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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】シート状食品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 19/00 20160101AFI20240813BHJP
   A23L 7/10 20160101ALI20240813BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20240813BHJP
【FI】
A23L19/00 Z
A23L7/10 H
A23L19/00 A
A23L5/00 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020094250
(22)【出願日】2020-05-29
(65)【公開番号】P2021185822
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】株式会社ニップン
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】野上 亮佑
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 裕樹
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-512119(JP,A)
【文献】特開2018-130061(JP,A)
【文献】特開昭64-016563(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主材として野菜及び/または果物ペーストを含み、かつ糖アルコールを含むペースト状原料を乾燥してなるシート状食品であって、前記ペースト状原料が、野菜及び/または果 物ペーストの合計質量100質量部に対し、糖アルコールを5~15質量部含み、かつ、 増粘剤及びゲル化剤を含まない、上記シート状食品
【請求項6】
野菜及び/または果物ペーストと、糖アルコールとを含むペースト状原料を製造し、前記ペースト状原料を乾燥することを含み、前記ペースト状原料が、野菜及び/または果物 ペーストの合計質量100質量部に対し、糖アルコールを5~15質量部含み、かつ、増 粘剤及びゲル化剤を含まない、請求項1~5のいずれか一項に記載のシート状食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野菜及び/または果物のシート状食品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、野菜や果物(以下、野菜等ともいう)を原料としたシート状食品が市場に流通している。このようなシート状食品は、野菜等本来の栄養成分、風味及び色味等を有しているため、例えば海苔や生春巻きの皮の代わりに使用したり、細かく裁断して料理にトッピングしたりすること等によって、料理に彩りを簡単に付与することができ、喫食時には野菜等の風味を楽しむことができ、野菜等の栄養成分を摂取することもできる。
【0003】
しかしながら、野菜や果物には水分が多く含まれているため、単にミンチやペースト状にしたものを御簾あるいは簾に載せて乾かすのみでは、ひびわれなどが生じやすく、纏まりのあるしなやかなシート状食品を製造することは難しい。
従来このような野菜や果物のシート状食品の製造方法として、酵素共存下に野菜や果物をボイルする方法が報告されている(特許文献1)。この方法によると、酵素の作用により得られたシート状食品にしなやかさが付与されるものの、繊維組織の分解が進んでおり、全体がドロドロになりかえってシートがせんべいのように固くなってしまうという欠点がある。
また、機能保持性ならびに食感に優れた野菜シートを提供するために、野菜の組織内水分の一定割合以上をトレハロース溶液で置換して乾燥する方法が知られているが、野菜の繊維質が残り、歯ざわり、舌触り、口どけなどのテクスチャーに問題がある(特許文献2)。
結着剤(バインダー)として小麦粉、ヤマイモ、海藻等を利用したものが知られているが、小麦粉はアレルゲンであるため好ましくなく、また海藻はスペック(暗色の微小片あるいは異物)の原因となり、野菜シートの外観に影響を与えてしまう問題がある(特許文献3)。
