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特許7537103シアン化合物含有液の処理方法及びシアン化合物含有液の処理装置
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  • 特許-シアン化合物含有液の処理方法及びシアン化合物含有液の処理装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】シアン化合物含有液の処理方法及びシアン化合物含有液の処理装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/58 20230101AFI20240814BHJP
   C02F 1/70 20230101ALI20240814BHJP
【FI】
C02F1/58 N
C02F1/70 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020044456
(22)【出願日】2020-03-13
(65)【公開番号】P2021142509
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2023-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】桃井 謙太朗
(72)【発明者】
【氏名】石森 智大
(72)【発明者】
【氏名】村上 修士
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-136539(JP,A)
【文献】特開2011-173046(JP,A)
【文献】特開昭58-210892(JP,A)
【文献】特開2015-226860(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/58- 1/64
C02F 1/70- 1/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアン化合物含有液に銅化合物及び還元剤を添加して、該シアン化合物を不溶性塩として分離除去するシアン化合物含有液の処理方法において、該還元剤の添加量を、該還元剤が添加された被処理液の溶存酸素濃度に基づいて制御するシアン化合物含有液の処理方法であって
前記溶存酸素濃度が下がり切った時を前記還元剤の添加終点とするシアン化合物含有液の処理方法であり、
該還元剤の添加量1mg/L当たり溶存酸素濃度値の低下が0.002mg/L以下となる時点、或いは、溶存酸素濃度が1.0mg/L以下となった時点を、前記前記溶存酸素濃度が下がり切った時とすることを特徴とするシアン化合物含有液の処理方法。
【請求項2】
シアン化合物含有液が連続的に流入する反応槽に銅化合物及び還元剤を添加して、該シアン化合物を不溶性塩として分離除去する方法において、該反応槽内の溶存酸素濃度を測定し、該溶存酸素濃度の測定値が所定値になるように該還元剤の添加量を制御するシアン化合物含有液の処理方法であって、
該溶存酸素濃度の測定値が、該還元剤の添加量1mg/L当たり0.002mg/L以下低下するようになるまで、或いは、該溶存酸素濃度の測定値が1.0mg/L以下となるまで、該還元剤を添加することを特徴とするシアン化合物含有液の処理方法。
【請求項3】
シアン化合物含有液を導入して銅化合物と反応させる混合設備と、該混合設備に還元剤を添加する手段と、該混合設備の液の溶存酸素濃度を測定する溶存酸素計と、該溶存酸素計の測定値に基づいて該還元剤の添加量を制御する制御手段とを備えるシアン化合物含有液の処理装置であって、
該制御手段は、該溶存酸素計の測定値が、該還元剤の添加量1mg/L当たり0.002mg/L以下低下するようになるまで、或いは、該溶存酸素計の測定値が1.0mg/L以下となるまで、該還元剤を添加することを特徴とするシアン化合物含有液の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シアン化合物含有液に銅化合物を添加し、重亜硫酸ソーダや硫酸第一鉄などの還元剤の存在下に反応させて、シアン化合物を不溶性塩として分離除去するシアン化合物含有液の処理方法及び処理装置に関するものである。
