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特許7535306高結晶高純度カーボンナノチューブの気相合成装置と合成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】高結晶高純度カーボンナノチューブの気相合成装置と合成方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/162 20170101AFI20240808BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20240808BHJP
【FI】
C01B32/162
B82Y40/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021033732
(22)【出願日】2021-03-03
(65)【公開番号】P2022134552
(43)【公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】桜井 俊介
(72)【発明者】
【氏名】辻 享志
(72)【発明者】
【氏名】陳 国海
(72)【発明者】
【氏名】フタバ ドン ノリミ
(72)【発明者】
【氏名】畠 賢治
(72)【発明者】
【氏名】清水 禎樹
(72)【発明者】
【氏名】金 載浩
(72)【発明者】
【氏名】榊田 創
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0165058(US,A1)
【文献】国際公開第2015/082936(WO,A1)
【文献】特開2005-035841(JP,A)
【文献】特開2006-274290(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0084572(KR,A)
【文献】Wei-Hung CHIANG et al.,“Microplasma synthesis of metal nanoparticles for gas-phase studies of catalyzed carbon nanotube growth”,Applied Physics Letters,2007年09月20日,Vol. 91, No. 12,121503-1-121503-3,DOI: 10.1063/1.2786835
【文献】Wei-Hung CHIANG et al.,“Relating carbon nanotube growth parameters to the size and composition of nanocatalysts”,Diamond and Related Materials,2009年01月21日,Vol. 18, No. 5-8,p.946-952,DOI: 10.1016/j.diamond.2009.01.010
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00 - 32/991
B82Y 5/00 - 99/00
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体状の触媒金属前駆体物質をプラズマにより分解することで、触媒金属ナノ粒子を生成する触媒粒子製造装置を備えるカーボンナノチューブ合成装置であって、
触媒粒子製造装置が、
触媒金属前駆体物質を含むガスを供給する手段と、
該手段により供給されたガスの少なくとも一部が通過する微小空間内に微小プラズマを発生させる微小プラズマ発生装置と、
微小プラズマにより生成した触媒金属ナノ粒子を含むエアロゾル状のガスを外部に吹き出す触媒粒子吹出口と、
を有し
さらに、炭素原料吹出口から炭素原料を含むガスを吹出させる炭素原料ガス供給手段であって、
炭素原料吹出口の少なくとも一辺が0.1~3mmであり、
炭素原料吹出口から炭素原料ガスを、前記触媒粒子製造装置の触媒粒子吹出口から触媒金属ナノ粒子を含むガスが吹き出す方向に沿って、0~30mmの範囲内に位置するガス混合位置、に向けて吹き出す炭素原料ガス供給手段を備える、カーボンナノチューブ合成装置。
【請求項2】
