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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】材料構造体、及び、半導体デバイス
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/38 20060101AFI20240809BHJP
   C01B 21/068 20060101ALI20240809BHJP
   C30B 29/36 20060101ALI20240809BHJP
   H01L 21/338 20060101ALI20240809BHJP
   H01L 29/812 20060101ALI20240809BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20240809BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20240809BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20240809BHJP
   H01L 29/861 20060101ALI20240809BHJP
   H01L 29/868 20060101ALI20240809BHJP
   B32B 18/00 20060101ALI20240809BHJP
   H01L 29/26 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
C30B29/38 B
C01B21/068 Z
C30B29/36 A
H01L29/80 B
H01L29/78 618B
H01L29/78 301B
H01L29/91 F
B32B18/00 A
B32B18/00
H01L29/26
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020119297
(22)【出願日】2020-07-10
(65)【公開番号】P2022016038
(43)【公開日】2022-01-21
【審査請求日】2023-07-05
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ICSCRM2019組織委員会(ICSCRM2019 Organizing Committee)、シリコンカーバイド及び関連材料に関する国際会議2019(International Conference on Silicon Carbide and Related Materials 2019 (ICSCRM 2019)) 要旨集、2019年9月29日 〔刊行物等〕シリコンカーバイド及び関連材料に関する国際会議2019(International Conference on Silicon Carbide and Related Materials 2019(ICSCRM 2019))、2019年9月30日 〔刊行物等〕公益社団法人応用物理学会 先進パワー半導体分科会、先進パワー半導体分科会誌 第6回講演会 予稿集 VOL.6 No.01、2019年12月3日 〔刊行物等〕先進パワー半導体分科会 第6回講演会、2019年12月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】土田 秀一
(72)【発明者】
【氏名】村田 晃一
(72)【発明者】
【氏名】森 大輔
(72)【発明者】
【氏名】瀧川 亜樹
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-335290(JP,A)
【文献】特開2009-38307(JP,A)
【文献】Tetsuroh Shirasawa et al.,Epitaxial Silicon Oxynitride Layer on a 6H-SiC(0001) Surface,Physical Review Letters,136105(2007),米国,The American Physical Society,2007年03月30日,136105-1 - 136105-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/38
C01B 21/068
C30B 29/36
H01L 21/338
H01L 29/786
H01L 21/336
H01L 29/861
B32B 18/00
H01L 29/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素の基板層の上に、材料構造体が設けられる、窒素を含有する2次元材料層が形成され、
前記2次元材料層は、
珪素及び窒素から形成され、
最表面は水素原子が結合しており
前記2次元材料層の初期状態の酸素の面密度は、5×10 14 cm -2 以下まで低減している
