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特許7536991加熱済み植物性ソース及び加熱済み植物性ソースの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-09
(45)【発行日】2024-08-20
(54)【発明の名称】加熱済み植物性ソース及び加熱済み植物性ソースの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 23/00 20160101AFI20240813BHJP
【FI】
A23L23/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023222218
(22)【出願日】2023-12-28
【審査請求日】2024-01-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古川 直大
(72)【発明者】
【氏名】福島 渉
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/049915(WO,A1)
【文献】特開昭61-141860(JP,A)
【文献】特許第7242956(JP,B1)
【文献】特許第7318152(JP,B1)
【文献】特開2012-249618(JP,A)
【文献】マヨネーズとサラダドレッシング, G.S.Dunn[online], 2018年12月19日(2024年04月26日検索),https://web.archive.org/web/20181219161422/http://www.gsdunn.com/japanese/?page_id=4053
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物性脂質、植物性タンパク質、糖質及び乳化剤を含む、加熱済み植物性ソースであって、
前記植物性タンパク質が、大豆を除く植物に由来するタンパク質からなり、
前記植物性脂質の含有量が、5質量%以上30質量%以下であり、
前記植物性タンパク質に対する前記糖質の質量比が、1.5以上20以下であ
前記糖質の含有量が、5質量%以上20質量%以下である、
加熱済み植物性ソース。
【請求項2】
前記植物性タンパク質の含有量が、0.5質量%以上10質量%以下である、
請求項1に記載の加熱済み植物性ソース。
【請求項3】
前記乳化剤は、乳化性澱粉、植物性原料由来のレシチン、合成乳化剤から選択される1種又は2種以上からなる、
請求項1に記載の加熱済み植物性ソース。
【請求項4】
前記加熱済み植物性ソースのpHが、4.5以上7.5以下である、
請求項1に記載の加熱済み植物性ソース。
【請求項5】
前記植物性タンパク質が、アーモンドに由来するタンパク質を含む、
請求項1に記載の加熱済み植物性ソース。
【請求項6】
クリームソース様ソースである、
請求項1に記載の加熱済み植物性ソース。
【請求項7】
レトルトソースである、
請求項1から6のいずれか一項に記載の加熱済み植物性ソース。
【請求項8】
植物性脂質、植物性タンパク質、糖質及び乳化剤を含む、加熱済み植物性ソースの製造方法であって、
前記植物性脂質、前記植物性タンパク質、前記糖質及び前記乳化剤を混合して混合物を調製する工程と、
前記混合物を加熱する工程と、を含み、
前記植物性タンパク質が、大豆を除く植物に由来するタンパク質からなり、
前記加熱済み植物性ソースにおける前記植物性脂質の含有量が、5質量%以上30質量%以下であり、
前記加熱済み植物性ソースにおける、前記植物性タンパク質に対する前記糖質の質量比が、1.5以上20以下であ
前記糖質の含有量が、5質量%以上20質量%以下である、
加熱済み植物性ソースの製造方法。
【請求項9】
前記加熱工程が、レトルト加熱する工程を含む、
請求項8に記載の加熱済み植物性ソースの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物性材料を用いた加熱済み植物性ソース及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クリームソースなどのソースは、通常、乳製品や卵等の動物性原料等を加熱して調理され、動物性脂質や動物性タンパク質等による深いコクと、加熱調理により生じる特有の香ばしい風味と、を有する。一方で、植物性食品への嗜好の高まりや食物アレルギー対策等の観点から、動物性原料を用いない、又は動物性原料の使用を制限したソースが知られている。例えば、特許文献1には、小麦及び乳原料を用いないクリーム状食品であって、原料として湿式加熱大豆、糊化ジャガイモ及び油脂を含有するクリーム状食品が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-085608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
