(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】付加縮合物を含む組成物、その製造方法及びその利用、重合反応器、並びに重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 61/04 20060101AFI20240808BHJP
C09D 161/00 20060101ALI20240808BHJP
C09D 7/40 20180101ALI20240808BHJP
C08G 8/00 20060101ALI20240808BHJP
C08F 2/00 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
C08L61/04
C09D161/00
C09D7/40
C08G8/00 C
C08F2/00 G
(21)【出願番号】P 2021119747
(22)【出願日】2021-07-20
【審査請求日】2023-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】山中 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】土屋 嘉克
(72)【発明者】
【氏名】薄 雅浩
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-095653(JP,A)
【文献】特開昭57-164107(JP,A)
【文献】特開2001-354705(JP,A)
【文献】特開平09-124709(JP,A)
【文献】特開昭55-013739(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
C08L
C09D
C08F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α-ナフトールと
ホルムアルデヒドとの付加縮合物と、溶媒とを含む組成物であって、
前記付加縮合物は、前記
α-ナフトール由来の構成単位2個以上が、それぞれ、前記
ホルムアルデヒド由来の構成単位1個を介して結合している芳香族化合物多量体であり、前記溶媒中で、触媒及び前記
α-ナフトール1モルに対して0.01
モル以上の量の界面活性剤(但し、前記付加縮合物を除く)の存在下、前記
α-ナフトールと前記
ホルムアルデヒドとを反応させて得られ、
前記界面活性剤は「藤田&小田らによる有機概念図法を用いたHLB値算出方法」に基づき算出されるHLB値が15以上50以下を満たす界面活性剤であり、
前記溶媒は前記組成物中95質量%以下の量で含まれ、
25℃で粘度が2.0mPa・s以上である溶液状であるか、又は、25℃でゲル状であることを特徴とする付加縮合物を含む組成物。
【請求項2】
25℃での粘度が2.5mPa・s以上である溶液状であることを特徴とする請求項1に記載の付加縮合物を含む組成物。
【請求項3】
前記界面活性剤が、アニオン性界面活性剤である請求項1
又は2に記載の付加縮合物を含む組成物。
【請求項4】
α-ナフトールと
ホルムアルデヒドとの付加縮合物と、溶媒とを含む組成物を製造するための製造方法であって、
反応溶媒中で、触媒及び前記
α-ナフトール1モルに対して0.01
モル以上の量の界面活性剤(但し、前記付加縮合物を除く)の存在下、前記
α-ナフトールと前記
ホルムアルデヒドとを付加縮合反応させ、前記付加縮合物を得る工程を有し、
前記付加縮合物は、前記
α-ナフトール由来の構成単位2個以上が、それぞれ、前記
ホルムアルデヒド由来の構成単位1個を介して結合している芳香族化合物多量体であり、前記界面活性剤は、「藤田&小田らによる有機概念図法を用いたHLB値算出方法」に基づき算出されるHLB値が15以上50以下を満たす界面活性剤であり、前記付加縮合物を含む組成物は、前記溶媒を95質量%以下の量で含み、25℃で粘度が2.0mPa・s以上である溶液状であるか、又は、25℃でゲル状であることを特徴とする付加縮合物を含む組成物の製造方法。
【請求項5】
前記触媒がアルカリ金属水酸化物である請求項
4に記載の付加縮合物を含む組成物の製造方法。
【請求項6】
前記界面活性剤が、アニオン性界面活性剤である請求項
4又は
5に記載の付加縮合物を含む組成物の製造方法。
【請求項7】
単量体を重合する際に使用される重合反応器であって、前記単量体が接触する内壁面表面に請求項1~
3のいずれか1項に記載の付加縮合物を含む組成物に含まれる前記付加縮合物が付着していることを特徴とする重合反応器。
【請求項8】
更に、重合反応中に単量体を凝縮させるためのリフラックスコンデンサを備えた請求項
7に記載の重合反応器。
【請求項9】
前記単量体がエチレン性不飽和基含有単量体である請求項
7又は
8に記載の重合反応器。
【請求項10】
前記エチレン性不飽和基含有単量体が塩化ビニルである請求項
9に記載の重合反応器。
【請求項11】
請求項
7~
10のいずれか1項に記載の重合反応器内において、前記単量体を重合することを特徴とする重合体の製造方法。
【請求項12】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の付加縮合物を含む組成物の塩化ビニル又は塩化ビニルを主体とする単量体混合物を重合する際に用いる重合体スケール付着防止剤としての利用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合体スケール付着防止剤、重合反応器及び上記重合体スケール付着防止剤の製造方法、並びに重合体の製造方法に関し、特に、エチレン性二重結合を有する単量体を重合反応器内において重合させて重合体を製造する際、重合反応器内壁面等への重合体スケールの付着を防止する性能を有する重合体スケール付着防止剤、該重合体スケール付着防止剤が塗布された重合反応器及び上記重合体スケール付着防止剤の製造方法、並びに重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン性二重結合を有する単量体を重合すると、該重合体がスケールとして重合反応器内壁面等に付着することが知られている。この重合体スケールの付着は、重合バッチ数を重ねるに従い顕著なものとなり、重合体の収率、重合反応器内の冷却能力等を低下させる。また、重合反応器内壁面等から剥離した重合体スケールが得られた重合体に混入して製品の品質が低下するという問題がある。そして、重合反応器内壁面等に付着した重合体スケールの除去作業は、過大な労力と時間を要するのみならず、重合体スケール中に含まれる未反応の単量体が人体に傷害を及ぼす危険性もある。
【0003】
従来、エチレン性二重結合を有する単量体の重合に際し、重合体スケールが重合反応器内壁面等へ付着することを防止するために、重合反応器内壁面、撹拌機等に、重合体スケール付着防止剤(以下、「スケール防止剤」ともいう。)を塗布して塗膜を形成する方法が知られている。この重合体スケール付着防止剤としては、例えば、ナフトール類とカルボニル化合物との縮合反応生成物及び有機リン酸化合物(更には水溶性染料)の混合物(特許文献1)等が知られている。
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の重合体スケール付着防止剤は、触媒量又は有機溶媒量によっては、前記芳香族化合物と前記カルボニル化合物との縮合物が凝集を起こし、この凝集状態での反応(局所的高濃度反応)による塊化を起こし縮合反応生成物を均一な溶液の状態で得られないという問題があった。
【0005】
更に、上記特許文献1に記載の重合体スケール付着防止剤は、重合反応器の内壁面に吸着された重合体スケール付着防止剤、重合助剤及び未反応カルボニル化合物が原因となり重合バッチを重ねる毎に堆積してしまい、その結果、総括伝熱係数を著しく低下させることが明らかとなった。具体的には、1000バッチ程度では50μmの厚みとなり総括伝熱係数は15%程度となる。更に、重合バッチ数が約1000バッチ以上と多くなると、重合体スケール付着防止性塗膜の凹凸上に重合体スケールが付着し始め、付着した重合体スケールが成長していき、その成長の度合いが増すと、ついには剥離して得られた重合体に混入し、重合体製品のフィッシュアイを生じさせる原因となるという問題があった。
【0006】
また、上記特許文献1に記載の重合体スケール付着防止剤を用いて調製した塗布剤を
