボタン(Register)612が押されると、現在のステージ状態(駆動軸の状態)がコンピュータシステム32に登録される。
【0058】
登録はクリアボタン(Clear)613を押せばキャンセルすることができる。登録ボタン612およびクリアボタン613の動作は以下の説明で共通である。なお、実行ボタン(Run)614はコンピュータシステム32に対して視野探索開始を指示するためのボタンであって、このボタンを押すことにより
図5AのステップS503(テストラン)を開始させることができる。レジュームボタン(Resume)615は、
図5AのステップS504で作動不良のためフローが自動停止した場合に、フローを再開するためのボタンであり、ステップS504-2の処理後、不良原因が解消した後にこのボタンを押すと、フローが自動停止したステップからテストランのフローを再開することができる。ストップボタン(Stop)616を押せば、実行中の視野探索を途中で止めることができる。
【0059】
チルト画像の視野を微調整したい場合に調整ボタン609を押すと、試料ステージ17のXYZの各座標或いはチルト角がプラス又はマイナスの方向に変化する。変化後の画像は主画面401にリアルタイムで表示され、操作者は画像を見ながら最も適切と判断される視野が得られる試料ステージ17の状態を登録する。なお「High magnification capture」を選択した状態で、割断面21の正対画像が主画面401に映るように視野を調整すれば、その状態でのステージ条件が正対条件となるステージ条件である。これをコンピュータシステム32に登録することで、
図5CのステップS505-2を実行することができる。
【0060】
また、ステージ正対条件の設定・登録は、以上説明したマニュアルでの調整の他、所定のアルゴリズムに基づいて自動で調整してもよい。試料20の傾斜角度調整のアルゴリズムとしては、色々な傾斜角度でチルト像を取得し、画像から抽出したウェハのエッジ線などを基に数値計算によって傾斜角度を算出するアルゴリズムが採用し得る。
【0061】
倍率設定パネル605は、高倍撮像時の最終倍率と、視野探索時の撮像倍率から最終倍率まで倍率を拡大させていく際の途中倍率を設定するための設定欄である。「Current」と表示された箇所の右側欄には主画面401に現在表示されているチルト画像の撮像倍率が表示される。中段の「Final」の右側は最終倍率を設定するための設定欄であり、ステージ状態設定パネル604と同様の調整ボタンで最終倍率を選択する。下段「Step*」は途中倍率がチルト画像の撮像倍率から何ステップ目であるかを設定する設定欄であり、設定欄右の調整ボタンを操作すると「*」の欄に数字が表示される。例えば、「Step1」、「Step2」…等の要領である。設定欄右の調整ボタンの更に右側には、各ステップにおける撮像倍率を設定するための倍率設定欄が表示されている。同じく調整ボタンを操作して途中倍率を設定する。設定終了後は、同じく登録ボタン612を押すと、設定した最終倍率と途中倍率がコンピュータシステム32に登録される。
【0062】
ROIサイズ設定パネル606はROIのサイズを登録するための設定欄である。ROIサイズ設定パネル606でピクセル数を設定すると、特徴識別器45が出力するROIの中心座標を中心として上下左右方向に設定ピクセル分の範囲が撮像される。調整ボタンを操作して適切なピクセル数を設定した後登録ボタン612を押すと、設定したピクセル数がコンピュータシステム32に登録される。
【0063】
最終観察位置設定パネル607は、最終倍率で撮像を行う際の視野の中心位置を目印パターン23からの距離で設定するための設定欄である。主画面401には、試料断面のチルト画像が目印パターン設定用のROI25と共に示されているが、操作者は、ポインタ409を操作して選択ツール410を所望の最終観察位置426までドラッグアンドドロップすることで、目印パターン23に対する最終観察位置の相対位置情報を設定することができる。最終観察位置設定パネル607には、ROI25の中心座標からのX方向の距離が「Left」表示欄または「Right」表示欄のいずれかに、Z方向の距離が「Above」表示欄または「Bellow」表示欄のいずれかに表示される。
【0064】
最終観察位置を複数設定する場合、選択ツール410のドラッグアンドドロップを繰り返すことにより設定する。また後述のように、入力部36に備えられたキーボードやテンキー等を使用して「Left」「Right」「Above」「Bellow」の各表示欄に数値を直接入力してもよい。この方式は、例えば目印パターン23から所定距離だけ離れた位置を基準として、当該基準位置から決まった間隔(例えば等間隔ピッチ)で複数枚の画像を撮像する場合等に、操作者の利便性が高い。
【0065】
視野探索時および高倍画像撮像時の光学条件の設定は、主GUIであるGUI400を用いて行う。GUI600を表示させた状態で、GUI400のセレクトパネル404やオペレーションパネル405の光学条件に関わるボタンを押すと光学条件の設定画面が表示される。例えば、「Scan」ボタン427を押すと、走査速度設定パネル608が表示され、操作者はインジケータ610を見ながら設定つまみ611を操作し、撮像時の走査速度を適切な値に設定する。設定後、登録ボタン612を押すと、設定した走査速度がコンピュータシステム32に登録される。以上の要領で、加速電圧やビーム電流値等の光学条件を「FOV search」と「High magnification capture」を切り替えて設定しコンピュータシステム32に登録することで、
図5BのステップS502-1や
図5CのステップS505-1を実行することができる。なお、チルト画像の撮像の際の走査速度は、最終倍率での画像の走査速度よりも大きく設定することができる。また、撮像装置10は、設定された速度に応じて走査速度を切り替え可能とされている。
【0066】
なお、以上の
