(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】半導体エピタキシャルウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/20 20060101AFI20240814BHJP
H01L 21/322 20060101ALI20240814BHJP
H01L 21/265 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
H01L21/20
H01L21/322 J
H01L21/265 Q
H01L21/265 Z
(21)【出願番号】P 2021079987
(22)【出願日】2021-05-10
【審査請求日】2023-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100179903
【氏名又は名称】福井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】門野 武
(72)【発明者】
【氏名】栗田 一成
【審査官】桑原 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-148128(JP,A)
【文献】特開2018-142603(JP,A)
【文献】特開2017-050458(JP,A)
【文献】国際公開第2012/157162(WO,A1)
【文献】特開平10-050861(JP,A)
【文献】特開2001-319931(JP,A)
【文献】特開2015-111633(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/20
H01L 21/322
H01L 21/265
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンウェーハの表面に、構成元素としてフッ素を含む炭化水素化合物をイオン源とするクラスターイオンを照射する第1工程と、
前記第1工程の後、前記シリコンウェーハの表面上にエピタキシャル層を形成する第2工程と、
を有し、
前記炭化水素化合物はフルオロメタン、トリフルオロメタン、ジフルオロメタン、テトラフルオロエタンのいずれかであり、かつ
前記
クラスターイオンを構成する炭素のドーズ量が1×10
13atoms/cm
2
~1×10
16atoms/cm
2であり、かつ
前記フッ素のドーズ量が1×10
13atoms/cm
2
~1×10
16atoms/cm
2であり、
前記エピタキシャル層形成後の前記シリコンウェーハ内に形成される濃度プロファイルのうち、
炭素濃度プロファイルのピーク濃度が1×10
15atoms/cm
3~1×10
22atoms/cm
3、かつ
水素濃度プロファイルのピーク濃度が1×10
17atoms/cm
3~1×10
22atoms/cm
3、かつ
フッ素濃度プロファイルのピーク濃度が5×10
18atoms/cm
3~1.8×10
20atoms/cm
3であって、
前記シリコンウェーハの前記表面か
ら厚み方向の深さ5nm~150nmまでの範囲内に、前記フッ素の濃度プロファイルのピークが位置する
ことを特徴とするシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法。
【請求項2】
前記クラスターイオンがCH
2Fである、請求項1に記載のシリコンエピタキシャルウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体エピタキシャルウェーハおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェーハ上にエピタキシャル層が形成された半導体エピタキシャルウェーハは、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)、DRAM(Dynamic Random Access Memory)メモリ、パワートランジスタおよび固体撮像素子など、種々の半導体デバイスのデバイス基板として用いられている。
【0003】
例えば裏面照射型固体撮像素子は、配線層などをセンサー部よりも下層に配置することで、外からの光をセンサーに直接取り込み、暗所などでもより鮮明な画像や動画を撮影することができるため、近年、デジタルビデオカメラやスマートフォンなどの携帯電話に広く用いられている。
【0004】
