(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】印刷結果予測方法、および印刷結果予測システム
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20240814BHJP
B41J 2/21 20060101ALI20240814BHJP
B41J 29/393 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
B41J2/01 203
B41J2/01 451
B41J2/21
B41J29/393 101
(21)【出願番号】P 2020147586
(22)【出願日】2020-09-02
【審査請求日】2023-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 元宏
(72)【発明者】
【氏名】寒川 哲幹
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-177659(JP,A)
【文献】特開2007-260936(JP,A)
【文献】特開2007-261010(JP,A)
【文献】米国特許第6457801(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
B41J 29/393
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷媒体上にインク滴を着弾させて複数のインクドットを形成する印刷装置における印刷結果を予測する印刷結果予測方法であって、
前記印刷媒体上における前記インク滴の予測着弾位置を予測する着弾位置予測工程と、
前記予測着弾位置に着弾した前記インク滴の形状に基づいて、前記印刷媒体上における前記インク滴の膜厚分布を予測する膜厚分布予測工程と、
前記印刷媒体上における前記インク滴の単位厚み当たりの単位分光透過率と、前記膜厚分布と、前記印刷媒体からの光の反射特性と、に基づいて、前記印刷媒体上における前記インク滴の分光反射率の分布を予測する分光反射率予測工程と、を含み、
前記膜厚分布予測工程は、前記予測着弾位置に着弾した複数の前記インク滴が干渉し合う場合、前記インク滴のドット径、前記インク滴の着弾距離、および複数の前記インク滴の吐出時間差に基づいて、前記印刷媒体上における前記インク滴の
平面形状を予測し、その予測結果に基づいて、前記膜厚分布を予測する、印刷結果予測方法。
【請求項2】
前記膜厚分布予測工程は、前記印刷媒体上で干渉し合う複数の前記インク滴の形状を、3つ円で近似する、請求項1に記載の印刷結果予測方法。
【請求項3】
前記膜厚分布予測工程は、前記印刷媒体上で干渉し合う複数の前記インク滴間の中央部を、長方形で近似する、請求項1に記載の印刷結果予測方法。
【請求項4】
印刷媒体上にインク滴を着弾させて複数のインクドットを形成する印刷装置における印刷結果を予測する印刷結果予測システムであって、
前記印刷媒体上における前記インク滴の予測着弾位置を予測する着弾位置予測部と、
前記予測着弾位置に着弾した前記インク滴の形状に基づいて、前記印刷媒体上における前記インク滴の膜厚分布を予測する膜厚分布予測部と、
前記印刷媒体上における前記インク滴の単位厚み当たりの単位分光透過率と、前記膜厚分布と、前記印刷媒体からの光の反射特性と、に基づいて、前記印刷媒体上における前記インク滴の分光反射率の分布を予測する分光反射率予測部と、を備え、
前記膜厚分布予測部は、前記予測着弾位置に着弾した複数の前記インク滴が干渉し合う場合、前記インク滴のドット径、前記インク滴の着弾距離、および複数の前記インク滴の吐出時間差に基づいて、前記印刷媒体上における前記インクドットの
平面形状を予測し、その予測結果に基づいて、前記膜厚分布を予測する、印刷結果予測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷結果予測方法、および印刷結果予測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタ(印刷装置の一例)を設計する際に、実際の印刷画像を出力した印刷結果をフィードバックする過程を繰り返し、インクジェットプリンタを構成する各要素を改善することによって、インクジェットプリンタの性能を向上させる技術が開発されている。また、インクジェットプリンタを構成する各要素の設定パラメータを順次変化させつつ、実際に出力した印刷画像を評価することによって、最適な設定パラメータを検索する技術が開発されている。
