(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】機能性画線印刷物
(51)【国際特許分類】
B41M 3/14 20060101AFI20240813BHJP
B42D 25/378 20140101ALI20240813BHJP
【FI】
B41M3/14
B42D25/378
(21)【出願番号】P 2020200873
(22)【出願日】2020-12-03
【審査請求日】2023-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】303017679
【氏名又は名称】独立行政法人 国立印刷局
(72)【発明者】
【氏名】田原 健児
【審査官】岩本 太一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-024104(JP,A)
【文献】特開平03-261596(JP,A)
【文献】特開2001-236544(JP,A)
【文献】特開平05-338388(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 1/00- 3/18
7/00- 9/04
B42D 15/02
25/00-25/485
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上の少なくとも一部に、
所定の波長が紫外線又は赤外線であり、前記紫外線の照射により可視発光する、又は照射された前記赤外線を透過する第一の光学特性を有する第一のインキにより形成された機能性凸状画線を万線状に配列して成る機能性凸状画線群と、
少なくとも前記機能性凸状画線群上の一部に、前記第一の光学特性である
前記可視発光又は前記赤外線を吸収する第二の光学特性を有する第二のインキにより形成された隠ぺい性画線を万線状に配列して成る隠ぺい性画線群を重畳して形成された印刷画像を備え、
可視光下においては、前記印刷画像が前記機能性凸状画線群と前記隠ぺい性画線群が合成された第一の模様が視認され、
前記紫外線又は前記赤外線の照射下においては、前記第一の光学特性が前記第二の光学特性により吸収されて成る第二の模様が視認され、さらに、観察角度に応じて、前記第二の模様の一部のみが視認されることを特徴とする機能性画線印刷物。
【請求項2】
基材上の少なくとも一部に、
所定の波長が紫外線又は赤外線であり、前記紫外線の照射により可視発光する、又は照射された前記赤外線を透過する第一の光学特性を有する第一のインキにより形成された機能性凸状画線を万線状に配列して成る機能性凸状画線群を備え、少なくとも前記機能性凸状画線群上の一部に、前記第一の光学特性である
前記可視発光又は前記赤外線を吸収する第二の光学特性を有する第二のインキにより形成された隠ぺい性画線を万線状に配列して成る隠ぺい性画線群を重畳して形成された印刷画像を備え、
前記機能性凸状画線群は、前記機能性凸状画線の一部の位相が異なることによって、前記機能性凸状画線群が背景部と模様部に区分けされて成り、
可視光下においては、前記印刷画像が前記機能性凸状画線群と前記隠ぺい性画線群が合成された第一の模様が視認され、
前記紫外線又は前記赤外線の照射下においては、前記第一の光学特性が前記第二の光学特性により吸収されて成る第二の模様が視認され、観察角度に応じて、前記背景部と区分けされた前記模様部を潜像画像として視認されることを特徴とする機能性画線印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀行券、旅券、有価証券、身分証明書、カード、通行券等の貴重印刷物の分野において、機能性材料を含有するインキにより形成した凸画線上に、機能性材料の効果を遮蔽するインキにより形成した画線を積層した機能性画線印刷物を提供する。
【背景技術】
【0002】
銀行券、旅券、有価証券等の貴重印刷物は、その性質上、偽造や改ざんされにくいことが要求される。この防止策として貴重印刷物上に微細画線を印刷し、その有無により真偽判別を行う技術が公知である。
【0003】
しかしながら、近年、複写機の高機能化及び高画質化により、前述の微細画線が再現された貴重印刷物の偽造製品が出回り、深刻な問題となっている。
【0004】
