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特許7535521パージング剤およびそれを用いた成形機のパージング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】パージング剤およびそれを用いた成形機のパージング方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 29/04 20060101AFI20240808BHJP
   C08K 3/105 20180101ALI20240808BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20240808BHJP
   B29C 33/72 20060101ALI20240808BHJP
【FI】
C08L29/04 A
C08K3/105
C08K5/17
B29C33/72
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021536621
(86)(22)【出願日】2020-05-19
(86)【国際出願番号】 JP2020019834
(87)【国際公開番号】W WO2021019873
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2019140876
(32)【優先日】2019-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(74)【代理人】
【識別番号】100207136
【弁理士】
【氏名又は名称】藤原 有希
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 優
(72)【発明者】
【氏名】岡本 真人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 真
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-171285(JP,A)
【文献】特表2012-533647(JP,A)
【文献】特開平10-067040(JP,A)
【文献】特開2016-222933(JP,A)
【文献】特開2002-292717(JP,A)
【文献】特開2001-335671(JP,A)
【文献】特開2019-001121(JP,A)
【文献】特開2003-001637(JP,A)
【文献】特開平10-016023(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
B29C33/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性樹脂(A)、水(B)、および塩基性化合物(C)を含有する樹脂組成物であって、親水性樹脂(A)と水(B)との質量比(A)/(B)が66/34~90/10であり、親水性樹脂(A)100質量部に対して、塩基性化合物(C)の含有量が0.25~7質量部であり、
水(B)と塩基性化合物(C)が一緒になってアルカリ水溶液の形態で含有されており、
pHが10~13であり、
親水性樹脂(A)がエチレン-ビニルアルコール共重合体である樹脂組成物。
【請求項2】
さらに他の熱可塑性樹脂(D)を含有する請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
親水性樹脂(A)100質量部に対して、他の熱可塑性樹脂(D)の含有量が1~10000質量部である請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
塩基性化合物(C)が、炭酸アルカリ金属塩、重炭酸アルカリ金属塩、リン酸アルカリ金属塩、酢酸アルカリ金属塩、アンモニアおよび第一級から第三級アミンからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1から3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
エチレン-ビニルアルコール共重合体のエチレン単位含有量が15~60モル%である請求項1から3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の樹脂組成物を含有するパージング剤。
【請求項7】
水(B)を添加して樹脂組成物を調製することにより使用されるパージング剤であって、
親水性樹脂(A)および塩基性化合物(C)を含有し、親水性樹脂(A)100質量部に対して、塩基性化合物(C)の含有量が0.25~7質量部であり、
塩基性化合物(C)が、炭酸アルカリ金属塩、重炭酸アルカリ金属塩、リン酸アルカリ金属塩、アンモニアおよび第一級から第三級アミンからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
親水性樹脂(A)が、エチレン-ビニルアルコール共重合体であるパージング剤。
【請求項8】
さらに他の熱可塑性樹脂(D)を含有する請求項7に記載のパージング剤。
【請求項9】
親水性樹脂(A)100質量部に対して、他の熱可塑性樹脂(D)の含有量が1~10000質量部である請求項8に記載のパージング剤。
【請求項10】
エチレン-ビニルアルコール共重合体のエチレン単位含有量が15~60モル%である請求項に記載のパージング剤。
【請求項11】
被パージング樹脂を含む成形機のパージング方法であって、
成形機内に、親水性樹脂(A)、水(B)、および塩基性化合物(C)を含有する樹脂組成物を供給して、該樹脂組成物を被パージング樹脂とともに排出する工程を含み、
親水性樹脂(A)と水(B)との質量比(A)/(B)が90/10~66/34であり、親水性樹脂(A)100質量部に対して、塩基性化合物(C)の含有量が0.25~7質量部であり、
水(B)と塩基性化合物(C)が一緒になってアルカリ水溶液の形態で含有されており、
樹脂組成物のpHが10~13であるパージング方法。
【請求項12】
成形機に対し、親水性樹脂(A)、水(B)、および塩基性化合物(C)が、請求項6に記載のパージング剤の形態で供給される請求項11に記載のパージング方法。
【請求項13】
成形機に対し、親水性樹脂(A)および塩基化合物(C)が、請求項7~10のいずれかに記載のパージング剤の形態で供給される請求項12に記載のパージング方法。
【請求項14】
成形機の溶融領域における温度が105~230℃である請求項1113のいずれかに記載のパージング方法。
【請求項15】
親水性樹脂(A)がエチレン-ビニルアルコール共重合体である請求項1114のいずれかに記載のパージング方法。
【請求項16】
エチレン-ビニルアルコール共重合体のエチレン単位含有量が15~60モル%である請求項15に記載のパージング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パージング剤およびそれを用いた成形機のパージング方法に関し、より詳細には、取り扱い性および安全性が高められたパージング剤およびそれを用いた成形機のパージング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(以下、EVOHと称することがある)等のガスバリア性に優れた樹脂は、食品包装用のフィルム、容器等の製品に多用されている。こうした製品を得るために、対象となる樹脂を成形機内で溶融押出する際、当該樹脂が成形機の流路内(例えばスクリュー)に付着することがある。この付着した樹脂を長期に亘って放置すると、当該樹脂は、焦げ付き、ゲル化、分解等の劣化を引き起こし、得られる製品にスジ、ブツ、ゲル等不良を生じたり、あるいは不良解消のために膨大な時間と材料ロスを招くことになる。
【0003】
パージング剤には種々のものが提案されている。例えば特許文献1は、ポリオレフィン系樹脂等の疎水性熱可塑性樹脂と、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物等の親水性熱可塑性樹脂と、水とを含有するパージング剤を開示している。特許文献2は、エチレン-ビニルエステル共重合体ケン化物等と水とを所定の割合で配合したパージング剤を開示している。特許文献3は、低密度ポリエチレン(LDPE)等のポリオレフィン系樹脂と、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物等の強塩基化合物と、遊離水を生成させる塩とを含有するパージング剤を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-16023号公報
【文献】特開2008-279623号公報