ことを特徴とする材料構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の材料構造体において、
前記基板層に対し、前記2次元材料層の2次元周期構造は、
(√3×√3 R30)である
ことを特徴とする材料構造体。
【請求項3】
請求項1もしくは請求項2に記載の材料構造体において、
前記2次元材料層の厚さは、0.2nm以上0.8nm以下、
前記2次元材料層の窒素の面密度は、1×1014cm-2以上2×1015cm-2以下、
前記2次元材料層の初期状態は、面密度が5×1014cm-2以上の水素原子が最表面に結合している
ことを特徴とする材料構造体。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の材料構造体において、
前記2次元材料層の表面は、
水素が結合している領域を酸素が結合している領域で取り囲まれている
ことを特徴とする材料構造体。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の材料構造体において、
前記基板層はステップ・テラス構造を有し、
前記2次元材料層は前記基板層の上にテラス状(ステップ・テラス構造)に形成される
ことを特徴とする材料構造体。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の材料構造体において、
前記2次元材料層が形成される炭化珪素の前記基板層の上面は(0001)面、または(0001)面と等価な結晶構造を有するファセット面を形成する結晶面である
ことを特徴とする材料構造体。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の材料構造体において、
前記2次元材料層の上に異種材料層を有する
ことを特徴とする材料構造体。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の材料構造体を有し、
前記2次元材料層の表面に2つ以上の電極を有し、
抵抗率が1×10Ωcm以上の基板に形成される
ことを特徴とする半導体デバイス。
【請求項9】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の材料構造体を有し、
前記2次元材料層の表面、及び、前記基板層に1つ以上の電極をそれぞれ有し、
抵抗率が1×10Ωcm以下の基板に形成される
ことを特徴とする半導体デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素(SiC)上に形成した層を用いた材料構造体、及び、半導体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の高度に発展した集積回路(LSI)に代表されるように電子デバイスの多くは、シリコン結晶から構成される。LSIの高集積化に伴い、デバイスサイズは縮小化され、現在に至っては数nmと原子層レベルまで近づいている。
【0003】
また、単原子層の炭素からなるグラフェンの発見以来、単原子または数原子層の様々な原子層材料の研究開発が進められており、バルク材料とは異なる特異な物性(例えば、電子構造)を示すことが数多く報告され、実用化に向けた取り組みが多くなされている。
【0004】
特に、原子層材料では、不純物密度や欠陥密度のみならず、表面への吸着物の有無や種類によって、物性が劇的に変化することがある。例えば、ダイヤモンドの表面を水素で終端すると、表面近傍に特異な電気伝導層が現れることが知られている。
【0005】
その中、炭化珪素(SiC)上に熱処理を施すことで、原子層レベルの特異な表面構造を形成できることが知見として得られている(例えば、特許文献1)。SiC単結晶は、不純物ドーピングによって、抵抗率および導電型の制御が可能であり、表面構造を利用した半導体デバイスの構築が可能となる。
【0006】
また、異なる結晶材料を積層化または集積化する場合においては、材料間の格子不整合や界面における表面自由エネルギーの差などが要因となり、界面の平坦性が維持できないことや、結晶欠陥の生成が生じる。特異な表面構造を予め形成することにより、その上部に形成する材料の品質を向上させる取り組みが多くなされている。
【0007】
このため、SiC単結晶において、材料構造体の表面構造を利用した実用的な半導体デバイスの実現が望まれているのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平10-335290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、炭化珪素単結晶上に形成した2次元材料層(数原子層)を利用することができる材料構造体、及び、半導体デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための請求項1に係る本発明の材料構造体は、炭化珪素の基板層の上に、材料構造体が設けられる、窒素を含有する2次元材料層が形成され、前記2次元材料層は、珪素及び窒素から形成され、最表面は水素原子が結合しており、前記2次元材料層の初期状態の酸素の面密度は、5×10 14 cm -2 以下まで低減していることを特徴とする。
