(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】油性外用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/49 20060101AFI20240809BHJP
A61K 8/42 20060101ALI20240809BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20240809BHJP
A61K 8/92 20060101ALI20240809BHJP
A61Q 1/04 20060101ALI20240809BHJP
A61Q 1/10 20060101ALI20240809BHJP
A61Q 1/08 20060101ALI20240809BHJP
A61Q 5/06 20060101ALI20240809BHJP
A61K 31/4166 20060101ALI20240809BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20240809BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20240809BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20240809BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240809BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20240809BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
A61K8/49
A61K8/42
A61K8/34
A61K8/92
A61Q1/04
A61Q1/10
A61Q1/08
A61Q5/06
A61K31/4166
A61K47/10
A61K47/18
A61K47/44
A61P29/00
A61P37/08
A61P43/00 107
(21)【出願番号】P 2019238720
(22)【出願日】2019-12-27
【審査請求日】2022-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 安弓
(72)【発明者】
【氏名】工藤 洋造
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-117539(JP,A)
【文献】特開2014-162756(JP,A)
【文献】特開2011-37723(JP,A)
【文献】特開2006-335676(JP,A)
【文献】特開2007-8831(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K8/
A61Q
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アラントイン、(B)パンテノール、(C)グリセリン、(D)水、及び(E)油性基剤を含み、前記(A)成分1重量部に対して前記(D)成分が6.6~15重量部であり、前記(C)成分の含有量が11~30重量%である、油性外用組成
物。
【請求項2】
前記(A)成分の含有量が0.1~0.5重量%である、請求項1に記載の油性外用組成物。
【請求項3】
前記(A)成分1重量部に対する前記(B)成分の含有量が0.1~30重量部である、請求項1又は2に記載の油性外用組成物。
【請求項4】
(E)成分が少なくとも固形油を含む、請求項1~3のいずれかに記載の油性外用組成物。
【請求項5】
(A)アラントイン、(C)グリセリン、(D)水、及び(E)油性基剤を含み、前記(A)成分1重量部に対して前記(D)成分が6.6~15重量部であり、前記(C)成分の含有量が11~30重量%である油性外用組成
物において、(B)パンテノールを配合する、アラントインの溶解性を向上させる方法。
【請求項6】
(A)アラントイン、(C)グリセリン、(D)水、及び(E)油性基剤を含み、前記(A)成分1重量部に対して前記(D)成分が6.6~15重量部であり、前記(C)成分の含有量が11~30重量%である油性外用組成
物において、(B)パンテノールを配合する、油性外用組成物の軟化を抑制する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油性外用組成物に関する。より詳細には、本発明は、アラントインの溶解性が向上した水相を含む油性外用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
