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特許7537231偏光板、画像表示装置、及び偏光板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】偏光板、画像表示装置、及び偏光板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20240814BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20240814BHJP
   B32B 7/12 20060101ALI20240814BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240814BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240814BHJP
   C09J 7/20 20180101ALI20240814BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20240814BHJP
   C09J 129/04 20060101ALI20240814BHJP
   G02F 1/1333 20060101ALI20240814BHJP
   G02F 1/1335 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
G02B5/30
B32B7/023
B32B7/12
B32B27/00 D
B32B27/30 102
C09J7/20
C09J11/06
C09J129/04
G02F1/1333
G02F1/1335 510
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020183486
(22)【出願日】2020-11-02
(65)【公開番号】P2021173990
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-09-25
(31)【優先権主張番号】P 2020073878
(32)【優先日】2020-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113000
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 亨
(74)【代理人】
【識別番号】100151909
【弁理士】
【氏名又は名称】坂元 徹
(72)【発明者】
【氏名】福田 謙一
【審査官】鈴木 玲子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-326531(JP,A)
【文献】特開2016-126346(JP,A)
【文献】特開2009-139735(JP,A)
【文献】特開2009-008860(JP,A)
【文献】特開2012-108452(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0074942(KR,A)
【文献】特開2019-139007(JP,A)
【文献】国際公開第2019/208168(WO,A1)
【文献】特開2013-064771(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0091217(KR,A)
【文献】特開2015-047740(JP,A)
【文献】特開2013-164501(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0079164(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B5/30
B32B1/00-43/00
C09J1/00-5/10;7/00-7/50;9/00-201/10
G02F1/1333-1335
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂層にヨウ素を吸着配向させてなる偏光素子と透明保護フィルムとが、水系接着剤層を介して積層された偏光板であって、
前記水系接着剤層は、アセトアセチル基を含有するポリビニルアルコール系樹脂、及び酸化防止剤を含有し、
前記酸化防止剤は、Irganox(登録商標) 1010及びIrganox(登録商標) 1135からなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、
前記偏光素子の含水率が温度20℃かつ相対湿度30%の平衡含水率以上であり、温度20℃相対湿度50%の平衡含水率以下である、偏光板。
【請求項2】
ポリビニルアルコール系樹脂層にヨウ素を吸着配向させてなる偏光素子と透明保護フィルムとが、水系接着剤層を介して積層された偏光板であって、
前記水系接着剤層は、アセトアセチル基を含有するポリビニルアルコール系樹脂、及び酸化防止剤を含有し、
前記酸化防止剤は、Irganox(登録商標) 1010及びIrganox(登録商標) 1135からなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、
前記偏光板の含水率が温度20℃かつ相対湿度30%の平衡含水率以上であり、温度20℃相対湿度50%の平衡含水率以下である、偏光板。
【請求項3】
前記酸化防止剤が、リン系酸化防止剤、及び硫黄系酸化防止剤からなる群より選ばれる少なくとも1つの酸化防止剤をさらに含む、請求項1または2に記載の偏光板。
【請求項4】
前記水系接着剤層の前記酸化防止剤の含有量が、ポリビニルアルコール系樹脂100質量部に対し、0.3質量部以上100質量部以下である、請求項1~3のいずれかに記載の偏光板。
【請求項5】
画像表示セルと、
請求項1~のいずれかに記載された偏光板とを備え、
前記偏光板の両面には空気層以外の層が接して設けられている画像表示装置。
【請求項6】
画像表示セルと、前記画像表示セルの視認側表面に積層された第1粘着剤層と、前記第1粘着剤層の視認側表面に積層された請求項1~のいずれか1項に記載の偏光板と、を有する画像表示装置。
【請求項7】
前記偏光板の視認側表面に積層された第2粘着剤層と、前記第2粘着剤層の視認側表面に積層された透明部材と、をさらに有する請求項に記載の画像表示装置。
【請求項8】
前記透明部材がガラス板または透明樹脂板である、請求項に記載の画像表示装置。
【請求項9】
前記透明部材がタッチパネルである、請求項に記載の画像表示装置。
【請求項10】
偏光素子と透明保護フィルムとを、アセトアセチル基を含有するポリビニルアルコール系樹脂、及び酸化防止剤を含有する水系接着剤を用いて積層する積層工程と、
