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  • 特許-コアレスモータ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】コアレスモータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/02 20060101AFI20240813BHJP
   H02K 3/04 20060101ALI20240813BHJP
   H01F 5/00 20060101ALI20240813BHJP
   H02K 3/47 20060101ALI20240813BHJP
【FI】
H02K3/02
H02K3/04 E
H01F5/00 F
H02K3/47
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021511973
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2020013912
(87)【国際公開番号】W WO2020203726
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-01-24
(31)【優先権主張番号】P 2019068758
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】會澤 英樹
(72)【発明者】
【氏名】山下 智
(72)【発明者】
【氏名】三好 一富
【審査官】服部 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-208973(JP,A)
【文献】特開2009-183012(JP,A)
【文献】特開2012-010583(JP,A)
【文献】特開2004-215473(JP,A)
【文献】特開2006-100039(JP,A)
【文献】特開2016-111795(JP,A)
【文献】特開2013-069562(JP,A)
【文献】実開昭58-146318(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/02
H02K 3/04
H01F 5/00
H02K 3/47
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、該回転軸に取り付けられた回転板と、該回転板に支持されたコイルとを備えるコアレスモータであって、
前記コイルは、複数のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ線材と、前記カーボンナノチューブ線材を絶縁被覆する絶縁層を有する被覆層と、からなるカーボンナノチューブ電線からなり、
前記カーボンナノチューブ電線は、長さ12cmのカーボンナノチューブ電線の両端からそれぞれ1cmの部分を冶具ではさみ、水平な状態で100gfの張力で10分間保持して、一端の冶具のみを外し反対側の末端がもう一端の末端から1cm以上下がるものが20%以下であり、
前記カーボンナノチューブ線材を構成するカーボンナノチューブの配向度が5°以上30°以下であることを特徴とするコアレスモータ。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブ電線の前記被覆層は、前記絶縁層のみから構成されていることを特徴とする請求項1に記載のコアレスモータ。
【請求項3】
前記被覆層は、厚さが0.015mm以上であることを特徴とする請求項2に記載のコアレスモータ。
【請求項4】
前記被覆層の厚さが、0.015mm以上0.15mm以下であることを特徴とする請求項2に記載のコアレスモータ。
【請求項5】
前記被覆層の厚さが、0.015mm以上0.08mm以下であることを特徴とする請求項2に記載のコアレスモータ。
【請求項6】
前記被覆層の厚さが、0.015mm以上0.035mm以下であることを特徴とする請求項2に記載のコアレスモータ。
【請求項7】
前記カーボンナノチューブ電線の前記被覆層は、内層の前記絶縁層と、外層の融着層とから構成されていることを特徴とする請求項1に記載のコアレスモータ。
【請求項8】
前記絶縁層は、厚さが0.003mm以上であることを特徴とする請求項7に記載のコアレスモータ。
【請求項9】
前記絶縁層は、厚さが0.003mm以上0.015mm未満であることを特徴とする請求項7に記載のコアレスモータ。
【請求項10】
前記カーボンナノチューブ電線は、金属線材を含むことを特徴とする請求項1に記載のコアレスモータ。
【請求項11】