前記触媒粒子製造装置の触媒粒子吹出口が、気体状の触媒金属前駆体物質が微小プラズマと接触しうる最も上流の位置から移動して1mm~30mmの距離にあり、少なくとも一辺の長さが0.1mm~3mmである、請求項1に記載のカーボンナノチューブ合成装置。
【請求項3】
前記炭素原料ガス供給手段が、炭素原料ガスの予熱手段を有する、請求項1または請求項2に記載のカーボンナノチューブ合成装置。
【請求項4】
前記ガス混合位置から下流側に滞留するガスの加熱手段であって、
前記触媒粒子製造装置から吹き出された触媒金属ナノ粒子と、前記炭素原料ガス供給手段から吹出された炭素原料ガスとが混合されたガスを加熱することで、ガス内部にカーボンナノチューブを生成させる加熱手段を有する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ合成装置。
【請求項5】
触媒粒子製造装置内において、高濃度の触媒金属前駆体物質を含むガスを微小なプラズマ空間に通して、サイズの小さい触媒金属ナノ粒子を高個数密度で含むガスを作製し、そのガスを触媒粒子製造装置の吹出口から、炭素原料ガスの存在する外側に吹き出して、触媒金属ナノ粒子と炭素原料ガスとを混合、接触させることで、触媒金属ナノ粒子の表面からのカーボンナノチューブの成長を開始させることを特徴とする、カーボンナノチューブの合成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相法による小直径カーボンナノチューブの合成装置および合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単層カーボンナノチューブなど直径の小さいカーボンナノチューブの合成方法の一つである気相法は、触媒金属からなるナノ粒子を、気相にエアロゾルとして分散させ、かつ高温下で炭素原料と混合させることで、触媒金属ナノ粒子の表面からカーボンナノチューブの成長を開始させる方法であり、アーク放電法(特許文献1参照)、レーザー蒸発法、熱化学蒸着(CVD)法(特許文献2参照)が知られている。
【0003】
気相法で製造した小直径カーボンナノチューブは、優れた結晶性を有するものの、触媒金属ナノ粒子由来の金属不純物や、種々の形態の炭素不純物が多く存在するという欠点がある。そのため、気相法で製造した小直径カーボンナノチューブを工業的に利用するためには煩雑な処理による高純度化が不可欠となることから、従来の方法では高結晶性を備えた小直径カーボンナノチューブを低コストで合成することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-197325号公報
【文献】特開2001-80913号公報
【文献】特開2005-35841号公報
【文献】特開2017-66506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の気相法による小直径カーボンナノチューブ合成においては、触媒金属ナノ粒子として使われる鉄などの金属が不純物として多く存在している。特に小直径カーボンナノチューブの生産性を高めるために、触媒金属ナノ粒子を気相中に高個数密度で生成させると、この傾向が顕著になる。
本発明は、触媒金属ナノ粒子由来の金属不純物含量を低下させ、その結果、純度の高い小直径カーボンナノチューブを高収率で得ることのできるカーボンナノチューブの合成装置とその合成方法を提供することを、課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、金属ナノ粒子が小直径カーボンナノチューブの成長用触媒として機能するための条件について検討し、粒子のサイズに許容される範囲が存在するという知見に至った。この知見に基づき、まず触媒金属ナノ粒子を許容下限サイズまで成長させた後に、粒子間の凝集により許容上限サイズより粗大な粒子へと成長してしまうのを抑制するために、直ちに炭素原料ガスと反応させることが重要であることを見出した。さらに、小直径カーボンナノチューブの生産性を高めるために、触媒金属ナノ粒子を気相中に高個数密度で生成する際には、凝集による粗大粒子化抑制のためにこれらの一連のプロセス時間をそれぞれミリ秒オーダーで制御する必要があることが導かれ、本発明の完成に至った。
