(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】電気分解用電極
(51)【国際特許分類】
C25B 11/053 20210101AFI20240809BHJP
C25B 1/46 20060101ALI20240809BHJP
C25B 11/063 20210101ALI20240809BHJP
C25B 11/091 20210101ALI20240809BHJP
C25B 11/093 20210101ALI20240809BHJP
【FI】
C25B11/053
C25B1/46
C25B11/063
C25B11/091
C25B11/093
(21)【出願番号】P 2023501651
(86)(22)【出願日】2021-11-08
(86)【国際出願番号】 KR2021016154
(87)【国際公開番号】W WO2022103102
(87)【国際公開日】2022-05-19
【審査請求日】2023-01-11
(31)【優先権主張番号】10-2020-0151310
(32)【優先日】2020-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】パク、ユン-ピン
(72)【発明者】
【氏名】ファン、イン-ソン
(72)【発明者】
【氏名】パク、フン-ミン
(72)【発明者】
【氏名】イ、トン-チョル
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-543933(JP,A)
【文献】特表2012-508326(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0209992(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第111996515(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-11/097
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材層と、
第1コーティング層~第Nコーティング層と、
を含み、
前記第1コーティング層は前記金属基材層の少なくとも一方の面上に形成され、前記第1コーティング層~第Nコーティング層は順次積層して形成され、
下記式1および2を
満たし、
前記金属基材層は、ニッケル、チタン、タンタル、アルミニウム、ハフニウム、ジルコニウム、モリブデン、タングステンおよびステンレススチールからなる群から選択される1以上を含むことを特徴とする、電気分解用電極。
[式1]
CS
n-1<CS
n
[式2]
CT
n-1>CT
n
式中、
CSnは、第nコーティング層中のSnの含量(モル%)であり、
CTnは、第nコーティング層中のTiの含量(モル%)であり、
nは2~Nの整数であり、
Nは
4以上の整数である。
【請求項2】
下記式3をさらに満たすことを特徴とする、請求項1に記載の電気分解用電極。
[式3]
CS
n-1+CT
n-1=CS
n+CT
n
式中、
nは2~Nの整数であり、
Nは2以上の整数である。
【請求項3】
前記式1は、下記式1-2であることを特徴とする、請求項1または2に記載の電気分解用電極。
[式1-2]
1<CS
n/CS
n-1≦2
【請求項4】
前記式2は、下記式2-2であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の電気分解用電極。
[式2-2]
0.5≦CT
n/CT
n-1<1
【請求項5】
CS
1+CT
1は、30~60モル%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の電気分解用電極。
【請求項6】
前記第1コーティング層~第Nコーティング層は、
各層において、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムおよび白金からなる群から選択される1以上の白金族金属を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の電気分解用電極。
【請求項7】
前記第1コーティング層~第Nコーティング層中の白金族金属の含量は
、各層それぞれで一定である、請求項6に記載の電気分解用電極。
【請求項8】
前記第1コーティング層~第Nコーティング層は、
各層において、ルテニウム、イリジウムおよび白金を含む、請求項6または7に記載の電気分解用電極。
【請求項9】
前記第1コーティング層~第Nコーティング層中のルテニウムの総含量は、20g/m
2以上である、請求項8に記載の電気分解用電極。
【請求項10】
前記Nは4~10の整数である、請求項1~9のいずれか一項に記載の電気分解用電極。
【請求項11】
前記金属基材層は、ニッケル、チタン、タンタル、アルミニウム、ハフニウム、ジルコニウム、モリブデン、タングステンおよびステンレススチールからなる群から選択される1以上を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の電気分解用電極。
【請求項12】
金属基材の少なくとも一方の面上に第1コーティング組成物を塗布および焼成して第1コーティング層を形成するステップと、
形成された第1コーティング層に第2コーティング組成物~第Nコーティング組成物を順次塗布および焼成して第2コーティング層~第Nコーティング層を形成するステップと、
を含み、
