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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】関節炎治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20240809BHJP
   A61K 31/4436 20060101ALI20240809BHJP
   A61K 38/12 20060101ALI20240809BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20240809BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K31/4436
A61K38/12
A61P19/02
A61P29/00 101
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020554985
(86)(22)【出願日】2019-11-01
(86)【国際出願番号】 JP2019043057
(87)【国際公開番号】W WO2020091052
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-03-30
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-01
(31)【優先権主張番号】P 2018207209
(32)【優先日】2018-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業「生組織における細胞集団のバイアスフリー動態解析法、およびin vivoトランスクリプトーム解析法の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100138900
【弁理士】
【氏名又は名称】新田 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】石井 優
(72)【発明者】
【氏名】菊田 順一
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 哲雄
【合議体】
【審判長】光本 美奈子
【審判官】岡山 太一郎
【審判官】齋藤 恵
(56)【参考文献】
【文献】UENO,M et al.,Suppressive Effect of Antibiotic Siomycin on Antibody Production,The Journal of Antibiotics,(2004),Vol.57,No.9,pp.590-596
【文献】Sun,L et al.,The FOXM1 inhibitor RCM-1 suppresses goblet cell metaplasia and prevents IL-13 and STAT6 signaling in allergen-exposed mice, Science Signaling,(2017),Vol.10,eaai8583
【文献】Liao,L et al.,Thiopeptide Biosynthesis Featuring Ribosomally Synthesized Precursor Peptides and Conserved Posttranslational Modifications, Chemistry & Biology,(2009),Vol.16,pp.141-147
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
FoxM1の阻害剤(チオストレプトンおよびシオマイシンを除く)を有効成分とする、関節炎治療剤。
【請求項2】
FoxM1の阻害剤(チオストレプトンおよびシオマイシンを除く)が、FoxM1活性の阻害剤である請求項1に記載の治療剤。
【請求項3】
FoxM1活性の阻害剤がRCM-1である、請求項2に記載の治療剤。
【請求項4】
関節炎が関節リウマチである、請求項1~3のいずれかに記載の治療剤。
【請求項5】
経口投与製剤である、請求項1~4のいずれかに記載の治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な関節炎治療剤に関する。より詳しくは、転写因子FoxM1の阻害剤を有効成分とする関節炎治療剤、好ましくは関節リウマチ治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
