(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-07
(45)【発行日】2024-08-16
(54)【発明の名称】特にマイクロリソグラフィ用の光学系を調整する方法
(51)【国際特許分類】
G03F 7/20 20060101AFI20240808BHJP
G03F 1/84 20120101ALI20240808BHJP
G02B 13/00 20060101ALI20240808BHJP
G02B 17/00 20060101ALN20240808BHJP
【FI】
G03F7/20 503
G03F7/20 502
G03F7/20 521
G03F1/84
G02B13/00
G02B17/00
(21)【出願番号】P 2023547904
(86)(22)【出願日】2021-12-17
(86)【国際出願番号】 EP2021086614
(87)【国際公開番号】W WO2022171339
(87)【国際公開日】2022-08-18
【審査請求日】2023-09-25
(31)【優先権主張番号】102021201193.4
(32)【優先日】2021-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】503263355
【氏名又は名称】カール・ツァイス・エスエムティー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100230514
【氏名又は名称】泉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】ミカエル グルップ
(72)【発明者】
【氏名】ビタリー シュクロベール
(72)【発明者】
【氏名】トーマス シッケタンツ
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-091209(JP,A)
【文献】特開2003-075591(JP,A)
【文献】特表2015-501527(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0300184(US,A1)
【文献】特開2017-142445(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102008041144(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/20
G03F 1/84
G02B 13/00
G02B 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学的に有効な層系がそれぞれ設けられた複数の光学素子を備えた、特にマイクロリソグラフィ用の光学系を調整する方法であって、
a)動作中に所定の平面で前記光学系が与えるシステム波面を測定するステップと、
b)前記測定されたシステム波面と目標システム波面との間のシステム波面偏差を求めるステップと、
c)前記求められたシステム波面偏差を低減するように前記光学素子の少なくとも1つで層操作を実行するステップと
を含み、前記システム波面への前記少なくとも1つの光学素子の各波面寄与を前記光学素子の前記層系の
異なる層操作毎
及び前記光学素子の前記層系の異なる構成毎にリストした、予め決定されたルックアップテーブルを用いて、前記システム波面偏差の低減に適した層操作が選択される方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記光学素子は、前記ステップa)におい
て被覆されることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法において、前記層操作は、前記少なくとも1つの光学素子への層材料の局所的に異なる堆積を実行することを含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の方法において、前記層操作は、前記少なくとも1つの光学素子からの局所的に異なる層除去を実行することを含むことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の方法において、前記少なくとも1つの光学素子は、二酸化ケイ素(SiO
2)からなる封止層を含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の方法において、前記層操作は、前記少なくとも1つの光学素子で局所的に異なるイオン注入を実行することを含むことを特徴とする方法。
【請求項7】
光学的に有効な層系がそれぞれ設けられた複数の光学素子を備えた、特にマイクロリソグラフィ用の光学系を調整する方法であって、
a)動作中に所定の平面で前記光学系が与えるシステム波面を測定するステップと、