前記金属基材層は、ニッケル、チタン、タンタル、アルミニウム、ハフニウム、ジルコニウム、モリブデン、タングステンおよびステンレススチールからなる群から選択される1以上を含み、
下記式4および5を満たすことを特徴とする、
請求項1~11のいずれか一項に記載の電気分解用電極の製造方法。
[式4]
CS’
n-1<CS’
n
[式5]
CT’
n-1>CT’
n
式中、
CS’nは、第nコーティング組成物中のSnの含量(%)であり、
CT’nは、第nコーティング組成物中のTiの含量(%)であり、
nは2~Nの整数であり、
Nは
4以上の整数である。
【請求項13】
前記第1コーティング組成物~第Nコーティング組成物は、
各層において、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムおよび白金からなる群から選択される1以上の白金族金属を含む、請求項12に記載の電気分解用電極の製造方法。
【請求項14】
前記焼成は、400℃~600℃の温度で1時間以下行われる、請求項12または13に記載の電気分解用電極の製造方法。
【請求項15】
前記第1コーティング組成物~第Nコーティング組成物の溶媒は、ブタノール、イソプロピルアルコールおよびブトキシエタノールからなる群から選択される1以上を含む、請求項12~14のいずれか一項に記載の電気分解用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年11月12日付けの韓国特許出願第10-2020-0151310号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は、本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は、優れた性能を示しながらも、コーティング層の物理的安定性に優れるため、コーティング層の剥離現象を抑制することができる、電気分解用電極およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
海水などの低価の塩水(Brine)を電気分解し、水酸化物、水素および塩素を生産する技術が広く知られている。このような電気分解工程は、通常、塩素アルカリ(chlor-alkali)工程とも呼ばれており、既に数十年間の商業運転により性能および技術の信頼性が立証された工程であるといえる。
【0004】
このような塩水の電気分解は、電解槽の内部にイオン交換膜を設けて電解槽を陽イオン室と陰イオン室に区分し、電解質として塩水を用い、陽極から塩素ガスを、陰極から水素および苛性ソーダを得るイオン交換膜法が現在最も広く用いられている方法である。
【0005】
一方、塩水の電気分解工程は、下記の電気化学反応式に示されたような反応を介して行われる。
陽極(anode)反応:2Cl-→Cl2+2e-(E0=+1.36V)
陰極(cathode)反応:2H2O+2e-→2OH-+H2(E0=-0.83V)
全体反応:2Cl-+2H2O→2OH-+Cl2+H2(E0=-2.19V)
【0006】
塩水の電気分解が行われる前記2つの電極のうち、陽極としてはDSA(DimenSnonally Stable Anode)と呼ばれる貴金属系電極が開発されて用いられており、特にコーティング層成分としてルテニウム、イリジウム、パラジウム、白金などの白金族金属を採用することで、低い電圧でも電気分解工程を運転できる多様な陽極が開発されている。また、これに加え、白金族金属の他にも、多様な成分をさらにコーティング層に含ませることで、電流効率をはじめとする陽極の多様な特性を改善させようとする研究も活発な状況である。
【0007】
前記研究の一例として、コーティング層に白金族金属に加えてスズ成分を含ませる場合、陽極の性能を増加させ、電流効率および選択度を改善できることが知られている。ただし、スズ成分は、他の金属元素に比べて低い熱膨張係数を有するため、高温焼成過程でコーティング層中に亀裂および剥離現象をもたらし得るという問題を有する。したがって、コーティング層中に白金族金属およびスズ成分を共に含ませるが、上述したスズ成分の問題を抑制できる場合、耐久性および性能面の何れにも優れた電気分解用陽極を提供することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、コーティング層に白金族金属とともにスズ成分を含ませるが、コーティング層中におけるスズ成分の分布を適宜制御することで、優れた性能を示しながらも、亀裂または剥離などの耐久性の劣化現象を示さない電気分解用電極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明は、電気分解用電極および電気分解用電極の製造方法を提供する。
【0011】
(1)本発明は、金属基材層と、第1コーティング層~第Nコーティング層と、を含み、前記第1コーティング層は金属基材層の少なくとも一方の面上に形成され、前記第1コーティング層~第Nコーティング層は順次積層して形成され、下記式1および2を満たすことを特徴とする、電気分解用電極を提供する。
【0012】
[式1]
CSn-1<CSn
[式2]
CTn-1>CTn
【0013】
式中、
CSnは、第nコーティング層中のSnの含量(モル%)であり、
CTnは、第nコーティング層中のTiの含量(モル%)であり、
nは2~Nの整数であり、
Nは2以上の整数である。
【0014】
(2)本発明は、下記式3をさらに満たすことを特徴とする、前記(1)に記載の電気分解用電極を提供する。