油性外用組成物は、外用組成物の剤型の1種であり、油性基材を主成分とする。油性外用組成物は塗布膜の付着性が高く、配合成分による効果の持続性に優れている。
【0003】
一般的に、外用組成物において、薬剤の経皮吸収性(角質層への分配)には、「基剤と皮膚との親和性」(基剤の皮膚へのなじみ易さ)と「基剤と薬剤との親和性」(基剤に対する薬剤の溶け易さ)が大きな影響を与えることが知られており(非特許文献1)、これらのバランスを考慮した上で、外用組成物の製剤処方が設計されている。例えば、水溶性薬剤の場合であれば、油脂性基剤を使用すると、「基剤と皮膚との親和性による経皮吸収性」と「基剤と薬剤との親和性による経皮吸収性」の双方が向上する。そうすると、水溶性有効成分は、油性外用組成物を配合することで、その有効性を高めることができるといえる。
【0004】
アラントインは、細胞増殖作用、消炎作用、抗刺激剤作用、抗アレルギー作用等が知られており、水溶性有効成分として、水性組成物や水中油型乳化組成物といった外用組成物に配合して使用されている。一方で、アラントイン自身の水への溶解性は低い(25℃において、0.5g/水100g)。このため、アラントインを安定に配合するために、水中油型乳化組成物において、アラントインとともに、長鎖アシルメチルタウリン塩及び多価アルコールを配合する技術(特許文献1)等が検討されてきた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】大谷道輝監修、“ぬり薬の薀蓄vol.1”、[online]、マルホ株式会社、[令和1年12月10日検索]、インターネット〈URL:https://www.maruho.co.jp/medical/pharmacist/infostore/vol01/05.html〉
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のとおり、アラントインは、0.5gを溶解させるのに25℃の水を100g、つまりアラントイン1重量部に対して25℃の水を200重量部を要する。また、外用組成物中に配合されるアラントインは、水に溶解した状態でないと、所定の作用効果を発揮することができない。そうすると、有効成分の経皮吸収性を期待して油性基材を主成分とする油性外用組成物にアラントインを配合しようとした場合、アラントイン1重量部に対して200重量部もの水を配合しなければならないことになる。外用組成物に配合されるアラントインの配合量が通常0.2~0.5重量%であることに鑑みると、油性外用組成物に通常量のアラントインを溶解状態で配合しようとしても、結局、油性外用組成物を製剤できないか、又は製剤できたとしても形態安定性が得られなくなり、油脂性基剤による有効成分の経皮安定化効果も大幅に低減する。反対に、油性外用組成物を製剤できる範疇の水分量で通常量のアラントインを配合すると、アラントインの結晶によるざらつきが使用感を悪くし、また、ほとんどのアラントインが溶解していないため、配合量に見合った有効性を得ることはできない。
【0008】
ここで、アラントインの水への溶解度を向上させることができれば、油性外用組成物に含ませる水分量が少なくなり、アラントインによる有効性を向上させることができると考えられる。これまで、アラントインの溶解度の低さに着眼し、アラントインを安定に配合する技術は知られていたものの、それらの技術は、アラントインの溶解状態を安定に保つことを目的としているため、水性液剤や水中油型乳化組成物のように、アラントインを溶解できる多量の水を含む製剤にしか適用することができなかった。
【0009】
そこで、本発明は、アラントインの水への溶解度が向上した水相を含む油性外用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意検討した結果、油性外用組成物に用いる水相において、アラントインとパンテノール及びグリセリンとを組み合わせることで、アラントインの溶解性が飛躍的に高まり、これによって、油性外用組成物に、わずかな水と共に十分量のアラントインを配合できることを見出した。さらに、このような油性外用組成物によって、軟化抑制効果も飛躍的に向上することも見出した。本発明は、この知見に基づいてさらに検討を重ねることにより完成したものである。
【0011】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. (A)アラントイン、(B)パンテノール、(C)グリセリン、(D)水、及び(E)油性基剤を含み、前記(A)成分1重量部に対して前記(D)成分が6.6~15重量部である、油性外用組成物。
項2. 前記(A)成分の含有量が0.1~0.5重量%である、項1に記載の油性外用組成物。