図2に示すように塗布した場合、缶壁への塗膜付着量が多く重合及び塗布を繰り返すことによって厚く蓄積し、この蓄積物は上述のように重合反応器の総括伝熱係数の低下や重合体製品のフィッシュアイを生じさせる原因となるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、縮合物が縮合反応中に塊化することがなく、縮合反応生成物を均一な溶液などの状態で得られる反応系を提供し、特に、エチレン性二重結合を有する単量体の重合体製造用の重合体スケール付着防止剤として、重合反応器内壁面等に重合体スケールの付着防止を実現し得る極薄い塗膜を形成することができ、上記重合体の生産性を向上させることができる付加縮合物を含む組成物、該付加縮合物を含む組成物の製造方法、該付加縮合物が付着している重合反応器及び重合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、界面活性剤を添加することによって、前記芳香族化合物と前記カルボニル化合物との縮合物の凝集を起因とする塊化を防止し、縮合反応生成物を均一な溶液などの状態で得られることを見出した。更に、得られた溶液をエチレン性二重結合を有する単量体の重合体製造用の重合反応器の内壁面表面に重合体スケール付着防止剤として塗布すると、従来より薄い重合体スケールの付着防止層を形成でき、かつ十分なスケール付着防止性能を発揮することを見出した。つまり、重合体スケール付着防止剤は前述の通り、重合反応器ジャケットの総括伝熱係数を低下させる原因となるが、本発明品を用いることでこの堆積を効果的に防止できる。更に、効果的な重合体スケール付着防止剤を見極めるパラメータとして粘度及び溶媒量が挙げられることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
なお、本明細書において、「塊化」とは「大きな凝集物、攪拌を不安定にさせるほどの凝集物、再分散せず、回収時にも凝集状態である凝集物」を意味する。一方、界面活性剤を添加した場合は「凝集」は起こる場合があるが、その凝集物が細かいために攪拌は不安定化せず、さらに反応進行に伴って溶解(分散)し均一状態になる。このように、この「凝集」は、「塊化」とは程度が異なっている。
【0010】
従って、本発明は、下記の芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物を含む組成物、該付加縮合物を含む組成物の重合体スケール付着防止剤としての利用、該重合体スケール付着防止剤が塗布された重合反応器及び上記重合体スケール付着防止剤の製造方法、並びに重合体の製造方法を提供する。
【0011】
〔1〕 芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物と、溶媒とを含む組成物であって、上記付加縮合物は、上記芳香族化合物由来の構成単位2個以上が、それぞれ、上記カルボニル化合物由来の構成単位1個を介して結合している芳香族化合物多量体であり、上記溶媒中で、触媒及び上記芳香族化合物に対して0.01当量以上の界面活性剤(但し、上記付加縮合物を除く)の存在下、上記芳香族化合物と上記カルボニル化合物とを反応させて得られ、上記界面活性剤は「藤田&小田らによる有機概念図法を用いたHLB値算出方法」に基づき算出されるHLB値が15以上50以下を満たす界面活性剤であり、上記溶媒は上記組成物中95質量%以下の量で含まれ、25℃で粘度が2.0mPa・s以上である溶液状であるか、又は、25℃でゲル状であることを特徴とする付加縮合物を含む組成物。
〔2〕 25℃での粘度が2.5mPa・s以上である溶液状であることを特徴とする〔1〕に記載の付加縮合物を含む組成物。
〔3〕上記芳香族化合物がナフトール類である〔1〕又は〔2〕に記載の付加縮合物を含む組成物。
〔4〕 上記カルボニル化合物がアルデヒド化合物又はケトン化合物である〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の付加縮合物を含む組成物。
〔5〕 上記芳香族化合物が下記一般式(1)で表される化合物であり、上記カルボニル化合物が下記一般式(2)で表されるアルデヒド化合物である〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の付加縮合物を含む組成物。
【0012】
【0013】
R1-CHO (2)
(上記一般式(1)、(2)において、R1、R2、R3は、それぞれ水素原子又は炭化水素基である。)
〔6〕 上記芳香族化合物がα-ナフトールであり、上記カルボニル化合物がホルムアルデヒドである〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の付加縮合物を含む組成物。
〔7〕 上記界面活性剤が、アニオン性界面活性剤である〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の付加縮合物を含む組成物。
〔8〕 芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物と、溶媒とを含む組成物を製造するための製造方法であって、反応溶媒中で、触媒及び上記芳香族化合物に対して0.01当量以上の界面活性剤(但し、上記付加縮合物を除く)の存在下、上記芳香族化合物と上記カルボニル化合物とを付加縮合反応させ、上記付加縮合物を得る工程を有し、上記付加縮合物は、上記芳香族化合物由来の構成単位2個以上が、それぞれ、上記カルボニル化合物由来の構成単位1個を介して結合している芳香族化合物多量体であり、上記界面活性剤は、「藤田&小田らによる有機概念図法を用いたHLB値算出方法」に基づき算出されるHLB値が15以上50以下を満たす界面活性剤であり、上記付加縮合物を含む組成物は、上記溶媒を95質量%以下の量で含み、25℃で粘度が2.0mPa・s以上である溶液状であるか、又は、25℃でゲル状であることを特徴とする付加縮合物を含む組成物の製造方法。
〔9〕 上記芳香族化合物がα-ナフトールであり、上記カルボニル化合物がホルムアルデヒドであり、上記触媒がアルカリ金属水酸化物である〔8〕に記載の付加縮合物を含む組成物の製造方法。
〔10〕 上記界面活性剤が、アニオン性界面活性剤である〔8〕又は〔9〕に記載の付加縮合物を含む組成物の製造方法。
〔11〕 単量体を重合する際に使用される重合反応器であって、上記単量体が接触する内壁面表面に〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の付加縮合物を含む組成物に含まれる上記付加縮合物が付着していることを特徴とする重合反応器。
〔12〕 更に、重合反応中に単量体を凝縮させるためのリフラックスコンデンサを備えた〔11〕に記載の重合反応器。
〔13〕 上記単量体がエチレン性不飽和基含有単量体である〔11〕又は〔12〕に記載の重合反応器。
〔14〕 上記エチレン性不飽和基含有単量体が塩化ビニルである〔13〕に記載の重合反応器。
〔15〕 〔11〕~〔14〕のいずれかに記載の重合反応器内において、上記単量体を重合することを特徴とする重合体の製造方法。
〔16〕 〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の付加縮合物を含む組成物の塩化ビニル又は塩化ビニルを主体とする単量体混合物を重合する際に用いる重合体スケール付着防止剤としての利用。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法によれば、前記芳香族化合物と前記カルボニル化合物との縮合物の凝集を起因とする塊化が防止され、縮合反応生成物を均一な溶液などの状態で得られる。また、本発明の縮合物によれば、エチレン性二重結合を有する単量体の重合体製造用の重合反応器の内壁面表面に重合体スケール付着防止剤として、重合反応器内壁面等に重合体スケールの付着防止を実現し得る薄い塗膜を形成することができ、上記重合体の生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物を含む組成物を塗布するために用いられる道具の一例を示す概略図である。
【
図2】
図2は、本発明の芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物を含む組成物を塗布するために用いられる方法の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0017】