[式3]
CSn-1+CTn-1=CSn+CTn
式中、
nは2~Nの整数であり、
Nは2以上の整数である。
【0015】
(3)本発明は、前記式1は、下記式1-2であることを特徴とする、前記(1)または(2)に記載の電気分解用電極を提供する。
[式1-2]
1<CSn/CSn-1≦2
【0016】
(4)本発明は、前記式2は、下記式2-2であることを特徴とする、前記(1)~(3)のいずれか一項に記載の電気分解用電極を提供する。
[式2-2]
0.5≦CTn/CTn-1<1
【0017】
(5)本発明は、CS1+CT1は、30~60モル%である、前記(1)~(4)のいずれか一項に記載の電気分解用電極を提供する。
【0018】
(6)本発明は、前記第1コーティング層~第Nコーティング層は、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムおよび白金からなる群から選択される1以上の白金族金属を含む、前記(1)~(5)のいずれか一項に記載の電気分解用電極を提供する。
【0019】
(7)本発明は、前記第1コーティング層~第Nコーティング層中の白金族金属の含量は一定である、前記(1)~(6)のいずれか一項に記載の電気分解用電極を提供する。
【0020】
(8)本発明は、前記第1コーティング層~第Nコーティング層は、ルテニウム、イリジウムおよび白金を含む、前記(1)~(7)のいずれか一項に記載の電気分解用電極を提供する。
【0021】
(9)本発明は、前記第1コーティング層~第Nコーティング層中のルテニウムの総含量は、20g/m2以上である、前記(1)~(8)のいずれか一項に記載の電気分解用電極を提供する。
【0022】
(10)本発明は、前記Nは4~10の整数である、前記(1)~(9)のいずれか一項に記載の電気分解用電極を提供する。
【0023】
(11)本発明は、前記金属基材層は、ニッケル、チタン、タンタル、アルミニウム、ハフニウム、ジルコニウム、モリブデン、タングステンおよびステンレススチールからなる群から選択される1以上を含む、前記(1)~(10)のいずれか一項に記載の電気分解用電極を提供する。
【0024】
(12)本発明は、金属基材の少なくとも一方の面上に第1コーティング組成物を塗布および焼成して第1コーティング層を形成するステップと、形成された第1コーティング層に第2コーティング組成物~第Nコーティング組成物を順次塗布および焼成して第2コーティング層~第Nコーティング層を形成するステップと、を含み、下記式4および5を満たすことを特徴とする、電気分解用電極の製造方法を提供する。
【0025】
[式4]
CS’n-1<CS’n
[式5]
CT’n-1>CT’n
【0026】
式中、
CS’nは、第nコーティング組成物中のSnの含量(%)であり、
CT’nは、第nコーティング組成物中のTiの含量(%)であり、
nは2~Nの整数であり、
Nは2以上の整数である。
【0027】
(13)本発明は、前記第1コーティング組成物~第Nコーティング組成物は、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムおよび白金からなる群から選択される1以上の白金族金属を含む、前記(12)に記載の電気分解用電極の製造方法を提供する。
【0028】
(14)本発明は、前記焼成は、400℃~600℃の温度で1時間以下行われる、前記(12)または(13)に記載の電気分解用電極の製造方法を提供する。
【0029】
(15)本発明は、前記第1コーティング組成物~第Nコーティング組成物の溶媒は、ブタノール、イソプロピルアルコールおよびブトキシエタノールからなる群から選択される1以上を含む、前記(12)~(14)のいずれか一項に記載の電気分解用電極の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0030】
本発明の電気分解用電極は、スズ成分に対しては、金属基材層と隣接した第1コーティング層における含量が最も低く、金属基材層から遠くなるほど含量が高くなるようにし、チタン成分に対しては、スズ成分とは逆に、金属基材層と隣接した第1コーティング層における含量が最も高く、金属基材層から遠くなるほど含量が低くなるようにすることで、スズ成分による性能の改善効果を達成するとともに、金属基材層とコーティング層との間の剥離現象を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の実施例1、実施例2および比較例1で製造された電気分解用電極に対する線形掃引ボルタンメトリーを用いた性能評価結果を示した図である。
【
図2】本発明の実施例1で製造された電気分解用電極の剥離程度のテスト結果を示した図である。
【
図3】本発明の実施例2で製造された電気分解用電極の剥離程度のテスト結果を示した図である。
【
図4】本発明の比較例1で製造された電気分解用電極の剥離程度のテスト結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明についてより詳しく説明する。
本明細書および請求の範囲で用いられている用語や単語は、通常的もしくは辞書的な意味に限定して解釈してはならず、発明者らは、自分の発明を最善の方法で説明するために、用語の概念を適切に定義することができるという原則に則って、本発明の技術的思想に合致する意味と概念で解釈すべきである。
【0033】
電気分解用電極