b)前記測定されたシステム波面と目標システム波面との間のシステム波面偏差を求めるステップと、
c)前記求められたシステム波面偏差を低減するように前記光学素子の少なくとも1つで層操作を実行するステップと
を含み、
前記システム波面への前記少なくとも1つの光学素子の各波面寄与を前記光学素子の前記層系の異なる層操作毎及び前記光学素子の前記層系の異なる構成毎にリストした、予め決定されたルックアップテーブルを用いて、前記システム波面偏差の低減に適した層操作が選択され、前記層操作は、前記少なくとも1つの光学素子への層材料の局所的に異なる堆積を実行すること及び/又は前記少なくとも1つの光学素子で局所的に異なるイオン注入を実行することを含む方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の方法において、前記システム波面への前記少なくとも1つの光学素子の各波面寄与を前記光学素子の前記層系の層操作毎にリストした、予め決定されたルックアップテーブルを用いて、前記システム波面偏差の低減に適した層操作が選択されることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の方法において、前記測定されたシステム波面と目標システム波面との間のシステム波面偏差を求めるステップは、反復プロセスで行われることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の方法において、前記少なくとも1つの光学素子で層操作を実行するステップは、該層操作前に与えられた実際値と目標値との間の偏差を前記光学系の少なくとも1つのさらなる固有特性について低減するように実行されることを特徴とする方法。
【請求項11】
光学的に有効な層系がそれぞれ設けられた複数の光学素子を備えた、特にマイクロリソグラフィ用の光学系を調整する方法であって、
a)動作中に所定の平面で前記光学系が与えるシステム波面を測定するステップと、
b)前記測定されたシステム波面と目標システム波面との間のシステム波面偏差を求めるステップと、
c)前記求められたシステム波面偏差を低減するように前記光学素子の少なくとも1つで層操作を実行するステップと
を含み、
前記システム波面への前記少なくとも1つの光学素子の各波面寄与を前記光学素子の前記層系の異なる層操作毎及び前記光学素子の前記層系の異なる構成毎にリストした、予め決定されたルックアップテーブルを用いて、前記システム波面偏差の低減に適した層操作が選択され、前記少なくとも1つの光学素子で層操作を実行するステップは、該層操作前に与えられた実際値と目標値との間の偏差を光学系の少なくとも1つのさらなる固有特性について低減するように行われる方法。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の方法において、前記光学系の前記少なくとも1つのさらなる固有特性は、前記光学系の反射挙動及び/又は透過挙動を含むことを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の方法において、前記少なくとも1つの光学素子で層操作を実行するステップはさらに、前記光学系の偏光効果を変更するように行われることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求
項13に記載の方法において、前記少なくとも1つの光学素子で層操作を実行するステップはさらに、該層操作前に与えられた実際値と目標値との間の各偏差
を前記光学系の偏光効
果について低減するように行われることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載の方法において、層操作が実行される前記少なくとも1つの光学素子はレンズ素子であることを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項1~14のいずれか1項に記載の方法において、層操作が実行される前記光学素子の少なくとも1つはミラーであることを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか1項に記載の方法において、前記光学系は結像系であることを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法において、前記所定の平面は前記結像系の像面であることを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項1~18のいずれか1項に記載の方法において、前記光学系は、250nm未満、特に200nm未満の動作波長用に設計されることを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか1項に記載の方法において、前記光学系は、30nm未満、特に15nm未満の動作波長用に設計されることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2021年2月9日に出願された独国特許出願第10 2021 201 193.4号の優先権を主張する。当該独国出願の内容を参照により本願の本文に援用する。
