(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-06
(45)【発行日】2024-08-15
(54)【発明の名称】荷電粒子線装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/153 20060101AFI20240807BHJP
【FI】
H01J37/153
(21)【出願番号】P 2024511048
(86)(22)【出願日】2022-03-31
(86)【国際出願番号】 JP2022016592
(87)【国際公開番号】W WO2023188294
(87)【国際公開日】2023-10-05
【審査請求日】2024-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】高崎 美宏
(72)【発明者】
【氏名】玉置 央和
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-194982(JP,A)
【文献】特開2021-82593(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0004192(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/153
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の多極子と第二の多極子との間に伝達レンズが配置される収差補正器を備える荷電粒子線装置であって、
前記第一の多極子に入射する荷電粒子線と光軸との角度θ1を調整する第一の偏向器と、
前記第二の多極子に入射する荷電粒子線と光軸との角度θ2を調整する第二の偏向器と、
前記第一の偏向器と前記第二の偏向器とを制御する制御部をさらに備え、
前記制御部は、5回対称4次非点収差を補正するように角度θ1を変化させるとともに、角度θ1の変化によって生じる4回対称3次非点収差を補正するように角度θ2を変化させることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項2】
請求項1に記載の荷電粒子線装置であって、
前記制御部は、観察像もしくはパターンから算出される5回対称4次非点収差の大きさと前記第一の多極子が形成する第一多極子場の強度とに基づいて角度θ1の変化量を算出することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項3】
請求項2に記載の荷電粒子線装置であって、
前記制御部は、前記5回対称4次非点収差の大きさがA、前記第一多極子場の強度がB1、前記第一の偏向器の調整係数がC1であるとき、角度θ1の変化量Δθ1をΔθ1=A/(B1・C1)として算出することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項4】
請求項1に記載の荷電粒子線装置であって、
前記制御部は、観察像もしくはパターンから算出される5回対称4次非点収差の回転成分と前記第一の多極子が形成する第一多極子場の方向とに基づいて、第一の多極子場が形成される面内における荷電粒子線の方位角φ1の変化量を算出することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項1に記載の荷電粒子線装置であって、
前記制御部は、前記第一の多極子の光軸と直交する面において、前記第一の多極子が形成する第一多極子場の面内における荷電粒子線の方位角φ1の変化量Δφ1に基づいて、前記第二の多極子の光軸と直交する面において、前記第二の多極子が形成する第二多極子場の面内における荷電粒子線の方位角φ2の変化量Δφ2を調整することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項6】
請求項5に記載の荷電粒子線装置であって、
前記制御部は、前記変化量Δφ1と、前記変化量Δφ2との差異の絶対値が90度以下になるように、前記第一の偏向器と前記第二の偏向器を制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項7】
請求項6に記載の荷電粒子線装置であって、
前記制御部は、前記変化量Δφ1と前記変化量Δφ2とが一致するように、前記第一の偏向器と前記第二の偏向器を制御することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項8】
請求項5に記載の荷電粒子線装置であって、
前記制御部は、前記変化量Δφ1によって、光軸と直交する面において、4回対称3次非点収差に回転成分が生じ、前記第一の多極子での回転成分がφA3_1、前記第二の多極子での回転成分がφA3_2であるとき、前記変化量Δφ2をΔφ2=φA3_1+φA3_2-Δφ1+πとして算出することを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項9】
請求項1に記載の荷電粒子線装置であって、
