(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】流量制御装置、流量制御方法、及び、流量制御装置用プログラム
(51)【国際特許分類】
G05D 7/06 20060101AFI20240808BHJP
【FI】
G05D7/06 Z
(21)【出願番号】P 2021042802
(22)【出願日】2021-03-16
【審査請求日】2023-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2020194318
(32)【優先日】2020-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000127961
【氏名又は名称】株式会社堀場エステック
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【氏名又は名称】上村 喜永
(72)【発明者】
【氏名】徳永 和弥
(72)【発明者】
【氏名】瀧尻 興太郎
【審査官】田中 友章
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-021176(JP,A)
【文献】国際公開第2015/030097(WO,A1)
【文献】特開2020-013269(JP,A)
【文献】特開2013-088944(JP,A)
【文献】国際公開第2020/059698(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第101356481(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路に設けられた流体抵抗と、
前記流体抵抗の下流側に設けられた下流側バルブと、
前記流体抵抗を流れる流体の流量である抵抗流量と、前記流体抵抗と前記下流側バルブとの間にある内部容積内の圧力である下流側圧力の時間変化量とに基づいて、前記下流側バルブを通過する流体の流量である下流側バルブ流量を測定する下流側バルブ流量測定器と、
前記下流側バルブの開度を変化させる入力パラメータに基づいて前記下流側バルブ流量を推定する下流側バルブ流量推定モデルを具備するオブザーバと、を備え、
前記オブザーバが、前記下流側バルブ流量測定器の出力する前記下流側バルブ流量の測定値と、前記下流側バルブ流量推定モデルの出力する前記下流側バルブ流量の推定値との偏差がフィードバックされるように構成された流量制御装置。
【請求項2】
入力された開度指令に応じた電圧を前記下流側バルブに出力する第1電圧生成回路をさらに備え、
前記下流側バルブ流量推定モデルが、前記第1電圧生成回路、前記下流側バルブ、及び、前記下流側バルブ流量測定器の特性をモデル化したものであり、
前記オブザーバが、前記入力パラメータとして前記開度指令が入力され、前記下流側バルブ流量を推定する請求項1記載の流量制御装置。
【請求項3】
前記下流側バルブ流量推定モデルが、前記第1電圧生成回路における時間遅れを模擬する請求項2記載の流量制御装置。
【請求項4】
前記オブザーバが、前記下流側バルブ流量の測定値と前記下流側バルブ流量の推定値との偏差にオブザーバゲインを乗じるオブザーバゲイン部をさらに備えた請求項1乃至3いずれかに記載の流量制御装置。
【請求項5】
前記オブザーバゲイン部が、
前記流路に流れる流体の流量が所定値で安定している場合に用いられる第1オブザーバゲインと、
前記流路に流れる流体の流量が変化している場合に用いられ、前記第1オブザーバゲインよりも値が大きい第2オブザーバゲインと、を具備する請求項4記載の流量制御装置。
【請求項6】
前記下流側バルブの開度を制御する下流側バルブ制御器をさらに備え、
前記下流側バルブ制御器が、設定流量の目標値と前記オブザーバの出力する前記下流側バルブ流量の推定値との偏差に基づいて、前記開度指令を生成するように構成された請求項2又は3記載の流量制御装置。
【請求項7】
前記下流側バルブ制御器が、
設定流量の目標値と前記オブザーバの出力する前記下流側バルブ流量の推定値との偏差に基づいてPID演算を行うPID制御器と、
前記PID制御器からPID演算結果に応じた前記開度指令を生成する開度指令生成器と、を具備する請求項6記載の流量制御装置。
【請求項8】
前記下流側バルブ流量測定器が、
前記流体抵抗の上流側に設けられ、上流側圧力を測定する上流側圧力センサと、
前記流体抵抗と前記下流側バルブとの間に設けられ、前記下流側圧力を測定する下流側圧力センサと、
前記上流側圧力と、前記下流側圧力とに基づいて、前記抵抗流量を算出する抵抗流量算出器と、
前記抵抗流量から前記下流側圧力の時間変化量に所定係数を乗じた値を差し引いて前記下流側バルブ流量を算出する下流側バルブ流量算出器と、を具備する請求項1乃至7いずれかに記載の流量制御装置。
【請求項9】
前記上流側圧力センサの上流側に設けられた上流側バルブと、
前記上流側バルブの開度を制御する上流側バルブ制御器と、をさらに備えた請求項8記載の流量制御装置。
【請求項10】
前記抵抗流量から前記上流側圧力の時間変化量に所定係数を乗じた値を足して前記上流側バルブを通過する上流側バルブ流量を算出する上流側バルブ流量算出器をさらに備え、
前記上流側バルブ制御器が、設定流量と前記上流側バルブ流量の偏差が小さくなるように前記上流側バルブの開度を制御する請求項9記載の流量制御装置。
【請求項11】
前記抵抗流量から前記上流側圧力の時間変化量に所定係数を乗じた値を足して前記上流側バルブを通過する上流側バルブ流量を算出する上流側バルブ流量算出器と、
前記上流側バルブの開度を変化させる入力パラメータに基づいて前記上流側バルブ流量を推定する上流側バルブ流量推定モデルを具備するサブオブザーバと、をさらに備え、
前記上流側バルブ制御器が、設定流量の目標値と前記サブオブザーバの出力する前記上流側バルブ流量の推定値との偏差が小さくなるように前記上流側バルブの開度を制御する請求項9記載の流量制御装置。
【請求項12】
前記上流側バルブ制御器が、設定圧力と前記上流側圧力の偏差が小さくなるように前記上流側バルブの開度を制御する請求項9記載の流量制御装置。
【請求項13】
前記上流側バルブ制御器が、前記下流側バルブで維持する開度に相当する設定電圧と、前記下流側バルブに印加されている電圧との偏差が小さくなるように前記上流側バルブの開度を制御する請求項9記載の流量制御装置。
【請求項14】
前記流体抵抗が、層流素子、分流素子、又は、オリフィスである請求項1乃至13いずれかに記載の流量制御装置。
【請求項15】
少なくとも前記下流側バルブ流量測定器に異常が発生した場合に、前記オブザーバにおいて前記下流側バルブ流量測定器の出力する前記下流側バルブ流量の測定値のフィードバックを行わない異常モードで前記オブザーバを動作させる異常モード切替部をさらに備えた請求項1記載の流量制御装置。
【請求項16】
前記オブザーバが、
少なくとも前記下流側バルブ流量測定器が正常に動作している状態において、前記下流側バルブ流量の測定値と前記下流側バルブ流量の推定値との偏差にオブザーバゲインを乗じるオブザーバゲイン部と、
少なくとも前記下流側バルブ流量測定器が正常に動作している状態において、前記下流側バルブ流量の測定値と前記下流側バルブ流量の推定値との偏差、又は、当該偏差に所定演算がされた値を正常値として記憶する正常値記憶部と、
前記異常モードにおいて、前記正常値に基づいた値を前記下流側バルブ流量推定モデルに入力するロールバック部と、をさらに備えた請求項15記載の流量制御装置。