前記カーボンナノチューブ電線は、前記カーボンナノチューブ線材と前記金属線材とを被覆する被覆層を有し、
前記被覆層は前記絶縁層を有し、
前記絶縁層は厚さが0.003mm以上であることを特徴とする請求項10に記載のコアレスモータ。
【請求項12】
前記絶縁層は、厚さが0.003mm以上0.015mm未満であることを特徴とする請求項10に記載のコアレスモータ。
【請求項13】
前記コイルは、60wt%以上のカーボンナノチューブ電線を有することを特徴とする請求項1から12のいずれか一項に記載のコアレスモータ。
【請求項14】
前記カーボンナノチューブ線材を構成するカーボンナノチューブのバンドルの平均長さが3μm以上であることを特徴とする請求項1から13のいずれか一項に記載のコアレスモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ線材を使用したコアレスモータに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や産業機器などの様々な分野における電力線や信号線として、一又は複数の線材からなる芯線と、該芯線を被覆する絶縁被覆とからなる電線が用いられている。芯線を構成する線材としては、電気特性の観点から銅又は銅合金などの金属製の線材が一般に使用されている。例えば、近年軽量化モータの用途としてニーズが高まっている、鉄心を有しないコアレスモータにおいては、コイル巻線として銅等の金属製の線材が使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、金属製の線材をコイル巻線として使用する場合、コアレスモータの軽量化の観点からは線材の重量に関して依然課題があり、従来の銅等の金属線に代わる線材が望まれている。このような要請に対して、例えば、カーボンナノチューブを線材として活用する技術が提案されている。カーボンナノチューブは、その比重が銅の比重の約1/5(アルミニウムの比重の約1/2)であり、且つ電気抵抗率が銅(電気抵抗率1.68×10-6Ω・cm)よりも小さく高い導電性を示す。したがって、コアレスモータのコイル巻線としてカーボンナノチューブを撚り合わせてカーボンナノチューブ線材を使用することにより、当該線材を活用したコアレスモータの小型化、軽量化及び高導電性化を実現することが期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-208973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、カーボンナノチューブ線材は金属製の線材と比較して剛性が低い。このため、カーボンナノチューブ線材をコイル巻線として使用する場合には、コイル巻線としての形状保持に関して課題があった。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、コイル巻線としての形状保持性に優れ且つ放熱特性にも優れたカーボンナノチューブ線材を有するコアレスモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、上記課題は以下の発明により達成される。
(1)回転軸と、該回転軸に取り付けられた回転板と、該回転板に支持されたコイルとを備えるコアレスモータであって、前記コイルは、複数のカーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ線材と、前記カーボンナノチューブ線材を絶縁被覆する絶縁層を有する被覆層と、からなるカーボンナノチューブ電線からなり、前記カーボンナノチューブ電線は、長さ12cmのカーボンナノチューブ電線の両端からそれぞれ1cmの部分を冶具ではさみ、水平な状態で100gfの張力で10分間保持して、一端の冶具のみを外し反対側の末端がもう一端の末端から1cm以上下がるものが20%以下であることを特徴とするコアレスモータ。
(2)前記カーボンナノチューブ電線の前記被覆層は、前記絶縁層のみから構成されていることを特徴とする上記(1)に記載のコアレスモータ。
(3)前記被覆層は、厚さが0.015mm以上であることを特徴とする上記(2)に記載のコアレスモータ。
(4)前記被覆層の厚さが、0.015mm以上0.15mm以下であることを特徴とする上記(2)に記載のコアレスモータ。
(5)前記被覆層の厚さが、0.015mm以上0.08mm以下であることを特徴とする上記(2)に記載のコアレスモータ。
(6)前記被覆層の厚さが、0.015mm以上0.035mm以下であることを特徴とする上記(2)に記載のコアレスモータ。
