(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-08
(45)【発行日】2024-08-19
(54)【発明の名称】バッテリーパックのシミュレーション方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/367 20190101AFI20240809BHJP
G01R 31/382 20190101ALI20240809BHJP
G01R 31/385 20190101ALI20240809BHJP
G01R 31/389 20190101ALI20240809BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240809BHJP
【FI】
G01R31/367
G01R31/382
G01R31/385
G01R31/389
H01M10/48 P
(21)【出願番号】P 2023507472
(86)(22)【出願日】2021-06-17
(86)【国際出願番号】 KR2021007639
(87)【国際公開番号】W WO2022030751
(87)【国際公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】10-2020-0096938
(32)【優先日】2020-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】590002817
【氏名又は名称】三星エスディアイ株式会社
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG SDI Co., LTD.
【住所又は居所原語表記】150-20 Gongse-ro,Giheung-gu,Yongin-si, Gyeonggi-do, 446-902 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヨン・ジュン・ファン
(72)【発明者】
【氏名】ギ・ホン・キム
(72)【発明者】
【氏名】スン・ウク・ペク
(72)【発明者】
【氏名】ジェイク・キム
(72)【発明者】
【氏名】クリストベル・ラヤッパン
(72)【発明者】
【氏名】ビョンフイ・イム
【審査官】島田 保
(56)【参考文献】
【文献】特表2021-520178(JP,A)
【文献】特開2012-133757(JP,A)
【文献】特開2011-215151(JP,A)
【文献】特開2016-080693(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0340981(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36-31/396
H01M 10/42
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセッサとメモリを含むコンピューティング装置によって遂行されるバッテリーパックのシミュレーション方法において、
前記バッテリーパックを構成するバッテリーセルの連結関係、及び前記バッテリーセルの等価回路モデル(ECM)を選択する段階と、
前記バッテリーセルそれぞれのパラメータ初期値、並びに前記バッテリーパックのGパラメータ初期値及びHパラメータ初期値を決定する段階と、
前記バッテリーパックのパック電流値及びパック電圧値のうち1つを受信する段階と、
前記パック電流値及びパック電圧値のうち1つ、並びに前記バッテリーパックのGパラメータ初期値及びHパラメータ初期値に基づいて、前記バッテリーパックの前記パック電流値及び前記パック電圧値のうち他の1つを決定する段階と、
前記バッテリーパックの前記パック電流値及び前記パック電圧値、並びに前記バッテリーセルそれぞれのパラメータ初期値に基づいて、前記バッテリーセルそれぞれのセル電圧値、セル電流値及び状態パラメータ値を決定する段階と、
前記バッテリーセルそれぞれの前記状態パラメータ値に基づいて、前記バッテリーセルそれぞれのECMパラメータ値を決定する段階と、
前記バッテリーセルそれぞれのECMパラメータ値に基づいて、前記バッテリーセルそれぞれのGパラメータ値及びHパラメータ値を決定する段階と、
前記バッテリーセルそれぞれのGパラメータ値及びHパラメータ値に基づいて、前記バッテリーパックのGパラメータ値及びHパラメータ値を決定する段階と、を含
み、
前記Gパラメータ値は、前記バッテリーパックまたは前記バッテリーセルの電流変化に対する電圧の敏感度を示すパラメータであり、
前記Hパラメータ値は、前記バッテリーパックまたは前記バッテリーセル内の局部平衡電位散布と抵抗分布によって決定される有効電位を示すパラメータであることを特徴とするバッテリーパックのシミュレーション方法。
【請求項2】
前記バッテリーセルそれぞれのパラメータ初期値、並びに前記バッテリーパックのGパラメータ初期値及びHパラメータ初期値を決定する段階は、
前記バッテリーセルそれぞれの状態パラメータ初期値を受信する段階と、
前記バッテリーセルそれぞれの前記状態パラメータ初期値に基づいて、前記バッテリーセルそれぞれのECMパラメータ初期値を決定する段階と、
前記バッテリーセルそれぞれのECMパラメータ初期値に基づいて、前記バッテリーセルそれぞれのGパラメータ初期値及びHパラメータ初期値を決定する段階と、
前記バッテリーセルそれぞれのGパラメータ初期値及びHパラメータ初期値に基づいて、前記バッテリーパックのGパラメータ初期値及びHパラメータ初期値を決定する段階と、を含むことを特徴とする請求項1に記載のバッテリーパックのシミュレーション方法。
【請求項3】
前記バッテリーセルそれぞれの前記状態パラメータ
値は、前記バッテリーセルそれぞれのセル充電状態(SOC)を含むことを特徴とする請求項1に記載のバッテリーパックのシミュレーション方法。
【請求項4】
前記バッテリーセルそれぞれの前記状態パラメータ
値は、前記バッテリーセルそれぞれの温度をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のバッテリーパックのシミュレーション方法。
【請求項5】
前記バッテリーセルの等価回路モデル(ECM)は、直列抵抗、第1及び第2並列抵抗、並びに第1及び第2並列キャパシタを含む二次テブナン(Thevenin)モデルであることを特徴とする請求項1に記載のバッテリーパックのシミュレーション方法。
【請求項6】
前記バッテリーパックは、直列に連結されるm個のバッテリーバンクを含み、
前記m個のバッテリーバンクそれぞれは、並列に連結されるn個のバッテリーセルを含み、
ここで、m及びnは、1以上の自然数であることを特徴とする請求項1に記載のバッテリーパックのシミュレーション方法。
【請求項7】
前記m個のバッテリーバンク間の(m-1)個のバンク抵抗値、及び前記バッテリーセルそれぞれの接触抵抗値を受信する段階をさらに含むことを特徴とする請求項
6に記載のバッテリーパックのシミュレーション方法。
【請求項8】
前記バッテリーセルそれぞれのパラメータ初期値、並びに前記バッテリーパックのGパラメータ初期値及びHパラメータ初期値を決定する段階は、
前記バッテリーセルそれぞれの状態パラメータ初期値を受信する段階と、
前記バッテリーセルそれぞれの前記状態パラメータ初期値に基づいて、前記バッテリーセルそれぞれのECMパラメータ初期値を決定する段階と、
前記バッテリーセルそれぞれのECMパラメータ初期値に基づいて、前記バッテリーセルそれぞれのGパラメータ初期値及びHパラメータ初期値を決定する段階と、
前記バッテリーセルそれぞれのGパラメータ初期値、Hパラメータ初期値及び接触抵抗値に基づいて、前記バッテリーバンクそれぞれのGパラメータ初期値及びHパラメータ初期値を決定する段階と、
前記バッテリーバンクそれぞれのGパラメータ初期値及びHパラメータ初期値、並びに前記(m-1)個のバンク抵抗値に基づいて、前記バッテリーパックのGパラメータ初期値及びHパラメータ初期値を決定する段階と、を含むことを特徴とする請求項
7に記載のバッテリーパックのシミュレーション方法。
【請求項9】
前記メモリは、前記バッテリーセルの前記状態パラメータ値によるECMパラメータ値が定義されたルックアップテーブルを保存し、
前記バッテリーセルそれぞれのECMパラメータ値は、前記ルックアップテーブルと前記バッテリーセルそれぞれの前記状態パラメータ値に基づいて決定されることを特徴とする請求項
7に記載のバッテリーパックのシミュレーション方法。
【請求項10】
前記バッテリーセルそれぞれのECMパラメータ値は、開放回路電圧値、直列抵抗値、第1及び第2並列抵抗値、並びに第1及び第2並列キャパシタンス値を含み、
前記バッテリーセルそれぞれのGパラメータ値は、前記バッテリーセルそれぞれの前記直列抵抗値と決定され、
前記バッテリーセルそれぞれの
Hパラメータ値は、前記バッテリーセルそれぞれの開放回路電圧値、第1電圧値及び第2電圧値に基づいて決定され、
前記第1電圧値は、並列に連結される第1並列抵抗と第1並列キャパシタとの電圧値であり、
前記第2電圧値は、並列に連結される第2並列抵抗と第2並列キャパシタとの電圧値であることを特徴とする請求項
7に記載のバッテリーパックのシミュレーション方法。
【請求項11】
前記バッテリーセルそれぞれのGパラメータ値及びHパラメータ値に基づいて、前記バッテリーパックのGパラメータ値及びHパラメータ値を決定する段階は、