本発明は、金属基材層と、第1コーティング層~第Nコーティング層と、を含み、前記第1コーティング層は金属基材層の少なくとも一方の面上に形成され、前記第1コーティング層~第Nコーティング層は順次積層して形成され、下記式1および2を満たすことを特徴とする、電気分解用電極を提供する。
【0034】
[式1]
CSn-1<CSn
[式2]
CTn-1>CTn
【0035】
式中、
CSnは、第nコーティング層中のSnの含量(モル%)であり、
CTnは、第nコーティング層中のTiの含量(モル%)であり、
nは2~Nの整数であり、
Nは2以上の整数である。
【0036】
従来の場合、電気分解用電極のコーティング層にスズ成分、具体的にはスズ酸化物を含ませる場合に電流効率および選択度を改善できることが知られたが、スズ酸化物の相対的に低い熱膨張係数により、焼成過程でコーティング層中の他の金属成分と基材層成分、そしてスズ酸化物が互いに異なる程度に膨張してコーティング層が剥離するという問題があった。
【0037】
このことに着目して研究した結果、本発明の発明者は、複数の層を積層してコーティング層として適用するが、積層された各層におけるスズ成分の含量およびチタン成分の含量を適宜制御することで、コーティング層中の金属基材層と隣接した層における熱膨張係数が最も高く、金属基材層から遠くなるほど熱膨張係数が低くなるようにする場合、コーティング層の剥離問題を抑制できながらも、コーティング層中のスズ成分による電流効率の改善や性能の向上などのような利点をそのまま享受できることを確認し、本発明を完成した。
【0038】
以下、本発明の電気分解用電極を構成する構成要素を分けて説明する。
金属基材層
本発明が提供する電気分解用電極において、金属基材層は、後述するコーティング層が物理的に支持できる領域を提供するとともに、コーティング層の表面で行われる電気分解反応中に発生または消費される電子が反対電極にまたは反対電極から移動できるようにする役割を行う。
【0039】
したがって、前記金属基材層は、ある程度以上の強度および電気伝導性を有しなければならず、具体的にニッケル、チタン、タンタル、アルミニウム、ハフニウム、ジルコニウム、モリブデン、タングステンおよびステンレススチールからなる群から選択される1以上を含んでもよく、特に好ましくはチタンであってもよい。金属基材層としてチタンを用いる場合、加工が適切に容易でありながらも、それ自体の強度が高いため、物理的な衝撃により電極が破壊される現象を抑制することができる。さらに、後述するコーティング層にチタン成分が含まれることから、金属基材層としてチタンを用いる場合、基材層とコーティング層との間の熱膨張係数の差を最小化して焼成中の剥離問題を抑制することができる。
【0040】
前記金属基材層の形態は、特に制限されず、基材層の少なくとも一面に形成されるコーティング層の表面積が極大化できる形態が好ましい。例えば、棒、シートまたは板材状の金属基材を本発明に適用してもよく、表面積を極大化するためにエキスパンドメタルまたはメッシュ状の金属基材を用いてもよい。一方、前記金属基材層の厚さや幅などは、本発明が提供する電気分解用電極が用いられる具体的な環境に応じて異なってもよく、通常の技術者であれば、目的とする用途や求められる条件などに合わせて金属基材層の厚さおよび広さなどを適宜変更することができる。
【0041】
コーティング層
本発明が提供する電気分解用電極において、コーティング層は、電気的活性を提供することで、電気分解反応の触媒として機能する役割を行う。特に、本発明におけるコーティング層は、第1コーティング層~第Nコーティング層の総N個の層が順次積層された構造を有し、且つ、各層におけるスズおよびチタンの含量が特定の条件を満たすことで、優れた耐久性および電流効率を示すことができる。
【0042】
前述したように、スズ成分は、コーティング層に含まれる際に電流効率および性能を改善させるが、相対的に低い熱伝達係数を有するため、焼成過程でコーティング層が剥離するか、コーティング層に亀裂が発生する現象が発生し得る。特に、このような現象は、金属基材層とコーティング層が接する領域で大きく発生するため、金属基材層とコーティング層が接する領域では、コーティング層成分の熱伝達係数と金属基材層の熱伝達係数との間の差を最小化することが重要である。一方、コーティング層のうち金属基材層からの距離が相対的に遠い領域では、金属基材層とコーティング層との間の熱伝達係数の差が大きくても相対的に無関係であり、金属基材層よりは隣接したコーティング層中の他領域との熱伝達係数の差が小さいことが重要である。したがって、コーティング層として、各成分の含量が均一に分布する単一層の代わりに、各層別に成分の含量を異にすることができる積層構造を適用する場合、コーティング層と金属基材層との間の熱伝達係数の差や、1つのコーティング層とそのコーティング層に隣接する他のコーティング層との間の熱伝達係数の差の何れも低く維持することができる。
【0043】
具体的に、本発明が提供する電気分解用電極は、第1コーティング層~第Nコーティング層を含み、前記第1コーティング層は金属基材層の少なくとも一方の面上に形成され、前記第1コーティング層~第Nコーティング層は順次積層して形成され、下記式1および2を満たすことを特徴とする。
【0044】
[式1]
CSn-1<CSn
[式2]
CTn-1>CTn
【0045】
式中、
CSnは、第nコーティング層中のSnの含量(モル%)であり、
CTnは、第nコーティング層中のTiの含量(モル%)であり、
nは2~Nの整数であり、
Nは2以上の整数である。
【0046】