(7)前記カーボンナノチューブ電線の前記被覆層は、内層の前記絶縁層と、外層の融着層とから構成されていることを特徴とする上記(1)に記載のコアレスモータ。
(8)前記絶縁層は、厚さが0.003mm以上であることを特徴とする上記(7)に記載のコアレスモータ。
(9)前記絶縁層は、厚さが0.003mm以上0.015mm未満であることを特徴とする上記(7)に記載のコアレスモータ。
(10)前記カーボンナノチューブ電線は、金属線材を含むことを特徴とする上記(1)に記載のコアレスモータ。
(11)前記カーボンナノチューブ電線は、前記カーボンナノチューブ線材と前記金属線材とを被覆する被覆層を有し、前記被覆層は前記絶縁層を有し、前記絶縁層は厚さが0.003mm以上であることを特徴とする上記(10)に記載のコアレスモータ。
(12)前記絶縁層は、厚さが0.003mm以上0.015mm未満であることを特徴とする上記(10)に記載のコアレスモータ。
(13)前記コイルは、60wt%以上のカーボンナノチューブ電線を有することを特徴とする上記(1)~(12)のいずれかに記載のコアレスモータ。
(14)前記カーボンナノチューブ線材を構成するカーボンナノチューブの配向度が30°以下であることを特徴とする上記(1)~(13)のいずれかに記載のコアレスモータ。
(15)前記カーボンナノチューブ線材を構成するカーボンナノチューブのバンドルの平均長さが3μm以上であることを特徴とする上記(1)~(14)のいずれかに記載のコアレスモータ。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る態様によれば、形状保持性と放熱特性に優れたカーボンナノチューブ電線を使用したコアレスモータを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施の形態に係るコアレスモータの側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下に示す実施の形態は一つの例示であり、本発明の範囲において、種々の形態をとり得る。
<コアレスモータの構成>
図1を用いて、本実施の形態に係るコアレスモータの構成について説明する。
コアレスモータ1は、回転軸10と、回転板20と、コイル30と、磁石40とを有する。回転板20は、円形状であり、その中心部に回転軸10が取り付けられている。コイル30は、円筒状であり、その一端側が回転板20により片持ち支持されている。磁石40は、回転軸10とコイル30との間に設けられている。なお本実施の形態においては、コアレスモータ1が有する代表的な構成のみを示しており、コアレスモータ1はこれ以外の構成を含んでいてもよい。
【0011】
コイル30は、カーボンナノチューブ(以下、CNTという)からなるCNT線材と、CNT線材の外周を被覆する被覆層とを有するCNT電線によって構成されている。以下に、CNT電線を構成するCNT線材及び被覆層について説明する。
(CNT線材)
CNT線材は、1層以上の層構造を有するカーボンナノチューブ(以下、CNTという)が複数束ねられてなるCNT束同士を撚り合わせることによって構成されている。CNT線材1の外径は、例えば、0.01~5mmである。CNT線材1は、CNT束に異種元素がドープされてなるカーボンナノチューブ複合体を複数撚り合わせることにより構成されてもよい。ここで、CNT線材とはCNTの割合が90質量%以上のCNT線材を意味する。なお、CNT線材におけるCNT割合の算定においては、メッキとドーパントは除かれる。CNT素線11の長手方向が、CNT線材10の長手方向を形成しているため、CNT素線11は線状となっている。
【0012】
ここでCNTは、単層構造又は複層構造を有する筒状体であり、それぞれSWNT(single-walled nanotube)、MWNT(multi-walled nanotube)と呼ばれる。例えば、2層構造を有するCNTは、六角形格子の網目構造を有する2つの筒状体が略同軸で配された3次元網目構造体となっており、DWNT(double-walled nanotube)と呼ばれる。構成単位である六角形格子は、その頂点に炭素原子が配された六員環であり、他の六員環と隣接してこれらが連続的に結合している。
【0013】
