(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】衣付き油ちょう食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 5/10 20160101AFI20240813BHJP
A23L 7/157 20160101ALI20240813BHJP
A23L 13/50 20160101ALN20240813BHJP
【FI】
A23L5/10 E
A23L7/157
A23L13/50
(21)【出願番号】P 2019557349
(86)(22)【出願日】2018-11-30
(86)【国際出願番号】 JP2018044155
(87)【国際公開番号】W WO2019107538
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2021-05-26
【審判番号】
【審判請求日】2023-01-30
(31)【優先権主張番号】P 2017230448
(32)【優先日】2017-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】398012306
【氏名又は名称】株式会社日清製粉ウェルナ
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】樋渡 総一郎
【合議体】
【審判長】植前 充司
【審判官】天野 宏樹
【審判官】松本 陶子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-181425(JP,A)
【文献】特開2000-262249(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のバッター液を付着させた具材を油ちょうすることと、該油ちょうした具材に、該油ちょうした具材100質量部に対して8~20質量部の第2のバッター液を付着させて油ちょうすることとを含み、該第2のバッター液の原料粉における小麦粉の含有量が15質量%以下であ
り、かつ該第2のバッター液の原料粉が澱粉類を60質量%以上含有する、衣付き油ちょう食品の製造方法。
【請求項2】
前記第2のバッター液に含まれる小麦粉の量が7.5質量%以下である、請求項
1記載の方法。
【請求項3】
前記第2のバッター液に含まれる澱粉の量が20質量%以上である、請求項
1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記第2のバッター液が膨張剤を含む、請求項1~
3のいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣付き油ちょう食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
衣付き油ちょう食品は、一般に、具材に直接、又は下味や打ち粉をつけた具材に、衣材を付着させ、それを油ちょうすることによって製造される。衣材としては、粉末状のもの(ブレダー)、液体状のもの(バッター)など多様なものが用いられる。衣付き油ちょう食品の例としては、ブレダーを付着した具材を油ちょうして製造する唐揚げ、バッターを付着した具材を油ちょうして製造する天ぷら、バッターを付着後の具材にパン粉を付着して油ちょうすることで製造するフライ等が代表的なものである。衣付き油ちょう食品は、衣のサクサクした食感と、衣に覆われた状態で加熱されて旨味が凝縮された具材の食味とが相まった特有の味わいが好まれる食品である。一方、油ちょう後の時間の経過とともに具材の水分が衣に移行してしまい、該特有の味わいが損なわれることが、衣付き油ちょう食品の欠点である。
【0003】
上記衣付き油ちょう食品の欠点の改善に関し、これまでに種々の提案がなされている。特許文献1には、油ちょうした竜田揚げの表面に澱粉を付着させ、さらに水を付着させ、再度油ちょうする竜田揚げの製造方法により、油ちょう後時間が経過した場合にも粉吹き感及び衣の食感に優れる竜田揚げが得られることが記載されている。特許文献2には、具材に、具材のみずみずしさを保持する機能を持つ1次バッターをつけて油ちょう後、小麦粉を主体とし、サクミを保持する機能を持つ2次バッターをつけて油ちょうするフライ済食品の製造方法により、時間が経っても揚げたてと遜色ない風味や食感を有するフライ済食品が得られることが記載されている。特許文献3には、油ちょうした天ぷらを温水に浸漬するか温水をかけ、衣表層部の油を除去するとともに衣に水分を補給し、次いでこれを卵白液又は溶き粉水溶液でコーティングして凍結保存する冷凍天ぷらの製造方法、及びこれを二次油ちょう又はレンジ加熱して食することが記載されている。特許文献4には、鶏肉に乾燥した第1の衣材、次いで液状の第2の衣材を付着させた後油ちょうし、得られた鶏唐揚げに液状の味付け材料を付着させて凍結する鶏唐揚げの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-024053号公報
【文献】特開2000-262249号公報
【文献】特開平10-257860号公報
【文献】特開2013-017400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
油ちょうから時間が経過しても、衣のサクミのある食感を維持することができる衣付き油ちょう食品が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、具材に第1のバッター液を付着させて1次油ちょうし、次いでこれに第2のバッター液を付着させて2次油ちょうすることによる衣付き油ちょう食品の製造方法において、該第2のバッター液を小麦粉の含有量の少ないものとすることにより、油ちょうから時間が経過しても衣のサクミのある食感を有する衣付き油ちょう食品が得られることを見出した。
