(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】インビトロバイオフィルムモデル
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20240809BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20240809BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20240809BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
C12N1/20 C
C12Q1/02
G01N33/15 Z
G01N33/50 Z
C12N1/20 A
(21)【出願番号】P 2019198772
(22)【出願日】2019-10-31
【審査請求日】2022-09-20
(31)【優先権主張番号】P 2019035872
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】五味 満裕
(72)【発明者】
【氏名】濱田 昌子
(72)【発明者】
【氏名】前田 晋吾
(72)【発明者】
【氏名】富岡 寿也
【審査官】西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-116516(JP,A)
【文献】特開2017-195797(JP,A)
【文献】特開2010-006720(JP,A)
【文献】特開2015-157768(JP,A)
【文献】特開2004-008046(JP,A)
【文献】WALKER, C et al.,An in vitro biofilm model of subgingival plaque,Oral Microbiology and Immunology,2007年,Vol. 22, No. 3,pp. 152-161,doi: 10.1111/j.1399-302X.2007.00336.x
【文献】WU, T et al.,Development of In Vitro Denture Biofilm Models for Halitosis Related Bacteria and their Application in Testing the Efficacy of Antimicrobial Agents,The Open Dentistry Journal,2015年,Vol. 9,pp. 125-131,doi: 10.2174/1874210601509010125
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C12Q
G01N
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記[I]~[III]のいずれかの培養物からなり、義歯表面に形成されるバイオフィルムのモデルとして使用するための、インビトロバイオフィルムモデル:
[I](a1)Veillonella disparと、
(b1)Actinomyces meyeriと、
(c1)Rothia mucilaginosaと、
からなる口腔内微生物の培養物、
[II]前記(a1)細菌と、
前記(b1)細菌と、
前記(c1)細菌と、
(a2)Veillonella atypica、(b2)Actinomyces graeven
itzii、(c2)Rothia aeria、(c3)Rothia dentocariosa、及び(E)Candida albicansの少なくともいずれかと、
からなる口腔内微生物の培養物、
[III]前記[I]を構成する口腔内微生物又は前記[II]を構成する口腔内微生物と、
(D)(d1)Streptococcus salivarius、(d2)Streptococcus anginosus、(d3)Streptococcus gordonii、及び(d4)Streptococcus sinensisのうち少なくともいずれかと、
からなる口腔内微生物の、スクロース含有培地中で得られる培養物。
【請求項2】
前記(D)細菌が前記(d1)細菌である、請求項1に記載のインビトロバイオフィルムモデル。
【請求項3】
被験試料を、請求項1又は2のインビトロバイオフィルムモデルに接触させる工程と、バイオフィルム量を評価する工程と、を含む、バイオフィルムに対する除去効果を評価する方法。
【請求項4】
前記被験試料が義歯洗浄剤を構成する成分を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
バイオフィルムに対する除去剤の候補を含む被験試料を請求項3又は4に記載の方法に供する工程と、前記候補からバイオフィルムに対する除去剤を選定する工程と、を含む、バイオフィルムに対する除去剤のスクリーニング方法。
【請求項6】
口腔内微生物の培養物からなる、義歯表面に形成されるバイオフィルムのモデルとして使用するためのインビトロバイオフィルムモデルを得るためのキットであって、
前記口腔内微生物を含み、
前記口腔内微生物が、下記[i]~[iii]のいずれか:
[i](a1)Veillonella disparと、
(b1)Actinomyces meyeriと、
(c1)Rothia mucilaginosaと、
からなる口腔内微生物、
[ii]前記(a1)細菌と、
前記(b1)細菌と、
前記(c1)細菌と、
(a2)Veillonella atypica、(b2)Actinomyces graeven
itzii、(c2)Rothia aeria、(c3)Rothia dentocariosa、及び(E)Candida albicansの少なくともいずれかと、
からなる口腔内微生物、
[iii]前記[i]又は前記[ii]と、
(D)(d1)Streptococcus salivarius、(d2)Streptococcus anginosus、(d3)Streptococcus gordonii、及び(d4)Streptococcus sinensisのうち少なくともいずれかと、
からなる口腔内微生物
からなり、
前記口腔内微生物が前記[iii]である場合、スクロースを含有する培地を更に含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ヒト口腔内のバイオフィルムを模したインビトロバイオフィルムモデル、バイオフィルムに対する除去効果を評価する方法、バイオフィルムに対する除去剤のスクリーニング方法、並びに、インビトロバイオフィルムモデルを得るためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
口腔バイオフィルムは、口腔内微生物により、歯、義歯、口腔粘膜といった口腔内の固相面を足場にして膜状に構成される構造体である。口腔内バイオフィルムには、歯面に形成されう蝕の原因となるデンタルプラークや歯肉縁下に形成され歯周病の原因となるデンタルプラーク、舌上に形成され口臭等の原因となる舌苔、義歯に形成され感染症の原因ともなるデンチャープラーク等も含まれ得る。このため、口腔バイオフィルムを除去することは、口腔衛生用品や口腔用組成物に求められる機能として重要視されている。
【0003】
口腔バイオフィルムを制御する有効成分の評価及び探索を目的として、従来、動物やヒトでの臨床試験、単独又は複数の細菌によるインビトロ評価モデルが提案されている。例えば、特許文献1には、(A)菌体外多糖として水不溶性グルカンを産生する細菌、(B)菌体外多糖として水溶性グルカンを産生する細菌、(C)菌体外多糖としてフルクタンを産生する細菌、(D)菌体外多糖として水不溶性グルカン及びフルクタンを産生する細菌から選ばれる細菌のうち、(A)、(B)及び(C)、又は(D)及び(B)の組み合せを含む混合細菌を、ガラス体又は合成樹脂体の表面で培養して作製されたインビトロバイオフィルムモデルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されたインビトロバイオフィルムモデルは、ヒトの口腔内での検出実績のある細菌を用いて構成され、通常の含嗽程度では容易に除去できないような特性のものとして形成されている。しかしながら、このインビトロバイオフィルムに用いた口腔内細菌は、ヒトの口腔内での検出実績があるものを人為的に選択して組み合わせているに過ぎない。つまり、このインビトロバイオフィルムは、実際にヒトの口腔内で形成されるバイオフィルム中において高頻度且つ優占的に存在する細菌を用いているわけではない。従って、ヒトの口腔内バイオフィルムに近似した評価系としての有用性が期待できるモデルとはいえない。