ここで、固体撮像素子には、LOCOS(Local Oxidation of Silicon)法およびSTI(Shallow Trench Isolation)法などの素子分離法によって、半導体エピタキシャルウェーハのエピタキシャル層表面に絶縁性の素子分離領域が設けられる。
図1は、一般的な裏面照射型固体撮像素子1の製造過程における、エピタキシャル層表面部分の要部を示す模式断面図である。固体撮像素子1は半導体エピタキシャルウェーハ4を用いて作製される。半導体エピタキシャルウェーハ4は、半導体ウェーハ2の表面2A上に、p型のエピタキシャル層3が形成される。このエピタキシャル層3に、デバイス部であるn+型半導体領域4および素子分離領域5が形成される。素子分離領域5の界面準位や結晶欠陥などは、固体撮像素子1のリーク電流増加の一因となることが知られている。このようなリーク電流を解決するための種々の提案が行われている。
【0005】
例えば特許文献1には、半導体基板にフォトダイオード部を形成するための不純物を注入する工程と、前記フォトダイオード部に反対導電性の表面電荷蓄積層を形成する工程の前に、フッ素原子の注入および450℃以上の熱処理を行う工程を備えた半導体装置の製造方法が開示されている。特許文献1によると、フォトダイオード部へのフッ素注入によって、欠陥層にフッ素が再分布して注入欠陥を不活性化でき、特性劣化を低減することができる。
【0006】
また、特許文献2には、半導体基板の表面を熱酸化して素子分離絶縁膜を形成する工程と、前記素子分離絶縁膜を形成した後に前記半導体基板を前記熱酸化時の温度よりも高い温度で急速加熱処理する工程と、前記急速加熱処理の工程の前の工程或いは後の工程において前記半導体基板に不純物を注入する工程と、界面準位低減処理としての水素シンタリング工程とを含む半導体装置の製造方法が開示されている。特許文献2によると、水素シンタリングによって、素子分離絶縁膜の直下のシリコン基板との界面における界面準位が低減され、素子分離絶縁膜におけるリーク電流を抑制するとともに、不純物プロファイルの影響を無くしてトランジスタ特性を改善できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平7-45856号公報
【文献】特開2000-31265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1および特許文献2はいずれも、半導体エピタキシャルウェーハにフォトダイオードおよび素子分離領域などのデバイス部を形成した後に、デバイス形成面側からフッ素または水素などの軽元素をイオン注入し、素子分離領域の界面準位を低減する技術である。ところで、固体撮像素子の更なる高性能化および高感度化が近年求められ、分光感度を向上させるためフォトダイオードの空間電荷層の深さ方向の幅を拡大する必要性が生じている。そして、フォトダイオードの空間電荷層の深さ方向分布が拡大することにより、素子分離領域も深い領域に形成されるようになってきている。
【0009】
深い領域に形成された素子分離領域とフォトダイオードの周辺領域との界面準位を低減するためには、フッ素イオンを高エネルギーイオン注入する必要がある。この場合、ウェーハ厚み方向での注入深さは、4μm程度までが限界である。それ以上の深い領域の界面準位に対しては、フッ素イオンの高エネルギー注入は有効ではない。さらに、フッ素イオン注入後において、フッ素を拡散するための高温熱処理が行ってしまうと、フォトダイオード接合領域の拡散プロファイルが崩れることに繋がるため、デバイス特性に悪影響を与えることとなる。
【0010】
また、水素イオン注入を行う水素シンタリングであっても、デバイス部形成後の半導体エピタキシャルウェーハを400℃程度の水素雰囲気中で熱処理するため、深さ方向への水素拡散に限界があり、深い領域に形成されるフォトダイオードまで拡散することは困難である。また、高温水素雰囲気で熱処理を実施すると、やはりフォトダイオード接合領域の拡散プロファイルが崩れる可能性が高くなり、デバイス特性を悪化させる要因となる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで本発明は、上記課題に鑑み、固体撮像素子に供した際に、固体撮像素子の高性能化および高感度化を実現することのできる半導体エピタキシャルウェーハおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討し、前述したデバイス部形成後のイオン注入とは全く異なる解決手段を試みた。