前記偏光素子の含水率が温度20℃かつ相対湿度30%の平衡含水率以上であり、温度20℃相対湿度50%の平衡含水率以下となるように調整する含水率調整工程と、を有し、
前記酸化防止剤は、Irganox(登録商標) 1010及びIrganox(登録商標) 1135からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、偏光板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板に関する。さらに、本発明は当該偏光板の一方の面が画像表示セルと貼り合せられ、他方の面がタッチパネルや前面板等の透明部材と貼り合せられた画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置(LCD)は、液晶テレビだけでなく、パソコン、携帯電話等のモバイル、カーナビ等の車載用途などで広く用いられている。通常、液晶表示装置は、液晶セルの両側に粘着剤層を介して偏光板を貼合した液晶パネルを有し、バックライトからの光を液晶パネルで制御することにより表示が行われている。また、有機EL表示装置も近年、液晶表示装置と同様に、テレビ、携帯電話等のモバイル、カーナビ等の車載用途で広く用いられて来ている。有機EL表示装置では、外光が金属電極(陰極)で反射され鏡面のように視認されることを抑止するために、画像表示パネルの視認側表面に円偏光板(偏光素子とλ/4板を含む積層体、以下、単に偏光板ということがある。)が配置される場合がある。
【0003】
偏光板は上記のように、液晶表示装置や有機EL表示装置の部材として、車に搭載される機会が増えて来ている。車載用の画像表示装置に用いられる偏光板は、それ以外のテレビや携帯電話等のモバイル用途に比較して、高温環境下に曝されることが多く、より高温での特性変化が小さいこと(高温耐久性)が求められる。
一方、外表面から衝撃による画像表示パネルの破損防止等を目的として、画像表示パネルの偏光板よりもさらに視認側に、透明樹脂板やガラス板等の前面板(「ウインドウ層」等とも称される。)を設ける構成が増えてきている。また、タッチパネルを備える表示装置では、画像表示パネルの偏光板よりも視認側にタッチパネルが設けられ、タッチパネルよりもさらに視認側に前面板を備える構成が広く採用されている。
【0004】
このような構成において、画像表示パネルと前面板やタッチパネル等の透明部材との間に空気層が存在すると、空気層界面での光の反射による外光の映り込みが生じ、画面の視認性が低下する傾向がある。そのため、画像表示パネルの視認側表面に配置される偏光板と透明部材との間の空間を、空気層以外の層(以下「層間充填剤」と称する場合がある)で充填する構成(以下「層間充填構成」と称する場合がある)、好ましくはこれらの材料と屈折率が近い材料で充填する構成を採用する動きが広まっている。層間充填剤としては、界面での反射による視認性の低下を抑止すると共に、各部材間を接着固定する目的で、粘着剤やUV硬化型接着剤が用いられる(例えば特許文献1参照)。
【0005】
上記の層間充填構成は、屋外で使用されることが多い携帯電話等のモバイル用途での採用が広がっている。また、近年の視認性に対する要求の高まりから、カーナビゲーション装置等の車載用途においても、画像表示パネル表面に前面板を配置し、パネルと前面板との間を粘着剤層等で充填した層間充填構成の採用が検討されている。
しかし、このような構成を採用する場合、加熱耐久試験(95℃で200時間等)の結果、偏光板面内中央部に、透過率の著しい低下が見られること、その一方、偏光板単独では95℃で1000時間でも著しい透過率の低下は見られないことが報告されており、これらの結果から、高温環境における偏光板の透過率の著しい低下は、偏光板の一方の面が画像表示セルと貼り合せられ、他方の面がタッチパネルや前面板等の透明部材と貼り合せられている層間充填構成を採用する画像表示装置が高温環境に暴露された場合に特有の問題であることも報告されている(特許文献2)。
【0006】
そして、上記特許文献2には層間充填構成で透過率が著しく低下した偏光板は、ラマン分光測定で1100cm-1付近(=C-C=結合に由来)および1500cm-1付近(-C=C-結合に由来)にピークを有していることから、ポリエン構造(-C=C)-を形成していると考え、偏光素子を構成するポリビニルアルコールが脱水によりポリエン化されて生じたものであると推定している(特許文献2、段落[0012])。
【0007】
特許文献2ではその問題の解決策として、偏光板の単位面積当たりの水分量を所定量以下とし、なおかつ偏光素子に隣接する透明保護フィルムの飽和吸水量を所定量以下とすることにより透過率の低下を抑制する方法を提案している。
しかしながら、
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平11-174417号公報
【文献】特開2014-102353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記手段を以ってしても、高温耐久試験における透過率低下の抑制効果は十分でないものであった。本発明は、層間充填構成の画像表示装置に用いられた場合においても、高温環境下での透過率の低下が小さく、高温耐久性に優れる偏光板、及び画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の偏光板、画像表示装置、及び偏光板の製造方法を提供する。
〔1〕 ポリビニルアルコール系樹脂層にヨウ素を吸着配向させてなる偏光素子と透明保護フィルムとが、水系接着剤層を介して積層された偏光板であって、
前記水系接着剤層は、酸化防止剤を含有し、
前記偏光素子の含水率が温度20℃かつ相対湿度30%の平衡含水率以上であり、温度20℃相対湿度50%の平衡含水率以下である、偏光板。
〔2〕 ポリビニルアルコール系樹脂層にヨウ素を吸着配向させてなる偏光素子と透明保護フィルムとが、水系接着剤層を介して積層された偏光板であって、
前記水系接着剤層は、酸化防止剤を含有し、
前記偏光板の含水率が温度20℃かつ相対湿度30%の平衡含水率以上であり、温度20℃相対湿度50%の平衡含水率以下である、偏光板。
〔3〕 前記酸化防止剤が、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、及び硫黄系酸化防止剤からなる群より選ばれる少なくとも1つの酸化防止剤である、〔1〕または〔2〕に記載の偏光板。
〔4〕 前記水系接着剤層がポリビニルアルコール系樹脂を含有する、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の偏光板。