【0002】
本発明は、特にマイクロリソグラフィ用の光学系を調整する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
マイクロリソグラフィは、例えば集積回路又はLCD等の微細構造コンポーネントの製造に用いられる。マイクロリソグラフィプロセスは、照明装置及び投影レンズを有するいわゆる投影露光装置で実行される。この場合、照明装置により照明されたマスク(レチクル)の像を、投影レンズにより、感光層(フォトレジスト)で被覆されて投影レンズの像面に配置された基板(例えばシリコンウェハ)に投影することで、マスク構造を基板の感光コーティングに転写するようにする。
【0004】
マスク検査装置が、マイクロリソグラフィ投影露光装置のレチクルの検査に用いられる。
【0005】
EUV領域用に設計した投影レンズ又は検査レンズでは、すなわち例えば約13.5nm又は約6.7nmの波長では、適当な光透過屈折材料が利用可能でないことにより、反射光学素子を結像プロセス用の光学コンポーネントとして用いる。
【0006】
高分解能化が進み、それに伴い精度要件も高まりつつある投影レンズの開発の過程で、利用可能な自由度又はマニピュレータを用いて各光学系を「仕様に合わせる」各調整方法の実行がもたらす課題も厳しさを増している。本発明の意味の範囲内で、「調整」は、光学系又は関連する光学素子を製造するプロセスに関連するプロセス欠陥(例えば、レンズ素子に対する研削不良、光学素子又はそのマウントに対するねじ作用等)の光学的効果の反復的低減を意味すると理解される。
【0007】
従来技術に関しては、単なる例として特許文献1、特許文献2、特許文献3、及び特許文献4を参照されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第7,629,572号明細書
【文献】米国特許第4,533,449号明細書
【文献】欧州特許第3 286 595号明細書
【文献】国際公開第2017/125362号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、できる限り正確に設定可能な波面効果を達成することができる、特にマイクロリソグラフィ用の光学系を調整する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、独立特許請求項1の特徴による方法により達成される。
【0011】
一態様において、光学的に有効な層系がそれぞれ設けられた複数の光学素子を備えた、特にマイクロリソグラフィ用の光学系を調整する本発明による方法が、
動作中に所定の平面で光学系が与えるシステム波面を測定するステップと、
この測定されたシステム波面と目標システム波面との間のシステム波面偏差を求めるステップと、
求められたシステム波面偏差を低減するように光学素子の少なくとも1つで層操作を実行するステップと
を含み、システム波面への少なくとも1つの光学素子の各波面寄与を上記光学素子の層系の層操作毎にリストした、予め決定されたルックアップテーブルを用いて、システム波面偏差の低減に適した層操作が選択される。
【0012】
上記態様によれば、この場合の測定されたシステム波面と目標システム波面との間のシステム波面偏差の低減に適した層操作は、事前決定されたルックアップテーブルと、該当する層操作及び光学系に存在するさらなるマニピュレータに関してそこに記憶された感度とを考慮することにより選択される。光学設計と比べたシステム波面への各波面寄与又は生じた波面変化を、該当する光学素子の層操作毎に又は本発明により操作される層系の構成毎にこのルックアップテーブルにリストすることができる。
【0013】
本願の意味の範囲内で、用語「層操作」は、最初はまだ被覆されていない光学素子への層の堆積も意味すると理解されたい。
【0014】
一実施形態において、光学素子は、システム波面を測定するステップで被覆される。この場合、このコーティングは、完成した層設計にまだ対応していない該当素子のコーティング(この意味で「部分」コーティング)であり得る。さらに、層系の異なる層に反復的に層操作を実行することもでき、システム波面特性評価が個々の反復ステップ間でそれぞれ行われる。
【0015】
本発明は、特に、複数の光学素子から構成された光学系の調整を、特に動作中の所定の平面でこの光学系が与えるシステム波面に関して実行することで、これらの光学素子の少なくとも1つで実行された層操作又は該当の光学素子に位置する層系により生じた光学的効果若しくは波面寄与自体が、調整の自由度として用いられるようにするという概念に基づく。
【0016】