<付加縮合物を含む組成物>
本発明の付加縮合物を含む組成物は、芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物と、溶媒とを含む。上記組成物中、溶媒は95質量%以下の量で含まれる。具体的には、上記組成物は、芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物を含む、25℃で粘度が2.0mPa・s以上である溶液状(溶液)であるか、又は、25℃でゲル状である。上記付加縮合物は、上記芳香族化合物由来の構成単位2個以上が、それぞれ、上記カルボニル化合物由来の構成単位1個を介して結合している芳香族化合物多量体であり、反応溶媒中で、触媒及び界面活性剤の存在下、上記芳香族化合物と、上記カルボニル化合物と、を反応させることによって得られる。また、上記組成物に界面活性剤を含んでいることにより、重合体スケール付着防止剤として本発明の付加縮合物を含む組成物を用いた際に、本発明中の付加縮合物の重合反応器への付着量は抑制され、その塗膜は薄くなり、かつ十分なスケール付着防止性能を発揮できる。この塗膜の付着量は高速液体クロマトグラムのピーク面積から算出される。また、塗膜付着量が少ないことから、多数回の重合バッチを繰り返しても、重合体スケール付着防止剤、重合助剤及び未反応カルボニル化合物が原因となる堆積物が生成しないため、重合反応器ジャケットの総括伝熱係数低下を効果的に防止できる。更に、上記特許文献1に記載の重合体スケール付着防止剤では、塗膜付着量が多く、重合反応器ジャケットの総括伝熱係数低下を十分効果的に防止することはできない。
【0018】
ここで、具体的には、芳香族化合物は、付加縮合物中で芳香族化合物由来の構成単位(A)を構成する部分を有する。また、カルボニル化合物は、付加縮合物中でカルボニル化合物由来の構成単位(B)を構成する部分を有する。本明細書において、芳香族化合物二量体は、A-B-Aの構造を有する化合物を意味し、芳香族化合物多量体は、「A」と「B」とが交互に並んだA-B-A-…-B-Aの構造を有する化合物を意味する。
【0019】
また、本発明の付加縮合物を含む組成物は、通常、該付加縮合物を含む溶液又はゲルとして調製される。具体的には、この付加縮合物を含む組成物は、芳香族化合物と、カルボニル化合物と、触媒と、界面活性剤とを反応溶媒中で混合し、上記芳香族化合物と上記カルボニル化合物との付加縮合反応によって得られた付加縮合物を含む組成物である。
【0020】
[芳香族化合物]
具体的には、芳香族化合物としては、ベンゼン誘導体、ナフタリン誘導体、多核芳香族化合物、非ベンゼン系芳香族化合物などが挙げられる。ベンゼン誘導体、ナフタリン誘導体、多核芳香族化合物、及び非ベンゼン系芳香族化合物に含まれる共役π結合は3~20個であるものが好ましい。これらは1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0021】
上記のベンゼン誘導体としては、フェノール類及びそれらの誘導体、例えば、フェノール、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、3,5-ジメチルフェノール;芳香族アミン類及びそれらの誘導体、例えば、ピリジン、キノリン、カルバゾール、o-フェナントロリン、p-フェナントロリン、3,6-ジアミノアクリジン、3-アミノフェノチアジン、2-アミノフェナジン、フェノチアジン、2-ヒドロキシ-4-メチルキノリン;ニトロ及びニトロソ誘導体、例えば、ニトロベンゼン、フェナジン、フェナジンオキシド、1-フェニルアゾ-2-ナフトール、トリフノジオキサジン、4-ニトロキサントン;芳香族アルデヒド、例えば、ベンズアルデヒド、ベンゾフラビン;アルデヒド基以外に更に1種の置換基を有するベンゼン誘導体、例えば、1-ヒドロキシ-2,4-メチルフルオロン、3-フェニルクマロン、クマリン-3-カルボン酸エチルエステル、3-アセチルクマリン、5-クロロ-3-(4-ヒドロキシフェニル)アントラニル、3-ニトロアクリドン;アシル基以外に更に1種の置換基を有するベンゼン誘導体、例えば、キサントン、2-ベンゾイルキサントン、キサンテン、フルオレン;3種類以上異なった置換基を有するベンゼン、トルエン誘導体、例えば、7-アセトキシ-8-メトキシ-3-(2-ニトロフェニル)カルボステリル;アラルキル化合物、例えば、9-ベンジルアクリジン;ジアゾ化合物及びアゾ化合物、例えば、1,1’-アゾナフタリン、アゾキシフェノール等が挙げられる。
【0022】
ナフタリン誘導体としては、アルキル、アルケニル及びフェニルナフタリン類、例えば、2-メチルナフタリン、1-エチルナフタリン、2-エチルナフタリン、1,2-ジメチルナフタリン;ジナフチル類、例えば、1,1’-ジナフチル、1,2’-ジナフチル、2,2’-ジナフチル;ナフチルアリールメタン類、例えば、1-ベンジルナフタリン、2-ベンジルナフタリン、1-(α,α-ジクロールベンジル)ナフタリン、ジフェニル-α-ナフチルメタン、ジフェニル-β-ナフチルメタン、ジ-α-ナフチルメタン;ナフチルアリールエタン類、例えば、1,2-ジ-α-ナフチルエタン、1,2-ジ-β-ナフチルエタン;ヒドロナフタリン類、例えば、1,2-ジヒドロナフタリン、1,4-ジヒドロナフタリン、1,2,3,4-テトラヒドロナフタリン;ニトロナフタリンとその誘導体、例えば、ニトロメチルナフタリン、ニトロアルキルナフタリン、ニトロフェニルナフタリン、ハロニトロナフタリン、ハロジニトロナフタリン、ニトロソナフタリン、ジアミノナフタリン、トリアミノナフタリン、テトラアミノナフタリン;ハロゲン化ナフタリン類、例えば、1-フルオルナフタリン、1-クロールナフタリン、1-クロール-3,4-ジヒドロナフタリン;ナフチルヒドロキシルアミン、ナフチルピラジン及びナフチル尿素類、例えば、α-ナフチルヒドロキシルアミン、β-ナフチルチオヒドロキシルアミン、N-ニトロソ-α-ナフチルヒドロキシルアミン、α-ナフチルヒドラジン、1,2-ジベンゾカルバゾール;ナフタリン系アラルキル化合物、例えば、ジベンゾアントラセン、アセナフテン、ジフェニルナフチルクロールメタン、ニトロメチルナフタリン;ナフトアルデヒド類及びその誘導体、例えば、α-ナフトアルデヒド、2-(2,4-ジニトロフェニル)-1-(α-ナフチル)エチレン;アセトナフテン、ベンゾイルナフタリン類、例えば、(1,2又は5,6-)ジベンズアントラセン、2’-メチル-2,1’-ジナフチルケトン、2-メチル-1,1’-ジナフチルケトン、スチリル-2-ナフチルケトン;ナフトール類、例えば、1-ナフトール(α-ナフトール)、2-ナフトール、1,3-ジヒドロキシ-ナフタレン、1,5-ジヒドロキシナフタレン及び1,7-ジヒドロキシナフタレン、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、2-ヒドロキシ-1-ナフトエ酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、1-ヒドロキシ-8-ナフトエ酸等が挙げられる。
【0023】
多核芳香族化合物としては、アントラセン類及びその誘導体、例えば、アントラセン、1,2-ジヒドロアントラセン、1-クロールアントラセン、1,4-ジクロールアントラセン、1-ニトロアントラセン、9,10-ジニトロアントラセン、1-アミノアントラセン、2-ジメチルアミノアントラセン、2-アニリノアントラセン、9-メチルアミノアントラセン、1,4-ジアミノアントラセン;フェナントレン類及びその誘導体、例えば、フェナントレン、9,10-ジヒドロフェナントレン、1,2,3,4-テトラヒドロフェナントレン、1-クロールフェナントレン;或いは、多核芳香族化合物及びその誘導体、例えば、ペンタセン、ヘキサセン、ベンゾフェナントレン、ベンゾ〔a〕アントラセン、ピレン、コロネン等が挙げられる。
【0024】
更に、非ベンゼン系芳香族化合物としては、例えば、アズレン、シクロデカペンタン、シクロテトラデカヘプタン、シクロオクタデカノナエン、シクロテトラコサドデカエン、ヘプタレン、フルバレン、セスキフルバレン、ヘプタフルバレン、ペリナフテン等が挙げられる。
【0025】