【0007】
したがって、本発明は、第1のバッター液を付着させた具材を油ちょうすることと、該油ちょうした具材に、小麦粉の含有量の少ない第2のバッター液を付着させて油ちょうすることとを含む、衣付き油ちょう食品の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により製造された衣付き油ちょう食品は、冷蔵又は加温条件で長時間保存した場合にも、油ちょう直後と同様に衣にサクミのある良好な食感を有する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の衣付き油ちょう食品の製造方法においては、第1バッター液及び第2バッター液の2種類のバッター液を、この順に衣材として用いて、それぞれのバッター液を付着させるごとに具材を油ちょうする。より詳細には、本発明による衣付き油ちょう食品の製造方法においては、具材に第1のバッター液を付着させて1次油ちょうし、1次衣を有する油ちょう済み具材を得た後、これに第2のバッター液を付着させて2次油ちょうして、衣付き油ちょう食品を得る。該第2バッター液としては、小麦粉の含有量の少ないバッター液が用いられる。
【0010】
本発明の方法において、衣付き油ちょう食品の具材としては、肉類、魚介類、野菜類等が挙げられ、特に限定されない。当該具材には、下記第1バッター液を付着させる前に、必要に応じて予め下味や打ち粉が付けられていてもよい。
【0011】
本発明で用いる第1バッター液としては、衣付き油ちょう食品に通常用いられるバッター液を利用することができる。好適には、該第1バッター液は、穀粉や澱粉類を主成分とする原料粉を含有する。当該穀粉としては、小麦粉、米粉等が挙げられ、当該澱粉類としては、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ等の澱粉(未加工澱粉)、前記澱粉に加工処理を施した加工澱粉が挙げられる。さらに該原料粉は、油脂類、粉乳、色素、香料、食塩、乳化剤、乾燥全卵、乾燥卵黄、乾燥卵白、植物蛋白、小麦グルテン粉末、増粘剤、卵殻カルシウム、酵素、呈味剤、香辛料、糖類、膨張剤等の油ちょう食品用バッター液に通常用いられる材料を適宜含有することができる。
【0012】
当該第1バッター液は、例えば、上記の第1バッター液の原料粉と、水、さらに必要に応じて液卵、乳などとを混合し、好ましくはさらに均一な状態になるまで攪拌することにより、得ることができる。該水としては、調理に通常使用される水、例えば水道水、イオン水、電解水等、及びそれらの混合物を用いることができる。
【0013】
当該第1バッター液中の上記原料粉と水との質量比は、該原料粉100質量部に対して、水が100~250質量部、好ましくは120~200質量部である。該第1バッター液の粘度は、BM型粘度計(東機産業株式会社製)での測定で、室温(25℃)で、好ましくは500~5000mPa・s、より好ましくは1000~4000mPa・sである。該第1バッター液の具材に対する付着量は、限定ではないが、具材100質量部に対して、好ましくは5~15質量部程度、より好ましくは8~12質量部程度である。
【0014】
本発明の方法においては、当該第1バッター液を付着させた具材を油ちょうする(1次油ちょう)。これにより、該第1バッター液から形成された1次衣を有する、油ちょうした具材を得る。当該油ちょうの温度や時間は、具材の種類に応じた一般的な手順に従えばよい。例えば、深さ10cm程度の油槽に揚げ油を満たし、油温160~180℃程度で第1バッター液を付着させた具材を浸漬させ、油ちょうを行えばよい。当該油ちょうした具材は、後述する第2のバッター液を付着させる前に、通常の手順に従って油を切っておくとよい。
【0015】
次いで、当該油ちょうした具材に、第2のバッター液を付着させる。本発明の方法においては、該第2のバッター液を付着させる前の該油ちょうした具材に対して、蒸したり、水に漬けたり、加熱したり、熱や風で乾燥させるなどの特別な処理を行う必要はない。また、該油ちょうした具材は、該第2のバッター液を付着させる前に冷蔵又は冷凍保存される必要はない。
【0016】
本発明で用いる第2バッター液は、小麦粉の含有量が少ないことを特徴とする。該第2バッター液の原料粉における小麦粉の含有量は、好ましくは15質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは7質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。なお好ましくは、該第2バッター液は小麦粉を含まない。該第2バッター液における小麦粉の含有量が多くなると、得られる衣付き油ちょう食品の衣が硬い食感となり、特に冷蔵保存したときの食感が著しく低下する。
【0017】
好ましくは、本発明で用いる第2バッター液は、澱粉類を主体とする原料粉から調製される。該第2バッター液の原料粉に含まれる澱粉類としては、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ等の澱粉(未加工澱粉)、及びこれらの澱粉にアセチル化、エーテル化、架橋、酸化、α化等の処理を施した加工澱粉からなる群より選択される1種又は2種以上が挙げられる。該第2バッター液の原料粉における該澱粉類の合計含有量は、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。