図6Aの説明において、各設定パネル604~607に設けられた表示欄への数値入力は調整ボタン609を用いて行うことができるが、これに代えて又はこれに加えて、入力部36に備えられたキーボードやテンキー等を使用して数値を直接入力することも可能である。
【0067】
図5Aに戻って、フローチャートの説明を再開する。ステップS505において画像オートキャプチャの条件設定が終わると、本番の視野探索の実行が開始される(ステップS506)。
図6Bは、
図5AのステップS506以降の手順で示される本番の視野探索の実行時に操作者が用いるGUIの構成例を示している。操作者が主GUI400に示される「Menu」ボタン406から選択するか、または
図6AのGUIの視野探索タブ601から「Auto Capture」タブ619を選択することにより、画面が
図6BのGUIに切り替わる。操作者がスタートボタン617を押すと、
図5AのステップS506以降の手順が開始される。
【0068】
このステップでは、所定範囲の試料断面のチルト画像が撮像される。撮像された画像から得られる画像データが順次特徴識別器45に入力され、目印パターンの中心座標データが出力される。出力された中心座標データには、ROI1,ROI2等といったシリアルナンバーが付与され、前述のメタ情報とともにストレージ903に格納される。
【0069】
視野探索が終了すると、現在のステージ位置情報と各ROIの中心座標データとから、制御部33により試料ステージ17の移動量が計算され、目印パターン位置23への視野移動が実行される(ステップS507)。視野移動後、ステップS506で設定した高倍での画像オートキャプチャ条件に従って、最終観察位置での高倍率画像が取得される(ステップS508)。以下、
図5Dを用いてステップS508の詳細について説明する。
【0070】
図5AのステップS507で目印パターン23の位置への視野移動を行った後、制御部33により、
図6Aの最終観察位置設定パネル607で設定した相対位置情報に従って、最終観察位置への視野移動が実行される(ステップS508-1)。次にステップS508-2で、ステージ条件を正対条件に調整する。このステップでは、
図6Aの「High magnification capture」で設定したステージ条件と、ステップS508-1終了時点でのステージ条件(又は「FOV search」で設定したステージ条件)との差分から、制御部33がステージ移動量を計算し、ステージ17を動作させる。
【0071】
ステップS508-1とステップS508-2の実行により、観察視野が最終観察位置に移動し、かつ試料断面に対して正対条件となるので、その視野で倍率を拡大する(ステップS508-3)。倍率は
図6Aの倍率設定パネル605で設定した途中倍率に従って拡大される。
【0072】
ステップS508-4で、コンピュータシステム32はフォーカス調整と非点収差の補正処理を行う。補正処理のアルゴリズムとしては、対物レンズや収差補正コイルの電流値を所定の範囲内で掃引しながら画像を取得し、取得画像に対して高速フーリエ変換(FFT)やWavelet変換を行って画像鮮鋭度を評価し、スコアが高い設定条件を導出する方法などが使用できる。必要に応じて他の収差の補正処理を含めてもよい。ステップS508-5で、コンピュータシステム32は拡大後の倍率で撮像を行い、現在の視野での画像データを取得する。
【0073】
ステップS508-6で、コンピュータシステム32は、第一の視野ずれ補正を行う。本実施の形態の第一の視野ずれ補正には、画像の水平線の補正処理と視野中心の位置ずれ補正処理が含まれるが、倍率に応じてその他必要な視野ずれ補正処理を行ってもよい。
【0074】
まず、水平線の補正処理について説明する。
図2Aで示したように本実施の形態での観察試料はクーポン試料であり、目印パターン23が形成されたクーポン試料上面22(ウェハ表面)と割断面21が存在する。ステージ正対条件での割断面21の断面像において、クーポン試料上面22はエッジラインとして視認される。そこで本ステップでは、ステップS508-5で取得された画像データからエッジラインを自動で検出し、当該エッジラインが画像内で水平線(視野中心を通る仮想的な水平方向の基準線)と一致するよう取得画像のXZ面内での視野ずれを補正する。具体的には、エッジラインの画像上の位置情報と試料ステージ17の位置情報から、プロセッサ901によりエッジラインの実際の位置座標を導出し、制御部33により第一傾斜軸の回転角を調整し、視野の中央にエッジラインが位置するよう視野を移動する。エッジラインを検出するための画像処理アルゴリズムとしては、Hough変換による直線検出などが使用することができる。また、より検出精度を高めるために、Sobelフィルタなどの処理を施し、エッジラインを強調させる前処理を行ってもよい。
【0075】
次に、視野中心の位置ずれ補正処理について説明する。ステップS508-1の視野移動直後には、
図6Aの最終観察位置設定パネル607で設定した位置が視野中心に位置しているが、ステップS508-3で観察倍率を拡大すると視野中心がずれる場合がある。そこでコンピュータシステム32は、倍率拡大前の画像から視野中心の周囲で適当なピクセル数分の画像データを抜き出し、この画像データをテンプレートとしてステップS508-5で取得された画像データ上でパターンマッチングを実行する。マッチングで検出された領域の中心座標が本来の視野中心であり、コンピュータシステム32は、当該検出領域の中心座標とステップS508-5で取得された画像データの視野中心の座標の差分を計算し、制御部33にステージ17の制御量として送信する。制御部33は、受信した制御量に従ってX駆動軸またはY駆動軸、倍率によっては第二傾斜軸を動かし、視野中心のずれを補正する。
【0076】