【0011】
請求項1に係る本発明では、炭化珪素(SiC)の基板層の上に、窒素(N)を含有する2次元材料層(数原子層)を形成することで、炭化珪素(SiC)単結晶上に形成した数原子層を利用することができる材料構造体とすることが可能になる。
【0012】
2次元材料層の最表面に水素が結合することで、材料構造体の特異な電気伝導が誘起される。
【0013】
例えば、2次元材料層を活性層として機能させることができる。応用例として、2次元材料層上に2つの電極を形成した2端子構造の横型デバイスを構築することができる。
【0014】
電極間に電圧を印加することで、2次元材料層の内部または界面に電流が流れる。また、2つの電極間に電極を追加することで3端子構造とし、中間の電極に電圧を印加することで、電極間に流れる電流を制御しても良い。また、2次元材料層に光が入射されると、2次元材料層の抵抗率が変化し、電極間に流れる電流が変化する、センサーとして用いることができる。また、デバイスに磁場を印加した状態としても良い。
【0015】
例えば、2次元材料層の上に1つ以上の表面電極を形成し、基板層の裏に裏面電極を形成した縦型デバイスを構築することができる。この場合、表面電極はメッシュ状、櫛状の窓あき形状等にしても良い。
【0016】
また、横型デバイスおよび縦型デバイスともに、2次元材料層の最表面に結合している原子(分子)の変化を、電流量の差から検出できるセンサーとして用いることができる。さらには、2次元材料層上に異種材料層を形成した材料構造体とすることもできる。
【0018】
また、請求項2に係る本発明の材料構造体は、請求項1に記載の材料構造体において、前記基板層に対し、前記2次元材料層の2次元周期構造は、
(√3×√3 R30)であることを特徴とする。
【0019】
2次元材料層の厚さは、原子数層の厚さ、SiとN密度が単原子層と同程度(高秩序度)、であるようにすることができる。
【0020】
また、請求項3に係る本発明の材料構造体は、請求項1もしくは請求項2に記載の材料構造体において、前記2次元材料層の厚さは、0.2nm以上0.8nm以下、前記2次元材料層の窒素の面密度は、1×1014cm-2以上2×1015cm-2以下、前記2次元材料層の初期状態は、面密度が5×1014cm-2以上の水素原子が最表面に結合していることを特徴とする。
【0021】
また、請求項4に係る本発明の材料構造体は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の材料構造体において、前記2次元材料層の表面は、水素が結合している領域を酸素が結合している領域で取り囲まれていることを特徴とする。また、請求項5に係る本発明の材料構造体は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の材料構造体において、前記基板層はステップ・テラス構造を有し、前記2次元材料層は前記基板層の上にテラス状(ステップ・テラス構造)に形成されることを特徴とする。
【0022】
また、請求項6に係る本発明の材料構造体は、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の材料構造体において、前記2次元材料層が形成される炭化珪素の基板層の上面は(0001)面、または(0001)面と等価な結晶構造を有するファセット面を形成する結晶面であることを特徴とする。
【0023】
請求項6に係る本発明では、炭化珪素の基板層の(0001)面、または(0001)面と等価な結晶構造を有するファセット面を形成する結晶面上に2次元材料層を形成できる。
【0024】
2次元材料層の最表面に、結合状態が制御できるように、異種の元素材、例えば、水素原子が結合を結合させ、熱を加えることで水素原子を所定状態に離脱させて、2次元材料層の電子構造を変化させることができる。
【0025】
また、請求項7に係る本発明の材料構造体は、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の材料構造体において、前記2次元材料層の上に異種材料層を有することを特徴とし、機能層として高品質の層を構築することができる。
【0026】
因みに、参考文献として、Tetsuroh Shirasawa, Kenjiro Hayashi, Seigi Mizuno, Satoru Tanaka, Kan Nakatsuji, Fumio Komori, and Hiroshi Tochihara, PHYSICAL REVIEW LETTERS 98, 136105 (2007)には、2次元周期構造が(√3×√3 R30)であるSiとNからなる層およびOを含む層との積層構造が報告されている。上述した本発明の材料構造体はOを含まず、水素原子と結合していることを特徴としているため、参考文献の技術とは相違する。
【0027】