詳しくは、このようなシアン排水処理で銅化合物を還元するために必要な還元剤の添加量を的確に制御して、効率的かつ経済的な処理を行うシアン化合物含有液の処理方法及び処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シアン化合物含有排水中のシアン化合物の形態には、遊離シアン(CN)と金属シアノ錯体(M(CN) x-)がある。従来、これらのシアン化合物を処理する方法として、還元剤の存在下に銅化合物を添加してシアンの不溶性塩を生成させる全シアン法(還元銅塩法)が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1では、銅化合物及びマグネシウム化合物を添加し、重亜硫酸ソーダなどの還元剤の存在下に反応させて、シアンの不溶性塩を生成させこれを除去している。この特許文献1の0022段落には、還元剤の添加量は、銅化合物及びフェリシアンイオンの還元に必要な量であると記載されている。
【0004】
従来、このような全シアン法(還元銅塩法)において、還元剤の添加量を酸化還元電位(以下、ORPという)で決定(管理)することが知られている。
例えば特許文献2の実施例では、還元剤はORPが250mVとなるまで添加されている。
特許文献3の請求項3には、酸化還元電位の飛躍が少なくとも終了した時点を還元剤である亜硫酸化合物の添加の終点とすることが記載されている。
特許文献4の0050段落には、還元剤添加後のORPが80mV以下である場合に、シアン除去効果が安定して良好となるとの記載がある。
【0005】
しかしながら、本発明者らの検討により、排水種によっては、還元剤の添加量を酸化還元電位で制御できない場合が認められた。具体的には、還元剤の添加量を横軸に、酸化還元電位を縦軸にとった場合、特許文献3に記載のように、酸化還元電位が急激に変化する点が認められず、還元剤の添加量の終点を酸化還元電位で管理することができない場合があることが判明した。
【0006】
一方、特許文献5には、シアン化合物を第一鉄塩と反応させて水不溶性塩を生成させ、これを分離除去する、いわゆる紺青法において、鉄シアン錯体を対象として、アルカリ塩素法による二段分解のあと、溶存酸素(以下、DOという)濃度が所定値もしくはDOが急激に低下したところを第一鉄塩の添加終点とする方法が開示されている。
特許文献5ではDOにより薬剤の添加を監理しているが、特許文献5の方法は、本発明で行う全シアン法(還元銅塩法)によるものではなく、従来、全シアン法(還元銅塩法)において、DOにより還元剤の薬注制御を行う提案はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2013-226510号公報
【文献】特開昭58-216778号公報
【文献】特開平1-210096号公報
【文献】特開2017-136539号公報
【文献】特開平4-83590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、全シアン法(還元銅塩法)によるシアン化合物含有液の処理において、還元剤の添加量を的確に制御してシアン化合物を高度にかつ経済的に、しかも安定して処理することができるシアン化合物含有液の処理方法及び処理装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、シアン化合物含有液を全シアン法(還元銅塩法)で処理する場合において、溶存酸素(DO)を指標として還元剤の薬注制御を行うことにより、重亜硫酸ソーダや硫酸第一鉄などの還元剤を過不足なく添加して、シアン化合物を高度にかつ経済的に、しかも安定して処理することが可能であり、処理液のシアン濃度を十分に低くすることができることを見出した。
【0010】
本発明はこのような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0011】
[1] シアン化合物含有液に銅化合物及び還元剤を添加して、該シアン化合物を不溶性塩として分離除去するシアン化合物含有液の処理方法において、該還元剤の添加量を、該還元剤が添加された被処理液の溶存酸素濃度に基づいて制御することを特徴とするシアン化合物含有液の処理方法。
【0012】
[2] [1]において、前記溶存酸素濃度が下がり切った時を前記還元剤の添加終点とすることを特徴とするシアン化合物含有液の処理方法。
【0013】
[3] シアン化合物含有液が連続的に流入する反応槽に銅化合物及び還元剤を添加して、該シアン化合物を不溶性塩として分離除去する方法において、該反応槽内の溶存酸素濃度を測定し、該溶存酸素濃度の測定値が所定値になるように該還元剤の添加量を制御することを特徴とするシアン化合物含有液の処理方法。
【0014】