歯ざわり、舌ざわり、口どけなどのテクスチャーに優れた野菜シートの開発のため海藻由来多糖類をバインダーとして利用したものがある(特許文献4)が、乾燥後の製品の物性が野菜シートに含まれる水分量に依存するため、製造の安定性に不安があった。
多価アルコールと天然多糖類との混合物を作製し、これを食品素材と混合してシート状食品を製造した旨の報告がある(特許文献5)。しかし、多価アルコールと天然多糖類との混合物を食品素材に対して過剰に使用するため、野菜や果物の本来の風味を有するシート状食品が得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-56340号公報
【文献】特開2002-45143号公報
【文献】特開2013-188152号公報
【文献】特開2013-102708号公報
【文献】特開昭63-28380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、野菜や果物などを原料としたペーストから製造するシート状食品であって、乾燥後にも野菜及び果物の本来持つ風味や色調を損なうことなく、かつ柔軟性を持ち合わせたシート状食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ニンジンやカボチャ、タマネギ等を使用した野菜及び/またはリンゴなどの果物を原料としたシート状食品を製造する際に、糖アルコールを添加することにより、乾燥後のシート状食品の原料由来の風味及び色調を損なうことなく、かつ柔軟性に優れた野菜及び果物シートが得られることを見いだした。糖アルコールは野菜及び果物シート内で柔軟性付与剤として機能し、シートを柔らかくすると考えられる。これにより食感が改良され、さらにおにぎりや巻きずしなどの加工品への適用が容易になった。
本発明は、以下の態様を包含する。
[1] 主材として野菜及び/または果物ペーストを含み、かつ糖アルコールを含むペースト状原料を乾燥してなるシート状食品。
[2] ペースト状原料が、野菜及び/または果物ペーストの合計質量100質量部に対し、糖アルコールを0.05~20質量部含む、[1]記載のシート状食品。
[3] 野菜ペーストが、根菜類、土物類、葉茎菜類、果菜類、マメ科野菜類、及びイネ科野菜類からなる群より選択される少なくとも一種の野菜のペーストである、[1]または[2]記載のシート状食品。
[4] 果物ペーストが、落葉性果樹、及び常緑性果樹からなる群より選択される少なくとも一種の果物のペーストである、[1]~[3]のいずれかに記載のシート状食品。
[5] 糖アルコールが、グリセリン、ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、ラクチトール、マルチトール、ボレミトール、及びトレイトールからなる群より選択される、[1]~[4]のいずれかに記載のシート状食品。
[6] 野菜及び/または果物ペーストと、糖アルコールとを含むペースト状原料を製造し、前記ペースト状原料を乾燥することを含む、[1]~[5]のいずれかに記載のシート状食品の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、従来シート状食品とすることが難しかった糖度が多い野菜や果物あるいは繊維量が不十分な野菜や果物のシート状食品を提供することができる。
本発明においてグリセリンを添加したことによる効果は以下の通りになる。
本発明の野菜及び/または果物のシート状食品は、柔軟性があり、歯切れがよくなり、食感が改良される
本発明の野菜及び/または果物のシート状食品は、柔軟性に優れており、加工品への用途適性を向上させる。また様々な用途に用いることができる。
本発明の野菜及び/または果物のシート状食品は、野菜及び果物シートの水分活性を低くすることができるため、シート状食品の保存性を高めることが可能である。
乾燥によりひびを生じやすい野菜及び果物シートのひび防止効果がある
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】野菜シートの柔軟性の評価方法の模式図である。
図2】対照例1のグリセリン非添加のニンジンペーストから製造したシート状食品の外観写真である。