なお、コンピュータシステム32が、倍率拡大の過程で得られる画像を教師データとして学習させた別の特徴識別器を備えていれば、テンプレートマッチングを使わずとも、ステップS508-5で取得された画像データを当該別の特徴識別器に直接入力することにより視野中心の座標データを得ることができる。
【0077】
また本ステップの視野ずれ補正は、試料ステージ17の調整ではなくイメージシフトにより実行してもよい。その場合、視野ずれの調整量がコンピュータシステム32により電子線のXY方向の走査範囲に関する制御情報に変換され、制御部33に送られる。制御部33は、受け取った制御情報を基に偏向レンズ14を制御し、イメージシフトによる視野ずれ調整を実行する。
【0078】
ステップS508-7では、ステップS508-6で実行した第一の視野ずれ補正の調整量が妥当かどうかの判断が行われる。
図2Bにおいて、試料20の高さ(
図2Aにおいて、割断面21とその対抗面との距離)は既知であるので、第二傾斜軸62の回転中心と割断面21との距離Rも既知である。ステップS508-6で第二傾斜軸62を用いた視野ずれ補正を行う場合、原理的には、第二傾斜軸の62回転角θと距離Rの積Rθが、画像上での視野移動量に等しくなるようθを調整する。しかしながら、試料ステージ17のウェハ載置面の水平精度や割断面21の傾き(試料形状に起因)等、種々の理由によりRを厳密に正しく計測することは困難である。よって、第一の視野ずれ補正ステップで計算された回転角θがRの精度に起因して不足または過剰である場合がある。また、X駆動軸またはY駆動軸の調整による視野ずれ補正であっても、機械精度の問題等から、視野ずれ補正後の画像において本来の視野中心が視野中心に位置しない場合も発生し得る。妥当でない場合は、ステップS508-8に進み、妥当である場合はステップS508-9に進む。
【0079】
ステップS508-8では、第二の視野ずれ補正を実行する。第二の視野ずれ補正では、画像処理によって不足分または過剰分の回転角θの調整量、または駆動軸・Y駆動軸の調整量を求め、ステージ17を再調整する。本来の視野中心が視野中心に位置しない場合、ステップS508-8で、指定距離移動の実行前の画像と、移動実行後の画像を比較し、実移動した距離を計測し不足分を加え補正する。視野中に上記処理するための対象物がない場合には倍率を低倍率側に変更し、画像識別可能な対象物を視野内に納めてから上記処理を行う。
【0080】
なお、本ステップの第二の視野ずれ補正は、試料ステージ17の調整ではなくイメージシフトを用いて実行してもよい。以上説明した第一の視野ずれ補正処理と第二の視野ずれ補正処理を合わせて「fine adjustment」と呼ぶ場合もある。
【0081】
ステップS508-9では、現在の撮像倍率が
図6Aの倍率設定パネル605で設定した最終観察倍率と一致しているかどうかの判定を行い、一致していれば次のステップS508-10に進む。一致していなければ、ステップS508-3に戻り、ステップS508-3からステップS508-8までの処理を繰り返す。
【0082】
ステップS508-10では、
図6AのGUI400で設定した高倍画像撮像時の光学条件に変更し、ステップS508-11で当該光学条件に従い撮像を行う。以上でステップS508は終了し、
図5AのステップS509に進む。
【0083】
ステップS509では、ステップS508で撮像したROIのシリアルナンバーから、視野探索で抽出された全ROIについて最終観察位置での撮像が終了したかどうかの判断が行われ、終了していなければ、ステップS507に戻って次のROIへの視野移動を行う。終了していれば、本実施の形態の自動撮像処理を終了する(ステップS510)。
【0084】
自動撮像処理の実行中、
図6Bに示すGUIには自動撮像処理のステイタスが表示される。ステータスバー618には全ROI数に対する撮像済みROIの割合が、また、撮像済み画像の明細欄619には、撮像済みないし撮像中の画像のシリアルナンバー、座標(ステージ条件)と、各撮像箇所の目印パターンに対応するROIのシリアルナンバーが表示される。
【0085】
図7には、自動撮像処理のシーケンス終了後の主GUI400の様子を示す。主画面401には撮像された高倍画像が表示され、サブ画面407には、主画面401よりも広視野で割断面21のチルト画像が表示されている。イメージリスト領域408には各撮像箇所の高倍画像がサムネイル表示されている。主画面401に表示された高倍画像は、ウェハ上に形成された加工パターン26の形状が確認できる程度の高倍率の断面像であり、倍率調整欄403に表示された通り拡大倍率は×200kである。また高倍画像の撮像箇所を強調表示するため、サブ画面407には目印パターンと最終撮像位置を示すマーカ428が表示されている。
【0086】
以上、250枚セットの教師データとカスケード分類器を用いて目印パターン23の特徴識別器45を構築し、
図5A~
図5Dのフローを自動撮像シーケンスとして装置実装した結果、良好な自動断面観察動作が確認された。
【0087】
[第2の実施の形態]
次に、第2の実施の形態に係る走査型電子顕微鏡を説明する。第2の実施の形態は、第1の実施の形態とは異なる構造の試料ステージ17を備えた走査型電子顕微鏡を提案するものである。対象試料や、自動撮像のフローや視野認識機能の構築方法は第1の実施の形態と同じであり、試料ステージ17の構成が異なる。
図8Aに、試料ステージ17の模式図を示す。本実施の形態では、第二傾斜軸62は図中Z方向に沿って設けられている。さらに、第一傾斜軸61は第二傾斜軸62が備わった試料ステージ17の下側の基台17Xに設置される。固定治具によって、試料20の上面22は試料ステージ17の上面と直交するように固定される。
【0088】
図8Aの状態(X-Z平面が紙面)から、第二傾斜軸62を90°回転させた後の状態(Y-Z平面が紙面)を
図8Bに示す。この配置では、試料20の上面22と第二傾斜軸62が直交し、第1の実施の形態の
図2Bと同様の状態となる。この状態から第一傾斜軸61を回転させることで、電子線12に対して割断面21の傾きを調整できる。また、目印パターン23の探索のためにチルト像を取得する際は、