前記バッテリーセルそれぞれのGパラメータ値、Hパラメータ値及び接触抵抗値に基づいて、前記バッテリーバンクそれぞれのGパラメータ値及びHパラメータ値を決定する段階と、
前記バッテリーバンクそれぞれのGパラメータ値及びHパラメータ値、並びに前記(m-1)個のバンク抵抗値に基づいて、前記バッテリーパックのGパラメータ値及びHパラメータ値を決定する段階と、を含むことを特徴とする請求項
7に記載のバッテリーパックのシミュレーション方法。
【請求項12】
前記バッテリーバンクそれぞれのGパラメータ値及びHパラメータ値は、下記の数式によって決定され、
【数1】
ここで、iは、1以上かつm以下の自然数であり、jは、1以上かつn以下の自然数であり、
G_bank(i)は、前記m個のバッテリーバンクのうちi番目のバッテリーバンクのGパラメータ値であり、
H_bank(i)は、前記m個のバッテリーバンクのうちi番目のバッテリーバンクのHパラメータ値であり、
G_cell(i,j)は、前記i番目のバッテリーバンクに含まれる前記n個のバッテリーセルのうちj番目のバッテリーセルのGパラメータ値であり、
H_cell(i,j)は、前記i番目のバッテリーバンクに含まれる前記n個のバッテリーセルのうちj番目のバッテリーセルのHパラメータ値であり、
R_cnt(i,j)は、前記i番目のバッテリーバンクの前記j番目のバッテリーセルの接触抵抗値であることを特徴とする請求項
11に記載のバッテリーパックのシミュレーション方法。
【請求項13】
前記バッテリーパックのGパラメータ値及びHパラメータ値は、下記の数式によって決定され、
【数2】
ここで、G_packは、前記バッテリーパックのGパラメータ値であり、
H_packは、前記バッテリーパックのHパラメータ値であり、
R_b(i)は、前記i番目のバッテリーバンクと前記(i+1)番目のバッテリーバンクとの間のバンク抵抗値であることを特徴とする請求項
12に記載のバッテリーパックのシミュレーション方法。
【請求項14】
前記バッテリーパックの新たなパック電流値及び新たなパック電圧値のうち1つを受信する段階と、
前記新たなパック電流値及び新たなパック電圧値のうち1つ、並びに前記バッテリーパックの以前に決定されたGパラメータ値及び以前に決定されたHパラメータ値に基づいて、前記バッテリーパックの前記新たなパック電流値及び前記新たなパック電圧値のうち他の1つを決定する段階と、
前記バッテリーパックの前記新たなパック電流値及び前記新たなパック電圧値、並びに前記バッテリーセルそれぞれの以前に決定されたGパラメータ値及び以前に決定されたHパラメータ値に基づいて、前記バッテリーセルそれぞれの新たなセル電圧値、新たなセル電流値及び新たな状態パラメータ値を決定する段階と、
前記バッテリーセルそれぞれの前記新たな状態パラメータ値に基づいて、前記バッテリーセルそれぞれの新たなECMパラメータ値を決定する段階と、
前記バッテリーセルそれぞれの新たなECMパラメータ値に基づいて、前記バッテリーセルそれぞれの新たなGパラメータ値及び新たなHパラメータ値を決定する段階と、
前記バッテリーセルそれぞれの新たなGパラメータ値及び新たなHパラメータ値に基づいて、前記バッテリーパックの新たなGパラメータ値及び新たなHパラメータ値を決定する段階と、を含むことを特徴とする請求項1に記載のバッテリーパックのシミュレーション方法。
【請求項15】
プロセッサとメモリを含むコンピューティング装置を利用して、請求項1ないし
14のうちいずれか1項に記載のバッテリーパックのシミュレーション方法を実行させるために、媒体に保存されたコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリーパックのシミュレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バッテリーは、他のエネルギー保存装置と比べて、適用容易性が高く、相対的に高いエネルギー、電力密度などの特性により、ポータブル機器だけでなく、電気的駆動源によって駆動する電気車両(EV: Electric Vehicle)またはハイブリッド車両(HEV: Hybrid Electric Vehicle)などに広範囲に適用されている。特に、強い出力が必要である場合には、複数のバッテリーを直列及び並列に連結したバッテリーパックが使用される。
【0003】
バッテリーまたはバッテリーパックで駆動される電気装置をエネルギー効率的かつ安全に利用するのには、バッテリー管理が重要である。このために、バッテリーシステムには、BMS(Battery Management System)という装置を介してバッテリーの状態を推定し、推定された状態を介してバッテリーまたはバッテリーパックを管理している。
【0004】
BMSの主な機能は、バッテリーまたはバッテリーパックの電圧、電流、温度などの測定可能な物理量を測定し、測定された値を利用して事前にプログラムされた内部状態との相関関係を利用して、バッテリーまたはバッテリーパックの内部状態を推定する。このとき、主に推定する状態変数としては、バッテリー充電状態(State of Charge: SoC)、バッテリー健康状態(State of Health: SoH)、バッテリーの出力能力状態(State of Power capability: SoP)などがある。
【0005】
BMSの他の機能は、推定された状態を利用してバッテリーまたはバッテリーパックを管理する役割を行う。そのような機能の代表的なものには、温度管理機能、セルバランシング機能、異常セル検出機能などがある。温度管理機能は、バッテリーパックの温度を低くするために、冷却ファンを稼働するか、あるいはバッテリーパックの出力を低くするように誘導する機能である。セルバランシング機能は、複数のバッテリーが直列/並列に連結されたバッテリーパックにおいて、バッテリーパックが最上の性能を出すことができるように複数のバッテリー間の充電状態を同一に合わせるための機能である。異常セル検出機能は、複数のバッテリーが直列/並列に連結されたバッテリーパックにおいて、異常が生じたバッテリーセルを事前に感知する機能である。BMSは、バッテリーパックの内部状態がさらに悪くなる前に、異常が生じたバッテリーセルを遮断したり、バッテリーセルに異常が生じたことを外部に報知したりするなどの動作を遂行することにより、バッテリーパックの状態を安定して管理することができる。
【0006】
BMSがバッテリーまたはバッテリーパックの内部状態を推定して最上の状態を維持するための様々な管理機能を行うために、BMSは、状態推定アルゴリズム及び制御アルゴリズムを含む。BMSは、そのような状態推定機能及び管理機能を行うためのソフトウェアプログラム、測定可能な物理量を測定するためのセンサ、実際動作遂行のための作動装置(actuator)、及び作動装置を制御するための制御用ハードウェアなどを含んでもよい。
【0007】
BMSが状態推定機能及び管理機能を正常に行うか否かを確認するためには、BMSを実際バッテリーまたはバッテリーパックに直接連結してBMSを検証する方法がある。当該方法は、単一セルから構成されたバッテリーの場合には比較的実験しやすいが、複数のバッテリーセルが直列/並列に連結されたバッテリーパックに連結されたBMSを検証するためには、多くの時間とコストがかかる。また、正確な状態測定のために、実際バッテリーパックに含まれない複数のセンサを追加してBMSを検証する場合、実際バッテリーパックでは測定できない状態値に基づいたものであるので、実際バッテリーパックでも正常に機能を行うことを保証することができないという短所がある。
【0008】
また、異常セル検出機能を試験するためには、実際に異常が生じたバッテリーセルを含むバッテリーまたはバッテリーパックを作って測定しつつBMSの機能作動如何を試験しなければならない。しかし、特定の異常が生じたバッテリーセルを人為的に作ることが非常に困難である。人為的に異常が生じたセルを製作して実験するとしても、発火/爆発などの危険要素があるために、BMSの機能を十分に検証しがたい。
【0009】
そのような問題を解決するために、HILS(Hardware In-the-Loop Simulation)技法及びMBD(Model Based Design)技法が開発され、実際実験が困難な航空/宇宙分野から始まり、測定及び検証に多くのコストが必要な自動車分野に拡大し、最近にはそのような方法を使用した制御器の機能検証方法が多様な分野に拡大している。
【0010】
HILS/MBD技法を適用する場合、多くのコストがかかるか、危険性が高く、直接実験しがたい制御器を、リアルタイムシミュレーションが可能なシステムモデルを利用して実際システムで仮想に具現した後、様々なセンサの出力信号を模写して制御器の各種機能及びアルゴリズムを効果的に検証することができる。
【0011】
しかし、そのようなHILS/MBD基盤の検証方法は、リアルタイムで多くの計算を処理するために、計算量に比例してCPU(central processing unit)の計算速度が速くならなければならない。また、使用されたモデルの精度及び複雑度などにより、制御器の各種機能及びアルゴリズムの動作検証に制限を受ける。すなわち、精度を高めるためにシステムモデルが次第に複雑になる場合、計算量増加により、システムのリアルタイム応答を模写しがたい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、既存モデルの短所を克服するためのものであって、既存と同一レベルの精度を維持しつつ演算量を減少させ、低仕様機器でもリアルタイム応答処理が可能なバッテリーパックモデル、及び当該バッテリーパックモデルを利用したバッテリーパックシミュレーション方法を提供することである。