関節炎は、関節の炎症をともなう疾病の総称であり、例えば関節リウマチの他、脊椎関節炎、組織球増殖症等が病的な骨破壊に帰結する慢性の炎症性疾患として例示される。
中でも、関節リウマチは膠原病の一種であり、免疫調節剤や免疫抑制剤、または生物学的製剤がその治療に用いられてきた。しかしながら、これら治療剤では免疫反応を抑制することで重篤な感染症に罹患するリスクが上昇することが示されている(後記非特許文献1)。
一方、FoxM1(Forkhead box M1)は細胞増殖に重要な遺伝子の発現を調整する転写因子の一つであり、発癌や細胞増殖の制御に関連していることが広く知られていて、FoxM1を制御して、癌を治療する方法も提案されている。例えば、FoxM1の抗体(後記特許文献1)や、その発現を制御してがんの治療、予防及び/又は進行の遅延のために使用すること(後記特許文献2および3)や、また、FoxM1の活性を阻害する化合物を用いる癌治療方法(後記特許文献3)が提案されている。
その他、アレルゲンに曝露されたマウスにおいて胚細胞の異形成を抑制し、IL13とSTAT6のシグナル伝達を妨げるFoxM1阻害因子・RCM-1の報告があり、ここで同定された低分子のRCM-1については、喘息などの慢性気道疾患の治療剤としての用途が示唆されている(後記非特許文献2)。
しかしながら、後述する破骨前駆細胞にFoxM1が発現されていることはこれまで報告がなく、FoxM1阻害剤を用いる関節炎の治療方法は全く知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-193893号公報
【文献】特表2018-505880号公報
【文献】特表2016-509596号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】Singh, J.A., Lancet, 2015
【文献】L.Sun et al., Science Signal, 10, eaai8583(2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、膠原病の治療に用いられている免疫調節剤、免疫抑制剤または生物学的製剤は、免疫を抑制することで病勢を制御することを目的としているが、一方で外来微生物に対する免疫反応も同時に抑えてしまうので、重篤な感染症に罹患するリスクが上昇する。本発明の目的は、かかる副作用のない、新しいメカニズムに基づく新規な関節炎治療剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、関節炎モデルマウスを用いた研究により、炎症性滑膜に特異的に出現する破骨前駆細胞を同定し、転写因子FoxM1が該細胞の病原性を司ることを明らかにした。さらに、関節リウマチモデルにおいて、FoxM1阻害剤がin vitroでの破骨細胞の分化とin vivoでの関節破壊を抑制すること、また、ヒトにおいても、関節リウマチ患者の検体から採取された単球・マクロファージ系細胞の破骨細胞分化が同阻害剤により抑制されることを確認し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0007】
転写因子FoxM1は、関節炎の炎症性滑膜に特異的に出現する破骨前駆細胞に発現し、健常者の骨髄中にあって通常の骨代謝に関与する破骨細胞の機能には関与していない。よってFoxM1阻害剤を用いることで、副作用を伴うことなく、関節炎の予防および/または治療が可能である。
また、FoxM1阻害剤を有効成分とする治療剤を用いることで、前述した外来微生物による重篤な感染症に罹患するリスクが回避され、また、FoxM1阻害剤として、例えばチオストレプトンのような低分子化合物を用いることで、既存の生物学的製剤による治療より医療経済に対する負担を減らすことも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1A】関節炎モデルマウスの血液と滑膜のCD45陽性細胞をフローサイトメトリーでゲートし、CX3CR1-EGFPとLy6C-APCの蛍光で細胞分画を識別した結果を示す。
図1B】炎症滑膜に存在する破骨前駆細胞(以後R3と表記する)と骨髄中に存在する破骨前駆細胞(BM-OP)の細胞表面マーカーの違いを示す。