[4] シアン化合物含有液を導入して銅化合物と反応させる混合設備と、該混合設備に還元剤を添加する手段と、該混合設備の液の溶存酸素濃度を測定する溶存酸素計と、該溶存酸素計の測定値に基づいて該還元剤の添加量を制御する制御手段とを備えることを特徴とするシアン化合物含有液の処理装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、全シアン法(還元銅塩法)によるシアン化合物含有液の処理において、溶存酸素(DO)濃度を指標として還元剤の添加量を制御することにより、重亜硫酸ソーダや硫酸第一鉄などの還元剤を過不足なく添加して、シアン化合物を高度にかつ経済的に、しかも安定して処理することが可能となり、シアン濃度が十分に低減された処理液を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明のシアン化合物含有液の処理方法及び処理装置の実施の形態の一例を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0018】
本発明は、全シアン法(還元銅塩法)によるシアン化合物含有液の処理に当たり、従来法のORP値に変えて、DO濃度を指標として還元剤の薬注制御を行うことを特徴とする。
【0019】
本発明者らが、ORP値に基づく従来法では処理にバラツキが発生するシアンヒドリンを含む排水やフェロシアンなどの錯シアンを含む排水について検討した結果、このようなORP値では薬注制御が困難なシアン化合物含有液であっても、処理液のシアン濃度とDO濃度との間には密接な関係があり、DO濃度が一定レベルになるように重亜硫酸ソーダや硫酸第一鉄などの還元剤の注入制御を実施すれば、低シアン濃度の処理液を安定して得ることができることが明らかとなった。
【0020】
本発明によると、DO濃度を指標として還元剤の添加量を制御するようにしたので、還元剤を過不足なく添加して、シアン化合物含有液を効率よく高度に、しかも安定して処理することができ、シアン濃度の低い処理液を得ることができる。
【0021】
本発明によるシアン化合物含有液の処理は、反応槽にシアン化合物含有液を導入し、これに重亜硫酸ソーダや硫酸第一鉄などの還元剤と銅化合物をそれぞれ添加して、被処理液中のシアン化合物を反応させ、水不溶性塩を生成させることで実施することができる。
上記の反応は回分式(バッチ式)で行ってもよく、連続式で行ってもよい。
回分式で処理を行う場合、還元剤を添加しながらDO計により反応槽内液のDO濃度を測定し、または原水のシアン濃度に応じた銅化合物を適量添加したのち、反応槽内液のDO濃度を測定する操作を繰返す。そしてDO濃度の値が下がり切った時をもって還元剤の添加の終点とする。
このDO濃度の値が下がり切った時とは、例えば、還元剤の添加量1mg/L当たり、DO濃度値の低下が0.002mg/L以下となるようなときである。
【0022】
連続式の場合は、DO濃度が所定値になるように、すなわち回分処理における終点の決定のように、DO濃度が下がり切った時のDO濃度をビーカーテストなどで決定し、その値と同じになるように、重亜硫酸ソーダや硫酸第一鉄などの還元剤と、銅化合物を添加して水不溶性塩を効率よく生成させることができる。具体的には、反応槽が完全混合型ならば反応槽内のDO濃度値が所定の値になるように還元剤を添加すればよく、また反応槽が押し出し流れ型ならば、液の流れに沿って複数個のDO計を設置し、最下流のDO計のDO濃度値が所定の値になるように還元剤を添加する。
このような方法で、添加した銅化合物を確実に有効活用し得る、還元剤の的確な薬注制御が可能となる。
【0023】
なお、不溶性塩を生成させる反応は、撹拌機を備える反応槽で行う他、ラインミキサー等の混合設備で行うこともできる。
【0024】
以上のようにしてシアン化合物含有液を処理すると、反応液のDO濃度が低下しているので、水不溶性塩中の銅化合物が十分に1価に還元された状態でシアンと結合し、原水のORPなどに左右されることがないので、経済的に還元剤を運用することができる。そのため、処理液中にシアンイオンがリークすることがなく、高度な処理を安定して行うことができる。
【0025】
図1は、連続式による本発明のシアン化合物含有液の処理方法及び処理装置の実施の形態の一例を示す系統図である。
必要に応じてpH調整、曝気処理等の前処理が施されたシアン化合物含有液は、反応槽1に導入され、撹拌下に重亜硫酸ソーダや硫酸第一鉄などの還元剤と銅化合物が添加されることで不溶性塩を生成する。不溶性塩を含む反応液は沈殿槽2に送給されて固液分離され、分離水が処理液として取り出される。沈殿槽2から抜き出された分離汚泥は脱水設備等に送給されて処理される。
【0026】
反応槽1には槽内液のDO濃度を測定するDO計3が設けられており、DO濃度の測定値が制御装置4に入力される。
【0027】
制御装置4には予めビーカーテスト等によりDO濃度値が下がり切った時点のDO濃度を設定しておき、そのDO濃度になる時点を還元剤添加の終点とするように、還元剤の薬注ポンプPの制御信号を出力する。
【0028】
DO濃度の適正値については、処理するシアン化合物含有液中の基質(シアンヒドリンの共存の有無等)にもよって異なるが、1.0mg/L以下、好ましくは0.5mg/L以下、より好ましくは0.1mg/L以下となる時点を終点とするように制御することもできる。