すなわち、デバイス部形成後ではなくデバイス部形成に先立ち、半導体エピタキシャルウェーハのベース基板となる半導体ウェーハの、エピタキシャル層が形成された側の表層部にフッ素が局所的に固溶した固溶領域を形成することを本発明者らは着想した。これまで、エピタキシャル層を形成する前にベース基板となる半導体ウェーハにフッ素をイオン注入したところで、エピタキシャル層形成時の熱処理により、フッ素は拡散してしまうと考えられていた。そのため、デバイス部を形成した後に行われるフッ素イオン注入による素子特性改善効果は、ベース基板にフッ素イオン注入をしても得られないと考えられていた。しかしながら、本発明者らが鋭意検討したところ、エピタキシャル層形成後においても、ベース基板表層部にフッ素を局所的かつ高濃度に残存させる方途を見出すに至った。かかる半導体エピタキシャルウェーハを固体撮像素子に供すると、固体撮像素子の高性能化および高感度化を実現できることを知見し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の要旨構成は以下のとおりである。
【0013】
本発明の半導体エピタキシャルウェーハは、半導体ウェーハの表面上にエピタキシャル層が形成された半導体エピタキシャルウェーハであって、前記半導体ウェーハの、前記エピタキシャル層が形成された側の表層部に、炭素およびフッ素が局所的に固溶した固溶領域が存在することを特徴とする。
【0014】
ここで、前記半導体ウェーハの前記表面から、前記半導体ウェーハの厚み方向の深さ150nmまでの範囲内に、前記フッ素の濃度プロファイルのピークが位置することが好ましい。また、前記半導体ウェーハは、前記表層部において炭素が固溶した改質層を有し、該改質層における前記半導体ウェーハの厚み方向の炭素濃度プロファイルのピークの半値幅は100nm以下であることが好ましい。さらに、前記半導体ウェーハの前記表面から、前記厚み方向の深さ150nmまでの範囲内に、前記炭素濃度プロファイルのピークが位置することが好ましい。
【0015】
また、前記改質層には、水素がさらに固溶していることが好ましい。また、前記改質層には、ボロン、リン、ヒ素、アンチモンからなる群より選択された1種または2種以上の元素がさらに固溶していることも好ましい。
【0016】
また、前記半導体ウェーハはシリコンウェーハであることが好ましい。
【0017】
また、本発明の半導体エピタキシャルウェーハの製造方法は、半導体ウェーハの表面に、構成元素としてフッ素を含む炭素化合物をイオン源とするクラスターイオンを照射する第1工程と、前記第1工程の後、前記半導体ウェーハの表面上にエピタキシャル層を形成する第2工程と、を有することを特徴とする。
【0018】
この場合、前記炭素化合物は、炭化水素化合物であってもよく、炭化フッ素化合物であることが好ましく、前記炭素化合物の構成元素が、フッ素および炭素からなることも好ましい。
【0019】
ここで、前記半導体ウェーハは、シリコンウェーハであることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、半導体ウェーハの、エピタキシャル層が形成された側の表層部において、フッ素が局所的に固溶した固溶領域が存在するので、固体撮像素子に供した際に、固体撮像素子の高性能化および高感度化を実現することができる半導体エピタキシャルウェーハを提供することができる。また、本発明は、かかる半導体エピタキシャルウェーハの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】一般的な固体撮像素子の製造過程における要部を説明する模式断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態による半導体エピタキシャルウェーハ100を説明する摸式断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態による半導体エピタキシャルウェーハ100の界面準位低減効果を説明する模式断面図である。
【
図4】本発明の好適実施形態による半導体エピタキシャルウェーハ200を説明する摸式断面図である。
【
図5】本発明の一実施形態による半導体エピタキシャルウェーハ200の製造方法を説明する摸式断面図である。
【
図6】(A)はクラスターイオンを照射する場合の照射メカニズムを説明する模式図であり、(B)はモノマーイオンを注入する場合の注入メカニズムを説明する模式図である。
【
図7】実施例におけるクラスターイオン照射後の深さ方向濃度プロファイルである。