図1C】R3の網羅的なトランスクリプトーム解析・上流解析を行った結果を示している。
図2】R3の破骨細胞分化に及ぼすチオストレプトンの効果(in vitro)を示す図である。写真は、破骨細胞分化(赤が破骨細胞、緑が前駆細胞を示す)がチオストレプトン投与により抑制されることを表す。グラフの縦軸は三つ以上の核を持つ細胞を破骨細胞と定義し、一視野中の破骨細胞に含まれる核の数を示している。
【0009】
図3A】関節炎モデルマウス(CIAモデル)に対して、チオストレプトンを投与し、関節炎スコアでその効果を評価した結果を示すグラフである。
図3B】同様に関節炎モデルマウス(CIAモデル)へチオストレプトンを投与し、マイクロCTで撮像した骨破壊スコアにより、関節の骨破壊程度を評価した結果を示す。「Thio」はチオストレプトンを表す。写真は、マイクロCTで撮影した骨組織の画像、グラフの縦軸はびらんスコア(Erosion Score)で、骨破壊の程度を示している。
図4A】タモキシフェン投与により誘導されるFoxM1ノックアウトマウスに対し、関節炎を惹起するプロトコールを示す図である。タモキシフェン2mgを五日間腹腔内投与し、5mgのCAIA抗体を静脈注射してから二週間後に関節炎を評価することを表す。
図4B図4Aで示したプロトコールに従って作製したFoxM1ノックアウトマウスにおいて関節炎を惹起し、骨破壊程度を確認した。写真は、マイクロCTで撮影した骨組織の画像、グラフの縦軸はびらんスコア(Erosion Score)で、骨破壊の程度を示している。
図5A】関節リウマチ患者(ヒト)の血液、関節液および関節組織の検体をフローサイトメトリーにより対比した結果である。関節液と関節組織にCX3CR1陽性HLA-DRhiの細胞が認められる。
図5B図5Aで示した関節リウマチ患者のCX3CR1陽性HLA-DRhiの細胞分画の破骨細胞分化に及ぼす、チオストレプトンの効果を示す。写真は、破骨細胞分化がチオストレプトン投与により阻害されることを表す。グラフの縦軸は三つ以上の核を持つ細胞を破骨細胞と定義した場合、一視野中の破骨細胞に含まれる核の数を示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明で用いられるFoxM1阻害剤は、好ましくは、チオストレプトンやRCM-1(前記非特許文献2)のような低分子化合物よりなる、FoxM1活性の阻害剤である。
他方、FoxM1の発現を抑制できる化合物も、本発明のFoxM1阻害剤として使用可能であり、例えば、その遺伝子の転写、RNAの成熟化、mRNAの翻訳、そのタンパク質の翻訳後修飾等を阻害するあらゆる化合物が対象である。具体的には、FoxM1遺伝子のスプライシングモディファイヤー(前記特許文献1参照)やsiRNA(前記特許文献2参照)等を例示できる。
本発明のFoxM1阻害剤を有効成分とする関節炎治療剤は、広く、関節の炎症をともなう疾病の治療および/または予防に用いることができ、例えば関節リウマチ、脊椎関節炎、組織球増殖症等が対象疾患として例示されるが、好ましくは、関節リウマチの治療および/または予防に用いられる。
【0011】
本発明のFoxM1阻害剤は、経口投与、非経口投与または局所的投与に適した従来の薬学製剤(医薬組成物)の形態に調製することができる。
経口投与のための製剤は、錠剤、顆粒、粉末、カプセルなどの固形剤、およびシロップなどの液体製剤を含む。これらの製剤は従来の方法によって調製することができる。固形剤は、ラクトース、コーンスターチなどのデンプン、微結晶性セルロースなどの結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルシウムカルボキシメチルセルロース、タルク、ステアリン酸マグネシウムなどのような従来の薬学的担体を用いることによって調製することができる。カプセルは、このように調製した顆粒または粉末をカプセルに包むことによって調製することができる。シロップは、ショ糖、カルボキシメチルセルロースなどを含む水溶液中で、FoxM1阻害剤を溶解または懸濁することによって調製することができる。
【0012】
非経口投与のための製剤は、点滴注入などの注入物を含む。注入製剤もまた従来の方法によって調製することができ、等張化剤(例えば、マンニトール、塩化ナトリウム、グルコース、ソルビトール、グリセロール、キシリトール、フルクトース、マルトース、マンノース)、安定化剤(例えば、亜硫酸ナトリウム、アルブミン)、防腐剤(例えば、ベンジルアルコール、p-オキシ安息香酸メチル)中に適宜組み入れることができる。