〔5〕 前記水系接着剤層の前記酸化防止剤の含有量が、ポリビニルアルコール系樹脂100質量部に対し、0.3質量部以上100質量部以下である、〔4〕に記載の偏光板。
〔6〕 画像表示セルと、
〔1〕~〔5〕のいずれかに記載された偏光板とを備え、
前記偏光板の両面には空気層以外の層が接して設けられている画像表示装置。
〔7〕 画像表示セルと、前記画像表示セルの視認側表面に積層された第1粘着剤層と、前記第1粘着剤層の視認側表面に積層された〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の偏光板と、を有する画像表示装置。
〔8〕 前記偏光板の視認側表面に積層された第2粘着剤層と、前記第2粘着剤層の視認側表面に積層された透明部材と、をさらに有する〔7〕に記載の画像表示装置。
〔9〕 前記透明部材がガラス板または透明樹脂板である、〔8〕に記載の画像表示装置。
〔10〕 前記透明部材がタッチパネルである、〔8〕に記載の画像表示装置。
〔11〕 偏光素子と透明保護フィルムとを、酸化防止剤を含有する水系接着剤を用いて積層する積層工程と、
前記偏光素子の含水率が温度20℃かつ相対湿度30%の平衡含水率以上であり、温度20℃相対湿度50%の平衡含水率以下となるように調整する含水率調整工程と、を有する、偏光板の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、層間充填構成の画像表示装置に用いられた場合においても、高温環境下での透過率の低下が小さく、高温耐久性に優れる偏光板を提供することが可能となり、さらに、本発明の偏光板を用いることで高温環境下での透過率低下が抑制された画像表示装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の偏光板は、ポリビニルアルコール系樹脂層にヨウ素を吸着配向させてなる偏光素子と透明保護フィルムが、酸化防止剤を含有する水系接着剤層を介して積層されているという特徴を有する。さらに、本実施形態に係る偏光板は、下記の(a)及び(b)の少なくとも一方の特徴を有する。
(a)偏光素子の含水率が、温度20℃かつ相対湿度30%の平衡含水率以上、かつ温度20℃相対湿度50%の平衡含水率以下である。
(b)偏光板の含水率が、温度20℃かつ相対湿度30%の平衡含水率以上、かつ温度20℃相対湿度50%の平衡含水率以下である。
【0013】
本発明の偏光板は、上記の(a)及び(b)の少なくとも一方の特徴を有し、さらに酸化防止剤を含有した水系接着剤層を介して偏光素子と保護フィルムとを積層した構成であることにより、層間充填構成の画像表示装置の構成要素として、高温環境下に長時間さらされた場合でも単体透過率の低下が抑制される。
【0014】
[偏光素子]
本発明のポリビニルアルコール(以降PVAとも称す)系樹脂層にヨウ素を吸着配向させてなる偏光素子としては、周知の偏光素子を用いることができる。このような偏光素子は、一般にPVA系樹脂フィルムを用い、このPVA系樹脂フィルムをヨウ素で染色し、一軸延伸することによって形成される。
【0015】
PVA系樹脂は、前述のように、一般に、ポリ酢酸ビニル系樹脂を鹸化して得られるものを用いる。鹸化度は、約85モル%以上、好ましくは約90モル%以上、より好ましくは約99モル%~100モル%である。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルのほか、酢酸ビニルとこれに共重合可能な他の単量体との共重合体、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。共重合可能な他の単量体としては、例えば不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類などが挙げられる。PVA系樹脂の重合度としては、1000~10000、好ましくは1500~5000である。このPVA系樹脂は変性されていてもよく、たとえば、アルデヒド類で変性されたポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラールなどでもよい。
【0016】
偏光素子の製造方法は特に限定されないが、予めロール状に巻かれたポリビニルアルコール系樹脂フィルムを送り出して延伸、染色、架橋などを行って作製する方法やポリビニルアルコール系樹脂と延伸用樹脂基材との積層体を作製し、積層体の状態で延伸を行う工程を含む方法が典型的である。本発明ではこれら、何れの方法も用いることができる。
これらの偏光素子の製造方法については特開2014-48497号公報の段落[0109]~[0128]に記載されており、本実施形態ではこれらの方法を用いることができる。また、本実施形態の偏光素子の厚みは3~35μmが好ましく、4~30μmがより好ましく、5~25μmが更に好ましい。
【0017】
偏光素子は、好ましくは酸化防止剤を含む。本実施形態において、偏光素子と透明保護フィルムとが酸化防止剤を含有する接着剤から形成される接着剤層によって貼合されていることから、接着剤層から移行した酸化防止剤の一部が偏光素子に含まれているものと推測される。偏光素子中の酸化防止剤は、偏光素子の製造過程で添加されたものを含んでいてもよい。酸化防止剤を含む接着剤層を備えることにより、偏光板を高温環境下に晒しても透過率が低下しにくくなる。偏光素子に含まれる酸化防止剤によりPVA系樹脂のポリエン化が抑制されるためと推定される。
【0018】
偏光素子に酸化防止剤を含有させる方法としては、酸化防止剤を含有する処理溶媒に、PVA系樹脂層を浸漬する方法、又は処理溶媒をPVA系樹脂層に噴霧、流下もしくは滴下する方法が挙げられる。この中でも、酸化防止剤を含有する処理溶媒にPVA系樹脂層を浸漬させる方法が好ましく用いられる。酸化防止剤の具体的な例は、後述する接着剤に含有させるものとして例示されているものが挙げられる。
【0019】
酸化防止剤を含む処理溶媒にPVA系樹脂層を浸漬させる工程は、後述の偏光素子の製造方法における膨潤、延伸、染色、架橋、洗浄等の工程と同時に行ってもよいし、これらの工程とは別に設けてもよい。PVA系樹脂層に酸化防止剤を含有させる工程は、PVA系樹脂層をヨウ素で染色した後に行なうことが好ましく、染色後の架橋工程と同時に行うことがより好ましい。このような方法によれば、色相変化が小さく、偏光素子の光学特性への影響を小さくすることができる。
【0020】
偏光素子に酸化防止剤を含有させるために、偏光素子の製造時における添加と接着剤への添加との両方を行ってもよい。
【0021】
(特徴(a))