【0003】
しかしながら、これらの技術では、実際にインクジェットプリンタを準備して、印刷画像の出力、印刷結果の評価等を行う必要があり、時間やコストの面で大きな負担となっている。また、これらの技術は、実際に印刷画像をインクジェットプリンタから出力してみなければ、印刷結果を評価することができず、インクジェットプリンタの開発段階で、その開発の効果を予測することが難しい。また、実際のインクジェットプリンタにおいて発生する機械的な誤差は再現性に乏しく、これらの誤差をインクジェットプリンタにおいて再現して、印刷結果を評価することは困難である。そのため、インクジェットプリンタから印刷画像を実際に出力しなくても、印刷結果を予測することができるシミュレーション技術が開発されている。
【0004】
ところで、上記のシミュレーション技術では、ヘッドから吐出されたインク滴が形成するドット形状を予測する際に、一滴のインクが形成する形状を円形と想定し、複数のインク滴が重なった場合には、単純な重ね合わせでドット形状を予測する方法が多く用いられている。
【0005】
しかしながら、複数のインク滴が印刷媒体上で干渉し合って形成される実際のドット形状は、単純な重ね合わせで予測されるドット形状とは、その形状および面積が異なるため、インク滴同士が重なる頻度が高い高濃度側のドット形状の予測精度が悪化する場合がある。また、印刷速度の高速化が進み、インク滴が印刷媒体上で乾燥する前に周囲のインク滴が着弾する頻度が増加し、印刷媒体上でのドット形状の変化が大きく、ドット形状の予測精度の悪化への影響が大きくなっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、インクジェットプリンタにおける印刷結果を予測するシミュレーション技術に関し、インク滴同士が重なる頻度が高い高濃度側のドット形状の予測精度を向上させることができる印刷結果予測方法、および印刷結果予測システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、印刷媒体上にインク滴を着弾させて複数のインクドットを形成する印刷装置における印刷結果を予測する印刷結果予測方法であって、前記印刷媒体上における前記インク滴の予測着弾位置を予測する着弾位置予測工程と、前記予測着弾位置に着弾した前記インク滴の形状に基づいて、前記印刷媒体上における前記インク滴の膜厚分布を予測する膜厚分布予測工程と、前記印刷媒体上における前記インク滴の単位厚み当たりの単位分光透過率と、前記膜厚分布と、前記印刷媒体からの光の反射特性と、に基づいて、前記印刷媒体上における前記インク滴の分光反射率の分布を予測する分光反射率予測工程と、を含み、前記膜厚分布予測工程は、前記予測着弾位置に着弾した複数の前記インク滴が干渉し合う場合、前記インク滴のドット径、前記インク滴の着弾距離、および複数の前記インク滴の吐出時間差に基づいて、前記印刷媒体上における前記インクドットの平面形状を予測し、その予測結果に基づいて、前記膜厚分布を予測する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、インクジェットプリンタにおける印刷結果を予測するシミュレーション技術に関し、インク滴同士が重なる頻度が高い高濃度側のドット形状の予測精度を向上させることができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本実施の形態にかかる液体吐出装置の構成の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、本実施の形態にかかる液体吐出装置の他の構成の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、本実施の形態にかかる液体吐出装置が有する液体吐出ヘッドの構成の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、本実施の形態にかかる印刷結果予測システムのハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、本実施の形態にかかる印刷結果予測システムの機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図6】