局所又は経皮投与用の剤形には、軟膏剤、ペースト剤、クリーム剤、ローション剤、ゲル剤、散剤、溶液剤、スプレー剤、吸入剤、又はパッチ剤が含まれる。有効成分のFoxM1阻害剤は、無菌条件の下で、医薬的に許容される担体と、必要とされる保存剤又は必要とされ得る緩衝液と一緒に混合される。
【0013】
本発明のFoxM1阻害剤の用量は、当該阻害活性化合物、疾患の種類、重症度、患者の年齢、性別、および体重、投薬形態などに従って変化させることができるが、通常は成人において1日あたり1mg~1,000mgの範囲であり、それは経口経路または非経口経路によって、1回、または2回もしくは3回に分割して投与することができる。
本発明によればまた、前期FoxM1阻害剤を用いる関節炎の治療方法が提供される。この場合、前期FoxM1阻害剤は単独で、または1種以上の他の治療剤と組合せて使用することができる。組み合わせて用いられる薬剤としては、例えば、疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)、疼痛管理薬、ステロイド、非ステロイド抗炎症薬(NSAID)、サイトカインアンタゴニスト、骨同化作用薬、骨抗吸収薬及びそれらの組合せなどの少なくとも1つの関節炎治療薬と併用して(二剤併用療法または三剤併用療法)、投与することができる。1つ又は複数の追加の薬剤と併用投与する場合、前期FoxM1阻害剤は他の薬剤と同時または連続して投与することができる。連続して投与する場合、主治医がFoxM1阻害剤を他の薬剤と併用投与する適切な順序を決定する。
FoxM1阻害剤と併用されるDMARDとしては、メトトレキセート、抗マラリア薬(例えば、ヒドロキシクロロキン及びクロロキン)、スルファサラジン、レフルノミド、アザチオプリン、シクロスポリン、金塩、ミノサイクリン、シクロホスファミド、D-ペニシラミン、ミノサイクリン、オーラノフィン、タクロリムス、ミオクリシン、クロラムブシル等;ステロイドとしては、プ レドニゾロン、プレドニゾン、デキサメタゾン、コルチソル、コルチゾン、ヒドロコルチ ゾン、メチルプレドニゾロン、ベタメタゾン、トリアムシノロン、ベクロメタゾン、フル ドロコチゾン、デオキシコルチコステロン、アルドステロン等;疼痛管理薬または非ステロイド抗炎症薬(NSAID)としては、ルミラコキシブ、イブプロフェン、フェノプロフェン、ケトプロフェン、フルルビプロフェン、オキサプロジン、インドメタシン、スリンダック、エトドラック、ケトロラック、ナブメトン、アスピリン、ナプロキセン、バルデコキシブ、エトリコキシブ、ロフェコキシブ、アセトミノフェン、セレコキシブ、ジクロフェナク、トラマドール、ピロキシカム、メロキシカム、テノキシカム、ドロキシカム、ロルノキシカム、イソキシカム、メフェナム酸、メクロフェナム酸、フルフェナム酸、トルフェナミック、バルデコキシブ、パレコキシブ、エトドラク、インドメタシン、アスピリン、イブプロフェン、フィロコキシブ等が例示されるが、これらに限定はされない。
以下に実施例を示して、本発明を具体的に説明するが、これら実施例は本発明を限定するものでは決してない。
【実施例1】
【0014】
試験例1 破骨前駆細胞におけるFoxM1の発現
A)コラーゲン誘発関節炎モデルマウス(CIAモデル)の血液と滑膜のCD45陽性細胞をフローサイトメトリーで選び出し、CX3CR1-EGFPとLy6C-APCの蛍光で細胞分画を識別した。血液中のCX3CR1lowLy6Chiの分画をR1とし、炎症滑膜中のCX3CR1lowLy6Chiの分画をR2とし、CX3CR1hiLy6Cintの分画をR3とした(図1A)。
B)R3の分画はこれまで骨髄中の破骨前駆細胞(BM-OP)と報告されてきた分画とは異なり、フローサイトメトリーによる解析の結果CD80,CD86,I-A/I-E,CD11cが発現していた(図1B)。
C)上記A)で示したR1、R2およびR3の分画のmRNAの発現状況を網羅的に解析するため、RNA-シーケンス解析を行った(Illumina HiSeq 2500 platform in 75-base single-end mode)。R3で上昇している転写因子をリストアップし、上流解析(Up-stream analysis)にかけたところ、FoxM1が最上位に位置し、FoxM1が本細胞の制御因子として示された(図1C)。