【請求項17】
前記オブザーバが、前記下流側バルブ流量の測定値と前記下流側バルブ流量の推定値との偏差にオブザーバゲインを乗じるオブザーバゲイン部を備え、
前記オブザーバゲイン部が、前記異常モードにおいて前記オブザーバゲインとしてゼロの値を使用するように構成された請求項15記載の流量制御装置。
【請求項18】
前記異常モード切替部が、前記下流側バルブ流量測定器の出力する前記下流側バルブ流量の測定値、又は、当該下流側バルブ流量測定器において使用される内部パラメータに基づいて、前記下流側バルブ流量測定器が正常に動作しているか、異常が発生しているかを判定するように構成された請求項15乃至17いずれかに記載の流量制御装置。
【請求項19】
流路に設けられた流体抵抗と、前記流体抵抗の下流側に設けられた下流側バルブと、を備えた流量制御装置を用いた流量制御方法であって、
前記流体抵抗を流れる流体の流量である抵抗流量と、前記流体抵抗と前記下流側バルブとの間にある内部容積内の圧力である下流側圧力の時間変化量とに基づいて、前記下流側バルブを通過する流体の流量である下流側バルブ流量を測定することと、
前記下流側バルブの開度を変化させる入力パラメータに基づいて前記下流側バルブ流量を推定する下流側バルブ流量推定モデルを具備するオブザーバを用いて前記下流側バルブ流量を推定することと、を含み、
前記オブザーバに前記下流側バルブ流量の測定値と、前記下流側バルブ流量推定モデルの出力する前記下流側バルブ流量の推定値との偏差をフィードバックする流量制御方法。
【請求項20】
流路に設けられた流体抵抗と、前記流体抵抗の下流側に設けられた下流側バルブと、を備えた流量制御装置に用いられるプログラムであって、
前記流体抵抗を流れる流体の流量である抵抗流量と、前記流体抵抗と前記下流側バルブとの間にある内部容積内の圧力である下流側圧力の時間変化量とに基づいて、前記下流側バルブを通過する流体の流量である下流側バルブ流量を測定する下流側バルブ流量測定器と、
前記下流側バルブの開度を変化させる入力パラメータに基づいて前記下流側バルブ流量を推定する下流側バルブ流量推定モデルを具備するオブザーバと、としての機能をコンピュータに発揮させるものであり、
前記オブザーバが、前記下流側バルブ流量測定器の出力する前記下流側バルブ流量の測定値と、前記下流側バルブ流量推定モデルの出力する前記下流側バルブ流量の推定値との偏差がフィードバックされるように構成された流量制御装置用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体製造プロセスにおいて流体の流量を制御する流量制御装置等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばプロセスチャンバ内に導入される各種ガスの流量を制御するためにマスフローコントローラとよばれる各種流体機器と制御機構がパッケージ化された流量制御装置が用いられている。
【0003】
典型的な流量制御装置は、流路に対して設けられた流量センサと、流量センサの下流側に設けられた下流側バルブと、流量センサで測定される測定流量がユーザの設定する時間変化のある設定流量と一致するように下流側バルブの開度を制御する下流側バルブ制御器と、を備えている。
【0004】
ところで、流量センサによる流体の測定点と下流側バルブによる流体の制御点は、流れ方向に対して所定距離ずれているので、流量センサの測定流量には下流側バルブを通過している流量に対して時間遅れが存在する。このような測定流量に含まれている時間遅れは、半導体製造プロセスで求められる流量制御の応答性を実現しようとする場合に問題となる。
【0005】
このような問題を解決するために、下流側バルブを通過している実際の流量(以下、下流側バルブ流量ともいう)を測定できる下流側バルブ流量測定器を流量制御装置に適用することが試みられている。例えば下流側バルブ流量測定器は、従来からある圧力式流量センサと、下流側バルブ流量を算出する下流側バルブ流量算出器を備えている。下流側バルブ流量算出器は、圧力式流量センサが測定している層流素子を通過している流体の流量(以下、抵抗流量ともいう)と、圧力式流量センサと下流側バルブとの間の容積における圧力(以下、下流側圧力ともいう)とを用いて、下流側バルブ流量を算出する。具体的に下流側バルブ流量算出器は、抵抗流量から下流側圧力の時間微分値に所定係数を乗じた値を差し引くことで下流側バルブ流量を算出する。
【0006】
しかしながら、このような手法で測定される下流側バルブ流量は、流量制御に問題となるほど大きなノイズを含む場合がある。これは、下流側圧力が例えば電気的なノイズ等を含んでいると、下流側圧力の時間微分によってノイズが拡大されてしまうことに起因する。
【0007】
このような場合に、下流側圧力又は下流側バルブ流量をローパスフィルタに通すことによってノイズを除去することも考えられるが、そうするとフィルタによる時間遅れが発生するので実際の下流側バルブ流量を時間遅れなく得られなくなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上述したような問題に鑑みてなされたものであり、下流側バルブを通過している流体の流量を時間遅れはほとんど発生させずに、ノイズを大幅に低減した形で得ることができ、応答性を従来よりも向上させることができる流量制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る流量制御装置は、流路に設けられた流体抵抗と、前記流体抵抗の下流側に設けられた下流側バルブと、前記流体抵抗を流れる流体の流量である抵抗流量と、前記流体抵抗と前記下流側バルブとの間にある内部容積内の圧力である下流側圧力の時間変化量とに基づいて、前記下流側バルブを通過する流体の流量である下流側バルブ流量を測定する下流側バルブ流量測定器と、前記下流側バルブの開度を変化させる入力パラメータに基づいて前記下流側バルブ流量を推定する下流側バルブ流量推定モデルを具備するオブザーバと、を備え、前記オブザーバが、前記下流側バルブ流量測定器の出力する前記下流側バルブ流量の測定値と、前記下流側バルブ流量推定モデルの出力する前記下流側バルブ流量の推定値との偏差がフィードバックされるように構成されたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る流量制御方法は、流路に設けられた流体抵抗と、前記流体抵抗の下流側に設けられた下流側バルブと、を備えた流量制御装置を用いた流量制御方法であって、前記流体抵抗を流れる流体の流量である抵抗流量と、前記流体抵抗と前記下流側バルブとの間にある内部容積内の圧力である下流側圧力の時間変化量とに基づいて、前記下流側バルブを通過する流体の流量である下流側バルブ流量を測定することと、前記下流側バルブの開度を変化させる入力パラメータに基づいて前記下流側バルブ流量を推定する下流側バルブ流量推定モデルを具備するオブザーバを用いて前記下流側バルブ流量を推定することと、を含み、前記オブザーバに前記下流側バルブ流量の測定値と、前記下流側バルブ流量推定モデルの出力する前記下流側バルブ流量の推定値との偏差をフィードバックすることを特徴とする。
【0012】