前記制御部は、観察像もしくはパターンに基づいて、5回対称4次非点収差または4回対称3次非点収差を算出し、画面に表示させることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項10】
請求項9に記載の荷電粒子線装置であって、
前記制御部は、前記画面に前記観察像もしくは前記パターンをさらに表示させることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項11】
請求項1に記載の荷電粒子線装置であって、
前記制御部は、前記第一の偏向器の調整量と前記第二の偏向器の調整量を画面に表示させることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項12】
請求項1に記載の荷電粒子線装置であって、
前記5回対称4次非点収差を補正する際、併せて2回対称1次非点収差、1回対称2次コマ収差、3回対称2次非点収差、2回対称3次スター収差のうち、少なくとも1つ以上の収差の補正を行うことを特徴とする荷電粒子線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線装置に関し、特に非点収差を補正する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
透過型電子顕微鏡や走査型透過電子顕微鏡、走査型透過電子顕微鏡等の荷電粒子線装置は、試料に荷電粒子線を照射することによって試料の観察像を生成する装置であり、その多くには、対物レンズで発生する球面収差を補正する収差補正器が備えられる。2つの多極子の間に2枚の伝達レンズが配置される収差補正器では、極子の位置ずれや極子材料の特性ばらつき等により寄生収差が発生する。
【0003】
特許文献1には、3次以下の寄生収差、特に2回対称3次スター収差(S3)と4回対称3次非点収差(A3)を独立に補正できる収差補正器が開示される。具体的には、第一の多極子に入射する荷電粒子線と光軸との角度θ1を制御することでS3とA3の一方を補正し、第二の多極子に入射する荷電粒子線と光軸との角度θ2をθ1に連動させて制御することで他方を補正することが開示される。なお収差補正器の後段で余分な寄生収差を発生させないために、第二の多極子を出射する荷電粒子線は光軸に振り戻される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1では、3次以下の寄生収差の補正を対象としており、5回対称4次非点収差(A4)の補正に対する配慮がなされていない。荷電粒子線装置で生成される観察像の分解能を向上させるには、A3の補正を維持しながらA4を補正する必要がある。
【0006】
そこで本発明の目的は、4回対称3次非点収差(A3)の補正を維持しながら5回対称4次非点収差(A4)を補正することが可能な荷電粒子線装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明は、第一の多極子と第二の多極子との間に伝達レンズが配置される収差補正器を備える荷電粒子線装置であって、前記第一の多極子に入射する荷電粒子線と光軸との角度θ1を調整する第一の偏向器と、前記第二の多極子に入射する荷電粒子線と光軸との角度θ2を調整する第二の偏向器と、前記第一の偏向器と前記第二の偏向器とを制御する制御部をさらに備え、前記制御部は、5回対称4次非点収差を補正するように角度θ1を変化させるとともに、角度θ1の変化によって生じる4回対称3次非点収差を補正するように角度θ2を変化させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、4回対称3次非点収差(A3)の補正を維持しながら5回対称4次非点収差(A4)を補正することが可能な荷電粒子線装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1の荷電粒子線装置の全体構成の一例を示す図
【
図2A】実施例1の収差補正器の構成の一例を示す図
【
図6A】光軸に対して傾けられた電子線軌道の一例を示す図
【
図6B】光軸に対して傾けられた電子線軌道の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面に従って本発明に係る荷電粒子線装置の実施例について説明する。なお、以下の説明及び添付図面では、同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【実施例1】
【0011】
図1を用いて、荷電粒子線装置の一つである走査透過電子顕微鏡の全体構成の一例について説明する。走査透過電子顕微鏡は、試料に電子線を照射し、試料を透過する透過電子を検出することによって透過電子像を生成する装置であり、鏡体100と制御部110を備える。
【0012】
制御部110は、鏡体100が有する各部を制御するとともに、鏡体100から送信される検出信号に基づいて観察像を生成する装置であり、例えばコンピュータで構成される。
【0013】
鏡体100は、電子源101、集束レンズ102、103、絞り104、収差補正器120、対物前レンズ105、対物後レンズ107、投影レンズ108、検出器109を有する。集束レンズ102、103、絞り104、収差補正器120、対物前レンズ105、対物後レンズ107、投影レンズ108、検出器109の各軸は光軸111に合わせられる。