参考文献に報告されている構造に比べて、上述した本発明の2次元材料層は、原子層レベルまで薄くすることで、電子デバイスに適応した場合、ゲート電圧の印加により変調度合の向上を図ることができ、センサーに適用した場合には感度の向上を図ることができる。
【0028】
上記目的を達成するための請求項8に係る本発明の半導体デバイスは、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の材料構造体を有し、前記2次元材料層の表面に2つ以上の電極を有し、抵抗率が1×10Ωcm以上の基板に形成されることを特徴とする。
【0029】
また、上記目的を達成するための請求項9に係る本発明の半導体デバイスは、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の材料構造体を有し、前記2次元材料層の表面、及び、基板層に1つ以上の電極をそれぞれ有し、抵抗率が1×10Ωcm以下の基板に形成されることを特徴とする。
【0030】
請求項8、請求項9に係る本発明では、炭化珪素単結晶上に形成した数原子層を利用することができる材料構造体を有する半導体デバイスとすることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の材料構造体は、炭化珪素単結晶上に形成した数原子層を利用することが可能になる。
【0032】
また、本発明の半導体デバイスは、炭化珪素単結晶上に形成した数原子層を利用することができる材料構造体を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の一実施例に係る材料構造体の概念構成図である。
図2】本発明の一実施例に係る材料構造体の基板層に対する2次元材料層の2次元周期構造を説明する概略図である。
図3】本発明の一実施例に係る材料構造体の基板層と2次元材料層の結合の一例を表す概念図である。
図4】赤外分光による吸収度合いの状況を表すグラフである。
図5】材料構造体の基板層に対する2次元材料層の状況を表す概念図である。
図6】本発明の一実施例に係る材料構造体を用いた半導体デバイスの概念構成図である。
図7】本発明の一実施例に係る材料構造体を用いた半導体デバイスの概念構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1図2に基づいて本発明の材料構造体の実施例を説明する。
【0035】
図1には本発明の一実施例に係る材料構造体を概念的に説明する構成状況、図2には本発明の一実施例に係る材料構造体の基板層に対する2次元材料層の2次元周期構造を説明する概略状況を示してある。
【0036】
図1に示すように、炭化珪素(SiC)の基板層1の上には、窒素(N)を含有する含有する2次元材料層2が形成されている。2次元材料層2の最表面には水素原子(水素:H)が結合されている。
【0037】
2次元材料層2は、珪素(Si)及び窒素(N)から形成され、2次元材料層2の厚さは、0.2nm以上0.8nm以下とされることが好ましい。また、2次元材料層2の窒素(N)の面密度は、1×1014cm-2以上2×1015cm-2以下であり、さらに、2次元材料層2の初期状態の酸素(O)の面密度は、5×1014cm-2以下であることが好ましい。
【0038】
2次元材料層2の表面に結合する水素(H)の密度を上げることで、特異な電子状態を形成して特異な電気伝導を誘起することができる。このためには、水素の面密度は5×1014cm-2以上2×1015cm-2以下であることが好ましい。また表面の酸素(O)の面密度は、5×1014cm-2以下まで低減させることが好ましい。例えば、原子数層の薄さ、SiとN密度が単原子層と同程度(高秩序度)、であることが好ましい。
【0039】
そして、2次元材料層2が窒素(N)を含有していることで、基板層1に対し、2次元材料層2の2次元周期構造は、(√3×√3 R30)になる。つまり、窒素(N)を含有していることで、図2に示すように、基板層1の単位ユニットの単位辺の長さを1とした場合、2次元材料層2の単位ユニットの単位辺の長さは√3(√3倍)になる。
【0040】
そして、2次元材料層2が窒素(N)を含有していることで、図2に示すように、2次元材料層2の単位ユニットに対し、基板層1の単位ユニットが、図中で反時計回り方向に30度回動された状態になる。または、図中で時計回り方向に30度回動された状態にしてもよい。
【0041】
2次元材料層2が形成される炭化珪素(SiC)の基板層1の上面は(0001)面、または(0001)面と等価な結晶構造を有するファセット面を形成する結晶面であることが好ましい。これにより、炭化珪素(SiC)の基板層1の(0001)面、または(0001)面と等価な結晶構造を有するファセット面を形成する結晶面上に2次元材料層2を形成できる。
【0042】
2次元材料層2の上に異種材料層を形成することができる。異種材料を形成することで、機能層として高品質の層を構築することができる。
【0043】
図3図4に基づいて材料構造体の具体例を説明する。
【0044】
図3には本発明の一実施例に係る材料構造体の基板層と2次元材料層の結合の一例を表す概念、図4には赤外分光による吸収度合いの状況を表すグラフを示してある。