CNTの性質は、上記のような筒状体のカイラリティ(chirality)に依存する。カイラリティは、アームチェア型、ジグザグ型、及びそれ以外のカイラル型に大別され、アームチェア型は金属性、カイラル型は半導体性、ジグザグ型はその中間の挙動を示す。よってCNTの導電性はいずれのカイラリティを有するかによって大きく異なり、CNT集合体の導電性を向上させるには、金属性の挙動を示すアームチェア型のCNTの割合を増大させることが重要とされてきた。一方、半導体性を有するカイラル型のCNTに電子供与性もしくは電子受容性を持つ物質(異種元素)をドープすることにより、金属的挙動を示すことが分かっている。また、一般的な金属では、異種元素をドープすることによって金属内部での伝導電子の散乱が起こって導電性が低下するが、これと同様に、金属性CNTに異種元素をドープした場合には、導電性の低下を引き起こす。
【0014】
このように、金属性CNT及び半導体性CNTへのドーピング効果は、導電性の観点からはトレードオフの関係にあると言えることから、理論的には金属性CNTと半導体性CNTとを別個に作製し、半導体性CNTにのみドーピング処理を施した後、これらを組み合わせることが望ましい。しかし、現状の製法技術では金属性CNTと半導体性CNTとを選択的に作り分けることは困難であり、金属性CNTと半導体性CNTが混在した状態で作製される。このため、金属性CNTと半導体性CNTの混合物からなるCNT線材の導電性を向上させるには、異種元素・分子によるドーピング処理が効果的となるCNT構造を選択することが好ましい。
【0015】
複数のCNTの集合体で構成されるCNT束において、複数のCNTの個数に対する、2層構造又は3層構造を有するCNTの個数の和の比率が50%以上であるのが好ましく、75%以上であるのがより好ましい。すなわち、一のCNT束を構成する全CNTの総数をNTOTAL、上記全CNTのうち2層構造を有するCNT(2)の数の和をNCNT(2)、上記全CNTのうち3層構造を有するCNT(3)の数の和をNCNT(3)としたとき、下記式(1)で表すことができる。
【0016】
(NCNT(2)+NCNT(3))/NTOTAL×100(%)≧50(%)・・・(1)
2層構造又は3層構造のような層数が少ないCNTは、それより層数の多いCNTよりも比較的導電性が高い。また、ドーパントは、CNTの最内層の内部、もしくは複数のCNTで形成されるCNT間の隙間に導入される。CNTの層間距離はグラファイトの層間距離である0.335nmと同等であり、多層CNTの場合その層間にドーパントが入り込むことはサイズ的に困難である。このことからドーピング効果はCNTの内部および外部にドーパントが導入されることで発現するが、多層CNTの場合は最外層および最内層に接していない内部に位置するチューブのドープ効果が発現しにくくなる。以上のような理由により、複層構造のCNTにそれぞれドーピング処理を施した際には、2層構造又は3層構造を有するCNTでのドーピング効果が最も高い。また、ドーパントは、強い求電子性もしくは求核性を示す、反応性の高い試薬であることが多い。単層構造のCNTは多層よりも剛性が弱く、耐薬品性に劣るためにドーピング処理を施すと、CNT自体の構造が破壊されてしまうことがある。よって本発明ではCNT集合体に含まれる2層構造又は3層構造を有するCNTの個数に着目する。また、2層又は3層構造のCNTの個数の和の比率が50%未満であると、単層構造又は4層構造を有するCNTの比率が高くなり、CNT集合体全体としてドーピング効果が小さくなり、高導電率が得にくくなる。よって、2層又は3層構造のCNTの個数の和の比率を上記範囲内の値とする。
【0017】
CNTにドープされるドーパントは、導電性が向上すれば特に限定はないが、例えば硝酸、硫酸、ヨウ素、臭素、カリウム、ナトリウム、ホウ素及び窒素からなる群から選択される1つ以上の異種元素もしくは分子である。
【0018】
また、CNT束を構成するCNTの最外層の外径は5.0nm以下であることが好ましい。CNT束を構成するCNTの最外層の外径が5.0nmを超えると、CNT間および最内層の隙間に起因する空孔率が大きくなり、導電性が低下してしまうため、好ましくない。したがって、CNT束を構成するCNTの最外層の外径を5.0nm以下とする。
【0019】
コアレスモータ1のコイル30に適用されるCNTは、その配向度(アジマス角)が30°以下であることが好ましい。CNTの配向度が30°以下であれば、CNTが揃い、CNT線材の剛性が高まり、コアレスモーターの形状保持性が向上する。さらに、CNT電線としての放熱性の観点から、CNTの配向度は5°以上30°以下であることがより好ましい。
【0020】
CNTの配向度は、例えば、以下の方法により測定する。すなわち、収束イオンビーム(FIB)を用いてCNT線材の断面方向に50μm厚に薄くスライスする。次いで、小角X線散乱装置を用いて、このスライス片の面に対して垂直方向にX線を入射し、得られた散乱ピークのアジマスプロット(方位角)をガウス関数もしくはローレンツ関数でフィッティングし、アジマス角の半値幅Δθを測定する。