図8Aの状態に戻してから、第一傾斜軸61を回転させることでチルト像が観察できる。なお、図示してはいないが、本実施の形態の試料ステージは、試料載置面をXY方向にそれぞれ独立に移動させるためのX駆動軸、Y駆動軸を備えており、観察視野を試料の長手方向に平行移動させることができる。
【0089】
[第3の実施の形態]
次に、第3の実施の形態に係る走査型電子顕微鏡を説明する。第3の実施の形態では、第1の実施の形態で説明した自動撮像シーケンスよりも全体の実行時間を短縮できるシーケンスについて説明する。第3の実施の形態の自動撮像シーケンスが実行される荷電粒子線装置の全体構成や、操作者が使用するGUIは第1の実施の形態と同様であるため、以下の説明においては重複する説明は省略する。必要に応じて
図1、
図4A~B、
図6A~Bを適宜引用しつつ、相違点を中心に説明する。
【0090】
図9のフローチャートを参照して、第3の実施の形態での自動撮像シーケンスの要部のフローチャートを示す。自動撮像シーケンスの全体フローは
図5Aに示すフローと同様であるが、ステップS508の最終観察位置での高倍率撮像時に実行される処理が、
図5Dに示す第1の実施の形態の処理とは異なっている。
【0091】
図9のフローチャートにおいて、ステップS508-1からステップS508-5までの処理は
図5Dのフローチャートと同じである。ステップS508-5で拡大後の倍率での画像を取得後、ステップS508-6-1で、所定の画像処理アルゴリズムを用いてエッジラインの検出処理が実行される。検出処理の実行後、ステップS508-6-2で検出が成功したかどうかの判定処理が行われる。エッジラインが検出できなかった場合はステップS508-6-3に進み、同一視野・同一倍率で撮像した画像データを用いてフォーカス調整と非点収差補正が実行される。エッジラインが検出できた場合はステップS508-6-4の判定ステップに進む。
【0092】
ステップS508-6-4では、ステップS508-6-5からS508-6-8までの処理をスキップするかしないかの判定処理が行われる。その判定基準は、現在の倍率が予め定められた閾値よりも大きいか小さいかである(閾値以上か否かを判定することとしてもよい)。これは、倍率が小さければ倍率拡大に伴う画像上での視野中心のずれ量が小さい(本来の視野中心が視野から外れる可能性が低い)との理由による。経験的には、倍率が×50kから×100k程度になると、視野中心のずれ量が視野から外れてしまう程度に大きくなることが分かっている。また、視野探索時の撮像倍率から最終的な観察倍率まで倍率を拡大する際は、視野逃げが発生しないよう、段階的に倍率を拡大することが望ましい。
図6AのGUIでの途中倍率は少なくとも4段階程度以上に分けて倍率設定を行うことが望ましい。
【0093】
ステップS508-6-4で現在倍率が閾値よりも大きいと判定された場合、ステップS508-6-5の視野中心のずれ補正が実行される。この処理は
図5DのステップS508-6「第一の視野ずれ補正」に含まれる視野中心のずれ補正の処理と同様であるので説明は省略する。以下、
図5Dの手順と同じ要領でステップS508-7、S508-8が実行され、実行されると次ステップのS508-9に進む。一方、ステップS508-6-4で現在倍率が閾値以下と判定された場合、ステップS508-6-5~S508-6-8の処理を省略してステップS508-9に進む。
【0094】
以下、ステップS508-9の判定ステップ、S508-10の光学条件変更ステップを経て、ステップS508-11にて目的とする高倍画像が取得される。これらのステップでの処理については第1の実施の形態で説明済みなので、説明は省略する。
【0095】
第3の実施の形態の自動撮像シーケンスによれば、倍率拡大過程でのフォーカス調整および非点収差補正、更に第一の視野ずれ補正及び第二の視野ずれ補正を、状況によって省略できる。フォーカス調整および非点収差補正といった所要時間の大きな光学調整と、第一の視野ずれ補正および第二の視野ずれ補正といった所要時間の大きな画像処理をスキップできるため、一連の観察フローに要するトータルの所要時間が削減することができる。そして、その削減効果は、試料上の撮像点数が増えるほど大きくなる。なお、ステップS508-6-2とS508-6-4の判定ステップは、どちらか一方のみ採用してフローを構成(即ち、フォーカス調整および非点収差補正と第一の視野ずれ補正および第2の視野ずれ補正のどちらか一方のみをスキップするフローとする)してもよく、その場合であってもトータルの所要時間の削減効果を得ることは可能である。以上、この第3の実施の形態の自動撮像シーケンスによれば、断面画像に対して大きな撮像スループットを有する荷電粒子線装置が実現可能となる。
【0096】
[第4の実施の形態]
次に、第4の実施の形態に係る走査型電子顕微鏡を説明する。第4の実施の形態の走査型電子顕微鏡は、目印パターン23の特徴識別器45を構築する際に、設計データなどのレイアウトデータを用いる点で、前述の実施の形態と異なっている。
【0097】
図10に、第4の実施の形態に適した走査型電子顕微鏡10の構成例を示す。基本的な構成は第1の実施の形態と同様であるが、第4の実施の形態では、コンピュータシステム32の構成が異なっている。第4の実施の形態の走査型電子顕微鏡10が備えるコンピュータシステム32では、ストレージ903にレイアウトデータ40が格納されている。また、このコンピュータシステム32は、視野探索ツール904の機能ブロックとして、断面3D画像データ生成部41、及び類似画像データ生成部42を備えている。
【0098】
外付けサーバー905は、コンピュータシステム32に直接あるいはネットワークを介して接続される。
図10では、各種機能ブロックがメモリ902のメモリ空間上に展開された様子が示されている。以下、断面3D画像データ生成部41、類似画像データ生成部42それぞれの機能について説明する。