項3. 前記(A)成分1重量部に対する前記(B)成分の含有量が0.1~30重量部である、項1又は2に記載の油性外用組成物。
項4. (E)成分が少なくとも固形油を含む、項1~3のいずれかに記載の油性外用組成物。
項5. (A)アラントイン、(C)グリセリン、(D)水、及び(E)油性基剤を含み、前記(A)成分1重量部に対して前記(D)成分が6.6~15重量部である油性外用組成物において、(B)パンテノールを配合する、アラントインの溶解性を向上させる方法。
項6. (A)アラントイン、(C)グリセリン、(D)水、及び(E)油性基剤を含み、前記(A)成分1重量部に対して前記(D)成分が6.6~15重量部である油性外用組成物において、(B)パンテノールを配合する、油性外用組成物の軟化を抑制する方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、アラントインの溶解性が飛躍的に高まり、これによって、油性外用組成物に、わずかな水と共に十分量のアラントインを配合できる。さらに、本発明によれば、油性外用組成物の軟化抑制効果も飛躍的に向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.油性外用組成物
本発明の油性外用組成物は、(A)アラントイン(以下、「(A)成分」とも記載する)、(B)パンテノール(以下、「(B)成分」とも記載する)、(C)グリセリン(以下、「(C)成分」とも記載する)、(D)水(以下、「(D)成分」とも記載する)、及び(E)油性基剤(以下、「(E)成分」とも記載する)を含み、前記(A)成分1重量部に対して前記(D)成分が6.6~15重量部であることを特徴とする。以下、本発明の油性外用組成物について詳述する。
【0014】
(A)アラントイン
本発明の油性外用組成物は、(A)成分としてアラントインを含む。アラントインは、細胞増殖剤、消炎剤、抗刺激剤、抗アレルギー剤等として公知の水溶性成分である。一方で、アラントインは水への溶解性が非常に低く、通常、アラントイン1重量部を溶解させるためには25℃の水を200重量部以上要する。しかしながら、本発明の油性外用組成物では、アラントインの水への溶解性が飛躍的に向上しているため、油性外用組成物に配合される程度の少量の水にアラントインを溶解させることができる。
【0015】
このように、本発明の油性外用組成物ではアラントインの水への溶解性が飛躍的に向上しているため、(A)成分の含有量については、本来の水への溶解性の低さに拘束されることはない。このため、(A)成分の含有量は特に限定されず、付与すべき効能などに応じて適宜設定することができる。具体的には、(A)成分の含有量としては、0.1~0.5重量%、好ましくは0.2~0.5重量%、さらに好ましくは0.3~0.5重量%、より好ましくは0.4~0.5重量%、さらに好ましくは0.45~0.5重量%が挙げられる。また、本発明の油性外用組成物の適用部位によっては、(A)成分の含有量として、0.1~0.2重量%、好ましくは0.15~0.2重量%、さらに好ましくは0.18~0.2重量%であってもよい。
【0016】
また、本発明の油性外用組成物に含まれる水相100重量部に対する(A)成分の含有量としては、例えば0.5~10重量部、好ましくは1~5重量部、より好ましくは1.8~3重量部、さらに好ましくは2.2~3重量部、一層好ましくは2.5~3重量部、特に好ましくは2.8~3重量部が挙げられる。
【0017】
(B)パンテノール
本発明の油性外用組成物は、(B)成分としてパンテノールを含む。パンテノールは、細胞賦活化剤、保湿剤等として公知の水溶性成分である。アラントインは水への溶解性が非常に低いが、グリセリンと共にパンテノールを配合することで、アラントインの水への溶解性を飛躍的に向上させることができる。また、パンテノールは、本発明の油性外用組成物の軟化抑制効果も飛躍的に向上させることができる。
【0018】
本発明の油性外用組成物における(B)成分の含有量の含有量としては特に限定されず、付与すべきアラントインの水への溶解性向上効果の程度に応じて当業者が適宜決定することができる。例えば、より一層好ましいアラントインの溶解性向上効果を得る観点から、0.05~3重量%、好ましくは0.05~2重量%、より好ましくは0.1~1重量%、さらに好ましくは0.1~0.5重量%が挙げられる。また、より一層好ましい軟化抑制効果を得る観点からも、(B)成分は上述の量で含有していることが好ましい。
【0019】
また、本発明の油性外用組成物に含まれる水相100重量部に対する(B)成分の含有量としては、より一層好ましいアラントインの溶解性向上効果を得る観点から、例えば0.5~10重量部、好ましくは1~5重量部、より好ましくは1.8~3重量部、さらに好ましくは2.2~3重量部、一層好ましくは2.5~3重量部、特に好ましくは2.8~3重量部が挙げられる。また、より一層好ましい軟化抑制効果を得る観点からも、(B)成分は上述の比率で含有していることが好ましい。