換言すれば、本発明は、システム調整の開始時に最初に行われた所定の平面における実際のシステム波面の確認の後に、測定された実際のシステム波面と最終的に追求される目標システム波面との間の偏差を低減するために、システム調整中に自由度として扱われる少なくとも1つの光学素子(システム調整の開始時に行われた実際のシステム波面の測定中に光学系に既に組み込まれている)の層操作をどのように実行すべきかを決定するという原理を含む。
【0017】
本発明が従来の手法と特に異なる点は、システム調整の開始時に実行された実際のシステム波面の確認中に光学系に既に組み込まれており且つ場合によってはその光学的に有効なコーティングが既に設けられている(すなわち、測定された実際のシステム波面に既に寄与している)光学素子の層操作が、システム全体の波面特性の改善又は波面収差の低減のために調整自由度として用いられることである。
【0018】
特に、本発明による概念は、第1に、調整プロセスの開始時に光学系にまだ組み込まれていない素子の処理によってのみ波面補正が実行される従来の方法とは異なる。これに関連しては、例として特許文献3を参照されたい。さらに、本発明による概念は、該当の光学素子(システム全体ではない)の波面特性又は透過特性を最適化するためだけに、個々の光学素子でそれぞれ変更が実行される従来の方法とも異なる。これに関しては、例として特許文献1を参照されたい。
【0019】
一実施形態によれば、層操作は、少なくとも1つの光学素子への層材料の局所的に異なる堆積を実行することを含む。
【0020】
さらに別の実施形態によれば、層操作は、少なくとも1つの光学素子からの局所的に異なる層除去を実行することを含む。
【0021】
さらに別の実施形態によれば、少なくとも1つの光学素子は、二酸化ケイ素(SiO2)からなる封止層を含む。以下で説明するように、これは、例えばイオンビーム加工等の層除去により行われる層操作の場合に特に有利である。
【0022】
さらに別の実施形態によれば、層操作は、少なくとも1つの光学素子で局所的に異なるイオン注入を実行することを含む。
【0023】
本発明はさらに、光学的に有効な層系がそれぞれ設けられた複数の光学素子を備えた、特にマイクロリソグラフィ用の光学系を調整する方法であって、
動作中に所定の平面で光学系が与えるシステム波面を測定するステップと、
この測定されたシステム波面と目標システム波面との間のシステム波面偏差を求めるステップと、
求められたシステム波面偏差を低減するように光学素子の少なくとも1つで層操作を実行するステップと
を含み、層操作は、少なくとも1つの光学素子への層材料の局所的に異なる堆積を実行すること及び/又は少なくとも1つの光学素子で局所的に異なるイオン注入を実行することを含む方法にも関する。
【0024】
実際のシステム波面の確認中に少なくとも1つの光学素子上に存在する層系は、単層又は多層であり得る。本発明はさらに、層操作が行われる光学素子又は層系の具体的な局所領域に関しても限定されない。特に、上記層操作は、代替として多層系内の内層で又は多層系若しくは単層の最上部に位置するキャッピング層で実行することができる。
【0025】
この測定されたシステム波面と目標システム波面との間のシステム波面偏差を求めるステップと、この偏差の低減とは、特に反復プロセスで行うことができる。
【0026】
一実施形態によれば、光学素子の少なくとも1つで層操作を実行するステップは、層操作前に与えられた実際値と目標値との間の偏差を光学系の少なくとも1つのさらなる固有特性について低減するように実行される。光学系のこの少なくとも1つのさらなる固有特性は、特に光学系の反射挙動及び/又は透過挙動を含み得る。
【0027】
本発明はさらに、光学的に有効な層系がそれぞれ設けられた複数の光学素子を備えた、特にマイクロリソグラフィ用の光学系を調整する方法であって、
動作中に所定の平面で光学系が与えるシステム波面を測定するステップと、
この測定されたシステム波面と目標システム波面との間のシステム波面偏差を求めるステップと、
求められたシステム波面偏差を低減するように光学素子の少なくとも1つで層操作を実行するステップと
を含み、少なくとも1つの光学素子で層操作を実行するステップはさらに、層操作前に与えられる実際値と目標値との間の偏差を光学系の少なくとも1つのさらなる固有特性について低減するように行われる方法にも関する。
【0028】
一実施形態によれば、少なくとも1つの光学素子で層操作を実行するステップはさらに、光学系の偏光効果を変更するように行われる。
【0029】
一実施形態によれば、少なくとも1つの光学素子で層操作を実行するステップはさらに、層操作前に与えられた実際値と目標値との間の各偏差を光学系の反射挙動、光学系の透過挙動、及び光学系の偏光効果のそれぞれについて低減するように行われる。
【0030】
一実施形態によれば、層操作が実行される光学素子の少なくとも1つはレンズ素子である。