このようなものであれば、前記オブザーバが前記下流側バルブ流量推定モデルに基づいて時間遅れと例えば電気的なノイズを含まない形で前記下流側バルブ流量を推定できる。また、前記下流側バルブ流量の測定値と推定値の偏差が前記オブザーバにフィードバックされるので、初期値等において測定値と推定値とが乖離している場合には速やかにそのような乖離が解消されて実際の流量制御装置の状態を示す推定値を得られるようになる。これらのことから、前記オブザーバが出力する前記下流側バルブ流量の推定値に基づいて、流量制御の応答性を従来よりも向上させることができる。
【0013】
前記下流側バルブ流量を流量制御装置の制御特性を十分に模擬して精度よく推定できるようにするには、入力された開度指令に応じた電圧を前記下流側バルブに出力する第1電圧生成回路をさらに備え、前記下流側バルブ流量推定モデルが、前記第1電圧生成回路、前記下流側バルブ、及び、前記下流側バルブ流量測定器の特性をモデル化したものであり、前記オブザーバが、前記入力パラメータとして前記開度指令が入力され、前記下流側バルブ流量を推定するものであればよい。
【0014】
前記下流側バルブ流量の推定値の精度を高くするための具体的な構成例としては、前記下流側バルブ流量推定モデルが、前記第1電圧生成回路における時間遅れを模擬するものが挙げられる。
【0015】
前記オブザーバが、推定値と初期値の違いによる推定値の誤差を早期に解消できるようにするには、前記オブザーバが、前記下流側バルブ流量の測定値と前記下流側バルブ流量の推定値との偏差にオブザーバゲインを乗じるオブザーバゲイン部をさらに備えたものであればよい。
【0016】
前記下流側バルブ流量の推定値が測定値に対して大きく乖離しており、前記オブザーバが実際の状態を反映できていない場合にはそのような乖離を早期に解消できるようにするとともに、前記オブザーバが十分な精度で前記下流側バルブ流量を推定できている場合にはシステムに由来しない突発的なノイズ等に対して、当該オブザーバのロバストとなるようにするには、前記オブザーバゲイン部が、前記流路に流れる流体の流量が所定値で安定している場合に用いられる第1オブザーバゲインと、前記流路に流れる流体の流量が変化している場合に用いられ、前記第1オブザーバゲインよりも値が大きい第2オブザーバゲインと、を具備するものであればよい。
【0017】
従来よりも前記下流側バルブ流量の制御に関する応答性を向上させるには、前記下流側バルブの開度を制御する下流側バルブ制御器をさらに備え、前記下流側バルブ制御器が、設定流量の目標値と前記オブザーバの出力する前記下流側バルブ流量の推定値との偏差に基づいて、前記開度指令を生成するように構成されたものであればよい。
【0018】
前記オブザーバが推定する前記下流側バルブ流量に基づくフィードバック制御の具体的な構成としては、前記下流側バルブ制御器が、設定流量の目標値と前記オブザーバの出力する前記下流側バルブ流量の推定値との偏差に基づいてPID演算を行うPID制御器と、前記PID制御器からPID演算結果に応じた前記開度指令を生成する開度指令生成器と、を具備するものが挙げられる。
【0019】
従来流量制御装置に用いられている流量センサ等のハードウェアを利用して前記下流側バルブ流量測定器を構成するには、前記下流側バルブ流量測定器が、前記流体抵抗の上流側に設けられ、上流側圧力を測定する上流側圧力センサと、前記流体抵抗と前記下流側バルブとの間に設けられ、前記下流側圧力を測定する下流側圧力センサと、前記上流側圧力と、前記下流側圧力とに基づいて、前記抵抗流量を算出する抵抗流量算出器と、前記抵抗流量から前記下流側圧力の時間変化量に所定係数を乗じた値を差し引いて前記下流側バルブ流量を算出する下流側バルブ流量算出器と、を具備するものが挙げられる。
【0020】
前記下流側バルブの制御的な余裕を大きくしたり、流体の供給圧の変動を抑えたりできるようにして応答性をさらに向上させられるようにするには、流量制御装置が、前記上流側圧力センサの上流側に設けられた上流側バルブと、前記上流側バルブの開度を制御する上流側バルブ制御器と、をさらに備えたものであればよい。
【0021】
設定流量が立ち上がったり、立ち下がったりする場合に前記上流側バルブ及び前記下流側バルブがそれぞれ開度の変化方向が逆向きとなり、前記流体抵抗の前後圧を高速で変化させて所望の流量を高速で得られるようにしつつ、前記流体抵抗の前後の平均圧力は低い圧力に保って圧力式の流量センサとしての感度を高く保つことができるようにするには、前記抵抗流量から前記上流側圧力の時間変化量に所定係数を乗じた値を足して前記上流側バルブを通過する上流側バルブ流量を算出する上流側バルブ流量算出器をさらに備え、前記上流側バルブ制御器が、設定流量と前記上流側バルブ流量の偏差が小さくなるように前記上流側バルブの開度を制御すればよい。
【0022】
前記上流側バルブ流量についてもノイズ影響を低減して、制御性能をさらに向上させるには、前記抵抗流量から前記上流側圧力の時間変化量に所定係数を乗じた値を足して前記上流側バルブを通過する上流側バルブ流量を算出する上流側バルブ流量算出器と、前記上流側バルブの開度を変化させる入力パラメータに基づいて前記上流側バルブ流量を推定する上流側バルブ流量推定モデルを具備するサブオブザーバと、をさらに備え、前記上流側バルブ制御器が、設定流量の目標値と前記サブオブザーバの出力する前記上流側バルブ流量の推定値との偏差が小さくなるように前記上流側バルブの開度を制御するものであればよい。
【0023】
前記流量制御装置に供給される流体の供給圧を一定に保つことができる具体的な構成例としては、前記上流側バルブ制御器が、設定圧力と前記上流側圧力の偏差が小さくなるように前記上流側バルブの開度を制御するものが挙げられる。
【0024】
設定流量の目標値が変化しても前記下流側バルブの開度が所定開度に保たれるようにして、前記流体抵抗の前後にける圧力の絶対値を低圧に保てるようにするには、前記上流側バルブ制御器が、前記下流側バルブで維持する開度に相当する設定電圧と、前記下流側バルブに印加されている電圧との偏差が小さくなるように前記上流側バルブの開度を制御するものであればよい。このようなものであれば、圧力に基づく流量測定を行っている前記下流側バルブ流量測定器の感度を向上させることができる。例えば前記下流側バルブの開度が全開状態又はその近傍の開度で保たれるようにして、前記流体抵抗の前後の圧力を低圧に保つようにすればよい。このようにすれば、圧力式の流量検出方法を用いている場合には、測定感度を高めて、制御の応答性を向上させることができる。
【0025】
前記下流側バルブ流量測定器による前記下流側バルブ流量の測定の前提条件である、前記流体抵抗と前記下流側バルブとの間の容積を明確に仕切ることができ、正確な容積な値を得られるようにして前記下流側バルブ流量の測定精度を高められるようにするには、前記流体抵抗が、層流素子、分流素子、又は、オリフィスであればよい。
【0026】
従来、半導体製造プロセスにおいて用いられる流量制御装置において流量センサ等に何らかの異常が発生した場合には、ユーザやマスターとなる制御装置にアラーム出力をしたり、外部に表示される流量を負の値等のありえない値にしたりして異常を知らせている。さらに、異常が発生した場合には、プロセス中であっても制御バルブを全閉等のセーフステートに変更してプロセスを中断している。プロセスを中断した場合、再開しても中断前と同じ結果や効果が得られないことが多い。このため、特にバッチ処理式のプロセス装置では中断によるウエハスクラップの被害が大きくなり、例えば中断された場合の歩留まりはゼロ又はほとんどゼロとなってしまう。
【0027】