【0013】
本発明の目的は、バッテリーセルが直列/並列に連結されるバッテリーパックの内部状態を同時にリアルタイムで計算することができる高速演算モデルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一側面によって、プロセッサとメモリを含むコンピューティング装置によって遂行されるバッテリーパックのシミュレーション方法は、前記バッテリーパックを構成するバッテリーセルの連結関係、及び前記バッテリーセルの等価回路モデル(ECM)を選択する段階と、前記バッテリーセルそれぞれのパラメータ初期値、並びに前記バッテリーパックのGパラメータ初期値及びHパラメータ初期値を決定する段階と、前記バッテリーパックのパック電流値及びパック電圧値のうち1つを受信する段階と、前記パック電流値、並びに前記バッテリーパックのGパラメータ初期値及びHパラメータ初期値に基づいて、前記バッテリーパックの前記パック電流値及び前記パック電圧値のうち他の1つを決定する段階と、前記バッテリーパックの前記パック電流値及び前記パック電圧値、並びに前記バッテリーセルそれぞれのパラメータ初期値に基づいて、前記バッテリーセルそれぞれのセル電圧値、セル電流値及び状態パラメータ値を決定する段階と、前記バッテリーセルそれぞれの前記状態パラメータ値に基づいて、前記バッテリーセルそれぞれのECMパラメータ値を決定する段階と、前記バッテリーセルそれぞれのECMパラメータ値に基づいて、前記バッテリーセルそれぞれのGパラメータ値及びHパラメータ値を決定する段階と、前記バッテリーセルそれぞれのGパラメータ値及びHパラメータ値に基づいて、前記バッテリーパックのGパラメータ値及びHパラメータ値を決定する段階と、を含む。
【0015】
本発明の他の側面によって、プロセッサとメモリを含むコンピューティング装置を利用してバッテリーパックのシミュレーション方法を実行させるために、媒体に保存されたコンピュータプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の多様な実施形態によるバッテリーパックのシミュレーション方法は、コスト、拡張性及び適応性の側面から従来の方法に比べて大きく改善されたものである。
【0017】
従来のBMSアルゴリズム開発に主に使用されるMatlab/Simulink基盤のバッテリーまたはバッテリーパックモデルの場合、バッテリーセルの直列/並列連結関係が変更されれば、モデルを変更された連結関係によって再び構成しなければならず、バッテリーセル数が増加するにつれて、演算量が幾何級数的に増加する問題点がある。
【0018】
しかし、本発明において提案するバッテリーパックモデルでは、バッテリーセルの直列/並列連結関係が変更されても、それを簡単に命令語1行に変更すればよいので、拡張性に優れ、バッテリーセル数が増加しても、演算量がセル数に比例するだけであるので、処理速度が幾何級数的に低下しない。
【0019】
さらに、本発明において提案するバッテリーパックモデルは、コードが大きく複雑ではないので、8-bitコアを有するハードウェアにも搭載可能であり、電圧/電流信号を出力することができるI/O機能を具備したハードウェアは、仮想のバッテリーパックと共に作動することができる。既存に多く使用していたMatlab/Simulink基盤のコードは、サイズも大きく、演算速度も遅いために、8-bitコアのような低仕様のハードウェアには適用が不可能であった。本発明において提案するバッテリーパックモデルは、エンベデッドボードに搭載されて「仮想バッテリー」を具現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】一実施形態によるバッテリーパックのシミュレーション方法を遂行するためのコンピューティング装置の概略的な構成図である。
【
図2】一実施形態によるバッテリーパックのシミュレーション方法を遂行するバッテリーパックモデルを示す図面である。
【
図3】一実施形態によるバッテリーパックのシミュレーション方法を説明するためのフローチャートである。
【
図4】並列と直列との組み合わせに連結されたバッテリーセルcell(1,1)~cell(m,n)を含むバッテリーパックpackを示す図面である。
【
図5】
図4のバッテリーパックの等価回路図である。
【
図6】本発明により、バッテリーセルの等価回路モデル(ECM)として選択される二次テブナンモデルを示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の利点及び特徴、並びにそれらを達成する方法は、添付される図面と共に詳細に説明する実施形態を参照すれば明確になるであろう。しかし、本発明は、後述する実施形態に限定されるものではなく、様々な形態に具現可能であり、本発明の思想及び技術範囲に含まれる全ての変換、均等物ないし代替物を含むものと理解されなければならない。後述する実施形態は、本発明の開示を完全にし、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者に発明の範疇を完全に知らせるために提供されるものである。本発明を説明するにあたって関連した公知技術についての具体的な説明が、本発明の要旨を不明確にすると判断される場合、その詳細な説明を省略する。
【0022】
本出願において使用した用語は、単に特定の実施形態を説明するために使用されたものであり、本発明を限定しようとする意図ではない。単数の表現は、文脈上明白に取り立てて意味しない限り、複数の表現を含む。本出願において、「含む」または「有する」などの用語は、明細書上に記載された特徴、数、段階、動作、構成要素、部品、またはそれらの組み合わせが存在することを指定するものであり、1つまたはそれ以上の他の特徴、数、段階、動作、構成要素、部品、またはそれらを組み合わせたものの存在または付加の可能性を予め排除しないものと理解されなければならない。第1、第2などの用語は、様々な構成要素を説明するのに使用されるが、構成要素は、前記用語により限定されてはならない。前記用語は、1つの構成要素を他の構成要素から区別する目的のみで使用される。
【0023】
以下、本発明による実施形態を、添付された図面を参照して詳細に説明する。添付図面を参照して説明するとき、同一のまたは対応する構成要素は、同じ図面符号を付与し、それについての重複説明は省略する。
【0024】
図1は、一実施形態によるバッテリーパックのシミュレーション方法を遂行するためのコンピューティング装置の概略的な構成図である。
【0025】
図1を参照すれば、コンピューティング装置100は、プロセッサ110、メモリ120及び入出力装置130を含む。
【0026】
プロセッサ110は、基本的な算術、ロジック及び入出力演算を行い、例えば、メモリ120に保存されたプログラムコードを実行するか、あるいはメモリ120に保存されたデータを読み出して演算に利用することができる。プロセッサ110は、一実施形態によるバッテリーパックのシミュレーション方法を遂行することができる。
【0027】
プロセッサ110は、前記バッテリーパックを構成するバッテリーセルの連結関係、及び前記バッテリーセルの等価回路モデル(ECM)を選択し、前記バッテリーセルそれぞれのパラメータ初期値、並びに前記バッテリーパックのGパラメータ初期値及びHパラメータ初期値を決定し、前記バッテリーパックのパック電流値及びパック電圧値のうち1つを受信し、前記パック電流値、並びに前記バッテリーパックのGパラメータ初期値及びHパラメータ初期値に基づいて、前記バッテリーパックの前記パック電流値及び前記パック電圧値のうち他の1つを決定し、前記バッテリーパックの前記パック電流値及び前記パック電圧値、並びに前記バッテリーセルそれぞれの状態パラメータ初期値に基づいて、前記バッテリーセルそれぞれのセル電圧値、セル電流値及び状態パラメータ値を決定し、前記バッテリーセルそれぞれの前記状態パラメータ値に基づいて、前記バッテリーセルそれぞれのECMパラメータ値を決定し、前記バッテリーセルそれぞれのECMパラメータ値に基づいて、前記バッテリーセルそれぞれのGパラメータ値及びHパラメータ値を決定し、前記バッテリーセルそれぞれのGパラメータ値及びHパラメータ値に基づいて、前記バッテリーパックのGパラメータ値及びHパラメータ値を決定するように構成される。
【0028】
プロセッサ110は、前記バッテリーパックの新たなパック電流値及び新たなパック電圧値のうち1つを受信し、前記新たなパック電流値、並びに前記バッテリーパックの以前に決定されたGパラメータ値及び以前に決定されたHパラメータ初期値に基づいて、前記バッテリーパックの前記新たなパック電流値及び前記新たなパック電圧値のうち他の1つを決定し、前記バッテリーパックの前記新たなパック電流値及び前記新たなパック電圧値、並びに前記バッテリーセルそれぞれの以前に決定された状態パラメータ値に基づいて、前記バッテリーセルそれぞれの新たなセル電圧値、新たなセル電流値及び新たな状態パラメータ値を決定し、前記バッテリーセルそれぞれの以前に決定された状態パラメータ値に基づいて、前記バッテリーセルそれぞれの新たなECMパラメータ値を決定し、前記バッテリーセルそれぞれの新たなECMパラメータ値に基づいて、前記バッテリーセルそれぞれの新たなGパラメータ値及び新たなHパラメータ値を決定し、前記バッテリーセルそれぞれの新たなGパラメータ値及び新たなHパラメータ値に基づいて、前記バッテリーパックの新たなGパラメータ値及び新たなHパラメータ値を決定するように構成される。