【0020】
本発明の油性外用組成物において、(A)成分と(B)成分との比率については、各成分の上記含有量によって定まるが、より一層好ましいアラントインの溶解性向上効果を得る観点から(A)成分1重量部に対する(B)成分の含有量として、0.1~30重量部、好ましくは0.3~5重量部、より好ましくは0.5~3重量部、さらに好ましくは0.7~1.5重量部が挙げられる。また、より一層好ましい軟化抑制効果を得る観点からも、(B)成分は上述の比率で含有していることが好ましい。
【0021】
(C)グリセリン
本発明の油性外用組成物は、(C)成分としてグリセリンを含む。本発明において、グリセリンとは、特に断りのない限り、純粋なグリセリン(C3H8O3)を指す。
【0022】
本発明の油性外用組成物における(C)成分の含有量の含有量としては特に限定されず、付与すべきアラントインの水への溶解性向上効果の程度に応じて当業者が適宜決定することができる。例えば、より一層好ましいアラントインの溶解性向上効果を得る観点から、8~30重量%、好ましくは9~28重量%、より好ましくは9~27重量%、さらに好ましくは9~26重量%、一層好ましくは11~23重量%が挙げられる。
【0023】
また、本発明の油性外用組成物に含まれる水相100重量部に対する(C)成分の含有量としては、例えば50~90重量部、好ましくは55~86重量部、より好ましくは60~82重量部、さらに好ましくは61~77重量部、一層好ましくは62~67重量部、特に好ましくは62~65重量部が挙げられる。
【0024】
本発明の油性外用組成物において、(A)成分と(C)成分との比率については、各成分の上記含有量によって定まるが、より一層好ましいアラントインの溶解性向上効果を得る観点から(A)成分1重量部に対する(C)成分の含有量として、20~45重量部、好ましくは21~38重量部、より好ましくは22~26重量部が挙げられる。
【0025】
本発明の油性外用組成物において、(B)成分と(C)成分との比率については、各成分の上記含有量によって定まるが、より一層好ましいアラントインの溶解性向上効果を得る観点から(B)成分1重量部に対する(C)成分の含有量として、18~300重量部、好ましくは21~38重量部、より好ましくは22~30重量部が挙げられる。
【0026】
本発明において用いられる(C)成分は、日本薬局方に収載されているグリセリン(日局グリセリン)に含まれるグリセリン(C3H8O3)であってもよいし、日本薬局方に収載されている濃グリセリン(日局濃グリセリン)に含まれるグリセリン(C3H8O3)であってもよい。日本薬局方に収載されているグリセリンは、日本薬局方に記載の方法で定量する場合、グリセリン(C3H8O3)84.0~87.0%を含む。日本薬局方に収載されている濃グリセリンは、日本薬局方に記載の方法で定量する場合、グリセリン(C3H8O3)98.0~101.0%を含む。
【0027】
(D)水
本発明の油性外用組成物は、(D)成分として水を含む。通常、アラントイン1重量部を溶解させるためには25℃の水を200重量部以上要するが、本発明の油性外用組成物では、アラントインの水への溶解性が飛躍的に向上しているため、アラントインに対する水の量を少なくすることができ、従って、油性外用組成物に配合される水の量を少なくすることができる。
【0028】
本発明の油性外用組成物における(A)成分1重量部に対する(D)成分の含有量は、6.6~15重量部である。より一層好ましいアラントイン溶解性向上効果を得る観点から、(A)成分1重量部に対する(D)成分の含有量としては、好ましくは7~15重量部が挙げられる。また、本発明の油性外用組成物におけるアラントインの水への溶解性が飛躍的に向上しているため、水の量が少なくても効果的にアラントイン溶解性向上効果を得られるため、このような本発明の効果に鑑みると、(A)成分1重量部に対する(D)成分の含有量の好適な例としては、6.6~13重量部、好ましくは6.6~11重量部も挙げられる。
【0029】
本発明の油性外用組成物における(D)成分の含有量としては、例えば3.3~10重量%、好ましくは3.3~9重量%、より好ましくは3.3~8重量%、さらに好ましくは3.3~7重量%、一層好ましくは3.5~6重量%が挙げられる。
【0030】
(E)油性基剤
本発明の油性外用組成物は、(E)成分として油性基剤を含む。
【0031】