【
図8】実施例におけるエピタキシャル成長後の深さ方向濃度プロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、同一の構成要素には原則として同一の参照番号を付して、説明を省略する。また、
図2~5では図面の簡略化のため、半導体ウェーハ10、固溶領域17、改質層18およびエピタキシャル層20の厚さについて、実際の厚さの割合と異なり誇張して示す。
【0023】
(半導体エピタキシャルウェーハ)
本発明の一実施形態に従う半導体エピタキシャルウェーハ100は、
図2(A)に示すように、半導体ウェーハ10の表面10A上にエピタキシャル層20が形成された半導体エピタキシャルウェーハであって、半導体ウェーハ10の、エピタキシャル層20が形成された側の表層部に、フッ素が局所的に固溶した固溶領域17が存在することを特徴とする。なお、エピタキシャル層20は、裏面照射型固体撮像素子等の半導体素子を製造するためのデバイス層となる。以下、各構成の詳細を順に説明する。
【0024】
半導体ウェーハ10としては、例えばシリコン、化合物半導体(GaAs、GaN、SiC)からなり、その表面10Aにエピタキシャル層を有しないバルクの単結晶ウェーハが挙げられる。裏面照射型固体撮像素子の製造に用いる場合、バルクの単結晶シリコンウェーハを用いることが一般的である。シリコンウェーハとしては、チョクラルスキ法(CZ法)や浮遊帯域溶融法(FZ法)により育成された単結晶シリコンインゴットをワイヤーソー等でスライスしたものを使用することができる。なお、ゲッタリング能力を得るために、炭素および/または窒素が添加された半導体ウェーハ10を用いてもよい。さらに、任意のドーパントが所定濃度添加され、いわゆるn+型もしくはp+型、またはn-型もしくはp-型基板の半導体ウェーハ10を用いることもできる。
【0025】
エピタキシャル層20としては、シリコンエピタキシャル層が挙げられ、一般的な条件により形成することができる。例えば、水素をキャリアガスとして、ジクロロシラン、トリクロロシランなどのソースガスをチャンバー内に導入し、使用するソースガスによっても成長温度は異なるが、概ね1000~1200℃の範囲の温度でCVD法により半導体ウェーハ10上にエピタキシャル成長させることができる。なお、エピタキシャル層20は、厚さを1~15μmの範囲内とすることが好ましい。厚さが1μm未満の場合、半導体ウェーハ10からのドーパントの外方拡散によりエピタキシャル層20の抵抗率が変化してしまう可能性があり、また、15μm超えの場合、固体撮像素子の分光感度特性に影響が生じるおそれがあるためである。
【0026】
ここで、半導体ウェーハ10の、エピタキシャル層20が形成された側の表層部において、フッ素が局所的に固溶した固溶領域17が存在することが、本発明に従う半導体エピタキシャルウェーハ100の特に特徴となる構成である。ここで、本明細書において、「フッ素が局所的に固溶した固溶領域が存在する」とは、半導体ウェーハ10の表層部において、半導体ウェーハ10全体の平均フッ素濃度に比べて局所的にフッ素濃度が高い高濃度領域が形成されていることを意味する。また、かかる固溶領域17が表層部に存在するとは、SIMS分析により検出されるフッ素の濃度プロファイルのピークが存在すると言い換えることができる。ここで、現状のSIMSによる検出技術を鑑み、本明細書においては、5.0×1015atoms/cm3をSIMSによるフッ素濃度の検出下限とする。このような構成を採用することの技術的意義を、作用効果を含めて以下に説明する。
【0027】
従来、半導体エピタキシャルウェーハにおいて、フッ素イオン注入により、フッ素を半導体ウェーハ中に高濃度に局在させたとしても、フッ素は軽元素であるために、注入ドーズ量に依存してエピタキシャル層形成時の加熱により、エピタキシャル層形成後にはフッ素は外方拡散してしまい、半導体ウェーハ中にフッ素がほとんど残存しないと考えられていた。したがって、従来技術では、デバイス部を形成した後にデバイス部を形成した面側からフッ素イオン注入が行われていたのである。本発明者らの実験結果によると、所定条件を満たすことにより、半導体ウェーハの、エピタキシャル層が形成された側の表層部に、フッ素の局所的な高濃度領域を形成することができた。
本実施形態に従う半導体エピタキシャルウェーハ100は、固体撮像素子に供した際に、固体撮像素子の高性能化および高感度化を期待することができる。
【0028】