本発明では、ミリ秒オーダーの短時間で上記の一連のプロセスをそれぞれ制御するため、触媒金属ナノ粒子の作製を、少なくとも1辺のサイズがミリメートルオーダー以下である微小プラズマ空間を有する触媒粒子製造装置内で行う。さらに触媒金属ナノ粒子を含んだガスを、炭素原料が存在する反応容器に高速で吹出すことで、直ちに炭素原料と反応させ、粒子間の凝集により許容上限サイズより粗大な粒子へと成長してしまうのを抑制する。
【0007】
本発明は、下記(1)~(5)のカーボンナノチューブ合成装置に係るものである。
(1)気体状の触媒金属前駆体物質をプラズマにより分解することで、触媒金属ナノ粒子を生成する触媒粒子製造装置を備えるカーボンナノチューブ合成装置であって、触媒粒子製造装置が、触媒金属前駆体物質を含むガスを供給する手段と、該手段により供給されたガスの少なくとも一部が通過する微小空間内に微小プラズマを発生させる微小プラズマ発生装置と、微小プラズマにより生成した触媒金属ナノ粒子を含むエアロゾル状のガスを外部に吹き出す触媒粒子吹出口、とを有する、カーボンナノチューブ合成装置。
(2)前記触媒粒子製造装置の触媒粒子吹出口が、気体状の触媒金属前駆体物質が微小プラズマと接触しうる最も上流の位置から移動して1mm~30mmの距離にあり、少なくとも一辺の長さが0.1mm~3mmである、上記(1)に記載のカーボンナノチューブ合成装置。
(3)炭素原料吹出口から炭素原料を含むガスを吹出させる炭素原料ガス供給手段であって、炭素原料吹出口の少なくとも一辺が0.1~3mmであり、炭素原料吹出口から炭素原料ガスを、前記触媒粒子製造装置の触媒粒子吹出口から触媒金属ナノ粒子を含むガスが吹き出す方向に沿って、0~30mmの範囲内に位置するガス混合位置、に向けて吹き出す炭素原料ガス供給手段を備える、上記(1)または(2)に記載のカーボンナノチューブ合成装置。
(4)前記炭素原料ガス供給手段が、炭素原料ガスの予熱手段を有する、上記(3)に記載のカーボンナノチューブ合成装置。
(5)前記ガス混合位置から下流側に滞留するガスの加熱手段であって、前記触媒粒子製造装置から吹き出された触媒金属ナノ粒子と、前記炭素原料ガス供給手段から吹出された炭素原料ガスとが混合されたガスを加熱することで、ガス内部にカーボンナノチューブを生成させる加熱手段を有する、上記(3)または(4)に記載のカーボンナノチューブ合成装置。
【0008】
また、本発明は、下記(6)のカーボンナノチューブの合成方法に係るものである。
(6)触媒粒子製造装置内において、高濃度の触媒金属前駆体物質を含むガスを微小なプラズマ空間に通して、サイズの小さい触媒金属ナノ粒子を高個数密度で含むガスを作製し、そのガスを触媒粒子製造装置の吹出口から、炭素原料ガスの存在する外側に吹き出して、触媒金属ナノ粒子と炭素原料ガスとを混合、接触させることで、触媒金属ナノ粒子の表面からのカーボンナノチューブの成長を開始させることを特徴とする、カーボンナノチューブの合成方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、微小プラズマ内で生成された触媒金属ナノ粒子を、短時間で炭素原料と混合させることにより、粗大粒子へ凝集してしまうことでカーボンナノチューブ合成に活用されず不純物となる金属成分の量を低減できる。また、炭素原料との混合が、触媒金属ナノ粒子が許容下限サイズ以上まで成長した後になるため、原子状あるいはクラスター状の極小金属粒子が高濃度炭素原料と接触することで、非晶質炭素に被覆されてしまう触媒失活反応を回避できる。これらにより、気相に供給される触媒金属成分の大部分をカーボンナノチューブ合成に活用することが可能となる。
これらにより、本発明の微小プラズマを用いた気相法により、高結晶で純度の高い小直径カーボンナノチューブを効率的に合成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のカーボンナノチューブ合成装置の一概念図
図2】本発明のカーボンナノチューブ合成装置の一概念図
図3】本発明の触媒粒子製造装置の概念図
図4】本発明の触媒粒子製造装置の一実施形態の概略図
図5】実施例で製造した小直径カーボンナノチューブのSEM写真
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