【0099】
図11を参照して、第4の実施の形態における、特徴識別器45の構築手順を説明する。
図11の上段に示される図は設計データ上でROIを設定するためのGUIの構成例である。操作者がオペレーションパネル405の「CAD」ボタン430を押すと、図示された操作ボタンが表示される。操作者がCADファル名表示欄431に表示されるCADファイル(レイアウトデータ)から所望のレイアウトデータを選択し「Load」ボタンを押すと、ストレージ903に格納されたレイアウトデータがメモリ902に読み込まれる。操作者は、主GUI400に表示されるレイアウトデータ40を参照しながら、ポインタ409を用いて割断線71を設定し、「Register」ボタン432を押して割断線71をコンピュータシステム32に登録する。ここで割断線71は、実際の試料20を割断した場所に相当する。「Clear」ボタン433を押すと登録を取り消すことができる。
【0100】
レイアウトデータ40は、CADなどのデバイス設計データであるが、その他にも、設計データから生成した二次元画像や、光学顕微鏡などで観察した写真などを使ってもよい。このレイアウト図では、符号70で示した領域が観察試料として残される側に対応する。
【0101】
続いて操作者は、観察中に自動検出させたい目印パターン23が含まれる関心領域(ROI)25を、ポインタ409と選択ツール410を用いてレイアウトデータ40上で設定する。設定後、操作者は登録ボタン432を押して、これにより関心領域(ROI)25をコンピュータシステム32に登録する。
【0102】
割断線71とROI25の設定後、操作者の指示により、断面3D画像データ生成部41がレイアウトデータ40から3D幾何画像72(疑似チルト画像)を生成する処理を開始する。操作者による指示のやり方としては、例えば操作者がGUI(図示は省略)上でレイアウトデータからの教師データ生成処理の開始ボタンを押す等の方法による。開始ボタンが押されると、プロセッサ901が断面3D画像データ生成部41のプログラムを実行することにより、ROI25に対応するレイアウトデータを基にして三次元モデルがコンピュータシステム32上に構築される。プロセッサ901は更に、仮想空間上で三次元モデルの傾斜角度や観察スケールを変えることにより、観察条件が異なる多数の3D幾何画像72を自動的に生成する。
図11の2段目には、コンピュータシステム32で生成されたチルト角の異なる3D幾何画像72を3例ほど示している。生成された3D幾何画像72には、
図11に示したようにウェハの割断面21と関心領域(ROI)25が含まれる。
【0103】
プロセッサ901は、主GUI400上で指定されたROI25の座標情報を用いて、3D幾何画像72上でROIを含む領域を切り抜く画像の切り抜き処理を自動で行い、3Dチルト画像73を生成する。
図11の3段目には、3D幾何画像72から生成される3Dチルト画像73の模式図を3例示している。ROIの切り抜き領域サイズは、ROIと割断面21を含みつつ、ROIの面積の2~4倍程度のサイズに設定する。類似画像データ生成部42では、3Dチルト画像73に基づき、所定のアルゴリズムに基づき、SEM観察像と類似した類似画像データ74を生成する。以上の要領で自動生成された類似画像74は、特徴識別器45の教師データとして用いることができる。
【0104】
上述の類似画像データ74の生成方法について詳細に説明する。
図12に示すように、本実施の形態では、3Dチルト画像73から類似画像データ74を生成する際に画風変換モデル46を用いている。画風変換モデル46は、構造画像である3Dチルト画像73に対し、スタイル画像75に含まれる画風情報を反映させることにより類似画像74を生成する画風変換アルゴリズムであり、類似画像生成部42に組み込まれている。スタイル画像75から抽出された画風情報が反映されているため、類似画像74は3Dチルト画像73よりも実際のSEM観察画像(実画像)に類似するよう構成されている。
【0105】
画風変換モデル46は、例えばニューラルネットワークで構成される。この場合、実サンプルの画像やレイアウトデータ40を使用せずとも、画像認識モデル学習用のデータセットで学習を実施することができる。対象とする生成画像と類似の構造画像および実画像(3Dチルト画像73に対応する実際のSEM観察画像)のデータセットがある場合には、そのデータセットを用いて画風変換モデルを学習させることができる。この場合、画風変換モデルは入力された3Dチルト画像から直接類似画像を出力できるため、3Dチルト画像73から類似画像74を生成する際にスタイル画像が不要となる。また画風変換モデル46に替えて電子線シミュレータを用いて類似画像74を生成することもできる。
【0106】
なお、断面3D画像データ生成部41と類似画像生成部42は、
図10に示すように外付けサーバー905上で動作させ、ストレージ906内に類似画像74を格納してもよい。この場合、撮像装置(走査型電子顕微鏡)10に直接接続されたコンピュータシステム32に断面3D画像データ生成部41と類似画像生成部42を設ける必要はなく、特徴識別器45の学習時はストレージ906内に保存された類似画像74をコンピュータシステム32にコピーして用いる。また、外付けサーバー905を特徴識別器45の学習用画像データの作成用計算機として使用することにより荷電粒子線装置10は撮像に専念できるため、撮像対象となる試料が変わった際にも切れ目なく撮像を続けることができるメリットがある。
【0107】
以上の要領で生成された類似画像74は、ストレージ903内の教師データDB44に格納される。生成された類似画像74を用いて特徴識別器45を学習させる場合、第1の実施の形態の
図4Bで説明した操作と同じ要領で、教師データDB44から類似画像74が格納されたフォルダを選択し、または適当な類似画像74を個別に選択し、学習開始ボタン415または424を押せば自動的に学習が開始される。