【0021】
また、コアレスモータ1のコイル30に適用されるCNTは、そのバンドルの平均長さが3μm以上であることが好ましい。CNTのバンドルの平均長さが3μm以上であれば、CNT電線が高い放熱性を発現する。CNTのバンドルの平均長さは、CNT電線としての放熱性の観点から、5μm以上がより好ましく、7μm以上がさらに好ましい。
【0022】
上記CNTの配向度とバンドルの平均長さの好適な組み合わせとしては、CNT電線としての放熱性の観点から、配向度が30°以下であり且つバンドルの平均長さが3μm以上である場合が好ましく、配向度が25°以下であり且つバンドルの平均長さが5μm以上である場合がより好ましく、配向度が20°以下であり且つバンドルの平均長さが7μm以上である場合がさらに好ましい。
【0023】
CNT電線は、長さ12cmのカーボンナノチューブ電線の両端からそれぞれ1cmの部分を冶具ではさみ、水平な状態で100gfの張力で10分間保持して、一端の冶具のみを外し反対側の末端がもう一端の末端から1cm以上下がるものが20%以下である特徴を有する。このようなCNT電線であれば、コアレスモータ1のコイル30として優れた形状保持性と放熱特性を発現する。また、長さ12cmのカーボンナノチューブ電線の両端からそれぞれ1cmの部分を冶具ではさみ、水平な状態で100gfの張力で10分間保持して、一端の冶具のみを外し反対側の末端がもう一端の末端から1cm以上下がるものが5%以上であることが好ましい。カーボンナノチューブ線材の柔軟性が担保されコイル30の作成時の巻き付けにおける作業性が向上するためである。
【0024】
CNT電線は、コイル30全体の重量に対して60wt%以上含まれることが好ましい。CNT電線が60wt%以上である場合には、コアレスモータ1におけるCNT電線の放熱性、及び加速特性に関して優れた性能を発現することができる。コイル30に含まれるCNT電線の割合は、75wt%以上がより好ましく、90wt%以上がさらに好ましい。
【0025】
また、CNT電線は、CNT線材のみからなる構成だけでなく、金属線材を含む構成であってもよい。金属線材としては、例えば、銅(Cu)、銅合金、アルミニウム(Al)、アルミニウム合金等が挙げられる。
(被覆層)
被覆層は、CNT線材の外周に形成され、CNT線材を絶縁被覆する絶縁層を有する。絶縁層は、樹脂材料からなり、例えば、熱可塑性樹脂によって形成される。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリアミド、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、エチレンテレフタレート単位、ブチレンテレフタレート単位を各々主体とした共重合ポリエステル等)、ポリカーボネート、ポリアセタールを等があげられ、これらは適宜ブレンド、変性して用いることもできる。
【0026】
被覆層が絶縁層のみで構成される場合には、絶縁層の厚さが0.015mm以上であることが好ましい。ここで絶縁層のみとしたのは、後述する、絶縁層と、融着層との違いを明確化するためであり、絶縁層は、樹脂材料以外の添加剤、フィラー材、CNT線材と絶縁層を接着する接着層等他の材料を含んでいてもよい。絶縁層の厚さが0.015mm未満であると、絶縁層としての剛性が低く、CNT電線がコイル30として形状保持するために十分な剛性を発現することができないため好ましくない。一方、絶縁層の厚さが0.015mm以上であれば、コアレスモータ1のコイル30として十分な形状保持性を有するCNT電線を得ることができる。また、形状保持性に加えて、コアレスモータ1として要求される放熱性の観点から、絶縁層の厚さは、0.015mm以上0.15mm以下であることがより好ましい。さらに、形状保持性及び放熱性に加えて、コアレスモータ1として要求される加速特性の観点から、絶縁層の厚さは、0.015mm以上0.08mm以下であることがより好ましく、0.015mm以上0.035mm以下であることがさらに好ましい。
【0027】
なお、CNT線材を被覆する絶縁層の厚さは、金属製の線材を被覆する絶縁層の厚さよりも大きく設定することができる。Cu(銅)等の金属はCNTと比較して熱伝導性の異方性が小さく、発生した熱が樹脂である絶縁層に伝達しやすい。このため金属製の線材を用いた電線は、CNT線材と同等の厚さの絶縁層であってもCNT電線と比較して放熱性に劣る。したがって、CNT電線は、金属製の線材と比較して厚さがより大きい絶縁層であっても、良好な放熱性を発現することができる。
【0028】