これらのうちで、温和な条件で経済的に反応可能であるという観点から、ナフトール類が好適に用いられる。また、芳香族化合物としては、下記一般式(1)で表される芳香族化合物がより好適に用いられ、α-ナフトールが更に好適に用いられる。
【0026】
【0027】
上記一般式(1)において、R2、R3は、それぞれ水素原子又は炭化水素基である。炭化水素基としてはメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、n-オクチル基等が挙げられる。
【0028】
[カルボニル化合物]
カルボニル化合物としてはカルボニル基を有する有機化合物であれば特に制限なく使用することができる。カルボニル化合物としてはアルデヒド類(アルデヒド化合物)、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、テレフタルアルデヒド;ケトン類(ケトン化合物)、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、アセチルアセトン等が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。また、カルボニル化合物としては、下記一般式(2)で表されるアルデヒド化合物が好適に用いられる。
R1-CHO (2)
【0029】
上記一般式(2)において、R1は、水素原子又は炭化水素基である。上記に例示したカルボニル化合物の中でも、工業的及び経済的観点からホルムアルデヒド及びアセトアルデヒドがより好適である。
【0030】
[触媒]
触媒としてはブレンステッド酸、例えば、塩酸、硫酸、りん酸、クエン酸;ルイス酸、例えば、塩化アルミニウム、モノボラン、ジボラン、三フッ化ホウ素、アルミナ;塩基、例えばアンモニア、トリエチルアミン、アルカリ金属水酸化物(水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)等が挙げられる。
【0031】
[反応溶媒]
反応溶媒としては反応温度、反応圧力で液体であれば特に制限なく使用する事ができる。反応溶媒としては例えば、水、又は、アルコール類、ケトン類、エステル類等の有機溶媒が挙げられ、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類及び酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類が挙げられる。なお、上記反応溶媒は、本発明の付加縮合物を含む組成物において、芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物と共に含まれる溶媒となる。反応溶媒は組成物中、反応溶媒以外の成分を効率良く塗布する観点から95質量%以下含まれることがよく、さらには95~50質量%含有することがよい。
【0032】
[界面活性剤]
界面活性剤としては、上記付加縮合物を除く界面活性剤が用いられる。更に、上記界面活性剤は、「藤田&小田らによる有機概念図法を用いたHLB値算出方法」に基づき算出されるHLB値が15以上50以下を満たす界面活性剤である。更に、非高分子の界面活性剤であることがより好ましい。界面活性剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロール、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデカンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、セチル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸カリウム、フェニルフェノールナトリウム、スクロース、マルトース、グルコース、フルクトース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、安息香酸ナトリウム、直鎖型ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、分岐型ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデカン酸ナトリウム、オクタン酸ナトリウム、ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム、1-ナフタレンスルホン酸ナトリウム、ヘキサデカンスルホン酸ナトリウム、オクタンスルホン酸ナトリウム、エタノール、エトキシエタノール、t-ブタノール、プロパノール、メトキシエタノール、グリセリン、酢酸、リンゴ酸、サリチル酸、プロピオン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、クエン酸、アスコルビン酸、エチレンジアミン四酢酸、ヒスチジン、エタノールアミン、デキストリン、ラウリルベタイン、ナイアシンアミド、トリイソプロパノールアミン、クオタニウム-22、クオタニウム-45等が挙げられ、好ましくは、ドデシル硫酸ナトリウム、ヘキサデカンスルホン酸ナトリウム、ドデカン酸ナトリウム、ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム、オクタンスルホン酸ナトリウム、1-ナフタレンスルホン酸ナトリウム、プロパノール、エタノール、1-メトキシエタノールであり、該群の中で1種又は2種以上選択して使用可能である。また、該群にない化合物を用いて本縮合反応系内で該群の物質を生成させても良い。これらの界面活性剤のHLBとしては15~50であり、好ましくは20~50であり、さらに好ましくは25~50が望ましい。ここでいう非高分子とは、重量平均分子量が10000未満の化合物を指し、たとえば、重合体又は縮合体であれば、重合度又は縮合度で表される値にモノマー単位の分子量を乗じた際の値(平均分子量)が10000未満の化合物を指し、10000以上の化合物は含まない。また、界面活性剤は、アニオン性界面活性剤であることが好ましい。
【0033】
上記有機概念図法とは、有機化合物について極性部分と非極性部分の割合がその化合物の物性に関わるとし、全ての化合物を無機性基(親水基)と有機性基(疎水基)に分類し、それらの指標値で表示する手法である。指標値は、著者:堀内照夫、書名:乳化基礎理論、巻数:44巻1号、発行所:日本化粧品技術者会誌、発行年月日:(Published)2010年3月20日,(Released)2010年4月26日、ページ:2-22(https://www.jstage.jst.go.jp/browse/sccj/44/1/_contents/-char/en)の表1に示されている。
【0034】
HLB値は、表1に示される無機性及び有機性の数値を用いて以下の式(3)により求められる。
【0035】
【0036】
なお、「有機概念図法」の概念では、あらゆる物質のHLB値を計算できるため、あらゆる物質を界面活性剤として考えることができる。また、上記付加縮合物は、具体的に系中では付加縮合物及び付加縮合物のナトリウム塩等の塩の状態で存在している。また、一般的に混合物のHLB値は各成分のHLB値の加重平均で表される。付加縮合物及び付加縮合物のナトリウム塩等の各モノマー単位のHLB値は、例えば、芳香族化合物:1-ナフトール、カルボニル化合物:ホルムアルデヒド、触媒:水酸化ナトリウムである場合、前者:約7、後者:約30となる。つまり系中における前者と後者の存在比率によっては、「HLB値が15以上50以下を満たす界面活性剤」には、上記付加縮合物もその範囲に入ることがある。このため、上記のように、「界面活性剤(但し、上記付加縮合物を除く)」としている。
【0037】
また、本発明では大きな凝集物の発生防止目的で上記界面活性剤を縮合反応終了前に添加する。かつ、上記界面活性剤が添加されたことで塗膜の水溶性がよくなり、低蓄積性の性質を発現している。
【0038】
上記芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物は、これらの反応成分を、反応溶媒中で、触媒と界面活性剤存在下、通常、室温~200℃で1~100時間、好ましくは30~150℃で1~30時間反応させることにより製造される。ここで、界面活性剤は、芳香族化合物に対して0.01当量以上の量となるように、好ましくは0.01~5当量の量となるように用いる。或いは、芳香族化合物及びカルボニル化合物及び触媒及び界面活性剤の各々を1種単独でも2種類以上組み合わせて使用してもよい。界面活性剤が添加されるタイミングは縮合反応が終了する以前であれば特に制限はないが、界面活性剤が添加されていない状態で芳香族化合物とカルボニル化合物が混合された場合には、即塊化してしまうことがある。また、混合直後には塊化しなくても時間経過や昇温によって塊化することもある。塊化した後で界面活性剤を添加しても再分散は困難であるため、芳香族化合物とカルボニル化合物が混合される前、すなわちどちらも添加されていない、またはどちらか一方のみ添加されている状態で界面活性剤を添加することが望ましい。