【0029】
プロセッサ110は、新たなパック電流値及び新たなパック電圧値のうち1つを受信し、受信された値に対応して、バッテリーセルそれぞれの新たなセル電圧値、新たなセル電流値及び新たな状態パラメータ値を決定し、バッテリーセルそれぞれの新たなGパラメータ値及び新たなHパラメータ値を決定する過程を反復することにより、バッテリーパックのシミュレーションを達成することができる。
【0030】
バッテリーパックのシミュレーション方法について、
図3を参照してさらに詳細に説明する。
【0031】
メモリ120は、コンピューティング装置100のプロセッサ110が読み取り可能な記録媒体であり、RAM(random access memory)、ROM(read only memory)及びディスクドライブのような永久性大容量記録装置(permanent mass storage device)を含んでもよい。メモリ120には、オペレーティングシステムと少なくとも1つのプログラムまたはアプリケーションコードが保存される。メモリ120には、一実施形態によるバッテリーパックのシミュレーション方法を実行するためのプログラムコードが保存される。また、メモリ120には、バッテリーセルの少なくとも1つの状態パラメータ値に対応して、バッテリーセルの等価回路モデル(ECM)で使用されるECMパラメータ値が定義されるルックアップテーブルが保存される。
【0032】
入出力装置130は、ユーザからの入力を受信してプロセッサ110に伝達し、プロセッサ110から受信された情報をユーザに出力することができる。コンピューティング装置100は、通信モジュールを含み、該通信モジュールは、ユーザからの入力を受信してプロセッサ110に伝達し、プロセッサ110から受信された情報をユーザに送信することができる。
【0033】
図2は、一実施形態によるバッテリーパックのシミュレーション方法を遂行するバッテリーパックモデルを示す図面である。
【0034】
図2を参照すれば、バッテリーパックモデル115は、プロセッサ110によって実行される。メモリ120に保存されたバッテリーパックのシミュレーション方法を実行するためのプログラムコードがプロセッサ110によって実行されれば、プロセッサ110は、バッテリーパックモデル115として動作することができる。
【0035】
バッテリーパックモデル115には、初期値データと入力データとが入力されれば、入力データに対応して出力データを出力する。一例によれば、入力データは、バッテリーパックのパック電流値でもあり、出力データは、バッテリーパックの電圧値、バッテリーパックに含まれるバッテリーセルの電圧値及び電流値でもある。他の例によれば、入力データは、バッテリーパックのパック電圧値でもあり、出力データは、バッテリーパックの電流値、バッテリーパックに含まれるバッテリーセルの電圧値及び電流値でもある。
【0036】
図3は、一実施形態によるバッテリーパックのシミュレーション方法を説明するためのフローチャートである。
【0037】
図3を参照すれば、バッテリーパックを構成するバッテリーセルの連結関係、及びバッテリーセルの等価回路モデル(ECM)が選択される(S10)。
【0038】
バッテリーパックは、並列に連結されたバッテリーセルから構成されてもよく、直列に連結されたバッテリーセルから構成されてもよく、並列及び直列に連結されたバッテリーセルから構成されてもよい。バッテリーパックは、
図4に示されたように連結されるバッテリーセルを含んでもよい。
【0039】
バッテリーパックは、電力を保存する部分であって、少なくとも1つのバッテリーセルを含む。バッテリーセルは、充電可能な二次電池を含んでもよい。例えば、バッテリーセルは、ニッケル・カドミウム電池(nickel-cadmium battery)、鉛蓄電池、ニッケル・水素電池(NiMH: nickel metal hydride battery)、リチウムイオン電池(lithium ion battery)、リチウムポリマー電池(lithium polymer battery)などを含んでもよい。バッテリーパックに含まれるバッテリーセルの個数は、要求される出力電圧及び充電容量によっても決定される。
【0040】
図4は、並列と直列との組み合わせに連結されたバッテリーセルcell(1,1)~cell(m,n)を含むバッテリーパックpackを示す図面である。
【0041】
図4を参照すれば、バッテリーパックpackは、m個のバッテリーバンクbank(1)~bank(m)を含む。bank(i)は、m個のバッテリーバンクbank(1)~bank(m)のうちi番目のバッテリーバンクを意味し、iは、1以上かつm以下の自然数である。
【0042】
m個のバッテリーバンクbank(1)~bank(m)それぞれは、n個のバッテリーセルcell(1,1)~cell(1,n),…,cell(m,1)~cell(m,n)を含む。cell(i,j)は、i番目のバッテリーバンクbank(i)内のn個のバッテリーセルcell(i,1)~cell(i,n)のうちj番目のバッテリーセルを意味し、jは、1以上かつn以下の自然数である。バッテリーパックpackは、総(m×n)個のバッテリーセルcell(1,1)~cell(1,n),…,cell(m,1)~cell(m,n)を含む。
【0043】
本明細書において、バッテリーパックが
図4に示されたように連結されるバッテリーセルを含む実施形態について説明する。しかし、
図4に示されたバッテリーパックは、単に例示的であり、本発明のシミュレーション方法は、並列に連結されるバッテリーセルからなるバッテリーパック、または直列に連結されるバッテリーセルからなるバッテリーパックにも同一に適用される。
【0044】
以下、バッテリーセルcell(1,1)~cell(m,n)を集合的にバッテリーセルCELLと称し、バッテリーバンクbank(1)~bank(m)を集合的にバッテリーバンクBANKと称する。
【0045】
図5は、
図4のバッテリーパックの等価回路図である。
【0046】
図5を参照すれば、バッテリーパックpackの等価回路は、m個のバッテリーバンクbank(1)~bank(m)間に直列に連結される(m-1)個のバンク抵抗R_b(1)~R_b(m-1)を含む。(m-1)個のバンク抵抗R_b(1)~R_b(m-1)は、m個のバッテリーバンクbank(1)~bank(m)間の接触抵抗でもある。
【0047】
バッテリーパックpackの等価回路は、(m×n)個のバッテリーセルcell(1,1)~cell(1,n),…,cell(m,1)~cell(m,n)それぞれの接触抵抗R_cnt(1,1)~R_cnt(1,n),…,R_cnt(m,1)~R_cnt(m,n)を含む。
【0048】
バッテリーセルcell(1,1)~cell(1,n),…,cell(m,1)~cell(m,n)それぞれは、内部状態パラメータとして、GパラメータG_cell(1,1)~G_cell(1,n),…,G_cell(m,1)~G_cell(m,n)及びHパラメータH_cell(1,1)~H_cell(1,n),…,H_cell(m,1)~H_cell(m,n)を有する。
【0049】
バッテリーバンクbank(1)~bank(m)それぞれは、内部状態パラメータとして、GパラメータG_bank(1)~G_bank(m)及びHパラメータH_bank(1)~H_bank(m)を有する。バッテリーバンクbank(1)~bank(m)それぞれのGパラメータG_bank(1)~G_bank(m)及びHパラメータH_bank(1)~H_bank(m)は、バッテリーセルcell(1,1)~cell(1,n),…,cell(m,1)~cell(m,n)のGパラメータG_cell(1,1)~G_cell(1,n),…,G_cell(m,1)~G_cell(m,n)、HパラメータH_cell(1,1)~H_cell(1,n),…,H_cell(m,1)~H_cell(m,n)及び接触抵抗R_cnt(1,1)~R_cnt(1,n),…,R_cnt(m,1)~R_cnt(m,n)に基づいて算出される。
【0050】
バッテリーパックpackは、内部状態パラメータとして、GパラメータG_packとHパラメータH_packとを有する。バッテリーパックpackのGパラメータG_packとHパラメータH_packは、バッテリーバンクbank(1)~bank(m)それぞれのGパラメータG_bank(1)~G_bank(m)及びHパラメータH_bank(1)~H_bank(m)、並びに(m-1)個のバンク抵抗R_b(1)~R_b(m-1)に基づいて算出される。
【0051】
GパラメータGは、バッテリーの電流変化に対する電圧の敏感度を示す状態量であり、抵抗の単位を有する。HパラメータHは、バッテリー内の局部平衡電位散布と抵抗分布によって決定される有効電位であり、電圧の単位を有する。バッテリーは、バッテリーセルCELLと称してもよく、バッテリーバンクBANKと称してもよく、バッテリーパックpackと称してもよい。