【0029】
以下、本発明によるシアン化合物含有液の処理に好適な各構成要件について説明する。
【0030】
[シアン化合物含有液]
本発明で処理対象とするシアン化合物含有液は、遊離シアン、錯体シアン等のシアン化合物を含有する水である。本発明は、シアン化合物含有液中に遊離シアンまたはフェロシアンなどの錯シアンが共存している場合に好適に適用可能である。錯体シアンとしてはシアンの金属錯体があり、フェロシアンイオン、フェリシアンイオンなどの鉄シアン錯体、その他の金属錯体が含まれていてもよい。
【0031】
このようなシアン化合物含有液としては、金属めっき工場、化学工場などから排出されるシアン化合物含有液が挙げられる。シアン化合物含有液は、鉄等の金属や、有機酸等のキレート剤その他の不純物を含んでいてもよい。鉄等の金属はシアン錯体として含まれているものが一般的である。有機酸等のキレート剤は金属を不溶化するものとして含まれている場合がある。
【0032】
シアン化合物含有液のシアン化合物濃度には特に制限はないが、通常全シアン濃度として、1~20mg/L程度である。
【0033】
なお、ホルムアルデヒドによりシアンヒドリンを生成したシアン化合物含有液の場合、事前に酸化剤や曝気等に酸化分解することが望ましい。
【0034】
[銅化合物・還元剤]
本発明では、上記シアン化合物含有液にまず銅化合物及び還元剤を添加して不溶性塩を生成させる。
【0035】
銅化合物としては、水溶性の硫酸銅(II)、塩化銅(II)、硝酸銅(II)などの2価の銅塩を用いることができる。
【0036】
還元剤は2価の銅イオンを1価に還元できる還元剤であり、例えば亜硫酸塩、重亜硫酸塩、鉄塩(II)、ヒドラジンなどいずれでもよいが、汚泥発生量の低減及び入手の容易性の点から亜硫酸塩、重亜硫酸塩が推奨される。これらの塩としてはナトリウム塩、例えば重亜硫酸ナトリウム(NaHSO)が好適である。
【0037】
一般に硫酸銅などの2価の銅塩に亜硫酸塩、重亜硫酸塩、硫酸鉄(II)、ヒドラジンなどの各種還元剤を添加してpH2~11としても、見かけ上1価の銅イオンの生成は見られないが、シアン化合物含有液に2価の銅塩と還元剤を添加すると、1価の銅のシアン化合物が不溶性塩となって沈殿する。
【0038】
上記の反応は下式に示す3種類に代表される。
【0039】
Cu+CN-→CuCN …(1)
4Cu+Zn(CN) 2-→4CuCN+Zn2+ …(2)
Cu+Ag(CN) →CuAg(CN) …(3)
このうち(1)式は遊離シアンの反応、(2)式は前記易分解性のシアン錯塩の反応、(3)式は難分解性のシアン錯塩の反応である。
【0040】
反応系に添加する2価の銅塩の量は、好ましくはシアン化合物含有液中のシアン化合物との反応当量以上であり、原則的には上記(1)~(3)式における反応当量でよいが、シアン化合物含有液中のシアン化合物濃度の変動に対処するため、ならびに反応促進のためにはシアン化合物含有液中のシアン濃度の2~5倍量が特に好ましい。銅化合物がすでにシアン化合物含有液中に存在する場合は不足分を添加すればよい。
【0041】
本発明において、還元剤の添加量は前述の通り、DO値に基づいて制御される。
【0042】
銅化合物及び還元剤は同時に添加するのが好ましいが、前後に分けて別々に添加してもよい。
【0043】
[反応条件]
シアン化合物含有液に銅化合物及び還元剤を添加して不溶性塩を生成させるためのpH(例えば、銅化合物及び還元剤を添加する反応槽のpH)は好ましくは2~9.5、特に好ましくは7~9.5である。従って、処理するシアン化合物含有液のpHがこの範囲を外れる場合は、必要に応じて酸又はアルカリを添加してpH調整を行うことが好ましい。
反応温度(例えば銅化合物及び還元剤を添加する反応槽の温度)は特に制限はないが、通常15~60℃である。
【0044】
[不溶性塩の分離]
シアン化合物含有液に銅化合物及び還元剤を添加して生成させた不溶性塩の固液分離方法には特に制限はないが、凝集剤を添加して凝集処理し、凝集処理後固液分離する方法が好ましい。
【0045】
凝集剤としては無機凝集剤及び有機高分子凝集剤が用いられる。無機凝集剤は不溶性塩等の凝集のほか、残留するシアン錯体をも凝集させるのに適した塩化鉄(III)、硫酸鉄(III)等の鉄塩系凝集剤が好ましいが、PAC等のアルミニウム塩系凝集剤なども用いることができる。特許文献4に記載されるように、アルミニウム塩系凝集剤を用いた場合の方が、鉄系凝集剤を用いた場合よりも凝集処理効率が高い場合があり、アルミニウム塩系凝集が適している場合もある。有機高分子凝集剤としては、無機凝集剤により凝集した凝集物をフロック化して分離するのに適した凝集剤として、ポリアクリルアミド、アクリルアミドとアクリル酸(ナトリウム)との共重合物、ポリアクリルアミド部分加水分解物などのアニオン系高分子凝集剤が好ましいものとして挙げられる。