そこで、本出願人は、基材上に、凹凸形状のレリーフ模様を付与し、その上に印刷万線を付与することにより潜像模様が形成された印刷物を開示している。前述の印刷物は、正面から視認すると直線状の印刷万線が視認され、基材を傾けると、レリーフ模様と同じ単色の潜像画像が視認可能となる特殊潜像模様形成体である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術は、基材上に形成されたレリーフ模様の上に単色で万線模様を印刷して潜像を形成していることから、基材の色と万線模様の単色とのコントラストにより発現する潜像を確認するものであり、色相の自由度が乏しいという課題があった。
【0007】
また、特許文献1の技術は、可視光下で生じる潜像のコントラストを確認するものであり、より偽造防止効果を高めるために、特殊な光源下である紫外線光下又は赤外線光下の観察角度の変化において、潜像を出現する印刷物が得られるようにする課題があった。
【0008】
本発明は、前述した問題の解決を目的としたものであり、潜像画像の色相の自由度に制約がなく、紫外線光下又は赤外線光下における潜像変化の良好な機能性画線印刷物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、基材上の少なくとも一部に、所定の波長に対して第一の光学特性を有する第一のインキにより形成された機能性凸状画線を万線状に配列して成る機能性凸状画線群と、少なくとも機能性凸状画線群上の一部に、第一の光学特性を遮へい又は減衰する第二の光学特性を有する第二のインキにより形成された隠ぺい性画線を万線状に配列して成る隠ぺい性画線群を重畳して形成された印刷画像を備え、可視光下においては、機能性凸状画線群と隠ぺい性画線群が合成された第一の模様が視認され、所定の波長下においては、第一の光学特性が第二の光学特性により遮へい又は減衰されて成る第二の模様が視認され、さらに、観察角度に応じて、第二の模様の一部のみが視認されることを特徴とする機能性画線印刷物である。
【0010】
本発明は、基材上の少なくとも一部に、所定の波長に対して第一の光学特性を有する第一のインキにより形成された機能性凸状画線を万線状に配列して成る機能性凸状画線群を備え、少なくとも機能性凸状画線群上の一部に、第一の光学特性を遮へい又は減衰する第二の光学特性を有する第二のインキにより形成された隠ぺい性画線を万線状に配列して成る隠ぺい性画線群を重畳して形成された印刷画像を備え、機能性凸状画線群は、機能性凸状画線の一部の位相が異なることによって、機能性凸状画線群が背景部と模様部に区分けされて成り、可視光下においては、機能性凸状画線群と隠ぺい性画線群が合成された第一の模様が視認され、所定の波長下においては、第一の光学特性が第二の光学特性により遮へい又は減衰されて成る第二の模様が視認され、さらに、観察角度に応じて、背景部と模様部が区分けして視認されることを特徴とする機能性画線印刷物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の機能性画線印刷物は、基材上に形成された機能性を有する凸画線上に、当該凸画線の機能性を遮へい又は減衰する印刷画線を積層し、1つの図柄とすることによって、色彩変化が良好であり、可視光と可視光以外で異なる画像を発現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図3】機能性発現領域の一部拡大図と断面を示す一例図。
【
図6】本発明における機能性画線印刷物の効果を示す一例図。
【
図7】本発明における機能性画線印刷物の効果を示す一例図。
【
図9】本発明における機能性凸状画線群と隠ぺい性画線群の関係を示す図。
【
図10】本発明における機能性凸状画線群と隠ぺい性画線群の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれる。
【0014】
(第一の実施の形態)
図1は、本発明の機能性画線印刷物(1)の概要を示す図である。本第一の実施の形態は、紫外線励起可視発光と当該可視発光を遮蔽する構成の組合せである。
図1は、機能性画線印刷物(1)の平面図である。
図1に示すように、機能性画線印刷物(1)は、基材(2)の少なくとも一部に、印刷画像(3)を有している。基材(2)は、印刷画像(3)の光学的な効果に影響を与えることがなく、印刷可能であれば紙、フィルム等いずれの材質であってもよく、基材(2)自体が着色、又はあらかじめ模様などを印刷していても構わない。
【0015】
図2は、印刷画像(3)の構成を示す図である。
図2で示すように印刷画像(3)は、機能性凸状画線群(4)と隠ぺい性画線群(5)から成る。なお、可視光における印刷画像(3)は、機能性凸状画線群(4)と隠ぺい性画線群(5)が合成された模様として視認することができる。