前記式1は、第1コーティング層~第Nコーティング層におけるスズの含量関係を、前記式2は、第1コーティング層~第Nコーティング層におけるチタンの含量関係を式で表したものである。具体的に、前記式1は、金属基材層の少なくとも一面に形成される第1コーティング層におけるスズの含量が最も低く、前記第1コーティング層上に順次積層される複数のコーティング層においては、金属基材層から遠くなるほど、スズの含量が増加することを意味する。その逆に、前記式2は、金属基材層の少なくとも一面に形成される第1コーティング層におけるチタンの含量が最も高く、前記第1コーティング層上に順次積層される複数のコーティング層においては、金属基材層から遠くなるほど、チタンの含量が減少することを意味する。
【0047】
各コーティング層別のスズの含量が前記式1を満たすようにしたのは、金属基材層と第1コーティング層との間で急激な熱伝達係数の変化が現れないようにし、コーティング層中においても熱伝達係数の変化が急激に現れないようにすることで、金属基材層とコーティング層との間の剥離現象を抑制するためのものである。さらに、各コーティング層別のスズの含量が式1を満たすようにすると、最も外側に形成される第Nコーティング層におけるスズの含量を最も高くすることができ、これにより、塩水などと直接接触して電気分解反応を行う第Nコーティング層領域においてスズ成分による性能および電流効率の改善効果を最大化することができる。
【0048】
各コーティング層別のチタンの含量が前記式2を満たすようにしたのも、前述した剥離問題を抑制するためのものである。チタンは、金属基材層の材質として用いられる金属と類似した熱膨張係数を示す成分であって、第1コーティング層にチタンの含量を最も高くすることで、第1コーティング層と金属基材層の熱膨張係数が類似するようにすることができる。また、コーティング層中でのスズの含量が増加するだけに、チタンの含量を減少させることで、各コーティング層別の熱膨張係数の差を小さく維持することができ、付加的にチタン成分による過電圧の改善効果も達成することができる。
【0049】
一方、本発明が提供する電気分解用電極において、各コーティング層に含まれるスズおよびチタンは、酸化物の形態で存在してもよい。例えば、スズはスズ二酸化物(SnO2)の形態で、チタンはチタン二酸化物(TiO2)の形態で存在してもよい。また、前記式1および2中、CSnおよびCTnは、コーティング層中に含まれる金属のモル数を基準としたコーティング層中のスズおよびチタンの金属元素含量である。一方、前記CSnおよびCTnは、EDS(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)を介したコーティング層の表面の定量分析により確認することができる。
【0050】
一方、前記式1および2は、より具体的に、それぞれ下記式1-2および2-2であってもよい。
[式1-2]
1<CSn/CSn-1≦2
[式2-2]
0.5≦CTn/CTn-1<1
【0051】
前記式1-2は、外側コーティング層に行くほどスズ成分の含量が増加することと関わり、当該コーティング層のスズ成分の含量が以前コーティング層のスズ成分の含量に比べて最大2倍であることを意味する。また、前記式2-2は、外側コーティング層に行くほどチタンの含量が減少することと関わり、当該コーティング層のチタン成分の含量が以前コーティング層のチタン成分の含量に比べて最小1/2倍であることを意味する。すなわち、これは、複数のコーティング層においてスズの含量およびチタンの含量を変化させる際に、その変化する程度が急激ではないことを意味するものであって、仮にこれよりもさらに急激にスズの含量およびチタンの含量が変化する場合には、コーティング層間の熱膨張係数の差による剥離現象を誘発し得る。
【0052】
本発明の一実施形態において、電気分解用電極のコーティング層は、下記式3をさらに満たしてもよい。
[式3]
CSn-1+CTn-1=CSn+CTn
式中、
nは2~Nの整数であり、
Nは2以上の整数である。
【0053】
前記式3は、第1コーティング層~第Nコーティング層の総N個のコーティング層に対し、コーティング層中のスズの含量およびチタンの含量の和が一定であることを意味する。より具体的に、前記式3は、コーティング層が1層ずつ積層されるにつれて、コーティング層中の減るチタンの量だけに、スズの量が増加することを意味する。このように第1コーティング層~第Nコーティング層におけるスズおよびチタンの含量を制御することで、コーティング層中の他の成分、例えば、後述するルテニウム、イリジウムまたは白金などの白金族金属成分の含量を各コーティング層において一定にすることができ、これにより、均一な電極の性能を達成することができる。
【0054】
本発明の一実施形態において、CS1+CT1は、30モル%以上、好ましくは40モル%以上であってもよく、60モル%以下、好ましくは50モル%以下であってもよい。コーティング層中のスズの含量およびチタンの含量の和が上述した範囲内である場合、コーティング層中に活性を有する他の白金族金属を十分に含ませながらも、スズおよびチタンの含量も充分であるため、耐久性および性能を優れたレベルに維持させることができる。
【0055】