【文献】特表2012-533647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1および特許文献2に記載のパージング剤では、成形機のスクリュー等に付着した樹脂(以下、被パージング樹脂と称することがある)を十分に除去できているとは言えず、パージング能の向上が所望されている。一方、特許文献3に記載のパージング剤は、成分の1つである強塩基性化合物によってパージング能が向上するが、該パージング能力は満足し得るものでは無かった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するものであり、その目的は、成形機内の被パージング樹脂を効率良く排出できるパージング剤およびそれを用いた成形機のパージング方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば上記の目的は、
[1]親水性樹脂(A)、水(B)、および塩基性化合物(C)を含有する樹脂組成物であって、親水性樹脂(A)と水(B)との質量比(A)/(B)が66/34~90/10であり、親水性樹脂(A)100質量部に対して、塩基性化合物(C)の含有量が0.25~7質量部である樹脂組成物;
[2]さらに他の熱可塑性樹脂(D)を含有する[1]に記載の樹脂組成物;
[3]親水性樹脂(A)100質量部に対して、他の熱可塑性樹脂(D)の含有量が1~10000質量部である[2]に記載の樹脂組成物;
[4]親水性樹脂(A)と水(B)とが一緒になって含水親水性樹脂の形態で含有されている[1]~[3]のいずれかの樹脂組成物;
[5]塩基性化合物(C)が、炭酸アルカリ金属塩、重炭酸アルカリ金属塩、リン酸アルカリ金属塩、酢酸アルカリ金属塩、アルカリ金属の水酸化物、アンモニアおよび第一級から第三級アミンからなる群から選ばれる少なくとも1種である[1]~[4]のいずれかの樹脂組成物;
[6]水(B)と塩基性化合物(C)が一緒になってアルカリ水溶液の形態で含有されている請求項[1]~[3]のいずれかの樹脂組成物;
[7]アルカリ水溶液のpHが8~14である[6]の樹脂組成物;
[8]塩基性化合物(C)が、炭酸アルカリ金属塩、重炭酸アルカリ金属塩、リン酸アルカリ金属塩、酢酸アルカリ金属塩、アンモニアおよび第一級から第三級アミンからなる群から選ばれる少なくとも1種である[6]または[7]の樹脂組成物;
[9]親水性樹脂(A)がエチレン-ビニルアルコール共重合体である[1]~[8]のいずれかの樹脂組成物;
[10]エチレン-ビニルアルコール共重合体のエチレン単位含有量が15~60モル%である[9]の樹脂組成物;
[11][1]~[10]のいずれかの樹脂組成物を含有するパージング剤;
[12]親水性樹脂(A)および塩基性化合物(C)を含有し、親水性樹脂(A)100質量部に対して、塩基性化合物(C)の含有量が0.25~7質量部であるパージング剤;
[13]さらに他の熱可塑性樹脂(D)を含有する[12]のパージング剤;
[14]親水性樹脂(A)100質量部に対して、他の熱可塑性樹脂(D)の含有量が1~10000質量部である[13]のパージング剤;
[15]塩基性化合物(C)が、炭酸アルカリ金属塩、重炭酸アルカリ金属塩、リン酸アルカリ金属塩、酢酸アルカリ金属塩、アルカリ金属の水酸化物、アンモニアおよび第一級から第三級アミンからなる群から選ばれる少なくとも1種である[12]~[14]のいずれかのパージング剤;
[16]親水性樹脂(A)がエチレン-ビニルアルコール共重合体である[12]~[15]のいずれかのパージング剤;
[17]エチレン-ビニルアルコール共重合体のエチレン単位含有量が15~60モル%である[16]のパージング剤;
[18]被パージング樹脂を含む成形機のパージング方法であって、成形機内に、親水性樹脂(A)、水(B)、および塩基性化合物(C)を含有する樹脂組成物を供給して、該樹脂組成物を被パージング樹脂とともに排出する工程を含み、親水性樹脂(A)と水(B)との質量比(A)/(B)が90/10~66/34であり、親水性樹脂(A)100質量部に対して、塩基性化合物(C)の含有量が0.25~7質量部であるパージング方法;
[19]成形機に対し、親水性樹脂(A)、水(B)、および塩基性化合物(C)が、[11]のパージング剤の形態で供給される[18]のパージング方法;
[20]成形機に対し、親水性樹脂(A)および塩基化合物(C)が、[12]~[17]のいずれかのパージング剤の形態で供給される[18]のパージング方法;
[21]成形機の溶融領域における温度が105~230℃である[18]~[20]のいずれかのパージング方法;
[22]親水性樹脂(A)がエチレン-ビニルアルコール共重合体である[18]~[21]のいずれかのパージング剤;
[23]エチレン-ビニルアルコール共重合体のエチレン単位含有量が15~60モル%である[22]のパージング剤;
[24]被パージング樹脂を含む成形機のパージング方法であって、成形機内に、水(B)および塩基性化合物(C)を含有するアルカリ水溶液を供給して、該アルカリ水溶液を被パージング樹脂とともに排出する工程を含むパージング方法;
[25]さらに、成形機内に親水性樹脂(A)および他の熱可塑性樹脂(D)を供給する工程を含む[24]のパージング方法;
[26]アルカリ水溶液のpHが8~14である[24]または[25]のパージング方法;
を提供することで達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、成形機内の被パージング樹脂を効率的に当該成形機から排出できる。これにより、成形機から得られる製品不良およびその不良解消のために要する時間や材料のロスを低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(樹脂組成物)
本発明の樹脂組成物は、例えば後述する被パージング樹脂を含む成形機のパージングのために、パージング剤として使用できる樹脂組成物である。
【0010】
本発明の樹脂組成物は、親水性樹脂(A)、水(B)、および塩基性化合物(C)を含有する。
【0011】
(親水性樹脂(A))
親水性樹脂(A)は、水に対して親和性を示す樹脂を包含し、例えば水に対する接触角が0°~90°である樹脂が挙げられる。このような親水性樹脂(A)としては、例えばEVOH、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリアクリル酸塩、ポリエチレングリコールおよびポリアクリルアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。特に、熱安定性および押出安定性の観点から、EVOHがより好ましい。親水性樹脂(A)を用いることで、本発明の樹脂組成物からなるパージング剤を常温で保管する際に、水(B)および塩基性化合物(C)を含有するアルカリ水溶液を該親水性樹脂(A)内に安定に保有することで、使用者の安全性を確保できる。また、パージングを行う際は親水性樹脂(A)が溶融することでアルカリ水溶液を放出し、効果的にスクリューに付着する被パージング樹脂を分解し除去できる。
【0012】
(EVOH)
EVOHは、例えばエチレン-ビニルエステル共重合体をケン化することで得られる共重合体である。エチレン-ビニルエステル共重合体の製造およびケン化は、公知の方法で行うことができる。当該方法に用いられるビニルエステルとしては、例えば酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、およびバーサティック酸ビニル等の脂肪酸ビニルエステルが挙げられる。
【0013】
本発明において、EVOHのエチレン単位含有量は、例えば15モル%以上が好ましく、22モル%以上がより好ましく、24モル%以上がさらに好ましい。また、上記EVOHのエチレン単位含有量は、例えば60モル%以下が好ましく、55モル%以下がより好ましく、50モル%以下がさらに好ましい。エチレン単位含有量が15モル%未満であると、成形機の溶融領域における温度を105~230℃とした場合に、得られる樹脂組成物を押出すことが困難になる場合がある。エチレン単位含有量が60モル%以下であると、溶融樹脂の粘度が低下し、被パージング樹脂の除去が困難になる傾向にある。EVOHのエチレン単位含有量は、例えば核磁気共鳴(NMR)法によって測定できる。
【0014】
本発明において、EVOHのケン化度(すなわち、EVOHのビニルエステル成分のケン化度)は、例えば99モル%以上が好ましく、98%以上がより好ましく、95モル%以上がさらに好ましい。ケン化度が99モル%以上であると、例えば塩基性化合物(C)がケン化反応時に消費されることを防ぐことができる。他方、EVOHのケン化度は、例えば100%以下が好ましく、99.99%以下であってもよい。EVOHのケン化度は、H-NMR測定によってビニルエステル構造に含まれる水素原子のピーク面積と、ビニルアルコール構造に含まれる水素原子のピーク面積とを測定して算出され得る。
【0015】
EVOHはまた、本発明の目的が阻害されない範囲において、エチレンならびにビニルエステルおよびそのケン化物以外の他の単量体由来の単位を有していてもよい。EVOHが他の単量体単位を有する場合、EVOHの全構造単位に対する当該他の単量体単位の含有量の上限は、例えば30モル%以下が好ましく、20モル%以下がより好ましく、10モル%以下がさらに好ましく、5モル%以下が最も好ましい。EVOHが当該他の単量体由来の単位を有する場合、その含有量は、例えば0.05モル%以上が好ましく0.1モル%以上がより好ましい。