なお、前述の作用効果を確実に得るためには、半導体ウェーハ10の表面10Aから、半導体ウェーハ10の厚み方向の深さ150nmまでの範囲内に、フッ素濃度プロファイルのピークが存在すれば上記作用効果が得られる。そこで、上記範囲内を本明細書における半導体ウェーハの表層部と定義することができる。なお、ウェーハの最表面(深さ0nm)にはフッ素濃度プロファイルのピーク位置を存在させることが物理的にできないため、少なくとも表面10Aから5nm以上の深さ位置にフッ素濃度プロファイルのピークを存在させることになる。
【0029】
また、上記作用効果を確実に得る観点では、フッ素濃度プロファイルのピーク濃度は5.0×1018atoms/cm3以上であることがより好ましく、7.0×1018atoms/cm3以上であることが特に好ましい。限定を意図しないものの、半導体エピタキシャルウェーハ100の工業的な生産を考慮すると、フッ素のピーク濃度の上限を1.0×1020atoms/cm3とすることができる。
【0030】
ここで、本発明に従う好適な半導体エピタキシャルウェーハ200は、
図4に示すように、半導体ウェーハ10が、その表層部において炭素が固溶した改質層18を有し、該改質層18における半導体ウェーハ10の厚み方向の炭素濃度プロファイルのピークの半値幅が100nm以下であることが好ましい。かかる改質層18は、半導体ウェーハの表層部の結晶の格子間位置または置換位置に炭素が固溶して局所的に存在する領域であり、格子位置の炭素原子は共有結合半径がシリコン単結晶と比較して小さいために、シリコン結晶格子の収縮場が形成され、格子間の不純物を引き付ける強力なゲッタリングサイトとなる。また、高いゲッタリング能力を得る観点から、半値幅を85nm以下とすることがより好ましく、下限としては10nmと設定することができる。なお、本明細書における「厚み方向の炭素濃度プロファイル」は、SIMSにて測定した厚み方向の濃度分布を意味する。なお、改質層18と、固溶領域17とが、厚み方向に一部または全部重複することを妨げるものではなく、両者は併存することができる。
図4は、改質層18および固溶領域17が重なった様子を示すものであるが、この実施形態への限定を意図するものではない。
【0031】
また、より高いゲッタリング能力を得る観点から、既述のフッ素および炭素に加えて、半導体ウェーハの主材料(シリコンウェーハの場合、シリコン)以外の元素が改質層18にさらに固溶することも好ましい。水素が改質層18にさらに固溶する場合、フッ素と同様に素子分離領域をパッシベーションして、界面準位を低減することができる。さらに、水素はエピタキシャル層20の結晶性を高めることもできる。この場合、水素濃度プロファイルのピーク濃度は1.0×1017atoms/cm3以上1.0×1022atoms/cm3以下であることが好ましく、1.0×1018atoms/cm3以上であることが特に好ましい。
【0032】
また、ボロン(B)、リン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sn)からなる群より選択された1種または2種以上の元素がさらに固溶していることも好ましい。例えばボロンなど、炭素以外の上記元素が固溶することにより、炭素によるゲッタリング能力に加えて、鉄(Fe)などの拡散速度の遅い金属元素に対するゲッタリング効果をより向上することができるからである。
【0033】
さらに、より高いゲッタリング能力を得る観点から、半導体エピタキシャルウェーハ200は、半導体ウェーハ10の表面10Aから、厚み方向の深さ150nmまでの範囲内に、炭素濃度プロファイルのピークが位置することが好ましい。また、炭素濃度プロファイルのピーク濃度が、1×1015atoms/cm3以上であることが好ましく、1×1017~1×1022atoms/cm3の範囲内がより好ましく、1×1019~1×1021atoms/cm3の範囲内がさらに好ましい。
【0034】
なお、改質層18の厚みは、上記濃度プロファイルのうちバックグラウンドより高い濃度が検出される領域として定義され、例えば30~400nmの範囲内とすることができる。
【0035】
(半導体エピタキシャルウェーハの製造方法)
次に、これまで説明してきた本発明による半導体エピタキシャルウェーハ200を製造する方法の一実施形態について説明する。本発明の一実施形態による半導体エピタキシャルウェーハ200の製造方法は、
図5に示すように、半導体ウェーハ10の表面10Aに、構成元素としてフッ素を含む炭素化合物をイオン源とするクラスターイオン16を照射する第1工程(