【0006】
そこで、本発明は、ヒトの口腔内で形成されるバイオフィルムに近似した評価系として有用なインビトロバイオフィルムモデルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、全部床義歯の粘膜側及び口蓋側の表面からバイオフィルムを回収して検出細菌を分析したところ、特定の菌種が高頻度且つ優占的に存在することを見出し、このような特定の細菌を選択することで、ヒトの口腔内で形成されるバイオフィルムに近似した評価系として有用なインビトロバイオフィルムモデルを構築できることを見出した。本発明は、この知見に基づいてさらに検討を重ねることにより完成したものである。
【0008】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 以下の(A)、(B)及び(C)の少なくともいずれかを含む口腔内微生物:
(A)(a1)Veillonella dispar及び/又は(a2)Veillonella atypica、
(B)(b1)Actinomyces meyeri、(b2)Actinomyces graevenizii、及び/又は(b3)Actinomyces johnsonii、
(C)(c1)Rothia mucilaginosa、(c2)Rothia aeria、及び/又は(c3)Rothia dentocariosa、
の培養物からなるインビトロバイオフィルムモデル。
項2. 前記(A)細菌が前記(a1)細菌であり、前記(B)細菌が前記(b1)細菌であり、前記(C)細菌が前記(c1)細菌である、項1に記載のインビトロバイオフィルムモデル。
項3. 前記口腔内微生物が、(A)、(B)及び(C)の細菌を含む、項1又は2に記載のインビトロバイオフィルムモデル。
項4. 前記口腔内微生物が、更に(D)(d1)Streptococcus salivarius、(d2)Streptococcus anginosus、(d3)Streptococcus gordonii、及び/又は(d4)Streptococcus sinensisを含む、項1~3のいずれかに記載のインビトロバイオフィルムモデル。
項5. 前記(D)細菌が前記(d1)細菌である、項4に記載のインビトロバイオフィルムモデル。
項6. 義歯表面に形成されるバイオフィルムのモデルである、項1~5のいずれかに記載のインビトロバイオフィルムモデル。
項7. 被験試料を、項1~6のいずれかのインビトロバイオフィルムモデルに接触させる工程と、バイオフィルム量を評価する工程と、を含む、バイオフィルムに対する除去効果を評価する方法。
項8. 前記被験試料が義歯洗浄剤を構成する成分を含む、項7に記載の方法。
項9. バイオフィルムに対する除去剤の候補を含む被験試料を項7又は8に記載の方法に供する工程と、前記候補からバイオフィルムに対する除去剤を選定する工程と、を含む、バイオフィルムに対する除去剤のスクリーニング方法。
項10. 以下の(A)、(B)及び(C)の少なくともいずれかを含む口腔内微生物:
(A)(a1)Veillonella dispar及び/又は(a2)Veillonella atypica、
(B)(b1)Actinomyces meyeri、(b2)Actinomyces graevenizii、及び/又は(b3)Actinomyces johnsonii、
(C)(c1)Rothia mucilaginosa、(c2)Rothia aeria、及び/又は(c3)Rothia dentocariosa、
を含む、前記口腔内微生物の培養物からなるインビトロバイオフィルムモデルを得るためのキット。
項11. 前記口腔内微生物が、(D)(d1)Streptococcus salivarius、(d2)Streptococcus anginosus、(d3)Streptococcus gordonii、及び/又は(d4)Streptococcus sinensisを含む、項10に記載のキット。
項12. スクロースを含有する培地を更に含む、項10又は11に記載のキット。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ヒトの口腔内で形成されるバイオフィルムに近似した評価系として有用なインビトロバイオフィルムモデルが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】試験例2で得られた、(a1)Veillonella dispar、(b1)Actinomyces meyeri、又は(c1)Rothia mucilaginosaの単独嫌気培養物からなるインビトロバイオフィルムのバイオフィルム形成量を示す。
【
図2】試験例2で得られた、(a1)Veillonella dispar、(b1)Actinomyces meyeri、及び(c1)Rothia mucilaginosaから選択された2種混合の嫌気培養物からなるインビトロバイオフィルムのバイオフィルム形成量を示す。なお、単独嫌気培養物からなるインビトロバイオフィルムの結果も併記して示している。
【
図3】試験例2で得られた、(a1)Veillonella dispar、(b1)Actinomyces meyeri、及び(c1)Rothia mucilaginosaの3種混合の嫌気培養物からなるインビトロバイオフィルムのバイオフィルム形成量を示す。なお、2種混合の嫌気培養物からなるインビトロバイオフィルムの結果も併記して示している。
【
図4】試験例2で得られた、(a1)Veillonella dispar、(b1)Actinomyces meyeri、(c1)Rothia mucilaginosa、及び(d1)Streptococcus salivariusの4種混合、並びに、更に(E)Candida albicansを組み合わせた5種混合の嫌気培養物からなるインビトロバイオフィルムのバイオフィルム形成量を示す。
【
図5】試験例4で得られた、(a1)Veillonella dispar、(b1)Actinomyces meyeri、又は(c1)Rothia mucilaginosaを組み合わせた場合の(D)Streptococcus属細菌によるバイオフィルム形成量への影響を確認した結果を示す。
【
図6】試験例5で得られた、培地中のスクロースの有無によるバイオフィルム形成量への影響を確認した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.インビトロバイオフィルムモデル
本発明のインビトロバイオフィルムモデルは、(A)(a1)Veillonella dispar(以下、(a1)細菌とも記載する)及び/又は(a2)Veillonella atypica(以下、(a2)細菌とも記載する)(以下、これらをまとめて(A)細菌とも記載する);(B)(b1)Actinomyces meyeri(以下、(b1)細菌とも記載する)、(b2)Actinomyces graevenizii(以下、(b2)細菌とも記載する)、及び/又は(b3)Actinomyces johnsonii(以下、(b3)細菌とも記載する)(以下、これらをまとめて(B)細菌とも記載する);(C)(c1)Rothia mucilaginosa、Rothia aeria(以下、(c1)細菌とも記載する)、及び/又は(c2)Rothia dentocariosa(以下、(c2)細菌とも記載する)(以下、これらをまとめて(C)細菌とも記載する)、の少なくともいずれかを含む口腔内微生物の培養物からなる。以下、本発明のインビトロバイオフィルムモデルについて詳述する。
【0012】
(A)細菌、(B)細菌、及び(C)細菌は、ヒトの口腔内微生物のうち、バイオフィルムにおいて高頻度且つ優占的に存在するものである。
【0013】