本発明の一実施形態において、第1コーティング層中のスズの含量であるCS1は0~10モル%、第1コーティング層中のチタンの含量であるCT1は20~50モル%であってもよい。また、最も外側に存在する第Nコーティング層中のスズの含量であるCSNは25~45モル%、第Nコーティング層中のチタンの含量であるCTNは5~15モル%であってもよい。また、本発明の一実施形態において、コーティング層の総個数に該当するNは2以上の整数であってもよく、好ましくは4以上の整数であってもよい。また、前記Nは20以下の整数、好ましくは10以下の整数、特に好ましくは8以下の整数であってもよい。コーティング層の個数と、第1コーティング層および第Nコーティング層における各成分の含量を上述した範囲内にする場合、電極の製造が十分に容易でありながらも、焼成中の剥離問題を抑制することができ、電極の性能も十分に実現することができる。一方、コーティング層の個数が過度に多い場合には、電極の製造にかかる努力に比べて、性能の改善が有意に現れず、コーティング層中の各成分の含量が上述した範囲から外れる場合にも、焼成中に剥離現象が発生するか、または電極の性能が相対的に劣るという問題が発生し得る。
【0056】
本発明が提供する電気分解用電極において、前記第1コーティング層~第Nコーティング層は、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムおよび白金からなる群から選択される1以上の白金族金属を含んでもよく、より具体的に、前記ルテニウム、イリジウムおよび白金を含んでもよい。前述したスズおよびチタンの他に、コーティング層に上述した白金族金属を含ませることで、電気分解反応に対する触媒活性を実現することができる。特に、コーティング層中の白金族金属としてルテニウム、イリジウムおよび白金を組み合わせて適用する場合、過電圧を下げて電極の性能を改善できながらも、電気分解過程における粒子分解または腐食などを抑制することで、電極の性能の経時変化が少ないため、優れた電極の性能を長時間維持することができる。
【0057】
さらに、コーティング層中の白金族金属としてルテニウム、イリジウムおよび白金を組み合わせて適用する場合、コーティング層中のイリジウムの含量は、ルテニウム100モルを基準として45モル~75モルであってもよく、白金の含量は、ルテニウム100モルを基準として15モル~35モルであってもよい。ルテニウム、イリジウムおよび白金の間の含量を上述した範囲内に調節する場合、電極の性能および耐久性の何れにも優れるとともに、コーティング層の安定性も改善されることができる。一方、前記白金族金属は、コーティング層中に酸化物の形態で存在してもよく、二酸化物または四酸化物の形態で存在してもよい。
【0058】
前述したスズ成分およびチタン成分の含量が各コーティング層別に異なることとは異なり、前記第1コーティング層~第Nコーティング層中の白金族金属の含量は一定であってもよい。各コーティング層別の白金族金属の含量を一定にすることで層間の電気分解性能の差を最小化することができ、これにより、コーティング層の全領域における均一な電気分解反応を誘導することができる。
【0059】
本発明が提供する電気分解用電極において、前記第1コーティング層~第Nコーティング層中のルテニウムの総含量は、7g/m2以上、好ましくは20g/m2以上であってもよい。十分な触媒活性を有するためには、コーティング層中のルテニウムの含量が上述した範囲を満たすことが好ましく、上述した範囲よりも少なくルテニウムが含まれる場合には、電気分解反応が円滑に行われないことがある。
【0060】
本発明が提供する電気分解用電極は、具体的に陽極であってもよい。また、本発明が提供する電気分解用電極は、塩化物を含む水溶液の電気分解の陽極反応に用いられてもよく、前記塩化物を含む水溶液は、塩化ナトリウムまたは塩化カリウムを含む水溶液であってもよい。
【0061】
本発明が提供する電気分解用陽極は、次亜塩素酸塩または塩素製造用電極として用いられてもよく、例えば、塩水の電気分解用陽極として用いられ、次亜塩素酸塩または塩素を生成することができる。
【0062】
電気分解用電極の製造方法
本発明は、金属基材の少なくとも一方の面上に第1コーティング組成物を塗布および焼成して第1コーティング層を形成するステップと、形成された第1コーティング層に第2コーティング組成物~第Nコーティング組成物を順次塗布および焼成して第2コーティング層~第Nコーティング層を形成するステップと、を含み、下記式4および5を満たすことを特徴とする、電気分解用電極の製造方法を提供する。
【0063】
[式4]
CS’n-1<CS’n
[式5]
CT’n-1>CT’n
【0064】
式中、
CS’nは、第nコーティング組成物中のSnの含量(モル%)であり、
CT’nは、第nコーティング組成物中のTiの含量(モル%)であり、
nは2~Nの整数であり、
Nは2以上の整数である。
【0065】
本発明の電気分解用電極の製造方法において、前記金属基材は、前述した電気分解用電極の金属基材層と同一であってもよい。
【0066】
本発明の電気分解用電極の製造方法において、前記第1コーティング組成物~第Nコーティング組成物は、スズおよびチタンを含み、組成物中におけるスズおよびチタンの含量は、上述した式4および5を満たしてもよい。本発明の電気分解用電極は、金属基材層の少なくとも一方の面上に第1コーティング層を形成した後、第2コーティング層~第Nコーティング層を順次形成する方式で製造され、電気分解用電極の部分において説明したように、金属基材層から遠くなるほど、スズの含量は高くなり、チタンの含量は低くなるようにするために、コーティング層の形成に用いられるコーティング組成物の含量もそれぞれ式4および5を満たさなければならない。
【0067】