図5(A),(B))と、第1工程の後、半導体ウェーハ10の表面10A上にエピタキシャル層20を形成する第2工程(
図5(C))と、を有することを特徴とする。
図5(C)は、この製造方法によって得られた半導体エピタキシャルウェーハ200の模式断面図である。以下、各工程の詳細を順に説明する。
【0036】
まず、半導体ウェーハ10を用意する。次に、
図5(A),(B)に示すように、半導体ウェーハ10の表面10Aに、構成元素としてフッ素を含む炭素化合物をイオン源とするクラスターイオン16を照射する第1工程を行う。ここで、第1工程においてフッ素を含む炭素化合物をイオン源とするクラスターイオン16を照射することにより、エピタキシャル層20の形成後においても、半導体ウェーハ10のエピタキシャル層20側の表層部に、フッ素が局所的に固溶した固溶領域17を存在させることができる。クラスターイオン16を照射した結果、クラスターイオンの構成元素に含まれるフッ素が、半導体ウェーハ10の表面10A(すなわち照射面)側の表層部に平衡濃度を超えて局所的に固溶する。
【0037】
なお、本明細書における「クラスターイオン」とは、電子衝撃法により、ガス状分子に電子を衝突させてガス状分子の結合を解離させることで種々の原子数の原子集合体とし、フラグメントを起こさせて当該原子集合体をイオン化させ、イオン化された種々の原子数の原子集合体の質量分離を行って、特定の質量数のイオン化された原子集合体を抽出して得られるものである。
【0038】
構成元素としてフッ素および炭素を含む炭素化合物としては、構成元素としてフッ素を含む炭化水素化合物を挙げることができる。例えば、フルオロメタン(CH3F)、トリフルオロメタン(CHF3)、ジフルオロメタン(CH2F2)、テトラフルオロエタン(C2H5F)などを挙げることができる。また、構成元素がフッ素および炭素からなる炭素化合物を用いてもよく、このような炭素化合物としては、四フッ化炭素(CF4)、六フッ化エタン(C2F6)などを挙げることができる。
【0039】
半導体ウェーハ10へのクラスターイオン照射の場合と、モノマーイオン注入の場合との固溶挙動の相違は、次のように説明される。すなわち、例えば、半導体ウェーハとしてのシリコンウェーハに、所定元素からなるモノマーイオンを注入する場合、
図6(B)に示すように、モノマーイオンは、シリコンウェーハを構成するシリコン原子を弾き飛ばし、シリコンウェーハ中の所定深さ位置に注入される。注入深さは、注入イオンの構成元素の種類およびイオンの加速電圧に依存する。この場合、シリコンウェーハの深さ方向における所定元素の濃度プロファイルは、比較的ブロードになり、注入された所定元素の存在領域は概ね0.5~1μm程度となる。複数種のイオンを同一エネルギーで同時注入した場合には、軽い元素ほど深く注入され、すなわち、それぞれの元素の質量に応じた異なる位置に注入されるため、注入元素の濃度プロファイルはよりブロードになる。また、イオン注入後にエピタキシャル層を形成する過程で、注入元素が熱により拡散することも、濃度プロファイルがブロードになる原因である。
【0040】
なお、モノマーイオンは一般的に150~2000keV程度の加速電圧で注入するが、各イオンがそのエネルギーをもってシリコン原子と衝突するため、モノマーイオンが注入されたシリコンウェーハ表層部の結晶性が乱れ、その後にウェーハ表面上に成長させるエピタキシャル層の結晶性を乱す傾向にある。また、加速電圧が大きいほど、結晶性が大きく乱れる傾向にある。
【0041】
一方、シリコンウェーハに、クラスターイオンを照射する場合、
図6(A)に示すように、クラスターイオン16は、シリコンウェーハに照射されるとそのエネルギーで瞬間的に1350~1400℃程度の高温状態となり、シリコンが融解する。その後、シリコンは急速に冷却され、シリコンウェーハ中の表面近傍にクラスターイオン16の構成元素が固溶する。シリコンウェーハの深さ方向における構成元素の濃度プロファイルは、クラスターイオンの加速電圧およびクラスターサイズに依存するが、モノマーイオンの場合に比べてシャープになり、照射された構成元素の存在領域は概ね500nm以下の領域(例えば50~400nm程度)となる。また、モノマーイオンと比較して照射されるイオンがクラスターを形成していることから、結晶格子をチャネリングすることがなく、構成元素の熱拡散が抑制されることも、濃度プロファイルがシャープになる原因である。その結果、クラスターイオン16の構成元素の析出領域を局所的にかつ高濃度にすることができる。
【0042】