上述したようなプロセスの中断によるロスを低減できるようにするために、例えば流量を測定するための各種センサに異常が発生したとしても、プロセスを継続して、ある程度の歩留まりを確保できるようにするには、少なくとも前記下流側バルブ流量測定器に異常が発生した場合に、前記オブザーバにおいて前記下流側バルブ流量測定器の出力する前記下流側バルブ流量の測定値のフィードバックを行わない異常モードで前記オブザーバを動作させる異常モード切替部をさらに備えたものであればよい。
【0028】
このようなものであれば、異常モードにおいては故障等により値が信頼できない前記下流側バルブ流量測定器の出力を使用せずに前記オブザーバから出力される前記下流側バルブ流量の推定値のみで流量制御を継続できる。したがって、ある程度実際に流れている流量に近い値に基づいて流量制御を継続できるので、例えばプロセス中のウエハの歩留まりを所定値に保つことが可能となる。
【0029】
前記下流側バルブ流量測定器に異常が発生した場合には、正常であった時点で使用されていたパラメータを用いることで、その時点で流れている流量に近い推定値を前記オブザーバが出力できるようにし、ウエハの歩留まり等を高い値に保てるようにするには、前記オブザーバが、少なくとも前記下流側バルブ流量測定器が正常に動作している状態において、前記下流側バルブ流量の測定値と前記下流側バルブ流量の推定値との偏差にオブザーバゲインを乗じるオブザーバゲイン部と、少なくとも前記下流側バルブ流量測定器が正常に動作している状態において、前記下流側バルブ流量の測定値と前記下流側バルブ流量の推定値との偏差、又は、当該偏差に所定演算がされた値を正常値として記憶する正常値記憶部と、前記異常モードにおいて、前記正常値に基づいた値を前記下流側バルブ流量推定モデルに入力するロールバック部と、をさらに備えたものであればよい。
【0030】
簡単な構成で前記下流側バルブ流量測定器に異常が発生した場合には、当該下流側バルブ流量測定器の測定値を流量制御に用いず前記オブザーバの推定値のみで流量制御を継続できるようにするには、流量制御前記オブザーバが、前記下流側バルブ流量の測定値と前記下流側バルブ流量の推定値との偏差にオブザーバゲインを乗じるオブザーバゲイン部を備え、前記オブザーバゲイン部が、前記異常モードにおいて前記オブザーバゲインとしてゼロの値を使用するように構成されたものが挙げられる。
【0031】
前記異常モード切替部の具体的な態様としては、前記下流側バルブ流量測定器の出力する前記下流側バルブ流量の測定値、又は、当該下流側バルブ流量測定器において使用される内部パラメータに基づいて、前記下流側バルブ流量測定器が正常に動作しているか、異常が発生しているかを判定するように構成されたものが挙げられる。
【0032】
流路に設けられた流体抵抗と、前記流体抵抗の下流側に設けられた下流側バルブと、を備えた既存の流量制御装置に対して例えばプログラムを更新することで、本発明に係る流量制御装置と同等の流量制御特性が得られるようにするには、前記流体抵抗を流れる流体の流量である抵抗流量と、前記流体抵抗と前記下流側バルブとの間にある内部容積内の圧力である下流側圧力の時間変化量とに基づいて、前記下流側バルブを通過する流体の流量である下流側バルブ流量を測定する下流側バルブ流量測定器と、前記下流側バルブの開度を変化させる入力パラメータに基づいて前記下流側バルブ流量を推定する下流側バルブ流量推定モデルを具備するオブザーバと、としての機能をコンピュータに発揮させるものであり、前記オブザーバが、前記下流側バルブ流量測定器の出力する前記下流側バルブ流量の測定値と、前記下流側バルブ流量推定モデルの出力する前記下流側バルブ流量の推定値との偏差がフィードバックされるように構成された流量制御装置用プログラムを用いれば良い。
【0033】
なお、流量制御装置用プログラムは電子的に配信されるものであってもよいし、CD、DVD、フラッシュメモリ等のプログラム記録媒体に記録されたものであってもよい。
【発明の効果】
【0034】
このように本発明に係る流量制御装置は、前記下流側バルブを通過している流量の流量である前記下流側バルブ流量を推定する前記オブザーバを備えているので、時間遅れとノイズを低減した下流側バルブ流量を得ることができる。したがって、本発明であれば、流量制御における応答性及び精度を従来よりも向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本発明の第1実施形態における流量制御装置の構成を示す模式図。
【
図2】第1実施形態の流量制御装置の下流側バルブに関する制御系の概略を示すブロック線図。
【
図3】第1実施形態のオブザーバ及び下流側バルブ制御器の詳細を示すブロック線図。
【
図4】第1実施形態における流量制御装置の第1変形例の構成を示すブロック線図。
【
図5】第1実施形態における流量制御装置の第2変形例の構成を示す模式図。
【
図6】本発明の第2実施形態における流量制御装置の構成を示す模式図。
【
図7】本発明の第3実施形態における流量制御装置の構成を示す模式図。
【
図8】本発明の第4実施形態における流量制御装置の構成を示す模式図。
【
図9】本発明の第5実施形態における正常モードにおける流量制御装置の構成を示す模式図。
【
図10】第5実施形態における異常モードにおける流量制御装置の構成を示す模式図。
【
図11】第5実施形態における正常モードと異常モードにおける流量制御装置の動作イメージを示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0036】
第1実施形態に係る流量制御装置100について
図1乃至
図3を参照しながら説明する。
【0037】
第1実施形態の流量制御装置100は、例えば半導体製造プロセスにおいてチャンバに対してプロセスガスや貴ガス等の希釈ガス等を設定流量で供給するために用いられるものである。ここで、設定流量は、例えばある目標値から別の目標値へ階段状に立ち上がる、あるいは、立ち下がるステップ状の時間変化を含む。このような設定流量のステップ流量指令に対して、所定時間内に追従するようにこの流量制御装置100は構成してある。なお所定時間は、製造される半導体の品質を満たすことができる時間として設定され得る。
【0038】
具体的には流量制御装置100は、
図1に示すように、流路に設けられたセンサ、バルブからなる流体機器と、当該流体機器の制御を司る制御装置COMと、を備えている。なお、流路は例えば図示しないブロック内に形成された複数の内部流路として形成され、当該内部流路は当該ブロックにおいて流体機器が取り付けられる部品取付面に少なくとも一端部が開口する。
【0039】
流路に対して上流側から順番に供給圧センサ(図示しない)、上流側バルブV1、上流側圧力センサP1、流体抵抗R、下流側圧力センサP2、下流側バルブV2が設けてある。ここで、流体抵抗Rは例えば層流素子であり、その前後に流れるガス流量に応じた差圧を発生する。
【0040】
上流側圧力センサP1は、流路において上流側バルブV1と流体抵抗Rとの間における容積である上流側容積VL1内にチャージされているガスの圧力を測定する。以降の説明では上流側圧力センサP1で測定される圧力を上流側圧力ともいう。
【0041】
下流側圧力センサP2は、流路において流体抵抗Rと下流側バルブV2との間における容積である下流側容積VL2にチャージされているガスの圧力を測定する。以降の説明では下流側圧力センサP2で測定される圧力を下流側圧力ともいう。
【0042】
