(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】微生物分解細菌、微生物製剤、微生物の分解方法及び分解装置
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20240808BHJP
C02F 11/02 20060101ALI20240808BHJP
C12N 15/11 20060101ALN20240808BHJP
【FI】
C12N1/20 A ZNA
C02F11/02
C12N1/20 D
C12N1/20 F
C12N15/11 Z
(21)【出願番号】P 2020549508
(86)(22)【出願日】2019-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2019038437
(87)【国際公開番号】W WO2020067555
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2018185192
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【微生物の受託番号】NPMD NITE BP-02779
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】518347532
【氏名又は名称】株式会社片岡バイオ研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】満井 智和
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-062599(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0056585(KR,A)
【文献】Database GenBank [online], Accession No. KF441681, 2014-07-17 uploaded, [retrieved on 2023-07-10], <https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/542215135?sat=4&satkey=116434385>,Tumebacillus sp. 7B-408 16S ribosomal RNA gene, partial sequence.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/20
C02F 11/02
C12N 15/11
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受託番号NITE BP-02779として寄託された細菌。
【請求項2】
細菌(a1)を含む、余剰汚泥を分解するための微生物製剤であって、
前記細菌(a1)は、受託番号NITE BP-02779として寄託された細菌である
、余剰汚泥を分解するための微生物製剤。
【請求項3】
請求項1に記載の細菌又は
請求項2に記載の余剰汚泥を分解するための微生物製剤を、余剰汚泥に作用させる工程を含む、余剰汚泥の分解方法であって、
前記余剰汚泥は、活性汚泥法によって生じた汚泥であり、
前記余剰汚泥は、グラム陰性菌又はグラム陽性菌を含む、余剰汚泥の分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物分解能を有する細菌に関する。
【背景技術】
【0002】
活性汚泥法により汚水浄化を行うと、除去した有機物が微生物を含んだフロックとなり、余剰汚泥と呼ばれる汚泥が発生する。廃水処理設備から排出される余剰汚泥は産業廃棄物の中で20%もの割合を占めるため、産業廃棄物を減容化するには、この余剰汚泥の減容化が効果的と考えられる。一般的に余剰汚泥は、脱水、乾燥後、焼却処理される(非特許文献1:平成27年度事業、産業廃棄物排出・処理状況調査報告書、平成25年度実績(概要版)、非特許文献2:山本昌幸、「下水の燃焼技術について」、日本燃料学会誌、一般社団法人日本燃焼学会、2011、第53巻、164号、p91-96)。
【0003】
しかしながら、余剰汚泥を焼却処理すると温室効果ガスが発生するため、必ずしも環境に与える影響が少ない処理方法ではなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】「平成27年度事業、産業廃棄物排出・処理状況調査報告書、平成25年度実績(概要版)」[online]、平成28年3月、環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部、[平成30年8月31日検索]、インターネット<URL:https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000031403476&fileKind=2>
【文献】山本昌幸、「下水の燃焼技術について」、日本燃料学会誌、一般社団法人日本燃焼学会、2011、第53巻、164号、p91-96
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、地球環境に対する意識が社会全体で高まってきており、環境に与える影響がより少ない余剰汚泥の減容化方法、即ち、余剰汚泥を構成する微生物の分解方法が求められていた。
【0006】
本発明は、微生物を分解しうる細菌、微生物製剤、微生物の分解方法及び分解装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、以下に例示する[1]~[17]に関する。
[1]配列番号1に記載の塩基配列と98.2%以上の同一性を有する塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有し、且つ、標的微生物分解能を有する細菌(以下、「本発明に係る細菌」と記すことがある)。
[2]配列番号1に記載の塩基配列と98.5%以上の同一性を有する塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有する、[1]に記載の細菌。
[3]配列番号1に記載の塩基配列と99.0%以上の同一性を有する塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有する、[1]に記載の細菌。
[4]配列番号1に記載の塩基配列と99.5%以上の同一性を有する塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有する、[1]に記載の細菌。