ここで、既述のとおりフッ素は、エピタキシャル層20形成時などの熱処理により拡散しやすく、エピタキシャル層形成後の半導体ウェーハ中に留まり難い傾向にある。そのため、従来技術に従うモノマーイオン注入によってフッ素を高濃度注入するだけでは不十分である。本実施形態では、構成元素としてフッ素を含む炭素化合物をイオン源とし、クラスターイオン照射の形態でフッ素を析出させたため、エピタキシャル層形成後であっても半導体ウェーハ中に留まらせることができたと考えられる。本実施形態の場合、局所的にフッ素の固溶領域を含む領域に、炭素が局所的かつ高濃度に固溶した改質層も形成されているため、炭素がフッ素をトラップするからだと考えられる。
【0043】
上記第1工程の後、半導体ウェーハ10の表面10A上にエピタキシャル層20を形成する第2工程を行う。第2工程におけるエピタキシャル層20については、前述のとおりである。
【0044】
以上のようにして、本発明に従う半導体エピタキシャルウェーハ200の製造方法を提供することができる。
【0045】
ここで、クラスターイオンの構成元素として、前述のフッ素、炭素および水素以外の元素を含むことも好ましい。特に、ボロン(B)、リン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)からなる群より選択された1種または2種以上のドーパント元素を照射することが好ましい。固溶する元素の種類により効率的にゲッタリング可能な金属の種類が異なるため、複数の元素を固溶させることにより、より幅広い金属汚染に対応できるからである。例えば、炭素の場合、ニッケル(Ni)を効率的にゲッタリングすることができるのに対して、ボロンの場合、銅(Cu)、鉄(Fe)を効率的にゲッタリングすることができる。
【0046】
なお、エピタキシャル層20形成後においても、半導体ウェーハ10の表層部において、フッ素の固溶領域を確実に存在させるためには、クラスターイオン16のビーム電流値を50μA以上とすることが好ましく、ビーム電流値を100μA以上とすることがより好ましく、300μA以上とすることがさらに好ましい。限定を意図するものではないが、例えばクラスターイオン16のビーム電流値の上限を5000μA以下とすることができる。
【0047】
なお、クラスターサイズは2~100個、好ましくは60個以下、より好ましくは50個以下で適宜設定することができる。
【0048】
また、クラスターイオンは結合様式によって多種のクラスターが存在し、例えば以下の文献に記載されるような公知の方法で生成することができる。ガスクラスタービームの生成法として、(1)特開平9-41138号公報、(2)特開平4-354865号公報、イオンビームの生成法として、(1)荷電粒子ビーム工学:石川順三:ISBN978-4-339-00734-3:コロナ社、(2)電子・イオンビーム工学:電気学会:ISBN4-88686-217-9:オーム社、(3)クラスターイオンビーム基礎と応用:ISBN4-526-05765-7:日刊工業新聞社。また、一般的に、正電荷のクラスターイオンの発生にはニールセン型イオン源あるいはカウフマン型イオン源が用いられ、負電荷のクラスターイオンの発生には体積生成法を用いた大電流負イオン源が用いられる。
【0049】
クラスターイオンの加速電圧は、クラスターサイズとともに、クラスターイオンの構成元素の厚み方向の濃度プロファイルのピーク位置に影響を与える。半導体ウェーハ10のエピタキシャル層側の表層部に、フッ素の固溶領域17をエピタキシャル層形成後にも存在させるには、クラスターイオンの加速電圧は、0keV/Cluster超え200keV/Cluster未満とし、好ましくは、100keV/Cluster以下、さらに好ましくは80keV/Cluster以下とする。なお、加速電圧の調整には、(1)静電加速、(2)高周波加速の2方法が一般的に用いられる。前者の方法としては、複数の電極を等間隔に並べ、それらの間に等しい電圧を印加して、軸方向に等加速電界を作る方法がある。後者の方法としては、イオンを直線状に走らせながら高周波を用いて加速する線形ライナック法がある。
【0050】
また、クラスターイオンのドーズ量は、イオン照射時間を制御することにより調整することができる。本実施形態では、フッ素のドーズ量を1×1013~1×1016atoms/cm2とすることができ、好ましくは5×1013atoms/cm2以上とする。1×1013atoms/cm2以上であれば、エピタキシャル層形成時にフッ素が拡散しきってしまうことを防止することができる。また、炭素のドーズ量を1×1013~1×1016atoms/cm2とすることが好ましく、より好ましくは5×1013atoms/cm2以上とする。1×1013atoms/cm2以上であれば、十分なゲッタリング能力を得ることができる。