【0052】
バッテリーのGパラメータGとHパラメータHは、理論モデルを利用してバッテリー素材物性と設計変数との明示的な相関式によって定量化することができる。以下、バッテリーのGパラメータGとHパラメータHについて説明する。
【0053】
バッテリーにおいて、電圧Vと電流iがV=f(i;x,p)のような関係を有すると仮定することができる。ここで、xは、バッテリーの内部状態を示す物理量であり、pは、パラメータである。
【0054】
関数fは、非線形陰関数(nonlinear implicit function)であり、若し、関数fを速く変化する量gと遅く変化する量hとに分離するならば、前記の関係式は、V=g(i;x,p)+h(i;x,p)のように表現することができる。
【0055】
若し、電流iに対して遅く変わるG(i;x,p)=dg/diという関数が存在すると仮定すれば、前記の関係式は、V=G(i;x,p)i+H(i;x,p)のように表現することができる。
【0056】
前記の関係式において、dG/diとdH/diは、非常に小さい値を有する。すなわち、前述の仮定が満足されれば、GとHが電流iに対して遅く変わる関数であるので、電圧Vと電流iの非線形関係を示す関数fは、前記の関係式のように準線形関係でも表現される。
【0057】
ここで、Gは、Gパラメータと称され、Hは、Hパラメータと称される。電流iが充放電電流であり、Ueqがバッテリーの平衡電位とすれば、放電過電圧は、GパラメータGとHパラメータHとを利用してUeq-V=-G・i+(Ueq-H)のように表現される。
【0058】
ここで、-G・iは、バッテリーが端子を介して電流を流すために発生する過電圧であり、反応動力学的分極量、電子及びイオン抵抗分極量を含む。(Ueq-H)は、バッテリーの局部的な熱力学的平衡状態が全体システムの平衡状態から外れていることによって発生する過電圧である。すなわち、(Ueq-H)は、バッテリー内部の熱力学的不均一によって発生する非効率を示し、バッテリーの内部システムが熱力学的な平衡状態に達すれば、HパラメータHは、平衡電位Ueqと同一になる。
【0059】
本発明の実施形態によるバッテリーパックpackのシミュレーション方法は、バッテリーセルCELL、バッテリーバンクBANK及びバッテリーパックpackそれぞれのGパラメータGとHパラメータHとを算出し、それらを利用することにより、バッテリーパックpackの状態をさらに簡単にシミュレーションするものである。
【0060】
再び
図3を参照すれば、バッテリーセルの等価回路モデル(ECM)が選択される。例えば、等価回路モデル(ECM: Equivalent Circuit Model)として、内部抵抗バッテリーモデル、一次テブナン(Thevenin)モデル、二次テブナンモデル、n次テブナンモデル(nは、3以上の自然数)などが選択される。
【0061】
内部抵抗バッテリーモデルによれば、バッテリーセルCELLは、開放回路電圧値を有する電圧源及び直列抵抗でモデリングされる。一次テブナンモデルによれば、バッテリーセルCELLは、開放回路電圧値を有する電圧源、直列抵抗、並びに互いに並列に連結される第1並列抵抗及び第1並列キャパシタでモデリングされる。
【0062】
二次テブナンモデルによれば、バッテリーセルCELLは、開放回路電圧値を有する電圧源、直列抵抗、互いに並列に連結される第1並列抵抗及び第1並列キャパシタ、並びに互いに並列に連結される第2並列抵抗及び第2並列キャパシタでモデリングされる。
【0063】
図6は、本発明により、バッテリーセルの等価回路モデル(ECM)として選択される二次テブナンモデルを示す図面である。
【0064】
図6を参照すれば、バッテリーセルcell(i,j)は、開放回路電圧値OCV(i,j)を有する電圧源、直列抵抗Rs(i,j)、互いに並列に連結される第1並列抵抗Rp1(i,j)及び第1並列キャパシタCp1(i,j)、並びに互いに並列に連結される第2並列抵抗Rp2(i,j)及び第2並列キャパシタCp2(i,j)でモデリングされる。
【0065】
バッテリーセルcell(i,j)のセル電圧は、V_cell(i,j)であり、セル電流は、I_cell(i,j)である。第1並列抵抗Rp1(i,j)及び第1並列キャパシタCp1(i,j)における電圧は、第1電圧V1(i,j)で表示され、第2並列抵抗Rp2(i,j)及び第2並列キャパシタCp2(i,j)における電圧は、第2電圧V2(i,j)で表示される。V_cell(i,j)は、OCV(i,j)+V1(i,j)+V2(i,j)と同一である。セル電流I_cell(i,j)は、充電時に正(+)の値を有し、放電時に負(-)の値を有するものと定義される。
【0066】
本明細書では、バッテリーセルCELLの等価回路モデル(ECM)として二次テブナンモデルが選択された実施形態について説明する。しかし、本発明によるバッテリーパックのシミュレーション方法は、二次テブナンモデル以外に他の等価回路モデル(ECM)が選択される場合にも適用される。
【0067】
再び
図3を参照すれば、バッテリーセルCELLそれぞれのパラメータ初期値、並びにバッテリーパックpackのGパラメータ初期値G_pack[0]及びHパラメータ初期値G_pack[0]が決定される。
【0068】
一実施形態によれば、バッテリーセルCELLそれぞれのパラメータ初期値は、バッテリーセルCELLそれぞれの状態パラメータ初期値、及びバッテリーセルCELLそれぞれのECMパラメータ初期値を含んでもよい。
【0069】
一実施形態によれば、バッテリーセルCELLそれぞれの状態パラメータ初期値は、バッテリーセルCELLそれぞれのセル充電状態(SOC: State of Charge)の初期値を含む。また、バッテリーセルCELLそれぞれの状態パラメータ初期値は、バッテリーセルCELLそれぞれのセル温度初期値をさらに含んでもよい。
【0070】
本明細書では、バッテリーセルCELLそれぞれの状態パラメータがバッテリーセルCELLそれぞれのセルSOC及びセル温度を含む実施形態について説明する。しかし、本発明は、それに限定されず、状態パラメータは、セルSOCのみを含んでもよく、セルSOC、セル温度以外に他のパラメータをさらに含んでもよい。
【0071】
一実施形態によれば、バッテリーセルCELLそれぞれの状態パラメータ初期値が受信される。例えば、バッテリーセルCELLそれぞれのセルSOC初期値SOC_cell[0]及びセル温度初期値T_cell[0]が受信される(S20)。例えば、全てのバッテリーセルCELLに対し、バッテリーセルcell(i,j)のセルSOC初期値SOC_cell(i,j)[0]及びセル温度初期値T_cell(i,j)[0]が受信される。
【0072】
本明細書では、初期値を「[0]」で示す。入力データは、既設定の時間間隔を有する入力値の集合である。出力データも、既設定の時間間隔を有する出力値の集合である。最初のタイミングに入力または出力される値は、「[1]」で表示され、二番目のタイミングに入力または出力される値は、「[2]」で表示される。既設定の時間間隔は、例えば、パック電圧またはパック電流を測定するサンプリング周期とも同一である。既設定の時間間隔は、「Δt」で示す。最初のタイミングをt0とすれば、二番目のタイミングは、t0+Δtでもある。
【0073】
一実施形態によれば、本発明のシミュレーション方法に使用される他のパラメータ値が受信されることも可能である。例えば、バッテリーバンクBANKそれぞれのバンク抵抗値R_b(i)と、バッテリーセルCELLそれぞれの接触抵抗値R_cnt(i,j)とが受信される。また、バッテリーセルCELLそれぞれの総容量Qtotal_cell(i,j)が受信される。その他にも、バッテリーセルCELLのセル質量(DM: Design Mass)、セル比熱Cpk及び表面積(DA: Design Area)に係わる情報が受信される。また、外部空気との対流熱伝達係数h及び外部空気温度T_ambに係わる情報が受信される。また、入力データの入力値の時間間隔Δtに係わる情報が受信されるか、あるいは予め設定される。
【0074】
バッテリーセルCELLそれぞれの状態パラメータ初期値に基づいて、バッテリーセルCELLそれぞれのECMパラメータ初期値が決定される。一実施形態によれば、バッテリーセルCELLそれぞれのセルSOC初期値SOC_cell[0]及びセル温度初期値T_cell[0]に基づいて、バッテリーセルCELLそれぞれのECMパラメータ初期値が推定される(S30)。
【0075】
本明細書では、ECMとして二次テブナンモデルを使用しているので、ECMパラメータは、開放回路電圧値OCV、直列抵抗値Rs、第1並列抵抗値Rp1、第1並列キャパシタンス値Cp1、第2並列抵抗値Rp2及び第2並列キャパシタンス値Cp2を含んでもよい。
【0076】
バッテリーセルCELLそれぞれのECMパラメータ初期値を推定するために、メモリ120には、バッテリーセルCELLの状態パラメータ値によるECMパラメータ値が定義されたルックアップテーブルが保存される。一実施形態によれば、ルックアップテーブルには、バッテリーセルCELLのセルSOC値SOC_cell及びセル温度値T_cellによる、ECMパラメータ値、すなわち、開放回路電圧値OCV、直列抵抗値Rs、第1並列抵抗値Rp1、第1並列キャパシタンス値Cp1、第2並列抵抗値Rp2及び第2並列キャパシタンス値Cp2が保存される。