【0045】
図3に示すように、基板層1は、炭化珪素(SiC:丸印の中心にドットを記した印で示したSi、●印で示したC)の上には、◎印で示した窒素(N)を含有する2次元材料層2が形成されている。2次元材料層2の最表面には(最表面の珪素Siには)、◎印で示した窒素(N)、丸印の中心にドットを記した印で示したSiを介在させて、〇印で示した異種の元素材である水素(H)が結合されている。水素(H)の結合状態により、2次元材料層2の電子構造を変化させることができる。
【0046】
水素(H)が結合されている場合、図4に実線で示すように、赤外分光による吸光度のピークが所望の波数(cm-1)で生じることが確認されている。窒素(N)を含有している2次元材料層2を加熱することで、図4に破線で示すように、赤外分光による吸光度のピークが生じないことが確認されている。
【0047】
水素(H)が離脱した場合、酸素(O)が結合することが考えられる。また、他の原子、分子が吸着・結合させることも考えられる。これにより、2次元材料層2の電子構造を任意に変化させることができる。材料構造体を光素子として適用することで、2次元材料層2の最表面の結合状態により、2次元材料層2の光学特性を制御することができる。
【0048】
パターニングなどを用いて2次元材料層2の表面に結合する元素を局所的に変化させることで、2次元平面内に局所的に電気伝導度の異なる領域を形成し、配線などの回路要素を構成することもできる。例えば、Hが結合している領域と酸素(O)が結合している領域とを形成する場合、酸素が結合している領域では2次元材料層2の表面では特異な電気伝導は起きないので、水素が結合している領域だけに選択的に特異な電気伝導を起こすことができる。このため、水素が結合している領域を酸素が結合している領域で取り囲むことで素子分離ができ、上層の電極配線と組み合わせることで様々な回路を実現できる。
【0049】
図5には本発明の一実施例に係る材料構造体の基板層に対する2次元材料層の状況を表す概念を示してある。
【0050】
図5に示すように、2次元材料層2は下地の炭化珪素(SiC)の基板層1上にテラス状(ステップ・テラス構造)に形成されるため、2次元材料層2は特定な方向のみに連続的に広がり、電気伝導度は面内で異方性を有している。ステップ・テラスを横切る方向(図中左右方向)では、電気伝導度が低く、ステップ・テラスと平行な方向(図中上下方向)では、電気伝導度が高くなる。
【0051】
ステップ・テラスの形態(大きさ、高さ、密度等)を制御することで、任意の電気伝導度を得ることができる。尚、炭化珪素(SiC)表面のステップ・テラスの形態(大きさ、高さ、密度等)は、基板のオフ角により調整することができる。または、(0001)面と同等の結晶構造を有するファセット面を利用する場合においては、基板の面方位を調整することで、ファセット面の幅を調整することができる。
【0052】
図6図7に基づいて半導体デバイスの具体例を説明する。
【0053】
図6には本発明の一実施例に係る半導体デバイスの概念構造、図7には本発明の一実施例に係る半導体デバイスの概念構造を示してある。
【0054】
図6(a)に示すように、半導体デバイスとして、2次元材料層2の上部に2つの電極11を形成した二端子構造を構築することができる。更に、2つの電極11の間にショットキー型の電極14を形成することで、MES(metal-semiconductor)型の電界効果型トランジスタ構造を構築することができる。
【0055】
図6(b)に示すように、2次元材料層2の一部に、高誘電率材料(例えば、HfOやAl)の層12、及び、電極11を積層させることで、MIS(metal-insulator)型の電界効果型トランジスタ構造を構築することができる。請求項に係る本発明の2次元材料層は、酸素を含む層が存在しないため、2次元材料層2と層12の間を近づけることができ、電極11(ゲート電極)を用いた電界効果、及び電極11(ソース電極、ドレイン電極)のそれぞれおけるコンタクト抵抗の制御性を向上させることができる。
【0056】
図6(a)(b)の半導体デバイス(横型トランジスタ構造において、基板層1は抵抗率1×10Ωcm以上の半絶縁性基板または半絶縁性エピタキシャル膜を利用することが好ましい。これにより、基板層1への電流の流れを抑制することができる。図6(c)の半導体デバイス(ダイオード構造)において、基板層1は抵抗率1×10Ωcm以下の基板またはエピタキシャル膜を形成した基板を利用することが好ましい。
【0057】
2次元材料層2上に形成する電極11は、蒸着やスパッタ法等を用いて金属薄膜(Ti、Ni、Al等)の堆積により形成する。接触抵抗を低減するために、金属堆積後に600℃以下の熱処理を加えてもよい。もしくは、電極11を堆積する領域の2次元材料層2の導電性を変えても良い。これには、異種元素を含む雰囲気中で加熱することで表面元素を他の元素に置換することや、イオン注入法や電子線照射を用いることができる。
【0058】