図6は、本実施の形態にかかる印刷結果予測システムによる印刷画像の予測処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、本実施の形態にかかる印刷結果予測システムによって取得する画像データの一例を示す図である。
【
図8】
図8は、液滴の量に対するドット径の依存性の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、本実施の形態にかかる印刷結果予測システムにおける膜厚分布の予測処理の一例を説明するための図である。
【
図10】
図10は、本実施の形態にかかる印刷結果予測システムにおける液滴の平面形状の算出処理の一例を説明するための図である。
【
図11】
図11は、本実施の形態にかかる印刷結果予測システムにおける液滴の平面形状の算出処理の一例を説明するための図である。
【
図12】
図12は、本実施の形態にかかる印刷結果予測システムにおける液滴の平面形状の算出処理の一例を説明するための図である。
【
図13】
図13は、本実施の形態にかかる印刷結果予測システムにおける液滴の平面形状の算出処理の一例を説明するための図である。
【
図14】
図14は、本実施の形態にかかる印刷結果予測システムにおける液滴の平面形状の算出処理の一例を説明するための図である。
【
図15】
図15は、本実施の形態にかかる印刷結果予測システムにおける膜厚分布の算出処理の一例を説明するための図である。
【
図16】
図16は、本実施の形態にかかる印刷結果予測システムにおける膜厚分布の算出処理の一例を説明するための図である。
【
図17】
図17は、本実施の形態にかかる印刷結果予測システムにおける予測着弾位置の予測処理の一例を説明するための図である。
【
図18】
図18は、本実施の形態にかかる印刷結果予測システムにおける予測着弾位置の予測処理の一例を説明するための図である。
【
図19】
図19は、本実施の形態にかかる印刷結果予測システムにおける予測着弾位置の予測処理の一例を説明するための図である。
【
図20】
図20は、本実施の形態にかかる印刷結果予測システムにおける予測着弾位置の予測処理の一例を説明するための図である。
【
図21】
図21は、本実施の形態にかかる印刷結果予測システムにおける予測着弾位置の予測処理の一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に添付図面を参照して、印刷結果予測方法、および印刷結果予測システムの実施の形態を詳細に説明する。
【0011】
図1は、本実施の形態にかかる液体吐出装置の構成の一例を示す図である。
図2は、本実施の形態にかかる液体吐出装置の他の構成の一例を示す図である。
図3は、本実施の形態にかかる液体吐出装置が有する液体吐出ヘッドの構成の一例を示す図である。まず、
図1~
図3を用いて、本実施の形態にかかる印刷結果予測システムによって印刷結果を予測する液体吐出装置の構成の一例について説明する。
【0012】
本実施の形態にかかる液体吐出装置100は、記録媒体1上にインク滴を着弾させて複数のインクドットを形成する印刷装置の一例であり、例えば、
図1に示すように、ライン走査型インクジェット記録装置であっても良い。液体吐出装置100は、記録媒体1上に画像を形成する記録部2を有する。記録媒体1(印刷媒体の一例)は、ロール紙(連続用紙)およびカット紙の何れの形状であっても良いし、用紙以外の媒体であっても良い。記録部2は、記録媒体1の記録面に対して、所定の距離を保って対向するように支持されている。記録部2は、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の各インクに対応して設けられた複数の記録部2K、記録部2C、記録部2M、記録部2Yを有する。記録部2は、記録媒体1の搬送速度に同期してインク滴を吐出する。これにより、記録媒体1上には、カラー画像が形成される。
【0013】
記録部2K、記録部2C、記録部2M、記録部2Yそれぞれは、記録媒体1の搬送方向と直交する方向に配列された複数の液体吐出ヘッド(複数の記録ヘッド)3を有する。複数の液体吐出ヘッド3は、記録媒体1の搬送方向と直交する方向に一列に配列されていても良いし、
図1に示すように千鳥状に配列されていても良い。
【0014】
記録媒体1は、
図1中の破線矢印で示す搬送方向に搬送される。これにより、各液体吐出ヘッド3が
図1中の実線矢印で示す副走査方向D1に走査される。すなわち、液体吐出装置100では、複数の液体吐出ヘッド3をアレー化することにより、広域な印刷領域幅を確保している。なお、