被覆層が絶縁層と絶縁層より外層となる融着層とから構成される場合には、絶縁層の厚さが0.003mm以上であることが好ましい。絶縁層の厚さが0.003mm未満であると、絶縁層としての剛性が低く、CNT電線がコイル30として形状保持するために有効な剛性を発現することができないため好ましくない。一方、絶縁層の厚さが0.003mm以上であれば、コアレスモータ1のコイル30として有効な形状保持性を有するCNT電線を得ることができる。また、形状保持性に加えて、コアレスモータ1として要求される放熱性の観点から、絶縁層の厚さは、0.003mm以上0.015mm未満であることがより好ましい。
【0029】
融着層は、例えば、ポリアミドイミドから構成される。融着層の厚さは0.001mm以上0.02mm以下であることが好ましい。
【0030】
また、CNT電線の導体がCNT線材の補助線材として金属線を含む場合には、絶縁層の厚さが0.003mm以上であることが好ましい。絶縁層の厚さが0.003mm未満であると、絶縁層としての剛性が低く、CNT電線がコイル30として形状保持するために有効な剛性を発現することができないため好ましくない。一方、絶縁層の厚さが0.003mm以上であれば、コアレスモータ1のコイル30として有効な形状保持性を有するCNT電線を得ることができる。また、形状保持性に加えて、コアレスモータ1として要求される放熱性の観点から、絶縁層の厚さは、0.003mm以上0.015mm未満であることがより好ましい。
【0031】
また、補助線材として金属線を用いる場合、金属線の直径は0.02mm~1mmであることが好ましい。金属線の直径が0.02mm未満であると形状保持性が不十分である。1mmより大きくなると小型のモータでコイルの巻き数を増やすことが難しくなりコアレスモータの特性が低下する。さらに、金属線はCNT電線に対して0.1wt以上50wt%未満であることが好ましい。金属線のCNT電線に対する重量割合が0.1wt%未満であると形状保持性が不十分であり、50wt%以上になるとコイルが重くなってしまう。
【0032】
またCNT線材としての剛性を向上させるには、CNT線の密度を向上させる、結晶性を向上させることなど、複数の要素が関係している。例えば、密度であれば1.3g/cm以上であることが好ましく、CNT線材を構成するCNT集合体自体の密度を向上させても良く、CNT線材を構成する素線撚り度を向上させてもよい。特に、CNT線材の撚り度は100T/M以上であることが好ましい。線材の撚り度が100T/M以上であることによりCNT線材を構成する素線が密に詰まり線材の強度が向上する、また、線材の撚り度が500T/M以下であることによりCNT電線の形状加工性と両立させることができる。さらに、CNT線材の撚り度は100T/M以上300T/M以下であることがより好ましい。線材の撚り度は100T/M以上300T/M以下であることにより樹脂が食い込みやすく、樹脂を被覆した状態のCNT線材としての剛性を均一にすることができる。
結晶性としては、G/D比が50以上であることが好ましい。線材のG/D比が50以上であることによりアモルファスカーボンが少なくCNT電線として有効なコシを発現することができるためである。
【実施例
【0033】
以下、本発明の実施の形態に係る実施例について説明する。なお以下の実施例は、本発明に係る態様を説明する例示にすぎず、本発明は当該実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
コイルを構成する電線が、外径が0.05mm、撚り本数が4本のCNT線材であり、撚り度が100T/M、厚さが0.02mm(絶縁層厚さ/線材外径との比0.4)のポリブチレンテレフタレート(PBT)からなる絶縁層を有するCNT電線をコイルとするコアレスモータを作製した。
(実施例2)
絶縁層の厚さが0.04mm(絶縁層厚さ/線材外径との比0.8)であること以外は、実施例1と同様である。
(実施例3)
絶縁層の厚さが0.1mm(絶縁層厚さ/線材外径との比2.0)であること以外は、実施例1と同様である。
(実施例4)
絶縁層の厚さが0.2mm(絶縁層厚さ/線材外径との比4.0)であること以外は、実施例1と同様である。
(実施例5)
厚さが0.004mm(絶縁層厚さ/線材外径との比0.08)であり、ポリウレタンと融着層からなる絶縁層を有するCNT電線を用いること以外は、実施例1と同様である。なお、本実施例の電線は、線材の外層に厚さ0.002mmのポリウレタン層が形成され、さらにその外層に厚さ0.002mmのポリアミドイミドからなる自己融着層が形成されている。
(実施例6)
線材の外層に厚さ0.005mmのポリウレタン層が形成され、さらにその外層に厚さ0.005mmのポリアミドイミドからなる自己融着層が形成されていること以外は、実施例5と同じである。