【0016】
図3は、合成画像(3)の一部拡大図と断面を示す図である。
図3(a)は、機能性凸状画線群(4)の一部拡大図であり、
図3(b)は、機能性凸状画線群(4)の短辺幅方向に切断したAA´の断面図である。印刷画像(3)は、基材(2)上に機能性凸状画線群(4)が形成され、機能性凸状画線(4a)上の一部に隠ぺい性画線(5a)が積層される構造である。なお、機能性凸状画線(4a)は、凸形状であることから、その厚みにより後述する第一の材料(6)を大量に含有することができる。
【0017】
(機能性凸状画線群)
図4は、機能性凸状画線群(4)を示す一例図である。機能性凸状画線群(4)は、機能性凸状画線(4a)が万線状に配列されて成る。機能性凸状画線(4a)の画線高さ(H1)は、3μm以上100μm以下であり、画線幅(T1)は、50μm以上1000μm以下である。画線高さ(H1)が3μm未満では、画線高さ(H1)及び後述する第一の材料(6)の量が不十分であり、後述する機能性凸状画線(4a)による視認効果が得られないためであり、画線高さ(H1)が100μmより高いと画線のにじみ等により、印刷適性が著しく低下するためである。
【0018】
また、画線幅(T1)は、50μm未満では、画線高さ(H1)が3μm以上の凸状画線の形成が困難であり、画線幅(T1)が1000μmより大きいと、画線高さ(H1)に対して画線幅(T1)が大きすぎることによって、後述する機能性凸状画線(4a)による視認効果が得られないためである。なお、機能性凸状画線(4a)は、画線高さ(H1)が画線頂点に向かって段階的に高くなる形状であり、断面形状が、三角形、台形、半円形又は半楕円形等の画線である。
【0019】
機能性凸状画線群(4)は、観察光源である所定の波長により発現する効果(以下、「第一の光学特性」という。)を有する第一の材料(6)を配合した第一のインキで形成される。第一のインキの硬化方式は、溶剤蒸発型、酸化重合型、紫外線硬化型等、いずれの方法又は、それらの複合であっても構わない。また、印刷方式は、凹版、スクリーン印刷等いずれの方式であってもよいが、機能性凸状画線(4a)を容易に形成するには、紫外線硬化型インキをスクリーン印刷方式にて付与する方法が適している。
【0020】
(第一の光学特性)
第一の光学特性としては、所定の波長の照射により励起発光する特性が挙げられる。本第一の実施の形態では、第一の光学特性を奏する第一の材料(6)として、紫外励起可視発光する特性を持つ第一の材料(6)を使用した例である。第一の材料(6)は、紫外励起可視発光を奏する材料であれば特に限定されず、無機顔料、有機顔料等の一般的な蛍光顔料、蛍光染料、蛍光インキ自体を使用することができる。市販品としては、Lumikol No.1000、Lumikol No.1100、Lumikol No.1002、Lumikol No.1200、Lumikol No.1015、Lumikol No.1016(日本蛍光化学株式会社)等が挙げられる。
【0021】
また、機能性凸状画線群(4)に用いる第一のインキは、第一の材料(6)として第一の光学特性を奏する蛍光材料を配合していればよく、紫外線励起紫外線発光、紫外線励起赤外線発光、可視励起可視発光を奏する蛍光材料を使用してもよい。さらに、第一の光学特性に影響を与えなければ、その他の異なる光学特性を有する材料を合わせて配合することができる。その他の材料としては、パール、メタリック、サーモクロミック、フォトクロミック等の顔料、染料が挙げられる。
【0022】
(隠ぺい性画線)
図5は、隠ぺい性画線群(5)の一部拡大図を示す一例である。
図5(a)に示すように、隠ぺい性画線群(5)は、隠ぺい性画線(5a)を万線状に配列されて成る。
図5(b)のBB´断面図に示すように、隠ぺい性画線(5a)は、後述する視認効果が得られれば特に限定されることはないが、画線高さ(H2)が0.5μm以上2.0μm以下、画線幅(T2)が、5.0μm以上800μm以下が適している。画線高さ(H2)が0.5μm未満では、機能性凸状画線(4a)の第一の光学特性を減衰又は遮へいすることが困難となり、画線高さ(H2)が2.0μmより高い場合は、機能性凸状画線(4a)上に形成することが困難となる。また、画線幅(T2)が5.0μm未満では、機能性凸状画線群(4)の第一の光学特性を減衰又は遮へいすることが困難となり、画線幅(T2)が800μmより大きいと、機能性凸状画線群(4)の第一の光学特性を減衰又は遮へいし過ぎるためである。
【0023】
(第二の光学特性)