第1実施形態では上流側圧力センサP1及び下流側圧力センサP2は例えば同型のものであり、例えばダイヤフラムで形成された感圧面に流路からガスが導かれる。感圧面の変位は例えば静電容量型の変位センサで測定され、その変位から各圧力が測定される。このように上流側圧力センサP1と下流側圧力センサP2は、上流側バルブV1、流体抵抗R、下流側バルブV2で形成される2つの容積の圧力をそれぞれ測定している。
【0043】
上流側バルブV1、及び、下流側バルブV2は、第1実施形態では同型のものであり、例えばピエゾ素子によって弁体が弁材に対して駆動されるピエゾバルブである。第1実施形態では上流側バルブV1は、上流側圧力センサP1で測定される上流側圧力に基づいて上流側容積内の圧力を制御する。一方、流体機器において最も下流側に設けられている下流側バルブV2は、流体機器から流出するガス流量全体を制御するものである。
【0044】
次に制御装置COMについて詳述する。
【0045】
制御装置COMは、例えばCPU、メモリ、A/Dコンバータ・D/Aコンバータ、入出力手段を具備するいわゆるコンピュータである。具体的にはマイコンボードを用いてその機能が実現されるが、一般的なコンピュータを用いてもよい。制御装置COMはメモリに格納されている流量制御装置用プログラムが実行されて各種機器が協業することにより、少なくとも抵抗流量算出器1、下流側バルブ流量算出器2、オブザーバ3、下流側バルブ制御器4、第1電圧生成回路5、上流側バルブ流量算出器6、上流側バルブ制御器7、第2電圧生成回路8としての機能を発揮する。
【0046】
抵抗流量算出器1は、上流側圧力センサP1、流体抵抗R、下流側圧力センサP2とともにいわゆる圧力式の流量センサを構成するものである。つまり、抵抗流量算出器1は、上流側圧力センサP1で測定される上流側圧力と、下流側圧力センサP2で測定される下流側圧力を入力として、流体抵抗Rを流れるガス流量である抵抗流量を算出し、その結果を下流側バルブ流量算出器2に出力する。
【0047】
ここで、抵抗流量算出器1で用いられる流量の算出式は既存の圧力式流量センサで採用されているものを用いることができる。抵抗流量算出器1で算出される抵抗流量は、連続的に変化するものであるが、下流側バルブV2の制御により実現される当該下流側バルブV2を通過している実際の流量に対して所定の時間遅れが発生している。
【0048】
以降では下流側バルブV2を通過している流量のことを下流側バルブ流量ともよぶ。また、第1実施形態では下流側バルブ流量は上流側圧力センサP1及び下流側圧力センサP2の出力に基づいて算出される値を測定値と定義する。一方、下流側バルブ制御器4の内部出力と、数学的なモデルに基づき、上流側圧力センサP1及び下流側圧力センサP2の出力を直接は使用せずに算出される下流側バルブ流量は推定値と定義する。
【0049】
下流側バルブ流量算出器2は、抵抗流量算出器1で算出される抵抗流量と、下流側圧力センサP2で測定される下流側圧力とに基づいて、下流側バルブV2から流出するガス流量である下流側バルブ流量を算出し、その結果をオブザーバ3に出力する。より具体的には下流側バルブ流量算出器2は、流体抵抗Rと下流側バルブV2との間の下流側容積VL2に対して流入するガス流量である抵抗流量と、下流側容積VL2から流出するガス流量である下流側バルブ流量の差の定数倍が、下流側圧力の時間変化量と等しいことに基づいて下流側バルブ流量を算出している。具体的には、下流側圧力をP2、下流側容積VL2の大きさをV2、ガスの温度をT、気体定数をRG,質量をn2とした場合、下流側容積VL2を対象として気体の状態方程式を適用するとP2=n2RGT/V2が導出される。また、質量n2の時間微分値は、下流側容積VL2に流入する抵抗流量QRと、下流側容積VL2から流出する下流側バルブ流量QV2の差に比例していることから、最終的に以下のような式で下流側バルブ流量QV2は算出できる。QV2=QR―A・d/dt(P2):ここでd/dtは時間微分演算子、Aはガスの温度T、気体定数RG等で決まる定数である。
【0050】
第1実施形態では、上流側圧力センサP1、流体抵抗R、下流側圧力センサP2、及び、抵抗流量算出器1がいわゆる圧力式の流量センサを構成している。また、圧力式の流量センサにさらに下流側バルブ流量算出器2が加わることで、下流側バルブ流量測定器VFSが構成される。
【0051】
オブザーバ3は、数学的な制御系のモデルと、下流側バルブV2の開度を変更する入力パラメータとに基づいて下流側バルブ流量を推定する。オブザーバ3で推定された下流側バルブ流量は、下流側バルブ制御器4に出力される。
【0052】
下流側バルブ制御器4は、ユーザにより設定される設定流量と、オブザーバ3により推定される下流側バルブ流量との偏差が小さくなるように下流側バルブV2の開度を制御する。第1実施形態では下流側バルブ制御器4は、偏差に応じた開度指令を生成し、第1電圧生成回路5に出力する。
【0053】
第1電圧生成回路5は、開度指令に応じた電圧を下流側バルブV2に印加する。この第1電圧生成回路5では開度指令に対して例えば1次遅れの時間遅れが発生する。
【0054】
上流側バルブ流量算出器6は、抵抗流量算出器1で算出される抵抗流量と、上流側圧力センサP1で測定される上流側圧力とに基づいて、上流側バルブV1から上流側容積VL1に流入するガス流量である上流側バルブ流量を算出し、その結果を上流側バルブ制御器7に出力する。より具体的には上流側バルブ流量算出器6は、上流側バルブV1と流体抵抗Rとの間の上流側容積VL1に対して流入するガス流量である上流側バルブ流量と、上流側容積VL1から流出するガス流量である抵抗流量との差の定数倍が、上流側圧力の時間変化量と等しいことに基づいて、上流側バルブ流量を算出している。具体的には、上流側圧力をP1、上流側容積VL1の大きさをV1、ガスの温度をT、気体定数をRG,質量をn1とした場合、上流側容積VL1を対象として気体の状態方程式を適用するとP1=n1RGT/V1が導出される。また、質量n1の時間微分値は、上流側容積VL1に流入する上流側バルブ流量QV1と、上流側容積VL1から流出する抵抗流量QRの差に比例していることから、最終的に以下のような式で上流側バルブ流量QV1は算出できる。QV1=QR+A・d/dt(P1):ここでd/dtは時間微分演算子、Aはガスの温度T、気体定数RG等で決まる定数である。
【0055】
なお、上流側バルブ流量算出器6は、下流側バルブ流量測定器VFSにおいて圧力式の流量センサを構成する上流側圧力センサP1、流体抵抗R、下流側圧力センサP2、及び、抵抗流量算出器1を共用している。すなわち、上流側バルブ流量算出器6は、圧力式の流量センサを下流側バルブ流量測定器VFSと共用して、上流側バルブ流量測定器としての機能を発揮するように構成されている。
【0056】
上流側バルブ制御器7は、ユーザによって設定される設定流量と、上流側バルブ流量算出器6の算出する上流側バルブ流量と、に基づいて上流側バルブV1を制御する。すなわち、上流側バルブ制御器7は、ユーザにより設定される設定流量の目標値と上流側バルブ流量の測定値との偏差が小さくなるように、上流側バルブV1を制御する。より具体的には、上流側バルブ制御器7は、設定流量と上流側バルブ流量の偏差に基づくPID演算により、上流側バルブV1が達成すべき開度を示す開度指令を生成し、その開度指令を第2電圧生成回路に入力する。第2電圧生成回路は、開度指令に応じた電圧を上流側バルブV1に印加する。すなわち、上流側バルブV1は下流側バルブV2とは異なり、オブザーバによる推定値ではなく、測定値に基づいて制御される。また、上流側バルブ制御器7及び下流側バルブ制御器4に入力される設定流量はそれぞれ同じものであり、同期させて入力される。