【0039】
上記縮合反応を行う媒体のpHは通常1~14の範囲であり、pH調整剤は、特に制限はなく使用することができるが、縮合物の溶解性を良好に保つ点から、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物を用いることが好適である。
【0040】
縮合反応を行う際の芳香族化合物とカルボニル化合物との比は、使用する芳香族化合物、カルボニル化合物、反応溶媒及び触媒の種類、反応時間、反応温度等により適宜選定され、通常、芳香族化合物1モルに対してカルボニル化合物を0.1~10モル、好ましくは0.5~3.0に設定することが好適である。
【0041】
このようにして、付加縮合物を含む組成物が得られる。この組成物中の付加縮合物は、上記芳香族化合物由来の構成単位2個以上(好ましくは2個~50個)が、それぞれ、上記カルボニル化合物由来の構成単位1個を介して結合している芳香族化合物多量体である。
【0042】
通常、付加縮合物には、芳香族化合物二量体とともに、芳香族化合物三量体(A-B-A-B-Aで表される化合物)から、芳香族化合物50量体(A-B-A-…-B-Aで表され、Aが50個含まれる化合物)までが含まれている。
【0043】
芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物の重量平均分子量は200以上100,000以下であるものが好ましい。この場合の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量を意味し、以下の記載についても同様である。
【0044】
上記のように、本発明の付加縮合物を含む組成物は、25℃で粘度が2.0mPa・s以上である溶液状(溶液)であるか、又は、25℃でゲル状である。具体的には、縮合反応終了後そのままの状態で(pH調整剤・還元剤含有溶液の添加前の時点で)、本発明の付加縮合物を含む組成物は、25℃で粘度が2.0mPa・s以上である溶液状(溶液)であるか、又は、25℃でゲル状である。なお、本明細書において、縮合反応終了後そのままの状態にある溶液を原液ともいう。塗布液調製時の原液の扱い易さを考慮すれば、好ましい粘度の範囲は下限値としては2.0mPa・s以上、好ましくは2.5mPa・s以上、さらに好ましくは3.0mPa・s以上がよい。これは、2.0mPa・sを下回る場合、付加縮合反応が十分に進行しておらず十分なスケール付着防止効果が得られないため、または原液中の付加縮合物濃度が薄く、十分なスケール付着防止を得るのに大量に塗布する必要があり、塗布時間や塗布液量が増大することで生産性が低下するためである。また、上限値としては扱い易さおよびポンプへの負荷を考えると1000mPa・s以下、好ましくは500mPa・s以下、さらに好ましくは100mPa・s以下がよい。より好ましくは2.5~100mPa・s、特に好ましくは3.0~100mPa・sがよい。
【0045】
縮合反応終了後の付加縮合物を含む溶液は、そのまま、重合体スケール付着防止剤として用いてもよい。また、付加縮合物を含む溶液を重合体スケール付着防止剤として用いる場合、該溶液中において、付加縮合物は、0.1質量%以上15質量%以下の量で含まれていることが好ましい。なお、溶媒等を添加して、付加縮合物の量を調整することができる。また、縮合反応終了後の付加縮合物を含むゲルは、通常、加熱することで溶液状態へと戻る。また、重合体スケール付着防止剤の調製時に溶媒等で希釈することでゲル化の性質を消失することから、スケール付着防止剤としての使用に何ら問題はない。
【0046】
付加縮合物を含む溶液には、任意のタイミングで下記の成分を更に添加してもよい。
【0047】
[還元剤]
還元剤の添加によって、縮合反応によって得られる縮合反応生成物を含む組成物の均一安定性が向上し、また、長期間保存してもゲル化物が生成することがなく、ゲル化物が重合体製品中に混入することが未然に防止されて製品の品質に影響が及ぶことがないという利点がある。更に、本発明の付加縮合物から得られるスケール防止性塗膜のスケール付着防止効果が向上するという利点もある。還元剤としては、亜硫酸塩、亜りん酸塩、亜硝酸塩、還元糖類、及び二酸化チオ尿素が挙げられる。
【0048】
亜硫酸塩としては、例えば、亜硫酸アンモニウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素アンモニウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜二チオン酸ナトリウム(Na2S2O4)、ロンガリット等が挙げられる。
【0049】
亜りん酸塩としては、例えば、亜りん酸アンモニウム、亜りん酸ナトリウム、亜りん酸カリウム、亜りん酸カルシウム、亜りん酸ウラニル、亜りん酸コバルト、亜りん酸第一鉄、亜りん酸第二鉄、亜りん酸銅、亜りん酸バリウム、亜りん酸ヒドラジニウム、亜りん酸水素アンモニウム、亜りん酸水素ナトリウム、亜りん酸水素カリウム、亜りん酸水素カリウム、亜りん酸水素カルシウム、亜りん酸水素コバルト、亜りん酸水素第一銅、亜りん酸水素第二銅、亜りん酸水素第一鉄、亜りん酸水素第二鉄、亜りん酸水素鉛、亜りん酸水素バリウム、亜りん酸水素マグネシウム、亜りん酸水素マンガン、亜りん酸水素ヒドラジニウム等が挙げられる。
【0050】
亜硝酸塩としては、例えば、亜硝酸アンモニウム、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸カルシウム、亜硝酸亜鉛、亜硝酸銀、亜硝酸コバルトカリウム、亜硝酸コバルトナトリウム、亜硝酸ストロンチウム、亜硝酸セシウム、亜硝酸セリウム、亜硝酸第二銅、亜硝酸ニッケル、亜硝酸バリウム、亜硝酸マグネシウム、亜硝酸リチウム、亜硝酸ルビジウム等が挙げられる。
【0051】
還元糖類とは、遊離のアルデヒド基又はカルボニル基を有し、かつ還元性を示す糖類である。その例としては、マルトース、ラクトース、ぶどう糖(グルコース)等が挙げられる。
【0052】
これら還元剤は1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。また、上記に例示した還元剤の中でも、亜硫酸塩及び二酸化チオ尿素が好ましい。
【0053】
この還元剤を使用する場合、その使用量は、付加縮合物100質量部に対して、通常0.01~10質量部、好ましくは0.1~3質量部程度である。
【0054】
[水溶性高分子]
上記芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物を含む組成物には、塗膜の親水性を高めてスケール付着防止性能を向上させるために、アニオン性高分子化合物、両性高分子化合物、カチオン性高分子化合物、ノニオン性高分子化合物及びヒドロキシル基含有高分子等の水溶性高分子を添加することができる。ただし、組成物に使用する界面活性剤を除く。ここでいう高分子とは、重量平均分子量が10000以上の化合物を指し、たとえば、重合体又は縮合体であれば、重合度又は縮合度で表される値にモノマー単位の分子量を乗じた際の値(平均分子量)が10000以上の化合物を指し、10000未満の化合物は含まない。水溶性高分子を添加する場合、水溶性高分子のK値については塗膜の親水性を高める性能が十分で、かつ溶媒への溶解性に問題のない範囲のK値とすることが好適である。具体的には、水溶性高分子のK値〔Fikentscherの式に基づくK値(25℃)〕が10以上200以下であることが好ましく、80以上150以下であることがより好ましい。水溶性高分子の含有量については、溶液の粘度上昇により取扱いに問題が出ない範囲内の量とすることが好適である。具体的には、水溶性高分子の含有量が0.001質量%以上50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.01質量%以上30質量%以下である。