【0016】
他の単量体としては、例えばプロピレン、ブチレン、ペンテン、ヘキセン等のアルケン;3-アシロキシ-1-プロペン、3-アシロキシ-1-ブテン、4-アシロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-1-ブテン、3-アシロキシ-4-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-1-ブテン、3-アシロキシ-4-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-3-メチル-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-1-ペンテン、5-アシロキシ-1-ペンテン、4,5-ジアシロキシ-1-ペンテン、4-アシロキシ-1-ヘキセン、5-アシロキシ-1-ヘキセン、6-アシロキシ-1-ヘキセン、5,6-ジアシロキシ-1-ヘキセン、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン等のエステル基含有アルケンまたはそのケン化物;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸等の不飽和酸またはその無水物、塩、またはモノもしくはジアルキルエステル等;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド;ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸またはその塩;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β-メトキシ-エトキシ)シラン、γ-メタクリルオキシプロピルメトキシシラン等のビニルシラン化合物;アルキルビニルエーテル類、ビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等が挙げられる。
【0017】
EVOHは、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等で変性されていてもよい。変性されたEVOHはパージング剤として使用する場合に、例えばウレタン系、アセタール系、アクロリニトリル系樹脂からなる被パージング樹脂に対する相容性が向上し、より効率的にパージングを行うことができる。
【0018】
EVOHとして、エチレン単位含有量、ケン化度、共重合体成分、変性の有無または変性の種類等が異なるEVOHを2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0019】
EVOHは、塊上重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の方法で得ることができる。1つの実施形態では、無溶媒またはアルコール等の溶液中で重合が進行可能な塊状重合法または溶液重合法が用いられる。
【0020】
溶液重合法に用いられる溶媒は特に限定されないが、例えばアルコール、好ましくはメタノール、エタノール、プロパノール等の低級アルコールである。重合反応液における溶媒の使用量は、目的とするEVOHの粘度平均重合度や溶媒の連鎖移動を考慮して選択すればよく、反応液に含まれる溶媒と全単量体との質量比(溶媒/全単量体)は例えば0.01~10であり、好ましくは0.05~3である。
【0021】
そして、上記重合に用いられる触媒としては、例えば2,2-アゾビスイソブチロニトリル、2,2-アゾビス-(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2-アゾビス-(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2-アゾビス-(2-シクロプロピルプロピオニトリル)等のアゾ系開始剤;イソブチリルパーオキサイド、クミルパーオキシネオデカノエイト、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシネオデカノエイト、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物系開始剤等が挙げられる。
【0022】
重合温度は20℃~90℃が好ましく、40℃~70℃がより好ましい。重合時間は2時間~15時間が好ましく、3時間~11時間がより好ましい。重合率は、仕込みのビニルエステルに対して10%~90%が好ましく、30%~80%がより好ましい。重合後の溶液中の樹脂含有率は5%~85%が好ましく、20%~70%がより好ましい。
【0023】
上記重合では、所定時間の重合後または所定の重合率に達した後、必要に応じて重合禁止剤を添加し、未反応のエチレンガスを蒸発除去して、未反応のビニルエステルを取除くことで得られる。
【0024】
次いで、上記共重合体溶液にアルカリ触媒を添加して、上記共重合体をケン化する。ケン化する方法は、例えば連続式および回分式のいずれでもよい。添加可能なアルカリ触媒の例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アルカリ金属アルコラート等が挙げられる。
【0025】
ケン化反応後のEVOHは、アルカリ触媒、酢酸ナトリウムや酢酸カリウム等の副生塩類、その他不純物を含有するため、必要に応じて中和や洗浄によってこれらを除去することが好ましい。ここで、ケン化反応後のEVOHを、所定のイオン(例えば金属イオン、塩化物イオン)をほとんど含まない水(例えばイオン交換水)で洗浄する際、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等の副生塩類は完全に除去せず、一部を残存させてもよい。
【0026】
EVOHは他の熱可塑性樹脂、塩基性化合物(C)以外の金属塩、酸、ホウ素化合物、可塑剤、フィラー、ブロッキング防止剤、滑剤、安定剤、界面活性剤、色剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、乾燥剤、架橋剤、各種繊維等の補強材、および他の成分を含有していてもよい。
【0027】
上記塩基性化合物(C)以外の金属塩は、熱安定性を向上させる観点からアルカリ金属塩が好ましく、アルカリ土類金属塩がより好ましい。EVOHが金属塩を含有する場合、その含有量の下限は、EVOHに対して当該金属塩の金属原子換算で、例えば1ppm以上が好ましく、5ppm以上がより好ましく、10ppm以上がさらに好ましく、20ppm以上が最も好ましい。EVOHが金属塩を含有する場合、その含有量の上限は、EVOHに対して当該金属塩の金属原子換算で、例えば10000ppm以下が好ましく、5000ppm以下がより好ましく、1000ppm以下がさらに好ましく、500ppm以下が最も好ましい。金属塩の含有量が上記範囲であると、パージングを行う際のEVOHの熱安定性が良好になる。
【0028】
上記酸は、EVOHを溶融成形する際の熱安定性を高めることができる観点から、カルボン酸化合物、リン酸化合物等が好ましい。EVOHがカルボン酸化合物を含有する場合、カルボン酸の含有量(すなわち、EVOHを含む樹脂組成物中のカルボン酸の含有量)は、1ppm以上が好ましく、10ppm以上がより好ましく、50ppm以上がさらに好ましい。一方、カルボン酸化合物の含有量は、10000ppm以下が好ましく、1000ppm以下がより好ましく、500ppm以下がさらに好ましい。EVOHがリン酸化合物を含有する場合、リン酸の含有量(すなわち、EVOHを含む樹脂組成物中のリン酸化合物のリン酸根換算含有量)は、1ppm以上が好ましく、10ppm以上がより好ましく、30ppm以上がさらに好ましい。一方、リン酸化合物の含有量は、10000ppm以下が好ましく、1000ppm以下がより好ましく、300ppm以下がさらに好ましい。カルボン酸化合物またはリン酸化合物の含有量が上記範囲であると、パージングを行う際のEVOHの熱安定性が良好になる。
【0029】
EVOHが上記ホウ素化合物を含有する場合、その含有量(すなわち、EVOHを含む樹脂組成物中のホウ素化合物のホウ素換算含有量)は、1ppm以上が好ましく、10ppm以上がより好ましく、50ppm以上がさらに好ましい。一方、ホウ素化合物の含有量は、2000ppm以下が好ましく、1000ppm以下がより好ましく、500ppm以下がさらに好ましい。ホウ素化合物の含有量が上記範囲であると、パージングを行う際のEVOHの熱安定性が良好になる傾向がある。
【0030】