【0014】
電子源101は、試料106に照射される電子線を出射する。出射された電子線は、所定の加速電圧で加速された後、集束レンズ102、103によって集束され、絞り104を通過する。絞り104を通過した電子線は、収差補正器120によって球面収差などの収差が補正された後、対物前レンズ105によって試料106の表面上に集束される。試料106を透過した電子線は対物後レンズ107によって集束された後、投影レンズ108によって検出器109へ投影される。検出器109は投影された電子線を検出し、検出信号を制御部110へ送信する。
【0015】
図2Aを用いて、収差補正器120の構成の一例について説明する。収差補正器120は、第一の偏向器201、調整レンズ202、第一の多極子203、伝達レンズ204、第二の偏向器205、伝達レンズ206、第二の多極子207、調整レンズ208、第三の偏向器209を含む。伝達レンズ204と伝達レンズ206は第一の多極子203と第二の多極子207の間に配置される。第一の多極子203と第二の多極子207は、伝達レンズ204と伝達レンズ206によって共役関係となる。
【0016】
第一の多極子203と第二の多極子207は、電子線が通過する領域に、回転対称な電場または磁場である多極子場を形成する。
図2Bに例示される第一の多極子203は、6つの磁極211A~213Bを有しており、各磁極の間の磁束の流れによって3回対称な場である6極子場を形成する。なお
図2Cに例示される第二の多極子207も磁極221A~223Bを有しており、第一の多極子203と同様に、6極子場を形成する。なお第一の多極子203と第二の多極子207は、6つの磁極を有する6極子レンズに限定されず、12個の磁極を有する12極子レンズなどであっても良い。すなわち、形成される6極子場の方向を制御したり、別の種類の場を形成したりするために、磁極の数が変更されても良い。
【0017】
第一の偏向器201は、第一の多極子203よりも電子源101の側に配置され、第一の多極子203に入射する電子線と光軸111との角度θ1と、第一の多極子場が形成される面内における電子線の方位角φ1と、を調整する。第二の偏向器205は、伝達レンズ204と伝達レンズ206の間に配置され、第二の多極子207に入射する電子線と光軸111との角度θ2と、第二の多極子場が形成される面内における電子線の方位角φ2と、を調整する。第三の偏向器209は、第二の多極子207よりも試料106の側に配置され、第二の多極子207から出射する電子線を光軸111の上に振り戻す。
【0018】
特許文献1に開示されるように、2回対称3次スター収差(S3)と4回対称3次非点収差(A3)の一方を補正するように角度θ1を制御し、角度θ2を角度θ1に連動させて制御することによりもう一方が補正される。また第二の多極子207から出射する電子線を光軸111の上に振り戻すことで、収差補正器120の後段での余分な寄生収差の発生が抑制される。
【0019】
観察像の分解能を向上させるには、S3やA3等の補正に加えて、5回対称4次非点収差(A4)の補正が必要である。そこで、第一の多極子203に入射する電子線と光軸111との角度θ1を第一の偏向器201によって変化させること、すなわち角度θ1に変化量Δθ1を加えるにより、A4を補正する。変化量Δθ1は、例えば次式によって求められる。
【0020】
Δθ1=A/(B1・C1) … (式1A)
ここで、Aは5回対称4次非点収差(A4)の大きさであり、例えば観察像もしくはパターンに基づいて算出される。収差の算出に用いられるパターンは、例えばロンチグラムなどの投影パターンである。B1は第一の多極子203が形成する多極子場の強度である。C1は第一の偏向器201の調整係数であり、各レンズや多極子の位置等によって決まる定数である。
【0021】
さらに、A4を補正するためには、測定したA4の位相に基づく回転成分に対応した調整を行うことが好ましい。第一の多極子場が形成される面内における電子線の方位角φ1の変化量Δφ1は、例えば次式によって求められる。
【0022】
Δφ1=D+E1 … (式1B)
ここで、Dは5回対称4次非点収差(A4)の回転成分であり、例えば観察像もしくはパターンに基づいて算出される。E1は第一の偏向器201の調整係数であり、各レンズや多極子の位置等によって決まる定数である。
【0023】
なお角度θ1に変化量Δθ1を加えることにより、4回対称3次非点収差(A3)が生じる。そこで、第二の多極子207に入射する電子線と光軸111との角度θ2を第二の偏向器205によって変化させること、すなわち角度θ2に変化量Δθ2を加えるにより、変化量Δθ1によって生じるA3を補正する。変化量Δθ2は、例えば次式によって求められる。
【0024】
Δθ2=(A3_1/A3_2)・Δθ1 … (式2)
ここで、A3_1は第一の多極子203における4回対称3次非点収差(A3)の大きさ、A3_2は第二の多極子207における4回対称3次非点収差(A3)の大きさである。なお