[5]配列番号1に記載の塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有する、[1]に記載の細菌。
[6]標的微生物が標的細菌である、[1]~[5]のいずれかに記載の細菌。
[7]標的微生物が標的死細菌である、[1]~[6]のいずれかに記載の細菌。
[8]受託番号NITE BP-02779として寄託された細菌。
[9]細菌(a1)を含む、標的微生物分解用微生物製剤(以下、「本発明に係る微生物製剤」と記すことがある。)。
(a1):配列番号1に記載の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有し、且つ、標的微生物分解能を有する細菌
[10]細菌(a1)は、配列番号1に記載の塩基配列と92%以上の同一性を有する塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有する、[9]に記載の標的微生物分解用微生物製剤。
[11]細菌(a1)は、配列番号1に記載の塩基配列と95%以上の同一性を有する塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有する、[9]に記載の標的微生物分解用微生物製剤。
[12]細菌(a1)は、配列番号1に記載の塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有する、[9]に記載の標的微生物分解用微生物製剤。
[13]細菌(a1)は、受託番号NITE BP-02779として寄託された細菌である、[9]に記載の標的微生物分解用微生物製剤。
[14]細菌(a2)をさらに含み、細菌(a1)及び細菌(a2)の総数に対する細菌(a1)数は0.1%以上100%以下である、[9]~[13]のいずれかに記載の標的微生物分解用微生物製剤。
細菌(a2):細菌(a1)と異なる細菌
[15]細菌(a1)の培養物を含む、標的微生物分解用微生物製剤。
(a1):配列番号1に記載の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有し、且つ、標的微生物分解能を有する細菌
[16][1]~[8]のいずれかに記載の細菌又は[9]~[15]のいずれかに記載の標的微生物分解用微生物製剤を標的微生物に作用させる工程を含む、標的微生物の分解方法(以下、「本発明に係る分解方法」と記すことがある。)。
[17][1]~[8]のいずれかに記載の細菌又は[9]~[15]のいずれかに記載の標的微生物分解用微生物製剤を用いた、標的微生物の分解装置(以下、「本発明に係る分解装置」と記すことがある。)。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、微生物を分解しうる細菌、微生物製剤、微生物の分解方法及び分解装置を提供可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実験7においてTumebacillus sp.(NITE BP-02779)添加後の余剰汚泥の乾燥重量を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
(共通する用語の説明)
本明細書において、「微生物」とは肉眼では構造が判別できないような微小な生物であり、大型多細胞生物を除く生物である。「標的微生物」とは、本発明に係る細菌又は微生物製剤により分解される微生物である。このような微生物としては細菌、真菌等が挙げられ、中でも細菌が好ましく、余剰汚泥を構成する細菌がより好ましい。標的微生物は、生菌であっても死菌であってもよい。
【0012】
「標的細菌」とは、標的微生物となる細菌を指し、生菌であってもよく、死菌であってもよく、生菌及び死菌を含んでもよい。生菌とは生きている細菌、例えば代謝が行われている細菌を指す。「標的死細菌」とは、標的細菌のうち死んでいる細菌、例えば代謝が行われていない細菌を指す。生菌と死菌とは、例えばpropidium iodide(PI)等の色素を用いて判別することができる。標的細菌は、細菌による分解効率の観点からは死菌であることが好ましい。余剰汚泥中の微生物の約50%は死細菌である。標的死細菌は、例えば標的細菌に対して加熱、高圧蒸気滅菌、紫外線照射、ホルマリン処理、酸処理などを行うことにより得ることもできる。また、標的死細菌は粉砕されたものでもよい。
【0013】
標的微生物として、例えばミクロコッカス(Micrococcus)属細菌、バチラス(Bacillus)属細菌、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属細菌、パエニバチラス(Paenibacillus)属細菌、ラクトバチラス(Lactobacillus)属細菌などのグラム陽性菌、エスケリキア(Escherichia)属細菌、アセトバクター(Acetobacter)属細菌などのグラム陰性菌が挙げられる。
【0014】
本明細書において、「標的微生物分解能」とは、標的微生物を代謝して、標的微生物を構成する生体分子の一部又は全部を、異なる分子に変換する能力を指す。生体分子としては、例えば糖、タンパク質、核酸、脂質等が挙げられる。
【0015】
(本発明に係る細菌)
本発明に係る細菌は、配列番号1に記載の塩基配列と98.2%以上の同一性又は相同性を有する塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有し、且つ、標的微生物分解能を有する。本発明において、16S rRNA遺伝子は、細菌が本来有している内在性の16S rRNA遺伝子であることが好ましい。人工的に変異が誘発された16S rRNAであってもよい。配列番号1に記載の塩基配列と98.2%以上の同一性を有する塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有する細菌として、チューメバチルス(Tumebacillus)属細菌が挙げられる。
【0016】
本発明に係る細菌の一実施形態としては、配列番号1に記載の塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有し、且つ、標的微生物分解能を有する細菌が挙げられる。
【0017】