図1には、便宜上、副走査方向D1に垂直な方向D2を示している。
【0015】
また、本実施の形態にかかる印刷結果予測システムにより印刷結果を予測する液体吐出装置100は、
図2に示すように、シリアル走査型インクジェット記録装置であっても良い。
【0016】
液体吐出装置100の一例であるシリアル走査型インクジェット記録装置は、
図2に示すように、装置本体の左右の側板に横架したガイド部材である主従のガイドロッド16およびガイドロッド17により、記録媒体1の搬送方向と直交する方向(主走査方向D11)に摺動自在に保持されたキャリッジ12を有する。キャリッジ12は、図示しない主走査モータ等によってタイミングベルトを介して駆動力が与えられ、
図2中の実線矢印で示す主走査方向D11に移動走査する。キャリッジ12には、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の各色の液滴(インク滴)を吐出するための液体吐出ヘッド(記録ヘッド)13が搭載されている。液体吐出ヘッド13には、主走査方向D11と直交するようにノズル列が配列され、また、液滴(インク滴)の吐出方向を下方(記録媒体1側)に向けられたノズルが装着されている。
【0017】
液体吐出装置100の一例であるシリアル走査型インクジェット記録装置は、キャリッジ12を主走査方向D11に移動させながら画像信号に応じて液体吐出ヘッド(記録ヘッド)13を駆動させることにより、停止している記録媒体1に液滴(インク滴)を吐出して1走査分を記録し、記録媒体1を副走査方向D12に所定量搬送した後、次の行の記録を行なう。
【0018】
液体吐出装置100における各液体吐出ヘッド3(または、各液体吐出ヘッド13)は、
図3に示すように、複数のノズル31を有する。各液体吐出ヘッド3(または、各液体吐出ヘッド13)では、副走査方向D1(または主走査方向D11)と直交する方向(ノズル列方向)に所定のピッチpで複数のノズル31が配列されている。
図3に示す液体吐出ヘッド3(または、液体吐出ヘッド13)では、このノズル列が2列設けられている。一方のノズル列は、他方のノズル列に対して、各ノズル31がノズル列方向にそれぞれ略1/2・pずれた位置に配列されるように形成され、これにより、ノズル列方向に高解像に画像を形成できるように構成されている。
【0019】
図4は、本実施の形態にかかる印刷結果予測システムのハードウェア構成の一例を示すブロック図である。次に、
図4を用いて、本実施の形態にかかる印刷結果予測システム200のハードウェア構成の一例について説明する。
【0020】
印刷結果予測システム200は、例えば、
図4に示す構成を有するコンピュータで実現可能であり、CPU(Central Processing Unit)80、ROM(Read Only Memory)81、RAM(Random Access Memory)82、ストレージ83、通信インタフェース(通信I/F)84、操作部85、バス86、および表示部87を有する。ストレージ83は、HDD(Hard Disk Drive)であってもよいし、SSD(Solid State Drive)であってもよい。
【0021】
CPU80は、印刷結果予測システム200を統括的に制御する。ROM81には、CPU80が参照する各種情報や、CPU80により実行されるべき制御プログラム等が格納される。RAM82は、CPU80により各種処理が実行されるときに作業領域として使用される。ストレージ83には、保存用の各情報等が格納される。ストレージ83は、バス86等に対して着脱可能に構成されていてもよい。通信インタフェース84は、ホストコンピュータ等の外部装置との情報のやり取りを仲介する。操作部85は、キーボード等であり、ユーザからの入力を受け付ける。表示部87は、LCD(Liquid Crystal Display)等のディスプレイであり、CPU80により各種処理が実行された結果などが表示される。
【0022】
図5は、本実施の形態にかかる印刷結果予測システムの機能構成の一例を示すブロック図である。次に、
図5を用いて、本実施の形態にかかる印刷結果予測システム200の機能構成の一例について説明する。
【0023】
本実施の形態にかかる印刷結果予測システム200は、CPU80が、RAM82を作業領域として、ROM81に記憶される制御プログラムを実行することによって、
図5に示すように、情報取得部201、着弾位置予測部202、膜厚分布予測部203、分光反射率分布予測部204、および画像予測部205を実現する。
【0024】