図2Aにおいて、A4補正前の電子線の軌道は細線で示され、A4補正後の電子線の軌道は太線で示される。
【0025】
また
図2Bに示される光軸111と直交する面において、第一の多極子203が形成する多極子場の面内における電子線の方位角φ1が変化する場合、第二の多極子207が形成する多極子場の面内における電子線の方位角φ2を同等に変化させることが望ましい。すなわち方位角φ1の変化量Δφ1と方位角φ2の変化量Δφ2との差異の絶対値は90度以下であることが望ましく、0度であることがより望ましい。変化量Δφ1は第一の偏向器201によって調整され、変化量Δφ2は第二の偏向器205によって調整される。
【0026】
なお変化量Δθ1によって、光軸111と直交する面において、4回対称3次非点収差(A3)に回転成分が生じる場合、第一の多極子203での回転成分φA3_1と第二の多極子207での回転成分φA3_2とが打ち消されるように、変化量Δφ2を調整することが望ましい。変化量Δφ2は、例えば次式によって求められる。
【0027】
Δφ2=φA3_1+φA3_2-Δφ1+π … (式3)
図3を用いて、実施例1の処理の流れの一例についてステップ毎に説明する。
【0028】
(S301)
制御部110は、4回対称3次非点収差(A3)と5回対称4次非点収差(A4)について、大きさと回転成分を算出する。収差の大きさと回転成分は、例えば観察像もしくはパターンに基づいて算出される。算出された収差の大きさと回転成分は、
図4に例示されるような画面に表示されても良い。
図4に例示される収差測定画面400は、観察像表示部401、A3表示部402、A4表示部403、補正ボタン404を有する。観察像表示部401には、収差測定に用いられる観察像もしくはパターンが表示される。A3表示部402には、4回対称3次非点収差(A3)の測定結果が表示される。A4表示部403には、5回対称4次非点収差(A4)の測定結果が表示される。補正ボタン404は収差補正を開始するときに押下されるボタンである。
【0029】
(S302)
制御部110は、S301にて算出されたA4の大きさと回転成分に基づいて、角度θ1の変化量Δθ1と、方位角φ1の変化量Δφ1を算出する。変化量Δθ1とΔφ1の算出には、例えば(式1A)や(式1B)が用いられる。
【0030】
(S303)
制御部110は、S302にて算出された変化量Δθ1に基づいて、角度θ2の変化量Δθ2と、方位角φ2の変化量Δφ2を算出する。変化量Δθ2と変化量Δφ2の算出には、例えば(式2)と(式3)が用いられる。なおA3_1とA3_2は、例えば観察像もしくはパターンに基づいて予め算出される。
【0031】
(S304)
制御部110は、S302にて算出された変化量Δθ1に基づいて、第一の偏向器201を制御し、5回対称4次非点収差(A4)を補正する。
【0032】
(S305)
制御部110は、S303にて算出された変化量Δθ2に基づいて、第二の偏向器205を制御し、5回対称4次非点収差(A4)を補正する。
【0033】
(S306)
制御部110は、4回対称3次非点収差(A3)の大きさと回転成分を算出する。収差の大きさと回転成分は、例えば観察像もしくはパターンに基づいて算出される。算出された収差の大きさと回転成分は、
図4に例示されるような画面に表示されても良い。なお、S301で表示される画面が更新されても良いし、S301で表示される画面とは別の画面が表示されても良い。
【0034】
(S307)
制御部110は、第二の多極子207に入射する電子線と光軸111との角度θ2と、第二の多極子207が形成する多極子場の面内における電子線の方位角φ2を再調整するか否かを判定する。例えばS301にて算出されたA3収差とS306にて算出されたA3収差との差分が所定量以上であれば、再調整するとの判定がなされる。方位角φ2を再調整しない場合は処理の流れが終了となり、再調整する場合はS308へ処理が進められる。S308では、A3_1とA3_2との打ち消しがなされるように、第二の偏向器205を制御する新たな変化量が算出される。
【0035】
(S308)
制御部110は、S301にて算出された4回対称3次非点収差(A3)と、S306にて算出されたA3との差分に基づいて、第二の偏向器205を制御する新たな変化量Δθ2’と変化量Δφ2’を算出する。変化量Δθ2’と変化量Δφ2’は、例えば(式2)と(式3)を用いて算出される。
【0036】
(S309)
制御部110は、S308にて算出された新たな変化量Δθ2’と変化量Δφ2’に基づいて、第二の偏向器205を再調整し、変化量Δθ1・Δφ1によって生じる4回対称3次非点収差(A3)を補正する。
【0037】
図3を用いて説明した処理の流れによって、4回対称3次非点収差(A3)の補正を維持しながら5回対称4次非点収差(A4)を補正することができる。なお処理の流れの過程で求められた電子線の角度や偏向器の調整量は、
図5に例示されるような画面に表示されても良い。