油性基剤としては、(E1)固形油(以下において、「(E1)成分」とも記載する)、(E2)半固形油(以下において、「(E2)成分」とも記載する)、及び(E3)液状油(以下において、「(E3)成分」とも記載する)が挙げられる。本発明の油性外用組成物においては、(E)成分として、(E1)成分、(E2)成分及び(E3)成分のうちいずれか1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明の油性外用組成物は、軟化抑制効果に優れているため、(E)成分として少なくとも(E1)成分を含んでいることが好ましい。
【0032】
(E1)成分の固形油とは、25℃において固形の形態を保つ油である。本発明で使用される固形油としては、通常化粧料や外用医薬品等に用いられるものであればよく、例えば、マイクロクリスタリンワックス等の石油系ワックス;カルナウバロウ、キャンデリラロウ、ライスワックス、木ロウ等の植物系ワックス;ミツロウ、鯨ロウ等の動物性ワックス;シリコーンワックス、ポリエチレンワックス等の合成ワックス;脂肪酸、高級アルコール及びこれらの誘導体が挙げられる。これらの固形油の中でも、好ましくは石油系ワックスが挙げられ、より好ましくはマイクロクリスタリンワックスが挙げられる。これらの固形油は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0033】
(E2)成分の半固形油とは、25℃において半固形(粘性があり自由に変形できる)の形態を保つ油である。本発明で使用される半固形油としては、通常化粧料や外用医薬品等に用いられるものであればよく、例えば、ワセリン等のペースト状炭化水素;ラノリン、ダイマー酸エステル、ダイマージオール誘導体、コレステロール脂肪酸エステル、フィトステロール脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル等が挙げられる。これらの半固形油は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの半固形油の中でも、好ましくはペースト状炭化水素が挙げられ、より好ましくはワセリンが挙げられる。
【0034】
(E3)成分の液状油とは、25℃において液状の形態を保つ油である。本発明で使用される液状油としては、通常化粧料や外用医薬品等に用いられるものであればよく、例えば、アボガド油、ツバキ油、マカデミアナッツ油、オリーブ油、ホホバ油等の植物油;オレイン酸、イソステアリン酸等の脂肪酸;エチルヘキサン酸セチル、パルミチン酸エチルヘキシル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ジエチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール、トリ2-エチルへキサン酸グリセリル、オレイン酸オクチルドデシル、ミリスチン酸イソプロピル、トリイソステアリン酸グリセリル、ジバラメトキシケイヒ酸-モノエチルへキサン酸グリセリル等のエステル油;ジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジエンポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン等のシリコン油;流動パラフィン、スクワレン、スクワラン等の液状炭化水素油等が挙げられる。これらの液状油は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの液状油の中でも、好ましくは液状炭化水素油が挙げられ、より好ましくは流動パラフィンが挙げられる。
【0035】
本発明は油性外用組成物であるため、(E)成分は主成分として含まれる。つまり、本発明の油性外用組成物において、(E)成分は50重量%超含まれる。さらに、本発明の油性外用組成物では、アラントインの水への溶解性が飛躍的に向上しているため、アラントインに対する水の量を少なくすることができ、従って、油性外用組成物に配合される油性基剤の量を多く配合することができる。このような観点から、本発明の油性外用組成物における(E)成分の含有量としては、好ましくは70重量%以上、より好ましくは73重量%以上、さらに好ましくは76重量%以上、一層好ましくは79重量%以上が挙げられる。(E)成分の含有量の範囲の上限としては特に限定されないが、例えば90重量%以下又は85重量%以下が挙げられる。
【0036】
(E)成分として(E1)成分を含む場合、本発明の油性外用組成物における(E1)成分の配合量としては、例えば5~25重量%、好ましくは10~20重量%、より好ましくは13~17重量%が挙げられる。
【0037】
また、(E)成分として(E1)成分を含む場合、(E)成分100重量部に対する(E1)成分の含有量としては、例えば8~28重量部、好ましくは13~23重量部、より好ましくは16~20重量部が挙げられる。