配列番号1に記載の塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有する細菌の代表的な菌株としては、Tumebacillus sp.(受託番号NITE BP-02779、原寄託日:2018年9月11日)として、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(NPMD、住所:〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)にブダペスト条約に基づいて寄託されている菌株を挙げることができる。該菌株の菌学的性質については、後述する表1~4に示す。
【0018】
本発明に係る細菌は、配列番号1に記載の塩基配列と比較し、同一性又は相同性が98.5%以上の塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有していてもよく、98.8%以上の塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有していてもよく、99.0%以上の塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有していてもよく、99.3%以上の塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有していてもよく、99.5%以上の塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有していてもよく、99.8%以上の塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有していてもよい。本発明に係る細菌は、受託番号NITE BP-02779として寄託された細菌であってもよい。
【0019】
また、本発明に係る細菌は、配列番号1に記載の塩基配列と比較し、1塩基又は数塩基の置換、欠失又は付加が起こった塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有していてもよい。1塩基又は数塩基とは、例えば1~25塩基、好ましくは1~10塩基、より好ましくは1~5塩基とすることができる。上記の変異は、16S rRNAの発現及び機能が失われない変異である。
【0020】
本発明に係る細菌は、配列番号1に記載の塩基配列に含まれる、約15塩基以上、好ましくは約18~約500塩基、より好ましくは約18~約200塩基、さらに好ましくは約18~約50塩基の連続した配列又はその相補配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有していてもよい。ストリンジェントな条件とは、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいい、例えば60℃、1×SSC、0.1% SDS、好ましくは68℃、0.1×SSC、0.1% SDS中で1回以上洗浄する条件等が挙げられる。
【0021】
本発明に係る細菌の標的微生物分解能は、反応条件(標的微生物の種類及び濃度、反応液の組成、温度、pH、細菌数等)によって変化する。
【0022】
例えば、本発明に係る細菌の代表的菌株Tumebacillus sp.(NITE BP-02779)とミクロコッカス(Micrococcus)属細菌死菌とをそれぞれ濁度(OD660)0.2に調製し、体積比1:100で混合後、20~35℃の温度条件下で、6.5~8.0のpH条件下で反応させることにより、1日後の濁度を50%程度低下させ、ミクロコッカス属細菌を分解することができる。
【0023】
本発明に係る細菌は、対象微生物の16S rRNA遺伝子の塩基配列の解析、及び標的微生物の分解能の測定により、特定することができる。具体的には、対象微生物が、配列番号1に記載の塩基配列と相同性98.2%以上の塩基配列を有する16S rRNA遺伝子を有し、且つ、標的微生物分解能を有していれば、その対象微生物は本発明に係る細菌であると特定できる。
【0024】
16S rRNA遺伝子の塩基配列の解析は、例えば以下の方法で行うことができる。まず、公知の方法を用いて、対象微生物からゲノムDNAを抽出し、16S rRNA遺伝子を増幅させる。16S rRNA遺伝子を増幅させる方法としては、特に制限されるものではなく、当業者が通常用いるユニバーサルプライマーを用いたPCR法等が挙げられる。PCR法により得られた増幅産物を、必要に応じて精製し、DNAシークエンサー等に供して、塩基配列を決定することができる。得られた塩基配列と配列番号1に記載の配列との比較を行う。
【0025】
標的微生物分解能を有するかどうかを調べる方法としては、例えば、対象微生物と標的微生物とを適切な培地又は緩衝液中で一定時間反応させた後、培地又は緩衝液中における標的微生物の分解を調べる方法が挙げられる。分解を調べる方法は、特に限定されないが、例えば標的微生物の濁度を測定する方法、SLP試薬により標的微生物を検出する方法、PCRにより標的微生物のDNAを検出する方法、標的微生物の乾燥菌体重量を測定する方法、高速液体クロマトグラフィー(HPLC);質量分析法(MS);薄層クロマトグラフィー(TLC);核磁気共鳴(NMR);ガスクロマトグラフィー(GC)等を用いて標的微生物由来の分解物を検出する方法等が挙げられる。
【0026】
濁度により標的微生物の分解を調べる場合、標的微生物分解能を有するとは、反応後の濁度が反応前の濁度よりも有意に低下しており、例えば反応後の濁度は、反応前の濁度の80%以下であり、好ましくは50%以下であり、より好ましくは30%以下である。乾燥菌体重量により標的微生物の分解を調べる場合、標的微生物分解能を有するとは、例えば反応後の乾燥菌体重量が反応前よりも有意に低下しており、例えば反応後の乾燥菌体重量は、反応前の95%以下であり、好ましくは90%以下である。
【0027】
これらの塩基配列解析及び標的微生物分解能の測定の結果に基づき、対象微生物が本発明に係る細菌であるかを判断できる。
【0028】
(本発明に係る微生物製剤)
本発明に係る微生物製剤は、以下の細菌(a1)を含む。
<細菌(a1)>
細菌(a1)は配列番号1に記載の塩基配列と比較し、90%以上の同一性を有する塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有し、且つ、標的微生物分解能を有する細菌である。このような細菌としてチューメバチルス(Tumebacillus)属細菌が挙げられる。
【0029】