上記カルボン酸化合物、リン酸化合物、またはホウ素化合物を、EVOHを含む樹脂組成物に含有させる方法は特に限定されず、例えばEVOHを含む組成物をペレット化する際に添加して混練してもよい。また、乾燥粉末として添加する方法、所定の溶媒を含浸させたペーストの状態で添加する方法、所定の液体に懸濁させた状態で添加する方法、所定の溶媒に溶解させて溶液として添加する方法、所定の溶液に浸漬させる方法等も挙げられる。中でも、これらの化合物をEVOH中に均質に分散できる観点から、所定の溶媒に溶解させて溶液として添加する方法および所定の溶液に浸漬させる方法が好ましい。所定の溶媒は特に限定されないが、添加される化合物の溶解性、コスト、取り扱いの容易さ、作業環境の安全性等の観点から、水が好ましい。
【0031】
(ポリビニルアルコール)
ポリビニルアルコールは、ビニルエステル系モノマーの重合体をケン化することにより得られる樹脂である。ビニルエステル系モノマーとしては、例えばギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、2,2,4,4-テトラメチルバレリアン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、およびバーサティック酸ビニル等が挙げられる。中でも酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニルが単独もしくは混合物として好ましく使用される。
【0032】
ポリビニルアルコールのけん化度は特に制限はないが、80モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましく、95モル%以上がさらにより好ましい。
【0033】
(ポリアミド)
ポリアミドはアミド結合を主鎖に有する高分子である。ポリアミドとしては、例えば、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリ-ω-アミノヘプタン酸(ナイロン7)、ポリ-ω-アミノノナン酸(ナイロン9)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリラウリルラクタム(ナイロン12)、ポリエチレンジアミンアジパミド(ナイロン26)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリオクタメチレンアジパミド(ナイロン86)、ポリデカメチレンアジパミド(ナイロン106)、カプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体(ナイロン6/12)、カプロラクタム/ω-アミノノナン酸共重合体(ナイロン6/9)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン6/66)、ラウリルラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン12/66)、エチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン26/66)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン6/66/610)、エチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン26/66/610)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T)、ヘキサメチレンイソフタルアミド/ヘキサメチレンテレフタルアミド共重合体(ナイロン6I/6T)、11-アミノウンデカンアミド/ヘキサメチレンテレフタルアミド共重合体、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン10T)、ポリヘキサメチレンシクロヘキシルアミド、ポリノナメチレンシクロヘキシルアミドあるいはこれらのポリアミドをメチレンベンジルアミン、メタキシレンジアミン等の芳香族アミンで変性したものが挙げられる。また、メタキシリレンジアンモニウムアジペート等も挙げられる。
【0034】
ポリアミドは、溶融重合、界面重合、溶液重合、塊状重合、固相重合、またはこれらを組み合わせた方法で得られる。
【0035】
(ポリアクリル酸塩)
ポリアクリル酸塩としては、例えば、メチルアクリレートや、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート、ステアリルアクリレート、α-クロロエチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、フェニルアクリレート、メトキシエチルアクリレート、エトキシエチルアクリレート、メトキシプロピルアクリレート、エトキシプロピルアクリレート等のアクリレート系単量体を重合した後、加水分解することによって製造できる。また、アクリロニトリルを重合して加水分解しても得られる。
【0036】
ポリアクリル酸塩を構成する塩としては、例えばナトリウム、カリウムおよびリチウム等のアルカリ金属塩、カルシウム、マグネシウムおよびバリウム等のアルカリ土類金属塩、並びに第四級アンモニウムおよび第四級アルキルアンモニウム等のアンモニウム塩が挙げられる。特にナトリウム塩が最も一般的で好ましい。
【0037】
(ポリエチレングリコール)
ポリエチレングリコールはエチレングリコールおよびジエチレングリコール等の活性水素を2個以上有する化合物に、エチレンオキサイドを付加重合することにより製造される。
【0038】
エチレンオキサイドの付加において、触媒としてアルカリ金属化合物を用いても良い。アルカリ金属化合物としては、アルカリ金属(例えば、リチウム、ナトリウムおよびカリウム等)の水酸化物、アルカリ金属アルコラート(例えば、ナトリウムメチラートおよびカリウムメチラート)等が挙げられる。中でも、反応性の観点から、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムが好ましい。アルカリ金属化合物は、1種を用いても良く、2種以上を併用してもよい。
【0039】
(ポリアクリルアミド)
ポリアクリルアミドしては、アクリルアミドの単独重合体又はアクリルアミドと他の共重合可能なモノマーとの共重合体であって、アミド結合を有するものが用いられる。
【0040】
ポリアクリルアミドを製造する方法としては特に制限はなく、(i)アクリルアミド類をメタノール中で2,2’-アゾビスイソブチロニトリルを開始剤として重合させる方法、(ii)アクリルアミド類にエタノール中で光照射する方法、(iii)アクリルアミド類を水溶液中でレドックス重合させる方法、(vi)固体のアクリルアミド類にγ線を照射する方法等で製造される。
【0041】
アクリルアミドと他の共重合可能なモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、スチレンスルホン酸、エチレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、メタクリル酸ジメチルアミノエチルエステル、ジメチルアミノプロピルメタクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリレート、ジアリルジメチルアンモニウム塩化物およびその第4級塩等、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等のアクリル酸のC~C24アルキルエステル等が挙げられる。
【0042】
(水(B))
水(B)は、後述の塩基性化合物(C)を溶解して所望のpHを有する水溶液を調製するとともに、上記EVOHを成形機内に広く拡散させ、該成形機内に存在する被パージング樹脂の排出を促す。
【0043】
本発明の樹脂組成物を構成する水(B)としては、例えば純水、イオン交換水、蒸留水、および水道水、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。意図せぬ塩の混入を防ぐという理由からイオン交換水が好ましい。
【0044】
本発明の樹脂組成物において、親水性樹脂(A)と水(B)との質量比(A)/(B)は、66/34~90/10であり、好ましくは70/30~90/10であり、より好ましくは75/25~90/10であり、さらに好ましくは80/20~88/12である。親水性樹脂(A)と水(B)との質量比が上記範囲であると、本発明の樹脂組成物から構成されるパージング剤の表面への水の偏在を抑制できることから、パージング剤を投入する際にホッパーへの付着が防止でき、かつパージング剤から塩基性化合物(C)を含む水溶液の飛散を防止でき安全上好ましい。本発明の樹脂組成物における親水性樹脂(A)は水との親和性が高く、水素結合を介して適度に水と結合することから、パージングの際には成形機内でパージングに必要な水分を放出でき、かつ被パージング樹脂を成形機外へ排出するのに十分な粘度が確保できる。また、パージングの際に不要な水分が成形機内に残存せず、フィード不良が低減できる。
【0045】