情報取得部201は、画像データを取得する。また、情報取得部201は、ドット径、着弾距離、吐出時間差等の仕様情報を取得する。ここで、ドット径は、ノズル31から吐出される液滴(インク滴)によって記録媒体1上に形成されるインクドットの径である。また、着弾距離は、ノズル31から連続して吐出される2つの液滴の着弾位置間の距離である。また、吐出時間差は、ノズル31から連続して吐出される2つの液滴の吐出時刻の差である。
【0025】
着弾位置予測部202は、記録媒体1上における液滴の着弾位置(以下、予測着弾位置と言う)を予測する。膜厚分布予測部203は、着弾位置予測部202により予測される予測着弾位置に基づいて、記録媒体1上における液滴の形状を予測し、かつ、当該予測した液滴の形状に基づいて、記録媒体1上における液滴の膜厚分布を予測する。
【0026】
分光反射率分布予測部204は、記録媒体1上における液滴の単位厚み当たりの分光透過率(以下、単位分光透過率と言う)と、膜厚分布予測部203により予測される膜厚分布と、記録媒体1の光の反射特性と、に基づいて、記録媒体1上における液滴の分光反射率の分布(以下、分光反射率分布と言う)を予測する。画像予測部205は、分光反射率分布予測部204による分光反射率分布の予測結果に基づいて、記録媒体1に形成される画像(以下、印刷画像と言う。印刷結果の一例。)を予測する。
【0027】
図6は、本実施の形態にかかる印刷結果予測システムによる印刷画像の予測処理の流れの一例を示すフローチャートである。次に、
図6を用いて、本実施の形態にかかる印刷結果予測システムによる印刷画像の予測処理の流れの一例について説明する。
【0028】
情報取得部201は、記録媒体1に形成する印刷画像の画像データを取得する(ステップS601)。
【0029】
図7は、本実施の形態にかかる印刷結果予測システムによって取得する画像データの一例を示す図である。本実施の形態では、画像データは、
図7に示すように、どのタイミングでどのノズル31から液滴を吐出させるかを決定可能な情報である。
【0030】
図6に戻り、次に、着弾位置予測部202は、情報取得部201により取得した画像データに基づいて、記録媒体1上における液滴の予測着弾位置を予測する(ステップS602)。次に、膜厚分布予測部203は、着弾位置予測部202により予測される予測着弾位置に基づいて、記録媒体1上における液滴の形状を予測する。さらに、膜厚分布予測部203は、記録媒体1上における液滴に形状の予測結果に基づいて、記録媒体1上における液滴の膜厚分布を予測する(ステップS603)。
【0031】
次に、分光反射率分布予測部204は、記録媒体1上における液滴の単位厚み当たりの単位分光透過率、膜厚分布予測部203により予測される膜厚分布、および記録媒体1の光の反射特性に基づいて、記録媒体1上における液滴の分光反射率分布を予測する(ステップS604)。最後に、画像予測部205は、分光反射率分布予測部204による分光反射率分布の予測結果に基づいて、記録媒体1に形成される印刷画像を予測する(ステップS605)。
【0032】
図8は、液滴の量に対するドット径の依存性の一例を示す図である。
図9は、本実施の形態にかかる印刷結果予測システムにおける膜厚分布の予測処理の一例を説明するための図である。次に、
図8および
図9を用いて、本実施の形態にかかる印刷結果予測システムにおける液滴の膜厚分布の予測処理の一例について説明する。
【0033】
記録媒体1上に吐出された液滴(インク滴)は、記録媒体1上に着弾後、記録媒体1上で広がり、記録媒体1の種類と液滴(インク滴)の物性により、最終的な大きさ(ドット径)や膜厚分布が決定する。
図8は、液滴量(インク滴量)、記録媒体1の種類(メディア種)、液滴(インク)の種類を変えた場合のドット径の測定結果の一例である。そこで、
図8では、記録媒体1の種類と、液滴の種類と、の組合せに応じて、液滴量(インク滴量)のドット径が変化する様子を表している。
【0034】
例えば、膜厚分布予測部203は、記録媒体1の種類、液滴の種類毎に、液滴量と、ドット径との関係を測定しておき、
図9(b)の実線で示すように、液滴量からドット径(実ドット径)を予測する。そして、膜厚分布予測部203は、
図9(a)に示す予測着弾位置の目標位置Ptからのズレ量(Δx,Δy)に応じたPaに対して、
図9(c)の●で示すように、
図9(b)で予測されるドット径で予測される実ドットを配置する。膜厚分布予測部203は、これを画像データにおける各画素パターンに対して行い、