図3】対照例1のグリセリン非添加のニンジンペーストから製造したシート状食品の柔軟性評価時の写真である。
図4】実施例1のグリセリン0.5質量部添加したニンジンペーストから製造したシート状食品の外観写真である。
図5】実施例1のグリセリン0.5質量部添加したニンジンペーストから製造したシート状食品の柔軟性評価時の写真である。
図6】実施例3のグリセリン10質量部添加したニンジンペーストから製造したシート状食品の外観写真である。
図7】実施例3のグリセリン10質量部添加したニンジンペーストから製造したシート状食品の柔軟性評価時の写真である。
図8】グリセリンの添加量によるシートの乾燥時の水分値の変遷を示したグラフである。
図9】対照例4のグリセリン非添加のケールペーストから製造したシート状食品の外観写真である。
図10】実施例13のグリセリン添加のケールペーストから製造したシート状食品の外観写真である。
図11】実施例13のグリセリン添加のケールペーストから製造したシート状食品の柔軟性を示す写真である。
図12】実施例17のグリセリン添加のリンゴペーストから製造したシート状食品の外観写真である。
図13】実施例17のグリセリン添加のリンゴペーストから製造したシート状食品の柔軟性を示す写真である。
図14】対照例2の糖アルコール非添加のニンジンペーストから製造したシート状食品の柔軟性評価時の写真である。
図15】実施例3のグリセリン添加のニンジンペーストから製造したシート状食品の柔軟性評価時の写真である。
図16】実施例18のソルビトール添加のニンジンペーストから製造したシート状食品の柔軟性評価時の写真である。
図17】実施例19のエリスリトール添加のニンジンペーストから製造したシート状食品の柔軟性評価時の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のシート状食品は、主材として野菜及び/または果物のペーストを含み、さらに糖アルコールを含むペースト状原料を乾燥してなるものである。
本明細書において野菜ペーストの「野菜」原料は特に限定されず、ニンジンやダイコン等の根菜類、タマネギやジャガイモ等の土物類、ケールやホウレンソウ等の葉茎菜類、カボチャやトマト等の果菜類、グリンピースやサヤエンドウ等のマメ科野菜類、トウモロコシやベビーコーン等のイネ科野菜類が挙げられる。好ましくは、ニンジン、カボチャ、ジャガイモ、タマネギ、コーンが挙げられる。より好ましくはニンジン、カボチャであり、最も好ましくはニンジンである。野菜原料は好ましくはペースト化の前に洗浄、皮をむく、不要な根や葉を除去するなどの前処理を行う。
【0010】
本明細書において果物ペーストの「果物」原料は特に限定されず、りんごやなし等の仁果類、モモやさくらんぼ等の核果類などの落葉性果樹、みかん等の柑橘類を含む常緑性果樹が挙げられる。好ましくは、りんご、なし、バナナが挙げられる。果物原料は好ましくはペースト化の前に洗浄、皮をむく、不要なへたや種子を除去するなどの前処理を行う。
上記野菜ペーストと果物ペーストは混合して用いてもよく、野菜と果物を破砕前後において混合した後ペーストを作製してもよい。
【0011】
本明細書において、「糖アルコール」は以下を意味する。糖アルコールとはアルドース及びケトースの還元基が還元されて生成する糖質である。具体的にはグリセリン、ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、ラクチトール、マルチトールなどが挙げられる。また、融点が120℃~180℃の糖アルコールとしては、エリスリトール(融点121℃)、ラクチトール(融点146℃)、ボレミトール(融点152~153℃)等、融点が80~120℃の糖アルコールとしては、キシリトール(融点92~96℃)、ソルビトール(融点95℃)、トレイトール(融点88~90℃)等、融点が90℃以下の糖アルコールとしてはグリセリン(融点17.8℃)が含まれる。
糖アルコールは、シート状食品に柔軟性を与え、一方で原料の野菜や果物の風味や色を損なわないという観点から、ペースト状原料中の野菜及び/または果物ペーストの合計質量100質量部に対し、0.05~20質量部含むことが好ましい。0.1~15質量部であることがより好ましく、0.3~10質量部であることがさらに好ましく、0.5~7質量部であることがよりさらに好ましい。