本発明の樹脂組成物の第1の実施態様では、水(B)は被パージング樹脂に対するパージングの機能を発揮するために重要な成分の1つである。一方で、後述する本発明の樹脂組成物の第2の実施態様では、水(B)は任意成分の1つであってもよい。すなわち、水(B)は、被パージング樹脂をパージングする際に、成形機内を通過する樹脂組成物の構成成分として含有される必要があるが、成形機内に供給される前のパージング剤としては、必ずしも該パージング剤に予め含有される必要はない。例えば水(B)は、成形機内にパージング剤を供給する際に、該パージング剤とは別々に成形機に供給され、成形機内でパージング剤を構成する成分と混合されて、本発明の樹脂組成物を構成するものであってもよい。
【0046】
本発明の樹脂組成物において、水(B)は、例えば上記親水性樹脂(A)と一緒になって含水親水性樹脂の形態で含有されていてもよい。
【0047】
上記含水親水性樹脂を調製する方法は、特に限定されないが、親水性樹脂(A)に水(B)をスプレーする方法、親水性樹脂(A)を水(B)に浸漬する方法、親水性樹脂(A)を水(B)の一形態である水蒸気と接触させる方法、親水樹脂(A)を水(B)と一緒に押出する方法等が挙げられる。具体的には、親水性樹脂(A)を水(B)の存在下で、オートクレーブ処理する方法、押出機に親水性樹脂(A)を投入し、途中で水(B)を添加しながら含水押出する方法等が挙げられる。
【0048】
(塩基性化合物(C))
塩基性化合物(C)は、上記水(B)によって水溶液となり、成形機内をアルカリ条件(好ましくは強アルカリ条件)とすることで、成形機内に存在する被パージング樹脂の排出を促す役割を果たす。
【0049】
塩基性化合物(C)としては、例えば炭酸アルカリ金属塩、重炭酸アルカリ金属塩、リン酸アルカリ金属塩、酢酸アルカリ金属塩、アルカリ金属の水酸化物、アンモニアおよび第一級から第三級アミン、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0050】
水(B)が親水性樹脂(A)と一緒になって含水親水性樹脂の形態を有している場合、塩基性化合物(C)としては、例えば炭酸アルカリ金属塩、重炭酸アルカリ金属塩、リン酸アルカリ金属塩、酢酸アルカリ金属塩、アルカリ金属の水酸化物、アンモニアおよび第一級から第三級アミン、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。一方、上記水(B)が塩基性化合物(C)と一緒になってアルカリ水溶液の形態を有している場合、塩基性化合物(C)としては、例えば炭酸アルカリ金属塩、重炭酸アルカリ金属塩、リン酸アルカリ金属塩、および酢酸アルカリ金属塩、アンモニアおよび第一級から第三級アミン、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0051】
炭酸アルカリ金属塩としては、例えば炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、および炭酸リチウム、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。重炭酸アルカリ金属塩としては、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸水素カリウム、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。リン酸アルカリ金属塩としては、例えばリン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素一ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素一カリウム、リン酸三リチウム、リン酸水素二リチウム、およびリン酸二水素一リチウム、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。酢酸アルカリ金属塩としては、例えば酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、および酢酸リチウム、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。アルカリ金属の水酸化物としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および水酸化リチウム、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。十分なパージ能を有し、かつパージング剤の作業者安全性を確保できる観点から、炭酸ナトリウムおよび炭酸カリウムが好ましい。
【0052】
塩基性化合物(C)の含有量は、親水性樹脂(A)100質量部に対して、0.25質量部以上であり、好ましくは0.3質量部以上、より好ましくは0.4質量部以上である。また、塩基性化合物(C)の含有量は、親水性樹脂(A)100質量部に対して、7質量部以下であり、好ましくは6質量部以下、より好ましくは4質量部以下である。塩基性化合物(C)の含有量が0.25質量部未満であると、水(B)とともに形成される水溶液が中性に近づき、成形機内の被パージング樹脂の排出効率が低下する傾向にある。塩基性化合物(C)の含有量が7質量部を超えると、アルカリ水溶液が飽和し、パージング樹脂を保管する際に塩が析出する原因となる傾向がある。
【0053】
水(B)が塩基性化合物(C)と一緒になってアルカリ水溶液の形態を有している場合、アルカリ水溶液および/または本発明の樹脂組成物のpHは、好ましくは8~14、より好ましくは10~13である。pHが8未満であると、得られる樹脂組成物による成形機内の被パージング樹脂に対する排出効率が低下する傾向にある。
【0054】
(熱可塑性樹脂(D))
本発明の樹脂組成物は、上記親水性樹脂(A)、水(B)、および塩基性化合物(C)以外にその他の熱可塑性樹脂(D)を含有してもよい。熱可塑性樹脂(D)は、親水性樹脂(A)以外の熱可塑性樹脂から構成されており、例えば本発明の樹脂組成物と成形機内の被パージング樹脂との相容性、および作業者の安全性を向上させるために、本発明の樹脂組成物に添加される。
【0055】
熱可塑性樹脂(D)としては、例えば、EVOH樹脂、EVOH樹脂以外のビニルアルコール系樹脂(PVA樹脂等)、PA樹脂、ポリオレフィン系樹脂(直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体、ポリブテン、ポリペンテン等)、ポリオレフィン系樹脂に不飽和カルボン酸をグラフト変性した変性ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、熱可塑性ポリウレタン系樹脂、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、および芳香族または脂肪族ポリケトン、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0056】
熱可塑性樹脂(D)の含有量は、上記親水性樹脂(A)100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、50質量部以上がより好ましく、100質量部以上がさらに好ましい。また、熱可塑性樹脂(D)の含有量は、上記親水性樹脂(A)100質量部に対して、10000質量部以下が好ましい。熱可塑性樹脂(D)の含有量が上記範囲であると、本発明の樹脂組成物と成形機内の被パージング樹脂との相容性が向上し、成形機内の被パージング樹脂の排出効率を一層高められる他、作業者の安全性も向上する。
【0057】
なお、熱可塑性樹脂(D)の含有量の上限値は、使用する熱可塑性樹脂(D)の粘度により好適な範囲が異なる場合がある。熱可塑性樹脂(D)が低粘度(190℃のMFRが1g/10分以上)である場合、該上限値は、上記親水性樹脂(A)100質量部に対して、990質量部以下が好ましく、800質量部以下がより好ましく、600質量部以下がさらに好ましい。
【0058】
一方、可塑性樹脂(D)が高粘度(190℃のMFRが1g/10分未満)である場合、該上限値は、上記親水性樹脂(A)100質量部に対して、10000質量部以下が好ましく、5000質量部以下がより好ましく、2000質量部以下がさらに好ましく、1500質量部以下が特に好ましい。該上限値が上記範囲であると、本発明の効果がより効果的に得られるが、使用する成形機によって上記範囲が異なる場合もある。
【0059】
(その他添加剤)
本発明の樹脂組物は、本発明の効果を阻害しない範囲でその他の添加剤を含有していてもよい。その他の添加剤としては、例えば研磨剤、充填材、熱安定剤、加工助剤、ブロッキング防止剤、帯電防止剤、カップリング剤、酸化防止剤、滑沢剤、発泡剤、界面活性剤、および可塑剤、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。特に研磨剤は、成形機内の被パージング樹脂を物理的な研磨作用を通じて排出するために使用され、例えばアルミナ、ジルコニア、シリカ、二酸化チタン、炭酸カルシウム等の無機化合物で構成されるものが挙げられる。