【0108】
この第4の実施の形態で説明した荷電粒子線装置では、特徴識別器45の構築に際して操作者が大量のSEM画像を撮像して教師データ43を準備する必要がない。操作者は、レイアウトデータ40を参照しながら割断線71、関心領域(ROI)25を設定するだけで、教師データが自動的に教師データDB44に登録され、特徴識別器45を構築できる。これは、本実施例の荷電粒子線装置では
図3のステップS301からS306の工程を実質的に省略できることを意味しており、操作者の作業負担が大幅に軽減されることは容易に理解される。
【0109】
[第5の実施の形態]
次に、第5の実施の形態に係る走査型電子顕微鏡を説明する。第5の実施の形態は、第4の実施の形態の手法で生成された類似画像74を用いて視野探索(目印パターン23の自動検出)を行う方法について説明する。本実施の形態では、目印パターン23の検出には機械学習による特徴識別器45でなく、パターンマッチングを用いる。
【0110】
第4の実施の形態と同様の方法で、レイアウトデータ40から、3Dチルト画像73、類似画像74を生成する。従来のパターンマッチング法では、先述の課題で述べたように、マッチングの基準画像は実際の観察像を多様な条件で大量に取得する必要があり、実用性に問題があった。それに対し、本実施の形態の方法では、レイアウトデータ40から生成する類似画像74を、機械的に出力することができるので、人の労力をかけることなく、パターンマッチング用の基準画像を大量に用意することができる。これにより、従来は困難であった、チルト像からのパターンマッチングも実現可能となる。
【0111】
[第6の実施の形態]
次に、第6の実施の形態に係る走査型電子顕微鏡を説明する。第6の実施の形態は、操作者による観察作業の一部を補助的に支援する構成を提案するものである。第6の実施の形態では、第1の実施の形態~第4の実施の形態に記載したいずれかの方法により、目印パターン23の特徴識別器45を構築する。その後、操作者がSEMを観察中に特徴識別器45を動作させて、リアルタイムに目印パターン23を検出する。同時に、検出した目印パターン23を含む関心領域(ROI)25を、表示ユニット35のGUI50上に表示する機能を備える。
【0112】
図13に、第6の実施の形態の荷電粒子線装置が備えるGUI画面の構成例を示す。主画面401には、観察画像や各種の操作メニューが表示される。操作者が「Menu」ボタン403を押すとセレクトボタン434が表示され、「Marker」ボタンを選択すると、主画面401に表示されているSEM画像に、特徴識別器45が抽出したROIを示すマーカ50が重畳して表示される。特徴識別器45が抽出したROIが全て表示されるため、
図13ではマーカ50が複数のROIに重畳表示されている。本実施の形態のマーカ表示機能により、操作者はどこを観察しているかを一見して判断でき、これにより観察作業の効率が向上する効果がある。本機能は特に、マニュアルで視野探索を行う場合に有用である。
【0113】
[第7の実施の形態]
次に、第7の実施の形態に係る走査型電子顕微鏡を説明する。第7の実施の形態は、設計データなどのレイアウトデータと、実際のSEM観察中における試料位置の自動アライメントを実現する構成例である。なお、コンピュータシステム32の特徴識別器45は、実画像もしくは疑似SEM画像により既に学習済みであるものとする。
【0114】
図14Aを用いて、第7の実施の形態のレイアウトデータ上の操作を説明する。
図14Aは、第7の実施の形態での観察対象を示し、試料20上に類似の形状の目印パターン23が複数形成されている。
図14Aは試料20の模式図のみ示されているが、実際には
図4A、
図11或いは
図13等と同様のGUI上に表示されている。
【0115】
操作者は、第4の実施の形態と同じ要領で所望のレイアウトデータ40をGUI上に読み出し、レイアウトデータ40を参照しながら試料の割断線71と検出対象の目印パターン23の位置(X座標)をGUI上で設定する。割断線71と目印パターン23の位置設定は、
図11と同様、ポインタ409と選択ツール410を用いて行う。
【0116】
この作業を経て、レイアウトデータ上の目印パターン23のそれぞれのX座標がコンピュータシステム32に登録され、レイアウト上のX座標リスト77が得られる。続いて、試料ステージ17をステップ&リピート方式でX軸方向に移動させながら、低倍のチルト像を取得する。この撮像処理を試料20のX方向の左端が視野収まる位置から右端が視野に収まる位置まで行い、その過程において、
図14Bに示すように、特徴識別器45によって自動検出された目印パターン23の関心領域(ROI)25の中心のX位置座標がデータとして保存される。以上により、実空間におけるX座標リスト78が得られる。
【0117】
上記の方法により、
図14Cに示すように、レイアウト上のX座標リスト77と、実空間のX座標リスト78が得られ、両者を照合することで、レイアウト上の座標と実空間座標を対応付けるための変換データが生成され、レイアウト空間と実空間の座標アライメントが実現される。生成された変換データは、コンピュータシステム32のストレージ903だけではなく、外付けサーバー905に格納してもよい。
【0118】
図15は、座標アライメント処理の実行後に、イメージリスト領域408に表示されたサムネイル画像の一つを選択した状態のGUIを示す図である。観察像51(ここではチルト画像)と並んで、サブ画面407にレイアウトデータ40が表示され、上記の変換データ80により観察像の位置がレイアウトデータ40に反映される。これにより操作者は、どの位置を観察しているかをレイアウトデータ40上で確認でき、操作作業性が向上する。また、同時にレイアウトデータ40上で指定した観察位置に観察視野を移動させることも容易に実現できる。これは表示画像が最終倍率で撮像された高倍画像であっても同様である。