【0012】
本発明のシート状食品は、野菜及び/または果物のペーストを主材として製造される。「主材として」とは、「糖アルコール」を除き、シート形成のための主たる原材料であることを意味する。本明細書において「主たる」とはペースト状原料の全質量に対し、50質量%以上(例えば60質量%以上あるいは70質量%以上)を意味する。本発明において、「ペースト」は、加熱または非加熱の野菜及び/または果物を破砕または摩砕することにより得られるものである。
【0013】
「ペースト」の製造(ペースト化とも呼ぶ)は、「ペースト化装置」と呼ばれる装置を用いて行うことができる。「ペースト化装置」は、野菜等をペースト化できる公知の装置であれば制限無く使用可能である。磨石式(砥石式)、切刃式、胴搗式、媒体攪拌式、圧縮式、衝撃式、すり潰式等の装置及びそれらの組合せを例示することができる。好ましくは磨石式又は切刃式装置であり、最も好ましくは切刃式装置である。切刃式装置としては、市販されているカッターミキサーを使用することができる。
【0014】
ペースト化の条件は、目的のシート状食品の厚さ等のスペックに応じたペースト状原料の粒度や粘度、野菜等原料の種類や事前の処理方法、あるいは用いるペースト化装置の種類等によって適宜変更することが可能である、例えばニンジン等をカッターミキサーで処理する場合、1000~2500rpmで30秒~3分間処理する事によりペースト化することが出来る。
【0015】
ペースト中の固形分の大きさ(粒度ともいう)は、目的のシート状食品を製造するのに適切な程度に小さくなっていることが好ましい。粒度は、シートの見た目や乾燥が均一に行えることからより細かい方が好ましく、ペーストをバット上に薄く均一に広げた時、粒状物が目視できない程度が良い。
シート状食品の乾燥を均一に行うことができる観点からは、粒度は2000μm以下であることが好ましく、1000μm以下であることがより好ましい。上記粒度の下限値は特に限定されないが、例えば100μm以上であることが好ましい。上記粒度は、上記ペースト化の条件を調節することで調整することができる。上記粒度は、以下の要領に従って判断することができる。
まず、ペーストを任意の目開きをもつステンレス篩にかけ、篩上で濾す。濾したのちに篩上に残っているペーストをステンレス篩の目開きよりも大きい粒度のペースト、篩を通ったペーストを目開き以下の細かい粒度のペーストとして扱う。
【0016】
本発明において、ペースト化装置に供する野菜等は、事前に任意の大きさに切断し、熱水中又は蒸気中で加熱することが好ましい。例えばニンジンペーストであれば、ニンジンを洗浄後カットして熱水中で加熱してから、ペースト化装置(例えばミキサー)を用いて細かく砕くことによって製造できる。なお、加熱工程を省略し、生の野菜ペーストを用いることもできる。
【0017】
本発明のシート状食品は、野菜及び/または果物ペーストと糖アルコールとを含むペースト状原料を薄く延ばし、乾燥させることによって製造することができる。例えば、野菜ペーストを金属板やプラスチック板の上に置いた枠内に流し込み乾燥することによって、野菜シートが得られる。自動海苔製造機の海苔簾上で乾燥させることもできる。
ペースト状原料には、水、炭水化物(澱粉、糖アルコール、野菜粉末、穀粉、糖類)、脂質(粉末油脂)、植物性蛋白質(小麦蛋白、大豆蛋白)、動物性蛋白質(乳蛋白、卵蛋白)、調味料、香辛料等を、シート状食品の性状に影響を与えない程度において添加してもよい。
本発明のシート状食品の大きさ(サイズ)や厚さは、目的により適宜変えることができるものであるが、例えば、縦50mm×横50mm~縦1000mm×横1000mmで、厚さ0.2~5mm程度のものを製造することができる。
【実施例
【0018】
製造例1 野菜及び果物ペーストの作製(にんじん、ケール、タマネギ、ジャガイモ、かぼちゃ、リンゴ)
野菜や果物を洗浄後、皮をむき乱切りし、沸騰水中で15分間加熱した後、カッターミキサーを用いて2000rpmで3分間処理しペーストを得た。
【0019】
製造例2 野菜ペーストの作製(コーン)
野菜を洗浄後、沸騰水中で15分間加熱した後、カッターミキサーを用いて2000rpmで3分間処理し野菜ペーストを得た。
【0020】
製造例3 シート状食品の製造方法