(A)細菌はVeillonella属の細菌であり、本発明では、(a1)Veillonella dispar及び(a2)Veillonella atypicaの少なくともいずれかが用いられる。(A)細菌としては、(a1)細菌及び(a2)細菌のうち単独で用いてもよいし、2種を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、ヒトの口腔内でより一層高頻度且つ優先的に存在する細菌を含む、ヒト口腔内のバイオフィルムにより一層近似したバイオフィルムモデルを構築する観点から、好ましくは(a1)細菌が挙げられ、高いバイオフィルム形成能を得る観点から、好ましくは(a2)細菌が挙げられる。
【0014】
(B)細菌はActinomyces属の細菌であり、本発明では、(b1)Actinomyces meyeri、(b2)Actinomyces graevenizii、及び(b3)Actinomyces johnsoniiの少なくともいずれかが用いられる。(B)細菌としては、(b1)細菌、(b2)細菌、及び(b3)細菌のうち単独で用いてもよいし、2種または3種を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、ヒトの口腔内でより一層高頻度且つ優先的に存在する細菌を含む、ヒト口腔内のバイオフィルムにより一層近似したバイオフィルムモデルを構築する観点から、好ましくは(b1)細菌が挙げられる。
【0015】
(C)細菌はRothia属の細菌であり、具体的には、(c1)Rothia mucilaginosa、(c2)Rothia aeria、及び(c3)Rothia dentocariosaが挙げられる。(C)細菌としては、(c1)細菌、(c2)細菌及び(c3)細菌のうち単独で用いてもよいし、2種または3種を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、ヒトの口腔内でより一層高頻度且つ優先的に存在する細菌を含む、ヒト口腔内のバイオフィルムにより一層近似したバイオフィルムモデルを構築する観点から、好ましくは(c1)細菌が挙げられる。
【0016】
本発明のインビトロバイオフィルムモデルは、(A)細菌、(B)細菌及び(C)細菌の少なくともいずれかを含む口腔内微生物の培養物であればよいが、形成されるインビトロバイオフィルムモデルのぬめりの程度を調節するために、適宜、(A)細菌、(B)細菌及び(C)細菌として挙げた上記の細菌から1種または複数種を選択することができる。たとえば、(C)細菌の中でも(c1)細菌と(A)細菌の中でも(a2)細菌は、それら自身、バイオフィルム形成能が高い(形成されるバイオフィルムモデルのぬめりの程度が大きい)ため、(c1)細菌及び/又は(a2)細菌が選択された場合、インビトロバイオフィルムモデルのぬめりの程度が高くなる傾向となる。(C)細菌の中でも(c2)細菌及び(c3)細菌は、それら自身、バイオフィルム形成能は高くないが、(A)細菌及び/又は(B)細菌と組み合わされることで、バイオフィルム形成能を相乗的に高めることができる。また、(A)細菌と(B)細菌とを組み合わせることで、バイオフィルム形成能を相乗的に高めることができる。特に、(a1)細菌及び(b1)細菌は、それぞれ、それら自体のバイオフィルム形成能は(c1)細菌ほどではないが、(a1)細菌及び(b1)細菌を組み合わせることで、(c1)細菌を用いた場合に匹敵するほどのバイオフィルム形成能を発揮することができる。
【0017】
具体的には、バイオフィルム形成能を相乗的に高めることで効率的にぬめりの程度が高められたインビトロバイオフィルムモデルを構築する観点から、(A)細菌、(B)細菌及び(C)細菌として挙げた上記の細菌から選択される口腔内微生物の好ましい組み合わせとして、(A)細菌と(B)細菌との組み合わせ、(A)細菌と(B)細菌と(c2)細菌との組み合わせ、(A)細菌と(B)細菌と(c3)細菌との組み合わせが挙げられ、より好ましくは、(A)細菌と(B)細菌と(c2)細菌との組み合わせ、(A)細菌と(B)細菌と(c3)細菌との組み合わせが挙げられ、一層好ましくは、(a1)細菌と(b2)細菌と(c2)細菌との組み合わせ、(A)細菌と(B)細菌と(c3)細菌との組み合わせが挙げられ、特に好ましくは、(a1)細菌と(b2)細菌と(c2)細菌との組み合わせが挙げられる。
【0018】
一方で、組み合わせによってバイオフィルム形成能を相乗的に高めなくとも、個々の細菌のバイオフィルム形成能が比較的良好に発揮されたインビトロバイオフィルムモデルを構築する観点から、(A)細菌、(B)細菌及び(C)細菌として挙げた上記の細菌から選択される口腔内微生物の好ましい組み合わせとして、(A)細菌と(C)細菌との組み合わせ、(B)細菌と(C)細菌との組み合わせ、(A)細菌と(B)細菌と(c1)細菌との組み合わせが挙げられ、好ましくは、(B)細菌と(C)細菌との組み合わせ、(A)細菌と(b1)細菌と(c1)細菌との組み合わせが挙げられる。これらの組み合わせは、ヒトの口腔内でより一層高頻度且つ優先的に存在する細菌が選択でき、ヒト口腔内のバイオフィルムにより一層近似したバイオフィルムモデルを構築することができる点で好ましい。具体的には、ぬめりの大きいバイオフィルムモデルを得ることと、ヒトの口腔内でより一層高頻度且つ優先的に存在する細菌を含む、ヒト口腔内のバイオフィルムにより一層近似したバイオフィルムモデルを構築することとを両立させる観点から、(A)細菌、(B)細菌及び(C)細菌として挙げた上記の細菌から選択される口腔内微生物の好ましい組み合わせとして、(a1)細菌と(c1)細菌との組み合わせ、(b1)細菌と(c1)細菌との組み合わせ、(a1)細菌と(b1)細菌と(c1)細菌との組み合わせ、(a1)細菌と(b2)細菌と(c1)細菌との組み合わせが挙げられ、好ましくは、(b1)細菌と(c1)細菌との組み合わせ、(a1)細菌と(b1)細菌と(c1)細菌との組み合わせが挙げられる。
【0019】
本発明のインビトロバイオフィルムモデルを構築する口腔内微生物は、更に、(D)(d1)Streptococcus salivarius(以下、(d1)細菌とも記載する)、(d2)Streptococcus anginosus(以下、(d2)細菌とも記載する)、(d3)Streptococcus gordonii(以下、(d3)細菌とも記載する)、及び/又は(d4)Streptococcus sinensis(以下、(d4)細菌とも記載する)(以下、これらをまとめて(D)細菌とも記載する)を含むことができる。(D)細菌も、ヒトの口腔内微生物のうち、バイオフィルムにおいて高頻度且つ優占的に存在するものである。
【0020】
(D)細菌はStreptococcus属の細菌であり、(d1)細菌、(d2)細菌、(d3)細菌、(d4)細菌のうち単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、ヒトの口腔内でより一層高頻度且つ優先的に存在する細菌を含む、ヒト口腔内のバイオフィルムにより一層近似したバイオフィルムモデルを構築する観点から、好ましくは(d1)細菌が挙げられる。
【0021】
(D)細菌は、(A)細菌、(B)細菌、及び/又は(C)細菌と組み合わせて培養されることで、より口腔内環境に近いバイオフィルムモデルを構築することができる。
【0022】
また、(D)細菌は、スクロースを含まない培地を用いる場合、(A)細菌及び/又は(C)細菌を含む口腔内微生物と組み合わせて培養される場合は、形成されるバイオフィルムモデルのぬめりの程度を低減させることができる。つまり、(D)細菌を組み合わせることにより、形成されるインビトロバイオフィルムモデルのぬめりの程度をより細かく調節することができる。
【0023】
(D)細菌の中でも、スクロースを含まない培地を用いる場合にバイオフィルムモデルのぬめりをより一層効果的に低減させる観点からは、好ましくは(d1)細菌、(d2)細菌、(d3)細菌が挙げられ、より好ましくは(d1)細菌が挙げられる。
【0024】
本発明のインビトロバイオフィルムモデルを構築する口腔内微生物には、更に、(E)Candida属の真菌を含んでもよい。(E)真菌も、ヒトの口腔内微生物のうち、バイオフィルムにおいて高頻度且つ優占的に存在するものである。
【0025】
(E)真菌としては、例えば、Candida albicans、Candida krusei、Candida glabrata等が挙げられる。(E)真菌としては、これらの中から単独で用いてもよいし、2種を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、好ましくはCandida albicans、Candida kruseiが挙げられ、より好ましくはCandida albicansが挙げられる。(E)真菌を更に含むことによって、よりヒトの口腔内環境に近いバイオフィルムモデルとすることができる。