隠ぺい性画線(5a)は、機能性凸状画線(4a)の第一の光学特性を減衰又は遮へいする効果(以下、「第二の光学特性」という)を奏する第二の材料を有する第二のインキで形成される。第二のインキの硬化方式は、溶剤蒸発型、酸化重合型、紫外線硬化型等、いずれの方法又は、それらの複合であっても構わない。また、印刷方式においても、グラビア、オフセット、インキジェット印刷等いずれの方式であってもよいが、後述する効果を活かすには、紫外線硬化型インキをオフセット印刷にて付与する方法が適している。
【0024】
第二の光学特性を奏する第二の材料とは、第一のインキの第一の光学特性を減衰(吸収を含む)又は遮へいする特性を有する顔料、染料、インキ自体が挙げられる。例えば、本第一の実施の形態では、機能性凸状画線(4a)の第一の材料(6)として蛍光材料を配合した場合に、隠ぺい性画線(5a)には、紫外励起せず、機能性凸状画線(4a)の可視発光を吸収する顔料、染料、インキ自体が挙げられる。
【0025】
第二の材料として、顔料を用いる場合は、可視光を減衰(吸収を含む)又は遮へいする材料であれば特に限定されず、無機顔料、有機顔料いずれの顔料でもよく、遮へい用途に広く使用されている酸化チタンをはじめ、市販されているイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)を構成する着色顔料や、インキの特性を調整するために用いられる体質顔料を用いることができる。
【0026】
なお、第二のインキは、第二の光学特性を奏する材料を配合していればよく、第二の光学特性に影響を与えなければ、その他の異なる光学特性を奏する材料を合わせて配合することができる。その他の材料としては、パール、メタリック、カラーシフト、サーモクロミック、フォトクロミック等が挙げられる。
【0027】
(効果)
本発明の機能性画線印刷物(1)は、機能性凸状画線群(4)による指感性の高い印刷物であり、可視光下においては、印刷画像(3)を機能性凸状画線群(4)と隠ぺい性画線群(5)が合成された第一の模様として視認することができる。
【0028】
また、紫外線の照射下においては、機能性凸状画線群(4)は、第一の光学特性により可視発光し、隠ぺい性画線群(5)は、第二の光学特性により当該可視発光を吸収することから、第一の光学特性と第二の光学特性が合成されることによって、機能性凸状画線群(4)と隠ぺい性画線群(5)の間に強いコントラストが生じ、印刷画像(3)を隠ぺい性画線群(5)が強調された、第二の模様として視認することができる。
【0029】
さらに、紫外線の照射下において、機能性画線印刷物(1)を傾けて観察した場合は、機能性凸状画線(4a)の傾斜に応じて、隠ぺい性画線群(5)が強調された第二の模様の一部のみ視認されるように画像が変化する。これらの指感性、可視画像、発光画像、画像変化による相乗効果により、高い偽造防止効果を提供することができる。
【0030】
(原理)
次に、本発明の機能性画線印刷物(1)の原理について説明する。
図6は、
図3(a)のAA´断面図の一部を拡大した図である。
図6(a)に示すように、観察光源が可視光においては、第一の材料(6)は発光しないため、機能性凸状画線(4a)と、機能性凸状画線(4a)上の隠ぺい性画線(5a)の色差がΔE1で視認される。一方、
図6(b)に示すように、照射光源が紫外線の場合は、第一の材料(6)が発光し、機能性凸状画線(4a)の明度が上がり、隠ぺい性画線(5a)が明度を抑える関係となるため、色差がΔE2で視認される。ΔE2はΔE1より大きいことが好ましく、第一の材料(6)の粒径、配合割合、及び機能性凸状画線(4a)の高さ等によって、適宜調整することができる。色差は、ΔE≧1.5程度で異なる色相であると認識できる。
【0031】
図7は、本発明の機能性画線印刷物(1)の観察角度と視認画像の関係を示した図である。
図7(a)に示すように、機能性凸状画線(4a)は、厚みのある画線で形成されるため、機能性凸状画線(4a)上に形成される隠ぺい性画線(5a)の位置によって、観察角度で視認できる画像が異なる。所定の波長下の観察角度(A1)では、機能性凸状画線(4a)上に積層した隠ぺい性画線(5a-L1)により形成された、
図7(b)に示す第二の模様の一部が視認される。観察角度(A2)からは、隠ぺい性画線(5a-L1、5a-L2、5a-L3)により形成された、
図7(c)に示す第二の模様が視認される。観察角度(A3)からは、隠ぺい性画線(5a-L3)により形成された、
図7(d)に示す第二の模様の一部が視認される。
【0032】