【0060】
本発明の樹脂組成物において、上記その他の添加剤の含有量は特に限定されず、上記親水性樹脂(A)、水(B)、および塩基性化合物(C)の組み合わせによるパージングの効率を阻害しない範囲で、当業者が適宜設定できる。
【0061】
(パージング剤)
本発明のパージング剤は、第1の実施態様としては上記樹脂組成物、すなわち、親水性樹脂(A)、水(B)および塩基性化合物(C)と、必要に応じて任意成分であるその他の熱可塑性樹脂(D)およびその他の添加剤とを含有する樹脂組成物から構成される。ここで、本明細書において、上記樹脂組成物で構成されるパージング剤を「第1のパージング剤」という。
【0062】
また、本発明のパージング剤は、第2の実施態様としては上記樹脂組成物のうち、水(B)を含んでいないもの、すなわち、親水性樹脂(A)および塩基性化合物(C)と、必要に応じて任意成分であるその他の熱可塑性樹脂(D)およびその他の添加剤とを含有する樹脂組成物から構成される。ここで、本明細書において、上記樹脂組成物のうち水(B)を除いたもので構成されるパージング剤を「第2のパージング剤」という。
【0063】
本発明の第2のパージング剤における、親水性樹脂(A)、塩基性化合物(C)、その他の熱可塑性樹脂(D)およびその他の添加剤の種類および含有量は、上記第1のパージング剤に含まれるものと同様の種類および含有量が選択され得る。さらに、本発明の第2のパージング剤における、親水性樹脂(A)のエチレン単位含有量およびケン化度もまた、上記第1のパージング剤に含まれる親水性樹脂(A)と同様のものが設定され得る。
【0064】
本発明の第1のパージング剤は、作業者が成形機内に投入する際にパージング剤の成分含有量を調節する必要性がなく、安全性に優れる。一方、本発明の第2のパージング剤は、水(B)が予め含有されておらず、第1のパージング剤と比較して、パージング剤全体の質量および容積を減少させることができ、パージング剤の輸送および保管の際の効率性を向上できる。
【0065】
本発明において、第1のパージング剤は被パージング樹脂を含む成形機内に、例えばホッパーを通じてそのまま投入して使用できる。
【0066】
一方、本発明の第2のパージング剤は、使用前に所定量の上記水(B)を添加して本発明の樹脂組成物を調製した後、得られた組成物を、被パージング樹脂を含む成形機内に例えばホッパーを通じて投入して使用できる。あるいは、本発明の第2のパージング剤は、上記水(B)を含有していない状態で被パージング樹脂を含む成形機内に、例えばホッパーを通じて投入され、成形機内に別途設けられた部分(例えば、シリンダ内に貫通して設けられたオリフィス)から水(B)を添加してシリンダ内で混練することにより、本発明の樹脂組成物を調製して使用することもできる。
【0067】
本発明の第1のパージング剤および第2のパージング剤を用いることができる成形機とは、一般的な各種成形機及び成形機において樹脂の流通する経路を指す。本発明に用いられる成形機としては特に限定されず、例えば押出機(例えば、単軸押出機、二軸押出機等を包含する)、射出成形機、単層フィルム成形機、単層インフレーション成形機、共押出シート成形機、共押出フィルム成形機、多層ブロー成形機、共射出成型機等、および各成形機の配管、フィードブロック、ダイス等が挙げられる。
【0068】
(被パージング樹脂を含む成形機のパージング方法)
本発明のパージング方法では、例えば、成形機内に、上記親水性樹脂(A)、水(B)および塩基性化合物(C)と、必要に応じて任意成分であるその他の熱可塑性樹脂(D)および/またはその他の添加剤とを含有する樹脂組成物が供給され、樹脂組成物が被パージング樹脂とともに排出される。ここで、本明細書において、このように樹脂組成物を用いて行われるパージング方法を「第1のパージング方法」という。
【0069】
本発明の第1のパージング方法において、成形機への樹脂組成物の供給は、例えば、上記親水性樹脂(A)、水(B)および塩基性化合物(C)と、必要に応じて任意成分であるその他の熱可塑性樹脂(D)およびその他の添加剤をそれぞれ成形機のホッパーおよび/またはその他の部分(例えば、シリンダ内に貫通して設けられたオリフィス)から行われてもよいが、好ましくは上記本発明の第1のパージング剤または第2のパージング剤の形態で成形機内に供給される。
【0070】
以下、一実施形態として、成形機が押出機である場合について説明する。樹脂組成物が、本発明の第1のパージング剤の形態で押出機に供給される場合、本発明の第1のパージング剤は、例えば押出機のホッパーを通じてそのまま投入され、シリンダ内のスクリューを回転させることにより、第1のパージング剤がシリンダ内に供給される。
【0071】
樹脂組成物が、本発明の第2のパージング剤の形態で押出機に供給される場合、本発明の第2のパージング剤は、使用前に所定量の上記水(B)を添加した後、得られた組成物が、押出機内に例えばホッパーを通じて投入され、シリンダ内のスクリューを回転させることにより、第2のパージング剤を含む樹脂組成物がシリンダ内に供給される。この場合、ホッパー等の金属製部分の腐食を防止するために、第2のパージング剤を構成する塩基性化合物(C)は、上記アルカリ金属の水酸化物以外を用いることが好ましい。
【0072】
あるいは、本発明の第2のパージング剤は、上記水(B)を含有していない状態で押出機内に例えばホッパーを通じて投入され、成形機内に別途設けられた部分(例えば、シリンダ内に貫通して設けられたオリフィス)から水(B)を添加してシリンダ内でスクリューを回転して混練することにより供給される。
【0073】
成形機への樹脂組成物の供給にあたり、成形機内のパージ温度(すなわち、成形機の溶融領域の温度)は、使用する成形機の仕様や上記熱可塑性樹脂(D)の粘度によって適宜調整できるが、特に使用する熱可塑性樹脂(D)の粘度により好適な範囲が異なる場合がある。熱可塑性樹脂(D)が低粘度(190℃のMFRが1g/10分以上)である場合、該温度は好ましくは105℃~170℃、より好ましくは110℃~160℃に設定される。該温度が105℃未満では、成形機内の樹脂組成物が十分に溶融せず、被パージング樹脂の排出を効率的に行うことが困難となる場合がある。該温度が170℃を超えると、樹脂の粘度が低下することでパージングの効率が低下する場合がある。
【0074】
一方、熱可塑性樹脂(D)が高粘度(190℃のMFRが1g/10分未満)である場合、該温度は好ましくは150℃~230℃、より好ましくは170℃~210℃、さらに好ましくは180~200℃に設定される。該温度が150℃未満では、成形機内の樹脂組成物の溶融粘度が高く、被パージング樹脂の排出を効率的に行うことが困難となる場合がある。該温度が230℃を超えると、樹脂の粘度が低下することでパージングの効率が著しく低下する場合がある。
【0075】
成形機への上記樹脂組成物の供給は、例えば成形機内に残留する被パージング樹脂の体積量(例えば、成形機が押出機である場合はシリンダ容量からスクリュー容量を差し引いた容量に相当する)を基準にして、好ましくは1倍以上1000倍以下、より好ましくは2倍以上100倍以下に相当する量が供給される。成形機内に残留する被パージング樹脂の体積量に対して、供給される上記樹脂組成物の量が1倍未満であると、成形機内に被パージング樹脂が残存するおそれがある。成形機内に残留する被パージング樹脂の体積量に対して、供給される上記樹脂組成物の量が1000倍を上回ると、成形機内のパージングの効果はすでに十分に発揮されているものの、上記樹脂組成物が過剰に供給され、パージング剤の利用効率が低下するおそれがある。
【0076】
あるいは、上記第1のパージング方法に代えて、本発明のパージング方法では、成形機内に上記水(B)および塩基性化合物(C)を含有するアルカリ水溶液が供給され、アルカリ水溶液が被パージング樹脂とともに排出されてもよい。ここで、本明細書において、このようにアルカリ水溶液を用いて行われるパージング方法を「第2のパージング方法」という。
【0077】
本発明の第2のパージング方法に用いられる水(B)は、上記本発明の樹脂組成物に用いられるものと同様である。
【0078】
本発明の第2のパージング方法に用いられる塩基性化合物(C)は、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属を含む。塩基性化合物(C)を構成し得る塩としては、例えば炭酸塩、重炭酸塩、リン酸塩が挙げられる。
【0079】
塩基性化合物(C)としては、例えば炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素一ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素一カリウム、リン酸三リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸二水素一リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、およびそれらの組み合わせが挙げられる。作業者の安全性を確保する観点からは炭酸ナトリウムおよび炭酸カリウムが好ましい。