一方、前記コーティング組成物に含まれるスズおよびチタンは、焼成過程で容易に酸化物の形態に転換できる前駆体の形態で含まれてもよい。具体的に、スズの場合、スズのハロゲン化物、硝酸化物、硫酸化物などをスズ前駆体化合物として用いてもよく、具体的には、塩化スズ(SnCl2)、硝酸スズ(Sn(NO3)2)および硫酸スズ(SnSO4)からなる群から選択される1種以上をスズ前駆体化合物として用いてもよい。また、チタンの場合、チタンアルコキシド化合物、例えば、チタンイソプロポキシド(Ti[OCH(CH3)2]4)および/またはチタンブトキシド(Ti(OCH2CH2CH2CH3)4)をチタン前駆体化合物として用いてもよい。上述した前駆体をコーティング組成物に溶解させて用いる場合、焼成過程で高収率で酸化されることができる。
【0068】
本発明の電気分解用電極の製造方法において、前記第1コーティング組成物~第Nコーティング組成物は、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムおよび白金からなる群から選択される1以上の白金族金属をさらに含んでもよい。
【0069】
先ほど電気分解用電極において説明したように、コーティング層中には触媒活性を示すための白金族金属が含まれてもよく、これにより、コーティング組成物に対しても白金族金属が含まれてもよい。前記白金族金属は、スズおよびチタンの場合と同様に、前駆体の形態でコーティング組成物に含まれてもよい。
【0070】
ルテニウムの場合、ルテニウムの水和物、水酸化物、ハロゲン化物または酸化物をルテニウム前駆体化合物として用いてもよく、具体的には、六フッ化ルテニウム(RuF6)、塩化ルテニウム(III)(RuCl3)、塩化ルテニウム(III)水和物(RuCl3・xH2O)、臭化ルテニウム(III)(RuBr3)、臭化ルテニウム(III)水和物(RuBr3・xH2O)、ヨウ化ルテニウム(RuI3)および酢酸ルテニウム塩からなる群から選択される1種以上をルテニウム前駆体化合物として用いてもよい。
【0071】
イリジウムの場合、イリジウムの水和物、水酸化物、ハロゲン化物または酸化物をイリジウム前駆体化合物として用いてもよく、具体的には、塩化イリジウム(IrCl3)、塩化イリジウム水和物(IrCl3・xH2O)、ヘキサクロロイリジウム酸カリウム(K2IrCl6)、ヘキサクロロイリジウム酸カリウム水和物(K2IrCl6・xH2O)からなる群から選択される1種以上をイリジウム前駆体化合物として用いてもよい。
【0072】
白金の場合、白金の水和物、水酸化物、ハロゲン化物または酸化物を白金前駆体化合物として用いてもよく、具体的には、クロロ白金酸六水和物(H2PtCl6・6H2O)、ジアミンジニトロ白金(Pt(NH3)2(NO)2)、塩化白金(IV)(PtCl4)、塩化白金(II)(PtCl2)、テトラクロロ白金酸カリウム(K2PtCl4)、ヘキサクロロ白金酸カリウム(K2PtCl6)、白金アセチルアセトネート(C10H14O4Pt)およびヘキサクロロ白金酸アンモニウム([NH4]2PtCl6)からなる群から選択される1種以上を白金前駆体化合物として用いてもよい。
上記で羅列したルテニウム、イリジウムおよび白金の前駆体化合物を用いる場合、焼成ステップで白金族金属の酸化物の形成が容易であり得る。
【0073】
本発明の電気分解用電極の製造方法において、コーティング組成物の溶媒としては、アルコール系溶媒を用いてもよい。アルコール系溶媒を用いる場合、前述した成分の溶解が容易であり、コーティング組成物の塗布後にコーティング層が形成されるステップにおいても、各成分の結合力を維持するようにすることができる。好ましくは、前記溶媒としては、ブタノール、イソプロピルアルコールおよびブトキシエタノールからなる群から選択される1以上を用いてもよい。コーティング組成物の溶媒として上述した種類のアルコールを用いる場合、さらに均一なコーティングを行うことができる。
【0074】
本発明の電気分解用電極の製造方法において、前記コーティング層を形成する前に、金属基材を前処理するステップが先行してもよい。
前記前処理は、金属基材を化学的エッチング、ブラスティングまたは熱溶射し、前記金属基材の表面に凹凸を形成させてもよい。
【0075】
前記前処理は、金属基材の表面をサンドブラスティングして微細凹凸を形成させ、塩または酸を処理して行ってもよい。例えば、金属基材の表面をアルミナでサンドブラスティングして凹凸を形成し、硫酸水溶液に浸漬させ、洗浄および乾燥し、金属基材の表面に微細な凹凸が形成されるように前処理してもよい。
【0076】
本発明の電気分解用電極の製造方法において、コーティング組成物の塗布は、前記コーティング組成物が金属基材上に均一に塗布できれば特に制限されず、当業界で公知の方法で行ってもよい。
【0077】
前記塗布は、ドクターブレード、ダイキャスティング、コンマコーティング、スクリーン印刷、スプレー噴射、エレクトロスピニング、ロールコーティングおよびブラッシングからなる群から選択されるいずれか一つの方法で行われてもよい。
【0078】
本発明の電気分解用電極の製造方法において、コーティング組成物の塗布後に行われる焼成は、400℃~600℃で1時間以下行ってもよく、450℃~550℃で5分~30分間行うことが好ましい。
上述した条件下で焼成を行うと、触媒層中の不純物が容易に除去され、金属基材の強度には影響を及ぼさない。
【0079】
本発明の電気分解用電極の製造方法において、コーティング組成物の塗布後に焼成する前に乾燥するステップがさらに含まれてもよい。
前記乾燥は、50℃~300℃で5分~60分間行ってもよく、50℃~200℃で5分~20分間行うことが好ましい。