なお、第二のインキは、一種類のみではなく、第一のインキの光学特性を減衰又は遮へいできるものであれば複数使用することが可能である。これにより、前述の隠ぺい性画線(5a-L1、5a-L2、5a-L3)を見える色相の第二のインキで形成すれば、観察角度(A1、A2、A3)により、異なる色相の画像に視認することができる。
【0033】
(第二の実施の形態)
次に、第一の光学特性を奏する第一の材料(6)として、赤外透過顔料を配合した第一のインキにより機能性凸状画線群(4)を形成し、第二の光学特性を奏する第二の材料として、赤外線吸収顔料を配合した第二のインキにより隠ぺい性画線群(5)を形成した構成について説明する。なお、第一の実施の形態と同様な構成は省略し、異なる個所のみ記載する。
【0034】
本第二の実施の形態は、第一の光学特性として、所定の波長である赤外線を透過(以下、「赤外透過」という。)する特性が挙げられる。第一の光学特性を奏する第一の材料(6)としては、照射光である赤外線を透過し、可視光にて着色されて見える特性を持つ材料が選ばれる。
【0035】
第一の材料(6)は、赤外線を透過する材料であれば特に限定されず、無機顔料、有機顔料等の一般的な赤外透過性着色顔料、赤外透過性着色染料を使用することができる。市販品としては、ファストイエローG(Yellow-1)、ジスアゾイエローAAA(Yellow-12)、ナフトールカーミンFB(red-5)、ナフトールレッドFGR(red-112)、フタロシアニンブルー(α型、不安定系)(blue-15:1)、ファストスカイブルー(blue-17:1)、アニリンブラック(Black-1)、炭酸カルシウム(white-18)、硫酸バリウム(white-21)などが挙げられる。
【0036】
本第二の実施の形態の第二の光学特性を奏する第二の材料とは、第一のインキの第一の光学特性を減衰又は遮へいする特性として、所定の波長である赤外線を吸収する材料(以下、「赤外吸収顔料」という。)がある。赤外吸収顔料としては、鉄、銅、クロム、コバルト、ニッケルなどの遷移金属化合物及び錯体を用いることができる。また、前述の材料は、複数使用してもよい。
【0037】
(効果)
本第二の実施の形態の機能性画線印刷物(1)は、可視光下においては、印刷画像(3)を機能性凸状画線群(4)と隠ぺい性画線群(5)が合成された第一の模様として視認することができる。
【0038】
また、赤外線照射下においては、機能性凸状画線群(4)が赤外線を透過し不可視となり、隠ぺい性画線群(5)は、赤外線を吸収し可視状態となることから、第一の光学特性と第二の光学特性が合成されることによって、機能性凸状画線群(4)と隠ぺい性画線群(5)の間に強いコントラストが生じ、赤外線カメラの観察により印刷画像(3)における隠ぺい性画線群(5)を強調して視認できる。
【0039】
さらに、赤外線の照射下において、機能性画線印刷物(1)を傾けて観察した場合は、機能性凸状画線(4a)の傾斜に応じて、隠ぺい性画線群(5)が強調された第二の模様の一部のみ視認されるように画像が変化する。
【0040】
(第三の実施の形態)
次に、第一の光学特性を奏する機能性凸状画線群(4)の配列の位相の一部をずらして背景部(7)と模様部(8)を形成し、当該機能性凸状画線群(4)に第二の光学特性を奏する隠ぺい性画線群(5)を積層した構成について説明する。なお、本第三の実施の形態では、紫外励起可視発光する第一のインキにより機能性凸状画線群(4)を形成し、可視発光を吸収する顔料を使用した第二のインキにより、隠ぺい性画線群(5)を形成した例であり、その他の第一の実施の形態と第二の実施の形態と同様な構成は省略し、異なる個所のみ記載する。
【0041】
図8は、本第三の実施の形態における印刷画像(3)の構成を示す図である。印刷画像(3)は、背景部(7)と模様部(8)から成る機能性凸状画線群(4)と、機能性凸状画線群(4)に積層した隠ぺい性画線群(5)から成る。
【0042】
図9は、機能性凸状画線群(4)と隠ぺい性画線群(5)の関係を示す図である。機能性凸状画線群(4)における背景部(7)は、第一の方向(S1)に第一のピッチ(P1)で機能性凸状画線(4a)を複数配置した構成であり、一部において位相が異なることで、背景部(7)と模様部(8)に区分けされている。隠ぺい性画線群(5)は、第一の方向(S1)、かつ、第一のピッチ(P1)により隠ぺい性画線(5a)を複数配置した構成であり、機能性凸状画線群(4)の第一の位相から成る背景部(7)及び第二の位相から成る模様部(8)上に積層される。なお、本第三の実施の形態では、隠ぺい性画線(5a)を機能性凸状画線(4a)と同一の第一のピッチ(P1)で形成しているが、異なる第二のピッチで形成してもよく、複数の異なるピッチで形成してもよい。