【0026】
なお、本発明のバイオフィルムは、上記の口腔内微生物に加え、他の口腔内細菌を含んでいてもよい。他の口腔内細菌としては、上記以外のVeillonella属、上記以外のActinomyces属の細菌が挙げられる。上記以外のVeillonella属の細菌としては、Veillonella parvula、Veillonella tobetsuensis、Veillonella rogosae、Veillonella denticariosi等が挙げられる。上記以外のActinomyces属の細菌としては、Actinomyces naeslundii、Actinomyces odontolyticus、Actinomyces oris、Actinomyces viscosus、Actinomyces dentalis、Actinomyces gerencseriae、Actinomyces israelii等が挙げられる。
【0027】
また、他の口腔内細菌としては、上記以外のStreptococcus属の細菌も挙げられる。上記以外のStreptococcus属の細菌としては、Streptococcus constellatus、Streptococcus cristatus、Streptococcus intermedius、Streptococcus mutans、Streptococcus parasanguinis、Streptococcus sanguinis等が挙げられる。これらの上記以外のStreptococcus属の細菌も、形成されるバイオフィルムモデルのぬめりの程度を低減させるために用いることができる。
【0028】
さらに、他の口腔内細菌としては、Neisseria属、Prevotella属、Gamella属、Lactobacillus属、Scardovia属、Fusobacterium属、Leuconostoc属、Lactococcus属、Enterococcus属、Haemophilus属、Granulicatella属、Stomatobaculum属、Acinetobacter属、Atopobium属からなる群より選択される細菌が挙げられる。これらの中でも、好ましくはNeisseria属、Prevotella属、Gamella属、Lactobacillus属、Scardovia属、Fusobacterium属、Leuconostoc属、Lactococcus属、Enterococcus属、Haemophilus属からなる群より選択される細菌が挙げられる。
【0029】
本発明のインビトロバイオフィルムモデルは、上記の口腔内微生物の培養物であり、当該口腔内微生物が糖類等の有機物を栄養源として増殖及び分裂を三次元的に起こし、さらに当該口腔内微生物が菌体外多糖等の菌体外高分子を産生することで形成されたマトリックス構造を有する。
【0030】
上記の口腔内微生物は、ヒトの口腔内バイオフィルムに存在する。従って上記の口腔内微生物としては、例えばヒトの口腔内バイオフィルムから採取したものを用いることができる。当該バイオフィルムとしては、好ましくは義歯、より好ましくは義歯床の表面に形成されるバイオフィルムが挙げられる。また、上記の口腔内微生物としては、市販品を用いることもできる。
【0031】
2.インビトロバイオフィルムモデルの製造
本発明のインビトロバイオフィルムモデルは、上記の口腔内微生物を培養することによって得ることができる。好ましくは、培養系に固相担体を共存させることで、バイオフィルムを固相担体表面に付着した状態で形成することができる。
【0032】
(A)細菌、(B)細菌、及び/又は(C)細菌、並びに、必要に応じ用いられる、(D)細菌、(E)真菌、及び/又は他の口腔内細菌としては、市販品を用いることができる。また、これらの口腔内微生物は口腔内バイオフィルムに存在する菌であるため、口腔内バイオフィルムから取得して用いてもよい。口腔内バイオフィルムから取得する場合、好ましくは、義歯表面、より好ましくは義歯床表面に形成されるバイオフィルムから取得することができる。また、(E)真菌を義歯床表面に形成されるバイオフィルムから取得する場合、好ましくは、義歯床の粘膜側表面(装着時において、口腔内の粘膜面に対向する義歯床の面)に形成されるバイオフィルムから取得することができる。
【0033】
固相担体の材料としては特に限定されず、例えば、ガラス又は合成樹脂が挙げられる。これらの中でも、好ましくは、合成樹脂が挙げられ、より好ましくは、口腔内に脱着可能に装着する口腔内部品に用いられる素材と同じ又は近似している熱可塑性樹脂が挙げられる。ここで、口腔内部品としては、義歯、矯正用リテーナ、マウスピースが挙げられ、好ましくは義歯が挙げられる。より具体的には、合成樹脂としては、(メタ)アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリアセタール、ポリスチレン等の樹脂、又はこれらの共重合体、例えば、エチレン・プロピレン共重合体、エチレンブテン共重合体、アクリロニトリル/スチレン樹脂やアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS樹脂)等が挙げられ、好ましくは、義歯床に用いられる、(メタ)アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリアミド等が挙げられ、より好ましくは(メタ)アクリル樹脂が挙げられ、さらに好ましくはポリメタクリル酸メチルが挙げられる。
【0034】
培養系の構築においては、使用する口腔内微生物を予め培養した後に、培地に混合することが好ましい。培地としては、液体培地及び寒天培地が挙げられ、細菌の培養量向上の点から、好ましくは液体培地が挙げられる。
【0035】
培地としては、グルコース、フルクトース、スクロース等から選ばれる1種又は2種以上の糖を含有する培地が用いられ、好ましくは、グルコース及び/又はスクロースを含む培地が用いられ、より好ましくは、グルコース及びスクロースを含む培地が挙げられる。特に、(D)細菌、及び/又は(D)細菌以外のStreptococcus属の細菌、並びに/若しくは、(E)真菌を用いる場合は、グルコース及びスクロースを含む培地が挙げられる。また、より一層ぬめりの程度が大きいインビトロバイオフィルムモデルを構築する観点から、少なくともスクロースを含む培地が挙げられる。少なくともスクロースを含む培地は、特に、バイオフィルムモデルのぬめりが低減される(D)細菌を用いる場合において、ぬめりの程度を顕著に増強させることができる。培地中における糖の含有量としては、例えば0.5~2.5w/v%、好ましくは0.7~1.7w/v%、より好ましくは1~1.5w/v%が挙げられる。培地がグルコースを含む場合、培地中におけるグルコースの含有量としては、例えば0.05~1w/v%、好ましくは0.1~0.7w/v%、より好ましくは0.15~0.3w/v%が挙げられる。培地がスクロースを含む場合、培地中におけるスクロースの含有量としては、例えば0.3~2w/v%、好ましくは0.5~1.5w/v%、より好ましくは0.8~1.2w/v%が挙げられる。
【0036】
具体的な液体培地としては、brain heart infusion broth(BHIB培地)、wilkins-chalgren培地、schaedler培地、SCD培地、heart infusion培地、ミューラーヒントン培地、west wilkins培地、及びこれらの変法培地等が挙げられ、好ましくはBHIB培地が挙げられる。具体的な寒天培地としては、wilkins-chalgren anaerobe agar、schaedler anaerobe agar、brain heart infusion(BHI)agar(BHI寒天培地)、Anaero Columbia Agar with Rabbit Blood and PEA Center for Disease Control Anaerobe Blood Agar、Trypticase Soy (SCD)agar heart infusion agar、ブルセラ培地、west wilkins寒天培地、ミューラーヒントン寒天培地、及びこれらの変法培地等が挙げられる。
【0037】