【0031】
一実施形態によれば、層操作が実行される光学素子の少なくとも1つはミラーである。
【0032】
光学系は、特に結像系であり得る。この場合、所定の平面は、この結像系の像面であり得る。
【0033】
一実施形態によれば、光学系は、250nm未満、特に200nm未満の動作波長用に設計される。
【0034】
さらに別の実施形態によれば、光学系は、30nm未満、特に15nm未満の動作波長用に設計される。
【0035】
本発明はさらに、上記特徴を有する方法の実行により形成されたマイクロリソグラフィ光学系に関する。光学系は、マイクロリソグラフィ投影露光装置の投影レンズ又はマスク検査装置の投影レンズであり得る。
【0036】
本発明のさらなる構成は、本明細書及び従属請求項から明らかである。
【0037】
添付図面に示す例示的な実施形態に基づいて、本発明を以下でより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本発明による方法の可能な順序を説明するフロー図を示す。
【
図2】例示的な実施形態における本発明による層操作を受ける光学素子の可能な構造を説明する概略図を示す。
【
図3】
図3a、
図3bは、本発明による層操作により達成可能な、層系に関して操作された
図2からの光学素子の光学特性の変化を説明する図である。
【
図4】
図4a、
図4bは、本発明による層操作により達成可能な、層系に関して操作された
図2からの光学素子の光学特性の変化を説明する図である。
【
図5】
図5a、
図5bは、本発明による層操作により達成可能な、層系に関して操作された
図2からの光学素子の光学特性の変化を説明する図である。
【
図6】
図6a、
図6bは、本発明による層操作により達成可能な、層系に関して操作された
図2からの光学素子の光学特性の変化を説明する図である。
【
図7】DUV動作用に設計されたマイクロリソグラフィ投影露光装置の可能な構造の概略図を示す。
【
図8】EUV動作用に設計されたマイクロリソグラフィ投影露光装置の可能な構造の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図1は、光学系を調整する本発明による方法の可能な順序を説明するフロー図を示す。
【0040】
本発明による調整は、光ビーム経路に取り付け配置されて光学的に有効なコーティングが既に設けられている複数の光学素子を有する該当の光学系を用意した後に行われ、各コーティング並びに光学素子の幾何学的形状及び間隔は、所定の光学設計に従って設定される。調整プロセスは、特に動作中にシステムが与えるシステム波面に関して具体的な用途それぞれに規定された仕様を達成するために実行され、これはさらに、利用可能な自由度を用いて反復プロセスで行われる。
【0041】
調整される光学系は、特にマイクロリソグラフィ光学系、より詳細にはマイクロリソグラフィ投影露光装置又はマスク検査装置の投影レンズであり得る。マイクロリソグラフィ投影露光装置の例(それぞれDUV及びEUV動作用に設計されている)について、
図7及び
図8を参照して以下で説明する。
【0042】
本発明による調整方法の開始時に、まず、ステップS110は、所定の平面(例えば、光学系を形成する投影レンズの結像面)で光学系が与える(実際の)システム波面を測定することを含む。ステップS120において、システム波面偏差を求めるために、この実際のシステム波面は所定の仕様に従って要求される目標システム波面と比較される。
【0043】
ステップS130において、続いて光学系の少なくとも1つの光学素子の層操作が、上記システム波面偏差を低減するように実行される。この場合、層操作は、特に該当の光学素子からの局所的に異なる層除去の実行、上記素子への層材料への局所的に異なる堆積の実行、及び/又は局所的に異なるイオン注入(例えば、プラズ浸漬マイオン注入)を含み得る。
【0044】
上記層操作は、動作中に光学系が与えるシステム波面に関して要求される仕様を最終的に達成するように行われる。この目的で、適当な層操作を決定するために、システム波面への該当の光学素子の各波面寄与を上記光学素子の操作された層系の構成毎に、また場合によっては光学系に存在するさらなるマニピュレータについてリストした、既に予め決定されたルックアップテーブルを考慮することもできる。さらに他の実施形態において、同じく層操作を繰り返し実行する反復プロセスで、それぞれ現在設定されているシステム波面を測定して目標システム波面と比較することができる。
【0045】
ここで本発明に不可欠なのは、光学系の調整中に、実行される層操作自体が調整自由度として用いられることである。この場合、層操作を受ける光学素子は、実際のシステム波面の最初の測定中に既に光学系に組み込まれており、その結果として上記光学素子の波面寄与も調整中に最初から付随的に考慮される。
【0046】