【0057】
次に下流側バルブV2に関連する制御系の詳細と、オブザーバ3、及び、下流側バルブ制御器4の詳細について
図2及び
図3のブロック線図を参照しながら説明する。
【0058】
図2のブロック線図に示すように、下流側バルブV2の制御系は、ハードウェアの出力に基づき下流側バルブ流量を測定するとともに、実際の下流側バルブ流量に影響を与えるリアルシステムと、数学的なモデルに基づいて下流側バルブ流量を推定するイマジナリーシステムとから構成されている。リアルシステムは、下流側バルブ制御器4、第1電圧生成回路5、下流側バルブV2、及び、下流側バルブ流量測定器VFSからなる。一方、イマジナリーシステムは、オブザーバ3で構成される。
【0059】
オブザーバ3で推定される下流側バルブ流量は下流側バルブ制御器4にフィードバックされる。すなわち、設定流量の目標値と下流側バルブ流量の推定値の偏差が下流側バルブ制御器4に入力される。また、オブザーバ3で推定される下流側バルブ流量と下流側バルブ流量測定器で測定される下流側バルブ流量の偏差はオブザーバ3にフィードバックされる。オブザーバ3は下流側バルブ制御器4からリアルシステムに入力されるのと同じ開度指令が入力され、開度指令に応じた下流側バルブ流量の推定値を出力する。
【0060】
図3の詳細なブロック線図に示すように、オブザーバ3は、リアルシステムにおける制御対象である第1電圧生成回路5、下流側バルブV2、及び、下流側バルブ流量測定器VFSを模擬する下流側バルブ流量推定モデル31を具備している。すなわち、下流側バルブ流量推定モデル31は第1電圧生成回路5、下流側バルブV2、及び、下流側バルブ流量測定器VFSにそれぞれ対応する第1電圧生成回路模擬部5M、下流側バルブ模擬部V2M、及び、下流側バルブ流量測定器模擬部VFMからなる。
【0061】
第1電圧生成回路模擬部5Mは、開度指令に対して第1電圧生成回路5が実際に出力する電圧の時間遅れを模擬している。また、下流側バルブ模擬部V2Mは下流側バルブV2、すなわち、ピエゾバルブとしての制御特性を例えば理論式を参照して模擬しており、下流側バルブV2に印加されている電圧に対して対応する下流側バルブ流量を出力する。なお、下流側バルブ模擬部V2Mは、例えば流量、バルブの前後圧、温度、開度に相当する電圧等との間の関係を記憶したルックアップテーブルを参照することでそのバルブ特性を模擬するものであってもよい。加えて、下流側バルブ流量測定器模擬部VFMは、実際の下流側バルブ流量に対して測定値に表れる時間遅れを模擬している。ここで、下流側バルブ流量測定器模擬部VFMが模擬する時間遅れは、制御点と測定点のずれに起因するものではなく、電気回路内や演算に起因するものである。下流側バルブ流量推定モデル31は数学的なモデルであるため、開度指令が入力されることにより出力される下流側バルブ流量の推定値には電気的なノイズは重畳せず、下流側バルブ流量の変化のみが表れる。
【0062】
また、オブザーバ3はさらに下流側バルブ流量の測定値と推定値の偏差に所定のオブザーバゲインOGを乗じるオブザーバゲイン部32を備えている。オブザーバゲインOGには対応して積分器が設けられており、積分器の出力が、第1電圧生成回路模擬部5Mの出力する電圧に加算される。
【0063】
最後に下流側バルブ制御器4について説明する。下流側バルブ制御器4は、設定流量とオブザーバ3が推定する下流側バルブ流量との偏差が入力されるPID制御器41と、PID制御器41が出力するPID演算結果に応じた開度指令を出力する開度指令生成器42と、を具備している。すなわち、下流側バルブ流量測定器VFSで測定される下流側バルブ流量はオブザーバ3へのフィードバックのみに用いられており、下流側バルブV2に印加される電圧を決定するためには直接は使用されない。電気的なノイズを含まない設定流量の目標値とオブザーバ3の流量の推定値の偏差に基づいて、下流側バルブV2が制御される。
【0064】
このように構成された流量制御装置100であれば、オブザーバ3によって下流側バルブV2を通過している流体の下流側バルブ流量をほとんど時間遅れと電気的なノイズが含まれない形で推定できる。このような推定値に基づいて下流側バルブ制御器4が下流側バルブV2の開度を制御するので、従来よりも応答性のよい流量制御を実現できる。
【0065】
また、上流側バルブV1は測定される上流側バルブ流量と設定流量の偏差が小さくなるように制御され、下流側バルブV2はオブザーバ3で推定される推定流量と設定流量の偏差が小さくなるように制御されるので、流体抵抗Rの前後の差圧を高速で変化させることができる。例えば設定流量を現状よりも大きくする場合には、上流側バルブ制御器7は、上流側圧力が大きくなるように上流側バルブV1を制御するとともに、下流側バルブ制御器4は下流側圧力が小さくなるように下流側バルブV2を制御する。設定流量が現状よりも小さくなる場合には、前述した逆の動作が実現される。したがって、2つのバルブによって上流側圧力と下流側圧力はそれぞれ逆方向に変化させることができるので、流量の増減を高速で調節できる。さらに、上流側圧力と前下流側圧力の平均圧力はほぼ一定の圧力に保つことができる。また、この平均圧力を抵抗流量の算出に適した低圧力に調節することで、圧力式の流量センサとしての感度も高く保つことができる。この結果、上流側バルブ流量の測定値や下流側バルブ流量の推定値の感度も高めることができ、流量制御における応答性をさらに向上させられる。
【0066】
次に第1実施形態の流量制御装置100の第1変形例について
図4を参照しながら説明する。この第1変形例では、オブザーバ3のオブザーバゲイン部32の構成が前述した実施形態と異なっている。具体的には、オブザーバゲイン部32は、流路を流れる流体の流量が安定している場合に用いられる第1オブザーバゲインOG1と、流路を流れる流体の流量が所定量以上変化している場合に用いられ、第1オブザーバゲインOG1よりも値が大きい第2オブザーバゲインOG2と、流量の状態に応じていずれのオブザーバゲインを用いるかを決定する切替器SWと、を具備している。各オブザーバゲインOG1、OG2には対応して積分器が設けられており、積分器の出力が、第1電圧生成回路模擬部5Mの出力する電圧に加算される。
【0067】
切替器SWは、例えば設定流量の目標値が一定値に保たれている区間では第1オブザーバゲインOG1が下流側バルブ流量の測定値と推定値の偏差に乗じられるようにし、設定流量の目標値がある値から別の値に立ち上がる、又は、立ちさがる場合には第2オブザーバゲインOG2が前述した偏差に乗じられるようにする。
【0068】
このように構成されているので、流量が大きく変化する場合には第2オブザーバゲインOG2が用いられて第1電圧生成回路模擬部5Mの出力する電圧の値が大きく修正されることになる。この結果、オブザーバ3による推定値の乖離が短時間で修正される。一方、設定流量の目標値が一定値の区間であり、流量が安定している場合には第1オブザーバゲインOG1が用いられて偏差に対する修正感度が抑えられる。すなわち、推定値と測定値との差が殆ど無い場合には突発的な外乱影響をオブザーバ3が受けにくくなり、ロバスト性が高くなった状態となる。
【0069】
次に第1実施形態の流量制御装置100の第2変形例について