【0080】
成形機に供給されるアルカリ水溶液のpHは、好ましくは8~14、より好ましくは10~13である。pHが8未満であると、得られるアルカリ水溶液による成形機内の被パージング樹脂に対する排出効率が低下する傾向にある。
【0081】
本発明の第2のパージング方法において、成形機内へのアルカリ水溶液の供給方法は、例えば上記水(B)および塩基性化合物(C)を予め混合してアルカリ水溶液を調製し、得られたアルカリ水溶液を、成形機のホッパーおよび/またはその他の部分(例えばシリンダ内に貫通して設けられたオリフィス)を通じて成形機内に供給する方法が挙げられる。ただし、塩基性化合物(C)として水酸化物を用いたアルカリ水溶液は、ホッパー等の金属製部分に付着すると、所望でない腐食を引き起こすおそれがある。このため、アルカリ水溶液はその流動性を利用して、耐薬品性材料(例えば、シリコーンゴム、テフロン(登録商標)等)で構成されるチューブを通じて、成形機の内部以外の金属製部分に接触する機会を低減させた状態で当該シリンダ内に導入されることが好ましい。あるいは、成形機のホッパーおよび/またはその他の部分(例えば、シリンダ内に貫通して設けられたオリフィス)を通じて、上記水(B)および塩基性化合物(C)を別々に導入し、成形機内でアルカリ水溶液を調製することによって供給されてもよい。アルカリ水溶液とともに、親水性樹脂(A)および他の熱可塑性樹脂(D)を供給することも好ましい。
【0082】
成形機へのアルカリ水溶液の供給にあたり、成形機内の温度(すなわち、成形機の溶融領域の温度)は、好ましくは105℃~230℃、より好ましくは110℃~210℃に設定される。この温度が105℃未満では、被パージング樹脂の排出を効率的に行うことが困難となる場合がある。該温度が230℃を超えると、水分の一部が気化し、アルカリ水溶液が被パージング樹脂と効率的に作用しないおそれがある。
【0083】
なお、本発明の第2のパージング方法によって上記アルカリ水溶液が供給された場合、成形機内に腐食が生じることを防止するために、その後、成形機内には適切な量の水(例えば、純水、イオン交換水、蒸留水、および水道水、ならびにそれらの組み合わせ)による洗浄が行われてもよい。
【0084】
本発明によれば、種々の被パージング樹脂に対するパージングが可能である。被パージング樹脂は、例えば、熱可塑性樹脂または当該熱可塑性樹脂を含む混合物である。被パージング樹脂を構成する熱可塑性樹脂としては、例えば、EVOH樹脂、EVOH樹脂以外のビニルアルコール系樹脂(PVA樹脂等)、PA樹脂、ポリオレフィン系樹脂(直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体、ポリブテン、ポリペンテン等)、ポリオレフィン系樹脂に不飽和カルボン酸をグラフト変性した変性ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、熱可塑性ポリウレタン系樹脂、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、および芳香族または脂肪族ポリケトン、ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。
【0085】
本発明が特に所望される被パージング樹脂としては、スクラップの回収物が挙げられる。ここで、スクラップとは、(1)多層構造体を製造する過程において生じるオフスペック品やトリムであってもよく、(2)市場で消費された包装材料を回収したものであってもよい。該多層構造体を構成する各層には、上記被パージング樹脂として挙げたものを用いてもよい。
【0086】
具体的には、例えば、多層構造体を製造する過程において生じるスクラップを回収し、該回収物を再度押出機にて溶融成形して新たな多層構造体の少なくとも1層としてリサイクルすることがしばしばある。このようなリサイクル操作では、多層構造体を構成する樹脂組成物は、押出機にて溶融混練される際に熱履歴を受けることで激しく劣化することがある。また、多層構造体を構成する樹脂組成物が、溶融混練する際に反応する樹脂を含む場合も、激しく劣化することがある。本発明のパージング剤は、このように激しく劣化することで流路により強固に付着する被パージング樹脂のパージングにも効果的に用いられ得る。
【実施例
【0087】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0088】
本実施例および比較例で使用した各成分は以下の通りであった。
【0089】
<親水性樹脂(A)>
・A1:EVOH(株式会社クラレ製「エバールF101B」、エチレン単位含有量32モル%、ケン化度99モル%以上)
・A2:EVOH(株式会社クラレ製「エバールL171B」、エチレン単位含有量27モル%、ケン化度99モル%以上)
・A3:EVOH(株式会社クラレ製「エバールE105B」、エチレン単位含有量44モル%、ケン化度99モル%以上)
・A4:ポリビニルアルコール(株式会社クラレ製「ポバール29―99」、ケン化度99モル%以上)
・A5:ポリアミド(宇部興産株式会社製「UBE NYLON 1024B」)(ナイロン6)
・A6:EVOH(株式会社クラレ製「エバールG176B」、エチレン単位含有量48モル%、ケン化度99モル%以上)
【0090】
<熱可塑性樹脂(D)>
・d1:低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン株式会社製「LC-600A」、MFR 7g/10分)
・d2:低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン株式会社製「UJ790」、MFR 50g/10分)
・d3:高密度ポリエチレン(日本ポリエチレン株式会社製「HB111R」、MFR 0.03g/10分)
【0091】
(配合例1:樹脂組成物(E1)の作製)
EVOH(A1)100質量部を、135℃で1時間オートクレーブ処理をし、イオン交換水32質量部を含む含水EVOH樹脂を、イオン交換水260質量部および炭酸ナトリウム27質量部を含む濃度11質量%の炭酸ナトリウム水溶液に室温下で3時間浸漬した後、遠心分離機により余分な炭酸ナトリウム水溶液を除去することで、EVOH(A1)100質量部、イオン交換水32質量部、炭酸ナトリウム3.2質量部を含む含水EVOH樹脂を得た。得られた含水EVOH樹脂に低密度ポリエチレン(d1)264質量部をドライブレンドにより混合して、樹脂組成物(E1)を得た。得られた樹脂組成物(E1)のpHをpHメーター(ハンナ・インスツルメンツ・ジャパン株式会社製「HI-9812-5」)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0092】
(配合例2:樹脂組成物(E2)の作製)
EVOH(A1)の代わりにEVOH(A2)を用いたこと以外は配合例1と同様にして、樹脂組成物(E2)を得た。結果を表1に示す。
【0093】
(配合例3:樹脂組成物(E3)の作製)
EVOH(A1)の代わりにEVOH(A3)を用いたこと以外は配合例1と同様にして、樹脂組成物(E3)を得た。結果を表1に示す。
【0094】
(配合例4:樹脂組成物(E4)の作製)
ポリビニルアルコール(A4)100質量部を、イオン交換水180質量部および炭酸ナトリウム18質量部を含む濃度10質量%の炭酸ナトリウム水溶液に60℃で8時間浸漬した後、遠心分離機により余分な炭酸ナトリウム水溶液を除去することで、ポリビニルアルコール(A4)100質量部、イオン交換水32質量部、炭酸ナトリウム3.2質量部を含む含水ポリビニルアルコール樹脂を得た。得られた含水ポリビニルアルコール樹脂に低密度ポリエチレン(d1)264質量部をドライブレンドにより混合して、樹脂組成物(E4)を得た。得られた樹脂組成物(E4)のpHをpHメーター(ハンナ・インスツルメンツ・ジャパン株式会社製「HI-9812-5」)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0095】
(配合例5:樹脂組成物(E5)の作製)
ポリアミド(A5)100質量部を135℃で3時間オートクレーブ処理をし、イオン交換水30質量部を含む含水ポリアミド樹脂を得た。得られたポリアミド樹脂を、イオン交換水235質量部および炭酸ナトリウム25質量部を含む濃度11質量%の炭酸ナトリウム水溶液に室温下で3時間浸漬した後、遠心分離機により余分な炭酸ナトリウム水溶液を除去することで、ポリアミド(A5)100質量部、イオン交換水32質量部、炭酸ナトリウム3.2質量部を含む含水ポリアミド樹脂を得た。得られた含水ポリアミド樹脂に低密度ポリエチレン(d1)264質量部をドライブレンドにより混合して、樹脂組成物(E5)を得た。得られた樹脂組成物(E5)のpHをpHメーター(ハンナ・インスツルメンツ・ジャパン株式会社製「HI-9812-5」)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0096】