なお、本明細書において、数値の間の「~」は、前後の数値を含む意味であり、たとえば「1~2」とは、「1以上2以下」を意味する。
図1は、本発明のカーボンナノチューブ合成装置の一概念図である。以下、「カーボンナノチューブ」を「CNT」と記載することがある。
【0012】
本発明のCNT合成装置は、図1に一つの概念図を示すように、反応容器101、触媒粒子製造装置102、加熱手段103により加熱された反応容器101内のCNT成長空間104、炭素原料ガス供給手段105、およびキャリアガス供給手段106を備える。
そのCNT合成原理は、触媒粒子製造装置102の触媒粒子吹出口から反応容器101内に吹き出させたエアロゾル状の触媒金属ナノ粒子を、吹出口近傍のCNT成長空間104内のガス混合位置107で、炭素原料ガス供給手段105から供給される炭素原料と混合することで、触媒金属ナノ粒子表面からCNTの成長を開始させ、さらにキャリアガス供給手段106から供給されるキャリアガスのガス流によってガス混合位置107から下流側のCNT成長空間104へとガスを滞留させ、これを加熱手段103で加熱することでCNTの成長を進行させ、ガス内部で生成したCNTをフィルタ等の回収手段108で回収するものである。
また、触媒粒子製造装置、炭素原料ガス供給手段は、複数備えていてもよく、キャリアガス供給手段も複数備えてよい。
【0013】
本発明のCNT合成装置の他の概念図を、図2に示す。
触媒粒子製造装置202の触媒粒子吹出口210から触媒金属ナノ粒子を含んだガスを、触媒粒子製造装置202から反応容器201の内部に吹出させる。このガスは、CNT成長空間204内のガス混合位置207で、炭素原料ガス供給手段205から供給され、炭素原料吹出口211から吹出される炭素原料を含む炭素原料ガスと素早く混合されるので、凝集により許容上限サイズ以上まで触媒粒子が粗大成長するのを抑制し、ただちに炭素原料と反応させて触媒金属ナノ粒子表面からCNTの成長を開始させることができる。
【0014】
炭素原料ガス供給手段205は、炭素原料吹出口211から炭素原料を含む炭素原料ガスを、ガス混合位置207に向けて高速で吹出させるため、炭素原料吹出口211は少なくとも一辺が細い、例えば細管やスリットなどの形状であることが望ましく、少なくとも1辺が3mm以下であることが好ましい。また炭素原料吹出口211はガス混合位置207に近いことが好ましく、ガス混合位置207から30mm以下の位置にあることが好ましい。
これにより、ガス混合位置207において触媒粒子製造装置202から吹出す触媒金属ナノ粒子を含んだガスと、炭素原料ガスとがぶつかる構造となり、これら2種類のガスを素早く混合できる。
【0015】
これら2種類のガスの方向がなす角度は特に限定されないが、ある程度の角度でぶつかる方が混ざりやすい。即ち2種類のガスを180度の角度で正面衝突させたり、90度の角度で、たとえば触媒金属ナノ粒子を含んだガスを微細管の先端から吹出させ、炭素原料ガスを円環スリットで横方向から供給する配置も考えられる。
また、CNTの成長効率を上げるためには、炭素原料が触媒粒子表面で速やかに分解されCNTへと変換されることが望ましいので、炭素原料ガスは予熱されていることが望ましく、炭素原料ガス供給手段205の予熱手段として、CNT成長空間204を加熱する加熱手段203を用いてもよい。
【0016】
また、触媒金属ナノ粒子と炭素原料とを含む混合ガスが反応容器201内で逆流することを防ぎ、加熱されたCNT成長空間204内を滞留させる目的で、キャリアガス供給手段206を備えることが望ましい。キャリアガス供給手段206から供給するガスとしては、CNTの成長を継続させていくために、追加の炭素原料や水素などの還元性ガスや、CNT成長の反応促進剤を供給してもよい。
【0017】
その後は既知の気相CNT合成装置と同じであり、触媒金属ナノ粒子と炭素原料とを含む混合ガスを、反応容器201内の加熱されたCNT成長空間204中を滞留させれば、CNTの成長を継続させることができる。このCNT成長空間204は、例えば抵抗加熱炉、赤外線加熱炉、誘導加熱炉などの加熱手段203により600~1400℃に加熱された一続きの空間である。CNT成長空間204の下流側に、排気するための手段、たとえばポンプを設けてもよい。また、CNT成長空間204で生成したCNTを回収する手段、たとえばフィルタ209をCNT成長空間204の下流側に設けて、生成されたCNTを回収する。