【0018】
当該第2バッター液の原料粉には、当該澱粉類及び小麦粉以外に、必要に応じて、衣付き油ちょう食品の製造に通常用いられるその他の材料、例えば、米粉、大麦、ライムギ等の小麦粉以外の穀粉、砂糖等の糖類、油脂類、粉乳、色素、香料、食塩、乳化剤、乾燥全卵、乾燥卵黄、乾燥卵白、グルテン等の植物蛋白、膨張剤、増粘剤、卵殻カルシウム、酵素、呈味剤、香辛料等を、所望する衣付き油ちょう食品の品質に応じて適宜含有していてもよい。好ましくは、該第2バッター液の原料粉は膨張剤を含有する。膨張剤としては、重曹、及びベーキングパウダーやイスパタ等の重曹を含む公知の膨張剤を使用することができる。該第2バッター液の原料粉中における膨張剤の含有量は、好ましくは0.1~1.0質量%である。
【0019】
当該第2バッター液は、上記第1のバッター液と同様の手順で調製することができる。すなわち、第2バッター液は、上記の第2バッター液の原料粉と水、さらに必要に応じて液卵、乳などとを混合し、好ましくはさらに均一な状態になるまで攪拌することにより、得ることができる。該原料粉と混合する水の種類や質量比、該第2バッター液の好ましい粘度の条件等は、前記の第1バッター液の場合と同様である。したがって、該第2バッター液に含まれる小麦粉の量は、好ましくは7.5質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは1.5質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下である。なお好ましくは、該第2バッター液は小麦粉を含まない。また、該第2バッター液中に含まれる澱粉類の量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは35質量%以上である。
【0020】
当該第1バッター液を付着させて油ちょうした具材に対する、当該第2バッター液の付着量は、当該油ちょうした具材(好ましくは通常の手順で油切りした後の該具材)100質量部に対して、好ましくは5~25質量部程度、より好ましくは8~20質量部程度、より好ましくは10~17質量部程度である。
【0021】
次いで、当該第2バッター液を付着させた具材を油ちょうする(2次油ちょう)。これにより、1次衣の上に該第2バッター液から形成された2次衣を有する、衣付き油ちょう食品が製造される。該2次油ちょうの温度や時間は、上述した1次油ちょうの場合と同様、具材の種類に応じた一般的な手順に従えばよい。
【0022】
当該2次油ちょうの前に、当該第2バッター液を付着させた具材の上から、さらにパン粉等のブレダーを付着させてもよい。ただし、該ブレダーの適用により、得られた衣付き油ちょう食品の衣の食感が硬くなる傾向がある。好ましくは、本発明の方法においては、該第2バッター液を付着させた具材にはさらなる衣材を付着させない。
【0023】
以上のとおり、本発明によれば、第1のバッター液を付着させ油ちょうした具材に対して、さらに特定の第2のバッター液の付着と油ちょうを施すことにより、サクミのある衣の食感を長時間維持することができる衣付き油ちょう食品を製造することができる。一方、通常のバッター液を重ね付して2度揚げした食品は、衣が厚くなったり、硬い食感になりやすい。また、第2バッター液の代わりにブレダー等の粉末状の衣材を用いた場合、又は粉末状の衣材と水を別々に具材に適用した場合には、充分な衣のサクミ改善効果は得られない。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0025】
(試験例1)
(製造例1~4、比較例1~3)
表1に示す材料を混合して、第1バッター液及び第2バッター液をそれぞれ調製した。とり手羽(1個約25g)に打ち粉をした後、第1バッター液にくぐらせて付着させ、170℃に熱したサラダ油で2分間1次油ちょうした。1次油ちょうしたとり手羽を、油切り後秤量し、次いで第2バッター液にくぐらせ、表1の量で第2バッター液を油ちょうしたとり手羽に付着させた。これを170℃に熱したサラダ油で1分間2次油ちょうし、とり手羽の揚げ物を製造した。
【0026】
(比較例4)
製造例3と同様の手順で、ただし第2バッター液の代わりに原料粉の組成は同じで水を含まない衣材を用いてとり手羽の揚げ物を製造した。すなわち、製造例3と同様にして1次油ちょうして油切りしたとり手羽を得、これに表1の組成の水を含まない衣材をまぶして付着させ、次いで表面に水を噴霧した後、製造例3と同様に2次油ちょうしてとり手羽の揚げ物を製造した。
【0027】
(衣の食感の評価)
揚げたてのとり手羽の揚げ物の衣の食感を、訓練された10名のパネラーにより下記評価基準で評価し、10名の平均点を求めた。さらに、冷蔵庫で12時間保管後、電子レンジで600W、25秒間再加熱したとり手羽の揚げ物の食感を、同様に評価した。それらの結果を表1に示す。
(評価基準)
5 衣が非常にサクサクとし、極めて良好
4 衣がサクサクとしており、良好
3 衣がややサクサク感に欠ける
2 衣がややしっとりしており、サクサク感に乏しい
1 衣がしっとりしてサクサク感がなく、不良
【0028】
【0029】
(試験例2)
第2バッター液の組成を表2のように変えた以外は、製造例2と同様にとり手羽の揚げ物を製造した。これを試験例1と同様に評価した。その結果を表2に示す。なお表2には製造例2の結果を再掲する。
【0030】
【0031】
(試験例3)
第2バッター液の付着量を表3のように変えた以外は、製造例2と同様の手順でとり手羽の揚げ物を製造した。これを試験例1と同様に評価した。その結果を表3に示す。なお表3には製造例2の結果を再掲する。
【0032】