本発明による層操作により達成可能な、層系に関して操作された光学素子の光学特性の変更について、最初に特定の例示的な実施形態に基づいて
図2の概略図及び
図3a、3b、
図4a、4b、
図5a、5b、及び
図6a、6bの図を参照して以下で説明する。本明細書では例として、本発明に従って操作された光学素子の特定の層設計に言及し、当該層設計について
図2を参照してより詳細に説明するが、本発明はこの例示的な実施形態で用いられる材料にも層厚にも限定されない。さらなる適当な層材料に関しては、例として米国特許第10,642,167号及び米国特許第5,963,365号を参照されたい。
【0047】
さらに、例示的な実施形態において選択された層設計は、DUV又は約193nmの波長での動作用に構成されたレンズ素子の層設計に対応する。しかしながら、本発明はそれに限定されるものでもなく、さらなる用途では、特にEUV(すなわち、30nm未満、特に15nm未満の波長)での動作用のミラーの形態の光学素子で実現することもできる。
【0048】
図2の例示的な実施形態では、基板201上の光学素子200が層202~206の層系を含み、各材料及び層厚を表1に明記する。
【0049】
【0050】
表1及び
図2に従った上記層設計で選択された、非晶質二酸化ケイ素(SiO
2)からなる封止層206(基板201から最も遠くに配置される)の構成は、特に例えばイオンビーム加工等の層除去により行われる層操作の場合に、(非晶質でない又は少なくとも部分的な結晶相を有する、例えば柱状構造を有する封止層を用いる場合に生じる)層除去プロセスの方向依存性が回避されて等方的な層除去を達成可能であるという点で有利である。しかしながら、さらに他の実施形態において(特に、層材料の堆積による積層操作の場合)、例えば結晶質フッ化マグネシウム(MgF
2)等の他の材料を上記封止層の材料として用いることもできる。表2は、この点でSiO
2からなる基板及びMgF
2からなる封止層を有する可能な層設計を示す。
【0051】
【0052】
単に例として、表3は、SiO2からなる基板及びSiO2からなる封止層を有する可能な層設計を示す。
【0053】
【0054】
本発明は、光学系の波面特性関する調整のみに限定されない。むしろ、光学系のさらなる特性(特に、反射挙動及び/又は透過挙動)を改善するように調整をさらに行うこともできる。この場合、本発明者らが行った調査から、上記さらなる(例えば、反射又は透過)特性も、同一の調整方法で本発明による層操作により改善又は最適化され得ることが分かった。
【0055】
本発明による層操作により達成可能である、層系に関して操作された光学素子200の光学特性の変更を説明するために後述する図において、光学素子200に入射した非偏光の挙動を
図3a、3b及び
図4a、4bの各図について検討する一方で、偏光状態への依存性を
図5a、5b及び
図6a、6bで検討する。
【0056】
図3a、3bに、-2nm~+2nmの範囲の厚さ変化の場合に起こる位相(
図3a)及び反射率(
図3b)の変化を
図2及び表1からの上記例示的な実施形態について示す。この場合、厚さ変化の負の符号は、層操作により達成された層厚の低減に対応する。さらに、これ以降、入射角は15°とする。
【0057】
図3aから明らかなように、2nmの層厚の変化により約1.5nmの位相の変化を達成することができる。同時に、
図3bによれば、このような2nmの厚さの変化に伴い、約0.15パーセントポイントの値の反射率の変化が許容範囲内である。さらに、層設計の適当な変更又は最適化により、反射率変化が厚さ変化の影響を受けにくくすることができる。
【0058】
図4a、bによれば、本発明による層操作により達成される位相及び反射率の変化の入射角への依存性が示されており、例として1.5nmの厚さ変化をそれぞれ基本とする。
図4aの位相値に関して選択されたスケールから明らかなように、上記層操作の場合に達成された位相変化は、入射角とは事実上無関係である。
図4bに従って達成された反射率変化に関して、入射角の関数として符号の変化があることに留意されたい。
【0059】
図5a、bから明らかなように、本発明による層操作の場合に達成される位相変化の厚さ変化への依存性は、該当の光学素子に入射した電磁放射線の偏光状態とは実質的に無関係である。これに対して、それぞれ達成される反射率変化については、電磁放射線がs偏光かp偏光かに応じて、厚さ変化に応じたプロファイルに一定の差があることが明らかである。
【0060】
図6a、bによれば、位相変化(
図6a)及び反射率変化(
図6b)に関して達成されるs偏光とp偏光との間の差は、入射角が大きくなるほど顕著になる。このことから、光ビーム経路における入射角が比較的大きい光学素子への適用が、偏光状態にも所望の変化がある場合の本発明による層操作の実現に有利であることが明らかである。
【0061】