加熱済み植物性ソースでは、一般に、動物性原料を用いた通常のソースよりもコクが感じられにくい。これに加えて、加熱済み植物性ソースでは、植物性原料特有の青臭さが感じられやすく、加熱調理による香ばしい良好な風味が感じられにくい。このため、動物性食品のようなコクが感じられ、かつ、植物性原料特有の青臭さを抑制して加熱調理による香ばしい風味が感じられる加熱済み植物性ソースが求められている。
【0005】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、動物性食品のようなコクを有し、植物性原料特有の青臭さが抑制され、かつ、加熱調理による香ばしい風味を有する加熱済み植物性ソース及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、植物性脂質、植物性タンパク質、糖質及び乳化剤を含む加熱済み植物性ソースについて鋭意研究を重ねた。その結果、植物性脂質の含有量を所定の範囲とすること、植物性タンパク質の種類を制限すること、及び植物性タンパク質に対する糖質の質量比を所定の範囲とすることで、動物性食品のようなコクを有し、植物性原料特有の青臭さが抑制され、かつ、加熱調理による香ばしい風味を有する加熱済み植物性ソースに想到し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)植物性脂質、植物性タンパク質、糖質及び乳化剤を含む、加熱済み植物性ソースであって、
前記植物性タンパク質が、大豆を除く植物に由来するタンパク質からなり、
前記植物性脂質の含有量が、5質量%以上30質量%以下であり、
前記植物性タンパク質に対する前記糖質の質量比が、1.5以上20以下である、
加熱済み植物性ソース、
(2)前記植物性タンパク質の含有量が、0.5質量%以上10質量%以下である、
(1)に記載の加熱済み植物性ソース、
(3)前記糖質の含有量が、5質量%以上20質量%以下である、
(1)又は(2)に記載の加熱済み植物性ソース、
(4)前記加熱済み植物性ソースのpHが、4.5以上7.5以下である、
(1)から(3)のいずれか一つに記載の加熱済み植物性ソース、
(5)前記植物性タンパク質が、アーモンドに由来するタンパク質を含む、
(1)から(4)のいずれか一つに記載の加熱済み植物性ソース、
(6)クリームソース様ソースである、
(1)から(5)のいずれか一つに記載の加熱済み植物性ソース、
(7)レトルトソースである、
(1)から(6)のいずれか一つに記載の加熱済み植物性ソース、
(8)植物性脂質、植物性タンパク質、糖質及び乳化剤を含む、加熱済み植物性ソースの製造方法であって、
前記植物性脂質、前記植物性タンパク質、前記糖質及び前記乳化剤を混合して混合物を調製する工程と、
前記混合物を加熱する工程と、を含み、
前記植物性タンパク質が、大豆を除く植物に由来するタンパク質からなり、
前記加熱済み植物性ソースにおける前記植物性脂質の含有量が、5質量%以上30質量%以下であり、
前記加熱済み植物性ソースにおける、前記植物性タンパク質に対する前記糖質の質量比が、1.5以上20以下である、
加熱済み植物性ソースの製造方法、
(9)前記加熱工程が、レトルト加熱する工程を含む、
(8)に記載の加熱済み植物性ソースの製造方法、
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、動物性食品のようなコクを有し、植物性原料特有の青臭さが抑制され、かつ、加熱調理により感じられる香ばしい風味を有する加熱済み植物性ソース及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明において、「含有量」とは、明記しない限り、加熱済み植物性ソース全体における含有量を意味し、理論値でも分析値でもよい。
【0010】
<加熱済み植物性ソース>