【0055】
[pH調整剤]
上記芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物を含む組成物のpHについては、使用される化合物の種類により適宜選択することができる。pH調整が必要な場合、pH調整剤として、酸及びアルカリ化合物を適宜使用することができる。酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、りん酸、二りん酸、myo-イノシトール-1,2,3,4,5,6-六りん酸等が例示される。アルカリ化合物としては、LiOH、NaOH、KOH、Na2CO3、Na2HPO4等のアルカリ金属化合物やNH3、メチルアミン、エチルアミン、エチレンジアミン等のアミン系化合物が例示される。pHを調整した場合、pHの範囲は6~14が好ましく、更に8~13が好ましい。
【0056】
本発明に使用する上記芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物を含む組成物には、本発明の目的及び効果を損なわない範囲で、上述した成分以外の他の成分を必要に応じて添加することができ、具体的には、無機コロイド、アルカリ金属ケイ酸塩、酸化防止剤等が挙げられる。
【0057】
<重合反応器及び重合体の製造方法>
重合反応器は、単量体を重合する際に使用される重合反応器であって、上記単量体が接触する容器内壁面表面に上記付加縮合物が付着している。通常、上記付加縮合物を含む組成物を重合反応器の内壁表面に塗布し、塗膜として、上記付加縮合物を付着させる。なお、特に重合反応器の容量は問わない。
【0058】
ここで、本発明の芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物を含む組成物を塗布するために用いられる装置の一例および本発明の芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物を含む組成物を塗布するために用いられる方法の一例として
図1および
図2の概略図を示し、
図1および
図2を参照しながら、本発明の芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物を含む組成物を塗布する工程について説明する。
【0059】
本発明の芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物を含む組成物の塗布方法については、特に制限はないが、例えば窒素、空気、水蒸気をキャリアとして用いてノズルから噴射し、金属板表面や重合反応器の内壁面等に塗布液を塗布することが好適である。ここで、塗布液は、具体的には、後述するように、縮合反応によって得られた原液、または原液にpH調整剤、還元剤、水溶性高分子、水の少なくとも一つを添加して得られる調整済溶液を用いて、塗布用に調製した溶液である。また、塗布液として、原液や調整済溶液を用いてもよい。また、基材である金属板や重合反応器内壁面の材質についても、特に制限はないが、例えば、炭素鋼、ステンレス鋼、ニッケル合金、チタン合金、アルミ合金を用いることができる。特に、耐食性と価格的合理性との両立の点から、ステンレス鋼を採用することが好適である。金属板や重合反応器内壁面の表面は、機械研磨や電解研磨等の研磨を施してもよく、必要に応じてメッキを施してもよい。
【0060】
本発明の芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物を含む組成物を重合反応器内面に塗布する塗布方法については、例えば、下記の塗布工程が採用される。
【0061】
[塗布工程]
(重合反応器内壁面等の予熱)
図1を参照して、重合反応器1に取り付けられたジャケット2に熱水等を通し、重合反応器内壁面の温度を20℃以上、好ましくは30~95℃に予め加熱する。
【0062】
(塗布液調製及び塗布)
芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物を含む組成物を、ナフトール濃度が0.2wt%となるようにエタノール(塗布液中のエタノール濃度が6wt%となるように添加)及び脱イオン水で希釈し塗布液を調製し、この塗布液を、洗瓶を用いて、かけ流し塗布を行う。塗布は上から下へと塗り残しのないように行う(
図2)。具体的には、
図2には、重合反応器(例えば容量40L)の直胴部内壁展開
図11を示しているが、この内壁に、洗瓶を用いて塗布液12をかけ流し塗布する。
【0063】
(乾燥)
重合反応器内壁面の温度を維持したまま、15分間乾燥させる。
【0064】
(水洗)
水を用いて洗浄を行う。
【0065】
上記の塗布に用いられる重合反応器は、重合反応中にエチレン性二重結合を有する単量体が接触する内壁面の表面に芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物を含む塗布液が塗布されるものであり、内容積が0.01m3以上であることが好ましく、特に、再現性の観点から、内容積が0.01~600m3であることが好適である。この重合反応器としては、ジャケット、コイル、バッフル、重合反応中に上記単量体を凝縮させるためのリフラックスコンデンサ、内部ジャケットの中から1種又は2種以上組み合わせて備えてもよく、重合反応器内を効率的に冷却し得る点から、少なくとも重合反応中に上記単量体を凝縮させるためのリフラックスコンデンサを備えていることが好適である。
【0066】
本発明の芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物を含む塗布液は、オレフィン系重合体を製造する工程において上記重合反応器内に塗布され、特に、エチレン性不飽和基含有単量体を重合する工程の中で好適に用いられる。上記エチレン性不飽和基含有単量体の具体例としては、例えば、塩化ビニル等のハロゲン化ビニル;塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;アクリル酸、メタクリル酸及びこれらのエステル又は塩;マレイン酸、フマル酸及びこれらのエステル又は酸無水物;ブタジエン、クロロプレン、イソプレン等の共役ジエン系単量体;スチレン;アクリロニトリル;ビニルエーテル等が挙げられる。特に、上記重合反応器内に塗布される芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物を含む塗布液は、塩化ビニル等のハロゲン化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン、或いは、これらを主体とし他の単量体も含む単量体混合物を、水性媒体中において懸濁重合又は乳化重合に供することにより、エチレン性不飽和基含有単量体の重合体、共重合体又は上記単量体混合物の共重合体を製造する工程の中で好適に用いられる。
【0067】
また、本発明の芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物を含む塗布液は、従来から公知の重合体スケールの付着防止性能を有する塗膜に対して高い溶解能を有する単量体、例えば、α-メチルスチレン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル、酢酸ビニル等の重合に適用しても、高い耐久性を示すものであるので、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル等の重合体ビーズ又はラテックスの製造、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)等の合成ゴムの製造(なお、これらの合成ゴムは通常乳化重合によって製造される。)、ABS樹脂の製造に際しても好適に適用することができる。
【0068】
上記の単量体の1種又は2種以上の重合については、懸濁重合、乳化重合、塊状重合、溶液重合等のいずれの重合形式で行われても、或いは、乳化剤、安定剤、滑剤、可塑剤、pH調整剤、連鎖移動剤等のいずれの添加剤の存在下で行われても、重合体スケールの付着防止目的・効果を達成することができる。例えば、ビニル系単量体の懸濁重合や、乳化重合では、重合系に必要に応じて種々の添加剤が加えられる。このような添加剤としては、例えば、部分けん化ポリビニルアルコール、メチルセルロース等の懸濁安定剤;ラウリル硫酸ナトリウム等のアニオン性乳化剤;ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のノニオン性乳化剤;三塩基性硫酸鉛、ステアリン酸カルシウム、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズメルカプチド等の安定剤;トリクロロエチレン、メルカプタン類等の連鎖移動剤;各種pH調整剤等が挙げられ、このような添加剤が重合系に存在しても重合体スケールの付着を効果的に防止することができる。