図5に例示される偏向器調整画面500は、調整量表示部501と傾き表示部502を有する。調整量表示部501には、収差補正するときの第一の偏向器201及び第二の偏向器205の調整量が表示される。傾き表示部502には、収差補正によって調整された電子線の傾きが表示される。なお、ここに示される偏向器の調整量は、偏向器の内部制御をする際の電流値や制御値によっても代用可能であり、XとYの成分に分けず、調整量の大きさと、回転成分による表記によっても代用可能である。
【0038】
また収差補正器120での電子線の軌道は
図2Aに示されるものに限定されず、
図6Aや
図6Bに例示される電子線の軌道であっても良い。
図6Aには、第一の多極子203に入射する電子線を第一の偏向器201によって光軸111に対して傾けた後、第二の多極子207に入射する電子線を第二の偏向器205によって光軸111に振り戻した軌道が示される。第二の多極子207に入射する電子線が光軸111に振り戻されることにより、第一の多極子203での変化量Δθ1は、第二の多極子207での電子線の軌道に影響を与えない。
図6Bには、第一の多極子203に入射する電子線を第一の偏向器201によって光軸111に対して傾けただけの軌道が示される。
【実施例2】
【0039】
実施例1では、第一の多極子203と第二の多極子207の間に伝達レンズ204と伝達レンズ206の組が配置される収差補正器120について説明した。実施例2では、さらにもう一組の伝達レンズが配置される収差補正器120について説明する。なお実施例2には、実施例1で説明した構成や機能の一部を適用できるので、同様の構成、機能については同じ符号を用いて説明を省略する。
【0040】
図7を用いて実施例2の収差補正器120の構成の一例について説明する。なお
図7に示される収差補正器120は、
図2Aに対して伝達レンズ701と伝達レンズ702の組が追加されたものであるので、伝達レンズ701と伝達レンズ702以外の説明を省略する。
【0041】
伝達レンズ701と伝達レンズ702は、伝達レンズ204と第二の偏向器205との間に配置される。伝達レンズ701と伝達レンズ702が追加されることにより、第二の多極子207に入射する電子線の角度θ2は、
図2Aの場合に対して反転し、同様に収差も反転するものの、実施例1と同じ処理の流れによって、A3の補正を維持しながらA4を補正することができる。また伝達レンズがさらに追加される場合であっても、実施例1と同じ処理の流れによって、A3の補正を維持しながらA4を補正することができる。
【実施例3】
【0042】
実施例1や実施例2では、第一の多極子203と第二の多極子207を有する収差補正器120について説明した。実施例3では、さらに第三の多極子が追加される収差補正器120について説明する。なお実施例3には、実施例1や実施例2で説明した構成や機能の一部を適用できるので、同様の構成、機能については同じ符号を用いて説明を省略する。
【0043】
図8を用いて実施例3の収差補正器120の構成の一例について説明する。なお
図8に示される収差補正器120は、
図7に対して第三の多極子801が追加されたものであるので、第三の多極子801以外の説明を省略する。
【0044】
第三の多極子801は、伝達レンズ204と伝達レンズ701との間に配置される。第三の多極子801が追加されることにより、変化量Δθ1と変化量Δθ2は、3つの多極子での電子線の軌道変化によって生じるA3が互いに打ち消し合うように調整される必要がある。ただし、第三の多極子801での電子線の軌道変化は、第一の多極子203での電子線の軌道変化の影響を受けるため、第一の多極子203と第三の多極子801に係るA3を、第二の多極子207に係るA3で打ち消すようにすれば良い。すなわち第一の偏向器201の調整によって生じるA3を、第二の偏向器205の調整によって補正することができる。また伝達レンズや多極子がさらに追加される場合であっても、実施例1と同じ処理の流れによって、A3の補正を維持しながらA4を補正することができる。
【0045】
以上、本発明の荷電粒子線装置について3つの実施例を説明した。本発明の荷電粒子線装置は上記実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせても良い。さらに、上記実施例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除しても良い。
【符号の説明】
【0046】
100:鏡体、101:電子源、102:集束レンズ、103:集束レンズ、104:絞り、105:対物前レンズ、106:試料、107:対物後レンズ、108:投影レンズ、109:検出器、110:制御部、111:光軸、120:収差補正器、201:第一の偏向器、202:調整レンズ、203:第一の多極子、204:伝達レンズ、205:第二の偏向器、206:伝達レンズ、207:第二の多極子、208:調整レンズ、209:第三の偏向器、211A:磁極、211B:磁極、212A:磁極、212B:磁極、213A:磁極、213B:磁極、221A:磁極、221B:磁極、222A:磁極、222B:磁極、223A:磁極、223B:磁極、400:収差測定画面、401:観察像表示部、402:A3表示部、403:A4表示部、404:補正ボタン、500:偏向器調整画面、501:調整量表示部、502:傾き表示部、701:伝達レンズ、702:伝達レンズ、801:第三の多極子