図7は、DUV領域の波長での動作用に(すなわち、250nm未満、特に200nm未満、例えば約193nmの動作波長用に)設計され、照明装置702及び投影レンズ708を備えた、マイクロリソグラフィ投影露光装置700の可能な構造の概略図を示す。
【0062】
光源701からの光が入る照明装置702は、レンズ素子703、704、及び絞り705で非常に簡略化して表す。図示の例の投影露光装置700の動作波長は、ArFエキシマレーザを光源701として用いる場合は193nmである。しかしながら、動作波長は、例えば、光源701としてKrFエキシマレーザを用いる場合は248nm、F2レーザを用いる場合は157nmでもあり得る。照明装置702と投影レンズ708との間には、投影レンズ708の物体面OPにマスク707が配置され、当該マスクは、マスクホルダ706によりビーム経路に保持される。マスク707は、投影レンズ708により投影レンズ708の像面IPに例えば1/4又は1/5に縮小して結像されるマイクロメートル~ナノメートル範囲の構造を有する。投影レンズ708は、光軸OAを規定するレンズ素子構成体を含み、当該レンズ素子構成体も同様に、レンズ素子709、710、711、712、720で非常に簡略化して表されているにすぎない。
【0063】
感光層715が設けられて基板ホルダ718により位置決めされた基板716又はウェハが、投影レンズ708の像面IPに保持される。例えば脱イオン水であり得る液浸媒体750が、像面側の最後に位置付けられた投影レンズ708の光学素子720と感光層715との間に位置する。
【0064】
図8は、EUV動作用に設計されたマイクロリソグラフィ投影露光装置の可能な構造を子午線断面で概略的に示す。
【0065】
図8によれば、投影露光装置1は、照明装置2及び投影レンズ10を備える。照明装置2は、照明光学ユニット4により放射源3からの放射線で物体面6の物体視野5を照明する働きをする。ここで、物体視野5に配置されたレチクル7が露光される。レチクル7は、レチクルホルダ8により保持される。レチクルホルダ8は、レチクル変位ドライブ9により特に走査方向に変位可能である。説明のために、直交xyz座標系を
図8に示す。x方向は図の平面に向かって延びる。y方向は水平に延び、z方向は鉛直に延びる。走査方向は
図8ではy方向に沿って延びる。z方向は物体面6に対して垂直に延びる。
【0066】
投影レンズ10は、物体視野5を像面12の像視野11に結像する働きをする。レチクル7上の構造が、像面12の像視野11の領域に配置されたウェハ13の感光層に結像される。ウェハ13は、ウェハホルダ14により保持される。ウェハホルダ14は、ウェハ変位ドライブ15により特にy方向に沿って変位可能である。第1にレチクル変位ドライブ9によるレチクル7の変位と、第2にウェハ変位ドライブ15によるウェハ13の変位とは、相互に同期するように実施され得る。
【0067】
放射源3は、EUV放射源である。放射源3は、特に以下で使用放射線又は照明放射線とも称するEUV放射線を出射する。特に、使用放射線は、5nm~30nmの範囲の波長を有する。放射源3は、例えば、プラズマ源、シンクロトロンベースの放射源、又は自由電子レーザ(FEL)であり得る。放射源3から発生する照明放射線16は、コレクタ17により集束され、中間焦点面18の中間焦点を通って照明光学ユニット4へ伝播する。照明光学ユニット4は、偏向ミラー19と、ビーム経路でその下流に配置された第1(視野)ファセットミラー20(概略的に示すファセット21を有する)と、第2(瞳)ファセットミラー22(概略的に示すファセット23を有する)とを含む。
【0068】
投影レンズ10は、複数のミラーMi(i=1、2、…)を含み、これらには投影露光装置1のビーム経路におけるそれらの配置に従って連続番号を付す。
図8に示す例において、投影レンズ10は、6個のミラーM1~M6を含む。4個、8個、10個、12個、又は任意の他の数のミラーMiでの代替も同様に可能である。最後から2番目のミラーM5及び最終ミラーM6はそれぞれ、照明放射線16のための通過開口を有する。投影レンズ10は、二重遮蔽光学ユニットである。投影レンズ10は、単なる例として0.5を超え得る、特に0.6を超え得る、例えば0.7又は0.75であり得る像側開口数を有する。
【0069】
本発明による層操作を受ける光学素子は、例えば、
図7からの投影レンズ708のレンズ素子709~712、720の1つ又は
図8からの投影レンズ10のミラーM1~M6の1つであり得る。
【0070】
本発明は特定の実施形態に基づいて説明されているが、例えば個々の実施形態の特徴の組み合わせ及び/又は交換により、多数の変形形態及び代替的な実施形態が当業者には明らかとなるであろう。したがって、当業者には言うまでもなく、かかる変形形態及び代替的な実施形態も本発明に包含され、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲及びその等価物の意味の範囲内にのみ制限される。