【0018】
本発明の触媒粒子製造装置は、図3に概念図を示すように、容器315、微小プラズマ発生用電極313、触媒金属前駆体物質ガス供給手段312、触媒粒子吹出口310を備える。
触媒粒子製造装置は、容器315内部の微小プラズマ発生用電極313により、容器315内部の微小空間中に微小プラズマ314を発生させ、微小プラズマ314内部に、触媒金属前駆体物質ガス供給手段312により気体状の触媒金属前駆体物質を含んだガスの少なくとも一部を供給することで、プラズマとの反応により触媒金属触媒前駆体物質を分解してクラスター状の触媒金属原子を生成し、さらにクラスター同士が凝集し粒子サイズが成長することで、触媒粒子吹出口310付近で、許容下限サイズより大きい触媒金属ナノ粒子を含んだエアロゾル状のガスを生成させ、触媒粒子吹出口310よりこれを装置外部に吹出させる。前記容器315内部には、触媒金属前駆体物質ガス供給手段以外のガス供給手段316があっても構わない。
【0019】
ここで、微小プラズマとは少なくとも1辺のサイズが10mm以下の微小空間内に発生するプラズマのことである。通常のサイズのプラズマではなく微小プラズマを用いることで、プラズマで分解した触媒金属前駆体物質を、分解後に短い時間で触媒粒子吹出口まで輸送することが可能になり、触媒金属ナノ粒子の成長を許容上限サイズ以下まで抑えることが可能になる。
気体状の触媒金属前駆体物質が微小プラズマ314と接触しうる位置から、触媒粒子吹出口310の位置に到達するまでのガスの移動距離は、許容下限サイズまで触媒金属ナノ粒子を成長させるために、短すぎても好ましくない。具体的には、1mm以上であることが好ましい。
同時に、吹出口に到達した時点で許容上限サイズ以上まで触媒金属ナノ粒子が粗大成長していないように、前記距離は短い必要があり、30mm以下であることが好ましく、より好ましくは20mm以下、さらに好ましくは15mm以下である。同様に、微小プラズマ314内に触媒金属前駆体物質ガス供給手段312から供給されるガスの流速は速いことが好ましく、1m/sec以上が望ましい。
【0020】
触媒粒子吹出口312は、少なくとも一辺が細く、例えば細管やスリット形状であることが好ましく、少なくとも一辺が3mm以下、より好ましくは2mm以下、さらに好ましくは1.5mm以下である。これは、吹出口から吹き出す触媒金属ナノ粒子を含むガスを、吹出口の面積を狭くすることで、高速で吹き出させるとともに、さらに一辺が細いガス流とすることで、外側の炭素原料ガスと素早く混合させるためである。ただし、吹出口が狭すぎると触媒粒子が壁面に吸着しやすくなるため、吹出口の一辺のサイズは0.1mm以上であることが好ましい。触媒粒子吹出口からガスを吹出させる流速については、1m/sec以上が望ましい。これにより、吹出口の外側に供給されている炭素原料を含むガスと、吹出口近傍で素早く混合できるため、触媒金属ナノ粒子の凝集により許容上限サイズ以上まで触媒金属粒子が粗大成長するのを抑制し、炭素原料ガスと直ちに反応させてCNTを成長させることができる。
【0021】
触媒粒子製造装置における微小プラズマの発生装置、または発生方法は特に限定されず、典型的には、固体壁面により隔離された少なくとも1辺が微小な空間に対して、1ないし2以上の電極により電力を供給し放電させることで発生させる。例えば、特許文献3に記載のように微細管内部で発生させる方法や、特許文献4に記載のように狭いスリット間で発生させる方法がある。
他にもアルゴンガスなど放電が容易な媒体を細いジェット状に噴出させ、これを放電させることで微小なプラズマを生成する方法もある。供給する電力としては、直流電力、パルス電力、交流電力でもよく、さらにはキロヘルツ帯からギガヘルツ帯に及ぶ高周波電力であってもよい。
【0022】
本発明の触媒粒子製造装置の一実施形態の概略図を、図4に示す。