細菌(a1)は、配列番号1に記載の塩基配列と比較し、同一性又は相同性が92%以上の塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有していてもよく、95%以上の塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有していてもよく、98%以上の塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有していてもよく、99%以上の塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有していてもよく、99.5%以上の塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有していてもよく、99.9%以上の塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有していてもよい。細菌(a1)は、受託番号NITE BP-02779として寄託された細菌であってもよい。
【0030】
また、細菌(a1)は、配列番号1に記載の塩基配列と比較し、1塩基又は数塩基の置換、欠失又は付加が起こった塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有していてもよい。1塩基又は数塩基とは、例えば1~135塩基、好ましくは1~100塩基、より好ましくは1~50塩基、さらに好ましくは1~25塩基、特に好ましくは1~5塩基とすることができる。上記の変異は、16S RNAの発現及び機能が失われない変異である。
【0031】
細菌(a1)は、配列番号1に記載の塩基配列に含まれる、約15塩基以上、好ましくは約18~約500塩基、より好ましくは約18~約200塩基、さらに好ましくは約18~約50塩基の連続した配列又はその相補配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を含む16S rRNA遺伝子を有していてもよい。
【0032】
細菌(a1)の16S rRNA遺伝子の塩基配列の解析、及び標的微生物分解能の測定は、上述の本発明に係る細菌と同様にして行うことができる。
【0033】
細菌(a1)としては、標的微生物分解能が良好であることから、本発明に係る細菌、又は以下A群より選ばれるいずれかの細菌であることが好ましく、本発明に係る細菌であることがより好ましい。細菌(a1)は、単一の細菌であってもよいし、複数種の細菌であってもよい。
A群:チューメバチルス アルギファエシス(Tumebacillus algifaecis)、チューメバチルス アビウム(Tumebacillus avium)、チューメバチルス フラゲラテス(Tumebacillus flagellates)、チューメバチルス ギンセンギソリ(Tumebacillus ginsengisoli)、チューメバチルス リポリティカス(Tumebacillus lipolyticus)、チューメバチルス ルテオラス(Tumebacillus luteolus)、チューメバチルス パーマメンティフリゴリス(Tumebacillus permanentifrigoris)、チューメバチルス ソリ(Tumebacillus soli)
【0034】
微生物製剤は、細菌(a1)の培養物を含んでいてもよい。細菌(a1)の培養物は、例えば細菌(a1)の分泌物、代謝物等を含む液体培地を指す。具体的には、培養物は、制御された条件下で所定の液体培地中、又は炭素源及び窒素源を含む液体培地中で増殖させた細菌(a1)の培養物が含まれる。標的細菌(a1)の培養物を含む標的微生物分解用製剤には、細菌(a1)の生菌が含まれていてもよい。細菌(a1)の培養物は、細菌(a1)を培養した培養上清であってもよい。培養上清は、例えば細菌(a1)を培養した液体培地から細菌(a1)を遠心分離、濾過操作等で除いて得ることができる。また、培養物は、細菌(a1)の断片を含んでいてもよい。細菌(a1)の断片は、例えば細菌(a1)を超音波破砕、ビーズ摩砕、化学的溶解処理により得ることもできる。
【0035】
微生物製剤は、細菌(a1)の他に、必要に応じて、細菌(a2)、添加剤(b)及び担体(c)を含むことができる。微生物製剤の具体例としては、細菌(a1)、細菌(a2)、添加剤(b)及び担体(c)を含む微生物製剤を挙げることができる。
【0036】
<細菌(a2)>
細菌(a2)は、細菌(a1)と異なる細菌である。細菌(a2)は、細菌(a1)の標的微生物分解能を失わせるような細菌でなければ特に制限されるものではなく、単一の細菌であってもよいし、複数種の細菌であってもよい。
【0037】
細菌(a2)は対象微生物の16S rRNA遺伝子の塩基配列の解析、及び標的微生物の分解能の測定により、特定することができる。具体的には、対象微生物が、配列番号1に記載の塩基配列と比較し、同一性が90%未満である塩基配列を含む16S rRNAを有していれば、又は微生物分解能を有していなければ、その対象微生物は、細菌(a2)であると特定できる。
【0038】
対象微生物の16S rRNA遺伝子の塩基配列の解析、及び標的微生物の分解能の測定は、上述の本発明に係る細菌と同様にして行うことができる。
【0039】
細菌(a1)及び細菌(a2)の総数に対する細菌(a1)数は、0.1%以上100%以下でもよく、1%以上100%以下であってもよく、10%以上100%以下であってもよく、50%以上100%以下であってもよく、75%以上100%以下であってもよく、90%以上100%以下であってもよく、95%以上100%以下であってもよく、100%未満であってもよい。このような割合にすることにより、標的微生物を効率よく分解することができる。
【0040】
細菌(a1)及び細菌(a2)の総数に対する細菌(a1)数とは、微生物製剤に含まれる全細菌に対する細菌(a1)の割合である。細菌(a1)及び細菌(a2)の総数に対する細菌(a1)数を算出する方法としては、クローンライブラリー法、次世代シーケンサー解析、定量PCRにより算出する方法等が挙げられる。
【0041】
クローンライブラリー法及び次世代シーケンサー解析により細菌の存在割合を算出する方法として、具体的には、微生物製剤に含まれる細菌(a1)及び細菌(a2)からゲノムDNAを抽出して16S rRNA遺伝子の塩基配列を複数取得し(以下、取得した複数の塩基配列数をリード数と記す)、取得した塩基配列が細菌(a1)又は細菌(a2)のいずれに由来する塩基配列であるかをそれぞれ決定する。次に、リード数に対する細菌(a1)に由来する塩基配列数を算出し、細菌(a1)及び細菌(a2)の総数に対する細菌(a1)数とすることができる。
【0042】