【0077】
一実施形態によれば、メモリ120に保存されたルックアップテーブルを参照して、バッテリーセルCELLそれぞれのセルSOC初期値SOC_cell[0]及びセル温度初期値T_cell[0]による、バッテリーセルCELLそれぞれの開放回路電圧初期値OCV[0]、直列抵抗初期値Rs[0]、第1並列抵抗初期値Rp1[0]、第1並列キャパシタンス初期値Cp1[0]、第2並列抵抗初期値Rp2[0]及び第2並列キャパシタンス初期値Cp2[0]が推定される。したがって、全てのバッテリーセルCELLに対し、バッテリーセルcell(i,j)の開放回路電圧初期値OCV(i,j)[0]、直列抵抗初期値Rs(i,j)[0]、第1並列抵抗初期値Rp1(i,j)[0]、第1並列キャパシタンス初期値Cp1(i,j)[0]、第2並列抵抗初期値Rp2(i,j)[0]及び第2並列キャパシタンス初期値Cp2(i,j)[0]が決定される。
【0078】
バッテリーセルCELLそれぞれのECMパラメータ初期値に基づいて、バッテリーセルCELLそれぞれのGパラメータ初期値G_cell[0]及びHパラメータ初期値H_cell[0]が決定される(S40)。
【0079】
全てのバッテリーセルCELLに対し、バッテリーセルcell(i,j)のGパラメータ初期値G_cell(i,j)[0]は、バッテリーセルcell(i,j)の直列抵抗初期値Rs[0]と決定され、バッテリーセルcell(i,j)のHパラメータ初期値H_cell(i,j)[0]は、バッテリーセルcell(i,j)の開放回路電圧初期値OCV(i,j)[0]と決定される。
【0080】
バッテリーセルCELLそれぞれのGパラメータ初期値G_cell[0]及びHパラメータ初期値H_cell[0]に基づいて、バッテリーパックpackのGパラメータ初期値G_pack[0]及びHパラメータ初期値H_pack[0]が決定される(S50)。
【0081】
一実施形態によれば、バッテリーセルCELLそれぞれのGパラメータ初期値G_cell[0]、Hパラメータ初期値H_cell[0]及び接触抵抗値R_cntに基づいて、バッテリーバンクBANKそれぞれのGパラメータ初期値G_bank[0]及びHパラメータ初期値H_bank[0]が決定される。
【0082】
例えば、バッテリーバンクBANKそれぞれのGパラメータ初期値G_bank[0]は、下記の数式により、バッテリーセルCELLそれぞれのGパラメータ初期値G_cell[0]及び接触抵抗値R_cntに基づいて算出される。
【0083】
【0084】
例えば、バッテリーバンクBANKそれぞれのHパラメータ初期値H_bank[0]は、下記の数式により、バッテリーセルCELLそれぞれのGパラメータ初期値G_cell[0]、Hパラメータ初期値H_cell[0]及び接触抵抗値R_cntに基づいて算出される。
【0085】
【0086】
前記数式は、i番目のバッテリーバンクbank(i)に流れるバンク電流I_bank(i)は、i番目のバッテリーバンクbank(i)に含まれるn個のバッテリーセルcell(i,1)~cell(i,n)それぞれに流れるセル電流I_cell(i,1)~I_cell(i,n)の和と同一であるという関係、及びi番目のバッテリーバンクbank(i)のバンク電圧V_bank(i)は、n個のバッテリーセルcell(i,1)~cell(i,n)それぞれのセル電圧V_cell(i,1)~V_cell(i,n)に接触抵抗R_cnt(i,j)とセル電流I_cell(i,1)~I_cell(i,n)との積を加算した値と同一であるという関係を利用して、V_bank(i)=H_bank(i)+G_bank(i)*I_bank(i)の形態に整理することによっても導出される。
【0087】
一実施形態によれば、バッテリーバンクBANKそれぞれのGパラメータ初期値G_bank[0]及びHパラメータ初期値H_bank[0]、並びに(m-1)個のバンク抵抗値R_bに基づいて、バッテリーパックpackのGパラメータ初期値G_pack[0]及びHパラメータ初期値H_pack[0]が決定される。
【0088】
例えば、バッテリーパックpackのGパラメータ初期値G_pack[0]は、下記の数式により、バッテリーバンクBANKそれぞれのGパラメータ初期値G_bank[0]と(m-1)個のバンク抵抗値R_bに基づいて算出される。
【0089】
【0090】
例えば、バッテリーパックpackのHパラメータ初期値H_pack[0]は、下記の数式により、バッテリーバンクBANKそれぞれのHパラメータ初期値H_bank[0]に基づいて算出される。
【0091】
【0092】
前記数式は、バッテリーパックpackに流れるパック電流I_packは、直列に連結されるバッテリーバンクbank(i)に流れるバンク電流I_bank(i)と同一であるという関係、及びバッテリーパックpackのパック電圧V_packは、バッテリーバンクBANKのバンク電圧V_bankの和にバンク抵抗R_bとパック電流I_packとの積を加算した値と同一であるという関係を利用して、V_pack=H_pack+G_pack*I_packの形態に整理することによっても導出される。
【0093】
前記の段階S10~S50を介して、バッテリーパックモデル115の初期設定が完了する。次いで、入力データに対応して、バッテリーパックモデル115のシミュレーション動作について説明する。
【0094】
まず、既設定の時間間隔を有する入力値の順序を示すために、時間変数tに1が入力される(S60)。t=1に対応する値は、「[1]」で表示される。
【0095】
入力データとして、バッテリーパックpackのパック電流値I_pack[1]及びパック電圧値V_pack[1]のうち1つが受信される。
【0096】
バッテリーパックpackのパック電流値I_pack[1]及びパック電圧値V_pack[1]のうち1つ、並びにバッテリーパックpackのGパラメータ初期値G_pack[0]及びHパラメータ初期値H_pack[0]に基づいて、バッテリーパックpackのパック電流値I_pack[1]及びパック電圧値V_pack[1]のうち他の1つが決定される。例えば、V_pack[1]=H_pack[0]+G_pack[0]*I_pack[1]の関係式を利用して、パック電流値I_pack[1]が受信された場合、パック電圧値V_pack[1]が算出され、パック電圧値V_pack[1]が受信された場合、パック電流値I_pack[1]が算出される。
【0097】
本明細書では、バッテリーパックpackのパック電流値I_pack[1]が受信される実施形態について説明する。しかし、本発明は、それに限定されず、バッテリーパックpackのパック電圧値V_pack[1]が受信される場合にも同一に適用される。
【0098】
一実施形態によれば、バッテリーパックpackのパック電流値I_pack[1]が受信される(S70)。バッテリーパックpackのパック電流値I_pack[1]及び段階S20~S50で受信または決定された初期値に基づいて、バッテリーパックpackのパック電圧値V_pack[1]、バッテリーセルCELLそれぞれのセル電圧値V_cell[1]、セル電流値I_cell[1]、セルSOC値SOC_cell[1]及びセル温度値T_cell[1]が算出される(S80)。
【0099】
バッテリーパックpackのパック電圧値V_pack[1]は、V_pack[1]=H_pack[0]+G_pack[0]*I_pack[1]の関係式を利用して、バッテリーパックpackのパック電流値I_pack[1]、並びにバッテリーパックpackのGパラメータ初期値G_pack[0]及びHパラメータ初期値H_pack[0]に基づいて算出される。
【0100】
一実施形態によれば、バッテリーパックpackのパック電流値I_pack[1]及びパック電圧値V_pack[1]、並びにバッテリーバンクBANKそれぞれのGパラメータ初期値G_bank[0]及びHパラメータ初期値H_bank[0]に基づいて、バッテリーバンクBANKそれぞれのバンク電圧値V_bank[1]及びバンク電流値I_bank[1]が算出される。例えば、全てのバッテリーバンクBANKに対し、バッテリーバンクbank(i)のバンク電流値I_bank(i)[1]は、パック電流値I_pack[1]と同一である。全てのバッテリーバンクに対し、バッテリーバンクbank(i)のバンク電圧値V_bank(i)[1]は、V_bank(i)[1]=H_bank(i)[0]+G_bank(i)[0]*I_bank(i)[1]の関係式を利用して算出される。
【0101】
他の実施形態によれば、バッテリーバンクbank(i)のバンク電圧値V_bank[1]は、反復計算によっても算出される。例えば、V_bank(i)[0+(k)]=H_bank(i)[0+(k-1)]+G_bank(i)[0+(k-1)]*I_bank(i)[1]において、kを1から1ずつ増加させつつV_bank(i)[0+(k)]が算出される。このとき、V_bank(i)[0+(k)]とV_bank(i)[0+(k-1)]との差が既設定の基準値以下である場合、バンク電圧値V_bank[1]は、V_bank(i)[0+(k)]と決定される。H_bank(i)[0+(k)]とG_bank(i)[0+(k)]も、反復計算によって算出され、算出過程は、以下の説明から容易に理解される。
