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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】操舵装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20240813BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20240813BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20240813BHJP
   B62D 111/00 20060101ALN20240813BHJP
   B62D 117/00 20060101ALN20240813BHJP
【FI】
B62D6/00 ZYW
B62D101:00
B62D113:00
B62D111:00
B62D117:00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022575527
(86)(22)【出願日】2021-12-28
(86)【国際出願番号】 JP2021048988
(87)【国際公開番号】W WO2022153880
(87)【国際公開日】2022-07-21
【審査請求日】2023-04-17
(31)【優先権主張番号】P 2021003286
(32)【優先日】2021-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(72)【発明者】
【氏名】園田 大樹
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 義二
(72)【発明者】
【氏名】藤林 智明
(72)【発明者】
【氏名】毛利 宏
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-313961(JP,A)
【文献】特開2011-201507(JP,A)
【文献】特開2004-101365(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/04, 6/00,15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に取り付けられるステアバイワイヤ式の操舵装置であって、
操舵操作入力部材と、
駆動信号に基づき、タイヤに転舵力を付与する転舵アクチュエータと、
前記操舵操作入力部材の操作スピードに対して前記車両のヨーレイトゲインが立ち上がる変化を示すとき、前記操作スピードに対する前記タイヤの転舵スピードを遅くする前記駆動信号を出力する制御装置と、
を有する、操舵装置。
【請求項2】
請求項1に記載の操舵装置であって、
前記制御装置は、
前記操舵操作入力部材の操作角に基づいて転舵角指令値を求める転舵角指令部と、
前記転舵角指令値を取得し、前記転舵角指令値の周波数が所定周波数域であるときに、前記転舵角指令値を変更して出力する転舵角変更部と、
前記転舵角変更部が出力する前記転舵角指令値に基づき、前記駆動信号を前記転舵アクチュエータに出力する駆動部と、
を有する、操舵装置。
【請求項3】
請求項2に記載の操舵装置であって、
前記転舵角変更部は、前記転舵角指令値の前記所定周波数域の成分を減衰させるフィルタ処理を実行する、
操舵装置。
【請求項4】
請求項3に記載の操舵装置であって、
前記転舵角変更部は、バンドストップフィルタからなる、
操舵装置。
【請求項5】
請求項3に記載の操舵装置であって、
前記制御装置は、
前記操舵操作入力部材の操作角に対する前記タイヤの操舵角の比であるステアリングギア比を、前記車両の車速に応じて可変とするステアリングギア比可変部を有し、
前記転舵角指令部は、前記操舵操作入力部材の操作角と前記ステアリングギア比とに基づいて前記転舵角指令値を求める、
操舵装置。
【請求項6】
請求項5に記載の操舵装置であって、
前記ステアリングギア比可変部は、前記車両の車速が遅いときほど前記ステアリングギア比を小さくする、
操舵装置。
【請求項7】
請求項3に記載の操舵装置であって、
前記転舵角変更部は、前記車両の車速に基づいて前記転舵角指令値を変更する、
操舵装置。
【請求項8】
請求項7に記載の操舵装置であって、
前記転舵角変更部は、前記車両の車速が速いときほど前記転舵角指令値の減衰度を小さくする、
操舵装置。
【請求項9】
請求項3に記載の操舵装置であって、
前記転舵角変更部は、前記操舵操作入力部材が任意の操作角に保持されているときから前記操舵操作入力部材が操作されるときに、前記転舵角指令値を変更する、
操舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアバイワイヤ式の操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の車両用操舵装置は、ステアリング操作手段と転舵機構とが機械的に分離されてなるステアバイワイヤ式の車両用操舵装置であって、転舵輪の転舵角に対する前記ステアリング操作手段に加えた操舵角の比であるステアリングギア比を任意に変更可能なステアリングギア比可変手段と、車速を検出する車速検出手段と、前記ステアリング操作手段の操舵角を検出する操舵角検出手段と、検出された車速および操舵角に基づき前記車速が大きいときほど前記ステアリングギア比が大きくなるように前記ステアリングギア比可変手段を制御するステアリングギア比制御手段と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-023145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ステアバイワイヤ式の操舵装置において、ステアリングギア比を車速が低いときほど小さく設定すれば、低車速時におけるステアリングホイール(操舵操作入力部材)の操作量を低減する、換言すれば、ステアリングホイールの持ち替え動作を少なくすることができる。
しかし、ステアリングギア比を小さくすると、ドライバによる操舵操作に対する車両のヨーレイトゲインが過敏になってドライバの意図とは異なる車両挙動が生じ、車両の操縦性を低下させる場合があった。
【0005】
本発明は、従来の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ドライバによる操舵操作に対して車両のヨーレイトゲインが過敏になることを抑止できる、操舵装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る操舵装置によれば、その1つの態様において、操舵操作入力部材の操作スピードに対して車両のヨーレイトゲインが立ち上がる変化を示すとき、前記操作スピードに対するタイヤの転舵スピードを遅くするようにした。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ドライバによる操舵操作に対して車両のヨーレイトゲインが過敏になることを抑止して、車両の操縦性を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】操舵装置のシステム構成図である。
図2】制御装置が備える転舵角の制御機能を示すブロック図である。
図3】転舵周波数fとヨーレイトゲインとの相関を示す線図である。
図4】制御装置による転舵角の制御手順を示すフローチャートである。
図5】操作角θとフィルタ処理後の転舵角指令値σtgとの相関を示すタイムチャートである。
図6】フィルタ処理の有無によるヨーレイトゲインの違いを示す線図である。
図7】操作角θと減衰域のゲインKfとの相関を示す線図である。
図8】操作角θと減衰度のゲインKaとの相関を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る操舵装置の実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、操舵装置100の一態様を示すシステム構成図である。
【0010】
操舵装置100は、車両10に取り付けられるステアバイワイヤ式の操舵装置である。
そして、操舵装置100は、操舵操作入力部材としてのステアリングホイール11と、一対の前タイヤ12-1,12-2(転舵輪)に転舵力を付与する転舵アクチュエータ13と、ステアリングホイール11に操作反力を付与する反力アクチュエータ14と、転舵アクチュエータ13及び反力アクチュエータ14に駆動信号を出力する制御装置15とを備える。
【0011】
ここで、ステアリングホイール11(反力アクチュエータ14)と前タイヤ12-1,12-2(転舵アクチュエータ13)とは機械的に連結されずに分離されている。
転舵アクチュエータ13は、転舵モータ、転舵機構、減速機などを備え、反力アクチュエータ14は、反力モータ、減速機などを備える。
【0012】
車両10は、一対の前タイヤ12-1,12-2とともに、一対の後タイヤ12-3,12-4を備えた4輪自動車である。
そして、タイヤ12-1,12-2,12-3,12-4は、それぞれ、車輪速を検出する車輪速センサ16-1,16-2,16-3,16-4を備えている。
また、車両10は、ステアリングホイール11の操作角θを検出する操作角センサ17、車両10の前後加速度及び横加速度を検出する加速度センサ18、前タイヤ12-1,12-2の転舵角σ(換言すれば、タイヤ角)を検出する転舵角センサ19を備える。
【0013】