本発明の加熱済み植物性ソースは、植物性原料を用いて加熱調理されたソースである。具体的に、本発明の加熱済み植物性ソースは、植物性脂質、所定の植物性タンパク質、糖質及び乳化剤を含み、植物性脂質の含有量と、植物性タンパク質に対する糖質の質量比と、を所定の範囲に調整したものである。これにより、動物性食品のようなコクを有し、植物性原料特有の青臭さが抑制され、かつ、加熱調理による香ばしい風味を有する加熱済み植物性ソースを得ることができる。なお、本発明において、「加熱調理による香ばしい風味」とは、後述するメイラード反応由来の風味をいう。また、本発明の加熱済み植物性ソースは、例えば、パスタ、ドリア、グラタン、ラザニア、パン、肉料理、魚料理、及び野菜料理等の多様な料理に用いることができ、特にパスタ用ソースとして好適である。本発明の加熱済み植物性ソースの種類としては、例えば、クリームソース様ソース、デミグラスソース様ソース、ミートソース様ソース、トマト系ソース等が挙げられるが、これに限定されない。
【0011】
<クリームソース様ソース>
本発明の加熱済み植物性ソースは、好ましくはクリームソース様ソースであるとよい。本発明において、クリームソース様ソースは、クリームソースの代替として用いられることが可能なソースである。クリームソースは、牛乳や生クリーム等の乳成分を含有する乳化状ソースであり、白色系のクリームソースの他、チーズを含有するカルボナーラソース、コーンクリームソース等、多様なバリエーションを含む。本発明のクリームソース様ソースにより、植物性食品でありつつも、本物のクリームソースに近いコクと加熱調理による香ばしい風味とを得ることができる。
【0012】
<植物性脂質>
本発明の植物性脂質とは、植物性原料の少なくとも一部に含まれている脂質をいう。当該植物性原料は、脂質のみからなる原料(例えば食用植物油脂等)でもよいし、脂質以外の成分を含む原料でもよい。食用植物油脂としては、例えば、菜種油、コーン油、大豆油、オリーブ油、紅花油、ひまわり油、えごま油、パーム油、アマニ油等が挙げられる。植物性脂質は、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0013】
<植物性脂質の含有量>
本発明において、植物性脂質の含有量は、5質量%以上30質量%以下である。植物性脂質の含有量を5質量%以上とすることで、加熱済み植物性ソースにコクを付与することができる。また、植物性脂質の含有量を30質量%以下とすることで、加熱済み植物性ソースの油っぽさを抑制するとともに、青臭さを抑制して香ばしい風味の香り立ちを促すことができる。さらに、植物性脂質の含有量の下限は、加熱済み植物性ソースにより深いコクを付与する観点から、好ましくは7質量%以上、より好ましくは10質量%以上である。また、植物性脂質の含有量の上限は、加熱済み植物性ソースの油っぽさをより確実に抑制し、青臭さをより確実に抑制して香ばしい風味の香り立ちを促す観点から、好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。なお、加熱済み植物性ソースが複数の植物性脂質供給原料を含んでいる場合に、植物性脂質の含有量は、これら複数の植物性脂質供給原料に含まれる植物性脂質の合計の含有量とする。
【0014】
<植物性タンパク質>
本発明の植物性タンパク質とは、植物性原料の少なくとも一部に含まれているタンパク質であって、大豆を除く植物に由来するタンパク質をいう。本発明の植物性タンパク質において、大豆に由来するタンパク質の含有量はタンパク質全体の5質量%未満であり、好ましくは1質量%未満である。つまり、本発明の植物性タンパク質は、大豆に由来するタンパク質を実質的に含有しないことが好ましい。当該植物性原料は、タンパク質のみからなる原料(例えば精製タンパク質等)でもよいし、タンパク質以外の成分を含む原料でもよい。本発明者らは、多様な植物性原料による加熱時の風味について比較検討した結果、大豆に由来するタンパク質が特に青臭い風味を発しやすく、加熱調理により感じられる香ばしい風味を損ないやすいことを見出した。このため、本発明においては、大豆を除く植物に由来する植物性タンパク質を用いることで、植物性原料由来の青臭い風味を抑え、加熱調理による香ばしい風味を引き立たせることができる。本発明の植物性タンパク質の由来となる植物としては、大豆以外であれば特に限定されないが、例えば、種実類(アーモンド、落花生、チアシード、ゴマ、ピーナッツ、ピスタチオ等)、穀類(小麦、米、トウモロコシ、大麦、オートミール等)、野菜類(キャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、モロヘイヤ、ジャガイモ、山芋、長芋等)等、大豆以外の豆類(そら豆、インゲン豆、小豆、エンドウ豆、ひよこ豆等)が挙げられる。但し、豆類(マメ科植物の種子)のタンパク質は、青臭い風味を発しやすい傾向にあるため、本発明において、植物性タンパク質全体における豆類全般のタンパク質の含有量が5質量%未満であることがより好ましい。