【0102】
一実施形態によれば、バッテリーバンクBANKそれぞれのバンク電圧値V_bank[1]、バッテリーセルCELLそれぞれのGパラメータ初期値G_cell[0]、Hパラメータ初期値H_cell[0]及び接触抵抗値R_cntに基づいて、バッテリーセルCELLそれぞれのセル電流値I_cell[1]が算出される。例えば、全てのバッテリーセルCELLに対し、バッテリーセルcell(i,j)のセル電流値I_cell(i,j)[1]は、I_cell(i,j)[1]={V_bank(i)[1]-H_cell(i,j)[0]}/{G_cell(i,j)[0]+R_cnt(i,j)}の関係式を利用して算出される。
【0103】
他の実施形態によれば、バッテリーセルcell(i,j)のセル電流値I_cell(i,j)[1]は、反復計算によっても算出される。例えば、I_cell(i,j)[0+(k)]={V_bank(i)[0+(k)]-H_cell(i,j)[0+(k-1)]}/{G_cell(i,j)[0+(k-1)]+R_cnt(i,j)}において、kを1から1ずつ増加させつつI_cell(i,j)[0+(k)]が算出される。このとき、I_cell(i,j)[0+(k)]とI_cell(i,j)[0+(k-1)]との差が既設定の基準値以下である場合、セル電流値I_cell(i,j)[1]は、I_cell(i,j)[0+(k)]と決定される。H_cell(i,j)[0+(k)]とG_cell(i,j)[0+(k)]も、反復計算によって算出され、算出過程は、以下の説明から容易に理解される。
【0104】
一実施形態によれば、バッテリーバンクBANKそれぞれのバンク電圧値V_bank[1]、バッテリーセルCELLそれぞれのセル電流値I_cell[1]及び接触抵抗値R_cntに基づいて、バッテリーセルCELLそれぞれのセル電圧値V_cell[1]が算出される。例えば、全てのバッテリーセルCELLに対し、バッテリーセルcell(i,j)のセル電圧値V_cell(i,j)[1]は、V_cell(i,j)[1]=V_bank(i)[1]+R_cnt(i,j)*I_cell(i,j)[0]の関係式を利用して算出される。
【0105】
他の実施形態によれば、バッテリーセルcell(i,j)のセル電圧値V_cell(i,j)[1]は、反復計算によっても算出される。例えば、V_cell(i,j)[0+(k)]=V_bank(i)[0+(k)]+R_cnt(i,j)*I_cell(i,j)[0+(k)]において、kを1から1ずつ増加させつつV_cell(i,j)[0+(k)]が算出される。このとき、V_cell(i,j)[0+(k)]とV_cell(i,j)[0+(k-1)]との差が既設定の基準値以下である場合、セル電圧値V_cell(i,j)[1]は、V_cell(i,j)[0+(k)]と決定される。
【0106】
一実施形態によれば、バッテリーセルCELLそれぞれのセルSOC初期値SOC_cell[0]、セル電流値I_cell[1]及び総容量Qtotal_cell、並びに時間間隔Δtに基づいて、バッテリーセルCELLそれぞれのセルSOC値SOC_cell[1]が算出される。例えば、全てのバッテリーセルCELLに対し、バッテリーセルcell(i,j)のセルSOC値SOC_cell(i,j)[1]は、SOC_cell(i,j)[1]=SOC_cell(i,j)[0]+I_cell(i,j)[1]*Δt/Qtotal_cell(i,j)の関係式を利用して算出される。
【0107】
一実施形態よれば、バッテリーセルCELLそれぞれのセル温度初期値T_cell[0]、セル電流値I_cell[1]、直列抵抗初期値Rs[0]、第1並列抵抗初期値Rp1[0]及び第2並列抵抗初期値Rp2[0]、並びに時間間隔Δtに基づいて、バッテリーセルCELLそれぞれのセル温度値T_cell[1]が算出される。例えば、全てのバッテリーセルCELLに対し、バッテリーセルcell(i,j)のセル温度値T_cell(i,j)[1]は、T_cell(i,j)[1]=T_cell(i,j)[0]+Δt*{I_cell(i,j)[1]2*(Rs(i,j)[0]+Rp1(i,j)[0]+Rp2(i,j)[0]-h*DA*(T_cell(i,j)[0]-T_amb)}/(DM*Cpk)の関係式を利用して算出される。ここで、DMは、バッテリーセルcell(i,j)の質量を示し、Cpkは、バッテリーセルcell(i,j)の比熱を示し、DAは、バッテリーセルcell(i,j)の表面積を示し、hは、外部空気との対流熱伝達係数を示し、T_ambは、外部の空気温度(例えば、常温)を示す。
【0108】
バッテリーセルCELLそれぞれの状態パラメータ値に基づいて、バッテリーセルCELLそれぞれのECMパラメータ値が決定される。
【0109】
一実施形態によれば、バッテリーセルCELLそれぞれのセルSOC値SOC_cell[1]及びセル温度値T_cell[1]に基づいて、バッテリーセルCELLそれぞれのECMパラメータ値が推定される(S90)。前述のように、メモリ120には、バッテリーセルCELLのセルSOC値SOC_cell及びセル温度値T_cellによる、ECMパラメータ値、すなわち、開放回路電圧値OCV、直列抵抗値Rs、第1並列抵抗値Rp1、第1並列キャパシタンス値Cp1、第2並列抵抗値Rp2及び第2並列キャパシタンス値Cp2が定義されるルックアップテーブルが保存されうる。
【0110】
一実施形態によれば、メモリ120に保存されたルックアップテーブルを参照して、バッテリーセルCELLそれぞれのセルSOC値SOC_cell[1]及びセル温度初期値T_cell[0]による、バッテリーセルCELLそれぞれの開放回路電圧値OCV[1]、直列抵抗値Rs[1]、第1並列抵抗値Rp1[1]、第1並列キャパシタンス値Cp1[1]、第2並列抵抗値Rp2[1]及び第2並列キャパシタンス値Cp2[1]が推定される。したがって、全てのバッテリーセルCELLに対し、バッテリーセルcell(i,j)の開放回路電圧値OCV(i,j)[1]、直列抵抗値Rs(i,j)[1]、第1並列抵抗値Rp1(i,j)[1]、第1並列キャパシタンス値Cp1(i,j)[1]、第2並列抵抗値Rp2(i,j)[1]及び第2並列キャパシタンス値Cp2(i,j)[1]は、メモリ120に保存されたルックアップテーブルを参照して、バッテリーセルcell(i,j)のセルSOC値SOC_cell(i,j)[1]及びセル温度初期値T_cell(i,j)[0]に基づいて決定される。
【0111】
バッテリーセルCELLそれぞれのECMパラメータ値に基づいて、バッテリーセルCELLそれぞれのGパラメータ値G_cell[1]及びHパラメータ値H_cell[1]が決定される。
【0112】
一実施形態によれば、バッテリーセルCELLそれぞれの開放回路電圧値OCV[1]、直列抵抗値Rs[1]、第1並列抵抗値Rp1[1]、第1並列キャパシタンス値Cp1[1]、第2並列抵抗値Rp2[1]及び第2並列キャパシタンス値Cp2[1]に基づいて、バッテリーセルCELLそれぞれのGパラメータ値G_cell[1]及びHパラメータ値H_cell[1]が算出される(S100)。
【0113】
全てのバッテリーセルCELLに対し、バッテリーセルcell(i,j)のGパラメータ値G_cell(i,j)[1]は、バッテリーセルcell(i,j)の直列抵抗値Rs(i,j)[1]と決定される。すなわち、バッテリーセルcell(i,j)のGパラメータ値G_cell(i,j)[1]は、G_cell(i,j)[1]=Rs(i,j)[1]のように算出される。
【0114】
他の実施形態によれば、バッテリーセルcell(i,j)のGパラメータ値G_cell(i,j)[1]は、反復計算によっても算出される。例えば、G_cell(i,j)[0+(k)]=Rs(i,j)[0+(k)]において、kを1から1ずつ増加させつつG_cell(i,j)[0+(k)]が算出される。このとき、G_cell(i,j)[0+(k)]とG_cell(i,j)[0+(k-1)]との差が既設定の基準値以下である場合、Gパラメータ値G_cell(i,j)[1]は、G_cell(i,j)[0+(k)]と決定される。
【0115】
全てのバッテリーセルCELLに対し、バッテリーセルcell(i,j)のHパラメータ値H_cell(i,j)[1]は、バッテリーセルcell(i,j)の開放回路電圧値OCV(i,j)[1]、第1電圧値V1(i,j)[1]及び第2電圧値V2(i,j)[1]に基づいて決定される。
図6に示されたように、第1電圧値V1(i,j)[1]は、並列に連結される第1並列抵抗Rp1(i,j)[1]と第1並列キャパシタCp1(i,j)[1]との電圧値であり、第2電圧値V2(i,j)[1]は、並列に連結される第2並列抵抗Rp2(i,j)[1]と第2並列キャパシタCp2(i,j)[1]との電圧値である。
【0116】
一例によれば、全てのバッテリーセルCELLに対し、バッテリーセルcell(i,j)のHパラメータ値H_cell(i,j)[1]は、バッテリーセルcell(i,j)の開放回路電圧値OCV(i,j)[1]から第1電圧値V1(i,j)[1]と第2電圧値V2(i,j)[1]とを減算した値と決定される。すなわち、バッテリーセルcell(i,j)のHパラメータ値H_cell(i,j)[1]は、H_cell(i,j)[1]=OCV(i,j)[1]+V1(i,j)[1]+V2(i,j)[1]によっても算出される。