制御装置15は、中央処理装置(CPU)などの演算装置、主記憶装置、補助記憶装置、入出力装置、タイマなどを備えたマイクロコンピュータを主体とする電子制御装置である。
制御装置15は、通信バスライン20を介して、車輪速センサ16-1,16-2,16-3,16-4、操作角センサ17、加速度センサ18、転舵角センサ19などに接続されていて、各センサから車輪速、操作角θ、加速度、転舵角σの各検出情報を取得する。
【0014】
そして、制御装置15は、取得した各種情報に基づく演算処理によって、転舵アクチュエータ13及び反力アクチュエータ14に駆動信号を出力する。
ここで、制御装置15による転舵角(転舵アクチュエータ13)、操作反力(反力アクチュエータ14)の制御機能は、補助記憶装置に記憶されたデータベースを参照しながら、主記憶装置にロードされたプログラムを演算装置によって周期的に実行することで実現される。
【0015】
図2は、制御装置15における転舵角(転舵アクチュエータ13)の制御機能を示すブロック図である。
制御装置15は、転舵角指令部151、転舵角変更部152、ステアリングギア比可変部153、車速演算部154、駆動部155を備える。
【0016】
転舵角指令部151は、操作角センサ17が検出したステアリングホイール11の操作角θの情報を取得し、操作角θとステアリングギア比RSとに基づいて転舵角指令値σtgを演算する。
ここで、ステアリングギア比RSは、ステアリングギア比RS=操作角θ/転舵角σとして定義される。
【0017】
したがって、ステアリングギア比RSが小さいほど操作角θに対する転舵角σが大きくなり、ステアリングホイール11を少し回すことで、前タイヤ12-1,12-2の切れ角(転舵角σ)が大きく変化する操舵特性になる。
一方、ステアリングギア比RSが大きいほど操作角θに対する転舵角σが小さくなり、ステアリングホイール11を多く回さないと、前タイヤ12-1,12-2の切れ角(転舵角σ)が変化しない操舵特性になる。
【0018】
なお、前タイヤ12-1,12-2とステアリングホイール11とが機械的に連結される操舵装置の場合、ステアリングギア比RSは、ステアリングギアボックスでどの程度の減速が行われるかを表す比率である。
しかし、前タイヤ12-1,12-2とステアリングホイール11とが機械的に分離したステアバイワイヤ式の操舵装置100の場合、ステアリングギアボックスは存在しないため、ステアリングギア比RSは、ステアリングギアボックスの減速比を表すものではなく、制御装置15における転舵角指令値σtgの演算に用いる係数であって、任意に設定可能なデータである。
【0019】
転舵角指令部151は、ステアリングギア比可変部153からステアリングギア比RSの情報を取得する。
ステアリングギア比可変部153は、車速演算部154から車両10の車速VS[km/h]の情報を取得し、車速VSに応じてステアリングギア比RSを可変に演算し、演算したステアリングギア比RSの情報を転舵角指令部151に送る。
【0020】
ステアリングギア比可変部153は、車速VSが遅くなるほどステアリングギア比RSを小さく設定し、低車速域におけるドライバによるステアリングホイール11の操作量を低減する(換言すれば、ステアリングホイール11の持ち替え動作を少なくする)。
車速演算部154は、車輪速センサ16-1,16-2,16-3,16-4それぞれの検出信号を取得し、4輪それぞれの車輪速の情報から車両10の車速VS[km/h]を推定する。
【0021】
転舵角変更部152は、転舵角指令部151が演算した転舵角指令値σtgの情報を取得し、車速VSや前タイヤ12-1,12-2の転舵周波数fなどの条件に応じて転舵角指令値σtgを変更して駆動部115に出力する。
駆動部155は、取得した転舵角指令値σtgに基づき、駆動信号を転舵アクチュエータ13に出力する。
【0022】
ここで、転舵角変更部152が転舵角指令値σtgを変更する条件は、後述するように、ステアリングホイール11の操作スピードに対して車両10のヨーレイトゲインが立ち上がる変化を示すときである。
そして、ヨーレイトゲインが立ち上がりは、例えば、車速VSが0km/hから20km/h程度までの低車速域で、かつ、転舵周波数fが1Hz程度から3Hz程度までの周波数域内である場合に生じる。
【0023】
そして、転舵角変更部152は、ステアリングホイール11の操作スピードに対して車両10のヨーレイトゲインが立ち上がる変化を示すときに、操作スピードに対する前タイヤ12-1,12-2の転舵スピードを遅くするように、転舵角指令値σtgを変更前よりも小さい角度に変更し、変更後の転舵角指令値σtgの情報を、駆動部155に出力する。
一方、転舵角変更部152は、ステアリングホイール11の操作スピードに対して車両10のヨーレイトゲインが立ち上がる変化を示さないときは、転舵角指令部151が演算した転舵角指令値σtgの情報を変更することなくそのまま駆動部155に出力する。