【0119】
次に、本実施の形態の座標アライメントを、第4の実施の形態の類似画像を用いて特徴識別器を構築した場合における視野探索へ適用した事例について、
図16を用いて説明する。ステップS502以外の処理は第1の実施の形態(
図5A)と同様であるので、以下ではステップS502について説明する
【0120】
図16は、ステップS502の詳細を示すフローチャートである。操作者は、まずステップS501-1とS502-2で視野探索時の光学条件とステージ条件を設定する。次にステップS502-3で、操作者は上述の
図11および
図14Aで説明した要領でレイアウトパターン上でのROIの設定を行う。その後、操作者が
図15のオペレーションパネル405に示される「Align」ボタン435を押すと、コンピュータシステム32はアライメント処理の指示ボタン類をオペレーションパネル405に表示させる。「Start」ボタンが押されると、コンピュータシステム32はステップS502-4のチルト像の撮像を開始する。
【0121】
撮像されたチルト画像の画像データは順次ストレージ903に格納され、試料20のX方向の先端から終端までの撮像が終了すると撮像ステップは終了する。次にステップS502-5で、プロセッサ901により
図14CのX座標リスト77およびX座標リスト78の照合処理と上述した変換データの生成処理が実行され、これによりレイアウトと実空間との座標アライメントが行われる。生成された変換データは、
図5AのステップS503の視野探索テストランあるいはステップS507の目的パターンへの視野移動の際、次に移動するROIの中心座標を設定するために用いられ、ステージ17の移動量もこの値を用いて計算される。これにより、実画像を使用せずレイアウトデータのみを使用した視野探索機能を備えた荷電粒子線装置が実現可能となる。
【0122】
また、レイアウト空間と実空間座標を対応付けるための変換データは、目印パターンの探索時のみならず最終観察位置への視野移動の際にも活用できる。レイアウトデータは拡大表示しても座標ずれが発生しないので、GUI上にレイアウトデータを拡大表示することにより、操作者はレイアウトデータ上での最終観察位置を最終観察倍率相当の分解能で正確に指定できる。一方、コンピュータシステム32も変換データにより実空間での最終観察位置の座標を正確に把握できるため、倍率拡大に伴う視野ずれが原理的には無くなる(実際には、変換データに含まれる誤差のため視野ずれは生じる)。この効果は、実画像を教師データとして用いて特徴識別器45を構築した場合でも同様である。
【0123】
なお、以上の説明では、実空間での目印パターンの座標データを用いてステージ医療量を計算しているが、目印パターンのパターンピッチ情報を用いてステージ移動量を計算してもよい。
【0124】
[第8の実施の形態]
次に、第8の実施の形態に係る走査型電子顕微鏡を説明する。第8の実施の形態では、半導体試料ではなく金属材料組織の観察に本開示を適用した構成例について説明する。金属材料組織の断面においては、包晶組織や、共晶組織といった特徴的な組織が現れ、操作者はそれらに着目した視野観察や元素分析などの詳細解析を行う。以下、本実施の形態を説明するが、前提とする装置構成は
図1または
図10であり、上述の実施の形態と同じである。
【0125】
図17Aに示す包晶組織にはA相、B相、C相が含まれ、共晶組織にはD相とE相が含まれている。本実施の形態では、第1の実施の形態と同様に、予め取得した観察像から生成した教師データ43を準備し、それを基に特徴識別器45を構築する。
図17Aに示すように、本実施の形態の特徴識別器は複数存在しても良く、
図17Aの場合は、包晶組織(第一の特徴部)、共晶組織(第二の特徴部)のそれぞれに対応する特徴識別器A45aと、特徴識別器B45bを構築している。特徴識別器A45aおよび特徴識別器B45bは、第一の倍率で撮像された画像データを入力とし、包晶組織又は共晶組織の位置情報を出力とする教師データを用いてあらかじめ学習が実施されている。
【0126】
構築された特徴識別器A45aと特徴識別器B45bに、撮像装置で取得された金属組織表面の画像データを入力すると、
図17Bに模式的に示すように、それぞれの特徴組織に対応した関心領域(ROI)90、91の中心座標が自動抽出される。コンピュータシステム32は、自動抽出された中心座標に撮像装置の視野中心を移動させるよう制御部33に指示し、制御部33はコンピュータシステム32の指示に沿って試料ステージ17の移動を制御する。
【0127】
図17Cには、第8の実施の形態で実行される元素分析の自動実行処理の際に使用されるGUIの構成例を示している。操作者が
図13に示されるセレクトボタン434から「Elementary Analysis」ボタンを選択すると、
図17CのGUIが表示される。操作者は、この画面を用いて前述の包晶組織や共晶組織に対して実施する分析の種類を設定することができる。
【0128】
図17CのGUIは、分析対象の相や物質を入力する目標ターゲット入力欄1701を有する。操作者は
図1や
図10に示される入力部36等を用いて入力を行う。また、
図17CのGUIは、実行する分析の種類を入力する分析種入力欄1702を有する。操作者は、目標ターゲット入力欄1701と同様に入力部36等を用いて入力を行う。入力結果は入力結果表示欄1703に一覧表示される。
【0129】
以上の設定の完了後、スタートボタン1704を押すと、元素分析の自動実行フローが開始され、新たに撮像した金属材料組織の画像データが特徴識別器A45aと特徴識別器B45bに入力され、金属材料組織に含まれる包晶組織、共晶組織がROIとして中心座標の情報と共に抽出される。抽出されたROIの画像データから、A相、B相、C相、D相およびE相の位置情報がコントラスト差を利用して画素単位で求められる。各相の位置情報の検出にあたってはセマンティックセグメンテーション等、機械学習の手法を用いることもできる。