【0069】
また、本発明の芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物を含む塗布液は、重合開始剤の種類に影響されることなく、いずれの重合開始剤を使用した場合でも所望の重合体スケールの付着防止効果を発揮することができる。上記の重合開始剤としては、例えば、t-プチルパーオキシネオデカノエート、ビス(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、α-クミルパーオキシネオデカノエート、クメンハイドロパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、t-ブチルパーオキシピバレート、ビス(2-エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、ジベンゾイルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、2,4-ジクロルベンゾイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、α,α’-アゾビスイソブチロニトリル、α,α’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、ジ-2-エチルヘキシルジパーオキシイソフタレート、過硫酸カリウム及び過硫酸アンモニウム等を例示することができる。
【0070】
なお、上記重合開始剤を使用して各種単量体の重合を行う際の他の条件については、従来から通常に行われる通りで良く、本発明の効果が損なわれない限り特に制限はない。上記重合開始剤を使用して各種単量体の重合を行う例として、懸濁重合、溶液重合及び塊状重合の場合を例に挙げて、典型的な重合条件を以下に具体的に説明するが、本発明は、これらの重合条件等により限定されるものではない。
【0071】
懸濁重合の場合には、まず、水及び分散剤を重合器に仕込み、その後、重合開始剤を仕込む。次に、重合器内を排気して約0.001~101kPa・G(約0.01~760mmHg)に減圧もしくは大気圧にした後、重合器の内圧が、通常、49~2940kPa・G(0.5~0.5kgf/cm2・G)となる量の単量体を仕込み、その後、30~150℃の反応温度で重合する。重合中には、必要に応じて、水、分散剤及び重合開始剤の一種又は二種以上を添加する。また、重合時の反応温度は、重合される単量体の種類によって異なり、例えば、塩化ビニルの重合の場合には30~80℃で行い、スチレンの重合の場合には50~150℃で重合を行う。重合は、重合器の内圧が0~686kPa・G(0~7kgf/cm2・G)に低下した時に、或いは重合器外周に付設された冷却用ジャケット内に流入及び流出させる冷却水の入口温度と出口温度との差がほぼなくなった時(即ち、重合反応による発熱がなくなった時)に、完了したとみなされる。重合の際に仕込まれる水、分散剤及び開始剤の量は、通常、単量体100質量部に対して水20~500質量部、分散剤0.01~30質量部及び重合開始剤0.01~5質量部である。
【0072】
溶液重合の場合、重合媒体として水の代わりに、例えば、トルエン、キシレン、ピリジン等の有機溶媒を使用し、必要に応じて分散剤が用いられる。その他の重合条件は、一般的には、懸濁重合についての上記重合条件と同様である。
【0073】
塊状重合の場合、重合反応器内を約0.001~101kPa・G(約0.01~760mmHg)の圧力に排気又は大気圧にした後、その重合反応器内に単量体及び重合開始剤を仕込み、-10~250℃の反応温度で重合する。例えば、塩化ビニルの重合の場合には30~80℃で重合を行うことができ、スチレンの重合の場合には50~150℃で重合を行うことができる。
【0074】
また、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【0075】
[実施例]
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0076】
・合成例1
窒素を流して十分窒素置換しておいた反応器に脱イオン水1445mLを仕込み、反応器内を35℃に昇温して撹拌しながら予備昇温を行った。水酸化ナトリウム17g及びドデシル硫酸ナトリウム150g及びα-ナフトール150gを添加した。30分間撹拌した後、37重量%ホルムアルデヒド水溶液80.0gを添加し、上記反応器内を60℃に昇温して、該反応器内の混合物を3時間反応させた後、上記反応器内を80℃に昇温し、該反応器内の混合物を1時間反応させた。その後、反応器の冷却を開始し、内温を40℃まで下げ、原液No.1(縮合物No.1)を得た。更に、内温が40℃まで下がった時点で水酸化ナトリウム4.45g、50重量%myo-イノシトール-1,2,3,4,5,6-六りん酸水溶液13.3g、脱イオン水169mL、亜二チオン酸ナトリウム6gの混合溶液を添加し、90分間撹拌した。このようにして調整済溶液No.1を得た。調整済溶液No.1の25℃での粘度は3.05mPa・sであった。
また、調整済溶液No.1について、孔径20μmのナイロンフィルターでろ過しても、ろ過前後でフィルター重量に差はなく、20μm以上の沈殿はみられなかった。なお、本明細書において、「孔径20μmのナイロンフィルターでろ過しても、ろ過前後でフィルター重量に差はなく、20μm以上の沈殿はみられない」状態にある組成物を、均一な溶液であるという。なお、調整済溶液No.1が均一であるため、原液No.1についても、上記のようにろ過を行った場合、20μm以上の沈殿はみられず、均一な溶液であると考えられる。
【0077】
・合成例2
予備昇温前の脱イオン水1445mLではなく1449mL、ドデシル硫酸ナトリウム150gではなく1-オクタンスルホン酸ナトリウム115gを添加した以外は合成例1と同じ方法で原液No.2(縮合物No.2)及び調整済溶液No.2を得た。調整済溶液No.2の25℃での粘度は3.28mPa・sであった。また、調整済溶液No.2は均一な状態にあった。なお、調整済溶液No.2が均一であるため、原液No.2についても、上記のようにろ過を行った場合、20μm以上の沈殿はみられず、均一な溶液であると考えられる。
【0078】
・合成例3
予備昇温前の脱イオン水1445mLではなく1192mL、ドデシル硫酸ナトリウム150gではなく40%水溶液-ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム371gを添加した以外は合成例1と同じ方法で原液No.3(縮合物No.3)及び調整済溶液No.3を得た。調整済溶液No.3の25℃での粘度は3.54mPa・sであった。また、調整済溶液No.3は均一な状態にあった。なお、調整済溶液No.3が均一であるため、原液No.3についても、上記のようにろ過を行った場合、20μm以上の沈殿はみられず、均一な溶液であると考えられる。
上記のように、合成例1~3の反応終了後の溶液(原液)の25℃での粘度は測定していないが、高分子のように少量で大きな粘度変化を及ぼす物質ではないpH調整剤・還元剤含有溶液の添加後よりも高いと考えられるため、原液の粘度は2.0mPa・s以上の要件を満たしているのは明らかである。
【0079】
・合成例4
予備昇温前の脱イオン水1445mLではなく1445mL、ドデシル硫酸ナトリウム150gではなくラウリン酸ナトリウム118gを添加した以外は合成例1と同じ方法で組成物No.4(縮合物No.4)及び調整済組成物No.4を得た。組成物No.4及び調整済組成物No.4は25℃では均一にゲル化したため粘度の測定は行っていない。この組成物No.4は40℃に加熱することで溶液状態へと戻る。また、塗布液調製時に調整済組成物No.4を希釈することでゲル化の性質を消失することから、スケール付着防止剤としての使用に何ら問題はない。