次世代シーケンサー解析で用いる次世代シーケンサーとしては、DNA断片をテンプレートとし、1塩基ずつ再合成する時の蛍光強度を検出し、塩基配列を決定できれば特に制限されるものではない。次世代シーケンサーとしては、例えば、MiSeq、HiSeq 2500(イルミナ社製)、5500xl SOLiDTM、Ion ProtonTM、Ion PGMTM(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)、GS FLX+(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社製)等が挙げられる。
【0043】
定量PCRにより細菌の存在割合を算出する方法として、具体的には、対象微生物製剤に含まれる細菌(a1)の16S rRNA遺伝子コピー数と、細菌(a1)及び細菌(a2)の16S rRNA遺伝子コピー数をそれぞれ算出する。次に細菌(a1)及び細菌(a2)の16S rRNA遺伝子コピー数に対する細菌(a1)の16S rRNA遺伝子コピー数を算出し、細菌(a1)及び細菌(a2)の総数に対する細菌(a1)数とすることができる。このような方法により、対象微生物製剤が、本発明に係る微生物製剤であると特定できる。
【0044】
定量PCRで用いるリアルタイムPCR装置としては、DNAをPCRにより増幅することができるサーマルサイクラーと、増幅産物を検出するための分光蛍光光度計と、を備えていれば、特に制限されるものではない。リアルタイムPCR装置としては、例えば、StepOnePlus(Applied Biosystems社製)、Thermal Cycler Dice Real Time System(タカラバイオ株式会社製)、LightCycler 96 System(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社製)等が挙げられる。
【0045】
定量PCRに用いるマスターミックスとしてはFast SYBR Green Master Mix、Power SYBR Green Master Mix、SYBR Select Master Mix、PowerUp SYBR Green Master Mix(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)等が挙げられる。
【0046】
<添加剤(b)>
添加剤(b)としては、例えば、界面活性剤、分散剤、補助剤、保護剤等が挙げられる。添加剤(b)の種類及び濃度は、細菌(a1)が死滅しない、又は当該細菌が有する標的微生物分解能が失われない条件で適宜決定することができる。
【0047】
<担体(c)>
担体(c)としては、例えば、無機微粒子担体が挙げられる。無機微粒子担体としては、金属及びその無機塩類又は酸化物であってもよく、炭素を含有するものであっても化学的に無機物に分類されるものであってもよい。また、有機態炭素の含有量が1%程度未満の純物質又は混合物であってもよい。
【0048】
無機微粒子担体の中心粒子径は、好ましくは1μm~100μmであり、より好ましくは4μm~75μmであり、さらに好ましくは13μm~25μmである。中心粒子径がこのような範囲にある場合、細菌(a1)が無機微粒子担体に担持されやすくなる傾向にある。ここで、中心粒子径とは、レーザー回折・光散乱法に基づく体積基準の粒度分布におけるメジアン径(D50)を指す。
【0049】
無機微粒子担体の比重は、特に制限されないが、1.2~3.5であることが好ましい。
【0050】
無機微粒子担体は、培養初期の歩留まりを向上させることを目的として、必要に応じて、各種凝集剤を用いて凝集させてもよい。凝集剤としては、例えば、ノニオン性、カチオン性、アニオン性の高分子凝集剤等が挙げられる。
【0051】
微生物製剤の製造方法としては、例えば、細菌(a1)と無機微粒子担体とを混合し、無機微粒子担体上に細菌(a1)を担持させ、これを培養して得られる微生物製剤を回収する方法が挙げられる。
【0052】
培養方法としては、回分、半回分、流加、連続のいずれの方式を用いてもよい。培養方法としては、例えば、増殖が遅く菌体収率の低い微生物を効率的に調製するという観点から、特開平9-187272号公報に記載されるように、微生物を培養する容器(以下、反応槽という)へ供給する対象化合物の濃度を培養時間の経過に伴い、対数増加させる連続培養方式を用いてもよい。
【0053】
本発明において、微生物の製剤化手段は、細菌(a1)の標的微生物分解能が失われない限り特に限定されず、公知の製剤化手段を利用することができる。微生物製剤の形態としては、液体又は固体(カプセル封入体、寒天状、粉末状等を含む)であってもよく、それらの凍結体、凍結乾燥体等であってもよい。微生物製剤が液体である場合は、培地、緩衝液、生理的食塩水等に懸濁された菌懸濁液としてもよい。微生物製剤が固体又は凍結乾燥体である場合は、例えば培養された細菌を濃縮した後、適当な乾燥又は凍結乾燥を行い、固体又は凍結乾燥体としてもよい。その際、賦形剤などを添加してもよい。
【0054】
(本発明に係る分解方法)
本発明に係る分解方法は、本発明に係る細菌又は本発明に係る微生物製剤を標的微生物に作用させる工程を含む。
【0055】
本発明に係る細菌又は本発明に係る微生物製剤を標的微生物に作用させるとは、例えば本発明に係る細菌もしくは本発明に係る微生物製剤又はこれらを懸濁した溶液と、標的微生物とを接触させることをいう。本発明に係る細菌又は本発明に係る微生物製剤を標的微生物に作用させることによって、標的微生物が分解される。
【0056】
本発明に係る細菌又は本発明に係る微生物製剤を標的微生物に作用させる工程は、本発明に係る細菌又は細菌(a1)が死滅しない、又は当該細菌が有する標的微生物分解能が失われない条件であれば、特に制限されるものではない。当該工程は、例えば、温度が20~35℃の条件下であってもよく、25~30℃の条件下であってもよい。また、pHは6.5~8.0の条件下であってもよく、7.0~7.5の条件下であってもよい。
【0057】
本発明に係る分解方法において用いる細菌としては、例えば、Tumebacillus sp.(受託番号NITE BP-02779)が挙げられる。
【0058】
標的微生物に作用させる際の本発明に係る細菌又は本発明に係る微生物製剤の量は、標的微生物の濃度、反応系の容積等を考慮し、適宜設定することができる。
【0059】
本発明に係る分解方法において、標的微生物が分解されていることの確認方法は、特に制限されるものではなく、当業者が通常用いることができる方法により行われる。このような確認方法としては、例えば、上述の標的微生物分解能の測定方法が挙げられる。