また、培地には、(A)細菌の栄養要求性並びに(B)及び(C)の増殖性の観点、(D)細菌を含む場合は更に(D)細菌の増殖性の観点から、(E)真菌を含む場合は更に(E)真菌の増殖性の観点から、乳酸を含むことが好ましい。培地が乳酸を含む場合、培地中における乳酸の含有量としては、例えば0.45~0.75w/v%、好ましくは0.5~0.7w/v%、より好ましくは0.55~0.65w/v%が挙げられる。
【0038】
さらに、培地には、唾液成分含有液を含むことが好ましい。唾液成分含有液としては、ヒト唾液及び疑似ヒト唾液が挙げられる。ヒト唾液としては、健常な(口腔疾患が無い)ヒトの口腔内から採取した唾液が挙げられる。疑似ヒト唾液としては、健常なヒトの唾液の成分である唾液ムチン、プロリンリッチ糖タンパク、分泌型IgA、ラクトフェリン、αアミラーゼ、リン酸タンパク質、リゾチーム及びアルブミンから選ばれる1種又は2種以上を含有するものが挙げられる。培地が唾液成分含有液を含む場合、培地中における唾液成分含有液の含有量としては、例えば30~60v/v%、好ましくは40~55v/v%、より好ましくは45~55v/v%が挙げられる。
【0039】
培地への口腔内微生物の添加量としては、培地中の光学密度(OD:Optical Density)換算値で、1種当たり、0.001~0.02、好ましくは0.005~0.015、より好ましくは0.007~0.013、さらに好ましくは0.009~0.011が挙げられる。ここで、ODは、波長600nm、光路長10mmのセルを用い、例えば分光光度計( eppendorf Biophotometer plus Eppendorf社製)で測定することができる。
【0040】
培養は、好気的条件下または嫌気的条件下で行うことができ、好ましくは嫌気的条件下で行われる。なお、嫌気的条件は、酸素濃度が極めて低い条件であって、一般的に酸素濃度が1体積%以下、好ましくは0.1体積%以下をいう。また、培養温度としては、好ましくは口腔内温度、より好ましくは36~38℃、さらに好ましくは36.5~37.5℃が挙げられる。さらに、培養時間としては、たとえば20~30時間が挙げられる。
【0041】
3.バイオフィルムに対する除去効果を評価する方法
上述の本発明のインビトロバイオフィルムモデルは、バイオフィルムに対する除去効果を評価するために用いることができる。従って、本発明は、更に、バイオフィルムに対する除去効果を評価する方法も提供する。
【0042】
本発明の評価方法は、被験試料を、上記のインビトロバイオフィルムモデルに接触させる工程と、バイオフィルム量を評価する工程と、を含む。
【0043】
被験試料としては、バイオフィルムに対する除去能を評価対象とするものであれば特に限定されない。例えば、口腔用衛生品又は口腔用組成物を構成する成分を含む試料、好ましくは、口腔用衛生品を構成する成分を含む試料が挙げられる。口腔用衛生品としては、義歯洗浄剤、矯正用リテーナ洗浄剤、マウスピース洗浄剤が挙げられ、好ましくは義歯洗浄剤が挙げられる。口腔用組成物としては、練歯磨剤、液体歯磨剤、洗口液等が挙げられる。
【0044】
具体的には、被験試料としては、口腔用衛生品又は口腔用組成物そのもの、口腔用衛生品又は口腔用組成物の液体による希釈物、口腔用衛生品又は口腔用組成物を構成する有効成分等の配合成分の液体による希釈物等が挙げられる。上記液体としては、水、生理食塩水、緩衝液、人工唾液等が挙げられる。
【0045】
バイオフィルム除去能をより正確に評価する観点から、インビトロバイオフィルムモデルは、固相担体に付着された態様で用いられることが好ましい。さらに、バイオフィルム除去能を一層正確に評価する観点から、インビトロバイオフィルムモデルは、固相担体の存在下で口腔内微生物を培養することで当該固相担体の表面に形成させたものであることがより好ましい。
【0046】
インビトロバイオフィルムモデルに接触させる工程において、インビトロバイオフィルムモデルと被験試料とを接触させる具体的な方法は、口腔用組成物又は口腔用衛生品の実使用実態等を考慮して当業者が適宜決定することができる。インビトロバイオフィルムモデルと被験試料とを接触させる方法の例として、既に調製された被験試料とインビトロバイオフィルムモデルとを接触させる方法が挙げられる。具体的には、口腔用組成物についてバイオフィルム除去能を評価する場合に、口腔用組成物をそのままで、若しくは、口腔用組成物またはその有効成分を液体に希釈して被験試料を調製し、調製された被験試料とインビトロバイオフィルムとを接触させる方法;及び、口腔用衛生品についてバイオフィルム除去能を評価する場合に、口腔用衛生品またはその有効成分を液体に希釈して被験試料を調製し、調製された被験試料とインビトロバイオフィルムとを接触させる方法が挙げられる。
【0047】
インビトロバイオフィルムモデルと被験試料とを接触させる方法の他の例として、インビトロバイオフィルムモデルを浸漬した液体中に、被験試料を投入する方法も挙げられる。具体的には、発泡性錠剤として調製される口腔用衛生品についてバイオフィルム除去能を評価する場合に、インビトロバイオフィルムを浸漬した液体中に当該発泡性錠剤を投入する方法が挙げられる。
【0048】
互いに接触させられたインビトロバイオフィルムモデルと被験試料との共存系は、超音波処理に供してもよいし、そのまま静置してもよい。例えば口腔用組成物について評価を行う場合に、超音波処理に供することができる。この場合、超音波処理の条件として、ヒトの含嗽又はブラッシングに類似した周波数を当業者が適宜選択できる。また、超音波洗浄機と共に使用される口腔用衛生品について評価を行う場合にも、超音波処理に供することができる。この場合、超音波処理の条件として、超音波洗浄機で設定される周波数を選択できる。一方、発泡性錠剤として調製される口腔用衛生品について評価を行う場合は、当該共存系をそのまま静置することで、被験試料中の成分と発泡との総合的な作用によるバイオフィルム除去効果を評価することができる。被験試料の接触時間(処置時間)は、被験試料の種類や口腔用衛生品又は口腔用組成物の実使用条件等に応じて適宜設定することができる。
【0049】
バイオフィルム量を評価する工程においては、インビトロバイオフィルムモデルに接触させる工程を終えたインビトロバイオフィルムモデルを、適宜、水、生理食塩水、緩衝液又は人工唾液等で洗浄した後、バイオフィルム量を評価する方法に供する。バイオフィルム量を評価する方法としては特に限定されない。
【0050】
本発明の評価方法においては、バイオフィルムの除去効果を、バイオフィルムの量を指標として判断する。つまり、被験試料をインビトロバイオフィルムモデルに接触させる工程の前後におけるバイオフィルム量を比較することによって、バイオフィルム除去効果を評価することができる。従って、バイオフィルム量を評価する方法としては、少なくともバイオフィルムの除去効果を評価できる精度を有する方法、つまり、被験試料をインビトロバイオフィルムモデルに接触させる工程の前後でバイオフィルム量の変化を検知できる方法であればよい。具体的には、クリスタルバイオレットによる染色法、フェノール硫酸法による定量法、PCRによる定量法等が挙げられ、好ましくは、クリスタルバイオレットによる染色法が挙げられる。
【0051】
その他、バイオフィルムに対する除去効果を評価する方法に用いられるインビトロバイオフィルムモデルを構成する口腔内微生物及びインビトロバイオフィルムモデルの製造方法等については、前記「1.インビトロバイオフィルムモデル」及び「2.インビトロバイオフィルムモデルの製造」の欄に示す通りである。
【0052】
4.バイオフィルムに対する除去剤のスクリーニング方法
上述の本発明のインビトロバイオフィルムモデルは、バイオフィルムに対する除去剤のスクリーニングに用いることができる。従って、本発明は、更に、バイオフィルムに対する除去剤のスクリーニング方法も提供する。
【0053】
本発明のスクリーニング方法は、バイオフィルムに対する除去剤の候補を含む被験試料を、バイオフィルムに対する除去効果を評価する方法に供する工程と、前記候補からバイオフィルムに対する除去剤を選定する工程と、を含む。
【0054】
本発明のスクリーニング方法における試験試料としては、バイオフィルムに対する除去剤の候補であれば特に限定されない。そのような候補としては、例えば、口腔用衛生品又は口腔用組成物に配合させる成分を含む複数の試料からなる群、好ましくは、口腔用衛生品に配合させる成分を含む複数の試料からなる群が挙げられる。口腔用衛生品としては、義歯洗浄剤、矯正用リテーナ洗浄剤、マウスピース洗浄剤が挙げられ、好ましくは義歯洗浄剤が挙げられる。口腔用組成物としては、練歯磨剤、液体歯磨剤、洗口液等が挙げられる。