【0038】
(E)成分として(E2)成分を含む場合、本発明の油性外用組成物における(E2)成分の配合量としては、例えば10~50重量%、好ましくは28~45重量%、より好ましくは32~37重量%が挙げられる。
【0039】
また、(E)成分として(E2)成分を含む場合、(E)成分100重量部に対する(E2)成分の含有量としては、例えば30~55重量部、好ましくは35~50重量部、より好ましくは40~45重量部が挙げられる。
【0040】
(E)成分として(E3)成分を含む場合、本発明の油性外用組成物における(E3)成分の配合量としては、例えば20~45重量%、好ましくは25~40重量%、より好ましくは30~35重量%が挙げられる。
【0041】
また、(E)成分として(E3)成分を含む場合、(E)成分100重量部に対する(E3)成分の含有量としては、例えば27~52重量部、好ましくは32~47重量部、より好ましくは37~42重量部が挙げられる。
【0042】
また、(E)成分として(E1)成分及び(E2)成分を含む場合、(E1)成分及び(E2)成分の比率は、各成分の上記含有量によって定まるが、好ましくは、(E1)成分1重量部に対する(E2)成分の含有量として、1~3.5重量部、より好ましくは1.5~3重量部、さらに好ましくは2.2~2.8重量部が挙げられる。
【0043】
また、(E)成分として(E1)成分及び(E3)成分を含む場合、(E1)成分及び(E3)成分の比率は、各成分の上記含有量によって定まるが、好ましくは、(E1)成分1重量部に対する(E3))成分の含有量として、1~3.5重量部、より好ましくは1.5~3重量部、さらに好ましくは2~2.5重量部が挙げられる。
【0044】
その他の成分
本発明の油性外用組成物は、本発明の効果を妨げない範囲で、必要に応じて、上記成分以外の薬効成分を含んでいてもよい。このような薬効成分としては、例えば、抗炎症剤、老化防止剤、収斂剤、抗酸化剤、保湿剤、血行促進剤、抗菌剤、殺菌剤、乾燥剤、冷感剤、温感剤、ビタミン類、アミノ酸、創傷治癒促進剤、刺激緩和剤、鎮痛剤、細胞賦活剤、酵素成分、生薬成分等が挙げられる。
【0045】
また、本発明の油性外用組成物は、本発明の効果を妨げない範囲で、必要に応じて、上記成分以外の、界面活性剤、増粘剤、水性基剤、緩衝剤、キレート剤、抗酸化剤、安定化剤、防腐剤、香料、清涼化剤、着色剤、分散剤、流動化剤、保湿剤、湿潤剤等の添加剤を含んでいてもよい。これらの成分の中でも、好ましくは界面活性剤が挙げられる。
【0046】
本発明の油性外用組成物は、界面活性剤を含むことによって、より一層安定な油中水乳化組成物を構築することができる。界面活性剤としては、非イオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性イオン系界面活性剤が挙げられ、好ましくは非イオン系界面活性剤が挙げられる。非イオン系界面活性剤としては、親油性非イオン系界面活性剤及び親水性非イオン系界面活性剤が挙げられる。非イオン系界面活性剤としては、親油性非イオン系界面活性剤及び親水性非イオン系界面活性剤のいずれかを用いてもよいし、両方を用いてもよい。
【0047】
親油性非イオン系界面活性剤としては、モノステアリン酸ソルビタン、モノイソステアリン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン等のソルビタン脂肪酸エステル;モノステアリン酸グリセリン等のグリセリンポリグリセリン脂肪酸;モノステアリン酸プロピレングリコール等のプロピレングリコール脂肪酸エステル;硬化ヒマシ油誘導体;グリセリンアルキルエーテル等が挙げられる。これらの親油性非イオン系界面活性剤の中でも、好ましくは、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリンポリグリセリン脂肪酸が挙げられ、より好ましくは、モノステアリン酸ソルビタン、モノステアリン酸グリセリンが挙げられる。これらの親油性非イオン系界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0048】
本発明の油性外用組成物が、親油性非イオン系界面活性剤を含む場合、親油性非イオン系界面活性剤の含有量としては、例えば0.5~10重量部、好ましくは0.8~8重量部が挙げられる。
【0049】