(配合例6~9:樹脂組成物(E6)~(E9)の作製
イオン交換水、炭酸ナトリウム、および低密度ポリエチレン(d1)の配合量を表1に記載の通りとしたこと以外は配合例1と同様にして、樹脂組成物(E6)~(E9)を得た。結果を表1に示す。
【0097】
(配合例10:樹脂組成物(E10)の作製)
炭酸ナトリウムの代わりにリン酸三ナトリウム2.5質量部を用いたこと以外は配合例1と同様にして、樹脂組成物(E10)を得た。結果を表1に示す。
【0098】
(配合例11:樹脂組成物(E11)の作製)
炭酸ナトリウムの代わりに水酸化ナトリウム1.3質量部を用いたこと以外は配合例1と同様にして、樹脂組成物(E11)を得た。結果を表1に示す。
【0099】
(配合例12:樹脂組成物(E12)の作製)
炭酸ナトリウムの代わりに炭酸カリウム3.2質量部を用いたこと以外は配合例1と同様にして、樹脂組成物(E12)を得た。結果を表1に示す。
【0100】
(配合例13:樹脂組成物(E13)の作製)
EVOH(A1)100質量部とイオン交換水32質量部を含む含水EVOH樹脂を、イオン交換水260質量部およびアンモニア32質量部を含む濃度11質量%のアンモニア水に室温下で、密閉した状態で3時間浸漬した後、遠心分離機により余分なアンモニア水溶液を除去することで、EVOH(A1)100質量部、イオン交換水32質量部、アンモニア3.2質量部を含む含水EVOH樹脂を得た。得られた含水EVOH樹脂に低密度ポリエチレン(d1)264質量部をドライブレンドにより混合して、樹脂組成物(E13)を得た。
【0101】
(配合例14:樹脂組成物(E14)の作製)
イオン交換水および炭酸ナトリウムの配合量を表1に記載の通りとしたこと、および低密度ポリエチレン(d1)を用いなかったこと以外は配合例1と同様にして、樹脂組成物(E14)を得た。結果を表1に示す。
【0102】
(配合例15:樹脂組成物(E15)の作製)
イオン交換水および炭酸ナトリウムの配合量を表1に記載の通りとしたこと、および低密度ポリエチレン(d1)244.4質量部を用い、かつさらに低密度ポリエチレン(d2)12.2質量部を用いたこと以外は配合例1と同様にして、樹脂組成物(E15)を得た。結果を表1に示す。
【0103】
(配合例16:樹脂組成物(E16)の作製)
炭酸ナトリウムの代わりに酢酸ナトリウム3.2質量部を用いたこと以外は配合例1と同様にして、樹脂組成物(E16)を得た。結果を表1に示す。
【0104】
(配合例17:樹脂組成物(E17)の作製)
EVOH(A1)を用いず、濃度9質量%の炭酸ナトリウム水溶液(pH=12.0)3.3質量部、および低密度ポリエチレン(d1)95質量部を混合して、樹脂組成物(E17)を得た。結果を表1に示す。
【0105】
(配合例18:樹脂組成物(E18)の作製)
EVOH(A1)を用いず、濃度9質量%アンモニア水(pH=11.0)5.5質量部、および低密度ポリエチレン(d1)94質量部を混合して、樹脂組成物(E18)を得た。結果を表1に示す。
【0106】
(配合例19:樹脂組成物(C1)の作製)
イオン交換水0.9質量部と炭酸ナトリウム0.2質量部を用いたこと以外は配合例1と同様にして、樹脂組成物(C1)を得た。結果を表1に示す。
【0107】
(配合例20:樹脂組成物(C2)の作製)
イオン交換水60質量部と炭酸ナトリウム12質量部を用いたこと以外は配合例1と同様にして、樹脂組成物(C2)を得た。結果を表1に示す。
【0108】
(配合例21:樹脂組成物(C3)の作製)
低密度ポリエチレン(d1)268質量部を用い、かつ炭酸ナトリウムを用いなかったこと以外は配合例1と同様にして、樹脂組成物(C3)を得た。結果を表1に示す。
【0109】
(配合例22:樹脂組成物(E19)の作製)
高密度ポリエチレン(d3)1188質量部を用いたこと以外は配合例12と同様にして、樹脂組成物(E19)を得た。結果を表1に示す。
【0110】
【表1】
【0111】
(実施例1:被パージング樹脂のパージング)
二軸押出機(東洋精機株式会社製「2D25W」;L/D=25)に、被パージング樹脂としてEVOH(A1)を10分間通過させ、該押出機内に被パージング樹脂を残留させた。スクリューの回転を止めて30分間滞留させた後、高密度ポリエチレン(株式会社プライムポリマー社製「HI-ZEX 7000F」)を該押出機内に5分間通過させ、ダイを取り外した。その後、シリンダーを290℃まで加熱し、空気を流入させながら、スクリュー回転数10rpmで3時間加熱することで、被パージング樹脂を酸化劣化させた。
【0112】
次いで、該押出機のホッパーから、樹脂組成物(E1)を、110℃のパージ温度でスクリュー回転数100rpm、押出量3.2(kg/時間)にて40分間供給し、その後、低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン株式会社製「LC-600A」)を3分間通過させ、次いで220℃になるまでシリンダーを加熱しながら10分間、低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン株式会社製「LC-600A」)を通過させた。その後、高密度ポリエチレン(株式会社プライムポリマー社製「HI-ZEX 7000F」を5分間通過させた。
【0113】
(スクリュー付着量)
各実施例および比較例において、上記パージングの後、ダイを分解し、二軸スクリューを取り出して、スクリューに付着していた被パージング樹脂を銅へラにより回収した。回収された被パージング樹脂の重量を測定した。結果を表2に示す。
【0114】
(ホッパー残留性)
各実施例および比較例において、ホッパーに樹脂組成物を投入する際にホッパーに付着して残留する該樹脂組成物の有無を目視で確認し、以下の基準で評価した。結果を表2に示す。
A:投入した樹脂組成物がホッパーに付着していなかった。
B:投入した樹脂組成物がわずかにホッパーに付着していた。
C:投入した樹脂組成物が大量にホッパーに付着していた。
【0115】
(フィード性)
各実施例および比較例において、二軸押出機の代わりに単軸押出機(東洋精機株式会社製「D2020」;L/D=20)を用いたこと以外は同様のパージング操作を行った。その際に、ホッパーから投入された樹脂組成物が押出機内に供給(フィード)される状態を目視で確認し、以下の基準で評価した。結果を表2に示す。
A:樹脂組成物はホッパーから自動的にフィードされた。
B:樹脂組成物は断続的に押し棒を使うことによりホッパーからフィードすることができた。
C:樹脂組成物は常に押し棒を使わなければホッパーからフィードすることができなかった。
【0116】
(実施例1~19および22:被パージング樹脂のパージング)
表2に示す樹脂組成物(E1)~(E19)を用い、表2に示すパージ温度を採用したこと以外は、実施例1と同様にして押出機内に残留する被パージング樹脂をパージングした。結果を表2に示す。
【0117】
(実施例20:第2のパージング方法による被パージング樹脂のパージング)
樹脂組成物(E1)の代わりに、EVOH(A6)100質量部および低密度ポリエチレン(d1)264質量部を該押出機のホッパーから導入し、該押出機の供給部から濃度10質量%の炭酸ナトリウム水溶液(pH=12.0)20質量部を添加することで、該押出機内でパージング剤を形成させ、押出機内に残留する被パージング樹脂をパージングした以外は実施例1と同様にしてパージングを行った。結果を表2に示す。
【0118】
(実施例21:第2のパージング方法による被パージング樹脂のパージング)
樹脂組成物(E1)の代わりに、EVOH(A1)100質量部とイオン交換水25質量部を含む含水EVOH樹脂および低密度ポリエチレン(d1)264質量部を該押出機のホッパーから導入し、濃度15質量%の炭酸ナトリウム水溶液(pH=12.0)20質量部を添加することで、該押出機内でパージング剤を形成させ、押出機内に残留する被パージング樹脂をパージングした以外は実施例1と同様にしてパージングを行った。結果を表2に示す。
【0119】
(比較例1~7:被パージング樹脂のパージング)
表2に示す樹脂組成物(C1)~(C3)、および(E1)を用い、表2に示すパージ温度を採用したこと以外は、実施例1と同様にして押出機内に残留する被パージング樹脂をパージングした。結果を表2に示す。
【0120】
【表2】
【0121】
表2に示すように、配合例1~18で得られた樹脂組成物(E1)~(E19)はいずれも、押出機内の被パージング樹脂を効率良く該成形機から排出できた。特に樹脂組成物(E1)~(E7)、(E9)~(E15)を用いた場合には、被パージング樹脂のスクリュー付着量を1g未満のような低い値にまで低減することができており、ホッパー残留性およびフィード性についても優れていたことがわかる。
【0122】
本発明によれば、成形機を通じて得られる製品不良およびその不良解消のために要する膨大な時間および材料のロスの低減が可能となる点で、例えば樹脂成形分野において有用である。