【0015】
<アーモンドに由来するタンパク質>
本発明の植物性タンパク質は、例えば、アーモンドに由来するタンパク質を含むことが好ましく、さらに、植物性タンパク質全体におけるアーモンドに由来するタンパク質の含有割合が20質量%以上であるとより好ましい。アーモンドに由来するタンパク質は、十分なコクを有し、かつ、青臭さが少ないため、加熱済み植物性ソースに好適に用いることができる。
【0016】
<植物性タンパク質の含有量>
本発明の加熱済み植物性ソースにおける植物性タンパク質の含有量は、後述する糖質との質量比を満たすように設定されればよいが、以下のような範囲に設定されることが好ましい。植物性タンパク質の含有量の下限は、加熱済み植物性ソースにコクを付与する観点から、好ましくは0.5質量%以上であり、より好ましくは1質量%以上である。また、植物性タンパク質の含有量の上限は、青臭さを抑制し、ソースとしての粘性を維持する観点から、好ましくは10質量%以下、より好ましくは9質量%以下、さらにより好ましくは5%である。
【0017】
<糖質>
本発明において、糖質とは、炭水化物から食物繊維を除いたものをいう。本発明の糖質は、植物性原料の少なくとも一部に含まれている糖質である。当該植物性原料は、糖質のみからなる原料でもよいし、糖質以外の成分を含む原料でもよい。本発明の加熱済み植物性ソースが糖質を含むことで、加熱済み植物性ソースに甘みを付与してコクを深めるとともに、植物性タンパク質と協働してメイラード反応に由来する香ばしい風味を発生させることができる。本発明における糖質としては、例えば、単糖類、二糖類、オリゴ糖類、多糖類、糖アルコール等が挙げられる。単糖類としては、ブドウ糖、果糖等が挙げられる。二糖類としては、砂糖の主成分であるスクロース、ラクトース、トレハロース、マルトース等が挙げられる。オリゴ糖とは、単糖が三糖~十糖程度結合した糖類をいい、例えば、ラフィノース、パノース、マルトトリオース、メレジトース等の三糖類、数個のブドウ糖が環状に結合したシクロデキストリン等が挙げられる。多糖類としては、澱粉類、デキストリン等が挙げられる。糖アルコールとしては、還元澱粉糖化物、還元水あめ、アスパルテーム、エリスリトール、キシリトール、ソルビット、パラチノース等が挙げられる。これらの糖質は、1種で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらのうち、本発明の糖質は、加熱済み植物性ソースに複雑な食味を付与してコクを向上させる観点から、甘みを有する糖質を含むことが好ましく、例えば、十糖以下の糖類、糖アルコール等を含むことがより好ましい。
【0018】
<糖質の含有量>
本発明の加熱済み植物性ソースにおける糖質の含有量は、後述する植物性タンパク質との質量比を満たすように設定されればよいが、以下のような範囲に設定されることが好ましい。糖質の含有量の下限は、加熱済み植物性ソースに甘みや粘性等を付与し、かつ後述する植物性タンパク質との質量比を満たして加熱調理による香ばしい風味を得やすくする観点から、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは7質量%以上である。また、糖質の含有量の上限は、ソースとして不自然な食味や物性となることを抑制し、加熱による香ばしい風味を発生させる観点から、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下である。
【0019】
<植物性タンパク質に対する糖質の質量比>