【0051】
なお、第1工程の後、第2工程に先立ち、半導体ウェーハ10に対して結晶性回復のための回復熱処理を行うことも好ましい。この場合の回復熱処理としては、例えば窒素ガスまたはアルゴンガスなどの雰囲気下、900℃以上1100℃以下の温度で、10分以上60分以下の間、半導体ウェーハ10を保持すればよい。また、RTA(Rapid Thermal Annealing)やRTO(Rapid Thermal Oxidation)などの、エピタキシャル装置とは別個の急速昇降温熱処理装置などを用いて回復熱処理を行うこともできる。
【0052】
また、半導体ウェーハ10をシリコンウェーハとすることができるのは、既述のとおりである。
【0053】
これまで、構成元素としてフッ素を含む炭素化合物をイオン源とするクラスターイオン照射により、エピタキシャル層20形成後においても、半導体ウェーハ10の、エピタキシャル層20が形成された側の表層部において、フッ素が固溶した固溶領域17が存在する半導体エピタキシャルウェーハ200の製造方法の一実施形態を説明してきた。しかしながら、他の製造方法により、本発明に従う半導体エピタキシャルウェーハを製造してもよいことは、もちろんである。
【実施例】
【0054】
CZ結晶から得たp型シリコンウェーハ(厚さ:300μm、ドーパント種類:ボロン、抵抗率:10Ω・cm)を用意した。次に、クラスターイオン発生装置(日新イオン機器社製、型番:CLARIS)を用いて、テトラフルオロエタン(C2H5F)から生成したCH2Fのクラスターイオンを、ドーズ量:1.0×1015ions/cm2、加速エネルギー:80keV/Clusterの条件でシリコンウェーハ表面に照射し、シリコンウェーハの表面部に上記クラスターイオンの構成元素が固溶した固溶領域を形成した。
【0055】
次に、このシリコンウェーハを枚葉式エピタキシャル成長装置(アプライドマテリアルズ社製)内に搬送し、装置内で1120℃の温度で30秒の水素ベーク処理を施した。その後、水素をキャリアガス、トリクロロシランをソースガスとして1150℃でCVD法により、シリコンウェーハ上に厚さ5.0μmのシリコンエピタキシャル層(ドーパント:P、抵抗率:約50Ω・cm)を成長させ、実施例に係るエピタキシャルシリコンウェーハを作製した。
【0056】
上記作製条件により得られるエピタキシャルシリコンウェーハに対し、クラスターイオン照射後及びエピタキシャル成長後のそれぞれの段階で、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)による測定を行った。SIMS測定により、深さ方向における炭素、水素、フッ素の濃度プロファイルを測定した。クラスターイオン照射後の濃度プロファイルを
図7に、エピタキシャル成長後の濃度プロファイルを
図8にそれぞれ示す。なお、
図7においてはシリコンウェーハ表面が0nmに相当し、
図8においてはシリコンエピタキシャル層表面が0nmに相当する。
図8より、エピタキシャル成長に伴う高温熱処理を経ても、シリコンウェーハ表層部に炭素、およびフッ素が局所的に固溶した固溶領域が存在することが確認できた。なお、
図8より、シリコンウェーハ表面(深さ5.0μmに相当)の位置から厚み方向の深さ150nmまでの範囲内に、上記3元素の濃度プロファイルのピークが位置することも確認された。
【0057】
上記エピタキシャルウェーハにおいて、シリコンウェーハの表層部に固溶したフッ素が、デバイス部形成時の熱処理により、熱拡散して素子分離領域の界面をパッシベーションして、界面準位を低減することができ、リーク電流発生を抑制できることが期待される。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によれば、固体撮像素子に供した際に、固体撮像素子の高性能化および高感度化を実現することができる半導体エピタキシャルウェーハおよびその製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0059】
10 半導体ウェーハ
10A 半導体ウェーハの表面
16 クラスターイオン
17 固溶領域
18 改質層
20 エピタキシャル層
22 n+型半導体層
24 素子分離領域
100 半導体エピタキシャルウェーハ
200 半導体エピタキシャルウェーハ