【0060】
以上のように、本発明に係る細菌及び本発明に係る微生物製剤は、標的微生物分解能を有することから、標的微生物を含む余剰汚泥の処理に有用である。また、標的微生物に本発明に係る細菌又は微生物製剤を作用させることにより標的微生物が分解されるため、本発明に係る分解方法は標的微生物を含む余剰汚泥処理に有用である。
【0061】
(本発明に係る分解装置)
装置としては、本発明に係る細菌又は本発明に係る微生物製剤を用いて余剰汚泥を削減できる装置であれば特に限定されないが、例えば余剰汚泥が発生する汚泥処理装置、排水処理装置等を分解装置として用いることができる。また、例えば余剰汚泥が存在する既存の汚泥処理装置、排水処理装置等に本発明に係る細菌又は本発明に係る微生物製剤を添加して、標的微生物の分解装置とすることもできる。
【実施例】
【0062】
[実験1.標的微生物分解能を有する微生物の探索]
(方法)
ミクロコッカス(Micrococcus)属細菌を炭素源とした培地を用いて、環境(水)中に存在する微生物群を培養することにより、ミクロコッカス(Micrococcus)属細菌を分解する微生物を集積培養した。次に、集積培養された微生物群から、増殖が良好であった数菌株を単離した。
【0063】
(結果)
単離した菌株ごとにミクロコッカス属細菌分解能を調べたところ、1つの菌株にミクロコッカス属細菌分解能が認められた。以下、ミクロコッカス属細菌分解能が認められた菌株を「菌株A」と記すことがある。
【0064】
[実験2.ミクロコッカス属細菌分解能を有する菌株の16S rRNA遺伝子の塩基配列解析]
(材料)
・R2A培地:1000mLの超純水に対し、R2A Broth, DAIGO (日本製薬株式会社製) を3.2gの割合で溶解し,高圧蒸気滅菌をした培地
・クローニング用フォワードプライマー(27f:配列番号2)
・クローニング用リバースプライマー(1492r:配列番号3)
・シークエンス解析用プライマー(339F:配列番号4、536R:配列番号5、907F:配列番号6)
【0065】
(方法)
菌株Aからイージー・エクストラクト for DNA(エーエムアール株式会社製)を用いてDNAを抽出し、PCRにより16S rRNA遺伝子を増幅させるための鋳型DNAとして用いた。
【0066】
PCRは以下の条件で行った。25.0μLの2×PCR buffer for KOD FX(東洋紡株式会社製)、10.0μLのdNTP mix(2mM)、1.5μLのクローニング用フォワードプライマー及びクローニング用リバースプライマー(それぞれ10pmol/μL)、0.58μLの鋳型DNA、10.4μLの滅菌水、1.0μLのDNAポリメラーゼ(KOD FX、1U/μL、東洋紡株式会社製)を、マイクロチューブに加え、混合した。マイクロチューブをPCR装置に供し、鋳型DNAの増幅反応を行った。反応は、(1)94℃、2分間、(2)98℃、10秒間、(3)50℃、30秒間、(4)68℃、1.5分間で行い、(2)~(4)の工程は35サイクル繰り返し行った。PCR後の増幅産物を精製した。
【0067】
精製したPCR後の増幅産物150ng相当量と、シークエンス解析用プライマー(10μM)0.32μLと、BigDye Terminator v3.1 (Applied Biosystems社製)8.0μLとを混合し、これに滅菌超純水を加えて液量を20.0μLとした反応液を調製した。この反応液をPCR装置に供し、増幅反応を行った。反応は、(1)96℃、1分間、(2)96℃、10秒間、(3)50℃、5秒間、(4)60℃、4分間で行い、(2)~(4)の工程は25サイクル繰り返し行った。得られた反応液を精製し、精製液をDNAシーケンス解析(3730xl DNA Analyzer)に供して、菌株Aから抽出した鋳型DNAの16S rRNA遺伝子の塩基配列を決定した。
【0068】
(結果)
得られた塩基配列を国際塩基配列データベース(DDBJ/ENA(EMBL)/GenBank)に対してホモロジー解析を行った。基準株の中では、Tumebacillus permanentifrigoris Eurl_9.5の16S rRNA遺伝子の塩基配列に対し、同一性98.1%を示した。しかし、得られた塩基配列と完全に一致する16S rRNA遺伝子を持つ微生物は存在しなかった。
【0069】
得られた16S rRNA遺伝子の塩基配列を配列番号1に示す。このことから、配列番号1に記載の塩基配列を有する16S rRNA遺伝子を有する細菌は、微生物分解能を持つことが示唆された。
【0070】
[実験3.配列番号1に記載の塩基配列を有する16S rRNA遺伝子を有するチューメバチルス(Tumebacillus)属細菌の形態観察及び生理・生化学的性状試験]
(方法)
菌株Aについて、形態観察及び生理・生化学的性状試験を行った。これらの試験は、光学顕微鏡による形態観察、BARROWらの方法(Cowan and Steel’s Manual for the Identification of Medical Bacteria 3rd Edition 1993、Cambridge University Press.)及びAPI50CHB(bioMerieux社製、Lyon、France)によって行った。試験結果を表1~表4に示す。
【0071】
(結果)
菌株Aは、10℃で生育しなかったが、16S rRNA遺伝子の相同性が最も高いTumebacillus permanentifrigoris Eurl_9.5にはこのような特徴がみられなかった。そのため、菌株Aは、従来のTumebacillusとは異なる、新種であることが示唆された。菌株AをTumebacillus sp.NITE BP-02779として寄託した。
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
[実験4.Tumebacillus sp.NITE BP-02779の標的細菌(死菌)に対する分解能評価]
(材料)
・R2A培地:1000mLの超純水に対し、R2A Broth, DAIGO(日本製薬株式会社製)を3.2gの割合で溶解し,高圧蒸気滅菌をした培地
・LB液体培地:500mLの超純水に対し、LB Broth,1.1G PER TABLET(SIGMA社製)を10個の割合で溶解し、高圧蒸気滅菌をした培地
・802培地:10g ポリペプトン、2g 酵母エキス、1g 硫酸マグネシウム七水和物を超純水に溶解し、pHを7.0に調節した後、1000mLに調製し、高圧蒸気滅菌した培地