本発明の加熱済み植物性ソースにおいて、植物性タンパク質に対する糖質の質量比は、1.5以上20以下である。当該質量比は、加熱済み植物性ソースにおける、植物性タンパク質の含有量に対する糖質の含有量の比率(糖質の含有量/植物性タンパク質の含有量)として算出することができる。当該質量比を1.5以上20以下とすることで、加熱時に糖質と植物性タンパク質によるメイラード反応を発生させ、メイラード反応による香ばしい風味を発生させることができる。また、当該質量比の下限は、メイラード反応による香ばしい風味をより強める観点から、好ましくは3.5以上、より好ましくは4.5以上である。また、当該質量比の上限は、同様の観点から、好ましくは18以下、より好ましくは17以下である。
【0020】
<乳化剤>
本発明の乳化剤としては、動物性原料由来でない乳化剤であれば特に制限されないが、例えば、乳化性澱粉(オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム等)、植物性原料由来のレシチン(大豆レシチン等)、合成乳化剤(ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等)等が挙げられる。これらの乳化剤は、1種で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。本発明の加熱済み植物性ソースでは、植物性脂質の乳化作用により、青臭さを抑制し、かつ、植物性脂質による香ばしい風味の香り立ち抑制作用を阻害できるものと考えられる。特に、加熱済み植物性ソースがクリームソース様ソースの場合には、上記作用効果に加えて、本物のクリームソースに近いコク、粘性及び滑らかさを得ることができる。このような作用をより確実に得る観点から、本発明の乳化剤は、例えば、乳化性澱粉を含むことが好ましい。なお、本発明の「乳化剤」は、一般に食品用の乳化剤として用いられるものであり、野菜や豆類、種実類、それらのペースト等(タマネギペースト、トマトペースト、豆ペースト、アーモンドミルク等)といった食材自体は含まれない。
【0021】
<乳化剤の含有量>
本発明の加熱済み植物性ソースにおける乳化剤の含有量は、物性を安定させてコクや滑らかさを付与する観点から、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であり、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下である。
【0022】
<加熱済み植物性ソースのpH>
本発明の加熱済み植物性ソースのpHは、好ましくは4.5以上7.5以下であり、より好ましくは5.0以上7.0以下である。加熱済み植物性ソースのpHを上記範囲とすることで、コクのある、まろやかな味わいの加熱済み植物性ソースを実現することができる。本発明の加熱済み植物性ソースのpHの値は、1気圧、品温20℃とした時に、pH測定器(例えば株式会社堀場製作所製 卓上型pHメータF-72)を用いて測定した値である。また、このようなpHに調整するために、加熱済み植物性ソースが酢酸を含有しないことが好ましく、あるいは、酢酸を含む有機酸の含有量が加熱済み植物性ソース全体の0.5質量%以下、好ましくは0.3質量%以下、より好ましくは0.1質量%未満であると良い。
【0023】
<加熱済み植物性ソースのその他の原料>
本発明の加熱済み植物性ソースは、上述の原料の他、本発明の効果を損なわない範囲で、適宜選択された原料を含有することができる。具体的には、本発明の加熱済み植物性ソースは、調味料、香辛料、増粘剤、各種エキス、着色料、香料、酸化防止剤、静菌剤、その他の添加物を含有することができる。調味料としては、例えば、食塩、アミノ酸(グルタミン酸ナトリウム等)、醤油等が挙げられる。香辛料としては、例えば、胡椒、からし粉、ジンジャー、ガーリック等が挙げられる。増粘剤としては、澱粉類以外のガム質、ペクチン等が挙げられる。
【0024】
<レトルトソース>
本発明の加熱済み植物性ソースは、レトルトソースであるとよい。本発明において、レトルトソースとは、100℃超のレトルト条件下で加熱処理されたソースをいう。本発明の加熱済み植物性ソースをレトルトソースとすることで、加熱殺菌により保存性を高めることができるとともに、高温下において植物性タンパク質と糖質によるメイラード反応を促進させ、香ばしい風味をより向上させることができる。
【0025】
<加熱済み植物性ソースの製造方法>
本発明の加熱済み植物性ソースの製造方法は、原料を混合した混合物を調製する工程と、混合物を加熱する工程と、を含む。
【0026】
<混合物の調製工程>