【0046】
無機凝集剤の添加量は20~2000mg/L、特に100~500mg/L程度が好ましい。また、有機高分子凝集剤の添加量は0.2~10mg/L、特に0.5~2mg/L程度が好ましい。
【0047】
なお、過剰に添加された銅化合物を除去するために、凝集処理時に重金属捕集剤を添加してもよい。重金属捕集剤としてはジチオカルバミン酸系キレート剤などが挙げられる。
【0048】
凝集処理後の固液分離としては、沈澱分離、浮上分離、濾過の1又は2以上が挙げられる。濾過としては、砂濾過、多層濾過(アンスラサイト・砂二層濾過など)、膜濾過などを用いることができる。
【0049】
図1では、反応槽1からの反応液を直接沈殿槽2で固液分離しているが、反応槽1と沈殿槽2との間に凝集反応槽を設けてもよい。
この場合、凝集反応槽として、無機凝集剤を添加して撹拌する急速撹拌槽と、有機高分子凝集剤を添加して撹拌する緩速撹拌槽とを設けてもよい。また、沈殿槽2の後段に更に濾過器を設けて、沈殿槽2からの上澄水を濾過処理してもよい。
【実施例
【0050】
[実施例1]
以下に実施例に代わる実験例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
【0051】
[実験例I]
フェロシアン、シアンヒドリン及び遊離シアンを含む排水(原水1)について、還元剤(NaHSO)を添加した後、銅化合物(CuSO)を添加して処理する実験を行った。
原水1は全シアン濃度3.4mg/Lで、ORP、DOの測定値はそれぞれ下記表1に示す通りであった。
この原水1に、還元剤としてNaHSOを下記表1に示す量添加した後、銅化合物としてCuSOを100mg/L添加して反応させ、反応液のORPとDOを測定したところ、下記表1に示す通りであった。なお、反応はいずれも水温50℃、pH8.4で行った。
得られた反応液について、それぞれアニオン性高分子凝集剤(栗田工業(株) クリファームPA923)を添加撹拌し、30分間静置した後の上澄液(処理水)の全シアン濃度を測定し、結果を表1に示した。
【0052】
【表1】
【0053】
表1より、反応液のDO濃度が0.3mg/L以下となるように還元剤を添加すると処理水中にシアンは検出されなくなることが分かる。
この実験例Iの結果から、特許文献2のようにORPが250mVとなるまで還元剤を添加してもシアン除去効果は得られず、また、特許文献4に記載されるようにORPが80mV以下でもシアン除去効果は十分ではなく、特許文献3のようなORPの急激な変化も認められないことが分かる。
【0054】
[実験例II]
実験例Iで用いた排水とは異なる工場排水(原水2)について、実験例Iと同様に処理を行った。
原水2は全シアン濃度2.8mg/Lで、ORP、DOの測定値はそれぞれ下記表2に示す通りであった。
この原水2に、還元剤としてNaHSOを下記表2に示す量添加した後、銅化合物としてCuSOを100mg/L添加して反応させ、反応液のORPとDOを測定したところ、下記表2に示す通りであった。なお、反応はいずれも水温50℃、pH8.4で行った。
得られた反応液について、それぞれアニオン性高分子凝集剤(栗田工業(株) クリファームPA923)を添加撹拌し、30分間静置した後の上澄液(処理水)の全シアン濃度を測定し、結果を表2に示した。
【0055】
【表2】
【0056】
表2より、以下のことが分かる。
No.II-1~No.II-3のORPの値から、ORP値が急激に変化する範囲を還元剤の添加量制御の指標とする場合、例えば、ORPの設定電位は30~50mVの範囲で選定され、30mVで還元剤の添加OFF、50mVで添加ONというような制御を行うことを仮定すると、このような薬注制御では、シアンの不溶化はまだ完了していないことが分かる。このため、さらに還元剤を添加できるようなORP値を選定する必要があるが、ORP値50mV以下では、原水のシアン濃度に対応する銅化合物も変化するため、還元剤添加量に対するORPの変化が緩慢であり、制御が困難である。シアン処理の安全を見込んで、低いORP値を設定した場合は還元剤の過剰注入となり経済的ではない。
一方、DO濃度に基づいて還元剤の添加を制御する場合、シアン錯イオンが低レベルまで処理された後、DO濃度値が急激に低下しており、例えばDO濃度が0.3mg/L以下になるまで還元剤を添加すれば、原水シアン濃度が変化しても銅化合物が必要量を満たしていれば全シアン濃度1mg/L以下の処理水が得られることが分かる。
【符号の説明】
【0057】
1 反応槽
2 沈殿槽
3 DO計
4 制御装置
図1