・細菌用培地:20g グルコース、5g ポリペプトン、3g 酵母エキス、3g 肉エキス、2g 硫酸アンモニウム、1g リン酸二水素一カリウム、0.5g 硫酸マグネシウム七水和物を超純水に溶解し、pHを7.0に調節した後、1000mLに調製し、高圧蒸気滅菌した培地
【0077】
・標的細菌(死菌)含有無機培地:986mL 基質溶液、3.0mL A液、3.0mL B液、3.0mL C液、3.0mL D液、及び1.8mL 1%リン酸を混合した培地
なお、上記の基質溶液及びA液~D液としては、以下のものを用いた。
基質溶液:表5記載の標的細菌を同表記載の条件で培養し、集菌及び洗浄後、超純水986mLに対し、濁度(OD660)0.2となるように混合し、高圧蒸気滅菌を行った溶液
A液:4.35g リン酸水素二カリウム、1.70g リン酸二水素一カリウム、8.92g リン酸水素二ナトリウム12水和物、0.34g 塩化アンモニウムを超純水に溶解後、200mLに調製し、高圧蒸気滅菌を行った溶液
B液:4.50g 硫酸マグネシウム7水和物を超純水に溶解後、200mLに調製し、高圧蒸気滅菌を行った溶液
C液:5.50g 塩化カルシウム無水物を超純水に溶解後、200mLに調製し、高圧蒸気滅菌を行った溶液
D液:0.05g 塩化鉄6水和物を超純水に溶解後、200mLに調製し、0.2μmのシリンジフィルターで濾過滅菌を行った溶液
【0078】
【0079】
(方法)
Tumebacillus sp.NITE BP-02779をR2A培地に播種し、25℃で24時間~48時間培養した。
【0080】
培養終了後、Tumebacillus sp.NITE BP-02779培養液50μLと標的細菌(死菌)含有無機培地5.0mLとを試験管に添加して、25℃、200rpmにて反応させ、経時的に試験管の濁度(OD660)を簡易濁度計(簡易ODモニター miniphoto 518R、TAITEC社製)で測定した。標的細菌(死菌)含有無機培地の濁度(OD660)が、陰性対照の濁度(OD660)の50%を示す経過日数を算出し、以下の基準で分解能の有無を判定した。
A:0日以上2.0日未満
B:2.0日以上5.0日未満
C:5.0日以上
なお、陰性対照はTumebacillus sp.NITE BP-02779無添加の標的細菌(死菌)含有無機培地の濁度(OD660)を用いた。
【0081】
(結果)
結果を表6に示す。Tumebacillus sp.NITE BP-02779を添加することにより、標的細菌(死菌)含有無機培地の濁度の低下が認められた。従って、Tumebacillus sp.NITE BP-02779は標的微生物(標的死細菌)を分解可能であった。
【0082】
【0083】
[実験5.Tumebacillus sp.NITE BP-02779の標的細菌(生菌)に対する分解能評価]
(材料)
・標的細菌(生菌)含有無機培地:986mL 滅菌水、3.0mL A液、3.0mL B液、3.0mL C液、3.0mL D液、1.8mL 1%リン酸、及び標的細菌(生菌)を混合した溶液
なお、A液~D液としては実験4と同じものを用いた。また、標的細菌(生菌)含有無機培地の濁度(OD660)は0.2となるように標的細菌(生菌)を混合した。
【0084】
(方法)
標的細菌(生菌)含有無機培地を用いたこと以外は、実験4と同様の方法でTumebacillus sp.NITE BP-02779の標的細菌(生菌)に対する分解能を評価した。
【0085】
(結果)
結果を表7に示す。Tumebacillus sp.NITE BP-02779を添加することにより、標的細菌(生菌)含有無機培地の濁度の低下が認められた。従って、Tumebacillus sp.NITE BP-02779は標的細菌(生菌)を分解可能であった。
【0086】
【0087】
[実験6.Tumebacillus sp.NITE BP-02779の余剰汚泥(死菌)に対する分解能評価(1)]
・余剰汚泥(死菌)含有無機培地:986mL 基質溶液、3.0mL A液、3.0mL B液、3.0mL C液、3.0mL D液、及び1.8mL 1%リン酸を混合した培地
基質溶液:余剰汚泥を洗浄後、超純水986mLに対し、濁度(OD660)0.2となるように混合し、高圧蒸気滅菌を行った溶液
基質溶液として上記のものを用いたこと以外は、実験4と同じものを用いた。
【0088】
(方法)
余剰汚泥(死菌)含有無機培地を用いたこと以外は、実験4と同様の方法でTumebacillus sp.NITE BP-02779の余剰汚泥(死菌)に対する分解能を評価した。
【0089】
(結果)
結果を表8に示す。Tumebacillus sp.NITE BP-02779を添加することにより、余剰汚泥(死菌)の濁度の低下が認められた。従って、Tumebacillus sp.NITE BP-02779は余剰汚泥(死菌)を分解可能であった。
【0090】
【0091】
[実験7.Tumebacillus sp.NITE BP-02779の余剰汚泥(死菌)に対する分解能評価(2)]
(材料)
実験6と同じものを用いた。
【0092】
(方法)
実験4と同じ方法で反応を行った。反応は5連で行い、反応開始後4日目に試験管中に残存する余剰汚泥を全量回収した。回収した余剰汚泥を乾燥後、余剰汚泥の乾燥重量を測定し、陰性対照群とTumebacillus sp.NITE BP-02779添加群とで有意差検定(t検定、片側)を行った。
【0093】
(結果)
結果を
図1に示す。陰性対照群と比較してTumebacillus sp.NITE BP-02779添加群では余剰汚泥の乾燥重量の有意な低下(p<0.01)が認められた。従って、Tumebacillus sp.NITE BP-02779を添加することにより余剰汚泥を削減可能であった。
【0094】
[実験8.標的微生物分解用微生物製剤のMicrococcus属細菌に対する分解能評価]
(材料)
標的細菌含有無機培地として、実験4で用いたMicrococcus属細菌を標的細菌として含む標的細菌(死菌)含有無機培地を準備した。微生物分解能の有無を評価する細菌として表9に示す細菌を準備した。
【0095】
【0096】
(方法)
実験4と同様の方法で、標的細菌含有無機培地と評価対象となる細菌を含む培養液とを混ぜ、評価対象となる細菌の微生物分解能を評価した。標的細菌含有無機培地の濁度(OD660)が、陰性対照の濁度(OD660)の50%を示す経過日数を算出し、以下の基準で微生物分解能の有無を判定した。
A:0日以上1.0日未満
B:1.0日以上4.0日未満
C:4.0日以上
なお、陰性対照は評価対象となる細菌を含む培養液を添加しなかった標的細菌含有無機培地の濁度(OD660)を用いた。