ペーストとグリセリンを任意の配合割合で混合し、型枠(210mm×190mm)をのせた海苔簾上に混合済みのペーストを200g塗布した。型枠を外して50℃で6時間乾燥を行い、海苔簾からはがしとることで0.45mmの厚さの野菜シートを得た。
【0021】
試験例1. グリセリンの効果の検証
製造例3に従い、表1の配合割合で野菜シートを得た。
得られた野菜シートは、重量、水分値、水分活性、柔軟性を測定し、官能評価を行った。
柔軟性は、得られたニンジンシート(幅210mm×奥行190mm)を幅方向の左側5cm、右側16cmの位置に合わせて棚の水平面の辺縁部に置き、右側をガイドに沿って下方に押し曲げた際に棚の水平面と平行なラインを基準として、ニンジンシートが割れた時点での角度を測定することで評価した。90°折り曲げても割れない場合は「>90°」とした。角度が大きいほど、柔軟性に優れた野菜シートの配合として評価を行った。図1に測定方法の模式図を示す。
水分値の測定にはニシハツ産業株式会社製の海苔水分計NS、水分活性の測定にはnovasina社製の水分活性測定装置Lab MASTER-aw BASICを使用した。
また、官能評価は10名の熟練パネラーによって表2の基準に従い評価を行い、平均値を表3に示した。なお、グリセリンを混合せずニンジンペーストのみで作製したシートの風味を5点、食感を2点とした(対照例1)。評価の結果は風味において3点以上の場合、及び食感において2点を超える場合を本発明による改良効果が見られたと判断した。
【0022】
表1.グリセリンを配合した野菜シートの水分値、水分活性、柔軟性
【0023】
グリセリンを添加しなかった対照例1の配合では、乾燥後表面に割れがみられた。柔軟性を評価したところ、12°程度押し下げた時点でシートが割れる結果となった(図2~3)。
これに対して、グリセリンを野菜ペースト100質量部に対して0.5質量部添加した実施例1の配合では表面の割れはなく、柔軟性評価でも、60°まで押し下げることができた(図4~5)。上記結果よりグリセリンを添加することで、野菜シートの割れを抑制し、かつ柔軟性を付与できることが分かった。さらにグリセリンの添加量が10質量部を超えると、野菜シートは割れもなく折りたためるほどの柔軟性を有した(図6~7)。
また、グリセリンを添加することで水分活性を抑える効果も見られた。乾燥させた野菜及び果物シートの柔軟性を維持するためには水分値を高く保つ必要があったが、含有水分量が多くなるため、保存性の面で問題があった。これに対して、水分が担っていた柔軟性維持の機能をグリセリンが代替することで水分活性を低く抑えることができた。
【0024】
表2.評価基準
【0025】
表3.グリセリンの配合比率の食味への影響
【0026】
官能評価では、グリセリンを添加した野菜シートは優位なスコアとなった。表1や図2~7の結果同様グリセリンの添加量が多いもので使いやすい評価を得た。ただし、グリセリンの添加量が野菜ペースト100質量部に対して、20質量部を超えると野菜シートの表面がグリセリンによりべたべたとした質感となった。
風味については、グリセリンの添加量を増やしていくとグリセリンの甘味と野菜の風味がほどよく組み合わさるようになり、一定の水準を超えると徐々に野菜の風味が弱まりグリセリンのえぐみが顕著に目立つ傾向にあった。
また、食感についてはグリセリンの添加量を増やしていくと、バリバリとした食感からしっとりとした歯切れのよい食感となり、一定水準を超えるとねちゃねちゃした食感へと推移した。
野菜及び果物シートにおいては、原料ペースト100質量部に対して20質量部を超えると野菜シートの表面がべたべたしてくる結果となった。上記表1及び表3の結果より、グリセリン添加量が野菜ペースト100質量部に対して0.1~20質量部で使用することができ、特に0.5~15質量部の間において柔軟性に優れ、かつ食味の良い野菜シートの製造ができることが分かった。
【0027】
試験例2.乾燥時の野菜シートの水分値の変化
乾燥時間を変化させた(4時間、5時間、6時間、24時間)以外は製造例3に従って、表4の配合割合で野菜シートを製造し、水分量を測定した。24時間乾燥させた野菜シートは、さらに室温で6時間静置した後にも水分量を測定した。