【0130】
その後、コンピュータシステム32と制御部33の連動により、各ROIへの視野移動が順番に自動で実行され、高倍率(第一の倍率よりも高い第二の倍率)での撮像処理や操作者によりGUIで指定された注力視野の元素分析(EDXマッピングやEDS等)処理が自動実行される。このような実施の形態はとくにマテリアルズインフォマティクスのように大量のデータを高効率で取得する開発には非常に効果を発揮する。なお、これまでの実施の形態と異なり、本実施の形態の場合は、特徴識別器の学習にチルト画像を用いる必要は無く、試料上方からの撮像画像によっても特徴識別器の学習が可能である。
【0131】
[第9の実施の形態]
次に、第9の実施の形態に係る走査型電子顕微鏡を説明する。第9の実施の形態は、FIB-SEM(Focused Ion Beam - Scanning Electron Microscope)を撮像装置として備えた荷電粒子線装置に本開示の技術を適用した例を提案する。
【0132】
図18に本実施の形態のFIB-SEMの構成を示す。走査電子顕微鏡10と同じ筐体に、FIB筐体18が設置され、試料を切削しながら試料20の断面を形成し、SEMによって形状や組織観察を行う。視野認識に係る構成要素は第4の実施の形態と同様である。本実施の形態においては、コンピュータシステム32は汎用プロセッサとメモリではなく、FPGA等のハードウェアで各機能ブロックを構成しているが、機能および動作はこれまでの実施の形態で説明してきた内容と同様である。また本実施の形態では、特徴識別器45の生成にレイアウトデータを用いる構成を示したが、第1の実施の形態のように、実際の観察で得られた画像データを教示データとして用いる構成に適用してもよい。
【0133】
[第10の実施の形態]
以上説明した実施の形態の他、以下の特徴を備える構成例も好適である。
1.操作者の指示に基づき視野探索のテストランを実行する機能を備えた荷電粒子線装置、および当該機能を実現するプログラムが格納された記録媒体。
2.視野探索の実行中に発生した不具合を検出し、視野探索を自動停止する機能を備えた荷電粒子線装置、および当該機能を実現するプログラムが格納された記録媒体。
3.前項において、自動停止した視野探索のフローを停止した箇所から再開する機能を備えた荷電粒子線装置および当該機能を実現するプログラムが格納された記録媒体。
4.観察対象試料の設計データを表示するGUIと、当該設計データ上で操作者が設定したROIの座標情報と、観察対象試料の実空間における座標情報を、撮像装置により取得された実画像データに基づきマッチングさせる処理と、当該マッチングにより得られた前記ROIの実空間での座標情報に基づき試料ステージの移動量を計算するコンピュータシステムと、当該計算されたステージ移動量に基づき動作するステージとを備えた荷電粒子線装置および上記の処理を実行するプログラムが格納された記録媒体。
5.前記荷電粒子線装置において、前記設計データ上で操作者が設定した最終観察位置の座標情報に基づき、実空間での視野移動を実行する機能を備えた荷電粒子線装置および当該機能を実現するプログラムが格納された記録媒体。
6.撮像装置と、第一の形状を含む実画像データを用いて学習された第一の特徴識別器と第2の形状を含む実画像データを用いて学習された第2の特徴識別器とが格納されたコンピュータシステムと、前記第一の特徴識別器および第2の特徴識別器に新規な画像データを入力することにより出力される第一の座標および第2の座標に対応する試料上の領域に荷電粒子線を照射し元素分析を自動実行することを特徴とする荷電粒子線装置および当該自動実行処理を実現するプログラムが格納された記録媒体。
7.前記荷電粒子線装置において、前記第一の形状および第2の形状に対し各々実行する元素分析の種類を設定するためのGUIを備え、前記第一の座標および第2の座標に対応する試料上の領域に荷電粒子線を照射し前記GUIで設定された種類の元素分析を自動実行する荷電粒子線装置および当該自動実行処理を実現するプログラムが格納された記録媒体。
【0134】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記実施形態は本発明をわかりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であるし、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段などは、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウエアで実現してもよい。
【符号の説明】
【0135】
10…電子顕微鏡、11…電子銃、12…電子線、13…集束レンズ、14…偏光レンズ、15…対物レンズ、16…二次電子検出器、17…試料ステージ、18…FIB筐体、20…試料、21…試料割断面、22…試料上面、23…目印パターン、24…断面観察視野、25…目印パターンのROI、26…加工パターン、31…像形成部、32…コンピュータシステム、33…制御部、34…画像処理部、35…表示ユニット、36…入力部、40…レイアウトデータ、41…断面3D画像データ生成部、42…類似画像データ生成部、43…教師データ、44…教師データDB、45…特徴識別器、46…画風変換モデル、50…GUI、51…観察画像、61…第一傾斜軸、62…第二傾斜軸、70…観察対象側、71…割断線、72…3D幾何画像、73…3Dチルト画像、74…類似画像、75…スタイル画像、76…目印パターンの座標、77…レイアウトデータ上のX座標、78…試料台のX座標リスト、79…観察位置の表示、80…座標変換データ、90…包晶組織のROI、92…共晶組織のROI、100…二次電子、900…インターフェース、901…プロセッサ、902…メモリ、903…ストレージ、904…視野探索ツール、905…外付けサーバ、906…ストレージ