【0097】
(結果)
結果を表10に示す。また、表9に記載の評価対象の細菌の16S rRNA遺伝子の塩基配列とTumebacillus sp.NITE BP-02779の16S rRNA遺伝子の塩基配列(配列番号1)との相同性検索を行い、算出された同一性割合を表10に示す。表10に記載の細菌の16S rRNA遺伝子の塩基配列を、配列番号7~16として示す。これらは独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター(NBRC)オンラインカタログ<https://www.nite.go.jp/nbrc/catalogue/NBRCDispSearchServlet?lang=jp>又は国立生物工学情報センター(NCBI)データベースカタログ<https://www.ncbi.nlm.nih.gov/>に収載されている配列である。
【0098】
Tumebacillus sp.NITE BP-02779及びTumebacillus algifaecis NBRC108765tはA判定であったが、Bacillus属細菌及びPaenibacillus属細菌はB判定又はC判定であった。従って、Tumebacillus sp.NITE BP-02779及びTumebacillus algifaecis NBRC108765tはBacillus属細菌及びPaenibacillus属細菌よりも標的微生物(標的死細菌)分解能が優れていた。
【0099】
Tumebacillus sp.NITE BP-02779の16S rRNA遺伝子の塩基配列とTumebacillus algifaecis NBRC108765tの16S rRNA遺伝子の塩基配列との同一性は、92.8%であった。一方、Tumebacillus sp.NITE BP-02779の16S rRNA遺伝子の塩基配列とBacillus属細菌又はPaenibacillus属細菌の16S rRNA遺伝子の塩基配列との同一性は、90%未満であった。このことから、16S rRNA遺伝子の塩基配列の同一性が、Tumebacillus sp.NITE BP-02779と90%以上である細菌は、標的微生物分解能が優れていると考えられた。Tumebacillus algifaecis NBRC108765tはNBRCから入手可能であり、その16S rRNA遺伝子の塩基配列はGenBank/EMBL/DDBJデータベースにAccession No.JX110710として収載されている。
【0100】
【0101】
[実験9.Tumebacillus sp.NITE BP-02779とEscherichia coliとを含む標的微生物分解用微生物製剤の標的微生物分解能評価]
(材料)
標的細菌含有無機培地として、実験4で用いたMicrococcus属細菌を標的細菌として含む標的細菌(死菌)含有無機培地を準備した。また、標的微生物分解用微生物製剤としてTumebacillus sp.NITE BP-02779(細菌(a1))とEscherichia coli DH5α(細菌(a2))とを含む微生物製剤を準備した。
【0102】
(方法)
まず、Tumebacillus sp.NITE BP-02779を25℃で24時間、Escherichia coli DH5αを37℃で24時間培養した。
【0103】
培養後、Tumebacillus sp.NITE BP-02779培養液(OD660=0.2に調製)とEscherichia coli DH5α培養液(OD660=0.2に調製)とを表11に示す比率で混合し、標的微生物分解用微生物製剤を準備した。調製した微生物製剤50μLと標的細菌含有無機培地5.0mLとを試験管に添加して、25℃、200rpmにて反応させ、2日後に混合液の濁度(OD660)を簡易濁度計(簡易ODモニター、miniphoto 518R、TAITEC社製)で測定した。陰性対照の濁度(OD660)に対する、微生物製剤を添加した標的細菌含有無機培地の濁度(OD660)の割合を標的微生物の残存率として算出し、以下の基準で標的微生物分解能を評価した。
A:0%以上50%未満
B:50%以上70%未満
C:70%以上
なお、陰性対照は標的微生物分解用微生物製剤無添加の標的細菌含有無機培地の濁度(OD660)を用いた。
【0104】
(結果)
結果を表11に示す。Tumebacillus sp.NITE BP-02779とEscherichia coliとを含む標的微生物分解用微生物製剤は、良好な標的微生物分解能を示した。
【0105】
【0106】
[実験10.Tumebacillus sp.NITE BP-02779培養物の標的微生物分解能評価]
(材料)
標的細菌(生菌)含有リン酸緩衝液として66mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.24)10mL、及びMicrococcus属細菌乾燥菌体(SIGMA-ALDRICH社製)10mgを混合した溶液を用いた。標的微生物分解用微生物製剤としてTumebacillus sp.NITE BP-02779(細菌(a1))の培養物を含む微生物製剤を用いた。
【0107】
(方法)
まず、Tumebacillus sp.NITE BP-02779をR2A培地で一定時間、培養した。
【0108】
培養後、培養液を遠心分離して、菌体を除いた培養上清を回収した。96穴プレートに回収した培養上清100μLと標的細菌含有リン酸緩衝液100μLとを添加して、マイクロプレートリーダー(Molecular Device社製)を用いてABS450nmを経時的に測定した。Micrococcus属細菌分解能(UNITS/mL)を算出し、以下の基準で標的微生物分解能を評価した。
S:200(UNITS/mL)以上
A:100(UNITS/mL)以上200(UNITS/mL)未満
B:20(UNITS/mL)以上100(UNITS/mL)未満
C:20(UNITS/mL)未満
なお、Micrococcus属細菌分解能(UNITS/mL)は以下の式を用いて算出した。
Micrococcus属細菌分解能(UNITS/mL)
={ΔABS450nm/分(培養上清を添加した標的細菌含有リン酸緩衝液)-ΔABS450nm/分(培養上清無添加の標的細菌含有リン酸緩衝液)}/(0.001×0.1)
【0109】
(結果)
結果を表12に示す。Tumebacillus sp.NITE BP-02779を一定時間培養した培養上清は、標的微生物分解能を有していることがわかった。
【0110】
【配列表】