【0055】
具体的には、被験試料としては、口腔用衛生品又は口腔用組成物の試作物そのもの、口腔用衛生品又は口腔用組成物の試作物の液体による希釈物、口腔用衛生品又は口腔用組成物に配合する有効成分候補等の成分の液体による希釈物等が挙げられる。上記液体としては、水、生理食塩水、緩衝液、人工唾液等が挙げられる。
【0056】
バイオフィルムに対する除去効果を評価する方法に供する工程においては、前記「3.バイオフィルムに対する除去効果を評価する方法」の欄に記載した評価方法が行われる。候補からバイオフィルムに対する除去剤を選定する工程においては、所定以上のバイオフィルム除去効果が認められた候補を選定することができる。
【0057】
上述のとおり、本発明のインビトロバイオフィルムモデルは、選択する口腔内微生物の種類によってぬめりの程度の調整が可能である。従って、例えばバイオフィルムに対する除去剤の候補の一次スクリーニングにおいては、ぬめりの程度が大きいインビトロバイオフィルムモデルを用いて選別し、二次スクリーニング以降で、ぬめりの程度をより緩和したインビトロバイオフィルムモデルを用いて選別することによって、スクリーニング精度を上げることもできる。
【0058】
5.インビトロバイオフィルムモデルを得るためのキット
本発明は、更に、インビトロバイオフィルムモデルを得るためのキットも提供する。本発明のキットは、前記「1.インビトロバイオフィルムモデル」の欄に記載のインビトロバイオフィルムモデルを得るためのキットであり、上記の(A)細菌、(B)細菌及び(C)細菌の少なくともいずれかを含む口腔内微生物を含む。
【0059】
本発明のキットには、更に、(D)細菌、(E)真菌、及び他の口腔内細菌からなる群より選択されるいずれかを含んでもよい。また、本発明のキットには、更に、固相担体、培地、及び/又は、疑似ヒト唾液を含んでもよい。さらに、本発明のキットには、使用方法を示すマニュアルとして、前記「2.インビトロバイオフィルムモデルの製造」の欄に記載の製造方法、前記「3.バイオフィルムに対する除去効果を評価する方法」の欄に記載の評価方法、及び/又は、前記「4.バイオフィルムに対する除去剤のスクリーニング方法」の欄に記載のスクリーニング方法に関するマニュアル情報を含んでもよい。当該マニュアル情報としては、これら製造方法、評価方法、及び/又はスクリーニング方法の内容を掲載した紙又は電子媒体であってもよいし、製造方法、評価方法、及び/又はスクリーニング方法の内容を掲載したインターネット上の場所にアクセスするための情報であってもよい。
【0060】
本発明のキットにおける(A)細菌、(B)細菌、(C)細菌、(D)細菌、(E)真菌、他の口腔内細菌、固相担体、培地、疑似ヒト唾液等については、前記「1.インビトロバイオフィルムモデル」の欄及び前記「2.インビトロバイオフィルムモデルの製造」の欄に記載の通りであり、使用方法を示すマニュアルの内容については、前記「2.インビトロバイオフィルムモデルの製造」の欄、前記「3.バイオフィルムに対する除去効果を評価する方法」の欄、及び/又は、前記「4.バイオフィルムに対する除去剤のスクリーニング方法」の欄に記載の通りである。
【実施例】
【0061】
以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0062】
試験例1
[義歯のバイオフィルム採取]
10人の患者が使用した全部床義歯をそれぞれ流水で水洗いし、義歯床表面からバイオフィルムを採取した。採取場所は、義歯床の粘膜側面(装着時に口腔粘膜に対向する面側)及び口蓋側面(装着時に口腔内空間に対向する面側)の半面(粘膜側面及び口蓋側面を喉側から前歯側への方向に二分割したうちの半面)とした。採取方法は、スワブ(ESwab(COPAN Diagnostics Inc.))を使用し、喉側から前歯側への方向、当該方向に対し約45度をなす方向、垂直な方向、及び約135度をなす方向の4方向それぞれにおいて、各10回、半面全体を拭き取った。
【0063】
[バイオフィルム中の生菌数の測定]
スワブで拭き取った後の各サンプルをPBSで希釈した後、BHI寒天培地又はCandida GE寒天培地に塗抹し、嫌気的(BHI寒天培地の場合)又は好気的(Candida GE寒天培地の場合)に37℃で48~72時間培養を行った。
【0064】
検出した口腔内微生物の生菌数を測定した結果、粘膜側面からは全ての患者から細菌が検出され、60%の患者からはCandida属の細菌も検出された。また、口蓋側面からは40%の患者から細菌が検出されたが、Candida属の細菌は検出されなかった。
【0065】
[検出細菌の属解析及び種解析]
粘膜側から採取された細菌について、さらに、メタゲノムDNAを抽出し、検体を識別するためのバーコード配列が付与されたプライマーを用いて細菌の16S rDNA V3/V4領域をPCR増幅した。得られたPCR産物を混合し、16Sライブラリーを調製した後、Illumina社製MiSeqを用いた塩基配列の決定、及びデータ解析によって属解析及び種解析を行った。
【0066】
(属解析)
属解析においては、検出率が1%未満のもの、及び、1%以上の検出率が1名のみの検出頻度であるものは非検出とした。10名の患者の義歯から採取されたバイオフィルム(No.1~No.10)それぞれについて、細菌の分類群名(Taxon Name)、分類群数(Taxon Count)、及び検出率(Detection Rate)を表1に示す。なお、表1中、太字で示す検出率で検出された分類群は、No.1~No.10それぞれにおいて、検出率が高い上位5菌属を示している。
【0067】
【0068】
表1に示すように、Streptococcus属、Veillonella属、Actinomyces属、及びRothia属の4属が、高頻度且つ優占的に検出された。また、当該4属ほどの頻度ではないものの、Neisseria属、Prevotella属、Gemella属、Lactobacillus属、Scardovia属、Fusobacterium属、Leuconostoc属、Lactococcus属、Enterococcus属、Haemophilus属も、優占的に検出された。
【0069】
(種解析)
種解析においては、存在比率1%未満のものを非検出とした。10名の患者の義歯から採取されたバイオフィルム(No.1~No.10)それぞれについて、菌種及び存在比率を表2~表5に示す。表2~表5中、太字で示す存在比率で検出された菌種は、No.1~No.10それぞれにおいて、最も検出率が高い菌種を示している。
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
表2に示すように、(D)Streptococcus属の細菌としては、高頻度且つ優占的に(d1)Streptococcus salivariusが検出された。また、(d1)細菌ほどの頻度ではないが、(d2)Streptococcus anginosus、(d3)Streptococcus gordonii、(d4)Streptococcus sinensisも優占的に検出された。
【0075】
表3に示すように、(A)Veillonella属の細菌としては、高頻度且つ優占的に(a1)Veillonella disparが検出された。また、(a1)細菌ほどの頻度ではないが、(a2)Veillonella atypicaも優占的に検出された。
【0076】
表4に示すように、(B)Actinomyces属の細菌としては、高頻度且つ優占的に(b1)Actinomyces meyeriが検出された。また、(b1)細菌ほどの頻度ではないが、(b2)Actinomyces graevenitzii、(b3)Actinomyces johnsoniiも優占的に検出された。
【0077】
表5に示すように、(C)Rothia属細菌としては、高頻度且つ優占的に(c1)Rothia mucilaginosaが検出された。また、(c1)細菌ほどの頻度ではないが、(c2)Rothia aeria、(c3)Rothia dentocariosaも優占的に検出された。
【0078】
さらに(E)Candida属の真菌については、主要Candida属菌種鑑別用選択分離培地であるクロモアガーカンジダ寒天培地を用いた色調識別によって解析した結果、高頻度且つ優占的にCandida albicansが検出された。