【0024】
ステアリングギア比可変部153は、低車速域において高車速域よりもステアリングギア比RSを小さくするが、ステアリングギア比RSを小さくすると、ドライバによるステアリングホイール11の操作に対する車両10のヨーレイトゲインが過敏になって、ドライバの意図とは異なる車両挙動が生じる場合がある。
図3は、転舵周波数f[Hz]とヨーレイトゲインとの相関を車速VSの条件毎に示す線図であって、ステアリングギア比RSを車速VSに応じて可変とし、かつ、転舵角指令部151が演算した転舵角指令値σtgの情報をそのまま駆動部155に与えたときの特性を示す。
【0025】
車両10の車速VSが40km/hや80km/hのとき(つまり、中・高速域のとき)、転舵周波数fが1Hzよりも低い領域においてヨーレイトゲインは略一定で、転舵周波数fが1Hzよりも高い領域において、ヨーレイトゲインは周波数fの増大変化に対して減少する。
これに対し、車両10の車速VSが10km/hや20km/hの低速域のときは、転舵周波数fが1Hzよりも高い2Hz付近で、ヨーレイトゲインは極大値をとる。
【0026】
詳細には、車両10の車速VSが10km/hや20km/hのときは、転舵周波数f=1Hz付近で転舵周波数fの増大に対してヨーレイトゲインは増大変化し、転舵周波数f=2Hz付近でヨーレイトゲインは極大値をとり、更に転舵周波数fが2Hz付近よりも高くなるとヨーレイトゲインは減少する。
つまり、ステアリングギア比RSを小さくする低車速域で車両10が走行するときに、転舵周波数fが略1Hzから3Hzまでの周波数域内であると、ヨーレイトゲインは、ステアリングホイール11の操作スピードに対して立ち上がる変化を示す。
【0027】
前タイヤ12-1,12-2の転舵によるヨーレイト発生は、転舵→タイヤ角発生→タイヤが転がる→横力発生→ヨーレイト発生の順で起きる。
低車速域では、タイヤが転がるのに時間がかかるため、中高速域に比べて横力、ヨーレイトの発生に遅れが生じ、係る遅れ時間が車両10の挙動に影響することから、ヨーレイトゲインが立ち上がる変化は、タイヤの緩和長と車速VSとの関係から決まる。
なお、タイヤの緩和長とは、スリップ角等のステップ入力に対して、タイヤが定常的な横力を出力するようになるのに必要な走行距離である。
【0028】
このように、ステアリングギア比RSを小さくする低車速域のときに、転舵周波数fが所定周波数であると、ヨーレイトゲインが大きくなり過ぎ、ドライバによる操作性が損なわれる可能性がある。
そこで、転舵角変更部152は、ステアリングホイール11の操作スピードに対して車両10のヨーレイトゲインが立ち上がる変化を示すとき、操作スピードに対する前タイヤ12-1,12-2の転舵スピードを遅くするように転舵角指令値を変更することで、ヨーレイトゲインの立ち上がりを抑え、ドライバによる操作性が低下することを抑止する。
【0029】
詳細には、転舵角変更部152は、車速VSが所定の低車速域であるときに、転舵角指令値σtgについて所定の周波数成分を減衰させるフィルタ処理を施し、フィルタ処理後の転舵角指令値σtgを駆動部155に出力する。
つまり、転舵角変更部152は、ステアリングホイール11の操作スピードに対して車両10のヨーレイトゲインが立ち上がる変化を示す条件で転舵角指令値σtgの信号を減衰させる(換言すれば、変更前よりも絶対値の小さい値に変更する)ことで、ステアリングホイール11の操作スピードに対する前タイヤ12-1,12-2の転舵スピードを遅くする。
これにより、ドライバの操舵操作に対して車両のヨーレイトゲインが過敏になることを抑止して、車両の操縦性を改善できる。
【0030】
ここで、転舵角変更部152は、ヨーレイトゲインが立ち上がる変化を示す転舵周波数fを減衰域とするバンドストップフィルタ152aを用いて、転舵角指令値σtgを変更する。
例えば、バンドストップフィルタ152aの伝達関数G(s)は、数式1で与えられる。
【数1】
【0031】
ここで、ヨーレイトゲインが立ち上がる周波数域(換言すれば、ヨーレイトゲインが極大値になる周波数)は車速VSによって変化するので、転舵角変更部152は、バンドストップフィルタ152aが転舵角指令値σtgを減衰させる周波数域(減衰域)を車速VSに応じて変更する。
また、ヨーレイトゲインの立ち上がりは、車速VSが低くなるほど大きくなるので、転舵角変更部152は、車速VSが低いほどヨーレイトゲインをより大きく減少させるように、バンドストップフィルタ152aの減衰度を車速VSが低くなるほど大きくする。
【0032】
また、転舵角変更部152は、ステアリングホイール11の操作スピードに対して車両10のヨーレイトゲインが立ち上がる変化を示さない中・高車速域では、減衰度を小さくしてフィルタ処理を実質的に無効化する。