また、合成例1~4で得られた原液No.1~3または組成物No.4において、溶媒の量は、原液No.1~3または組成物No.4中95質量%以下の量で含まれていた。
【0080】
・比較例1
予備昇温前の脱イオン水1445mLではなく1563mL、ドデシル硫酸ナトリウム150gを添加しない以外は合成例1と同じ方法で反応を行ったところ、60℃になってすぐに凝集物が発生してしまった。前記凝集物は再度分散することはなく、縮合物を均一な溶液状態として得られなかった。
【0081】
・比較例2
予備昇温前の脱イオン水1445mLではなく1363mL、ドデシル硫酸ナトリウム150gではなくN-メチルピロリドン(NMP)200gを添加した以外は合成例1と同じ方法で原液No.5及び調整済溶液No.5の溶液を得た。調整済溶液No.5の25℃での粘度は4.56mPa・sであった。
【0082】
・比較例3
予備昇温前の脱イオン水1445mLではなく1413mL、ドデシル硫酸ナトリウム150gではなく1-ドデシルピリジニウムクロリド150gを添加した以外は合成例1と同じ方法で反応を行ったところ、反応途中で凝集物が発生してしまった。前記凝集物は再度分散することはなく、縮合物を均一な溶液状態として得られなかった。
【0083】
・比較例4
予備昇温前の脱イオン水1445mLではなく1491mL、ドデシル硫酸ナトリウム150gではなくヘキサン酸ナトリウム73gを添加した以外は合成例1と同じ方法で反応を行ったところ、反応途中で凝集物が発生してしまった。前記凝集物は再度分散することはなく、縮合物を均一な溶液状態として得られなかった。
【0084】
・比較例5
予備昇温前の脱イオン水1445mLではなく1478mL、ドデシル硫酸ナトリウム150gではなく1-ブタンスルホン酸ナトリウム85gを添加した以外は合成例1と同じ方法で反応を行ったところ、反応途中で凝集物が発生してしまった。前記凝集物は再度分散することはなく、縮合物を均一な溶液状態として得られなかった。
【0085】
<HLB値>
合成例1~4及び比較例3~5で用いた界面活性剤の、上記式(3)に基づいて算出したHLB値及び不溶化防止の可否を表1に示す。また、不溶化防止の可否(塊化防止の可否)は、目視で判断した。
【0086】
【0087】
表1に示されるように、スルホン酸基、カルボキシ基、硫酸エステル基を有する界面活性剤が塊化防止に有効であることから、塊化防止には特定の置換基を必要とするわけではなく、HLB値が15~50、望ましくは25~50の界面活性剤を縮合反応が進行し始める温度よりも前に添加することが必要であることが分かる。縮合反応が進行し始める温度は反応系のpHや芳香族化合物とカルボニル化合物の比などの反応条件に影響を受けるため一概にいうことはできないが、望ましくは縮合反応が進行しない35℃以下の状態で添加することが好ましい。この塊化防止に必要な界面活性剤の量は界面活性剤と芳香族化合物との相性によるが、芳香族化合物に対して0.01当量以上の添加が望ましい。
【0088】
<塗布>
洗びんを用いたかけ流し塗布及び乾燥
重合器1として、内容積0.04m
3のステンレス製重合器を用いた。予めジャケット2に熱水を通水して重合器1の内壁面を50℃に加熱しておく。そこに予めα-ナフトール量が塗布液中0.2wt%、エタノール量が塗布液中6.0wt%となるように調製しておいた塗布液(No.A~E)を、洗瓶を用いてかけ流し塗布を行う(
図2)。例えば、ナフトール濃度が7.5wt%の調整済溶液を用いて20kgの塗布液を調製する場合、脱イオン水18.27kg、エタノール1.20kgを混合攪拌後、調整済溶液0.54kgを混合攪拌することで塗布液が出来上がる。塗布は上から下へと塗り残しのないように行う。乾燥のためそのまま15分おき、その後水洗を行う。調整済溶液No.1~5の塗布液A~E調製時の各剤の比は表2の通りとなる。ここで、ナフトール量及びナフトール濃度とは、縮合に用いたナフトール分量で計算した値である。
【0089】
【0090】
<重合>
上記<塗布>を行った重合器に、脱イオン水200重量部、部分けん化ポリビニルアルコール0.020重量部及び2-ヒドロキシプロピルメチルセルロース(商品名:メトローズ、信越化学工業社製、メトキシル基置換度[セルロースのグルコース環単位中の水酸基がメトキシル基で置換された平均個数]:1.9、2-ヒドロキシプロポキシル基置換度[セルロースのグルコース環単位当たりに付加したヒドロキシアルコキシル基のモル数]:0.25)0.026重量部を投入して、該重合器内を50mmHgになるまで脱気した後塩化ビニル単量体(VCM)100重量部を仕込み、続いて、重合器内の反応混合物を攪拌しながら、t-ブチルパーオキシネオデカネート0.03重量部をポンプで圧入した。その後、仕込んだ原材料を攪拌しながら、ジャケット2に熱水を通水して昇温し、内温が52℃に到達した時点でジャケット2に冷却水を通して内温を52℃に維持し重合を行った。器内の圧力が5kgf/cm2・G(0.49MPa・G)に降圧した時点で重合を終了した。未反応単量体を回収した後、反応混合物であるスラリーを重合器から取り出し、脱水乾燥して塩化ビニル重合体を得た。
【0091】
<蓄積>
以下の基準によって評価した。干渉模様とは薄膜が引き起こす現象による模様であり、一般的に目視では、当該箇所の膜厚によって様々な色として見える模様である。
あり:重合後の缶壁に、塗布液の塗膜による干渉模様が確認される。
なし:重合後の缶壁に、塗布液の塗膜による干渉模様が確認されず、重合缶容器の色そのものである。
【0092】
前記蓄積及びスケールの評価結果を表3に示す。
【0093】
【0094】
表3に示した通り、界面活性剤を含まない調整済溶液No.5を用いた塗布液No.Eを塗布した場合、スケール付着はないものの蓄積がある。一方、界面活性剤を含む調整済溶液No.1~4を用いた塗布液No.A~Dを塗布した場合、スケール付着がないだけでなく蓄積もなく、優れた壁面防汚効果を示し、界面活性剤を含む調整済溶液No.1~4は蓄積しにくい重合体スケール防止剤であることが示唆された。
【0095】
なお、比較例の塗布液で形成した膜は、塗布液の塗布、乾燥及び水洗後(重合前)でも干渉模様が見えるほど厚かった。一方、実施例の塗布液を塗布した場合には、乾燥後時点では干渉模様が見えるほど厚いが、水洗で大部分が流れ落ち、極薄い塗膜が残っていた。即ち、実施例の塗布液で形成した膜は、塗布液の塗布、乾燥及び水洗後(重合前)では干渉模様が見えないほど極薄かった。
【0096】
更に、表3で示す粘度は調整済溶液の粘度であり、塗布液粘度ではないが、この粘度というパラメータは、異性体が多く生成され、塩を形成しており、酸化によって変質してしまうことから正確な解析が困難である付加縮合物の他のパラメータ、いわゆる縮合度、架橋構造の有無、溶解性などを総合的に加味したパラメータであると考えており、蓄積およびスケール付着抑制の実現を考えた時に重要なパラメータである。
【0097】
<粘度測定>
調整済溶液の粘度を、以下の条件にて測定した。
使用機器:
粘度計 デジタル回転粘度計 DV3T(AMETEK.Inc.製)
アダプター 少量サンプルアダプター
スピンドル SC4-18
サンプルチャンバー SC4-13(P)
ウォータージャケット SC4-45Y
ロケーティングチャンネルアッセンブリー SC4-46Y
循環恒温槽 MPCコントローラー搭載モデル MPC-K6
(Peter Huber Kaltemaschinenbau AG製)
ジャケット温度 25.0℃
回転数 250RPM
【0098】
測定準備:
サンプルチャンバー SC4-13(P)に調整済溶液6.7mLを入れ、温度プローブを接続した後、粘度計に取り付けられたウォータージャケットに取り付ける。取り付けられたサンプルチャンバーの中にスピンドルを入れて粘度計にセットし、サンプルチャンバー温度が設定温度になるまで待つ。
【0099】
測定:
サンプルチャンバー温度が設定温度になったら粘度測定を開始する。粘度表示が安定したら値を読み取り記録する。ここでいう安定とは、10秒間の粘度表示値が±0.01mPa・sの範囲に収まっていることをいう。
【0100】
以上の結果は本発明により得られる原液を用いた塗布液を塗布した場合、スケール及び蓄積の両方において優れた缶壁防汚効果が得られることを示している。
【符号の説明】
【0101】
1 重合反応器
2 ジャケット
11 重合反応器の直胴部内壁展開図
12 塗布液