【0079】
試験例2
試験例1で特に高頻度且つ優占的に検出された、(d1)Streptococcus salivarius、(a1)Veillonella dispar、(b1)Actinomyces meyeri、及び(c1)Rothia mucilaginosaを用い、それぞれ単独又は以下の組み合わせで、0.6w/v%乳酸(LA)を添加したBHIB培地(グルコース0.2w/v%含有、スクロース不含)及びヒト唾液と共に嫌気培養することで、インビトロバイオフィルムモデルを調製した。なお、本試験例では、それぞれの細菌は市販品((d1)細菌はATCC25975、(a1)細菌はATCC17748TS、(b1)細菌はCCUG20023、(c1)細菌はATCC25296TS、及び(E)Candida albicansはATCC28471TS)を用いた。また、以下において、光学密度OD値は、光路長10mmのセルを用い、付記された波長で、分光光度計(eppendorf Biophotometer plus Eppendorf社製)によって測定された値である。
【0080】
[供試菌]
(1)単独
(d1)Streptococcus salivarius、(a1)Veillonella dispar、(b1)Actinomyces meyeri、及び(c1)Rothia mucilaginosaをそれぞれ単独で使用した。
(2)2種混合
(d1)Streptococcus salivarius、(a1)Veillonella dispar、(b1)Actinomyces meyeri、及び(c1)Rothia mucilaginosaの中から任意の2種を組み合わせて使用した。
(3)3種混合
(3-1)
(a1)Veillonella dispar、(c1)Rothia mucilaginosa、及び(d1)Streptococcus salivariuの3種の組み合わせ;並びに(b1)Actinomyces meyeri、(c1)Rothia mucilaginosa、及び(d1)Streptococcus salivariusの3種の組み合わせで使用した。
(3-2)
(a1)Veillonella dispar、(b1)Actinomyces meyeri、及び(c1)Rothia mucilaginosaの3種を組み合わせて使用した。
(4)4種混合
(d1)Streptococcus salivarius、(a1)Veillonella dispar、(b1)Actinomyces meyeri、及び(c1)Rothia mucilaginosaの4種を組み合わせて使用した。
(5)5種混合
(d1)Streptococcus salivarius、(a1)Veillonella dispar、(b1)Actinomyces meyeri、及び(c1)Rothia mucilaginosaと(E)Candida albicansとの5種を組み合わせて使用した。
【0081】
[インビトロバイオフィルムモデルの調製方法]
以下の手順で、インビトロバイオフィルムモデルを調製した。
1.1Lビーカーに適量の70v/v%EtOH(エタノール)水溶液を入れ、必要枚数のレジンチップ(義歯床と同じ素材であるポリメタクリル酸メチルプレート、2cm×2cm)を浸漬した。
2.EtOH水溶液中で、滅菌手袋を着用した手指でレジンチップの表面をこすった。この作業はレジンチップ1枚ずつに対して行い、一方の面をこすった後、他方の面をこする手順で行った。
3.EtOH水溶液からレジンチップを1枚ずつ取り出し、表面、裏面、側面を順に再度、滅菌手袋を着用した手指でこすった。
4.滅菌水を張った角型シャーレにレジンチップを入れた。
5.別途、600ppm次亜塩素酸ナトリウム水溶液を調製した。
6.ファルコンチューブに次亜塩素酸ナトリウム水溶液を20mL分注し、それぞれのファルコンチューブにレジンチップを1枚ずつ入れた。
7.ファルコンチューブを金属ラックに入れ、更に超音波洗浄器内に入れて、10分放置した。この時、ファルコンチューブ内に超音波洗浄器の水槽の水が混入しないよう、水槽中の水面は低めに設定した。
8.ファルコンチューブをボルテックスミキサーに20-30秒かけた。
9.滅菌水を張った角型シャーレにレジンを入れた。
10.6穴プレートに、レジンチップを、その表面が上となるようにして滅菌ピンセットで入れ、更に5mLの70v/v%EtOH水溶液を入れてレジンチップを浸漬させ、10分静置した。
11.EtOH水溶液を取り除いた。
【0082】
12.以下のようにして、単独の菌種を含む菌液を菌種ごとに調製した。
(単独及び2種混合の場合)
単独で前々培養及び前培養した供試菌をBHIB+0.6%LA培地に懸濁し、OD600が0.09~0.1となるよう、単独の菌種を含む菌液を調製した。つまり、2種混合の場合は、OD600≒0.09~0.1となる単独の菌種を含む菌液を菌種ごとに調製し、2種の菌液を得た。
(3種混合の場合)
単独で前々培養及び前培養した供試菌をBHIB+0.6%LA培地に懸濁し、OD600が0.15となる単独の菌種を含む菌液を菌種ごとに調製し、3種の菌液を得た。
(4種混合の場合)
単独で前々培養及び前培養した供試菌をBHIB+0.6%LA培地に懸濁し、OD600が0.2となる単独の菌種を含む菌液を菌種ごとに調製し、4種の菌液を得た。
(5種混合の場合)
単独で前々培養及び前培養した供試菌をBHIB+0.6%LA培地に懸濁し、OD600が0.25となる単独の菌種を含む菌液を菌種ごとに調製し、5種の菌液を得た。
【0083】
13.以下のようにして、培養系を構築した。
(単独及び2種混合の場合)
レジンチップの入ったウェルにヒト唾液1.6mL、2xBHIB+1.2%LA1.6mLを入れ、更に各菌液400μL(単独の場合は合計400μL、2種混合の場合は合計800μL)を入れて菌接種し、嫌気ボックス(20体積%CO2置換、酸素濃度0.1体積%以下、残りの約80体積%はほぼ窒素で構成。以下の嫌気ボックスにおいても同様。)中で、37℃で24時間培養した。培地への菌種の添加量は、培地中のOD600換算値で1種当たり0.01~0.011(単独の場合)又は0.009~0.01(2種混合の場合)、乳酸の添加量は0.6v/v%であった。
(3種混合の場合)
レジンチップの入ったウェルにヒト唾液1.6mL、2xBHIB+1.2%LA1.6mLを入れ、更に各菌液270μL(合計810μL)を入れて菌接種し、嫌気ボックス中で、37℃で24時間培養した。培地への菌種の添加量は、培地中のOD600換算値で1種当たり0.01、乳酸の添加量は0.6v/v%であった。
(4種混合の場合)
レジンチップの入ったウェルにヒト唾液1.6mL、2xBHIB+1.2%LA1.6mLを入れ、更に各菌液200μL(合計800μL)を入れて菌接種し、嫌気ボックス中で、37℃で24時間培養した。培地への菌種の添加量は、培地中のOD600換算値で1種当たり0.01、乳酸の添加量は0.6v/v%であった。
(5種混合の場合)
レジンチップの入ったウェルにヒト唾液1.6mL、2xBHIB+1.2%LA1.6mLを入れ、更に各菌液160μL(合計800μL)を入れて菌接種し、嫌気ボックス中で、37℃で24時間培養した。培地への菌種の添加量は、培地1mL中のOD600換算値で1種当たり0.01、乳酸の添加量は0.6v/v%であった。
【0084】
14.培地を静かに取り除いた。
15.レジンチップを蒸留水にくぐらせて洗浄した。
16.レジンチップを新しい6穴プレートに入れ、0.1%(w/v)Crystal violet水溶液5mLを滴下し、15分染色を行った。
17.Crystal violet液を静かに取り除いた。
18.レジンチップを蒸留水にくぐらせて洗浄した。
19.レジンチップを新しい6穴プレートに入れ、33v/v%酢酸水溶液2mLを添加し、30秒間混合して脱色液を回収した。
20.回収した脱色液を蒸留水で10倍希釈した。
21.分光光度計またはMicroplate Readerを用いて、菌接種24時間後の595nmの吸収(OD
595)を測定した。また、菌を接種しないことを除いて同様の操作を行って得られたレジンチップ(コントロール)についても同様にOD
595を測定した。コントロールは、レジンチップの自然染色によるバックグラウンドを差し引くために用いられる。以下の式に基づいて、バイオフィルム形成量(つまり、バイオフィルムのぬめりの程度)を導出した。結果を表6~表9及び