図5を参照しながら説明する。第2変形例では下流側バルブ流量だけでなく、上流側バルブ流量についてもオブザーバによる推定を行い、さらに応答性の良い流量制御を実現している。具体的には、上流側バルブV1の開度を変化させる入力パラメータに基づいて前記上流側バルブ流量を推定する上流側バルブ流量推定モデルを具備するサブオブザーバ9をさらに備え、上流側バルブ制御器7が、設定流量の目標値とサブオブザーバ9の出力する上流側バルブ流量の推定値との偏差が小さくなるように上流側バルブV1の開度を制御する。なお、サブオブザーバ9の具体的には構成は
図2及び
図3で示した下流側バルブ流量を推定するオブザーバ3と対応する構成を有している。すなわち、サブオブザーバ9は、上流側バルブ制御器7の出力する開度指令に基づいて上流側バルブ流量を推定するとともに、その推定値と上流側バルブ流量算出器6の算出する測定値の偏差に所定のオブザーバゲインが乗じられて、上流側バルブ流量推定モデル内にフィードバックされるようにしている。
【0070】
このように第2変形例であれば、上流側バルブ流量と下流側バルブ流量の両方を数学的なモデルに基づくオブザーバによる推定値で得ることができ、より応答性や制御の安定性を向上させた流量制御を実現できる。
【0071】
次に本発明の第2実施形態の流量制御装置100について
図6を参照しながら説明する。なお、以下の各実施形態の説明では第1実施形態において説明した各部と対応する部分には同じ符号を付すこととする。
【0072】
第2実施形態の流量制御装置は、下流側バルブV2の制御構成は第1実施形態と同じであるが、上流側バルブV1が流量ではなく、圧力に基づいて制御される点が異なっている。
【0073】
具体的には上流側バルブ制御器は、ユーザにより設定される設定圧力と、上流側圧力センサP1で測定される上流側圧力との偏差に基づいて、上流側バルブV1を制御する。ここで、設定圧力は、下流側バルブ流量が設定流量で安定した場合において流体抵抗Rの前後において保たれるべき圧力差に基づいて設定される。
【0074】
このような流量制御装置100であれば、供給圧を一定に保ち、上流側からの圧力変動による外乱の影響を受けにくくした状態で下流側バルブV2を通過する下流側バルブ流量を制御できる。言い換えると、流体抵抗Rの前後の差圧が、第1実施形態ほどは高速で変化しにくくなる代わりに、流量制御の安定性は向上させられる。例えば供給される流体が液体原料等を気化させた原料ガス等の場合、発生量が安定しない場合でも一定の流量を供給し続けやすくなる。また、下流側バルブ流量をオブザーバ3で推定し、その推定値に基づいて制御を行うので、従来の単純な圧力フィードバック制御と流量フィードバック制御を組み合わせたものと比較して流量制御の応答性は向上させることができる。
【0075】
次に本発明の第3実施形態の流量制御装置100について
図7を参照しながら説明する。なお、以下の各実施形態の説明では第1実施形態において説明した各部と対応する部分には同じ符号を付すこととする。
【0076】
第3実施形態の流量制御装置100は第1実施形態と比較して上流側バルブ制御器7の構成が異なっている。すなわち、上流側バルブ制御器7には第1電圧生成回路5から下流側バルブV2に印加される電圧がフィードバックされ、ユーザにより設定される設定電圧との偏差に基づいて上流側バルブV1の開度が制御される。設定電圧は例えば下流側バルブV2において維持する開度に相当する電圧が入力される。上流側圧力センサP1、流体抵抗R、及び、下流側圧力センサP2を用いた圧力式の流量測定は低圧であるほど感度を高めることができる。したがって、設定電圧は所望の流量感度を実現できる低圧にまで減圧される開度に相当する電圧がユーザにより設定される。下流側バルブ制御器4は上流側の圧力に応じて下流側バルブV2に印加する電圧を制御し、オブザーバ3による下流側バルブ流量の推定値が設定流量と一致するように制御をしている。この状態で上流側バルブ制御器7は、流体抵抗Rの前後における圧力の絶対値が小さくなるように上流側バルブV1の開度を閉じていき、ガスの供給を絞る。この結果、所望の流量を実現しながら、流量制御装置100内のガスの圧力を下げていくことができ、流量の測定感度を高めることができる。
【0077】
次に本発明の第4実施形態の流量制御装置100について
図8を参照しながら説明する。
【0078】
第4実施形態の流量制御装置100は、
図8に示すように第1実施形態と比較して上流側バルブV1及び上流側バルブ制御器7が省略されている点で異なっている。
【0079】
このような第3実施形態の流量制御装置100であっても、従来との単一のバルブを備えた流量制御装置100と比較して、オブザーバ3の推定する時間遅れとノイズの少ない下流側バルブ流量に基づいて応答性の良い流量制御が可能となる。
【0080】
次に本発明の第5実施形態の流量制御装置100について
図9乃至
図11を参照しながら説明する。
【0081】
第5実施形態の流量制御装置100は、例えば下流側バルブ流量測定器VFS又は下流側バルブ流量測定器VFSを構成するセンサに異常が発生した場合には、下流側バルブ流量測定器VFSの測定値を流量制御に用いずに、オブザーバ3から出力される推定値のみで流量制御を継続するように構成されたものである。具体的には第5実施形態の流量制御装置100は、
図9及び
図10に示すように第1実施形態と比較して、異常モード切替器AMS、正常値記憶部、ロールバック部RBを備えている点が構成上異なっている。以下に各部について詳述する。
【0082】
異常モード切替器AMSは、少なくとも下流側バルブ流量測定器VFSにおいて異常が発生した場合に、流量制御装置100の制御構成を
図9に示す正常モードから
図10に示す異常モードに切り替える。より具体的には異常モード切替器AMSは、下流側バルブ流量測定器VFSの出力する流量の測定値、又は、下流側バルブ流量測定器VFS内で使用されている内部パラメータをモニタリングしており、モニタ値に基づいて下流側バルブ流量測定器VFSに異常が発生しているかどうかを判定する。また、異常モード切替器AMSは、下流側バルブ流量測定器VFSに異常が発生していると判定すると、流量制御装置100の制御構成を
図10に示すように下流側バルブ流量測定器VFSの出力する流量の測定値が流量制御ループ内で使用されないようにループを切断する。その代わりに異常モード切替器AMSはオブザーバ3で推定される流量のみで流量制御ループが構成されるように制御構成を切り替える。
【0083】
異常モード切替器AMSによる異常モードの判定は、例えば流れている流量がほぼ一定値に保たれる定常状態において行われる。言い換えると、設定流量の目標値がステップ状に変化し、流れている流量が過渡状態にある場合には異常モード切替器AMSは前述した偏差による異常判定を行わない。すなわち、異常モード切替器AMSは設定流量の目標値が一定に保たれている期間において、例えば下流側バルブ流量測定器VFSの測定する流量値と設定流量の目標値との偏差をモニタリングし、偏差の絶対値が予め定められた異常モード切替判定閾値を超えた場合に下流側バルブ流量測定器VFSに異常が発生していると判定する。なお、異常判定後には異常モード切替器AMSはユーザに対して異常が発生していることを通知するアラーム表示も継続して行う。
【0084】