これにより、全車速域において転舵角指令値σtgの情報をバンドストップフィルタ152aに通過させても、中・高車速域において転舵角指令値σtgが無用に減衰されることが抑止される。
【0033】
なお、転舵角変更部152は、低車速域であるときに転舵角指令値σtgの信号をバンドストップフィルタ152aで処理し、中・高車速域であるときは、転舵角指令値σtgの信号を、バンドストップフィルタ152aを迂回させてそのまま駆動部155に出力することができる。
つまり、転舵角変更部152は、車速VSの条件に応じて、転舵角指令値σtgの情報をバンドストップフィルタ152aに通過させるか、バンドストップフィルタ152aを迂回させるかを切り替えることができる。
【0034】
図4は、制御装置15による転舵角の制御手順を示すフローチャートである。
制御装置15は、ステップS401で、ステアリングホイール11の操作角θの情報を取得し、次のステップS402で、車速VSに応じてステアリングギア比RSを変更する。
【0035】
次いで、制御装置15は、ステップS403で、操作角θ及びステアリングギア比RSに基づき、転舵角指令値σtgを算出する。
また、制御装置15は、ステップS404で、車速VSが低く、かつ、転舵周波数fが所定周波数域内である場合、転舵角指令値σtgの絶対値を小さく変更するフィルタ処理を実施する。
【0036】
そして、制御装置15は、ステップS405で、車速VSが低く、かつ、転舵周波数fが所定周波数域内である場合は、ステップS404で小さく変更する処理を施した転舵角指令値σtgを駆動部155に出力し、車速VSの条件及び/又は転舵周波数fの条件が上記条件を満たさない場合は、ステップS403で算出した転舵角指令値σtgを変更することなくそのまま駆動部155に出力する。
【0037】
図5は、ステアリングホイール11の操作角θ、及び、転舵角変更部152が出力する転舵角指令値σtgの変化を示すタイムチャートである。
図5の上段は、ステアリングホイール11の操作角θの変化を示し、図5の例では、時間経過に伴い操作角θの周波数が増加している。
【0038】
一方、図5の下段は、バンドストップフィルタ152aで所定周波数成分を減衰させた後の転舵角指令値σtgを示し、操作角θの信号の周波数増加に伴い、転舵角指令値σtgの信号の絶対値が小さく変更される。
つまり、ステアリングホイール11の操作スピードに対して車両10のヨーレイトゲインが立ち上がる変化を示すとき、制御装置15は、バンドストップフィルタ152aによって転舵角指令値σtgを減衰させることで、操作スピードに対するタイヤの転舵スピードを遅くする駆動信号を転舵アクチュエータ13に出力する。
【0039】
図6は、低車速の条件における、バンドストップフィルタ152aによる減衰処理の有無によるヨーレイトゲインの違いを示す。
バンドストップフィルタ152aによる減衰処理を行わない場合は、転舵周波数fが1Hz程度から3Hz程度までの周波数域内のときに、ヨーレイトゲインが立ち上がる変化を示す。
【0040】
これに対し、バンドストップフィルタ152aによる減衰処理を行われると、転舵周波数fが1Hz程度から3Hz程度までの周波数域内であっても、ヨーレイトゲインの立ち上がりが抑制される。
したがって、ドライバによる操舵操作に対して車両10のヨーレイトゲインが過敏になることが抑止され、車両の操縦性が改善される。
【0041】
上記実施形態において、転舵角変更部152は、バンドストップフィルタ152aの特性(詳細には、減衰域、減衰度)を車速VSに応じて変更するが、更に、操作角θに応じてバンドストップフィルタ152aの特性を変更することで、ステアリングホイール11が任意の操作角θに保持されているときから操舵操作が開始されるときに、ヨーレイトゲインが立ち上がることを抑止することができる。
図7は、操作角θに基づくバンドストップフィルタ152aの特性変更の一態様を示す図であって、操作角θと、バンドストップフィルタ152aの減衰域の変更に用いるゲインKfとの相関を示す。
【0042】
ここで、ゲインKfは、操作角θの絶対値が大きいほど大きな値に設定され、ステアリングホイール11が中立位置であって操作角θが零であるときに、ゲインKfは最小値(最小値=1)に設定される。
転舵角変更部152は、操作角θに基づきゲインKfを設定すると、基本周波数ωaにゲインKfを乗算して基本周波数ωaを変更することで、バンドストップフィルタ152aの減衰域を変更する。
【0043】
つまり、転舵角変更部152は、基本周波数ωaにゲインKfを乗算することで、操作角θの絶対値が大きいほど、転舵角指令値σtgを小さく変更する周波数域である減衰域をより高い周波数に変更する。
これにより、緊急回避時などの操作角θの絶対値を大きくして車両10の向きを早く変更したい場合、バンドストップフィルタ152aによるフィルタ処理を実質的に無効化し、早い車両運動を実現することができる。