親水性非イオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレン(以下、POEと略する)POEソルビタンモノラウレート(ポリソルベート20)、POEソルビタンモノステアレート(ポリソルベート60)、POEソルビタンモノオレエート(ポリソルベート80)等のPOEソルビタン脂肪酸エステル;POEソルビットモノオレエート等のPOEソルビット脂肪酸エステル、POEグリセリンモノイソステアレート等のPOEグリセリン脂肪酸エステル;POEステアリルエーテル、POEコレスタノールエーテル等のPOEアルキルエーテル、POEノニルフェニルエーテル等のPOEアルキルフェニルエーテル、プルロニック等のプルアロニック型;POE・ポリオキシプロピレン(以下、POPと略する)セチルエーテル等のPOE・POPアルキルエーテル、テトロニック等のテトラPOE・テトラPOPエチレンジアミン縮合体;POEヒマシ油、POE硬化ヒマシ油等のPOEヒマシ油硬化ヒマシ油誘導体;POEミツロウ・ラノリン誘導体;アルカノールアミド;POEプロピレングリコール脂肪酸エステル;POEアルキルアミン;POE脂肪酸アミド、ショ糖脂肪酸エステル;POEノニルフェニルホルムアルデヒド縮合物;アルキルエトキシジメチルアミンオキシド、トリオレイルリン酸等が挙げられる。これらの親水性非イオン系界面活性剤の中でも、好ましくはPOEソルビタン脂肪酸エステルが挙げられ、より好ましくはPOEソルビタンモノオレエートが挙げられる。これらの親水性非イオン系界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0050】
本発明の油性外用組成物が、親水性非イオン系界面活性剤を含む場合、親水性非イオン系界面活性剤の含有量としては、例えば0.5~7重量部、好ましくは0.8~2.5重量部が挙げられる。
【0051】
製剤形態
本発明の油性外用組成物の製剤形態については、特に限定されず、液状、半固形状(クリーム状、ゲル状、ペースト状)及び固形状が挙げられる。本発明の油性外用組成物は軟化抑制性に優れているため、保存後における保形性や軟化抑制性に優れている。このような観点から、本発明の油性外用組成物は、保形性及び/又は軟化抑制性が商品価値として求められる、半固形状及び固形状であることが好ましい。
【0052】
本発明の油性外用組成物の具体的な形態としては、油中水滴分散物、油中水型乳化物が挙げられ、好ましくは油中水型乳化物が挙げられる。本発明の油性外用組成物の更に具体的な剤形としては、口唇、皮膚、頭髪に適用されるものであれば特に限定されず、口紅、リップクリーム(スティック状、バーム(ワックス)状、ペースト状、クリーム状)、リップグロス、リップライナー等の口唇用組成物;アイシャドウ、アイライナー、アイブロウ、チークカラー、ファンデーション、コンシーラー、頭髪用ゲル、頭髪用ワックス等が挙げられる。本発明の油性外用組成物はアラントインの溶解性に優れているため、アラントインの結晶が存在することによる塗布時のざらつき感を抑制することができる。このような観点から、本発明の油性外用組成物の具体的な剤形としては、感覚に敏感な口唇用組成物であることが好ましい。また、本発明の油性外用組成物は、一般皮膚化粧料、薬用化粧料、医薬部外品、医薬品のいずれであってもよい。
【0053】
油性外用組成物の製造方法
本発明の油性外用組成物は、通常の油性外用組成物の製造方法に準じて、上記(A)成分~(E)成分、及び必要に応じて配合される他の薬効成分、添加剤等を通常の順番で所望量混合することにより調製される。
【0054】
2.アラントインの溶解性を向上させる方法
前述するように、油性外用組成物に用いる水相において、アラントインとパンテノール及びグリセリンとを組み合わせることで、アラントインの溶解性が飛躍的に高まる。従って、本発明は、更に、(A)アラントイン、(C)グリセリン、(D)水、及び(E)油性基剤を含み、前記(A)成分1重量部に対して前記(D)成分が6.6~15重量部である油性外用組成物において、(B)パンテノールを配合する、アラントインの溶解性を向上させる方法を提供する。
【0055】
アラントインの溶解性を向上させる方法において、使用する成分の種類や使用量、油性外用組成物の形態等については、前記「1.油性外用組成物」の欄に示す通りである。
【0056】
3.油性外用組成物の軟化を抑制する方法
前述するように、パンテノールは、油性外用組成物の軟化を抑制する。従って、本発明は、更に、(A)アラントイン、(C)グリセリン、(D)水、及び(E)油性基剤を含み、前記(A)成分1重量部に対して前記(D)成分が6.6~15重量部である油性外用組成物において、(B)パンテノールを配合する、油性外用組成物の軟化を抑制する方法を提供する。
【0057】
油性外用組成物の軟化を抑制する方法において、使用する成分の種類や使用量、油性外用組成物の形態等については、前記「1.油性外用組成物」の欄に示す通りである。
【実施例】
【0058】
以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0059】