本工程では、上記植物性脂質、上記植物性タンパク質、上記糖質及び上記乳化剤を混合して混合物を調製する。なお、混合物は、その他の原料を含んでいてもよい。混合方法は特に限定されず、例えば、ニーダー、ミキサー等の一般的な撹拌機によって攪拌する方法を適用することができる。当該混合物において、植物性脂質の含有量は、例えば、5質量%以上30質量%以下である。また、混合物における、植物性タンパク質に対する糖質の質量比は、例えば1.5質量以上20質量部以下である。これにより、動物性食品のようなコクを有し、かつ、植物性原料特有の青臭さが抑制され、加熱調理による香ばしい風味を有する加熱済み植物性ソースを得ることができる。なお、一実施形態において、混合物の調製後であって加熱前に、当該混合物を耐熱性容器に充填して密封することが好ましい。
【0027】
<加熱工程>
本工程では、混合物を常法に従って加熱する。例えば、混合物は、耐熱性容器に充填され密封された状態で加熱されることが好ましい。本工程における「加熱」は、中心品温70℃以上の加熱をいうものとする。また、加熱温度の上限は適宜設定されるが、例えば140℃以下であるとよい。また、本工程の加熱時間も適宜設定されるが、例えば、1分以上100分以下であるとよい。一実施形態において、加熱工程が、レトルト加熱する工程を含み、かつ、100℃以下で加熱する工程を含まないことが好ましい。レトルト加熱する工程は、100℃超のレトルト条件下において加熱する工程である。通常、レトルトソースでは、例えば70℃以上100℃以下の加熱を行ってから、さらにレトルト加熱を行う。これに対して、本発明の一実施形態では、100℃以下での加熱を行わずにレトルト加熱を行うことで、植物性原料由来の青臭さを抑制し、香ばしい良好な風味を引き立たせることができる。
【0028】
<本発明の作用効果>
本発明の加熱済み植物性ソースにおいては、植物性脂質の含有量を5質量%以上30質量%以下とすることで、加熱済み植物性ソースにコクを付与することができる。また、植物性タンパク質に対する糖質の質量比を1.5以上20以下とすることで、加熱時にメイラード反応を促進させ、香ばしい良好な風味を発生させることができる。さらに、植物性タンパク質が大豆を除く植物に由来するタンパク質からなることで、加熱された植物性原料から生じやすい青臭さを抑制することができる。これらにより、青臭さによって当該香ばしい風味が阻害されずに、当該香ばしい風味を引き出すことができる。加えて、植物性脂質の含有量を30質量%以下として乳化剤を含有することにより、適量の脂質が乳化されて、青臭さの発生や、過剰な脂質による香ばしい風味の発生阻害作用なども抑制できると考えられる。以上、本発明によれば、植物性脂質、植物性タンパク質、糖質及び乳化剤の各要素が協働することで、動物性食品のようなコクを有し、かつ、植物性原料特有の青臭さが抑制され、加熱調理による香ばしい風味を有する加熱済み植物性ソースを得ることができる。
【実施例
【0029】
さらに、本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。なお、以下の説明において、「%」は「質量%」を意味する。
【0030】
[加熱済み植物性ソースの製造]
実施例1~10及び比較例1~4の加熱済み植物性ソースのサンプルを調製した。表1に示すように、実施例1~10の配合は、植物性脂質、植物性タンパク質、糖質及び乳化剤を含み、大豆を除く植物に由来する植物性タンパク質を用い、植物性脂質の含有量が5質量%以上30質量%以下であり、植物性タンパク質に対する糖質の質量比が1.5以上20以下である、という条件を全て満たすものとした。一方、比較例1~4の配合は、これらの少なくともいずれか1つの条件を満たさないものとした。
【0031】
具体的に、実施例1の配合は、食用植物油脂(大豆油)、乳化性澱粉(オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム)、砂糖、アーモンドプロテイン、パーム油、その他の原料を、それぞれ表1に示す配合量(質量%)で含むものとした。実施例2~3の配合は、実施例1の配合に対して食用植物油脂の配合量を変更した。実施例4の配合は、実施例1の配合に対して糖質の配合量を変更した。実施例5の配合は、実施例1の配合に対して食用植物油脂の配合を変更し、かつ、実施例1の砂糖に替えてオリゴ糖を用いた。実施例6の配合は、実施例1の砂糖に替えて還元水あめを用い、かつ、アーモンドプロテインの配合量を変更した。なお、実施例6の配合において、植物性タンパク質全体におけるアーモンドプロテインの配合量は、20%以上であった。実施例7の配合は、実施例1の配合に対してアーモンドプロテインの配合量を変更した。実施例8の配合は、実施例1のアーモンドプロテインに替えて米タンパク質を用いた。実施例9の配合は、実施例1の乳化性澱粉に替えて、大豆レシチンを用いた。実施例10の配合は、実施例1の乳化性澱粉に替えて、合成乳化剤(ショ糖脂肪酸エステル)を用いた。