容器としては絶縁体からなる微細管417を用い、微小プラズマ発生電極として、微細管417の先端の外側にコイル状電極419を、微細管417内部に金属ワイヤ418を配置する。微細管417の根元側から触媒金属前駆体物質を含んだガスを供給し、コイル状電極419に高周波発生器420から高周波電力を供給することで、コイル状電極419が巻かれた微細管417内に微小プラズマ414を発生させる。微小プラズマ414との反応により触媒金属触媒前駆体物質を分解してクラスター状の触媒金属原子を生成し、さらにクラスター同士が凝集することで、触媒金属ナノ粒子を含んだエアロゾル状のガスを生成させ、触媒粒子吹出口410即ち微細管417の先端より外部に吹出させる。
【0023】
触媒粒子吹出口410より吹出した触媒金属ナノ粒子を含むガスを炭素原料ガスと素早く混合させるため、前記ガス混合位置は、触媒粒子吹出口410近傍であることが必要であり、触媒粒子吹出口410から触媒金属ナノ粒子を含むガスが吹き出す方向に沿って、30mm以内に位置することが好ましい。このガス混合位置は、加熱されたCNT成長空間内にあることから、触媒粒子製造装置の吹出口近傍は、耐熱性や耐侵炭性の高い材質で構成されている必要がある。
【0024】
本発明で用いる触媒金属、触媒金属前駆体物質、炭素原料の種類、それらの供給方法は、気相法によるCNT合成で用いられているものであれば、特に限定されない。
触媒金属としては遷移金属原子が好ましく用いられ、鉄、コバルト、ニッケル、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン等を挙げることができ、中でもより好ましいのは鉄、コバルト、ニッケルであり、これら金属の複数から構成される合金であっても構わない。
触媒金属前駆体物質とは、触媒金属を構成する金属原子を含んだ化合物であり、気体状での供給が容易な蒸気圧の高い物質が好ましく、例えば触媒金属が鉄である場合、フェロセンおよびその誘導体、ペンタカルボニル鉄、塩化鉄、鉄アセチルアセトナートなどが挙げられる。
【0025】
さらに、反応促進剤として硫黄原子や酸素原子を含有した化合物を、キャリアガス供給手段からCNT成長空間に供給してもよく、触媒金属前駆体物質と共に触媒粒子製造装置に供給したり、炭素原料ガスに混合して炭素原料ガス供給手段から供給してもよい。
この反応促進剤は、触媒金属と相互作用して、小直径カーボンナノチューブの生成を促進させることができる。硫黄化合物としては、有機硫黄化合物、無機硫黄化合物を用いることができ、有機硫黄化合物としては、例えば、チアナフテン、ベンゾチオフェン、チオフェン等の含硫黄複素環式化合物が、無機硫黄化合物としては、例えば、硫黄単体や硫化水素等が挙げられる。酸素原子を含有した化合物としては、酸素分子、一酸化炭素、二酸化炭素、水などが挙げられる。
【0026】
炭素原料としては気体状の有機化合物であれば様々な物質を選ぶことが可能であるが、典型的には炭化水素が用いられ、例えばメタン、エチレン、プロピレン、アセチレンなどが挙げられる。
【0027】
また、反応を迅速かつ均一に行わせるために、触媒金属前駆体物質や炭素原料ガスは、還元性ガスまたは不活性ガスと共に製造装置に供給するのが好ましく、還元性ガスとしては、従来公知の水素、また不活性ガスとしては窒素、アルゴン、ヘリウムが好ましく使用される。
生成される小直径CNTは、その直径が1~5nm程度の範囲内にあり、その層数は単層もしくは二層および三層CNTから主に構成される。また、生成される小直径CNTは、欠陥の少ない高結晶性を有することを特徴としており、ラマン散乱分析におけるGバンドとDバンドの強度比が30以上であることを特徴とする。ここで、ラマン散乱分析におけるGバンドとは、1590cm-1付近に観測される振動モードであり、Dバンドとは1350cm-1付近に観測される、カーボンナノチューブにおける欠陥由来のピークとして考えられる振動モードである。また生成される小直径CNTは、金属不純物含有量が少なく10原子%以下であることを特徴とする。
本発明によれば、平均直径が1~5nmの範囲にある、高結晶で直径の小さいCNTを高純度で合成することができる。
【0028】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。
【実施例
【0029】