上述した条件を満たすと、溶媒は十分に除去可能でありながらも、エネルギー消費は最小化することができる。
【0080】
一方、本発明の電気分解用電極の製造方法において、第1コーティング層~第Nコーティング層の各コーティング層の形成は、金属基材の単位面積(m2)当たりの総ルテニウムを基準として7g以上になるように、塗布および焼成を順次繰り返し行ってもよい。すなわち、本発明の他の一実施形態に係る製造方法は、金属基材の少なくとも一方の面上に前記コーティング組成物を塗布、乾燥および焼成してコーティング層を形成した後、同一のコーティング組成物を、形成されたコーティング層の一面に再び塗布、乾燥および焼成するコーティングを繰り返し行ってもよい。一方、本発明における第1コーティング層~第Nコーティング層は、スズおよびチタンの含量を基準として区別されるため、第1コーティング層の形成後、第1コーティング組成物を、形成された第1コーティング層の一面に再び塗布した後に乾燥および焼成して形成されたコーティング層も、先ほど形成された第1コーティング層と同様に第1コーティング層に該当することは明らかである。
【0081】
以下、本発明を具体的に説明するために実施例および実験例を挙げてより詳しく説明するが、本発明がこれらの施例および実験例により制限されるものではない。本発明に係る実施例は、種々の他の形態に変形されてもよく、本発明の範囲が下記に詳述する実施例に限定されるものと解釈されてはならない。本発明の実施例は、当業界における平均的な知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0082】
材料
本実施例において、金属基材としてはBaoji社製のエキスパンドメタル状のチタン基材(Grade 1、厚さ1mm)を用い、ルテニウム前駆体化合物としてはRuCl3・3H2O、白金前駆体化合物としてはH2PtCl6・6H2O、イリジウム前駆体化合物としてはIrCl3・3H2O、スズ前駆体化合物としてはSnCl2・2H2O、チタン前駆体化合物としてはTi[OCH(CH3)2]4を用いた。また、コーティング組成物のための溶媒としてはブタノールを用いた。
【0083】
金属基材の前処理
金属基材にコーティング層を形成する前に、基材の表面を酸化アルミニウム(White alumina、F120)で0.4MPaの条件でサンドブラスティングした後、90℃に加熱された10重量%のシュウ酸水溶液に入れて2時間処理した後、蒸留水で洗浄して前処理を完了した。
【0084】
実施例1
Ru:Ir:Pt:Ti:Sn=27:20:8:45-x:x
前記比例式は、コーティング組成物中の各金属成分間のモル比を示したものであって、前記比例式中のx値を0、4、8、12、16および20にして各成分のモル比を調節した6種のコーティング組成物を製造し、金属基材層に前記6種のコーティング組成物をコーティング組成物中のスズの含量が増加する順に塗布、乾燥および焼成し、6層のコーティング層を形成した。各コーティング層を形成した後の焼成は480℃で10分間行い、6層のコーティング層が全て形成された後には、560℃で1時間最終焼成し、電気分解用電極を製造した。
【0085】
実施例2
前記実施例1において、x値を0および20にして総2種のコーティング組成物を製造し、2層のコーティング層を形成したことを除いては同様に行い、電気分解用電極を製造した。
【0086】
比較例1
ルテニウム、イリジウム、白金、チタンおよびスズの間のモル比率を27:20:8:20:25にしてコーティング組成物を製造し、前記コーティング組成物を先ほど前処理した金属基材層に塗布および乾燥して焼成し、コーティング層を形成した。前記塗布、乾燥および焼成は6回繰り返し行い、各コーティング層を形成した後の焼成は480℃で10分間行った。そして、コーティング層が全て形成された後には、560℃で1時間最終焼成し、電気分解用電極を製造した。
【0087】
実験例1.線形掃引ボルタンメトリーを用いた電気分解用電極の性能評価
前記実施例1および2、および比較例1で製造された電気分解用電極を陽極とし、Pt対電極、SCE参照電極を連結して電解セルを構成した後、線形掃引ボルタンメトリー(Linear sweep voltammetry、LSV)を用いて、1V~2Vの範囲で、25% NaCl溶液中で評価を行った。その結果を
図1に示した。
【0088】
図1を参照すると、実施例1で製造された電気分解用電極は、電流密度0.4A/cm
2で1.826Vの電位を、実施例2で製造された電気分解用電極は、1.844Vの電位を示したのに対し、比較例1で製造された電気分解用電極は、同一の電流密度条件で1.924Vの電位を示した。
【0089】
すなわち、これは、実施例の電極が比較例に比べて低い過電圧を示したことを意味し、実施例の電極が比較例の電極よりも優れた性能を示すことを意味する。
【0090】
実験例2.電極の剥離程度テスト
前記実施例1および2、および比較例1で製造された電気分解用電極の表面に透明テープを付着した後に剥がした際に付いている程度を確認することで、電極の剥離程度を確認した。実施例1の結果を
図2に、実施例2の結果を
図3に、比較例1の結果を
図4に示した。
【0091】
図2~4から確認できるように、比較例1の付いている程度が実施例1および2に比べてさらに濃かったことを確認することができ、これは、透明テープに付着して剥離されるコーティング層の量が比較例1がさらに多かったことを意味し、実施例の電極の耐久性が比較例に比べて優れることを意味する。