図9(d)に示すように、実ドットの予測結果が得られると、
図9(d)に示すA-A´断面を、各画素位置における液滴の膜厚分布として予測する。
【0035】
その際、
図9(d)に示すように、2つの液滴が干渉する位置に着弾した場合、膜厚分布予測部203は、2つの液滴の着弾距離、ドット径、および吐出時間差に応じて、着弾後の膜厚分布を算出する。膜厚分布の算出方法は、大きく2ステップに分けられる。まず、膜厚分布予測部203は、記録媒体1上に着弾した液滴の平面形状の算出を行い、次に平面形状の面積に基づいて、液滴の膜厚分布(厚さ分布)を算出する。すなわち、膜厚分布予測部203は、予測着弾位置に着弾した複数の液滴が干渉し合う場合、液滴のドット径、着弾距離、および吐出時間差に基づいて、記録媒体1上におけるインクドットの形状を予測して、その予測結果に基づいて、記録媒体1上での液滴の膜厚分布を予測する。
【0036】
図10~
図14は、本実施の形態にかかる印刷結果予測システムにおける液滴の平面形状の算出処理の一例を説明するための図である。まず、
図10~
図14を用いて、記録媒体1上に着弾した液滴の平面形状の算出処理について説明する。
【0037】
膜厚分布予測部203は、記録媒体1上で干渉し合う2つの液滴の形状の一例である平面形状を、
図10(b),(c)に示すように、3つのドット(円)で近似させる。これにより、記録媒体1上に着弾した2つの液滴が表面張力の影響で引き寄せあい中央が太る現象(
図10(b),(c))を、完全では無いが簡単に再現する事ができる。また、膜厚分布予測部203は、3つのドットの位置およびドット径を、記録媒体1上で干渉し合う2滴の予測着弾位置間の距離(以下、着弾距離と言う)および単独ドット径に基づいて決定することも可能である。これにより、着弾距離による、干渉後の2つの液滴の平面形状およびその面積の変化(
図10(b),(c)参照)の再現性を高めることができる。
【0038】
記録媒体1上で干渉し合う2つの液滴に平面形状を再現する3つのドットの位置およびドット径は、
図11に示す実験を行うことで算出可能である。
図11に示すように、着弾距離をゼロ(完全に同じ位置)から2つの液滴が接触しなくなるまで徐々に着弾距離を長くして、記録媒体1上に液滴を着弾させる。そして、各着弾距離における2つの液滴の平面形状を3円で近似し、着弾距離毎に、
図12および
図13に示すように、ΔL、D´、Dmを算出する。ここで、Dは、記録媒体1上で他の液滴と干渉しない単独の液滴のドット径である。また、D´は、記録媒体1上で干渉し合う2つの液滴を3つの円で近似した場合における2つの液滴のドット径である。また、ΔLは、記録媒体1上で干渉し合う2つの液滴の予想着弾位置に対する、当該2つの液滴を近似した2つの円の中心までのズレ量である。また、Dmは、記録媒体1上で干渉し合う2つの液滴を近似した3つの円のうち中央の円のドット径である。
【0039】
さらに、液滴の平面形状は、記録媒体1上に2つの液滴が着弾してからの乾燥状態(乾燥時間)によっても変化するため、
図14に示すように、2つの液滴の吐出時間差を変えて、同様に実験を行って、ΔL、D´、Dmの算出を行う。実験を行っていない着弾距離および吐出時間差の条件におけるΔL、D´、Dmについては、それぞれ近い2つの条件におけるΔL、D´、Dmを用いて線形補完する。
【0040】
図15および
図16は、本実施の形態にかかる印刷結果予測システムにおける膜厚分布の算出処理の一例を説明するための図である。次に、
図15および
図16を用いて、本実施の形態にかかる印刷結果予測システムにおける膜厚分布の算出処理の一例について説明する。
【0041】
思想としては、記録媒体1上で干渉しない2つの液滴の膜厚の総量V(以下、膜厚総量と言う)が保存するように、記録媒体1上で干渉し合う2つの液滴の膜厚H´を補正する。膜厚分布予測部203は、上記の処理で算出した3つの円の平面形状の面積Sを、
図15に示す式を用いて算出する。
図15に示す式において、^はべき乗を表し、acosはコサインの逆関数を表す。次いで、膜厚分布予測部203は、
図16に示すように、算出した面積Sを用いて、記録媒体1上で干渉しない2つの液滴の膜厚総量Vが保存されるように、膜厚H´を算出する。
【0042】