参考試験例
[参考試験組成物の調製]
油性外用組成物の水相として用いる水性組成物として、表1及び表2に示す組成の参考試験組成物(25℃)を調製した。なお、グリセリン(C3H8O3)に関しては、日局グリセリンを用い、日局グリセリン中のグリセリン(C3H8O3)量を表1及び表2の量で含むように調整した。また、表1及び表2に示す水の量は、日局グリセリン中の水と、調製に使用した純水との合計量を示す。更に、表1及び表2において、水/アラントインは、アラントイン1重量部あたりの水の量を意味する。
【0060】
調製した参考試験組成物(25℃)について、以下の基準でアラントインの溶解性を評価した。結果を表1及び表2に示す。
【0061】
○:完全に溶解し、アラントイン粉末の溶け残りがない。
△:ほとんど溶解し、アラントイン粉末の溶け残りがわずかである。
×:ほとんど溶解しておらず、アラントイン粉末がほぼ完全に残っている。
【0062】
【0063】
【0064】
参考例1に示すように、アラントイン1重量部に対して水200重量部あれば、アラントインは溶解するが、参考比較例1及び2に示すように、水の比率がアラントイン1重量部に対して200重量部をはるかに下回ると、アラントインはほぼ溶けない。これに対し、実施例1~3に示すように、パンテノールを共存させると、アラントインは完全に溶解した。実施例1~3よりも水の比率を減らした実施例4~6においてさえ、アラントインは完全に溶解した。さらに水の比率を減らした実施例7では、わずかなアラントインの溶け残りがあったものの、アラントインはほぼ溶解した。つまり、パンテノールを共存させることで、アラントインの水への溶解性が飛躍的に向上することが分かった。一方、水の比率が実施例7より少なくなると、パンテノールが共存していても、アラントインはほぼ溶けなくなった。
【0065】
試験例
参考試験例において調製した参考実施例1と参考比較例3をそれぞれ水相に用い、表3に示す油性外用組成物を調製した。具体的には、アラントイン、パンテノール、グリセリン、及び水を80℃で加熱溶解して水相を調製し、別途、残りの成分を80℃で加熱溶解して油相を調製し、それぞれの加熱溶解した相を撹拌混合し、撹拌しながら35℃まで冷却した。油性外用組成物をガラス瓶に充填し、常温(25℃)まで冷却した。この油性外用組成物は、クリーム状リップクリームの性状を有する油中水型乳化組成物であった。
【0066】
得られた油性外用組成物それぞれについて、使用感及び軟化抑制性を、以下の基準に基づいて評価した。結果を表3に示す。なお、表3に示す水の量は、日局グリセリン中の水と、調製に使用した純水との合計量を示す。
【0067】
(使用感)
油性外用組成物を、クリーム状リップクリーム用のチューブ容器に充填し、訓練されたパネラーがチューブ容器から油性外用組成物を絞り出して直接唇に塗布し、以下の基準に基づいて使用感を評価した。油性外用組成物の水相に存在するアラントイン粉末は、ざらつき感を生じさせ、アラントイン粉末の量が少ないほど、ざらつき感が無くなり塗布時の滑らかさが向上する。
○:滑らかに塗布することができる。
△:ざらつき感は感じされないが、塗布時の滑らかさが足りない。
×:ざらつき感が感じられる。
××:ざらつき感が大きく不快に感じる。
【0068】
(軟化抑制性)
油性外用組成物を、クリーム状リップクリーム用のチューブ容器に充填して50℃で7日間保存し、その後、25℃まで自然に冷却した。保存前後の油性外用組成物を、訓練されたパネラーがチューブ容器から絞り出して直接唇に塗布し、絞り出し時の油性外用組成物の状態や塗布時の感覚をもとに、以下の基準に基づいて軟化抑制性を評価した。
○:保存前の性状が維持されており、軟化していない。
△:保存前と対比してやや軟化している。
×:保存前と対比して明らかに軟化している。
【0069】
【0070】
比較例1に示すように、油性外用組成物中に含まれる水相にパンテノールが含まれていない場合、わずかな水相に有効量のアラントインが溶解しないためざらつき感が大きく使用感が悪いものとなり、更に、保存により軟化が進むため商品価値も著しく損なわれた。これに対し、実施例1に示すように、油性外用組成物中に含まれる水相にパンテノールが含まれている場合、わずかな水相に有効量のアラントインが溶解しているため、塗布時に滑らかで使用感に優れており、更に、保存によっても軟化が良好に抑制されており、商品価値も高いものであることが分かった。
【0071】
処方例
表4に示す処方のクリーム状リップクリームの性状を有する油中水型乳化組成物を、油性外用組成物として調製した。いずれの油性外用組成物も、水相中でアラントインの溶解性が向上しており使用感に優れていた。さらに、いずれも油性外用組成物も、保存後における軟化抑制性にも優れていた。
【0072】