特徴(a)を有する場合、偏光素子の含水率は、温度20℃相対湿度30%の平衡含水率以上であり、温度20℃相対湿度50%の平衡含水率以下である。より好ましくは、温度20℃相対湿度45%の平衡含水率以下であり、さらに好ましくは、温度20℃相対湿度42%の平衡含水率以下であり、最も好ましくは、温度20℃相対湿度38%の平衡含水率以下である。このような範囲とすることで、偏光板の高温耐久性を高めることができる。温度20℃相対湿度30%の平衡含水率を下回ると、偏光素子のハンドリング性が低下し、割れやすくなる。偏光素子の含水率が、温度20℃相対湿度50%の平衡含水率を上回ると、偏光素子の透過率が低下しやすくなる。偏光素子の含水率が高いと、PVA系樹脂のポリエン化が進みやすくなるためと推測される。偏光素子の上記含水率は、偏光板中における偏光素子の含水率である。
【0022】
偏光素子の含水率が温度20℃相対湿度30%の平衡含水率以上、かつ温度20℃相対湿度50%の平衡含水率以下の範囲内であるかを確認する方法として、上記温度と上記相対湿度の範囲に調整された環境で保管し、一定時間質量の変化がなかった場合には環境と平衡に達しているとみなすことができ、又は上記温度と上記相対湿度の範囲に調整された環境の偏光素子の平衡含水率を予め計算し、偏光素子の含水率と予め計算した平衡含水率とを対比することにより確認することができる。
【0023】
含水率が温度20℃相対湿度30%の平衡含水率以上、かつ温度20℃相対湿度50%の平衡含水率以下である偏光素子を製造する方法としては、特に限定されないが、例えば上記温度と上記相対湿度の範囲に調整された環境に偏光素子を10分以上3時間以下保管する方法、又は30℃以上90℃以下で加熱処理する方法が挙げられる。
【0024】
上記含水率である偏光素子を製造する別の好ましい方法としては、偏光素子の少なくとも片面に保護フィルムを積層した積層体を、又は偏光素子を用いて構成した偏光板を、上記温度と上記相対湿度の範囲に調整された環境に、10分以上120時間以下保管する方法、又は30℃以上90℃以下で加熱処理する方法が挙げられる。層間充填構成を採用する画像表示装置の作製時において、偏光板を画像表示セルに積層した画像表示パネルを、上記温度と上記相対湿度の範囲に調整された環境に10分以上3時間以下保管又は30℃以上90℃以下で加熱した後に、前面板を貼合してもよい。
【0025】
偏光素子の含水率は、偏光素子単独又は偏光素子と保護フィルムとの積層体であって偏光板を構成するために用いられる材料段階で含水率が上記数値範囲となるように調整されていることが好ましい。偏光板を構成した後に含水率を調整した場合には、カールが大きくなりすぎ、画像表示セルへの貼合時に不具合が生じやすくなることがある。偏光板を構成する前の材料段階で上記含水率となるように調整されている偏光素子を用いて偏光板を構成することにより、含水率が上記数値範囲を満たす偏光素子を備える偏光板を容易に構成することができる。偏光板を画像表示セルに貼合した状態で、偏光板中における偏光素子の含水率が上記数値範囲となるように調整してもよい。この場合、偏光板は、画像表示セルに貼合されているのでカールが生じにくい。
【0026】
(特徴(b))
特徴(b)を有する場合、偏光板の含水率は、温度20℃相対湿度30%の平衡含水率以上、かつ温度20℃相対湿度50%の平衡含水率以下である。偏光板の含水率は、好ましくは温度20℃相対湿度45%の平衡含水率以下であり、より好ましくは温度20℃相対湿度42%の平衡含水率以下であり、さらに好ましくは、温度20℃相対湿度38%の平衡含水率以下である。偏光板の含水率が温度20℃相対湿度30%の平衡含水率を下回ると、偏光板のハンドリング性が低下し、割れやすくなる。偏光板の含水率が、温度20℃相対湿度50%の平衡含水率を上回ると、偏光素子の透過率が低下しやすくなる。偏光板の含水率が高いと、PVA系樹脂のポリエン化が進みやすくなるためと推定される。
【0027】
偏光板の含水率が温度20℃相対湿度30%の平衡含水率以上、かつ温度20℃相対湿度50%の平衡含水率以下の範囲内であるかを確認する方法として、上記温度と上記相対湿度の範囲に調整された環境で保管し、一定時間質量の変化がなかった場合には環境と平衡に達しているとみなすことができ、又は上記温度と上記相対湿度の範囲に調整された環境の偏光板の平衡含水率を予め計算し、偏光板の含水率と予め計算した平衡含水率とを対比することにより確認することができる。
【0028】
含水率が温度20℃相対湿度30%の平衡含水率以上、かつ温度20℃相対湿度50%の平衡含水率以下である偏光板を製造する方法としては、特に限定されないが、例えば上記温度と上記相対湿度の範囲に調整された環境に偏光板を10分以上3時間以下保管する方法、又は30℃以上90℃以下で加熱処理する方法が挙げられる。
【0029】
層間充填構成を採用する画像表示装置の作製時において、偏光板を画像表示セルに積層した画像表示パネルを、上記温度と上記相対湿度の範囲に調整された環境に10分以上3時間以下保管又は30℃以上90℃以下で加熱した後に、前面板を貼合してもよい。
【0030】
<接着剤層>
偏光素子に保護フィルムを貼合するための接着剤層を形成する接着剤は、任意の適切な接着剤を用いることができる。本発明では、具体的には、接着剤として水系接着剤を用いる。
本発明で用いる水系接着剤には、酸化防止剤を含有していることが特徴であり、接着剤にフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤より選ばれる少なくとも一種の酸化防止剤を含有する。
上記接着剤の塗布時の厚みは、任意の適切な値に設定され得る。例えば、硬化後または加熱(乾燥)後に、所望の厚みを有する接着剤層が得られるように設定する。接着剤層の厚みは、好ましくは0.01μm~7μmであり、より好ましくは0.01μm~5μmであり、さらに好ましくは0.01μm~2μmであり、最も好ましくは0.01μm~1μmである。
【0031】
(酸化防止剤を含有する水系接着剤)
上記水系接着剤としては、任意の適切な水系接着剤が採用され得る。水系接着剤は、ポリアクリルアミド系樹脂;ポリビニルアルコール(PVA)、およびエチレン-ビニルアルコール共重合体、(メタ)アクリル酸またはその無水物-ビニルアルコール共重合体等のビニルアルコール系樹脂;カルボキシビニル系樹脂;ポリビニルピロリドン;デンプン類;アルギン酸ナトリウム;またはポリエチレンオキシド系樹脂等の水溶性樹脂を含む。
中でも、PVA系樹脂を含む水系接着剤(PVA系接着剤)が好ましく用いられる。水系接着剤に含まれるPVA系樹脂の平均重合度は、接着性の点から、好ましくは100~5500程度、さらに好ましくは1000~4500である。平均鹸化度は、接着性の点から、好ましくは85モル%~100モル%程度であり、さらに好ましくは90モル%~100モル%である。
【0032】