【0015】
試験例2 破骨細胞への分化の抑制(in vitro)
R3の細胞をフローサイトメトリー(セルソーターSH800、ソニー社)を用いて回収し、96ウエルプレート上でM-CSF 10ng/ml、RANKL 100ng/mlおよびFoxM1阻害薬であるチオストレプトン(SIGMA社)0.5、1または2μMを加えて培養したところ、破骨細胞へ分化する能力がチオストレプトン投与群では顕著に抑制された(図2)。
【0016】
試験例3 モデルマウスにおける効果(in vivo)
コラーゲン誘発関節炎(CIA)マウスを3群に分け、チオストレプトン20mg/kg、50mg/kgまたは基剤(対照)を21日目から隔日で腹腔内投与した。CIAマウスの作製と評価方法は以下のとおりである。
8~10週齢のDBA-1/Jマウスを用いて関節炎を惹起した。ニワトリII型コラーゲンを0.05M酢酸水溶液に溶解し、4℃で終夜回転させて濃度4.0mg/mlとし、等量のフロインドの完全アジュバントと混合した。初日に、上記DBA-1/Jマウスにエマルジョン100μlを尾部に注入して免役し、同様に21日目に投与を繰り返した。関節炎の重症度は確立済みの5ポイントスケールからなる半定量的スコア法に従って評価した。0:腫れなし、1:踵または足根骨にのみ僅かな腫れ、2:踵から足根骨にかけて僅かな腫れ、3:踵から中足関節にかけてかなりの腫れ、4:踵、足、指を含めて広がる重篤な腫れ。
各マウス四肢の累積スコア(最大16)を関節炎スコアとして用いた〔Brand, D. D., Latham, K. A. & Rosloniec, E. F. Collagen-induced arthritis. Nat. Protoc. 2, 1269-1275 (2007)参照〕。
また、マイクロCTを用いた画像解析を実施した。骨破壊スコアは先行研究を参考に行った(O’Brien, Arthritis Rheumatol. 2016参照)。上記関節炎スコアとマイクロCTで撮像した骨破壊スコアが、コントロール群に比べ有意に減少した(図3A、3B)。
【0017】
試験例4 ノックアウトマウスにおける評価
FoxM1ノックアウトマウスは胎性致死となるため、タモキシフェンを用いて時間特異的にFoxM1をノックアウトするマウス(RosaERT2Cre;FoxM1fl/fl)を用い、CAIAモデルを評価した。これまでのCIAモデルはDBA1/Jという系統では関節炎を惹起するが、ノックアウトマウスのB6という系統では関節炎を惹起しにくいため、B6でも関節炎を安定して惹起するCAIAモデルを用いた。
ノックアウトモデルの作製は図4Aに示すプロトコールに従った。即ち、初日に、5クローンArthrogen-CAIA抗体(コンドレックス社)5mgをiv投与し、3および10日目にLPS40 μgを腹腔内投与して関節炎を惹起した。関節炎の重症度は上記CIAモデルと同じ半定量的方法で評価した。この関節炎モデルマウスを、コントロール群、タモキシフェン2 mgを五日間腹腔内投与群、さらにタモキシフェン投与後にFoxM1がノックアウトされていない単球を養子移植する群にわけ、14日目に骨破壊スコアを比較した。
すると、タモキシフェン投与群では、骨破壊スコアがコントロール群と比較して有意に抑制されており、ここにFoxM1がノックアウトされていない単球を養子移植すると骨破壊が増悪した(図4B)。
【0018】
試験例5
関節リウマチ患者(ヒト)の血液と関節液、および関節組織の検体をフローサイトメトリーを用いて評価すると、試験1のR3と同様、関節液と関節組織にCX3CR1陽性HLA-DRhiの細胞を認めた(マウスではI-A/I-EがヒトHLA-DRに相当し、R3でもHLA-DRが高発現することが図1Bで示された)。フローサイトメトリーによってこれらの細胞を回収し、M-CSF 50 ng/ml、RANKL 100 ng/ml、およびチオストレプトン 0.5 μMを加えて96ウエルプレートで培養すると、チオストレプトン投与により破骨細胞への分化が有意に抑制された(図5A、5B)。
【産業上の利用可能性】
【0019】
FoxM1の阻害剤を有効成分とすることで、重篤な感染症に罹患するリスクのない関節炎治療剤が製造されるから、本発明は産業上利用することができる。
図1A
図1B
図1C
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B