【0032】
比較例1及び比較例2の配合は、実施例1の配合に対して食用植物油脂、砂糖及びアーモンドプロテインの配合量を変更した。比較例3の配合は、実施例1のアーモンドプロテインに替えて大豆タンパク質を用いた。比較例4の配合は、乳化剤を用いなかった。
【0033】
まず、表1に示す原料をニーダーに投入し、攪拌混合することで混合物を調製した。この際、加熱処理は行わなかった。続いて、耐熱性パウチに各サンプルの混合物を充填して密封し、レトルト殺菌装置を用いて中心品温121℃以上、約8分間加熱処理を行った。これにより、実施例1~10及び比較例1~4のサンプルを調製した。なお、調製後の各サンプルの袋を開けてpHを測定したところ、表1に示すように5.0~7.0の範囲であった。
【0034】
各サンプルにおける各原料の配合量から、植物性タンパク質に対する糖質の質量比と、脂質の含有量とを理論値により算出した。この結果を表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
[官能評価]
耐熱性パウチを開封し、3人以上の訓練された専門のパネルが各サンプルを喫食し、以下に示す評価基準に基づいて、各サンプルのコク及び喫食時に感じられる風味を採点した。風味については、植物性食品特有の青臭さについての評価と、加熱調理による香ばしい風味についての評価とを行った。各サンプルの各評価項目についての評点は、オープンパネル方式により、パネル全員の協議により決定された。その結果を表1に示す。なお、各評価項目について、1点を不合格と設定した。
【0037】
(コクの評価基準)
5点:動物性食品を用いたソースのようなコクが非常に強く感じられた。
4点:動物性食品を用いたソースのようなコクが強く感じられた。
3点:動物性食品を用いたソースのようなコクが十分に感じられた。
2点:動物性食品を用いたソースのようなコクがやや感じられた。
1点:動物性食品を用いたソースのようなコクが感じられなかった。
(植物性食品特有の青臭さの評価基準)
5点:植物性食品特有の青臭さが全く感じられなかった。
4点:植物性食品特有の青臭さがほとんど感じられなかった。
3点:植物性食品特有の青臭さがやや感じられた。
2点:植物性食品特有の青臭さが感じられたが、問題のない範囲であった。
1点:植物性食品特有の青臭さが強く感じられた。
(加熱調理による香ばしい風味についての評価)
5点:動物性食品を用いたソースのような香ばしい風味が非常に強く感じられた。
4点:動物性食品を用いたソースのような香ばしい風味が強く感じられた。
3点:動物性食品を用いたソースのような香ばしい風味が十分に感じられた。
2点:動物性食品を用いたソースのような香ばしい風味がやや感じられた。
1点:動物性食品を用いたソースのような香ばしい風味が感じられなかった。
【0038】
表1に示すように、実施例1~10のサンプルでは、コク及び香ばしい風味が感じられ、かつ、青臭さが感じられにくく、全ての評価項目が2点以上であった。一方で、比較例1~4のサンプルでは、少なくとも1つの評価項目が1点であった。
【0039】
[実施例の総括]
以上のように、植物性脂質、植物性タンパク質、糖質及び乳化剤を含み、大豆を除く植物に由来する植物性タンパク質を用い、植物性脂質の含有量が5質量%以上30質量%以下であり、植物性タンパク質に対する糖質の質量比が1.5以上20以下であるという条件を満たす加熱済み植物性ソースは、コク及び香ばしい風味が感じられ、かつ、青臭さが感じられにくく、好ましかった。
【要約】
【課題】動物性食品のようなコクを有し、植物性原料特有の青臭さが抑制され、かつ、加熱調理による香ばしい風味を有する加熱済み植物性ソース及びその製造方法を提供する。
【解決手段】植物性脂質、植物性タンパク質、糖質及び乳化剤を含む、加熱済み植物性ソースであって、前記植物性タンパク質が、大豆を除く植物に由来するタンパク質からなり、前記植物性脂質の含有量が、5質量%以上30質量%以下であり、前記植物性タンパク質に対する前記糖質の質量比が、1.5以上20以下である、加熱済み植物性ソース。
【選択図】なし