図1~
図4に示す。なお、いずれについても、n=3の結果を示す。また、表7においては、単独の結果も括弧書きで併記して示している。さらに、
図2においては、単独の結果も併記して示しており、
図3においては、2種混合の結果も併記して示している。
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
上述のとおり、義歯床表面に形成されるバイオフィルムに高頻度且つ優占的に存在する(a1)Veillonella dispar、(b1)Actinomyces meyeri、及び/又は(c1)Rothia mucilaginosaを用いることにより、並びに、更に(d1)Streptococcus salivarius又は(d1)Streptococcus salivarius及び(E)Candida albicanを組み合わせることにより、嫌気培養によってインビトロバイオフィルムが形成された。
【0091】
表6及び
図1に示すように、(c1)Rothia mucilaginosaは、それ自身、バイオフィルム形成能が高い(ぬめりの程度が大きい)ため、表7、表8、
図2、
図3に示すように、(c1)Rothia mucilaginosaを用いることによって、インビトロバイオフィルムモデルのぬめりの程度が高くなる傾向が認められた。
【0092】
また、(a1)Veillonella dispar及び(b1)Actinomyces meyeriは、表6及び
図1に示すようにそれら自体のバイオフィルム形成能は(c1)Rothia mucilaginosaほどではない一方で、表7及び
図2に示すように、(a1)Veillonella dispar及び(b1)Actinomyces meyeriを組み合わせることで、個々の細菌のバイオフィルム形成能の相加効果を超えるバイオフィルム形成能が発揮され(c1)Rothia mucilaginosaを用いた場合に匹敵するほどのバイオフィルム形成能を発揮できることが分かった。
【0093】
つまり、(a1)Veillonella dispar及び(b1)Actinomyces meyeriの組み合わせ、(a1)Veillonella dispar及び(c1)Rothia mucilaginosaの組み合わせ、及び(B)Actinomyces meyeri及び(c1)Rothia mucilaginosaの組み合わせは、比較的ぬめりの程度が大きいインビトロバイオフィルムモデルを形成できることが分かった。
【0094】
さらに、表7と表8との対比、及び
図3に示すように、(a1)Veillonella dispar、(b1)Actinomyces meyeri、及び(c1)Rothia mucilaginosaを組み合わせた場合には、特にぬめりの程度が大きいインビトロバイオフィルムモデルを形成できることが分かった。
【0095】
一方で、表6及び
図1に示すように、(d1)Streptococcus salivariusは、それ自身バイオフィルム形成能が高いが、表6~表8相互の対比、並びに
図2及び
図3に示すように、(a1)Veillonella dispar及び/又は(c1)Rothia mucilaginosaと組み合わせた場合には、インビトロバイオフィルムモデルのぬめりの程度を低減させることができることが分かった。
【0096】
試験例3
試験例2で使用された5種の口腔内微生物((d1)Streptococcus salivarius、(a1)Veillonella dispar、(b1)Actinomyces meyeri、及び(c1)Rothia mucilaginosaと(E)Candida albicansとの組み合わせ)について、嫌気培養の代わりに好気培養(空気中培養)を行ったことを除いて、試験例2と同様の操作を行い(n=3)、バイオフィルム形成量(バイオフィルムのぬめりの程度)を導出した。その結果を表10に示す。
【0097】
【0098】
試験例4
試験例1で検出された、(a2)Veillonella atypica;(b2)Actinomyces graevenitzii、(b3)Actinomyces johnsonii;(c2)Rothia aeria、(c3)Rothia dentocariosa;(d2)Streptococcus anginosus、(d3)Streptococcus gordonii、(d4)Streptococcus sinensisを供試菌として、それぞれ単独又は以下の組み合わせで、試験例2と同様にヒト唾液と共に嫌気培養することでインビトロバイオフィルムモデルを調製し、バイオフィルム形成量の平均値(n=3)を導出した。なお、本試験例では、それぞれの細菌は市販品((a2)細菌はATCC17744TS、(b2)細菌はCCUG51746、(b3)細菌はATCC49338、(c2)細菌はCCUG51937TS、(c3)細菌はNBRC12532、(d2)細菌はATCC700231、(d3)細菌はATCC51656、(d4)はCCUG48488TS)を用いた。
【0099】
本試験例で得られた結果を、試験例1の結果と合わせて下記表11~表13に示す。また、共通の(A)~(C)細菌を用いた場合の表12と表13との対比を
図5に示す。
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
表11に示すように、(C)細菌の中でも(c2)細菌及び(c3)細菌は、それら自身、バイオフィルム形成能は高くないが、表12に示すように、(A)細菌及び(B)細菌と組み合わされることで、個々の細菌のバイオフィルム形成能の相加効果を超えるバイオフィルム形成能が発揮された。また、表11に示すように、ヒトの口腔内でより一層高頻度且つ優先的に存在する細菌である(a1)細菌と(b1)細菌と(c1)細菌との組み合わせ、及び(a1)細菌と(b2)細菌と(c1)細菌との組み合わせでは、組み合わせによってバイオフィルム形成能を相乗的に高めなくとも、個々の細菌のバイオフィルム形成能が比較的良好に発揮されたインビトロバイオフィルムモデルを構築できているため、ぬめりの大きいバイオフィルムモデルを得ることと、ヒト口腔内のバイオフィルムにより一層近似したバイオフィルムモデルを構築することとを両立させることが可能であることが分かった。
【0104】
更に、表12と表13との対比に示されるように、(D)細菌はいずれも、バイオフィルムモデルのぬめりの程度を低減できることが分かった。中でも、(d1)細菌、(d2)細菌及び(d3)細菌、特に(d1)細菌は、バイオフィルムモデルのぬめりの程度を低減させる効果が高いことが分かった。
【0105】
試験例5
(a1)Veillonella dispar、(b1)Actinomyces meyeri、及び(c1)Rothia mucilaginosa、並びに、必要に応じて更に(d1)Streptococcus salivarius、(E)Candida albicansを供試菌として、以下の組み合わせで、試験例2と同様にヒト唾液と共に嫌気培養することでインビトロバイオフィルムモデルを調製し、バイオフィルム形成量の平均値(n=3)を導出した。但し、本試験例では、試験例2で用いた0.6w/v%乳酸(LA)を添加したBHIB培地(グルコース0.2w/v%含有、スクロース不含;以下において、「スクロース(-)」と記載する。)の代わりに、「スクロース(-)」に対して更に1w/v%スクロースを添加した培地(以下において、「スクロース(+)」と記載する。)を用いた。
【0106】
本試験例で得られたスクロース(+)使用による結果を、試験例2で得られたスクロース(-)使用による結果とともに下記表14及び
図6に示す。
【0107】
【0108】
表14に示されるように、培地にスクロースを含ませることで、バイオフィルムモデルのぬめりが増強されることが分かった。また、このぬめり増強効果は(D)細菌を用いる場合において格段顕著であった。つまり、試験例2及び4で確認されたバイオフィルムモデルのぬめり低減効果は、スクロースを含まない培地で(D)細菌を用いてバイオフィルムモデルを構築する場合に特有の効果であり、本試験例で確認されたバイオフィルムモデルの格段顕著なぬめり増強効果は、スクロースを含む培地で(D)細菌を用いてバイオフィルムモデルを構築する場合に特有の効果であることが分かった。