野菜及び果物シートの柔軟性はシート自体の持つ水分値に大きく依存しており、乾燥温湿度・乾燥時間の管理が品質に大きく影響を与える。また、シート状食品の乾燥では熱を受けやすい外周部から内部に向けて乾燥していく。そのため中心部と外周部の乾燥度合いが均一にならなかった。シート全体を乾燥させる場合に、乾燥時の水分発散のカーブが緩やかとなり、かつ過乾燥時に到達する水分値が高い配合とすることで製造安定性が得られると考えた。
試験例2では乾燥時の水分値の変化を追うことで製造の安定性を評価した。なお、シート状食品の水分値の測定には、ニシハツ産業株式会社製の海苔水分計NSを使用しており、既定の時間乾燥させた野菜シートを海苔簾より剥離し、四隅の水分値を4点測定し、平均値を測定値とした。
【0028】
表4.グリセリン添加量の差による乾燥時の水分値の変化
【0029】
乾燥時の水分値推移の結果は表4及び図8の通りである。
いずれの条件でもシート中心部の乾燥まで4時間程度の時間を要し、ペースト100質量部に対しグリセリンを15質量部添加したものでは5時間を要した。グリセリンを添加していないものでは、乾燥開始4時間後の水分値は7.2質量%となり、過乾燥にしていくと徐々にシート水分値が落ちていき、最終的に4.3質量%まで落ちた。常温下で静置すると若干の水分戻りの現象が見られた。これに対してグリセリンを添加したものでは、シート全体の乾燥後での水分値は添加していないものよりも高く、グリセリンの添加量に比例してその値が高くなった。これはグリセリンの保水能により、乾燥時の水分飛散が緩和した結果と考えられた。また、過乾燥の条件で乾燥させた場合においても一定水準を維持することができた。
【0030】
試験例3.いろいろな野菜を原料とした野菜シート
ニンジン以外の野菜と果物のペーストにグリセリンを添加した場合においてもニンジンのように効果が得られるのかを検証した。表5-1及び5-2に記載の野菜ペースト(又は果物ペースト)とグリセリンの配合割合にした以外は、製造例3に従い、野菜シート(又は果物シート)を製造した。試験例1と同様に柔軟性、風味、食感を評価した。評価の結果は表5-1及び5-2に示す
【0031】
表5-1 野菜・果物シートでのグリセリンの効果
【0032】
表5-2
【0033】
図9~11にはニンジン以外の野菜を活用したシート状食品の例として、ケールをシート状に成型をしたもの、図12、13は果物を活用したシート状食品の例としてリンゴをシート状に成型したものを挙げた。
ケールは葉物野菜であり、乾燥後はバリバリした性状となる。ケール単体では、シート状に成型をしても割れやすく折り曲げることが困難である。これに対して、ペースト100質量部に対して5質量部のグリセリンを添加したケールシートは非常に柔軟性に優れ、表面を割ることなく折り曲げることができるシートとなった。
コーン、タマネギ、ジャガイモ、かぼちゃの野菜を使用したシートに関しても同様な傾向にあり、グリセリンを添加した野菜シートにおいて、添加をしていないものと比較し、顕著に柔軟性に優れたシート状食品とすることができた。また、グリセリンを添加することでグリセリンのもつ甘味が野菜の風味と融和し、程よい食味となった。この効果はケールシートにおいて顕著に効果が表れており、ケール本来の持つ苦みをマスキングする効果が見られた。食感については、グリセリンを配合することで程よい柔軟性を持ち、歯切れを良くする傾向も見られた。
なお、野菜に限らず糖度の高い果物にも同様な傾向が見られた。
リンゴペーストを用いて作製したシート状食品ではグリセリンを添加していないものではリンゴの持つ糖が固まることにより固結した板状の食品になってしまったのに対し、グリセリンを添加したものでは、柔軟性が顕著に向上し、柔らかく噛みやすい食感となった。
【0034】
試験例4.糖アルコールの種類
グリセリン以外の糖アルコールをニンジンペーストに添加した場合においても同様の効果が得られるのかを検証した。表6に記載のニンジンペーストと糖アルコールの配合割合にした以外は、製造例3に従い、野菜シートを製造した。試験例1と同様に柔軟性、風味、食感を評価した。評価の結果は表6に示す。
【0035】
表6 糖アルコールの効果
【0036】
糖アルコールを添加した場合に、乾燥後の野菜シートは柔軟性が付与されていた(表6及び図14~17。その効果はグリセリンに限らず、ソルビトールやエリスリトールを添加したシートにおいても同様な結果が得られた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17