上記水系接着剤に含まれるPVA系樹脂としては、アセトアセチル基を含有するものが好ましく、その理由は、PVA系樹脂層と保護フィルムとの密着性に優れ、耐久性に優れているからである。アセトアセチル基含有PVA系樹脂は、例えば、PVA系樹脂とジケテンとを任意の方法で反応させることにより得られる。アセトアセチル基含有PVA系樹脂のアセトアセチル基変性度は、代表的には0.1モル%以上であり、好ましくは0.1モル%~20モル%程度である。
上記水系接着剤の樹脂濃度は、好ましくは0.1重量%~15重量%であり、さらに好ましくは0.5重量%~10重量%である。
【0033】
(架橋剤、溶剤)
本発明で好ましく用いることが出来る水溶性PVA系接着剤は上記のPVA系樹脂の他に必要に応じて架橋剤を含有させることもできる。架橋剤としては公知の架橋剤を用いることができる。例えば、水溶性エポキシ化合物、ジアルデヒド化合物、イソシアネート化合物などが挙げられる。
【0034】
PVA系樹脂がアセトアセチル基含有PVA系樹脂である場合は、架橋剤としてグリオキサール、グリオキシル酸塩、メチロールメラミンのうちの何れかであることが好ましく、グリオキサール、グリオキシル酸塩の何れかであることが好ましく、グリオキサールであることが特に好ましい。接着剤および接着剤層における架橋剤の含有量は、PVA系樹脂100質量部に対し、0.1~100質量部であることが好ましく、0.5~60質量部であることがより好ましい。
【0035】
また、本発明の水溶性PVA系接着剤は有機溶剤を含有していても構わない。その場合、水と混和性を有する点でアルコール類が好ましく、アルコール類の中でもメタノールまたはエタノールであることがより好ましい。
また、本発明では、酸化防止剤の一部は水に対する溶解度が低い反面、アルコールに対する溶解度は十分なものがある。その場合は、アルコールに溶解し、酸化防止剤のアルコール溶液を調製した後、酸化防止剤のアルコール溶液をPVA水溶液に添加し、接着剤を調製することも好ましい態様の一つである。
【0036】
(酸化防止剤)
本発明で用いる水系接着剤およびかかる水系接着剤から形成される水系接着剤層は、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸化防止剤を含有する。
尚、水系接着剤から乾燥工程などを経て偏光素子と透明保護フィルムを積層する過程で、酸化防止剤の一部が水系接着剤から偏光素子などに移動していても構わない。すなわち、偏光素子は、酸化防止剤を含んでいてもよく、接着剤層に含まれる酸化防止剤と同じ種類の酸化防止剤を含んでいてもよい。
酸化防止剤には水溶性のものと難水溶性のものがあるが、どちらの酸化防止剤も本発明では使用することができる。難水溶性酸化防止剤を用いる場合は、偏光素子と透明保護フィルムを積層後に、ヘイズ上昇などが起きないように分散方法を工夫することが好ましい。
【0037】
酸化防止剤としては、特に限定されず、合成樹脂に配合されるような従来公知の酸化防止剤が好適なものとして挙げられる。例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、ラクトン系酸化防止剤、ヒドロキシルアミン系酸化防止剤等の一次酸化防止剤、および硫黄系酸化剤やリン系酸化剤等の二次酸化防止剤等が使用できる。
【0038】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、ヨシノックスBB、ヨシノックス425(以上、三菱ケミカル株式会社製)、Irganox 1010、Irganox 1035、Irganox 1076、Irganox 1098、Irganox 1135、Irganox 1330、Irganox 1520L、Irganox 245、Irganox 259、Irganox 3114、Irganox 565(以上、BASFジャパン株式会社製)、AO-20、AO-30、AO-40、AO-50、AO-50F、AO-60、AO-60G、AO-70、AO-80、AO-330(以上、株式会社ADEKA製)が挙げられる。ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、フェノール性水酸基の両側のオルト位にt-ブチル基を有するものが好ましい。
【0039】
リン系酸化防止剤としては、PEP-4C、PEP-8、PEP-8W、PEP-24G、PEP-36、PEP-36Z、HP-10、HP-2112、HP-2112RG(以上、株式会社ADEKA製)が挙げられる。
【0040】
硫黄系酸化防止剤としては、AO-412S、AO-503(以上、株式会社ADEKA製)が挙げられる。
【0041】
これらの酸化防止剤は単独で使用してもよく、2種以上併用しても構わない。特に一次酸化防止剤であるヒンダードフェノール系酸化防止剤と、硫黄系酸化剤やリン系酸化剤等の二次酸化防止剤を組み合わせることで優れた耐候性や耐熱性が発揮される。
【0042】
接着剤がPVA系樹脂を含有する水系接着剤の場合、酸化防止剤の添加量は、ポリビニルアルコール系樹脂100質量部に対し、0.3質量部以上100質量部以下であることが好ましく、0.5~50質量部であることがより好ましく、1.0~10質量部であることが更に好ましい。
【0043】
(その他の添加剤)
本発明で用いる接着剤には、その特性を損なわない範囲でその他の添加剤を含有していてもよい。耐熱性を向上させる観点から、例えば、尿素、尿素誘導体、チオ尿素及びチオ尿素誘導体から選ばれる少なくとも1種の尿素系化合物を含有させることも好ましい形態である。尿素系化合物には水溶性のものと難水溶性のものがあるが、どちらの尿素系化合物も本発明では使用することができる。難水溶性尿素系化合物を水溶性接着剤に用いる場合は、接着剤層を形成後、ヘイズ上昇などが起きないように分散方法を工夫することが好ましい。
【0044】
接着剤がPVA系樹脂を含有する水系接着剤の場合、接着剤、および接着剤層における尿素系化合物の添加量は、PVA100質量部に対し、0.1~400質量部であることが好ましく、1~200質量部であることがより好ましく、3~100質量部であることが更に好ましい。
【0045】
(尿素誘導体)
尿素誘導体は、尿素分子の4つの水素原子の少なくとも1つが、置換基に置換された化合物である。この場合、置換基に特に制限はないが、炭素原子、水素原子および酸素原子よりなる置換基であることが好ましい。
【0046】
尿素誘導体の具体例として、1置換尿素として、メチル尿素、エチル尿素、プロピル尿素、ブチル尿素、イソブチル尿素、N-オクタデシル尿素、2-ヒドロキシエチル尿素、ヒドロキシ尿素、アセチル尿素、アリル尿素、2-プロピニル尿素、シクロヘキシル尿素、フェニル尿素、3-ヒドロキシフェニル尿素、(4-メトキシフェニル)尿素、ベンジル尿素、ベンゾイル尿素、o-トリル尿素、p-トリル尿素が挙げられる。