【0117】
バッテリーセルcell(i,j)の第1電圧値V1(i,j)[1]は、V1(i,j)[1]=(V1(i,j)[0]*exp(-Δt/τ1(i,j)[1])+Rp1(i,j)[1]*(1-exp(-Δt/τ1(i,j)[1]))*I_cell(i,j)[1])のように算出される。ここで、τ1(i,j)[1]は、Rp1(i,j)[1]*Cp1(i,j)[1]と定義される。
【0118】
バッテリーセルcell(i,j)の第2電圧値V2(i,j)[1]は、V2(i,j)[1]=(V2(i,j)[0]*exp(-Δt/τ2(i,j)[1])+Rp2(i,j)[1]*(1-exp(-Δt/τ2(i,j)[1]))*I_cell(i,j)[1])のように算出される。ここで、τ2(i,j)[1]は、Rp2(i,j)[1]*Cp2(i,j)[1]と定義される。
【0119】
他の実施形態によれば、バッテリーセルcell(i,j)のHパラメータ値H_cell(i,j)[1]は、反復計算によっても算出される。例えば、H_cell(i,j)[0+(k)]=OCV(i,j)[0+(k)]+V1(i,j)[0+(k)]+V2(i,j)[0+(k)]=OCV(i,j)[0+(k)]+{(V1(i,j)[0+(k-1)]*exp(-Δt/τ1(i,j)[0+(k)])+Rp1(i,j)[0+(k)]*(1-exp(-Δt/τ1(i,j)[0+(k)]))*I_cell(i,j)[0+(k)])}+{(V2(i,j)[0+(k-1)]*exp(-Δt/τ2(i,j)[0+(k)])+Rp2(i,j)[0+(k)]*(1-exp(-Δt/τ2(i,j)[0+(k)]))*I_cell(i,j)[0+(k)])}(ここで、τ1(i,j)[0+(k)]=Rp1(i,j)[0+(k)]*Cp1(i,j)[0+(k)]、τ2(i,j)[0+(k)]=Rp2(i,j)[0+(k)]*Cp2(i,j)[0+(k)])において、kを1から1ずつ増加させつつH_cell(i,j)[0+(k)]が算出される。このとき、H_cell(i,j)[0+(k)]とH_cell(i,j)[0+(k-1)]との差が既設定の基準値以下である場合、Hパラメータ値H_cell(i,j)[1]は、H_cell(i,j)[0+(k)]と決定される。
【0120】
バッテリーセルCELLそれぞれのGパラメータ値G_cell[1]及びHパラメータ値H_cell[1]に基づいて、バッテリーパックpackのGパラメータ値G_pack[1]及びHパラメータ値H_pack[1]が決定される(S110)。
【0121】
一実施形態によれば、バッテリーセルCELLそれぞれのGパラメータ値G_cell[1]、Hパラメータ値H_cell[1]及び接触抵抗値R_cntに基づいて、バッテリーバンクBANKそれぞれのGパラメータ値G_bank[1]及びHパラメータ値H_bank[1]が決定される。
【0122】
例えば、i番目のバッテリーバンクbank(i)のGパラメータ値G_bank(i)[1]は、下記の数式により、i番目のバッテリーバンクbank(i)に含まれるn個のバッテリーセルcell(i,1)~cell(i,n)それぞれのGパラメータ値G_cell(i,1)[1]~G_cell(i,n)[1]及び接触抵抗値R_cnt(i,1)~R_cnt(i,n)に基づいて算出される。
【0123】
【0124】
例えば、i番目のバッテリーバンクbank(i)のHパラメータ初期値H_bank(i)[0]は、下記の数式により、i番目のバッテリーバンクbank(i)に含まれるn個のバッテリーセルcell(i,1)~cell(i,n)それぞれのGパラメータ値G_cell(i,1)[1]~G_cell(i,n)[1]、Hパラメータ値H_cell(i,1)[1]~H_cell(i,n)[1]及び接触抵抗値R_cnt(i,1)~R_cnt(i,n)に基づいて算出される。
【0125】
【0126】
前記数式は、i番目のバッテリーバンクbank(i)に流れるバンク電流I_bank(i)は、i番目のバッテリーバンクbank(i)に含まれるn個のバッテリーセルcell(i,1)~cell(i,n)それぞれに流れるセル電流I_cell(i,1)~I_cell(i,n)の和と同一であるという関係、及びi番目のバッテリーバンクbank(i)のバンク電圧V_bank(i)は、n個のバッテリーセルcell(i,1)~cell(i,n)それぞれのセル電圧V_cell(i,1)~V_cell(i,n)に接触抵抗R_cnt(i,j)とセル電流I_cell(i,1)~I_cell(i,n)との積を加算した値と同一であるという関係を利用して、V_bank(i)=H_bank(i)+G_bank(i)*I_bank(i)の形態に整理することによっても導出される。
【0127】
一実施形態によれば、バッテリーバンクBANKそれぞれのGパラメータ値G_bank[1]及びHパラメータ値H_bank[1]、並びに(m-1)個のバンク抵抗値R_bに基づいて、バッテリーパックpackのGパラメータ値G_pack[1]及びHパラメータ値H_pack[1]が決定される。
【0128】
例えば、バッテリーパックpackのGパラメータ値G_pack[1]は、下記の数式により、バッテリーバンクBANKそれぞれのGパラメータ初期値G_bank(1)[1]~G_bank(m)[1]及び(m-1)個のバンク抵抗値R_b(1)~R_n(m-1)に基づいて算出される。
【0129】
【0130】
例えば、バッテリーパックpackのHパラメータ値H_pack[1]は、下記の数式により、バッテリーバンクBANKそれぞれのHパラメータ初期値H_bank(1)[1]~H_bank(m)[1]に基づいて算出される。
【0131】
【0132】
前記数式は、バッテリーパックpackに流れるパック電流I_packは、直列に連結されるバッテリーバンクbank(i)に流れるバンク電流I_bank(i)と同一であるという関係、及びバッテリーパックpackのパック電圧V_packは、バッテリーバンクBANKのバンク電圧V_bankの和にバンク抵抗R_bとパック電流I_packとの積を加算した値と同一であるという関係を利用して、V_pack=H_pack+G_pack*I_packの形態に整理することによっても導出される。
【0133】
前記のように、段階S70で受信されたパック電流値I_pack[1]に対応して、段階S80において、パック電圧値V_pack[1]、並びにバッテリーセルCELLそれぞれのセル電圧値V_cell[1]、セル電流値I_cell[1]、セルSOC値SOC_cell[1]及びセル温度値T_cell[1]が算出され、段階S90~S110において、バッテリーセルCELLそれぞれのGパラメータ値G_cell[1]及びHパラメータ値H_cell[1]、並びにバッテリーパックpackのGパラメータ値G_pack[1]及びHパラメータ値H_pack[1]が更新される。次いで、段階S120に進め、tが1ほど増加しうる。
【0134】
段階S70において、パック電流値I_pack[2]が受信され、パック電流値I_pack[2]に対応して、段階S80において、パック電圧値V_pack[2]、並びにバッテリーセルCELLそれぞれのセル電圧値V_cell[2]、セル電流値I_cell[2]、セルSOC値SOC_cell[2]及びセル温度値T_cell[2]が算出され、段階S90~S110において、バッテリーセルCELLそれぞれのGパラメータ値G_cell[2]及びHパラメータ値H_cell[2]、並びにバッテリーパックpackのGパラメータ値G_pack[2]及びHパラメータ値H_pack[2]が更新される。次いで、段階S120に進め、tが1ほど増加しうる。
【0135】
そのような過程を介してパック電流値からなる入力データに対応して、バッテリーパックモデル115は、バッテリーセルCELLそれぞれの状態変化及びバッテリーパックpackの状態変化を正確かつ迅速に模写することができる。
【0136】
本発明のシミュレーション方法は、非常に速く計算されうる。10個のバッテリーセルが直列に連結されるバッテリーパックに対し、本発明の方法とSimulink基盤の従来の方法でシミュレーションした結果、本発明の方法は、平均5秒以内に計算が完了したが、Simulink基盤の従来の方法は、計算の完了に40分以上かかった。当該実験において、時間間隔Δtは0.01秒であり、放電1回、充電1回、総60分間実施されるシナリオに対し、シミュレーションが進められた。本発明の方法は、従来の方法に比べて520倍の計算速度向上を見せた。
【0137】
また、バッテリーセルの個数が増加する場合、本発明の方法は、バッテリーセルの個数に比例して所要時間が増加する一方、従来の方法では、所要時間がバッテリーセルに指数的に増加した。したがって、バッテリーセルが多いほど、本発明の方法は、従来に比べて速度向上効果が大きい。
【0138】
本発明の思想は、前述の実施形態に限定されて決定されてはならず、後述する特許請求の範囲だけでなく、特許請求の範囲と均等なまたはそれから等価的に変更された全ての範囲は、本発明の思想の範疇に属するとするであろう。