これにより、電子デバイスとして機能させることができる。即ち、両端の2電極の間に電圧を印加することで、2次元材料層2の内部または界面に電流が流れる電子デバイスとして機能させることができる。また、2次元材料層2の光が入射されると、両端の2電極間に流れる電流が変化するセンサーを構築することができる。また、中間の電極に電圧を印加することで、両端の2電極の間の電流を制御することができる電子デバイスとして機能させることができる。
【0059】
図6(c)に示すように、半導体デバイスとして、2次元材料層2の上に1つ以上の電極11を積層し、基板層1の裏に1つ以上の電極13を形成したダイオード構造を構築することができる。2次元材料層2の表面の水素の面密度により、2次元材料層2の電子状態が変化するために、ダイオードの電流-圧特性に影響が現れる。表面電極は、メッシュ状、櫛状の窓あき形状等の任意の形状を適用することができる。基板層1に低抵抗基板を利用することで、直列抵抗を小さくすることができる。
【0060】
図6(c)における2次元材料層2上に形成する電極11は、蒸着やスパッタ法等を用いて金属薄膜(Ti、Ni,Al等)の堆積により形成する。接触抵抗を低減するために、金属堆積後に600℃以下の熱処理を加えてもよい。もしくは、電極11を堆積する領域の2次元材料層2の導電性を変えても良い。これには、異種元素を含む雰囲気中で加熱することで表面元素を他の元素に置換することや、イオン注入法や電子線照射を用いることができる。
【0061】
図6(a)(b)(c)において、2次元材料層2の表面状態を維持するためには、スパッタ法やスピンコーティング法等を用いて、2次元材料層2の上部に封止材を形成しても良い。
【0062】
図7(a)に示すように、2次元材料層2上に異種材料層3を形成した半導体デバイスとして、異種材料層3の上部に2つの電極11を形成した二端子構造を構築することができる。更に、2つの電極11の間にショットキー型の電極14を形成することで、MES(metal-semiconductor)型の電界効果型トランジスタ構造を構築することができる。
【0063】
図7(b)に示すように、異種材料層3の一部に、高誘電率材料(例えば、HfOやAl)の層12、及び、電極11を積層させることで、MIS(metal-insulator)型の電界効果型トランジスタ構造を構築することができる。
【0064】
2次元材料層2の上に面密度が1×1015cm-2以下の水素(H)原子を含ませた場合、異種材料層3の成長時に、2次元材料層2の最表面の水素(H)原子が異種材料層3の構成元素と置換されることで、2次元材料層2と異種材料層が結合される。
【0065】
図7(c)に示すように、半導体デバイスとして、異種材料層3の上に1つ以上の電極11を積層し、基板層1の裏に1つ以上の電極13を形成したダイオード構造を構築することができる。表面電極は、メッシュ状、櫛状の窓あき形状等の任意の形状を適用することができる。
【0066】
前述した参考文献において、2次元周期構造(√3×√3 R30)を有するSiとNからなる層上に、炭化珪素(Si)及び酸素(O)からなる結晶層(SiO層)が自発的に形成された結果のみが示されている。
【0067】
本発明において、異種材料層3は、分子線エピタキシー法や原子層堆積法、化学気相成長法など、2次元材料層2とは異なる製造方法(製造装置)を用いることができ、SiO層以外の材料(例えば、ペロブスカイト構造を有する金属酸化物)の形成にも適用することができる。2次元材料層2の形成後、異種材料層3の材料を導入することで、連続的に成膜することができる。
【0068】
尚、2次元材料層2は数原子層の厚さであるため、異種材料層3と基板層1の距離を近づけることができる。
【0069】
図7(a)(b)の半導体デバイス(横型トランジスタ構造)において、基板層1は抵抗率1×10Ωcm以上の半絶縁性基板または半絶縁性エピタキシャル膜を利用することが好ましい。図7(c)の半導体デバイス(ダイオード構造)において、基板層1は抵抗率1×10Ωcm以下の基板またはエピタキシャル膜を形成した基板を利用することが好ましい。
【0070】
異種材料層3の上の表面の電極11と基板層1の裏面の電極13の間に電圧(逆バイアス)を印加した状態に、光が入射されると、電流が流れるセンサーを構築することができる。または、異種材料層3の上の表面の電極11と基板層1の裏面の電極13の間に電圧(順バイアス)を印加し、電流を流すことで、異種材料層3、及び、2次元材料層2からの発光デバイスとすることができる。基板層1に低抵抗基板を利用することで、直列抵抗を小さくすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は材料構造体、及び、半導体デバイスの産業分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0072】
1 基板層
2 2次元材料層
3 異種材料層
11、13、14 電極
12 層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7