2置換尿素として、1,1-ジメチル尿素、1,3-ジメチル尿素、1,1-ジエチル尿素、1,3-ジエチル尿素、1,3-ビス(ヒドロキシメチル)尿素、1,3-tert-ブチル尿素、1,3-ジシクロヘキシル尿素、1,3-ジフェニル尿素、1,3-ビス(4-メトキシフェニル)尿素、1-アセチル-3-メチル尿素、2-イミダゾリジノン(エチレン尿素)、テトラヒドロ-2-ピリミジノン(プロピレン尿素)が挙げられる。
4置換尿素として、テトラメチル尿素、1,1,3,3-テトラエチル尿素、1,1,3,3-テトラブチル尿素、1,3-ジメトキシ-1,3-ジメチル尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジメチル-3,4,5,6-テトラヒドロ-2(1H)-ピリミジノンが挙げられる。
【0047】
(チオ尿素誘導体)
チオ尿素誘導体は、チオ尿素分子の4つの水素原子の少なくとも1つが、置換基に置換された化合物である。この場合、置換基に特に制限はないが、炭素原子、水素原子および酸素原子よりなる置換基であることが好ましい。
【0048】
チオ尿素誘導体の具体例として、1置換チオ尿素として、N-メチルチオ尿素、エチルチオ尿素、プロピルチオ尿素、イソプロピルチオ尿素、1-ブチルチオ尿素、シクロヘキシルチオ尿素、N-アセチルチオ尿素、N-アリルチオ尿素、(2-メトキシエチル)チオ尿素、N-フェニルチオ尿素、(4-メトキシフェニル)チオ尿素、N-(2-メトキシフェニル)チオ尿素、N-(1-ナフチル)チオ尿素、(2-ピリジル)チオ尿素、o-トリルチオ尿素、p-トリルチオ尿素が挙げられる。
2置換チオ尿素として、1,1-ジメチルチオ尿素、1,3-ジメチルチオ尿素、1,1-ジエチルチオ尿素、1,3-ジエチルチオ尿素、1,3-ジブチルチオ尿素、1,3-ジイソプロピルチオ尿素、1,3-ジシクロヘキシルチオ尿素、N,N-ジフェニルチオ尿素、N,N’-ジフェニルチオ尿素、1,3-ジ(o-トリル)チオ尿素、1,3-ジ(p-トリル)チオ尿素、1-ベンジル-3-フェニルチオ尿素、1-メチル-3-フェニルチオ尿素、N-アリル-N’-(2-ヒドロキシエチル)チオ尿素、エチレンチオ尿素が挙げられる。
3置換チオ尿素として、トリメチルチオ尿素が挙げられ、4置換チオ尿素として、テトラメチルチオ尿素、1,1,3,3-テトラエチルチオ尿素が挙げられる。
【0049】
尿素系化合物の中では、層間充填構成の画像表示装置に用いた時に、高温環境下での透過率の低下が抑制されて、且つ偏光度の低下が少ない点(偏光板をクロスニコル配置したときの光抜けが抑制される点)で、尿素誘導体またはチオ尿素誘導体が好ましく、尿素誘導体がより好ましい。尿素誘導体の中でも、1置換尿素または2置換尿素であることが好ましく、1置換体であることがより好ましい。2置換尿素には1,1-置換尿素と1,3-置換尿素があるが、1,3-置換尿素がより好ましい。
【0050】
[透明保護フィルム]
本発明において用いられる透明保護フィルム(以降、単に「保護フィルム」とも称す。
)は、偏光素子の少なくとも片面側に水系接着剤層を介して貼り合わされる。この透明保護フィルムは偏光素子の片面又は両面に貼り合わされるが、両面に貼り合わされていることがより好ましい。一形態において、保護フィルムは酸化防止剤を含有する水系接着剤層を介して偏光素子に貼り合わされている。本発明でいう透明は、可視光の透過率が60%以上であることを意味し、好ましくは80%以上であることを意味し、特に好ましくは90%以上であることを意味する。
また、偏光素子の両面に接着剤層を介して保護フィルムが貼り合わされている構成において、偏光素子両面の接着剤層の内、片面の接着剤層のみが酸化防止剤を含有する上記水系接着剤層であっても構わないが、両面の接着剤層が共に酸化防止剤を含有する上記水系接着剤層であることがより好ましい。
【0051】
偏光素子の両面に接着剤層を介して保護フィルムが貼り合わされている構成において、偏光素子両面の接着剤層の内、片面の接着剤層のみが酸化防止剤を含有する上記水系接着剤層である場合には、もう片方の接着剤層として用いる接着剤は、任意の適切な接着剤を用いることができ、具体的には、水系接着剤、溶剤系接着剤、活性エネルギー線硬化型などを用いることができる。
【0052】
保護フィルムは、同時に他の光学的機能を有していてもよく、更に他の層が積層された積層構造に形成されていてもよい。
この時の保護フィルムの膜厚は光学特性の観点から薄いものが好ましいが、薄すぎると強度が低下し加工性に劣るものとなる。適切な膜厚としては、5~100μmであり、好ましくは10~80μm、より好ましくは15~70μmである。
【0053】
保護フィルムは、セルロースアシレート系樹脂フィルム、ポリカーボネート系樹脂からなるフィルム、ノルボルネンなどシクロオレフィン系樹脂からなるフィルム、(メタ)アクリル系重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂フィルムなどのフィルムを用いることができる。
偏光素子の両面に保護フィルムを有する構成の場合、PVA接着剤などの水系接着剤を用いて貼合する場合は透湿度の点で少なくとも片側の保護フィルムはセルロースアシレート系フィルムまたは(メタ)アクリル系重合体フィルムの何れかであることが好ましく、中でもセルロースアシレートフィルムが好ましい。
【0054】
少なくとも一方の保護フィルムとしては、視野角補償などの目的で位相差機能を備えていてもよく、その場合、フィルム自身が位相差機能を有していてもよく、位相差層を別に有していてもよく、両者の組み合わせであってもよい。
なお、位相差機能を備えるフィルムは接着剤を介して、直接偏光素子に貼合される構成について説明したが、偏光素子に貼合された別の保護フィルムを介して粘着剤または接着剤を介して貼合された構成であっても構わない。
【0055】
(その他の機能層)
先に記載したように、近年、偏光板の薄型化の要請に応えるために、偏光素子の片面にのみ保護フィルムを有する偏光板(以降、「片面保護フィルム付き偏光板」とも称す。)が開発されている。
このような構成において物理強度を上げることなどを目的として、偏光素子の保護フィルムを有さない面に硬化層(機能層)を積層する試みがなされている。(例えば特開2011-221185号公報)
【0056】
本発明ではこのような硬化層(機能層)に酸化防止剤を含有させて酸化防止剤含有層を形成することも好ましい態様の一つである。通常このような硬化層は有機溶剤を含む硬化性組成物から形成されるが、特開2017-075986号公報の段落[0020]~[0042]には活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の水性溶液から、このような硬化層を形成する方法が記載されている。酸化防止剤として、水溶性、難水溶性のものがあり、適宜選択することで酸化防止剤含有層を形成することが可能である。
【0057】