本実施の形態では、膜厚分布予測部203は、記録媒体1上で干渉する2つの液体を近似する2つの円のΔLおよびD´を同一の値を用いて、膜厚H´を算出しているが、着弾距離や吐出時間差等において、ΔLおよびD´のそれぞれを異なる値ΔL1,ΔL2,D1´,D2´として、膜厚H´を算出しても良い。また、本実施の形態では、膜厚分布予測部203は、記録媒体1上で干渉し合う2つの液滴間の中央部を、長方形等で近似しても良い。その場合、各種パラメータの算出の工数増加および膜厚H´の算出(補正)時の面積S算出が複雑化するが、膜厚分布予測部203は、同様の方法で、膜厚H´を算出可能である。
【0043】
従来から公開されている技術では、記録媒体1上における液滴同士の干渉による形状変化を考慮していないため、液滴同士の干渉による影響が大きい中間調から高濃度側の画像を正確に予測することが困難である。階調に応じてドット径を補正することによって、画像の予測精度を上げられる可能性はあるが、画像パターンやシーケンスにより干渉する頻度および吐出時間差が異なるため、全ての画像パターンとシーケンスに対して補正係数を算出する必要がある。また、液滴の吐出のバラツキにより液滴同士の干渉度合(着弾距離)が異なるため、補正係数を算出した際の条件以外では正しい予測が困難である。
【0044】
これに対して、本実施の形態では、膜厚分布予測部203は、上述したように、着弾位置予測部202により予測される予測着弾位置に着弾した複数の液滴が干渉し合う場合、液滴のドット径、液滴の着弾距離、および複数の液滴の吐出時間差に基づいて、記録媒体1上におけるインクドットの形状を予測して、記録媒体1上におけるインクドットの膜厚分布を予測する。これにより、複数の液滴が記録媒体1上で干渉し合う条件においても、記録媒体1上でのインクドットの形状を精度良く予測することができる。その結果、インクジェットプリンタにおける印刷結果を予測するシミュレーション技術に関し、液滴同士が重なる頻度が高い高濃度側のドット形状の予測精度を向上させることができ、かつ、正確に印刷画像を予測することができる。
【0045】
次に、
図17~
図21を用いて、本実施の形態にかかる印刷結果予測システムにおける予測着弾位置の予測処理の一例について説明する。
図17~
図21は、本実施の形態にかかる印刷結果予測システムにおける予測着弾位置の予測処理の一例を説明するための図である。
【0046】
液体吐出ヘッド3(または13)を走査しながらノズル31から液滴(インク滴)を吐出するシステムにおいて、吐出された液滴(インク滴)は、ヘッド移動速度に応じた速度を持つ。このため、
図17に示すように吐出位置(吐出時に対向する着弾位置)P3と着弾位置(実際の着弾位置)P4にズレが生じる。このズレ量ΔPは、
図18に示すように、ヘッド速度、ヘッド/記録媒体間ギャップ、液滴(インク滴)飛翔速度により求められる。
【0047】
一般的なシステムでは、設計仕様値に従い、このズレ量分x0手前で吐出させ、狙いの位置へ着弾させる。すなわち、数式1により狙い着弾位置を求め、液体吐出ヘッド3のノズル31から吐出させるタイミングを調整する。
x0=VpО×gapО/VjО・・・数式1
【0048】
しかし、実際には、ヘッド速度、ヘッド/メディア間ギャップ、インク液飛翔速度はばらつきを持ち、またインク滴飛翔角度もバラツクため、着弾位置は狙いから外れる。このとき、着弾位置ズレ量(ΔP)は、
図18に示すように、吐出時のノズル31の対向位置から実着弾位置P2までの距離xと、吐出時のノズル31の対向位置から狙い着弾位置までの距離x0との差として求められる。すなわち、数式2により、吐出時のノズル31の対向位置から実着弾位置P2までの距離xを求め、数式3により、着弾位置ズレ量ΔPを算出する事ができる。
x=Vp×gap/(Vj×cosθ)+gap×tanθ・・・数式2
ΔP=x-x0・・・数式3
ここで、VjO:インク液飛翔速度(仕様値)[m/s]、Vj:インク液飛翔速度[m/s]、gapO:ヘッド/メディア間ギャップ(仕様値)[m]、θ:ヘッド/メディア間ギャップ[m]、VpO:ヘッド速度(仕様値)[m/s]、gap:ヘッド/メディア間ギャップ[m]、Vp:ヘッド速度[m/s]とする。
【0049】
そこで、着弾位置予測部202は、ヘッド速度、ヘッド/記録媒体間ギャップ、液滴(インク滴)飛翔速度、液滴(インク滴)飛翔角度を入力値とし、予測着弾位置の予測処理を行う。なお、液体吐出ヘッド3(又は13)を固定し、記録媒体1を移動させながら液滴(インク滴)を吐出するシステムにおいても同様の考え方で算出する事ができる。
【0050】
このとき、液滴(インク滴)の飛翔速度は、近隣ノズルの吐出条件および吐出時間間隔により規則的に変化する。吐出時間間隔と液滴(インク滴)飛翔速度との測定結果例を
図19(a)に示し、近隣ノズル吐出条件と液滴(インク滴)飛翔速度との測定結果例を