【0043】
機能性凸状画線群(4)の第一の位相から成る背景部(7)において、隠ぺい性画線群(5)は、機能性凸状画線群(4)の頂点位置に隠ぺい性画線(5)が積層されているのに対し、第二の位相から成る模様部(8)においては、機能性凸状画線群(4)の頂点からずれた位置に隠ぺい性画線(5)が積層されている。
【0044】
図10は、第一のピッチ(P1)について説明する図である。第一のピッチ(P1)は、第一の方向(S1)における画線幅(W)と画線間隔(T)の和である。機能性凸状画線群(4)と隠ぺい性画線群(5)の画線幅(W)が異なる場合には、画線間隔(T)を調整することで、同じ第一のピッチ(P1)とすることができる。
【0045】
(効果)
本第三の実施の形態は、機能性凸状画線群(4)を構成する背景部(7)と模様部(8)の位相のズレに応じて、紫外線照射下において、印刷画像(3)を傾けて観察することで、背景部(7)と区分けされた模様部(8)を潜像画像として視認することができる。
【0046】
なお、本第三の実施の形態においては、機能性凸状画線群(4)に二つの異なる位相を設けたが、機能性凸状画線群(4)と隠ぺい性画線群(5)の関係において、二以上の異なる位相とすればよく、隠ぺい性画線群(5)に位相差を設けても構わない。また、機能性凸状画線群(4)と隠ぺい性画線群(5)の角度やピッチをわずかにずらすことで、モアレ現象による階調変化も表現することができる。
【0047】
(実施例)
次に、本発明の機能性画線印刷物(1)について、
図1から
図3を用いて詳細に説明する。なお、本発明は、本実施例により限定されるものではない。
【0048】
基材(2)は、表面光沢度が、光沢度計(BYK製_マイクロトリグロス)にて85°光沢度が8.2であり、Beck式平滑性が、145秒である上質紙を用いた。
【0049】
第一のインキは、30℃において粘度が1.0Pa・sの紫外線硬化樹脂に、インキ全量中にアルミベースの金属反射顔料であるクロマシャイン(東洋アルミニウム製)を10重量%配合した光輝性インキと、第一の光学特性を奏する第一の材料として、市販の蛍光メジウム(BESTCURE UV蛍光メジウムR_株式会社 T&K TOKA製)を90:10で混合して、スクリーンインキを作製した。
【0050】
前述の第一のインキにより、基材(2)上にスクリーン印刷にて機能性凸状画線群(4)を印刷した後、UV照射(メタルハライドランプ_積算光量100mJ/cm2)で硬化させた。スクリーン印刷においては、スクリーン版面は、250メッシュを用いた。また、スクリーン印刷による機能性凸状画線群(4)の画線設計は、画線幅600μmとした。得られた機能性凸状画線(4a)の画線高さは、20μmであった。
【0051】
その後、機能性凸状画線群(4)上にオフセット印刷にて隠ぺい性画線群(5)を重ね刷りした後、UV照射(メタルハライドランプ_積算光量100mJ/cm2)で硬化させ、本発明の機能性画線領域(3)を作製した。オフセット印刷において、オフセット版面はドライオフセット用樹脂版面を用いた。第二のインキであるオフセットインキは、紫外線硬化型インキ(UVカートンLマゼンタ_株式会社 T&K TOKA製)を用いた。オフセット印刷による隠ぺい性画線(5)の画線設計は、最小画線幅100μmとした。
【0052】
得られた機能性画線印刷物(1)は、機能性凸状画線群(4)による指感性を確認することができた。また、可視光下においては、印刷画像(3)を機能性凸状画線群(4)と隠ぺい性画線群(5)が合成された第一の模様を視認することができた。
【0053】
また、紫外線の照射下においては、機能性凸状画線群(4)が可視発光と、隠ぺい性画線群(5)が当該可視発光を吸収することによって、印刷画像(3)における機能性凸状画線群(4)と隠ぺい性画線群(5)の間に強いコントラストが生じることによって、隠ぺい性画線群(5)が強調された第二の模様を視認することができた。
【0054】
さらに、紫外線の照射下において、機能性画線印刷物(1)を傾けて観察した場合は、機能性凸状画線(4a)の傾斜に応じて、隠ぺい性画線群(5)の第二の模様が強調された一部のみ視認されるように画像が変化することを確認できた。
【符号の説明】
【0055】
1 機能性画線印刷物
2 基材
3 印刷画像
4 機能性凸状画線
5 隠ぺい性画線
6 機能性顔料
7 背景部
8 模様部