触媒粒子製造装置の容器として、外径2.5mm、内径1.5mmのアルミナ製微細管を用い、微細管内部にタングステン製金属ワイヤを配置し、微細管の先端10mmにタンタル製コイル状電極を巻きつけた。CNT合成装置の反応容器として用いる石英管の一端から挿入する構造とした。また、触媒粒子製造装置の外側へ窒素ガスを供給する配管である、キャリアガス供給手段を設けた。
触媒金属前駆体物質としてフェロセン(Fe(C)の粉末を格納した容器を50℃に加熱して、アルゴンガス(10sccm)を供給することで、フェロセンを含んだガスを50℃以上に加熱した配管で輸送した。また反応促進剤として、硫黄単体を格納した容器を120℃に加熱して、アルゴンガス(40sccm)を供給することで、硫黄を含んだガスを120℃以上に加熱した配管で輸送した。これら2種類のガスをアルゴンガス150sccmと水素 10sccmと加熱したまま混合し、この混合ガスを触媒金属前駆体物質ガスとして、触媒粒子製造装置の微細管の根元側から供給した。
コイル状電極に高周波電力(450MHz 30W)を供給し、コイル状電極を巻き付けた微細管内部の先端10mm程度の範囲に微小プラズマを発生させた。微小プラズマ内に供給されるガス流速は2m/sec程度であった。
【0030】
炭素原料ガス供給手段は、抵抗加熱炉で予熱(925℃)され、2mmの隙間を持つ円環状スリット(直径9mm)から、中心方向にガスを噴出させる構造である。触媒粒子製造装置の吹出口から下流側に5mmの位置が、触媒金属ナノ粒子を含んだガスと、炭素原料を含んだ炭素原料ガスのガス混合位置となるよう、円環状スリットの中心部すなわち炭素原料ガスの流出方向とが重なるように配置した。
アセチレン(2sccm)および水素(15sccm)と窒素(483sccm)を混合した炭素原料ガスを、円環状スリットからガス混合位置へと供給した。流速は、925℃換算で1m/secであった。
【0031】
微細管先端から吹出する触媒金属ナノ粒子を含んだガスのガス流速は、室温換算で2m/secであり、微細管先端から5mmの下流の地点で、予熱した炭素原料ガスを横から吹き付けた。混合されたガスは、キャリアガスによって抵抗加熱炉で加熱された石英管内のCNT成長空間を下流側へと滞留し、CNT成長空間の外側に配置されたフィルタに向けて移動した。触媒金属前駆体物質および炭素原料を5分間供給したところ、CNTはフィルタ表面に膜として集められ、約20ミクロンの厚さの黒い薄いフィルムが得られた。フィルタで回収されたCNTを含む生成物を評価した。
【0032】
ラマン分光、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)などによる評価を行った。そのうちのSEM像を図5に示す。
SEM像から、直線性の高いCNTのネットワーク構造が明瞭に観測された。CNTの結晶性および炭素不純物の少なさを評価する指標として、ラマン分光スペクトルのGバンド強度とDバンド強度の比を評価したところ39と高い値であった。EDXによる元素分析の結果、鉄不純物の量は8原子%と少ない値であった。またTEM像からはCNTの平均直径は約1.3nmと小直径であることが確認できた。
【0033】
本発明によれば、触媒粒子製造装置は触媒金属前駆体物質のフェロセンを分解し、適切なサイズの触媒金属ナノ粒子を合成し、一方、適切に予熱された炭素原料ガスを触媒粒子と直ちに混合することで、CNTの成長を開始させ、このように、触媒形成とCNT合成の独立した制御が可能である。
そして、生成されたCNTは高い結晶性を示し、平均直径は約1.3nmと細く、微小プラズマを用いた気相プロセスは、高結晶で直径の小さい単層CNTを高純度で合成できる可能性が示された。
【符号の説明】
【0034】
101,201 反応容器
102,202 触媒粒子製造装置
103,203 加熱手段
104,204 CNT成長空間
105,205 炭素原料ガス供給手段
106,206 キャリアガス供給手段
107,207 ガス混合位置
108 回収手段
209 フィルタ
210,310,410 触媒粒子吹出口
211 炭素原料吹出口
【0035】
312,412 触媒金属前駆体物質ガス供給手段
313 微小プラズマ発生用電極
314,414 微小プラズマ
315 容器
316 ガス供給手段
417 微細管
418 金属ワイヤ
419 コイル状電極
420 高周波発生器

図1
図2
図3
図4
図5