また、本発明ではこのような硬化層に尿素系化合物を含有させて尿素系化合物含有層として構成することも好ましい態様の一つである。通常このような硬化層は有機溶剤を含む硬化性組成物から形成されるが、特開2017-075986号公報の段落[0020]~[0042]には活性エネルギー線硬化性高分子組成物の水性溶液から、このような硬化層を形成する方法が記載されている。尿素系化合物は水溶性のものが多いので、このような組成物に水溶性の尿素系化合物を含有させ、尿素系化合物含有層を形成するのも本実施形態の好ましい態様の一つである。
【0058】
なお、酸化防止剤と尿素系化合物とを併用して、その他の機能層を形成することも有用な技術である。
【0059】
[偏光板の製造方法]
本実施形態の偏光板の製造方法は、偏光素子と、透明保護フィルムとを、酸化防止剤を含有する水系接着剤を用いて積層する積層工程と、含水率調整工程と、を有する。含水率調整工程では、特徴(a)を有する偏光板を製造する場合は、偏光素子の含水率が温度20℃相対湿度30%の平衡含水率以上、かつ温度20℃相対湿度50%の平衡含水率以下となるように偏光素子の含水率を調整する。偏光素子の含水率は、上述の偏光素子の含水率の記載に従って調整することができる。含水率調整工程では、特徴(b)を有する偏光板を製造する場合は、偏光板の含水率が温度20℃相対湿度30%の平衡含水率以上、かつ温度20℃相対湿度50%の平衡含水率以下となるように偏光板の含水率を調整する。偏光板の含水率は、上述の偏光板の含水率の記載に従って調整することができる。積層工程及び含水率調整工程の順番は限定されることはなく、また積層工程と含水率調整工程とが並行して行われてもよい。
【0060】
前述したその他の機能層は、例えば、偏光素子と保護フィルムとを酸化防止剤を含有する水系接着剤で積層したのち、さらに偏光素子の他方の面に酸化防止剤含有溶液を塗布、乾燥もしくは活性エネルギー線による硬化工程を経て偏光素子の片面に酸化防止剤層を形成することにより、含水率調整前の偏光素子を得ることができる。なお、これらの工程は、並行して行われてもよい。さらに含水率調整工程においても、並行して行われてもよく、これらの一連の工程の順番は限定されない。これらの方法は、尿素系化合物を含有する層を形成する方法にも、同様に適用される。
【0061】
[画像表示装置の構成]
本発明の偏光板は、液晶表示装置や有機EL表示装置等の各種画像表示装置に用いられる。画像表示装置について、偏光板の両面が空気層以外の層が接するように構成されている層間充填構成である場合には、高温環境下で透過率が低下しやすい。本発明の偏光板を用いた画像表示装置においては、層間充填構成であっても、高温環境下での偏光板の透過率の低下を抑制することができる。画像表示装置としては、画像表示セルと、画像表示セルの視認側表面に積層された第1粘着剤層と、第1粘着剤層の視認側表面に積層された偏光板とを有する構成が例示される。かかる画像表示装置は、偏光板の視認側表面に積層された第2粘着剤層と、第2粘着剤層の表面に積層された透明部材とをさらに有してもよい。特に、本発明の偏光板は、画像表示装置の視認側に透明部材が配置され、偏光板と画像表示セルとが第1粘着剤層により貼り合わされ、偏光板と透明部材とが第2粘着剤層により貼り合わせられた層間充填構成を有する画像表示装置に好適に用いられる。本明細書においては、第1粘着剤層及び第2粘着剤層のいずれか一方又は両者を、単に「粘着剤層」と称する場合がある。なお、偏光板と画像表示セルとの貼り合わせや、偏光板と透明部材との貼り合わせに用いられる部材としては、粘着剤層に限定されることはなく接着剤層であってもよい。
【0062】
<画像表示セル>
画像表示セルとしては、液晶セルや有機ELセルが挙げられる。液晶セルとしては、外光を利用する反射型液晶セル、バックライト等の光源からの光を利用する透過型液晶セル、外部からの光と光源からの光の両者を利用する半透過半反射型液晶セルのいずれを用いてもよい。液晶セルが光源からの光を利用するものである場合、画像表示装置(液晶表示装置)は、画像表示セル(液晶セル)の視認側と反対側にも偏光板が配置され、さらに光源が配置される。光源側の偏光板と液晶セルとは、適宜の粘着剤層を介して貼り合せられていることが好ましい。液晶セルの駆動方式としては、例えばVAモード、IPSモード、TNモード、STNモードやベンド配向(π型)等の任意なタイプのものを用いうる。
【0063】
有機ELセルとしては、透明基板上に透明電極と有機発光層と金属電極とを順に積層して発光体(有機エレクトロルミネセンス発光体)を形成したもの等が好適に用いられる。
有機発光層は、種々の有機薄膜の積層体であり、例えば、トリフェニルアミン誘導体等からなる正孔注入層と、アントラセン等の蛍光性の有機固体からなる発光層との積層体や、これらの発光層とペリレン誘導体等からなる電子注入層の積層体、あるいは正孔注入層、発光層、および電子注入層の積層体等、種々の層構成が採用され得る。
【0064】
<画像表示セルと偏光板の貼り合せ>
画像表示セルと偏光板との貼り合せには、粘着剤層(粘着シート)が好適に用いられる。中でも、偏光板の一方の面に粘着剤層が付設された粘着剤層付き偏光板を画像表示セルと貼り合わせる方法が、作業性等の観点から好ましい。偏光板への粘着剤層の付設は、適宜な方式で行いうる。その例としては、例えば、トルエンや酢酸エチル等の適宜な溶剤の単独物または混合物からなる溶剤にベースポリマーまたはその組成物を溶解あるいは分散させた10~40重量%程度の粘着剤溶液を調製し、それを流延方式や塗工方式等の適宜な展開方式で偏光板上に直接付設する方式、あるいは前記に準じセパレータ上に粘着剤層を形成してそれを偏光板に移着する方式などが挙げられる。
【0065】
<粘着剤層>
粘着剤層については、特開2018-025765号公報の段落[0103]~[0143]に記載されており、本発明ではこれらの粘着剤を用いることができる。
【0066】
<透明部材>
画像表示装置の視認側に配置される透明部材としては、前面板(ウインドウ層)やタッチパネル等が挙げられる。前面板としては、適宜の機械強度および厚みを有する透明板が用いられる。このような前面板としては、例えばアクリル系樹脂やポリカーボネート系樹脂のような透明樹脂板、あるいはガラス板等が挙げられる。前面板の視認側には反射防止層などの機能層が積層されていても構わない。また、前面板が透明樹脂板の場合は、物理強度を上げるためにハードコート層や、透湿度を下げるために低透湿層が積層されていても構わない。
タッチパネルとしては、抵抗膜方式、静電容量方式、光学方式、超音波方式等の各種タッチパネルや、タッチセンサー機能を備えるガラス板や透明樹脂板等が用いられる。透明部材として静電容量方式のタッチパネルが用いられる場合、タッチパネルよりもさらに視認側に、ガラスや透明樹脂板からなる前面板が設けられることが好ましい。