図19(b)に示す。これら飛翔速度変化は、液体吐出ヘッド3(または13)内の圧力伝播や吐出による残留振動が影響して発生していると考えられ、ヘッド構造や液体(インク)物性により規則性を持って変化すると考えられる。
【0051】
そのため、着弾位置予測部202は、近接ノズルの吐出条件および吐出時間間隔に応じて、液滴(インク滴)飛翔速度を変化させ、予測着弾位置の予測処理を行う。吐出時間間隔は、
図20に示すようにして算出できる。
【0052】
【0053】
すなわち、
図20(a)に示す入力画像データにおける各画素パターンに対して、
図20(b)に示すように吐出間隔[dot]を求める。
図20(b)では、表示しない画像パターンの左側が9ドット空いている場合が例示されている。そして、各画素パターンにいたして、次の数式4で吐出時間間隔を求める。
T=25.4/(Reg)×D/(Vp)・・・数式4
【0054】
数式4において、Tが吐出時間間隔を表し、Regが画像の解像度[dpi]を表し、Dが
図20(b)で求められた吐出間隔[dot]を表し、Vpがヘッドの走査速度[mm/s]を表す(
図20(c)参照)。
【0055】
なお、
図20は一例であり、ヘッド構造やインク物性により飛翔速度の増加減は異なる。また、上記の規則的な変化の他、ヘッド加工時の公差等が原因で発生するランダムな飛翔速度変化について乱数等を用いて考慮しても良い。
【0056】
比較例として、あらかじめ印刷したサンプルを元に着弾位置ばらつきを測定し、その結果を元に正規分布に準じた乱数を用いて着弾位置予測を行う方法が考えられる。このような方法では、サンプルを出力した条件(画像パターンやヘッド速度)から外れた条件では、正確な着弾位置を予測する事が困難である。またあらゆる条件の画像パターン・ヘッド速度のサンプルを出力しばらつき情報を取得する事は現実的では無い。
【0057】
次に、
図21を用いて、本実施の形態にかかる印刷結果予測システムにおける分光反射率分布の予測処理の一例について説明する。
図21は、本実施の形態にかかる印刷結果予測システムにおける分光反射率分布の予測処理の一例を説明するための図である。
【0058】
液体膜(インク膜)部分の反射率は、メディアの反射率と液体(インク)の膜厚および透過率によって決定される。そこで、本実施の形態では、分光反射率分布予測部204は、
図21(a)に示すランバート・ベア(Lambert-Beer)の法則を用いて、
図21(b)に示すように反射率を算出する。
【0059】
図21(a)に示すように、ある透過物体の吸収係数をaとし、膜厚をtとするとき、その透過物体の入射光量IOに対する反射光量Iの割合は、次の数式5で表される。
I/IO=10
-axt ・・・数式5
【0060】
この数式5は、ある透過媒体の厚み全体の透過率は、その透過媒体の単位厚みあたりの透過率を、透過媒体の厚みでべき乗することにより与えられることを表している。この考え方を応用する。記録媒体1の反射率をRとし、記録媒体1に着弾した液体(インク)の吸収係数をaとし、膜厚をtとするとき、その液体(インク)の入射光量IOに対する反射光量Iの割合(すなわち、反射率)は、次の数式6で表される。
反射率:I/IO=10-axt×R×10-axt ・・・数式6
【0061】
分光反射率分布予測部204は、これを、入力画像データにおける各画素位置に対して計算し、分光反射率分布を予測する。そして、画像予測部205は、分光反射率分布の予測結果に基づき、
図21(b)に示すような印刷画像を予測する。
【0062】
このように、本実施の形態にかかる印刷結果予測システムによれば、複数の液滴が記録媒体1上で干渉し合う条件においても、記録媒体1上でのインクドットの形状を精度良く予測することができる。その結果、インクジェットプリンタにおける印刷結果を予測するシミュレーション技術に関し、液滴同士が重なる頻度が高い高濃度側のドット形状の予測精度を向上させることができ、かつ、正確に印刷画像を予測することができる。
【符号の説明】
【0063】
200 印刷結果予測システム
80 CPU
81 ROM
82 RAM
83 ストレージ
201 情報取得部
202 着弾位置予測部
203 膜厚分布予測部
204 分光反射率分布予測部
205 画像予測部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0064】
【文献】特開2019-177659号公報
【文献】特開2007-260936号公報