正常値記憶部NMは、流量制御装置100が正常モードで動作している状態において下流側バルブ流量測定器VFSの測定する流量と、オブザーバ3の推定する流量の偏差(イノベーション)が所定の基準を満たす場合の値を正常値として記憶する。具体的には正常値記憶部NMは、設定流量の目標値が一定値に保たれている定常状態において、当該設定流量の目標値と下流側バルブ流量測定器VFSの出力する流量値との差の絶対値が正常値採用判定閾値よりも小さい場合に前述したイノベーションを正常値として記憶する。正常値記憶部NMは例えば最新の正常値のみを保持するようにしてもよいし、日時や時間とともに複数の正常値を保持してもよい。
【0085】
ロールバック部RBは、異常モード切替器AMSによって流量制御装置100の制御構成が異常モードに切り替えられた場合に、正常値記憶部NMに記憶されている正常値に所定値を乗じて算出される固定値を下流側バルブ流量推定モデル31に入力する。すなわち、異常モードではオブザーバゲイン部32を構成するロールバック部RBには下流側バルブ流量測定器VFS及び下流側バルブ流量測定器模擬部VFMの出力が入力されない。代わりにロールバック部RBは正常モードで動作していたときに入力されていた正常値を使用して、オブザーバゲイン部32としての出力を算出する。このため、異常モードでオブザーバゲイン部32から出力される値は下流側バルブ流量推定モデル31のモデル化誤差が正常モードと同じであるとの仮定のもとで出力されていることになる。
【0086】
このように構成された第5実施形態の流量制御装置100による正常モードと異常モードでの制御動作について
図11を参照しながら説明する。
【0087】
正常モードでの動作は第1実施形態における制御動作とほぼ同じであって、定常状態における下流側バルブ流量測定器VFSの測定する流量値と下流側バルブ流量測定器模擬部VFMの推定する流量値の偏差であるイノベーションの絶対値が正常値採用判定閾値よりも小さい場合にその値が正常値として正常値記憶部NMに記憶される。
【0088】
また、下流側バルブ流量測定器VFSにおいて何らかの異常が発生し、定常状態において下流側バルブ流量測定器VFSの出力する測定値と設定流量との差の絶対値が異常モード切替閾値よりも大きくなった場合には、異常モード切替部は異常が発生したと判定する。異常モード切替部は流量制御装置100の制御構成を異常モードに切り替え、下流側バルブ流量測定器VFSの出力がオブザーバ3で使用されないようにしつつ、オブザーバゲイン部32からの出力はロールバック部RBから出力される。すなわち、ロールバック部RBは正常値記憶部NMに記憶されている正常値に所定値を乗じた固定値を下流側バルブ流量推定モデル31へ出力する。この結果、オブザーバ3の状態は異常が発生する前の状態にロールバックされ、その状態から流量制御装置100における流量フィードバック制御はオブザーバ3の推定値のみで継続されることになる。
【0089】
このように構成された第5実施形態の流量制御装置100であれば、下流側バルブ流量測定器VFSを構成するセンサ等に異常が発生した場合でも、流量制御を中断せずにオブザーバ3の出力する流量の推定値のみに基づいて流量制御を継続できる。また、オブザーバ3で推定される流量は正常モードでのイノベーションに基づいて算出される値でモデル化誤差が修正されたものであるので、実際に流れている流量からの乖離を小さくできる。このため、流量制御装置100から供給される流量は設定流量に対して許容できる程度の誤差しか発生しないようにでき、プロセスを中断した場合よりもウエハの歩留まりを高く保つ事が可能となる。
【0090】
第5実施形態の流量制御装置100の変形例について説明する。
正常値記憶部NMに記憶されている正常値は前述したイノベーションではなく、正常モードにおいてオブザーバゲイン部32が出力していた値そのものであってもよい。このようなものの場合にはロールバック部RBは、正常値をそのまま下流側バルブ流量推定モデル31に対して入力するように構成すればよい。
【0091】
異常モード切替器AMSにおける異常判定アルゴリズムは前述したものに限られない。例えば、下流側バルブ流量測定器VFSの出力がオーバーレンジしている場合には異常が発生していると判定してもよい。また、下流側バルブ流量測定器VFSを構成する各種センサの出力や電気回路の出力に基づいて異常が発生しているかどうかを判定してもよい。
【0092】
例えば第1実施形態の流量制御装置100の構成をそのまま用いながら異常モードでも流量制御を所定の制御精度で継続できるようにするには、異常モード切替器AMSが異常モードにおいてはオブザーバゲイン部32に対してオブザーバゲインをゼロに変更するように構成されたものであればよい。
【0093】
その他の実施形態について説明する。
【0094】
上流側バルブ、及び、下流側バルブはピエゾバルブに限られるものではなく、その他のアクチュエータにより駆動されるものであっても構わない。各バルブは、例えばソレノイドバルブであっても構わないし、各バルブがそれぞれ同型のものでなくてもよい。
【0095】
流体抵抗は層流素子に限られるものではなく、例えばオリフィスや熱式流量センサを構成するための分流素子であってもよい。要するに流体抵抗は流路に設けられた抵抗体であり、流路抵抗と下流側バルブとの間の容積が仕切られて他の部分とは異なる圧力に変化させられるものであればよい。
【0096】
流体抵抗を流れる抵抗流量は、圧力式の流量センサで測定されるものに限られない。例えば流体抵抗として分流素子を用いるとともに、この分流素子を迂回する細管で形成されたバイパス流路に一対の温度測定素子を設けた熱式流量センサで抵抗流量が測定されてもよい。この場合には分流素子と下流側バルブとの間にある下流側容積の圧力を測定するために別途下流側圧力センサを設けることで、第1実施形態の流量制御装置と同等の制御が可能となる。
【0097】
オブザーバに下流側バルブ流量の推定のために入力される入力パラメータは、開度指令に限られない。入力パラメータは、例えば設定流量や、下流側バルブに入力される電圧であってもよい。入力パラメータの種類に応じてリアルシステム内の要素のうち、下流側バルブ流量推定モデル内に含まれる要素を増減させればよい。また、各要素のうちほぼ時間遅れ等が無視できる理想的な応答をするものについては、下流側バルブ流量推定モデルを構成する要素から外しても良い。すなわち、流量推定モデルは各実施形態において示した物に限られない。下流側バルブ流量推定モデルは、例えば制御系の各要素が満たす物理法則に基づいて数学的に方程式を立てたものであってもよいし、ステップ応答等から実験的に定めたものであってもよい。
【0098】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な実施形態の変形や、各実施形態の要素同士を組み合わせても構わない。
【符号の説明】
【0099】
100 :流量制御装置
P1 :上流側圧力センサ
P2 :下流側圧力センサ
V1 :上流側バルブ
V2 :下流側バルブ
VL1 :上流側容積
VL2 :下流側容積
COM :制御装置
1 :抵抗流量算出器
2 :下流側バルブ流量算出器
3 :オブザーバ
31 :下流側バルブ流量推定モデル
V2M :下流側バルブ模擬部
5M :第1電圧生成回路模擬部
VFM :下流側バルブ流量測定器模擬部
32 :オブザーバゲイン部
OG1 :第1オブザーバゲイン
OG2 :第2オブザーバゲイン
SW :切替器
4 :下流側バルブ制御器
41 :PID制御器
42 :開度指令生成器
5 :第1電圧生成回路
6 :上流側バルブ流量算出器
7 :上流側バルブ制御器
8 :第2電圧生成回路
9 :サブオブザーバ
AMS :異常モード切替器
NM :正常値記憶部
RB :ロールバック部