【0044】
一方、ステアリングホイール11が中立位置に保持されている状態から切り出すときは、ゲインKfが1近傍であるため、転舵角指令値σtgを小さく変更する周波数域である減衰域が初期設定(例えば、1Hz程度から3Hz程度までの周波数)に保持され、ヨーレイトゲインの立ち上がりを抑制するフィルタ処理が有効化される。
ヨーレイトゲインの立ち上がり変化が操舵性に大きく影響するのは、ステアリングホイール11を中立位置付近から切り始めるときであるため、中立位置付近でフィルタ処理を有効化することで、ヨーレイトゲインの立ち上がりを効果的に抑制することができる。
【0045】
図8は、操作角θに基づくバンドストップフィルタ152aの特性変更の別の態様を示す図であって、操作角θと、バンドストップフィルタ152aの減衰度の変更に用いるゲインKaとの相関を示す。
ここで、ゲインKaは、ステアリングホイール11が中立位置であって操作角θが零であるときに最大値(最大値=1)に設定され、操作角θの絶対値が大きくなるほど小さい値に変更される。
【0046】
転舵角変更部152は、操作角θに基づきゲインKaを設定すると、フィルタ定数ζにゲインKaを乗算してフィルタ定数ζを変更することで、バンドストップフィルタ152aの減衰度を変更する。
つまり、転舵角変更部152は、フィルタ定数ζにゲインKaを乗算して補正することで、操作角θの絶対値が大きいほど減衰度を小さく変更し、バンドストップフィルタ152による転舵角指令値σtgの変更度合いを小さくする。
これにより、緊急回避時などの操作角θの絶対値を大きくして車両10の向きを早く変更したい場合、バンドストップフィルタ152aによるフィルタ効果を大きく低下させて、早い車両運動を実現することができる。
【0047】
一方、ステアリングホイール11が中立位置に保持されている状態から切り出すときは、ゲインKaが1近傍であるため、転舵角指令値σtgを小さく変更する度合いである減衰度が初期設定に保持され、ヨーレイトゲインの立ち上がりを抑制するフィルタ効果が発揮される。
ヨーレイトゲインの立ち上がり変化が操舵性に大きく影響するのは、ステアリングホイール11を中立位置付近から切り始めるときであるため、中立位置付近でフィルタ効果を発揮させることで、ヨーレイトゲインの立ち上がりを効果的に抑制することができる。
【0048】
上記実施形態で説明した各技術的思想は、矛盾が生じない限りにおいて、適宜組み合わせて使用することができる。
また、好ましい実施形態を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種々の変形態様を採り得ることは自明である。
【0049】
例えば、上記実施形態では、車速VSの条件に応じてバンドストップフィルタ152aの減衰域及び減衰度を可変としたが、バンドストップフィルタ152aの減衰域及び減衰度を固定値とし、車速VSが一定の速度近傍のとき(例えば、10km/h近傍のとき)にだけ転舵角指令値σtgをバンドストップフィルタ152aで処理させることができる。
また、転舵角指令値σtgの所定周波数域の成分を減衰させるフィルタ処理は、転舵角指令値σtgのデータを補正値で補正する処理や、転舵角指令値σtgのデータをリミッタで制限する処理などによっても実現でき、バンドストップフィルタ152aを用いる構成に限定するものではない。
【0050】
また、転舵角変更部152は、バンドストップフィルタ152aで転舵角指令値σtgを処理したときに発生したヨーレイトゲインに基づき、減衰域及び/又は減衰度を学習することができる。
また、転舵角変更部152は、ドライバの選択に応じてバンドストップフィルタ152aの減衰度を変更することができ、ドライバが、車両10の向きが早く変わる特性を望む場合、バンドストップフィルタ152aの減衰度を小さく変更することができる。
【0051】
また、転舵アクチュエータ13を制御する電子制御装置と、反力アクチュエータ14を制御する電子制御装置とを個別に備えるシステムとすることができる。
また、フィルタ処理部をバンドストップフィルタ152aに限定するものではなく、転舵角指令値σtgの周波数が所定周波数域であるときに、結果的に転舵角指令値σtgが減衰される処理とすることができる。
【符号の説明】
【0052】
10…車両、11…ステアリングホイール(操舵操作入力部材)、12-1,12-2,12-3,12-4…タイヤ、13…転舵アクチュエータ、14…反力アクチュエータ、15…制御装置、100…操舵装置、151…転舵角指令部、152…転舵角変更部、152a…バンドストップフィルタ(フィルタ処理部)、153…ステアリングギア比可変部、155…駆動部
図1
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図8