(実施例7)
コイルを構成する電線が、外径が0.05mm、撚り本数が3本のCNT線材と外径が0.05mm、撚り本数が1本のCu(銅)線材とから構成される線材であり、厚さが0.01mm(絶縁層厚さ/線材外径との比0.2)のポリプロピレン(PP)からなる絶縁層を有するCNT電線をコイルとするコアレスモータを作製した。
(比較例1)
厚さが0.01mm(絶縁層厚さ/線材外径との比0.2)であり、ポリプロピレン(PP)からなる絶縁層を有するCNT電線を用いること以外は、実施例1と同様である。
(比較例2)
絶縁層がPBTからなること以外は、比較例1と同様である。
(比較例3)
外径が0.1mm、撚り本数が1本のCu(銅)線材と、厚さが0.01mm(絶縁層厚さ/線材外径との比0.2)のポリプロピレン(PP)からなる絶縁層を有する電線をコイルとするコアレスモータを作製した。
【0034】
なお、上記実施例1~7及び比較例1~2に使用したCNT線材としては、配向度が5~30°であり且つバンドルの平均長さが3μm以上のものを使用した。
【0035】
次に、下記の方法によって接続構造の特性を評価した。
(a)CNT電線の形状保持性
長さ12cmのCNT電線の両端からそれぞれ1cmの部分を冶具ではさみ、水平な状態で100gfの張力で、10分間保持した。続いて、一端の冶具のみを外し、当該一端の端末が反対側の末端に対して下がった距離を測定した。10本同様の試験を行い、1cm以上下がるものがなければ「◎」、1cm以上下がるものが1~2本であれば「○」、1cm以上下がるものが3本以上であれば「×」とし、「◎」又は「〇」であれば形状保持性が優れていると評価した。なお形状保持性は、「◎」が最も優れており、次いで「〇」が優れていると評価した。
(b)CNT電線の放熱性
コイルに0.5Aの電流を流したときにコイルの温度が100℃になるまでの時間を計測した。計測時間が100秒以上の場合は「◎」、50~100秒の場合は「○」、20~50秒の場合は「△」、20秒未満の場合には「×」とし、「◎」、「○」、「△」のいずれかの場合には放熱性に優れていると評価した。なお、放熱性は、「◎」が最も優れており、次いで「○」、「△」の順に優れていると評価した。
(c)コアレスモータの加速特性
コアレスモータに0.5Aの電流を通電した時に、回転数5000rpmに達するまでの時間を計測した。計測時間が、1秒未満の場合は「○」、1~2秒の場合は「△」、2秒を超える場合には「×」とし、「○」又は「△」の場合には加速特性に優れていると評価した。なお、加速特性は、「〇」が最も優れており、次いで「△」が優れていると評価した。
【0036】
上記実施例1~7及び比較例1~3の測定及び評価結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
表1に示すように、実施例1~7のコアレスモータにおいては、形状保持性と放熱性の評価が良好であった。
被覆層が絶縁層のみから構成されるコアレスモータに関して、被覆層の厚さが0.015mm以上0.15mm以下である実施例1~3においては、形状保持性と放熱性に加えて、加速特性の評価も良好であった。さらに、被覆層の厚さが0.015mm以上0.08mm以下である実施例1及び2においては加速特性の評価がより良好であり、被覆層の厚さが0.015mm以上0.035mm以下である実施例1においては加速特性の評価がさらに良好であった。
【0039】
また、被覆層が絶縁層と融着層とから構成されるコアレスモータに関して、絶縁層の厚さが0.003mm以上0.015mm未満である実施例5及び6においては、形状保持性と放熱性に加えて、加速特性の評価も良好であった。
【0040】
また、CNT電線に金属線材(Cu線材)が含まれるコアレスモータに関して、被覆層の厚さが、0.003mm以上0.015mm未満である実施例5及び6においては、形状保持性と放熱性に加えて、加速特性の評価も良好であった。
【0041】
一方、表1に示すように、比較例1及び2のコアレスモータにおいては、被覆層が絶縁層(PBT又はPP)のみで、被覆層の厚さが0.01mmのため、形状保持性の評価は良好ではなかった。また、比較例3のコアレスモータにおいては、電線がCNT線材ではなく、銅線材であるため、形状保持性の評価は良好であったが、放熱性と加速特性の評価において良好な評価結果が得られなかった。これは銅線材の熱伝導性の異方性が小さく、熱が被覆層側に伝達しやすくなり、外部に熱が放出されにくくなることが要因と推察される。
【符号の説明】
【0042】
1 コアレスモータ
10 回転軸
20 回転板
30 コイル
40 磁石
図1