【0067】
<偏光板と透明部材の貼り合せ>
偏光板と透明部材との貼り合せには、粘着剤またはUV硬化型の接着剤が好適に用いられる。粘着剤が用いられる場合、粘着剤の付設は適宜な方式で行い得る。具体的な付設方法としては、例えば、前述の画像表示セルと偏光板の貼り合せで用いた粘着剤層の付設方法が挙げられる。
【0068】
UV硬化型の接着剤を用いる場合、硬化前の接着剤溶液の広がりを防止する目的で、画像表示パネル上の周縁部を囲むようにダム材が設けられ、ダム材上に透明部材を載置して、接着剤溶液を注入する方法が好適に用いられる。接着剤溶液の注入後は、必要に応じて位置合わせおよび脱泡が行われた後、UV光が照射されて硬化が行われる。
【実施例
【0069】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、物質量とその割合、操作等は本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。
従って、本発明は以下の実施例に限定され制限されるものではない。
【0070】
(偏光素子1の作製)
平均重合度約2,400、ケン化度99.9モル%以上であるポリビニルアルコールからなる厚さ40μmのポリビニルアルコールフィルムを、乾式で約5倍に一軸延伸し、さらに緊張状態を保ったまま、60℃の純水に1分間浸漬した後、ヨウ素/ヨウ化カリウム/水の重量比が0.05/5/100の水溶液に28℃で60秒間浸漬した。その後、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水の重量比が8.5/8.5/100の水溶液に72℃で300秒間浸漬した。引き続き26℃の純水で20秒間洗浄した後、65℃で乾燥して、ポリビニルアルコールにヨウ素が吸着配向された厚み15μmの偏光素子を得た。
【0071】
(接着剤用PVA溶液の調製)
アセトアセチル基を含有する変性PVA系樹脂(三菱ケミカル(株)製:ゴーセネックスZ-410)50gを950gの純水に溶解し、90℃で2時間加熱後常温に冷却し、接着剤用PVA溶液を得た。
【0072】
(酸化防止剤溶液の調製)
表1に従って、エタノール100gにフェノール系酸化防止剤である、Irganox 1010(BASFジャパン株式会社製)を0.25g添加し、フェノール系酸化防止剤のエタノール溶液(溶液1)を調製した。
【0073】
表1に従って、エタノール100gにフェノール系酸化防止剤である、Irganox1135(BASFジャパン株式会社製)を0.25g添加し、フェノール系酸化防止剤のエタノール溶液(溶液2)を調製した。
【0074】
【表1】

【0075】
(偏光板用接着剤1の調製)
上記で調製した、接着剤用PVA溶液、溶液1、および純水を、PVA濃度3.0%、エタノール濃度30%、Irganox 1010濃度0.075%になるように配合し、偏光板用接着剤1を得た。偏光板用接着剤1中の酸化防止剤の含有量は、PVA 100質量部に対し、2.5質量部であった。
【0076】
(偏光板用接着剤2の調製)
同様に、上記で調製した、接着剤用PVA溶液、溶液2、および純水を、PVA濃度3.0%、エタノール濃度30%、Irganox 1135濃度0.075%になるように配合し、偏光板用接着剤2を得た。偏光板用接着剤2中の酸化防止剤の含有量は、PVA 100質量部に対し、2.5質量部であった。
【0077】
(偏光板用接着剤3の調製)
同様に、接着剤用PVA溶液、純水およびエタノールを、PVA濃度3.0%、エタノール濃度30%になるように配合し、偏光板用接着剤3を得た。
【0078】
(セルロースアシレートフィルムの鹸化)
市販のセルロースアシレートフィルムTD40(富士フイルム(株)製:膜厚40μm)を、55℃に保った1.5mol/LのNaOH水溶液(鹸化液)に2分間浸漬した後、フィルムを水洗し、その後、25℃の0.05mol/Lの硫酸水溶液に30秒浸漬した後、更に水洗浴を30秒流水下に通して、フィルムを中性の状態にした。そして、エアナイフによる水切りを3回繰り返し、水を落とした後に70℃の乾燥ゾーンに15秒間滞留させて乾燥し、鹸化処理したフィルムを作製した。
【0079】
(偏光板1の作製)
偏光素子1の両面に、上記で作製した鹸化処理したセルロースアシレートフィルムを、偏光板用接着剤1を介し、乾燥後の接着剤層の厚みが両面共、100nmになるように調整し、ロール貼合機を用いて貼合した後に60℃で10分間乾燥し、偏光板1を得た。
【0080】
(偏光板2~3の作製)
偏光板用接着剤1を偏光板用接着剤2~3に代えたこと以外は偏光板1と同様に偏光板2~3を作製した。
【0081】
(光学積層体1の作製)
特開2018-025765号公報の実施例を参考に、上記で作製した偏光板1の両面にアクリル系粘着剤(製造元:リンテック(株)、品番:#7)を塗布することにより、両面に、厚みが25μmの粘着剤層(第1粘着剤層と第2粘着剤層)を有する光学積層体1を作製した。
(光学積層体2~3の作製)
偏光板1を偏光板2~3に代えたこと以外は光学積層体1と同様に光学積層体2~3を作製した。
【0082】
[高温耐久試験後の単体透過率評価(95℃)]
上記で作製した光学積層体1~3を、それぞれ、50mm×100mmの大きさに裁断して、第1粘着剤層および第2粘着剤層それぞれの表面を無アルカリガラス〔商品名“EAGLE XG”、コーニング社製〕に貼合することによって、評価サンプルを作製した。尚、これらのサンプルを作製する時、ガラス板貼合前に含水率を調整するために、表2に示す温度・湿度条件下で光学積層体を72時間保管した。なお、すべてのサンプルで、保管66時間、69時間、72時間経過時の重量を測定しても、変化がなかったことから、目的の平衡含水率に達しているとみなした。すなわち、光学積層体の含水率は、保管環境の含水率と平衡に達しているみなすことができ、また光学積層体中の偏光板及び偏光素子の含水率も、光学積層体の含水率と同じであるとみなすことができる。
この評価サンプルに、温度50℃、圧力5kgf/cm(490.3kPa)で1時間オートクレーブ処理を施した後、温度23℃、相対湿度55%の環境下で24時間放置した。その後、単体透過率を測定し(初期値)、温度95℃の加熱環境下に保管し、100~200時間まで50時間おきに単体透過率を測定した。初期値に対し透過率低下が5%以上に達した時間を基に以下の基準で評価を行った。初期値に対し透過率低下が5%以上に達した時間を基に以下の基準で評価を行った。得られた結果を表2に示す。
200時間後に透過率の低下が5%以下のもの :A
150~200時間で透過率の低下が5%以上に達したもの:B
100~150時間で透過率の低下が5%以上に達したもの:C
100時間以内で透過率の低下が5%以上のもの :D
【0083】
【表2】